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SKY LOVE 1 空色の瞳の太陽と優美なる心の月

/SKY LOVE 1 空色の瞳の太陽と優美なる心の月

桜花

  SKY LOVE 1 空色の瞳の太陽と優美の心の月  作・桜花

  この作品は、フリーダム・ナイトの構成中に、偶然出来た副産物です。なので、フリーダム・ナイトと酷似する場合があると思います。この話は、4足歩行です。


  天空暦・2010年 4月15日 西国・ファレム王国


 心地よい風が吹き、上には蒼空が広がる草原の道に、首から四肢歩行ポケモン用のポーチを下げ、背中にカバンを背負い、左前肢に太陽の紋章入りの肢輪を付け、先端が二又に分かれた尻尾を生やした、薄紫の毛皮を纏った妖艶な姿をした、一体のエーフィが歩いていた。このエーフィの名前は、エレナ=セトラ。エレナは特別な目的もなく、ただある理由で、気ままに旅をしていた。そしてエレナの瞳は、今現在真上に広がっている蒼空と同じ、空色の瞳であった。そしてエレナは、この容姿でありながら、性別は牡であった。エレナは道の途中にある、一つの立て札を見た。その立て札には、(FULL MOON)と書かれていて、その文字の下には、エレナが来た方向とは、逆方向に向いた矢印が書かれていた。
 「フルムーン・・・満月かぁ・・・」
 エレナは(FULL MOON(フルムーン))と書かれた文字を見ながら、その文字の訳を呟いた。そしてエレナは、そのフルムーンというに地に向かい始めた。

 フルムーン

 ファレム王国の首都・フルムーンは、この世界にある無数の国の中では、かなりの大きさを誇る国と街であり、観光名所にもなる程の美しい街である。更に国を護る軍を備えている。ちなみに軍の名前は、ファレム軍である。

 ※        ※

 街に着いたエレナは、今日泊まる宿を探す為、街中を散策していた。その間エレナが擦れ違ったポケモンは、エレナが通り過ぎた瞬間、素早く振り返ったりした。そんな時エレナは、一体のヘルガーと擦れ違った。
 「オイ! 待てよ!」
 エレナは背後から声を掛けられて、後ろに振り返った。すると其処に居たのは、今擦れ違ったヘルガーだった。
 「・・・何ですか?」
 不思議そうな顔をしながら、エレナはそのヘルガーに聞いた。ヘルガーはエレナの顔を、舐めるように見て言った。
 「お前なかなか、可愛い顔をしているな・・・どうだ? 俺とヤラネエか?」
 エレナは、そんな事を言った、イヤラシそうな顔のヘルガーを見て、フッと溜息をついて、再び正面を見て歩き出した。
 「ちょ、待てや!」
 そうヘルガー叫びながら、回り込んで、エレナの前に立ち塞がった。
 「この俺様が、せっかく誘っているのに、シカトする事はねえだろ!?」
と、怒りを混じえたヘルガーの言葉を聞き、エレナは冷静にこう言った。
 「しつこいですね・・・そんなんじゃ、女性の方にモテませんよ」
 その言葉を聞き、ヘルガーは遂にキレた。
 「うるせー!!! この(おんな)・・・いいから大人しく、俺様の言いなりになれ!!!」
 そう叫びながら、ヘルガーはエレナに飛び掛った。
 
 ダンッ!!!

 そしてヘルガーは、エレナの所に着地した。しかし其処には・・・エレナの姿はなかった。そしてそのヘルガーの背後には、1秒前までヘルガーの前方にいた、エレナが立っていた。
 「!!! テメェ! 何時の前に移動した!?」
 そう叫びながら、ヘルガーは再び、エレナに飛び掛った。しかし、やはりヘルガーが着地すると、エレナはヘルガーの背後にいた。
 「いい加減にしろぉ!!!!」
 完全にキレたヘルガーは、かなりのスピードでエレナに飛び掛った。その瞬間ヘルガーは、エレナが消える瞬間を見た。そして次の瞬間・・・

 バシィィィ!

 「ぐはぁ!」
 ヘルガーの横腹に、激痛が襲った。ヘルガーは倒れ込み、そのヘルガーの背後には、二又に分かれた尻尾を光らせた、エレナが立っていた。エレナはアイアンテールを使い、ヘルガーの横腹を叩いたのだ。
 『ぐっ・・・この牝・・・瞬間移動でもできるのか!?』
 激痛に耐えながら、ヘルガーは心の中で思った。そんなヘルガーに、エレナは言った。
 「すみませんね・・・身の危険を感じたんで、自己防衛として攻撃させていただきました。それなりに力を抑えたんで、30分くらいしたら、立ち上がれると思います。それと・・・・」
 エレナは最後の言葉だけは、ニッコリと笑って言った。
 「僕は牝じゃなくて、(おとこ)ですよ・・・」
 そう言ってエレナは、宿を探す為に行動を再開した。その背後で、ヘルガーが驚いた表情を、見せているとも知らずに・・・。

 夕刻

 夕刻エレナは、ようやく見つける事が出来たホテルの一室に入った。部屋の作りは、ベットとテレビと机が置いてあり、、奥にはベランダが在り、入ってきた扉の近くには、浴室への扉があった。
 「ふぅー・・・疲れた・・・」
 カバンを床の上に置き、首のポーチ外しながら、エレナは一人事を呟いた。外したポーチを、机の上に置き、エレナは浴室に向かった。浴室に入ると、シャワーのカランをESP(超能力)で回し、ノズルからでるお湯を、ESPの源である宝珠がある額から浴び始めた。エレナの薄紫の毛は濡れて体に張り付き、エレナの表情は快感に満ちていた。
 「気持ちいい・・・」
 エレナはウットリとしながら、汗を落とす為、暫くお湯を浴び続けていた。十数分後、エレナはシャワーを止めて、備え付けてあったタオルで、自らの体を吹いて、浴室を出て、ベットの上に寝転がった。
 「・・・眠い・・・」
 天井を見つめながら、エレナはそう呟いた。しかしエレナは、今にも閉じそうな目を開いて、ベットから降りて、廊下への扉に向かった。
 『まだ寝るのは早いから、少し散歩でもしよう・・・』
 そう心の中で思いながら、エレナは部屋を出た。

 ※        ※

 夕暮れのフルムーンには、疎らだが何人かの(ポケモン)が歩いていた。そんな中エレナも、観光気分で見回っていた。するとその時、道の脇にある街灯に貼ってある、一枚の張り紙に目が止まった。
 「・・・武道大会かぁ・・・」
 その貼り紙には、フルムーンで行われる武道大会の事が書かれていた。開催日の日付は明日であり、現在位置と会場までの地図も書かれていた。
 「優勝賞金は・・・・・50万トラン(トラン=円)!?」
 エレナは、大会の優勝賞金の金額を見て驚いた。その賞金の金額が、半端ではなかったから。エレナは旅人である為、旅を続ける為の賃金も必要なのだ。
 「コレだけあれば・・・半年は大丈夫かな?・・・」
 エレナは張り紙を見つめながら、口元に笑みを浮かべて言った。エレナは武道大会に出場する気なのだ。そしてエレナは、明日の大会の為に体を休ませる為、ホテルへと戻っていった。

 ※        ※

 ホテルの部屋に戻った後、エレナはベランダから、夕日が沈むのを見ていた。夕日はフルムーンの先に広がる、海に沈んでいた。
 「綺麗だな・・・」
 エレナは夕日に見惚れて、ウットリとしながら観想を述べた。そしてその後小さく欠伸をして、室内に戻り、先程まで身に着けていたポーチから、一冊の手帳と取り出し、その中を物を見つめた。
 「・・・・・お休み・・・・」
 そう独り言を呟くと、手帳をポーチに戻し、エレナはベットに入り込み、毛布を被って眠りについた。疲れていた為か、エレナはベットに入って1分もしない内に、夢の世界に旅立ってしまった。

