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雪崩~Caution.Breakthrough.

/雪崩~Caution.Breakthrough.

雪崩~Caution.Breakthrough.

※注意:この作品には流血シーンや一部過激なシーンがございます。そういうのが苦手な方は戻ることをお勧めします。

Prologue.昇ってくる落日 


 たった一度があるから俺たちは強くなれる。
 けれど俺たちはキャリアや才能を持っているわけじゃない。防具一つ持たずに貫かれただけで終わる命。それが俺たちの一度だけだ。
 そもそも命は全ての生物において平等性がある。心臓を貫けば終わり、首を切られれば終わり。そういう場所にいた俺たちには結構近い存在だった。
 相棒がいた。俺と同じ境遇で、同じだけ苦しんだ馬鹿。神様がくれた一つのプレゼント。そいつは予想外の言葉から始まった戦い。
 馬鹿同士、立場は違えど俺は彼を信じられる。
 だから何処にいても恐らくは繋がっている。声や姿は見えなくても相棒は俺の隣にいる。

 もう一度言おう、俺たちにキャリアなんて無かったはずだ。しかしそれを許さぬと見た出来事があるらしい。
 そう、当地の延長上にある戦争だ――

 そこで見た地獄や狂気、変えられない決意。やがて俺は『狂者』と『まともな奴』の判断を間違えていたんだ。



1.始まりは淡く 


 朝靄がまだ目立ち、そろそろ程よい季節が近づいてきている。膜が張られたように遥か先を薄く覆い、更に淡い光が薄く照らして靄の存在を強調させる。
 風景ではどうにもならない、そして首を上げて空を見渡す。
 空には目覚めたばかり太陽が一つ。淡い空は朱を帯びていた。他に邪魔をする雲など何も無い。垣間見える澄んだ青から毛先では感じられない暑さを覚える。
 いつもと同じ心地良い朝、目前で直視できない北風が通り過ぎて心地のよい冷たさを得る。北風はその場から失脚すると共に枯れた葉を浮かせて南へと送っていった。心臓という生命を身近に感じる器官を持たないが風や葉は生きている。
 万物には知らない、見えないだけで呼吸はするし、生死も存在している。
 外は段々と冷たくなり、吸い込む空気は乾燥しており肺に詰め込むと水が欲しくなる。少し前までは赤や黄で色彩溢れていた並木道も、今では全ての葉を殺して丸裸な大木が立っているだけだった。
 寂寥が漂う道を俺は今歩いていた。普通なら暖かなところへ逃げ込み、寒さとは間逆な生活をすべき時期だ。
 しかしそうはいかない。

