ポケモン小説wiki
食虫植物の甘い罠

/食虫植物の甘い罠

大会は終了しました。このプラグインは外していただいて構いません。
ご参加ありがとうございました。

エントリー作品一覧




フェチぃえっちな話です。

 オレは草むらの陰で息を呑んでいた。
 見ただけで刺し殺してしまいそうな鋭い眼光。太陽を照り返す緑の装甲は肉厚でたくましく、どんな攻撃にも耐えてしぶとく生き残りそうだ。すらりと光る両手の鎌がひらめけば、トレーナーの繰り出したヤシの木みたいなポケモンが一瞬で切り崩された。その実力は、遠目から見ていたオレにも簡単に計り知れる。きっと、いや間違いなくオレの出会ってきたどの虫ポケモンよりも強く、そしてオレの伴侶になるにふさわしいポケモン。どっしりと腰の据わった安産型の下腹は、元気なオレ様の仔どもを大勢産んでくれそうで。
 白状してやるよ。ひと目惚れだった。
 ニンゲンどもの言う『マリエ庭園』ってとこにオレはついこの間まで住んでいた。観光客の繰り出してくる弱っちい飼われポケモンどもを脅して追っ払っていたら次第にレベルが上がっていって、いつしか島のどのアリアドスよりも強く恐ろしくなっていた。
 オレはあんな小っこい庭の中で、小っこい島の中で細々と生きながらえるようなザコじゃねぇ。海を渡って、その先でオレと仔供たちの楽園を築きあげ、いつしかこの海にオレ様の恐ろしさを轟かせてやる!
 と、意気揚々と船着き場のコンテナに紛れ込んだはいいものの。海の上は揺れるし寒いし誰もいないしで、正直泣き出したくなった――いや、いずれこの海を支配するオレ様がそんな弱音を吐くはずもなく、停泊した隣の島にふらつく(あし)を堂々と下ろしたのだ。
 まずはオレの仔どもを産んでくれる健康な雌を探さなくちゃならねぇ。で、見晴らしのいい荒野で見つけたのが、さっきの彼女だ。ちょうどいい、まずはこの荒野の支配者となって、あの仔を伴侶に迎えてやろう。オレ様の壮大な計画は、どうやら絶好のスタートを切ったらしい。6本肢で踊りだす思いだった。
 近くに息をひそめていた綿毛の塊みたいなヤツをとっつかまえて訊けば、どうやら彼女はストライクという種族らしい。この荒野でも結構珍しい、腕利きの種族だそうだ。ストライク。思わず叫びたくなるくらい強そうな名前だ。
 善は急げだ。オレは早速、意中のストライクちゃんを手に入れるため罠を仕掛けてやった。
 聞き出した彼女の住みかの藪の前。手ごろな灌木が少し離れた位置に2本生えていたので、しならせて近づけた先端を糸で地面に縫い付けた。強度を確かめて、その間にクモの巣を張る。さながら糸で編まれたハンモックだ。藪の前を通り過ぎる獲物に躍りかかろうとした彼女を、逆にとっ捕まえてやろうって寸法だ。へへ、このオレ様に選ばれるとは、なんとも光栄なことよ!

 がさっ!
「きゃあ!?」

 灌木の上でうつらうつらしていると、短い悲鳴に続いてネットの揺れが伝わってきて、オレは飛び上がった。慣れない環境にホームシックになっていて――いやいや、ストライクちゃんとの仔作りのために体力を付けようと、網をかけ終えて休息を取ろうとしていたときだった。夜はまだまだ明ける気配もなく、半分に欠けた月が荒野を薄広く照らし出している。
 が。
「おい……どういうことだ」
「どうしましょう、こんがらかってしまいました……」
 期待に胸を膨らませ、網に引っ掛かったはずのストライクちゃんを見下ろしたオレの目は、見たこともないポケモンを捉えていた。




