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青鐘草

/青鐘草

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青鐘草
作者:カナヘビ 



「よおいしょ!」
 大人2人が同時に声を掛け合い、担いでいたヒトを地面に降ろした。
「やれやれ、負傷者は増えるばかりだな」
「こっちも、村人の分の収穫でいっぱいいっぱいだってのに。自然災害は何考えてんだか」
「あればかりはどうしようもないさ。いくらアオガネ様が雨を降らせて下さってたからって、それでも燃え広がってたからな。自然の驚異は凄まじいのさ」
「って言っても、あの雨、本当にアオガネ様の恵みなのか? 火事の時、アオガネ様は祭壇にいなかったぞ?」
「そういえばそうだったな。どこに行ってたんだろうな。それで、帰ってきたと思ったら……あれだろ?」
 2人は同時に顔を向けた。
 村の広場は、多くのヒトで埋まっていた。火傷などの負傷者が多く横たわっていて、女性が包帯を巻くなどして対処していた。次々に負傷者が運び込まれ、多くの人々が出入りしていた。
 その広場の一画。広場の真ん中に当たる部分に、レンガで造られた祭壇があった。周囲には多くの作物が供えられていた。
 祭壇の上には、どっしりと祭壇に居座る、アオガネと呼ばれるドータクンがいた。鈍い青色を放つ体は日光に若干反射しているが、全体的にやや黒ずんでいた。ところどころ錆が発生していて、何かを訴えるように、目がしきりに点滅していた。
 そのアオガネの頭上。取ってのような部分に、小さな白色がちょこんと掴まっていた。全体的に白いが、下半身は緑で、足がない。頭の両側には羽のようなひらひらがついていて、頭の上には黄色い輪のような装飾が見て取れる。
「あのちっこいの、なんだ? あんなの、山火事の前にはついてなかったよな?」
「アオガネ様も変だぜ。なんか急にボロくなったみたいに見えるな。黒ずんだうえ、錆までついてる。1日であれだけボロくなるもんかね」
 人々は話しながら、足早に広場から去っていった。
 祭壇の上でじっとしているアオガネは、その場から一切動かなかった。ただ目を光らせ、広場の成り行きを見守っているだけだった。
 アオガネの頭上に掴まっているポケモン、フラベベも、その場から動かなかった。常に俯いていて表情が良く分からないが、全く元気がないことだけは分かった。彼女がもっているはずの花もどこにもなく、ただ、小さな力でアオガネにしがみ付いていた。
 ふと。音もなく、風もなく、気配もなく。祭壇に供えられていた作物がふわりと浮かび上がった。広場は、驚愕の一色に彩られた。浮遊した作物は空中をゆっくり移動し、それぞれが均等に、負傷者の横に置かれた。民衆が一斉にアオガネのほうを向くと、アオガネの目は紫から元の色に変化している途中だった。
「アオガネ様が、作物を恵んでくださったぞ!」
 たちまち、広場は感謝の言葉で埋め尽くされた。大げさに跪く者、両手を合わせて恐れおののく者、喜んで手を叩く者。全ての視線が、アオガネに向かっていた。
 アオガネは黙ってじっとしていた。表情を一切変えず、そこに佇んでいた。しかし、周囲の声があまりに大きかったからなのか、フラベベはより一層、アオガネにしがみ付いていた。
  ◇
 その夜。アオガネは祭壇にいなかった。村を囲む森の上空を浮遊していた。
 村から5キロも離れていないところが、黒い煙を上げていた。雨も降って救助活動までできるようになっているというのに、焼け焦げた木々が未だ煙を上げていた。
 アオガネは、焼けた森林の上を飛行する。無機質な表情のまま進んでいく。
 アオガネの前方に見える山もまた、巨大な炭の塊と化していた。かつて緑が生い茂り、生き物が住んでいたとは思えない有様だった。
 アオガネは降下する。森林の跡の中に、小さな集落があり、そこに下りているようだった。高度を下げるにつれ、フラベベの掴まる力が強まっていった。
 集落もまた凄惨だった。民家も、作物も、何もかもが焼けていた。逃げ遅れたヒトの最期の姿もあちこちにあって、辺りには異臭が漂っていた。
 アオガネは集落の中を進んだ。どこかに目をやることもなく、目を背けるでもなく。
 集落の一画に、柵に囲まれた広場らしきものがあった。子どもでも越えられるような柵をアオガネは無表情に越え、その場に留まる。
 柵の内側には、途方もない量の焼けた跡があった。かつては何かしらの植物が一面にあったようだった。しかし、今はその面影はなかった。
 水滴が落ちる。頭の上に冷たさを感じたアオガネは、空を見上げた。星も見えずどんより曇っているが、雨は降っていないようだった。
 続いて、震え。アオガネは何も言わず、視線を元に戻した。アオガネにしっかりと掴まっているフラベベが、震えながら泣いていた。
 果たして、アオガネはこれに気付いているのかいないのか。アオガネはやはり無機質な表情で、また高度を落とした。
 焼けて真っ黒になった植物。わずかに花の面影が見られるが、やはり原形を留めていない。
