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BCローテーションバトル奮闘記・第二十二話:ポケモンも揃って一家団欒

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「『ただいま』!」
「『ただいま』ー!」
 私とキズナは、ロトムに見せ付けるように手話をする。母さんが見ていないとこの手話は挨拶としては意味がないけれど、挨拶を覚えてもらうためには本来言うべき相手が誰も見ていなくともこうするべきだ。まぁ、この子がいずれ手話を使えるようになるかどうかは分からないんだけれどさ。

 家に帰ってみると、家はやっぱり暑かった。キズナも設定温度を30度以下にしないが、母さんにいたってはエアコンなどつけないからだ。
 今ならこの子が吹雪をぶっ放すくらいは楽勝かもしれないけれど……けれど、さすがに中身の入った冷蔵庫をロトムに憑依させるのは無謀か。せいぜい扇風機がいいところだろう。そんなことを考えていると、あの不法投棄現場からいくつか電化製品でも持ってきたら、ちょっとばかし生活が充実したかもしれないと思う。
 冷蔵庫も、缶ビールを冷やすための小さな奴とかあるし、電子レンジだってそこまで大きくはない。冬の寒い季節、ヒートフォルムのロトムの恩恵にあずかる場面を想像してみると、なんだか素敵なことのような気がするし、今だってこの暑い状況をどうにかしたいと思う。
 うーん、今度コロモを連れてゴミ漁りでもしてみようかしら? いや、我ながら何を考えているんだ……。どうも私は、下半身が不自由になってからポケモンとの関わり方も変わって、また人間関係も変わったおかげで少しばかり女を捨てた思考が目立つようになってしまった。
 ゴミ漁りなんて、以前の私だったら汚いだとかなんだとか思って、絶対にしなかっただろうなぁ。でも、なんと言うかお洒落する気がなくなってきたら、こんな思考が浮かんでくる。自分が言うのもなんだけれど、人間って結構面白いものである。

「あら、お帰り。どうだったのかしら、アオイ……あ」
「へへー。見てのとおり、よさげな子を一匹家に連れて帰ってきたよ」
 母さんは、ロトムを見ると嬉しそうに驚いていた。こういう反応をされると、なんだかちょっと誇らしげになっちゃうな。
「あらあら、この子はその……電動車椅子と憑依出来るの?」
「うん、まだ難しいけれど、いずれは完璧に憑依をこなせるようになると思う。この後は、その特訓とか、仲良くなるために皆と一緒に庭に放してみようかと思うの。あ、あとお母さん。ポブレありがとうね。これ、バスケット」
 と言って、私は空になったバスケットを母親に渡す。
「あらあら、ずいぶんたくさん持っていったけれど、残りはないの?」
「全員で全部食べちゃった。野生のロトムにもたくさんあげたから、もう残っていないわ」
「あらぁ、人気だったのねぇ。そんなに美味しかったかしら?」
 私が全部食べてしまった経緯を伝えると、母さんは嬉しそうに笑う。
「そりゃもちろん。母さんの作ったポブレだもの。美味しいに決まっているぜ」
「嬉しいわぁ。また作っちゃおうかしらねぇ」
 キズナも一緒になってほめれば、母さんはたちまち上機嫌。
「おー、楽しみにしてるぜ」
「ぜひお願い、母さん」
 キズナと私ととで、一緒になって褒める。
「じゃ、そのうちね」
 最後の一押しで、母さんはそういってくれた。明日作るというようなことはおそらくないだろうが、おそらく一週間以内にはまた焼きたてのポブレが食べられることだろう。

