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1人と7匹の物語 6

/1人と7匹の物語 6

 連休・後編(6話)

 7匹がドアを破って部屋に突入すると、リクソンが倒れていた。
「・・・・・・! リクソン!?」
 部屋に見たこともない、3匹のポケモンがいることも驚きだったが、それ以上にリクソンが倒れていることのほうが驚きだった。
「おい!リクソンっ! しっかりしろ!」
 ブラッキーがリクソンのもとに駆け寄って体をゆすったが、反応はなかった。最悪の事態も考えられたが
「・・・・・・気絶してるみたいね」
 後から、駆け寄ったシャワーズがそういうと、皆はひとまずは安心したが、まだ問題はあった。リクソンに危害を加えたであろうこの3匹を何とかしなければ。
「とにかく、明かりをつけましょう」
 リーフィアが植物の蔓を器用に操って電灯のヒモを引っ張った。蛍光灯の光が部屋の隅々まで照らす。明かりが3匹の姿を白光のもとにさらした。
 大きさは、7匹よりもかなり小さい。3分の1程度だろうか。それぞれは似たような姿かたちをしており、額には宝玉がはめ込まれていた。
「・・・・・・何なの? あなたたちは」
 シャワーズが聞く。
「・・・・・・イーブイの進化系7匹全てを持つ人物。やはり、ご主君の言っていた通りか」
「質問に答えて」
「・・・・・・我らは、使いの者。ご主君からの特命を受け、やってきた」
「何故、リクソンを襲ったの?」
「襲ったわけじゃないわ、あんまりにもうるさいんで黙らせただけよ」
 そのいけしゃあしゃあとした受け答えに7匹全員が腹を立てた。
「てめぇ、オレ達の主人に危害を加えて無事で済むと思うなよ!」
「待ってよ、こっちはまだ聞きたいことがあるんだから」
 怒り出すサンダースをシャワーズがとめる。
「じゃあ、その『特命』とやらの内容を教えてもらいましょうか」
「・・・・・・詳しいことは我らも知らない。とにかく会って、明日、自ら出向くと伝えてくれ、言われただけだからな」
「ご主君、って誰なの?」
「・・・・・・身分は明かせないが、とにかく、あがめられているお方だ」
「・・・・・・信用できないわ。あなたたちは、どこかのペテン師の使いというわけなのね」
「違う!我らのご主君は、『時の神』であらせられる」
「そういうのは、神話でしょ。そもそも、その神様がリクソンに何か用でもあるの?」
「多分、そうだと思うが、詳しいことは何も聞いていない」
(はぁ・・・・・・、埒あかないわ・・・・・・。でも、そろそろかな)
「じゃあ、そろそろ本題に入りましょうか?」
「さっき全て話した・・・・・・な、何だこれは!?」
 3匹は互いに氷の輪でつながれていた。輪の両端から伸びた氷が天井と床を結んでいるため、3匹の身動きは全く取れなくなっていた。
「シャワーズちゃん、大成功よ」
「さすがは、グレイシアさん」
 結論を言ってしまうと、シャワーズのさっきの問答は時間稼ぎ。その間にグレイシアが部屋の温度を下げていたというわけだ。無論、リクソンが凍死しないようにブースターが持ち前の能力でリクソンを温めていた。
「どう?これが、『連環の計』よ」
「・・・・・・そうか、これが7匹がいてこそなせる技か・・・・・・」
「さぁ、知っていること洗いざらい話すまで帰さないわよ」
「ご主君のもとへ帰り、今日の出来事を詳細に報告するのが我らの役目。無理にでも帰らせてもらう」
「その動けない状態でどうやって?」
 シャワーズは、相手が動けない状態なので、少々油断していた。これがいけなかったのかもしれない。
 突然、部屋全体が強烈な光に包まれた。あまりの眩しさに、シャワーズたちは目を開けていることができなかった。光はすぐに収まったが、その時すでに3匹は姿を消していた。グレイシアの作り出した氷が粉々に砕け散って、部屋に落ちていた。それらは、窓から入る月光を反射し、明かりを試しに消してみると、水晶のように輝いていた。
 再び明かりをつけて間もなく、リクソンが意識をとりもどした。
「うぅ・・・・・・。あれ、ブースター・・・・・・」
「あ、リクソンさん。良かったぁ」
 他の6匹もリクソンのもとに駆け寄ってきた。
「なぁ、一体、何があった?」
 サンダースが尋ねる。
「何って、部屋で休んでいたら、見たこともない3匹のポケモンがやってきて、訳のわからないことを言うもんだから、言い争いになって、で、意識が遠のいていったってわけさ。まぁ、オレは神とか仏なんて信じない方だからな。ポケモンにもそーいうのがいるらしいが、オレは、古代の人々の想像に過ぎないと思っている。人間の世界でもそうでしょ、海が割れて道ができた、とか」
「あ、それ、『出エジプト記』ね」
 リクソンの難しいというか、専門的なというべきか、そういう話になるとついてこれるのは、エーフィとシャワーズだけになってしまう。
「まぁ、旧約聖書の中の話はさておき、オレは風呂につかってくるよ」
 リクソンは、タオルを持って部屋から出て行った。

