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Blind・Brand 2

/Blind・Brand 2

作者カヤツリ、第二作後編です。
前編はBlind・Brandです。
官能描写あり。


 宿がしんと静まる。続いて軽快なメロディーラインがピアノから流れ出した。
時に優雅に、時に激しく、楽譜の音階が的確に鍵盤に打ち込まれ、軽やかな、そして鮮やかなリズムが部屋を満たしていく。
気まぐれに置いてあったピアノは真の弾き手を見つけたと言わんばかりにハンマーを盛んに動かす。
このピアノ、こんなに音が出たとはねぇ。
音符の階段を駆け上がり、休符の谷間を飛び越し、レベッカの指が白と黒の羅列を滑る。
地平線も、草原も、海原も、彼女の表現からは逃れられない。
宿がこんなに静かになるなんて初めてのことだ、ホント。
フィナーレに星の煌めきを最後に鳴らして、レベッカの演奏は終わった。
途端、黙って聞いていた客の間からヒューっと口笛が鳴り、歓声が飛ぶ。
拍手を浴びて、レベッカはペコッと頭を下げた。


 あれから一ヶ月。レベッカはまさしく宿の華だった。
休養をたっぷりとってめきめきと回復した彼女は界隈で話題の美人になった。
誰もを惹き付ける魅力って奴が立って歩いている、そんなような感じだ。
その容姿もさることながら、サウスの奴隷というどこかロマンを感じさせる出身とそれに裏打ちされた憂いを覗かせる瞳、首筋の焼き印が神秘を掻き立てる。
しかし一度彼女と話し出せば一転、夏の日差しのような快活さで人は魅了される。
まるであっしらの宿に最初から入るように運命づけられたかのように、レベッカはうちの宿と噛み合った。
いや、欠けていたピースが見つかった、そんな表現の方がしっくりくる。
宿になくてはならない存在に彼女はなりつつあった。


 ピアノは昔習っていただけあって抜群に上手い。今では毎晩西館でやる彼女のピアノをわざわざ聞きに来る客まで現れたぐらいだから、な。
店の雑用やら会計やらも飲み込んだレベッカが手伝ってくれるおかげで、宿の回転は油を注したかのように滑らかになった。

 今のあっしは限りなく幸せだ。
とても言葉では表現出来ない程満たされた毎日。
以前は恨めしかった朝の日輪の到来も、今は彼女との一日の始まり。
あっしの日常は極彩色に染め上げられた日だまりの世界。
誰も邪魔出来ない、二人だけの世界。
いや、あっしが勝手にそう思ってるだけだけどね。



 そんなあっしとは対照的に、世の中はどんどん悪い方向に傾いていった。
二年目を迎えた泥沼の戦争は終わる気配を見せず、血の流し合いは激しくなる一方。
ノースの南下を受けてサウスは大規模な防衛線を作り上げ、徹底抗戦の構えを示した。
停戦に向けて進んでいた外交官の話し合いの場は破錠、何万人もの犠牲と努力を踏みにじった。
軍部はだだっ子みたいに資金を要求し、軍備を拡張し、国民から搾取する。
報道機関は検閲の監視下で政府ごますりの記事を押し付けられ、反戦の街頭演説は解散させられた。
 勿論それに立ち向かう人もいない訳では無かったけど、革命だの反乱だの難癖をつけられては潰されていく。
皮肉な事に、唯一成功している反抗は脱走兵の増加と兵隊の反乱で、最近も大陸東岸の旅団で大規模な反乱があった。
賢明なノース政府はその旅団を自らの手で壊滅させた。
こうして翌日の新聞には不必要な命のやり取りがまた新たに掲載された訳だ。


狂気が世界を突き動かし、狂気は世界を暗闇で覆い、狂気が全てを統べていた。
あっし達の宿でも暗い話題が囁かれ、悲痛な噂も流れて来た。

 広い世間から見たら風前の灯火のようでしかない、あっしの宿の明るさ。
だけど、レベッカの灯したその明るさはまだ消えていなかった。
あっしの宿に寄ってもらって、近くの人には酒やら食事やらで、旅人には暖かなベッドで疲れを癒してもらう。
しばらくなりとも。
宿屋「寄木亭」はまだ明るさを失っていなかった。
今夜も「寄木亭」にはレベッカのピアノが響く。


 滑り出しは上々だった。
宿のみんなの甲斐甲斐しい世話もあって、餓える存在だった私は全てを吸収するように回復した。
ボサボサだった毛並みも昔のつやつやした光沢とふかふかさを取り戻し、擦りきれた枷の部分の毛も生え揃った。
げっそりと肉の落ちた体も従来のプロポーションを取り戻し、全身に生きる意思と活力がみなぎってる。
バスタブの鏡で見てみれば、かつての私はそこにはいない。
アンノーン風の焼き印が首筋に黒く焼き付いている他は、平和な頃の私だった。
宿のみんなに誉めてもらった時に、久し振りに自分の事が好きになれた気がした。
人生の再スタートに、ここは格好の立ち位置に思えた。


 ピアノもまた、昔の頃を思い出させる。
小さい頃は苦手で嫌いだったピアノ。
だんだんと年齢を重ねるうちに才能の破片を組み合わせるのが上手くなって、最後にはコンクールにも出たんだっけ。
銅賞でもらったトロフィーが部屋の中では邪魔だったのが懐かしい。
とんがった先っぽによく突っつかれて痛い思いをしたっけ。
ここのピアノはそこまで立派なものじゃないし、ろくに調律もされてない。
ペダルもカタカタ鳴るような、一昔前なら触りもしなかったような代物。
だけど調律の不具合や緩んだペダルの癖をカバーしつつ、このピアノと波長を合わせて演奏するのは調度いい気晴らしになるし、誰かに聞きに来てもらうのも悪くない。
ホント、ここの暮らしは完璧過ぎてこれ以上望みようのない生活だった。



 そう、最初はね。
別に生活自体に不満が有るわけじゃない。
前にも言ったけど、ここは人生の再出発点としては申し分ない。

だけど、私にはつきまとう暗い影がある。
どんなに振り払っても、振り切れない奴隷としての過去。
他愛ない日常の中でチラリとよぎるその痛みは、癒えない持病のようなもの。

 例えば誰かが私に初めて会った時。
私の顔を見て、にっこり挨拶してくれる向こうの人。
私もおのずと笑顔で返す。
だけど、次にその視線が私の首筋の醜い焼き印に移る。
途端に、私を見つめるその眼差しに同情が含まれる。
そのあと何も言わないか、はたまた「辛かったでしょう」とか言うかは別にして。
私はそれが気に入らない。
憐れみなんて欲しくなかった。今の私は自由なのだから。
過去の印じゃなくて、今の私を見てほしい。
元奴隷の色眼鏡で私に同情して欲しくないってこと。
“かわいそう”はもう御免だ。

ホントはこんなこと気にしちゃいけないんだろう。いつまで引きずってるんだ、と自分を叱ることも常々な私。
だけど、私の中にはくっきりとその意識が焼き付けられてた。
それは、表面的に私の皮膚に焼き付けられた飾り文字のS字よりも、なおはっきりと刻まれた
“見えざる焼き印(Blind・Brand)”。
本物の焼き印が決して消えないのと同様に、この心の焼き印もなかなか消えそうにない。



