時が経つのは早いものだ。5月になり、街路樹の緑の色も濃くなってくるのがわかる。
「あー、やっぱ、朝の風は気持ちいいね、リーフィア」
「ほんとですね」
リクソンとリーフィアは、道を歩きながらそんな会話をする。
「それよか、今度の大型連休、みんなでどこかへ行こうか」
「実家には帰らなくていいんですか?」
「いーよ、別に」
どうせ、実家に帰ったところで父親から説教じみた話を聞かされるだけだ。それに、最近の出来事のせいもあって、みんな神経がピリピリしているだろうから、丁度いい息抜きになるかもしれない。しばらく歩いて、家に着いた。
「ただいまー」
「あ、お帰り、リクソン」
特徴のある長い尻尾を振りながら、シャワーズがこちらにやってきた。他にも、5匹の色とりどりのポケモンがリビングにいる。見ているだけならカラフルなのだが、実際面倒を見るとなると、かなり大変である。しかし、それももう慣れてしまった。今では、7匹揃っていないほうが不自然な感じさえする。
7匹に朝食を作ってやり、それが済むと、速攻で片付ける。リーフィアやグレイシア、シャワーズが手伝ってくれるので、今では、その作業もそれほど苦ではない。さて、今日は日曜だしのんびりするとしよう。大型連休は来週から1週間、どこへ行くかは夕食のときにでも話題にして、話合いさせればいいだろう。
(それにしても・・・、ここのところの7匹の活躍は本当にすごかった。数の上では劣勢であったのに、連戦連勝。先日の・・・、ってこんなときに客か)
リクソンの思考は、来客を告げるベルで中断させられた。何と、タイミングの悪い・・・。
「誰だよ、こんな時に。誰か応対してくれ」
「あ、じゃあ、私が・・・」
「ありがとー、グレイシア。新聞の勧誘だったら撃退してもいーから」
全体的に青系の体毛を持ち、顔から垂れ下がる飾り毛が特徴のポケモンは、玄関のほうへと歩いていった。
「あ、バリョウさん」
「リクソンいる?」
「ええ。リクソン、バリョウさん」
「あ、うん。わかった、今行くよ」
玄関には、バリョウが紙袋を手に立っていた。
「あ、あがって。ちょっと、うるさいけど・・・」
リクソンはバリョウを中に招き入れた。
「あ、そうだ、エーフィって今いる?」
バリョウが尋ねる。
「いるけど?」
リビングには6匹のポケモンがめいめいくつろいでいる。
「こんにちは」
バリョウが挨拶をすると、
「こんにちは」
と、それぞれ返す。
「あ、エーフィ、これ。この間助けてもらったお礼」
バリョウは、紙袋から箱を取り出して、エーフィに渡した。中身は、お菓子の詰め合わせ。
「いいよ、そんな。悪いよ」
「いや、でもあの時、エーフィの超能力がなかったら、どうなっていたか・・・」
この会話、お互いにあまり聞かれたくなかったので小声で交わされていた。が、イーブイはもともと聴力に優れた種族といわれている。無論、進化してもその性質は変わらないので、この会話、ほとんど聞かれてしまっていた。
「この間、何かあったの?」
シャワーズがバリョウに尋ねる。
「まぁ、なかった・・・、わけじゃない」
バリョウは、咄嗟にそう答えた。相手は頭のいいシャワーズ。「ない」なんて答えたら、「何もないのにお礼なんかしないでしょ」と、言われるのは明白だった。そのことを予想していたバリョウの方が一枚上手と言うべきか。
「じゃあ、何があったの?」
「ん、エーフィと街を歩いているときに、野生のポケモンに襲われて、エーフィが撃退してくれたのさ」
バリョウは、そう答えた。この時、かなりあせっていたが表には出さなかった。
「あ、そうだったの・・・」
(やれやれ。まぁ、まんざら嘘でもなかったし。ただ、相手が悪いやつとはいえ、重傷を負わせて見殺しにしてしまったという事実は、永遠に自分の胸に秘めておきたかった。これは、誰にも知られたくない。自分を守ってくれたエーフィの名誉のためにも)
(バリョウさん・・・)
エーフィには、バリョウが何を考えているか、全て読み取れた。そのたびに思ってしまう。本当に優しい人なんだな、と。
夕食後、バリョウが持ってきたお菓子を食べながら、連休にどこへ行くかの話し合いがされた。様々な意見が出る。
「ハワイ」
「今からじゃ、飛行機のチケットは無理、却下」
「ユ○バーサルスタジオ」
「んーまぁ、かなり混むと思うけど、とりあえず保留」
といった会話が交わされる。が、とにかくゆっくりしたい・・・というのが、全員の一致した希望だった。
で、結局、温泉になった。
「じゃあ、遠いけど、ミササ温泉でいいか?」
「遠過ぎるんじゃない?」
「いや、たまには遠出もいいでしょ」
「ホテルの予約とか取れるんですか?」
「ん、ホテルには泊まらないぞ」
「えっ?日帰りかよ?」
「父さんの会社の保養所がある。多分泊めてくれるだろう」
早速、リクソンは予約の電話を入れた。名前を言うと、二つ返事で予約が取れた。権威ってすげぇ、と思う瞬間であった。
「予約取れたよ。3泊もすれば、日頃の疲れも取れるでしょ」
「あの、リクソン・・・」
グレイシアが遠慮がちに話しかけてきた。まぁ、言いたいことは予想がつくが。
「私、氷タイプなんだけど・・・」
「そんなことは織り込み済みだよ。そこには、水風呂がついてるから、それだったら平気でしょ」
「なら、早く言ってよ」
翌日、リクソンは列車のチケットを予約し、これで準備万端。
7日後、リクソンは、5万ルピーの現金を持ち、旅行カバンに着替えと身のまわりの物を詰め込み、一行を引き連れ、家を出た。
コメント、お待ちしております。あと、この作品、このままだと後編が前編よりかなり長くなりそうなので、バランスを考えて前・中・後の構成になりそうです。
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