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ERASER ~消去者~

/ERASER ~消去者~

 あえて言おう、作者の悪ふざけに近い作品だという事を。それを加味したうえで、読者の方々にお読み頂ければ幸いであります。
まず、グロ表現があります。そして、超微エロでございます。ご注意下さい。
作中に銃火器を使用した表現がございます。合わせてご注意下さい。
それでもOKだという方は、下方よりスタート致します。お楽しみ頂ければ幸い、では、どうぞ。












しつこくワンクッション!













 夜の帳の中を、静かに歩く男が居る。
手には闇に溶けるような漆黒の銃が、僅かに鈍く光沢を返しながら、ゆっくりと揺れている。
その男の前には、傷付き追い詰められたポケモンが一匹、顔に男への恐怖を張り付け固まっていた。身体には、数ヶ所に弾痕が刻まれている。
その表情を見ても、掛けた丸眼鏡を上げながら、男は迷う事無くその手の中の銃をポケモンに向けた。

「恐ろしいですか? ですが……同情の余地はありませんね。あなたは、同じ目を自分に向けてきた者達を笑いながら屠ってきたのですから」
「被害者、分かっているだけで30。内訳はポケモンが13、人間が17。よくも自身の快楽の為だけにこれだけの数を殺ったものだな」
「おや、そちらは片がつきましたか。お疲れ様です」

 すぅっと、闇の中に赤い一つ目が浮かぶ。男は驚く事もなく、労いの言葉を掛ける。
今まさに命の灯火を吹き消されようとしているポケモンは、自身の罪の数を言われようやく口を開いた。

「死んだ奴等は皆弱かった! 弱いくせに俺に挑んできたから殺ったまでだ!」
「なるほど、つまりあなたより強い私には、あなたを消す権利があるという事ですね」
「己の強さに溺れたか。憐れだな」

 幾ら叫ぼうとも、男に微塵の揺らぎすら与えられない。絶対的な実力差、それをポケモンは理解した。
最後の力全てを振り絞り、ポケモンは男へ襲い掛かった。その、最後の雄叫びと共に。
……後に残ったものは、響き渡った一発の銃声の余韻と、正確に眉間を撃ち抜かれた、一時前までポケモンだった物だけだった―――



 町の中にある一軒の理髪店、開店前のその店内は、テレビから流れるニュースによって賑やかになっていた。

『本日早朝、連続殺人等の罪状により指名手配されていたキリキザンが遺体となって発見され……』
「……おい、テレビの音量大き過ぎだ。奥まで聞こえてきたぞ」
「だって店の準備中だと全然テレビの音聞こえないんですもん。そろそろ買い換え時ですかねぇ」
「もはやテレビではなくラジオと化してる時点で、買い換え時もくそも無いだろ」

 不機嫌そうな顔を……しているかは分からないが、少なくとも声からは飽きれているのが分かるポケモンが、店の奥の自宅から顔を出す。
手掴みポケモン、冥界の案内人等と呼ばれる、ヨノワールというポケモンがそこには浮かんでいた。その視線の先にあるテレビが映し出しているのは、所謂砂嵐と呼ばれる状態と、砂嵐の合い間に僅かに……異形のように歪んだ人間らしき者だけだった。
せっせと仕事道具を整備する男にとって、画面に映る像は関心に値する物ではないらしい。
腹の大きな口からわざと溜息を吐き、ヨノワールは男の手伝いを始める。ニュースはもう、別の報道へと変わってしまっていた……。

 アリム理髪店と書かれた看板を掲げるこの理髪店、町ではかなり有名な理髪店となっている。
有名な理由は、腕が良いというのもある。が、最大の理由は別にあった。

「いらっしゃいませ! アリム理髪店にようこそ!」
「あの、ここって、ポケモンがカットしてくれるって本当ですか?」
「はは、噂をお聞きになっていらっしゃったようですね。キルシェ、お客様ですよ」
「了解。私が当店でカットを行います、ヨノワールのキルシェと申します。本日はどういった髪型をお望みでしょうか?」

 席に着いた男性客に丁寧に挨拶をし、散髪用のエプロンを身につけたヨノワール、キルシェは接客を始める。
これがこの店の一番の売り。ポケモンによる散髪という珍しい行いを受けに、今日も噂に胸を躍らせた客が足を運ぶのだ。
客からの指示を受け、キルシェの手に鋏が握られる。鋏も特注の物なのだろう、持ち手の輪が大きく、刃の部分が一般の鋏と同じものになっているという不思議な物となっていた。
キルシェが仕事を始めたのを軽く確認し、受付をやっていた男も別の客を席に案内する。この店はこの男と、キルシェのみで切り盛りされているようだ。

「それじゃアリムさん、今日もお願いしますね」
「お任せを」

 この店の店主、アリムが担当するのは常連の女性客。老麗な貴婦人が雑誌を持って席に腰掛けた。
待合の席にも数人の人影が見える。店内を見渡す者、キルシェの鋏捌きを感心しながら見る者、馴染み同士で話に花が咲く物達等、様々な客が揃っているようだ。
小気味良い鋏の音が二つ、店内に広がる。アリムもキルシェも申し分無くその腕を振るい、二人の客の髪型は次第に整っていく。
最初は不安そうだった男性客も、キルシェの手際の良さに安心し、その腕前を賞賛するようになった。手を動かしながらも、それにキルシェは丁寧に礼を言っていく。
散髪には時間が掛かるもの。客の数を考えても、しばらくは手を止める暇は無いと思われる。しばし時間を進めるしよう。