 翌日

 翌日は晴天であり、絶好の大会日和であった。大会が開催される会場の場所に向かう道には、大勢のポケモン()であふれかえっていた。そんな人混みの中を、エレナは会場の場所に向かって進んでいた。会場と思われる闘技場に着くと、エレナは大会のエントリーをする受付に行った。
 受付のポケモンから、身分を証明する物の提出を求められたので、エレナはポーチから財布を取り出し、財布からエレナの住民基本台帳を取り出し、受付のポケモンに確認をさせ、数秒後に確認が終わり、大会の説明を聞いた後エントリーを済ませると、『22』という紙を貰い、指定された控え室に向かった。控え室に着くと、既に多くのポケモン達が、控え室に待機していた。エレナが入った瞬間、多数のポケモンがエレナを見て、ヒソヒソ話をし始めた。
 『あのエーフィ、可愛くね?』
 『俺、あの仔と戦いてぇな・・・』
と、ヒソヒソ話の内容は、明らかにエレナを『牝』として見た内容だった。そんな会話をエレナは聞き、小さく溜息を漏らした。暫くすると、大会の係りの者がやって来て、大会の参加者達を別の場所に誘導し始めた。そして連れて来られた場所は、脇に数字が書いてある、小さな試合場が幾つかある大きな部屋だった。
 「では今から、大会の予選を行います! ルールは相手が戦闘不能になったり、試合場から落ちたら勝利になり、決勝トーナメントに出場です。それでは皆様、先程受付で貰った紙の番号が、脇に書かれている所に行って下さい」
 そう係りの者が説明すると、参加者達は次々と、試合場に乗っていった。エレナも指定された、『22』と表示された試合場に乗った。
 「!」
 すると其処には、既にポケモンが待機していた。紅の体をし、背に羽を生やしたポケモン・ハッサムであった。エレナが見た所、ハッサムは牝の様であり、そしてそのハッサムの首には、赤いスカーフが巻かれてあり、スカーフには真ん中に線があり、その線の上に星が二つあるバッチが着けられていた。
 「・・・・・・・」
 ハッサムはエレナの事を、無言で見続けていた。そんなハッサムに、エレナは笑顔でお辞儀をした。
 「宜しくお願いします!」
 「・・・・・」
 エレナがそう言うと、ハッサムは無言でお辞儀をした。すると試合場の傍に、審判らしきポケモンがやって来た。
 「それでは試合を開始して下さい!」
 そう審判が叫び、試合は開始された。開始直後、ハッサムの姿が三つに増えた。ハッサムは『かげぶんしん』を使用したのだ。そして3体のハッサムは、エレナを囲み始めた。しかしエレナは、その状況にも関わらず、冷静沈着であった。そしてハッサムは、エレナに襲い掛かった。しかしハッサム達の鋏が、エレナの居る所に辿り着いた時は、エレナの姿は無かった。
 「?・・・!」
 ハッサム達は咄嗟的に、自身の上空を見上げた。そして其処には、エレナが居た。エレナはハッサム達の鋏が来る直前、後ろ肢に力を入れて、ジャンプをしたのだ。ハッサムはすかさず、分身と共に飛び上がった。それを見たエレナは、自身の二又に分かれた尻尾を光らせた。
 「!」
 それを見たハッサムは、即座にそれが『アイアンテール』だと察知した。ハッサムはアイアンテールを防ぐ為に身構えた。するとその瞬間、エレナの姿が消えた。
 「!?」
 ハッサムが何かと思った次の瞬間、突然ハッサムの分身・二体が消えてしまった。
 「えっ?・・・・・」
 ハッサムは突然の事に驚き、思わず声を上げてしまった。そしてその瞬間、ハッサムは腹部に痛みを感じた。何かと思いハッサムは、自らの腹部を見た。すると其処には、二又に分かれた尻尾が、腹部に当てられているのが見えた。エレナのアイアンテールが、ハッサムの腹部に命中したのだ。ハッサムはアイアンテールの衝撃により、地面に落下しそうになった。しかし地面への直撃の直後、ハッサムの体がフワリっと浮いた。何かと思い、ハッサムは辺りを見回した。すると瞳を光らせながら、華麗に着地をする、エレナの姿が確認出来た。エレナは『サイコキネシス』を使用して、ハッサムの地面直撃を防いだのだ。エレナはそのままハッサムを、試合場の外に下ろした。そしてエレナは、ハッサムを見て言った。
 「僕の勝ちですね」
 そう言ってエレナは、試合場から降りようとした。
 「待って・・・・」
 「!」
と、ハッサムに呼び止められて、エレナは降りるのを止めた。
 「?・・・何ですか?」
 「何で・・・助けたの?・・・」
 ハッサムの途切れ気味の言葉を聞き、エレナはフッと笑って言った。
 「この大会に出ている事で、矛盾はしますが・・・僕は誰かが目の前で傷つくのが、とても嫌なんです・・・それであなたを、助けたんです。それだけです・・・」
 それだけ言うとエレナは、試合場から降りて、控え室の方に向かった。その後姿を、ハッサムは暫く見続けていた。

 控え室

 決勝まで控え室で一人で待機していると、他に7人のポケモンがやって来た。その内の一人がエレナを見て、隣のポケモンに囁いた。
 「なあ、あのエーフィって、レイラ中尉を倒したエーフィだろ?」
 「そうそう、まさか一方的に、レイラ中尉がやられるとは、思ってなかったな!」
 その会話を聞き、エレナは思った。
 『レイラ中尉?・・・さっきのハッサムか・・・(中尉)って事は、ファレム軍の軍人か・・・んっ?』
 その時エレナは、先程入ってきた7人のポケモンの中に、一人のガブリアスが居るのに気付いた。そのガブリアスは、先程のハッサム同様、首に赤いスカーフを巻き、スカーフには、ハッサムのと同じバッジを着けていた。
 『・・・何で、あのガブリアス・・・僕の事を見ているんだろ・・・・んっ?』
 そうエレナが思っている矢先、視線の先のガブリアスの所に、一人のデンリュウがやって来た。そのデンリュウは首に青いスカーフを巻いていた。ガブリアスとデンリュウは、エレナを見ながら、何やら話している様だ。やがて話が終わり、デンリュウがエレナの方にやって来た。デンリュウのスカーフには、ハッサムのバッチより、星が一つ少ないバッチを着けていた。
 「やあ!」
 そのデンリュウは、笑顔でエレナに話しかけてきた。
 「僕はイデア! 君がレイラ中尉を倒したエーフィだね?」
 「?・・・そうですけど・・・」
 何でそんな事を聞くのだろう・・・っと、エレナは思いつつも、ちゃんと答えた。
 「なるほど、レイラ中尉はかなり強いからね! そのレイラ中尉に勝った君は、かなり強いんだろうね! お互い頑張ろう!」
 それだけ言うと、イデアと名乗ったデンリュウは、先程のガブリアスの所に戻っていった。
 『あのデンリュウ・・・さっき戦っていたハッサムと、色は違うけど、同じスカーフを着けていた・・・それにあのガブリアスも・・・・・ファレム軍の軍人かな・・・』
 エレナはそう心の中で考えながら、本戦の時まで静かに待った。

