ポケモン小説wiki
黒曜に触れて

/黒曜に触れて

LEGENDSアルセウスの微ネタバレと示唆的な残酷描写につき、未プレイ勢、刺激に弱い向きは閲覧には注意されたし
あと、言うまでもなく要素含みます

黒曜に触れて 群々



 浅いうちに眠りは破られた。顔を上げると、巨大な影たちが自分のぐるりを壁のように取り囲んでいる。おしなべて黙り込んでいたが、言わんとすることはすぐにわかった。
 ——欲しいのだな。
 肯定の代わりに長い沈黙があった。共謀してうずくまる自分を見つめる視線が彼の身体を舐る。
 ——ならば、行くぞ。
 石斧に力を込めて体躯を持ち上げると、岩を纏っているとはいえども、巨大な斧の重量を支える身は案外細く、華奢である。一群はのそのそと行軍を始めた。その輪の中心に閉じ込められたバサギリは、望郷する詩人のように天空を見上げた。煌々たる月の通りいっぺんの感慨が脳裏に浮かんではすぐ消えた。石斧を杖代わりにして一歩一歩を鈍重な足取りで進むバサギリはこうして事に及ぶ度、世の不思議と、己が身の上が思われた。
 彼とて元来は平凡なストライクの一個体に過ぎなかったのである。強いて個性を挙げれば、標準の個体より少々小柄であったことだろうが、それにしても取り立てて珍奇なこととは言えなかった。黒曜の原野を覆う鬱蒼とした森林を住処にしていた彼はそうしてストライクとして野生を生き、木の実や獲物を巡って争い、やがて命を枯らすものとばかり思っていた。何の因果であったか、ある時彼は木立に紛れた小箱を見出した。側には人間と呼ばれるものの骸が横たわっていた。ストライクといえども事情は大方知れた。肉じしは聡くも臭いを嗅ぎつけたビーダルによってあらかた食い千切られた後だったが、小箱だけは等閑(なおざり)にされていたのである。
 思えば、どうしてそんな小箱など気に留めたのか。今やバサギリとなった彼はあれから何度も考えたが、何らの動機も思いつかなかった。魔が差した、というでもない。ただ意味もなく右顧左眄(うこさべん)するような、ある種の本能に由来する行為であったとしか言い様が無かった。取り返しの付かぬ行為とは得手して軽率に犯されるものである。兎角ストライクは鎌で小箱を()めつ(すが)めつしている内に、そこから零れ落ちたものに気がついた。
 ここいらではとんと見掛けない輝石であった。闇のように黒光りするそれを見ていると、初めて目にするにもかかわらず、どこか郷愁を誘う不思議な感覚にとらわれたものである。好奇心が湧いてくるよりも先に、ストライクの鋭利な鎌の先端は既にして黒輝石に触れていた。よもやそれがポケモンと、ポケモンを畏怖する人の子との間の縁であるなどとストライクは思いもしなかった。
 しまった、と会得した刹那に得体の知れない輝きに全身を覆われて、ストライクは覚えず気を失った。再び目を開けた時、おどろおどろしいことが起きたことをすぐさま了解した。視界を覆う石斧が自分のものに他ならないと認めると、まず沸き起こったのは喜びなどではあり得なかった。謂わばズバットの超音波をまともに浴びたような混乱であった。正体を分かりきっていたにもかかわらず、彼は河口の堰堤へ降りてまで水鏡で己の姿を確かめた。畏れ多くも森の王たるバサギリの姿そのままであった。体色は枯葉の如く、刃のような両腕の鎌は頑丈な石斧と化していた。黒曜石が髭のように顔面を覆い、羽根は退化して刃のように肩から覗くばかりだった。胡麻のような瞳が自身のことを睨んでいた。
 無論、バサギリへの憧れというものは抱いていた。それは森に暮らすストライクども共通の感情に他ならない。人間がシンオウ様と崇敬する存在から寵愛を受けたものの皇統としてバサギリはあった。森の最奥、神木聳え立つ古戦場に祀られるバサギリの威容を、ストライクは幾たびも目にしては、地に平伏すような感動を覚えたものであった。あのような有り難くも立派な存在として、ストライクながらもありたいものだ。
 思いがけぬバサギリへの変身によって彼が抱いた感情は、強烈な羞恥と罪悪感であった。姦淫の罪を犯した人間の根源的な罪の意識と同質のものが、ストライクだった彼を苛んだ。よもや自分のような平凡な身が、神聖なるバサギリの姿を得るとは如何なることか。それは恐るべき冒涜であり背神の行いであるとしか思われなかった。蛇行した小川に沿って奥の森へ進む間、彼は念仏を唱えるように己の過ちを悔い続けた。果たして、森へ帰ったバサギリを待っていたのは、仲間達の怨嗟のこもった侮蔑と容赦のない排斥であった。森のストライクどもにとって、小柄な同胞が畏れ多くもバサギリの姿になることは、ヤミカラスが落ちた羽を継ぎ接ぎしてウォーグルの振りをするにも等しい愚行であった。彼ら彼女らは各々偽のバサギリとなった彼を口を窄めて非難し、唾棄した。同胞の絆は切れた。けたたましい威嚇を背にして、彼は住処の森を立ち去らざるを得なかった。
 期せずして放浪者となった彼は、コロボーシの不協和音を聞きながら風抜け道を上った。遠目にシシの高台を臨むと、彼は石斧を力無く下ろし頭を垂れて咽び泣いたものであった。情けなさにこのまま死に晒したいとさえ思った。
 森の世界しか知らぬ彼にヒスイの地は過酷であった。ましてや日に日に人間どもが行動の幅を広げ、未開の土地を開拓しつつあったので、彼は一層のこと偲ばねばならなかった。何もかもが彼を畏怖した。逃げ出すポケモンどももいたし、生存本能が刺激され立ち向かってくるものもいた。仕方なくバサギリは応戦することもあったが、自己には不似合いと思っていた石斧を案外自家薬籠中の物としているのは妙であった。ストライクの時分にはしたこともない動作を、あたかも既に知っていたかのようにすることができた。
 紅蓮の湿地と人が呼ぶ土地で、バサギリはゴローンどもの群れと対峙した。彼の痩躯に五月雨のように岩雪崩が降り注いだのは応えたが、何とか連中を蹴散らすと、ゴローンの一体が何かを落としていった。それを見て、バサギリははたと了解した。まさしく自分をバサギリの姿に変えた元凶の輝石が、こんなところにも転がっていた、というより縁もゆかりもないゴローンが誘因を有していたとは、まるで世界の秘密の一旦を知ってしまった気にさせられた。

