ポケモン小説wiki
HEAL2,オシャマリの少女

/HEAL2,オシャマリの少女

 目次ページ
 前……HEAL1,反省している

 その日、ロウエンは割のいい仕事を受けていた。とある豪商の妻が病気になったとかで、割と難易度の高いダンジョンの先にある薬草、キノコ、ポケモンの体の一部、その他もろもろを数種揃えて効き目の高い薬を作りたいとのこと。
 ダンジョンの難易度や出現するポケモンの傾向は様々なので、ロウエンは自身が得意な虫タイプのポケモンが多いダンジョンで採取できるキノコの納品を選び、その依頼を達成させてきた。
 本来はその仕事を紹介して貰ったギルドを通じて商品と報酬を受け渡すというのが通例なのだが、今日ばっかりはそれは無しである。どうも、ロウエンが持ってきたものが本物かどうかの鑑定は一般人では難しいとのことで、豪商の家のかかりつけの医者立ち合いの元、豪商の家で鑑定するということになっている。
 そのため、ロウエンはギルドの職員であるチェリムとともに医者がいる時間、豪商の家へと向かうことになる。その家というのも貧乏人の平民のロウエンには近づくことすら許されないような雰囲気であり、足取りも重くなる。スラム街はもとより、平民たちが住まう住宅街からも少し離れた場所に立っている為、ここを下手にうろついていたら、強盗の下見か何かとか、何らかの疑いをもたれることだろう。
 そうして近づいて見てみると、豪邸は二階建ての立派な石造りで、いかにも堅牢そうないでたちだ。庭園にはソルガレオとルナアーラ、ホウオウとルギアといった、伝説のポケモンを模して刈られた木が道の両脇に植わっており、その下に目をやれば色とりどりの花の道。
 スラム育ちのギャングであった自分には不相応の光景に、ここを歩くと思うと胸が縮むような思いだ。
「お偉いさんの家は立派だね……」
 けれど、その立派な家の影で苦しんでいる者がいると思うと、羨ましいというよりは恨めしいという気分だが。

「ロウエン様ですね、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
 と、門番に導かれるままに内部まで案内され、外からは見えない内装を堪能するのだが。内部に入ってからは使用人らしいナッシーに連れられ顔が写るほど磨かれた大理石の床に、真っ赤な分厚い絨毯。高そうな家具に高そうな肖像画。金持ちは違うと感心するばかりで、一応仕事に来ているはずなのに、それを忘れて見入ってしまう。
 しかし、じっくり観察してみると趣味が悪い。どうにもこの家、一代で財を成したいわゆる成金というやつらしく、そのせいか金を使いたくて、自分の財力を誇示したくて仕方ないのだろう。調和よりも片っ端から金を使っているようなごちゃごちゃした内装は、冷静になってみてみると少しくどい。
「ロウエンさんはこういう場所に来たのは初めてかい? 俺達ギルドの職員はたまにだけれどこういう風に招かれたりもするんだけれど……」
 チェリムの職員に話しかけられて、ロウエンは巨体の体を縮こまらせた。
「この家に来る前に体を洗って手入れもしてもらったけれど、こんなところ俺が入るところじゃないですよ。ギルドの職員さんはこんなところにも招かれるのかい?」
「えぇ、本当にごくたまに、ですがね。ただ、ちょっとこの家は目が疲れますね」
 チェリムはそう言って苦笑し、使用人に目くばせをする。
「本来ならば、眺めるだけでも名誉な邸宅ですので、家具に手を付けたりなどの粗相は絶対にないようにお願いしますよ」
 ナッシーの使用人は、念を押すようにそう言った。
「分かってますよ。俺はギャングからは脚を洗ったんですから、そんな事しませんて」
 粗相は最初からするつもりなどないが、眺めるだけでも名誉などという戯言に、ロウエンは苛立ちを覚える。それを言葉にもしないし態度にも出さないようにとしているものの、まゆをひそめずにはいられない。
「ふん、どうだか。卑しい人間はこういう場所で本性が出るやも知れませんからね」
「おいおい、客人に失礼じゃねーのかい? 俺はこれでも一応客人なんだぞ」
「ご主人さまからは、丁重にお出迎えしろとは承っておりませんゆえ。贅沢に向かえればつけあがるのが貧乏人の特徴だと申されましたから」
「は、一番付け上がってるのがご主人さまじゃねーか」
 ナッシーが伝えてくれた主人の言葉をロウエンは言葉以上に態度で馬鹿にする。ナッシーの使用人はあからさまに不快な態度を示した。
「今の言葉、旦那様の前で言わないでくださいね?」
「ほーう、言ったらどうなるんだい? 報酬がなくなるのかい? いいぜ、そんときゃ俺も持ってきたもん、お前らの目の前で燃やしてやる。他の奴に仕事頼んでくれよな。奥様が手遅れにならないうちにな?」
 ロウエンも馬鹿ではないので、ナッシーに警告されるまでもなく主人に直接そんな暴言を吐くつもりはなかったが。ナッシーのあんまりな物言いに挑発を返さずにはいられない。ロウエンのその脅し文句に、ナッシーは悔しくて歯をギリリと喰い結ぶ。
「しかし、広い家だな。お手伝いさんは何人いるんよ? お前さんと……あの、オシャマリ、か?」
「それは……この家にいる旦那様の家族を除く全員ということであれば、この家には家政婦や門番など六人がいます。あのオシャマリは、床をはいつくばって掃除するのが役割の小間使いで、この家じゃ一番身分が低い子ですよ。だんな様が、好きに使ってよいと言って買って来た者です。この家唯一の奴隷ですよ」
 そのオシャマリは階段を掃除していたこちらに気付くと、お疲れ様ですとナッシーに挨拶し、ロウエン達にはようこそいらっしゃいませと挨拶をする。ナッシーはそれに一瞥しつつずんずんと二階まで進んでいくが、ロウエンはそのオシャマリの女の子の事を、短い時間で出来る限り観察する。
 痩せている。それに、殴られたような跡も見える。もしかして、八つ当たりでもされているんだろうか? こんなところに仕事でも住めるだなんて羨ましいと言いたいところだったが、あんな惨状を見せられると、どんな場所でも悲惨な運命が付き纏うと理解させられて、夢も希望もありゃしない。
 しかし、今の使用人はあのオシャマリを奴隷と称した。この国にも奴隷制はあるが、『奴隷は財産』と考えて丁重に扱い、主人と良好な関係を築かせるのが一般的な文化のはず。奴隷を甚振るだなんてのは、ただの野蛮人がすることだ。
 気に食わねえな。ロウエンは、ナッシーに聞えるように舌打ちをする。ナッシーは後ろの頭が不快感で眉をひそめていた。

