ポケモン小説wiki
Le Roi et Cendrillon

/Le Roi et Cendrillon

writer:朱烏

この小説にはR-18な挿絵がついています。閲覧するときは十分に注意してください。







Le Roi et Cendrillon






「俺にたてつこうなど百年早いわ。身の程を弁えろ、この雑魚が」
 かすれたうめき声をあげるダイケンキは、たった今戦いに負けた。ものの数秒とかからず、あっけなく。
 これでもかと敗者を踏みにじるのは、勝者のフタチマル――ダイケンキの一進化前のポケモン――である。
 まず、ダイケンキの間違いは、フタチマルが自分の挑戦を『受けて』立ったっと思い込んだことであった。もしかしたら、自分が攻撃するまでフタチマルは動じないと油断したのかもしれない。
 しかし、このフタチマルに至ってそんなことは断じて有り得ない。彼はダイケンキが戦闘態勢に入った瞬間に間合いを詰め、ダイケンキ自慢の角をへし折り、ホタチを叩き込んで地面に沈めた。

 最終進化を遂げていないポケモンが、赤子の手をひねるよりも容易く自らの進化後のポケモンを倒してしまう光景は、一種の爽快さと――それに勝るおぞましさを湛えていた。
 が、周りを陣取る雌たちはそんなことはお構いなしにきゃあきゃあ喚き、興奮のあまり失神してしまうものすらいる。
 雌がより優れた雄と結ばれたがるのは世の常であり、雄もまた自らの優秀性を示すために他の雄と闘争を続けるのもまた然りである。しかし、その傾向はここ最近になっていささか度を越していた。

 それはまさしく、この島に突如として登場したフタチマルのレイゴのせいである。
 筋骨隆々で体躯は並のフタチマルを二回りほど凌ぎ、顔は雌が百匹寄って離れないほどの整い方をしていた。そこらにいるの雄は傷ついたプライドをひっさげてレイゴに向かっていくが、大抵はレイゴが両脚に携えた尋常ではない大きさのホタチを見て怯む。
 私が初めて彼の姿を見たときにまず思ったのは、あの大きなホタチをどう扱うのだろうかということだった。きっとその恵まれた体躯と大きなホタチで荒々しく戦うのだろうと思った。

 ところが現実は全く違った。彼は私が思わず驚嘆の声をあげてしまうほど軽々とそれを振り回し、しなやかで流麗なホタチ捌きで相手の懐に強力な一撃を叩き込む。彼は戦いのほとんどの勝利を、今やってのけたように、その一発でもぎ取った。
 強い。強すぎて並の雄では絶対に歯が立たない。そして、これに惚れない雌はまずいない。私も一瞬にして惚れた。レイゴと番い、生涯をともに過ごす雌はこの世の最高の幸せを手にしたも同然だと思った。
 戦いの腕や顔のつくりに反比例するように、性格は閉口するほど尊大だが、それはレイゴのもつ可愛らしい瑕疵のようなものだろう。
 とかく、私を含む雌たちは、レイゴに夢中になった。


ルロワエセンドリヨン0.png


 しかし、いくら夢想すれどレイゴと結ばれるのは夢のまた夢であった。
 もし私がレイゴと同じ種族であるフタチマルやダイケンキ――この島に生息するポケモンの数のおよそ四分の一――だったらまだチャンスはあったかもしれない。
 しかし、私はどこにでもいる平凡なマグマラシ。入り江の水鏡に映った顔には取り立てて可愛さや美しさがあるわけでもなかったし、性格はどちらかというと内気な方で、レイゴとそりが合うとは考えにくい。
 体の発達も同じ年の何匹かの友達に比べて遅く、性的魅力は間違いなく乏しかった。
 その証拠に「私、今日こそレイゴ様との仲を深めるの!」と宣言してきた友達のフタチマルは、私を見下すような意地悪い目をしていた。
 私はそれに気づかないふりをして「そうなんだ。頑張ってね」と応援する言葉をかけたが、内心穏やかではなかった。



 その夜、催して寝床から起き出した私は、入り江のそばを通りすがった。入り江一帯はレイゴとその取り巻きたちが夜を過ごす場所であるが、私の頭からはそのことがすっぽりと抜け落ちていた。
 雌たちの喘ぎ声で、私は夢とうつつの狭間から現実へと引き戻された。
 レイゴは夜にも強く、一晩中精が尽き果てることはないと聞いていたが、こんなにも派手にやっているとは思わなかった。
 入り江中に、すでにレイゴと交わったと思われるフタチマルやダイケンキが数匹、それからレイゴとは違う系統であるベイリーフ、ワカシャモ、リザード、ツタージャ、ポッタイシ、等々――が、息を荒げて横たわっていた。
 ダイケンキを除けば最終進化形の雌が全く見当たらず、レイゴの偏った性的嗜好がのぞける。
 それどころか、あの白濁液まみれになってるツタージャは未進化だ。歳だってまだ私の半分程度しかないはずで、よくもあの小さな体で巨躯のレイゴと交われるものだと変に感心してしまった。
 実際のところ、体が未発達の私でも、周りの雌たちにそこまで大きな後れはとっていないのではないかと思う。
 ただ、レイゴの周りにいる雌たちはやはりそれなりに美しく、どうしてもその部分で太刀打ちできそうにない。
「あっ……」
 苦しさと快楽が混じったような声が、入り江の中心にある大きな岩――レイゴがいつも居座っている玉座――の上から聞こえた。

 私は海から少し離れた茂みに身を隠した。
 月明かりに照らされながら快楽を貪るレイゴと――私の友達。
 仲を深めるどころか、一晩で交わるまでの仲になるとは。とてもじゃないが彼女には敵いそうになかった。
「ああ、レイゴ様っ……」
「そろそろ……出すぞ!」
 力強く突いてくるレイゴの背中を彼女は必死に掴んでいた。
 それから彼らの動きはしばらく止まった。どちらも果てたのだろう。
 私は催していたことも忘れ、その光景に見入っていた。ただただ羨ましくて、しかたなかった。
 


 だがその羨望は、一週間後に崩れ去ることになる。
 私は、友達が入り江とは反対側にある、海を見下ろせるような断崖絶壁の上で泣いているのを見つけた。
「どうかしたの?」
「レイゴ様に捨てられたの……」
 彼女の泣き腫らした顔は彼女自身の魅力を半減させていたが、それでもなお美しかった。
 私は狼狽した。容姿に優れ、タマゴも問題なく産める健康体であるはずの彼女が、こうもあっさりとレイゴに捨てられるのである。
 昨日までは、彼女は嬉々として私にレイゴとの夜の生活を報告していた。他の雌よりも長く、しかも一週間毎日抱いてもらっているから、きっと気に入ってくれているのだ、と。

