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Hybrid ~八つの石板~ 5

/Hybrid ~八つの石板~ 5

 今回は危険な描写はない、筈。タブンネ。でも何時入るか分からないから注意してください。
 一応、忠告しときますよ? by簾桜


「スピルカ様、そろそろ最深部の筈ですのでお気をつけください」
「そんな事分かっているわディム。全くこんな所まで逃げるなんてよっぽど捕まりたくないようね、忌々しい!」

 前話から数日が経った頃。大陸の西側、ナナイロタウンから徒歩で約一日ほど南西にある沼地のダンジョンにて。アベレージランクA*1ほどあるダンジョンを、ある二匹が探索している所だった。
 ぬかるんだ地面に嫌悪感で顔をしかめつつ、ポッタイシ―スピルカは何とか前へと進む。その後を、ディムハート=ルカリオは荷物を肩に背負い追従する。沼地という事もありぬかるんだ道ばかりが続く為、探索はなかなか大変そうである。
 彼女らもまたトレジャーハンターとして活躍する傍ら、お尋ね者を捕まえる為に活動していたらしい。スピルカは左手に持つ紙を睨みつけるように確認し、軽く舌打ちをする。普段の彼女なら絶対に舌打ちなどしないのだが、沼地という最悪のコンディションのダンジョンに長く探索していた為か、相当ストレスが溜まっているらしい。

「あーもう、なんだって私がこんな場所に来なければならないの!! アッシュさえいれば……」
「謹慎処分にしたのはスピルカ様ですよ。それに先輩は未だに立ち直っていないのですから恐らく足手まといです」
「分かっています! 私を余計にイラつかせないで!!」
「申し訳ありません」

 はぁ、と目の前にいる主に気付かれないようにため息を吐くディムハート。前々話にて一瞬で戦闘不能となったアッシュことスピルカの執事、グラエナは己のふがいなさにショックを隠す事が出来ず、さらに主人であるスピルカに謹慎をする事を命令された為、すっかり塞ぎ込んでしまっていたのだった。
 よって前々回から彼女らは二匹だけでダンジョンの探索などを行っていた。ポチエナ達は諜報活動はともかく戦闘の腕はからっきしな為、戦力にならないと言うのもあったのだが。
 大きなため息と共に、ぬかるむ地面にさらにストレスを溜めつつ、何とかダンジョンを攻略していく。途中で襲いかかるオタマロやガマガル、ニョロトノなど何故か見た目が似てるポケモンを退けつつ、先へと進んでいく。
 そんな中、ディムハートはカバンから一枚の紙を取りだした。どうやらそれは手紙のように文字が沢山書かれているらしく、妙に読みづらそうである。しかしディムはその紙を軽く読み、もしくは既に呼んでいたのだろうか、内容を吟味するように睨んでいた。

「トタスの森での事件……こんな事が本当にあるのでしょうか?」
「分からないわ……あまりに情報が少ない、というより“少なくなるように仕向けられている”部分が強いんだけど」
「怪しいですね」

 執事であるルカリオの一言に、スピルカはただ一言「そうね」と答えるだけであった。


 トタスの森での事件はすぐに号外として出され大陸中を震撼させた。多数の現地のポケモンが怪我を負い、一つの種族の群れの半分以上が死亡という事件にパパラッチはすぐに飛びつき、根も葉もない噂が多数飛び回る。警察も大きく動きだしたこの事件はしかし、大きな謎を幾つも残したまま闇へと葬られる事となった。
 その理由はいくつもあるが、その一つとして目撃情報があまりにも少ないという事に他ならない。なにせ怪我を負った者の大半は何が起こったのかも分からないうちに襲われ、覚えている者の殆どの証言は二匹組であったと言う事だけであった。群れのリーダーであるオコリザルも語る事は何もないし、何かあったとしてもすぐに気絶させられたので覚えがないとの一点張りで全く何も言わなかった。一部にはある便利屋が関わったのではないかという噂も流れたが次第にこの事件は民衆からは忘れられ、一ヶ月が経った頃には謎の残る事件として都市伝説のような扱いとなるのであった。
 ……しかしそれはある者の介入により情報操作された結果だという事を知るものは、ほんの一握りなのであろう。


 時は戻り、時間は前話から数時間が経ち太陽が沈み始める夕方頃、旅人であるボーマンダが満身創痍のワッフルとぐったりと言った風に眠るプリズムを背に抱えたままアジト前までやってきたことでチームはてんやわんやの大騒ぎになっていた。
 プリズムはすぐに目を覚ましたものの、ワッフルの容態は深刻だった。体中の筋組織はズタボロになっており、激痛によってピクリと動かす事も息をするのさえも出来ずにいるという命の危機とも言える非常事態。すぐにポトフは残っていたオレンの実を使っての治療を開始したが、辛うじて峠を渡らずに済んだものの応急処置ではどうしようも無いと判断しすぐに知り合いのタブンネを呼んでくると外に飛び出してしまった。事態を重く見たアイスとパフュームはすぐにカクレオン達に連絡、ちょうどレアスがオオスバメに乗って帰って来た為彼らはこの事を報告、レアスは大急ぎでアジトへと飛んで行く事となった。
 ちなみに後日知る事になるが、レアスを連れ帰ってきたはずのブレイズがどうなったかというとレアス曰く暫く一人になりたいからと一人で歩いて帰る事になったそうだ。
 飛んできたレアスはすぐにボーマンダに事情聴取をとった。彼の話によるとワッフル達とはトタスの森で偶然出会い乗せてくれるよう頼まれたので、まずはナナイロタウンへと飛び連れのピィを下ろした後にここへと飛んできたそうだ。だがピィと別れた後急にワッフルの容態が悪化し倒れてしまい、本人は自分のせいではないかととても焦ったそうだ。一階にあるポトフとワッフルの寝室に運ばれたワッフルは身動き一つ出来ずに横になるだけだった。






 一方既に目を覚ましていたプリズムもまた、別の意味で大変な事になっていた。

 ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツッ!!!

