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PTSクリエイターズ

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writer is 双牙連刃

この作品は、作者が全く作品を書けなくなった時に書いていた習作です! なんとなく纏まってしまったので、暇潰しにでも読んで頂ければ幸いでございます!


 ……目覚ましのベルが喧しく騒いでやがる。ちっ、もうそんな時間かよ。
んん? なんか体の上に乗ってやがるな。誰だ? ってか何だ?

「ぐぅ……てめぇか、ルプス! 毎度言ってるだろ、俺に乗って寝るなって!」
「ギャン!?」

 俺の上で寝腐ってた馬鹿を放り出して、ついでに放り出しちまった一張羅の白衣だけは掴んで羽織る。今日もお仕事お仕事ってか?

「ウゥ~……」
「あっ? 何ガンくれちゃってんのルプス? お前を飯抜きにしてもいいんだぞ?」
「グゥッ!?」
「大体お前は何なんですかぁ? 俺は前から俺の上に乗って寝るなって言ってたよな? 現在まだ飯抜きじゃない事を喜んで貰いたいんだがな俺は?」

 はっはっは、この程度の脅し文句で腹を見せてたら苦労しかしないぞルプス。気楽に図太く生きないとな。
何にせよそろそろ仕事だ。さっさと飯食ってオペレーションルームに行かねぇとな。

「キュゥ……」
「ん? おぉティエラか。お、卵焼きじゃねぇか。いやぁ、俺は気の利くパートナーが居て有難いばかりだぜ」

 早速ティエラの焼いてくれた卵焼きを一口。うんうん、ポケモンが焼いたとは思えない腕前、非常に美味い。流石だねぇ。
頭を撫でてやると嬉しそうな顔をする。俺みたいな馬鹿には勿体無い奴だぞーティエラは。良ーい嫁になる、本当に。
ま、なんでか俺に懐いてるんで他の奴のところに行かせる気は無いが。と言うか、そんな事するとこいつ四六時中泣くだろうからそれは無しの方向で。
んじゃま、食いたそうな顔をしてる事だし、ルプスの奴にも食わせて仕事場へ向かうとするかな。



「あ、お早うございますハワードさん!」
「うーぃお早うさん。システムの状態は?」
「オールグリーンです! あ、ただ、ちょっと見て貰いたいところも何箇所かあるってチーフが言ってました。多分メールで指示が来てると思いますよ」
「えー? めんどくせぇなぁ……そんなの自分達で確認してくれよ……」
「そんな事言ったって、ここの管理システムの80%を組んだのってハワードさんじゃないですか。その後のメンテナンスシステムのアップデートから新システムの組み込みだってハワードさん抜きじゃ、はぐっ」
「それ以上の発言はノーセンキュー、頼られるのもな。俺は俺のやれる事を単にやってるだけなのさ」
「勿体無いですねぇ……ハワードさんの技術なら自分で会社なり事業なり立てれば成功するのに」
「んなの面倒っしょ? 俺は技術屋、技術は売っても頭を使うのは御免だぜ」

 そう、俺は技術屋。ただのシステムエンジニアだ。引っ張られるなら引っ張ったそこで技術を売るだけなのさ。
そうそう、俺の名前はハワード・リチャードソン。現在はここ、PTSオペレーションセンターってとこで働いてる一介の技術屋さ。
PTSってのは、ポケモントランクシステムの略。一般的にはポケモン預かりシステムって言われてるアレの事だ。
本来は一般のシステムエンジニアが作ったものだったらしいんだがな、個人が使えるPCの容量スペックで大勢のトレーナーのポケモンを預かるようなシステムを維持出来るか? 答えはノーだろうさ。
で、それのシステムを預かって大型サーバーでそれを管理してるのがこの会社って事。俺はここの発足から技術屋をやらされてる雇われって話なんだなこれが。
全く、この天然アフロをこき使って何が楽しいのかねここの連中は。システムメンテを全部面倒見させられるこっちの身になれってんだよ。

