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青いとげ

/青いとげ

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この小説には官能的な描写およびグロテスクな描写があります。

グロテスクな描写としてポケモンの捕食やそれに伴う流血身体欠損毒液注入鬱展開を、
特殊な官能描写として逆レイプGL異物挿入を含みます。







 海底の砂に埋もれて空を見上げていると、とても長い間こうして過ごしてきた錯覚に陥る。水温の変化は乏しく音もほとんど聞こえない。波のゆらぎで優しく曲げられた常夏の太陽光が海面の天井にまたたいて、まるで緩やかにめぐる走馬灯のよう。口から小さく泡を吐き出すと、ゆるい潮の流れに揺られながらぷかりぷかりと昇ってゆき、淡い光に包まれたように遠く弾けて消えていった。
"誰か助けてッ……!!"
 ホエルコが前(ひれ)で力強く掻いたようにぎゅるり、と突然水がうねり、ごわ、砂が巻き上げられる。岩柱の影からラブカスのつがいが逃げるように(ひるがえ)り、あとを追うように海藻の切れ端が流れていった。
"誰か、だれかー!!"
「……どこからだろ」
 かすかに聞こえた悲鳴は気のせいではなかった。6本の腕で寝床から砂を掻き分け顔を出し、あたりを窺う。ぬるい海水は絹でこしたような透明さだが、視界は悪い。サメハダーの突進でしか壊れないほど頑強な石柱が幾本もそびえ立ち、水面へ突き抜けているのだ。それらに囲まれてできた潮だまりに白砂が高低差をつけて堆積し、一部は陸となりラグーンを形成している。そのせいか潮とよどみの区別がつきづらく、気を抜けばすぐさま石柱に追突してしまう。ふつうのポケモンなら、見晴らしがよく住みやすい東のサンゴ礁にねぐらを構えるものだ。
 ともかく声の元へと急がねば。私とて泳ぎは元来あまり得意としていない種族、水色の腕をくねらせ無数の毒棘を砂地に突き立てて、ドレープがかった昆布のような濃紺の体を引きずって進む。激しい水音の源泉をたどり岩柱を左右に避けつつ探し回ると、ラグーンの近くにラプラスの大きな影。水面が荒波立っていて、誰かが人間のポケモンと交戦しているらしいことが窺えた。その助けを呼んだ子が、太陽に愛されているようにきらり、と青く輝いて見えて。
 クラゲのように腕で水を掻いて、光で満ちた世界へと昇っていく。
「……待ってて、いま助けに行くから」





「あ、ありがとう! 助けに来てくれ――っ!」
 海の中からブクブク浮かんできてくれたコと目が合って、ワタシは絶望の海溝にまっさかさまだった。ひっ、と細い悲鳴をこぼしたワタシの気持ちを代わりに言ってくれるように、ラプラスに乗った人間が憎らしく叫んでいた。
「チッ、なんでこういうときに限ってヒドイデが現れやがる……。せっかく色違いのサニーゴを見つけたってのによぉ!」
 ヒドイデ。昔パパとママから耳にオクタンが張り付くほど聞かされていた、ワタシたちサニーゴの天敵。捕まったら最後、サンゴの殻の内側まで舐めしゃぶられるぞ! なんて脅されていた。襲われてもすぐに逃げればいいやー、って真面目に聞いちゃいなかったけど、なんでこんなピンチのときに現れるの!? 聞いてないよっ!
 きっとワタシが「助けて!」なんて叫ぶから、弱っているサニーゴがいるんだと思ってやってきたんだ。ヒドい。なんてヒドい奴なんだ! 戦おうにも気力は消耗しきっているし2対1だ、いくらバトルが得意なワタシだって勝ち目がありっこないって分かってる。でも、逃げようにも体がすくんで思うように動かない。海に落ちた陸のポケモンみたいに、あわあわと波に揺られることしかできなかった。
「邪魔なヒドイデを先に倒すぞ、ツヨキ、波乗りだ!」
「よっしゃ任せとけィ!」
 トレーナーの指示で、ワタシを追い詰めてきた1匹のヨワシが大波を引き起こす。ヒドイデのコに向けられたはずの波の壁は、アレヨアレヨと膨れ上がってワタシもろとも飲み込もうと目の前まで迫っていた。
「い、イヤぁーーーっ!」
「……っ!」
 なすすべなくぎゅっと目をつぶったワタシに信じられないことが起こった。いつまで経っても激流がぶつけられないからおそるおそる薄目を開けてみると、すぐ隣でヒドイデのコが髪(のように見えるもの)を大きく横に広げ、大波からワタシをかばってくれていたんだ。
 なにが何だかわからないけど、あのコがワイドガードでヨワシの波乗りをさばいている間に、受けた傷を自己再生で癒しておかないと。
「くそっ、使えない奴め! なに技を防がれていやがる!」
「なっ……!? そりゃァないぜ主人!」
 人間とヨワシがまごついているスキに逃げなくちゃ! そう思ってとっさに横を見ると、ヒドイデのコがワタシをじっと見つめていた。攻撃されるのかと思わず身がまえたけど、開けられた狂暴そうな口から出てきたのは、またしてもビックリするような言葉だった。
「……ぁの、えっと、その……」
「え!? なぁに!?」
「に! 逃げないと! は、早くしないと……かも!」
「そ、そうだね、そうだよねっ!」
 言われるが早いが、ワタシは一目散に海の中へと潜水した。ワタシを後ろからかばってくれたあのコも、トレーナーの投げるボールの狙いが定まらないうちに、ありったけの毒びしを水面に浮かべすたこらさっさと逃げてくる。やけくそになって飛んできたモンスターボールは、ワタシがとげキャノンで撃ち落としてやった。
 すぐそこを流れる潮流に乗って、なんとか人間から逃げられたみたいだった。沖の方に出て、落ちつけられそうな浮き島をふたりで探す。海の色は、どんどん青くなっていく。
「……強いんだね」
「…………!」
 褒めたりしたつもりはなかった。窮地を救ってくれたからといって、すぐに安心はできない。この瞬間はただ、ともにピンチを切り抜けた仲間なのに黙っているのが気まずくて、なにかお話ししなきゃ、くらいにしか思っていなかったのに。
 それなのにあのコは満面の笑みで目を輝かせていたんだ。憧れのひとに認めてもらったみたいに。



青いとげ


水のミドリ



 離れ小島まで流れ着いて、重い体をなんとか砂浜に乗り上げた。ワタシの住みかがあるサンゴ礁をぐるっと回る海流に乗って、だいたい反対側まで来たみたい。見晴らしはよく遠くの砂浜に人間の立てた木の住みかがあって、草むらには陸に棲むポケモンも見える。そこからけっこう離れているこの小さな砂地には誰もいなく、聞こえるのは打ち寄せる波の音だけ。一緒に逃げてきたヒドイデのコは、乾燥するのも気にしないのか、陸に上がったワタシのあとをぴったりとついて来る。わっ! っと飛びかかられないくらいの距離を取って、ワタシは彼女に向き直った。砂浜に1本だけ生えたヤシの木が、ちょうど彼女に影を落としている。
「それで、さ……。どうしてワタシを助けてくれたの……?」
 自己再生でゆっくりと体力を回復しつつ、ずっと思っていたことを聞いてみる。隠してはいるものの、疑うようなまなざしはバレちゃっているんだろう。伏し目がちな黄色い両目が、1本だけ短くなっている房の髪から覗いていた。
 あくまで取り乱さないで訊いたつもりだったけど、疲れもあってか声が少し震えちゃってた。ウワサに聞くヒドい奴なら、人間からエモノを横取りして、邪魔者を巻いたところでゆっくりと餌にありつこうと考えているのかも。助けてくれたからといってこのコが天敵である以上、すぐに信頼していい理由はどこにもない!
 しばらく見つめあっていたけど、ほとんど変わらない表情から考えていることは読み取れなかった。目を合わせるのが恥ずかしいのか、視線を下にそらしてぼそぼそと喋りはじめる。
「……ぁ、ぁの、助けを呼ばれたから、助けなきゃって……思って……」
「そんなの信じられないよっ! ワタシが気を許したところで後ろからガブっ! ってするつもりなんじゃないの!?」
「そ、そんなことないっ。遠くから初めてあなたを見たとき、ああ綺麗だな、って思って、そしたら体が勝手に動いていたの」
「……あ、ありがと」
 いきなりキレイなんて言われるからビックリしちゃった。仲良しのサニーゴのサニィには「変な色!」ってからかわれることもあるから、そう言ってくれるのはスゴく嬉しいな……っていやいやいや! 今はそうじゃなかった。
「で、でもでもっ! じゃあ……助けたんだから代わりにちょっと食べさせて……ってこと?」
「ちっ、違うの……! 襲いたいとかじゃなくって、あの、お友達になりたいなぁ、って……。ぉ、お近づきのしるしに、これ、受け取ってほしい……かも」
 そう言ってどこからか取り出したのは、私の好きな辛い味のクラボの実。真っ赤に熟れた房を見ただけですこしよだれが出てきちゃうほど。味を確かめようと勝手に飛び出していきそうになった舌を慌てて口の中に留まらせて、砂浜でスナバァを見つけるみたいに慎重に実を手に取った。
「わ、おいしそー! でも、どうして……?」
「ぁの、その、好きかなぁ、と思って……」
 初対面で私の好みの味を当ててくるなんて、ちょっ運命的じゃない! なんだか、これならお友達になってもイイかな……って。引っ込み思案で臆病な仕草も可愛くて、女のコなのにキュンときた。
「私は辛い木の実が好きなんだけど、キミは普段なにを食べてるの?」
「……やっぱり疑っちゃうよね」
「……あ! ちがうちがう、そういう意味じゃなくって!」
 口をちょっとへの字に曲げて申し訳なさそうにワタシを窺ってくる。虫も殺せないような彼女の顔を見ていると、ヒドイデがワタシたちの天敵なんて嘘なんじゃないかなって思えてきちゃうくらい。
「私も木の実が多い……かも。生きている肉を食べると吐いちゃうの。自分の中に得体の知れない誰かが入ってくるみたいで、気持ち悪くなるの。普通のヒドイデはよくサニーゴを襲うらしいけど、私は友達も親もいないから……あ、ごめんね」
 口許から覗く頑丈そうな牙は明らかにそういうものを食べるためにできているのに。きっと彼女もこれまでいろいろ辛い目にあってきたんだろう。木の実が見つからなくて倒れそうになったり、群れから仲間はずれにされたり、とか?
 うん、気に入った! サニーゴを襲わないヒドイデ、いいじゃない! なにより生まれ持った種族の当たり前から外れているって境遇が、みんなと体の色が違うワタシと同じような気がして。
「ごめんなさい、キミのことよく知らないで疑ってた。ヒドイデがみんなヒドい奴だなんてことないもんね!」
 言うと、そのコがぱっと笑顔になった。
「い、いいの……?」
「もちろん! これからワタシたち友達だよ! そだ、名前まだ聞いていなかった。ワタシはキラリ! よろしくね!」
「て……テプルだよ。よ、よろしく」
「テプルちゃんね、いい名前! じゃあ……ぷーちゃんね!」
「ぷ、ぷーちゃん……!!」
 パッと思いついた愛称だけど、ぷーちゃんは泣き出しそうなくらい喜んでくれたからビックリしちゃった。そんなに感動するとこっちが恥ずかしいでしょー! ってぷーちゃんに軽く体当たり、そのまま砂浜にダイブする。きゃ、と短い悲鳴を上げた彼女に、6本全部の腕(髪じゃなかった!)で体を引き剥がされた。
「きっキラリちゃんそんな、いきなりだ、抱きつくなんてっ! わ、わた、私たちまだ会ったばかりなのに……っ」
「ウブな男のコみたいなこと言うねー! 女のコどうしなんだし、エンリョなんかしないでいいんだよ?」
「で、でも、そういうのまだ早いっていうか、なんというか……」
「ふーん……ま、いっか! じゃ、なにして遊ぶ? あ、その前にお腹すいちゃったなー」
 ぷーちゃんが持ってきてくれたクラボの実を半分こして食べる。ぷーちゃんは辛い味が苦手みたいで、ほかにも実を持ってきているのかと思ったけどそうじゃなくて、ヒーヒー言いながら(かじ)っていた。
「なんで嫌いな味を無理して食べるのさー」
「……き、キラリちゃんと同じものを食べたいの」
「あはは、なんだそれー! でもスゴいね、ニガテ克服、ってやつ?」
「ぜっ、全然凄くないよこんなこと、キラリちゃんに比べたらっ」
 たわいない話をしているだけで、あっという間に時間が過ぎていった。海の中はただただ広くて、サンゴ礁以外のところにはほとんど誰も棲んでいないと思っていたから、毎日テキトーな場所に埋もれて眠るってぷーちゃんの話を聞いてビックリしちゃった。
 水中で追いかけっこもした。ぷーちゃんは泳ぐのもニガテだって言っていたけれど全然そんなことなくって。確かにあまり速く泳げなさそうなフォルム(ひとのことは言えないけど!)なのに、潮の流れを読み切っていつのまにかワタシに追いついてきている。サニーゴの群れの中でいちばん泳ぎに自信のあるワタシでさえ逃げ切るのに苦労した。
 泳ぐのとっても速いじゃない! って褒めると、キラリちゃんほどでもないよ……、とお決まりのセリフ。もう、なんだか可愛いなぁ! 
 気づけばもう太陽は西の水平線に潜り込もうとしていて。ちゃぷちゃぷと波の打ち寄せるオレンジ色の砂浜にふたりして倒れ込んで、ぜえはぁ息をついていた。
「あー楽しかったー! ……言うの遅くなっちゃったけど、あのとき助けてくれてありがとね!」
「うぅん、こちらこそ、怖いのに我慢して遊んでくれてありがとう……!」
「もー、そんなことないってばー……。そーだ、スッゴイ楽しかったし、またあそぼーよ!」
 ぷーちゃんは自分のこととなるとぜんぶ悪い方に考えちゃうクセがあるみたい。それでもワタシから遊びに誘えば笑顔をぱぁっと明るく咲かせてくれた。けど、それもすぐにしゅんとしぼんでしまう。
「ぁ……、でも、また会ってもそのヒドイデが私かどうかわからない……かも。他のヒドイデだったら、安心して近づいたところを襲われちゃうかも……」
「そっかー……。あ、じゃあ、ワタシの棘をあげる! これをこうして……」
 体を横に倒し、砂浜に刺さった枝に体重を掛ける。ぺき、と乾いた音がして、サンゴの枝があっけなく折れた。ぃ、痛くないの? と心配してくれるぷーちゃんに大丈夫だから! と返して、ちょっとかがんでもらった。
 頭のてっぺんに光るぷーちゃんの鋭い針、そこに折れた枝をカポッとはめる。
「え、でもこれ、キラリちゃんの大切な――」
「いーのいーの、すぐ生えてくるんだから気にしない! それに食べないでしょ、ぷーちゃんなら。そしたら、次会うときもその棘を目印にできるじゃない!」
「あ…………ありがとう……!」
 気にすることないのにまた泣いちゃいそうになってるし。可愛くて面白いコだってことは十分にわかった。またあさってね! と約束して、海が冷たくなる前にサンゴ礁まで戻ることにした。