 彼らは霧の遺跡に辿り着いた。祭壇と思しき跡のある断崖からは、赤土の泥土を背景に、人間たちのささやかな集落とアグノム住まう立志の湖が見下ろせた。彼が秘密を知ることとなった坂道もその辺りにあった。高台にはドレディアの佇む舞台の戦場。彼らは凡そ人気の無い場所を今宵選んだらしい。周囲を彷徨き回るラルトスやキルリアはこの上もない殺気に姿をくらました。静謐な祭壇で、バサギリは再び影たちに四方を取り巻かれた。石斧で上体を吊り上げるように支える姿勢を取った。跪くように頭を下げると、顱頂に重く、ねっとりとしたものがのしかかった。徐に顔を上げれば、それはバサギリの頭蓋を嘗めるように滑って、たわわに眼前でぷる、と弾みをつけた。
 初めにそれを味わわされたのは、遂に人間に従属する身に堕ちてからのことであった。その時、天冠山麓の峻厳な環境は岩を肌膚としたバサギリにはこの上なくて、静閑と思われた僻地の洞窟に身を潜めることにしていた。壁面には蜜のような色合いをした石が煌めき、見聞せぬ生物の骸と思われるものが埋め込まれて異様な広がりではあったが、はぐれものには好ましく、ここを隠家とすべきかと思案している最中であった。石斧を下ろし胡座を掻いて微睡んでいるところへ、後頭に鈍重な球を当てられて不意をつかれた。バサギリは斧を振るい抗ったが、その人の子は年端も行かないのに自らポケモンたちを使役し、ポケモンたちも主人に忠実に付き従っていた。まもなく、バサギリは彼らのもとに伏する定めとなった。
 彼らに交って感じさせられたのは、その一体一体の異様な巨躯であった。何れもバサギリの身を二つ三つ重ねても足りぬという背丈を持ち、彼らが一足踏みつければ自分などビッパのように踏み潰されてしまうと感じた。とりわけ、干戈を交えた紫色の竜——無論それをガブリアスと呼ぶとはつゆも知らぬ時のことだ——の体幹は戦場の巨木を思わせ、バサギリを畏怖させた。ついで、己の卑小さと不面目をいよいよ痛感せざるを得なかった。
 乱暴な気性であったガブリアスに禿()びたバサギリは目をつけられた。気質粗にしてと謳われるような生来のやくざ者で、野に放たれれば忽ち襲い来る敵を返り討ちにしては残忍な雄叫びを上げるガブリアスにバサギリは恐懼していた。鼻先に星の傷跡が刻まれた鐘木(しゅもく)型の頭部は自己の斧鉞(まさかり)よりも巨大で、血の充血したような色に纏われた胸鎖と腋は筋骨逞しく猛烈な雄々しさを誇示していた。それ故に背鰭は欠けたものかとバサギリは邪推し、くれぐれも逆鱗に触れることの無いように斟酌をしていたのが、却って自己の存在を意識させてしまったようだった。事あるごとにガブリアスはチビやら小僧やら坊やなどと呼んではバサギリをいびっては興じ、指代わりの爪で括れた腰を悪戯に突き回した。バサギリは体の内から燃えるような羞恥心を抱かずにはいなかった。
 そのガブリアスが、ある夜バサギリを物陰に連れ出した。不寝の番とて、主人の休息には彼らを拘束する木製の絡繰球より射出されている折りであった。美味いもんを喰らわせてやるから来よ、と珍しくも陽気に誘った陸鮫竜を断るのも土台無理な相談であった。訝しみと僅かに期待を込めて、その大いな背中に従いたものである。
 獲物も木の実とてない草叢を爪で指して、そこにしゃがめとガブリアスは命令した。バサギリは背筋の凍る気がしたが、言われた通り石斧に自重をかけて身を屈めた。そうして、頭の上にそれが乗りかかった。恐る恐る顔を上げて、そそり立った肉の棒を目の当たりにすることとなった。それは既に一箇の生物然としていた。幼虫のように蠢き、張り裂けんばかりの血管は浮き彫りに、益々太さと硬さを増していく。凶悪な牙を剥き出して若気るガブリアスが興じて躯体を振るのに併せて揺れた。
 ——もちもちキノコだ、好きだろう。
 ガブリアスはそう言って腰を横に揺らし、肉棒でバサギリの頬をニ、三度張った。その時、鋭利な爪で引き裂かれたり強靭な顎で噛み砕かれる以上の痛みをバサギリは感じたものだった。股間から忽ちにして露出したそれは強い臭気を放って、先端は既にとろりとした粘液が漏れ出していた。この逸物を鼻先に突きつけられたことで、自ずから何をせねばならないかを知った。しかし、それを行う勇気はなかなかに湧いて来なかった。整理のつかぬ感情が沸騰して、コダックのように頭が熱く、痛かった。不意に見知らぬ石に触れたことで王と瓜二つとなり恥知らずと後ろ鎌をさされて群れを終われたこの身が、いま巨躯のガブリアスの前で跪いてあまつさえその雄を木陰のキノコのように咥えろと命じられているのは、一体何の罪業であろう。愕然として熱り立った雄性器を見つめながら、バサギリの目から涙が込み上げて来たものだったが、今となってはそれが熱っぽく感じられるようになったのは心が強くなったか、どうか。