「お……あ……あ……」
 小さな声。フラベベが、泣きながら声を出しているようだった。しかし、声がまともにでていない。必死に何かを伝えようと声を出しているが、文章にならない。
「********?」
 フラベベは、はっとして左右を見た。まるで、洞窟の中に共鳴するうめき声のような音だった。ややあって、自分が掴まっているドータクンが出した声だと理解したようだった。しかし、何を言っているか分からず、また俯いてしまう。
「********? ************。**、*****……」
 アオガネは周囲を見渡した。どこを見ても、黒、黒、黒。生きているものなどいそうになかった。
 アオガネの目が、一点で止まる。柵の中にも、家の焼け跡があった。このばを所有していたのかははっきりしないが、どちらにしろ跡形もない。
 アオガネは近づいた。燃え尽きた木々しかないように思える中に、1つ異質な色合いがあった。それは、曇りの中でも独特の質感と外見をしていた。ちょうど、アオガネ自身を逆さまにしたような形をしていて、茶色だった名残が残るその中には、土が入っている。植木鉢だった。
 アオガネの目が紫色に光ったかと思うと、植木鉢が浮遊した。そして、何事もなかったかのように、アオガネは植木鉢と共に去っていったのだった。
  ◇
 季節は収穫の秋から寒い冬に移り変わる。村人は半袖から長袖に衣替えし、家の中から盛んに火の明かりが見えるようになった。
 日が経ったとはいえ、集落の復興は進んでいなかった。住人だった人々も帰る場所はなく、結局、村の巨大な蔵の中で過ごすことになっていた。しかし、食物を貯蔵するための蔵はヒトが寝起きできる環境とは程遠く、ましてや冬など過ごせたものではなかった。村人達はありったけのわらや燃料などを提供し、最低限暖を取れる環境を作っていた。本当ならば、村人それぞれの家に住まわせれば一番いいのだが、それぞれの家庭にも生活があるため、住まわせることはできなかった。集落の人々もそれを理解しているようで、文句を言うどころか、感謝すらしているようだった。
 こんな寒い中でも、アオガネは祭壇の上で佇んでいた。ドータクンは寒さを感じないのか、あるいは寒くても平気なのかは定かではないが、その場で村を見守っていた。
 変化といえば、頭の上にフラベベがいないことだった。村人の目撃証言によれば、どうやらアオガネの空洞内にいるとのことだった。時折、フラベベの為に、冬になる木の実を探しに行っているらしく、その際にアオガネの空洞の中から出てくるというのだ。
 そしてもう1つ。祭壇の上に、植木鉢があるのだった。村人は様々な憶測を並べてはみるものの、真相は誰にも分からなかった。誰かが供えたのか、アオガネがどこかからか持ってきたのか、そもそも誰も気付かなかっただけで前からあったのか。あまりにみすぼらしいのでどけようという声もあったのだが、アオガネの真近くに置かれているため、誰もどけられなかった。時折、植木鉢サイズの雨雲が発生して、小さな雨が植木鉢を潤していたという目撃証言もあった。どうやらアオガネが植木鉢を大事にしているらしいとのことで、結局誰も植木鉢に手は出さなかった。
 そういった変化がありつつも、村人はアオガネを信仰し続けていた。外に出ては感謝の言葉を捧げ、祈りの文句を唱える。フラベベや植木鉢に対して深入りする者もいなかった。
 そんなある日のこと。
「あ、フラベベだ!」
 声をあげたのは、村で寝起きしている集落の人々だった。焼け落ちた集落においては神仏信仰の気はなく、アオガネに対してもそれほど興味を持っていなかったようだった。しかし、たまたまアオガネの頭上に出ていたフラベベを見かけ、それ以来広場に多くの人だかりができるようになった。
 話によると、集落にはフラベベが住む花畑があったらしく、フラベベとヒトが共存していたということだった。だが、先日の山火事で村ごとやけてしまい、全滅したと思われていたようだった。
 フラベベが見つかったということで、広場は毎日のように人だかりができるようになった。だが、季節は冬であり、日照時間も少ない。フラベベが外に出てくることは極めて少なかった。さらに。なぜか、人々が集まるようになって以来、フラベベが出てくることはなくなってしまった。それについての原因は、人々には分からなかった。
 結局、集落の人々は、何人かを残して集まらなくなってしまった。再び、広場には静けさが戻り、アオガネは今までと同じように、祭壇に佇んでいた。
  ◇
 雪が積もった。
 平年、この村に雪が積もることはほとんどなかった。そんな村に雪が積もり、村人は色々な意味で大騒ぎしていた。喜ぶ者、恐れる者。子供などは、滅多にない雪におおはしゃぎして、遊びまわっていた。
 しかし、それも束の間。雪は日が経つにつれて積もっていき、激しくなっていった。最早、はしゃげる水準ではなく、村人は家の中から出てこないようになっていた。
 そんな中で、アオガネは雪にさらされていた。埋まることはなかったものの、微動だにせずに雪に身を任せていた。