 頭頂の針を、そっと撫でる。別れ際キラリちゃんに貰った青いとげが、その鋭利さを覆い隠すように被せられている。手に持って太陽に透かして見ると、目のくらむ青が一層きらきらと輝いていて、それは海底から見上げた海天井を私に思い出させてくれた。
 あれから私たちは2,3日おきに、ふたりだけで時間を過ごすことにした。落ち合うのは私たちが初めて出会った"孤島のラグーン"に正午過ぎ、と決めていた。ヒドイデである私がサンゴ礁に出向いてしまうと、それだけでパニックが起こるとキラリちゃんに必死に引き留められたからだ。
 荒々しい岩に囲まれたラグーンには人間はおろかポケモンもあまり近寄らないから、その空間にはいつもふたりだけ。思いつく楽しいことは、私たちが満足するまでいつまででも続けることができた。
 潮の流れが複雑なのか、ラグーンには様々なものが流れつく。星のかけらや特定のポケモンの進化に必要となる透き通った石、人間の使う飲み物の容器から何に使うかわからない金のたままで。なかでもキラリちゃんは真珠集めを趣味にしていて、どちらがより大きなものを見つけられるか競ったこともあった。結果はもちろんキラリちゃんの圧勝で、後日私の持っていたお団子真珠をあげると跳ねまわって喜んでくれた。
 今日は初めてキラリちゃんと模擬バトルをする。彼女の勇姿を拝むのは久しぶりだから、しっかりと目に焼き付けておかなければ。砂浜で互いに向き合って、嵐を予感させるような静けさが通り過ぎる。バトル開始! とキラリちゃんが叫んで、戦いの火蓋が切って落とされた。
「いっくよー、"とげキャノン"っ!!」
「こ、こっちも……!」
 無数の棘の(つぶて)がキラリちゃんの枝の先端から発射され、複雑な軌道でホーミングしつつ私めがけて飛んでくる。相対する私も、頭上の針を打ち出して応戦する。中空でかち合った突端どうしが強烈な衝撃波を生み、残りの棘と針を弾き飛ばした。
 肌を焼き焦がす砂浜のバトルフィールドで、私を睨みつけながらキラリちゃんは凛と笑ってみせた。
「初めて出会ったときから思ってたけど……やるね!」
「そ、そんなことないっ! キラリちゃんに比べれば、私のなんて全然だめ……かも」
「自信持っていいのになー? 今度はそっちから打ってきてよ! ほら、あのとき見せてくれた毒びしって技、スゴくカッコよかったし!」
「だっ、ダメだよ踏んだら痛いよ、大事なキラリちゃんを毒なんかにさせられないよっ」
「そんな悠長なこと……言ってられるかなー?」
 ニッと笑って高く跳ね上がったと思えば、体を縦に高速回転させ着地とともに転がり込んでくる。砂を勢いよく巻き上げ地響きを鳴らし、私めがけて一直線。すんでのところで身を避けたけれど、振り返ればさらにスピードを上げて帰路をたどるキラリちゃんが。
「ほらほらー、エンリョしないで、いいんだよー?」
「……っ!」
 たまらず毒びしを足元にばらまいて彼女の動きをけん制した、つもりだった。予想以上に勢いのついていたキラリちゃんは止まることができず、毒罠の餌食になってしまう。
「ほぎゃ!」
「き、キラリちゃんっ!」
「っ、痛ったたぁ……!」
 砂埃が収まったその中心には、無残にもうずくまるキラリちゃんの姿。白い腹部は青いサンゴの外殻に比べれば柔らかいらしく、毒びしの突き刺さった箇所が赤く充血している。
「バトルは辞め、はっ早くモモンの実、探さないと……かもっ」
「まーそう急がないでも、大丈夫だよ! ……おぇ」
 えずきながらも目を閉じ、深呼吸を繰り返すキラリちゃん。太陽に愛されているかのようにその青い体がきらきらと輝き出し、みるみる毒気が抜けていく。リフレッシュ。私の毒を主体とした攻撃は、キラリちゃんのこの技ひとつで完封されてしまう。
 目が離せずにいた。それは私がいつか見たことのある、神に祝福された完璧さ。
「……ふぅ。もーこれで大丈夫!」
「あぁ、よかった……! キラリちゃんに何かあったら私……!」
「もー、ぷーちゃんてホントにヒドイデなのー?」
 自己再生でお互い消耗した体力を回復させ、今日はもう疲れたね、と早めに解散する。
 青く輝くキラリちゃんの姿が頭から離れなく、その日は夜遅くまで寝付けなかった。
 彼女と初めて言葉を交わしてから2ヶ月が経とうとしていた。