 ……並んでいた客を捌ききり、二人が一息ついたのは午後三時を過ぎた頃だった。

「ふぅ、お疲れ様ですキルシェ、遅くなりましたが昼食にしましょうか」
「そうだな。物珍しいとはいえ、毎日こうだと流石に疲れてくるぞ」
「嬉しい悲鳴じゃないですか。とはいえ……おっと、上客が来たみたいですね」
「ん? あぁ、メリエラか」

 二人が店の窓から確認した人物は、真っ直ぐに店内へと入ってきた。深いブルーのショートヘアに、黒いスーツが映えている。

「いらっしゃいませ。今日は散髪で?」
「な訳無いだろう。が、これから昼食だろうからそれは頂く」
「飯なら他所で食ってこいよ……」

 入ってきた女性を連れて、二人は自宅になっている店内奥へと戻った。
廊下を抜けた先は直接リビングになっており、アリムはキッチンへ。キルシェとメリエラと呼ばれた女性はテーブルに着く。

「まずは昨晩の仕事の報酬、それと昼食代だ」
「はいはい。金払うなら、余計に他所で食ったほうが良いと思うんだが?」
「ここよりも美味い物を出す店が出来ればな」

 一体何処から出したんだよ……そう思いながらも、キルシェはメリエラから渡された札束三つと、数枚の小銭を受け取った。
そんなやり取りをしてる内に、アリムは焼いたトーストと炒め物を持って戻ってきた。それをそれらの目の前に並べていく。

「はい、お待ち同様です」
「おー美味そうだな」
「この香り……モモンとマトマ、それと柑橘系……レモンを混ぜたソースだな」
「香りだけでよく分かりますね?」

 アリムの声に反応する事無く、脇目も振らずにメリエラは食事を始めていた。唖然としていた二人も、それぞれに食事を始めていく。

「甘く、それでいてしっかりとした辛味も感じる事が出来、酸味のさっぱりとした印象も受ける……これらの味をよく調和させられるものだな。飲食店を開いたほうが良いのではないか?」
「いやぁ、褒められると嬉しいですよ。でもここが無くなると残念がるお客様もいますから、うちは理髪店でいいんですよ」
「それに、お前の場合こうして食えているんだから、逆に店になんてなられると困るんじゃないか?」
「それも一理ある意見だ」

 腹に開いた口にトーストを運びながら、キルシェは呟く。発声と食事を同時に行う妙な光景だが、見慣れている二人にはそう映らないようだ。
そのまましばらく食事をした後、終わりがけにアリムが口を開いた。

「……昨日始末したキリキザン、処理班を要請したと思うんですが?」
「あれか? 体裁の為に、奴は発見されないとならなかったのだよ。指名手配までされたポケモン、暗に消しただけでは不安の除去に時間が掛かり過ぎる」
「そっから俺達が割り出されたらどうするんだよ。弾の口径とかで」
「その辺は抜かり無い。処理班に徹底させたからな」

 始末したキリキザン、この一言で何の事かは分かるだろう。今朝ニュースにあったキリキザンの事だ。
そしてそれを亡き者にした男……それは、このアリムなのだ。

「それよりも、奴の手下の処理のほうが苦労したと報告が入ってるぞ。何せ、恐怖で口も聞けない状態だったそうだから、そのまま警察署の前に捨ててくるしかなかったそうだ」
「……キルシェ?」
「仕方ないだろ。そこまでしないと、顔見られた以上後から面倒だと思ったんだ」
「まぁそれはいい。……実は、今夜も一つ仕事を依頼したい」

 メリエラの一言に二人はきょとんとした。そして、顔を見合わせている。

「今夜も、だと?」
「珍しいですね、二日連続で私達に依頼が来るなんて」
「急を要するんでな。……これは、失敗者の出た依頼だ」

 失敗者。この一言を聞いてアリムの表情が変わった。纏った雰囲気は変わり、目付きは寒気がするほど鋭くなっている。

「内容は?」
「BARコルセア、知っているか?」
「キルシェ」
「噂程度には聞いた事があるな。表向きにはただの酒場だが、裏ではポケモンを使っておかしな事をやってるとか」
「よろしい。その噂なんだが、黒だったのだよ。あそこは、違法なポケモン娼館だった。それもポケモンの入手方の一つに、誘拐があげられる」
「誘拐……つまり、どこぞから攫って使ってるってのか?」
「そういう事だ」

 アリムは目を閉じて、二人の話に耳を傾けている。その手を、強く握って。

「だが、なんで今更なんだ? そんな事してれば、もっと早くから事態の収束をしてるだろ」
「何故今まで誘拐が発覚しなかったか。……もちろん、ポケモンを攫われたトレーナーは行方を捜すだろう」
「……そして、そのトレーナーも帰ってくる事は無かった、ですか」