 ※           ※

 「んでっ? ウチらの軍の中で、誰が残ったんや?」
 大勢の観客が居る観客席で、一人のザングースが、隣のサンドパンに聞いた。
 「参加してるのは、ガリオンとイデアやろ? あとレイラとレイラの部下の、マグマラシやな! まあ、マグマラシはともかく、ガリオンとイデアとレイラは大丈夫やろ!」
 「・・・さっきトイレに行った時、レイラに会ったんやけど・・・レイラ負けたらしいわ・・・」
 サンドパンが言い終わった時、更に隣にいたストライクが言った。
 「嘘やろ!? 誰にやられたんや!?」
 若干驚き気味なりながらも、ザングースはストライクに聞いた。
 「17、8くらいのエーフィや! そいつハンパなく強くて、一方的に負かされたって、レイラの奴ゆーてたわ!」
 「!!! ア、アホな事抜かすなや! レイラは第6軍を任されている、軍団長なんやで! そのレイラが、17、8くらいのエーフィに負けるか!? そいつ何者や?」
 ストライクの説明に、ザングースは激しく反論した。
 「そんなの俺が分かるか! ただレイラは、そのエーフィの動きが、ほとんど見えへんかったって、言ってたわ!」
 「動きが見えへんかった?・・・どない奴やね、そのエーフィ・・・」
 ザングースはそう呟いて、本戦が始まるのを待った。

 ※         ※

 それから数十分後、待ちに待った本戦が始まった。始めに何か挨拶等が有り、その後にトーナメントの組み合わせが伝えられた。エレナの対戦相手は・・・マグマラシであった。しかもエレナの試合は、一回戦目であった。試合をする場所は、エレナとマグマラシだけが居て、他の参加者は控え室に戻っていった。
 「君が・・・レイラ中尉を倒したエーフィだね?」
と、エレナの隣に立っていたマグマラシが、そっと言った。エレナはよく見てみると、そのマグマラシも、首にスカーフを巻いていた。スカーフのバッチは星は無く、一本の線があるだけのバッチだった。
 「そうだよ、中々の強敵だったね」
 「・・・中尉でも勝てなかった牝の方に、僕が勝てるとは思えませんけど、精一杯お相手をさせていただきます!」
と、決意を表した表情で、マグマラシは言ったが、エレナは苦笑いを浮かべて言った。
 「あの・・・僕は牡だから・・・」
 「えっ!?・・・・いやあの・・・すみませんでした・・・」
 マグマラシはそう謝罪をすると、試合開始時の立つ場所に移動した。エレナもそれを見送ると、自分の方の其処に移動した。

 ※        ※

 「オイ見ろや! マグマラシと戦うの、エーフィやん!」
 一方観客席の方では、先程のザングースが、試合場に立っているエーフィ(エレナ)を指さしながら叫んだ。
 「レイラの次は、レイラの部下か・・・さて、お二人のお手並み拝見としましょうか・・・」
 サンドパンは2人を見ながら、落ち着いた口調で言った。
 「・・・無理・・・」
と、今にも消えそうな声がし、サンドパンが声のした方を向くと、其処には一人のハッサム・・・レイラが立っていた。
 「レイラ! 何が無理なんや?」
 ストライクが、レイラに聞いた。
 「彼・・・カミュー君・・・あのエーフィには勝つことは・・・無理・・・」
 「カミュー? あのマグマラシか?・・・・・お前が其処まで言うんやから、ホンマに強いんやろな・・・」
 ザングースが、エレナを見ながら呟いた。

 ※       ※

 そして試合場では、既に一定の距離を離して、エレナとマグマラシのカミューがお互いを見つめ合っていた。
 「今更ですけど、不思議な瞳をしていますね」
 カミューが、エレナの瞳を見ながら言った。
 「この瞳は生まれつきなんだ。理由は分からないけどね・・・」
と、薄っすらと笑みを浮かべながら、エレナは答えた。
 「そうですか・・・話はこれくらいにしましょう・・・レイラ中尉を倒した、あなたの実力・・・この身で確かめてみましょう!!!」
 そう叫ぶと、カミューは口から煙を吐き出した。『えんまく』を使用したのだ。試合場は煙に包まれ、それはエレナの周りも同じだった。しかしエレナはまったく動揺せず、落ち着いた様子で瞳を閉じた。そしてそのエレナの上空には、体を丸めようとしている、カミューの姿があった。そしてカミューの体が、炎に包まれ始めた。そしてそのままカミューは、真下に居るエレナに突っ込んでいった。

 ドゴォォォン!!!・・・

 隕石の如く凄まじい音を立てながら、カミューの『かえんぐるま』は、勢い良く落下していった。しかし落下地点には、エレナの姿はなかった。
 「!? バカな・・・・」
 カミューは見切られた事に、驚きを感じた。やがて自らが出した『えんまく』が消え、辺りが見えるようになった。そして煙の消えた所には、エレナの姿があった。エレナは足踏みみたいのなのをしながら、カミューを見つめていた。カミューはエレナの足踏みに、見覚えがあった。
 「あの足踏みは・・・フットワーク?」
 カミューはエレナの足踏みが、格闘系のポケモン等が行う、フットワークである事が理解出来た。
 「くっ!・・・」
 カミューはもう一度、『かえんぐるま』を使用し、エレナに攻撃をしかけた。しかしエレナは、フットワークによる軽い身のこなしで、『かえんぐるま』を避けた。避けられた瞬間、カミューは思った。
 『違う・・・レイラ中尉の時は、避ける時には姿は見えなかった・・・でも僕の時は・・・見える・・・』
 カミューは、エレナの姿が確認出来る事から、先程の自分の上官・レイラの時のエレナの動きと現在の動きは、別物と予測した。
 「悪いけど・・・これで終わらせてもらうから」
 「えっ?」
と、カミューはエレナの声を聞き、其方の方を向いた。其処には口の前に、黒いエネルギーの球体を溜めた、エレナの姿があった。

 バシュ!・・・ドガァシャ!!!

 「ぐえぇ!」
 エレナは球体を放ち、それはカミューに命中した。黒いエネルギーの球体の正体は、『シャドーボール』であった。シャドーボールを受けたカミューは、壁際まで吹き飛んでいった。

 ドガァ!!!

 「ぐはぁ!」
 カミューは壁に激突し、一声上げた後、動かなくなった。死んでいるのではなく、気絶している様だと、エレナは思った。そしてそれは、誰もが見ても分かる様に、エレナの勝利であった。

 ※         ※

 「ホンマかいな!? あのエーフィ強すぎや!」
 ストライクが、悲鳴に似た様な声を上げた。
 「あのカミューてマグマラシ・・・階級は兵長だけど・・・実力はかなりあるって、前にレイラ言っとらんかったけ?」
 ザングースが、レイラを見て言った。
 「うん・・・・カミュー君・・・凄く頑張っているんだ・・・彼には言った事ないけど・・・」
 「んっ? 何でや?」
 ザングースが不思議そうに聞いたが、レイラは答えなかった。その時ザングースは、レイラにある事を聞いた。
 「んなぁレイラ・・・お前・・・あのエーフィと戦ったんやろ? あのエーフィの名前、知らんか?」
 「名前・・・・確か控え室で見たよ・・・・英語表記だったけど・・・」
 「じゃあコレに書いてみてくれ」
 そう言ってサンドパンが、メモと鉛筆を差し出し、レイラはそれを受け取り、名前のスペルを書き始めた。