 それは事実だったのだろう。しかし、レイゴという雄はまったくもって気まぐれだ。雌が心も体もかけてレイゴと添い遂げたいと思っていても、レイゴ自身にとってはただの味見にしかすぎないということもある。
「きっと私に魅力がなかったのね……だからもっと綺麗になって、絶対にレイゴ様を虜にするの……そしてゆくゆくは正妻の座を射止めるわ」
 私は二度驚いた。これもレイゴの魔力なのだろう。恨みがレイゴやその取り巻きに向かうことはない。レイゴを虜にしてみせる、今度こそ捨てさせないと、彼女は決心している。
 そして、彼女が口にした目標は、果たして想像を絶するほど困難なことだった。

 私は夜に再び起き出し、入り江へと向かった。もちろん、茂みにはしっかりと隠れた。覗き見がばれてしまっては後々大変なことになるかもしれないからだ。
 そこに待っていたのはもちろん、ほぼ乱交状態に近い痴態を晒すレイゴとその取り巻きだったが、取り巻きの顔ぶれは一週間前のそれらから半分以上が入れ替わっていた。
 これはとんでもないことだ。私の友達どころか、およそ十匹の雌がたった一週間で捨てられたことになる。
 恐ろしい世界を垣間見て、私は思わずその場にへたり込んだ。こんなところに私が入り込める余地など微塵もない。何かの間違いでレイゴに近づけても、二日三日で捨てられ、傷物にされるのがオチだ。
 しかも余計にやるせない気持ちになるのは、あの中に正妻にあたるポケモンがいないという事実だ。みんないわゆる側室みたいなもので、そこからどうにか一生をレイゴと添い遂げる『正妻』までのし上がろうと、熾烈な争いを水面下で繰り広げている。
 友達はこの戦いにもう一度身を投じるというのだから、畏敬の念さえ抱いてしまう。
 野心入り混じる雌たちの中で一匹の雄を奪いに行く勇気などない。雑多に入り混じる喘ぎ声を背に、私は意気消沈して寝床へと帰った。



 もはやこの島はレイゴの王国だった。常時ニ十匹近い雌を侍らせ、挙句の果てにはちゃんと相手のいる雌すら食い荒らしては妊娠させたりしているものだから、この島の雄にとってもたまったものではないだろう。
 この島に棲むポケモンの雌の半分近くはレイゴによって穢されており、雄でレイゴを憎んでいない者はいなかった。しかし、束になってかかっていってもレイゴに一網打尽にされるのは目に見えていて、どうしようもない。
 そんなこんなで、レイゴの魔の手に落ちていない雌の価値は急激に上昇する。レイゴの取り巻きに比べて容姿が地味だったり、性格が陰気だったりと一癖あっても、レイゴの手垢がついていないだけましだという考えが雄たちの中で蔓延っているらしい。
 その雌たちの中で私はそこそこ上物だという評価を受けているのか、昨日今日と立て続けに告白された。その雄たちの眼は誰もかれも焦りの色に染まっていて、それが余計に私やその他の雌の気分を萎えさせた。

 前から気になってたとか、好きだったとか、お世辞でもかわいいと言ってくれるとか、それなりに積極的に接してきてくれるならこちらとしても嬉しいのだが、レイゴに手をつけられる前に手を打とうという考えで来られてもまったく嬉しくない。と言うより、失礼だ。
 だから私はにこやかに「せめてレイゴ様に一矢報いてからいらしてください」と追い払った。
 そして結局はレイゴとの夜伽を夢想することになる。



 一ヵ月もするとレイゴの取り巻きたちの顔ぶれは完全に入れ替わった。相変わらず最終進化形を好まないレイゴは、毎夜雌をとっかえひっかえしながら暮らしていた。
 ときどきレイゴの夜伽を盗み見ては、彼に思いを馳せる。何よりも印象的だったのは、どれだけ交わっても屹立し続ける肉棒や雌たちの喘ぎ声ではなく、快楽に溺れながらも決して満足そうな表情を見せないレイゴの顔だった。
 まだ、交わりの先にあるものを見つけていないような――そんな顔だった。
 この頃の私は、目の前にぶら下がっている派手な幸せを掴もうとして空を切るより、何度も諦めずに告白してくるような、泥臭くも頑張る雄と一緒になった方がいいのではないかと考えていた。ちなみにその泥臭い雄というのは断崖のそばに棲むバクフーンで、名前をゴウタという。同種族で結ばれた方が何かと面倒事が起きないだろうという考えも、より今の私を後押ししていた。
 未だに夜に起き出してレイゴとその取り巻きの乱交を見に行くのは惰性のようなもので、そこに何の情熱も見いだせなくなってきていた。もうそろそろ潮時なのだろうと思う。

 そんな折、ゴウタからこんなことを言われた。
「僕は本気だけど、君はいつも返事をはぐらかす。もし僕と一緒になってくれることを本気で考えてくれているなら、今夜崖の上に来てほしい。満月が空の真ん中に来る時間に、そこで待っているから」
 いい加減決断しないととゴウタに迷惑がかかる。私はわかったと返事をして、彼が帰っていくのを見届けた。
 そして、私は満月が登り切る前に、入り江へと向かった。自分の気持ちに踏ん切りをつけるため――あの光景を見納めるために。








 しかし、期待した光景はそこにはなかった。月明かりの下でレイゴと数匹の雌がなにやら問答をしていて、一方的に怒鳴るレイゴを雌たちが何とかなだめようとしていたのだ。
「お前たちになどもう用はない! 去れ!」
「そんな、レイゴ様。私はこんなにもレイゴ様のことを愛していますのに」
「私の方がよりレイゴ様のことを愛しています!」
「いいえ! 私の方が……」
 刹那、まるで雷でも落ちたかと錯覚するくらいに、レイゴの怒号が響き渡った。
「そういうことが要らんと言うのだ! 去れ!」
 あろうことか、レイゴは雌たちに対してあの大きなホタチを振り上げた。
 悲鳴をあげながら、散り散りに去ってゆく雌たち。そのうちの一匹がこちらの茂みに向かって走ってきて、私は身を低くして隠れた。