食虫植物の甘い罠


水のミドリ



 円網(えんもう)よりも3倍時間のかかる皿型の網を、さらに2倍も丁寧に編み上げて作ったオレ様渾身のクモの巣。愛しのストライクちゃんに気に入ってもらえるよう、いっそそのまま愛の巣にしても構わないくらい立派な造りにした豪華な網のベッドのど真ん中に、ソイツは仰向けに寝そべっていた。
 ちょっと見るとストライクとは体のつくりが似ているようだった。けど全身は庭園のランの花みたいにピンク色だし、どことなく丸っこい。鳥ポケモンの翼のように広げられて網にくっついた両腕、その先は鎌のような構造になっているが、けれど肉厚でひらひらしていて細い枝さえ断ち切れそうになかった。桃色と白のストライプがかった太い脚が、情けない雌らしく内股になったまま貼り付けられている。……まったく強そうには見えねぇな。オレの惚れた鋭い眼光など無縁そうな小さな瞳は、過保護にもカバーで覆われていやがる。虫タイプのほかに草タイプも併せ持っていそうな雌々しい花の香り。そして何より、タマゴなど産めそうにもない脆弱な緑の虫の腹。残念だが、そんな雌はオレ様の眼中にはねぇ。
 揺れの収まった足場糸に降りると、気づいたソイツが動かせない顔でオレを見上げてくる。
「あら、どちら様? よろしければ優しそうな殿方、このねばねばを取ってくださいません?」
「……へっ、このオレが『優しそう』だって? よォく覚えておいたほうがいいぜ、明日の昼には、極悪非道なこのオレ様、シダカの名が荒野じゅうに知れ渡っているだろうからな!」
「分かりました、心に刻んでおきますね、シダカ様。強そうなお名前です」
 シダカ様、か。へっ、悪くない響きだ。鼻を鳴らして、オレは網に捕まって動けないコイツをまじまじと見た。伴侶にするには不十分な雌だが、見てくれは華やかだしそばに置いておくにはいいかもしれない。が、それも肝心のストライクちゃんを手に入れてからだ。
「見たところお前、ストライクじゃねぇな? 何て言う」
「名前はテスラと言います。種族名でしたらラランテスと」
「ラランテス、か。いかにも雌らしいなよなよした名前だな」
 しゃらん、カバーの奥で目を細めたテスラがはんなりと笑う。ピンクと白の花びらを重ねたような、彼女のなまくらな鎌。横糸の粘球で接着されたその裏側に弱い酸をかけ、オレは網糸をほつれさせた。前肢の爪でほぐしてやれば、薄氷を踏み抜いたみたいにテスラの重たそうな鎌が下に抜けた。
「反対側も解いてやるから、じっとしておけ。動けるうようになったら、夜遊びなんてしてねぇでさっさとねぐらに帰るんだな。もうオレの罠に引っかかるなよ」
「あら、このべとべとはシダカ様が作られたものだったのですね。確かに精巧できめ細やかで、私にはとうてい編むことができなさそう。それに、私の力ではびくともしなかった糸を溶かしてしまうなんて、やはりシダカ様はお強いのですね。……しかしわざわざ助けてくださるなんて、『極悪非道』と名乗る殿方のすることではないように思いますけれど」
「勘違いするなよ、弱い雌を虐める趣味がねぇだけだ」
「あら、それは心外です。私がそんな弱そうに見えますか」
「……ほう、オレの糸罠にまんまと掛かっておいて随分と強気なもんだな」
 そういえば、テスラはさっきからオレを全く警戒していねぇ。クモの巣に絡まって、鎌を振るうことも、まして身を丸めることもできないはずなのに、コイツはただはんなりと笑うだけ。今までオレが網に引っかけてきた奴らは、どんなにいかつい顔で強そうな雄でも、身じろぎひとつとれないと知ればすぐさま涙目になって降参してきたってのに。
 テスラの左手の糸も解こうとしていたオレの前肢が、はたと止まる。訝しんで彼女の顔を覗きこもうとオレが屈んだのと同時に、テスラはほとんど動かせないはずの口許をわずかに持ち上げていた。
「面白そうだからわざと引っ掛かってみた、って言ったら?」
 すこし悪戯っぽい響きを乗せて、テスラが囁いた。
 ……なんだこの雌は。奥ゆかしい笑みのその奥に、計り知れないすごみを湛えているような気がして。オレは反射的に首をすっこめていた。まさかあのストライクちゃんより強いのか? もしかしたらこのオレよりもよっぽど強くて、網に絡まっていても返り討ちにできる力を秘めているんじゃねぇか……? ……いや、いやいや、いやいやいや。まさかそんなはずがあってたまるか! そうだ、まだこの島は半分も回っていねぇが、どうやらオレと同種のアリアドスはいないようだし、荒野に棲んでいるヤツが単にクモ糸の恐ろしさを知らないだけかもしれねぇ。
 ちょうどいい。ここらは開けているし、このままテスラを吊し上げておいて、明るくなったときにオレの恐ろしさを周りのポケモンどもに知らしめてやろう。この荒野に君臨する新たな覇者は、このオレ様だってことをな!
 そのためにもまず、この何も知らない雌虫にオレ様がいかに極悪非道かってことを徹底的に刷り込んでやらなくちゃならねぇ。怯えたテスラが泣きわめけば、オレの恐ろしさにもハクが付くってモンだ。
 止めていた前肢の爪を再び動かし、テスラの左鎌も下へと落とす。そのまま順調に開放してやると見せかけて、彼女のぶらんと垂れた両腕を、肘のあたりで糸をぐるぐる巻きにして結束してやった。巣から地面へと投げ出された鎌が、叱られたルガルガンの尻尾みたいにしなだれている。