 こんな意識で周りを見ると、人の優しさがみんな同情に裏打ちされたものに見える。
宿の三人の従業員の気配りも、ピアノを聞きに来たお客さんの好意も、そして、バーナムが私を買った事自体も。


 そう、この前バーナムは私の問いかけに答えてくれなかった。
どうして私を助けてくれたのか、という問いに対して。
本当に寝ていたのか、それとも無視しただけなのかは分からないけど。
はっきりしないモヤモヤとした、何かの不満を私はそこに感じる。
もしかしたらあれは私が憐れまれるのを嫌がると思った彼の配慮だったの?
だとしたら、尚更嫌だ。そこまで気を遣われる筋合いはない。
まあ、彼は彼で毎日何だか楽しくやってるみたいだから、そこまで思慮深いとは到底思えないけどね。



 何だかすっきりしない、かといって今の状況に不満かと言えばそうでもない、何だか満たされない思い。
何が足りないか自分でも分からないけど、イライラするような焦れったさが募る。


 ふと、手を休めて空を眺めた。
あぁ、秋の空はあんなに高く澄み上がっているのに。
郵便屋のムクホークが天高く、ゆったりと大きな円を描いていた。


 その日の宿は珍しく静かだった。
カウンターは空席が目立ち、これといった騒ぎも無い静かな夜。
ま、こういう夜もたまにはいいかもね。
時折宿泊客が上から降りて来た時に夜食を出したり、東館にワインを届けたりといった以外する事も無いし。
 キュッキュッとキルリアがグラスを布で磨く音がする。
テッカニンとサンドパンはトランプに興じ、バーナムは頭を抱えて帳簿つけだ。
私は気の向くままに楽譜をめくっていた。
バーナムが界隈の小さな書店で買ってきてくれた物だ。
今度は何を弾こうか。そんな事を考えながらパラパラとページをめくる。
『ノクターン』『メヌエット』『夜想曲』……どれも懐かしい、簡単な曲ばかり。
まぁ、仕方ないと言えばそれまでだけど。
ご立派な楽譜は都会まで行かないとそうそうと見つからないからね。
だけど、もっと聞き映えのする、難しそうなのはないか。
協奏曲みたいなのがいい。
 ただし、あんまりやり過ぎも良くないけどね。
初めて宿の聴衆の前で弾いたとき、張り切った私は『超々絶技巧演習曲』の『おにび』をデビュー曲に選んだ。
あまりに場違いな狂おしい旋律に誰もが絶句したのは苦い思い出。
私自身もヘロヘロになるこの曲は宿の雰囲気には合わない。
もっと陽気で弾けるような、人を唸らせるんじゃなくて人を快適にするような音楽が求められる訳。
ここではね。
 ワルツ、ソナタ、ポロネーズ……ずらずらっと並ぶ楽譜達を前に、私は大きなあくびをした。
次回は即興の狂想曲なんかでいいや。
最近の何となく気だるい雰囲気を変えるにはぴったりだろう。
 ぐっと伸びをして立ち上がる私。大あくびを連発しながら、二階への階段へ向かう。
「今日は少し先寝てるね?」
「あ、わかりました~。おやすみなさ~い」
キルリアが返す。
テッカニンとサンドパンもおやすみの挨拶を返す。
バーナムは帳簿とにらめっこしたまま、眉根一つ動かさなかった。
面白くない奴。
 私は階段へ足を掛けた時。
「ありゃ?」
テッカニンがハッとして窓まで飛んでいった。
夜の闇に目を凝らしている。
「旦那ぁ、お客ですぜ。10名様団体で……ってありゃ?」
テッカニンは途中で黙った。バーナムも私も振り返る。
「どうした?」
今度はだいぶ声を落として、テッカニンが囁いた。
「軍の方々。しかも……」
「早く言ってくれ」
更に声を落としてテッカニンは言った。
「脱走兵みたいですぜ。軍が南へ移動した後でここにいるのはおかしいですし」




 実は脱走兵を見かけるのは今日が初めてじゃない。
私がここに来てからも、たまにふらりとこの付近に兵が来た事があった。
戦線は遥か南だってのに、ね。
ここはサウスとの国境近くだし、戦線からそう遠くはないのも手伝って、気づかなかった分も含めたら相当な数の脱走兵がこの辺りを通過してるはず。
彼らは始終周りを気にして、ビクビクしながら移動していく。
もちろん誰かに通報されたりして捕まれば彼らは一巻の終わりだから。
縛り首か、死地への派遣が待ってるだけだ。


 ここの宿に泊まるのもいた。
そういうとき、バーナムは細心の注意を払って泊めてた。
軍部と揉め事を起こさず、かつ彼らを突き出すような羽目にならないように。
実際バーナムは彼らに同情していたんだと思う。
自分の事は大切にしつつも、困った人には同情せずにはいられないタイプの彼。
私だって、例外じゃない。
ってことで脱走兵達は自分がこっそりサービスされている事に気付かずここに泊まり、去って行った。
まぁ、お昼をサービスしたり料金を割引したりってぐらいだけどさ。



 ドアが勢いよく開き、ガヤガヤと彼らが入ってきた。
バンギラス、ハッサム、ザングース、サンダース、リングマ、バシャーモ……随分と強そうな面子だ。
軍出身なのはほぼ間違いなし。
宿の中を神経質にサッと目を走らせたあたり、脱走途中なのも間違いないと思う。
「よぉ、一泊泊めてくれや。前払いで頼む」
バンギラスが紙幣を取り出しがてらバーナムに言う。
だけど、パッと見、どう見ても足りなさそう。
「……一番安い部屋でも10人分には足りませんが」
丁寧に、しかし冷たさを込めてバーナムがバンギラスに尋ねる。
「しかたねぇだろ、今はこれしかねぇんだ……
まさか追い出すなんて言わねぇだろうな?あんちゃんよぉ?
そっちは駐屯地があった時にしこたま稼いだ筈だろ。
大人しくしてやるからさ」
……脱走兵らしからぬふてぶてしさ。こいつらたかりか。
恐らくこっそり抜け出したというよりは強行突破して逃げてきたタイプに近いと思う。
10人という人数と軍のバッジに物を言わせてあちこち揺すったりたかったりする、一番最低な奴ら。
そのくせ戦場から逃げて来た臆病者。
私の中で軍への怒りが再び渦を巻き始めた。
こんな奴らが全てを牛耳ってるなんて。
私なら絶対泊めない。
キルリアが私の視界で腕組みをした。
 バーナムは少し足りない紙幣を握って立ち尽くしたまま。迷ってるみたい。
揉め事は起こしたくない。だけど、黙ってやられる訳にはいかない。
そんな考えが彼の頭の中を回っているのが手にとる様に分かる。
 結局、暫く考えて彼は折れた。
「わかりました。一泊だけです。もちろんサービスもそれなりのものになりますがね」
冷ややかな怒りを含めて、彼はそう言った。