「さて、ね……ロトム。この人が私のお母さん……」
「はぁい、よろしくね。名前はオダイって言うの。ミカワオダイよ、よろしくね」
「あぁ、名前……この子のニックネーム、どうしよっか、キズナ?」
 母さんが自己紹介するまで、すっかり忘れていた。名前はどうしようかな?
「まだ決めてなかったの?」
「そーいや、忘れてたなぁ」
 母親の問いに、キズナが答える。
「そうね……この子は……私の足の代わりになりうる子だから……輿(コシ)。コシなんてどうかしら?」
「ねーちゃん。コシって何だ?」
「ジョウト地方とかで使われた移動手段でね……かごみたいなものに人を乗せて、2人以上の人員で運ぶものよ。タイヤとかに頼らないからむちゃくちゃ重くて担ぐのは大変だけれど……ゴーリキーとかが運営する輿は重要な観光資源にもなっているそうなの。ランセ地方でもカンベエとかヨシツグみたいな足が悪くなったブショーは輿に乗って戦場で指揮を下したりもしたそうよ。
 まぁ、一説によればポケモンが一人で輿を乗せて走り回っていたというのも聞くけれど」
「へー……なるほど」
「ランセ無双のゲームをやるまでは知らなかったけれどねー。で、どうかしらこの名前?」
「アオイがいいと思うなら、それで良いんじゃないかしら?」
「俺もそう思うよ。ねーちゃんのポケモンだし」
 よし、母さんもキズナもOKみたいだし、後はロトム本人に聞くだけね。
「ねぇ、君。君の名前……これからは『ロトム』じゃなくって『コシ』って呼びたいんだけれど……いいかな?」
 私が問いかけると、ロトムはどうしようかと悩んでいる風だったが、やがて大きくうなずき、了承してくれる。
「いいのね? いいのなら、もう一度頷いて」
 確認のためにもう一度呼びかけると、ロトムはきちんと頷いた。
「……『ありがとう』。じゃあ、貴方の名前は今からコシね」
 名前が決まった。それがコシにとってどういう意味を持つのか、まだ本人は分かりかねているようだけれど、いつかはその名前を誇りに思える日が来ると良いな。
「『よろしく』な、コシ」
「お母さんのことも『よろしく』ね」
 キズナと母さんが、手話を交えてよろしくという。手のないロトムには答えることは出来なかったが、まぁ、それはそれとして……。
「それじゃあ、今から少しだけ、皆と遊んでもらおうよ、キズナ。さっき一緒にポブレを食べたけれど、やっぱり一緒に遊んでもらったほうが交流も深まると思うしさ」
「そうだな。あと、その前にねーちゃん」
「何かしら?」
「一応、尻を怪我していないか見ておこうぜー」
 ……忘れてた。というか、忘れててくれれば良かったのに。うーん……痣とかになっていないといいけれど。

 ◇

 騒がしい声を聞いてのぞいて見ると、またなんか仲間が増えているようだった。あたしは……他の皆は良いんだけれど、またあの女、キズナがいる。でも、キズナは、普段はとっても優しそうだけれど、あたしを捕まえたときは……セイイチも、甘い顔で騙してまた何かされそうで怖い。
 皆は普通にしているけれど、あのときの怖いキズナやセイイチはなんだったんだろうか? キズナは姉のアオイを連れて、ロトムに名前をつけたかと思うと、こっちの部屋にやってくる。アオイがいるうちは下手なことをしてくるとは思えないけれど、やっぱり怖い。
「お、セナだ」
「まだ怖がっているみたいねー。キズナのせいで」
 アオイさんの言うとおり……そりゃ、怖いよ。あの時、すごく痛かったし、殺されると思ったし。
「無理強いは出来ないか……ねーちゃん。それじゃあ、ちょっと床におろすぞー」
「お願い」
 そういって、アオイさんは床におろされたかと思うと、いきなり服を脱いで何かを調べ始める。アオイさんは恥ずかしそうにしているけれど、いったい何をやっているのだろうか。しかし、キズナさんべたべた触っているなぁ……手触りでも調べているのかな?
「キズナ、やたら入念に障るわね?」
「あぁ……やっぱり血行が悪いのかな。ねーちゃんはエコノミー症候群になっても感覚がないから木津絵kないのかもしれないし、ちょっとマッサージをしようかと……」
「えー、いいわよぉ。こうやって寝っ転がっていれば何とかなるだろうし」
「でもよぉ……マジで放っておくと毒素が尻から下に残る事もあるんだってよ?」
「だからそれをこうして寝転がってどうにはするんだって……」
 二人はなんだかよくわからない会話をしている。よくわからないけれど、アオイさんは尻を揉んだ
方がいいらしい。