 鼻先を亀頭にくっつけ差し出された性器の非道く()えた臭いを吸いながら、バサギリは上体を重力に任せて鼓動を早めた。鼻腔から肺までを汗臭いその気で満たそうと何度も無骨な胸を膨らませた。腑抜けたように開いた口から舌が垂れて、ガーディが体温を調整するように忙しなく呼吸をした。雄の芬々たる臭気が体内を巡って、まるで全身が燻されるような感覚に心躍る。間髪入れず両頬にも極太が押し当てられる。頸にも待ち遠しいと厚い肉がコイキングのように跳ね回る。バサギリは気怠げに首を動かして、それらの亀頭一つ一つの臭気を嗅いで悦に浸った。顔にしな垂れた雄蕊(おしべ)どもの重みも快かった。
 ガブリアスとの密かな集まりはそれから毎夜絶えることがなかった。戯れにもちもちキノコと呼ぶそれをバサギリは毎晩口にする羽目に陥り、シンオウ様の悪戯か陵辱の時間はひたすら伸びていくように感じた。苛み甲斐のある小柄なストライクの成れの果てを玩具の如く弄べるという邪な心で勃起をしたガブリアスの雄を咥え、その目も眩むような臭さに卒倒しそうなのを偲びながら、バサギリは命令に服した。それは口をいっぱいに開いたとて到底咥え切れそうにもなく、付け根まで達さぬうちにバサギリの喉奥を圧迫してひどい嘔吐きを催させたが、ガブリアスは慈悲など見せる素振りもなく、舌の動かし方が悪いだのこの程度で嘔吐くとは軟弱者めなどと言っては、バサギリを嘲弄する。ストライクであれば生涯することの無かったであろう行為なのだから、勝手など元より分からない。ただ、苦悶と屈辱に見舞われながら、どうにかこの夜が終わるようにと祈念しながらしゃにむに口淫をするしかなかった。だが暫くは目的を達し得ず、ガブリアスは嘲笑を微塵も隠さず、強引にバサギリをねじ伏せてその岩の体に肉棒を擦り付けて吐精するのであった。夥しい絶頂であった。その欲望の温度が岩肌を伝わって、灼けるような熱が暫く抜けなかった。白濁に塗れて一匹取り残されたバサギリが身を清める水場を探すのは難儀であり、山麓や凍土の荒れた土地でそれをされた時にはただ途方に暮れるばかりであった。
 それがまだ朱に交わらぬ雄に対して行われる硬派の扱きであることも十全に理解されぬうち、それでも生きとし生けるものの哀しさか、幾許夜を経るうちに通り一遍の作法は会得していた。しかし己が口で絶頂させるにはガブリアスは大変であった。勃起を増すたびに一層怒張する陽物はバサギリの口でも到底抑えつけられそうもないと思われ、このまま口がぱっくりと引き裂けてしまいそうだった。哀願の眼差しでガブリアスを見上げるも、彼は夜目に慣れぬ振りをしていた。塩辛い味が嫌というほどに口腔に行き渡って、その味覚が味蕾のみならず粘膜にもこびり付いたかと肝が冷える程であった。
 悍しい行為の後でバサギリは果てしなく悔悟の念に囚われて延々と思索をしながら眠りに落ちたものであった。ならずしてバサギリの身を得たからには、俺は弾劾されて然るべきである。その背徳の罪は如何にして慰められるべきであろう。いや、それはもはやこの身に張り付いた黒曜石のように剥がし得ぬものなのかもしれぬ……無い頭を働かせるたび同様の観念が繰り返された。何より王であるバサギリに恥をかかせたようで面目が立たぬという思いが募った。もしかしたら、これまで身に受けた仕打ちとは、他でもない王たるバサギリの意思の発現なのではないか。それは、小心なストライクの身に不似合いなバサギリの姿を得たことへの当然の劫罰だ。絶望の淵にあって、そうした考えはバサギリにはもっともなことに思われ、自己を徹底して貶めることで、この絶句するような苦しみを耐え抜こうとしていた。