「はぁー、しゃあねぇ。やる事やってまた寝るとするかね」
「じゃあサポートさせて貰いますね。あ、シエルちゃんどうします?」
「んー? シエル以外でそっちのパートナー出来る奴居るのか?」
「……すいません、無理です」
「シエルにはあっちでこいつ等が会うだろうし、そん時に愚痴でも聞いてやるさ」

 このオペレーションセンターには俺と、俺のサポートをしている現在喋っているここのスタッフの一人、エリミー・クロケットっつー名前の子だけが使う、ってか使える特殊なシステムがあるんだな、これが。
このシステムで出来る事は、自分のポケモンをPTSの中に入れる事。まぁそれは各地にあるポケモンセンターのPCと同じだな。
が、こいつでPTS内に送られるポケモンには一つの権限が与えられる。一言で言うと、管理者権限って奴だ。このPTS内のあらゆるデータに触れる事が出来るようになる、な。
そんなもん誰にでもホイホイ使わせる訳にはいかないから、俺かエリミーちゃんの音声とパスが無いと動かないように作った。このシステムの名は、クリエイター。このPTSを創り、広げていくって意味でな。

「んじゃ、ルプス。ティエラ。今日もお仕事行っといで」
「ガゥ~」
「キュウ」
「嫌そうな顔しない。ちゃっと行けばちゃっと終わるからよ」
「こっちも準備出来てます。そっちにもリンクしますね」
「あいよ~」

 んじゃこっちのPCからも向こうへリンクっと。あーとはこいつ等をあっちへ入れるだけだ、それでお仕事開始だな。
あぁ、因みにここは俺とエリミーだけがアクセス出来る仕事部屋さ。だからここにクリエイターシステムを置いておけるんだがな。
クリエイターでポケモンをシステムの中に入れる方法は二つ。一つは、他のPCでも行っているモンスターボールからのデータ変換によるシステムインだ。
それともう一つ。この部屋にあるトランサーバー……物質をデータ化する機械ってとこだな。それを使ってPTSに入る方法がそれだ。
二匹がそれに入ったのを確認して、俺はPCにシステム起動の命令を入れる。すると、二匹の姿はトランサーバーの上から消えていく。
さぁってと、こっからの俺のメインの仕事はオペレーションだ。もちろん、俺の管理者達のな。
PTSに行ったあいつ等に指示を出すには、マイクを使って音声をPCに送る必要がある。おまけに、こっちの映像を送るにはカメラが必要だ。この辺面倒なんだよな……そういうPC作っちまおうか。

『PTS内へのイン、完了しましたご主人様』
「おう。体調はグリーン、大丈夫そうだなティエラ」
『はい。ご主人様の為ですから』

 ティエラは、牝のフライゴンだ。付き合いはナックラーの頃から、それからずっと俺のパートナーの一匹だな。

『うぅ~、気持ち悪ぃ……なぁ、もうちょっとトランサーバー調整してくれよ。毎回酔うんだよこれ』
「うるせぇや。嫌ならそっちが慣れやがれ」
『酷くない!? 俺の扱い朝から!』
「お前が俺の言いつけを聞かんからだろうが! なんべん俺の上で寝るなって言った!」
『いいじゃねぇかよそれくらいー! ポチエナの頃は一緒に寝てたんだしよー!』
「馬鹿野郎、お前進化してデカくなっただろうが! 重ぇんだよ!」

 この馬鹿な会話をしてきたのがルプス。牡のグラエナなんだが……言った通りの妙な癖があってだな、寝る時俺の傍に居ないと寝れないとかなんとか。ポチエナの時にそんな事をしてやったのが不味かったか?
とにかくPTS内に管理者達を送り込む事は出来た。システム修復を始めるとしますか。

