ポケモン小説wiki
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Writer:&fervor


今日も、明日も。暫くの間は、ずっと晴れ。
天気予報を聞き終えた私は、空をそっと伺う。
…もうそろそろかな。いかなくちゃ。「彼」に会いに…。
私は、いつもの場所へと歩き出した。


「じゃあな~!!」
日もだいぶ暮れ、街は夕焼け色へとその色を変化させていく。
街の中に響く声が、音が、一日の終わりを知らせていた。
一日の終わりは、勿論俺にもやってきて。友達と別れて、俺は一人帰路につく。
…ちょっと、あの公園にでも寄ってみるか。
帰路の途中にある、海の見える公園。俺の大好きな場所。
そこへ向かうべく、俺は持っていたボールを頭に乗せて走り出した。

「お、見える見える」
この小さな公園からは、海のほかにもう一つ、よく見えるものがある。この時間だけに。
俺の目当ても、それだった。…さて、どっかいい場所、空いてるかな…。
「うわっ!」
散々遊んだ疲れか、俺の足はバランスを失った。
二足で立っていたさっきの俺は今、地面に突っ伏している。とりあえず、顔を上げる。
頭の上のボールは、きれいな放射線を描いて、一匹のポケモンの元へ。…当たった。
「す、すいません…」
急いで駆け寄り、謝る俺。…あ~あ、怒られるかな…。
「大丈夫ですよ」
わずか数秒で、俺の周りのマイナスの空気は吹き飛んでいった。
きれいとか、美しいとか。それも勿論あるけれど。纏うオーラが違うと言うか、何と言うか…。
一言じゃ言えない、俺の中にあふれ出す感情。一目惚れ…?
「怪我とか、無かったですか?」
見たら分かるけど、一応聞いておかないと。…というのは口実で、ただもっと話がしたいだけなんだろうな、俺は。
藍色の毛が身体の半分を覆う。残りの半分は、クリーム色。藍色の中には、赤い丸模様が。
彼女はきっと、マグマラシだろう。…まあ、同族の俺が言うんだから、当たり前なんだけど。
…こんなすごいマグマラシは、初めて見た。俺より1つ2つ上なだけなのに。
「ええ、どうもありがとう。心配してくれて」
目線が俺へと注がれる。…ああ、やっぱきれいだな…。
「当たり前ですよ。…あの、いつもここに?」
何とか話をつなげようと努力してみる。彼女と過ごせる時間を少しでも伸ばそうとする。
「ええ。夕陽が綺麗に出ている日は、いつも」
…ああ、もっと早く気がついていれば。何で気がつかないんだよ、俺の馬鹿。
「いつも、ですか。好きなんですか、夕陽?」
彼女の顔が、ちょっと暗くなった気がする。いや、寂しげな、懐かしげな、そんな顔。
「ええ。いろいろあって、ね。…貴方も夕陽を?」
彼女のほうから質問してきた。…予想外の展開に、俺はちょっとあわててしまう。
「あ、はい。…好きって言うか、なんていうか…」
「良かったら、訳を聞かせてもらえないかな?…敬語じゃなくっても、いいから」
彼女も俺に興味を持ってくれたみたいだ。…俺が思うには、だけどさ。
暫く考えて、俺は一つの結論を出した。…夕陽が好きな理由、か。なるほどな。
自分でも思う。改めて考えると、やっぱり変だ。でも、彼女なら聞いてくれるはず。
俺は彼女へ、自分の思うことを、思うままに、話し始めた…。

「あのさ、夕陽って、よく『寂しい』とか、『悲しい』とか、言われるだろ?
 だけど、俺はそうは思わないんだ。なんていうか、こう…」
彼女の顔をちらりと覗く。どことなく驚いたような表情。
…やっぱ変かな?俺?
そう思われてもいい。聞いて欲しかった。…もう少しの間、こうしてそばに…。
「こう…『別れ』だけじゃなくて。その後の『再会』まで約束してくれてるんじゃないかって。
 ほら、夕陽がきれいに出た次の日は、また晴れるって言うだろ?
 だからさ、夕陽っていうのは、俺達に『また会おう』って伝えているんじゃないかって、俺は思うんだ。
 そう考えたらさ、夕陽みてても、気が沈む、なんてことは無いだろ?むしろ、元気になれる。
 だから俺は、夕陽が好き…なんだと思う。…ごめん、分かりにくくって」
彼女の顔は、相変わらず驚いたまま。…やっぱ分かんないよな…。
少しの時間が流れた。俺はどこか気まずくて、夕陽のほうへと目線をそらした。

