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黒物語 第1章 7話

/黒物語 第1章 7話

Glacier


「…クロ?」
彼女達の1日はその言葉で始まった。
朝目覚めると、そこにクロとエッジはいなかった。

フレイヤはトイレやシャワールーム、エントランスを見てみたがそこに姿はなかった。

外出しているのだろうか?
ただ、ポケモンだけで外出というのも危険だからまずそんな事はないはず。
何よりあの2匹は野生だし
クロに関しては昨日の大会で優勝したにも関わらず、表彰式をバックれたのだから
注目を集めてしまう筈である

「む?」

モルを起こそうとしてベットの前に戻ってきて視界に写ったのはそのクロの地図端末とクロのフード以外の荷物が纏められた一昨日購入したリュック。
その端末には電源が入っていて、文字が書かれていた。

「読めない…」

その文字はフレイヤが読めるものではなかった。

「おはようございます。」

ソファの上でモルがそういった。
目を覚ましたようだ。

「…………。おとうさまがいませんね。それにエッジさんも」

モルは落ち着いていた。

「モルちゃん、この文字読める?」

フレイヤは端末をモルに見せた。

「これは…、海外の文字ですね。読めます。」

モルはその文字を流して読んだようだが、一瞬その表情を変えかけたが元の点と線の落ちついた表情に戻った。

それにフレイヤは気づかなかった。

「読み上げますね。

フレイヤ、モル、おはよう。
僕とエッジは緊急の用事が出来てしまってね。
僕はしばらく戻れない。頼みがある、地図に示しておいた場所へ行ってほしいんだ。急がなくてもいいんだ、旅を楽しんでね。」

フレイヤはただ、静かにその言葉を聞いていた。

「起こしてくれたら良かったのに」

「緊急ですから、この方がいいと思ったのでしょう。」

「で、その地図の場所は…。あら、印がついてる周りの一帯が真っ黒ね。」

地図はとっても広いが点々と黒いところがあった

「おそらくデータが入っていないのでしょう。未探索のような場所かと。」

モルは考えていた。
クロが残したメッセージ。

【モル、僕は戻らない。エッジが死んだ。やることがあるんだ。君はこれをフレイヤに読まされるか読むだろう。フレイヤはこの地方の文字しか読めないからね。この下の文章を声にだすといい。ごめんね、じゃあね。】

クロが戻らない、エッジが死んだ、やることがある。
様々な情報が簡潔で曖昧に書かれている。

(おとうさま…。)

