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雪解けに、冠は笑う

/雪解けに、冠は笑う

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作者:ユキザサ


語り部 


 我々にとって信仰は力である。神を神と足らしめるもの、それが信仰であると。近頃大きな穴で人の子が友とした東洋の時神がそんなことを言っていた。信仰を失い力無力となりつつある余にとってその言葉はひどく耳が痛いもので上から見つめてくる時神を見上げることしかできなかった。
 薄れゆく記憶の中でなぜか覚えていることがあった。いや、覚えているという表現は間違いである。そもそもこの記憶が本当に余の実際に経験したことなのかも正直怪しい。一面に咲く輝く青い花、葉が生い茂る約束の木、そこに佇む人の子。靄がかかるのはいつもその人の子の姿だ。だが、この心がずきりと痛む。忘れてはいけない、思い出せと囁いてくる。

 あぁ、いつからだろうか。人の子が余を忘れたのは。

 いつからだろうか。この地が凍てつく大地になったのは。

 いつからだろうか。余が民の事を忘れたのは。







雪解けに、は笑う





「ピオニーさん何やってるんですか?」
「おぉ!アオハ隊長。こないだの試合見たぜ!そこの王様も大活躍だったじゃねぇか!」
「カムゥ」
 この男は少々うるさいが余の力を注いでも問題ない頑丈な人間のため時折人の子と話すために体を借りている。相変わらず声がでかいのである。
「ありがとうございます!それで何をしているんですか?」
「あぁ!村長たちがなぁ、手綱の作り方を教えてくれって聞かなくてヨォ」
「手綱?絆の手綱のことですか?」
「おう!それだそれ!なんか最近あのキラキラしてる花が咲き始めたらしくてな、今後は忘れてた分もきちんと毎年奉納したいんだってよ!」
「へぇ!私にも教えてくださいよ!」
 今の話の中に少しきになる点があった。輝く花が咲き始めた?余はしばらくの間人の子と共にこの地を離れていた。今手に持つ手綱は余が取り戻せたわずかな力でようやく一輪咲かせることができたのだ。先ほども言った通りしばらくこの地を離れていた余は直接この地に力を注ぐことはしていない。なのになぜ……
「んぉっ!」
『人の子よ少し付き合ってほしい』
「うわ突然びっくりした。どうしたの王様」
『輝く花と絆の手綱について。そして余の忘れた記憶について調べたい』
「記憶?」
『あぁ最近少々気になることがあるのだ。輝く花が咲いたことも含め何かわからないかと思っておる』
「いいよ!王様にはいつも助けられてるし!当分はトーナメントも休みだしね!」
『助かる。ではまずはそんちょーとやらの所に向かおう』



 「というわけで村長さん。前に見してもらった文献とか改めて見していただいてもかまわないです?」
「えぇ、構いませんとも。チャンピオンとバドレックス様の活躍のおかげでこの村にも観光客が増えまして、シャツの売れ行きも好調で!」
「あはは、それで駅にけっこう人いたんですねぇ」
「えぇえぇ、それに歴史家の方々も最近多くいらっしゃいまして。文献も複製したんですよ。ですので複製でしたらそのままお持ちいただいて構わないので」
「わぁ、ありがとうございます!」
 家の中からそんな声が聞こえてくる。そういえば少し前によくわからないがザッシというやつのためにかめら?などというおおきなキカイに人の子に抱かれたまま光を当てられたが、それからよく外を人の子と行動していると子供や女子に小さなかめらで姿を取られることが多かったな。
 それを嬉しそうに人の子は余に見してくるが、大体が半目だったり口が開いていたりと王の威厳というものが微塵も感じられないものが多く何とも言えぬが。
「絆の手綱については村長よりもおばあさんの方が詳しいって言われたよ」
「カムゥカムカム」
「おばあさんの所に迎えってことであってる?」
「カムゥ」
 首を縦に振り肯定の意を示す。あの男をいつまでも連れ歩くわけにもいかないのもあるが、せっかく民が余のことを思い手綱の作り方を学ぼうとしているのであればそれを邪魔することなどできまい。幸い人の子は余が何を思っているのか理解するのに長けている。
「了解!」



