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鬼火の落とす影

/鬼火の落とす影

第一回短編小説大会の作品です。
※この作品には官能描写が含まれます。





 ふぅ、と。穏やかな吐息の音。
 月明かりの照らす薄暗闇に青白い炎がひとつ、浮かび上がった。
 ゆらゆらと、ただ虚しく宙に漂うそれは、自らの主を照らしだす。

「今日もお爺さんがひとりだけ……か」

 まるでその鬼火に話しかけるかのように、物悲しそうな声を発したのは一匹のポケモン。
 赤々とした鳥居が幾重にも連なる、石造りの古風な階段を眺めて、九尾の狐は声を上げてないた。
 天に届きそうな、透き通った声で。



   鬼火の落とす影  written by ウルラ



「あー……。涼しい……」

 夏の日差しが燦々と降り注ぎ、森の木々を照らす。
 舗装されていないオフロードの道を駆け抜ける白い軽トラックに、その木漏れ日がかかり、自然の斑点模様を描いていた。

「あんまり手を窓から出すと、木の枝にひっぱたかれっぞ」

 車窓から顔と手を出してぶらつかせる青年に、車を運転している中年の男性が苦笑した。

 都会から数百キロ離れた場所にある郊外のとある片田舎。
 猛暑厳しい折、そんな場所にある実家から「久々に帰ってこないか」という手紙が彼に送られてきたのは、つい先週のことだった。
 都会にある大学へ通うために家賃の安いアパートを借りて、慣れない都会暮らしにやっと慣れ始めた頃合いに来たその手紙に、彼の心が動いたのは言うまでもない。
 自分が育った土地に戻り、目の前に青々と茂る森を見て晴れ晴れとした表情を青年は浮かべていた。


「ついたぞ」

 車のドアに寄り掛かったまま舟をこいでいた青年は、不意に呼びかけられて首を(もた)げる。
 既に暗くなっている窓の外を寝ぼけ眼で見つめた彼は、ようやく自分が今どこにいるのかを把握したようで、車のドアを開けて外へと出る。
 やや爪先立ちになり背を張って大きく伸びて体をほぐし終えた青年は、久々に帰ってきた瓦屋根の実家を見る。
 ここに帰ってきて、何か特別なイベントがあるわけでもない。まして何か貰えるわけでもない。
 それでも自分が育ってきた場所に帰ってくるというのは色々と感慨深いものがあるのだろう。
 都会にいるときの辛気臭い表情は、今の青年の顔からはすっかり消えていた。

 砂利を敷いた庭先を歩きながら、すりガラスからこぼれる光が照らす玄関へと足を進めていく。
 そのドアをゆっくりと横に滑らせて開けると、青年はやや大きめの声で「ただいま」と帰宅の言葉を告げる。
 久々に帰ってくる家の、木造特有の柔らかなにおいを吸い込むと、青年は顔をほころばせた。
 都会の古びた鉄筋コンクリートのアパートのカビ臭いのとは違う、落ち着く香り。
 こんなことを未だに思っているものだから、講師から「田舎者」と言われるのかもしれないと苦笑混じりの表情を浮かべる。

 ふと、二階の廊下から向かってくる足音に耳を澄ます。音の軽さから、どうやら人ではないらしいことが分かる。
 トットッ、という軽快な足音の中に、時折カチッっという硬い何かが床に当たる乾いた音が含まれていた。
 その音に聞き覚えのある青年は、玄関でその音の主が来るのをじっと待つ。
 廊下を歩く音から、階段をとすっ。とすっ。と丁寧に降りている音に代わる。
 そろそろ顔を出すころだろうと、青年はそのポケモンがどんな表情をするか色々と想像を膨らませ始めた。

「え……」

 真っ直ぐな廊下の突き当たり。足音の主は階段の途中で青年の姿を見てぴたりと動きを止めた。
 すらりと伸びたマズル。絹糸を思わせるようなきめ細かい金色の毛並み。その背後にそびえるように、九つの尾が微かに揺らめいている。
 燃えるような赤色をした大きな瞳が、何度も(しばたた)かれる。
 やがてきょとんとしていたそのポケモンの表情は、徐々に明るいものに変わっていった。