「よいしょ……」
 雪がかき上げられ、宙に放り出される。
 シャベルを持って雪をかいているのは、この村の村長だった。既に初老に入り、辛そうに腰をさすりつつも、雪を地道にかいていく。
「アオガネ様。お寒くはありませんか?」
 村長が声をかける。アオガネは何も言わず、その場にいた。
「これほどの雪など、何十年ぶりでしょうか。この私も、生きている限りでは、これで2度目です。アオガネ様は長くここにいらっしゃるようですが、やはり、何度も雪を見てきたのでしょうか」
 アオガネは答えない。
「そういえば。あの小さい妖精……フラベベと言ったでしょうか? あれはまだ、アオガネ様の空洞内にいるのですか?」
 アオガネの目が橙色に光る。
「そうですか。しかし、アオガネ様はともかくとしましても、妖精に寒さはきつくはないのですか?」
 アオガネの目が、橙から青に変わる。
「では……、今、どうしているのですか?」
 アオガネの目が紫に変わった。そして、まだかかれていない雪の上に、絵が浮かび上がる。多くの葉と木の実に囲まれ、寒さに震えているフラベベの様子が、そこにあった。
「そういうことでしたか」
 村長は頷き、雪かきを進めた。
 3時間ほどで雪はあらかたなくなり、広場も元の姿を取り戻してきた。ちょうど雲の隙間から日光が差し、村長は一息ついて額の汗を拭っていた。
「やれやれ。これで一段落……。あとは、祭壇だけだ。アオガネ様、失礼しますよ」
 村長は、アオガネの周囲に積もった雪を落としていく。祭壇の上でさえ1センチはあったが、雪はそれほど硬くなかった。手で軽く払うだけで、雪はぼろぼろと落ちていく。
「む?」
 村長は、祭壇の端に置かれている植木鉢に気付く。土があるはずのところには、雪が入っていた。
 村長は、思わず手を伸ばす。
「**********」
 どこからか聞こえてくる声。同時に、アオガネの目が深い青に輝く。
「アオガネ様? お声を聞いたのは十何年ぶりです。何でしょうか?」
 その問いかけと同時に、地面に絵が浮かび上がった。逆さまの植木鉢にバツが付き、槌を掘り出している植木鉢にバツが付く。色々なバツが付けられていった最後に、雪だけを取り出している植木鉢にマルが付けられた。
「分かりました。充分に気をつけます」
 少し驚きを見せながらも、村長は慎重に雪を掘り出していく。その最中、村長の手は柔らかい違和感を覚えた。
「おや」
 雪をかきわけていくと、緑色が見えてくる。土を含めた全体像とともに、その正体が見えてくる。
 それは、小さな二葉だった。雪の中にあったにもかかわらず、生き生きと、上を向いて生えている。
「これは……かわいらしい二葉ですね。あんなに雪が降ったのに、こんなに元気に」
 村長は優しい表情で言った。
「どこから持ってこられたのかは分かりませんが……。アオガネ様が大切に育てられたものです。私も、ご協力させていただきます」
 アオガネの目が、黄色に光る。
「******」
 アオガネは、やはり判別できない声で言った。
  ◇
 寒い冬が過ぎ、緑あふれる春になった。土にしみこんでいく雪解け水の下からはふきのとうが顔を出し、火災で燃え尽きた山も、徐々に緑に覆われてきていた。
 温かい日和のこの日。植木鉢には、花が咲いていた。
 それは、小さな花だった。高さも10センチないような青い花。
「アオガネ様。今年も春がやってきました。この温かい気候の中、今年も無病息災、豊作を祈願するばかりです」
 広場には、村人が集まっていた。それぞれが整列し、祈りを捧げているようだった。
 その儀式の最中。アオガネは突如、浮かび上がった。
 浮かび上がった後には、大量の葉とフラベベがいた。フラベベは相変わらず元気がないようだった。
 その顔は、植木鉢の花に移る。小さくも美しく咲くその花に、フラベベの目と口は開かれていった。
 フラベベはふわりと浮かぶ。花に近づいていき、大きく出ている雌蕊を、小さな手で掴んだ。
 村人はどよめいていた。フラベベが出てきたこと、そして、それが花を掴んで目を輝かせていることに。
 フラベベはアオガネと目を合わせた。アオガネは相も変わらず無表情だった。だが、大きく体を前に傾かせ、頷いたように見えた。
「あ……あ……り……」
 フラベベが声を出そうとしているようだった。しかし、中々出ない。
 アオガネの目が紫に光る。花が上に持ち上げられ、土から出てきた。そして、まるで昔から共にあったかのように、花はフラベベのもとに落ち着いた。
 フラベベは嬉しそうに顔をほころばせ、雌蕊にしっかりと抱きついた。
 その瞬間。広場に、草が生えた。そこら中の地面から次々と草が生え、広場は緑に覆われていった。
「あ……ありが……ありがとう」
 喜びに満ちた最高の笑顔で、フラベベは言った。
 アオガネの目から紫の光が消え、祭壇に下りた。
「み、見ろ……。あの妖精、アオガネ様から花をもらったぞ!」
「あれは……アオガネ様の使いに違いない! 神の使い誕生の瞬間に立ち会えるとは、なんと幸せなことだろう!」