「あー、気持ち良かった。やっぱ温泉はいいね」
 リクソンは「無事」に部屋へ戻ってきた。
「あれ、ブラッキーはどうした?」
 リクソンは側にいた、エーフィに聞いた。
「外」
「月を見てるのか?」
「そうだよ」 
 
 ブラッキーは屋根に登り、月を見ていた。しかし、何でこんな事をするようになったかは自分でもわからない。進化する前はこんなことしなかったのに。
 2ヶ月前にこのことを、リクソンの後輩で自分をかわいがってくれている、バショクに相談してみたところ、リクソンの友人でバショクの兄、バリョウが興味を持ち、いろいろと調べてレポートにしてくれた。が、俊才バリョウでも一体何が原因でこうするのか、証明できず「仮説」の段階で終わってしまった。その後、バリョウはこのレポートを大学に提出した。ブラッキーという珍しいポケモンのレポートであったのと、未完のレポートだったが、よくまとまっていたので、高い評価を得たという。
 まぁ、そんな小難しい話はどーでもいい。とにかく、体にいくつかついている金環模様がそれを求めるのである。
 リクソンやバショクたちを守ること、それがオレの使命だ。月の光を浴びるのもこれに役立つんならそれでいいじゃないか。さて、そろそろ部屋に戻ろうかって・・・。
「誰だ!?」
 ブラッキーは誰かの気配を感じた。くすくす、という笑い声が聞こえる。
「牡のくせに月を見て考え事をしてるなんてね、あ、そうそう私はエムリット。お前とか、てめぇとか言われるのは不愉快だから覚えておいてね」
 さっきいた3匹のうちの1匹だ。
「何しに来た?リクソンには指一本触れされないぞ」
「ふふふ、あなた1人だけなら丁度いいわ。さっきの話、信じてくれそうもなかったから、7匹のうち1匹を拉致して、解放と引き換えに直接あなたたちの主人に話させたほうがいいと思ってね。まぁ、私の独断だけど」
「このオレを拉致するだと? 面白い」
 エムリットはブラッキーに催眠術をかけたが効かなかった。
「そんな、子供騙しの技、通用しないぞ」
「・・・・・・やっぱり眠らせるのは無理ね」
 ブラッキーは攻撃しようとしたが、何かが裂けるような音が聞こえたので、咄嗟に伏せた。
「・・・・・・ちっ、避けきれなかったか・・・・・・」
 ナイフの切っ先のようなものが、ブラッキーの耳に当たり、鮮血が滴り落ちた。
(畜生、相手が超能力を使えると面倒だな。技自体は効かなくても、どうにでも応用が利くし、さっきの空気を切り裂いたように)
「無理しないほうがいいよー?」
「ふん、降参するくらいなら自決したほうがマシだ。喰らえっ」
 ブラッキーは、「シャドーボール」を投げつけた。が、当たらなかった。
「はずれー」
「甘いっ、これが乱射だ」
 7発中2発が当たった。普段ならはずさないのだが、的が小さい上にちょこまかと動き回るので、はずさなかっただけマシと言えるだろう。
「なかなかの手練ね」
「その言葉、そっくり返すぜ」
「でも、これならどう?」
 突然、闇夜に無数のポケモンが現れた。
「見え透いた手を。こんな幻にって、痛ててて」
「ふふ、私の幻は、実体化することが可能なのよ」