『よぉ』
『あ、えっと……コシさん、でしたっけ?』
 アオイさんのほうを見ていると、先ほど仲間入りしていた黄色くて丸いポケモンがあたしの目の前に現れる。
『そうだ。ロトムって種族のコシ……お前は、エルフーンの……』
『セナって呼ばれてる……』
『なるほど、セナか。ところで、なんか隠れてたけれど、何かに怯えているのか?』
『キズナに……』
 コシ君……この子も、キズナのことはぜんぜん怖がっていないのかな?
『あぁ、あの子か……確かに、逆らう奴には容赦ないというか、むちゃくちゃ強かったけれど……基本的に悪い奴じゃないんじゃないかな? 怖かったとしたら、お前が悪いんじゃない?』
 う……痛いところ突かれちゃった。
『確かに、あたしが悪かったけれど……でも……』
『まぁ、詳しくは聞かないけれどさ。キズナさんは怒らなきゃ怖くないと思うし、怒らせなければいい話だと思うよー?』
 アオイさん立ちは服を脱いで何かを調べていたが、どうやらそれも特に問題なかったらしく、再び服を着ると、アオイさんがこちらに近づいてくる。
「セナ。これから、コシ君の歓迎バトルしようと思うんだけれど、貴方も一緒にどうかしら? 見るだけでも大歓迎よ」
『だとよ、ユーはどうする?』
『アオイさんが頼むなら……』
 アオイさんが言うなら大丈夫……だと思う。あたしはアオイさんに向かって頷く。
「決まりね。コシもおいで……あ……」
 何に気づいたのか、アオイさんは後ろを振り向く。
「あー、そういえばそんなのもあったなぁ」
 キズナが言う。いったい何なの?
『おぉ、扇風機だ……』
 視線の先には、人間たちが使う風を起こす道具がある。あれがどうかしたのかなぁ?

『それが、どうかしたの?』
『どうもこうもないさ。ああいう電化製品があれば、ミーは強くなれるのさ』
 言うなり、コシは扇風機にぶつかりに行った……はずなのに、衝撃音もなく、扇風機の色がどんどんと変わってゆく。やがて、扇風機の全体が黄色になったかと思うと、それはふわりと浮き上がって、奇妙な動きをする。
『ジャジャーン』
 回る羽はむき出しになり、土台となる部分にはコシの顔が付いた。
『すごい……』
『へへー。ロトムは人間が作った機会と融合することが出来るのさ』
 得意げに笑って、コシは風を出しながらふわふわ浮かんで周囲を回っている。そのまま、アオイさんとキズナの近くまで行くと、急激に回転して強い風なんかを起こしたりもした。
「ひゅう!」
「部屋が密閉されてるから生暖かい風だなぁ……」

 二人とも、驚きはしたけれどまんざらでもない様子……アオイさんは苦笑している。あたしも悪戯したけれど、キズナの反応の違い……悪戯はやり過ぎるといけないってことなんだろうけれど……でも、キズナはやっぱり怖いよぉ。
「さ、コシの準備も出来たことだし行ってみようぜー。コシがどんなバトルをするのか、楽しみだなぁ」
 そんなあたしの気持ちを知りもしないで、キズナは外へとけしかける。はぁ……キズナとセイイチがいなければ良い家なのに……。