黄昏の空に浮かぶ、燃え上がる紅蓮の日輪。その輪郭が自らの熱で、光で揺らめく。
その最下部。小さな断片が今、深い蒼が紅に染められた海の裏へと落ちていこうとしている。
紅と蒼、そして眩しい白金の光が、今ひとつに交わろうとしていた。

…暫くそれを呆然と眺める。心の憑き物が光に射されて消えていく。…気がした。
「………ふふっ…」
笑い声。俺はその発信源を確かめようとあたりを見渡す。…一匹しかいなかった。
よく見ると、目の表面は透明な液体で覆われている。…泣い…て…る…?
「…いえ、ごめんなさい。あなたが、ちょっとあまりにも同じことを言うから…」
…同じこと?俺が?…誰と?
さっぱり理解できない俺は、ただ彼女を見つめるだけだった。
「…今度は私の話、聞いてくれる?ある少女の、たわいも無いむかしむかしの恋物語を」
彼女の顔が、さっきも見せていた、懐古感あふれる表情へと変わる。
…聞いてもいいのか?この話を。俺は。…見たら分かる。きっと、辛い思い出なんだろう。
彼女は俺の心を見透かしたのか、こう付け加えた。
「聞いて欲しいの。…あなたに。…『彼』と同じことを話してくれた、君に、ね」
さっきとは逆。俺は、彼女のその話を、食い入るようにして聞きはじめた…。

「そう、もう一年も前になるのかな…。『彼』と居た日々は」
「居た」。過去形。それが示す意味。なんとなく分かる。彼女の顔からも、声からも。
今、「彼」がどうしているのか。…俺、悪いことしたかもしれないな…。
「一年ぐらい前の話。私は…」

――ゴーン――

鈍く、低く、緩やかに震える空気。その波が、俺の耳へと届いた。
公園の時計を振り返ると、6時きっかりを示している。
「…ごめん!俺、もう帰らなきゃ!」
完全に忘れていた。時の流れのことを。…やばい、叱られる。
「…そっか、残念だな」
彼女との時間はもう終わってしまった。…もう会えない?…そんなの、嫌だ。
「あ、あのさ!…次の夕陽の日に、またここに来るから!待ってるからさ!…だから、また!」
彼女の返事を聞く前に、俺は公園を飛び出していった。
「…夕陽の日に、か。…ほんと、あの子、貴方にそっくり。…悲しいくらい、ね…」
彼女のそのつぶやきが、聞こえたような、そんな感じがした。


次の日も、太陽はぎらぎらと照りつけて。雲ひとつ出ないまま、夕方を迎えた。
…来てるかどうかなんて分かんないけど…。
わずかな望みを胸に、俺は再び昨日のあの場所へと急いだ。

いつもと同じ風景。海は染まり、陽は燃え上がる。
ただ一つ、いつもと違うのは。

光をさえぎる、一つの黒い影。それがこっちを振り向いて、姿を現す。
「…待ってた。君が来るのを」
静かに話し出すその姿。紛れも無く、彼女だった。
「待っててくれたのか…。…ありがとう、わがまま聞いてもらって」
…彼女も俺のこと、信じてくれてたんだ。そう思うと、少しうれしくなる。
「いいの。むしろ私が頼みたかったくらいだから。…早速で悪いんだけど、話、聞いてくれないかな?」
無言でうなずく俺。…彼女の過去。踏み入っていいものなんだろうか?
でも、ここまできたら後には引けない。…後は、ただ聞くだけ。
彼女の口が今、声と共にゆっくりと開かれた…。

「そう…一年以上前。あの日もこんな、きれいな夕陽が出てた。実は、きっかけもこの公園でね。
 ベンチでたまたま隣になったマグマラシ。…彼とそのとき話をしたのが、私達の物語の始まり」

『あの…夕陽、好きなんですか?』
『ああ。そうなんだ。…理由、ちょっと聞いてもらってもいいかな?』

「…あなたと同じ理由。『夕陽は悲しみを表すものなんかじゃない。むしろ、再会の喜びを表すものだ』って。彼はそう言ったの。
 私、彼の考えに惹かれちゃって。外見もかっこよかったんだけど、それ以上に。
 彼の性格とか、心とか。…そういう所が好きになったの。…一目ぼれ、っていうのかな?こういうの」