「おかえり!」
「ちょ……うわっ」

 キュウコンは廊下を駆け抜け、青年に飛び掛かった。
 押し倒されるような形で玄関の石畳に強かに背を打ち付けるも、飛び掛かられるのは彼にとってなにも初めてのことではない。
 飛び掛かられたときの受け身は体が覚えていたのか、青年の表情には苦痛はなかった。

「くすぐったいって。あはっ」
「しばらく会ってないんだから、これくらいさせてよ」

 代わりに、顔を舐められ胸に頬擦りをされて少しばかり困惑したような、それでも再び会えた嬉しさからか笑みを含んだ、そんな複雑な表情を浮かべている。
 しばらくそのままで彼らはじゃれ合っていると、さきほどキュウコンが降りてきた階段から再び誰かが降りてくるような足音がした。
 今度はしっかりと人の歩く音だった。とすっ、とすっ、という子気味いい音は同じだが、その断片にすり足の音が混じっている。
 青年の家は全てが畳部屋のため、スリッパを履く必要はほとんどない。廊下も板間であるし、基本的には靴下だけでも歩いていられる。
 すり足の音はきっと、靴下が板間を擦る音だろう。

「あら、おかえりなさい」
「ただいま。ご無沙汰してます、母さん」

 二階の階段から降りてきた、久々に見る母の姿に青年は、キュウコンにのしかかられたまま笑みをこぼしてそう返した。


 丸いテーブルを囲んで、皆で夕食をとる。
 この家にいる者にとってはそれが普遍的なものでなんともないことだが、都会に出た青年だけはそれが酷く久々のように思えてならなかった。
 一人暮らしで(学生食堂は除いて)大抵の食事は一人でとることが多かった彼は、改めて家族で同じ食卓につくことの嬉しさを噛みしめていた。
 久々の母と祖父母とともに取る食事。会話も弾み、話題もころころと変わっていく。
 ふと青年がまだ小さい頃の話で盛り上がっていた時のこと。

「怖がりと言えばソウちゃんが小さいとき、裏の山奥にある神社の怪談話をしたとき、しばらく怖がって、昼間ですらあの神社にいかなくなったこともあったっけ」
「いつの話してるんですか……もう20ですよ。お酒も飲めます」

 祖母にそんな昔のことでからかわれて、青年は少しばかり恥ずかしそうにそう言った。その様子を見て、先ほど車を運転していた祖父もはははと笑う。
 ソウちゃんというのはこの青年の名前「ソウマ」を短くした呼び名。主に祖母しか使ってはいないが、たまに母がからかいで使うこともあった。

「その晩、あたしに添い寝を持ちかけてきたもんね」

 ソウマの方に少しばかり意地悪な笑みを浮かべて、思い出話に入ってきたキュウコン。

「小さいときはエリィからも距離取ってたのになあ。だからといって『母さんと添い寝したい』っていうのも、あの年頃だと恥ずかしいだろうしな」
「もう……おじさんまで」

 ソウマは祖父にさえもからかわれて軽いため息をついた。エリィとはキュウコンの名前である。
 元々、ソウマは幼い頃にこの家に養子として預けられ、以後ずっとここで育ってきた。
 しかし小さい頃はいつも面倒を見てくれていた母以外は、とてもではないが人見知りをしてあまり話さなかったらしい。
 今でも彼の会話が家族に対してもやや他人行儀気味なのはその所為でもある。
 先ほど祖父が話していた怪談話の一件以来、彼はエリィには心を開くようになった。
 彼が今まで距離を置いて彼女から逃げ回っていたというのに、突然仲良くなりだしたものだから、祖父母が驚いたのは言うまでもない。
 それはエリィが何か特別なことをしたわけでもなく、ただ怖がるソウマの隣で静かにあやし、九本の尾を掛布団代わりに被せただけだった。
 それでも、幼いころの彼にとってはその行為が、心を開くには十分なことだったのだろう。


