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-Ruined City-

/-Ruined City-

 この物語には流血表現が入る可能性があります





ACT1 日常と非日常の狭間 
           
新聞の一面はこうだった・・・『王都エクトルで若い雌の連続誘拐』
私は記事の内容を全て読み終えると新聞を机の上に置き、食パンを咥え家を出ると
失踪騒の話題が飛び交う朝のエクトル市街を歩く
「やぁねぇ・・・一体犯人は誰なのかしらね~・・・家にも年頃の娘がいるけど・・・」
そんな感じの会話が私の右耳から入り左耳から抜ける、その逆もまたしかり・・・
次に誰が狙われるかなど、それは犯人次第である・・・そんな事も知らずにべらべらと会話するなら
早く仕事でもすればいいのにと内心で呟きながら私はお城へ向かった。
「おっ・・・おはようジルド!今日もいい天気よね~、街の噂は土砂降りだけどさー」
突然後ろから声をかけてきた人物は、私の友人のマグマラシのラミだった。
ちなみに私はルカリオのジルド・・・雌のルカリオは珍しいと言われるが、私はそうは思わない・・・。
だって一人いるだけで十分だから・・・
それに、同じのが二人も三人もいると、誰が誰だか分らなくなるし・・・現に私の職場には
同種が二人いてその内一人は上司である・・・。時折上司じゃないほうと間違えてため口で会話すると
えらい事になってしまうの・・・その分雌のルカリオは私一人だけなので、間違えられる心配はないし安心している。
と・・・長々と変な事を喋っている内にエクトル城の城門の前に着いてしまった。
「見張りの仕事ご苦労様~」
「あー、お前らも早く仕事しろよー」
ラミが軽く見張りの、グラエナとワンリキーに挨拶をする。
彼らは毎日朝の見張りをしているのを見かける、しかも誰も欠けた事がないのだ・・・
風邪を引いてもマスクをして、見張りをしている所を見ると、毎回毎回気の毒に思う
城の中に入ると、まず最初に目につくのは大広間の天井にぶら下がっている巨大なシャンデリアである。
その下には忙しそうに書類を持ちながら右往左往する数匹のポケモン達がいる
「皆、あの失踪事件の事で忙しいんだね~私達も早く仕事して、誘拐される前に帰ろうね~」
ラミがにこやかな笑顔でそんな事を言っているが、実際次に誰が誘拐されるか分らないため
そんな心配をしてもしょうがないと思ってるのが私の腹の内、それに誘拐されたらその時はその時だ・・・
城の中の長い廊下を歩いていくと、兵士の詰め所のドアが目に飛び込んでくる・・・
部屋の中では大抵非番の者が数人いるため、何時も部屋の中にはアルコールの香りがただよってる。
「おはよーうわ・・・お酒くさーい」
夜中に酒盛りでもしてたのであろう、ドアを開けるとアルコールの異臭が鼻をつく
ラミのほうはアルコールの香りがあまり好きではないらしく、げぇげぇ言いながら部屋に備え付けの窓を全開にする。
「皆!お酒飲むのもいいけどほどほどにしてよね!」
珍しくラミが怒るが、他のマグマラシより背が低い彼女が怒っても父親に怒る娘みたいな絵のようにしかならない
それに怒ってる癖に声も少女のあどけなさがまったく抜けていない。
「そんな堅苦しい事言うなって・・・非番の時は酒でも飲まないとやる事ないんだから・・・」
部屋の隅で酒盛りをしていたのであろう一匹の若い雌のグレイシアがだらしなく大また開きで酒瓶を抱えながら抗議する。
その様子に、私はこのグレイシアがたまらなく親父臭いと思った。
しかし、この姿は大酒を食らった時によく見せる姿で、普段は礼儀正しく真面目に勤務している