「ごめんなさいね。お茶くらいしか出せなくて」
「カムカ」
「いえいえお構いなく。多分王様もそう言ってます。それで今日は手綱についてお聞きしたくて」
「えぇ、村長から先に連絡はもらって準備はしてますよ」
 そうして机の上に出されたのは一枚の紙切れと手綱に似た編まれ方をした輪だった。
「ミサンガ……ですか?」
「恐らくは、私も最近まで忘れていてね。手綱の話を改めて聞いて思い出したの似たような作り方をされたものを持っているって」
「カムカカムカムゥ」
「これはどこで」
 驚いた。人の子がとてつもない速さで余の言いたいことを伝えてくれた。
「ひぃおばあさまに貰ったのよ。亡くなる前にその紙と一緒にね」
「これ手綱の編み方ですよね。それも村長の所にあったのよりもわかりやすい」
「ひぃおばあさま編み物が得意でね、それで個人的に作りかたを記していたのかも。いま思えば王様のこともよく話してくれていたわ。そのことを最近まで忘れていたのだけど」
 その輪を見た瞬間から心の痛みがより大きくなった。何だ、何だこの気持ちは薄れた記憶の中にある少女の姿が輪郭を持ち始める。そして、その少女の腕に巻かれているものはこれに似ている。
「忘れないで伝えていって。そう書かれていたのに私は忘れてしまっていた。ごめんなさいね王様」
「カムカムゥ」
 構わない。その気持ちを伝わらないだろうが老齢の民に伝える。輪に触れた瞬間先ほどの輪郭がより鮮明になった。
『いつまでも私たちはあなたを忘れません。だから王様も私たちを忘れないで』
 直接頭に流れ込んでくるのは記憶の中の少女が口にした言葉。それが鍵だったかのように少女の名前を余は思い出した。
『ベル……』
「ベル?」
「あら、ひぃおばあさまの名前お伝えしてたかしら」
「え、いえ!何か頭の中に言葉が浮かんだというか何というか」
「あら、不思議なこともあるものねぇ」
「あははは……」
 ムッ。ボーッとしていたらいつの間にか話が進んでいた。
「チャンピオンさんそのミサンガもらってくれる?」
「いいんですか?」
「えぇ、ひぃおばあさまも王様の近くにいた方が幸せだと思うわ。それに何だかチャンピオンさん、ひぃおばあさまに似ているから」
「わかりました。ありがたく頂戴します」
「また、いつでもきてね。孫も王様やふわふわちゃんに会えるの楽しみにしてるから」
 そう老齢の民と言葉を交わして余と人の子は民家の外を出た。



『人の子よ。神殿に向かうぞ』
「了解。ってあれ?王様ピオニーさんいないのに喋れてるね」
『ムッ!人の子が自然に返してくれるのに慣れすぎて忘れていた』
「あれぇ、何でだろうね?」
『おそらく信仰が戻りつつあるからだろう。村の民は手綱の作り方を学び。人の子の活躍で冠の地以外の者たちも余と余にまつわる伝説をしることが増えているのだろう』
「だから、力を取り戻しつつあるってこと?」
『おそらくは』
 そう、これはあくまで推測の域を出ない。だが村の民が余を再び信仰することで力が戻っているのは人の子に同行する前の一連の事件ではっきりとしている。
『人の子よ愛馬を頼む』
「わかった。出てきてポス」
 人の子の声に呼応して愛馬が姿を現す。絆の手綱を手に取り人馬一体となる。
『人の子よ。乗れ』
「いいの?」
『その輪を持っていれば問題はないだろう。だが落ちぬようしっかりと余に捕まっているのだぞ』
「はーい!ポスに乗せてもらえるなんて楽しみ!」
『では行くぞ、愛馬よ。目的地は神殿。約束の木に』
 答えを探しに。記憶を辿るために。