『なあ、君も…敬語を使うのは、やめてくれないか?…君とはもっと、軽く…友達として、接したいからさ』
『…ええ。ねえ、明日もまた、会えるかな?』
『会えるさ。…なんてったって、夕陽が出てるんだからな!』

「私の思い込みかもしれないけどね…彼も、きっと私のことを好きだったんだと思うの。
 何度も会って、たわいも無い話を繰り返して。…でも、そんな日常が楽しかった。
 夕陽の出る日だけの楽しみ。いつからか、それが日課になってた。夕陽を見て、彼と話して。…楽しかったなぁ」

『あ、沈んじゃう…』
『大丈夫さ。…「また会える」…。そういってるんだから』

「一ヶ月くらいかな。…そのころには、たびたび彼の家に遊びにも行くようになってた。
 ある夕陽の日。…いくら待っても、彼は来なかった。その日は帰っちゃったんだけど。
 次の日、彼の部屋を訪ねてみたら、留守だった。…お隣さんに、訳を聞いてみたの。」

『ああ、隣のあいつか。…不幸だよな、あいつも。悪い奴じゃなかったのにさ』
『あ、あの…何があったんですか?』
『ん?嬢ちゃん、あいつの恋人かい?』
『そ、そんな仲じゃ…』
『…悪い、心して聞いてくれ。いいか。…………もう居ないんだ、あいつ。…この世界には』

「信じられなかった。前の日は、普通に会ったのに。…不運な事故。工事現場の鉄骨が落ちてきて、あとは、ね。
 …その日は大泣きしたんだっけな。そのとき気づいたの。いつしか彼が、私の心の支えになってたんだって。
 例えるなら、そうね…そう。私だけじゃ、決して1にはなれないけど。彼が居て、初めて1になれる。
 私+彼=1。そうなってたの。いつの間にか。…彼がいなくなって、私は1になれなくなった。不安定になった。
 彼の居ない世界は、何も無い世界と同じ。…一度は死のうかと思ったこともあった。
 だけど、それを助けてくれたのも彼だった。『夕陽が出る限り、また会えるんだ』って。
 だから、私は彼に会いに、ここへ来てるの。きっと、彼は夕陽と共に居る。…そんな気がするから。
 彼と居ることで、私は1になってる。…それを求めて、私は夕陽を見に来てるの。…ごめんね、変な話して」
彼女はふっと微笑んだ。その微笑みは決して、楽しいとか、うれしいを表しているものじゃなかった。
彼女の目から伝った一筋の煌きが、それを物語っていた。
「あれ…?もう割り切ってたことなのにな…?…だめだ、泣いちゃってる、私…」
彼女からあふれる感情を、俺は止められなかった。寄りかかって泣いてくる彼女を、ただそっと、受け止めるしかできなかった。
そんな中、夕陽だけがただ一人、暖かく、そしてふんわりと、彼女を慰めていた。

彼女の涙は流れるのをやめた。彼女自身もだいぶ落ち着きを取り戻したようだ。
見ると、夕陽もほとんど沈んでしまっていた。
「…ありがとう。もう…大丈夫だから」
きっと、彼女にとって『彼』はそれほど大きな存在だったのだろう。
心の支えを失って、どれだけの悲しみを背負ったのか。どれだけ辛かったのか。苦しかったのか。
「あの…。…また、これからも…話せないかな?ここで」
俺に出来ること。彼女と話して、その気を少しでも紛らわさせてあげること。
どこまで出来るかわからない。けど、あんな彼女を見て、このまま放っておくわけにもいかない。
それに…喋りたかったから。…もっと、ずっと、長く。…友達で居たいから。
「ええ。…待ってる。夕陽の出る日は、いつでも」
彼女はそう言い残すと、ゆっくりと薄暗い街へ消えていった。

…俺は「彼」じゃないし、「彼」の代わりにもなれない。…だけど…。
彼女の気が、少しでも和らいでくれれば、それでいい。…そう、それだけでいい。
友達でいい。…それ以上は、望めないし、…望まない。
そう誓って、俺は夕陽に背を向けた。


あれから、彼女の悲しい顔を見ることは無かった。夕陽と三匹、並んで語り合う。そんな日々が続いた。
彼女と出会って、一ヶ月。そう、一ヶ月くらいたった、あの日。
…俺は、選択を間違えたんだ。