「そういえば、今日はジルドも非番で残る日でしょ・・・アンタも今日はじゃんじゃん飲みなさいよ!」
「そうだそうだ~」
グレイシアの近くで酒の空き瓶を片付けていたカメールが頬を真っ赤にしながら叫ぶ
この様子からすると、まだアルコールが抜けきっていないようだったが、あえて私はそこには触れなかった。
「あっ・・・でもルフって今日非番じゃなくない?」
グレイシアにルフと呼ばれたカメールは、しまったとばかりに額に手を置いてしばし考え込み
「大丈夫大丈夫・・・どうせバレやしないって」
と軽く答え、グレイシアが半ばあきれたような表情で頭を左右に振る。
この詰め所には私とラミ、グレイシアのユキメとカメールのルフ、ライチュウのエミルが大抵いる
雄はルフだけで他は皆雌である・・・。そもそもこの詰め所は元は雌のみが入る事を許されていたのだが
書類の手違いなどでルフが送られてしまい、上の方も面倒くさいという理由でいまだにルフを別の詰め所に移すという事はしない
私は速やかにロッカーの中に入っている鎖帷子を取り出し身につける
その隣ではラミが子供用の胸当てを体にまとっていた。何時も思う事だが、ラミは実年齢よりも5歳以上幼く見え、
私はその事に少々嫉妬をしている。
「それじゃあ軽く見回りをしてくるから・・・」
「いってらっしゃ~い」
私とラミが詰め所を出ると、閉じれゆくドアの向こうからユキメがのんきな声で見送りの言葉を送る。
城内をのんびりと歩いていると、ラミが様々な物に興味をしめし私に話しかけてくる。
「ねね、もう庭のオレンの木が花をつけてるよ」とか「あっ食堂からいい匂いがしてくる~今日のお昼ご飯は
マトマのスープが絶対ついてくるね」とか 挙げれば限がない
「いろんなものに興味を示すのはいいけどさ・・・もうちょっと近衛兵らしく振舞おうよ・・・」
苦笑いをしながら、私はまるで3歳児のように様々な物に興味を募らせるラミを諭すが
ラミはお構い無しにあーだこーだと私に話しかけてくる。
そのラミの話を聞きながら廊下を歩いていると、話に夢中になっていたラミが前方不注意で白衣を身につけた少々猫背のノクタスと
正面衝突する
ノクタスは持っていた書類を床にばら撒き、ラミは反動で後ろに弾き飛ばされてしまった。
「おまえ・・・前はよく見ろ!!・・・・・・くっくっ・・・」
ぶつかった相手が悪かった、この白衣を着たノクタスは城で研究の任を与えられている者で城内では怪しい研究をしていると
常に黒い噂の耐える事のない者であった。
「おい・・・あやまりもせんのかぁ!?」
黄金色に輝く瞳でラミの事を睨みつけると、ラミはビクっと体を震わせ、真っ赤な瞳に涙をためながら
「ごっ・・・ごめんなさい・・・」と一声謝る
「ふっ・・・次からは気をつける事だな・・・ククク・・・」
不気味に笑みを浮かべるノクタスはすごすごとその場を退散していくラミを見えなくなるまで見つめていた・・・。
そして一言・・・
「次は・・・あいつだ・・・ククク・・・」







ACT2 日常の世界

「あー・・・嫌な奴に目をつけられたわね・・・」
「えぐっ・・・ひぐっ・・・うぅ・・・」
私は隣で泣きじゃくるラミをなだめながらそう言った。
ノクタスがよほど怖かったのであろう、ラミは先ほどからずっとこの調子である
「とりあえずさ・・・元気だそう?ね?」
まるで小さな子供をあやしているような光景だった。とおりすぎる連中も、なんだなんだと私達を凝視する
そんな中仕事の仲間のエミルとばったり出くわす。
「あり・・・ジルドとラミやんなにしてんの?ってラミやん泣いてるやん!どないしたん?」
エミルは田舎の出身のため口調がこの辺と違う、そこがエミルの面白い所なのだが、今の状況では楽しむ余裕もない
「実はさ・・・」