「……あら、やっと動かせるようになったと思ったら、また固められてしまいました。これなら鎌の先は動かせますが」
「お前、アリアドスに会うのは初めてだな。ちょっとこっち見ろ」
「あら、なんでしょう?」
 テスラが左に顔を傾けた瞬間を狙って、オレはド迫力の形相を真正面からぶつけてやった。ナイトヘッドを織り交ぜた、オレ様渾身の恐い顔。これでビビらなかった奴はいねぇ。いい年したケララッパはけたたましく泣きわめくし、アメタマのガキなんざその場でおしっこ漏らして大変だった。これならオレのことを何も知らないテスラだって――
「あら、そんなに可愛らしい顔をしてどうなされたのですか、シダカ様?」
「な……お前、今のが何ともないのかっ?」
「脅かしたつもりでしたか? あらあら、私こう見えてあまのじゃくなのですよ」
「はぁっ!?」
 ……コイツやっぱ狂ってやがる!
 オレの全力の恐い顔ですくまない奴なんて、見たことねぇ! 反射的に尻を持ち上げ、黄色い糸いぼの先端を突きつけた。いつテスラがメリメリと網を破って起き上ってきても対処できるように、オレ様特製の糸でもつれにもつれさせてやる。
 ビビってるわけじゃねぇ。このオレが、他のポケモンどもを恐怖のドン底に叩き落とすことを趣味にしている極悪非道のオレ様がビビってるワケでは決してねぇけども、こうせずにはいられなかった。
「あらあらあら、可愛らしいお顔でそんなに威嚇してしまって。振り上げたいちばん後ろの肢が震えていますよ? 次は何を見せてくださるのですか、シダカ様」
「く……これでも食らえっ!」
 張り付いたような笑顔を崩さないテスラに向かって、たまらずオレは糸いぼを震わせた。
 一段と粘着力の強いオレ様特製のクモ糸を、テスラの膝にぐるりと巻き付ける。前肢でその端を手繰ってやれば、内股気味に網に貼り付いていた彼女の左脚がぺりぺりと剥がれていく。灌木から飛び出た枝に引っかければ、テスラの脚は膝から宙に吊るされた。
「シダカ様、これでは足先が自由に動かせてしまいますよ。まるで骨を折った人間が治療を受けているみたい」
「ばっ、バカにしやがって! 言われなくてもひっ絡めてやるよ!」
 挑発するようにテスラは左脚の先をゆらゆらとゆすぶっている。落ち着きのないふくらはぎは、太腿とまとめて糸でがんじがらめにしてやった。ストライプなタテ縞模様の上から糸を横巻きにすると、月明かりに目がちかちかする。
 右脚も同じ要領で束ね上げる。両膝の糸をグイッと頭の方に引き上げれば、ヒラヒラした薄桃色の裾が持ち上がってテスラの緑色した虫腹の先がちょこんと垂れるようになる。股を閉じられない格好にしてやったのは、もちろんそういうこと(・・・・・・)を意識させるためだ。これだけやってやれば、自分がいかに危険な状況に置かれてるかってことが嫌でも分かる――
「あらあら、雌にこんな格好をさせて……シダカ様はどうしようもない殿方なのですか? 本命はストライクなのでしょう? ストライクの雌の仔は、交尾した雄が頼りないと、事後に頭からバリバリと食べてしまうことがあるのだと聞いたことがありますよ」
「ぉ……オレ様ほど強くて恐ろしい雄に抱かれるんだ、食おうと思う前に骨抜きになってるだろうがよ!」
 振り払うように言い切ったオレへ向けてじっとりと送られる、意味ありげな流し目。たじろいで顔を引きつらせるオレを、しゃらん、とテスラは小さく口許だけで笑った。
「こーびの練習、私で済ませておきたいんですよね、童貞のシダカ様っ?」
「――!?」
 もはや恐怖だった。オレの脅しを理解したうえで挑発してきたことも、オレがまだ未経験だって見通してきたのも、訳が分からなかった。
 鎌のついた両腕は下に縛られ、両脚ははしたなく吊り上げられ。十二分に緊縛されてどうしたって抵抗することのできるはずがないテスラに向けて、ダメ押しで胸に糸を巻き巣の中央に縫い付ける。翅っぽい背中の4枚の飾りも、糸を練り固めた粘着弾を飛ばしてシール付けだ!
 しかも、この糸は特別だ。本来なら使うつもりはなかったが、こうなったら徹底的にだ。尻の糸いぼからではなくオレの口から飛ばす糸には、毒が仕込まれている。鋏角――口の前に飛び出した顎の毒腺から分泌する、オレ様とっておきの猛毒に浸した毒の糸。さらに連続でベノムトラップを仕掛けてやる。糸でがんじがらめにされて素早さは最早デンヂムシ並み、そのうえ攻撃能力も低下させておけば、さしものテスラでも心が折れて減らず口を閉じてくれるはずだ。
 お願いだ、効いてくれ! 極悪非道であるはずのオレが神頼みしていた。もういい、笑いたきゃ笑えばいい。
 願いが通じたのか、ずっと変わらなかったテスラの表情が、苦しげに歪んでくれた。
「うっ!? っ、毒ですか、これはさすがに響きます……」
「はあっ! はぁ、はあぁ……。……へっ、ぉ、オレを舐めてかかるから、そうなるんだよっ! ゃ、ヤバくなったらモモンの実を探してきてやるからっ、オレの恐ろしさを噛みしめて、しばらく吊るされたまま反省してるんだなっ」