 次の日。ぷーちゃんと遊ぶ約束もしていないのに、ワタシは"孤島のラグーン"まで呼び出されていた。昨日の夜、くたくたで寝床まで戻ってきたワタシを待ち構えていた友達のサニーゴのムーニィが、明日の夕刻にラグーンまで来い! というサニィからの伝言を残していったんだ。「くれぐれもこのことは他のポケモンには内密にね」なんてダメ押しまでして、いったい今度はどんな遊びを思いついたんだろ。
 水面からばしゃっと飛び出して、ほんのりオレンジがかった砂浜へ華麗に着地。来てみたはいいものの、肝心のふたりの姿がどこにも見当たらない。きょろきょろ周りを探していると、ごつごつ突き出る岩の影からぬっと姿を現した。
「いきなり呼び出してしまって済まない」「すまないー」
「……どしたの? ガラにもなく低い声出して」
 昨日ワタシを呼びつけたサニィとムーニィが、不敵な笑みを浮かべて言った。サンゴ礁で一緒に暮らす群れの遊びたい盛りなサニーゴの兄妹、お兄ちゃんがサニィで妹がムーニィだ。ムーニィはいつもの調子で兄の後から喋っているだけだから、この遊びの言い出しっぺはサニィかな。歳が近いこともあって、ワタシの実の弟と妹みたいに可愛がっている。
「おれのコードネームはナイスガイ、いわゆる国際警察だ」「けいさつだー!」
「こちらがボスの……」「ムーニィさんだぞー!」
 ばばーん! なんて効果音が付きそうな決めポーズ。3匹のサニーゴのあいだを、からっと乾いた風が通り抜けていく。……こんな人間の知識、どこで拾ってくるんだろ。おいてけぼりなワタシは「……うん」と返すのが精いっぱいだった。
「早速だがひとつ、質問させていただきたい。きみがヒドイデと接触したのは事実だろうか」「ほんとー?」
「……そうだけど」
 今までサンゴ礁の群れの仲間には訊かれなかったから言わなかったけど、ぷーちゃんとの仲をとくに隠すつもりはない。ここで遊ぶ分にはみんなに迷惑をかけてないし、ワタシの勝手でしょ!
「やはりか……」「そうかー」
 なのに世界の危機みたいな深刻な顔をして、ふたりは黙り込んでしまった。どうする? なんてそれらしく耳打ちして、どこで覚えてきたのかサニィがそれっぽいセリフを話し始めた。
「ヒドイデは、サンゴ礁の(ことわり)を超えた危険な存在……。加えて望まずしてこの海にもたらされた災悪なのだ」「さいあくだー」
「だ、黙っていればその言い方はなに? ちょっとヒドすぎるんじゃない!?」
「見てみろこの毒々しく濁った砂浜を! こんなむごたらしいことをするのは、海のポケモンすべての敵、ヒドイデの仕業に違いない! そんなヒドイデ色に染まった変な色のキラリが、一緒になって悪事を企てているんだろう!」「だろー」
「はぁ……あっきれた!」
 なんだか犯人を追い詰めるみたいな喋り方。たしかに浜辺はぷーちゃんの撒いた毒びしでちょっと汚れちゃっているけど、2,3日も経てば自然に消えるもの。毒を使うポケモンはほかにメノクラゲだっているし、勝手に親友が凶悪者だなんて決め付けられちゃたまったもんじゃない。ワタシの見た目だってそうだ、生まれ持った性質を理由にこっちを一方的に悪者って決め付けて。……もう、やんなっちゃう!
「なんですぐそーなるのかなー? サニィだってぷーちゃんに会ってみれば――」
「ははーん分かった。さてはキラリ、そのヒドイデに恋してるな?」「なー?」
「ぷぇええ!?」
 予想していない角度からの切り込みに、不意を突かれて変な声が出ちゃった。
「やはりか……」「……」
「いやいやいや違うよ! ぷーちゃんは好きだけど恋とかそういうのじゃないし、っていうかそもそも女のコどうしだし、っていうかワタシ他に好きなひとがいるし……!」
「本当か……?」「えっ誰? ほかに好きなひとってだれダレ誰???」
 ――っああもう! なんだかずっとこのコたちのペースに乗せられたままだ。あまり動かない首をぶんぶん振って、ワタシはぴしゃりと言いきった。
「もうっ! みんなに迷惑かけてないんだからほっといてよー! アンタたちなんかより、ぷーちゃんの方がよっぽどワタシを理解してくれてるんだから!」
「群れのみんなを裏切るのか!?」「えっホンマ誰が好きなん? あとでウチだけにコッソリ教えてや!」
「あーもう! うるさいうるさいうるさーーーい!!」
「そこまでにしておきなよ」
 急にかけられた声にビックリして、3匹どうじに振り向いた。
 夕陽をバックに、見慣れた友だちのシルエットが浮かんでいた。
 オシャマリのアリエル君。人間と一緒にこのあたりの島をめぐる冒険をしていたらしいけれど、いろいろあって半年くらい前からこの海に棲むことになった。豊富な知識にオシャマリという種族の珍しさも相まって、このサンゴ礁ではちょっとしたお兄さん的存在だ。
「うわ、アリエルの()()()()がきた!」「きたー!」
 ……やんちゃ盛りはこれだからもう! アリエル君――あっくんが気にしているところを、さりげなくグサっと突いてくるのはもはや才能なんじゃないかと思っちゃうくらいだ。それでも表情ひとつ変えずに、あっくんは鈴を転がしたような声で言う。
「サニィ、ムーニィ。サンゴ礁でご両親が心配そうにしていたぞ。そろそろ帰ったらどうだい」
「はーい……」「はいー」
 けれどここは流石あっくん。ワタシがあれだけ手を焼いていた兄妹も、一瞬のうちに静かにさせてしまった。あんな感じのイイお兄さん感、いつになったらワタシにも身につくんだろ。
 サンゴ礁まで泳いでいくふたりの背中を見送ったあっくんが、自分だって可愛らしい見た目してるじゃないか、と半ばあきらめたように肩をすくめて言った。
「兄妹も自分たちだけじゃなく、早く他のポケモンの良さに気づけるようになるといいね」
「そーだね。……んー、ワタシたちも帰ろっか。そろそろ冷え込んできちゃうよー」
「それでもいいんだけど……ちょっと僕の昔話に付き合ってくれるかい?」
「……えー?」
 いつもニコニコ笑顔を絶やさないあっくんが珍しく神妙な顔つきをするものだから、私は思わず笑っちゃった。しっとりとした雰囲気をごまかすように小さいバルーンをいくつも作りだして、ふわふわと浮かべてゆく。まだトレーナーと島めぐりをしていた頃の話なんだけどね、と切り出して、あっくんは沈んでいく太陽の方を向いて話し始めた。
「ここからちょっと離れたところにあるウラウラ島に、ミミッキュっていうポケモンが住んでいるんだ」
「ミミッキュ?」
 突拍子のない話題から入ったから、ちょっと面食らっちゃった。あっくんはもともと島めぐりという人間の行事、それに参加する新人トレーナーのパートナーとなるべく育てられたポケモンだったらしい。それにはつらい思い出が重なってしまうようでめったに自分から話してくれなくて、だからけっこう重要な話なんだろう。やっぱりぷーちゃんのことで怒られるのかな。思わず姿勢を正していた。
「ミミッキュはね、見た目がピカチュウにそっくりなんだ。ピカチュウは見たことがあるだろう? ほら、ここメレメレ島の南海岸から遠くに見える草むらに棲んでいる、黄色い電気タイプのポケモンだよ」
 ああ、それなら見かけたことがある。ほっぺたの電気袋からバチバチ火花を散らす、サニーゴのワタシにとってはあまり関わりたくはない種族。波乗りなんてできそうにないから、こっちから近寄らなければ問題ないんだけど。
「それで、なんでミミッキュはピカチュウに似ているかっていうと、ずっと憧れていたんだって。ピカチュウの可愛らしい見た目が欲しくて、それに見立てた化けの皮を被っているうちに、偽りの姿が自分自身になってしまった、ちょっと悲しいポケモンさ」
 彼の話だけで"ミミッキュ"というポケモンを想像してみる。きっと大きさはピカチュウと同じくらい、色は黄色で、やっぱり電気を操るのかな。化けの皮を被っているってどういうことなんだろう。でも、それより気になったのは――
「どうしてそれで、ミミッキュは悲しいポケモンになるの?」
「どうしてって……。いくらピカチュウの真似をしようとしたって、完全にピカチュウになれるわけじゃないからさ。いくらかひとに頼るのはいいことだけれど、全部を全部真似しようとすると、どこかで不都合が生じるものなんだ。ピカチュウにはピカチュウの、ミミッキュにはミミッキュの良さってものがあるからね。……それは誰にだって言えること。自分のすこし足りない部分は、誰かに補ってもらえばいい。誰かがすこし助けを必要としているなら、そっと手を差し伸べてあげればいい。そうやって持ちつ持たれつの関係を作っていくことが大事だって教訓なんだよ」
 ……なんだかいきなり話が大きくなった。置いていかれそうになってついあっくんの横顔を見たけれど、バルーン作りに夢中なのかずっと前を向いたまま。視線の先には、沈んでゆく赤い太陽の端っこが、水平線の波間に溶け出していくところだった。流れ出た赤いキラキラが、ワタシたちのいる海岸まで点々と海のじゅうたんの上を伝っている。砂浜を埋め尽くすくらいの水のバルーンが、情熱的な色の光を反射してふわふわ漂っていた。
「僕はね、キミのおかげで救われたんだ。捨てられたときはね、僕、死んでしまおうかと思っていた。旅を始めてからずっとトレーナーのことだけを信じて闘ってきたから、裏切られたときに心が空っぽになった。何も残っていなかったんだ。ミミッキュみたいに自分を見失って、これからどうすればいいのかもわからず、生まれ故郷のこの海に戻ってきた」
 今でこそ元気にサンゴ礁を泳ぎ回っているけど、ワタシが初めてあっくんを見つけたときは痛ましい姿だった。がむしゃらに泳いできたんだろう、全身に切り傷やすり傷を負って、砂浜にうずくまっていた。丘に打ち上げられたコイキングみたいに濁った目は、もぬけの空、といった感じで覗きこむのが怖かった記憶がある。
 思い出してあっくんの方を見ると、同じタイミングで彼もこっちを向いていた。夕日に照らされるあっくんの顔、いつも見慣れているはずなのに、どきり、胸が高鳴った。
「キミは、キミだけは僕をちゃんと雄として見てくれた。オシャマリの見た目だけで雌扱いしなかった。それからだんだん自分と向き合えるようになって、キミがどれだけ大切な存在なのかってことに気づいたんだ」
 いつもつぶらで優しさをふりまいているあっくんの目が、いつになく真剣にワタシを捉えていた。……あ、やばい。これって、もしかして。いや、ぜったいにそう。
「キラリ、――」
 名前を呼ばれただけなのに、体が浮き上がる浮遊感。ヘビ睨みを受けたようにあっくんの目にくぎ付けにされてしまう。一瞬にして彼だけしか見えなくなって、波の音も聞こえない、風の冷たさも分からない。次に来るはずの言葉の響きを待ちわびて、全身がそれだけのための聴覚器官になったみたい。
「――好きだよ」
 ぷぇ。抑えていたのに、緊張と嬉しさでやっぱり変な声が出た。いつのまにか止まっていた呼吸、空気を求めて大きく息を吸い込むと、一気に光とか温度とかが戻ってくる。何か言わなくちゃ、あっくんはずっとワタシを見つめたまま返事を待っている。
「ぁ……、ぁわ、……ぁわわあわたっ、ぁたしも……」
「なんだい、良く聞こえないな。はっきり言ってくれよ」
 ちょっと意地悪な響きを乗せてあっくんは言って、体をするりと躍らせてワタシの体に後ろから抱きついた。そ、そそそそんなに近づいたら言いたいことも言えなくなっちゃうよ! ――けど、あっくんも勇気を出して告白してくれたんだ。これだけはちゃんと言いたかった。
「ワタシも、あっくんのこと――アリエルくんのこと、好き……。ワタシのこと"変な色のサニーゴ"って先入観を持たないで、ちゃんとワタシ自身を見てくれているから……っ」
 言った。言っちゃった。ああ恥ずかしい、恥ずかしいよぉ! こんな時のために、穴を掘るでも覚えておこうかな!
 恥ずかしさをごまかそうとどうでもいいことを考えていたワタシのほっぺたに、細かなヒゲの当たる感触があった。抱きつく腕の力を強くしたあっくんが頬ずりしてきて、こそばゆさに耐えられずについ笑っちゃう。顔を横に並べて肌をくっつけているだけで、体の奥底から愛情が湧き上がってくる。あっくんの首筋から体に染み込んでくる動物的なにおい、交差するお互いの息が、だんだんと荒くなっていくのがわかる。
 ぺろり。
「ぁ……」
 あっくんの厚めな舌が、ワタシの口もとをさらっていった。それだけで変な声が出てきちゃう。口はぽかんと開いたまま、あっくんが訪ねてくるのを今か今かと待ちわびているみたいだった。
 満足したように笑った彼は息を整えるともっと体をすりよせて、横から口どうしを重ね合わせてくれた。はむり、はむり、と震えるワタシの薄い唇を軽くはさむ。深い吐息があたたかい空気の流れになって口の中を通り抜けていった。包み込むように回されたヒレの手が、離さないって言ってるみたいにぎゅっと強くなった。
 控えめに差し込まれた舌を出迎えるように、おそるおそるワタシもそれに触れ合わせる。ぬりぬりと絡め合わされたと思えば、口をふさいでぢゅう、と甘く吸われて、あけすけな期待に体の芯が熱く反応しちゃってる。恥ずかしくてほとんど開けられない視界に映る、そっと閉じられた目とせわしなく上下するあっくんの喉元。
 お互いを食べあうようなキスを交わしながら、ワタシと同じようにすっかりその気になったあっくんは、平たい手でワタシの体をまさぐってくる。青いサンゴの枝の先端まで調べるようにじっくりと、白いお腹は硬い外殻の感触と比べるように揉みこんで。体の隅々まで触られるワタシの反応を楽しんでいるみたいだった。そうして冷たい手のひらの感触に混じってお腹の柔らかいところに触れたのは、沸騰したみたいに熱く硬い棒状のもの。それがなにか分かった瞬間、あぁっ、とまた恥ずかしい声がこぼれちゃう。
「キラリは可愛いな。食べてしまいたいくらいだ」
「な、なにそれ、もぅ……。あ、でもそういえば……」
「どうしたんだい?」
 口を離して目を開くと、いつもパッチリとしたあっくんの目がトロンと丸くなっていて、独り占めするようにワタシを見つめていた。
「もう知っていると思うけど、最近お友達になったヒドイデのコがいるの。ちょうどこのラグーンで出会って、いつもここで遊んでるんだ! ほら、ヒドイデってサニーゴを食べるって言われてるじゃない? でもそのコはね、生きているポケモンが食べられないんだって」
「……」
 下腹部にまた、硬く灼けるものが押し当てられる感覚があった。今度ははっきりとした、催促するような動き。声が震えてしまうのをなんとか隠して、ワタシはぷーちゃんの話を続けた。
「て、テプルちゃんって言うんだけどね、とってもいいコなんだ! ちゃんとワタシをワタシとして見てくれるし、初めはちょっと怖かったけど、よく話してみるといろいろ考えていて、頭がいいの!」
 ひとりで盛り上がるワタシの話を、崩れた顔からしゃんと元に戻った表情であっくんは真剣に聞いて、それからちょっと重い感じで言った。
「……こんなこと言うのは辛いけど、もうその子には合わないほうがいい」
「な、なんで!?」
「いくらキラリのことを分かってくれるったって、ヒドイデなんだろう? いつその鋭い毒牙でキミに襲いかかってくるか分からないじゃないか」
「あ、ヒドい! そうやって見た目で判断するの、ワタシもあっくんも大嫌いなはずでしょ!」
「万が一のことを考えて、だよ。何かあってからじゃ僕は悲しい。明日も会いに行くんだろ? 僕もついて行って、説得してあげるから。……それに、さ」
「きゃあ!?」
 ごろん、と体が思いきり転がされて、柔らかいお腹をさらけ出したワタシの上にあっくんがのしかかってくる。背中の枝が砂浜に突き刺さって、体を起こそうにも動けない。おそるおそる見上げると、あっくんの目は再びピンク色に燃え上がっていて。胴回りのフリルがひらりと陸風に揺れ、見えた肉色に思わず息を呑んだ。
 初めて見る雄のおちんちんは、流線型のあっくんの体に沿うようにピンとまっすぐ立っていた。夜の海みたいに深い体の青に目立つ鮮やかな赤色。それがワタシの秘所をずんずん分け入ってくるのを想像しただけで、股のあいだにじわり、と熱が染み出した。
「僕とこんなことしているっていうのに、楽しそうに別の友達の話をされると、傷ついちゃうなぁ」
「んやっ、ごめぇん、ごめんってぇ!」
 お腹よりも一段と軟らかい秘所。自分の手すら届かないそこに、張りつめたあっくんのおちんちんがそっとあてがわれた。視界の端に見える紅い太陽の光がちかちかして、めまいを起こしちゃいそうなくらい心臓がバクバク跳ねている。
「心から愛しているひとなら、どんな手を使ってでも自分だけのものにしてしまいたくなる。そうだろう? それがこんなイジワルな方法でも、ね。……どうしてほしい? 言ってごらん」
 ……ヒドいひとだ。もうすっかり粘液にまみれたワタシの秘所が、さらに膨らんだ彼のおちんちんの先端に勝手にキスしてるっていうのに。あっくんが小さく震えて先端の返しが入り口のヒダに引っかかっただけで、石に擦りつけてひとりでやったときなんかと比べものにならないくらいの気持ちよさが溢れてくる。
 もう、我慢できなかった。恥ずかしさにくらくらしながらも、口が勝手に動いておねだりしてしまうことに、内心ビックリしていた。
「……入れて、ほしい。……お願い、あっくんの雄らしいおちんちん、ワタシのここに、入れてぇ!」
「……わかった。力、抜いててね」
 しゃっくりみたいに乱れた息をどうにか抑えようとふぅーっ、と長く吐いた瞬間。
 ずぶずぶずぶ、とまわりのヒダを巻き取りながら、あっくんのモノが、喉元くらいまで一気に入ってきたような気がした。
「――――っッッッ!!!!」
 その衝撃に押し出されるようにして、お腹の底から声にならない悲鳴を上げていた。
 背中のサンゴを力づくで剥ぎ取られたような激痛に、言葉が途中で弾けとんだ。陸に打ち上げられたトサキントみたいに口をぱくぱくさせて、あっくんを受け入れた激痛に耐えるしかなかった。心配そうにのぞき込む顔が、視界の端でどんどん滲んでいく。熱にうなされたみたいに「あっくん、あっくぅん……!」と夢中で名前を呼んだ。
 いっそう硬くなったサンゴの殻ごと体をぎゅーっ、と抱きしめ、あっくんは背中に回した手でやさしく何度も何度も撫でてくれている。夕方の波のように穏やかな頬ずりが、ワタシのほっぺたをさらっていった。おでこにキスしてくれたり、そこから伸びる枝を舐めてくれる。その優しさに応えるみたいに、だんだん慣れてきたお腹の下の方が熱く縮こまって、いとしい彼のおちんちんを歓迎しているみたい。
「痛いよね……。落ち着くまで待っててあげるから」
「ぅ、ん……」
 だいぶ呼吸の整ったワタシの口に、いたわってくれるような優しいキスを落とされた。舌先に彼のあたたかさを感じていると、お腹の奥から幸福感が全身へと広がってくる。
 それが伝わったのか、あっくんはほんの少し腰をむずつかせた。それだけなのにピリッとした電撃に襲われ体が跳ねちゃった。
「んぃ!?」
「まだ痛む?」
「も……、もうワタシは大丈、夫……。び、びっくりしただけ」
「本当? ……ごめん、僕も我慢できなくなってきた。続き、しようね」
「……ん、んんん……。んぁっ……」
 おちんちんをいちばん奥まで挿し込んだまま、熱く膨らんだ先端でくりくりと集中的に奥をくすぐられると、ビリビリ痺れる感覚の中に明らかな気持ちよさが混じるようになってくる。あっ、んあぁっ、と漏れる声を抑えられない体がもどかしい。
「始めは無茶しない方がいいと思ったんだけど……もっと強くしたほうがいい?」
 言いながら、次第に腰遣いを深くしていくあっくん。息を荒くするその顔は、待ちきれないとばかりに上気していて。……ヒドいなぁ。そんなことされたら、もうちょっと待ってなんて言えないよ!
 恥ずかしさなんてどこへやら。気持ちよさに震える声を張り上げて、ワタシはあっくんにしがみついていた。
「んぁっ……、ふぁ、……んぁあ! あっ、いいよ、コレ、きもちいいよっ!」
「……よかった」
 小刻みに震わせるような動きから、全体を擦り上げるような強烈な動きに。トロトロにされたワタシの顔の両わきについた手のヒレで体重を支えて、あっくんも自分が気持ちよくなるためにおちんちんを叩きつけてくる。まったく痛くないかと言えばそうではないけれど、それを上回る気持ちよさが、じゅぶっ、じゅぶっ、と響く音で増幅されていく。
 ゆっくりとお腹の底をさするような気づかいもいつの間にかなくなっていて。ずりゅずりゅと容赦ないあっくんの腰使いに、ワタシの秘所は全体で気持ちよさを受け止めていた。
「だいぶっ、良くなってきたみたいだ、ね。僕も、……っそ、そろそろ限界みたい……っ!」
「いいよ、このまま……中に出して。お願い……あっくん」
「――大好きだ、キラリっ!」
「好き、すき、ワタシもだいすきっ!」
 耳元で甘い言葉をささやかれて、意識がふっ、と飛ばされたかと思った。すき、を無我夢中で繰り返して、どうしようもない快楽の波に飲み込まれそうになるのが怖くて。
 かぷっ。
 思わずあっくんの首元を()んでいた。歯を立てないようにしよう、とかそんな気遣う余裕はなくて、びくっ、と震えたあっくんのにおいが口いっぱいに広がってから、噛んじゃったことに気づいたくらいだった。
「ふゃぅぅっ……!」
「キラリ……? ――ぅうッ!!」
 その刺激が引き金になったのか、あっくんは鋭くうめいてぎしっ、と全身を強張らせた。お腹のいちばん奥にぐりぐり押し付けられていたおちんちんだけがどくん、どくん、と痙攣して、あっくんの想いがワタシの中を満たしていく。
 どうしようもない幸福感の中で、全身が怖いくらいにぎゅぎゅーっ、って縮こまって。好きだよ、なんてあっくんのささやきを遠くに聞きながら、いつの間にかワタシは意識を手放していた。