私はこれまでのいきさつを丁寧にエミルに話した。
「あのサボテン野郎かぁ犯人はぁ・・・うーんうちは手助けできへんなぁ・・・ごめんなぁ」
エミルもあの男が苦手らしく、かなり困ったような表情でぽりぽりと眉間を掻く
「それはそうと、もうすぐお昼やで~ラミもはよう機嫌直してお昼たべようや~人生涙は少ないほうがええやんか~」
「う・・・うん・・・」
エミルの言葉に多少なり元気を取り戻すラミだったが、まだどことなくしょんぼりとしている。
何時もなら派手に燃え盛っている背中の炎がまったくでていない程である
「そう言えば・・・グロデスって今なんの研究してるん?」
食堂に向かう途中にエミルが唐突に渡しにそう尋ねてきた
「うーん・・・ちょっと分らないなぁ・・・」
正直な所私にはあいつの研究なんてどうでもよかった・・・それ以前にあのノクタスのグロデスという男を知りたいとすら
思った事はここで仕事している間、一度も思った事はない・・・何故なら近寄りたくないからだ。
「気になるなーあいつってなんの研究してるんやろ・・・もしかしたら危ない研究してるかもな~?」
「それはありえそう・・・なに考えてるかまったく分らないし」
そんな感じで話していると、石作りの城内の玉座へ向かう大通りの途中に存在している食堂の入り口へとたどり着く。
「うわー・・・もう人一杯や~・・・」
食堂に入るとそこはもうすでに戦場と化していた。忙しくオーダーを取る数匹のポケモン達と料理を運ぶポケモン
厨房では様々な声が飛び交い食堂の席のほうでは沢山のポケモンが会話したり食事をしたりしている。
その光景を見てエミルが口から大きなため息まじりの言葉をこぼす。
「とりあえず・・・座りましょう」
私はいつも自分達が使っている席まで歩きはじめる。自慢ではないが、私達近衛兵は一般の兵士と違い
ちゃんと席が確保されている。だから普通の兵士と違い待つ心配はないのだが・・・その分厨房からの席は遠い・・・
下手をすると料理の注文に7~8分かかる時もある
「あ・・・おかえりジルド・・・」
アルコールが抜けて何時もの調子になったユキメが、ラミの予想した通りにマトマのスープをスプーンで口に運んでいた。
「ん・・・なんかラミが元気ないね?どうしたの?」
「実は・・・」私は事の経緯をユキメ達に話した。内容はエミルに話した物と変わりない
「そうだったの・・・ラミも大変ね・・・」
まあ・・・前方不注意だったラミが悪いのだけれど・・・私は隣でしょんぼりとしているラミの頭を軽くなでる
たいてい食事時は一番元気に会話しているラミがこれだと、少し調子が狂ってしまう。
「ご注文は?」
注文をとりに来たピッピにエミルが何時ものように答える
「今日のおすすめを3人分よろしく頼むわ」
正直な所私達は『今日のおすすめ』しか頼まないだから、このやりとりは完全に日課になってしまっていた。
今日のおすすめのマトマスープが来るまでは、私とエミルはユキメ達と軽く雑談をしていた。ラミにいたっては
ずっとしょげたままだった。
「はい、今日のおすすめのマトマスープです・・・お皿が熱いのでお気をつけください」
ピッピから渡されたマトマスープをスプーンで口に運ぶ・・・少々辛いがこれはこれでおいしい
「いただきます・・・」
ラミも料理が来てだいぶ元気を取り戻したようだ、スープを食べながら少しづつではあるが雑談を始める。
「あのねあのね、オレンの木が花をつけてたよ」
「へー・・・じゃあさ、皆でこっそり取りにいこうぜ?」
ラミの話を聞いていたルフが唐突に提案をする。しかし、その提案はバレれば確実に上司様にお叱りを受けてしまう
「なに言ってんのよ・・・去年それで上司様にこってりとお叱りの言葉を2時間ぐらい聞かされたのを忘れたの?」