 ようやくだ。ようやくテスラを黙らせることができた。息も絶え絶えながら安堵は絶対に表には出さず、虚脱するテスラをしたり顔で見下ろしてやった。力か抜けて沈み込む彼女の体が、糸に食い込んで柔らかく凹む。よく見れば、細い糸を引っかけられただけの膝回りが、肉を寄せられてほんのりと赤くなっている。肉付きのいい脚まわりも、糸で何重にもボンデージされた境い目が、むにっと盛り上がるように主張していて。
 な、なんだかいかがわしいな……。
 ついさっきまでオレの脅しに動じなかったテスラの、毒をくらい焦燥しきった表情。糸に絡めとられた薄い胸が、酸素を求めてせわしなく上下する。口許から漏れるはかなげな吐息が、甘ったるい熱を伴ってオレの頬を撫で上げた。すがるように見つめてくる彼女の頬が、いたいけに紅潮していて。
 ずりゅん。しまったと思う間もなく、オレの肉棒が腹先の節穴からこぼれ出ていた。
 咄嗟に尻を高く上げ、突出したそれをテスラに見られないようにする。なんでだ、と恨めしく思うも後の祭り。いちど飛び出してしまった交尾器は、かなり時間が経たないと体の奥へ引っ込んでくれやしねぇ。どうする、どうするよオレ!? こんなのがテスラに見つかっちまえば、オレを恐れさせるどころかますます図に乗らせて―― 
「あらあらあらあら、シダカ様ったら、お顔に似合わずずいぶんと極悪非道なモノをお持ちなのですね。体色よりも毒々しく黒光りしてて、でこぼこした溝が走っていて……。そんな長いモノ、いったいどこに隠していたのです? 私の脚ほどの太さがありそうですし」
「の……覗きこんでんじゃねーよッ!!」
 目の前を真っ白にして考え込んでいたオレは、外気にさらした肉棒を隠しきれていなかったらしい。想定していた最悪を飛び越えてまじまじと品評までしてくるテスラに、血眼になって叫び返していた。
「っててて言うか毒は、オレの毒はどうしたんだよ!?」
「毒ですか? それなら私のアロマセラピーで瞬時に解毒しました、ご心配には及びませんよ。話をそらそうとしても、そうはいきませんから」
 言われてから気付く、ほのかに漂う爽やかなにおい。あの消耗した表情も、ぜんぶ演技だったのかっ! まんまと担がれた。雌の前で肉棒をさらして狼狽えている雄なんて、恐れさせるどころか誰が見ても失笑ものだ。
 しげしげと眺めまわしてくるテスラの視線を避けるように、オレは網の上をたじろいでいた。しきりに踏みかえる細いオレの肢なんかじゃ隠しきれるはずもなく、テスラの熱視線を感じた肉棒はさらにその鎌首を持ち上げる。
「見られただけでおちんぽを大きくしてしまうなんて、シダカ様は初心(うぶ)な殿方なのですね。……あら、膨らんできたと思ったら、だんだんと赤味を帯びてきましたよ。スリットの根本まで持ち上げて……おちんぽをガッチガチに筋張らせてしまうくらい、興奮していらっしゃるんですね」
「う、うるせぇ! 雌がおチンポなんて言うんじゃねぇっ!」
 相手を糸に巻きとって、主導権はオレ様が握っているはずなのに、ずっとテスラのペースに乗せられたまま。きちんと捕らえたはずの獲物に、いいように糸で操られているみたいだ。
 テスラを中心としてぐるぐると二の足を踏んでいると、彼女の脚側に回ったとき、不意に"それ"がオレの目に映った。
 吊り上げられた彼女の両脚の間からちょこんと垂れた緑の虫腹、その先端の節がわずかに開いていた。横に走る筋を裂いて見えた艶めくピンク色の肉膜、それに囲まれた虫穴が、くぱ、くぱ、とテスラの呼吸に合わせてゆっくりと開閉している。にとー、奥から染み出した愛液が、月の光に妖しく輝いていて。
「……気付かれちゃいました」
 腹越しにオレを見下ろすテスラが恥ずかしそうに呟くと、薄紅色の頬を毒とは別の赤で染めて、そっぽを向いた。
 しゃにむにオレは飛びかかっていた。
 きゃ、小さく漏れるテスラの悲鳴。吊られた脚を飛び越え彼女の胸にしがみついた。背中に回した肢の爪で細い体をしっかりとかかえ込む。前肢は肩を押さえつけ、中肢は腰を掻き抱いた。威嚇のために持ち上げていた後肢は、震えを押し殺しながらテスラのひくつく虫腹へ。
 蠱惑(こわく)的に蠢いていた虫穴へ、闇雲に後肢の爪を引っかける。爪の先に感じる、湿った肉粘膜の感触。薄膜をそっと左右に拡げて、剥きだしになったテスラの、むっちりと熟れた膣口に向けて、もうすでに限界まで張りあがっている肉棒の先端を擦り合わせた。
 テスラの柔肉が、先走りを垂らす肉棒の先端をくち、くちと甘く()んでいる。そのやわやわとした刺激だけで、理性の糸が焼き切れそうだった。ふぁ、目の前で雄を蕩けさせるようなかすり声を上げたテスラを睨みつけ、オレは鋏角を食いしばって叫ぶ。
「いっ、いいのかお前、この状況分かってるのか!? このままだと犯されるんだぞっ! 糸で縛りつけられたまま、何の抵抗もできずにデカいのブチ込まれて、知らない雄のタマゴを孕まされるかもなんだぞっ!! なんでずっとオレを挑発してばっかりで、抵抗なんかぜんぜんしないで――」
 しゃらん、突然首の後ろに絡みつく、肉厚な葉のようなこそばゆさ。糸の拘束をあっけなく引きちぎっていたテスラが、自由になった手の鎌をオレの背中に回していた。刃の腹で俺の後頭部をすっと引き付けると、彼女の口許がオレの顔のすぐ横に近づいてきて。