 二階にある奥方の寝室にたどり着き、そこにいるかかりつけの医者のもとで持ってきた品の鑑定をしてもらう。
「お、ドクター! こんなところで会うなんてな」
 そこに居たのは、ロウエンの知り合いで、街でも有名な名医である。
「やあロウエン君。君も旦那様の依頼を受けていたのかい?」
「割が良かったからな。今度この報酬金で飲みにでも行こうぜ」
「あぁ。だが、今は仕事だ。持ってきたものを見せてくれ」
 挨拶もそこそこに、仕事に入る。鑑定をしてみると、どうやらロウエンが持ってきたものは正解らしく、これで他の材料が揃えば薬も作ることが出来るだろうとのこと。

 かかりつけの医者というのは、ダンジョンに何度も潜っては、そのたびに怪我をしてきたロウエンにとっては顔なじみの腕のいいフレフワンの医者だった。
 弟子も多く、こうしてお偉いさんの家まで出張して診察することも珍しくないので、大抵は弟子に怪我を見てもらうことになるのだが……。それでも、お得意さんということもあって、軽く会釈をすると、あちらも微笑み返してくれた。
「では、報酬を」
 と、ナッシーに手渡された金を手に、ロウエンは口を開く。
「なー、この金、貰えるのは結構なんだけれどよ。それよりも先に、あのオシャマリのお嬢ちゃん。あれを何とかしてくれねーかな? このナッシーのお姉さんも、門番やってるグランブルのおっさんも栄養状態はいいのに、なんつーかあの子だけ痩せているしみすぼらしいしで見てらんねーよ。
 奴隷は大事にするのがこの国の美徳だろ? お前さん、そんなんじゃ天国いけねーぞ?」
「……旦那様になんて口を!!」
「今はそういう事を言っている問題じゃねーだろ!? 俺の頼みについて少しは考えやがれ! それにてめえにゃ聞いていねえんだ! 旦那様とやらが答えやがれ!」
 ナッシーに釘を刺されたが、ロウエンはそれを気にせず真っ向から怒鳴り返す。
「あのオシャマリの女なんぞに構って何になるというのだ?」
 ようやくこの家の旦那様、アイザックという名のミルホッグの男が口を開くが、その答えは期待外れだ。
「かわいそうだろうが! 金があるんだったらもうちょっといい飯食わせてやれ! それが雇う者の義務じゃねーのか!?」
「かわいそうなどと考える者はこの家にはいない! 能力の低い者はそれなりの待遇しか与えない」
「育ててねーくせに良く言うわな。奴隷は育てるもんだって知らねーのか? 職業柄、旅人とよく出会うから一緒に話をしたりとかするけれどよ、この国は『奴隷に生まれたほうがいい暮らしが出来る』だなんて言われる国だってのによ。ぜんぜんそうにゃ見えねーな。
 まー、良いぜ。お前さんがそんな態度をとるんなら、せっかくもらったこの報酬金だが、いらねえな。こいつもお前にゃやらねえよ。くたばれ成金が」
 ロウエンは言いながら医者から自分がとってきた薬の材料を奪い取り……。
「お前の妻が死んだところで俺は悲しくもなんともねーし、かわいそうとも思わねーんだ。こんな薬の材料、焼いてやる」
「おいおい、ロウエン。何やっているんだ」
「ロウエン君、やめなさい」
 ギルドの職員、医者にそろって止められるが、ここで止まったらそれこそへそを曲げられるだけ曲げてしまい損だ。
「さー、どうするんだ? オシャマリの子に飯食わすのに金が必要だってんなら、報酬はその子にくれてやる」
 手の平に持ったキノコに、いつでも火をつけられるぞとばかりに、腰にある炎のベルトに火をともす。
「あの、アイザックさん。この薬は鮮度が重要でして……今からまた依頼を出して取ってくるのを待ってということになりますと……他の材料も二つほど取りなおしですよ?」
 これはまずいと、医者のフレフワンが忠告する。
「……分かった、お前の望む通りにしてやる。だがその報酬金はおいていけ」
「は、金持様ってのはケチンボだな」
 アイザックを馬鹿にしながらロウエンは麻袋に入れられた銀貨を投げて渡す。
「約束破ったらただじゃおかねえぞ、てめえら」