「アオガネ様のお使いは、我々に緑をもたらして下さったぞ!」
 村人は恐れおののき、一斉にひれ伏した。そういったことには気付かず、フラベベはアオガネを笑顔で見つめていた。浮遊しながらそっと近づき、アオガネの大きな顔の中央に、そっと口付けをした。フラベベはしきりに照れながら、花と一緒にアオガネの頭上に乗ったのだった。アオガネは相変わらず無表情だった。だが、その目は、燃えるような赤に点滅していたのだった。
 広場は、ひれ伏すヒトでいっぱいだった。その頭の先にある祭壇の上には、小さな花を頭に乗せたドータクンが、どうどうと佇んでいたのだった。
  ◇
『ドータクンを対象とする、いわゆる銅鐸祭りといわれる祭事は、世界中で行われている。地方や国によってその方向性や手段、内容は様々であり、多種多様な銅鐸祭りを見ることができる。
 すべてにおいて共通するのは、ドータクンそのものではなく、ドータクンと姿形がよく似た銅鐸といわれる青銅器をドータクンの変わりとし、ご神体として祭りに使用することである。銅鐸祭りを行う地方には、ドータクンが生息していないことが多く、仮に他の地方から捕まえてきても、自分たちの崇めるドータクンとは違うといい、ご神体としては崇めないという。そもそも、なぜドータクンが生息していない地域に銅鐸祭りが行われていることが多いのかは分からない。現在、ドーミラー・ドータクンはシンホウ地方やイッシュ地方の一部などにしか生息しておらず、非常に希少なポケモンとなっている。いなくなってしまったドータクンを憂いる意味でも、この祭りが残されているのかもしれない。
 そんな数ある銅鐸祭りの中で、今回はカロス地方のはずれで行われている銅鐸祭り、「青鐘祭り」をピックアップしようと思う。
 この祭りは、グレン火山の火口付近で行われる炎上銅鐸祭りのように、非常にダイナミックで崇めているかどうか疑われるようなものでもなければ、コガネシティで行われる黄金銅鐸祭りのように、非常に無難であるとも言い難い。銅鐸祭りの中で、最も地味な祭りであるといえるだろう。
 青鐘祭りの特徴としては、客に女性や小さな子どもが非常に多いことがあげられる。通常の銅鐸祭りにおいても、その世代は見受けられるが、女性と少女の客を占める割合としては、青鐘祭りが有無を言わさず頂点に輝くのだ。
 これは、青鐘祭りにおいて、銅鐸に対して行われる、あることが起因していると考えられる。
 この青鐘祭りにおいても、普通の祭りと同様に露店が開かれたりはするが、どこかの祭りのように銅鐸を狂気のように炙ったり、大勢で担いだりもしない。銅鐸は、祭りの行われる広場の真ん中に置かれているだけなのだ。
 そして。これがこの青鐘祭りの小さくも大きな特徴なのだが、銅鐸の上や周囲に、小さな花が供えられているのである。フラベベがよく持っている、小さな花である。また、銅鐸の下方は頬のように赤く塗られ、赤面しているようにしか見えない。世界広しといえど、銅鐸を可愛いと思わせる銅鐸祭りは、ここしかないだろう。
 祭りの由来を調べるために、このあたりの歴史や伝承を紐解いてみると、そこにはやはりドータクンが現れた。そして、ドータクンの元に現れたという少女が関係していた。
 少女と言っても、ヒトかポケモンかすらも伝わっていない。ただ、ドータクンの元にいたことが記されているだけだ。
 ある日、山の頂上に落雷が発生し、山を覆うような大火災が発生したようだ。その時、当時信仰対象だったドータクンが助け出したのが、その少女だったらしい。
 少女は、故郷が焼けたショックで口も利けなくなり、自分の殻に閉じこもってしまった。そんなとき、ドータクンが、神の力で花を再生させ、少女に元気を与えた。口も利けるようになった少女は、自ら神の使いになることを選び、その証として、ドータクンの頭の上に小さな花を供えた。やがて、時が経つと、少女は見るも美しい女性に成長したという。こういう伝承だった。
 伝承ゆえに曖昧な箇所も多く、また誇張も多くあるだろう。しかし、これが元になってこの銅鐸祭りが生まれたのは、間違いない。
 祭りに参加する女性や少女は、将来自分も美しく、きれいになりますようにとの願いをこめて、銅鐸に花を供える。人気スポットは当然銅鐸の上で、花があふれて周囲に落ちることもしばしばあるようだ。
 また、供える花はフラベベの持っている花と決まっているようだった。伝承には載っていないが、この花を供えることがなぜか慣例化しているらしい。
 フラベベの持つこの花は、村では「青鐘草」と呼ばれている。名前のままドータクンからきているのか。はたまた実は、この花は昔、鐘のような形をしていたのか。真実は定かではない。だが、この花を供えられた銅鐸を見ると、心なしか嬉しそうに見える。それだけは確かだ。
 もし、次の機会があれば、私も花を一輪もって、この祭りに来ようと思う。きれいな嫁さんが来ますようにと、願いをこめて。
                                                           執筆:シグリオ・ディオドーク』
 END