その日も、いつもと変わらない、穏やかな黄昏色の夕陽が俺達を出迎えてくれていた。
「…もう、一ヶ月以上になるんだね。君と出会って、君と話して」
…一ヶ月にもなるのか…。早いな、本当に。
「ねえ、…私、少し変われた気がするの。君と出会えて」
いつもの楽しい話とは、少し違う。いつになく真剣な物言い。
俺が恐れている、そのことを。彼女は俺に切り出してきた。
「いつか言ったよね?私、本当に『彼』に頼りっぱなしだった。彼を失って、私は本当に絶望してた。
 …夕陽を見て、彼と一緒になった気でいたけど…それは違う。本物の『彼』とは違う。
 ずっと気づいてた。…こんなことじゃ、心の傷は癒えないんだ、って。
 だけど、そんな中、君に出会って。私の心の何かに触れて。…『彼』が抜けて空いた穴を、埋めてくれるんじゃないか。
 そんな思いがこみ上げてきたの。…この一ヶ月、本当に楽しかった。それで、気づいたんだ。
 君は、本当に『彼』にそっくり。だから、君と居たら、きっと私はまた…1になれると思う。
 ううん、なれるの。なれたの。…一度埋めた穴を、もう一度空けたくは無いの。…恐いの。あなたを失うのが。
 …だから、お願い。…君となら、大丈夫だから。…だからね…。…一緒に…。
 …これからは、ずっと。ずっと一緒に…居て欲しいの…」
…俺は…そう、俺だって一緒に居たい。…彼女を大切にしたい。
…けど、大切にしたいからこそ…言わなきゃいけないことがある。
迷ってないわけじゃない。…後悔しそうな気がする。でも、それでも…彼女のために。
「…俺、最初に君に会ったとき、君と付き合えたら、どんなに幸せだろうかって思った。
 それだけ、君は可愛かったから。…君の心の純粋さが、伝わってきたから。
 だけど、君から『彼』の話を聞いたとき、俺、思ったことがあるんだ。
 『俺は、絶対に「彼」の代わりにはなれない』って。…そう感じたんだ。
 もちろん、気のせいかもしれない。君はきっと、『なれる』って答えてくれると思うし。
 …自信が無いんだ。『彼』の代わりになることに。…どれだけ似ていたとしても、俺は『彼』じゃないから。
 …俺は俺。…君の望みどおりにいかなかったら、君の心の穴はきっと、もっと大きくなる。
 俺は、そんなことしたくない。…君に、これ以上傷ついて欲しくない。
 …だから……ごめん。」
もう、彼女の顔は見れなかった。でも…今ここで彼女と一緒になったら、きっと将来、彼女を傷つけてしまう。
柵に乗せていた前足を静かに下ろし、俺は夕陽を背中に受ける。彼女に背中を見せる。
「…本当に、ごめん…」
それだけをつぶやいて、俺は薄紅の街へと逃げ去っていった。…彼女との記憶を、振り払うようにしながら。
俺の眼の中から、一粒の天気雨が降り落ちていった。


次の日も、夕陽は相変わらず輝いていた。
…ただ、公園の様子はどこか違っていた。恐らく、誰も気づいていないであろう変化。
いつもの場所には、俺一人が柵に寄りかかっていた。…たった一人で、数十分も。
ただじっと、夕陽と向き合っていた。…彼女は、来なかった。
さらに次の夕陽の時も、その次も、次も、次も…。
いつしか、夕陽を見るのは俺の日課になっていた。ぼんやりと眺めて、(とき)が過ぎるのを待っていた。

もちろん、社会の一員となった今でも、俺の日課は続いている。
どんなに忙しくても、この時間だけは仕事を抜け出して、必ず夕陽に会いに出かけていた。


あの時は後悔していなかった、といったら嘘になるけど…今は、あの時以上に後悔している。
自分の本当の気持ち。素直に伝えられたなら…。

でも、もう遅い。
――彼女には、もう会うことはないだろうから。
それでも、心のどこかで、期待という名の思考が膨らんでやまない。…「再会」を約束する夕陽の力を、まだ信じているのかもしれない。

