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Hybrid ~八つの石板~ 1

/Hybrid ~八つの石板~ 1

 この小説には、若干のグロイ表現があります。でもそんなにグロくないかも……?
 一応、警告はしときますよ? by簾桜


 風が強く吹きつける大地。辺りには何もない荒れ地のような渓谷。目をこすりよく見ても底が見えない、そんな深い谷の淵に座る姿が一つ。
 小さい足をプラプラとさせ、まるで待ちくたびれた子供のように……いや、その容姿は酷く子供のそれに近かった。まるで全身水でできているかのような蒼い体にとても長い二本の触覚。日差しよけに付けているであろうマントは薄汚れているが、それでも煌めきは失われていないように輝いていた。
 蒼海の王子とも呼ばれる伝説のポケモンの一匹で、その絶対的なカリスマ性は他の追随を許さないとも呼ばれるポケモン、マナフィと呼ばれるそれは空をジッと眺め、誰かを待っているかのようだった。

 やがて目的の人物を見つけたのか、その可愛らしい眼をキッと強く光らせた。強い上昇気流に悪戦苦闘しながらもやってきたのは、こちらもまたその存在が伝説とも呼ばれるポケモンであった。
 平均よりも若干小さめながらも白い体に緑の髪、赤い首飾りのようなモノ。そして特徴的な羽のような耳……花の妖精とも呼ばれ、感謝の力に反応すると言われるポケモン、シェイミ。……の、スカイフォルムと呼ばれる姿だった。
 シェイミはあたふたしつつも何とかマナフィの近くに着地、マナフィの元へと歩み寄る。ようやく来たかと言う感じで大きな欠伸を一つするマナフィは、見ていて余計に子供のような感覚におちいってしまう。

「全く、もう少しまともな所に呼びだしてくださいよ。来るこっちの身にもなってほしいです」
「ふふ、まぁいいじゃないか……どうせ何時ものように仕事がなくて困ってるんでしょ?」
「残念ながら最近は仕事が多いので暇ではありません。あちこちで災害が起きまくってるから家なんかの修理依頼がドンドン来るので最近は黒字続きで本当に災害さまさまなんです」

 愚痴を零すシェイミであったが、その顔は油断しないように細心の注意を払っている。このポケモン……マナフィに少しでも弱みを握られれば、どんなふうに利用されるか分かったものではないから。
 マナフィもまた、まるで笑顔を顔にひっつけたような違和感の残る笑顔でニッコリと微笑むだけ。しかしその眼はどんな些細な事も見流さないよう細心の注意を図っている、といった感じである。
 互いが互いに牽制しあい、辺りがピリピリとした空気になる。が、それも一瞬で終わりすぐに牽制を解いたマナフィはマントの中から一枚の紙を取り出した。

「今回はこの辺りに行ってほしいんだよね、パフューム君? この近辺で集中的に自然災害が起こっているらしいんだ」
「やっぱり“例のアレ”関係か……見つからなかったとしてもちゃんとお金は払ってくださいよ?」
「もっちろん、これは正式な“調査”依頼だからね。……でも“アレ”があるのなら、どんな手段を用いても……手に入れてね?」

 ニヤリ、そんな単語がよく似合う邪悪な笑み。この世の闇を全て見て来たようなその笑みに、パフュームの背筋は凍えざる負えなかった。
 ゆっくりと自身の体を浮かせ、パフュームはそのまま宙へと飛び立つ。まるでここからすぐにでも逃げようとするように。
 マナフィはそれを作り笑顔で見送った。何を考えているのか分からないその笑顔は、ひょっとしたらどんなヤンキー達の睨みよりも怖いかもしれない。
 パフュームが遠くへと離れて行ったあと、マナフィの顔が一瞬……ほんの一瞬だけ悲しそうな顔へと変わった。小さく何かを呟くも、その言葉はとても儚くよく聞き取ることはできない。
 辛うじて聞こえて来たのは、何かの単語らしきものだけであった。

「『知恵の石板(ウィカ)』――」




 大陸の中央部にある平原の木々がまばらに生えるとある林の中に、一軒のログハウスが建っていた。木々の間に張ったハンモックにてすやすやと眠るポケモン……真っ黒な体、赤いマフラーのようなもの。白い髪が片目を隠しているが、その顔は同種族と比べてもとても幼く、可愛らしい印象を与えるそのポケモンの名は、ダークライ。
 本来は闇の中に生き、彼らの近くで寝るもの全てに悪夢を見せるという結構怖い種族……なのであるが、現在ここに居るそれはそんな事など微塵もしそうにないほどに幼い印象を与える。まだ年若いのだろうか?
 と、そこへ谷から帰ってきたシェイミがよれよれと帰ってきた。手に先程の依頼書をしっかり持っている辺りは流石であるが、どうも体力面が少し不足しているようである。