 屹立(きつりつ)したペニスにまたがり先端にぐにっ、と蜜穴を押し当てて、体を支えていた数本の腕から一斉に力を抜いた。
 野太い血管を幾重にも走らせガチガチに勃起した肉棒。処女肉の抵抗をものともせずその真上にすとん、と落ちた私の肉筒は、カウパーをどろりとにじませた鈴口から艶めくスリットのつけ根までを一気に飲み込んだ。元来雄の怒張を受け止められるよう作られていない私の内壁は瞬時に膨れ上がり、ほぐれきっていない生殖孔を護ろうと分泌液が湧水のように溢れ出る。
 痛い、と思うよりもまず、衝撃が来た。体の下から壊さんばかりに蹴り上げられ、全身の急所に針を打たれたように体が固まった。次いで肛門を骨棍棒で突き破られ内臓をかき混ぜられたかのような激痛が、津波のように押し寄せてきた。
 (くわ)え込んだペニスがびくん、びくんとひきつけを起こすたび、口の中に名状しがたい苦みが広がってくる。行き場のない苦痛をじわりじわりと逃がすよう、しばらく目や口を張り裂けるほどおっ開いたままでいた。
 大丈夫、彼女だってこの痛みに耐えたんだ。それなら私だって。
「も……、もうワタシは大丈、夫……。び、びっくりしただけ」
「――っ!? ……っぐ、ッ、ぅう゛ーッ!」
 痛みが引くのも早々に、そっと囁いて私は身体を揺すぶった。
 孔の最奥までひと息で蹂躙した巨大なペニスの突端が、痛覚ではなくこそばゆいところをくすぐっていて。なるほどここを執拗に押し潰されれば快感が生まれるのだな、と直感した。
 日の入り、孤島のラグーンの浜の端。波打ち際に座らせた雄の体を数本の腕で乾いた岩壁に(はりつけ)にして、その股座の上で私はひたすら腰をグラインドさせていた。種族柄いかなるときも絶やさない不細工な笑顔をにじませ、無理やりレイプされた怒りと戸惑い、それと隠しきれない悦のいろをつぶらな瞳に乗せて雄は悶えていた。私の腕を(くつわ)のように噛まされた口で、くぐもったうなり声を再度上げた。
 やっている私自身、ひどい吐き気がした。
 全く好きでもない――むしろ大嫌いな雄が、私の下敷きになって必死の形相で射精を堪えていた。喉の隙間から漏れる熱い気流が私にかかるたび、毒針で今すぐとどめを刺してしまいたい衝動に駆られる。仕方ないといえこんな雄とひとつに繋がらなければならないことに、かなり抵抗があった。が、私はすぐに受け入れた。
 だって、キラリちゃんは、初めてのセックスを味わったんだもの。処女を喪う痛みを知り、射精まで導くテクニックを身につけたのなら、それらを私が会得しない理由はなかった。
 いつの間にか、あれだけ耐え難かった痛みの中に、確かな快楽がじわりと広がっていることに気付いた。顔をしかめているばかりだった抽挿にも、興奮した私の喘ぎ声が交じるようになっている。これなら次のステップに進んでも問題ないだろう。
「んぁっ……、ふぁ、……んぁあ! あっ、いいよ、コレ、きもちいいよっ!」
「んっんッ、んっぐグぅ!!」
 砂地に手(ひれ)を食い込ませ絡みつく私の体を振りほどこうとするが、皮肉にも破裂しそうな男根がざらついた肉壺に引っ掛かって抜けない。抵抗されないよう腕を2本雄の腰に巻き付けて、体を浮かべては思い切り引き付けるを繰り返した。切り立った岩のように硬く膨らんだ肉棒が私の柔肉でプレスされるたび、ごちっ! ごちっ! と腹の奥が悲鳴を上げている。愛情などひとかけらもなかった。激しく脈動を繰り返すペニスをぷにぷにの秘肉でしごき抜くだけ。ぐっ、ぅぐっ、と断続的に漏れる声に顔を上げれば、嬉しそうとも悔しそうともとれる表情をした雄がことさらにびくん! と大きく腰だけを跳ね上げて、あと数突きで決壊を迎えるのだな、と分かった。
 だから私は、つとめて笑顔のまま言った。
「いいよ、このまま……中に出して。お願い……()()()()?」
「――――ふぐうぅぅっ!!!!」
 何かを叫ぼうと涙を飛び散らす雄。恋びとに寄り添うように私はフリルを纏った青い胸板に体を預けた。好き、すき、ワタシもだいすきっ! と雄の叫びに応えてやって、うすく歯型の浮き出ている首筋の肉を、そっと――齧り取った。
 雄は射精した。
 体内を駆け巡るおぞましい量の血液で極限にまで肥大したペニスから、白熱した精液が私の中へポンプの如く注ぎこまれている。キラリちゃんと同じように、命の種がべっとりと腹の底にへばりつくのを感じながら、遅れて私も排卵に達した。白く温かい光に包まれていた。





 目が覚めたときにはワタシはいつも通りサンゴ礁のベッドの上にいて、真上近くまで昇った太陽をぼーっと眺めていた。嵐が通り過ぎ去ったあとみたいに薄い雲ひとつない晴天、朝の気持ちいい時間を寝過ごしてしまうなんてほとんどないのになぁ、なんて記憶をさぐってみる。
「あれ、昨日はたしか……」
 言いつつ重い体を起こそうとすると、腰の方から鈍い痛みが響いてつんのめった。どうしてだろう? と疑問に思って、すぐに思い出した。
 ぽん! と音が出るくらい顔が真っ赤に沸騰しちゃった。
 あっくんとあんなことやコンナコト……。思い返しただけでむやみやたらととげキャノンを発射したくなる。どうにもならない熱が逃げてくれるまで、体を丸めてぶくぶく泡を吹いて恥ずかしさに耐えるしかなかった。
 ということは、あの後あっくんが寝床まで運んできてくれたんだ。会ったらお礼を言わなくっちゃ。……スッゴク恥ずかしいけど。
 そうだ、今日はもうひとつ大事なことがあった。ぷーちゃんに会うんだった。いけないいけない、忘れるところだった。約束の時間は太陽が西に傾き始めたら――って、もうすぐじゃない!
 あわてて寝床を飛び出して、朝ごはんのマトマの実を口に放り込んで"孤島のラグーン"まで全速力。昨日たしかあっくんもついてくるとか言っていたような、言っていなかったような……。場所は伝わっているはずだから、ワタシだけ先に着いたとしてもきっとそこで落ち合えるだろう。……というか、昨日あっくんとソンナコトした場所でぷーちゃんと遊ぶのかー……。ちょっと忘れるまでに時間がかかりそうだ。
 そう言えば、あっくん言ってたっけ。『ヒドイデなんかとは縁を切ったほうがいい』なんて、ぷーちゃんを知らないからそんなことを言うんだろうけど、きっとあっくんも会えば彼女がそんなヒドいコじゃないって分かってくれるはず。
「うーん、どこ行っちゃったんだろなー」
 サンゴ礁を横切るついでにあっくんがいないか探しつつキョロキョロしていると、おいかけっこして遊んでいるいつも見慣れたふたり組みが目に入った。
「おーいサニィにムーニィ! あっくん見なかったぁ?」
「アリエルさん? いや、今日はまだ見てないな。きのう最後まで一緒にいたのはキラリじゃないか」「……」
 昨日のサニィのなじるような視線は消えていて、サニーゴらしいきらめきを振りまいていた。たぶん彼も本気で言っているのではなく、ただのヒミツ警察ごっこだったんだろう。
「どこか行きそうなところに心当たりはなぁい?」
「島の海岸に小屋が立っているだろ? もしかしたらそこにいるかもな。最近あのひと、研究所に戻って仕事をお手伝いしたいとか言っているから」「……」
 人間の研究所かー。"孤島のラグーン"に向かうには反対方向だし、記憶はおぼろげだけど行く約束を取り付けてあるならちゃんと向かってくれるハズ。人間のもとで育ったからか、あっくんはそういうところが律儀なんだ。
「……んーわかった、ありがとーね!」
「それじゃまた。くれぐれもヒドイデのところになんか行くなよ」「……(おめでとさん!)」
「いっ!? ぃ、行くなって言われても行くけどねっ!」
 運が良ければラグーンにつく前にサンゴ礁であっくんに会えるでしょ。時間もないしサニーゴいち早い泳ぎで目的地に急がないと。視界の端であっくんの姿を探しながら、ムーニィのひと言で真っ赤になった顔を急いで冷ましていた。
 結局あっくんを見つけることなくいつものラグーンまでたどり着いてしまった。着いてしまったのなら仕方ない、ぷーちゃんに遅れてしまったことを謝っておかなくっちゃ。
「ぷーちゃん待たせてごめぇ――あれ?」
 いつも日なたぼっこをしているお気に入りの場所に、ぷーちゃんはいなかった。照り付ける午後の容赦ない日差しが、下草すら生えていない砂浜をチリチリと温めていた。
 暑くなって海の中に涼みに戻ったのかな。怒って帰ってなければいいんだけど……。
 とんぼ返りに海に潜ってあたりを探してみる。そう遠く離れていないところに、ワタシは見慣れないものを見つけた。
 見た目はなんだか砂に埋もれたでっかいオレンの実みたい。でも表面はトゲトゲがいっぱい生えそろっていて、食べようものなら口の中が穴だらけになってしまいそう。想像しただけで変なツバが出た。
 色には見覚えがあって、青と紫のツートンカラーは、ぷーちゃんのトレードマークだ。もしかして……と思っててっぺんの針を見ると、やっぱりワタシがあげた青い棘がかぶせられていた。
「……ぷーちゃん、なの?」
「あ、キラリちゃん!」
 間髪開けずにドームの中から聞き慣れた声が返ってきた。間違えることのない、これはゼッタイぷーちゃんの声。中からはこっちが見えているみたいで、ずりずりと砂埃を立ててオレンの実は回転して顔をこっちに向けたみたいだけど、見た目はぜんぜん変わらなかった。ワタシに向けられた声はくぐもっていたけれど、よかった怒っていないみたい。
「なんだかちょっと太っ――成長した? ……あ! もしかして!」
「そうなんだ! 進化したんだよ!」
「やっぱり! スゴいなぁ、ワタシは進化できないから、羨ましいよー!」
「……そんなことないよー! キラリちゃんが進化できないなら、ワタシもキラリちゃんと一緒で進化できない方がよかったなー」
「またまたー!」
 サンゴ礁の友達も進化しないコが多いから、ぷーちゃんが進化できるってこと忘れてた。外見の変化もビックリしたけど、それよりも気になったのが。
「喋り方、ワタシみたいになったんだね! 明るくした方がいいって言ったけど、自分らしさはなくさないほうがいいと思うよー? ワタシに似過ぎてて、なんだかちょっと変かも。水面を覗きこんんでひとりでおしゃべりしてる感じだよー」
「ううん、そんなことないよ! キラリちゃんの話し方、周りのひとも元気にしてくれて、とっても尊敬するよー?」
 ちょっと話がかみ合っていない気がする。進化してテンションが上がっちゃっているんだろう。よくわからないけど、ムーニィと話していたときのワタシもこんな感じだったのかも。……ハズカシ。
「そうだそうだ、ぷーちゃんに紹介したいコがいるんだけどね。オシャマリの男のコで、アリエル君って言うんだけど、来てないかなー? 待ち合わせしてたんだけど、会えなかったんだよね」
「……今日はそんなコ見てないなー」
 答える前に一瞬の間があったけど、知らないって言うし、うーん、どこ行っちゃったんだろ。ちょっと心配だ。
 さっきから気になっていたけれど、進化する前は見えていた黄色いおめめが隠れちゃっている。ぷーちゃんのチャームポイントだったあのジト目は、進化してどうなっているんだろう。
「おカオ見せてよー!」
「……だっ、ダメだよー! 恥ずかしいよ!」
「どうしても?」
「ど、どうしてもっ!」
「ぶー……」
 ドーム型のぷーちゃんの周りを1周して、あ! と思いついた。これなら、中にお邪魔することができるかも。