「みんな、出て来い!」
 そういって、家のまん前にある空き地に、キズナが手持ちのポケモンを繰り出す。タイショウ、アサヒ、セイイチ。そして、アオイさんのコロモもだ。
「それじゃあ、相手は誰にするかぁ……コシ、誰か戦いたい奴はいるか? それとも、戦うのは後にして、皆でボール遊びでもするか?」
『いやぁ、ミーは……せっかくこの体になったんだし、戦いたいけれど……どう伝えればいいんだ?』
 コシが尋ねると、コロモが名乗りでる。
『僕が伝えるよ……といいたいところだけれど、軽く放電してみたら良いんじゃないかな?』
『放電、かぁ』
 言われるがままコシは軽く放電する。周囲に電気を撒き散らす。コロモは、『戦いたい』と手話で言っているようで、二人の動作を見ていたキズナは上機嫌そうに頷いていた。
「よし、やる気満々だな。で、誰が戦う? コロモが戦うと確実に勝負にならないけれど……そうだ、セイイチは? お前くらいならばきっと、ちょうど良いだろ?」
『ん、オイラ? 「了解」、って言うかむしろ「戦いたい」』
 セイイチ、乗り気だなぁ……。あいつ、人を傷つけるのが好きなわけではないんだろうけれど、こいつあたしを捕まえたとき笑っていたんだよなぁ……はぁ。あたしがあんなことしなければ、セイイチもあんなことしなかったのかなぁ?
「おし、セイイチもやる気満々だな! そういうわけで、コシとセイイチ、二人で歓迎バトルだ。勝ったほうにはいい物あげるから、頑張れよ!」
 そういえば、あたしは歓迎のバトルなんてものをやったことないな。あたしがこうして戦いたがらないから、誘わないだけなんだろうけれど……はぁ。あたしは何をやっているんだろ? 一歩踏み出せば、もしかしたら普通に、今のコシみたいに受け入れてもらえるかも知れないのに。
 でも、アオイさんはともかくキズナとセイイチは怖いし……。
『ねぇ、セナ?』
『へ!? は、はい!?』
 一人、自分の世界に入っていたあたしは、突然話しかけられて肩をすくめる。
『セナは、バトル嫌いなの?』
 話しかけてきたのは、アサヒだった。最初のころこそ、あたしのことを食料を見るような目で見てきたけれど、今はそんなことなく、他の家族と同じようにあたしのことも見てくれる。
『いや、そんなに嫌いじゃないけれど……でも、いじめられるような、実力差があるのは嫌い』
『じゃー、いつか私と一緒に遊ぼうよー。別にバトル以外でも何でもいいんだよ? ボール遊びでも、鬼ごっこでも』
『うん……でも』
『でも、じゃないよ。タイショウもコロモも、君が馴染めていないからみんな心配しているよ? 仲良くできればいいのにって、みんな思っているし……』
 それは分かるんだけれど……怖いんだ。またはめをはずして、今度はアオイさんやタイショウまで敵になったりしないだろうかとか。
『みんな優しいよ。だからみんな笑顔でいられるのに、1人だけ暗い顔をしていたらもったいないよ』
 アサヒちゃんはそう言って、私に笑顔を見せた。とっても素敵な、まぶしい笑顔だ。
『ほら、2人のバトルが始まるよ。見てみようよ』

 アサヒが指差した先を見る。
『よろしくお願いします!』
 今始まったばかりらしい2人の戦いだけれど、セイイチはまず、勢いよく挨拶をしようとして体を前にしすぎて転んでしまった。
『あいた!』
 また、新しいパターンの演技だが、コシは早速騙されてしまったらしい。
『おいおい、大丈夫かお前……むげっ』
 心配して、コシが覗き込んだのが運のつき。セイイチは地面に生えていた草を引っこ抜くと、それを相手の顔に叩きつけると同時に、草をファンに絡ませた。これで、あの羽を使った技も使えなくなっちゃうね。
『へっへーんだ。勝負は非情なんだぜ!』
『くっそ!』
 面食らって、コシは追撃を食らわないように、十万ボルト。でも、狙いは付いていない、あてずっぽうだ。
『いてっ……』
 と、セイイチは声を上げているけれど、コシの目が見えていないおかげか、かすったぐらいであって威力も命中も大したものではないみたい。コシがまだ目を開けていられないうちに、セイイチは胸を膨らまして空気を取り込み、大きく吼える。うるさぁい……吼えただけのそれに殺傷能力はなさそうだけれど、コシは一瞬びくりと動きが止まった。あたしはその上に、耳の感覚が一時的に麻痺してしまう。

 これにてコシが目も耳も使えなくなったところで、セイイチは岩の力をその手に集めてストーンエッジ。何かをしようとしていることをおぼろげに察知したコシだが、それを放つタイミングも方向もつかめないまま、クリーンヒットした。
 コシは変に逆らおうとせず、はじかれた小石のように後退して距離をとる。やっと泥を払って目が見えるようになったし、ファンに絡まった草を引き剥がせた頃には、セイイチがもう一度ストーンエッジを飛ばす。
『やりやがったな!』
 怒りをあらわにして、コシはファンを回転させ、大きくバックすると同時に途端、空気の刃がセイイチを狙う。風の力の多くを推進力に回したため威力は低いが、格闘タイプであるセイイチには効果抜群だ。セイイチは空気の刃から、腕を翳して自身の身を守り、徐々に身を低くして地面に伏せる。
 そのまま何をされるかも分からないと、コシは次こそだまされないために、次の技を放つべく息を整えつつも、もう近づかないことに決めたみたいだ。
 すると、セイイチは思わず耳をふさぎたくなるようないやな音を発する。そのおかげで、コシは集中も途切れてしまっている。どこから出したのかも知れないようなその音で作った隙を、セイイチが見逃すはずもない。
 三度目のストーンエッジだ。セイイチが作り出した刃は、コシのファンにクリーンヒット。あそこまで見事に当たってしまったら、もはや勝負を続けることは難しいだろう。実際、難しいどころか、ふらふらと怪しい挙動をした挙句、そのまま浮遊する力をなくして地面にへたり込んでしまった。
 セイイチはそれを覗き込みながらストーンエッジをいつでも出せる構えをして、勝者の風格を出している。あんな卑怯な戦い方の癖に勝つなんて……セイイチなんて負けちゃえば良いのに。