「ふえぇぇぇ、やっと帰ってこれたぁぁ……もう、あのマナフィもうちょっとこっちの事も考えろよなぁ、ったくおぼっちゃまめぇ」

 大きく息を整えつつ先程会ったマナフィに対しグチグチ文句を言っている。どうやら先程は敬語を使っていただけでこちらが素の性格のようだ。
 大きく伸びをし、欠伸をしつつダークライも起きたようだ。眠気眼をくしくしと擦りつつもパフュームに近づく。

「お帰りー、レアスさんなんて言ってたの?」
「例の“アレ”関連の依頼もらった。他の皆は?」
「リーダーとポトフさんは準備の為に町に行くって。ついでにブレイズさんを連れ戻すとか言ってたよ。ワッフルさんは……多分気付いた時には帰ってきてると思うよ?」
「ブレイズの奴、ひょっとしてまた?」
「うん、リーダー怖い顔して風穴あけるとか何とか……」
「ブレイズも懲りないなー、今度こそ殺されるんじゃない?」

 随分と物騒な話をする二匹。その顔は、呆れて文句も出ないと言うような感じである。



 一方こちらはログハウスよりも数キロ離れた街、ナナイロタウン。街の中心にある大きなホウオウ教の教会が町のシンボルとなっている。教会の周りにはカクレオン達の商店や宿屋などがあるという町としてはとても分かりやすい形状をしている。
 そんな場所で、白い毛皮に九本の長い尻尾が美しい一匹のキュウコンがうんうん唸りつつ食い入るように見ていた。……雌性(じょせい)が歩く姿を。

「ん~、あそこのキルリアちゃんも可愛いし……あ、でもでもあそこで待ってるミロカロス様もキレーだなぁ……やっぱナンパするならあれぐらいグラマラスボディーじゃないとなぁ……ウッシッシ」

 どうやらこのキュウコン、ナンパをして今日一日とっても楽しく過ごそうとしているらしい。まぁ若気の至りとはいえ、そう言う事をするのはどうかと思われる。
 そんなキュウコンの背後を取るかのように一匹のポケモンが音もなく接近した。青色をしたポケモンは無表情であったが、かなり……イライラとしてる雰囲気を醸し出している。

「随分と楽しそうですね」
「ん? いやぁ口うるさい奴からやっと解放されたんでねぇ、やっと伸び伸びと……」

 振り返ったキュウコンの顔はみるみると青ざめていく。それはもうみごとなコントラストとでも呼べるようにはっきりと。
 そこに居たのは、蒼い体に長い髪のようなもの、額にある氷の結晶がそのタイプと一致しているであろうポケモン、グレイシアが血管をぶち切れせつつその可愛らしい顔を怒りで歪ませて座っていた。
 辺りの空気が凍りつきどんどんと白く輝いていく。これから自分の身に起こるであろう事柄にキュウコンはジリジリと逃げようとするも、グレイシアもまた一歩一歩近づいてくる。逃げ切るのは恐らく不可能であろう。

「てめぇ……あたしがいない事を良い事にまぁたナンパしようとしやがったなぁ!?」
「ちょ、アイスちゃん、ここ町中だしここで技出すのはどうかと……」
「かんけぇないわぁ!! 凍え死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「みゃーーーーーーーーーーっ!!?」

 グレイシアから発せられた吹雪が、キュウコンを中心にピンポイントで渦巻いていく。暴風と冷気が空へと駆け上がり、あっという間にキュウコンを中心とした五メートル程の氷柱が完成した。何と言うか、自業自得である。
 ギャラリーが集まってくる中、荒い息を整えるグレイシアに駆け寄るポケモンが一匹。可愛らしい顔とは裏腹に、包帯でぐるぐると封をした巨大な顎が特徴的な、クチートと呼ばれるポケモンだ。右手には分厚い本を持っているが、これは……聖書であろうか?