 Elena=Setora

 「Elena=Setora・・・エレナ=セトラか・・・牝だな・・・」
 メモに書かれた英語の名前を見て、サンドパンは呟いた。
 「そりゃそうやろ! この名前で牡やったら、ド肝抜かすわ!」
 当たり前の様に、ザングースが大声で言った。
 「しかしあそこまで強けりゃ、どっかで騒ぎになっても、おかしくないか? けど、エレナなんて名前のエーフィ、聞いたことありゃへんで!」
 ストライクが叫んだ。それに対して、サンドパンが言った。
 「いや、俺少し前に、ファレムから離れたある山の麓の村に、山賊を退治をしたエーフィとアブソルの話を、部下から聞いた事がある」
 「! じゃああのエーフィは、その山賊を退治した、エーフィか? そいつの名前は?」
 ザングースが聞いた。しかし・・・
 「それが・・・そのエーフィ、名前は名乗らなかったらしい・・・」
 「肝心な所が、分からんのかい!!!」
 ストライクが、嘆きのツッコミをいれる。
 「あっでも、部下の情報では、そのエーフィの瞳は青色だったらしい」
 「アホ抜かせ! んなエーフィ居るか・・・」
と、ザングースは其処まで言うと、エレナを見ながら言葉を止めた。何故なら・・・
 「アイツ・・・目、青やん・・・・」

 控え室

 エレナは再び、控え室で待機していた。敗北したカミューは、医療室に送られた。
 「オイ見ろよ! ガリオン中尉とイデア少尉の試合だぜ!」
 「!」
 控え室にある、試合会場を映すテレビを見ていた他の選手が叫んだ声を、エレナは聞いた。
 『イデアって・・・さっきのデンリュウ?・・・』
 そう心の中で思いながら、エレナはテレビの方に向かった。テレビに映っている映像は、ガブリアスとデンリュウのイデアの試合だった。試合の状況は、ガブリアスの方が善戦をしていた。
 『あれは仕方ないね・・・デンリュウは『でんきタイプ』だから、『ドラゴン・じめんタイプ』のガブリアスには、勝つのはほぼ不可能だね・・・』
と、エレナが推論した間もなく、ガブリアスの『ドラゴンクロー』が極まり、ガブリアスの勝利に終わった。
 「流石ガリオン中尉! 噂どおりの強さだな!」
 テレビ映像を見ていた選手が、隣の選手に言った。その時控え室に、件のガブリアス・ガリオンが戻ってきた。そしてガリオンは、元居た場所に戻ろうとするエレナに話しかけた。
 「そなたが・・・レイラとその部下を倒した、エーフィか?・・・」
 外見とは裏腹に、ガリオンの口調は少し古めで丁寧な口調であった。
 「ええ・・・・そうですど・・・何か?」
 不思議そうな顔をしながら、エレナはガリオンに聞いた。しかしガリオンは、フッと笑って言った。
 「いや、何でもない・・・すまないが名を聞きたい・・・私の名前は、ガリオン=グリフィ! そなたは?」
 「・・・エレナ=セトラ・・・」
 「エレナか・・・覚えておこう・・・」
 そう言うとガリオンは、エレナから離れていった。その後エレナが待機していると、一人の大会関係者がやって来て、エレナに信じられない事を告げた。それは・・・
 「棄権・・・ですか?」
 それはエレナの次の対戦相手が、棄権したという知らせだった。
 「対戦相手の方が・・・先程の戦いを見て恐怖を感じて・・・逃げてしまったんだ・・・」
 「・・・そうですか・・・それで僕はどうすれば?」
 「君はそのまま繰り上がり、ガリオン中尉と戦ってもらうが・・・構わないか?」
 「ガリオン中尉・・・分かりました・・・」
 こうしてエレナは、ガブリアスのガリオンと戦う事になった。

 ※        ※

 そしてそれから間もなく、大会の最終戦。つまりエレナとガリオンの試合が始まろうとしていた。会場は活気に包まれ、あちこちから其々の名前が上がっていった。
 「そなた、レイラを倒す程の実力があるらしいな?」
 「! ええっ・・・・一応修行はしていますから・・・」
 突然ガリオンに話しかけられた事に、エレナは驚きを感じたが、冷静に答えた。
 「そうか・・・レイラもかなり修行をしているが、そのレイラを倒すとは・・・私もそなたと手合わせしてみたい・・・」
 ガリオンは口元に笑みを浮かべながら言った。
 「ええ・・・それではよろしくお願いします」
 そう言うとエレナは、戦闘体勢をとった。するとその瞬間ガリオンが、もの凄い勢いでエレナに迫ってきた。エレナは危機を感じて、咄嗟に身を退かせた。その瞬間エレナの居た場所に、ガリオンは『ドラゴンクロー』を放った。その衝撃で地面は、爪状に抉れてしまった。
 「私の攻撃をかわすとは・・・なかなかの身の軽さ・・・」
 「僕は普通のエーフィよりも、大きさも体重も低いんです・・・」
 ガリオンの感想を、エレナは冷静に返答したが、心中はそうでもなかった。
 『・・・今のは危なかった・・・一瞬でも判断が遅かったら・・・やられてた・・・策を練る時間は・・・0・1秒!』
 そう考えていた時、再びガリオンが、ドラゴンクローを使ってきた。エレナは後ろ肢に力を入れ、上に飛び上がった。その瞬間ガリオンが、ドラゴンクローをエレナの元居た位置に命中させた。そしてエレナは、自身の尻尾を光らせていた。エレナはそのまま、ガリオン目掛けて、アイアンテールを振り下ろそうとした。しかしガリオンはそれに気付き、サッと身を引いてしまった。エレナは仕方なくアイアンテールを止め、普通に着地しようとした。しかしその時ガリオンの手が地面に着き、観客席が揺れているのに気付いた。
 『まさか・・・『じしん』!?』
 エレナが思った案の定、ガリオンは地震を使用したのだ。エレナは咄嗟的に、顔を下に向かせ、地面に向かって、シャドーボールを放った。するとシャドーボールの衝撃により、エレナは少しだけ浮かび上がった。
 『よし! これで何とか・・・』
 そう思った時だった。
 「甘いな!」
 「えっ!?」
と、エレナは自分の隣から声がして、咄嗟に振り向くと其処には、下に居たはずのガリオンが居た。
 「あの地震は囮だ! 真の狙いは、こっちだ!」
 そう叫ぶとガリオンは、再びドラゴンクローを使ってきた。
 
 バシッ!・・・・ドガァ!!!!

 エレナはドラゴンクローを避けきれず、ドラゴンクローを喰らって、その衝撃で壁際まで吹き飛び、壁に叩きつけられた。

 ※          ※

 「オイ、エレナの奴、やられたんちゃうか?」
 ストライクが驚いた口調で、ザングースに話しかけた。
 「エイト! 何か見えるか?」
 サンドパンも、ザングースに聞いてきた。ザングースの名前は、エイトという様だ。
 「キョウもカズハも落ち着けや! 俺だって分からんわ!」
 エイトは怒鳴った。
 「第一相手はガリオンや、間もなく大尉になるポケモン(軍人)やで! 勝てる方が不思議や!」
 エイトはそう言ったが、心中はそうでもなかった。
 『アイツは6軍・・・通称・暗殺兵部隊(アサシンソルジャー)って言われてる軍の軍団長のレイラも倒したんやで・・・そう簡単にやられる様な、奴やないやろ!・・・』
 そう思いながら、土煙が舞うエレナが吹き飛ばされた所を見ていた。

 ※          ※

 「どうした! そなたの力はそんなものなのか!?」
 吹き飛んだエレナの方を見ながら、ガリオンが叫んだ。その時・・・
 「・・・まだまだですよ・・・」
 その言葉と共に土煙が晴れ、傷ついたエレナの姿が現れた。しかもエレナは、ガリオンが考えていた程、ダメージを受けていなかった。
 「馬鹿な・・・私のドラゴンクローを喰らって、その程度のダメージとは・・・」
 ガリオンが驚いていると、エレナが近づいてきて言った。
 「さっきドラゴンクローが当たる直前に・・・貴方の手にアイアンテールを当てたんです」
 「何っ!?」
 ガリオンは咄嗟に、自分の手を見てみた。その手は一部赤くなっていた。エレナはアイアンテールをガリオンの手に当て、ドラゴンクローの威力を殆ど相殺したのだ。
 「今度は、此方の番ですよ!」
 そう言った直後、エレナの姿が消えた。
 「!? レイラ達を倒した、例の技か!?」
 驚きながら、ガリオンは言った。
 『くっ・・・気配は感じるのだが・・・全く姿が見えん・・・』
 ガリオンは、そう心の中で思った。その時・・・
 「!!!」
 突如目の前に、3つの黒いエネルギー球体・シャドーボールが現れた。

 ドガァ! ドガァ! ドガァ!