『……ハワード、私へ何か言う事は無いんですか?』
「ん!? あーいや、ご苦労シエル! エリミーちゃんの補佐役もなかなか良いだろ、こんなおっさんのオペより!」
『戻ったら、覚悟しておいて下さいね』

 うわっはー、こりゃこの後が大変だな。あぁ、シエルは俺のポケモンである牝のハクリューだ。ただ今は、エリミーちゃんの管理者をやってもらってるがな。エリミーちゃんが管理者に出来るポケモンに出会ってないからだが。
まぁ、一週間くらい構ってやってないし、このくらいは諦めて相手するとしようか。諦める事も時には必要って事で。何をさせられっかなぁ……。
とにかく今はメールを確認してPTSを修復してやらんとな。えーっと、セントラルエリアが三ヶ所に、プライベートエリアが五ヶ所? 多くね?
セントラルエリアってのは、一般トレーナーのポケモンを集積して預かってるサーバー内の仮想空間。んで、プライベートエリアってのはちょーっと危険なポケモンを預かっておく為の特別なエリアってとこだ。中にはとんでもないポケモンを預けてくるトレーナーがたまに居るんでな。(作らされたのは俺だ)
そして我が管理者達はその仮想空間内を走り回ってもらって、修復しなきゃいけない場所を探すって訳さ。これがディスプレイと睨めっこしてるだけじゃ分かりにくくて仕方が無いのよ。
で、システム作るよりちまちま探すのが面倒だからって理由で構築したのがクリエイターってこと。これによってデータを仮想とは言え視覚化して見る事が出来るようになった。これがデカい、かなりデカい。

「よーし、それじゃあ本日のお仕事だ。ティエラ、お前はセントラルエリアを見て回ってくれ。確認しなきゃならない箇所はガイドビットが近くに行ったら教える」
『了解しました』
「ルプスはプライベートエリアだ。間違っても預かってるポケモンに出会うなよ」
『そんなの会いたくないって……会ってもまず勝てないし』

 こいつ等も管理者の仕事を一年半はやってる。何がヤバくて何処までがセーフなのかは理解してるさ。
データ化してるとはいえ、今ルプス達が居る場所には普通にポケモンが居て、まかり間違えばこっちが襲われる可能性もある。やられても強制的にこっちに戻されるだけだが、それも嫌なもんだろ。

「ハワードさん、こちらはどうします?」
「んー、いつも通りの見回り業務を基本で。預かってるポケモンに何かあってもヤバイしな」
「了解しました。シエルちゃん、よろしくね」
『了解。業務を開始します』

 はーい、シエルさんこっちを睨まないで。何も俺だってお前を嫌ってエリミーちゃんに預けた訳じゃない。適任者がお前だっただけなんだよ。
ルプスは俺以外のオペレートじゃまずまともに仕事をこなせない。ティエラは俺以外の奴と組ませると不安がって動けない。最終的に行き着くのはシエルだけだった。俺の手持ちの中で、唯一社交性の高いポケモンだからな。
さて、皆それぞれの仕事をやろうとしてるんだから俺もやりますか。とは言っても、ルプスとティエラが異常箇所を見つけてくれないと何も出来ないんだが。
一先ずはPTSの中を見てるとしますかね。ま、人間の居ないポケモンの世界って奴を模しただけで、基本的には現実世界と変わりないように作ってるつもりだがな。限界はあるが。
おーおー今日も大盛況だなぁ。おっ、コールを受けてる奴も居る。最近はここに預けっ放しのポケモンも増えて苦労してんだよ、何時引取りされるかも分からんから、こっちで勝手にも出来ないしな。だからトレーナーからのコールがあると安心するんだよ。

『ご主人様、一ヶ所目の確認ポイントです』
「っと、はいよーっと」

 ティエラが先に着いたか……場所の多いルプスには頑張って貰いたいんだがな。後でティエラも回すか。
管理者達が見つけたポイントを、こっちのプログラムの塊から検索して修復する。ここは……あぁ、多少データが乱れてるだけか。余裕だな。