 まるでドードリオの乱れ打ちの如くの音速食いでプリズムは大きなリンゴ*2を齧りつきまくっていた。アイスとパフュームはあっけに取られつつもわんこそばよろしくと言った感じで彼の近くに大きなリンゴを置くと、プリズムは囓り終わった芯をかなぐり捨ててすぐに置かれたリンゴに手を出しまた音速食いを始める。
 こんな流れを既に四回、つまりこれが五個目のリンゴなのである。いくら育ち盛り食べ盛りといっても流石に食べ過ぎなのであるが、プリズムはお構いなしにガツガツガツガツと食べまくっている。やがて五個目も芯だけ残すと、ようやく満足したのかげふっと大きなげっぷをして、ボールのような体型になって文字通りころんと横になってしまうのだった。
 思わず顔を見合わせる二匹だったが、一体何があったのかはちゃんと聞かねばならない。ちょうど事情聴取を終えボーマンダを開放したレアスも一緒になって根掘り葉掘り聞き込み、数十分後にようやく事態を把握したのだった。

「……ほんの少し遊びに行ってただけなのに、随分と急に話が進んだねー。……で、そのシャワーズは確かに『石版の力』って言ったんだね?」
「うん。ワッフル姉ちゃんが身代わりになってくれた時に、気が付いたら不思議な場所で不思議なポケモンに会って……それでまた気がついたら、もの凄い力が体中にみなぎってきて、あっという間に勝っちゃった。その後すぐに気絶しちゃったからその後何があったのかわかんないんだけど……」

 ふんふんと頷きつつ走り書きで、それでも驚く程の達筆でレアスは紙にメモをしていく。先程からあっけに取られっぱなしのアイスとパフュームはもはや観客のようになりつつあったが、とりあえずはレアスが何かを言い出すまで待つ。
 やがて書き終わった後ふーむと唸る。暫くその状態が続いた後でゆっくりと目を開けブツブツと呟いた。

「不思議な場所であったというサンダース……月、雷、そして水か」

 はてなマークを浮かべる三匹であったが、レアスは何も言わずにそのまま立ち上がる。何かに気付いたようではあるレアスだったが現時点では何も語る事はないというがごとく口を真一文字にしている。
 そのまま玄関へととことこ歩いていき、ふと思い出したかのように振り返り、ある事を訪ねるのだった。


 全身にズキズキと激痛が走る。あまりに無茶しすぎた為に起こった自業自得。名誉の負傷、と言えば聞こえはいいが、ただ単純に自身の耐久度の低さが露呈しただけ。挙げ句の果てにまだ小さいプリズム君に助けられるという結果という情けなさすぎる現実。
 私はただ、あの子を叱咤しただけ。ただ身代わりを使って彼を助けただけ。ただ自分自身の体をズタズタにしただけ。情けなさ過ぎて涙も出てこない。最も、涙なんてとっくの昔に枯れ果ててしまったけど、ね。
 少し息を吸うだけで痛みがぶり返してくる。何時収まるのかも分からない拷問のような激痛に泣きそうになってくるが、それよりも悲しいのは自分の力の無さだった。……このままでは、きっと。

「やっほーワッフルちゃん、ご機嫌いかがぁ?」

 ……あまり聞きたくない声。その姿を確認する事は出来ないが、声だけで訪問者が誰なのかが分かってしまう。話だけ聞いてさっさと帰ると思ってたけど、どうしてアタシの所に?
 ペタペタという音を立ててこっちに近づいてくる。正直今は一匹でいたい。最も近くにいるだろう子供だか大人だかわかんない奴にはこちらの気持ちなんて分かりっこない筈だけど

「見事に突っ伏してるねぇ~、その様子だと会話も難しいかな? まぁ勝手に喋らせてもらうから」

 声だけしか聞こえないけど、ヘラヘラとしている事だけは分かる。表面では笑いを浮かべているけど、その奥底では何を考えているのか全く分からない。緊張感がないようで常にある一種の圧迫感、そしてアタシの過去を鋭く見抜いた事……伝説のポケモンという事ですべて片付けられるとは思えない。

「まぁ気付いてるとは思うけど、今のままじゃ絶対に死ぬよ。君強いけどさぁ、長期戦闘が出来ないんじゃこの先辛いよぉ~?
 話を聞いた限りじゃ、多分オレンとかオボンの実で体力を無理矢理回復しながら戦ってたでしょ? そんな事してたら体が使い物にならなくなってもおかしかないよねぇ~♪」

 こいつ、一体どこまで他人の心にズゲズゲ入ってくりゃ気が済むのよ……! というか話を聞いただけでどうしてアタシがどう戦ったのかを分析できたの!? 一体こいつ、何者……?
 そう思った瞬間、不意に体の痛みがほんの少しだけ和らいだ。痛むのを堪えて頭を上げると、水で出来た二本の輪っかが周りに浮かんでいるのが見えた。これは確か――アクアリング?