 大した攻撃ではないが、正直言って鬱陶しい。
「ええいっ、雑魚どもが!!!」
 ブラッキーは、つめで空気を切り裂いて、幻をかき消した。
「あらら、一発で」
「さっきのを忘れたか!?」
 ブラッキーの乱射が炸裂した。「シャドークロー」で作った、巨大な刃がエムリットに襲い掛かる。
「くっ」
「ちっ、結界、バリアーだと!?」
 エムリットも完全無傷とはいかなかったが、それでも、バリアーでかなりのダメージを軽減していた。
「いい加減、諦めたら? 私はそんじょそこらのポケモンとは格が違うのよ」
「・・・・・・そんなに死にたいのか? その望み叶えてやる!」
「え?」
 ブラッキーが雄叫びを上げると、雪崩のような音が起きた。と、同時に空気全体が大きく振動し、波となってエムリットを飲み込んだ。
「きゃあああっ、バ、バリアーが破られたぁ・・・・・・」
「さぁ、どうする?」
「ううっ、私の負けよ・・・・・・」
 エムリットは静かにそう言うと姿を消した。ふう・・・・・・、さっきのは「悪の波動」という技。技の名前が気に入らないのであまり使っていなかったが、まさかここで使うことになるとはな。
「うふふ、最後まで気を抜いちゃダメよ」
 この声、まさか・・・・・・。ブラッキーの背後にエムリットが現れた。
「くっ、このオレが・・・・・・」
「『だましうち』が使えるのに、だましうちにされるなんてね。けーせーぎゃくてんっ」
 が、悪(?)が栄えたためしはない。これが摂理というものだ。
「そうはいかないっ」
 虹色の冷気を帯びた光線がエムリットに命中して爆発した。
「なっ、何なのよ?」
(これって、『オーロラビーム』だよな・・・・・・。シャワーズの)
「まだまだ!」
「それで終わりと思わないでよ!」
 緑の葉と氷の塊が相次いでエムリットに命中した。
「そんなー、1対4なんて・・・・・・」
 シャワーズとグレイシア、リーフィアが屋根に登ってきた。
「よくも、私たちの仲間を・・・・・・。終いにはだまし討ち?」
 あの冷静なシャワーズが本気で怒っている。
「お姉ちゃん、どうするこいつ?」
「そうねぇ・・・・・・」
 と、突然夜空の一部が歪んで声が聞こえた。
「この大バカモノ!!!!勝手に抜け出して、私闘に及び最後にはだまし討ちだと?私にどれだけ恥をかかせたら済むというのだ」
 エムリットは必死で弁明をした。
「ご、ごしゅく~ん。お許しを~。だって勝ちたかったんだもーん」
 こいつ、ほんとに神の使い?そもそも、弁明になってないし・・・。
「今日という今日は許さーん。罰として修行500年を申し付けるッ!!!」
(・・・・・・500年って事実上の終身刑やんけ・・・・・・。まぁ、普通のポケモンと違って1万年くらい生きるのかな)
 エムリットは、歪んだ夜空に消えていった。
 4匹は屋根から下りて、部屋に戻った。
 やれやれ、それにしても、散々な連休になっちゃったな。まぁでも、今日が初日。残りの日を思いっきり楽しめばいいか。
 今日はいろいろあって、全員疲れているので、布団に入ると、みんなすぐに寝てしまった。
 

