7匹がドアを破って部屋に突入すると、リクソンが倒れていた。
「・・・! リクソン!?」
部屋に見たこともない、3匹のポケモンがいることも驚きだったが、それ以上にリクソンが倒れていることのほうが驚きだった。
「おい!リクソンっ! しっかりしろ!」
ブラッキーがリクソンのもとに駆け寄って体をゆすったが、反応はなかった。最悪の事態も考えられたが
「・・・気絶してるみたいね」
後から、駆け寄ったシャワーズがそういうと、皆はひとまずは安心したが、まだ問題はあった。リクソンに危害を加えたであろうこの3匹を何とかしなければ。
「とにかく、明かりをつけましょう」
リーフィアが植物の蔓を器用に操って電灯のヒモを引っ張った。蛍光灯の光が部屋の隅々まで照らす。明かりが3匹の姿を白光のもとにさらした。
大きさは、7匹よりもかなり小さい。3分の1程度だろうか。それぞれは似たような姿かたちをしており、額には宝玉がはめ込まれていた。
「・・・何なの? あなたたちは」
シャワーズが聞く。
「・・・イーブイの進化系7匹全てを持つ人物。やはり、ご主君の言っていた通りか」
「質問に答えて」
「・・・我らは、使いの者。ご主君からの特命を受け、やってきた」
「何故、リクソンを襲ったの?」
「襲ったわけじゃないわ、あんまりにもうるさいんで黙らせただけよ」
そのいけしゃあしゃあとした受け答えに7匹全員が腹を立てた。
「てめぇ、オレ達の主人に危害を加えて無事で済むと思うなよ!」
「待ってよ、こっちはまだ聞きたいことがあるんだから」
怒り出すサンダースをシャワーズがとめる。
「じゃあ、その『特命』とやらの内容を教えてもらいましょうか」
「・・・詳しいことは我らも知らない。とにかく会って、明日、自ら出向くと伝えてくれ、言われただけだからな」
「ご主君、って誰なの?」
「・・・身分は明かせないが、とにかく、あがめられているお方だ」
「・・・信用できないわ。あなたたちは、どこかのペテン師の使いというわけなのね」
「違う!我らのご主君は、『時の神』であらせられる」
「そういうのは、神話でしょ。そもそも、その神様がリクソンに何か用でもあるの?」
「多分、そうだと思うが、詳しいことは何も聞いていない」
(はぁ・・・、埒あかないわ・・・。でも、そろそろかな)
「じゃあ、そろそろ本題に入りましょうか?」
「さっき全て話した・・・な、何だこれは!?」
3匹は互いに氷の輪でつながれていた。輪の両端から伸びた氷が天井と床を結んでいるため、3匹の身動きは全く取れなくなっていた。
「シャワーズちゃん、大成功よ」
「さすがは、グレイシアさん」
結論を言ってしまうと、シャワーズのさっきの問答は時間稼ぎ。その間にグレイシアが部屋の温度を下げていたというわけだ。無論、リクソンが凍死しないようにブースターが持ち前の能力でリクソンを温めていた。
「どう?これが、『連環の計』よ」
「・・・そうか、これが7匹がいてこそなせる技か・・・」
「さぁ、知っていること洗いざらい話すまで帰さないわよ」
「ご主君のもとへ帰り、今日の出来事を詳細に報告するのが我らの役目。無理にでも帰らせてもらう」
「その動けない状態でどうやって?」
シャワーズは、相手が動けない状態なので、少々油断していた。これがいけなかったのかもしれない。
突然、部屋全体が強烈な光に包まれた。あまりの眩しさに、シャワーズたちは目を開けていることができなかった。光はすぐに収まったが、その時すでに3匹は姿を消していた。グレイシアの作り出した氷が粉々に砕け散って、部屋に落ちていた。それらは、窓から入る月光を反射し、明かりを試しに消してみると、水晶のように輝いていた。
再び明かりをつけて間もなく、リクソンが意識をとりもどした。
「うぅ・・・。あれ、ブースター・・・」
「あ、リクソンさん。良かったぁ」
他の6匹もリクソンのもとに駆け寄ってきた。
「なぁ、一体、何があった?」
サンダースが尋ねる。
「何って、部屋で休んでいたら、見たこともない3匹のポケモンがやってきて、訳のわからないことを言うもんだから、言い争いになって、で、意識が遠のいていったってわけさ。まぁ、オレは神とか仏なんて信じない方だからな。ポケモンにもそーいうのがいるらしいが、オレは、古代の人々の想像に過ぎないと思っている。人間の世界でもそうでしょ、海が割れて道ができた、とか」
「あ、それ、『出エジプト記』ね」
リクソンの難しいというか、専門的なというべきか、そういう話になるとついてこれるのは、エーフィとシャワーズだけになってしまう。
「まぁ、旧約聖書の中の話はさておき、オレは風呂につかってくるよ」
リクソンは、タオルを持って部屋から出て行った。
「あー、気持ち良かった。やっぱ温泉はいいね」
リクソンは「無事」に部屋へ戻ってきた。
「あれ、ブラッキーはどうした?」
リクソンは側にいた、エーフィに聞いた。
「外」
「月を見てるのか?」
「そうだよ」
ブラッキーは屋根に登り、月を見ていた。しかし、何でこんな事をするようになったかは自分でもわからない。進化する前はこんなことしなかったのに。
2ヶ月前にこのことを、リクソンの後輩で自分をかわいがってくれている、バショクに相談してみたところ、リクソンの友人でバショクの兄、バリョウが興味を持ち、いろいろと調べてレポートにしてくれた。が、俊才バリョウでも一体何が原因でこうするのか、証明できず「仮説」の段階で終わってしまった。その後、バリョウはこのレポートを大学に提出した。ブラッキーという珍しいポケモンのレポートであったのと、未完のレポートだったが、よくまとまっていたので、高い評価を得たという。