「少しでも傷を癒してあげるけど、あくまで応急処置。……ま、数時間ぐらいは効果は発動し続けるはずだから。早く回復して石版探しをじゃんじゃんやってもらわないと」

 それだけ言って、そのままトコトコ足音をたてて部屋から出て行ってしまった。……全く、案外優しいのやらそうでないのやら。


 場面は転換し約三日後のお昼前。レアスがアクアリングをしてくれ、さらにポトフが半分無理矢理連れてきたタブンネの癒しの波動のおかげもあってとりあえず普通に息が出来るぐらいまでにはどうにかワッフルも回復した。しかし絶対安静には変わらないので、暫く仕事を受けずに彼女の回復を待つという事で決着がついた。
 今日は朝早くからポトフはプリズムを連れオレンなどの治療品を買う為町へと買い物へ向かっている。残って介護を続ける事となったアイスは氷水用の氷を生成し、ワッフルの介護を終わらせて、ようやく一息ついていた所だった。
 ずっとバタバタとしていた為に疲れた顔を見せつつもふとリビングにてせっせと何かを作っているパフュームに気付く。何を作っているのか後ろからこっそりと覗いてみるとまるで太陽のような形をし、かつ真ん中に少し大きめの穴が空いている薄い金属板を持っている。どうやら金属製のペンダント用のプレートを作っているらしい。

「あ、リーダー。目に隈が出来てるけど大丈夫?」
「まぁちょっと……あんた眼鏡なんて使ってたっけ?」

 振り返ったパフュームは少し大きめの丸眼鏡をかけていた。既に半年近くずっと同じ屋根の下で暮らしていたが、一度も彼が眼鏡を使っている事はなかったのでアイスは少し驚き顔である。
 パフュ―ムは「あ~」と気の抜けたように視線を明後日の方向に向ける。隠していた訳ではなさそうであるが、あまり知られたくはない事だったのか少しだけ恥ずかしそうに頬をポリポリと掻く。

「実は僕、少しだけ遠視*3なんですよね。普段は実験をする時しか使わないから、身につけていないだけなんだ」
「へーそうだったんだ。普段そういうのしないから何かパフュームがパフュームじゃないみたい。可愛いじゃん」
「か、かわっ!? へ、変な事言わないでよっ!」

 急にそんな事を言われ、パフュームの顔がぼんっと赤く染まる。あわあわと落ち着かないというそんな様子にアイスはクスクスと笑うだけであった。
 そんなしぐさにパフュームは少しだけ胸がズキリと痛んだ。無論それは恋という痛みなのだが、果たして彼は気づいているのかそうでないのやら。何時もよりも大きく鳴る心臓の音を何とか押さえつけ、パフュームは大きく深呼吸をして落ち着きを取り戻しつつ、次の作業へと移る。

 パフュームは懐からあるものを取りだした。それはプリズムが目覚めたときに握っていた、あの不思議な宝石であった。ただ違うのは、かつてはまるで石ころのように少し角ばっている形だった物が、少し小さめの完全な球体となっていたところである。それは正しく宝玉と呼んでもおかしくはないほど、宝石は光り輝いていた。
 思わず感嘆の声をあげるアイスを横に、パフュームはプレートの穴に宝玉をはめ込んでいく。宝玉は穴にぴったりとはまり、あっと言う間に太陽をモチーフにしたアクセサリーの完成である。

「はぁー流石に器用だなぁパフュームは。でもどうやってこの宝石を丸くしたんだ?」
「僕も最初は驚いたけど、この石は電気の力を使えば簡単に細工が出来るらしいんだ。他の属性は全くと言っていいほど歯が立たなかったのに、電気の力だけは別みたいらしくて」
「ふーん――電気?」

 キョトン、としたような声で尋ねるアイス。普通シェイミ種は電気、雷系の技を覚える事はまずない。一体どのような手段で電気を使ったのだろう?
 パフュームはあぁー、と声を泳がせる。そんな彼は現在出来たばかりのプレートの上の方にある穴に細めの鎖を入れようと躍起になっている。なかなか入らずに苦戦しているが、彼はそのまま説明を続ける。

「僕のひぞくせいが雷だったから、細工が出来たんだ。プリズムに手伝ってもらっても良かったけど、一応プレゼントする物だから、内緒にしないといけないし」
「……ひぞくせい? 炎タイプ??」
「炎とかの『火』じゃなくて、秘密の『秘』に属性で『秘属性』。要するに隠れた属性って意味……いや、そんな顔しないで」

 ポッカーンとした表情をするアイスにパフュームはひきつった笑顔を漏らしてしまう。傍から見たら何やってんだかといった感じに見られなくもないやりとりだが、幸い周りには誰もいないから大丈夫であろう。ようやく穴に鎖を入れる事に成功し、スルスルと鎖を入れていきつつ、パフュームは説明を続ける。