 メリエルは静かに頷く。背もたれに体重を預け、アリムは宙を仰ぐ姿勢を取った。

「今回、我々の調査班に一人のトレーナーの捜索依頼が来た。そこから露呈した事実だ」
「そのトレーナーとポケモンの行方は?」

 メリエルの首は横に振られた。それが意味する事は……。

「最低でも、8人以上の人間が消えている。ポケモンの数になると把握すら難しい。そして、派遣した消去者、イレイザーも一人」
「ふぅ……依頼内容は?」
「BARコルセアに侵入、無事なポケモン及びトレーナーは要救助。コルセアの関係者は……消せ」
「キルシェ、午後は6時までの開店にしましょう。その後、準備を整え仕事に入ります」
「あぁ、了解だ」
「頼むぞ、イレイザー……アルフレッド」

 テーブルに並んだ食器を片付け、アリムは席を立った。今夜、彼らはまた……闇に溶ける。



 この世には、法の目が届かない影が存在する。
その影の中には悪がのさばり、法の光が届く場所にさえ、腐った悪意を撒き散らす。
法が届かぬ悪、それを消し去る事を生業とする者……消去者、イレイザー。
悪を滅する悪として、人知れず、暗き闇の中を進む者が確かにここに存在している。
BARコルセア、正面入り口の前に深紅のコートを纏った男が一人。丸眼鏡の奥には、殺意を纏った鋭い視線を宿している。
輝くネオンサインの下には、薄ら暗い地下へと続く階段が伸びている。乾いた靴音を響かせながら、男は地下へと降りていく。時刻は……午前一時を指そうとしていた。
階段を降りきった先には、洒落た雰囲気を演出している酒場が広がっていた。だがその酒場の中には、客と思しき人影は無い。

「いらっしゃいませ、お一人様で?」
「奥に用があります。通してもらえますか?」

 その一言に、店員は驚いている。が、気を取り直したように言葉を返してきた。

「申し訳ございません、奥はVIPルームとなっております。メンバーズカードの無いお客様は」
「私の用があるのは、その奥ですよ」

 店員は気付いたようだ、アリムが放っている殺意に。そっと懐に手を忍ばせたのをアリムは見逃さなかった。
刹那、銃声が静まり返った店内に木霊する。その銃弾は、店員の右腿を貫き、床を抉り取った。
あまりの痛みからか、店員の顔は歪み、痙攣を起こしている。それでも、傷口を押さえようとするのは本能から来る行動なのだろう。

「押さえても無駄ですよ。股動脈を撃ち抜きましたから、その程度で出血は止まりません」
「アリム、後続が来るぞ」
「今の私はイレイザー、アルフレッド。表の名で呼ばないでください」
「おっと失礼」

 店の奥から、銃声を聞きつけた店員達が押し寄せてくる。その数8、それに、数匹のポケモンが同時に駆けつけてくる。

「グラエナにヘルガーの混成チームですか。キルシェ、行けますね?」
「行けなくても行かせるんだろ?」

 二人は、それぞれの役割を確認して一気に飛び出す。迎撃をしようとしている、敵陣の中へと。
拳銃や小銃、それらの銃口が向けられながらも、アリムは接近を止めない。そして瞬時にポケモン達の脇をすり抜けてみせた。

「相手は一人だ、撃て!」
「殺る気、ありますか?」

 けたたましい銃声が響く中、一際大きな銃声が五発、音をかき消すように唸りを上げる。
そして、相手側の五人が倒れた。突然倒れたのではない、身体を貫かれたのだ、銃弾によって。

「なっ!」
「呆けてる暇はありませんよ。私が受けた依頼は、あなた達の消去ですから」
「消去だ、が……」

 喋る間も無く、3発の銃弾がそれぞれの店員を貫いた。バーテンダーのようなコスチュームは朱に染まり、辺りに、血液独特の臭いが広がり始めている。
アリムが振り返ると、そこには全てのポケモン達を叩き伏せたキルシェが、涼しい顔をして佇んでいた。
銃に込められていたマガジンを引き抜き、新たなマガジンを装填しながらアリムは奥へと進む。コルセアの従業員全ての殲滅と同時に、救出可能な者が居れば救助せねばならないからだ。
VIPルーム、入り口で説明された通りにその部屋は存在していた。そして、その先は無い。

「行き止まり、な訳無いよな」
「……キルシェ、あなたなら通路を隠す場合、どういった手段を取りますか?」
「オーソドックスなら本棚の裏とか隠し通路とかか? でも、そんなもの無さそうだぞ?」

 この部屋にあるのは、酒のボトルが入った棚と観葉植物、それにソファーとテーブルのみだった。棚も、高さが腰辺りまでしかない。
キルシェが壁をくまなく見ているが、擦れた跡等があるようには見えない。

「この部屋、じゃないのか?」
「……なるほど、ここですか」

 キルシェが壁を探ってる間に、アリムは答えを導き出したようだ。テーブルの傍に屈みこみ、おもむろに銃を放った。
床の一部が僅かに捲り上がり、その切れ目をはっきりとさせる。そして、突き刺さるようにめり込んだ弾丸をつまみに出来るようにしたようだ。

「はい、テーブル避けましょう」
「お前……床に当たりを付けてるなら言えよ!」

 文句を言いながらも、ガラスのテーブルを軽々と持ち上げ、投げやりにどかしている。手掴みポケモンの名は伊達じゃないようだ。
アリムが弾丸を抓むと、重々しい音をあげながら更なる地下への入り口が姿を現す。下り梯子だ。