「勝負アリかな……さすがセイイチ、強いねえ」
「強いって言うかこれは……これは酷いわねぇ。こんな戦い方をしていたら、ルカリオになって他人の心が読めるようになったら自己嫌悪に陥るんじゃないかしら? たしか、ミヤビだかハルカだかって言うルカリオがそんな感じだったんじゃ……」
「あぁ、そんなのいたなぁ。ダブルバトルでクダリさんと戦って惜しくも負けていた人だっけ? そういえばあの人のルカリオも正義の心なんだよな……」
 キズナとアオイさんはセイイチに向かってそう言いながら、共に苦笑する。そして、足が自由なキズナはセイイチよりも先にコシへ歩み寄り、抱き上げた。
「惜しかったな、コシ。セイイチは悪戯心って特性だからさ、すごく戦いにくかっただろうけれど、どうだ?」
『もうこいつとは二度と戦いたくねぇ……』
 ため息混じりにコシは頷いた。そうだよねぇ……セイイチは酷い奴だよ。あたしは嫌い。
「どうやら、あいつの戦い方は嫌いって感じだな。でもまぁ、味方にしてみればあれはあれですごく頼もしいから、重宝するだぜ?」
『敵として出会いたくはないってば』
 コシは苦笑していた。そりゃ、あんなふうに戦う敵なんて、味方だろうと絶対に好きになれないよ。
「またこういう反応か。セイイチってば、やっぱり嫌われる性格だよなぁ」
「そりゃねぇ……私も見るたびに相手がかわいそうにな気分になるし」
 キズナもアオイさんも苦笑している。しかし、自分のことを棚に上げて嫌われる性格だなんて……いや、あたしもそうなのかもしれないけれどさ。
『ねぇ、セナ?』
『なに、アサヒ?』
 キズナがコシを姉に預け、自身はセイイチの頭を撫でたところで、アサヒは私に話しかけてきた。
『私と一緒に戦ってみない? セナがどんな風に戦うのか、見てみたいんだけれど……』
『え……』
 明るく笑いかけながら、アサヒは私に語りかける。
『言ったでしょー? タイショウもコロモもアキツも、みんな心配してるって。だから、私たちで仲のいいところを見せちゃおうよ』
『でも、あたし……まだ、皆とまともに話してすらいないのに……』
『そのきっかけにしようよ。頑張って戦えば、キズナはきっと褒めてくれるよ』
 キズナが……褒めてくれる……それは、嬉しいことかもしれないけれど、でも怖いよ……。
『もう、そんなに俯いちゃって……』
 そんな事いわれても、怖いものは怖いんだよぉ……また、酷いことされるんじゃないかと思うと……
『何かあったら僕が守りますよ』
 そんな事を考えていると、いつの間にかコロモがそばにいて、あたしの背中を軽く押す。向こうを見れば、腕組したままのタイショウもこっちを見て頷いているし……つまり、あたしに戦えって事なのだろうか。うぅぅ……
『もういい! そんなにいうならやってやるもん』
 皆がそんなに言うなら、やればいいんでしょ。
『よーし、言ったな?』
 言ったよ、アサヒ。もうどうなったってあたしは知らないもん。
「ほーう。なんだか皆でセナの周りに集まっていると思ったら、セナはもしかして……」
『「戦いたい」んだって』
 アサヒが、私を指差して手話で伝える。
「そうか、『戦いたい』のか……相手はアサヒかな?」
 私の手を引っ張って、空き地の中心部に連れ込むアサヒを見て、キズナは言う。
「へー……アサヒもセナも女の子だし、仲良くなれているのかしら? なんにせよ、セナがこうやって積極的に皆にかかわろうとしてくるのは初めてだし……頑張りなさいよ、セナ!」
 分かってる。もう私だって腹を決めたもん。だから……
『容赦しないからね! アサヒ』
『それはこっちの台詞だよぉ。セナ!』