 それが今や何と晴れやかなことだろう、と自身を取り囲む陰部たちに熱心な接吻を施しながらバサギリはいよいよ恍惚に閉目するのだ。目を閉じれば曖昧な嗅覚は次第に輪郭を整えてくる。雄どもの貪婪の臭いは紫煙にも匹敵して心安らかにさせた。それぞれの臭気の微妙さにバサギリは感じ入って、まるで花畑に憩うイーブイのようだった。不潔な野生の臭いが今や、かくも。待ち遠しげに雄肉たちがバサギリの顔のあちこちを突ついたり張ったりするのもありがたいとは。バサギリは頷いて取り巻く剣先に揉まれて吐息をつく。無精な雄などはこれからというのに早くも切っ先から先走りなど流している。髷を伝って鼻にまで垂れてきたそれをバサギリは舌で舐めずった。全く業突張(ごうつくばり)であることよ、と老成した笑みを湛えて影たちを見回す。
 濁音を立てながらバサギリは容易に巨根の根まで口に収めて一息に啜り上げる。幾度もその所作を繰り返すと熱棒も興奮して手印を表すように宙を切った。淫するごとに粘着を増してゆくその硬軟を心から愉しみながら、バサギリは口を閉じ絞り上げるように亀頭までしゃぶり上げて、口吻で性器の根本に口づけした。待ちきれぬ他の雄たちがバサギリの頭蓋を叩いた。待たれい、と苦笑しつつバサギリは次の肉棒へと移る。打ち上げられたバスラオのように血気盛んな肉が口内で跳ね回るのを甘美な咬合(こうごう)で鎮める口振りは最早手慣れていた。
 その晩もガブリアスの後に随いて物陰に入ると、既に幾匹のポケモンたちが彼らを待ち受けていた。果たして同胞の輩であった。草地に胡座してにたにたと歓談しつつ打ち笑っているようであった。何れもガブリアスに劣らぬ巨躯の持ち主で、その膂力(りょりょく)は被造物のそれとも思えず、かの王たるバサギリでさえ太刀打ちできたものか確信できぬと考えたところで、バサギリは己が不敬に赤面した。フローゼルとルカリオ、ゾロアークの鼎談はバサギリが彼らの目に留まってぴたりと止んだ。目を赤く光らせ、従属して尚も失われぬ野獣の眼光を誇示しながらバサギリの全身を見当した。まるで肌膚(はだえ)の岩一枚一枚を花弁のように毟られているような悪寒を覚えてバサギリは立ち竦んだ。
 この倒錯した場にゾロアークも混じっていることに、バサギリは虚をつかれた。巨体であるとはいえ一団の中では温厚な性質であったし、ガブリアスにいびられている時もただ一匹その輪から距離を置いていたからである。密かに縋るような信頼を寄せていた化け狐にもあっさりと掌を返されて、バサギリは呆然の体に陥った。三匹は嬉々として立ち上がると股間を弄り、間も無くそれぞれの雄がバサギリの口や頬にぐいと押し付けられると、蟷螂は歔欷(きょき)を洩らさぬわけにはいかなかった。今晩はご馳走だぞ、と一番の勃起を塗りたくるように顔へ押し当てながら、ガブリアスは口を歪めた。連中も一様に下半を震わせた。
 三匹の豊かな毛並みが頬をくすぐる感触はいまだに生々しく思い出された。彼らのうちで最も若造であったフローゼルはそれ故に扱いは乱雑であった。少しでも不満を感じればすぐバサギリを打っては幼稚な言辞を弄して面罵する。腹に浮かんだ楕円の模様が忌々しい印象とともに記憶されるほど、フローゼルへの口奉仕は苛烈を極めたものである。
 ルカリオはそれに比べれば穏健ではあったものの、その性器は堅物であり、いくら口を動かせども達する気配も見えず、刺激臭もひと塩だった。当のルカリオは憮然とした表情でバサギリを見下ろすばかりで、内面は伺い難く、他に待ち構える性器の苛立っているのに震えていた。ようやく絶頂を迎えた後など、驚くほどの量の射精をした。ぷくりと根元の蕾のような辺りが膨れるのを畏怖とともにバサギリは見た。寡黙なルカリオは行為には容赦なく、性器をバサギリの喉奥に嵌めるように突き入れてとくとくと精を放ち、嚥下し難い量の白濁はバサギリの口から滝のように流れ、嗚咽とともに逆流しては鼻からも垂れ、バサギリの顔は泣きべそ掻く幼児の顔のように歪んだものだ。
 息の詰まりそうになりながらゾロアークに向かい合った時の澱んだ感情は言語に尽くし難いものであった。頸より雲のように沸き立つ紅白の鬣を揺らしながらゾロアークは立っていた。バサギリは精液のまとわり絡みついた無惨な顔をそれでも見上げて胸をざわつかせていた。希望は薄れかけていたが、それでも彼が最後に慈悲をかけてくれるのではなかろうかと期待をしたのである。どうか憐れんでくれ、この俺を、と心中で唱えた時、ゾロアークは薄墨の腕でバサギリの頭を掴んだ。気づいた時には、バサギリの口はあたかも吾妻型のように乱雑に弄ばれていた。ゾロアークの心根は誰よりも狡猾で利己的であった。無理やり首を前後させられるバサギリの目は涙で潤み、何ものも認識できない。上体が鞦韆(ぶらんこ)のように揺れるまま、息もまともに出来ず、嘔吐くこともままならず、バサギリは気を失ってしまった。かくして、それからの毎夜は無間、阿鼻の地獄となった。