「こんな手使ってでも隠して娼館なんてやるとは、理解出来ないな」
「する必要も無いでしょう。ここは、今夜で永久に閉館するんですから」

 納得したのか、梯子を下り出したアリムに続いてキルシェも下りていく。身体が浮いている為、梯子を必要としないでスルスルと下りていく。
降りてきた先の様子は、先ほどのBARとうって変わって牢獄のようになっていた。
アリムの鼻に異臭が掠める。思わず鼻を覆いたくなる衝動に駆られたが、片腕をその為に塞ぐのは駄策だと判断したのか、堪える事に決めたようだ。

「どうした?」
「……鼻が無いというのは、時々得もあるんですね」
「な、なんか馬鹿にされてる気がするんだが」
「気のせいですよ」

 不快感に襲われながらも、アリムは歩を進める。ここを牢獄と表現したのは第一に見た目。通路の壁に沿って、中の様子を見るための小窓が付いた扉が並んでいるのだ。
それの一つに寄って、アリムは様子をそっと覗いた。

「どうだ?」
「……見てみれば分かりますよ」

 キルシェが交代して中を覗く。
その先には、一人の男性と抱き合わされているミミロップの姿があった。
男性は裸であり、ミミロップの目は暗く濁っている。それ以上視線を落とす事無く、キルシェは扉を離れた。

「ちっ、腐ってやがる」
「ああなってしまったポケモンを救助出来るか分かりませんが、それは処理班の仕事です。私達は私達の仕事を完遂しますよ」
「了解だ」

 そのまま先に進んでいく……しかし、アリムには僅かな懸念があった。
コルセアに勤めている人間が、少な過ぎる。現に、店内でやりあった九人以外には、それらしい人物と遭遇していないのだ。
が、思考を巡らせるのは一時的に中断する事になる。きっかけは、とても小さな音をアリムが捉えた事だ。

「ん?」
「どうした?」
「微かに……泣いている声のようなものが聞こえたような?」
「なに? 俺には何も聞こえないが?」
「いや、多分もう少し先から……ここです!」

 他の部屋と同じ扉、だが、覗いた中の様子が違っていた。
部屋の中で、一匹のポケモンが静かに涙を流していたのである。

「! 無事なポケモンです!」
「何!?」
「だ、誰? 私も、連れて行かれるの?」
「安心して下さい、私達はあなたを救助する為に参りました」
「っていうかよく泣き声聞こえたな。集中してる時のお前の感覚、とんでもないぞ」

 救助しに来た、その一言に反応して、部屋の中のポケモンが扉の近くに来る。
近付いてきたポケモンがはっきりとする。一匹のコジョンドが、こちらを覗いて来たのだ。

「ここに居るのはあなただけですか?」
「他にもっと色んなポケモンが居たんだけど、さっきからどんどん連れていかれちゃって……」
「連れて行かれただと? 一体何処へ?」
「……なるほど、そういう事ですか」
「? 何か分かったのか?」
「後で話しますよ」

 念入りに扉を調べてみても、取っ手や鍵穴の類は無い。現時点では、扉を開くのは不可能なようだ。

「ロックを管理している場所を押さえないとどうにもしようがありませんね……」
「銃でどうにかならんのか?」
「これはどうしようもありません。撃ったとしても、多少歪む程度でしょう。君、必ず戻って参りますんで、もうしばらくここで大人しくしてくれますか?」
「は、はい! あの、それと……」
「なんでしょう?」
「大分前に、私のトレーナーがここに来たみたいなんです。私の名前を呼んでたんですけど、呻き声みたいのが聞こえた後分からなくなっちゃって……」

 コジョンドの目から、大粒の涙が零れだす。アリムは……何も言えないでいた。
様子を察したキルシェが割って入り、その口を開いた。

「分かった、俺達で探してやる。だから大人しくしてろよ。おい、行くぞ」
「……そう、ですね」

 お願い……掠れるような声でそう聞こえた後には、コジョンドの泣いている声以外は聞こえなくなった。
アリムの顔は一層険しいものになり、歯を食いしばっているのが、傍に居るキルシェにも分かるほどだった。

「……なぁ、さっきのなるほどってどういう事だ」
「ここはこの通り、ポケモンに客の相手をさせています。が、攫ってきたポケモンがそうそう言う事を聞くと思いますか?」
「んな訳無いよな」
「だから、あのコジョンドのようにしばらく監禁した後、大人しくついて来れば帰してやるとかなんとか言って騙して、商品に仕上げる訳ですよ。それが、丁度今日だったようです」
「なんとまぁ、それでこんなに手薄だったのか?」
「でしょうね。でなければ、上が襲われた時点で殲滅は終わっていてもおかしくなかったでしょう」