 「ガアッ!!!」
 ガリオンはソレを避けられず、全て命中してしまった。ガリオンは薄れる意識の中、今の攻撃に覚えがあった。
 『・・・遠距離攻撃技の・・・三点連続射撃(スリーショットバースト)・・・兵士養成学校(ソルジャー・スクール)の3年で習う、高等戦闘戦術・・・あの者(エレナ)・・・元兵士(元ソルジャー)か?・・・』
 そう脳内で考えながら、ガリオンは地面に倒れ、意識を失った。

 ※      ※

 「かっ・・・勝った・・・・あのエーフィ・・・エレナが・・・・時期大尉のガリオンに勝った・・・」
 エイトは驚きながら、そう述べた。その瞬間会場全体から、一斉に歓声が上がった。
 「凄げぇ! あのエーフィ!」
 「あんな小さな体で、ファレム軍のガリオン中尉に勝ちやがった!」
 等という様な歓声が、いくつも上がった。それから十数分後に閉会式が始まり、エレナは賞金を貰った。会場全体から拍手を受けながら、エレナは会場の外に向かっていった。
 「待たれよ」
と、古めかしい呼び止める声を聞き、その声の主の方向に向くと、其処にはガリオンが居た。
 「何か?」
 「そなたのあの戦術・・・兵士養成学校(ソルジャー・スクール)で習うもの・・・そなた・・・元兵士(元ソルジャー)なのか?」
 そうガリオンが聞くと、エレナはニコッと笑って言った。
 「いえ・・・兵士養成学校(ソルジャースクール)の元・生徒ですよ・・・」
 そう言うとエレナは、尻尾を揺らしながら、会場を出て行った。

 ホテル

 「・・・疲れた・・・」
 ベットに仰向けに倒れながら、エレナは呟いた。
 「久しぶりだもんな・・・あれだけ全力を出したのは・・・兵士養成学校(ソルジャー・スクール)かぁ・・・懐かしいな・・・ライガとナギサは元気にしてるかな?・・・」
 エレナは何かを思い出しながら、フッと笑って天井を見つめていた。少ししてエレナは起き上がり、自分のポーチから、小さな四角い箱を取り出した。それはMDプレーヤーであった。エレナはMDの再生ボタンを押し、繋がっているイヤホンを耳に着け、再び仰向けに寝転がり、静かに瞳を閉じた。暫くすると、エレナの寝息が部屋中に響き渡った。

 ※         ※

 「なあキョウ・・・あのエーフィ・・・エレナの情報が王の耳に入ったら・・・絶対スカウトするやろな・・・」
 会場からの帰り道、エイトがサンドパンに向かって聞いた。キョウという名前は、サンドパンの名前だ。
 「王に相談する前に、ギルガ大将が考えてからだろ?」
 「大将(おっさん)かぁ・・・カズハはどう思う?」
 ストライクの方を見ながら、エイトは聞いた。カズハという名前は、ストライクの名前だ。
 「俺も同じやな! スカウトするなら、誰かに大将(おっさん)の指示があるやろな・・・」
と、カズハが空を見上げながら言った。その時・・・
 『ホンワカ♪ ホンワカ♪ ホンワカ♪ ホンワカ♪ ホンワカッパッパッパァ~♪』
 誰かの携帯の着信音が鳴り響いた。
 「あっ! 俺や!」
 そう言いながら、エイトが携帯を取り出した。
 「あっ! 大将(おっさん)からや・・・」
 ディスプレイに表示されている名前を見て、エイトは呟いた。
 「・・・まさかな・・・」
 ある予感を感じながらも、エイトは電話に出た。
 「ハイ、エイト中尉です。ご用件はなんでしょうか?・・・・・!・・・・ハイ・・・・分かりました・・・」
 そう受け答えすると、電話は切れた。
 「何やった?」
 カズハが聞いてきた。
 「・・・大将(おっさん)からの指令や・・・今日の大会の優勝者を、俺が連れてこいだと・・・」
 『お前かいっ!』
と、エイトは2人から鋭いツッコミを受けた。
 「しゃーないやろ・・・じゃ、行ってくるか・・・」
 エイトは渋々、ギルガという上官からの指示を実行しようとした。
 「ホンワカ♪ ホンワカ♪・・・』
と、またエイトの携帯が鳴った。
 「またや!・・・しかもまた大将(おっさん)や!」
 電話の相手は、少し前のギルガからであった。
 「今度は何ですか?」
 最早上官に対しての口調では無い言い方で、エイトは言った。
 「?・・・名前は既に分かってます・・・・性別ですか? それは牝に決まってるでしょう! 名前から見ても・・・はぁ!?」
 突然エイトは、大声を上げた。
 「・・・分かりました・・・これから参ります」
 そう言うとエイトは、携帯を切った。
 「なんやった?」
 カズハが聞いてきた。
 「エレナの性別・・・なんやと思う?」
 「何ってそれは・・・(おんな)だろ?」
 「牝やろ!」
 キョウとカズハが、口を揃えて『牝』と言う。それに対してエイトは・・・
 「エレナの性別・・・(おとこ)や・・・」
 「!!!!!!! おおおお牡!?」
 「牡だと!?」
 あまりの衝撃に、2人は大声を上げてしまった。
 「あ、アホな事()うなや! あの容姿・あの名前で牡なわけないやろ!」
 カズハが大声で講義した。それに答える様に、キョウが述べた。
 「あのな~、俺も驚いたけど、エレナの容姿・名前が牝なのに、実際の性別が牡で驚くなら、俺らの前に居るエイトは何なんだよ?」
 「あっ・・・・」
 「・・・お前・・・俺が牝だって事を、完璧に忘れてたやろ!?」
 エイトは『俺口調』であるが、立派(?)な牝であった。その事を忘れていたカズハに、エイトは相当腹を立てた。
 「こぉのドアホ!!! 20年近く付き合ってる友達(ダチ)の性別忘れる、アホが()るかい!!!」
 「だってお前、いっつも俺口調やろ? そんなんやったら、俺とて間違えるわ!」
 2人は激しい口論をし始め、その声は街に響いた。そんな中キョウが・・・
 「エイト! 今は言い争ってる場合じゃないだろ! 任務があるだろ?」
 「・・・それもそうやな・・・じゃあ、ちょっくら行ってくるわ・・・」
 エイトは口論を止め、エレナの居る所に向かおうとした。しかし最後にエイトは、カズハの方を向いた。
 「それからカズハ! 後でシバクからな!」
 エイトは去り際に、カズハにそう言った。その言葉に竦んだカズハに、キョウが言った。
 「なあカズハ、あのエーフィの強さに匹敵出来るのって・・・」
 「・・・まず俺らは無理やな・・・王を除けば2人・・・一人はラグナ王子・・・そしてもう一人は・・・」