 全てを呪詛してやまなかった、かつての未熟な自己が思い出されると微笑ましくすらなる。今となっては弄ぶのは丁稚するバサギリの側であった。快楽のことしか考えぬ性欲の獣どもを善がらせ、絶頂の予兆を察しては寸止めして、別の性器に浮気してつれない風を装う遊女の技を、バサギリは皆伝した。口淫の合間に各々の劣情を刺激する文句を吐くのが骨だ。ヒスイに住む野蛮な雄どもは、生態系の頂点と底辺の区別なく奴隷のような稚児を好むものである。どの側面を見ても確実に自己より格下であり、故に己の非弱さを自覚しなくて良い対象。バサギリはそのような存在を演じることに長けた。傲慢な巨漢には媚びた秋波を送って忠実を誓い、劣等感に浸された雄の性器を褒め讃えて微かな自尊心をくすぐれば良い。愛しているぞ、とバサギリは影たちに語りかけた。皆一様に、俺は愛しているぞよ。取り囲む肉棒たちが一斉に鬨の声を上げた。バサギリは一つ一つに長い接吻を施してやった。
 そのような手管を身につけたのも、ガブリアスの一党からの執拗な扱きのお陰とは言えようか。夜更けになって徐にガブリアスが立ち上がる素振りを見ただけで、バサギリは吐き気を催したものだった。全身が熱病に罹ったように火照って、ひどい頭の鈍痛と肩の凝りに悩まされた。腹蔵ががなるような音を立てていた。嫌になる、とバサギリは毒づくも仮病など言い出して断れる身分でもなく、そんな勇気も失せていた。苦痛を和らげるためには、自己が受ける仕打ちに適応して、何とか彼らの歓心を買うより他なかったのである。
 奉公を重ねる度、何とはなしに相手の特性というのも感知できるようにはなった。ガブリアスは凶暴なれど性器は極めて単純であり、その大きく咥えるのに難儀することさえ慣れれば、適当に頭を上下させていても痙攣させることができた。フローゼルに対してはその嗜虐心を満たすべく、大袈裟にも屈服した様子で振る舞えば良かった。ある時など、しおらしくフローゼル殿、と呼びかけただけで射精した。たとえ売女と嘲られようとも、少しでも夜が早く明けるならば、バサギリにとってこれほど良いことはなかったのだ。
 堅物のルカリオは少々骨が折れた。如何せん唐変木で掴みどころもなかった。性器を激しく熱り立たせているのが可笑しいとさえ感じるほどに、その立ち振る舞いからは何らの感情も読み取ることができないでいた。あらゆる角度に首を傾げ、肉棒のあちこちを舌で丹念に舐め回すなどして性感を探ったものの甲斐なしであった。バサギリは必死にルカリオの細かな動作を観察した。日常、ヒスイの土地を旅するうちにも目を光らせ、そのような自分を馬鹿げていると思いながらも仔細に注意を払っているうちに、ルカリオの感情と頭部の房が何かしらの対応をしていることに気がついた。その絡繰など知らないが、ただ喜んでいると思われる房の微動を頭に留めてその夜の彼の様子を上目遣いで観れば、なるほどレントラーが毛を逆立てるように房をそば立たせる一瞬があった。肉棒を頬張りながら、バサギリはしたり顔をした。胸のすく思いとともに、何か脳髄から体のあらゆる臓器までがぼたりと落ちるような感触を覚えた。
 ゾロアークにはただ、自分を物体と思い、嵐が過ぎ去るのを待つことだけに専念するに限った。気を失って白濁塗れで一匹取り残される夜は数え切れなかったが、やがては手斧(ちょうな)に全体重を預けるようにして、口腔に出し挿れされるがまま虚心坦懐で事に臨むようになった。ゾロアークがほそりとした腰ごとバサギリの顔に打ち付けるたび、亀頭の先端が喉仏でぐにゃりと曲がってそのまま食道にまで挿り込みそうになる。胃のものが逆流する感覚が込み上げてくるのを堪えてバサギリは抗うような目を相手に向けた。ゾロアークの責めの激しくなるにつれて、失神寸前の体で眼球が裏返るほどに吊り上がった。阿呆面め、と揶揄う面々の声が聞こえる。たおやかな外見についぞ似合わぬがなり声を立てながら、ゾロアークがやっと絶頂に達した時、体内に注がれてゆく精液の感触とともに、全身が痙攣し、あまつさえぞわぞわと胴から込み上げてくるものがあった。
 ——とんだ好色め、とガブリアスが嘲笑った。