 6・5話 ガイテイの深夜

 ここから下は、その・・・・・・、何というか・・・・・・、「官能的描写」があるので、嫌な人は見ない方がよろしいかと。

 しかし、今日のやつらは一体なんだったのだろう?
 普段、神とか仏を信じないリクソンも、さすがに気になった。ただ、いろいろ考えても一向に答えが出ない。いつぞやの雑魚どもをグレイシアが氷づけにした一件で、神が罰を下しに来たとでも言うのか? いや、でもあれは、ああしなければ自分たちがやられていたことは間違いなかった。立派な正当防衛ではないか。左の頬をはたかれたら、右の頬を向けろってか? ふん、そんなものは綺麗事だ。それでは、世の中を渡っていくことなど不可能ではないか。
「眠れないの?リクソンさん」
 ブースターが話しかけてくる。
「あ、起こしちゃった?」
「ううん。私も眠れなかったから」
「・・・・・・睡眠剤が必要だな」
 リクソンは、財布を持って部屋から出て行った。部屋から出る直前、ブースターが何か言いたそうな顔をしていたが、この時は気づかなかった。
「ふふふ、眠れなければ、眠れるようにしてしまえばいいだけのこと」
 リクソンは、自販機で500ミリリットル入りのビールを2本買い、一気に飲み干した。酒に強いリクソンでも、さすがにほろっとしてきた。それでいて何だが気分がよくなってきた。しかし、今はこれでおしまいにしておかなければ。途中トイレに寄ってから部屋に戻った。
「さて、酔いも回ってきたし、寝よう」
「ねぇ、リクソンさん」
「何?ブースター」
「私のこと、どう思ってるの?」
「えっ?うーん、質問が漠然としてるなぁ。どう答えたら良いものやら」
「じゃ、私って、大人?それとも違う?」
「び、微妙・・・・・・。でも、子供じゃないよなぁ・・・・・・」
「ホント?じゃ、大人?」
「ああ、そう、かな?」
 ブースターは、眼をキラキラとかがやかせ、尻尾を振っている。「大人」と認められて嬉しいのだろうか?
「お姉ちゃんが言ってたんだけどね、大人になった牡と牝はあることをするんだって、でね、お姉ちゃんもカンネイさんと、って・・・・・・」
 ブースターが話している最中にリクソンは寝てしまっていた。
「何よ、もう。寝かせないからねっ」
 ブースターは、掛布団をはぎとると、リクソンに抱きついた。そして、自らの体温を上げていく。50、55、60、65度・・・・・・。80度になる直前で、リクソンは飛び起きた。言うまでもなく、全身は汗びっしょり。
「はぁ、はぁ・・・・・・。何だったんだ、今の?」
「あ、おはよ」
「って、まだ4時前じゃん」
 リクソンは布団の上に身を横たえた。
「あー、リクソンさん。汗びっしょり。私がタオルで拭いてあげる」
「あ、ありがとう。って何やってんだよ?」
 ブースターはペロペロとリクソンの全身をくまなく舐めている。さらに、下着はいつの間にか脱がされてしまっていた。そういえばさっき、大人になったとか何とか言ってたような気が・・・・・・。それにしても・・・・・・、カンネイがそんな淫らな行為を。いや、どーせあいつのことだ。多分、脅されたかムリヤリってとこだろうな。このブースターの姉に。
 と、ブースターの視線があるものにいっていることに気づく。
「これが、牡の性器ね・・・・・・」
 ブースターはリクソンのモノを見て笑みを浮かべていた。ああ、一体オレは何をされてしまうのか。逃げたところで飛びついてくるのは目に見えている。為す術なし。もはや、俎板の上の鯉状態。
「じゃ、ここも」
 ブースターはリクソンのモノを舐め始めた。
「うっ、くううっ」
 酒のせいもあるが、こんな事をされては抵抗しようにも力が入らず、情けない声を上げることしかできなかった。
「あっ、リクソンの性器、大きくなってきた。何かビクビクいってるよ」
 と、言いながら、ブースターはモノの先端を巧みな舌使いで扱っている。
「や、やめてくれ、って、くっ、ううっ、ああっ・・・・・・」
 リクソンの身体が波打ったかと思うと、モノの先端から白く、粘性のある液体が飛び出た。
「顔にかかっちゃった。じゃ、今度は・・・・・・」
 ブースターは後ろ足を広げ、リクソンの顔に近づけた。
「今度は何だよ」
「さっき、舐めて気持ちよくしてあげたんだから、今度は気持ちよくしてよ」
 つ、つまりブースターの秘部を舐めろと?
「嫌だよ」
「言うこと聞かないと灰にしちゃうよ?」
 今のブースターなら本当にやりかねない。リクソンはやむなく指示に従うことにした。もはや、完全に主従関係が逆転してしまっている。
 ぺろぺろとソフトクリームでも舐めるようにブースターの秘部を舐める。
「ああんっ。リクソンさぁん。気持ちいーよぉ。もっと舐めてぇぇ」
 ええぃ、毒を食らわば皿までよッ!リクソンは左手をブースターの胸に伸ばした。そして、ふにふにとブースターの胸を弄繰り回した。・・・・・・ブースターって意外と胸大きいんだな。
「ちょ、ちょっとリクソンさん、ふみゃああっ」