「アイスさん、またあなたですか!? もういい加減にしてくださいよ」
「あ、ご、御免スフレちゃん……この馬鹿がまた鼻の下伸ばしてたからさぁ」

 ふぅっとため息をはくクチートもといスフレちゃん。どうやら彼女はこの町の教会に仕えるシスターのようである。
 ここで、この町の歴史と教会の成り立ち、その他諸々を紹介しよう。文字数アップの説明の為、読み飛ばしてもらっても構いません。

 まずこの町の教会が出来たのは、今から数十年前の話。当時この近辺は小さな農村しかなかったが、この地域にもとある宗教を広めようと年端もいかない少女が奮闘し、そしてようやく出来たのがこの立派な教会であった。
 何時しかこの教会の周りを囲むように町が出来始め、何時しか旅人や探検隊の人たちの貴重な補給地、ナナイロタウンとして発展していった。
 このとある宗教とは、かつて世界中の大空を虹で満たし、世界の安息を願っていたと言う虹の翼、ホウオウを神として祭るホウオウ教である。この近辺にすむ多くのポケモン達はこのホウオウ教を信じており、スフレもまたその一匹という訳だ。もっともシスターをするまで信仰するポケモンもかなり珍しいが。
 まぁ宗教と言うだけあって色々戒律なんかもあるそうですが……詳しくはまた別の機会に。

「ところで、どうするんですかこれ? ブレイズさん完全に凍ってますけど……」
「あぁ、それは……あぁ来た来た」

 上空を見上げ、何かを見つけた様子のアイス。釣られて見上げるスフレが見たものは、一匹のポケモンの姿。黒い毛にとても長い紅い鬣。長い爪もとても恐ろしく見えるゾロアーク。まだ詳しい生態も解明されていない、希少種である。
 高所から大ジャンプしてきたようで、ズダンッと大きな着地音を立てて二匹の目の前に降り立った。しっかりと引き締められた筋肉は見る者を魅了する美しさを秘めているような、そんな錯覚を起こしそうである。

「また綺麗に凍らされてるね……リーダーももう少し手加減してやりなよ」
「これでも十分やってるっての。悪いけどポトフ、あいつを切り出してやって」
「――了解」

 なかば呆れたようにため息をついた後、ポトフと呼ばれたゾロアークはダンッと力強く氷柱めがけてジャンプ、体内の悪エネルギーを別属性へと変換し、鋭い爪に集約する。
 瞬間、閃光が光ると同時に何かを切り裂く音が響く。再び着地した瞬間氷柱のあちこちがピキピキと亀裂が走っていく。やがてビシィっと大きな音がした瞬間、氷柱は大きく弾け飛んだ。
 キラキラと辺りにはじきとんだ氷のかけらが輝くなか、上手に切り出された氷状態のブレイズが落ちてくる。三度ジャンプしたポトフはそれを上手に背中でキャッチすると、衝撃を与えないよう静かに着地した。氷の演出もあいまって惚れ惚れするような光景である。

「流石ですポトフさん! ほんと雌性とは思えないです!」
「それ、褒め言葉になってないんだけど」
「まぁどっちでもいいだろ? じゃあスフレちゃん、今日はこれで失礼するね」
「あ、はいアイスさん、皆さんにホウオウ様の虹の祝福がありますよう願っています」

 両手を組んで祈るスフレに笑顔を返しつつ、アイスとポトフはその場を後にした。ブレイズは……依然凍ったままであるが、まぁ深くは追求しないと言う事で。



 再び舞台はログハウス前。数十分かけようやく帰ってきたアイスとポトフ(と依然凍ったままのブレイズ)は、パフュームとダークライと合流し、レアスからもらった依頼書を確認している所であった
 ちなみにブレイズは辛うじて頭の部分の氷が溶けている為、なんとか会話は出来るという状況である。尻尾の先まで凍ってるため下唇が紫色という状況であるが、まぁ自業自得ということで。

「えーっと、駄目なおっさんはほっといて、早速事件の概要を説明します。大丈夫ですか?」
「いやおっさんはひでぇだろパフューム君俺まだ二十五だし! それにまだワッフルちゃんがいねぇじゃん!」

 首から下は氷漬けの状況でパフュームに突っ込むブレイズ。情けない恰好この上ないが、確かにあと一匹、この場に居ない。
 するとブレイズの背後からするりと近づく一つの影が。長いかぎ爪、黒い体、その小さな体に似合わぬふくよかな胸がとても特徴的な、種族名マニューラであった。

「あら、私はここにいるけど?」

 二コリと微笑んだ後、身動きが出来ないブレイズの耳元へと口をよせ、そっと息を吹く。耳元を襲うぞわぞわとした感覚にブレイズは全身を震わせた。もっとも首から下は固まってるため動く事も出来ないが。