 賑やかな夕食は終わり、ソウマは久々に自分の部屋に戻ってきていた。
 勉強机、ベッド、タンス……何から何までもが、この家を出ていくときのままだった。
 それでも埃がつもっていないのは、きっと母が手入れしているからなんだろうなと彼はそう思って、後でお礼でも言おうかとそう思案しながら窓の外を見る。
 ふと窓の外にある裏山が目についたのか、彼はじっとその山を見る。夜の暗さでぼんやりとその輪郭しか見えないものの、ソウマはそれを見つつ夕食の話を思い出していた。
 幼いころに聞いた怪談話。今思い出せばなんてことないような、ただ単に子供が夜遅くに出歩くことがないようにするためのお説教に近いもの。

『真夜中にあの山奥にある神社には近づいてはいけないよ。
 鬼火が訪れた者を囲んで、焼き払ってしまうからね。
 焼き払われたら最後、二度とお天道様すら拝めなくなる。
 美味しいご飯も、欲しいものも、身の回りのものまで、何もかもがなくなってしまうんだ。
 だから絶対、真夜中にあの神社には近づいてはならないよ』

 ソウマに対して、彼の友達のおじが言った怪談話。
 お化けが出る話や幽霊の話とは違って、やや脅迫気味にも取れるこの話を、子供ながらに信じていた彼は本当に真夜中には神社へ近寄らなかった。
 今はどうだろうと、ソウマは昔の幼い自分と今の自分を比べてみる。
 背もあの頃と比べて大きくなった。度胸もある程度はついた。人間関係は完璧とはいえないものの、人並みにはある。
 先ほどの怪談話も、今では疑問しか残っていない。恐怖心は微塵もなかった。

 そこでソウマはふと思った。
 今はちょうど夜。真夜中というほどではないが、日はもうすっかり落ちている。これから特に予定らしい予定もない。
 微かに気になる程度だった気持ちが彼の中で段々と膨れ上がる。ふとした興味から好奇心へ。そしてそれは行動へと変わっていく。
 ソウマは窓の外にある暗闇に包まれた山を見ながら、何かを決心するかのように頷いた。



 真夜中の山奥。微かな月明かりで照らし出される神社への参道は、どこか神秘的でもあり、どこか恐怖心をも誘う。
 ソウマは懐中電灯を携えながらその道をただ黙々と歩いていた。
 彼としては軽い肝試しのつもりだった。お化け役や案内板はないにしても、昔の自分よりは肝が据わってきたのか確かめるのには行って戻ってくるだけで十分だろう。
 そう思いながら彼は足を進めていく。
 参道というだけのこともあり、多少勾配はきついものの足元はしっかりとした石畳になっている。
 この山にある神社は村おこしのために建てられた稲荷神社で、稲作の豊作祈願はもちろん、ソウマが幼少の頃には祭りも行われていた。
 しかし住民の都市部への移住でこの村も過疎化しており、祭りを行うこともできなくなり、そこからこの神社への参拝者も減ったという。
 それでも石畳に木の根や雑草が生えていないのは、誰かが手入れをしているということだろうか。

 懐中電灯で足元や進む先を照らしながら歩くこと15分。
 赤いの柱のようなものがソウマの明かりの先に映る。彼はそれに近づいて明かりを上に向けた。

「鳥居か。それにしても数が多いな……」

 海中電灯の明かりで遠くの方まで照らして、ソウマはそう一人呟いた。
 参道の石畳にずらりと並ぶように建てられたいくつもの鳥居。
 赤い色が立ちならぶ光景は、本来なら魔除けのものではあるのに、この薄暗い月明りの中で見るとどこか不気味だ。
 ソウマはこの先が目当ての神社だろうと、その道を再び進もうと足を動かした。