 連中を西館に連れてった後、バーナムは機嫌が悪かった。
奴らに対して怒ってるのが半分、それを認めてしまった自分に腹を立てているのが半分。
一人でブツブツ言いながら帰って来た。
「……ったく……何であんな……もう!……みんな、ごめんな」
カウンターに戻ったバーナムが謝る。
「……ご主人、あんまり自分を責めなくて良いですよ。上手く渡ってく方が今は大事です」
とウェイター。
「別に食事に毒盛ってやってもいいんですよ」
不気味な笑みを浮かべて厨房の主が振り返った。
「いやいや、別にそこまでしなくていいし。だけど、用心してくれよ。
妙な事されて客減らしたくないから、な。泊まってるお客はまだたくさんいるし、そっちも手抜かりがないように」




 小一時間後。あー腹立つ。
ホント毒盛った方がいいかもしれない。
今晩三回目のビールの注文を運びながら、私は西館への通路を鼻息も荒く歩いていた。
奴らが大騒ぎするおかげで西館の他の宿泊客が不満を言い出し、結局東館に移ってもらう羽目になったんだ。
東館に移る彼らにはバーナムが謝りながらワインを手渡し、私達従業員はえっちらおっちら宿泊客の荷物をドアマンよろしく運んだばっかり。
 そして奴らは懲りずにビールの注文。頭に来るでしょ?
かなりの大股で廊下を横切り、階段を登って奴らの部屋に向かう。
ちょうど部屋からがさつな笑い声がどっと聞こえてきた。
それが私の神経をさらに逆撫でする。
本当なら思いっきりHP満タンの「ふんか」をお見舞いしてやるところなのに。
ここは木造だからそんな事出来ないけどね。
 ドアを蹴破るようにして私は中に入っていった。
中では例の10人が丸テーブルを囲んで座っている。
あたりにはワインの瓶がいくつも転がって、かなり酒臭い。
私に妙な視線を送ってくるのもいるし。願い下げだね。
怒りの収まらない私はジョッキをテーブルにドンと叩きつけた。
「ご注文のビールです!!伝票はお会計の際にお忘れなく!」
「おぅ姉ちゃん、あんまり怒鳴らないでくれや。可愛い顔が台無しだぜぃ」
ザングースがへらへら笑いながらこっちを向いて言った。
こんな奴ら、一緒に空間を共有するのも不快だ。
私はきびすを返してドアへ向かった。
ところが。

グイッ。

誰かに首筋を後ろから掴まれて私は急停止した。
「ちょっと、何するんですか?!」
怒ってもがく私を無視して、後ろから声が言った。
「ちょっと待ちな、姉ちゃん、こっちによ~く顔見せてみな」
そのまま私は首根っこを掴まれたまま、声の方を向かされた。
そこには例のリーダーとおぼしきバンギラスが私の首筋をその手で掴んで、じっとこっちを見ている姿があった。
顔を近づけ、私の顔をねめまわすように眺める。ムッとする酒臭い息がかかる。
「ちょ、ちょっと、何なんですか?!いい加減離してください!」
じたばたする私を無視して更に顔を近づけるバンギラス。
その視線が首筋の焼き印の上で止まった。そして口の端をニヤリとめくりあげて言った。
「お前レベッカだな?慰安所の?」
 全てが凍りついた。
「ど、どうして……?」
「俺はよぉ、あんたを抱く金なんて持ってなかったから指くわえて我慢するしかなかったんだ。
だけどな、みんな一度はあんたを夢見てたんだぜ。分かるに決まってらぁ。
それがどうだ、今こうしてわざわざ来てくれたじゃねぇか」
早く逃げなくては。理性と本能が同時に叫ぶ。
だけど、がっちりと私を掴んだその手は揺るがない。
苦痛の記憶がフラッシュバックする。嫌だ、そんなの絶対に。
「離して!」
身をよじって逃れようともがく。
バンギラスの仲間も薄ら笑いを浮かべてこっちに近づいて来た。これはまずい。
「俺はビールを注文したつもりだったんだがなぁ
……コイツが今夜のディナーだって事か?よし、たっぷり味わってやろうじゃねぇか!」
そう言って奴は私をつかんで奥のテーブルの上に投げ出した。
「きゃっ?!」
皿が盛大な音を立てて落ち、背中にじっとりと濡れた感触。見ればワインの瓶が割れていた。
起き上がろうとする前にバンギラスが馬乗りになって私をテーブルに押し付ける。
回りの奴らは私の手足を押さえつけていた。
完全な八方塞がり。
「誰かっ!助けっ?!っぐっ!っっくぅっ!」
声をあげようとした私の首をバンギラスがぐっと掴んだ。
「静かにしてねぇと、ぶっ殺すぞ」
ドスの効いた声で私を脅しにかかる。
万事休す。急に体から力が抜けた。
こんなの理不尽だと思うけど何も出来ない。
ぐったりした私にバンギラスが言った。
「それでいい。じゃあいただきます、だ。」
首から手を離し、テーブルからバンギラスが降りる。
カチャカチャと音がしたかと思うと、奴は私の股ぐらに顔を近づけて言った。
「ディナーってのは上品に頂くもんでな」
周りの雄も私の股ぐらを覗いてニヤニヤしている。
何!?何をされるの?
やおら、秘所に冷たい感触。
「?!っひあぁうっ?!」
下の口が二本のスプーンで両側から、ぐっと開かれる。
嫌悪と羞恥に身をくねらせ、自由になろうと足掻いても手応えなし。
スプーンが更に秘所の奥へぐっと差し込まれる。
「っ!ぃやぁっ!……やめてっっ!」
苦痛のあまり悶え、のたうつ私。いっそ気を失ってしまった方がどんなに楽か。
「痛いか?姉ちゃん?痛い?こうしたらもっと入るんじゃねぇのか?」
そう言うと足を掴んだゴウカザルが手にしたフォークの先で私の陰核をつつき始めた。
「……っくうぅっ……はぁ、あっ、あっ……っんっ!……んくあっ!」
自分の奥がジワッと濡れるのが分かる。
屈するものかとこらえても、生理本能が暴走を始めた私の体は雄を迎える準備を始めていた。
暖かな感触が膣口まで達する。
止めて、私の体!
「おーっ、だらしねぇなぁ。こんなに濡らしちまってよぉ」
今やグチュグチュと卑猥で粘着質な音を響かせる膣内を、奴はスプーンでかき回し始める。
性感が背中を反らせる。
「っつっあっ……はぅ……ダメ……」
自分の膣が緩んでくのが分かる。愛液が分泌されるのが分かる。
自分がだんだん堕ちて行くのが……
絶対に認めたくない何かが現に今起きていた。
 バンギラスが体を起こした。ぐっと私に再度馬乗りになり、取り巻きを見回した。
「さて、前菜はここまでだ。野郎共、今夜は遠慮すんなよ。先ずは俺だけど、お前らも楽しんでけ」
そう言うやいなや私の腰に手をあてがい、バンギラスが自分の肥大化したモノを私の中に突っ込もうとしたその瞬間。

ガシャン!