『人の子よ。愛馬についての伝承を教えてくれ』
 神殿へと向かう道中そんちょーとやらにもらった伝承を人の子に尋ねる。何も残っているのは余の伝承だけではない
「えーと、-王の従順なる足であり、その力を引き出す物。一度二匹が一つとなれば、一夜の間に森を生む。元々は気性が荒く、村の作物を貪る暴れん坊であったがこれを追うが諌め自分の配下とした。その毛並みの色を凍てつく氷のような白というものあれば、闇夜の霊のような黒というものあり。どちらの言い分が正しいのかは誰もわからない-だって」
『そう。白なのか黒なのかどちらが正しいのかはわからない。それは愛馬を従えていた余もどちらが正しいのかわからない』
「でもポスは実際にいるよ」
『あぁ、余も愛馬に乗るととてもしっくりきている。ポスが愛馬なのは事実であろう。しかし、力が失われたのが余だけではなかったとしたら……』
「なるほどねぇ。それで神殿には何しに行くの?」
『近頃白昼夢を見るのだ。それはおそらくだがまだこの雪原が冠高原と呼ばれていた時の記憶。そこには先ほどの輪を腕に巻いた少女とあの木の景色だ』
「なるほどね、それで記憶について調べたいって言い始めたんだね」
『ついたぞ』
「相変わらず神々しい所だねぇ」
『やはり咲いていたのはここか』
 約束の木の下にポツポツと咲く輝く花を見つめる。
「あっ本当だ。前はここには咲いてなかったよね?」
『むしろ余の力を注いでようやく一輪咲かせることができたくらいだ。勝手に咲くことに余が一番驚いている』
「これも王様の力が戻っているから?」
『わからない。だがここにくれば少しは分かるかと思ったんだが……』
 そうして木に手を触れる。その瞬間景色が暗転する。驚き目を閉じ、開いたときに見えた景色はあの白昼夢の景色。
「久しぶりだね。王様」
『あぁ、本当に久しぶりであるな』
 あの頃と変わらない姿でベルがそこにいた。あたりの風景もあの時の高原、約束の木もまだ少々小ぶりである。きっとこれは余の記憶の世界なのだろう。
「思い出せた?」
『いや。全てを思い出せたわけではない。お主のことも様々な助けを受けてようやく思い出せた。それほど余の力は弱まっていたのだろう』
「それは私たちの問題。子々孫々に至るまで語り伝えよ。その約束を守れなかったのは私たちの責任。王様のことをきちんと繋いでいくことができなかったから」
 申し訳なさそうに余を見つめるベルによせと一言告げると少し影のある笑顔をこぼしながら余の横に座った。
「王様は今も変わらず優しいね」
『そんなことはない。民に辛い顔をさせないのが王として当然の責務だ。それより少し話がしたい』
「もちろん」
 それからしばらく余はベルと様々な話をした。昔のこと、今のこと。特に今共にある人の子のことをベルは多く聞いて来た。一通り満足したのかベルは腕を空に向かって伸ばした。
「へぇ、いい子だね。今の王様の横に立つ人がいい人そうでよかった」
『そうだな。ベルよ』
「なぁに?」
『余はこの雪原を、またかつてのように緑豊かな高原にできるだろうか?民を守れるだろうか?』
「そうだなぁ、じゃあ王様に問題」
 高原に座っていたベルが突然立ち上がり。約束の木の幹に手を添え、そして余に向かって振り返る。風景が霞んでいく。
「雪が溶けたら何になるでしょう?」
「そんなもの、水になるに決まっている」
「違うよ」
 ベルの笑顔と共に答えられた答えは風にかき消された。
「王様!」
『ムッ!』
「よかった!突然木を見つめて動かなくなっちゃったから何事かと思っちゃったよ。ポスも落ち着きなくなっちゃうし」
『すまない。少し思う所があってな』
「大丈夫そうならいいんだけど……」
『アオハよ。訪ねたいことがある』
「なぁに?」
『雪が溶けたら何になるのだろうか』
「そうだなぁ……」
 少し考えるような素ぶりを見せた人の子はあの時のベルと同じように木の幹に手を添えると振り返った。
「春になるんじゃないかなぁ」
 その瞬間あの幻と同じように一陣の風が我らを撫でた。その風はあいも変わらず身を震わせるような冷たさだったが、どこかその風の中にはかつての高原に吹くような暖かさを含んでいた。
 あぁそうか。余が気づかなかっただけなのだ。足元にポツンと咲く輝く花を見つめる。

 春はずっとここにあったのだなぁ。






後日譚? 


 それからしばらくして、また我は人の子に同行し、一度冠の地を離れた。今日は何やらしんしょうひんとかいう奴を見に行くのだという。
「どうですかチャンピオンこれ!」
「めちゃくちゃ可愛いじゃないですか!私にもくださいよ!」
「えぇ!えぇ!もちろんお渡ししますので、少しバドレックスさんと並べて商品広報用の写真を取りたいんですが……」
「王様!お願い!」
『ムゥ……』
 そうしてしんしょうひんを持ってきた人の子は余と余のぬいぐるみとかいう奴の写真を取り、それをえすえぬえすとかいうやつにあっぷろーどだとかいうのをしたらしい。その瞬間何だか力が強まったような気がした。その後アオハはぬいぐるみを貰えご満悦と言った様子であった。


 信仰とともに力が戻るのはいいとしてこのような信仰の得かたははたしていいのだろうか……


後書き 

後で書きます

何かございましたら [#5XU86os] 

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Last-modified: 2021-05-02 (日) 01:25:55
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