 怒っているレイゴを見るのは初めてだった。取り巻きたちがよほどレイゴの気に食わないことをしでかしたのだと思った。
 悲鳴と足音が一通り過ぎ去ったあと、私はゆっくりと身を起こし、顔を茂みから出した。
 まさか目の前にレイゴがいるとも思わずに。
「ひゃっ……」
「お前……ずっとここから覗き見していただろう。感心できる趣味ではないな」
 まさか、知られていたとは。
「す、すみません!」
 私は後ずさって帰ろうとした。だがそれをレイゴは許しはしなかった。
「待て」
 レイゴが私の前足を掴む。
「今日は一度も雌を抱いていない。さっき追い返してしまったからな。俺の相手をしろ」
 あまりにも急すぎる展開だった。かつての私から見れば、願ってもない展開だったのかもしれない。だが、
「い、嫌です……どうせ一夜限りなのでしょう? そういうことは一生を添い遂げてくれるひととでなければできません」
「何?」
 声が震えている。レイゴに逆らう意味は分かっているつもりだが、彼の感情を逆撫でするような言葉が平気で口をついてでる。
 レイゴの私を握る手に力が込められる。顔を直視できない。
「レ、レイゴ様にとっては私は数多くいる雌のうちの一匹なのでしょうが……私にとってはこの体は一つしかないのです。いずれ捨てられるのはわかっているのに……どうしてレイゴ様と寝ることを考えられますか」
「……数多くいるなんてとんでもない。みな愛すべき雌たちだ。お前だって十分魅力的だ。だから抱かせろ」
 モテる雄と言うのはかくも自信家で傲慢なのだろうか。抱かせろなんてこの島の大部分の雄は口が滑っても言わないだろう。
「そんなこと言ったって説得力がないです。みんないいように取り替えられて、私の友達だってレイゴ様に……」
「違う! あいつらが勝手に捨てられていってるだけだ! 毎度のように俺の逆鱗に触れるようなことを言いやがって! 何もわかってない!」
 私の前足を握りしめるレイゴの手の力がさらに強くなった。痛みと、威圧的なレイゴの巨躯の前に、私は身をすくませた。
「寄ってくる雌は、誰にだって平等に精一杯の愛を注いでいるつもりだ! なのにあいつらは何だ? 私は誰それよりも俺を愛してるとか、あのひとは実は俺のことを愛していないからさっさと捨ててしまえとか、もううんざりだ! 俺は雌たちの勝ち負けを決める駒なのか? 優越感に浸らせるだけの道具なのか? 誰が等身大の俺を見て、純粋な愛を注いでくれるんだ?」
 レイゴの青い瞳は、込み上がる激情で潤んでいた。

「……寄ってくる雌はいくらでもいるから、一時一秒も手を抜かずに愛していけば、本当に俺のことを愛してくれる雌が見つかるとも思ったが、期待しただけ無駄だった」
 いつか見たレイゴの憂いを帯びたような表情は、たった今吐露した心情を秘めたものだったのかと、妙に納得した。
 レイゴは力なく私の前足から手を離し、踵を返した。
「悪かったな引き留めて。もう今日は遅いんだ。早く帰って寝ることだな」
 恐怖がすっと溶けていく。これって、やっぱりチャンスだ。レイゴを見誤って、愚かな判断なんてするべきではない。
「待ってください」
 今度は私がレイゴに声をかけた。
「何だ?」
「さっき、抱かせろって言いましたよね。いいですよ、レイゴ様になら」
 レイゴが片眉をつり上げる。
「どういう風の吹き回しだ?」
「その代わり、一生私だけを見ていてください。私も一生レイゴ様のことだけを見ています。それが条件です」
 レイゴは、雌たちから向けられるどろどろとした矛から逃げたがっている。そして、愛に飢えている。
「ほう……」
 レイゴは不敵に笑った。



 玉座の上から見渡せる景色はとても幻想的だった。黒い海を照らす銀の月、波に侵食される砂浜、風に揺れる木――すべてがここからだと新鮮に見える。
 レイゴ、そして彼と交わる雌しか登ることの許されない場所。
 私は緊張していた。あんなことを言ってしまった手前、もう後戻りはできない。レイゴの本妻になるという宣言が、どれだけ重いことか。
 本来ならば宣言するだけで簡単に実現するものではない。言ったが最後、レイゴの取り巻きたちから陰湿な虐めを受けるのは目に見えている。
 しかし、今は私とレイゴ以外誰もいない。
 私は無意識に深呼吸をしていた。
「何を緊張してる」
 レイゴが私を背中から抱き寄せる。
 私の前足が細い枝に見えてしまうほどの太い腕。手のひらは大きなホタチを扱うために、ごつごつとして硬かった。
「そういえばまだ名前を訊いていなかったな。これから一生を過ごす相手の名前を知らないのはよくない」
「……ミオナです」
「いい名だな」
 レイゴが手で私の首から口にかけて触れる。硬い手なのに、その手つきは恐ろしく柔らかかった。
「もしかして初めてなのか?」
「は、はい……」
「そうか……余計に愛しく感じるぞ」
 レイゴが私の首筋を甘噛みする。私は体を硬直させた。
「もっと力を抜け……夜は長いぞ」
「はい……」

 少し不意をつかれた。正直なところ、レイゴはすぐに私を押し倒してそのまま行為に及ぶものだと思っていた。ここで行われていたことは何度も盗み見していたが、決まってレイゴは雌を乱暴に突いていたし、それがレイゴの交尾なのだと思っていた。
 雌たちもそれでよがっていたし、きっとレイゴは雑でひとりよがりな交尾をするよう見えて、実際は雌を悦ばせるのが上手いのだろうと納得していた。
 しかし、今レイゴは私の体をまさぐりながら、首筋、耳、腕、と甘噛みや愛撫を繰り返していて、本番に移ろうとはしなかった。
 強張っていた私の体は少しずつほぐれてきて、気持ちが高ぶってくる。
「ふふ、まだ小さくて熟していないと思ったが、なかなかいい体をしているではないか。柔らかくて、温かくて、毛並みが美しい。どうしてあの雌たちのように俺の目の前に来なかったのか不思議なくらいだ」
「……そんなことを言われたのは初めてです」
 毛並みのことなど、誰ひとりとして言及したてくれたポケモンはいなかった。

「だが……今日まで俺の目の前に現れなかったのは正しい。自信満々に俺の前に来る雌は絶対に外れだ。最終進化形の雌はまだ落ち着きがあって、がっついてくることはそうそうないからいいが、あの高飛車な仔供のツタージャなんかには本当に困らされたものだ」
 私はレイゴの太い腕の中でくるりと体をひるがえした。
「レイゴ様、もう他の雌の話はお止めください。もう私にはレイゴ様しかいませんし、レイゴ様にも私しかいない、そうでしょう?」
 レイゴの顔を上目遣いで見る。レイゴの青い瞳には月明かりが映り込んでいた。
 何十何百と抱いてきた雌のことを口に出すレイゴにたぶん悪気はない。それどころか、私を褒めているつもりなのだろう。
 私自身もそれについては何とも思わない。容姿はレイゴの取り巻きたちよりに敵わないし、彼女たちのような自分に対しての絶対的自身があるわけでもない。
 ただ、レイゴに繋がれている鎖をここで断ち切っておかないと、後悔しか残らないような気がした。底なしにくらい心の奥で、独りで泣いているレイゴが視える。
 恵まれた体や端正な顔なんかよりも欲しているものに手が届かず、ただただ立ち尽くす彼の姿が。
「……そうだな。すまない」
 目つきが変わった。それは、彼が他の雄との戦いに挑むときのものによく似ていた。鋭く、強い決意を秘めた目。
 多分、レイゴは挑んでくる雄たちを楽にいなしてなどいなかった。絶対的王者として、一切をゆるがせにしない。
 レイゴはすべて本気だった。溢れるほどいる雌を愛すことも、戦いも。
 これでレイゴを完全に理解したなんて言うつもりはないけれど、この傲慢で誤解されやすいフタチマルは絶対に報われないといけない。それが私のちっぽけな愛で足りるかどうかはわからない。でも――。