「よっ……と。ティエラ、どうだ」
『んー……こっちには元々目立ったノイズは出ていませんでしたから、何が変わったとも言えませんね』
「あぁ、そうかい……」

 なんかこう、そう言われると地味に傷付くなー。こっちはこっちでプログラム書き換えるの面倒なんだが。
あぁ、こいつ等がPTS内で喋るのは俺がクリエイターに組み込んだ。試験的にだが、ポケモンの鳴き声の翻訳をな。とりあえず俺の手持ち三匹については概ね上手くいってるかな。
これだって結構手間掛かってるんだぞ? 四六時中聞いてるこいつ等の鳴き声からある程度の仮説を立てて言葉ぶち込んで、んで翻訳してみて間違ってたら修正して、トライ&エラーの連続だぜ。
それを続けてやって三匹分ここまでやったんだ。誰か褒めてくれてもいいと思うんだよな、俺。

『ハワード? ハワァァァード! 反応してくれよぉう!』
「ん? あ、悪い。どうした?」
『どうしたじゃないよ! こっちめっちゃノイズってるってば!』
「おぉ、こりゃすげぇ。今直すからちょっと待ってろ」

 こっちはまた凄いな、その場所だけノイズでジラジラしてやがる。まぁ、プライベートエリアはヤバイポケモンが集まってるところだからな。
んじゃま修復修復っと。って言うか、こんなになるまで放置するなよ他のスタッフ。直そうとする努力だけでもしてくれ。
大分プログラムが乱れてるな……。ま、これを正せば直せる程度だから、まだ楽な方の修復だな。
んじゃあちょちょいのちょいっと。基礎プログラムの殆どを俺が作ってるんだ、その上から何をしようと大抵の事は理解出来る。ま、ここのシステムならって限定はされるが。
……よし、ルプスの方のノイズも解消されたようだな。そろそろサーバーの負荷がきついのもあるんだろうなーこれ、世界中とまでは言わないけど、かなりの数のトレーナーのポケモンを相手にしてるんだ、マシンパワーの限界も見えてる。
これを解消出来るプログラムを作れと言われれば俺は速攻でノーって言うぞ? マシンスペックの問題はシステムじゃどうにもならん。

「おーし、次。そらゆけ」
『へーい。……ここ怖いんだってぇ、変な鳴き声いっぱいするしよぉ』
「我慢しろ、後四ヶ所だ」
「あ、あのーハワードさん。こっちで異常見つけちゃいまして……」
「ん、どれ? こっちにちょっと映像回して」
『多分負荷によるプログラムの破損ですね。そちらに異常箇所として報告されてませんか?』
「……いや、新しい破損だな。やれやれ、メンテはきちんとしろってチーフを突かんとな」

 こっちはエリミーちゃんに処置を任せて、俺はこっちの手持ちを直させてもらうぞ。はぁ、メンテをするのも一苦労だ畜生め。
大体俺達のクリエイターに頼り過ぎなんだよ。幾ら俺達が仕事しても他がついて来ない、クリエイターのソースは渡してんだよ? ここの頭に。
だがそれすら解析出来てない。故に使えるように組み替えられない。それが俺達以外のスタッフの現状なんよ。
あ、エリミーちゃんは別。いやぁビビったね、ここに入社したてで俺の構築した基礎プログラムを解析されたのは彼女が初めてだ。だから、俺と同じ事が出来るレベルにまでなるかなーと思って、手元に置いたって感じ。
因みに、順調に彼女は育ってるってところだな。俺の技術を盗んでくれると俺が楽になるし、願ったり叶ったりだ。