 ガラスの割れる音。バンギラスの後ろ側、私の足の方だ。奴の体でよく見えない。
首をよじって後ろを覗くと、フラフラとドアの前のザングースが頭からワインを滴らせて倒れるところだった。
そして、その更に後ろから怒りのこもった声がした。

「……あっしの店の従業員を返してもらいます」


 全身の毛が逆立つ。アドレナリンが駆け巡り、気持ちが妙に昂っている。
心の中で、戦闘の本能が一瞬にして燃え上がる。
そう、あっしは物凄く怒っていた。
こいつらはレベッカに手を出した。
だからあっしはこいつらをぶちのめさなくちゃいけない。
ザングースをぶん殴ったワインの瓶を投げ捨て、吐き捨てる様に言う。
「ここはあっしの宿だっ!さっさとレベッカ離して出てけっ!」
 もちろんこんなのが効くとは思えない。
向こうもサッとこっちを向いて戦闘の構えに入る。
ただしバンギラスはまだレベッカに馬乗りだし、そっちまでは距離がある。
仕方ない。一人ずつ倒すしかないか。
賢い兵士は敵を一人ずつ倒すって言うし、な。

 10対1。こっちが不利に見えるって?
そりゃ最初から不利なのはわかってる。
まぁとりあえず見ててくれ。

 先に動いたのは向こう。
レントラーがスパークを纏ってこっちに突進してきた。
青白い電光が体毛を走ってなかなかの迫力だ。
おっと、感心してる場合じゃないな。
すかさずあっしもぐっと体勢を低くしてレントラーに突っ込む。
 そう、神の速さで。
飛びかかって来るレントラーの前足を潜り抜け、無防備な胴目掛けて思いっきり突進する。
「何を?……っぐふっ!」
はい、一名様、窓の外へどうぞ!
窓ガラスを盛大に突き破って、濃紺の体が吹っ飛んで行く。
お体をお大事に、またのおこしはご遠慮下さい。
 間髪入れず、後ろでバチバチという音と空中で放電した際の独特なオゾンの匂い。
あっしが慌てて飛びすさると、黄色い電光がさっきまであっしのいた場所を通過した。
サンダースか。速さが自慢の、な。
間髪入れず電光石火でこっちを追撃してくる。
残念でした。こっちの方が実は速い。
突っ込んで来る奴をひょいとかわして、すれ違いざまに切り裂くで切り伏せる。急所にヒット、こちらも一撃。
 え、何でサンダースより速いかって?
何でしんそく一発があんなに強いかって?
ふむ、うちには剣の舞とバトンタッチを使えるテッカニンが居るって事でいいか?
ズルくないよ。10対1だしな。
 あまりの高速戦にぼやっとしていたゴウカザルとバシャーモがやっと動き出した。
まずい、マッハパンチか。
バックステップで一旦扉まで引き下がる。
そこに一気にインファイトとブレイズキックが襲って来た。
あっしは毒づいてドアの外へ退却。
 まずいな、レベッカからどんどん離されてる。
ドアから出てきたばかりのバシャーモを切り裂くで引っ掻く。ちえっ、かすり傷か。
出来ればしんそくは温存しておきたい。
 バシャーモに続いてゴウカザルも廊下に踊り出てきた。
仕方ない、二人まとめてしんそくで突破するしかないか。
あっしは狭い廊下を一歩下がって、そこから一気に加速。捉えた!
だけど、敵もさるもの。
バシャーモが守るを発動してあっしが勢いを殺された所に、ゴウカザルのマッハパンチが正確に飛んで来る。
「うわっ?!」
思いっきり吹っ飛ばされたあっし。
廊下を飛び越し、ドシンと階段の踊り場まで一気に叩きつけられる。
畜生、だから格闘タイプは嫌なんだ。
踊り場まで落ちたせいでクラクラするし打ち身だらけ。
それでも上から飛びかかって来たバシャーモを今度こそ切り捨て、階段を駆け上がる。
待っててくれ、レベッカ!
 上で羽ばたく音。まずいっ!
カイリューのドラゴンクローが階段に突き刺さる。危うく餌食になる所だった。
こっちは切り裂くを連発しながら一気に部屋のある廊下まで押し返す。手数は多いに限る。
後ろから出てきたリングマも一緒にしんそくで弾き飛ばす。
つけ入る隙を与えないままKO。こいつら弱っ。
軍人って言っても、たいしたことないな。
え、あっしが壊れ性能なだけ?
うーん、とりあえず誉め言葉として受け取っておこうか。
再び部屋まで入る。残りは3人。
あれ?足りなくないか?
後ろから殺気を感じて伏せるとインファイトが空を切った。
いけね、ゴウカザルを忘れてた。
インファイトは慌てて避けたけど、ブレイズキックまではかわしきれない。
横っ面を張られてキャビネットまではね飛ばされた。
上からバラバラと埃と本が落ちてきた。
まずい、形勢が怪しくなって来た。
身代わりを貼って何とか追撃の瓦割りを受ける。
しんそくでタックルし、ゴウカザルは始末完了。この紙耐久め。
 いや、冗談言ってる場合じゃない。本気でまずい訳、な。
ここまででかなり体力を消耗しちまった。残りはハッサムとさっきぶん殴ったザングース。
ちぇっ、回復したか。
仕事を急ぐとろくな事がないな。先代がしょっちゅう言ってたっけ?
そして奥のテーブルにはバンギラス。
こっちの騒ぎにも無頓着でまだレベッカに跨がっている。
 真っ赤な怒りが込み上げて気を取られたあまり、あっしはハッサムのバレットパンチに気づけなかった。
壁に叩きつけられ、くずおれる。満身創痍の体は限界が近い。
そこをザングースがその二本の爪であっしの首を狙って来た。
グサッと爪は壁に突き刺さり、あっしは首を二本の爪に挟まれて壁に釘付けにされちまった。
グイグイとそこからザングースが首を絞めてくる。息が出来ない。
視界の端が黒くなり始めた。
ヤバイ、これは死ねる。
体力がガリガリ削れていくのが分かる。
あぁ、もう5、4、3、2、1。
そう、1。

“じたばた!”

あっしは無我夢中で暴れまくった。死の爪から逃れるためにひたすら暴れ、もがきまくる。
暫くじたばたしているうちに、突如息が楽になった。
気がつけば目の前にザングースがギタギタになって倒れている。
威力300、剣の舞三回バトンの威力、ご馳走様。
そしてそこのバカ、ご愁傷様。
 よろめきながらも何とか立ち上がる。
バンギラスとあっしの間に立ちはだかるのはハッサムのみ。
よりによって鋼タイプとは部が悪いにもほどがある。
あとほんの少しだってのに。
バレットパンチが唸りをあげて飛んで来た。かわせるはずもなく、壁に再度叩きつけられる。
体力切れ。もう気力の問題。

意識が一瞬飛ぶ。

 何やってんだ、あっしは。
一人の女、しかもこっちを振り向いてくれるわけじゃない女のために大金使って、体張って戦って……馬鹿馬鹿しい

いや、後悔はしない。それがあっしの生き方じゃないか?

まだダメだ、レベッカを救うまでは…
ダメだ、掴んだ幸せは離しちゃいけない…
ダメだ、あっしはレベッカを幸せにするって誓ったんだ!