「でていけ……」
「え……?」

 ふと、頭の中に女性の低く威嚇するような声が響く。
 それだけではなかった。彼の周りが青く光ったと思うと、そこには青白い炎が、鬼火が彼を取り囲んでいた。

「う、うわぁぁあ!」

 ソウマはその鬼火を見るなり大声を張り上げて大きく後ずさりをしてしまう。
 その拍子に足がもつれ、参道から足を踏み外して坂道を転げ落ちる。
 しまいにはその勢いを保ったまま木の幹に頭を強かにぶつけ、声を上げる余裕すらなく、彼は気を失った。



 遮っていた雲が退き始め、月明かりが天井に開いた大きな穴から差し込む。
 柔らかな光は黄色い毛並みに反射して、更に輝きを増す。その長い九本の尾はソウマに優しく掛けられていた。
 雲が完全に退くと、今まで影になっていた部分が照らし出される。
 一匹のキュウコンは月明かりに耳をぴくりと動かすと、目を開けて首をもたげる。
 そして心配そうにソウマの方を見ると、顔をぺろりとひと舐めする。

「んん……」

 ふと彼は目を強くつむったかと思うと、やがてゆっくりと目を開けていく。
 洞窟の天井を眺めたまま二、三回ほど瞬きをしてから周りを見渡そうと首をキュウコンの方へと向けた。

「エリィ……なのか?」

 ソウマの問いかけに、キュウコンは少し目を左右に泳がせてから頷いた。微かに目元に涙を浮かべながら。
「良かった……てっきり頭を打って死んでしまったのかと……」
 今にも泣きそうな震える声を聞いて、ソウマはあやすように彼女の首を撫でる。
 体全体をひくつかせながら泣く様子を見て、何かフォローしてやれないかと、ソウマは軽く肩や首を回して見せた。

「僕は大丈夫だから。ね。ちょっとまだ痛いけど、なんともないよ」

 彼がそうしてみると、段々とエリィにも落ち着きが見えてくる。引くつくのも収まってきて、ようやっと話せるような状況になった。

「一つ聞きたいんだけど、あの鬼火は……エリィの?」
「はい……」

 耳を垂らして申し訳なさそうにエリィはうつむき気味にそう答えた。
 妙にかしこまった感じの、彼女らしくない返事の仕方だと彼は最初不思議に思ったが、相当落ち込んでいるのかもしれないと彼はあまり深く考えなかった。

「毎回あの場所で鬼火を徘徊させて、夜の参拝者を驚かせようとしてたのですが、まさかあなたが来るとは思ってなくて……」

 エリィはそう言ってから再び俯いてしまう。洞窟の天窓から差し込む月明かりが少し暗くなったせいか、ソウマには彼女の顔が酷く曇っているように見えた。

「でも、どうしてそんなことを……?」

 一体どうしてそんなことをわざわざこの場所でしているのか。彼はそのことを知りたかった。
 怪談話で聞かされた鬼火の話も、もしかすると彼女がやっていることが関係しているのかもしれないとも、彼は思っていた。

「あの稲荷神社は、もともとはこの村のシンボルだったということは、あなたも知っていると思います」
「うん。子供の頃はよく夏祭りで神社に行ってたしね」

 エリィはソウマから目を離して、洞窟の天窓から月へと視線を変えるとそのまま話を続けた。

「でも、ここ最近は滅多に参拝者は訪れないですし、ましてや村人の数も、数えるほどになってしまいました」

 この村の人口は現在500人。ソウマが幼い頃は1万人ほどもいた村の人々は皆、都会へと出るか、年老いてこの村で生涯を終えている。
 ソウマも都会の大学に通っているため、その例外ではない。いずれどこかの企業につくにしても、結局は都市部に完全に移住することにはなる。

「だからこそ、少しでも誰かの話題にあの神社が出ればと思って、夜中に来る人に鬼火を見せていたのですが……ここ最近では……」
「誰もこなくなった、と」

 ソウマの問いかけに、エリィはゆっくりと頷いた。
 つまるところエリィは神社の参拝者を増やすため、ひいてはこの村に神社のことで興味を持ってくる人が増えればとやっていることなのだろう。彼はそう解釈した。