 ――この、いくじなし。

 囁かれた瞬間、体じゅうにさっと熱が回った。
 肉棒の先端を虫穴へ食い込ませたまま、持て余した後脚を、テスラの華奢な虫腹の背に回して。がっちりとホールドした彼女の腹の頂点から、固く脈打つ肉棒を突き潰すようにねじ込んだ。
 ずちゅンっ!
「くぉ……ッ!!」
「ふぁあっ!」
 雌の体を貫く初めての感覚。気持ちいい、というよりは熱い、という感覚の方が強かった。待ちわびた交尾に本能が強烈にさざめいている。それからすぐ、オレを襲う途方もない快感。下半身からせり上がる暴力的なまでの快楽刺激を、オレは体をひしゃげて噛み潰した。
 入れ、ちまった。
 肉膜に覆われてすぼまったテスラの粘膜口が、肉棒のいちばん太まっている真ん中あたりをぎちぎちと締め上げる。咥えこまれた先端部分は、熟れきった果実のような彼女の膣肉の柔らかさをぐにぐにと受け止めて――
 ――思ったよりも挿入が深い。テスラの貧弱そうな下腹は、見た限り雄の交尾器など到底受け入れられそうにはなかったのに。裂けてしまったのかと冷や汗を垂らし、オレは慌ててテスラの腹を下に見た。
 血は流れていなかった。
 下半身に感じていた通り、膣口から進めるはずもないと思っていた肉棒が半分以上テスラの中に飲み込まれている。種をつけすぎたリンドの実のように内側からボコリと膨れ上がった虫腹は、まるでその中が全部膣になっているような。
 オレの動揺を先読みしていたみたいに、テスラがくすり、と笑う。
「……どうでしょう、私の(きょ)の味は?」
「き、きょ……?」
「私のような植物の体を持つものは、小さく見える腹のなかに長い膣を隠していることも少なくありません。ですから、シダカ様のモノのように長くてぶっといおちんぽでも、存外に根元まで飲み込めてしまうかもしれませんね」
「しょ、植ぶ、つ……?」
「……あらっ、口が滑りました。気にしないでくださいね。続き……しましょう、シダカ様っ?」
「――ぅお!?」
 きゅ、テスラの肉膜が肉棒をきつく締め上げて、変な声が勝手に漏れる。
 その刺激がスイッチとなったように、叩き起こされた衝動がオレの腰を動かしていた。にちゅ、くちゅ、頼りない抽挿を繰り返すうち、テスラが何と言いかけていたのかも忘れてしまう。今はただ、目の前の雌をひたすらに求めて尻の先端をなすり付けていく。ぬろー、と薄膜を引き剥がすように肉棒を引き、愛液で粘ついた膣肉を絡ませながら交尾器を押し付けていく。
 蜜を求めて大きな花に頭から潜り込む浅ましいアブリーのように、オレはテスラの一番奥から染み出してくる甘い淫蜜を掻き出そうと、一心不乱に肉棒を距へとうずめ込んだ。きもっち、いい。じゅぶ、じゅぼ、次第に響くようになる快楽音。みずみずしい花のようなテスラの甘いにおいに混じる、体の奥で成熟された蠱毒のような性交臭。網の寝台が揺れるたび、がさがさと灌木が振り乱れる。
 オレがこれだけ気持ちいいんだ、テスラだってもう涎を流して善がり狂っているかもしれない。快感で塗りつぶされた頭を持ち上げると、じりじりと混濁しそうな視界に映る、彼女のはんなりとした不敵な笑み。
「あらあらシダカ様、先ほどから脂汗が止まりませんねぇ。っ、目元も細やかに痙攣しています。気持ちよさそうに涎も垂れ流してしまって、っぁ、私の見込み通りシダカ様は童貞おちんぽだったのですか? それとも遠慮しています? 腰の振り方、まるで糸仕掛けの玩具のようなぎこちなさですよ。いくらぶっといおちんぽでも、これでは雌も満足できません。ストライクの想いびとならもう、呆れて頭を齧られているかもしれませんねぇ」
「ば、か、に、するなよ……ッ!!」
 ぷつんと、頭の中の糸が切れた。
 全部入れてやる。距の奥まで肉棒を突き込んで、いつまでも余裕ぶったその顔、今にぐずぐずの泣きッ面にしてやる!!
 挿入がより深くなるように、オレは乱暴に肢を踏みかえた。意識をしていなかったせいか、後肢の爪が仕掛け糸を撥ねる。しならせた灌木の枝の先と地面とを結んでいた張糸、それが切られると同時に、巣全体がぐるんとひっくり返った。掛かるはずだったストライクちゃんに巣から抜けられそうになった時のために仕込んで置いた、皿網を跳ね上げて相手を絡めとるためのトラップ。
 トロトロにほぐれた虫穴に細かく痙攣し始めた肉棒を嵌め込んだまま、オレたちはまとめて上下さかさまに振り上げられる。驚いたテスラが体を引きつらせ、肉棒の溝にぷにぷにの肉ひだがざわついた。不意打ちの快感に思わず声が漏れる。
「このような珍妙な仕掛けで体位を変えられたのは初めてですよ。……あら、何だかシダカ様のおちんぽが深くなっているような……」
「そうやって余裕ぶっこいていられるのも、今のうちだ、ぞ……っ!」
 逆さ吊りになったにもかかわらず、テスラは落ち着き払ったままだった。膝と腹で吊るされ、両鎌はだらりと垂直に垂れてますます抵抗できなくなっているというのに、余裕ぶりやがって。
 もう手加減は無用だ。力を籠めようとより一層テスラにしがみつく。彼女の背で、オレの肢が交差する。胸と胸の隙間を押し潰すくらい深くテスラに肌をすり寄せる。体が密着したせいか、重力を伴って力任せに突き落とすオレの抽挿が奥まで届くようになったからか、テスラは身をよじって悦んだ。
「あ……ぁああっ!? し、シダカ様っ、ぁ、い、いま何をなさって――ひふぅッ!? ふ、深いっ、おまんこ深いッ!! シダカ様ぁっ、っあッ、こんなアクロバティックな体勢でも、ふャっ! ち、力強いえっちが出来てしまうんです、ね、っすてき、素敵ですぅ……っ!」
「へ、へへへ、やっとオレの恐ろしさが伝わったか……よォ……っ!」
「見直しました、見直しました! ぁ、ほんとに素敵ッ! だからもっと……たくさん突いてくださって、よろしいのですよッ!」
「そ、その口調がっ、バカに、してるって、言ってるんだよッ!!」
 テスラを壊すように、肉棒を逆さ落としに穿(うが)ち入れる。ゴムのようにネットが揺れ、挿入するたびに角度がぶれて不規則な刺激が見舞う。いつの間にか柔らかい虫穴どうしがぶつかり合うほど激しく体を叩きつけていた。ばちゅ、ばちゅん! 地面に粘液しぶきを飛び散らす。射精を促すように引き締まった膣口のキツさに、にゅむにゅむと揉みほぐしてくる肉ひだの歓待。それから距の最奥にある蜜腺――仔袋の口から漏れだした淫液を直接舐めとろうと、肉棒の突端が何度も何度もノックしていた。
「あ、あ、あ、す、素敵ですシダカ様っ! ごつごつしたシダカ様のおちんぽが、私の……ッふぁ! ぉ、おまんこのいちばん奥にちゅっちゅって、必死に縋りついてきて! こんなに奥まで入ってきてくださったの、シダカ様が初めて――――ッふぁあああアッ!!」
「そ、そうかよッ、やっとオレの恐ろしさが、オソロシラが……ぅぐうッ!!」
 あれだけ反抗的だったテスラが、ついに陥落して甘い蜜声を垂れ流していた。それを聞いただけで、射精感が一気に高まる。距のいちばん奥まで肉棒を突き入れたまま、オレは固まった。どうしたのですか? と蕩けた顔で見てくるテスラの眼のカバーが、快楽に歪んだオレの必死の形相を映し出している。