そして地図についている印、データのない場所。

これがデータがないのではなく、公開されていないとしたら。

「行きましょう。」

いったい、クロは何を考えていたのだろう。

モルはそう呟くように言った。

「えぇ、そうね。クロのことだもの、すぐ戻って来るわよね。」

モルはクロが残した荷物を見て。

「フレイヤさん、おそらく、人の姿で行動しろってことだと思います。」

荷物の上部には何枚かの服が目立つように入れてあった。


チャリ。

下の方にはお金が詰まっていた。
クロも短時間でこれだけメッセージを残すとは流石だとモルは改めて思った。




ポケモンセンターを出た人の姿に化けたモルとフレイヤは

「出たものはいいけど、どうしましょうか」

フレイヤはモルにそっと話しかけた

「ゆっくり旅を楽しめ、とのことですし急ぐこともありませんし」

周りをみわたして

「2日間この街を見て回ったとはいえ、買ったものは服だけですから、傷薬や寝袋も欲しいですね。」

「そんなに大荷物にしたら大変じゃない?」

背負っているリュックを揺らして言った。
結構重い。

「今入っているものは衣類とお金が大半ですから」

お金を少し取り出して手で上に弾いてキャッチした

「貨幣は重いですからね。買うものより軽くなると思います。」

モルはよく考えている、フレイヤはそう思った。

フレイヤとモルはとりあえずといった形で歩き始めた。

「モルちゃんはよく頭が回るのね、尊敬しちゃうわ」

「おとうさまには劣りますが、旅の同行者をよく見て次の行動するべきだと考えております。」

そういえばモルはエッジとフレイヤが疲れていた時にも休憩を提案していた。

「フレイヤさん」

「いいわよフレイヤで、わたしかたっくるしいの嫌いだから。で、何かあった?」

「聞こえますか?」

「あなたの声なら目の前よりも近くに聞こえるのだけれど。」

「私の声じゃなくて、人間の声です」

フレイヤが耳を澄ますと、遠くで何か、怒りの混じった声がする。

そしてその声の対象はポケモンのように感じられた。
フレイヤには話の内容はしっかり聞き取れなかったし
聞き取れてもわからなかったのだが。そんな気がした

「向かってみますか?」

「そうね、もしかしたらトラブルかもしれないしね」



ほかの人には聞こえていないだろう。
ポケモンの中でも耳がいいキュウコンと特別な細胞構造をしているモルが言葉通りの一心同体だからこそ聞き取れたのかもしれない。

それに、声の方向に歩いていくが、そこにいる人間やポケモンは気に止めていないような
むしろ聞こえていないようだ。

考えているうちに路上の前に辿りついた。

「この奥から聞こえますね。」

その路地は昨晩、命が散った場所と同じだったのだが。
クロはしっかり隠滅したのか、何も起こっていなかったのようで、
モルとフレイヤにもそんなこと知る由もなかった。

路地を進むと。


「この約立たず!」

そんな罵声が飛んできたがそれは自分たちに向けられたものではないようだ。

曲がり角の奥には
若い女性のポケモントレーナーと壁にもたれて座り込みただ、
ただポケモントレーナーの事を睨んでいるアブソルがいた

「アンタはね!弱いけど!見た目がいいから手元に置いてやってるのに!何なのよ私の言う事を聞かないで!」

どうやらアブソルが指示を聞かない事に怒っているようだ。

フレイヤとモルは曲がり角からそっと覗いて気付かれないようにした


「アンタはなんで私の言う事を聞かないのよ!それだけよ!言う事を聞くだけでいいのよ!」

アブソルはその怒りを聞いてはいるのだろうが、ただただポケモントレーナーを睨みつけていた。

「何よ、私が悪いっていうの?」

アブソルはそれを聞いて、少し目を逸らした。

ポケモントレーナーの方はその反応に

「っの……。クソが!」

ポケモントレーナーはアブソルを蹴った。

「このゴミ!クズ!お前なんか!」

それも何度も何度も蹴った。

フレイヤとモルはそれを見て

「フレイヤ、考える事は一緒のようですね。」
「私もそう思ってたわ。」

フレイヤはポケモントレーナーの前に出て、

「アンタさっきから見てれば、ダッサイね」

そう、ため息をついて呆れるように言い放った。

「はぁ?私がダサい?」

ポケモントレーナーはその言葉に過敏に反応した

「ええ、とてもダサいわ。自分がポケモントレーナーとして未熟で、ポケモンが言う事を聞かないのをポケモンのせいにして。さらに、暴力で服従させようだなんて。それにそのアブソルはいい子じゃない、一応主人の言葉を目を見て話を聞いていたわけだし。」