 ふと、体にかけられた尻尾の重みが増すのを感じて、ソウマはエリィの方を見る。
 赤い目が彼のほうをじっと見ている。

「私、あなたがここにきてくれたことが、すごく嬉しいです」
「う……うん」

 いつもと様子の違うエリィに戸惑いながらも、彼女の首筋を撫でる。少しばかりごわごわした毛の感じが、彼の手に伝わってきた。

「でも、それなのに私は鬼火であなたに怪我を負わせてしまって……本当に申し訳なく思ってます」
「いいってそれは……っ」

 その続きを言おうとしたところで、彼の言葉は遮られた。突如口元を塞いだ、エリィの口によって。
 するり、と。そのままエリィの舌が、半開きになった彼の口元から入っていく。
 ソウマは目を見開いてエリィを退けようと手を彼女の体において押すが、体重を掛けられていて退かすことができない。
 そうこうしているうちに彼女の舌は彼の口内を蹂躙(じゅうりん)しはじめる。
 歯の裏をなぞられ、ソウマの舌の根元に潜り込むようにして彼女の舌は蠢く。
 口の中で自由に舌を動かそうとしているために、エリィの口は大きく開かれてソウマの頬を両あごで挟み込むような形になった。
 エリィは顔を横にしてソウマの舌と彼女自身の舌を合わせようとするが、彼は口内で必死に舌を暴れさせてなかなかそうはさせてくれない。
 そのことに少しばかり痺れを切らしたのか、彼女は彼の口内に唾液を流し込むように彼の首を上に向けた。

「んんっ……」

 いきなり流し込まれた唾液に戸惑いながらも、彼はそのまま気管支に入っていかないように喉を鳴らして飲み込んでしまう。
 それを見て満足でもしたのか、エリィはしばらくして、ソウマから口を離した。

「ぷは……はあ、はあ……」

 鼻も口も彼女の口で塞がれていたソウマは、エリィが口を離した途端に大きく息を吸い込んだ。
 肝心のエリィは恍惚とした表情を浮かべていて、彼が苦しんでいるのにもまったく気づかなかった様子だ。
 更に彼女は、壁に上半身だけ寄り掛からせて体自体は仰向けになっているソウマの上に跨り、彼のシャツの中へと両前足をすっと入れ込んだ。

「怪我をさせてしまった、ほんのお詫びだと思ってください……大丈夫です。すぐに気持ちよくなれますから」
「な、なにを……うっ……」

 エリィはそう言うと、ソウマのズボンのベルトを器用に外してそのまま脱がせた。
 ズボンと一緒に下着もまとめておろしたために、ソウマのいきり立った男性器が顔を覗かせた。
 まだそれ自体には触ってもいないのに大きくなっているそれを見て、エリィはそれを前足で軽くつつく。

「ふふふ。さっきの接吻で十分に楽しんで頂けたみたいですね。……でも、まだこれからですよ」

 エリィは口元をほころばせると、ソウマの一物をいきなり咥え込んだ。

「ちょと……あっ……」

 ソウマがなんとかして今の状況を抜けようとするも、一物に与えられた刺激を前に、上手く体に力が入らずに何も出来ず仕舞いになってしまう。
 更には少しばかりざらついた舌で一物の裏筋をなぞられて、男としては情けない高いトーンの声を上げてしまう。
 それを聞いて顔をさらに赤らめるエリィ。ソウマは、もう彼女を止めることはできないのだと悟った。

 舌で一物の皮や亀頭をなぞられて、時折ソウマの体が震える。更にはしっとりとしたエリィの口内全体で上下に摩りあげられる。
 それを同時に受けて、段々と彼は刺激に耐え切れなくなっていた。
 そのことを指し示すかのように、大きく反り立った一物はその脈動を大きくしていた。
 不意に、彼女は口を離して、口まわりを舌で舐めとった。
 一物の先端からは先走り液が垂れていて、もう準備ができたとばかりに待っている。
 エリィは満足げな表情を浮かべると、突然自らの背中をまるめて自身の股に顔をうずめた。
 何をしているのか。それを見ようとする気力すらいまのソウマにはなかった。
 遠巻きに彼は眺めていると、そこからぴちゃぴちゃと奇妙な水音が聞こえてくる。