 あとがき
 まつりっていうテーマは、具体的なようでとても難しいテーマでした。
 僕も最初は、露店めぐりとか神輿とか、祭りを楽しむ系統のものを考えてたんです。
 それで、どんどん考えていくうちに「祭りって、そもそもどうして行われているんだろう?」って疑問に思いました。
 僕の中で、祭りって楽しむだけのものでした。店で何かを買って、神輿を見て、とにかくにぎやかなイメージだったんです。
 でも、ただそれだけなら、何の意味もないんですよね。祭りそのものは楽しければそれでいいけど、行う意味や意義が分からなかったんです。
 そこで、祭りについて初めて詳しく調べてみました。すると、神様に関係してたり、天候に関係してたり、伝承に関係してたり、政治に関係してたり。祭りの様々な成り立ちを知ることができました。
 そんなわけで。祭りが行われることになった理由や、その起源みたいなものを、今回は書かせていただきました。多分、この大会がなかったら、僕は一生祭りのことをよく知らないままだったと思います。rootさん、こういった機会を与えてくださって、本当にありがとうございます。
 
 内容について色々悩んだ末、信仰の対象はドータクンに決定。でも、ドータクンだけじゃ物語が定まらなかったので、他のポケモンも出そうと思いました。その際、ドータクンの頭に乗るようなポケモンを探したんですよね。ポケモンって、イメージと実際では大きさが違うので、苦労しました。最終的にフラベベに決まり、物語を組み立てていきました。
 ドータクンの目が色々な色に光るのは、僕なりの幻想補正です。ドータクンの目って、オレンジっぽい色に光るんですが、どうしてこんなにはっきりと光るのか、全然分からなかったんです。ゴルーグみたいな人工的要素も思い浮かばないし……。
 そこで、どうせなら色んな色に光らせることにしました。それが終盤の複線になり、こういった物語を書くことができました。
 結果は3票。日曜日の時点で少なかったので、厳しいかなって思ってましたが、ほっとしました。
 