「うひゃぁふぅ!? なにすんのよワッフルちゃん!」
「何時もの事ながらみじめね、早速説明してパフューム」
「無視すなーーー!!」

 ぎゃあぎゃあ騒ぐブレイズはほっといて、早速パフュームは事件の概要を話し始めた。

「えと、現場はここから数日はかかる雷鳴ヶ原(らいめいがはら)。数年前に不思議のダンジョン化を確認されている場所で、主に電気タイプのポケモン達が暮らしているそうです。普段は雷雲と落雷が多発する危険地帯で、よほどの実力者と認められない限り入ることすら認められない禁断のダンジョンの一つです。
数日前から地下深い場所で、尋常じゃない威力の雷が多発しているそうです。しかも、上から下にならともかく下から上、上空へと雷が発生しているようです。
何故こんな事が起こっているかレアス=マナフィ自身も裏付け調査をしてみたらしいけど、全部失敗に終わっています。どうもこの地が禁断となった理由が、異常な程の実力をもったポケモン達が生息しており、調査を行った探検隊は全滅しているから、だそうです。
それと、依頼者レアス=マナフィはこの地に“例のアレ”が関係するかもしれないと言っていました。以上の事から、僕はこの調査には少数精鋭で挑み、短期決戦を挑んだ方がよいと思われます。何か質問はあるでしょうか?」

 ゆっくりと、明確に話したパフュームは四匹(+氷漬け一匹)に質問する。まだ年端もいかない少年ながら、その瞳には深い知性が宿っていた。彼は伝説のポケモンと言う事を差し引いても高すぎるIQをもっている、天才児であった。
 おずおずと手をあげるダークライを指さし、パフュームは質問を促した。

「えと、何で“例のアレ”が関係するとレアスさんは思ったのですか?」
「さっき一般のポケモンが滅茶苦茶強いって言ったけど、その強さはそれこそ伝説のポケモンにも引けを取らないと言うほどの電力を秘めた奴らばっかりだって、依頼書には書いてる。多分“例のアレ”の影響がヤセイの奴らに色濃くでているから、って考えているらしいよ? 詳しい事は僕にも分からないんだファントム」

 コクリと会釈をし、そのまま手を下げたダークライ、もといファントム。ワッフルとポトフも静かに話を聞き、ブレイズは必死になって氷を溶かしていた。
 そんな中リーダーであるアイスは、ゆっくりと語りだした。その顔は先程ブレイズを凍りつけにしたような凶暴な顔でなく、全員を引っ張っていく、リーダーの顔となっていた。

「じゃああたしとポトフがそこに行く。パフュームの言うとおりゾロゾロ言っても機動力が悪そうだ。悪いけどパフュームも付き合ってくれ。万が一麻痺になっても、アロマセラピーで治せるだろうし」
「え、僕も!? それは、その、別に……いいけど」

 思わぬ指名にビクッと反応するパフューム。何故か顔を赤らめ、挙動不審と言う風に落ち着きがない。

「どうしたんだ顔を赤らめて? 風邪?」
「ち、違う! すぐに準備します!!」

 逃げるようにログハウスへと走るパフューム。どういう事かと疑問符を浮かべるアイス。その後ろでひそひそと会話をする残り四匹。

ワッ(アイスったら、もーすこしそういうことが分かるようになればいいのにねぇ)
ブレ(まぁそれがアイスちゃんの良いとこなんだけど……なぁ)
ポト(パフュームも哀れだな。あんな男まさりに惚れるとは……)
ファ(まぁでも、僕は分かります。あの時とってもカッコよかったというか救われたというか)

 こそこそと話す四匹に気がついたアイスがそちらを見るも、すぐに三匹はちりぢりになり凍っているブレイズを残す形に。
 思わず苦し紛れの薄ら笑いを浮かべるブレイズ。かなりいやーな顔をするアイスであったが、それ以上は何とも思わなかったのか、そのまま視線を元に戻すのだった。
 数分後にようやく準備が出来たのか、バックを首に下げてパフュームが飛び出してきた。すでに準備を済ませてあるアイス、ポトフも一緒に、雷鳴ヶ原へと旅立っていった。



 途中ポトフの幻影の力を使い、たった一日で現場へと到着した。入口から既にゴロゴロと雷雲が手ぐすね引いており、いつ雷が落ちてきてもおかしくはなかった。
 アイス、パフューム、自身の力でカイリューに化けていたポトフはそれぞれ首に共通の蒼いスカーフを巻く。このスカーフが敵味方を判別する唯一の手段であり、自分達が正常であると他の探検隊に知らせる目印になるのだ。
 力を解除し元の姿に戻ったポトフを確認し、アイスはすぅっと大きく息を吸う。

「よーし、じゃあ便利屋ハイブリッド、任務開始(ミッションスタート)!!