「私の方も準備ができました……さあ、本番にしましょうか」

 これから何をするつもりなのか。ソウマの頭の中ではそれが何か分かっていた。
 それに対する不安と、恐怖と、なぜか期待感や好奇心を浮かべて、さまざまな感情が入り混じった状態でじっと待つ。
 エリィはソウマの体の上に再び跨ると、濡れそぼった秘裂を反り立った一物へとゆっくりと近づけていく。
 彼女の足が震えながらも、ゆっくりと腰を落としていく様子を見て、彼は生唾を飲んだ。
 先端が、彼女の秘裂に触れる。そこから先に行けば、おそらくもう後戻りはできないだろうことは彼には分かっていた。
 しかし恐怖や反発を期待感や欲望が上回ってしまっていた彼には、止めることは考えもしなかっただろう。

「んっ……!」

 彼女が小さく声を上げるとともに、一物は一気に秘裂の中へと吸い込まれるようにして見えなくなった。
 エリィの口内よりもさらにねっとりとしていて、熱くて、心地の良い柔らかさに、彼は思わず声を上げたくなった。羞恥心からか、そうはしなかったが。

「動き……ますね」

 エリィはそう言って、彼の返事も待たないままに腰を動かし始める。
 小さく声を上げる彼女の快楽を示すように、九本の尾が乱れんばかりにあっちこっちの方向へと向いていた。

「んっ……あっ……はあっ……!」

 入れたときは小さかった水音が、だんだんと大きく、艶めかしくなっていく。
 エリィの声も一層激しさを増し、口をだらしなく開けて舌を出している。
 強くなっていく快感の前に、ソウマの羞恥心など意味をなさなかった。

「くっ……あ……んっ……」

 いつの間にか彼はエリィの背に手を回していて、自らも腰を振り始めていた。
 下から突き上げられる快感に体を震わせながら喘ぐエリィは、さらに顔を赤らめた。
 ソウマは彼女の金色の毛に顔をうずめながら、ただひたすら快楽を求めて腰を振っていた。
 もうそこには、人とポケモンの境界線などなかった。どちらも獣のように快楽を求めあっている。
 その行為にも、段々と終わりが近づいてきていた。
 限界を感じたソウマはだんだんと腰を振る速さを上げていく。それに呼応するようにしてエリィもまた自らの体に力を込めた。
 その瞬間に、一物を包んでいた膣は大きく脈動して、彼のものをきつく締め上げた。

「くっ……エリィ……もうっ!」
「んっ……あああああああ!」

 ソウマとエリィは大きく吠えると、そのまま絶頂を向かえた。
 彼は彼女の中に熱い滾りを放つ。それを受け止めるように、彼女の膣壁は彼の一物を大きく包み込む。
 何度か彼女の中で一物が脈動をすると、しばらくしてそれは収まった。
 息を荒くした二人は、そのままでお互いに体から力を抜いて、息が収まるまで待った。
 そうしているとだんだんと反り立った彼のものを小さくなっていき、やがて彼女の秘裂に栓をしていたそれは抜け落ちる。
 ソウマは段々と瞼を閉じていく。疲れて眠くなったのだろう。
 彼はそのまま意識を手放して夢の中へと旅立っていった。


 エリィはその様子を彼の上に跨ったまま見届けると、少しばかり悲しそうな顔をして彼の上から退いた。
 そして彼の一物についた精液を綺麗に舐めとると、脱がせたズボンを綺麗にまた元のように戻していく。