 彼もまたポトフに聞いただけで詳しくは知らないそうだがポケモンには自分が有しているタイプ、グレイシアならば氷属性といった感じだがそれとはまた別に心の中に眠る秘めた属性っていうのがあるとの事。それを総じて秘属性というらしい。
 他にも色んな言われ方があるらしいが、パフュームは聞かなかったそうだ。心に眠るその力を通常使う事は難しいが『目覚めるパワー』という技を使うと秘属性のパワーを増幅させ、打ち出す事が出来るとの事。
 しかし何事にも例外と言うのがあり、才能のある者、例えば伝説や幻と呼ばれるポケモンならば技を使用せずともその力を引き出す事も不可能じゃないそうだ。パフュームもシェイミ種との事で挑戦したそうだが、せいぜい手に静電気をおこすぐらいが限界だったらしい。だがポトフ曰くこれでもかなり才能がある方だ、と言われたそうだ。

 はぁ、と情けない声をあげるアイス。どうやらそんなに理解していない彼女を軽く無視しつつパフュームは仕上げへと取りかかっていた。細い鎖の片端にある止め具にもう片方を繋ぐ。カチッと言う音が鳴り、ブローチだったアクセサリーは綺麗なネックレスへと姿を変えたのだった。
 大きく息を漏らすパフューム。相当神経を尖らせていたのだろう、今頃になってドバッと汗が噴き出したのがアイスにも見て取れた。アイスは出来上がったネックレスをまじまじと見てみる。太陽をモチーフにしたプレートには、トパーズ色の宝玉が誇らしげにキラリと輝いている。

「これ、ひょっとしてプリズムに?」
「随分と宝石を大事にしているみたいだから、なくさないようにね。喜んでくれるといいけど」
「まぁ大丈夫でしょ。あたしもこんなのほしいなぁ~、なんてね」

 ぼそっと本音が出てしまったアイスは、直後にかぁっと頬を赤らめる。意外そうに彼女を見るパフュームは、若干驚いたようであった。

「リーダーってこういうの興味ないのかと思ってたけど、違うみたいだね」
「そ、そりゃあたしだって女の仔だもん、少しはね。まぁ付けても似合わないだろうし可愛くないと思うけど」
「いやぁ、今でも十分可愛いと思うよ? ……あ゛」

 ポロリと本音が飛び出し、今度はパフュームが一気に赤面する。アイスもまたびっくりしたように眼を見開き、どういうことかと目で訴える。
 「あー」とか「えーと」など言葉が空回りするパフューム。アイスも何も言わずとも動揺を隠し切れておらずそわそわとしている。二人の間に妙な空気が流れているのは想像に難くないだろう。

「あ、あぁそうだ! そろそろワッフルさんのタオル交換をしたら、ど、どうかな、リーダー!?」
「へ、あ、うん……そうだね、そうそう……でもさっきの」
エーット!! 僕はちょっと二階で研究してくるねぇ!!

 猛スピードで二階へと飛び逃げるパフューム。普段出さないようなスピードであっと言う間にその場から去ってしまう。
 残されたアイスは言われた事が若干理解できていないのかポッカーンとした表情。しかしパフュームに言われた事の意味をようやく理解した時、彼女の顔もまた熟れたマトマ並みに真っ赤になるのだった。


 二階研究部屋では、大きく息を乱したパフュームが必死になって呼吸を整えているところだった。

「はぁ、はぁ……変な意味に取られて、ないよね?」

 頭に血が通っていないからか誰もいない空間で一人質問する。無論答えは返ってこない。頭を右足で掻きむしりつつ、椅子に座って机に置いてある薬品入りのフラスコを取りだし、おもむろに別の薬品をスポイトで吸い取り一滴だけ入れてみる。
 その瞬間のパフュームは何も考えずにその動作をしたのだが、すぐにその行為でもたらされる結果を思い出し、一気に青ざめた。しかし時すでに遅し。
 ピチョン、と音をたて液体と液体が触れ合う。そして次の瞬間、フラスコを中心として世界が白へと染まるのだった――。






 オレンの実やオボンの実などの木の実を抱えたポトフが最初感じたのは、前方から響いてくる強烈な爆音だった。直後にアジトの方角からモワモワと真っ黒な煙があがるのも見えるではないか。
 荷物を抱えたままのポトフは大きなため息をはく。何度も見たのであろうこの光景に、最早怒る気も失せた、とでも言いたい様であった。

「パフュームの奴、また失敗をしたのだな……」

 そう一言漏らし、ポトフは先程よりも少しだけ早足となってアジトへと帰るのだった。……しかし一緒にいる筈のプリズムは一体どこへと行ったのだろうか?


 一方こちらはとある沼のダンジョンの入口付近。三匹ほどの姿が見えるがどうやらスピルカとディムハートがお尋ね者を捕まえ、今やっとここまで戻ってきたようだ。
 ディムが持つ縄の先には結構きつめのぐるぐる巻きにされているデンリュウと呼ばれるポケモンが。どうやら彼が今回探していたお尋ね者のようである。

「チクショーーー! やっと安全な所まで逃げられたと思ったのにぃぃぃ!!」
「ディム、鬱陶しいから口にも縄を」
「そうしたいのですが、生憎縄はこれしか持っていないので……その代わりに」