「あ、やった、直りましたよ!」
「でかした。んじゃ、多分その手の修復はさっきので直るから、同じように頼むぜ」
「やってみます!」
「良い返事だ。他のスタッフにも同じ事をやらせたいんだがねぇー」
「い、いや、ちょっとそれは無理なんじゃ……ハワードさんのやってる処理、高度過ぎますし」
「えーそう? 別に特殊な事はしてないんだけどなー。キーボード打ってるだけよ?」
「それ、世のエンジニアに言ったら大変な目に遭いますよ、ハワードさん」

 だろうな。総袋叩きだ。が、それ以上の事は出来んだろうがな。
出来る奴にはどんどん盗んで貰いたいが、出来ない奴にまで盗まれていいように使われるのは癪に触る。んな奴に使われるくらいなら、俺は誰にも使えないようにプログラムを組むさ。
だから俺のシステムって汎用性には乏しいんだよ。使う相手を選ぶって奴? だから俺は有名に成れないんだろうなー。
分かってるが、俺の主義は変えない。そもそも、世の中を変えるようなシステムを作るなんて俺向きの仕事じゃあない。
だから、いつも通りここのシステムの修復だ。ま、今日の分はこれで……終わりっと。ふぅ、あーしんどっ。

『お仕事終了、お疲れ様です!』
『ふぃー、プライベートエリア歩くのはきついぜー』
「お疲れさん。すぐに帰ってくるか? そっちでのんびりしてもいいぞ」
『す・ぐ・に、帰りますから用意しててくださいね』
「えっと……との事です」

 ははははは……ワタクシハナニヲヨウイスレバイイノデショウ? 勘弁願いたいところだ……。
とにかく、お勤めは終了。預かってるポケモンにも異常は無いし、仮想空間の修復も滞り無しだ。いやー、俺達は働きもんだぜ。
んじゃ、シエルがこれ以上むくれる前に戻してやるとしますか。トランサーバー起動、っと。
よしよし、トランサーバーの起動も順調だ。あ、これも設計は俺だ。って言いたいが……こいつは別の技術屋が設計したのを形にしただけだったりする。俺の知り合いに機械弄り専門が居るんでな。
まずはルプスとティエラが無事帰還。……やっぱりルプスは酔ってるな。むぅ、これは確かに調整の必要ありか?
っと、今度はシエルが……ぬぉぉ!? 帰って来た途端に俺に巻き付きやがった!? 待て待て、俺は食っても美味くないぞ!?
うーわめっちゃ見てる。ガン見だこれ。今日はもうこのまま梃子でも離れないだろうな……参ったなぁ。

「うわぁ、大丈夫ですかハワードさん?」
「ま、まぁね……」
「あー、じゃあ今日の作業結果のレポートは纏めて送っておきますから、ハワードさんは皆を休ませてあげて下さい」
「す、すまん、じゃあお願いするわ」
「シュゥ!」
「分かった分かった、んじゃ、後よろしく」
「はーい。シエルちゃん、また今度手伝ってね」

 おっ、振り返ってエリミーちゃんに尻尾を振ってやってるって事は、別にエリミーちゃんの事を嫌ってるって事は無いみたいだな。何よりだ。
で、また俺をガン見に戻ると。それは止めてくれないんですね、分かってたけど。
しょうがない、このまま部屋に戻るとするか。あ、俺の部屋は何かあった時用に緊急呼び出しが出来るようこのセンター内に(強制的に)ある。だからこのオペレーションルームから自室に戻るのに手間は掛からない。スリッパで移動出来るくらいだ。
パタパタと足音を立てながら、シエル含む三匹と一緒にセンター内を歩く。俺にとっては日常の一部だ。

「あ、ハワードマスターチーフ、お疲れ様です!」
「はいそこ違う。俺はマスターチーフじゃないハワードさん。いいか? ハワードさん、だ。間違ってもチーフなんて呼ばないでくれ、仕事が増える」
「り、了解です」