 アイスのその一言と共に、三匹は雷鳴ヶ原へと突撃していった。



 さてここで色々な説明を挟ませてもらおう。今後の参考にしてもらえると嬉しいです。
 まず不思議のダンジョンとは、各地に発生した未知の世界、と最初に言っておこう。この世界の時間と空間がごっちゃ混ぜになり形成された、その名の通り何が起こっても不思議ではない異次元の世界である。
 長時間ここに滞在すれば理性を失い、ただ攻撃する事しか出来なくなると言う中毒性。無数に存在すると言う数々のトラップ。下手に行動すればすぐに迷ってしまうという迷路のような大地。しかも入る度にその姿を変え続けると言うおまけ付きである。
 ただ、悪い事ばかりでもないのもまた事実。冒険に役立つ様々な道具や食糧などもここでは生み出され続けている為、一種のお宝の宝庫も呼べるのだ。また本当に危険なダンジョンでは、それこそ数百数千の価値となるお宝だって存在する。
 故に、こういったお宝を求めるトレジャーハンターや、未知の場所を調べる者、探検隊という職業も存在する。彼らは不思議のダンジョンを日夜探検し、新たな道を開拓していくのである。
 では便利屋とは? これはその名の通り、金さえもらえればどんな汚い仕事も引き受ける集団、所謂何でも屋、といった所である。
 これは種類がピンキリの為詳しく語る事はできないが……一つだけ言えるのは、チームハイブリッドはそういった裏の仕事を引き受ける事はない、と言う事である。
 便利屋も色々いて、大金の為に殺しや誘拐しかしない闇ギルド、通称「ディオブルム」もいれば、金持ちや民衆に頼まれた依頼をこなす事により生計を立てるチーム、通称「フィアリオン」もいる。大きく分けてこの二種類に分けられる便利屋であるが、チームハイブリッドは後者、つまりフィアリオン側という訳なのだ。


 そうこうするうちに三匹は随分と深い階層までおりてきたようだ。現在二十五階、ここまで突貫する形で攻略してきた三匹であるが、流石に疲れが見え始めていた。前を阻むのはエレブーが二体。電気タイプとしてはかなり強い部類に入るポケモンだ。

「氷のぉぉぉ、つぶてぇぇぇぇぇ!!!」

 アイスの怒声と共に放たれる拳ほどの大きさの氷が右側のエレブーの顔面に直撃する。速射性に優れたこの技は遠くの敵にも当たる為アイスの十八番である技だが、すでに何度も放ったため、もう弾切れ寸前という危険な状況であった。
 そのすきを狙ってたかのように突撃するもう一匹のエレブーであったが、その手が届く前に撃墜される羽目になった。

「燕返し!!」
「マジカルリーフ!!」

 下から上へと切り上げられる爪の一撃と、七色に光る葉っぱの刃が同時に襲いかかる。片方ずつでは一撃で仕留められない威力であるが、流石に同時に食らわされては溜まったものではない。
 胸にクロスする形でまともに食らったエレブーは、そのまま血をドクドクと流して倒れてしまった。重症であるが、回復能力が高いポケモンならば放置しておいても大丈夫であろう。幸い傷は浅いようなので、すぐに回復出来る筈だ。

「ったく、とんでもないダンジョンだな。ここまで強いとマジでやってらんねぇ……まぁ防御力が低いからなんとかなってるけどさ。大丈夫みんな?」

 先程手に入れたオレンの実を齧りつつ振り返るアイス。ポトフは多少荒い息であったが、まだ大丈夫だと微笑んだ。……問題はその後ろにいるパフュームであった。

「はぁ……はぁ、だい、じょぶ……はぁ、はぁ……」

 普段は基地に残り指示を出したり作戦を考えるパフュームは、体力的な問題であまり依頼を担当する事はない。元々ない体力な上に光合成などによる回復も難しい天候の為、回復手段が乏しかった。傷などはオレンの実でも大丈夫であるが、体力を回復するには長期の休憩が不可欠である。
 それも強力なポケモンがひしめくこのダンジョンではなかなか難しく、現在パフュームはかなり辛い状況に陥っているのだった。

「くそ、やっぱパフュームにはこのダンジョンはきつかったか……大丈夫か?」
「だ、大丈夫……です……」
「いーからじっとしてろ。お前には氷タイプは辛いだろうけど、まだまだ何があるかわかんないんだ……よっと」
「ちょ!?!? り、リーダー!」

 驚くパフュームをしり目に、アイスは彼ををおぶってあげる。草、飛行タイプの彼には氷属性の技は確実に死亡フラグな攻撃となる。氷の力を持つアイスに近づくだけでも体が震えるが、火照った体にはとても気持ちが良いのもまた事実。
 別の意味で体や顔が火照るパフュームであったが、アイスは気が付いていないようだ。

(よかったな、パフューム?)
(後でぶった切る……)