 ※      ※

 ・・・また・・・この夢だ・・・
 エレナは夢を見ていた。それはイーブイだった頃の、幼い自分の夢であり、エレナはその夢を、何年も前から見ていた。夢の内容は、イーブイの自分と、自分と同じ様に空色の瞳をしたイーブイが、故郷で遊んでいる夢であった。
 一人は僕だよね?・・・じゃあもう一人は・・・誰だろう・・・
 エレナは何時も、そのイーブイに疑問を抱いていた。そしてその夢の最後は・・・そのもう一人イーブイが、何者かに連れ去られ、自分が泣き叫ぶという最後であった。

 ※      ※

 エレナは夢から覚めると、イヤホンを外して、起き上がった。
 「あの夢のイーブイ・・・本当に誰なんだろう?・・・」
 エレナはあのイーブイの事を、以前から考えていた。しかし何時も、その答えは見つからなかった。そして今回も、其れを考えていた。その時・・・
 「トントン・・・」
 誰かが部屋の扉を叩く音を、エレナは聞いた。
 『誰だろう?・・・』
 エレナはベットから降りて、自分のポーチから、蓋に太陽の紋章が描かれた、金色の懐中時計を取り出した。蓋を開けて、現在の時刻を確認した。
 「3時か・・・じゃあ夕飯じゃないね・・・・じゃあ誰?」
 疑問に思いながらも、エレナは扉に行き、鍵を開けて扉を開けた。すると其処には、赤いスカーフを巻いたザングース・エイトが立っていた。
 「エレナ・・・セトラか?」
 「?・・・そうですけど・・・」
 何故自分の名前を知っているのか、エレナは疑問に思った。
 「自己紹介がまだだった。俺はエイト=オカ。ファレム軍・第5軍の軍団長や。ある人物からの指示で、同行してもらいたいんやけど・・・構わないか?」
 『何故関西弁!? 東国の(ポケモン)かな?・・・でもファレム軍の軍人が、僕に何の用だろう?・・・』
 エレナは心の中で考えた。
 「駄目なら出直すが、どうや?」
 エイトに言われ、エレナは考えた。そして・・・
 「分かりました・・・行きます・・・」

 ※             ※

 エレナはエイトに連れられて、フルムーンを歩いていた。エイトは無言で歩き、エレナも無言でエイトに付いて行った。
 「お前・・・けっこう強いな!」
と、突然エイトがエレナに言った。
 「?あ、ありがとうございます・・・・でも、何ですかいきなり・・・」
 「俺今日のお前の試合、ダチ2人と見とったんや!」
 「そうなんですか・・・」
 「でもな、俺も結構強いんやで! 俺な昔から、喧嘩しても負けた事ないんや!」
 「そうですか・・・」
 「俺なこう見えても、学生の頃・・・・・ピンポンやっとたんや!」

 ドタン!
 
 てっきり凄いのが来るかと思ったエレナは、『ピンポン』というオチにずっコケてしまった。そんなエレナを尻目に、エイトは更に続ける。
 「それに空手もやってたんやで! まあ空手言うても、通信教育やけどな!」
 「ピンポン・・・・通信教育の空手・・・・!」
 その時エレナは、ある事を思い出した。
 「あの・・・ひょっとして・・・少し前に南ゲートという所で、ボーマンダと喧嘩してませんでした?」
 「! そうやけど・・・お前、あそこに居ったんか?」
 「はい・・・」

 ※       ※

 それは半月程前、このフルムーンから離れた所に其々、西・東・南・北という国境ゲートがあり、その内南ゲートにエレナが立ち寄った時の話だった。エレナは旅の途中に南ゲートに寄り、そこで休憩をする為に、隣国からのケーブルカーから降りた途端だった・・・。
 「テメェ! ヤル気か!?」
と、ドスの入った牝の声を聞き、エレナがその方へ向かってみた。するとそこで、サンドパンとストライクを連れたザングースが、ボーマンダと睨み合っていた。ボーマンダの方には、フライゴンとガブリアスとカイリューも居たが、フライゴンは戸惑い、カブリアスとカイリューは困った表情をしていた。。
 「リ、リドル・・・喧嘩は駄目ですよ・・・」
 フライゴンが恐る恐る、リドルというボーマンダに言う。エレナから確認すると、フライゴンは牝の様だが牡である様だ。
 「ティナ・・・お前は黙ってろ、このザングース、調子に乗ってやがる」
 リドルは、フライゴン(ティナ)に言い放った。それを聞いて、ザングースは・・・
 「なんやと! 調子に乗って(いちびって)るのはお前の方やろ! 自分からぶつかってといて逆ギレとは、ええ度胸やん!」
 ザングースは関西弁で、ボーマンダに対抗した。
 「んだとテメェ!!! やんのかコラ!!!」
 「上等や! 俺はピンポンと空手をやってたんや! そんな俺に、ちょっとでも隙があったらな! どっからなりとも、かかってこんかい!!!!」
 そうザングースは言い放ち、身構えた。その時・・・
 「やべエイト! サツが来たで!」
 一緒にいたストライクが、悲鳴の様にザングース(エイト)に言い放った。
 「チッ・・・しゃーねーな!」
 そう言うとザングースは、サンドパン・ストライクと共に逃げていった。リドル達も警官が来たので、逃げていった。
 「・・・何だったんだろう・・・今の・・・」
 エレナは呆気に取られていた。

 ※       ※

 「ああ・・・あれか・・・惜しかったなぁ~、あん時サツが来なかったら、絶対俺がぶっ倒していたなのにな~」
 自らの頭に手を当てながら、エイトは嘆く。
 「どうして、南ゲートに居たんですか?」
 エレナが聞いた。
 「ああ、あれか? あの日俺非番だったんやけど、あそこに俺とダチが、あの近くに遊びに行く事を知った上官が、ついでに其処も見てこいって言ってな! それであそこに居ったんや!」
 「そうですか・・・」
 「今度は俺が質問して良いか?」
 「えっ? あっ、はい・・・」
 「お前って・・・・・ホンマに牡なんか?」
 その質問を受け、エレナは冷静に答えた。
 「ええ・・・そうですよ・・・」
 「結構大変やろ? そんな姿やと、牡共が牝と間違えるやろ?」
 「ええまあ・・・よくナンパされます・・・」
 そんな会話をしながら、2人は目的地に向かった。そして・・・
 「此処・・・ですか?・・・」
 「そや! 我が国象徴・・・シャイン・ルナや!」
 目の前にある大きな城・シャイン・ルナ城に驚くエレナに、エイトは誇りかしげに言った。