まぁ、そんな小難しい話はどーでもいい。とにかく、体にいくつかついている金環模様がそれを求めるのである。
リクソンやバショクたちを守ること、それがオレの使命だ。月の光を浴びるのもこれに役立つんならそれでいいじゃないか。さて、そろそろ部屋に戻ろうかって・・・。
「誰だ!?」
ブラッキーは誰かの気配を感じた。くすくす、という笑い声が聞こえる。
「牡のくせに月を見て考え事をしてるなんてね、あ、そうそう私はエムリット。お前とか、てめぇとか言われるのは不愉快だから覚えておいてね」
さっきいた3匹のうちの1匹だ。
「何しに来た?リクソンには指一本触れされないぞ」
「ふふふ、あなた1人だけなら丁度いいわ。さっきの話、信じてくれそうもなかったから、7匹のうち1匹を拉致して、解放と引き換えに直接あなたたちの主人に話させたほうがいいと思ってね。まぁ、私の独断だけど」
「このオレを拉致するだと? 面白い」
エムリットはブラッキーに催眠術をかけたが効かなかった。
「そんな、子供騙しの技、通用しないぞ」
「・・・やっぱり眠らせるのは無理ね」
ブラッキーは攻撃しようとしたが、何かが裂けるような音が聞こえたので、咄嗟に伏せた。
「・・・ちっ、避けきれなかったか・・・」
ナイフの切っ先のようなものが、ブラッキーの耳に当たり、鮮血が滴り落ちた。
(畜生、相手が超能力を使えると面倒だな。技自体は効かなくても、どうにでも応用が利くし、さっきの空気を切り裂いたように)
「無理しないほうがいいよー?」
「ふん、降参するくらいなら自決したほうがマシだ。喰らえっ」
ブラッキーは、「シャドーボール」を投げつけた。が、当たらなかった。
「はずれー」
「甘いっ、これが乱射だ」
7発中2発が当たった。普段ならはずさないのだが、的が小さい上にちょこまかと動き回るので、はずさなかっただけマシと言えるだろう。
「なかなかの手練ね」
「その言葉、そっくり返すぜ」
「でも、これならどう?」
突然、闇夜に無数のポケモンが現れた。
「見え透いた手を。こんな幻にって、痛ててて」
「ふふ、私の幻は、実体化することが可能なのよ」
大した攻撃ではないが、正直言って鬱陶しい。
「ええいっ、雑魚どもが!!!」
ブラッキーは、つめで空気を切り裂いて、幻をかき消した。
「あらら、一発で」
「さっきのを忘れたか!?」
ブラッキーの乱射が炸裂した。「シャドークロー」で作った、巨大な刃がエムリットに襲い掛かる。
「くっ」
「ちっ、結界、バリアーだと!?」
エムリットも完全無傷とはいかなかったが、それでも、バリアーでかなりのダメージを軽減していた。
「いい加減、諦めたら? 私はそんじょそこらのポケモンとは格が違うのよ」
「・・・そんなに死にたいのか? その望み叶えてやる!」
「え?」
ブラッキーが雄叫びを上げると、雪崩のような音が起きた。と、同時に空気全体が大きく振動し、波となってエムリットを飲み込んだ。
「きゃあああっ、バ、バリアーが破られたぁ・・・」
「さぁ、どうする?」
「ううっ、私の負けよ・・・」
エムリットは静かにそう言うと姿を消した。ふう・・・、さっきのは「悪の波動」という技。技の名前が気に入らないのであまり使っていなかったが、まさかここで使うことになるとはな。
「うふふ、最後まで気を抜いちゃダメよ」
この声、まさか・・・。ブラッキーの背後にエムリットが現れた。
「くっ、このオレが・・・」
「『だましうち』が使えるのに、だましうちにされるなんてね。けーせーぎゃくてんっ」
が、悪(?)が栄えたためしはない。これが摂理というものだ。
「そうはいかないっ」
虹色の冷気を帯びた光線がエムリットに命中して爆発した。
「なっ、何なのよ?」
(これって、『オーロラビーム』だよな・・・。シャワーズの)
「まだまだ!」
「それで終わりと思わないでよ!」
緑の葉と氷の塊が相次いでエムリットに命中した。
「そんなー、1対4なんて・・・」
シャワーズとグレイシア、リーフィアが屋根に登ってきた。
「よくも、私たちの仲間を・・・。終いにはだまし討ち?」
あの冷静なシャワーズが本気で怒っている。
「お姉ちゃん、どうするこいつ?」
「そうねぇ・・・」
と、突然夜空の一部が歪んで声が聞こえた。
「この大バカモノ!!!!勝手に抜け出して、私闘に及び最後にはだまし討ちだと?私にどれだけ恥をかかせたら済むというのだ」
エムリットは必死で弁明をした。
「ご、ごしゅく~ん。お許しを~。だって勝ちたかったんだもーん」
こいつ、ほんとに神の使い?そもそも、弁明になってないし・・・。
「今日という今日は許さーん。罰として修行500年を申し付けるッ!!!」
(・・・500年って事実上の終身刑やんけ・・・。まぁ、普通のポケモンと違って1万年くらい生きるのかな)
エムリットは、歪んだ夜空に消えていった。
4匹は屋根から下りて、部屋に戻った。
やれやれ、それにしても、散々な連休になっちゃったな。まぁでも、今日が初日。残りの日を思いっきり楽しめばいいか。
今日はいろいろあって、全員疲れているので、布団に入ると、みんなすぐに寝てしまった。
※ほんとは、第6話で「連休」を終えるはずだったのに、終わらなくなってしまいました。
第7話へ続く
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