 これだよ……ここのスタッフから俺は何故かありもしない役職、マスターチーフって呼ばれる。言っておくが、俺はそんな者じゃない断じて違う。
こんな呼ばれ方をするのはあの仕事の所為だが、俺はそんな役職に就きたくない。一般スタッフで十分だ。金は働き分貰うが。
しかし、俺がセンター内を彷徨くと大抵一度はその架空の役職で呼ぶ奴がいる。何故か? 決まってる、その呼び方を率先して広めようとしている馬鹿がいるからだ。
俺は今コーヒーを買いに行くついでにその馬鹿ともう一人に挨拶をしてくる予定だ。奴の言い分次第ではこの三匹をけしかける事も辞さないつもりでいる。
よしここだ、スタッフのレストルーム。奴らはここで大抵駄弁っている。しばき倒した事過去数十回の実績からもうほぼ確定と言ってもいい。

「いやー、まーた利用者数が増えちゃってもう大変だよー。今度ファームエリアとか作って、またデータの偏りを修正しないとダメかなぁ?」
「確かにそうだが、これ以上はサーバーの能力が追いつかないぞ? ただでさえ汎用型クリエイターを組み込む作業でスタッフは足りないんだし」
「はっはっはー、よしルプス、殺れ!」
「ガゥア!」
「!? そ、その声は……」
「うぉ! ハワード!? ちょ、グラエナをけしかけるな! や、止めろ! ぐわぁぁぁ!」

 はい、馬鹿が二人程ルプスの歯牙に掛かって果てました。皆様ご冥福をお祈り下さい。

「う、うぐぁ……いきなり何をするハワード……」
「仮にもここの所長をポケモンの餌にしようとするなんて……」
「うるせぇ馬鹿コンビ。新しいエリア作るだぁ? 汎用型クリエイターの導入だぁ? 寝言は永眠してから言いやがれ」
「永眠ってそれ死んじゃってるじゃないか。もー、ジョークがブラック♪」
「第二弾ティエラ、破壊光線で奴等を消せ」
「すんませんでしたぁ! だから破壊光線はマジ勘弁して下さい!」

 今残像の見えそうな程のスピードの土下座をかました一般人が、ここのセンターの所長、ペインズ・ビウォーター。ただの馬鹿。
もう一人の髪型オールバックの黒スーツが、ここのスタッフチーフ、エズガーン・ボーデン。馬鹿では無いが……やっぱり馬鹿。
こいつ等馬鹿二人と俺がまさかの幼馴染であった為、仕事探し中だったフリーのエンジニアの頃の俺はここのスタッフとして入社した訳だ。誘われて断る必要も無かったからな。(その頃は)

「な、何故汎用型クリエイターが寝言なのだ。あのシステムを全スタッフが使えればお前も」
「あぁ大いに楽だな。だが、汎用型って一体なんのプログラムを削って汎用型としてるんだお前?」
「それは、管理者として特定のポケモンを指定してPTS内にインさせるシステムだが?」
「んで、どうやってシステム内の異常箇所を見つけるんだよ?」
「それはソースプログラムから……あ」
「気付いたかスーツ馬鹿。それじゃあ従来のメンテナンスとミリ単位とも変わってねぇんだよ。ただのゴミをシステムに入れてバグを増やしたいのか?」
「な、なんて事だ……」

 そう、こいつが馬鹿たる所以はこれだ。頭は切れるしエンジニアとしての腕も認めるが大事な何かが足りないんだ。そう、一番大事な物がな。
つまり、システムやプログラムの最大の利点を理解してないんだよ。確かに管理者を必要としないクリエイターなんて物はパッと見凄そうだろ? ポケモンにも負担を掛けないし、出来たら俺もそうしたいくらいだ。
が、こいつは後のプランも無しにその『凄そう』だけを形にしようとしちまうんだよ。ようは考えだけが未来に行っちゃってる馬鹿だ。世界には早すぎたって奴だな。
それでもただの馬鹿よりはマシだ。ただの馬鹿は自分のデスクプランだけを作ってそれを俺に丸投げしてくるからな! てめぇだよ、そこの僕にはよく分かんなーいって顔してる馬鹿!
因みにさっきの汎用型クリエイターの欠点は、仕事のメールに添付されてたそれのソースファイルを開いたら分かった。フォルダに自信作って名が付けられてて俺は悲しくなったわ!