 そう言うと同時にぎゃぁぎゃぁ騒ぐデンリュウの腹に拳による強力な一撃を放つ。聞こえてはいけない声で呻き声をあげた後、デンリュウは小さくうずくまってしまうのだった。
 若干やり過ぎな気もしないでもないが、スピルカは軽く無視して溜まったストレスを吐き出すかのように大きなため息を吐いた。彼女らは近くで活動しているポチエナ達と合流したあと、すぐに屋敷へと帰ろうとしていた。しかし何かあったのか約束の時間を過ぎてもポチエナ達は現れず、スピルカのイライラは徐々に蓄積していた。
 その時、ふと遠くから走ってくる姿を捉えた。見知った姿に無意識の警戒を解くと共に、何故こんな所に? という疑問を持つのだった。

「おや、そこにいるのはトレジャーハンターのスピルカさんとディムさんじゃないですかぁ~!」
「珍しいわね、ダンジョン以外の場所で商売人であるカクレオンに出会うなんて。何かあったの?」

 走ってきたのは、背中に大きなリュックサックを背負ったカクレオンであった。何やら急いでいるらしく息も絶え絶えと言った風であったが、何故か若干目が泳いだ風になったのをスピルカは見逃さなかった。

「いやぁ、その~、ちょぉ~っと商品の調達に! 最近はなかなか物資を補給できなくてこちらとしても参ったものでしてぇ!」
「へぇ、物資の調達にねぇ。わざわざそんな大荷物を抱えて」
「んぐ、自分そんなに実力があるとは言えませんのでぇ。あ、おふた方はどうしてここへ?」
「このお尋ね者を捕まえる為にここに来たんだ。こんな所まで逃げられたんで、少し休憩してただけさ」
「と言う事は、この先のダンジョンへは行かれていないと? ……あぁ、そうですか、それはよかった」

 ディムの台詞に、カクレオンは小さく安堵したようなポーズをする。怪しむスピルカの視線に気が付いたのか、カクレオンはハッと顔をあげ「では、失礼しますぅぅぅぅ!!」と叫びつつそのままダンジョンへと走り去ってしまうのだった。
 一体なんだったんだと言いたいような顔を浮かべているディムは気を取り直し、未だにうずくまっているデンリュウを立たせようとする。しかしスピルカは何かを考え込んでいる様子で、目を瞑り瞑想するかの様子にディムハートは知らず知らずのうちにゴクリと生唾を飲み込んだ。

「決めました。彼を追ってみようと思います」
「は、え、スピルカ様? えっと、こいつはどうするので?」
「ディムは合流後、先に街に戻っていてください。この近辺ならば私一匹でも十分に何とかなります」
「何を言って、スピルカ様!?」

 ディムハートの制止を振り切り、スピルカは再び沼地へと走って行った。残されたディムは少しの間葛藤しつつも、意を決したのかデンリュウの首に強い一撃を与え、デンリュウの意識を一瞬で刈り取った。
 ちょうど不審な動きをしていたカクレオンを追ってきたポチエナ達ともすぐに合流、彼らに後を任せディムもまた大急ぎでダンジョンへと走っていくのだった。


「全く、何度実験で失敗して部屋を爆破すれば気が済む? 毎度部屋を直す身にもなってみろパフューム」
「スイマセン……」
「あのさ、何であたしまで怒られてるの?」
「止めようとしなかったなら同罪にきまっとるだろう」
「横暴だぁ……」

 その頃アジト内リビングでは結構黒こげになっているパフュームと何故か怒られる羽目となったアイスがポトフの前でお座りの状態で座らされていた。口調はそのままであるがポトフはかなり怒っているらしく、こめかみがピクリピクリと不機嫌そうに動いている。
 当然と言えば当然であろう。パフュームの実験部屋を中心とし、二階部分の壁が大きく吹っ飛ばされてしまったのだ。これを直すとなるとかなりなポケを消費しない限り直す事は出来ないし、すぐに穴をふさぐ事も出来ないだろう。
 母親に怒られる子供二匹と言った絵面が完成している中、ふとアイスはここにいるべき筈の子供の姿が見えない事に多少の疑問を持った。

「あれ、そういやプリズムは? 一緒に買い物いったよね?」
「あぁそれが……カクレオン達に誘拐されてしまってな」

 物騒すぎる事柄をあまりに淡々と言いきったポトフ。流石に二匹共ポカン、とした表情の後で「えぇぇぇ!?」と叫ぶ事しかできなかった。
 無論本当に誘拐された訳でなく、プリズムを連れてくるようレアス=マナフィに命令されたから、だそうである。最後まで本人が嫌がった為、半ばむりやり連れ去られてしまう形になったそうだ。
 そんなにまでして何故プリズムが連れていかれたのか? 理由はやはりウィカの力についてだった。プリズムの体の中を調べれば、ひょっとしたら核心にせまる事が可能かもしれないというのがレアスの考えらしい。

「だけど中を調べるったって、どうするつもりなのさ」
「方法はいくつもあるものさリーダーさん。僕だってカクレオンだけしか部下がいないわけじゃないし――ズズッ」
「なんだよそ――ってのわぁ!?