ユキメがスプーンをルフに突きつけながら、半ば呆れ顔で語る。
「むぅ・・・」
ユキメの言葉に撃沈したルフは、一言呻くと黙ってしまった。
何時もながら思うが、ユキメは正しい事をよく言う。しかし、彼女はお酒が入るととたんに人が変わったように
ルフの提案する悪事等に積極的に手伝い始める。
オレンの実の事件で全員が上司の前にしょっ引かれた時も、上司はユキメの変わりように目を白黒させていたぐらいだった。
「ご馳走様・・・」
私は食事を終え、午後の見回りのために皆より先に準備をする事にした。
午前の見回りと違い午後は街中の見回りで、各々で決められた区域を見回る事になっている。
しかも階級によって場所が違った。一般兵士は主に貧困街と平民街を、私達近衛兵は貴族街を見回る事になっていた。
一般兵士の見回る場所と違い貴族街はいざこざや問題が起きる事などほとんどないが
たまに途轍もない犯罪が起こる事があるため、気をぬくことはできない。
「それじゃあ先に言ってるわね」
「いてら~、いってらっしゃい、また後でね~」
其々の返事を背に私は食堂を出ると、そのまま城門をくぐり貴族街の巡回を始めた。
私が貴族街の巡回を始めたのは午後1時になるかならいかの境目だった。流石にこの時間は大抵の者は食事のために
石作りの白い庭付きの豪邸の中に引っ込み使用人の作る料理に舌鼓を打ってる頃だ。
食事を取るのが遅いと思う人もいるだろうが、ここでは昼の12時から使用人が食事を作るのが一般的なため
この時間は人の姿がまったくと言っていないのだ。
「はぁ~やっぱこの時間の見回りは丁度いい散歩コースだわ~」
私は大きな伸びをしながら貴族街の大通りを我が物顔で歩いていた。その時、一件の高級そうなバーから聞き覚えのある声が聞こえた。
「で、今度は誰を虐めるんですか?旦那」
「ククク・・・虐めるとは失敬だな・・・懲らしめてやるのさ・・・前もロクに見ないでおしゃべりに夢中になるような
子供にはお仕置きが必要だからな・・・」
聞き耳をたてると、声の主はグロデスだった。グロデスとバーテンダーの会話を聞いてると
身の毛もよだつような恐ろしい会話を繰り広げていた。
「ククク・・・あいつの家に腐ったイカでも送ってやるか」
やめてやれ・・・と私は心の中で呟くが、そんな事をしてもグロデスには聞こえるはずもない
このままではラミがあまりにも可哀想だが、私にはどうもすることができなかった。
たとえ私がグロデスに「可哀想だ!やめてあげなさい!」と言えば
ラミの代わりに私がグロデスの標的になるのは間違いないだろう・・・
そして次の日の朝にはめでたく私の家の入り口に腐ったイカが送られているのだ。想像するだけでも恐ろしい
私は足早にその場を立ち去り貴族街の巡回を続ける事にした・・・。


「・・・・・・行ったか?」
「ええ・・・行かれたようです・・・」
暗いバーの中でグロデスがバーテンダーのゴーリキーにそう尋ねる。尋ねられたゴーリキーは素直にジルドが立ち去った事を告げる。
「ククク・・・盗み聞きとはな・・・あいつも懲らしめてやったほうがいいようだな・・・ククク・・・
まあいい・・・話を戻そうか・・・」
「そうしてくれると助かります・・・」
ゴーリキーはグラスを布巾で拭くのをやめ、グロデスの話に真剣な目つきで聞き入っていた。
その目つきはまるで、暗殺者や殺し屋のような鋭い目つきであった・・・。


午後の巡回を終え、私は非番のために詰め所に戻っていた。後はエミルとラミが巡回から戻ってくれば今日の私達の仕事は全て完了する。
「お酒買ってきたわよ~」
勢いよく詰め所のドアを開けたのはユキメだった。手には一升瓶と果実酒が入った袋が握られている。
「お~おかえり~」