 ——とんだ好色め、とバサギリは心中で呟いた。もう面倒だ、と見栄を切って影たちに語りかけた。ひとまとめに来よ。そう言って、見せつけるように自らの口を大きく開いた。粘着した唾液がついた餅のように伸び、飛沫がかしこに飛び散った。見上げれば、朽ちた柱の上に満月が輝いて灯火のようであった。影たちはバサギリの前で押し競べし、その男根を重ね合わせた。汗と迸りが混在して、いかがわしい熱気を立てるのは全く見境がなかった。顎が外れんばかりに大口開けたバサギリは、それら欲望をぱくりとした。淫乱な雄どもの流石の肉厚が、口膣いっぱいを満たす。首をもたげて瞼を閉じ、弾力のあるそれら一本一本の肉汁を味わうように、バサギリはゆっくりと口淫を始めた。
 バサギリの胴の先からにょろりと肉棒がはみ出し、モンジャラの触手のような細く弱々しいそれが芽のように伸びて垂れ下がっている。一まとめにした陽物どもを咥えながら喉から甘美な音を鳴らすと、触角のようにびくと勃ち上がった。両手の斧鉞(まさかり)は無論自慰の要を成さぬから、勃ちっ放しにしたまま影たちの性を処理し続ける。口に敷き詰められた肉蟲どもが押し寄せ合って怒張し、口がいっそうこじ開けられると、バサギリはふんと鼻を鳴らし、挑みかかるような視線を影どもに送った。性欲の権化どもよ。愛おしむ思いで口膣を振り乱してやると、皆一様に白い息を吐いた。
 バサギリを従える一団にやがて不穏が生じたのも無理からぬことである。生き地獄も多少は雪見の出湯に感じられた頃おいだった。巨獣たちを引き連れていた人間が、ある日無残な姿となって野外に屍を晒していた。乱雑に投げられた絡繰玉から飛び出したバサギリは血生臭い惨状と、そこに血塗れで佇むガブリアスの姿とを見た。何があったかを訊くのは野暮であった。そもそも、引率する人間のあるとあらぬとでバサギリがどうなるということも無かった。巨体の彼らに混じって、拘束具であった玉を砕いても何らの解放感も起こらなかった。その晩も変わらず、バサギリは奉公をさせられた。
 しかし仮初の絆など虚しい。曲がりなりにもあった群れの秩序が消え失せたからには、自然と連中は諍いを起こすようになる。木の実の取り分など言うに及ばず、連れ立って歩く並びにまで彼らは執着し、威嚇し合った。険悪な旅路であった。ある日、短気なフローゼルがゾロアークの背中を小突いたことにより衝突した。その際にゾロアークが見せた邪な眼光は死ぬまで忘れることがないであろう。逆立った鬣から幻影が雲のように湧き立ってフローゼルを包んだ刹那、はち切れんほどの悲鳴が聞こえてすぐ止んだ。黒雲が晴れると、フローゼルは目をひん剥き顎を外して絶命していた。連中はフローゼルの肉を喰らって饗宴をし、昂ぶると皆してバサギリを陵辱した。
 次にはルカリオとゾロアークがつまらぬことで喧嘩をし、化け狐が骸を晒すことになった。ルカリオの早業の接戦によって瞬く間に雌雄は決してしまった。ガブリアスはその様を横になりながら眺め、バサギリはただ愕然としていた。ゾロアークの死骸に近寄ってその痩躯を喰らうと、不味い、とガブリアスは言った。ルカリオも口に入れると黙って首肯した。その光景に慄きながらも、夜更けの手間が減ったという安堵が同時にあった。俺も所詮は獣の一党だと、バサギリは心得た。
 それからガブリアス、ルカリオと共にヒスイの地を訳もなく放浪する長い日々が続いた。道中は専ら沈黙であった。睦み合うでも、いがみ合うでもない、惰性ばかりの付き合いである。しかし、度し難い性欲とバサギリを辱めることへの熱心さにかけては、二匹は見事に共謀していた。勃起した二本をバサギリの口に挿し入れて興じるようにもなっていた。顎の割れそうな思いをすれども、やがて慣れてしまうのは生物の哀しさ故か。
 だが、心の髄まで二匹の遊具に成り果てたバサギリであれど、二匹が黒曜の原野の最奥へ足を踏み入れようとした時には恐ろしくなった。小川を渡ってシシの山道を上ると、アヤシシ祀られる高台を我が物顔に占有し、森の台所ではパラスやパラセクトのキノコを食い漁った。徐々に古里へと近づくにつれて、バサギリの畏れ多さはいやました。全身が怖気立った。一歩を進めるごとに吐気を催した。心臓が鈍く音を鳴らした。道を逸れてくれないかと虚しくも期待したが無駄であった。
 仕留めたビーダルを食事に供している時に、バサギリは思い切って身を挺してガブリアスとルカリオに懇願した。頭を下げながら、身を震わせて自身の身の上を告白し、どうか、どうか、森へは行かないで欲しい、さもなくば俺は、と嘆願の言葉を並べた。夜半雄どもの慰み者になる恥は最早構わなかったが、そんな無様な姿をかつての同胞や王に見られることには耐えられそうもなかった。それならば死んだ方が遥かにましだと頭を上げると、ガブリアスはにたにたと笑っている。いいではないか、とガブリアスは残忍にも笑いを堪えきれないという顔で言った。委細承知したとばかり、ルカリオの腕がバサギリの身を(すく)い上げ、赤子のように抱きかかえてずかずかと森の奥へと踏み分けて行った。しまった、と感じた時には遅かった。
 幟旗のはためく祭壇を跨いで二匹が聖域に侵入すると、ルカリオの胸元からバサギリは神木を仰いだ。その崇高さには心を打たれるものがあった。しかしこれから起こることを思えば絶望しか有り得なかった。混乱して、まともに物を考えることもできなかった。ガブリアスは神木を囲んだ窪地を物色して、地に唾を吐いた。
 ——乙じゃないか、ええ?
 バサギリは手斧(ちょうな)を下ろして、ずっと地べたを見つめたまま顔を上げることができなかった。急かすように二本の雄がぺちと頭を叩く。心の準備などつけようはずもなかった。思い切ることも吹っ切れることもままならない。地に黒いシミができていく。その光景は霞がかってよくも見えなかった。ルカリオの肉球がバサギリの側頭を挟んで、無理くり肉棒に正対させた。その時、神木の輪郭が黄金色に輝いているように見えたのは、視界が歪んでいたためだっただろうか。