「私、レイゴ様のことを愛しています」
 レイゴの背中に前足を回す。大きい背中は、私の短い腕では到底掴みきれそうにない。
「ミオナ……」
 レイゴの大きな腕が、私の背中に回される。私は再び体をこわばらせた。
 レイゴが私をしっかりと正面から抱き寄せ、私の口を塞いだ。レイゴが私の唇を軽く吸う。接吻のやり方はあまり知らなかったので、私も倣ってレイゴの唇を吸った。
 今までで一番時間を長く感じたひと時だったのかもしれない。レイゴは私の唇をしっとりと濡らしたあと、ゆっくりと私を倒した。
 巨躯に組み伏せられた私は身動きを取ることができなくなり、なすがままにされる。
 レイゴが舌を私の口の中に滑り込ませ、私の舌を絡める。レイゴは私の舌や口内を味わい尽くすがごとく吸ったり舐めたりした。
 息苦しいのは、体の火照りか、心臓の高鳴りか。私も夢中になってレイゴの舌に絡み、ときどきいたずらで軽く噛んでみたりもした。
 レイゴがもっと深く舌を入れてくる。左手で私の頭を抱き、右手は背中、腰、と辿って――。
「んぅ……」
 私の緊張で閉じていた脚を、レイゴが優しく開く。お尻と股ぐらを指先で繊細に愛撫する。
 柔らかな手つきが、ぴったりと私の秘所についた。
 毛で覆われたそこに這わせた指が、秘所の上部にある部分――陰核に触れる。
「あ……」
 唐突にレイゴは深い口づけを終わらせた。銀色にきらめく透明な液体が糸を引き、私の首筋にとろりと零れる。

 束の間の休息かと思いきや、今度は私の胸に吸いついてきた。
 ほとんど発達していない小さな胸にある乳首は、やはり体毛に覆われていて見えないはずなのに、レイゴには関係なかった。
 舌先で乳首をねぶりながら吸い、秘所にあてがった指は絶えず陰核を刺激する。頭の中が真っ白になってきて、私はいいようのない快感の波に溺れる。
「初めてなのにこんなに濡れて、しかも胸で感じるなんて、とても初物とは思えないな。まさか経験済みではあるまい?」
「あぁ……ひどいですレイゴ様ぁ……私、ほ、本当に初めてで……ひゃぅ……」
「冗談だ。こんなにうぶな反応をするのに経験があるわけがない」
 レイゴは意地悪だった。いい性格をしていないのは重々承知していたが、それは雌に対してもあまり変わらないようだった。
 けれども、そんな瑕疵も魅力だった。他の雄に感じられたような女々しさなど微塵もないし、いくら寄りかかっても倒れない大樹のような力強さは、一度も感じたことのない安心感を私に与えてくれる。
 多少荒々しく扱われたところで、私はきっと小言の一つも言わないのだろうと思った。
「こんなに誰かを愛しく思ったのは初めてだ」
 レイゴは私の胸や腹にある微妙な突起をいやらしい音を立ててねぶりながら、私の秘所に指を入れる。まだ誰の侵入も許したことのない蜜壺は、自分でもわかるほどしとどに濡れていた。

 もう体の準備は万端らしい。体の良すぎる感度にまだ心がついていかないが、それもじきにレイゴが埋めてくれるだろう。
「はぁ……んっ」
 レイゴが胸を強く吸い、私の体が敏感にはねる。レイゴはそれを見て満足したのか、体を起こした。
 私とレイゴの荒い息だけが蒼く静かな夜を曇らせる。
「大丈夫か? 少しは慣れてきただろう。怖いなら、まだほぐしてやるが……」
 本番に移ることをほのめかすレイゴの顔からは、たっぷりとあったはずの自信がわずかに掻き消えていた。
 気が逸って早く挿れたいが、私を無理に扱って壊してはいけないという恐れ。情動の赴くままに動きたい欲望と、細く小さな私の脆さの間で揺れ惑う彼の姿。
「したいですか……?」
「……めちゃくちゃにしたい」
 思わず本音を漏らすレイゴがたまらなく愛しかった。
 お預けするわけではないが、私も頑張らなければ。
 体を起こす。レイゴも私の不意な行動に応じて体を起こし、座った。
「どうした?」
「……立派ですね」

 そこには、幾度か遠目で見たことのある逸物が空を穿つ勢いで屹立していた。百戦錬磨の赤黒い大剣は、レイゴ自身の大きさも相まって異様な存在感を放っている。
 雄のそれをまともに見るのはそれが初めてだというのに、想像を超えた生々しさに不快な感情は一切湧き上がってこなかった。
「触っていいですか?」
「あ、ああ……」
 脈動するその大きさを見るだけでも、レイゴは優れた雄なのだということがわかる。
 両の前足で、優しく包み込んでいると、ひんやりとした水タイプのレイゴの肌に比べて熱を持っていた。私の体温より少し低いくらいか。
 これでどれほどの雌を貫いてきたのだろうかと考えて、私は頭を振った。さっき私がレイゴに言った言葉を思い出す。
 レイゴのそれがどれだけ使いこまれていようと、私とレイゴの間にはまったく関係がない。今私が向かい合うべきなのは誰でもない、レイゴなのだ。
 顔を――近づける。魅惑的ににおい立つそれに、舌先を近づけた。
「お、おい、それは……」
「なんとなく、やり方は知ってますから……」
 性的な話題をためらいなく口に出す友達を遠ざけなかったことは、もしかしたら私の一番の功績かもしれない。友達は経験のまるでない私をそれで見下していたのかもしれないけど、今となってはどうでもよかった。むしろ感謝しているくらいだ。
 肉棒を咥えると、レイゴはかすかなうめき声を漏らした。
 しかしながら――本当に大きい。ただでさえ私の体は小さく、口も大きくないのに、レイゴをものをうまく咥えるのは難しかった。
 下と口内の上で挟もうと思っても歯が当たる。レイゴは痛がらないだろうか。こんなことしても全然気持ち良くならないのだろうか。
 ぎこちなく頭を動かしながら、そればかりを気にしていた。
 そのとき、私の頭にレイゴの片手が添えられる。耳から首にかけてを撫ぜる、硬くて柔らかいそれは、無理をしなくてもいいと告げていた。
 まだ、頑張れる。私はさらに深くレイゴのものを咥えこんだ。喉の奥に当たって、苦しい。これでもまだ半分も入りきらない。下は自由に動かせないし、うまく頭を動かすこともできない。
 とてもじゃないが、口で愛撫するどころではなくなった。