ルフが上機嫌な表情でユキメから袋を受け取ると、酒を備え付けの小さな冷蔵庫の中にしまっていく。
この冷蔵庫は年中酒の臭いがするので、私はあまり開けることがない。むしろあまり開けたくない
「あー早く夜になんねぇかなぁ・・・酒が楽しみだぜー」
「気が早いわね・・・焦ってもお酒は逃げないから安心しなさいよ」
ユキメが逸るルフをなだめながら、身につけていた帷子をロッカーの中にしまう。帷子を外したユキメの体は
汗で毛が張り付き、すっきりとした細いラインを作り上げていた。私は少々太っているためユキメの美しいラインは憧れる。
「ちょっとシャワーあびてくるね」
バスタオルを持ったユキメは私達にそう告げると詰め所にそなえつけてあるシャワー室へと入る。
ユキメがシャワー室に入ってからしばらくすると、エミルとラミが一緒に帰ってきた。
「ただーいま~」
何時もの調子に戻ったラミが笑顔で帰還を告げる。その後ろではエミルが買い物袋片手に立っている。
「は~疲れたわ~・・・今日もシンドイ一日やわ~早く帰って料理せなあかんからな~」
帰ってくるなりエミルは、この後の予定をこぼしながら帷子をロッカーにしまう。
シャワー室は二つ設置してはないため普通なら時間待ちとなるのだが・・・
「ユキメは~んはいるで~」 「え?ちょ・・・ちょっと待ってよ!!」 「ええやんか~入るで~」
強引にシャワー室にエミルが入ったため、先にシャワーを浴びてたユキメが悲鳴に似た声を上げる
「ちょっと!シャワー室壊さないでよね」
私は強引に入ったエミルにそう注意する。以前ラミが使ってる時にエミルが強引にシャワー室に入りシャワーを壊した経験があったからだ。
「はいは~い!分ってるからそんな言わんといて~」
シャワー室からの軽い返事を受け取り、私はそなえつけのテレビの電源をつけ、冷たいオレンのジュースを口に含む
この時間にやっているテレビはあまり楽しくはないのだが、暇を潰せるという点では利点があった。
「あ・・・もうこんな時間だ~」
ラミがシャワー室の時間待ちをしながらテレビの時刻を見てそう呟いた。
「早く帰ったほうがいいわね・・・シャワー浴びれないのはちょっとキツイけど・・・最近は物騒だから」
「うん!そうするね」
ラミは元気のいい返事をすると、だいぶ日が落ちた街中へ向かって城内を走って行った。
「ちょ・・・どこさわってるのエミル!や・・・やめて・・・」
「ええやんええやん、減るもんじゃないし~」
ブッ!!私はオレンのジュースを隣に座っていたルフに吹いてしまった。ルフに手で謝りながらタオルを渡し、私は立ち上がり
シャワー室に向かって歩いていった。
「ちょっと!なにやってんのよエミル!!」
ばあん!勢いよくシャワーの室のドアを開け私は、エミルを叱った。
エミルは「ごめんごめん」と軽く謝った後、買い物袋を持って
「ほなまた明日な~」と詰め所を後にした・・・。


ACT3 夜の街

夜のエクトル平民街は街灯のおかげで明るかった・・・。大通りを歩くラミには街灯がとても心強かった。
不振人物が自分に寄ってきてもすぐに相手が誰なのか、分るからだ。
「お~ラミちゃんお疲れ~」
ロメで出来た酒を飲みながら、大通りの居酒屋からラミに手をふる住人も大勢いた。
「おじちゃんも飲みすぎちゃだめだよ~」
腰に手をあて前かがみになりながら、酒を飲んでいたゴーストにそう注意するラミ。
他人に親身に接する彼女は同年代、年上の雄達にとても人気があった。まるで妹や娘のように可愛がられる彼女は
礼をもってそれに答えているからである。
「あいよ~!夜道に気をつけなよ~」
ゴーストに手で別れを告げるとラミは家に向かって大通りの十字路を左へと曲がる。