 ◇

 これは驚いた。まさかセナがやる気になるだなんて……思えば、わが妹、キズナが酷い方法で捕獲してきたことを報告してから1ヶ月が経っている。それまでは懐かせるために手渡しで餌をあげたり、ポケモンたちと交流させたりで苦労したけれど、ポケモンたちの間でも色々あったのだろう。
 コシの参入をきっかけにこうして交流を図れるようになったのであれば、セナも成長したもんだ。
「よし、2人ともやる気十分みたいだな」
「いやいや、キズナ。少なくともセナは勇気を振り絞って何とか立っているって感じだけれど……」
「細かいことは気にするなって」
「細かくないわよー……」
 これだから妹はだめなんだ。あえて空気を読んでいないのか、本気で空気を読んでいないのかは分からないが、もう少し考えて欲しいものだ。
「ともかくあれだ。以前は逃げてばっかりだったから、本来のセナがどんな戦い方をするのか分からなかったけれど、ようやくセナの戦いが見られるんだ。さっさとはじめちゃおうか」
「そうね。よし、それじゃあ2人とも構えて……」
 キズナがじれったそうにしていた。セナに何か声を掛けていたコロモもこちらに戻ってきたことだし私は早々に開始の音頭をとる。
「始め!」
 宣言した瞬間に、アサヒが飛び出した。コジョフー定石といえば猫だましで、アサヒはその定石どおりに自身の手をパチンと鳴らしてセナの隙を作るらんとする。だけれど、セナは猫だましをそもそも見ていなかった。いきなり後ろを向いたかと思えば、エルフーンの特徴であるもこもこした背中の綿のボリュームを何倍にも増やす。
「コットンガードか……」
 正面からの攻撃には意味がないが、あれをやっておけば背中で攻撃を受けてもほとんど喰らわずに済んでしまう。物理攻撃が得意なアサヒに対しては有効な防御手段である。そんな綿にもかまわず、アサヒは綿をつかんで飛び膝蹴り。しかし、無常にも綿はちぎれて、アサヒの体毛に絡まったままアサヒは飛び膝蹴りの対象を失い転がってしまう。
 とび膝蹴りを外して、体勢を崩したまま着地する際はきちんと受身を取れたが、手には大きな綿がくっついていた。絡まった綿は無用の長物でしかない。
「セナはすり抜けの特性……なるほど、綿が千切れやすく……」
 キズナがその状況を解説した。なるほど、エルフーンはああいう風にすり抜けるのね。
「キュー……」
「ピィッ!」
 アサヒとセナがそれぞれ泣き声をあげる。アサヒは手に付いた綿をうっとおしく思いながら、再びセナに迫って掴みにかかる。セナはそれに背中を向けて鉄壁の守りをし、攻めあぐねているアサヒに対して、背中のヘタからヤドリギの種を飛ばす。