 歩を進める二人の前に、関係者以外立ち入り禁止の文字が書かれた扉が見えてきた。が、この扉も他の扉同様、鍵穴の類は見受けられない。

「ここも電子ロックか?」
「でしょうね。では、頼みますよ」
「あいよ。ま、すぐに管制装置が見つかるように願っといてくれ」

 キルシェの身体が壁に入り込み、そのまま向こう側へと消えていく。ゴーストタイプであるヨノワールならではの侵入法である。
扉の向こうには、各部屋の様子が映し出されたモニターが並んでいる。商品を駄目にされぬよう、こうしてモニタリングは欠かせないようだ。
モニターの前には監視員が二人、欠伸をしながら適当に監視をしている。
ざっと見たところ、廊下の映像が流れているモニターは無かった。だから侵入に気付かれなかったのかとキルシェは軽く飽きれてみせる。幾ら梯子を隠しているにしても、警備が笊過ぎる。
右手を硬く握り、思い切り横薙ぎに振る。そのままモニターの前の椅子に腰掛けていた二人は、見事に壁に張り付く事と相成った。

「こんなところに就職した自分を呪うんだな。ロックの管理は……よく分からないが、これか?」

 スタッフルームと書かれたボタンを押すと、先ほどキルシェが通り抜けた扉が開く。ロックの管理も、このモニター装置で行っていたようだ。

「お見事。それが?」
「あぁ、どこでもこれで開けられそうだぜ。どうやらモニターの番号とボタンの数字が連動してるみたいだな」
「なるほど、これであのコジョンドの確保は完了ですね」
「だな。後は……」
「この奥の馬鹿共を殲滅すれば終わりです。行きましょう」

 ここから先には、特に扉らしいものも無い。もはや、アリムを阻む障害は無くなったと言える。
身を隠す事もなく、悠然と深紅のコートを揺らしながら歩を進める姿はとても侵入者とは思えない。
途中、分かれ道を何度か通り過ぎながら、部屋があれば開け放ち中を確認していく。
そして、二人は一室の前で歩みを止める。

「ここは?」
「どうやら、調教を施す部屋で間違いないでしょう。それらしい音も聞こえます」

 開け放たれた扉の先には、広々とした部屋が広がっていた。
そこで行われている行為に、キルシェ、アリム共に憤りを覚える。

「下衆共め……」
「な、誰だきさ……がはぁ……」

 アリムの早撃ちは、手近に居た一人の男を正確に撃ち抜く。その銃声で、部屋に居た全員がアリムの存在に気付く事となる。
即座に二手に分かれた二人は、各々にポケモンを犯していた者達を屠っていく。突然の侵入者に、丸腰だった調教者達が成す術を持っている訳が無い。
辺りが静寂に包まれた時、動く者は……アリム達と、今の今まで調教に晒されていたポケモン達だけになっていた。

「もう一日早ければ、正常な状態で救出出来たかもしれませんね」
「俺達が後悔しても始まらねぇだろ。一匹は助けれるんだ、それで我慢しようぜ」

 瞳の輝きを失ったポケモン達を見て、アリム達はそう呟く。部屋に居たポケモン達はもう、全て穢された後だったようだ。
部屋の中には、アリム達が踏み込んだ扉の反対側にもう一枚扉があった。そこをそっと開き、アリムは俯く事になる。
キルシェがその部屋を覗くと、そこには……。

「……やっぱり、とはいえ……なんて言えばいいんだよ」

 ここに自らのパートナーを助けに来たであろう物達の、最期の姿が広がっていた。皆痛めつけられ、苦悶の表情を浮かべている。

「……行きましょう。まだ、元凶の排除が済んでいません」
「ここのオーナーか。確かに、それらしいのは居なかったかもな」

 扉を閉めて、来た道を戻る。まだ調べていない部屋を調べつつ、やや迷路のようになっている通路を進んでいく。
そして、一際目立つ装飾の施された部屋を、二人は見つけた。

「あそこか!?」
「突入します」

 扉を蹴破り、すぐに正面に銃を構える。そこには、椅子に座り待ち構えていたような男が一人居た。

「このBARのオーナー、でよろしいでしょうか?」
「あぁ。私がコルセアだ」
「話はもう分かっているでしょう。依頼により、あなたを消しにきました」
「イレイザー、町の治安を闇から維持する者達、か。昨日も一人来たので、念入りにもてなさせてもらったよ」

 つまり、失敗者はもう始末されている。始末する力があるという事を誇示したいようだ。
不意に、アリムは横に跳んだ。元々居た場所には、巨大な光沢のある銀色の尾が横たわっていた。

「紹介しよう、私のボディガードだ」
「ハガネール、ですか」
「不意打ちとは、いかにも悪党の考えそうな事だぜ」

 狂ったように涎を溢すハガネールが、その巨体をくねらせながら二人に迫っていく。その様子を見て、キルシェはさっとアリムの前に躍り出た。

「来い、ハガネール」

 コルセアの一声で、ハガネールは進路を変え守るようにコルセアの身に巻きついた。

「どうかな? 私の声のみに従う、生きた鋼の鎧であり、矛だ」
「焦点の合わない目、締まりの無くなった口……投薬による完全なコントロールですか」
「その通り。道具に意志など、あるだけ邪魔になるだろう?」

 道具、その一言によってキルシェは一気に怒気に包まれた。が、それをアリムが諌める。
静かに銃を構えるアリムの様子を見て、コルセアは嘲り笑ってみせた。

「そんな物がこいつの身体に効くとでも思っているのか? これは傑作だ!」
「試して、みましょうか?」
「こんなクズの話に付き合うだけ無駄だぜ、行かせてもらうぞ」
「えぇ、奴の動きを止めて下さい。止めは私が刺します」