 ブースターの秘部から透明の液体がたれている。が、気にせず秘部を舐め続けると、ブースターも耐え切れなくなったのだろうか。
「ああっ、も、もうだめ・・・・・・。みやぁぁぁんっ」
 ブースターの秘部から、多量の液体が流れ出たというより墳出した。
「・・・・・・リクソンさんて、こんな大胆な人だったのね」
「ふん、理性さえ壊れてなきゃこんなことには・・・・・・」
「ね、またやろう、約束よ?」
 リクソンは返事をせずに服を着ると、洗濯物を1つの袋に入れコインランドリーに向かった。旅行中に着た服や、先ほどの行為で汚れてしまった布団のシーツを洗濯機にいれ、小銭を入れた。機械が動き出し、洗濯物が洗われていく。
 ロクに寝ていないリクソンは、自販機で紅茶を買った。そして缶を開けたまではよかったが、どうも、先ほどの行為がトラウマになってしまったのか、何かに口をつけるという行為がすんなりできなくなってしまった。
 まぁ、そうなってしまうのも無理はない。さっきのが、初めての「行為」であったわけだし。


 (7話)
 洗濯物を終えたリクソンは、部屋に戻ってきた。朝6時だというのに、もうみんな起きていた。
「なぁ、リクソン」
 ブラッキーが話しかけてくる。
「あ?どうした?」
「カーテン、閉めてくれよ。眩しくて目が覚めちまったよ」
「え?閉めた、はずだぞ?」
 確かに、昨日の夜に閉めたはずだ。みんなでしっかりと戸締りをしてから寝たのは間違いない。しかし、窓の鍵は開いていた。とすると、誰かが? というか、そんなことに気づかなかったこと自体、迂闊だった。まぁ、あんなことしてたからというものあるが。 
「・・・・・・もしかすると、何か盗られたかもしれない。寝てる間に誰かが」
「ああ、それなら、大丈夫よ」
 と、シャワーズが言った。彼女いわく、真っ先にそれを疑って、リクソンの荷物を調べたが、貴重品は無くなっていなかったという。その言葉通り、小銭入れもデジタルカメラも、限定品の腕時計も無事だった。近頃は、珍しいポケモンを誘拐する輩がいるとか聞くが、まぁ、そのテの奴が忍び込んだ可能性も無いわけではないが、その場合、むしろ危ないのは犯人の方だと思う。そもそも、全員、耳が利く種族だから、そんなのがいたら誰か気づくだろう。
「まぁ、何も無かったからいいさ。オレは朝風呂に」
 リクソンが部屋を出ると、7匹もついてきた。
「そういえば、ブラッキー、昨日の傷は?」
「ん? あれなら、朝起きたら、かさぶた取れてきれいに直ってたぞ」
「よく撃退できたな」
「夜の戦いなら誰にも負けねーよ。ま、昼だったら、それこそ、風になってリクソンたちを見守ることなってたかも・・・・・・」
「おいおい、お前らしくないぞ」
「いや、冗談抜きで。気を抜いてたら、ばっさり斬り捨てられてたぞ」
「何で助けを呼ばなかった?」
「だーかーらぁ、隙を見せたらそれで、アウトだったって」
「それにしても、ブラッキー、成長したな」
「全ては、リクソンの為だよ。あの時の恩は、あ、いや、何でもない」
 リクソンと7匹は、大浴場に着いた。男女に分かれて中に入った。時間帯ということもあって先客はいなかった。ま、その方が貸切みたいでいい。
 熱めのお湯につかると、ぴりぴりした神経がゆっくりと伸ばされていく、そんな感じがした。
「う~ん、やっぱ温泉はいい」
 しかし、自宅の風呂と違ってお湯が熱いので長時間はつかっていられない。そういえば、章武国にも温泉がたくさんあるらしい。恪先生にお勧めのスポットでも聞いておくか。そんなどうでもいい事を考える。けれど、最近はそんな余裕も無いことすらあった。ああ、平和とか平穏っていいなぁ。尤も、それが長続きしすぎるとセイリュウの警察のように弛緩してしまうことにもなるのだが。
 そろそろ、上がろう。これ以上つかっていると、逆上せてしまう。
 出入り口のところで合流して、リクソン一行は食堂へ向かった。朝食の時間だからである。
 パンにサラダと卵料理にコーヒーという簡素な、いわゆるコンチネンタルブレックファストと呼ばれるものだ。量が少ない気がしなくもないが、朝はこれくらいが丁度いい。逆に、たくさん食べろという方が辛い。コーヒーのお代わりをした後に部屋に戻る。