ポケモントレーナーは自分が未熟と言われたのが気に食わないのか。

「私が未熟?笑っちゃうわ、私はジムバッジを4つも持っているし。」

ポケモントレーナーは自慢するように胸につけたバッジを主張してきた。

「あら、それはあなたの力じゃなくてポケモンが勝ち取ったものではなくて?」

ポケモントレーナーは思わぬ反論に近づいてきて襟を掴んだ

「そもそもお前は誰よ!私たちの問題に口を出さないで貰いたいわね!」

ポケモントレーナーはイライラが頂点まで達したようだ。

「言わせてもらうけど」

フレイヤはポケモントレーナーの襟を掴み返して

「あなたがした行為はポケモントレーナーとして最低の行動よ」

ポケモントレーナーが突然の反撃にひるんだところに

「それに、ポケモンに暴力を振るうことは、違法よ。証拠もあるし、これを提出すればあなたのトレーナーカードは剥奪よ。」

フレイヤは端末のボイスレコーダーをポケットから見せて言い放った。

「っ!クソが!」

ポケモントレーナーは手を払い除けると。
背を向け逃げ出して、

「ヴェーゼ!アンタはクビよ!」

トレーナーはアブソルの入っていたであろうボールを投げつけて走り去っていった。



「あなた、大丈夫?」
フレイヤはポケモンの言葉でアブソルに話しかけた。
「……僕は大丈夫だよ。」

アブソルは人間の姿でポケモンの言葉を喋るフレイヤとモルを見ても驚かず、ただ答えた。

「ごめんね、私が出てきたせいで。あなた、捨てられたって事になるのよね。余計なことだったらごめんなさい」

フレイヤは申し訳なさそうにして謝った

「いいよ、元からあの人は僕を嫌ってたみたいだから、僕もあの人が嫌いだ。」

アブソルは俯いていた顔を上げてそう言った

「ところで、人間に変身するのはメタモンだよね」

「そうですね、自分で言うのは恥ずかしいのですが。私は少し『特別』でして」

「へぇ。」

アブソルの質問に冷静にモルが答える。

「ところであなたの名前は……ヴェーゼ。でいいのよね?」

「うん」

「歳は……まぁ、私たちより年下なのは確実よね。」

「はっきり覚えてないけど、僕は、多分14だよ。」

ヴェーゼはまだ若いアブソルだ。
14と言えば、一応成体ではあるものの、
それでも若く、ヴェーゼは少し痩せていてアブソル特有の筋力のようなものは見られなかった。

「ヴェーゼは雄よね?」

「僕は雄であってるよ。」

ヴェーゼは出会った時は泥で汚れていたが、フレイヤが洗った毛は透き通るような白で、どこか気品があった。

「あなた綺麗ね、戦いは苦手そうだけど。」

「僕は戦闘は苦手だし、人間の『こんてすと』って言うものの『せんようこたい』とか言われてた。」

「ふむ、コンテストですか……。」

コンテストは、ポケモンの美しさやかっこよさなどを得点方式で競う競技だ。
昨日のテレビでもやっていたのをフレイヤは見ている。

「僕は美しくないとダメなんだって。僕がそれらしく振る舞えないとあの人は殴るんだ。
あ、でも顔は殴られたことないかな。」

ヴェーゼは腕をさすって話した。

「あぁ、名前を言ってなかったわ。私はフレイヤ、キュウコンの雌よ。こっちの白いメタモンはモル」

「モルと申します、性別はありませんが。扱われるなら女の子扱いして欲しいですね。」

「だそうよ。」

モルは微笑んで言った。

「モルさんは自分のこと特別って言ってたけど……。何が特別なの?」

「そうですね、これはクロに教えてもらったことなんですが。
あ、クロと言うのは私たちの仲間で、今はちょっと別行動してるんです。」

モルは優しい微笑みを浮かべながら話した

「そうなんだ、で?」

「私はメタモンの母体という存在らしいのです。まぁ、失敗作なんですが。」

急にモルはメタモンに似合わない真剣な顔で話しはじめた。

「メタモンの母体。と言っても私は人間の手によって作り出された人造ポケモンです。あちらには及びませんが、ミュウツーと呼ばれるポケモンと立場は同じです。」

モルは頭をミュウツーのものに変身させて指さして戻した。

「そもそも、メタモンの母体は自然界では数匹しかいないらしく、人間が目にする事はありません。私がいたところではマザーと呼ばれていました。その、マザーはメタモンを生み出すことができる唯一の個体なんです。」

「メタモンを……生み出す?」

ヴェーゼは首を傾げて問いかけた。

「はい、メタモンを生み出すことが出来るのです。」

「でもあなたは…」

「私は、他の細胞の結合を高めたり、細胞の傷を癒したりできます。後は、私の細胞をほかの細胞に変化させたり。簡単にいえばほとんどのケガが治せるんですよ。こんな風に体を変形させたり」

モルは薄い帯状にした体をヴェーゼの前足に巻き付けた。

「ここに少し傷があるようですね。でもこうすれば」

モルが帯を剥がすと

「傷口が……なくなって」

「あとはポケモンに養分や体液を少量貰って高度なへんしんを保ち続ける程度です。先ほどの人間はフレイヤさんを核に私が表面を覆って人間の姿をしていた訳です。」

ヴェーゼは理解したのか小さく頷いて

「話してくれて、ありがとう。」

ヴェーゼはベッドから立ち上がると

「お礼を言ってなかったや、さっきは助けてくれてありがとう。」

そう言って頭を下げた。

「あなたに頼みたいことがあるの。」

フレイヤが切り出した

「なんですか?」

「私たちと一緒に来てくれない?私たち2匹がへんしんしてしまうとトレーナーなのにポケモンを持っていないことになってしまうの。あ、ボールには入るのには強制はしないわ。」

「いいですよ」

ヴェーゼはすぐに返事をした。

「バトルはできませんが。僕はあなた達と一緒にいたくなりました……。」

モルとフレイヤは向き合って頷いて

「ありがとう。」

そう言った。




8話に続く




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Last-modified: 2016-12-28 (水) 17:50:09
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