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1人と7匹の物語 番外超短編作品3 魔笛

/1人と7匹の物語 番外超短編作品3 魔笛

呂蒙・お決まり、ではないですけど三度季節ネタです。

 ここは、大学のラウンジ。壁に取り付けられているテレビは盛んにレジャースポットの紹介の映像を流している。もうすぐ、祝日と土日が続く「大型連休週間」に突入する。観光施設としては黙ってはいられない。利益を伸ばす絶好の機会だからである。その画面を見ているリクソンの顔はどこか浮かなかった。
「はぁ……」
「リクソン、どうしたの?」
 水色のつるりとした体に、特徴のある長い尻尾と顔の周りには襟飾りのようなものがついているポケモン、リクソンがいつも連れている7匹のポケモンのうちの一匹、シャワーズである。リクソンは口を開く。
「シャワーズなら分かるだろうなあ」
「え、何が?」
「どうして、この時期にこの手の放送が多いかっていうのをさ」
「それは、もうすぐ大型連休だし、テレビ局としてはこういうのをやれば多くの人が見てくれるからじゃないかしら」
「そう、そこだよ」
「あ、何となくリクソンの考えてること、私にも分かるわ」
 賢いシャワーズはすぐに察しがついた。観光施設には当然経営者がいるわけで、連休には多くの客を呼び込み、利益を確保したいわけだ。と、なれば行動あるのみ。何かしらの戦術を使って、客の呼び込みをしたり、他の所から客を奪いにかかるわけだ。すなわち、客という名のついたパイの争奪戦である。
 リクソンの父親は実業家である。大学院に在学中、父親が急死したため、大学院を中退して会社の経営にあたった。それから約30年。かなり苦労した時期もあったが、会社はさらに大きくなった。リクソンの父、シュウユ=ハクゲンといえば経済界の大物として名を馳せている。おまけに大学の先輩後輩が各方面で活躍していることもあって、その方面にも影響を及ぼし始めている。もっとも本人は、あと4、5年もしたら引退する気らしいのだが。
 いつぞやの商戦のときに、チョコレートを大量に食べさせられる羽目になってしまい、友達や先生まで巻き込んでしまった。おまけにあの時グレイシアは逆上せてしまったし。頭にきたリクソンは父親に電話をかけた。すると、お詫びの品をいくつか送ってきた。以外にもすんなりと謝ってくれた。その中に温泉のタダ券があった。調べてみると、山奥の湯治場らしい。さらによく調べてみると、温泉宿の代金も条件付きで半額にしてくれるらしい。とはいえ、今度の大型連休の最終日までに使わないと、ただの紙くずになってしまう。
「あ、そういえばあったわね。で、行くの行かないの?」
「うーん、全部タダは危ない気がするけどなあ、一応は金とるらしいし」
「じゃ、行く?」
「いや、しかし、この条件て何だ?」
「100度の熱湯風呂に入れとかじゃない?」
「古いな、それ。んー、あー、ポケモンを連れてくることってある」
「私たちを騙して、捕まえて売り飛ばす気なのかしら?」
「それやったら、大問題だぞ」
 しばらくすると、バショクがラプラスを連れてやってきた。
「よっ、そーいえばさ、バショク君は連休どうするの?」
「そーですねぇ、どっかでかける予定ではいますけど、まだ決めてません」
「んじゃあさ、ここ行かない? 山奥の湯治場だけど」
「あー、いいですね」
 バショクはくるりと振り向く。
「てことだけど、ラプラスはどうする? 留守番でもいいぞ。水と乾パンは置いていくから」
「……」
「冗談だ。そんな冷たい目で見ないでくれ」
 リクソンにとっては、ラプラスはいてくれた方がいい。大人しいし頭もいい。身近にいる黄色白ツンツンとは大違い。どうしてああなってしまったのやら。イーブイって進化すると性格まで変わってしまうのだろうか? しかし、あいつは進化前からああだったな。変わったのは姿かたちとタイプくらいか。ま、でも根は良いやつなんだ。
「あ」
「どうした、サンダース」
 リクソンが聞いても、サンダースは無言だった。代わりになにか細いものが飛んできた。
「わっ! 何すんだよ」
「よっしゃあ、当たったぜ」
「危ないじゃないか」
 リクソンがサンダースを叱りつける。
「は?」
 しかし、サンダースにはリクソンが何で怒っているのかが分かっていないようであった。が、後ろを見るとそのわけが分かった。
「えっ……」
 リクソンは驚いた。ハエにミサイル針が命中していたのである。たった数ミリの的に見事に当てるとは、しかも一発で。そのリクソンの様子を見ていたサンダースは自慢げに言った。
「へっへっへ。すごいだろ? ちょっと集中すりゃあこんなもんよ」
「どーせ、バショク君に教えてもらったんだろ」
「うっ」
 どうやら図星だったらしい。
「でもよ、撃って撃って撃ちまくって、味方に当てちゃったら元も子もないだろ」
「それ、ただのアホじゃん」
「何だよー、オレだって努力したんだぞ」
「だーかーら、成長したことは認めてるぞ。バショク君のおかげで」
 リクソンとサンダースはいつもこんな感じだ。しかし、それでも仲が悪いわけではない。仲が良いっていうのは実はこういうことなのかもしれない。
 バショクが言うには、兄のバリョウには行くか行かないか後でメールするとのことだった。
 翌日、バリョウから直接メールが届いたので、リクソンは、行き先と集合場所を返信した。