 レイゴが私の頭を掴んで引き上げる。私の口から大きな逸物が引き出された。
「ごめんなさい……うまくできなくて」
 なんだか申し訳なかった。
「いや……すごく良かった。一生懸命やろうとしているのを見て、凄く興奮した。もう我慢できそうにない」
 私は再び押し倒された。
 レイゴの臨戦態勢の大剣が、私の秘所にあてがわれる。
「力を抜くんだ」
 私の緊張を解きほぐすように、レイゴは私の頭に口づけをする。
 私が静かに目をつぶると――レイゴがゆっくりと腰を突き出してきた。
 ゆっくりと、ゆっくりと、レイゴのものが私の秘所にうずめられていく。
 痛みはある。だが、思ったほどではない。レイゴがしっかりとほぐしてくれたおかげで、きちんと受け入れる態勢はできていたらしい。
 私の体の小ささに反して、レイゴを受け入れるだけの深さと広さがあったのかもしれない。体の相性というものがあるのならば、私とレイゴは決して悪くなかった。
 私は目を開ける。真っ直ぐな青い眼に、私の輪郭が映った。
「……痛いか?」
「いえ……」
 荒い息を押し殺すようにレイゴが問う。
「もう三分の一が入った。これ以上は無理しないほうがいいだろう……」
 私は、レイゴの背中に前足を回して、ぎゅっと抱きしめる。
 もっと深くレイゴを感じていたい。三分の一では全然足りない。
 私が死んでしまうくらいに貫いてほしい。私の体がめちゃくちゃに壊れてしまうまで。
 レイゴは、私が欲していることを察して、浮かせようとした腰をもういちど沈めた。
「……ミオナ、愛してるぞ」
 レイゴが私の名前を呼んでくれる。それがたまらないほど嬉しくて、しびれるような感覚が頭の上から後ろ足のつま先まで突き抜けた。
「私もです、レイゴ様」
「レイゴでいい。ぎこちない敬語もいらない。俺たちはもう夫婦だろう……」
 レイゴの口から夫婦という言葉が飛び出して、私は顔が紅潮した。
「あの、私、あっ」
 秘所が奥深くまで広げられる感覚が私をのけ反らせる。
 痛い。裂けてしまいそう。でも――。

「もっと……」
 もっとレイゴで満たされたい。子宮すらこじ開けられてしまうくらいに、深く突き刺してほしい。
 ひたすらレイゴの背中を抱き寄せ、レイゴもそれに呼応するように腰を沈めていく。
 そうして、レイゴのものがほとんどすべてうずめられ、私たちは長時間抱き合っていた。
 蕩けるような甘美な時間。初め感じていた下腹部の異物感は、私と完全に一体化していた。
「ミオナ、動くぞ……」
 頃合いを見計らって、レイゴは腰をゆっくりと動かし始める。
「ああっ、レイゴっ……」
 出し入れを繰り返すたびに、膣肉がすべて引きずり出されてしまいそうな感覚を全身で覚える。その刺激は、破瓜したばかりの私には幾分強かった。
「ミオナ……!」
 徐々に興奮してきたレイゴの速度が上がっていく。乱れた吐息が耳にかかり、それさえも敏感に反応した。
「レイゴっ、待っ……そんな、あっ……」
 体ががくがくと震え始めて、痛みや快楽を超える何かが、私の頭の中を侵食する。
 それは恐怖でもあった。これ以上レイゴの突きに晒されたら、精神さえ壊れてしまう気がした。だが、制止しようにも止められない。私の体は極上の快楽を貪るために、毛の先まで性感帯と化していた。
 体の奥が熱い。レイゴの肉棒がぐちゃぐちゃに私の中を掻き回す。レイゴの腰が打ち付けられるたびに、真っ白い光が目の前に飛び散る。
 怖い。怖い。このままでは。助けて。本当に。私は。訳がわからなくなって、私はおそらく悲鳴に近い嬌声を上げていた。



「……落ち着いたか」
 気が付くと、私はレイゴに太ももの上に、レイゴに向かい合う形で座っていた。レイゴは私の腰にずっと手を回して私を抱きしめていたようで、私の意識が戻ってからもしばらくそうしていた。
 秘所はレイゴを受け入れたままだった。つまりこれは、対面座位と呼ばれる体位。
「すまない。怖かっただろう。ミオナが想像以上に敏感で、俺はもう少し手加減するべきだった。本当にすまない」
 二度も謝られて、私こそ申し訳ない気持ちになった。それと同時に、心のどこかに置き去りにしていた不安が払拭された。
 レイゴは、私のことだけを本当に愛してくれている。
「今度はもう少し優しくしてね」
 私は、レイゴの額に口づけをした。

 ゆっくりと下から突き上げてくるレイゴを感じながら、私は熱に蕩けそうになっていた。
 レイゴは決して余裕そうな表情していない。果ててしまいそうなのを耐えているわけではなく、私を丁寧に扱うことに力を注いでいる。
 レイゴにとって私というのは砂浜に打ち上げられた、薄く脆いシェルダーの貝殻と同じくらいにか弱いものなのだろう。力加減を間違えて壊してしまわないように、そっと触れる――そんなレイゴが愛しくてたまらない。
 私の胸に優しく吸いつくレイゴの頭に抱きついて、ああ、と息を漏らす。
 体の芯が熱い。秘所で生まれる熱が全身に広がって、ぼうっとのぼせたようになる。少しだけ冷える夜に、湯気が立ち上る。
「ミオナの中、すごく熱いな……」
「レイゴのもあっついよ……ああ……」
 レイゴが私のお尻を両手で掴んだ。
「ん……」
 そして、お尻からももにかけての肉をゆっくりと、いやらしく揉みしだく。
「あ……そんないけないところ……」
 切なくなって、レイゴの頭にしがみついた。
「いけなくなんかないぞ……揉んでるだけでいい締まり方をする……ふふ、大事なところも、胸も、そして尻でも感じるなんて、随分淫乱なんだな」
「淫乱なんてひどいよレイゴ……やあっ……」


ルロワエセンドリヨン1.png


「そう言ってさらに締めつけてくるのはどの体だ?」
 怒張するレイゴの肉棒が膣壁を圧迫してきて、私は体をくねらせて喘いだ。
「もっといい声で鳴いてくれ」
 また、レイゴが胸の突起を吸ってくる。レイゴの唇が触れるだけで、敏感になったそこから全身に刺激がほとばしった。
 月明かりが溶けるほど深い夜に嬌声が響いて、その残響が余計に私の体を熱くした。
「そろそろ出すぞ」
 レイゴの突き上げに、体の奥底から込み上げてきて、私も果てそうになる。
「あっあっ……レイゴっ」
 レイゴのももと私のお尻がぶつかりあって、いやらしく激しい音を立てる。
 もう少しで――。