 背後からの声に飛び上がるようにビックリしたアイス。何時の間に現れたのだろう、レアスは椅子に腰かけ自前の湯のみでお茶をすすっていた。これには流石にパフュームとポトフも驚いたのか何とも言えない表情をしている。
 レアスはおもむろに一枚の紙を取り出しテーブルにヒラリと乗せた。それはトタスの森の惨事を書いた号外であり、この時点で既に大陸中にこの紙がばら撒かれていた。全員がキッと鋭い顔になるのを確認した後、レアスは話を続ける。

「話を聞いた後すぐに近くのカクレオン達に命令して二人組の片割れの死体を回収して、半壊した群れのボスにも口外しないようにもした。ばれる前に諸々回収する事が出来たけど浮遊磁石達も馬鹿じゃないし、何時気付かれるかは正直分からないね。まぁいずれ出来るだけ買収するつもりだから心配しないで。君達の事も出来るだけ漏れないようにしたけど、果たしてどこまで守れたかは分からない。暫くは大きく動かない方がいいかもしれないから、それだけ伝えに来たのさ。まぁ、現在半分のメンバーがいない状態じゃ動くに動けないとは思うけど。今フローゼルの死体を解剖中だから、何か分かった事があったら伝えるよ。プリズム君の力に関しては、少し心を覗く形で今キルリア達が調べている。……無茶はさせないように言ってるからそこは安心して」
「随分と急だな。そこまでウィカの事を秘密にする理由はあるのか?」
「世界を変える可能性があるお宝と聞いて、愚か者が手を出さないとも限らない。……あれは普通、手を出しちゃいけない物なのさ」
「まるでウィカとは何か分かっているという口ぶりだなレアス? いい加減知っている事を全て吐いてもらってもいいと思うが?」

 今までにないポトフの猛烈な攻め。そんな中でもレアスは特に表情を曇らせることなく、むしろこの状況を楽しんでいるかの様に微笑みを返しつつ、全員からの視線を受け流していた。
 やがて思い出したかのように懐から何回も折り畳んだかのような紙を取り出し、勢いよく椅子から下りる。トコトコとアイスの元へと歩き、そのままその紙を彼女に差し出すのだった。
 キョトンとするアイスに、レアスは不敵な笑みを漏らすだけであった。早速受け取った紙を広げて書いてある内容を見てみると、とある地名とアベレージランクらしき星がいくつも輝いている。どうやら依頼が書かれているらしい。
 パフュームが近づき覗きこむようにするもなかなか見えないのかじれったそうにしている。無言でその様子を見守るポトフもまた心配そうにしているが、決して何かを言う事はなかった。アイスは中身をゆっくりと吟味し、そしてふと呟いた。

「えと……きわみ、こおり、うみ? きょくひょうかいって読むのかな?」
「――極氷海だと!? レアス貴様正気なのか!!」
「えぇっ!? そんな所に、しかもリーダーだけで行かせるなんて無茶ですよ!?」

 突如ポトフとパフュームは血相を変えレアスの胸を掴むような勢いで迫る。いきなりな展開に目を白黒とさせるアイスは半ば置いていかれてしまう。それ程までに危険な場所なのだろうか?
 レアスは淡々とした様子で、しかしどこか諦めた様な雰囲気を出しつつ肩をすくませるだけ。その仕草についにポトフが研ぎ澄まされた爪を喉もとへと近づける。何時バトルが始まってもおかしくはない緊迫した雰囲気の中、レアスが可笑しそうに――だが何故だか自虐的にも映る笑顔を見せた。

「僕だって、あんな危険な所に誰かを無理やり送ろうとは思わないさ。思いつきで死地へとブッ飛ばすなんて、絶対しない」
「……その言葉、偽りはないんだろうな?」
「話は最後まで聞いてほしいなぁ、なんてね」

 両者共まるで地獄から聞こえてくるような程の低音での会話。内容を聞く限りではとんでもない所へと行かされる羽目になりそうなアイスは背筋をゾクゾクと震わせつつ、怒りで震えるパフュームに近づく。
 肩をたたき出来るだけ小さな声で目的地への情報を聞いてみる。パフュームが青い顔をしたまま説明したのは、アイスの背筋を凍らせるには十分な内容であった。

 極氷海。それは今現在いる大陸よりも遥か北に海を渡っていくことでしか到達できないとも言われるいわば世界の果てとも言える海域*4にあるダンジョンだそうだ。海という名が入るものの実際は多くの巨大な氷の塊が一か所に固まる事で出来た氷原のような物らしく、厳しい海流が多くあると言われる北の海と呼ばれる海の近くにあるらしい。その危険度はアベレージランク星二桁という尋常じゃないほどの値を誇り、禁断のダンジョンの中でも抜きんでた危険度を誇っている。
 しかしそれはダンジョンの攻略や敵の強さ云々で付いた値ではなく、厄介なのはその気候。まるで深い濃霧のような猛吹雪が数百年ずっと吹き続けているらしく、吹雪に耐性がある氷属性のポケモンですら油断すれば凍りつき絶命してしまう危険もあると言う壮絶な場所、という話。大昔にその海には何があるのか多くの探検隊が挑もうとしたものの、多くが吹雪の中で絶命し、辛うじて生きて帰った者もあまりの厳しさにトラウマとなり探検隊を止めてしまった者も後を絶たなかったらしい。