 アリムが別のマガジンを取り出した瞬間に、弾かれるようにキルシェは動き出した。
コルセアは素早くハガネールに指示を出し、キルシェとハガネールは対峙する。
荒れ狂うように口を広げ襲い掛かったハガネールを、キルシェは造作もなく避ける。
がむしゃらに暴れまわるハガネールに捉えられれば最後、ただでは済まないだろう。だが、そんな危険と対峙しているにも関わらず、キルシェは冷静な視線をハガネールに送り続ける。
その行動全てをつぶさに観察し、僅かな一瞬を探る。どんな攻撃も皮一枚で避けてみせるキルシェの姿に、計算が違ったコルセアにも焦りが出たようだ。

「何をやっている! 早く捻り潰せ!」
「他のポケモンを出しても構いませんよ。うちのキルシェは、薬で操られたポケモン如きに遅れを取る事はありえませんから」

 コルセアが次のポケモンをけし掛ける事は無かった。どうやら、このハガネール一体以外のポケモンを連れてはいなかったようだ。
ハガネールが尾を輝かせ、切り裂くように振るう。アイアンテールと呼ばれる、自身の尾を更に硬質化させて放つ一撃がキルシェに襲い掛かる。
が、その一撃は空を切り裂いた。そこにあった筈のキルシェの姿が、忽然と消えたのだ。
目標を失ったハガネールは、勢い余ってバランスを崩している。そこをキルシェが逃す事は無かった。
物体の影と同化する、技の名は影打ち。ハガネールの影から飛び出したキルシェの拳は、的確に奴の顎を捉えた。
そのまま、キルシェの拳は炎に包まれる。烈火を纏った拳が次々にハガネールの身体に叩きつけられ、その鋼鉄の身体を溶かし、そのまま仰向けにハガネールは倒れこんだ。
しかし、キルシェは止まらない。おもむろに奴の尾を掴み、覇気の篭った雄叫びを挙げる。

「うおぉぉぉぉおぉぉ、っらぁ!」

 その両腕に慢心の力を込めて、キルシェはハガネールを投げ飛ばした。そして、投げられたハガネールの頭の先には……アリムが居る。

「薬によって制御されたポケモンが元に戻る事はありません。……せめて、一撃で送りましょう」

 ハガネールの頭を踏みつけ、アリムは引き金を引く。
雷鳴に似た豪砲が鳴り響き、ハガネールの頭を、一発の弾丸が貫いた。
コルセアはその光景に驚愕する。超硬度のハガネールの身体が、たかが拳銃一丁の弾丸で貫かれたのだ。この反応はもっともだろう。
声無き叫びを上げるように、嘶くような姿勢を取った後、ハガネールは二度と動く事は無かった。

「馬、鹿な……」
「デザートイーグルカスタムタイプ、ガンスミスによって打たれた銘は『ラピッドハウンド』。50口径の対鋼タイプ用弾、炸裂徹甲弾を撃ち出せるように改良された、世界でたった一丁しか存在しない銃です」
「お、お前は何者なんだ……い、いや、その深紅のコートに漆黒のデザートイーグル、まさかお前は!」

 炸裂徹甲弾の詰まったマガジンを外し、普段の徹甲弾に切り替えた銃を、アリムはコルセアに向ける。

「鮮血の射手、アルフレッド。あなたを消す者の名です」

 言い切った後、アリムの銃から一発の弾丸が撃ち出され、いやに小気味良い音が辺りに響き渡る事となった……。

 牢獄のような通路に面した一室の扉、そこが不意に開く。それに驚いて、中に居たコジョンドは身を竦めた。
扉へ近付いていく足音が一つ、通路に広がり迫ってくる。
そして顔を出した者を、コジョンドは覚えていた。自身を助けに来たという、あの男がそこに居たのである。

「もう出てきても大丈夫ですよ。お待たせしました」
「さっきの人! あ、あの、私のトレーナーは!?」
「……見つけは、したぞ」

 歯切れの悪いキルシェの一言に、コジョンドが嫌な予感を覚えるのは当然だろう。不安そうな顔を向けられて、アリムもどうする事も出来なくなっていた。
すがるように、コジョンドはアリムのコートを掴む。そして、震える声で自身の願いをその口から紡いだ。

「連れて行って、ください……」

 無言で頷き、アリムはあの部屋へと歩み始めた。コジョンドはアリムのコートを強く握ったまま、その後をついて行く。
重い足取りで歩を重ね、調教室の前で一同は止まる。

「出来れば、この部屋の中では目を閉じていたほうがいいですよ。手は、私が引きましょう」
「この先、なんですか?」
「正確にはこの部屋を通り過ぎた後、もう一つの部屋が、目的の部屋です」

 アリムの言葉に素直に従い、コジョンドはその瞳を閉じた。
扉を開け放ち、コジョンドが躓かないルートを選びながら、アリムは調教室の中を進む。
キルシェは、生気の無い目をしたポケモン達を見て、その目を伏せた。元凶を断とうとも、ここに居るポケモン達が元の生活を送れる事は恐らく無いだろう。その事を理解しているからこそ、いたたまれなくなるのだ。
そして……ついに、あの扉を開く。