「まって……動かないで、くれッ、いま動かれたら、こ……堪えきれない、お前を孕ませちまうッ!」
 こりこりとしたテスラの子宮口、そこに肉棒の先端が貪るようにがっつりと密着していて。肉身を擦り上げるかにゅむにゅむと柔肉で揉みしだかれてしまえば、1本の糸で結び止めているような頼りない我慢で圧縮された精液は、一気に暴発するだろう。
 それを悟ってくれたように、テスラが穏やかに笑う。あまのじゃくの抜けた、純粋な微笑み。
「ふぅ、はぁっ……、シダカ様は周りのポケモンたちを怖がらせようとしていますけれど、根はとても優しいお方です。気付いておりましたよ? 私が本気で抵抗すれば、抜け出せてしまうほどに拘束を緩めてくださっていたこと。その気になれば、私の体をがんじがらめに締め上げてクモ糸の繭にしてしまうことくらい、いとも簡単にこなしてしまうのではないですか?」
「あ、あぁ、あまり喋らないで……っ」
 絶頂感の波が少し引いたところで、見計らったようにテスラがきゅ、と膣圧を高める。ひぐッ、と悲鳴を漏らしたオレをいとおしそうに眺めて、彼女は続けた。
「私がタマゴを身籠らないように、最後の最後に避妊を気遣ってくださる殿方なんて、ぜんぜん怖くありません。今まで相手してきた殿方は、私の都合など全く慮らずに種をまき散らしていったというのに……シダカ様は、ほんとうにお優しいのですね。隠していましたけれど、私はシダカ様のような昆虫の体よりも、植物に近い体をしています。ですから、どれだけシダカ様の精液をお腹に出されてしまっても、タマゴを孕むことはないのです。……どうかご謙遜なさらずに、私の体で思うままに扱き抜いていいのですよ。傲慢で暴力的で自分勝手な殿方と同じように、私を全力で孕ませるおつもりで、好きなだけ私の中へと熱い仔種を解き放ってください」
「で……っ、でぇ、もっ……!!」
 耳元でそっと囁かれる、無責任な中出しの許可。蜜よりも甘い言葉に、ぐらり、オレの踏ん張りが崩れて上体が揺らぐ。鋏角を食いしばりぶれる視界、全てを許してくれそうな優しい笑みを湛えたテスラの頭の方で、何かが動いた。
 しゃらん。
 目にも止まらぬ速さで、テスラが鎌を振るっていた。細枝すら切れそうにもないとタカをくくっていた大鎌が太陽の光を解き放ってひらめき、バラバラに断ち切られた糸の残骸が闇夜へとフラッシュして舞い消える。抱きついているオレの体を器用に避けて、彼女の脚と頭に絡んでいた糸塊を裂いていた。
 いつ鎌の拘束を解いたんだ、とか、オレのクモ糸で動きが鈍くなっているはずなのに、とか。おぼつかない頭で考えていると、彼女の太い脚が、さらに密着を強めるようにオレの背中へと回された。腕も同じように、オレの頭と肩へ。
 テスラが鎌を薙いだ時に、クモの巣も一部が吹き飛ばされたらしい。かろうじて残った網は、灌木にかけた4点の枠糸から中心に鎮座する彼女へ向かって伸びているような形をしていて。それはまるで、テスラが背中の4枚の飾りから伸びたクモ糸の薄翅で、闇夜の荒野を優雅に飛んでいるようだった。
「夜の、蝶……」
 ちゅっ。呆気にとられていたオレの口許に、湿った感触があった。
 ぐっとテスラの顔が近づいたかと思うと、彼女のちいさな口が、鋏角を避けるようにしてオレの口をふさいでいる。何を、と思う間もなく、口内へ体液を流し込まれた。キスの香りとか、そんなのを悠長に味わっている暇もなく。ほのかに甘く恐ろしいほど濃密なフェロモンが、カフェインのように全身を駆り立てて。
「ぅ、うお゛ッ――!!!?」
 関節のひとつひとつをクモ糸で縛り上げられたみたいだった。
 わずかに意識をそらされ下火になっていた射精感が、強烈な直火に炙られ瞬時に吹きこぼれる。抑え込む間もなく、尻先の筋肉が不随意に痙攣を繰り返したかと思うと、せき止めてきた白濁が貯精嚢から輸精管、輸精管から肉棒へとなだれ込んだ。彼女の奥細い距のいちばん底、仔袋の口にがっちりと食い込んだ射精口から、テスラの(はら)の中へ雄精の濁流を直注ぎする。
「ぁ、あ、あ、熱い、シダカ様のが私のおまんこのナカでおっきくなって、びくんびくんって震えてっ……! ふぁあっ、びゅびゅーって出てますッ! 濃ゆいシダカ様のせーえき、私のいちばん奥に来て、来てま――――ふぁあああぁぁあっ!!」
「ぉあ、あ、ぁあ゛ァ――――ッ!!!!」
 喉を潰すようなうめき声を上げているのが、オレだと一瞬気付かなかった。鋏角の根が噛み合わず、カチカチと心もとない音を立てる。気持ちよさそうにオレの射精を受け止めるテスラの顔が、視界にぶれる。彼女のちいさな子宮をオレの遺伝子で埋め尽くすよう、快感に揺らぐ体を支えようと震える肢で彼女に抱きついていた。
 し、搾り、とられる……!!
 肉棒の根元から奥へ奥へと吸い上げるように蠢く肉ひだに、オレは無自覚に虫穴を押しつけていた。口から注がれたフェロモンがオレの腹を内側から舐めあげ、貯精嚢を直接やさしく手揉みされるような圧搾感。注精が止まらない。せっせと蓄えていた精虫を雌の体に惜しげもなく排出する本能の悦び。でたらめに発信された快楽神経の電気信号が、指令を下した間脳さえトロトロに麻痺させる。
 連続した射精の快感が、全身をさざめかせる。限界にまでこわばった体節が、ぎちぎちと悲鳴を上げている。背を丸め、膨らんだ腹を不格好に抱え込んで、筋張った首筋からはだらだらと脂汗を流していた。
 毒腺も開いてしまったらしく、鋏角を頬にかすったテスラがびくっと苦い顔をする。しょうがないですね、と言いたげな優しい瞳が、赤いカバーの奥で揺らめいていて。いじらしい反応を示してくれたテスラに、悦んだ肉棒が吐精に拍車をかける。
 糸いぼから漏れだした不完全な繊維質が、傷からあふれる樹液のようにオレの背中を伝ってくる。不快感に拭おうとするも、テスラに抱きついた脚は生涯の伴侶を抱きしめるように彼女の体に貼りついたまま。
 ぶらり、と不意に糸のベッドが傾いた。テスラに精液をすべて注ぎ切ったせいで、重心がずれたようだ。抜け殻のように軽くなった、けれど倦怠感ののしかかる体で彼女にまとわりつく。大きく揺れた勢いでオレの肉棒も抜けたようで、夜の冷気が蜜液まみれの粘膜に冷たい。
 糸を引くテスラの膣口は、よだれを垂らして餌をねだるひな鳥みたいに、その端からオレの精液をしたたらせているんだろう。繊維質に混じって、まだ成熟していない精子塊を伴った白泥が彼女の火照った体を伝い落ちてきた。空になるまで精虫を搾り取られた証拠だった。
「好きなだけ出してくださいと言いましたけど……シダカ様、いくらなんでも出し過ぎではありませんか? これでは体が重くて何日か動けません」
「お、お望み通り種付けして、やったぞ……、こ、これでオレの恐ろしさが……ぅあ、ぁ、ぁぁぁ……」
「あら……それどころでもないようですね。まぁ、騙して罠にかけたのは私も同じですし、お互いさま、ということでしょうか」
 いつくしいテスラの微笑みに抱かれながら、オレの意識の糸はすっと途切れていった。