 クスクスと笑いつつ小声で尋ねるポトフに、彼は出来る限りの怨念を込め睨むのだった。



 やっと見つけた階段を降りた後、一行はなにやら広い部屋へと出てしまった。どうやらここが最深部のようである。だが妙に地面がでこぼことしてるのはどういうことだろうか?
 不審に思うも結局何も見つからなかった事に舌打ちをするアイス。やっと体力が戻ったのか、パフュームはふわりと体を浮かしてアイスに礼を言う。だがまだ疲れが取れていないのか、少々げっそりとした印象を受ける。

「むりすんなよ、駄目だったら後ろに下がってろ」
「だ、大丈夫。それよりも気を付けて、何がいるか分からないから」

 雷鳴ヶ原のような禁断のダンジョンには、その存在故に人目に付きたくないポケモンが住む事が多々ある。例えば凶悪な犯罪者、例えば伝説と謳われるようなポケモン。どちらにせよ、注意を怠れば一瞬で全滅もあり得る。
 ふと、ポトフが何かを見つけたらしく、アイスの肩をたたく。指さす先にあったのは……誰かがうずくまってる姿だった。黄色の小さな体にその体の半分はあるかもしれない大きな耳。小さなギザギザ尻尾。ピカチュウの進化前、ピチューであった。
 こんな危険なダンジョンの最深部に、このような小さな子供がいる事自体不可思議な事であった。何かの罠とも考えられるが、その割にとても苦しそうにしている。それに周りには何かが隠れている気配もない。

「何故ここに子供がいるのかは分からないが、とにかく介抱しよう」

 そう言って、ポトフはゆっくりと近づく。パフュームもアロマセラピーの用意をし、もしものときに備えている。
 だがアイスだけは、何か引っかかるものを感じていた。直観に似た感覚であるが、何故か無視できない。何かが引っ掛かっていた。

――数日前から地下深い場所で、尋常じゃない威力の雷が多発しているそうです。しかも、上から下にならともかく下から上、上空へと雷が発生しているようです――

――レアス=マナフィはこの地に“例のアレ”が関係するかもしれないと言っていました――

 そう、出発前にパフュームが言っていた事。下から上にと言う事は、誰かが強力な電気エネルギーを上空に放っているからという見方も出来る。
 そして、“例のアレ”が関係するというレアス=マナフィからの助言。これまで戦ってきた電気タイプのポケモン達は、確かに電気の技に対しては神並みの攻撃力ではあったが、他は普通の威力であった。
 それに“例のアレ”の中には確か、雷を司るものもあったはず……!

 そこまで考えた後、彼女は一つの結論に達する。勘違いかもしれない。だがもしそうなら、このままでは……!

「すぐに離れるんだポトフゥ!!」

 瞬間、アイスは氷の礫を全力で放っていた。標的は、目の前でうずくまるまだ幼いピチュー。
 あまりの当然の行動に驚く声をあげられないパフューム。後ろからの狙撃に避けるのが精いっぱいだったポトフ。
 礫は速度をあげてピチューへと走っていく。当たる……!! 誰もがそう思った瞬間、信じられない事が起こった。

 ――シュバァ!

 溶けた、のである。氷の礫はピチューに当たる寸前、一気に気化して無くなってしまった。
 一瞬で危険を察知したポトフは大きく後ろにジャンプした。アイスの隣に着地したポトフの顔には、冷や汗が一つ、たらりと流れていた。その顔は顔面蒼白という単語がよく似合う、現在の状況が全く分からないと言った感じであった。
 それは隣にいたパフュームとアイスも同じでった。現在の状況が理解できず、一瞬呆けてしまった。

「どういうことだ……一体何が起こったのだアイス!?」
「あたしだって分からない! パフューム、分析!!」
「は、はい!」

 キッと睨み、彼は脳内のコンピュータを総動員して先程の現象を分析する。ピチューの周りあたりからバチバチという電気の漏れる音が響く中十秒、二十秒、三十秒と経ち、彼のコンピュータは一つの結論に達する。

「まさか、特性……?」
「どういうこと!?」
「ピチューの特性は静電気。本来は触れ合った相手を麻痺させる程の微弱なものだけど、もし仮に自分では押さえられない電力を帯電させてしまった時、少しでも消費しようと体は普段出す静電気の量を増やすとする。それが尋常じゃない値だった場合……」
「周りに電気のバリアを無意識に発生してしまうほどに静電気の量が増大すると? そんな事が本当に起こりえるのか……?」
「それ以外さっき起こった事を説明出来ないんだから、信じるしかないでしょうが!」

 喝を入れるアイスであるが、内心震えが止まらなかった。全員が足をガタガタと震わし、ズンと重りを乗せられたように動く事が出来ない。早く何とかしなければ、全滅だってあり得る。
 ふと、ピチューがこちらに気がついたのか顔をあげる。その顔はもう何日も眠っていないかのように酷く痩せ、目の下には大きな隈が出来ていた。一体この状況を何日過ごしていたのか……見るに堪えない。
 口をパクパクとさせ、何かを語りかける。既に声を枯らしてしまったのか殆ど音にすらなっていないが、口の動きで辛うじて何を言っているのかを理解できた。