「着き、ましたよ」
「あ、あぁ……そんな……」

 コジョンドの足は、ふらつきながらも一人の男性の元へ向かっていく。どうやら、この中に居てしまったようだ。自身の……共に同じ時間を過ごしてきた者が。

「ぁ、うぁ、うああああああああああ!」

 見つけたトレーナーの胸に縋りつき、コジョンドの慟哭が辺りに響き渡る。
何も出来ないと分かっていても、アリムはコジョンドの傍まで来ていた。

「私が、私がこんな所に連れてこられたから! 私のせいで! 私の!」
「それは違う、君が悪いことなんて一つもありません。悪いのは……この店に居た奴らです」

 自分を責めるコジョンドを抱き起こし、アリムはそっと抱きしめる。アリムの胸の中でもコジョンドの涙は止まる事無く、嗚咽を繰り返していた。

「携帯、出せよ。報告は俺がしておく」
「えぇ、頼みます。それと、メリエラさんにこの子の保護を要請してください」
「寝惚けてても絶対に来いって言ってやるよ」

 止め処なく泣き続けるコジョンドを、アリムは支え続ける。時刻は、午前5時を指し示そうとしていた……。



 アリム理髪店の入り口に、『本日臨時休業』と書かれたプレートが出されている。あんな事があった後なのだ、当然と言えば当然だろう。
時刻は正午。ラフな格好に着替え、ぼさぼさの髪をしたアリムがのそのそとリビングのテーブルに腰掛け、そのまま突っ伏した。
そこに、目を擦りながらキルシェも現れた。どうやら二人とも、今の今まで眠っていたようだ。

「よぉ、眠れたか?」
「ベッドに入ったと思ったら、気付いたらこの時間でした」
「俺も同じ。今回はしんどかったな」
「えぇ、特に最後が」
「だな」

 泣きじゃくるコジョンドの姿を思い出し、深く溜息をつく。

「あいつ、どうなるんだ?」
「分かりません。恐らく別のトレーナーに引き取られる事になると思いますが、心の傷が癒えない限りは無理でしょうね」
「やるせねぇよな。どうにも出来ないにしてもよ」
「まったくです……」

 しばしの沈黙が場を包み、通夜でも来たかのように空気は沈んでいた。
そんな静寂を、ヅカヅカという足音が払拭していく。どうやら、キッチンの方向からのようだ。

「くぉらシャキッとせんか! こっちは朝五時から働いているというのに!」
「メ、メリエラさん!?」
「うぉぉ!? 一体どっから入ってきやがった!?」
「裏口ががら空きだ。無用心な、施錠くらいしてから休むんだな」

 アリムが思い出してみると、確かに裏口から入り施錠しなかった事を思い出す。疲弊していたとはいえ、不注意が過ぎたようだ。

「えーっと、朝会ったばかりでいらっしゃるとは、どういったご用件で?」
「一つは報酬の支払いだ。まず、これを渡しておく」

 またしても何処から出したか分からない札束が六つほど、アリムの顔の横に置かれる。

「あぁ、これはどうも」
「で、一つって何だ? 他にも何かあるのか?」
「もちろんだ。おい、入ってきてくれ」

 メリエラの一声を受けて、キッチンから一つの影が現れる。その影に、二人は見覚えがあった。

「君は……」
「捕まってたコジョンドじゃねぇか。なんでまたここに連れてきたよ?」
「あの、私が無理を言って連れてきてもらったんです。ちゃんとお礼を言いたかったので」

 ぺこりとお辞儀をするコジョンドの姿を見て、やっとアリムは上体を起こした。

「お礼なんて。私達は依頼を受けて救助しただけですし、当然の事をしたまでですよ」
「それでもお前達が救出したのに違いは無い。素直に受け取っておくんだな」

 メリエラの一言に、アリムは恥ずかしそうに頬を掻いた。そして真面目な表情に変わり、コジョンドに語りかける。

「もう、落ち着きましたか?」
「はい。あの時はすいませんでした、見苦しいところをお見せしてしまって」
「気にしないでいいですよ。あんな事であなたの悲しみがほんの少しでも紛れれば、やる価値は十分にあったと思いますし」

 アリムが笑い掛けたのに答えるように、コジョンドの顔にも笑顔が浮かぶ。あの時にアリムがやった事は、無駄にはならなかったようだ。
その様子を見ていたメリエラの目が光る。それを見ていたキルシェは、不意の寒気に身を震わせた。

「この様子だと、やはりこれが一番の得策のようだな?」
「? なんの話ですか?」
「アリム、このコジョンド、お前に引き取ってもらおう」

 場が凍ったように固まり、しばしそのままになった。ハッとしたアリムが慌てて口を開くまで、それは続く事となる。

「ちょっ、何を言い出すんですか!?」
「え? え?」
「事情を全て知っているし、見たところ仲も上々そうじゃないか。悪い話では無いだろう」
「お前、次のトレーナー探すの面倒だから言い出したんじゃないだろうな?」
「ははは、その通りに決まっているだろう」

 あまりの開き直りっぷりに、キルシェの腹の口が開いたまま塞がらなくなった。これは、飽きれて当然ではあるが。
突然の提案にコジョンドも混乱し、慌てふためいている。実に当然の反応だ。

