Lem
性自認に難ありの主人♀とエスバン♂のえっちなお話。
男らしさとは何か。
並べて女らしさとは。
本能を理性で抑え込む人間は自己同一性について苦悩する。
男とは何か。女とは。
らしさとは。らしいとは何なのか。
余計な言葉や意味が無意味を帯び、それでも思考を止めることを許されない生き物。
その思想は宛ら病気とも言えた。
それに同調するという程では無いにせよ、兎も彼女という人を観て考える。
同じ命を有する者ではあれど自分とは全く違う種族の個を、長い時間を重ねて寄り添わせた。
手を重ね、肌を重ね、傷を重ね、血を重ね、心を重ねた先に生まれるその感情を絆と称して良いのか兎には判別しかねる。
兎は主人の事を好んでいたし、主人もまた兎を好ましく傍に置き続けていた。
星の数程の逢瀬を人の男と重ね、その都度に裏切られる主人は決まってその夜に暴飲暴食を重ねる。
そこには兎も相席を強要されるのだが、数も重なればそれは義務的なものから儀式的なものへと昇華されていた。
それに彼女もとい人間一人には明らかに過食を越えるであろう量を黙して見守るのは兎には耐え難いものであった。
兎でなくとも大半の生き物が心配になるだろうし、当然至極の帰結である。
ただその量も初回から比べれば随分と控えめに落ち着き、そういう心境の変化は彼女も兎と同様にこれからの事に及ぶ流れを理解してきたと言えよう。
通常兎には人間と同じ物を食するという事はあまりない。
兎でなくとも殆どのポケモンがそうであり、彼らには彼らの主食に基づいた専用餌を好む。
また人間の食するそれは彼らには濃すぎる物として忌避され、常識ある者ならば無闇にそれを食わせようとはしない。
では彼女はそうではないのか。
否、彼女も常識ある人間の一人として十分に含まれる。
だがそれは時としてである。そもそも常日頃から常識を、節度を守り続けている人間というものが果たしてどれだけいるというのだろうか。
いるにはいるのだろう。だがそれは人間なのだろうか。
少なくとも兎にはそんな完璧に近い人間とは相対する機会は無かったし、そんな超人よりも欠点ある人間の補佐を選ぶだろう。
そういう優しさを秘めた雄だった。
雄であるが故に彼女の醜悪に付き合わされる羽目になるのだが、今ではそれすらも愉しむ自堕落さに兎はどれ程気に掛けているのだろうか。
机上に並べられた色取り取りのピザを一切れ少々食べた後は頬杖をつき、両手に空きを作らず貪り続ける兎の食事を眺める主人。
はにかむ微笑みをたたえながら兎の口回りの食べ滓や油汚れを指先で拭い、自身の口許へと運ぶ。恋人同士が行う仕草の様に。
そう、恋人の様に。
続く動作は徐々に過激さを孕み、兎の手指に舌を這わせてじっとりと唾液を絡ませる。
息を呑む兎の背筋が毛羽立ち、細めた上目遣いから目を反らす度に罰として指先を軽く齧られ、痛みに反応して体が震えた。
こんなやりとりも既に数回というのに兎の反応は未だに初々しく、獣と人とでは異なる性のアプローチに幾度も興奮を掻き立てられる。
それを観る彼女もまた同じ分感応し、自身の体の変調が下腹部を渦巻いて苛立つ。
寝巻きも羽織らず下着が普段着の彼女の姿は普通ならば挑発的とさえ映るだろうが、それは相手が人間ならではの話であり、人間の美的感覚をあまり理解できていない兎には無用の長物である。
兎の見た目が人間の服装に近い格好をしていても、それは毛皮の配色であって服ではないのだ。
その違いはとても分かりやすく、隠された欲望が顕現するのを理解するのに時間はかからない。
剥き出された雄がひくりと跳ねる度に雄の臭気が濃く染まり、自然と視線がそこへ集まる。
存在を主張する雄々しき尖塔を彼女はあえて流し、ふやけた指先の合間や爪の穴を執拗に舌先が苛め続ける。
爪先が舌先に引っ掛かる度に尖塔とフィードバックし、吸われ、齧られ、舐られる感覚が擬似的に雄を貪っていく。
心が折れかけようと空いた手が雄に伸びる直前で彼女が兎を解放する。
その働きは同時に兎の自慰をも制止させ、とことん勝手を許さぬ傲慢さが見て取れた。
物言わぬ「待て」を強要された兎を傍目に彼女は引き出しから潤滑油の入った容器を取り出し、無遠慮に雄の上からぶちまける。
とろみのある滝から伝わる急激な冷却が別の刺激を伴い、ともすればそれだけで果てそうになるのを必死に堪える。
粘つく感触が尖塔から根本へと流れ、勢いは留まらずやがて淀みへと集まって床を濡らす。
頃合いを見た彼女の指先が下腹部へと伸びた。
腹下の粘液をこそげとるように手指が滑り落ち、尖塔を迂回し、続く裂け目に沿った先の洞穴を探り当てるや三度兎が跳ねた。
指先が小さく回転を描くにつれて綻びは拡がり、その拡張も重ねた時間の経験からすんなりと指三本を呑み込んでいくのを確認して彼女が指先を引き抜く。