(に……げ……て……)

 瞬間、ピチューが攻撃……いや、“暴走”して生み出された雷すらも凌駕する雷撃が地面を削りながら三匹へと襲いかかる。まともに直撃すればよくて全身黒こげ、最悪その形すら残らないほどの威力。
 辛うじて反応し左右に避ける。後ろの壁に激突し爆音を響かせる雷撃。振り向くと、壁は深々とえぐられていた。

「た、退却だ! いくらなんでも異常過ぎる! すぐに逃げねば命がいくつあっても足りないぞ!?」
「だからと言ってあのピチューを放っておくんですか!?」
「あんな雷撃まともに食らえば毛すら残らんぞパフューム! アイス、すぐに逃げるぞ、急げ!」

 血相を変え逃げようとするポトフを、アイスはかぶりを振って留めた。ピチューは未だ苦しみながらバチバチと帯電し、いつまた暴発するか分からない状況だった。

「確かに危険だけど、このままあの嵐をここに置いとくのも危険だよ。それに、あんなガキンチョを残すのだって気が引けるしさ」
「だがどうする気だ、まともに近づく事すらできないんだぞ!?」
「つまりあいつが苦しんでいるのは、規格外すぎる電力が帯電してるから。だったら電気を出して出して出し続ければ何とかなる、じゃない?」

 二カッと笑うアイス。つい口ごもるポトフは、助けを求めるようにパフュームへと視線を移す。

「確かに有効だけど、それだけじゃ駄目です。既にピチューの体力は底を尽きかけているから、何とか回復させないと……僕がアロマセラピーで出来るだけ負担を軽減させますので、二匹は可能な限りピチューに攻撃させて電力を消費させる、ではどうでしょう?」
「おーし乗ったぁ! ポトフ、そう言う事だから」

 そう言いきったアイスに、ポトフはがっくりと肩を落とす。大きくため息をつき、二匹を説得する事が無駄だと思い知る。
 同時にバチバチとピチューに帯電されていた電気が一気に放出された。今度は集束されたものでなく全体的に帯状に発動された電撃波のようなもので、威力もさることながらかわす事もかなり難しそうだ。
 ちっと舌打ちをするアイスとどうしようかと体が固まるパフューム。するとポトフが突如前へと出て、黒い大きな玉を両手に作りだした。そのまま叩きつけるようにして力を開放すると同時に、黒い衝撃波が爆音と共に辺り一帯に広がっていく。
 電撃と衝撃波の威力はほぼ互角。ぶつかると同時に大爆発を起こし互いの技はそのまま相殺される形で消滅した。
 黒い衝撃波の技名は、ナイトバースト。ポトフの最強の技であると同時に、複数のポケモンを一瞬で吹っ飛ばせる悪タイプの中でも上位に位置する技だ。
 ふぅっと荒い息を整えるポトフ。大技だけあってそんなに数は打てない為、何度もこの技に頼る事は出来ない。だが少しだけ希望が見えたのは事実だった。

「全く、割にあわない仕事はしたくないが……こうなったらとことん付きあおう」
「さっすがポトフ、話が分かるね」
「もう時間は殆どないです。僕は集中するので動けないから、出来るだけ二匹で僕を守ってくれると嬉しいです」

 コクっと頷くアイスとポトフ。バチバチと帯電するピチューは、もう意識を保っていないらしくまるで人形のようであった。
 パフュームが草のエネルギーを練り始めたと同時に、二匹は左右に散る。完全に暴走した電撃波はバチバチと辺りの壁や地面を削りまくる。途中何度もアイスやポトフに襲いかかるも、二匹は冷凍ビームやナイトバーストで辛うじて相殺していく。
 何度も電撃が掠るパフュームだったが、それを気にせずに草のエネルギーを癒しの力に変える。やがて花の香りと共に、癒しの波動アロマセラピーを部屋全体に開放する。
 既に疲労困憊だったアイスとポトフにもそのエネルギーは伝わり、若干ではあるが二匹の顔に英気が戻っていく。そして肝心のピチューにもそれは伝わったらしく、ゆっくりとだが顔をあげた。暴走により意識がなかったピチューの意識が戻ったのだ。
 それを確認し、ニコッと笑ったパフュームはさらに力の開放を続ける。ぐんと強くなる香りが効果の増加を感じさせるが、はたしてピチューに見えているかどうか。
 電撃の帯数本がパフュームに襲いかかろうとするも、直前にアイスが吹雪で受け切り、何とか相殺する。大技を何度も使用したせいで大分息があがっているが、それでもアロマセラピーの癒しの波動のお陰でまだマシな方であった。