 そのときだった。がさりと、私のずっと後ろの方で何かがうごめく音がした。
「何だ?」
 レイゴの動きが止まる。熱が、急速に冷めてゆく。
 私は後ろを見やった。
 そこには――ゴウタの姿が。
 思わず上を見る。私たちを照らす月は、すでに西に傾きかけていた。
 もう、約束の時間はとうに過ぎている。だから、私に会うために、わざわざ反対側の断崖からやって来たのだ。
「ゴウタ……」
「……知っているのか、ミオナ」
 どうしよう。まさかこんなことになるなんて。








 レイゴの冷たい青い目は、私の背中越しに、来るはずのなかった来訪者を捉えていた。
 ゴウタ。私を断崖に呼び、ずっと待っていたはずだ。
 そして、しびれを切らしてこっち側にやって来てしまって――こんなところは見られたくなかった。
「ミ、ミオナになんてことを……!」
 空気の温度が上昇する。ゴウタが怒り任せに噴火しているのだ。
 行為時の熱とは別種の熱は、完全にこの場に水を差している。

「僕と勝負しろ!」
 レイゴの目つきがさらに鋭さを増す。落ち着き払った怒りは、より空気を張りつめさせる。こんなときにレイゴの怒った顔なんて見たくなかった。
「断る。今、俺とミオナが何をしているのかわからないのか? 雄と雌の睦み合いを邪魔するのはどんな場合でも禁忌だろう」
 そう言いながら、レイゴは私を持ち上げて、私の秘所からゆっくりと自分の肉棒を引き抜いた。ぬめり輝く肉棒から汁が垂れて、それがとてももったいなく思う。
「うるさい! そうやっていつもお前は雌たちを弄んで、挙句ミオナまで傷物にしやがって! 屑野郎が!」
 ゴウタの口調はいつもの穏やかさを失っていて、激情のままに怒鳴っていた。

「弄ぶ? それは違うな。雌たちは己の意思で俺に近づいてきて、交わることを望んだ。俺はその望みを叶えさせてやったに過ぎん。そして、俺はすでにミオナとともに生きることを誓い合っている。誰が文句をつけられる?」
 レイゴはゴウタと対照的だった。強者の余裕というものを示すような、王の振る舞いだ。
「嘘だ! 僕は今日ミオナと……」
「ミオナに……何だ?」
 契りを結ぶつもりだった――と言いたいのだろう。そして、私もそれを受けるつもりでいた。少なくとも、数時間前までは。
「……要するに俺にミオナを取られたと言いたいんだな。だが俺の認識に間違いがなければ、ミオナは望んで俺と交わったし、お前のことなど一言も口に出さなかった」
 レイゴが玉座から飛び降りる。相手と同じ目線に立つということは、戦闘態勢に入ったということだ。

「そんなこと……信じられるか! ミオナは僕に返事をしてくれたんだ! お前が無理矢理……」
「黙れ。貴様はミオナという(おんな)を見くびりすぎだ。ミオナに貴様と結ばれたいという意思があれば、俺がどんなことをしようとミオナは必ず貴様のもとに行こうとしただろう。そこらの雌とはわけが違う。……だからこそ、貴様の気持ちもわからなくはない」
 無意識かそうでないのかは知らないが、レイゴは決まって挑発的な物言いをする。私を交わった張本人が『気持ちはわかる』などとのたまえば、ゴウタがさらに怒り出すのは当たり前だった。

「……くそっ!」
 ゴウタが炎を噴き上げながら、レイゴに向かっていく。火炎車――その炎は、この島のどのバクフーンよりも赫灼としていて熱かった。レイゴと言えど、流石に怒っているゴウタを止めるのは難しいのでは――と、ほんの一瞬だけ思ってしまった。
 しかし、レイゴは強い。この島の王たるゆえんは、どんなポケモンにも負けることのない強さだ。
「ふんっ!」
 シェルブレードを予備動作なしで繰り出せるレイゴに死角など存在しない。突進してきた炎の塊を、水の剣で軽々と弾き飛ばす。
 私は、眼下で繰り広げられる雄たちの戦いをただ傍観することしかできない。それは、雄と雌の間に優劣があるということではない。
 雄同士の戦いは、雌の世界とは別次元の時空に存在する。雌はそこに立ち入ってはならないし、自分と結ばれる強い雄を待ち、勝利した雄を労うのが課せられた仕事だ。
 そして、その戦いは早くも決着しようとしている。

「ゴウタ、と言ったな。確かに力押しで俺に勝てれば、それは紛れもない強さの証明になるだろう。が、相性、純粋な実力が劣っているのは明白で、力押しで勝てるわけがないのは赤子でもわかること。にもかかわらず俺を倒す戦術が何ら見当たらないのは、まだ俺が貴様の起死回生の戦術に気づいていないだけなのか、それとも貴様が何の考えもなく突っ込む馬鹿なのか……」
 傷だらけで立ち上がることがやっとのゴウタを、私は直視できなかった。こんなに圧倒されているのに、なぜまだ立ち上がろうとするのか、私にはわからない。
「しかし……覆し難い逆境にも立ち上がろうとするのは見上げた根性だ」
「う、うるさ……い……」
 やめてほしい、と大声で言いたい。だが、口出しすることは絶対にできない。願わくば、ゴウタには潔く諦めてほしい。
 レイゴがホタチを肩に携え、ゆっくりとゴウタに近づいていく。まだいたぶるつもりなのだろうか。

「貴様が俺に勝つ可能性は万に一つもない。だが、貴様がミオナを諦めたくない気持ちは痛烈に伝わった」
 ゴウタがわずかに後ずさる。これ以上レイゴからまともに攻撃を喰らってはやられると、防衛本能が働いたのだろう。
 しかし、レイゴは予想だにしない行動に出た。
「ミオナ! 来い!」
 雌が立ち入れない戦いに、レイゴはなぜか私を呼んでいる。
 玉座から降りることを躊躇うが、今はレイゴの言う通りにするしかない。きっと何か考えがあってのことだ。
「レイゴ……何をするの?」
 私はゴウタの視線から隠れるように、レイゴの背中に立った。
「ゴウタ……貴様が本当にミオナのことを好きで、心も体も理解するなら、ミオナはそれを認めるだろう」
 体が強張る。それは、レイゴと初めて対峙したときのような、感触のよくないものだった。
 レイゴが後ろにいる私に目配せをする。
「でも、レイゴ……」
「俺は構わん。お前が絶対に俺を選ぶという確信があるからな」
 レイゴが私の肩を抱いて、私を前に押し出した。
 体も心も理解する……つまり、ゴウタと交わるかもしれないということ。
 ゴウタは信じられないものを見るかのように、私を見つめていた。
 レイゴの口元はわずかに歪んでいる。瑕疵だらけの性格は、ここにきて本性を出した。