 これ以上ないくらいに悪態をつきながらロウエンは使用人の案内も受けずにずかずかとこの部屋を後にしようとする。
「ちょっとロウエンさん、仲介料どうするんですかぁ? 仲介料はあの報酬の中にも含まれているんですよ? こんなんじゃ私まで上司に怒られちゃいますって」
「知るか! そっちの旦那様と相談でもしてろ!」
 狼狽えるギルド職員のチェリムを置いて、ロウエンは帰る。家を荒らされてはまずいと使用人のナッシーが慌てて後ろから監視をするが、もちろんロウエンは何の悪事もすることはない。ただ、肝心のオシャマリの女の子だけにはきちんと声を掛ける。
「おい、お嬢ちゃん」
「は、ハイ! なんですか?」
 明らかにおびえたような目でオシャマリがロウエンを見上げる。オシャマリは笑顔を絶やさない種族だと聞いたが、そのひきつった笑顔からは君の悪い寒気すら感じる。
「お前、これから、飯をたらふく食えるように頼んでおいたからな……そう約束させたんだ。だからもし約束を守ってくれなかった時は、俺がぶん殴ってやるからな」
「そんな勝手な……」
「使用人風情は黙ってろ!」
 ナッシーが何かを言いかけたが、それをロウエンが一喝する。
「そういうわけで、これから頑張れよ! 」
「え、はい……えっと、わたくしの身に余るような扱い……至極恐悦にございます」
 一方のオシャマリは、彼が何を言っているのかまるでわからず、その上お互い名前すら名乗り合ってないとあって、どういった反応をすればいいのかもわからなかった。ロウエンが強烈な印象を彼女に残したのは確かなのだけれど、その時点ではお互い自分にどんな運命が待っているのかなんて、知る由もなく。
 二人は、現時点ではこれから二度と会えるかどうかもわからないと思っていたのだ。

 次……HEAL3,ジュナイパーの運び屋

お名前:
  • メロエッタの歌の歌詞はなんか聞いたことあるなと思って考えてみたらそういえば中の人同じでしたねw

    確かにポケダンってどう考えても「はい」という選択肢しかないのにあえて「いいえ」も選択できる場面って多いですよね
    まぁ、寧ろ「いいえ」選んだ方が相手の可愛い反応見れて非常に眼福なんですけどねw(特に超ダン) -- ナス ?
  • 例の歌は、ケルディオの中の人も歌っていたため個人的にはネタ度も高い曲でしたw メロエッタの歌ならあれくらいのことは出来ると思いまして……

    ポケダンのお約束については、それらをふんだんに取り込んで作品を完成させたいと思っています。可愛い反応も含めて、自分が表現出来る限りのも絵を詰め込めるよう頑張ります。
    コメントありがとうございました -- リング
  • アローラの新ポケをいたるところで登場させる、SM発売を記念したような心意気あふれる長編でした。立ちはだかる困難に対して自分たちなりに考え抜き常に成長を続ける主人公サイドを描き切ったのは、ひとえにアローラ御三家への愛情がなせる業でしょうか。ポケダンの世界を踏襲した設定や小ネタも嬉しいところですね。
     ただオシャマリ救出後、開拓村以降のストーリーは中だるみ感が否めません。レナを救ったことでロウエンに対立するキャラが失せ具体的目標も見えなくなり、それからはレナに関する秘密をのろのろと解き明かしていくだけで緊張感が足りなかったように思います。ネッコアラやルナアーラ戦など、印象に残るシーンがもっと欲しかった。敵側に擁護できないレベルの悪役を登場させるなり主人公サイドで仲違いさせるなり、読み手を飽きさせない工夫があると読み進めやすかったのかな、と。 -- 水のミドリ

最新の5件を表示しています。 コメントページを参照


トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2017-01-03 (火) 10:57:30
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.