「ち、流石に限界かな……本当に大丈夫なのパフューム?」
「辛うじて、ですけど。僕のエネルギーもまだありますので、せめてなくなるまでやらせてください!」

 そういうパフュームの口元には、赤い液体がつぅ、と流れ出ていた。既に体力が底を尽きかけた上でのこの酷使、並大抵の消費ではないはずなのは目に見えて明らかだ。
 アイスはグッと唇をかみしめて堪える。出来の悪い弟のような奴が体を壊しながらもやってる事を邪魔する事は出来ないから。
 だがどんな戦いも必ず終焉する。いよいよピチューの帯電も最高潮になってきたらしく、その電力は周りの地面すらもバチバチと削り取っていく事からも明らかだった。次の一撃で、全てが終わる。
 ポトフも二匹に合流し、攻撃に備える。先程の雷撃が来たとしても全力で攻撃すれば攻撃を受け流す事が出来るはず。
 だが、それは思わぬ形で無駄だと言う事を思い知らされるのであった。

「あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 潰れかかった喉で叫ぶピチューは、最後の力を振り絞って全エネルギーを上空へと打ち上げたのだ。
 「えっ!?」という声が三匹から漏れる。雷撃はぐんぐんと上空へ登っていき……そのまま雷雲の中へと姿を消してしまった。

「……終わり?」
「やけに、あっけないが……」

 アイスとポトフが呟く。パフュームも不可思議に思っていたが……ふとある事に気づき、顔面を蒼白させていく。

「ひょっとして……今までピチューは最大の攻撃をしていないんじゃ? もし仮に一番最初の攻撃が10万ボルトぐらいだったとします。そしてその後は効果範囲の広い電撃波みたいな攻撃であったとして、たった今放たれたのが特殊電気属性最強の攻撃、雷の予備動作だったとしたら……?」

 二匹の顔が、一気に青ざめた。上空を見ると雷雲がバチバチと異様に放電し始めている。ピチューを見ると既に電気をまとわせていない。
 仮に今の今までピチューが溜めていた電力が全て上空に上げられたとする。上には常にゴロゴロ言わせている雷雲があり、それがさっきの攻撃でどんどんと荒々しくなっていく。

「防御を整えろ、すぐに!!」

 ポトフの一言で、残り二匹は飛び上がるようにして準備する。パフュームは草結びをどんどんと成長させ、互いに互いを掴むようにして蔓の壁を作る。それをアイスが限界まで凍らせる。あっという間に蔓を媒介とした即席の氷壁が完成した。
 そしてポトフは全エネルギーを手のひらへと集中させ、ある技の発動を控える。ありとあらゆる攻撃を防ぐ防御用の波動壁を作る「守る」という技。だが今までの攻撃から考えても、この二つだけではかなり心もとない。
 ビガビガと光りだす雷雲。もはや止められないであろう爆撃の衝撃に耐える為、アイスはパフュームを出来るだけ引き寄せ少しでも衝撃を和らげようとする。パフュームもまた恥などかなぐり捨てて彼女にギュッとしがみ付く。まだあどけなさが抜けないその顔には、死にたくないと言う恐怖がありありと浮かんでいた。

 カッ、と光で一瞬世界が白く輝く。防御壁を全力で発動させたその瞬間、一筋の光の筋が見えた、気がした。

 激しい爆音、衝撃、体が痺れるような感覚、まるで空中に浮かんでいるような浮遊感、絶望。

 ありとあらゆる感覚が、コンマ一秒単位で襲いかかる。それほどまでに、一瞬の出来事であった……。






























 アイスの意識が戻った時に見たものは、まるで地獄に招き入れられたようなそんな感覚。痛い、痛い、痛すぎる。
 彼女の手に、暖かい感覚があった。よく見るとパフュームであるだろうその塊は、息をしているのか、それすらも分からない。
 遠くにブスブスと黒こげになったポトフのような姿が見える。さらに遠くを見ようとして、不意の光に目がくらんだ。
 まるで世界を煌々と照らすような光。天のお迎えでも来たかと疑ってしまうような、そんな感覚。
 一体何なのかと考える前に、彼女の意識はまたも混濁するのであった……。


アイス「気絶しちまったが、コメントまってるぞ!」
パフューム「これからどうなるんでしょうか……?」
ポトフ「そして作者の駄目さ加減がにじみ出てるな。もっと修行しろ」


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Last-modified: 2010-09-11 (土) 00:00:00
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