 コメント返しをさせてもらいます。

 >>読ませて頂きました。
   神秘的な雰囲気と、感動的な構成がとても伝わってきました。

   ありがとうございます。ポケモンがほとんどしゃべらないので、僕としては書くのが難しかったです。
   神秘的な雰囲気の演出は、全部ドータクンに任せてしまいました。言語が理解不能だったり、崇められてたりと、伝説以外で(かつマイナーで)こういうことができるポケモンって少ないので、そういう神秘要素におんぶにだっこだったりもします。
   感動は……偶然の産物なんです。フラベベを組ませたら、最後は自然とこうなりました。

 >>心温まるお話でした。
   ストーリーとか雰囲気とかがとってもよかったです。
   一番おもしろかったので投票させていただきます。
   感想がまともにかけなくてすいません……

   一番おもしろかったと言っていただいて嬉しいです。
   感想というのは、自分の思ったことをそのまま書くことです。貴方様の思ったことを感想として書いてくださった上、投票までしていただいて、とても嬉しかったです。

 >>もうひとつのソノオ伝説、とでも言うのでしょうか。「ありがとう」の感謝の言葉とともに芽吹き渡る緑の鮮やかさが、目に浮かぶようでした。無口なドータクンと、花を無くしたフラベベと、村の人々の四季。読み終わった後に勢いのまま思わずその風景を絵にしてみたいと筆を持ち、自分の画力のなさに打ちひしがれた作品は初めてです。物語が小さい事件ながらも徐々に展開され、淡々と語られることによって、村に伝わる伝承らしさがにじみ出ていて、読んでいて引き込まれました。心の隅に引っかかるような、そんな作品です。

   いやいやいやいやいや!!
   あの、こういった感想をいただけるのはとても嬉しくて、ものすごくうれしいんですが……想定外すぎて、逆に困ったり悩んだり(苦笑)。
   僕としては、そこまで壮大に表現できたとは思っていないんです。感想に書いてもらったことを思い描いてはいましたが、作品に書くときに表現できなくて……。
   そういったことを言っていただいて、本当に嬉しいです。ただ、全然まだまだなんです。貴方様の感想に見合う表現力と実力を身につけ、もっといい作品を書けるよう精進します!
   ソノオ伝説については……調べてみたんですが、ちょっと分からなかったです。すいません。

 みなさん、投票ありがとうございました!

 みなさんからの感想、指摘、評価、重箱の隅つつきなど、何かあればなんでもお寄せください。
 カナヘビはみなさんの言葉を真摯に受け止め、より良い作品作りにむけて精進していきます。