「ミオナ、僕のもとに来てほしい。絶対に幸せにする」
 ゴウタの大きなお腹に背を預けると、私の股ぐらにするりと手が伸びてくる。
 ゴウタは嫌じゃないのだろうか。レイゴの肉棒に蹂躙されてぐしょぐしょに濡れた私の秘所なんて、憎しみの対象にすらなり得るのではないだろうか。
 しかしゴウタはそれを意に介することなく、中指を私の秘所にゆっくりと入れていく。
 ゴウタは決して魅力のない雄ではない。こういう経験も二、三匹くらいならあるだろう。
 しかし、手つきが硬い。手自体は柔らかいのに、まるでレイゴとは正反対だ。
 何より、熱が伝わってこない。バクフーンは興奮すれば体温が上がるはずに、それが感じられない。
 ゴウタの緊張と焦り――そして、レイゴが後ろで胡坐をかいて私たちの行為を観察しているという異様さ。
 どうにかして私を振り向かせたいと空回りするゴウタの気持ちが直接心に伝わってくるようで、私の興奮は冷めてゆくばかりだった。
 性格が悪くても、「お前が絶対に俺を選ぶという確信がある」と自信満々に送り出したレイゴの器の大きさが鮮明に対比される。

「どう……?」
 ゴウタが、恐る恐る、という風に尋ねてくる。あまり気持ちよくないなんて口が裂けても言えない。
 ゴウタは優しい。レイゴを選ぶとしても、ゴウタを傷つけまいという態度を演じなければならない。それが私ができる精一杯の恩返しだ。
 さらに深く、ゴウタに背中を委ねる。これは、気持ちよくなっているふりだ。
 前戯が終わり、私は砂の上に押し倒された。
「入れるよ……」
 しつこいほどに時間をかけたレイゴに比べて、ゴウタはかなりあっさりとしていた。焦りとレイゴからの重圧に、浮足立っているようだった。
 ねえ、本当にそれでいいの? レイゴから私を奪うんでしょう? 私を満足させることが頭から抜け落ちてない?
 心の中でそう問いかける。
 秘所にあてがわれたゴウタの肉棒は――小さく見えた。
 いや、小さいというのは語弊た。多分、平均的な大きさなんだろう。でも、ゴウタより幾らか体の小さいはずのレイゴの逸物は、惚れ惚れするほど大きくて立派だった。
 その大きさを体で覚えると――どんな雄のものでも矮小に見える。
 私の友達は、大きさなんて雌が満足を覚えるのにあまり重要じゃないなんて言っていた。けれど、レイゴのようなねっとりとして重厚な前戯を期待できるわけでもなければ、体の奥から痺れるような交尾を期待できるわけでもない。
 途端に、ゴウタが取るに足らない雄のように思えてくる。
 こんなの(・・・・)に、体を許したら――。

「ごめん、ゴウタ。やっぱりできないよ、こんなこと」
 私は股をぴったりと閉じた。ゴウタの侵入を拒む意思表示。
「そんな……」
 ゴウタは言葉を失って、目を見開いたまま動かない。
 やっと屹立していたような肉棒はついに勢いを失って、弱々しく萎れた。
 がっかりした、なんて酷い言葉は絶対に言えないけれど――どうしてもゴウタが哀れに思えた。
 ねえ、ゴウタ。あなたは圧倒的にレイゴに劣っている。力も、雄としての魅力も。
 それに、レイゴに向かっていこうとする気持ちが本物ならば、こんな肝心なところで足踏みするはずなんてないのに。
「ゴウタ、私を好きでいてくれたのは本当に嬉しいよ。でも、もう私はレイゴのものなの……初めてをレイゴに捧げて、レイゴののを口で咥えて、体もレイゴの唾液で穢されていて……こんな私を愛することなんてできないでしょう?」

「……そんなこと……ないよ」
 声に力がない。ねえ、なんでそんなに自信がなさそうなの? レイゴに向かっていた勢いはただの虚勢?
「ねえ、諦めてよ。私の気持ちは変わらないよ……」
「嫌だよ……!」
 ゴウタが私に覆い被さって、無理矢理私の秘所に肉棒をあてがった。
「やめて、ゴウタ……」
 私は首を振ってゴウタを拒むが、ゴウタは構わずに押し入ってきた。
「痛い、やめて!」
 痛みで体がのけ反る。体がゴウタを弾き出そうとする。潤滑油は乾いてしまって、もはや入れられる状態ではなかった。
 レイゴの大きい逸物を受け入れるときでさえこんなに痛みはなかったし、その痛みは愛すべきとさえ思えた。
 なのに、こんな苦しくて痛いだけなんて。ゴウタは――優しくなんかなかった。

 ふいに、体に覆い被さっていた体重がどこかへ吹き飛ばされた。
 レイゴがゴウタを思い切り蹴飛ばしたらしい。私は立ち上がって、レイゴに抱きついた。
「貴様は俺を屑と罵るが、そっくりそのまま貴様に返してやろう。やりかたは下手くそで、俺より小さいくせに痛がらせて、自己満足に浸るだけ。そんな奴がミオナを幸せにするなんてとんだ笑い話だ」
 レイゴがゴウタを鋭く睨む。
「消えろ。それとも再起不能になるまでボロボロにしてやろうか?」
 レイゴは静かに激怒していた。
「うう……」
 レイゴは、足を引きずりながら敗走した。結局こうなったのは必然だったのかもしれない。
 最後に私がゴウタに抱いた感情は――しいて言えば、憐憫の情に近いものだった。



「機嫌を直してくれよ。別にそんなつもりじゃなかった」
「それにしたって他の雄と交尾させようとするなんて……」
 玉座の上で、レイゴは必死に私を宥めているのだが、少しの間ではあっても他の雄に売り飛ばされたような思いをして、さらに痛みまで受けたものだから、拗ねるほかなかった。
「本当にすまない……ああでもしないとあいつはミオナを諦めなかっただろうから」
 果たしてそれは本当だろうか。私の体の心も支配しているのは他でもない俺だと、ゴウタに見せつけるための行動だったのではないだろうか。
 再び友人の言を思い出す。雄の闘争本能と雌に対する征服欲をうまくくすぐることができれば、雄を簡単に手玉に取れる、と。図らずも、私の存在は二匹の雄の闘争本能を駆り立てた。
 もしや、これは武器になるのではないか――レイゴに永遠にそばにいてもらうための――。
「ミオナ、俺はまだ収まりがつかないんだ。まさかこれで終わりではないだろう……?」
 後ろを見やると、息を荒げてはちきれんばかりに脈動する逸物をこちらに向けるレイゴがいた。
「今日はもうお預けにしてもいい?」
「そんな……!」
 狼狽し不安がるレイゴが愛しくてたまらない。雌に困らなかったレイゴが私だけを求める姿が、とても可愛らしい。
「嘘だよレイゴ。でも私にした仕打ちの分だけ満足させないと、許さないから」
「ああ……もちろん満足させてやる」
 征服欲を、くすぐる。競争に負けた私の友達――あなたが私に見下しながらくれた助言はちゃんと役に立ってるよ。