 さぁて、これから何をしよう。ここにいる間は何かしなければならないということも、誰かに会わなければならないということもない。日頃の生活から解放されたという事実、爽快感に近いものを覚えるが、それは、一瞬のものでたちまちその反動がやってくる。すなわち、暇、なのだ。これから、一体何をすればいいのかが分からない。どうしよう・・・・・・。
「リクソーン、ヒ~マ~、どっか行こ~ぜぇぇ」
 と、サンダース。
「よし、わかった。出かけるとしよう・・・・・・」
 リクソンとて、アテがあるわけではなかった。しかし、フロントの人に聞けば、どこか退屈しのぎができそうなところを教えてくれるだろう。
 リクソンがフロントで聞いてみると、ガイテイの地図をくれた。見てみると、広い範囲に観光施設が点在していることが分かった。ホワイトレイク、ソフィアレイク、離宮、コタン湿原・・・・・・。
「しかし、今日と明日で全部回るのはちときついなぁ。明後日はシドウに戻るから、観光の時間はないしね。じゃあさ、グレイシア、どこ行くか決めて」
「え? 何で私?」
「いやぁ、一番年上だから。それだけ」
「じゃ、旧市街地」
「距離があるから、自転車を借りていくか」
「って、私たちは?」
「走る」
「ええーっ、嫌よ、そんなの」
「じゃあ、こうしよう。駅まで歩いてレンタカー。これでいいだろ?」
 鍵をフロントに預けた。
「行ってらっしゃいませ。あ、大事なことを言い忘れていました。この季節、午後になるとよく霧が発生しますので、ご注意くださいますよう・・・・・・」
 と、係の男性が忠告してくれた。
「あ、はい」
 それならば、速攻で観光名所を見てしまえばいいだけのことよ。リクソンはそう思っていた。で、霧が出る頃になったら、喫茶店でコーヒーを飲んで霧が消えるのを待てばいい。ふふっ、我ながらナイスアイディア。
「リクソン、何ニヤニヤしてるの? 行きましょ」
 シャワーズの声で現実に引き戻された。一行は保養所を出た。
 ガイテイ駅までは徒歩で27分と、地図には記載されている。が、実際には27分かからなかった。早歩きだったからだろう。レンタカーを借りに営業所まで行ったがやはり高い。12時間で4000ルピーとある。学割で一割だけ引いてもらえたのがせめてもの救いだった。3600ルピーを支払い、旧市街地に向かう。
 車で10分も走ると、旧市街地に着いた。古い町並みが特徴で、重厚で趣がある漆喰の白い壁の蔵が立ち並んでいた。もともとは、倉庫として使う以外にも商店や住宅としても使われたという。頑丈で火事には強いのだが、73年前の大地震で倒壊してしまい、今の建物はほとんどが復元されたものなのだそうだ。如何に人間が知恵を絞っても、天災には勝てない、そういうことなのだろうか。
 旧市街地を後にした一行は、昼食を挟んで、3箇所ほど観光地を回った。6時間で、昼食と移動を含めたことを考えれば、かなりのハイペースだといえるだろう。
 午後3時過ぎ、フロントの男性の言うとおり、白い霧が発生してガイテイの街を包み込んだ。
 その頃、リクソン一行は、「ノーム」という喫茶店にいた。リクソンは7匹と会話しながら、チーズケーキを口に運ぶ。モカコーヒーが運ばれてきた。リクソンは、ミルクと砂糖をコーヒーカップに入れ、スプーンでかき回してから一口飲んだ。独特の酸味と苦味が口の中に広がる。そして、二口目を口に運んだ。
 コーヒーが熱いので、少し冷ましてから飲もうと思い、リクソンはカバンから本を取り出して読み始めた。
 外は霧に覆われ視界はかなり悪くなっている。時々外に目をやりながら、本を読んでいると、目がかすんできた。リクソンは目をこすったが、それでも、もとには戻らず、逆に視界がぼやけ、目の前にいる7匹も誰が誰なのか分からなくなってしまった。
 ま、まずい・・・・・・。これはあの時のと同じだ。ここにいてはいけない・・・・・・。リクソンは、咄嗟にそう思ったが、体に力が入らず、そのまま意識を失ってしまった。