最新の5件を表示しています。 コメントページを参照

  •  野暮なようですが、投票者も仮面を外しますね。最後の長ったらしい感想を書いたのは私でした。まずは、短編小説大会でのご健闘、お疲れ様でした。
     実は、投票の際にはそれっぽい感想を並べておいたのですが、この作品に投稿することは、ドータクンとフラベベが出てきた時点でほぼ確定していました。私はドータクンもフラベベも、格段好きだというわけではありません。ただ、二匹を頭の中で並べた時に、なんとこのコンビは絵になっているのだろう、と思ったのです。無口で神秘的なドータクンと、故郷を失った臆病なフラベベ。しかも花が青。素敵すぎます。できることなら念写して額に飾っておきたいくらいです。プロフィールを窺ったところマイナーポケモンを専門に書いているそうですが、なるほどこの奇跡の化学反応こそがマイナーの強みか、と思いました。上の方のコメント返しにも書いてありましたが、まさにこの感動は偶然の産物なのでしょう。
     文体の方も、”民間伝承らしさ”を感じられるような工夫が随所に施されてあって、カクレオンばりに舌を巻きました。「ようだ」「そうだ」「らしい」などの伝聞表現をしつこいくらいに連ねることで事実が曖昧になり、読んでいる私たちとの距離が置かれます。また、「ある」「いる」「なる」を代表とする静的な動詞は、普通の文章では勢いを殺す動詞として嫌われがちですが、この作品にはうまくはまっています。躍動感をあえてなくすことで、読者がまさに祭壇の前に腰を据え、村人に交じってドータクンを崇めているような視点で物語を読み進めることができます。意図して書かれたかどうかは分かりませんが、凝った表現を用いないかっちりとした描写は淡々とした印象を与え、これも”らしさ”の演出に一役買っているでしょう。悪くいってしまえば洗練されていない、泥臭いような表現こそが、この作品の”味”だと思います。作品の雰囲気に合わせて文章を変えることができれば、これからの作品もより一層読者を引きつけることができるのではないでしょうか。
     他作品にも目を通したうえでの物言いですが、作者様は文章全体の構成が上手ですね。引き込まれる盛り上がりの作り方と、オチの付け方には痺れました。私たちの時代に纏められた、細かな部分が少しずつ食い違った曖昧な伝承と、最終文になって初めて現れる固有人物名。締めくくりの『もし、次の機会があれば、私も花を一輪もって、この祭りに来ようと思う。きれいな嫁さんが来ますようにと、願いをこめて。』は、にくい終わらせ方です。思わず長いため息をついてしまいそうな読後感。私もこのような余韻のある最後の一行を書いてみたいものです。
     感想のつもりが長々と作品の解説みたいになってしまいました。これはあくまで私一個人の意見ですので、きっと間違いだらけだと思います。そういう風にとらえる人もいるんだな、程度に留めて、深く考えないでください(しかも散々自由に発言しておいてアレですが、私は全く文学に触れてこなかった身でそれっぽい発言も全部私なりの解析です)。新参者で作者様の過去については全く知らないのですが、貴方はもう立派な一人前の書き手であると私は思います。これからもこのような素敵な作品と出会える機会を、心からお待ちしています。
     最後に、ソノオ伝説というのは、ただのゲームの設定です。シンオウ地方はソノオタウンの民家にいる女性が、ソノオの誕生についてそれらしいことを語っていた気がするという曖昧な記憶で、読んだ勢いのまま書いてしまったのですが、省略しすぎて伝わりませんでした。Pt版で確認してみたところ、このような内容でした。ゲームではグラシデアの花を示唆するテキストだったのですが、この作品とシンクロしている内容もあって、これまた一興ですね。

    『ポケモンも こない あれはてた
    おか だった ソノオタウン▾

    その けしきに むねをいためた
    みんなが いくら はなを うえても
    そだつことは なかったの……▾

    でも あるとき だれかが ふと
    ありがとうの きもちを つたえると
    はなが さきみだれたのよ▾』
    ――水のミドリ 2014-08-26 (火) 21:46:38
  • >>水のミドリさん
     長くなりそうなので、ちょっとずつ答えていきます。

    >実は、投票の際にはそれっぽい感想を並べておいたのですが、この作品に投稿することは、ドータクンとフラベベが出てきた時点でほぼ確定していました。私はドータクンもフラベベも、格段好きというわけではありません。ただ、二匹を頭の中で並べた時に、なんとこのコンビは絵になっているのだろう、と思ったのです。無口で神秘的なドータクンと、故郷を失った臆病なフラベベ。しかも花が青。素敵すぎます。できることなら念写して額に飾っておきたいくらいです。プロフィールを窺ったところマイナーポケモンを専門に書いているそうですが、なるほどこの奇跡の化学反応こそがマイナーの強みか、と思いました。上の方のコメント返しにも書いてありましたが、まさにこの感動は偶然の産物なのでしょう。
    →フラベベを選んだのは、小さいポケモンの中でも特に絵になると思ったからです。そもそも、銅鐸という無機質な物体と、花という綺麗なものが、同じシーンの中に映ることはほとんどありません。ほとんどないなら映してしまえと、開き直ってできたのがこの作品ですw。作品を書いた本人ですら予想のつかない反応を多々見せるから、マイナーを使うのはやめられないんですよねえ。
     できることなら、僕がドータクンとフラベベの絵を書きたいところなのですが、ポケモンアートアカデミーを挫折するほどの絵心の無さなので、できません。