「いいか? クリエイターの長所はシステムの異常を的確に、解り易く、かつ中のポケモンに悪影響を与えないかを測定しながら出来る事にあるんだよ。その為には管理者が必要なんだ」
「な、何故だ」
「はーい! なんかビジュアル的に良いから!」
「はいペインズ、部屋の隅で膝を抱えてろ。いいか? PTS内に居るのはポケモン、生物だ。それの中をそれとは違う物が動き回ってればポケモン達は異常と感じるし、ただのガイドビットじゃ修復後のシステム内の状況を把握し難い。なんせ俺はまだガイドビットにリアクションを取らせられるようには組んでないからな」
「な、なるほど」
「それを踏まえて、クリエイターを汎用化するには何を削るか、何が必要かを考えろ。お前の頭でも、これだけヒントをやれば答えが出るだろ」
「ふ、ふん、当然だ。俺はここのチーフスタッフなのだからな」

 頼むぞマジで。俺はそこまでしてやるつもりは無いからな? 給料にも何にもならんことにそこまで熱意を燃やす気は無い。

「えー? もうハワードが組んでくれればいいんじゃないのー? ハワードのケチー」
「お前は! もっと! スタッフ全体の! 技術力を! 上げる方法を! 考えろ!」
「ひ、ひぃぃぃ! エズー助けてぇー! ハワードが苛めるー!」
「システムを簡略化しつつ管理者をオミットしないようにするには……そうか! 管理者をシステムにインさせず、外部から操作出来るようにすればいいのだな!」

 どうやるのかこっちが聞いてみたいわそのやり方ぁ! だからもう根本がおかしいんだよ! なんで途中の問題定義までいいのに答えが明後日どころかタイムワープするんだよ!
あぁ、もうこいつ等に付き合うの疲れる。別にこいつ等、悪い奴なんじゃないんだよ? ペインズは俺の新システムなんかも導入する柔軟な思考の持ち主だし、エズガーンはシステムチェックや既存の技術を弄らせたら天才的なんだ。それぞれのスキルは良いもん持ってるんだよ。
ただしどっちもおかしなベクトルで馬鹿だがな! あーもう疲れた。

「もういいや。なんかあったら俺にコールしろ。ただし、あまり変な事でコールすんなよ」
「任せておけ! 必ずやお前が唸るような使い易いシステムを生み出してみせよう!」
「えー、もうハワード行っちゃうのー? もっと親友同士の熱ぅい友情を温めあおうよー」
「んな事言うならたまには飯くらい奢れよ。ポケモンセンターから大分絞り取ってるんだろ?」
「そりゃあもうウッハウハさー♪ そうだ! それなら今度ステーキバイキング行こ、ステーキ! 最近美味しいところ出来たんだー!」
「んだよ、そういうネタがあるなら早く言いやがれ。忘れんなよー」
「了解であります! サー!」

 ……我ながら馬鹿な会話だな、まったく。まぁ、もうつるんで長いからこういうノリに慣れてるってのもあるんだがな。
んじゃま、馬鹿共への顔見せも終わったし、後は部屋に……あ、一個忘れてた。

「おいエズ! クリエイターに構うのはいいけど、スタッフにメンテもちゃんとやれって言っとけ! 今日割とデカいノイズ出てたぞ!」
「何ぃ!? それは大事ではないか、何故言わん!」
「だから今言っただろうが! いいからスタッフルームへ行けぃ!」
「言われずとも行くわ! ゆくぞペインズ!」
「え!? 何故に俺も!? あぁ、お代官様ー!」
「……ペインズ、どっからああいうリアクションのネタ見つけてくるんだ?」
「ガゥ?」
「キュウ?」
「シュッ!」