「よし、そうと決まれば、手続き等は私のほうで通しておこう。これで万事解決だ」
「いやいや待ってください! えっと、彼女、で合ってますよね? 彼女の意志を聞きもしないで勝手に決め付ける訳にはいきませんよ!」
「それもそうだな。では聞こう。誰とも分からないトレーナーか、自分を救ってくれたこいつ等、君ならどちらを選ぶ?」
「えと、こちらの方々でお願いします!」
「えぇ!?」
「完全な誘導だろそれ」
「駄目……ですか?」

 コジョンドがアリムに視線を合わせて、手まで取って懇願している。これにはアリムも、驚きを隠せないようだ。
頭を軽く掻き、溜息を一つ。

「……本当にいいんですか?」
「あの、本当を言うと、私もお願いしようと思ってたんです。私が彼の事を思って涙したのを支えてくれた、あなたの傍に居たい」

 コジョンドは自分の胸に手を当て、瞳を閉じて話を続けていく。

「きっと、私は彼の事を忘れられません。それでも……私を傍に居させてくれますか?」
「忘れる必要なんてありませんよ。……私でよければ、あなたの心が癒えるまでの居場所に喜んでなりましょう」

 アリムとコジョンドは見つめ合う。これで、アリム理髪店に新たな家族が増える事と相成った。
そんな二人の事をじと~っとした視線を送りながら見守っている者が約二名。

「……お互いに、よくそんな台詞恥ずかしげも無く言えるな」
「言いだしっぺだからとやかく言うつもりは無かったが、まったくだな」

 その一言ずつを受けて、一気に二人の顔が赤くなった。言ってる間は雰囲気のお陰で恥ずかしくなかったのだろうが、傍から見れば告白しあっているようにしか見えないのだから仕方が無い。

「話も纏まったところだし、昼食にしてはどうだ?」
「メリエラ、今日も食ってく気満々かよ」
「当然だ」
「えっと、それならもう夕飯まで我慢して、少々豪勢な物を用意するというのではいかがでしょう? その、コジョンドの入居祝いということで」
「ほほう、捨てがたい意見だ」
「ま、作るアリムがそう言うならそれでいいだろ」
「い、いいんですか!? 嬉しいですけど……」

 満場一致となり、夕食はパーティーとなる運びのようだ。

「そういえば、呼び方どうしましょうか? コジョンドではどうも失礼なような気がしますし」
「あ、自己紹介がまだでしたね。私はリーンと申します。ふ、ふつつか者ですが、これからよろしくお願いします」
「嫁入りか」
「こ、こらキルシェ。っと、私はアリムと申します。よろしくお願いしますね、リーン」
「俺はキルシェだ。ま、よろしく頼む」
「ここの家人ではないが、名乗ってなかったのでついでに名乗ろう。メリエラだ」
「はい! 皆さん、よろしくお願いします!」

 穏やかな日差しが、アリム理髪店へと差し込む。まるで、昨夜の悪夢を拭い去るかのように。
これは、一時の安息。一度依頼が舞い込めば、彼らはまた、闇の中を駆け巡る。
されどそれは別の物語。今は、闇の中を生きる彼らに、太陽の加護が有らん事を……。



……ここまでお付き合い頂いた方、ありがとうございます。
文章の癖などからどいつが書いたのか割り出されるかもしれませんが、そっと胸に仕舞って頂きます様お願い致します。
一言言いますと、書いてみたくなった、その一言に尽きてしまうのです。本当に申し訳ない。
さて、言い訳はここまでとしまして……

ここからはコメントエリアになります。感想等を残して頂けますと、作者が泣いて喜ぶでしょう……

今更ですがこいつが書いておりました。

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 彼方の小説は設定・文脈・内容とどれをとっても素晴らしいです。
    自分も小説を書いていますが、彼方のと比べると天と地の差…。

    まぁ、人と比べてしまうと劣っている部分が視えてしまうのは仕方がないのでしょうけど…。

    ともあれ、これからも頑張って下さい。
    ――zenoa ? 2012-05-25 (金) 20:47:10
  • >>zenoaさん
    いやはや、素晴らしいと言われると照れてしまいますね。ありがとうございます。
    しかし、zenoaさんの作品も拝見しましたが、素晴らしいと思いましたよ。イブ♂×ブー♀の作品、私はかなり好きです! 最新作の人×ゾロアークの物も楽しませて頂きましたし。

    読者として、zenoaさんの作品楽しみにお待ちしております。お互い、頑張っていきましょう♪
    ――双牙連刃 2012-05-26 (土) 15:50:30
  • さっ…さすが双牙連刃さん……
    エピソード2みたいのとか作る予定ありますか?
    ―― 2013-08-21 (水) 07:51:24
  • >>08-21の名無しさん
    うーん、この作品のエピソード2は特に予定してはいないんですよね。
    ただ、もし書くならこんな感じの話だなぁっていうのはあるので、それが纏まれば書くやもしれません。ただ、あまり期待に添えるかは分かりませんのでご了承下さい!
    ――双牙連刃 2013-08-21 (水) 11:07:07
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Last-modified: 2012-05-10 (木) 00:00:00
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