 極太を根本までしっかりと挟むように咥えて、その肉感の微細を味わいながらゆっくりと雑音を立てて絞り上げ、亀頭を舐め回したらまた顔を男根の底へと下ろす。その動作を繰り返すごとに、己の肉棒もぴくり、と敏く反応する。淫することはバサギリにとって悦びであった。他所の欲を丸出しにした雄棒を味わうことこそ生であった。これ程までの至福を感じられるのは実に幸いなことだとバサギリは身に染みて感じるのであった。このように堂々と生き恥を晒してのうのうとしていることこそ幸いである、ありがたい、ありがたい。
 小僧が飴をしゃぶるように無邪気な音を鳴らしてバサギリは見事な口淫を続けた。鍬のような肉棒が悦びに合わせてくいと頭を擡げる。陽気な歌など口ずさみそうな立ち居振る舞いである。影どもはすっかり雄を弄ばれて恍然とし、はや快楽のことしか考えられなかった。勢いに任せて野郎同士口を重ね合う粘着音のするのも可笑しい。バサギリは緩急つけて尺八した。影どもの絞り出す低音の呻き声が月夜に映えるかのようだった。一度、バサギリは口を離してふうと息をついた。最後の一息を前に、影たちに問いかける。
 ——さて、待ち遠しかったろう。
 ガブリアスはそんな冗句を漏らして、バサギリの鼻先に肉棒を押し付けた。立派になったところを存分に見せつけるといいぞ。心痛に捉われながら、バサギリはガブリアスの臭気を吸った。鼻を刺激する臭いを小刻みに吸っては吐きし、それが止められぬ己の呪わしさは幾許りだったか。数多の夜を経て雌にさせられた心は男根を自ずから慕っていた。森の連中の誰にも見られることの無きようと希うのも浅はかに、バサギリは何時もながらの口淫を施した。ガブリアスを慰撫し、ルカリオに斟酌し、重なり合った二本をまとめて口で扱き扱きして涜神の行為を物ともせず、顔を白泥土で汚してバサギリは正気に還った。
 聖域を見下ろす丘陵から、一匹佇む影をバサギリは見た。それはシンオウ様打ち鳴らす雷の霊験を顕して黄金の光を全身にまとっていた。見紛うはずもない、森王たるバサギリの威容であった。我が身を数段重ねた程の巨躯を誇る王は、遥か高みから他慰する小バサギリを見下ろしている。王に向かって何かを言おうとした。しかし、このような無様な姿を晒したからには、何の言いようがあっただろう。舌が凍りついたようになり、ただ後光放って佇立あらせられる姿を見つめていたが、王はやがて鋭く一吠えすると、背を向けて手斧を掲げて走り去って行った。光は徐々に稜線の内へと隠れた。
 バサギリには全てが分かった。絶望が凪ぎ、ふうわりとした安堵感が広がっていくのは如何なる御心の成せることか。王は憐れみもされず、嘲りもされなかった。王は辛酸を舐める自分の側に常におわしました。不似合いなバサギリの姿を得て王の面目を汚したというのに、この悍ましきストライクの身にさえ心を寄せ共にあらせられる。そう思うに至って、彼は僅かに心救われ、安らぎを得たのである。そして、自分をまとった恐れも屈辱も劣等感も全て霧を払うが如くに晴れ渡った。
 一閃のあと、バサギリは頚椎(けいつい)から血を滾らせる二体の胴体を見据えていた。遠くでぼとりと頭部の続けて落ちる音がした。脳髄を失った肉体は、朽ちた柱のように緩慢に倒れた。シンオウ様が固唾を飲んで見守りでもしたからか、その間合いは長大に感じられた。古戦場には血の雨が降り注ぎ、血と体液は混じり合って鼠色に変じた。手斧にまとわりついていたのを啜ってみると、鉄混じりのそれは美味くもないが新味であった。ぶえ、と調子をつけてバサギリは遠吠えをした。森の古戦場は静まった。バサギリは聖域の外へと駆け出すと、森を包む蕩ける闇の中に自ら飛び込んで行った——