 顔を引き攣らせつつあるアイスを知ってか知らずか、パフュームは最後に「少なくとも極氷海へ行けるのは氷ポケモン、氷の耐性が多少ある炎タイプだけです。仲間の援護はないと思った方がいいかも」と付け足すのだった。
 確かに、同じ氷タイプであるワッフルは現在瀕死状態の為出動不可。ブレイズに至っては現在西の方角のどこかで彷徨っているという状況。この地へ赴けるポケモンは今のところ、アイス一匹だけというのが現状である。
 厳しすぎる条件に知らず脂汗を浮かべるアイス。無論パフュームとて無駄に心配を背負わせたくないと思ってはいるが、いかんせん提供できる情報は不安を掻き立てるものしか持ち合わせていないのであった。

「いやぁ、勿論一匹だけで行かせるつもりじゃないよ? いくらなんでも僕そこまでドSじゃないから」
「寧ろMと聞いた事があるが」
「そうそう実は僕ムチで打たれる事に快感を――覚える訳ないでしょうが!!」

 ようやく解放されたレアスがノリツッコミをしつつ近づいてくる。後ろにいるポトフは依然納得がいかないといった表情をしているが、無茶ブリを投げかける程度には怒りは収まっているようだった。
 乾いた笑いを残しつつ、どういう事なのかとパフュームは説明を求める。咳払いを一つし、レアスは説明を始める。流石に一匹だけで行かせる事は出来ないと思ったらしく、レアスのほうで有能な探検家をスカウトし護衛を頼む事にしたそうだ。さらに従業員の一匹も付け出来るだけチーム力を万全にする事も心がけるとの事。
 勿論アイス自身にも諸々の準備をしてもらう必要があるそうだが、無茶は絶対にさせないと断言する。何時にも無く真剣な表情のレアスは、口調はいつものようなおどけた感じであったが、節々に宿る妙な圧迫感に知らず知らずにアイスは唾を飲み込んだ。
 彼女の瞳には明らかに迷いの感情が浮かんでいた。だが肺の中にある空気をすべて出し切り、大きく息を吸い込む動作を終えた後諦めたように一言。

「どーせ嫌だっていっても連れてくように仕込むんでしょ、あんたは。いいよ、やってやろうじゃないか」

 ニヤリという単語が似合う怪しい笑顔でレアスは頷く。パフュームとポトフもまた諦めたように肩を落とす動作をするのだった。


 ベトベトとする足元に若干キレそうになりつつも、ディムハートはようやく沼のダンジョンを攻略し先へと進んでいた。大陸の南へ南へと大急ぎで進んでいくが、いかんせん沼地に体力を持ってかれてしまい足元は若干――いやかなりおぼつかない様子であった。
 軽い息切れをおこしつつも若干妙な色をした霧に視界を奪われつつあったディムハートは、手持ちの地図を広げて先にあるダンジョンを何とか確認する。西側と言う事もあり何時危険なダンジョンに足を踏み入れてしまうか分からないという状況。主であるポッタイシの姿を未だ捉える事が出来ず、ディムは少なからず焦りの表情を見せていた。
 既に何度も波動感知の為に頭の房に力を込めて辺りを探っているが、何の反応もない。遅れて追った事によるタイムラグもあるが、スピルカ自身のポテンシャルの高さによる攻略の速さが最も大きな要因だろう。一番驚くのはその先を行く筈のカクレオンの波動すらも確認できない事であった。本人は弱いと言ってはいたが、やはり危険なダンジョンの中たった一匹で商売をする程の実力は馬鹿には出来ないという事なのだろうか。
 大きく息を弾ませつつも何とか辺りを捜索していくが、ふと辺りを見回した時にある事に気が付いた。周りの草花がやけにしおれている。いくら西側が危険地帯が多いとはいえ、それ以外の場所では普通に草花が咲いたり生えたりもまた多い筈。しかもディムハートの記憶が正しければ、今目の前にある草花は丈夫な事で有名だったはず。しおれているという事はすなわち何かしらの意味があるのではないのか……?
 直感的に鼻をひくつかせ、すぐに危険な匂いを感知した。以前誤って毒花の香りを嗅いだ事があった彼はすぐに気が付く。

「この匂い……まさか毒霧!?」

 「何故こんな場所に毒霧が発生しているのか?」という疑問よりも先にディムの顔にさらなる焦りが生まれる。格闘というタイプと共に鋼の体を持つルカリオ種にとって毒の攻撃は完全防御出来る為、彼自身にダメージは殆どない。しかし先にいる筈の主スピルカには確実にダメージが、いやむしろ命の危険すらあり得る状況だ。もし先にいる主にもしもの事があったら。気持ちの上では僅かな希望に縋りつきたいとは思ったが、この濃度の毒霧をまともに吸ってしまえばそれこそ命の危険があると思った方がどう考えても自然であった。
 声にならない叫びをあげてディムは地面を殴りつけた。怒りを込めた一撃は地面に大きな円を作るが、だからといって何かが変わるわけでもなかった。
 頭痛を堪えつつも波動による索敵範囲を出来るだけ大きく広げていく。ここまで霧が広がっている以上この近辺で生存できるのは毒タイプや鋼タイプだけの筈。もし生命反応に近い波動を感知すれば、それが探している主である可能性は非常に高い。そう直感したまでは良かったのだが。
 彼の体は大きくふらつき片膝をついてしまう。息が大きく乱れ、目もどこか焦点が合っていない。主を探す為に休みなく過度に氣を消費した事による貧血のような状態にディムは余計にいらつくように地面を殴りつける。だが弱々しいその一撃は、先程の威力を遥かに下回っていた。