 〇〇〇

 当日、3人はターミナル駅に集合した。まずここから、急行電車に乗りそれからバスになる。一時間もしないうちに、ビル群の風景はなくなり、のどかな田園風景に変わった。いかに人間が狭い所に密集しているかが分かる。こういうところにはやはり野生のポケモンが多くいるのだろうか?
 終点まで乗り、今度はバスに乗り換える。これも終点まで乗る。周りは山で、バスターミナルの周りに様々な施設が密集している。が、目的の湯治場はここからさらに歩かねばならない。てくてく歩いて、小さな町の隅っこに目的の温泉宿はあった。ガラガラかと思いきや、以外にも客は入っている。ポケモンを連れた人たちも見受けられる。ポケモンも湯治をするのだろうか? 部屋に通されると視界を支配するのは山と緑ばかりであった。
「うっわー、すげー、山の中」
「そうだな」
 バショクの率直な感想にバリョウが相槌を打つ。もともと「秘湯」と銘打っているだけのことはある。ただ、毎日こんな様子だと「秘湯」ではなくなってしまうかもしれないが。リクソンは、この湯治宿も父親の会社の子会社の子会社が経営しているということは知っていたので、父親がとんでもないことを考えているのではと不安になったが、どうやら今度はなにもなさそうだ。人が多いのも連休のせいだと思っていた。が、実は違っていた。
 部屋に一枚のチラシがあるので何げなく手に取ってみてみると、ポケモンの特技を披露して、優勝者には豪華な賞品が出る、というものだった。ただ、技を披露するわけではなかった。まあ、考えてみれば、ここで火炎放射なんかやったら、宿が灰になってしまう。どうやら、これに出場してくれる人は、宿代が半額になるということだった。で、これ目当てに来る客を多く集めて、利益を生み出そうということらしい。3人は相談した結果、リクソンのポケモンを何匹か出す、ということで決まった。安い金で泊まり、賞品を山分けできればと3人は目論んでいた。
 ひとまずエントリーを済ませる。時間になったら来てくれと言うので、ひとまず部屋に戻ることにした。
 時間になったので、特設舞台の裏側に移動した。何匹かのポケモンが特技を披露、といっても、瓦を割るとか煉瓦を割るとかいう体育会系のものが多かった。技以外でとなると、だいたいはそうなるか。リクソンのポケモンで最初に出るのはリーフィアだった。
「ところで、リーフィアは何をやるの?」
「笛で、モーツァルトの『魔笛』を演奏します」
「え? そんなのできるの?」
「期待してくださいね。必ず賞品を勝ち取って見せますから」
 リーフィアは自信がありそうだったので、何も言わなかった。
 リーフィアの番になったが、司会者は半信半疑だった。リーフィアを紹介する前に「魔笛ってあの魔笛か?」とつぶやいていた。リーフィアは、胸元に生えている植物を口にくわえると、草笛で魔笛を演奏した。
(すごくうまい……)
 誰もがそう思っていた。が、リーフィアの姉、グレイシアは、ああやっぱりと言わずにはいられなかった。
「リクソンさん、ちょっとこの場から離れましょ、ね?」
「え~? 何で?」
「え、だって、この後大変なことになるから……」
「急に下手になるとか?」
「違うけど、とにかく、ね?」
 グレイシアが言うのでリクソンはこの場から離れた。グレイシアの言うとおり、この後大変なことになってしまったというのを後で知った。バリョウいわく
「本当の魔笛だった」
 ということらしい。ポケモンに関してさほど知識があるわけではないリクソンには何のことか分からなかった。

 終わり、それでは皆さんよい連休を。

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Last-modified: 2010-05-01 (土) 00:00:00
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