彼女の幻影を追いかけて、俺は今日も――。


柵に乗せた前足が、オレンジ色に塗られていく。陽は、今日の終わりをいっそう眩しく光らせる。
とその隣に、今の自分と同じ、オレンジ色に変わった前足が乗せられる。
「あの…夕陽、好きなんですか?」
声からすると雌だろう。視線は夕陽を、「彼女」に向けたままなので、姿は分からないが。
「はい。貴方も夕陽を見にここへ?」
「ええ。…昔、ここに来たことがあったので、久しぶりに。変わらないんですね…」
こうやって、雌とここで話すのも久しぶりだ。…懐かしいな。
懐かしさからだろうか。昔の話を、彼女に話したくなる。そう、昔の「彼女」と同じように。
「あの…すごく唐突なんですが…ちょっと昔の話、聞いてくれませんか?俺の…たわいもない、昔話を」
「私…ですか?いいですよ。…私も、あなたと少しお話がしたいですし」
…俺に話?彼女も過去に何かあったのだろうか?…まあ、今はそんなことを考えても仕方が無いか。
「もう三年ぐらい前の話です。俺は――」
すべてを話し尽くした。彼女はただ黙って俺の話を聞いてくれた。…そう、何一つ喋らなかった。
「…そうだったんですか…」
「…たぶん今も、俺はその『彼女』のことが忘れられてないんだと思うんです。…未練がましいですよね、やっぱり」
正直笑われるんじゃないかと心配になった。それでも、彼女は一切反応を見せなかった。
笑っているようには聞こえない。…もちろん、一度も見ていないから本当かどうかは分からないが。
「私も、過去に未練があるんです。…今度は私の話、ですね。
 そう、私は三年前、ある雄のポケモンと出会ったんです。彼も私と同じ、マグマラシでした。
 実はそのさらに一年前にも、同じことがあって。…その『彼』は、亡くなったんですけど…ね。
 彼とこうして、夕陽の話をしているうちに仲良くなって…いつしか、私は彼を愛していたんです。
 亡くなった『彼』と、本当にそっくりで。容姿もそうですが、それ以上に心が。内面が。
 彼と出会ってから、一ヶ月ぐらいたったある日。私、仕事の都合で引っ越すことになって…。
 だから、帰る前に彼に想いを伝えよう、って決めたんです。
 …でも、断られました。いえ、分かってるんです。彼は私に優しすぎたから…だから、断ったんだって。
 だけど…そのときの私、ショックで何も言えなくて。引っ越すことも言えなくて。
 去っていく彼に、声をかけられなかったんです。…そのまま、私はここを離れて…。
 今日、またここに戻ってきたんです。…だから、ひょっとしたら…彼に会えるんじゃないかと…そんな気がしたんです」
…俺は、一人想いの中へと意識を沈めていた。…「彼女」は、俺が嫌いになったわけじゃなかったんだ。
彼女の話を聞いて、そんな考えが浮かんできた。そして、それは確信へと変わった。
「俺は…あなたの、いや、君の知らないことを、一つ…知ってると思う」
もう敬語はいらない。…そのはずだ。…いや、絶対そうだ。
「私も…あなたの知らないことを、一つ…知ってるんだ」
夕陽はますます煌きを増していく。俺の中で再び燃え上がるその気持ちに比例して、なおいっそう紅く迸る。
信じてたから。俺も…そして、君も。夕陽の持つ…「再会」の力を。

――「俺の名前は」「私の名前は」――
――「ヴィジェン」「ネイジア」――


いつかの夕暮れの、どこかの公園。あの柵に寄りかかる二つの影と、そのそばにある丸い影。
「なあ、俺+おまえって、いくつになると思う?」
「いきなりどうしたの?そんな変なこと聞いて。…でも、私は知ってるわ。その答え。」
夕陽は今日も、橙色へと変化しながら、空気を、街を焦がしていく。明日の「再会」を、楽しみにしながら。
「この仔の…命の数、でしょ?」
「…ああ、その通り。答えは…」

――「「1」」――




――Fin――



コメントくださると喜びます。感想でも文句でも。なんでもどうぞ。

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • よくわからなかったけど(そいません)感動したぁ!  -- アキ2 ? 2009-07-21 (火) 02:45:35
  • めちゃくちゃ感動でした!
    夕日の伝えたいことは
    「再会」
    ホントに共感しました!
    ――通りすがりの… ? 2010-09-21 (火) 23:27:59
  • >>アキ2さん
    何となく感動作品が書きたい、で書いたような気がします。
    書いたのももう随分と前の話なので結構粗が目立つんですが……w

    >>通りすがりの…さん
    夕陽というとどうしても寂しげなイメージが浮かんでしまうのですが、それの真逆を行こうとした……はずですw
    書いたのが何せ大分昔なので正直見返すのも結構恥ずかしかったりします(

    お二方、コメントどうもありがとうございました。返事が遅れて申し訳ないです。
    ――&fervor 2010-10-24 (日) 22:53:41
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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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