 肉棒たちが俄に暴れ出した。一本がハリーマンのように膨れ上がった後、バサギリの口の中で一斉にのたうち回って吐精すれば、他の肉欲たちも感じ入って殉爆する。驟雨のようなそれを音立てて飲精し、溢れだして鼻汁や唾液のように垂れるのも気にならなかった。バサギリが口を離すと、なお迸る精液を顔面に受けた。影たちは自ら手淫して、ほんの僅かな分も残すことのないようにと、バサギリの顔面に浴びせて止まない。
 目を眩ませれば、結膜に王の姿が映った。黄金色の輝きを放つ森の王はバサギリを一瞥しては雄叫びを上げると、石斧を掲げて軽快に走り去って行くのだった。往生したような気持ちで、バサギリは自ずから射精した。溶けかけた蝋燭のような有り様で、バサギリは悦楽に浸っていた。
 ——相変わらず卑しい口をしていることだな。
 揶揄いに、一体の影が言った。
 ——旨いもちもちキノコだったぞ。
 バサギリは破顔一笑してみせた。



後書き

バサギリは冗長なAVのように長いフェラチオがよく似合う……という空想で一筆執らせていただいた。
何ちゃらフェラならぬ、「バサギリフェラ」とかそういうの、いいと思います。
言いたいことはあったような気がするが、早く投稿したいという一心で省略します、いえい!

作品の感想やご指摘はこちらかツイ垢 へどうぞ

お名前:

コメントはありません。 バサギリフェラへのコメント ?


トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2022-02-15 (火) 00:44:25
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.