「あ……こりゃ勝負ありかなぁ」
 キズナには空気を読んで発言して欲しいところだけれど、残念ながらそのとおりかもしれない。アサヒにはセナに有効打を与えづらいし、逆にセナはアサヒの体力を奪い続けることも出来る。どう考えても不利は否めない。
 今度のアサヒは表層のみならず、綿の奥のほうまでつかみ掛かって飛び膝蹴り。ほとんどダメージはないに等しそうだが、根元近くの綿は千切れにくいおかげで、きちんと膝蹴りは当たるし、それに後ろを向いているわけだから振り払うための抵抗も出来まい。セナはそれに対してどう対応するのかと思っていたら、アサヒが掴んでいる綿からは黄色い粉が振りまかれる。
「麻痺の粉……アサヒ、離れ…・・・無駄か」
 背中の綿を掴んだままでは上手く反応も出来なかったのか、アサヒは粉をまともに吸ってしまったようだ。そのまま何回か背中に飛び膝蹴りを喰らったセナだが、ダメージは軽微。痺れと疲れで手の力が弱くなったところで、セナはアサヒから解放されて、振り向きざまに風を起こす。
 彼女を取り巻くように起こりだした風は、やがてアサヒを狙って吹きすさび、地面の細かいものを巻き上げ飛ばし、吹き飛ばされないように目のめりになっているアサヒをあざ笑うかのように激しい暴風を巻き起こす。危なそうなので、コロモがさり気なく車椅子を引いて避難させてくれた。
 さてさて、麻痺で満足に動けない状態で暴風を食らったセナは、吹き上げられた挙句に地面に落ちたときには、まだ立ち上がろうという意思は見せたものの、これ以上の戦いは危険だと素人目にも分かった。
「ふむ……アサヒちゃんは戦闘不能のようね……よって、セナちゃんの勝ち」
 片膝を付いて肩で息をしていたアサヒは、私の宣言を聞いて、張り詰めた糸を切って地面に倒れこむ。やはり、立ち上がることすらすでにまともに出来る状態ではなかったようだ。アサヒったら無茶しちゃって……。
「アサヒ、大丈夫か?」
 キズナは真っ先にアサヒの元に駆け寄り、その体の様子を見る。頭を打った様子もないし、少し休んだら少しふらつきながらもコロモの元へと向かっていった。おそらくは癒しの波導を掛けてもらうつもりだろう。
「アサヒは大丈夫か……それなら、セナ。お前よくやったな」
 キズナが立ったままずんずんと歩く。そうやって自分の大きさを見せ付けるのは、少々威圧感を与えてしまいそうな気がするのだけれど……でも、セナはぐっとこらえて、後ずさらずに立っている。キズナがしゃがんでもふもふした綿に触れ、それでもぐっとこらえている。セナの足や腕に力が入っているのが分かるし、ちょっと震えているようにも見える。
 やっぱり、怖がっているのは否めないけれど、それでも勇気を振り絞るだけの心境の変化は有ったらしい。
「戦ってみたら意外と強いじゃないか……。ずっとお前と話す機会すらなかったけれど、乱暴な捕まえかたしてごめんな」
 そのまま手を下ろして、キズナがそっと頬を撫でる。明らかにセナの体は強張ったが、セナはそれを受け入れた。
「……そんなに緊張するな。俺はもう怒っていないから、お前を殴る理由も、傷つける理由もない」
 キズナは優しい言葉をかける。しかし、セナはまだ体を固くしたまま。一切動こうとはしない。これがアサヒなら、しゃがんだキズナの胸のあたりの顔をうずめるか、顔をなめたりして甘えるのだが……まだ、完全に気を許したわけではないみたいね。
 でも、大きな一歩だ。じっと愛撫を受け入れ、満足したキズナがそっと手を離す。体からこわばりが抜けたセナは、その場に座り込んでしまった。キズナの嫌われっぷりが良く分かるリアクションだ。けれど、それが終わったセナは、真っ先にコロモに抱かれているアサヒの元へと駆け寄っている。
 ぴょんと飛び上がり、ふわりと降りながら、アサヒを抱いているコロモの腕をつかみ、何事かを言い合ってお互いに頷きあう。その後は、コシとセナが改めて自己紹介するように、皆に向かって挨拶のようなことをしていた。
 何を言っているのか、人間にははうかがい知れないけれど……うん、なんと言うかよかったなぁ……アサヒとセナがあんなふうに打ち解けられるなんて思っても見なかった。これをきっかけに、カズキ君とのバトルもせめて4対4で出来るようになると良いんだけれどね。カズキ君は何かポケモンゲットできたかしら……?

 ま、いいか。今日はこれからコシと一緒に電動車椅子に憑依する練習をして、それが終わったらレポートを書こう。


今日は、ロトムの捕獲に出かけました。
なぜロトムかと言うと、私が購入した電動車椅子に、ロトムを憑依させられないかと考えたからです。
結論から言えば、憑依は出来ました。16の個体の中から、見込みのある者を選び、夜暗くなるまで練習していたら、憑依もある程度スムーズに出来るようになっていました。その状態で走り回ったり飛び回ったりするのは、まだまだ無理みたいだけれど、いずれそれも出来るようになるって私は信じています。
取り敢えず、そのロトムの子供には、輿(コシ)と名づけました。輿のように、誰かを運んでいけるポケモンになれるようにと願いを込めた名前です。
しかし、まだまだ融合も不完全。ためしに電子レンジや扇風機、洗濯機などに憑依させると一瞬なのに、車椅子だと何十秒もかかるわけですから……優秀な個体同士の交配を繰り替えした遺伝子が拡散して、今のロトムはほとんどの個体がああやって電化製品に憑依出来るというが、その交配をしたプルートとかいう学者は、その悪行を思えば不本意ながらも偉大であると思う。