快楽の小波に耐え抜く兎は両手で顔を覆い、雄らしくもない女々しさを纏いながら息を荒らげていた。
暫しの休息も束の間、再び淀みの孔を拡げる感触が兎を襲い、声にもならぬ悲鳴が喉を悪戯に掻き毟る。
腰と腰を密着させる彼女の蠕動から見え隠れする偽雄が雄を雌へと屈伏させるべく牙を突き立てる。
快楽に咽び泣く兎の両手を彼女の両手が地に伏せ、連動して腰の高さが一段階上がる。
上がった腰が戻らない様に腰下にはクッションを敷かれ、兎の眼前に広がる自らの雄は腸壁を抉られて垂れ流しになった白濁液が朝露に煌めく蜘蛛の糸の如く溢れていく。
これが彼女の醜悪な性の形にして純然たる輝きを備えた姿である。
彼女は自らの性について苦悩し、自身を確たる己へと律するべく答えを模索した。
彼女は自らが『女』たらんとせん為に男の相手を欲した。
だが普通の馴れ初めは彼女の性に満足たる答えを見出ださなかった。
沸き上がる疑問に心が軋み、悲鳴をあげる己を理解するには自分だけでは成し得ない事に気づく。
相手側の理解、相互理解が必要不可欠と捉えた彼女は相手を自身と同じステージへと立たせようとした。
その要求に戦いた相手は尻込みして彼女の下を去った。
次の相手も。次も。次も。次も。
異常なまでの性の拘りに彼女は病み、それを支えたのが最初の相手が彼女に残した兎であった。
残したというよりは後を追われたくない理由から人質を置いて逃げ出したという方がしっくりくるのかもしれない。
人間は何処までも身勝手で、どれだけ取り繕っても最後には自分の自我を剥く。自牙とも言えようか。
彼女はただ自分を曖昧にしたくなかったというだけなのに。
多くの人は自己が持つ性自認に関して酷く無関心であり、彼女はその剥離に落胆し、絶望した。
それを慰める兎に癒され、助けられながらも、彼女の性の暴走は止まらない。
優しさは薬にもなるが毒にもなる。
今の彼女にとって男は雄は全て地雷に等しき性であった。
男が嫌いなのではなく、その逆である。彼女は純然たる『男』にこそ抱かれたがった。
そのために必要なのが男が男を見失わぬ強固な性自認であり、それを測る方法を理解する相手を欲しがった。
悲しきことに今回も失敗し、彼女はその性の捌け口を兎に吐き出して壊れそうな自我を保っている。
体を重ねる度に馴染む傷は互いを強固な絆で繋いでいき、同様に這い上がれない底無し沼へと沈んでいく負い目をも感じていた。
完全に腐り果ててしまう前に彼女は人の相手を見つけ、兎を自分から解放しなければならないと自負していた。
何度も何度目かも分からない「ごめんね」を兎の耳元に囁き、吹き零れた雄種の快楽に打ち震える兎から偽雄を引き抜いて下着ごとそれを脱ぎ捨てて横たわる。
快楽に咽び泣いた涙の痕を自らの頬ごと押し付ける。毛並みを新たに濡らすはどちらの涙であったか。
やがて兎が身を半回転させて彼女の上に転がった。
密着した状態からでも分かる下腹部を押し潰して伝わる熱い雄根に、兎の優しさに、不変の『雄』に。
蕩けた瞳と声音が兎を誘う。「待て」が解禁された兎の本能に衝き動かされる欲望は鏡を見る自分自身の様にも見えた。
雄を抉り抉ったその分が、傷が、そっくりそのまま自分へと返る。
彼女が一番されると気持ちいいポイントを兎は的確に抉ってくる。
雄としての矜持を見失わない本物が彼女を『女』として落とし込んでいく。
自身ではもう自覚できない雌の叫びが兎の本能を煽り、繁殖欲を駆り立てる。
それはもう人が呼称するSEXではなく、獣同士が織り成す交尾のそれであった。
膣内に吐き出される欲の種に兎はどんな思いを乗せているのか。
血の様に紅く煌めく宝玉が彼女の視線とかち合った。
距離が急速に狭まり、彼女の腰が宙に浮く。
腰下に差し込まれたクッションごと兎が彼女を押し潰し、槍が深奥を抉り貫いた。
既に最奥に辿り着いてもなお兎の進軍は止まらず、快楽の津波が彼女を海中に引きずり込んで溺れさせていく。
先の射精から数分と経たず次の分が膣内で跳ね回り、快楽を噛み殺す兎の歯軋りが耳元に鳴り響く。
眩暈に眩暈を重ねた眩さが呼吸を忘れさせ、意識を手放しかけた刹那を鋭い痛覚が遮った。
頚筋を噛む兎の紅玉が傍目で煌めき、蠕動が再開される。
心音が奏でる。
どくどくどくどく、と。
下腹部の中が蠢く。
どくどくどくどく、と。
心の中が、頭の中が満たされる。
毒、毒、毒、毒、兎──
後書
エスバンの日だぞ早く書くんだ。ゲームを止めろ。新作をあげるんだ。
頭の中で創作担当の私が猫パンチして兎の素晴らしさを広めろと怒られました。
仕上げました。ゲームしていい? いいよ。
やったー!
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