 「ダメだぁぁぁっ!!」
よろめきつつ再度立ち上がり、捨て身でハッサムに突っ込む。
ハッサムは攻撃をひらりとかわすと、あっしの身体にメタルクローを叩き込んだ。
「くっ!?」
激烈な痛みがみぞおちに走る。その場に崩れ落ちるあっし。
あぁ、終わった。
ハッサムはぐったりと動かないあっしの身体を片方の鋏で持ち上げる。
意識が霞んできた。
ハッサムがぐっとそのもう片方の腕を引いたのがかろうじて見える。
刹那、狙い澄ましたバレットパンチを体のど真ん中に叩き込まれ、あっしはガラスを突き破って外まで吹っ飛ばされた。


 虚空での浮遊感。夜の闇に漂う体。
そして重力があっしを引っ張る。
下へ、下へ、下へ……。
数秒間の落下の後、体は背中から地面に叩きつけられた。
ここまで、か。
ふっと気が遠くなり、思念がひらひらとあっしの手から離れて宙を舞う。
ため息を最後に一つ。
視界の端が黒く迫って、次いで帳がゆっくりと下ろされた。


 私の横を白と茶色の塊が、ガラスを突き破って外へ放り出された。
望みは去り、悪夢は終わりそうに無かった。
バンギラスのモノは私の中に既に押し込まれ、私の内部を蹂躙し、私の精神をも暗闇に引きずり込んだ。
「おい、亭主の始末は終わったか?」
バンギラスがハッサムの方を向いて尋ねる。
「おうよ、だいぶやられたけどな。面倒な事になったもんだ。おい、とっとと済ませてずらかろうぜ」
「ちょい待てよ、もう少し楽しませてくれや」
私の方に顔をぐっと近づけてバンギラスが囁く。不快な酒臭さが鼻孔を突く。
「じゃ、本番って事で行くぜ」
そして腰を沈め始めた。私は必死に最後の抵抗として、のし掛かる巨躯を押し退けようとぐっと腕を突き出す。
「おいこら、無駄な事すんな。死にたいのか?」
ギュッと私を押さえ込み、激しく腰を振り始める奴。
淫液が交わり、不快な和音を奏でていく。
私の身体は受容を始めていた。
いくら頭で撥ね付けても、脊髄を駆け上る性感が本能を引きずり出す。
「……っあっ……ん゛んっ!……はぁっ、うんっ……くっ」
「……はぁ……感じるか?……なら……イカせて……はぁ……やっぞ」
そう言うと奴はラストスパートをかけた。
交差する二つの性。もはや理性の出る幕は無かった。
全身が痙攣する。
「いやっ!あぁぁぁっ!っぐっ……んくあっ!ああっ!」
「っくっ……行くぞっ!」

次の瞬間、熱い何かが膣内を満たす。

ハッと理性が戻って来た。
出された。その感覚が、怒りが、新たな力と冷静さを生む。
恍惚とした奴の隙を狙い、両手で奴の体を押し返す。
出来た隙間の中で、私は渾身の力で身をよじった。
グジュッと音がして、奴のまだ白濁液を流し続けるモノが引き抜かれた。
吹き出す精液が私のお腹の上にどっと出される。
特有の生臭い臭気が私を包んだ。
「おいっ?!何すんだ?」
奴が慌てても手遅れ。
私の体を汚したモノは既に力を失い始め、奴は減退していく自分の逸物を眺めるしか無かった。
 だけど、私はそこから先を考えていなかった。
猛り狂ったバンギラスが飛びかかって来た。
上体を起こしていた私の首に手をかけ、テーブルに私の体を叩きつける。首を絞める手に力が入る。
「っくっっ?かはっっ!んぐっ!」
「てめえ、俺のが受け取れねぇってのか?あ゛?」
口角泡を飛ばしてバンギラスが怒り狂う。更に息が苦しくなった。
「っくぅっ!」
首を絞める手を払いのけようとしても、てこでも奴の手は動かない。
こいつ、本気だ。
視界に急速に靄がかかる。
まずい、このままだと間違いなく死ぬ。
じたばたともがく力も次第に力を失って……
仕方ない。これしかない。
生存本能が私の内から目覚め、唯一の護身手段に私は出た。
ゴオッという発火音を立てて、首筋に火炎を鬣の如く迸らせる。
所々青いものが混じる火炎は周囲一帯を舐め尽した。

バクフーン固有の戦闘体勢だ。
「あぢっ!」
バンギラスがたまらず私の首から手を離す。
肺に新鮮な空気が入り込み、私は乱れた呼吸を繰り返す。
「ハァ、ハァ……ゲホッ……」
奴らが立て直す前に逃げなくては。私は慌てて立ち上がった。

ところが。
バンギラス、ハッサム共に私の方を恐怖を浮かべて見つめている。
恐ろしさに腰が抜けてしまっているみたい。
「ヤバいぞ、逃げろ!」
ハッサムがそう言うや否や、二人は一目散にドアから逃げ出した。
あれ?何で私を怖がるの?

 答えは簡単、私のすぐ後ろにあった。
ゴウゴウと一面が火の海になっている。
え、どうして?
さすがにここまでやった覚えはない。
そして次に床に落ちた割れた瓶が目に入った。
頭の中で物凄い速さで答えが駆け巡る。
お酒。
きっとさっき私が倒された時、一面にこぼれたワインやブランデーに私の炎が引火したんだ。だから広がりも速いし火力も強い。
 火は勢いを増して部屋を占領していく。尋常じゃない勢いの炎に思わずたじろぐ。
自分のしてしまった事に暫く呆然と立ち尽くした私。
暫く消そうと走り回って、直ぐに無理だと気がついた。
そもそも私、火をつけるのは得意だけど、消すようにはできてない。
いくら炎タイプといえ、こんな火災に捕まって煙にやれたら一巻の終わり。
私も急いで部屋を飛び出した。
 いけない、何だかクラクラする。
フラフラよろめき、あちこちにぶつかりながら廊下を進む。
多分さっき首を絞められた後、新鮮な空気を求めて何度も息をした時に煙を吸ったんだ。
階段に何とかたどり着いて、急いで駆け降りる。足元がかなり怪しい。
煙が私を追って来るっていうのに!
「ふあっ?!」
三段目を降りたところで足を踏み外し、一気に踊り場までドタドタと転げ落ちた。
頭をしたたかにうちつけ、星が目の前に散る。
立ち上がろうにも足に力が入らない。
意識がスーッと遠ざかり、私は踊り場の上でくてっと力尽きた。
もういい。どうにでもなれ。
迫り来る熱波の中、一匹のバクフーンは闇に包まれ、蝋燭の炎が息たえるように意識を失った。