 ※          ※

 エレナは、エイトに案内されながら、シャイン・ルナの中を進んでいた。暫く進むと閉じられた大きな扉の前に付き、其処には扉の前に左右に並んだ衛兵らしきポケモン2体と、青いスカーフを首に巻いたボスコドラが立っていた。
 「ギルガ大将! ちゃんと連れてきたで!」
とエイトが言うと、エレナは驚いた顔をする。どう考えても階級が上の、このギルガというボスコドラに、エイトは普通にタメ口で話しているからだ。そしてギルガ自身は、しかめた顔をしながら言った。
 「あのな・・・普通上官には、敬語で話すのが普通だろ?」
 「何言ってるんや! おっさんがそういう話し方でも良いって、前に言ってたやないか!」
 「でも今は・・・客人が居るだろ」
 そう言ってギルガは真剣な眼差しになり、エレナを見る。
 「彼か・・・我が軍でも強者である、ガリオンとレイラを倒したのは・・・」
 「ああそうや・・・並みのソルジャーとは、比べもんにならん程の強さや・・・」
 エイトも急に真剣な口調になった。ギルガは静かにエレナに話しかける。
 「エレナ=セトラだったな・・・俺はファレム軍大将・ギルガ=ラウドだ。訳あって、今からある人物に会ってもらう」
 「ある人物って・・・」
 エレナは緊張しながら聞いた。
 「この国・・・西国・ファレム国を統べる王・アルム=イリス様だ・・・」
 「!!!!!!!」
 エレナは驚きを隠せなかった。
 『ファレムのアルム王!?・・・何で王様が僕に?・・・・』
 エレナは心中で考えたが、その答えを見つける事は出来なかった。
 「どうして・・・王様が僕に・・・」
 「今日開かれた、武道大会での君の活躍が、王の耳の入り、ぜひ直に話してみたいという要望なんだ」
 「僕に・・・なんの話が・・・あるんですか?」
 「それは・・・王が直接話すそうだ・・・」
 そこまで言うとギルガは、エイトの方を見た。
 「エイト、お前はもう帰っていい。ごくろうだった」
 「分かった・・・じゃあなエレナ!」
 そう言うとエイトは、その場を去っていった。
 「では、エレナ=セトラ・・・玉座の間に・・・」
 「はい・・・」
 そうエレナは返事をした途端、衛兵が扉を開け始めた。
 「ギルガ大将及びエレナ=セトラ、入ります」
 扉が完全に開いた瞬間、ギルガはそう言って王座の間に入り、エレナも後に続いた・・・。エレナが入った瞬間、扉は再び閉じられた。

 ※       ※

 とても広い王座の間に入ると、エレナは少し離れた所の王座に、一人のブラッキーが座っているのが見えた。隣に居たギルガは、そのブラッキーの方に向かって、静かに歩き始めた。エレナもその後を追う。やがて二人は、ブラッキーから10m程離れた所で止まった。ブラッキーは少々老いた顔立ちをしていたが、その瞳は強さと優しさを備えていた。すると隣にいたギルガがブラッキーに跪いた。
 「アルム様・・・本日の武道大会の優勝者・エレナ=セトラを連れてきました・・・」
 ギルガの言葉を聞いて、エレナは目を見開いた。
 『アルム様?・・・あの人が・・・アルム王・・・ファレム国の歴史の中で、もっとも優れているという・・・第25代目の王・・・』
 エレナは心中で、その偉大さの感想を述べた。
 「ご苦労、ギルガ大将・・・下がっていい」
 「はっ!」
 アルムからそう言われ、ギルガは一礼をして、王座の間から出て行った。そしてアルムは、エレナに話しかけた。
 「君が、エレナ=セトラか・・・」
 「あっ、はい!! エレナ=セトラ・・・です・・」
 エレナは緊張して、少々大きな声を出してしまった。
 「武道大会の疲れが残っているのに、突然呼び出してすまなかった・・・」
 アルムが申し訳なさそうに言うと、エレナはハッとした顔をして言った。
 「! い、いいえ! そんな事ないです! そ・・・・それでその・・・・僕にお話しって・・・」
 「そうだった・・・単刀直入に言うが・・・君に我が国の軍・ファレム軍の兵士になってほしいのだが・・・・」
 「・・・・・ええっ!?」
 エレナは驚きを隠せなかった。ファレム国の王様が、直に自分に頼んでいるのだから・・・・
 「君は我が軍屈指の兵士である、ガリオンとレイラを倒したらしいな・・・」
 「は、はい・・・」
 「実はあの大会は、表向きは只の武道大会だが、本当は兵士の素質がある者を探すのが、真の目的なんだ」
 「じゃあ・・・僕は・・・」
 「その素質を持つ者・・・だ・・・・どうかな?」
 「・・・・」
 アルムに尋ねられたが、エレナは答える事は出来なかった。そんなエレナは気遣ったのか、アルムはこう言った。
 「突然言われても、答えられないな・・・一晩だけ考えてみてくれないか? それで駄目なら、私は諦めよう・・・」
 「・・・すみません・・・」
 エレナは深々と、頭を下げながら言った。

 ※         ※

 チャプン・・・

 ホテルのユニットバスに浸かりながら、エレナは昼間の事を考えていた。
 『え~と、まとめると・・・僕はこの街に来て、武道大会があるので、それに参加したら優勝して、そしたら王様から兵になってほしいと言われました・・・あれ? 作文?』
 どうでも良い後付けを付けながら、今日の事を纏めた。
 「兵士か・・・僕は確かに、ソルジャー・スクールに居たけど・・・・」
 エレナは、ソルジャー・スクールについて、何か問題がある様だ。エレナは考えながら湯船を出て、タオルで濡れた毛を拭き、吹き終わった後にベットに倒れこんだ。
 「どうしようかな・・・・ライガとナギサなら、どうするかな?・・・」
 エレナは仰向けの状態で、暫く考えていたが、何かを思いついた様に起き上がり、部屋を出て行った。そのままエレナは外に出た。夜空には満天の星空が広がり、微かに潮風が吹いており、エレナはそれを全身に感じながら、潮風が吹く方に向かって歩き出した。その時エレナの背後には、エレナの後ろ姿を見送りながら、携帯で何かを話している、頭に赤いリボンを付けたキルリアが居た。

 ※        ※

 「今出たって!」
 片手に携帯を持った、頭に青いリボンを付けたキルリアが、首から銀色の月のペンダントと金色の太陽のペンダントを首から下げた、一人の牝のブラッキーに言った。
 「ありがとうテレサ! 後でマリアにもお礼を言っておいて! それから・・・」
 「分かってるって! マサミさんは何とかしておくから・・・でも、本当に行くの?」
 そのブラッキーの言葉が言い終わる前に、テレサというキルリアは答えて、質問を返した。
 「うん・・・私の事は覚えてないと思うけど、会ってみようと思う」
 ブラッキーの言葉を聞き、テレサは口元に笑みを浮かべながら言った。
 「まっ、頑張ってみて♪ 応援してるわ!」
 そう言うとテレサは部屋を出て行った。ブラッキーは軽く息を吐いてから、部屋を出て行った。

 ※        ※

 潮が混じった夜風が吹く夜の海岸の砂浜に、エレナは立っていた。エレナは海の方を見ながら、軽く溜息をついた。
 「はぁ~・・・外に出れば、考えが着くかと思ったけど・・・決まらないな・・・」
 そう言いながらエレナは、前肢を海に入れた。肢から冷たい感触が伝わる。
 「あっ!」
 何気なく空を見上げると、空には金色に光る満月があった。
 「綺麗なお月様だな・・・」
 ウットリしながらエレナは、満月を見つめていた。
 「!」
 その時エレナは、自身の背後に誰かの気配を感じて、エレナは振り返った。すると其処には、月と太陽のペンダントをした、綺麗なブラッキーが立っていた。