「あっ、ああっ!」
「ミオナッ!」
 両腕で私を抱え、私の下半身を自分の逸物だけで支えるレイゴは、私を激しく上下に揺さぶる。
 再びじっくりと時間をかけて私を濡らし、太さも長さも段違いのそれを私が容易く受け入れられるようにしたレイゴの気配りは、やっぱりゴウタとは違った。
 ああ、いけない。私はレイゴのことだけを考えなければいけない。他の雄のことなんて頭から追い出してしまおう。
「んうっ、はあっ」
 思い切り胸を吸われ、ねぶられ、レイゴの歯が当たる痛みと突き抜けるような快感が嬌声となる。
 激しく下から肉棒を打ちつけてくるレイゴの攻めに耐えるように、レイゴの頭の後ろに前足を回して、強く抱きしめる。
「あっ、きちゃううっ……!」
 レイゴの全てを受けとめようと体が反応し、奥に留まっていた子宮が下りてきて、逸物の切っ先に直接刺激されて、私は体を思い切りのけ反らせた。
 擦り上げられた膣口は奥まで押し広げられて、全身に伝わるとめどない快感に蕩けてゆく。
「レイゴぉ、もっといっぱい突いてっ!」
 口の端から唾液がだらだらと零れていき、頭の中が白く塗りつぶされる。
「ミオナ、そろそろ出すぞ!」
「あ、レイゴっ、いっぱいちょうだいっ!」
 まるで子宮口がこじ開けるように、ずん、と突き上げるレイゴにわたしはぎゅっとしがみついた。
「ーーーっ!」

ルロワエセンドリヨン4.png

 肉棒が脈打ち、子宮にたっぷりと子種を注いでいく。
 声にならない嬌声とともに私の体ががくがくと震え、レイゴが私を満たし尽くすまでひたすらに耐えた。
 月明かりがいやに白くて、気づいたときには視界ごと真っ白になって、それでも体中を貪るような止まない快感の鳴動に悶えた。
「ああ……」
 ようやく事が終わり、レイゴが私の秘所から肉棒をゆっくりと引き抜いた。腰が抜け、私はその場にへたり込む。
 大量の子種が零れ落ち、私の内股をつたって玉座の上に溜まった。
 ああ、こんなにたくさん――凄いな――。
「ふふ、今宵はまだ終わらないぞ」
 息も整わないままに見上げると、そこには私に覆い被さろうとするレイゴがいた。
「孕むまでいくらでも注ぎ込んでやる」
 息を荒げ、たっぷりと吐き出したのにもかかわらず屹立する肉棒を私にあてがうレイゴは、獣欲の赴くままに私を抱く。
 背中にしがみつきながら乱れる私と、腰を振り続けるレイゴを阻むものは、誰ひとりとしていなかった。







 やがて島には平和が訪れる。レイゴに貪られる雌の数は極端に減り、以前と同じように多くの雄と雌が結ばれるようになった。
『完全にいなくなった』のではなく『減った』と言ったのは、実は私の他にもレイゴは何匹かの雌と体の関係を結んでいるからである。
 いわゆる側室というもので、妊娠してレイゴのあり余る精力をすべて受け止めきれない私に代わって、彼女たちが大事な雨受け皿になっている。
 そして彼女たちは虎視眈々と、私が居座る本妻の座を狙っているのだが――悪い意味で我が強い彼女たちは、恐れるに値しない。彼女たちは、所詮レイゴの欲望の捌け口に過ぎない。
 レイゴの心を掌握するのに容姿だけを武器にするのは無理がある。
 大切なのは、安心感を与え、征服欲を満たさせ、本当にあなたを理解しているのは私しかいないと思わせることだ。

「ミオナ……無理を承知で頼みたいんだが」
「何?」
「久しぶりにミオナとしたい」
 言い終わるや否や、逸物を屹立させていくレイゴは純粋だった。他の雌ではどうしても満足できないんだと言いたげな表情。
「でも……」
 私は膨らんだお腹をさすりながら、ささやかに拒む。無論、本気ではない。レイゴは私の妊娠が分かってからよく我慢していたし、むしろたくさん奉仕してあげたいくらいだ。
「お願いだ。優しくするから……」
 レイゴが私に優しいのはわかりきっている。ただ、ちょっとだけレイゴの困る顔が見てみたかった。
「レイゴ、私のこと好き?」
「ああ、大好きだ」
 真剣に返事をするレイゴが愛おしい。
「私も大好き」
 鼻息を荒くしたレイゴの股ぐらに顔を近づけ――私はそっと肉棒を咥え込んだ。





 終
 



変態選手権が終わる前に終わらせるという目論見は脆くも崩れ去りました。
20000字に対して挿絵が3枚が多いか少ないかはわかりませんが、とりあえず書くのも描くのも楽しかったです。
題名はフランス語で、Le Roi は『王』、et は『と』、Cendrillon は『シンデレラ』という意味です。
ミオナにとってのシンデレラストーリーだよっていう意味の安直な題名ですね。

以下は3枚目の挿絵の文字・効果無し差分です
差分
更に以下は挿絵に使おうと描いたものの構図も謎だし出来も悪いしということでボツにしました。
ボツ絵



感想等あればどうぞ↓

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 絵がすごいうまいですっ
    ―― 2013-08-22 (木) 23:11:10
  • 朱烏さん特融の雰囲気がにじみ出てたまらないですねー。
    文も絵も場の臨場感が惜しみなく出されていて素敵です!更新頑張ってください!
    ――クロフクロウ 2013-08-23 (金) 22:08:08
  • >名無しさん
    ありがとうございます。絵も文章も頑張ります。

    >クロフクロウさん
    雰囲気を大事にしながら、そして自分らしさを出しながら更新できればと思います。
    更新頑張りますね!

    お二方、コメントありがとうございました。
    ――朱烏 2013-08-25 (日) 02:12:49
  • 初めまして。COMという者です。
    個人的には大好きなシンデレラストーリーでした。
    進化個体が最強ではないのも実際ではよくありますし、強いからこそ生まれる王者の風格というものがうまく出ている気がしました。
    ただ、個人的にはこの後、ひと悶着ありそうな気がして続きが気になります。
    それでは執筆お疲れ様でした。
    ――COM 2013-09-15 (日) 00:47:19
  • 初めまして。
    ご都合主義になってる感がありますが書いてて楽しかったです。
    未進化のくせに強くて生意気で手が付けられないっていうキャラを一度書いてみたかったのですが、これくらい強烈なキャラがいてもいいかなと思いました。
    一悶着……あるんでしょうかね。それでも二匹ならうまく切り抜けると思います。
    コメントありがとうございました。
    ――朱烏 2013-09-16 (月) 15:04:57
お名前:

トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2013-09-14 (土) 00:00:00
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.