 遠くから叫び声がする。
意識がピンぼけを起こしているけど……焦げ臭いな。
熱波が頬を撫でる。瞼の裏で揺らめくオレンジの光……あちこちで上がる悲鳴。
起きなくちゃ。
全身が痛い。もう体力なんて残ってない。あるのは気力だけ。
それでもあっしは起き上がった。
 あっしの目の前で西館が燃えていた。夜の闇の中、赤々と。
黒い煙が辺りに立ち込め、貪欲な紅蓮の炎が西館を嘗め尽くす。
火元はさっき放り出された三階から。
リングマ、バシャーモといったさっきぶちのめした連中が命からがら飛び出して来る。
あっしには逃げてく奴らを止める気も力も無かった。
 あっしの心を占めているのはただ一つ。
レベッカ。彼女がまだ中にいる。
傷だらけの体を引きずって西館に進み始める。
今や一階、二階にも火の手は広がり、連絡通路まで達しそうな勢いで。
辺りの家から、東館と本館から、次々人が飛び出して来て、何か叫んでいる。
あっしには何の意味も持たないけど……な。
轟音と共に屋根が一部崩れ落ち、盛大に火の粉が上がる。急がなきゃ。
腹をくくって、ダッと燃え盛る建物に駆け出す。熱波が迫り、思わず目をつぶる。
西館の入口まであと一歩。
そんな時、後ろからグイと肩を掴まれた。
「ダメですぜ、ご主人!危ないじゃないっすか!」
振り返ると、テッカニンが鋏であっしをグイグイ引っ張ってた。
「離せっ!まだレベッカが残ってんだ!止めたらクビだぞ!」
「何バカなこと言ってんすか?!早く離れないと!」
あっしを引っ張ってズリズリと後退するテッカニン。
あっしはじたばたもがきながら引きずられていった。
 炎は猛り、窓からどっと火炎が吹き出す。
建物を縦横に走っている親梁が真っ二つに折れ、続いて小梁が落ち、更にそれを追って瓦や漆喰、ガラスが地獄の炎の中へ飲み込まれていく。
キルリアとサンドパンがこっちに走って来る。
「ご主人、大丈夫ですか?!」
んなわけあるか。
「早いとこ消さないと本館まで燃えちまうよ!何で応援を呼ばないのさ!」
そう言って急いで応援を呼びに行くサンドパン。何でフライパン持ってんの。
西館がもう助からないのはわかってる。
あっしはテッカニンとキルリアにがっちり掴まれたまま、燃え盛る建物を眺めるしか無かった。

 やがて集まってきた水タイプが放水し始めた。
付近の住民から宿の客までいる。
こっちにも客の二人が走って来た。一昨日の二人組だ。
「ちょっとラッカス、早く来なさいよ!こののろま!」
フローゼルが怒鳴る。
「うるせーっ!カメラ片付けさせたのはお前だぞ」
相方のアリゲイツが走って来た。
「ごちゃごちゃ言ってないで早く!アンタはハイドロ、あたしがサポートする!」
そう叫ぶと、フローゼルはぐっと両手を体の前で握りしめた。
 場の空気が変わる。
辺りがギュッと濃密な湿度をおび、大気中から水蒸気が集まって水滴を形作る。
霧のようなものが辺り一面に立ち込め、ぽつぽつと何かがあっしの体を濡らし始めた。
雨滴は最初は静かに、次第に激しく降りだした。
雨乞い、か。
それに強化されたアリゲイツのハイドロポンプが一気に鎮火にかかる。
水柱が火を目掛けて突進して行った。
 さすがに雨乞い下での一斉放水には敵わないのか、狂おしい火炎も次第に弱まってきた。
20分もの格闘の後、橙色の悪魔はほぼ姿を消した。
全てを食いつくし、もはや焦がす対象を持たない力ない火の手が所々に見えるだけ。
暗闇がやっと覇権を取り戻す。
降りしきるのは、雨



 あっしはハッとしてまだ熱い焼け跡に走り出す。
「レベッカーっ!」
雨の中、大声で名前を呼びながら走り回る。
焼け落ちた屋根の下、黒焦げの柱の影、バクフーンの姿を探して瓦礫の中を駆け回る。
いない、いない、いない!
「レベッカ!」
再度立ち上がって吼える。頼む、返事をして欲しい。
気ばかりが急いて仕方ない。
 ふと雨中の視界、20歩程先の暗闇で何かが動いた。
瓦礫が押し退けられ、黒い煤だらけの何かが立ち上がる。
「レベッカっ!」
ガラスを踏んで血が出ても、気にしないでまっすぐに駆け寄る。
「大丈夫か?怪我してない?」
確かにそれは彼女だった。
煤にまみれ、先程の放水と大雨でびしょびしょに濡れぼそったままの。
うつむいたまま、顔を上げない。
「……ごめんな、あっし、何もできなくて……」
彼女の頬も涙と煤で汚れている。雨がその頬をつたって流れ、筋を作る。
その身体にはベッタリと白濁液の跡が残されて。
うつむいたままの彼女は惨めの象徴だった。
あっしのせいだ。
無力で、無神経な。
「……レベッカ……ごめん……同情するよ……」
両腕を彼女に回して慰めようとした途端。
彼女がキッと鋭く顔を上げた。
そこにあるのは。

憤怒の瞳。

ぎょっとして思わず後ずさる。
何故?
彼女の紅い瞳の中で、激しく炎が揺れていた。
そして闇夜をつんざく大声で、レベッカが吼えた。
「来ないでっ!!」


 辺りがしんと静まりかえった。
私の怒声の残響までが空気を震わせていた。
黙っている必要なんてない。
溜まりに溜まった感情がどっと吹き出した。
「……どうして……どうしていつもそんな目で私は見られなきゃいけないのっ!!同情、同情、同情っ!みーんな同じ!」
怒号が闇夜に響く。雨に濡れた首筋の毛が逆立つ。
白熱した怒りが体の内側を舐める。
「何でいつも私なの?奴隷だから?慰安婦だから?……もう私は憐れみなんて欲しくないし、同情なんていらない!」
「そんな……」
バーナムがうろたえる。
自分でも訳の分からない強烈な怒りがみなぎって来た。
滝のような雨にうたれながらも、喉を枯らして吼え猛る。
「あなたが私にくれるのはいっつもそう!!馬鹿丁寧な気遣いと、可哀想だっていう気持ちばっか!
みんな私を、か、可哀想ってしか見てくれない!私は、い、いつも哀れで、保護対象で、悲劇の主人公で……
もうそんな風な目で見て欲しくないの!!」
涙がこぼれる。キリキリと心が痛い。
恩人に怒鳴り散らしているのはわかってる。
だけど、私の怒りと悲しさは収まらなし、この思いは知られなくちゃいけない。
絶句したバーナムにさらに言葉を浴びせる。
「最初あなたに買ってもらった時、やっと解放されたと思った。
でも、こっちにきても、みんな憐れみでしか見てくれないじゃない!
もう同情の対象はうんざり!!焼き印だけで、判断されるような生き方はしてないつもりよ!」
肩ではぁはぁと荒い息をしながら、バーナムに感情をぶつける。

「そして今日だって、今日だって、何であなたは責任をしょいこもうとして、私を庇おうとするの?
優しくしてくれるのも、親切にしてくれるのも、みんな私が憐れだから!いつまで経っても!」
 バーナムは何も言わずただ目を見開いて、雷に撃たれたような顔をして突っ立ってた。
叫んでいるうちに私の心は決まった。
もうこんな場所には居たくない。
私は宿を燃やし、みんなの同情を嫌う迷惑な存在でしかない。
そして私自身も、ここで再び、二重に傷つけられた。
もうここに居る理由はない。
さよなら、バーナム。