 んん? ここはどこだ? もやで何も見えないぞ。どこからか声が聞こえるが、その声の主の姿は見えなかった。いや、それどころか、声も途切れ途切れしか聞こえず、聞き取るのがやっとだった。
「これから・・・・・・、おま・・・・・・ちは、大きな・・・・・・う。お前たちに・・・・・・を・・・・・・う。7ひ・・・・・・と・・・・・・よ」
「何だって?」
「お前と・・・・・・え、これ・・・・・・い・・・・・・だ。地・・・・・・、ぞ」
 
 リクソンは意識をとりもどした。視界もはっきりしている。が、腑に落ちないことがいくつかある。まずは、注文したコーヒー。気を失っていたはずなのに、コーヒーは少しも冷めていなかった。何よりも不可解なのが、店にいる客たちだった。普通、誰かが気を失ったら、それだけで大騒ぎだろう。それなのに、店にいる客にそんな素振りは見られず、7匹もおいしそうにケーキを食べていた。まるで何も起こってなかったかのようだ。
「??? まぁ、いいか」
 チーズケーキを口に放り込み、コーヒーを飲むと、ようやく、生きている、という実感がわいた。
 霧が晴れたので、勘定を済ませ、レンタカーを返却した。
 その後、徒歩で保養所に戻ったときには、もう5時をまわっていた。しかし、何か今日は精神的に疲れたなぁ。ご飯食って、風呂に入ったら、寝ちゃおう。
 入浴後、リクソンは明日、明後日は何も起きないことを願って8時に寝てしまった。7匹もリクソンを気遣って静かにしていたので、その日はよく眠ることができた。
 リクソンの願いが通じたのか、この日は何も起きず、無事、最終日を迎えることができた。
 新ガイテイ駅まで送ってもらい、ここからはリニアモーターカーに乗る、と、その前に土産物を買っておかないと。土産を買い込み、リニアに乗る。
 定刻にリニアは動き出した。1人と7匹を乗せたリニアは飛び立ち、というか浮かび上がり、文字通り、飛んでラクヨウまで乗客を運んだのである。見覚えのあるビル群が、夕日に赤く染まっていた。
 


                     「連休」終わり

   

コメント等お待ちしております。

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 新wikiに入れなくなり、こっちで読ませて戴きましたが、新wikiの方と微妙に展開が違うと思うのは、私だけでしょうか?
    750(ナナハン)なんて向こうで、出てきました?
    ――ナルト ? 2009-11-15 (日) 21:11:22
  • え、え~っとですね、その、大まかな話の流れは覚えているんですが、
    バックアップをとっていない部分の細かい内容を忘れてしまったので、
    リメイク(?)いたしました。なので、トリックや結末は同じです。
    混乱させて申し訳ありません。
    ――呂蒙 2009-11-15 (日) 21:42:59
  • このひとつ上と、二つ上のコメントは、ここのサーバーが落ちたときに、
    避難場所で頂いたコメントと、それへのお礼のコメントです。
    と、いうことを念のため記載しておきます。それにしても、
    やはりちゃんとバックアップを取っておくべきでした。
    ――呂蒙 2009-11-16 (月) 21:16:40
  • ミスをするのが人間だ!
    ミスをしないのがロボットだ!
    ―― 2009-11-25 (水) 22:18:05
  • ミスっていうか、あの時は「バックアップは明日でいいか」
    なんて思ってたら、次の日にサーバーが落ちたんですね。
    やっぱ、今やっておけることは先送りするもんじゃない
    ですね。
    ――呂蒙 2009-11-26 (木) 03:02:13
  • 知力(笑)
    魅力(笑)
    ―― 2009-12-02 (水) 20:30:52
  • お褒めですね? これは。
    ありがとうがざいます。
    ――呂蒙 2009-12-02 (水) 21:04:02
  • ×「ありがとうがざいます」
    ○「ありがとうございます」
    以上訂正でした
    ――呂蒙 2009-12-03 (木) 00:11:31
  • を??
    カメックスの「レートービーム」か?
    ―― 2009-12-13 (日) 22:31:36
  • ああ、最後のところですか。
    すんなり「リーフブレード」で
    ぶちのめされてもいいんですけどね、
    かといって、単に裏をかくだけじゃ・・・・・・
    まぁ、構想中ですので少々お待ちください。
    ――呂蒙 2009-12-14 (月) 01:03:41
お名前:













 













                                


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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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