 私はキラリちゃんが好きだ。それはもうどうしようもないほどに完璧な彼女が好きだ。
 ひとりぼっちの私に構ってくれるところが好きだ。完璧な彼女の生活に私が入り込む余地なんてないだろうに、わざわざふたりきりの時間を割いてくれる彼女が好きだ。
 木の実を美味しそうに頬張る彼女が好きだ。からい実を眉ひとつ動かさずに平らげる彼女が好きだ。完璧な彼女に近づくため私もからい木の実を腹に詰め込んで克服しようと努力したら、スゴいスゴいと褒めてくれた彼女が好きだ。
 泳ぎの早い彼女も、バトルの強い彼女も好きだ。好きで好きで全部お手本にした。趣味だって喋り方だって、好きな彼女と一緒がよかった。
 そして何より、あの息を呑むほど美しい青のサンゴが、好きだ。ずっと見てきたその宝石が、今はもう私を狂わせてしまいそうな強烈な輝きを放っているようだった。
 だから、怖かった。見れば一線を踏み越えてしまいそうで――
「ばあっ!」
「きゃあっ!?」
 心ここにあらずな私の考えを砂もろとも吹き飛ばして、キラリちゃんが私の真下から飛び出してきた。砂を纏った体当たりをまともに食らえばかなりのダメージだっただろう。たじろいでずれた私の腕の隙間から差し込んだ太陽の光が、波にゆらめいで彼女を淡く照らし出した。
「あはは、びっくりしたー? 下からなら入れると思って、海底に穴を掘ってきたんだ!」
「――っ!」
「進化おめでと、ずいぶん大きくなったんだね! こんなマイホームまで建てちゃうなんて、スゴいじゃない!」
 大きな真珠ひとつ分くらいしか離れていない距離でキラリちゃんと見つめあっていた。縦長な彼女の瞳に映った私の目は、落ちたら二度と戻って来られない深い海溝のような暗いいろをしていて。
「どしたのぷーちゃん。なんだかちょっと……怖いよー?」
 健気に笑いつつも背中をぶるっと震わせたキラリちゃんは、海面へと昇っていく小さい泡のようだった。はかなく煌めく青い泡は少し腕を伸ばせば届きそうなのに、捕まえようともするりするりと先に逃げてゆく。そうしているうちに海面から飛び出して、海や空の透き通った青にまぎれて見失ってしまう。私がキラリちゃんと同じになるには、遠く離れてしまう前に彼女とひとつになるしかない。
「おーいテプルちゃんってば! 聞こえてるかーい?」
 覗きこんでくる彼女の青が、妖しく光り輝いていて。
 そのとき初めて、生きたままの好きなひとを食べたいと思った。





……
…………
………………


 ごきっ。
「……えっ、え……!? ッきゃあぁ!!」
 ぐぐぎっ。がじがじがりっ。
「やだやだ、やめてッ!! 痛いよぷーちゃんお願いやめ――っいやあぁあああああ!!!!」
 青いかけらがぷーちゃんの口の中で踊っている。骨みたいな白さの奥歯で噛み潰されるたび、こりっ、こりっ、と小気味いい音が響いてきて、あまりの衝撃が痛みにすり替わって絶叫してた。
 齧り取られたのは枝の先端だけで、神経の集まった髄には届いていないみたいだった。それでもさっきまでワタシの一部だったものが、ぷーちゃんの口が閉じられるたび小さく砕かれていくのを見るだけで、体じゅうを鉄のイバラで締め上げられたような痛みを感じてしまう。
 ともかく今は、どうかしちゃったぷーちゃんの正気を取り戻すしかない! 彼女の頑丈な腕で全身をからみ取られ身動きができないし、とげキャノンを放とうとしても枝が固まって動かない。震える舌をがむしゃらに動かして、どうにかぷーちゃんの暴走を止めないと!
「ねぇっ、ホントにどうしたのぷーちゃんっ! 進化したからって忘れてないでしょ、キラリだよ! 約束したじゃない、ワタシを食べようとなんかしないって! 本能に負けて、齧りついたりなんかしないって!」
 かすかに差し込んでくる太陽に照らされたぷーちゃんの目元はうっとりとほそめられていて。体に覚えさせるように噛みこまれていたかけらが、ごくり、と音を響かせて小さな喉を流れ落ちていく。口の中に何もなくなると、そのさみしさを味わうようにそっと呟いた。
「……甘い……」
 恋人に囁くようにこぼしたその一言で、ワタシは息を詰まらせた。届くはずもない短い腕でハッと空いた自分の口をふさごうとしてた。……確信した。ぷーちゃんは狂ってなんかないんだ、って。食べようと思ってワタシを食べている。なぜだかそう分かった。分かってしまった。それはつまり、ぷーちゃんの意識を元に戻そうとしたって無駄だってこと。
 そう理解した瞬間を狙ってか、ぷーちゃんの黄色い瞳がギロリ、と牙をむいた。
「ひッ……!!」
 殺される。思わず悲鳴が漏れていた。
 本能が直感していた。目の前にいるのは昨日までの友達じゃない。サニーゴを美味しい餌としか見ていない、ヒドい天敵なんだってことを。
「ぁ、ぃや、お願いあっくん、助け――」
「もう1本……いっただきまーす!」
 ごきり。今度は根元から丸齧りにされた。深々とえぐりにきた歯刃が、ワタシでも知らない体の奥の部分をこそげ取っていって。お腹にガラスを詰め込まれて、外から思いっきり殴りつけられたような感じがした。
「――――っッッッ!!!!」
 内側から焼き尽くす痛みに喉が裏返って、胃を吐き出すように絶叫した。初めてを奪ってくれたあっくんみたいな優しさはどこにもない、ただただ無機質な冷たさが脳に突き刺さる。ぷーちゃんがワタシのおでこに口をつけて枝を削るたび、ざり、ざり、と軽石で軟骨を削るような激痛が全身を駆け抜けた。白目をむきかけた視界の上の方で、ぷーちゃんの暗い影が踊っている。
「血は紅いんだねー……。熱くてまぶしくて、これも綺麗だよ! ねぇキラリちゃん、もっと飲ませてよー?」
「ぅぎ……ッ、――――ッあ゛っあ゛あ゛あ゛!!」
 人間の使うストローを脳みそに差し込まれて、中身をじゅるじゅる吸われているみたいだった。予期できた刺激なのに、身構えるワタシめがけてはるか上空から黒い鉄球を落とすような、圧倒的な暴力。全身の筋肉が限界まで突っ張ってのたうち回ることもできない。そのくせ体の奥底で目を覚ました生存本能が、しっかりしろ! と必死に意識を繋ぎ止めてくる。
「ふーーーッ!! ふぅっ、ふっ、ふ……っぁあああっ!!」
「キラリちゃん、もっとちゃんとしてほしい……かな。私の理想のキラリちゃんは、そんなはしたない声で叫ばないはずだよ。最後の最後まで美しいまま、人魚姫みたいに泡になって消えていくんだよ」
 いつものぷーちゃんの声。なに言ってるの!? とさえ、言葉にならなかった。痛みの激流に飲み込まれないようにするだけで精いっぱいで、ぷーちゃんの発する言葉の意味すらまともに頭に入ってこなかった。
 震えるだけで傷口に海水が染み込んで、どこもかしこも痺れるように痛い。まぶたが必要ないくらい目はずっと開きっぱなしで、次から次へと湧き上がる涙のせいなのか、視界がぼやけて見えてきた。
「キラリちゃん、もっといろんなところ、食べさせて?」
「…………」
 イヤイヤ首を振る元気さえ残っていなかった。浅い呼吸を繰り返し、鋭い痛みが引いてくれるのをただただ待つばかり。でもきっと、もう彼女はワタシを気遣ってくれる心なんか失くしてしまっているんだろう。
 助けを乞うように力なく見上げると、ぷーちゃんが笑っていた。暗がりでいつもより明るく笑うぷーちゃんが、なんだか喉の奥にぶら下がって揺れている肉のように見えて。
 ああ、ワタシはもうすでに、怪物の口の中に収められていたんだ。