「ごめんなさい……でもこうすることでしか……私は……」

 地面に一粒の雫が零れ落ちる。それは二粒、三粒と増えていく。

「嘘をつくことでしか……私は……」

 恋い焦がれた者を目の前にして、彼女は涙をこぼす。
 そして、踵を返して洞窟の奥へと姿を消した。



 朝日が差し込んだ部屋で、ソウマは目を覚ました。
 どれだけ見回してもそこは自分の部屋。机も箪笥も、すべて自分の部屋のもの。
 彼はベッドから降りようとして、足元に何かがいるのに気づく。
 それは金色の毛並みを持つキュウコン。エリィだった。

「エリィ。ちょっと、起きて」
「んー何よ……もうちょっと寝かしてよ」
「聞きたいことがあるから、早くっ」

 ソウマはエリィを大きく揺さぶって起きるように声をかけた。
 昨日のことが、そしてあの洞窟で起きたことが本当がどうかを確かめるために。

「もう……何よ一体。昨日はいきなり部屋からあんたがいなくなったと思ったら、あの山の神社の前で寝てるの見つけて、そこからここまで神通力で運んできたあたしの身にもなりなさいよ……」
「え……」

 彼はエリィの言葉を聞いて固まることしかできなかった。あの時のことは夢だったのだろうか。
 しかし彼は神社に向かったことは明確に覚えていた。夢であるはずがないし、エリィも神通力でここまで運んできたと言っている。

「とにかく。あんたはさっさとアカネに昨日何してたのか言いなさい。一番心配してたの、あんたの母親なんだから」
「いや、エリィは覚えてないの?」
「え? 何が」
「洞窟で確か僕とエリィは……」

 洞窟と聞いて、エリィは首をかしげる。

「洞窟? 知らないよ」

 ソウマはエリィが嘘をつくときに口元を吊り上げてしまう癖があるのを知っていたが、今の彼女は嘘をついていない。
 なら、あのキュウコンは一体何なんだったんだろうか。エリィでなければ、一体誰のキュウコンなのだろうか。

「とにかく、あたしは寝る。あんたはさっさとアカネのとこ行きなさい」

 そう言ってエリィはまた眠りに入ってしまう。
 ソウマは洞窟のあの出来事を、まだ鮮明に覚えている。
 夢ではない。彼に残る確かで現実的な感覚が、あの出来事が夢ではないことをソウマは信じて疑わなかった。
 彼は、窓から外に見える山を見る。
 夜を共にした、あのキュウコンの姿を思い浮かべながら――。



 あとがき



 タイトルの大きさ、レイアウトのせいで分かってしまった方も多いことだと思いますが、一応私、ウルラです。
 第二回仮面小説大会の時の「快楽という名の代償」が人気のページに上がってきた時は正直内心慌ててました。
 レイアウトとかやっぱりバレないようにしておかないと駄目ですね(苦笑)

 34.9票中、5票で3位タイとなりました。
 投票して下さった方々、また、お読みになって下さった方々、ありがとうございました。

 第一回のテーマは「怖い話」だったのですが――きっとそのテーマの名のとおりゾッとするようなお話を他の方は投稿してくるだろう。
 と思ったのでこちらはちょっとテーマの見方を変えて書こうかなと思って書き始めたのがこちらの作品です。
 要するに「ぞっとするような怖い話」というわけではなく、「怖い話があったなあ」的なちょっと緩い物語を。
 というか怖い話というと大抵「呪怨」とか「リング」とか「着信アリ」とかばかりが思い浮かんできてしまって、エグいのは嫌だな、とw
 今思えば割と変な方向にテーマを捉えていたのかもしれません(苦笑)

 洞窟にいたキュウコンは一体? この後どうなるの? という疑問が多分ある方もいらっしゃると思います。
 構想的にはあるんです。この後の続き。というか勝手に考えちゃうんです、頭が(
 ただこのままぼかしたままで終わらせるか、はっきりとした形にするか正直悩んでます。
 長編の方の更新もありますのでいつになるかは分かりませんが、いずれ続きを書くために筆を執るかもしれませんし執らないかもしれません。
 続編は機会があればまた、っていう感じですね。

 以下、投票して下さった方への返信です。


 以上5名の方、投票ありがとうございました。

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Last-modified: 2011-08-06 (土) 00:00:00
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