 はいはいシエルさん、いいから部屋に帰れって事ですね。分かりました、分かりましたよ。だから威嚇しないでください、あなたは蛇じゃなくてドラゴンでしょ?
お目当てのカップに並々と注がれたコーヒーを片手に、俺の右足から胴体までに巻き付いたシエルをそのままにして歩いていく。お供に後ろからティエラとルプス。これが基本的な俺のリラックス時の移動風景だ。
通り掛かったスタッフ達には声掛けてるし、割と良い奴でしょ? 良い奴なんですよ俺?
んで、自室に帰ってきてソファーにダイブ。因みにこの部屋にはベッドは無い。故に寝具はこのソファーになる。

「やれやれ……毎度の事ながら、うちのスタッフは暢気が揃ってるもんだよな。そう思わんか?」
「グゥ~」
「キュウゥ」

 なんだ、こいつ等のお前の所為だ的目線は。俺はだな、誰もやらないからやってるだけで、誰かがやればメンテにも手を出すつもりは無いんだよ。
第一、翻訳システムだってまだ作りかけだし、クリエイターだって改善の余地がまだまだある。仕事の片手間で今はやってるが、本当は本腰上げて完成させたいんだぞ、どっちも。
そうすりゃ、面白いじゃないか。ポケモンが人と喋って、仮想空間でも自由に意思疎通が取れる。ポケモンと人が更に近づける訳だ。
俺がやりたいのはそういう仕事。別に名を売りたいとも思ってないし、技術で世界をどうにかしたいとも思ってない。ただの自分の愉快感を埋めるだけ。

「お前達だって、こうして寛いでる時にも普通に話出来た方が面白いよな?」
「ガゥ!」
「クルルゥ」
「シュゥ~」
「だよな。流石、俺のパートナー達だ」

 俺は技術屋、ハワード・リチャードソン。自分の面白いに忠実に生きる、システムエンジニアよ。
面白いと思ったもんは何でも作るし、何でもやる。PTSは……ついでだな、ついで。
ま、それでもあれも俺が作ったもんの一つだ、おかしな事にならないように管理してやるさ。
夢は……そうだな。自分の面白いって感情を満たす事。その為に、明日からもお仕事だ。
って訳で、今日は、寝る! どうせ退屈になったらこいつ等に起こされるだろうし、それまでは一休み一休みっと。


~後書き~
ポケモンの預かりシステムって、本当はどうなってるんだろうなーって疑問から生まれた作品でしたが……いかがだったでしょうか? ぶっちゃけ、全世界のトレーナー達がポケモンを預けていくシステムが個人のパソコンでどうにかなるっておかしな気がするんですよね。こういう会社、ありそうじゃないかなぁ……。

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • なるほど…。預かりシステムのことは考えたことはありませんが、確かにこんな会社があってもおかしくないですね…。
    いやあ、こういうのを考えられるのって凄いですね…(羨望
    というか、この仕事でミスあったらものすごいことになるんじゃ…?
    ……ま、まあこれからも頑張ってください!応援してます!
    ――007 ? 2014-03-17 (月) 00:50:59
  • >>007さん
    預かりシステムについては、ゲームの方でもほぼ個人(マサキ)が作ったものとしか出てきませんからね。あれが色んなところに普及してるんだって解釈なんだけど…最近は違うのかな? とにかく、こういう会社は多分あるだろうなーって思ってたので形にしてみたのです。
    ミスがあれば…恐らく大問題になりますね。まぁ、それが語られるかは、正直分かりませんが…。
    とにかく応援感謝です。ありがとうございます!
    ――双牙連刃 2014-03-18 (火) 07:23:27
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Last-modified: 2014-03-11 (火) 23:04:00
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