 海流にさらわれまいと12本の腕を砂地にうずめ込み、痛みに暴れるキラリちゃんを抱き込んでいると、雄が雌を屈服させているみたいで興奮した。力を込めて彼女の美しい枝をへし折るたび轟く悲鳴は、島の北東に棲んでいるオドリドリたちのさえずりの如く澄んだ音色だった。
 大粒の涙を浮かべる目で「どうして、どうして」と訴えてくる可愛いキラリちゃんに、恋びとがそうするような甘い頬ずりを繰り返した。キラリちゃんはこれがお気に入りだからだ。
 顔を横に並べて、私の声で呟いた。
「違うよキラリちゃん、美味しそうだから食べるわけじゃないの。なんというか、ひとつになりたいの。キラリちゃんは完璧だから、私がこれ以上キラリちゃんに近づくためには、キラリちゃん自身を取り込まないといけないの。だから食べるの。もっと教えて欲しいな、キラリちゃんのこと」
「……うっうぅ、……ふぅうううっ!」
 神経反射のように悶える彼女のわき腹に腕を1本さし込んだ。硬い青色のサンゴの外殻を力任せに剥ぎ、白い肉質とのすき間にがさついた腕をねじ込むとまた鋭く鳴いてくれた。痛みに耐えようと思い切り噛んだ薄い下唇からは、鮮血が溢れ海水へと溶け込んでいった。
「あ」
「んっ!?」
 咄嗟に彼女の口へキスしていた。
 血のにじむ唇をそっとなぞるだけの柔らかい口づけ。それなのにキラリちゃんの口許は火傷しそうなほどに熱く、濃密な鉄の味がした。
 言葉を失ってぼんやりしているキラリちゃんに「……もったいなかったから」と言うと、マゴの実を喉に詰まらせたみたいに瞳の奥を震わせた。
 その表情がたまらなくなって、再度口を重ね合わせる。ぽかんと空いた口腔に舌を滑り込ませ、奥の方で縮こまっている彼女の舌を引きずり出した。我に返ったように唇を閉じて拒絶されたので、殻を剥ぎ取ろうとしていた腕を2本回して無造作に口へと突っ込む。腕の先端にふたつ付いている棘を釣り針のように曲げて左右に引っ張れば、抵抗空しく彼女の口はあけっぴろげになった。
 ああやっぱり、キラリちゃんは体の内側も綺麗だ。鮮やかすぎない粘膜のピンク、控えめに生えそろった白い歯は、傷つけることを知らない生まれたての赤子のもののよう。私も無様に飛び出した歯は折ってしまおう。
「……やっぱりキラリちゃんはすごいね。私なんかじゃ、到底敵わない……かな」
「ぁ、はぅかひぃよやえて、ぉぇ、はぁして!」
 喘ぐたび溢れてくる唾液が潮に流されないうちに、口を突っ込んで素早くすすりあげた。咀嚼した木の実を口移しされているみたいにねっとりとしていて濃密で。じゅるり、と音を立てて吸いあげると、キラリちゃんは顔を真っ赤にしながら上唇をとがらせてなんとか口を閉じようと頑張っていた。乱れた息が海水を震わせる。
 気付けば私の胸は別のいろの興奮で高鳴っていた。私がキラリちゃんを存分に味わっているように、キラリちゃんにも私を味わってほしい。頭に血が充填し、体は焼ききれるかの如く熱いのに鳥肌さえ立っていた。
 背中側に回した腕で続けざまに枝を2本折ると、んぎひぃ! とキラリちゃんは再度喉を張り上げた。反動で口枷(くちかせ)が外れたが、それよりも私はしっかりと握った青を改めてしげしげと眺めていた。
 折った彼女の枝は、ラグーンで拾ったことのあるソーダの瓶のようにキラキラと輝きを保ったままだった。舌で先端のかわいらしい棘を抜きつつ、全体に唾液を塗布させる。ぬめりの良くなったそのうちの1本を腕でしっかりと支え持ち、勢いよく突き刺した。――自分の雌穴に。
 キラリちゃんとの触れあいですでに分泌液で蒸し返していた私の生殖孔は、硬質な青い枝をやすやすと丸のみにし、それでもまだ足りないというふうににちゅにちゅと蠢いていた。枝の側面に不均等に飛び出した(こぶ)が、中の肉をえぐり排卵を促してくる。嫌いな雄で処女を捨てたときよりも、格段に快感の割合が大きかった。慣れない痛みに顔をしかめたものの、キラリちゃんと繋がりまた1歩完璧な彼女に近づけた高揚感から口の端が緩んでしまう。
 腹を打たれたような表情で混乱するキラリちゃんに、枝を咥えこんだ私の下腹部を克明に見せつけた。縛ったずた袋の入り口のような構造の下半身、その中央に刺さった枝を、蜂蜜をこねるよう腕で掴んでぬったりとかき混ぜる。秘口を支点として円を描くようにひり回せば、枝の届く穴の最奥――擦りつけられると尋常でなく昂るところが、ごりごりと削り込まれる。
「あぁ、ぁはぁ……キラリちゃ、気持っち、いいよぉ……!」
「ぷ、ぷーちゃ、ぇ、ゃ……、な、なにして……!?」
 下腹に食い込んだそれがキラリちゃんの体の一部だと自覚するだけで、発情したはしたない雌の如く肉鞘をぐしょ濡れにさせてしまう。たまらず垂れ流した潮だまりのような愛液に、キラリちゃんは言葉が出てこないようだった。
「ねぇ見て。いま私、はぁ……、キラリちゃんとひとつに、なってるの。女の子どうしだけど、こうすれば、んあッ、ちゃんとひとつになれる、でしょ? 一緒にきもちよく、っひ、なってほしいの」
「こ、こんなの……、こんなの、どうかしてる! 絶対に間違ってるよぉ!」
「……そうだよね、痛みでそれどころじゃないもんね。でも私なら、取り除いてあげられる……かも」
 話聞いて! と叫ぶ彼女の白い腹にとすっ、と腕の内側の針を刺した。毒の盛られた鉄針は深々とキラリちゃんの肉質をえぐり、それはまだ青いヨプの実の表皮を歯で突き破る感覚に似ていた。
 今までにない刺激を受けたキラリちゃんの体は私の腕に抱かれまたびくん、と跳ねた。え? と視線をわき腹に落とし軽微な痛みの元をさがす彼女が愛おしい。
「大丈夫、いま毒を入れたからね。これでじきに痛みも感じなくなるからね」
 一瞬なんのことかと呆気に取られていたキラリちゃんだったが、じわりと灼ける腹の熱に気付いたのだろう、全身を小刻みに震わせ慌てふためいた。
「ゃ、いやぁ、毒、ドク、どくを治さなきゃ……!! り、”リフレッ――」
「やめておいたほうがいいよ」
「――ひ!?」
 私の制止が鼓膜に刺さり、再度キラリちゃんは背筋を凍らせた。心地よかった。私の存在がキラリちゃんの中で大きくなっていくことが、これからの行為への期待をいっそう引き立たせていた。
「私の毒、初めてよりも2回目、3回目の方が効きやすい*1んだって。治しても治しても、その次がつらくなるだけ……かも」
 冗談のつもりで言ったもののキラリちゃんは真に受け取ったようで、強張った体をゆっくりと弛緩させ私にゆだねてくれた。ドヒドイデの特性なのだろう、毒状態に陥ったキラリちゃんの体の細部が手に取るようにわかる。どこの神経が麻痺しているのか、どこが敏感な急所となっているのかが、包み込んでいる腕からじんじんと伝わってきた。
 ――ああ、キラリちゃんの美しい外見や心の内面だけでなく、肌の下の細胞や体液のうごめきまで察知することができるなんて! キラリちゃん自身でさえ知りうることのない彼女の情報を、私だけが享受できるのだ。これで興奮しないはずがなかった。
「ぃや、ぁ、こわ、こわいぃぃ……っ! っぐ、ぁ、ひぐっ、あぁぁ……っ」
「大丈夫だから安心して。だって、私だよ? キラリちゃんの1番近くにいて、キラリちゃんを1番に理解している私が、キラリちゃんを1番気持ちよくさせてあげられるの。あんなカマ野郎なんかよりも」
「……ぇ、いま、なん……て……?」
 震えるキラリちゃんの唇を無理やり塞いだ。そんなことより私だけを、私との交わりだけを考えてほしい。他のことなんてぜんぶ、痛みとともに忘れ去ってしまえばいい。
 はやるようなキスの仕方は、獲物の喉元に噛みつくときのそれに似ていた。隙だらけの口めがけて首を傾け、重力にしたがい落ちるようにぶつかる。勢いもそのままに唾液で濡れた舌でキラリちゃんの口腔を撫でまわした。ひりついた粘膜の凝縮したにおいに混じる、うっすらと痺れるマトマの酸味。肉など到底擦り切れそうにもない小さな歯、それを支える可愛らしい歯ぐきを、ひとつひとつ確かめるように舌先で犯して回る。
 ぷは、と口どうしを離して、私は意地悪く聞いてみた。
「まだ痛む?」
「ぁ……れ、いたくない……。痛くないよ……? からだ、治ったのかなァ?」
「本当? ……ごめん、私も我慢できなくなってきた。続き、しようね」
 華奢な枝を折り外殻を剥ぎ取っていた腕で、繊細なキラリちゃんの肌を傷つけないよう丁寧に広い腹部をなぞる。包み込むような優しさで何度も往復させていると、濁流に飲み込まれた幼子の如く泣きすするだけだったキラリちゃんの喘ぎにも、次第に艶のこもった響きが織り交ぜられるようになってきて。
 爪を立てないよう少し強めに按摩すると、キラリちゃんの呼吸に合わせて膨らむ箇所とそうでない箇所がある。……この純白の真珠の中に、どれほど美しい臓物がしまい込まれているのだろうか。ひとつひとつ取り出して、繊維の1本まで確かめてから食べることにしよう。
「キラリちゃん、キス、好きなの」
「ァは、うん、すき。ぷーちゃん、すきぃ……んちゅ」
 んちゅ、むちゅ、粘膜と粘膜をこすり合わせる。息もつかさぬほどのキスをしばらく続けていると、暗く塗りつぶされたキラリちゃんの瞳がほのかに光を取り戻した。
 一度は拒絶された舌どうしの絡め合いも、キラリちゃんから仕掛けてくるほどだった。ざらざらした感触、お互いを溶かすもつれあいの中に、んぁ、はぁ、と淫靡な喘ぎが交じる。
 離れるのを名残惜しむようによだれを彼女に流し込む。こくこく飲み下すキラリちゃんの呆けた顔を眺めるだけで、自分の肉孔をかき混ぜる腕が過激さを増した。媚薬を飲まされたような蕩け切った声で、キラリちゃんは喉を震わせた。
「す、すき……、はぁっ、ワタシこれ、すきぃ……!!」
「んっ、じゃあそろそろ……キラリちゃんにっも、入れてあげるね」
「ゃ、まっ――ひゃぁああっ!!」
 長らく放置しておいたもう1本の枝。熟れたザロクのようにぐずぐずになった彼女の膣口にそれをにゅくにゅくと沈めれば、キラリちゃんは甲高い悲鳴を上げた。
 2本の枝を同時にさばく。同じ強さ、同じ回転速度で、同じ性感を得られるように。
 惹かれあうようにキスを繰り返し、お互いの興奮をひとつに混ぜ合わせる。毒で目を赤紫に充血させて、ぁ、すき、んふぁ、とおぼろげに口ずさむキラリちゃんが、狂おしいほど愛おしい。完璧な彼女と上も下も繋がって、私は限りなく彼女と同じ位置にいるんだと実感した。
 巻貝を虐めるように突き込んだ棒をぐりり、と回す。枝越しに伝わる柔らかさの子宮口をまんべんなくひっかくと、キラリちゃんは再び唾を飛ばした。
「どう、気持ちいいって言ってくれたら、もっとやってあげる」
「ひ、ひも! ひもちいぃよ! もっと……っは、もっとやって!」
 まさかここまで淫乱だったとは。このような親密な間柄になったからこそ分かることだ。淫乱は悪ではない。より多くの子孫を残すべくあまたの雄を誘惑し精を取り込もうとする痴態は、雌として最も優れた素質と言っていい。やはりキラリちゃんは、完璧な存在だ。
 ぬるついた粘液を泡立てている枝でボコリ、と一部が異様に膨れ上がった下腹。余った腕をキラリちゃんの腹に回し、その隆起を押し戻すようそっと撫でてあげるとさらに美しいさえずりを響かせる。
「しゅご、ひ! こ、こりぇ、おなか、こすれて……んァあアア!!」
「……やっぱり敵わないよ」
 血交じりのよだれを吐き散らし、キラリちゃんは破れた喉を引き裂かんとばかりに叫んでいる。彼女が絶頂するたび、銜え込んだ枝がびくっ、びくんと赤く濁った愛液を散らして跳ねまわった。征服感と嗜虐心が煽られて、私が雄ならばこの時点でもう3度は射精に至っていただろう。
「私も気持ちよくなりたいの……最後は一緒にイこ。キラリちゃん。どう?」
「ぁ、あぃ! 好き、ぷーちゃ、だいすきぃッ!! だから、お願い、おねがいだからぁ、た、たすけ――」
 お互いの体がひとつに溶け合うが如く性感が最高潮に昂った瞬間に、蜜壺にしゃぶられている青いとげをどちらもずっぽりと、背中をそっと押すように埋め込んだ。キラリちゃんが生涯最も幸せそうな顔で絶頂に達したところで、やはり、私は、彼女の白い首筋を噛んでいた。愛咬(あいこう)癖があるのかもしれない。





 一連の行為のさなか、「食べてしまいたい」と「好き」がほとんど同じ気持ちから来ていることに気がついた。私の愛情表現は一般のポケモンの範疇に収まることなく、その行きつく先が食べることによる同化行動だった。
 だから、私はキラリちゃんを食べた。
 顎に力をこめて、がぶがぶ噛んだ。臼歯で外殻をすり潰し、口から飛び出た牙で白身の肉を食いちぎった。ありとあらゆる臓腑の裏側まで舌を這わせて、筋繊維の1本に至るまですべての形を歯で確かめた。噛んで噛んで、歯にさわる彼女のすべてを粉々にするたび、言い知れぬ酩酊感に襲われる。口内にどっと広がるつんとしたにおい、舌を痺れさせるほど凝縮されたエキス。噛めば噛むほど原形をなくし海底火山のマグマのようにとろけて、甘い味がにじみ出てくる。次から次へと唾液がせり上がってきて、飲み下すのもひと苦労だった。
 湧き上がる幸福感は味だけのためじゃない。憧れだったキラリちゃんとやっとひとつになることができた。
「キラリちゃん、私キラリちゃんのことが好き……かも。……ううん違うね、大好き……です。友達として、異性として、獲物として、愛しています。……よかった、ようやく言えた。今までこの気持ちがなんなのかよく分からなかったけど、キラリちゃんのおかげでやっと気付くことができたの。これは愛なんだって。私のそばから片時も離れてほしくないし、キラリちゃんに釣り合わない雄なんかに盗られるのなんて耐えられない。私の血になって肉になって心になって、これからはずっと一緒だよ」
 足元に散らばった青いキラキラに向かって、私は――ワタシは、そっと囁いた。