「隊長、大変です!」

 後ろから付いて来る奴が急に静寂を破って声を張り上げる。少しは迷惑というのを知るべきだが、振り向かざる得ない。少々の苛立ちと共に振り返ると、そこには息を切らして重大さを訴えかけるポケモンがいた。
 あわてて家を飛び出したであろう所々はねた毛が目立つ。腕のひらひらとした物が目立つ若い顔立ちをしたコジョンドの種である。名前はミカと呼び、彼の言うとおりで俺は奴の隊長だ。今日も朝から多忙そうな疲れ方だが、大変とは何事だろう。
 手に持つ白い封筒が目に入るがまずはミカからだ。
「なんだ? こんな朝っぱらから」
 ミカは頭を下げると、呼吸を整えるためにゆっくりと深く息を吸い込んでは吐き出した。白い息がミカの息から立っては消えていく。かく言う俺自身も落ち着いた呼吸でも少々、目視可能な息は出ていた。
 この季節だけが見せる風景、好きと感情以上に俺を黙って見守り育ててくれた時期。仕事が捗るという場面で彼の蛮声と始まりには少し向いていない。あとミカは元々兵役の経験を持っている。兵士でもある彼は走った程度では乱れはあっと言う間に無くなっていた。
 ミカはごくりと最後に息を飲み込み、もう一度声を発するための準備までも整える。
「隊長、それが……!」
「お前、それが朝っぱらからの声か? もっと小さくていいぞ」
 意気揚々で、若いために自分を誇張へ至ってしまう。ミカの場合はそれが溢れんばかりに伝わってくる。別に悪いとは言わないが時間もまだ朝だし、ここは閉鎖された空間でもない。
 れっきとした公共で開放された公園だ。
 まだ寝静まる公園で急に響き渡る声は迷惑極まりない。いくら兵士であってもそれくらいは分かって欲しい。ミカは慌てふためき、紫の瞳をオロオロとさせながら口を手で閉じる。
 どうやら彼は飲み込みも早く、対応も良い感じに纏まっていた。俺はとりあえず頷くとミカは口から手を離し、ホッと安堵の息を吐き捨てていく。
 無事公園は騒がしくなる前に、平安とした場へと戻る。
「後、俺のことは隊長と呼ぶな。何度目だ、バランシュと呼べ」
「はい! いや、はい……バランシュさん」
 俺は呆れてため息を漏らす。もっといい奴がいる筈だが、さりとてこいつは出来るだけ長い目で見守っている。
 兵士ではなく、遂げたいことが一致して結成したチームとして。ミカの声が小さくなったに過敏に反応し、ふと笑いがこみ上げてきた。
「それでいい。俺たちに規律って言うのはそうそう無いからな、それで用件は?」
 ミカは持っていた封筒から一枚の手紙が出てくる。ミカは恐らく中身を見ただろうが、中身が崩れていなかった。手紙を黙読か朗読しているときは冷静だったんだろう。その冷静さが今あれば説教染みたことは必要なかったが。
 ミカはこうも焦っているがいつもは冷静で、現場では俺が学ぶことが多いほうだ。
 だが兵役に明け暮れていたため、俺のような労働者が持つ常識は少し足りない。
 チームを組むといったときは俺が日常を教えなければならなかった。だから、今もミカの慌てた姿を見とがめると自然と顔は自然と和らいでくる。妻子を持たない俺には、立派に育った息子に見えた。
「手紙の主は……大貴族のチェルシー氏からで、用件は俺らを招待したいらしいと!」
「おい、大声は出すな。まだ寝ている奴がいるだろ? それに」
 言葉の後にミカは首を傾げた。
 俺は分からせる為に適当な場所を見る。
 朝特有の靄は既に消えつつあり、太陽という絶対的な光が公園の内部を照らし始める。枯れ果てた木々が立ち並ぶ哀愁漂う風景から色んなポケモンがこちらを見つめているのだ。
 ましてや大貴族の招待状と知られてしまえば、注目度は一気に跳ね上がってしまう。世間に目立とうとしてやっているわけじゃない。
 だが、手紙の内容は興味を抱く部分がある。むしろそれしかないといっても過言ではない内容だ。