ここからもうしばらく直進すると、公園があった。公園にはそこまで街灯ないため、ここまで日が落ちている今は
横切るのは危ないと判断したため。ラミは少々遠回りになるが回りを迂回した。
この公園の近くには飲食店が数多く存在し、店の外にも席などが多数あるため
ラミは飲食店で食事をしている者達から、声をかけられた。
「夜遅くまでご苦労だね~明日も早いのかい?」 「はい!明日もがんばります!」
「お疲れさ~ん!明日もがんばりなよ~」 「ありがとう~おじさんもがんばってね」
声をかけてくれた者全員に全て声を返しながら進むラミ。これも一つの日課のように彼女は最近思っていた。
公園を横切る時は、こういった住民とのふれあいは城門へ続く大通りだけだが、横切らない時は
こうして公園周りの人達と触れ合っていた。
ようやく公園周りの飲食街を抜けると、その先は家まで街灯の多い通りを抜けるだけだった。
「今日の晩御飯はなにかな~」
晩御飯のメニューを想像しながら、彼女は陽気な足取りの夜の街を歩いていった。
後数分で家までたどり着くという所で突然彼女は、何者かに声をかけられた。
「あの・・・そこの路地から気味の悪い唸り声がするんですけど・・・見てもらえませんか?」
後ろを振り向くとそこにはアブソルの少女が立っていた。少女は怯えた様子で通りから少し外れた暗い路地を指差す。
この時間帯にこんな小さな子供が出歩く事に少々疑問をラミは持ったが、この近所に住んでいて唸り声の
正体を確かめるために、家から出てきたのかも、という事を想像してラミは少女が指さす路地へ向かった。
「う・・・・うぉぉ・・・・むぅ・・・・」
路地から聞こえてくる唸り声は、どことなく酔っ払いが泥酔し、そこでイビキをかいてるようにラミには聞こえた。
「誰か寝てるのかも知れないね・・・そっとしておいた上げたほうがいいかも」
「でも・・・この時期はちょっと冷えるから・・・風邪引いたら可哀想・・・」
アブソルの少女の言う事ももっともだと思い、ラミは暗い路地に足を踏み入れていった。
周りには石で作られた壁しかなく、あまり人も通らないような通りだった。
そして、なにより狭かった。最低でも二人分しか通れないような歩幅しかないため、非常に歩きづらかった。
「大丈夫ですか~!?」
ラミは暗闇の呻き声かイビキを上げている者に向かって声をあげる・・・そうすると
「ん・・・んん・・・いかん、どうやら寝ていたようだ・・・」
暗闇から声が聞こえ、呻き声の主が目を覚ましたと安心するラミ。
路地から抜けるため後ろを振り向くと、そこには暗闇で分りにくかったが先ほどのアブソルの少女が立っていた。
「大丈夫、寝ていただけだったよ」
「そうですか・・・よかった」
暗闇で表情は分らなかったものの、声の感じから非常に安心した様子が伺えた。
「それじゃあこれで・・・」
ラミがアブソルにそう言い、その場を離れようとした時、突然何者かに体を持ち上げられた。
「きゃ!?」
空中に持ち上げられたラミは、じたばたと暴れるが降りられる気配はまったく感じなかった。
「な、なにをするんですか!」
できるだけ大声をあげるラミ、しかし暗闇の中で自分を持ち上げている者は何も語らない・・・。
それどころか、彼女を持ち上げていた者は勢いよく彼女を地面に叩きつけた。
体が地面にぶつかった衝撃で口から少量の血を吐き出すラミ、痛みをこらえながら顔をあげると
先ほどのアブソルの少女が立っていた。アブソルの少女は何も語らずただずっとそこに立っていた。
もしかしたら怯えて体が固まってるのかもしれない、そう考えたラミは、背中に炎を灯し周囲を僅かだが照らす。
その時、ラミはアブソルの少女の表情をやっと伺う事ができた。
彼女は笑っていた・・・。まるで自分を軽蔑するようなそんな眼差しで・・・。