まだま、このイッシュと交流のない地方では掃除機のロトムやチェーンソーのロトムなんてのもいるらしい。私たちが新しいロトムを作り出し、それがこれからの役に立つとしたら、それはすばらしいことよね。願わくば、コシがその第一歩となれますように。


さて、コシについてはここまでだけれど、もうひとつ特筆するべきことが今日ありました。コシの参入をきっかけに何か思うところがあったのか、今日はついにセナがキズナに触れることを許しました。
アサヒと何かを話し合っていたかと思えば、アサヒと一緒にポケモンバトルをしたいと申し出て、そしてセナは見事に勝利を収める。コットンガード、痺れ粉、宿木の種、暴風……なかなか面白い技を持っていて、終始アサヒを圧倒していた。あの子なにげに強いのね。
ともかく、勝負に勝った後はキズナに撫でられたわけだけれど、彼女はそれを拒むことなくキズナの愛撫を受け入れていた。まだ体が強張っていたから、恐怖感は拭い去れていないみたいだけれど、怖くないということを他の子たちの神津から読み取れただけでも大きな成果だ。
他の子たちとも、バトルを通じて少し距離が縮まったみたいだし、今日のセナは言うことなしね。

こんな風に、毎日誰かが成長していけると良いな!

8月1日








コメント 


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お名前:
  • >2014-08-24 (日) 01:50:16の名無しさん

    コメントどうもありがとうございます。今回の作品は今までになく長期間の連載になってしまい、まさかのXY発売と重なってしまいましたが、最後まで書ききれてよかったとおもいます。
    次の作品はここではなく、別の場所、別の作品ですが、私に関係のある場所を回ってみれば作品の投稿に気が着けるかも知れませんので探してみてくださいな。

    ここで登校するのはいつになるかわかりませんが、再びここで会いましょう!
    ――リング 2014-08-29 (金) 23:26:10
  • 長い間の連載お疲れ様でした!

    密かに毎週楽しみにさせて頂いておりました。
    色々と思う所もあるのですが、長々となってしまいそうなので…、とにもかくにも、良い作品でした。

    次の作品も期待してます、。
    ―― 2014-08-24 (日) 01:50:16
  • >sunsetさん
    コメントどうもありがとうございます。時系列がおかしいのはミスでした。お恥ずかしい所を晒してしまいましたね。
    キズナとカズキの強さですが、設定上は一応レッドを超えない程度の強さなのです。レッドなら恐らく高確率でバンジロウに勝っている事でしょう。比較対象がおかしいせいで弱くは見えないですがね。
    また、二人の場合は優秀なライバルと優秀な支障がいたことが大きいのではないでしょうか。

    物語はあと3話ほどなので、8月で終わるとおもいます。それまでどうかおつきあいくださいませ。
    ――リング 2014-08-05 (火) 22:48:52
  • 決勝の前にキズナvsバンジロウを入れたんですね。試作にはないシーンなので新鮮でした。ただ時系列がおかしいように感じます(既にトウショウ手に入っている描写があったり、試合終わった後に決勝がこれからだという描写があったり。急いで書いたのかな?)
    結局勝てなかったキズナですがカズキのように格上相手に一矢報いているわけで二人の成長というものを感じます。ほんとに小学生かこいつら(蹴
    この作品も残すところあと僅かですね。最後まで楽しみにしてます。更新頑張ってください。応援してます。
    ――sunset ? 2014-08-01 (金) 00:53:56
  • >2014-01-11 (土) 17:00:50の名無しさん

    あの人は大して悩んでいないところとか、そもそもそんなに悪い事だとか思っていないので、あんまり話が通じないとおもいます。
    アオイさんは中学生の乙女なんです、多感な時期だからこそ悩みが深くなるのですよ。
    ――リング 2014-01-17 (金) 00:29:39

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Last-modified: 2013-06-21 (金) 00:00:00
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