    >文体の方も、”民間伝承らしさ”を感じられるような工夫が随所に施されてあって、カクレオンばりに舌を巻きました。「ようだ」「そうだ」「らしい」などの伝聞表現をしつこいくらいに連ねることで事実が曖昧になり、読んでいる私たちとの距離が置かれます。また「ある」「いる」「なる」を代表する情的な動詞は、普通の文章では勢いを殺す同士として嫌われがちですが、この作品にはうまくはまっています。躍動感をあえてなくすことで、読者がまさに祭壇の前で腰を据え、村人に混じってドータクンを崇めているような視点で物語を読み進めることができます。意図して書かれたかどうかは分かりませんが、凝った表現を用いないかっちりとした描写は淡々とした印象を与え、これも”らしさ”の演出に一役買っているでしょう。悪く言えば洗練されていない、泥臭いような表現こそが、この作品の”味”だと思います。作品の雰囲気に合わせて文章を変えることができれば、これからの作品もより一層読者を引き付けることができるのではないでしょうか。
    →こういうものって、事象を確定すると、逆に説得力がなくなっちゃうんですよね。なので、下手なりにも表現にはすごく気をつけました。ドータクンやフラベベの思考や意思などは全く表さず、結果だけを書くことに努めました。ただ、一切話さないとさすがに物語が進みづらかったので、ドータクンの言語らしきものをつけてゴリ押しした形です。
     ただ、躍動感をあえてなくそうという意図があったわけではありません。僕は文章力が低いので、洗練されていない泥臭い表現がデフォルトになってしまっているんです。この作品に限ってはそれがうまく合わさったようですが、なんというか複雑な気持ちです。
     それと、雰囲気に関しても僕は意図していなかったりします。たとえば、ほのぼのした雰囲気とか、今回みたいに神秘的と言われたりするのですが、それを言われた後に初めて知るんですよね。つまり、作品がどんな雰囲気になっているか、言われるまで分からないんです。でも、雰囲気に合わせて文章を変えたほうがいいのは事実です。僕も雰囲気には気をつけて書いていこうと思います。

    >他作品にも目を通したうえでの物言いですが、作者様は文章全体の構成が上手ですね。引き込まれる物語の作り方と、オチの付け方には痺れました。私たちの時代に纏められた、細かな部分が少しずつ食い違った曖昧な伝承と、最終文になって初めて現れる固有人物名。締めくくりの『もし、次の機会があれば、私も花を一輪もって、この祭りに来ようと思う。きれいな嫁さんが来ますようにと、願いをこめて。』は、にくい終わらせ方です。思わず長いため息をついてしまいそうな読後感。私もこのような余韻のある最後の一行を書いてみたいものです。
    →ありがとうございます。伝承はやっぱり、曖昧のほうがそれっぽくなるんですよね。そうとしか書けなかったというのもありますが……w
     最後に出てきた人物名は、本来は他作品にでてくる予定だったものです。その作品は、いつか出せると思います。たぶん……。
     
    >感想のつもりが長々と作品の解説みたいになってしまいました。これはあくまでも私一個人の意見ですので、きっと間違いだらけだと思います。そういう風にとらえる人もいるんだな、程度にとどめて、深く考えないでください(しかも散々自由に発言しておいてアレですが、私は全く文学に触れてこなかった身でそれっぽい発言も全部私なりの解析です)。新参者で作者様の過去については全く知らないのですが、あなたはもう立派な一人前の書き手であると私は思います。これからもこのような素敵な作品と出会える機会を、心からお待ちしています。
    →意見というのは人それぞれ。感じることも人それぞれです、僕の為に、これほど長いコメントを書いてくださって、とても嬉しいです。僕にとってはとても貴重な意見で、大変参考になりました。
     一人前と言っていただいてとても嬉しいのですが、上でも言っているとおり、僕はまだまだです。現状で一人前なら、もっと上の一人前を目指して精進していこうと思います。

    >ソノオ伝説
    →無知な僕の為に、文章まで載せていただいて、ありがとうございます。結構似てて正直驚きました。でも、これを知ってたら多分この作品を書いていないと思うので、知らなくてよかったと思ってたりもします。

    コメントありがとうございました。これからも頑張ります!
    ――カナヘビ 2014-09-06 (土) 20:41:30
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Last-modified: 2014-08-04 (月) 20:40:23
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