 突然レベッカはきびすを返し、あっしとは反対側に走り出した。
「待って!」
あっしもボロボロの体に鞭打って、水溜まりを撥ね飛ばして後ろから追いかける。
「来ないでっ!!」
再度レベッカが叫び、目の前に火炎の花が咲く。
夜の暗さと豪雨の中で、彼女の姿が浮かび上がった。
キッとこっちを振り返り、首の周囲に点火してあっしを威嚇する彼女。
その目には狂乱と追い詰められた者の昂り、癒されない悲しみが同居していた。
頬を涙と雨に濡らし、激昂のあまり一言一言を絞り出す様にして彼女は絶叫した。
「あなたは……何も……わかって……ない!!!」
そして再び向こうを向いて、夜の闇の中に走って行ってしまった。
程なくその姿は漆黒の雨中に紛れて消えた。


 今度はあっしはその場に立ち尽くしたままだった。
満身創痍の身体、更に切りつけられたかのように痛む心のせいで、あっしはレベッカを追えなかった。
ゆっくりと何かが自分の指からこぼれ落ちていく、それだけが確かな事実。
それは決して雨なんかではない。
あっしはショックだった。
あそこまでの拒絶、怒りの対象に自分がなっていた事が、な。

 あっしは今宵、大事な物を二つなくした。
西館を、そしてレベッカを。
がっくりとくずおれ、力なく体を絶望に任せた。


 降り続く豪雨がいつまでもあっしの体を叩いていた。


 二週間が経った。レベッカは戻って来ない。
心に穴が開いた、そんな表現では手緩い感覚。
寧ろあっし自身の身体が喪失感に食い尽くされてしまいそうな、慢性的な痛みだった。
彼女がいない事に直面する度に精神をえぐられる様な。
 それでもあっしは気丈に振る舞っていた。いや、そのはずだったと思いたい。
西館は失っても本館と東館は無事だったし、あっしには宿を続けてく義務があるから、な。
ってな訳で寄木亭は火事の次の日も通常営業だった。
 もちろん中身は通常営業なんかでは無かったけど、な。
レベッカのいない宿は歯車の欠けた時計のようにギクシャクで、不正確で、間違ってる。
一ヶ月半前はレベッカなしで回転していたのに、それが出来ない。
みんな会話も言葉少なで、宿本来の活気が消え失せてた訳だ。
笑い声も、ピアノも、レベッカも。
みんな無くしちまった。




 そんなある日、一報が宿に届いた。
レベッカとおぼしきバクフーンがここから30キロの小さな町で見つかったらしい。
知らせを持ってきたのは宿によく寄っていた郵便屋のオニドリルだった。
「ぜってえ間違いねぇな、ありゃあ。だって焼き印つけたバクフーンがそこらにいるかぃ?」
「え、で、レベッカさんは大丈夫何ですか~?」
キルリアが身を乗り出して聞く。
多分あっしに次いでこの宿でレベッカと親しかった彼女。
実際、キルリアはレベッカを姉の様に慕っていた。
「あぁ、多分な。ピアノで食ってるみたいだしなぁ。どっかの宿かなんかに泊まって、チップ稼いでやってるみたいだぞ。それで……」


 散々オニドリルを尋問した後、四人は一室に集まった。
「ご主人、どーすんです?今なら呼び戻せますぜ?」
正直、あっしは迷ってる。ここに彼女を縛り付け無かったのはあっし自身だ。
「いやぁ……レベッカが残らないって決めたならあっしはそれを止める権利は無いわけで……」
「でも、そのままじゃ彼女行っちゃうでしょ?」
「……別に、レベッカにああいう受け止め方されたら……ねぇ」
「じゃあこのまんまでいいんですか~?私は帰って来てくれた方が嬉しいんですけど~」
「そりゃ、居た方が助かるけど」
「助かるって何ですか?……あぁ、もうっ!」
ドシン、とキルリアが急に机を叩いた。
あっしはびっくりして椅子から転げ落ちた。
あ痛っ。
あっしが椅子に戻ると、テッカニンとサンドパンが目配せしながら部屋を出ていくとこだった。
キルリアが腕組みしながら仁王立ちであっしの前に立ってる。
 はぁ。説教ですか。あっし何か悪い事した?
「ご主人!言わせてもらいますけど、素直じゃないですね。
ご主人がレベッカさんにメロメロに惚れ込んで買って来たのはわかってるんですからね!」
「おいおい、ちょっと待て、いきなり何を……」
「本当なら変態って罵ってる所です。誤魔化してもダメですよ~。心覗けば嫌でもわかるんですから」
真っ赤になって黙り込むあっし。くそ、こいつら全部把握済みか。
「まぁ、それはいいです。レベッカさんを助けたのは間違ってませんでしたよ。
問題はその後です。素直になってれば良かったんですよ~」
「?」
「つまり好きって言っちゃえば良かったんですよ!物分かり悪いですね~。
ご主人、うちにレベッカさん連れて来て、それで満足しちゃってませんでした?
多分それだけで有頂天になって、自分がレベッカさんを好きだって感覚が鈍っちゃったんでしょうね、きっと」
……確かにそれは間違ってはいない。言われてみれば、な。
「まぁ、それは認めるけど」
「でしょ?じゃあ何で素直に言わなかったんです?」
「いや、さ、何だか押し付けがましいじゃん?
あっしが助けた恩の代わりに付き合えって言ってる様な気がしてさ」
「甘いですね~。恋と戦争では何でも許されるんですよ。
とにかく、紳士ぶってはっきり告白しないままレベッカさんに優しくしてあげましたよね?
それがダメだったんですよ。レベッカさんはご主人の好意が恋心じゃないとしたら何だと判断すると思います?
彼女の過去からしたら憐れみからと誤解されてもおかしくないですよね?」
そういう事だったのか?
「更に彼女はご主人が思ってる以上に心に深い傷がある訳です。
奴隷として扱われた経験から、どうしても自分に対する好意が憐れみだと感じ易いんだと思いますよ。
相手の素直な好意とか恋心とかとは無縁だったんですから。」
だからあんな風にあっしを拒んだのか?
「だから、ご主人が今すぐしなくっちゃいけないのは、その単純な恋心を伝える事です!」
そうサラッと言うと、キルリアはどこからともなく便箋とペンを取り出した。
「いや、ちょっと待て、これに書けって?
でもさ、やっぱり押し付けがましくないか?」
ハァ、やれやれとキルリアが首を振る。
「ご主人も鈍感ですねぇ。間違いなく彼女はご主人が好きですよ」
……え?
……全身がカッと熱くなるのが分かる。
いや、まさかそんなはずは……
慌ててキルリアに問いただす。
「ちょ、ちょっと、ま、待て。何でそう言える?そんな保証は、ど、どこにもないぞ」
呂律が回らない。落ち着け、あっし。
「だからにぶいですね~。彼女からしたらご主人は王子様ですよ。例え弱くっても、宿屋の亭主でも、ね。」
頭の中で何とか今の言葉を消化する。
しばらくして頭の中で一つの事に思い当たった。
「……じゃあ、あっしがわかってなかったのは……レベッカが欲しかったのは……あっしの同情じゃなくて……?」
「そう。まだ今なら間に合うかもしれませんよ?」
キルリアは大げさにウインクして部屋を出ていった。