 ここからエレナ視点

 そのブラッキーを見た瞬間、僕は思った・・・・・なんて綺麗な(ポケモン)なんだと・・・
 「こんばんは・・・」
 とても綺麗な声で、その人は僕に話しかけてきた。
 「あっ・・・こんばんわ・・・」
 慌てて僕が返事をすると、その人はフフッと笑って、僕に話しかけてきた。
 「そんなに緊張しないで良いですよ」
 僕の心中を察したのか、優しそうな口調で話しかけてきた。
 「私はフルムといいます。あなたは?」
 「僕はエレナ・・・エレナ=セトラです・・・」
 「とても綺麗な名前ですね・・・」
 「!」
 自分の名前を褒められて、僕は驚いた。何故なら僕は今まで、自分の名前について、『牝の子みたい』としか言われてなかったからだ。
 「あ、ありがとうございます・・・でもフルムさん・・・どうしてこんな時間に此処へ? 牝性の方が一人じゃ危険なんじゃ・・・」
 「あら? それならあなたも同じなのではないですか?」
 「いえ・・・僕は牡です・・・」
 僕が自分の性別を明かすと、フルムさんは僕の隣に来た。
 「それはさておき・・・・私が此処に来たのは、秘密です。ではあなたはどうして此処に来たのですか?」
 秘密・・・・かぁ・・・・僕に話したくない理由があるんだろうな・・・
 「僕ですか?・・・僕は考え事ですね・・・」
 「考え事?」
 「ええっ・・・実は今日行われた武道大会で、僕は優勝したんですが、その日の内に、ファレム王国の王様に呼び出されて、兵士になってほしいと言われたんですが・・ハァ・困りました・・・」
 溜息混じりに僕が言うと、フルムさんは言った。
 「どうしてですか? この国の兵士になれるというのは、この上の無い名誉ですよ?」
 「たしかにそうですけど・・・それに僕は、兵士養成学校(ソルジャー・スクール)の出身なんですが・・・」
 「? なら尚更大丈夫じゃないですか?」
 フルムさんはそう言ったが、その兵士養成学校が問題だった・・・。
 「いえ、実は僕・・・・兵士養成学校を・・・・卒業していないんです・・・」
 「・・・・それはどうゆう事ですか?・・・」
 「卒業間近の時でした・・・ある日僕は思ったんです・・・僕は、このまま只の兵士になるのかって・・・夢があるんじゃないのか?・・・って・・・・」
 「夢?・・・それは何ですか?」
 何故かフルムさんは、微かな笑みを浮かべながら、僕の顔を見ながら言った。
 「・・・夢・・・それは・・・英雄になる事です・・・・大切な人達を守れる・・・英雄に・・・」
 何時だったか忘れたけど、僕は誰かに何かを言われて、英雄を目指す様になった・・・。
 「・・・大切な人達を守れる・・・英雄ね・・・・なら兵士になれば、その夢の実現になるのではないのですか?」
 「!」
 フルムさんは、とても優しそうな声でそう呟くと、僕の傍を離れて、街の方に歩き始めた。僕がフルムさんの方を見ると、フルムさんはニッコリと笑って言った。
 「・・・その夢を持ち続けなさい・・・英雄になりたければ・・・その夢を大切にしなさい・・・」
 何故かフルムさんは、丁寧な言葉ではなく、昔からの知り合いの様な言葉遣いで言い、街の方へと肢を進めていった。一人残された僕は、今のフルムさんの言葉を思い出していた。

 夢を持ち続けなさい・・・英雄になりたければ・・・その夢を持ち続けなさい・・・

 「あの言葉・・・何処かで聞いたような・・・・」
 僕は聞き覚えのある、その言葉を思い出そうとしたが、思い出せず、潮風に寒さを感じて、海岸から離れて、街の方に向かった。

 ※          ※

 「そっか・・・覚えてなかったんだ・・・」
 天蓋付きのベットに腰掛けるブラッキー・フルムに、残念そうな顔立ちでテレサは言った。
 「仕方ないよ・・・5年も前の事だし・・・テレサも休んで! マサミさんに色々言われて疲れたでしょ?」
 「そうするね。お休み」
 そう言うとテレサは、一礼をして部屋の電気を消して、部屋から出て行った。フルムはベットに入り、サイドボードの電灯の灯りを消して、眠りについた。

 ※          ※

 「兵士になれば・・・夢も実現するか・・・・」
 エレナはホテルのベットに入り、先程の事を考えていた。
 「・・・・・そうだよね・・・・僕は兵士養成学校に行ってたんだ! そこで身につけた技術を使わないと駄目だよね!・・」
 決意の表情をしながら、エレナは言った。するとその直後、エレナに睡魔が襲い、エレナは静かに眠りについた。

 次の日

 エレナは体を起こし、ベットから降りて、顔を洗う為に洗面所に行った。その後は朝食を食べて、街を歩いたりして、時間を潰した。そして昼食を食べ終えて、部屋のベットで仰向けになっている時だった。
 トントン
と、部屋の扉を叩く音がした。エレナは訪問者が誰だか感じながら、扉を開けた。扉を開けた先には、エイトが立っていた。
 「よぉ、よく眠れたか?」
 「ええ・・・まあ・・・」
 そうエレナが言った瞬間、エイトは驚いた顔をした。
 「以外やな・・・普通あんな事言われたら、眠れんやろ?」
 「普通はそうですね・・・でも僕は大丈夫ですから!」
 口元に笑みを浮かべながら、エレナは言った。それを聞いたエイトは、フッと笑って言った。
 「・・・その様子なら良い返事が出そうやな・・・」
 エイトは廊下を歩き出し、その後をエレナは続いた。

 シャインルナ城・王座の間

 「それで・・・結論は出たかな?・・・」
 相変わらず威厳と優しさを備えた雰囲気を漂わせるアルムが、エレナに言った。その質問にエレナは答えた。
 「・・・昨日僕は、一人の牝性と出会いました・・・その牝性に自分の夢を話したら、『兵士になれば、その夢を実現するのではないですか?』と言われたんです・・・」
 「夢? それは?・・・」
 「英雄になる事です・・・大切な人全てを守れる英雄に・・・それで僕は決心しました」
 そう言うとエレナは、決意に満ちた瞳で、アルムを見た。
 「その英雄になる為に・・・そして・・・この国の人達を護る為に・・・僕は兵士になります!」
 そのエレナの決意の言葉を聞くと、アルムは微笑んで言った。
 「ではエレナ=セトラ・・・君を我がファレム王国のファレム軍の兵士に任命する」
 そうアルムは言うと、一息ついて再び言った。
 「廊下で待機をしていてくれないか? 私はギルガ大将と話がある」
 「・・・分かりました・・・」
 そう言ってエレナは一礼をして、王座を出て行った。エレナを見送ると、アルムはギルガを近くに招き寄せた。
 「・・・まるで神話だな・・・」
 「?・・・何がですか?」
 「彼の瞳・・・」
 「・・・空色の瞳・・・ですか?」
 ギルガが聞くと、アルムは一息ついて言った。
 「・・・その昔・・・世界は邪悪なポケモンに支配されていた・・・しかし其処に、天空の神・レックウザが力を与えた8体のポケモンが現れ・・・そのポケモン達は、レックウザが与えた『空の力』という力を使い、邪悪なポケモンを倒し、世界を平和へと導いた・・・・もしかしたら彼は・・・そのポケモンかもしれない・・・」
 そうアルムは言った。

 ※        ※

 此処はファレム王国から離れた国・・・・ジェノバ王国・・・・その国の首都にある城に、一体のブラッキーが居た。ブラッキーは街と遥か彼方の景色を見ていた。そしてその瞳は、空色の瞳であった。


 空の瞳の太陽と優美なる月の物語 1 空色の瞳の太陽と優美なる心の月 完 2に続く


 あとがき
 「やっと空瞳の1話目が終わりました・・・長かった・・・気付いた人は居たと思いますが、短編の『竜の愛心』の登場人物が出ていました。最後まで見てくださった方々、本当にありがとうございました。2話目も楽しみにしていて下さい。それでは♪」
 


 何か感想・コメント等がありましたら、どうぞ♪

 


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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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