「ふん!」
アブソルの少女に気を取られていたラミは背後の存在を一瞬ながら忘れてしまっていた。
それが仇となり、彼女の背中が硬い岩の塊のような物で殴られる。
「あが・・・・!!」
悲鳴をあげようにも声を出す事が出来なかった。背中を硬い物で殴られた衝撃で彼女は血反吐を吐き出しその場にぐったりと倒れこむ。
だが、それでも追撃の手は休まらず最後に腹部に強烈な蹴りを喰らい、彼女はそのまま声なき悲鳴を発し気を失った・・・。
「・・・ふぅ・・・こんなもんでいいだろう・・・」
暗闇の中でラミに暴行を加えた者はパンパンと手を叩くと、気を失いぐったりしているラミを抱きかかえる。
口からは赤い液体が糸を引き地面に垂れている。
「ねぇ・・・ちょっとやりすぎじゃないの?兄ぃ・・・」
アブソルの少女が暗闇の中にいる者にそう語りかける。いくらなんでも今回は・・・。
前回と前々回を比べていた彼女は、今回の暴行をやり過ぎていると非難した。
「近衛兵と聞いていたものだからな・・・しかし、ここまで弱いと流石にやりすぎた感じは俺もするがな・・・」
「この子、近衛兵なんだ・・・私とそんな年が違わないと思ったのに・・・」
アブソルの少女は驚きを隠せないでいた。この弱冠12歳前後に見える雌のマグマラシが近衛兵の位を持っていた事に。
兵役で言えば、そのぐらいの年ではまだ新兵がいい所である・・・だがこのマグマラシは近衛兵・・・
アブソルはこの小さな少女のようなマグマラシがすでに自分よりずっと年が離れていると思った。
「こんな小さいのに・・・もう30歳ぐらい年とってるのかなぁ?」
アブソルが暗闇の者にそう語りかける。
「親が貴族とか役職をもっているなら15ぐらいで近衛兵の位にはつけるからな・・・たぶんそのパターンだろう」
暗闇の者は、黒い麻袋にマグマラシをゆっくりと入れながらアブソルのそう語る。
手際は慣れたものですぐに麻袋は中に品物を入れたようなふくらみをつくりあげる。そして、それを暗闇の者が持ち上げ
その場を足早々とアブソルと共に立ち去った。

「ねぇ~ジルド~お酒もっと頂戴~」
非番の勤めをするなか、ユキメが渡しに色香の入った、雄を誘うような声で酒を求めている。
「あんたちょっと飲みすぎじゃない?」
正直ユキメの酒癖の悪さには、私はうんざりしていた。しかしそれを言ってもユキメは酒を飲む事はやめないだろう。
「いいじゃないの~お酒は百薬の長とも言うじゃない~!」
それは適量の話で飲みすぎれば害だ。今のユキメの酒の量はすでに百薬というより百害だった。
「ルフゥ~ジルドが冷たいよぉ~」
猫撫で声でルフに甘えるユキメ、しかし彼女があてにしていたルフはすでにイビキをかき寝ていた。
返事がないルフを見たユキメは、頭をぽりぽりと掻くと冷蔵庫に向かってまるでゾンビが這うように向かっていった。
その様子を私は寝袋の上で深夜のテレビ番組を見ながら、横目で確認していた。そんな時、耳に何かが割れる音が飛び込んでくる。



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  • あれ?
    ―― 2012-06-04 (月) 17:51:21
  • 修復させていただきました。
    ―― ? 2012-06-04 (月) 19:57:57
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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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