 翌日。
 眩しさにゆるゆると目を開けると、なんだかおかしい。大空が下にあって、大地が上にある。どういうことだとおぼろげな頭で考えていると、上からぬっとマケンカニのいつも不機嫌そうな顔が生えてきて。
「お、起きたか」
「お゛あ!? 誰だっ!?」
 糸塊を弾き飛ばすように目覚めていた。どうやらテスラにこってりと搾り取られたあと、吊られたまま眠っちまったらしい。体が軽いのに重い。網の上でさかさまに寝落ちしたたことは何度かあるが、目を開いたときの感覚はいつまでも慣れなかった。網酔いしそうだ。
 頭を振って地面を見上げると、さっきのマケンカニが遠くの方へ手を振っている。だんだんと明瞭になってくる視界では、荒野のあちこちから様子を窺って動く影が見えた。
「おーい、新入りが起きたぞ、みんなー!」
「ぇ、え、え……ぇええ!?」
 まばらに生えた草むらから岩陰からぞろぞろと、荒野に棲んでいるポケモンどもが集まってきやがった。ラッタやスリーパー、ハリテヤマなんかもいる。昨日の夜オレが恐ろしさを植え付けようと息巻いていた奴らが、どいつもこいつも半分呆れて、もう半分はバカにしたような顔してオレを眺めてきやがる。風圧にネットが揺らいだかと思うと、遠くの空からオニドリルがにたつきながら地面に昇り立った。
「な……ななななんだ、なんっですか、これ……?」
「見させてもらっていたけどオマエ、なかなか情熱的なんだな。昨晩は遅くまで楽しんでいたみたいで」
「は……はあぁぁあっ!?」
 荒野の代表格らしいオニドリルが、呆れたように首をゲンナリとうだらせた。
「オマエらの嬌声が、荒野の端から端まで届いてたぞ。そら寝れんわな。まぁここに棲んでいる奴らは、植物のモンメン以外みんな好色のテスラの世話になることがあるから強くは言えんが……っていうかそろそろ布団から出てきたらどうだ」
 彼に言われて、オレは目線を下の方に向けた。途端、前肢の中ですやすやと寝息を立てるテスラの穏やかな顔が。
「おあ!? なんでお前まだオレにひっついて――て、なんだこりゃあ!?」
 テスラを引き剥がそうとしたオレの肢が、動かない。首を回してよくよく見れば、オレの糸いぼから垂れだした繊維質が、夜風に冷やされて固まりオレとテスラをひとまとめに包みこんでいた。――テスラの距から漏れだしたオレの精液をこびりつかせながら。
「おいっ起きろテスラ、これ、なんだこれっ!?」
「ふゎーあ、どうしたと言うのですかシダカ様……この繭のような拘束ですか? なんだもなにも……あのあとシダカ様が糸を解いてくださらないでお休みになってしまったので、朝までずっと吊るされたままだったのですよ。ふふ、それにしても昨晩のシダカ様のいたいけな姿と言ったら。必死に腰を振って、情けない叫び声を上げながら気持ちよさそうに果てて……。あの凶悪なおちんぽを思い出しただけで、また体が疼いてきました。どうですかシダカ様、このままもう一度まぐわって――」
「や――ヤメロおぉ! 公開処刑されるなんて聞いてないぞーーーっ!!」
 やられた。まんまとテスラのハニートラップに引っかかっちまっていた。
 こんなんじゃ恐ろしさを知らしめるどころか、オレが誘惑に負ける惨めな雄だってことを白状しているようなもんだ。
 遠くの草むらの陰に、いとしのシルエット。オレの見惚れたあのストライクちゃんと、悲痛に叫んだオレの目が合った。あ、と思う間もなく、彼女はふんと首を振って離れていく。
 終わった。おれの盛大な子孫繁栄の計画は、ここでついえちまった。
「ち、ちくしょぉおぉぉ~~~……」
 遮るものが何もない荒野へ、羞恥を押し殺したオレの空しい呻きが響き渡っていった。食虫植物の罠にまんまと絡めとられた情けないアリアドス、シダカの名前とともに。