「見つけたぜ! オマエ、テプルだろ!?」
 ごちそうさま、を言い終えた私の背後から、ぶしつけな声が響いてきた。振り向いて前の腕を広げると、日が落ち暗く冷たい海の中、銀の腹をひらめかせたヨワシが小さい声を張り上げていた。
「……だーれ?」
「オレだよツヨキだよ、初対面でもねェのによそよそしいなァ。しらばッくれても見逃さねェからな!」
「ワタシはキラリ! よろしくね!」
「……は? なに言ってンだ、キラリってェのはオレが捕り逃がした色違いのサニーゴで……って、キラリを知ってるってェこったァやっぱりテプルなんだろう!? なんだその声、キラリにそっくり真似しちまって、気持ち悪ィ」
 憎々しげに吐き捨てて、ツヨキは体をゆするように泳ぎ迫ってくる。友好的な雰囲気でないことはひと目で明らかだった。
「あのときオマエが邪魔したせいで! 『弱いポケモンなんかいらない』って、オレは捨てられたんだぞ!」
「それ、ワタシのせいかなー? 群れを率いることもできないヨワシなんて実際に使い物にならないじゃーん!」
「だまれ! あれからオレは強くなったんだ、けど捨てられた! オマエを叩きのめさねェと、オレの腹の虫が収まんねェんだよっ!」
 ひ弱そうな口から罵詈雑言を投げつけていざ飛びかからんとするヨワシの目線が、ワタシの最も高いあたりに留められた。
「その青い棘……どうしたんだよ」
「……」
 何も答えず押し黙る私に何か感づいたのか、ハッと見開いた瞳を震わせた。
「オマエ……もしかして、喰った、のか……? 嘘だろ、マブダチって言ってたよな……?」
 針を覆い隠す棘は正確には貰ったものだけれど、はしなくも遠回りせず正解にたどり着いていた。さらに正確性を要求するなら「喰った」のではなく「愛した」のだけれど。
「もしかして……ワタシのこと、好きだったー? ゴメンねー、もうワタシはぷーちゃんとひとつになっちゃったんだー!」
「よっ寄るなマモノめ! なんにせよオレはオマエを許すつもりはないぞッ。オレの群れのエサになるんだな!」
 今にも泣きじゃくりそうに大粒の涙を湛えていたツヨキの涙目が潤んで発光する。ずずず、と海流が蠢くと、岩の影から次々にヨワシたちが集まって、港に泊まる船舶さながらの巨大な魚影を作り上げた。
「か、かかれッ! バラバラにしちまえッ!!」
 声は震えていたものの、一応は群れのリーダーとして信頼を得ているようだった。ぶわっ、と一瞬にして膨らんだ魚群が、丸呑みにせんと私めがけて口から倒れ込んでくる。
 だが、バトルも完璧なキラリちゃんとひとつになった今の私が怯えるような相手ではなかった。見せかけの巨体での突進など、腕をすき間なく閉じトーチカで身を守れば触れたすべてのヨワシを毒殺できる、非常にたわいないものだった。
「……」
 けれど、私は閃いてしまったのだ。
 最愛のキラリちゃんが、私の目標が、最後の最後には食い散らかされて命を散らせていったということに。
 不敵な笑みを浮かべたまま、しかし私は何もしなかった。なすがまま魚影の口袋に収められ、一瞬にして闇に取り囲まれた私はさらに高揚した。私の置かれたこの状況は、12本の私の腕で抱きしめられたキラリちゃんのそれと酷似しているだろう。不安、閉塞感、これから何をされるのだろうかという絶望に身を震わせていたキラリちゃんと同じ経験ができるとは、この上ない僥倖(ぎょうこう)だ。
「オレのキラリを、オレが好きだったキラリをサンゴの先っちょだけにしちまいやがってチクショウ! オマエも同じ目に合わせてやる!」
 魚群の目が叫んだ。それはむしろ私にとって非常にありがたいことだ。さらに幸運なことに、暴食するにあたって私の毒を嫌がったヨワシたちが水浸しで全身から毒気を抜いてくれた。これ幸いにと針を自分の腹に突き刺し、毒液を注入する。灼ける疼痛を伴いじくじくと体を蝕まれる初めての被征服感に酔いしれていると、掛け声とともに体のいたるところを無数の口で一斉に噛みつかれた。
 ――痛い! 体の肉を強靭な顎で齧り取られていくのが、これほどにも痛かったなんて!
 だが、熾烈な痛みをものとのせずに、どうしようもない充足感がふつふつと心の底から湧き上がる。バトルに勝っただとか、好きなひとと愛し合っただとか、そのような類ではない。もっともっと崇高な、それは例えば大往生を遂げ暖かな走馬灯を見ているような。
「……ふふっ。……ふふっふ、ぁはは、あははハハハハハハハハハ!!」
「な、なにが可笑しい!?」
「これで! これで完璧なのッ!! ワタシはやっとキラリちゃんみたいに完全で完璧な存在になれたんだよォ!! これでっ、これでこれでこれで――」
 群れの指揮を執っていたツヨキが、巨大な怪物を従え無抵抗なワタシを蹂躙しているというのに、まるで群れごとホエルオーに丸呑みにされたかの如く絶叫した。
「お、お、オマエの中には、なにが入ってンだよぉッ……!!」
 ……これで。
 これで、なんだろう。キラリちゃんを追い求めて完璧になった私は、それからどこに向かおうとしていたのだろう。
 自分で自分の化けの皮を剥いでしまった。中身はなにもない。もぬけの空だった。
 どこの肉を持っていかれたのか分からないが、ぐらり、目玉がひっくり返って視界が暗転した。





☆☆☆





 私は岩陰からそっと覗いていた。
 活気あふれるサンゴ礁の一角で、新たな生命(いのち)が生まれようとしていた。群れの仲間であるらしいサニーゴや多くの水棲ポケモンたちに見守られながら、ほの青く光るたまごにひびが入り、小さな泡が弾けるようにして殻が割れた。
 それは、忘れようにも忘れられるはずのない光景。
 凪いだ水面に落ちて弾ける雫のようなきらめきを纏って、青いサニーゴの赤ん坊が安らかに寝息を立てていた。まだ十分に発達していないサンゴの外殻から発せられる清らかなエネルギー。どこまでも深く続いている海溝を覗きこんだときの、おずおずと許しを乞ってしまう感覚に似ていた。触れるなどもってのほか、目を向けることさえおこがましい、神に愛された完璧さが、そこにちょこんと鎮座していた。
 そのとき私は一瞬で彼女に心奪われていたのだ。子供心ながら一目ぼれだった。彼女は私の目標であり、憧れであり、畏怖の対象になった。
 生活の中心にはいつも彼女がいた。頭の中で理想の彼女を偶像し信仰していた。毎日の生活リズムを知るために彼女をストーキングした。
 彼女は流れてくる木の実を好んで食べていたから、私もそれに従った。本来肉を食べるように作られている私の体は途端に音をあげ関節が上手く働かなくなったけれど、これも彼女の啓示だ。背いていいはずがなかった。そのうち慣れたが、体重はかなりすり減った。
 泳ぎが速いと知れば私も死に物狂いで水を掻く練習をしたし、日光浴が好きと聞けば私も砂浜で干からびた。覚えられる限り彼女と同じ技を習得した。趣味の真珠集めも、就寝から起床までの時間も、心臓の拍動数でさえ、私は彼女に倣おうとした。
 それでもやはり限界を感じて、これ以上彼女になりきるためには、遠くからそっと恋慕の情を募らせているだけでは進展しない。そう悟った私は、そのときたまたま知り合った、旅をしている人間の手持ちであるというヨワシに話を持ち掛けた。
「……わ、私の友達でサニーゴのキラリちゃんっていう女の子がいるんだけど、その、色違いなの」
「えーっ!? マジかよスゲぇ!」
 一生出世できそうにない語彙力でヨワシが叫び目を輝かせた。……ああ、彼女に比べて他の生き物はどうしてこんなにも醜いのだろう。刺胞で突き殺してやりたい衝動を抑えて、彼女を捕まえるのにベストなタイミングをそれとなく伝えてやった。好奇心旺盛な年頃になった彼女が、昼過ぎにひとりでサンゴ礁を外れ孤島のラグーンまで真珠集めに足を延ばしていることは、すでにリサーチ済みだったからだ。
「でもいいのかよホントに。マブダチなんだろ?」
「ううん、彼女はこんな狭いサンゴ礁で終わっていいポケモンじゃない。あなたと旅して、より広い世界を見るべきだもの」
 もちろん嘘だ。群れのリーダーとしての求心力すらない弱い雄に彼女を差し出すつもりなんてさらさらなかった。わざわざ情報を流し泳がせたのも、私と彼女の運命的な出会いを演出するきっかけ作りに過ぎなかった。
 雑魚も雑魚なりに頑張ったらしく、指定した時刻にトレーナーを連れてヨワシは現れた。あとはピンチになった彼女の助けに駆けつけ、雑魚を適当にあしらって彼女と逃避行するだけでよかった。
 そうしてあっけないほど簡単に彼女を手に入れることができたのだ。きらめく笑顔を向けられるたび、不自然ににやけてしまうのを抑えようと気が気ではなかった。初めて食べかけの木の実を分けてもらった日には、その蕩けるような口当たりを妄想してひと晩じゅう自慰にふけっていた。
 そうそう、性経験といえば突然彼女に言い寄り、あろうことか私を出し抜いて彼女と事に及んだオシャマリがいた。仲睦ましくまぐわう彼女らを遠巻きに眺めていた私は、どれだけ残酷に奴を死に追いやれるか頭を高速回転させていた気がする。行為の疲れからか気を失った彼女をそっと抱きかかえる奴に襲いかかり、彼女のロストヴァージンを追体験し終えた後はきちんと殺めておいた。
 誰かにかすめ取られるくらいなら、完全に私のものにしてしまおう。
 無意識にもこのような教訓に至れたことが、私にとっては大きな進歩だった。異性であればそれは簡単だろうが、恨めしくも私と彼女は番えない間柄。食べる、という結論に至ったのはごく自然な考え方のような気がする。食べている間は、崩れたパズルのピースがあるべきところに戻ってくるような、そんな充足感で満ち満ちていた。
 思えば、私は物心ついたころから独りだった。これはずいぶん大人になってから知ったことだが、私たちヒドイデ族は腕が千切れるとそこから細胞が再生して、2個体に分裂することがあるそうだ。
 憶測ではあるが、私もそんな哀れな切れ端の一部だったのだろう。親の愛情を受けることなく育った私は、すっぽりと自分というものが抜け落ちたまま立派なヒトデナシへと成長してしまった。私が彼女に執着したのは、誰からも振り向いてもらえないスカスカな心の隙間を埋め合わせようと必死だったからかもしれない。ヨワシの群れに食いちぎられてバラバラになったのも、そんな惨めな嫌われ者にはふさわしい最期だったような気がする。
 そうして今は、生ぬるい海流に揺られひらひらと舞う組織の一片にひっかかった、わずかな意識だけになってしまった。ぶくぶくと浮かび海面が近づいてゆくにつれ、照り付ける太陽の白い光に残った自覚も徐々に塗りつぶされようとしている。それはいつか見た、海面の天井一面にきらめく走馬灯に似ていた。あまたの不確かな記憶からなる今の私という、はかない泡のような存在。腕を伸ばせば届きそうなのに、もうその腕も残ってはいない。
 今はただ、広い海の中へと散り散りになったヒトデナシ達が、近い将来私と同じように"青いとげ"を探して、海底を元気に這いずり回ることを祈るばかりである。












あとがき

 アローラ地方の新ポケたちはみんなキャラが立っている気がします。小麦肌サーファーのライチュウちゃん、四重人格オドリドリさん、王冠即落ち踏みつけ女王アマージョ様、言わずもがなのエンニュート姐さん……。そんな中からクレイジーサイコレズなドヒドイデちゃんのお話でした。
 あんな可愛いナリしてサニーゴを食い散らかすとか、かなり業が深いですよね……。一目惚れしてしまいましたよ。でもポケモンの世界ならサンゴも動けちゃうので食べるのにもひと苦労しそうです。いざ襲いかかったとしてもサニーゴ0.6mにヒドイデ0.4m。……これヒドイデちゃんかなり頑張らないと帰り討ちに遭いそうですね。ドヒドイデに進化すると素早さが下がる代わりに0.7mにまでなるそうです。それでも本作のようにサニーゴを包みこむのには骨が折れそう。
 他のポケモンの図鑑説明も食物連鎖や生死にまつわる内容が多く、それなら今まで敬遠してきた捕食や残虐描写をやってみようと筆を取ったはいいものの、グロ表現が難しいのなんの。海に棲むポケモンの一人称視点にしてしまったので例えられるものの範囲が狭すぎて(紙で眼球を切ったような鋭い痛み、みたいなのが書けない)痛覚に訴えられる表現が少なく、また登場人物がたくさん死ぬわけではないので首が吹っ飛んだとかも安易に書けず、そういった方面では不完全燃焼でした。ただグロありの濡れ場はいつも以上にノリノリで書いていたので、また自分の新たな嗜好に気付かされてしまいpkmn二次創作には驚かされるばかりです。
 ともかく久しぶりにエグったらしいものを書けて満足できました。このような心にズシリとくる短めの作品は私が目指していたひとつの形なので、ようやく納得のいくものができたのかなぁ、と思っております。
 みなさんの心に"青いとげ"は刺さりましたでしょうか?