 目の前に転がる羽ペン。
まだ間に合うか?
正直かなり不安。あっしは暫く固まったままだった。
というか、恋文の書き方なんて知らないし、な。

いいや、ダメ元で書いてみよう。
例え失恋に終わっても、後悔したくないし、な。
 さて……書き出しはどうするんだ?
散々悩んだ挙句、無難な書き出しであっしはペンを走らせ始めた。
「レベッカへ
君が居なくなって二週間経った。
あっしがこれから書くことをどう受け止めてるかは勝手だけど、レベッカ、君に伝えたい事がある…………」




 苦闘二時間半。
何度も書き直しを重ね、遂に終わった。
先程のオニドリルに封筒を託す。
「これをレベッカまで。出来れば速達で今すぐ頼める?それ只にしてやるからさ」
木の実を啄んでいたオニドリルは、口にオボンの実をくわえたまま大きく頷いた
「ふぁいよ、ひょうひした!」

 オニドリルが空高く飛翔する。
次第に小さくなるその姿を眺を、あっしは最後まで見送っていた。
その姿が北を目指して、小さな点になるまで。


あっしの想い、レベッカ、君に届け。


 秋も深まる昼下がり。
街道を土煙を上げながら荷車が通り過ぎる。
ガヤガヤと騒がしい道路を縫って、私は一枚のドアの前にたどり着く。
手提げ鞄を脇に下ろし、ふうっと一息ついた。
見慣れた木のドアはあの時となんら変わりはない。
“寄木亭”の金色の三文字がドアの真ん中の小窓に踊っている。
その掠れ具合が妙に懐かしい。
 おかしな話だ。
ここには一ヶ月しかいなかったはずなのに。
そして、ここを去ってから一ヶ月しか経ってないはずなのに。
 私はドアノブに手を掛け、そして手を離す。
私は躊躇していた。
バーナムの手紙を肩に掛けたポシェットから取り出す。
しわしわになるまで何度も読み返したそれは、私がここに来た理由だった。
もちろん、中身はほとんど暗記している。
それでも私はもう一度それを広げた。
彼らしい、拙いラブレター。
私はそれを見てクスッと笑う。下手だなぁ。
だけど、それを見て心は決まった。
この手紙は、これから宝物になる。
私がドアを開けるから。
手紙をしまい、もう一度小窓から中を覗こうとした瞬間。

バーン!

ドアが乱暴に外へ開いた。
それはまさにドアに近づいた私の鼻面に勢いよくぶつかった。
「あいたっ!」
鼻先を押さえ、じわっと込み上げる涙をこらえると。

そこにはバーナムが立っていた。
青い瞳がハッと開かれ、手にした洗濯物を取り落として。


お互いに相手をまじまじと見つめる。
「……ひどいじゃない」
私は言った。
「……ごめん」



 そしてバーナムは私をはっしと抱きしめた。
暖かい、柔らかな彼の感触。
私も長い毛に覆われた彼の長い体をギュッと抱きしめ返す。
バーナムが耳元で囁く。
「おかえり、レベッカ」
私は答えた。
「ただいま」

秋の日差しが、穏やかに二人を照らしていた。

お わ り



バーナム「いや~、やっと終わった~!…………マジで疲れた~」
レベッカ「ホントならページ一枚で終わるはずだったのにね。これで完結……ハァ……駄文長文に付き合ってくれた皆さん、ありがとうございました!」
バーナム「くそっ、もう二度と出演するもんか」
レベッカ「ホントにもううんざりよね……さて、カヤツリ連れて来ました~」
カヤツリ「読んで下さった方、ありがとうございました。ところでそこでゼェゼェ言ってるお二人、次回もよろしく!」
バーナム「は?もう一度言ってみろ。神と呼ばれる所以が知りたいか?とりゃっ!」
カヤツリ「いや、冗談だって!次回もよろしくね!次回こそは短編だよっ!(ヒュン!)」
バーナム「おいこら逃げるなー!逃すか~!」
レベッカ「……どうせまたいつの間にか長編になってんでしょ。えっと、感想があったら下に書いておいてね。じゃあまた。待てー、このダメ作者、食らえ、スカーフ噴火!」

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  • ついに完結ですか!最後にバーナムとレベッカが素直になれたところが最も良い場面でした!執筆、おつかれさまでした!
    ――NO NAME ? 2010-01-30 (土) 16:36:13
  • >>サーナイト好きさん
    前回がアンハッピーエンドだったので今回はハッピーエンドにしてみました。
    これはこれでなかなか難しかったのですが。
    表現力稚拙な私にとっては実は再会シーンよりは怒りの感情の方が苦戦してたりします。
    大量更新の駄文にお付き合い頂きありがとうございました。
    >>NO NAMEさん
    やっと終わりました。
    仲直りはちょっと短絡的になってしまった気もしますが、気に入って下さったなら幸いです。
    今後も頑張ります。
    沢山コメントどうもでした。
    ――カヤツリ 2010-01-30 (土) 18:13:06
  • 無事仲直り出来て良かったです。
    アレ?なんか普通の感想になっちゃいました(汗)
    とにかくよかったです!
    我ながらひどい感想だな、これ
    ――海月 ? 2010-01-30 (土) 18:40:35
  • お疲れ様でした!読んでましたがついに二人は…w
    バーナムとレベッカの新婚生活?をちょっと覗いてみたいきもします。
    ――(´・ω・`) ? 2010-01-31 (日) 01:49:28
  • >>海月さん
    いえいえ、私めの文章によかったなんて言っていただき恐れ入ります。
    具体的な言葉でなくても楽しんで頂ければ幸いです。
    もっと主題を明確に出来るよう今後も精進して参ります。
    >>(´・ω・`)さん
    キャッキャウフフ成分でしょうかw。
    実は当初は最後に二人のそういうシーンを予定していましたが、更なる長文化の危惧、作者の官能下手、作風の個人的嗜好により削除してしまいました。
    神速プレイなんかが用意してはあったのですが。
    ――カヤツリ 2010-01-31 (日) 09:09:11
  • こ・・・この後が気になりますねw^^
    文章的にもイメージしやすく、読みやすく、面白かったです!

    レベッカ幸せになっておくれ(≧人≦)
    ――。(pωq)。 ? 2010-05-27 (木) 17:00:32
  • ……こんな昔の作品を引っ張り出して読んでいただきありがとうございます。
    現在スランプの身としては救われる思いです。
    文章に関しても内容に関してもまだまだ青臭い時期の作品ですが、楽しんでいただければ幸いです。
    続きですかぁ……官能は……正直逃げましたw。すいません><。

    さて、こっちのシリーズも書かないといけませんねw
    下地は出来上がっているのですが。
    ううむ……頑張らねば。
    ――カヤツリ 2010-05-28 (金) 01:42:12
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Last-modified: 2010-01-30 (土) 00:00:00
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