あとがき

ラン科の植物に『アングレカム・セスキペダレ』という、マダガスカル島に生育する固有の植物種があります。この植物の白い花は標準的なラン科の特徴を持ち合わせているのですが、その花の直径の4倍にも及ぶ、35cmという長さの緑の『(きょ)』と呼ばれる細長い筒状の器官をぶら下げておりまして。
 なぜかと言いますと、この花の花粉を媒介する、距と同じくらい長い口吻をもつ『キサントパンスズメガ』という蛾を、35cm奥にある蜜腺でひきよせているのですね。共進化の説明でよく出てくるペアです。詳しくはググってください。
 つまり何がいいたいかと言いますと、『ラランテス エロい』ってことですよね。ウツボットでなくとも虫媒花の植物っ仔はみんな虫ポケを生殖に利用しているのですよ……!
 それと他のラン科の植物ですが、花の蜜ではなく虫の性フェロモンに似せた化学物質をばら撒いて送粉者をおびき寄せるなんて種もあるそうじゃないですか。植物が昆虫を性的に弄ぶんですよ、これがエロくないはずがない!
 あー……、アリアドスが昆虫じゃないとか、蜘蛛はペニスではなく触肢で交接するとか、そういう話はチョット分からないですね……。




大会時にいただいたコメントを返させていただきます。


・俗に言う「清楚系ビッチ」ですかね。ラランテスの醸し出す奥ゆかしさに、読み手の自分も罠に掛かっていました。オチが悲惨で…ストライクとの交尾も読みたかったのが本音です。面白かったです。 (2017/06/27(火) 19:57)

清楚系というよりはむしろ花魁のような手練れさんが初心な雄を手玉に取って遊んでいるイメージで書きました。見た目はんなりしていますしね。
情けない名声の広まったシダカがストライクにアプローチを掛けようものなら武人の彼女にその場で袈裟懸けにされるでしょうねぇ。彼は荒野でみんなにイジられながら幸せに暮らしましたとさ。


・体つきの割にラランテスのエロ小説は珍しい気がします。 (2017/06/29(木) 22:15)

いや本当にラランテスの小説はもっとあるべきですよ!
というのも参考に先駆者たちの作品を読み漁ろうといろいろなサイトを回ったのですが、ラランテスを扱っている小説がそれはもう皆無に等しい。そのおかげでテスラのキャラが全く定まらず、実は〆切3時間前くらいまでは無邪気で何も知らずに天然でシダカを誘ってしまうトラブルメーカーなキャラでした。それはそれで書いていて楽しかったのですが「エロさに欠ける」ということで一新。まぁそれでよかったかなと思う次第です。


・冗長になりすぎず、程よく濃密な描写が素晴らしい。キャラが個性的なのも良かったです。
ただ、体位の描写が理解できなかったのが残念。 (2017/07/01(土) 18:25)

後半の体位は自分で書いていてもワケわかんなくなっていました。というか体位が変わるというよりもそのまま逆さ吊りになっただけですが……そういうところも誤解を招く表現でしたね。ラストシーンにインパクトを持たせるために逆さ吊りにはしておきたかったのです。背中側にも回らせたかったのですが、目の前の雌に首ったけなのに網を経由して回り込む余裕があるのも不自然かなぁ、と採用しませんでした。がんばれシダカくん。


・次作もまってる (2017/07/02(日) 11:17)

ありがとうございます! パンツは履いて待っていてくださいね。


・虫×植物ポケらしい性器描写、アリアドスのクモ糸を活かした緊縛プレイにあまのじゃくラランテスで対応と、まさにポケモンエロスを極めた作品でした。
 突っ張っているのに本性はお人好しなシダカのキャラも可愛かったですw (2017/07/02(日) 23:41)

普通のクモ糸緊縛モノの場合クモは縛ってしまえばそこでお役目終了(もしくはバッドエンドへ直行)することが多いですけど、ポケモンならそこからさらにキャラクターとして動かせるのは他にはない利点でした。
が、いざ濡れ場に突入したところで問題が。さて前戯するか……こいつらどっちも手が器用じゃねぇ! ……仕方ない愛撫は口で……口もねぇ! と絶望に叫んでいました。執筆時間もあまりなかったので、テスラが手練れなのをいいことにそのまま入れても問題ないよね……? とファンタジー全開してましたね。まぁ……虫に前戯なんてないだろうですし。


・大体書いた方の見当がついてしまいましたね……読んでて最高に楽しかったです。 (2017/07/04(火) 22:08)

ハイ顔を隠す気はありませんでした。(
楽しんでいただけて幸いです。1.5万字にエロもギャグも物語とオチもつめこんだつもりです。少し前までは1.5万字でも私の中ではけっこう大作だったのですが、さいきん気を抜くとすぐに字数が増えるのでいけないですね。


・シダカもテスラも良いキャラしていますね。
中々見ないシチュエーションでの官能表現もとても素敵でした。 (2017/07/04(火) 23:58)

最近は物語をキャラに頼りがちになってきましたが、官能作品の場合エロくなくならない程度にはハッチャけた奴の方が楽しそうだと思いまして。オレ様系キャラはあまり好きではないので初めて書いたのですが、見栄っ張りな仔にしたら一気に愛着湧きました。シダカくんはもっとイジり倒されればいいと思います。ウルガモスちゃんとか出てきてくれたらシダカの糸はぜんぶ燃やされ、彼女の糸で逆束縛プレイとかできるのに。書きませんケド。



では大会の開催者様、投票してくださった方、最後まで読んでくださったエロい人、ありがとうございました!



罠じゃないよ! 感想書いてもネットで絡めとったりしないよ!

コメントはありません。 Comments/食虫植物の甘い罠 ?

お名前:

トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2017-07-10 (月) 20:06:17
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.