以下大会時に頂いたコメントへの返信です。


・業が深くて素晴らしかった。 (2016/12/19(月) 20:02)

中学や高校の頃、仲のいい友人の髪型やバッグのブランド、SNSのアイコンなどをぜんぶ真似したがる女の子はいませんでしたか? 実際そういう子は両親から愛情を受けずに育っていたり、自我が欠けていて依存症であったりすることが多いそうです。あなたも知らず知らずのうちに、食べられそうになっているカモ……。


・徐々に話が暗くなっていく文全体の構成、濃厚な官能描写、引き込まれて「もっと他の選択肢は無かったのか」と、読み終えた後もしばらく耽ってしまい、もっと読みたいと感じる小説でした。
これからも頑張ってくだい! (2016/12/23(金) 21:18)

もちろんハッピーエンドも考えましたが私の好みはコッチでした! 残念!(
文章量はこれが上限ですね、これ以上だらだら引き延ばすのは冗長になるのが目に見えていますから。私の勝手なポリシーとして短くまとめる方がカッコいいと思っておりますし。こういうのは「もっと読みたい」くらいで切り上げるのが吉でしょう。
これからもこういう作品を書いていきたいですね、応援ありがとうございます!


・上手く言えないんですけど、地の文や心理描写が凄い…。
最高の友人であるキラリの枝を齧り取ってうっとりと甘さを噛み締めたり、ヨワシに襲われた時は、業と無抵抗で自分を齧り取らせて、この上ない僥倖とまで言ってのけて酔いしれてしまう。
テプルの狂気過ぎる描写が兎に角凄かったです…。 (2016/12/24(土) 02:19)

憧れのキラリになりたいがあまりテプルはその体の一部を取り込み、さらには死に方まで同じが良かったんですね。やっていることは狂気でも、テプルの中では単純に『キラリと同じがいい』ってだけで決めていますから、恐ろしいものです。
心理描写については、今回はわりと回りくどい表現を避けて書いたつもりです。比喩とかはガンガン使ってたんですけど。それが分かりやすかったのかもですね。
狂気を一人称で書くのが思いのほかに難しかったです。どんなえげつない行為でもやっている本人は当然と思ってるんですからね。こちらは直接的には描かず、怖さや不気味さを浮き上がらせる表現に凝ってみました。
しかしまぁ、私が書く女の子はみんなどこかネジ飛んでますね。


・最初の方のほのぼのとした雰囲気から、突然狂気した状況になるという点にとてもびっくりして、心掴まれました。テプルの同一化したいという強すぎる感情と、ヒドイデの特徴がうまく合わさっていてすごいと思います! (2016/12/24(土) 05:56)

甘い官能が終わった直後に怖さで縮み上がらせる(何を)のはやってみたかったんですw
和姦→強姦の落差は地の文がかたくなるのも相まって結構インパクトあるものになっている……といいなぁ。ぶっちゃけ官能はこの温度差で勝負してました。内容的には初のGLだったのですがネタ切れ気味で……。
ヒドイデちゃんのあの、見た目からしてメンヘラ感のにじみ出ている特徴的なデザインはなんなんでしょうね。絶対に雄より雌のがいいし。キャラ設定についてはなにか見えない力に強いられていた気がします。テプルは最後に自分が千切れた腕から再生した個体かも、と気付くわけですが、なんで元のヒドイデは腕が切り離されてしまったのでしょうかね。自傷行為によるものなの……? なんて考え始めると、さらに闇は深まるばかり。


・毒牙にかかる、とはこのことでしょうか(棘ですけど)。
好きの気持ち、憧れの気持ちは一歩間違うと狂気でしかないですね。 (2016/12/24(土) 09:42)

作中にも出てきますが「食べちゃいたいくらい好き」を地で行ったまでです。そういう常套句があるくらいですから、恋びとを食べたい人は案外多いんじゃないでしょうかね? 愛情表現なんて人それぞれ、どこかにはポケモンを愛するあまり氷漬けにして部屋に飾り、未知の生命体と合体し自分だけの世界に引きこもろうとしたお姉サマもいらっしゃいますから……。
そうだ、私も憧れの作者様を食べてその完璧な文章力を手に入れれば……ふふ、ふフフフ。


・作中で言及されるミミッキュの挿話を読み返してみると、孤独なテプルがみんなの中心となって愛される青いサニーゴに自分の姿を当てはめた気持ちが理解できました。ふたりとも『青いとげ』を持っていたからですね。
だから、これはみんなに愛されたくて擬態することを選んだミミッキュの話でもあると感じました。この挿話の使い方が実にみごとです。
大惨事を予感させるラストも含めて、大変おもしろく読みましたので一票。 (2016/12/25(日) 18:39)

……そうです、そうなんです。テプルの行動原理を『憧れの人と同一化したい』にすると「それってミミッキュで書けばいいじゃん!」ってなるんです。1万字ほど進めたところでこの壁にぶち当たり、むしろミミッキュの話にした方がすんなりと入っていけることに気づいて嫌気が差し1度筆を投げました(
急きょ食べちゃうオチにしたところなんとか書き終えることができたのですが、そのせいでテーマがブレブレ、テプルの言葉にも違和感あるものがいくつか出てきてしまいまして。もっときちんと事前に練ってから書き始めていくべきだったなぁと反省しております。
筆を投げたときに「ならミミッキュとピカチュウだったらどんな話になるんだろ?」と考えたものが副産物としてあの挿話となったのです。境遇が似ているワケですね。おっしゃる通りそこが作品の壮大なメタファーになっていました。


・タイトルからしてなんかとてつもなく嫌な予感はしていましたが案の定。読んでる途中で胸が苦しくなる小説でした。テプルちゃんの狂った愛がどこかでキラリちゃんへ届いていることを願うばかりです。 (2016/12/25(日) 22:18)

タイトルからにじみ出る雰囲気ってありますよね。本当は作品を書き終えてからタイトル決めたいのに大会のエントリー時に公表なので毎回ちょっと焦ります。それまでに作品のプロットを決めておかないと変更が利きませんから。
テプルもキラリもお互いが好きでしたよ、ただその大きさと表現方法が違い過ぎただけで。
最後の最後にテプルも自分の過ちに気づきましたから、あの世できちんと仲直りしてくれているでしょう。官能ではキラリもあの乱れようでしたからね、案外ヤンレズ毒プレイにヤミツキになっているのやも。


・こういう鬱展開は大好きです。……本当に、哀しくなっちゃいますが。
ここまで入り込めるような描画や展開は見事でした。
そして、種の本能というものを強く感じることができました。 (2016/12/25(日) 23:47)

3万字超えてますからね。読了お疲れ様でした。私もキャパオーバーです。
目標だったキラリを食べ同一化し、ヨワシに噛み千切らせたことで自分の中に何もないと気付かされたテプルは、最後の1行、ようやくヒドイデという自分の種の繁栄を願っています。これはある意味、テプルがヒドイデとしての自我を取り戻したと言っていいのかもしれません。彼女がついに本当の自分を見つけられたという点ではハッピーエンド……なのかも。海にヒドイデが大量発生した結果、ハッピーになるとも限りませんが。
……ひどくモヤっとした、含みのある締め方&あとがきですね。作者の性格わるいなァ。



投票してくださった方、読者の皆さま、主催者様、ありがとうございました。



ここが分かりにくかったなど指摘をいただけると今後の参考になりますので、気軽に私の心にグサグサ刺していってください。もちろん優しい言葉も大歓迎ですよ!

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  • ストーリーの海パン野郎との戦闘で出会い、毒タイプと知り、特性に驚き、そして隠れ特性にも驚き、種族値で驚き、トーチカに驚きと、惚れ具合としてはエンニュートと同じなのですが何度も惚れることができたドヒドイデ。そんな彼女の話を、しかも官能で読めたことは本当に嬉しいです!
    最初の注意書きの時点で結末が読めてしまったのですが、それでも僕には決して思いつかないような結末をいつも見せてくれる水のミドリさんにはいつも頭が下がります(まさかドヒドイデ♀の官能を考えてたなんて言えない……)。
    どちらかといえば僕はハッピーエンド派なんですが、注意書きもあるし、途中で水のミドリさんだと特定できたのでまずないなと思いましたし、それでもやっぱりドヒドイデなので、心に穴が空きながらも満足して読むことができました。
    これからもがんばって下さい。 -- カナヘビ
  • 青いとげが刺さるどころか突き抜けて行ってしまった者がここに。寝る前に読んでしまったせいか次の日の寝覚めもひどかったです(褒め言葉
    ヒドイデとサニーゴのお話で注意書きがいくつも書かれているとなると、何となくどうなってしまうのか想像が付いてしまいましたが。いざキラリがテプルに食べられるシーンになるとああ、やっぱりか……ととてもやるせない気持ちになったのをよく覚えております。
    自らが利用していたヨワシにバラバラにされてしまったテプルの結末は狂気を感じながらもどこか美しい、もしかするとこれがトゥルーエンドだったのかもしれませんね。私には到底書けそうもないストーリーに表現ばかりなので引き込まれるばかりでした。
    これからも応援しているので、ミドリさんの新作が来たら登場人物が悲惨な結末を迎えないかひやひやしながら読ませていただくことにしますね( -- カゲフミ
  • >>カナヘビさん
     ドヒドイデちゃんのハッピーエンド書いてくださってもいいのよ……?
     しかもヒドイデとサニーゴは同じタマゴグループなのですよね。これで閃かないはずがない。こんな作品書いておいてなんですけど食べたいの我慢してイチャイチャしてくれるだけで私は感無量です(?)
     とまあ、私もヒドイデちゃんに見惚れてしまいました。あの見た目と設定がどストライク、嫌われ者のオニヒトデがこんなにも可愛くなってしまうなんて。彼女の運命を妄想しているうちに、このような形になっておりました。そりゃ百合させたくもなるでしょうよ(??)
     カナヘビさんは毒タイプがお好きでしたね。毒はいろんな使い方ができて便利です。腐食のエンニュートも鋼タイプに初めての痛みを味わわせてあげられるとか……素敵。ドヒドイデちゃんももっといろんなコトができそうですね。物語にしたいことがあれば、ぜひお願いします。心に開いたドヒドイデ型の穴は、ドヒドイデのお話でしか埋められないですから(???)
     しかしえっと……私だと特定できたのでハッピーエンドはまずない……? なんだかまるで私がバッドエンドばっかり書いているみたいな……書いているか。たまにはみんな幸せエンドも書きたいですね……書けないか。
     ともかく、応援ありがとうございます!

    カゲフミさん
     注意書きで顛末はほぼ想像ついちゃいますでしょうが、それを上回るエグさは出せていましたかね。私的にはまだまだグロ表現を凝りたかったのですが、これくらいが丁度いいのかもしれません。心の風穴を埋めるようなイイコトがあるよう願っております。私も寝る前に書いて寝付けなくなりました(
     冒頭の注意で捕食アリといえどまさかテプルまで食べられるとは思わなかったでしょう! 当初はキラリが食べられるところで終わりだったのですが、ノリノリで書いていたらいつの間にかテプルがバラバラにされたシーンまで書きあげていました。なんだか彼女自身がそうなりたがっていたような……そういう意味でもトゥルーエンドなのかも。
     応援ありがとうございます。私は好きな子にはエグいことをしたい&させたい人なので、長い話になると自ずとこんな感じになってしまう可能性が……。掌編ならそんなことは(たぶん)ないので、安心してよろしくお願いします。 -- 水のミドリ

    • 読んだあとしばらく心に残るような作品を創り出せる作者様はすごいです。
      オシャマリ、ヨワシ、ヒドイデ、サニーゴのだれも報われなかったと思うと
      心に"青いとげ"が刺さります。 -- ピカチュー ?
    • >>ピカチューさん
       とげには返しが付いていますので、いちど刺さったらなかなか抜けません。そんな作品を目指して書きました。明確な悪役がおらず、不幸な噛み合わせの連続でバッドエンドに持ち込むと後味ドロドロですよね……それが好きで書いているのですけれど。 -- 水のミドリ
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*1 実際のオニヒトデの毒もアナフィラキシーショックを引き起こす。

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Last-modified: 2016-12-30 (金) 01:53:24
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