「しま、った……波動を、つかい、すぎ、た―――」

 ゆっくりとディムの体は前へと倒れていく。やがて彼の意識は、完全に黒に染まってゆくのだった。


 アイスが極氷海へと旅立ち、既に三日が過ぎていた。アジトではパフュームとポトフがリビングにて表面上は普通に生活していた。何時ものようにレアスも椅子に座ってまったりとしており、その傍らには何故かぐったりとテーブルに突っ伏しているプリズムの姿も。
 レアスの部下であるキルリアのテレポートを断続的に使い、徐々に近づく事によって目的地を目指す。キルリアに相当の負担をかける方法ではあるが、時間をかけていけばなんとか出来なくもない方法によって極氷海を目指すとの事。カイリューバスを使えないという話(彼らは寒さに弱い為、誰も行きたがらないからである)の為、こうするほかないとの話。
 レアスの計算では既に到着をし調査を始めている頃だとの事。心配なのかパフュームはあっちへウロウロこっちへウロウロリビングを歩き回り落ち着かない様子。大きくため息を吐きつつ、椅子に腰かけお茶をすするポトフも心配そうに明後日の方向を見つめるのだった。

「大丈夫かなぁ、リーダー。いくらサポートが得意なキルリアさんや凄腕の探検家がいるとはいえ」
「こうなっては信じるほかあるまい。今はただ無事を祈るだけだ」

 小さく唸る事しかできないパフュームは、また落ち着かないようにウロウロと辺りを歩き始める。鬱陶しい事この上ないが、状況が状況だけにポトフは目を瞑る事にしたそうな。
 一方レアスも自前の湯のみでお茶をすすっている、こちらも普段のようなへらへらとした感じはない。彼もまたアイスの事を(ごく僅かとはいえ)心配しているという事だろうか? 残念ながらその真意は分かるはずもないのだが。
 一方未だ突っ伏した状態のプリズムがようやくゆっくりと顔をあげると、そのまま這い上がるようにテーブルの上へと上がり、キャタピーのように体を曲げたり伸ばしたりしながらゆったりとポトフに近づいてくる。どうしたのかとポトフが尋ねると、次第に涙を流し始めついにはポトフの胸に飛び込みわんわんと泣きだしてしまうのだった。一体どのような仕打ちを受けてこうなってしまったのかとポトフは隣にいる蒼い奴を軽く睨みつける。レアスはお茶を少し飲んで我関せずといった様子だった。

「先に言っとくけど、僕は何もやってないよ。ただ部下達がちょーっとやりすぎちゃったらしくてね」
「部下の失敗は社長である貴様の責任だろうが」

 それを言われると何も言い返せないなぁ~、とレアスは苦笑する。三日間かけキルリア達によるプリズムの“中”を探る作業が行われてそうだが、結局何も発見する事は出来なかったらしい。らしいと濁らせたのはキルリア達の能力では他人の内部、ここでは精神面と言う意味だが、そこにあまり入りこんでいくのは難しいらしい。
 そもそも他人の“心”へとダイブする事はとても繊細な作業らしく、どんなに優秀なエスパータイプでも少しでも気を抜けば非常に危険な状態になる――らしい。最悪対象の精神が完全に崩壊してしまうという事態だって起こりうるという危険な作業を三日間も受けていれば、まだ子供であるプリズムにトラウマを植え付けてしまった事は当然の結果かもしれない。

 未だにわんわんと泣き続けるプリズムをなだめつつもポトフが言葉を発しようとした瞬間、突如ドアがバタンと大きく音を立て、二匹のポケモンが雪崩れるようにして倒れ、入ってきた。
 まるで凍りついているかのような二匹の恰好に、一同は騒然とする。一匹はレアスの部下であろうキルリア、もう一匹は尻尾が伸縮自在の袋のようになる鳥ポケモン、デリバード。どちらも体中が凍りついており、早く温めないと死んでしまうのではと思うような状態であった。
 レアスが湯呑をかなぐり捨て二匹の元へと急ぐ。デリバードは凍りつく体の痛みを堪えて何とか顔をあげ、レアスの姿を確認した。

「バライド! どうしてここに……それよりももう一匹は!?」
「すまない……調査中にはぐれてしまい……最後に見た時、誰かにさらわれ、た――」

 その言葉を最後に、バライドと呼ばれたデリバードは気絶してしまった。レアスの顔面が一気に青ざめていく。後ろに控える三匹もまた絶句する。
 行方不明。最悪とも呼べる事態に誰もが言葉を失うのだった。


ポトフ「まさかの急展開だな」
パフューム「リーダー、大丈夫ですよね……?」
プリズム「ルカリオの兄ちゃんもかなりやばそうだし……どうなるのかな?」
レアス「まぁ次回に持ち越しって事だろうね」


*1 ダンジョンの危険度を簡素に表したもの。この場合Aランク程の危険度を誇る犯罪者と対等に渡り合える実力がないと危険であると言う意味
*2 ポケダンにおける食料の一つ。これ一つで大抵のポケモンはお腹いっぱいになるほどのボリューム
*3 網膜の異常によって、近くにある物が見えにくくなる現象。遠くにある物は普通に見える
*4 つまり北極周辺という意味

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Last-modified: 2011-08-05 (金) 00:00:00
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