「ミカ、もう一度依頼主の名前を言ってみろ?」
 またしても俺に無駄な説教を加えられたミカは落ち込んで下を向いていた。しかしすぐさま俺の問いを感知すると顔を勢いよく向けて、手紙へ視線を向けた。俺は手紙を受け取って読もうにも、紙を持つ手がない。一応前足で最低限のことはできるが、基本は四足歩行が基本のグレイシアだ。
 ミカの行動は若さゆえの間違い。気に留めておく程度で良いがミカの場合はすぐ実行に移そうとしている。それが彼の良いところであり悪いところでもある
「大貴族のチェルシーです。どんな方か知ってますよね?」
「名前だけは一応、他の奴に聞いてもあまり教えてくれないしな」
 当たり前ですよ、と呟きミカは手紙を折りたたんで封筒に戻す。当たり前と言われると探究心はもっと接近したくなる。
「チェルシー氏は労働者たちの言わば天敵です。これまで何度も彼に抗議しに行く奴を見ましたけどまともな顔して帰ってくる奴はいなかったくらいですからね」
「なるほど。でそんな貴族なお偉方が俺たちみたいな奴を呼ぶってどういうことだ?」
 俺は体を伸ばし、凝りを解す。朝焼けも無くなり、太陽はようやく本業を開始させていく。冬独特の冷風が耳を揺らす、俺は雪中で暮らしてきた種なので、こういった風は心地よい。
 木々にとっては無防備で受ける。緑の装飾すら無くして、忍ぶ時期。同じ気持ちはなれないが可哀相に思える。
 一方ミカは毛が生え変わる時期もあり、細くて筋肉質な体にしては少しボリュームが増していた。俺の問いに仕舞ったはずの手紙を取り出そうとしていた。何故封筒に入れたんだ、こいつは。
「……どうやら、俺たちの活躍に対してチェルシー氏が好感を持ったらしいです。そこで今回開くパーティに来て欲しいだとか」
 言い切った後、ミカは俺の目を見てくる。よく分からんが、紫色の瞳をこちらに向けて訴えかけてきた。
 息子を持つのはこんな事だろうか、俺は瞳の問いに対して頷いた。ミカは再び息を吐きだす、重圧されたような心があったんだろうか。
「といっても俺たちって対したことはやってないだろ。殆どは警備隊様がやってるのにな」
「俺にはバランシュさんの信条が認められたような気もするんですけどね」
 ミカの答えでも俺が抱く謎は解けない。
 褒められるためにやるのではないのが俺の信条。恐らく今、俺が抱く感情は照れや恥ずかしいと言ったポジティブなものだ。いつも相手のためになる事を考えた結果、口元に笑いが込み上げてくる。
 俺を動かす基盤として存在してきた信条。教養もろくにしたこと無い俺が編み出したものが偉い奴に好感を抱かせた。
 ふと自分の前足を思い返すように凝視する。足から視点を移動させて、今度はまだ全体的に見えない体を見返す。ミカは俺の奇行に対して首を傾げていた。
「ミカ、そのパーティはいつからある?」
「今日の夕暮れ時からですね。場所は町外れの王宮らしいですよ、それより……」
 ミカも同じく体や手元を見る行為を繰り返す。流石のミカでも、俺の確認を理解できるだろう。
 しばらく見回したミカは首を戻すと、今度は手を使って謎を示していた。俺は前足でミカの体に付いていた寝癖を指す。俺の行動にミカは寝癖を手で払うも、簡単かつ適当に作り上げられた癖は直りはしない。
 勿論、俺は毛並みが元々滑らかであるため癖を気にする必要は無い。氷を張られたような毛並み、自らが言っていて恥ずかしいが事実だ。
「分からないですけど? バランシュさん、何やってんですか?」
「ああ、毛並みだよ。労働者は働く際に毛並みを確認される場所もあるからな」
 すっかり感じ入ったミカは頷いていた。嫌味に聞えるが兵士には労働者の礼儀を知る者は殆どいない。当たり前と言えばそうなのだが、理由付けるなら兵士にも独特のルールを持っている。
 労働者のルールを覚えるようとするミカ。俺たちの世界では常識というものを取り込もうという姿勢、健気過ぎてでいつ見ても喜べるものじゃなかった。
 そこまでかしこまる場面じゃないか。内に溜まっていた心情は我慢できず、ため息へ変化させていく。
 大きいため息に感づき、ミカは顔を曇らせて俺に眼差しが向けられる。手は止まり、俺たち周囲の空気は流れる音だけが響き渡っていた。

「どうしたんですか? バラン――」
「お前その名前呼びにくいだろ?」
 敬語に名前でさん付け、されなかったことに対して俺は指摘を開始する。ミカは口ごもり、反抗することなく頷く。そもそも語呂が悪いし、俺も色々と忘れていたような気がする。
 だからこそ気付かせる。都合よく規則を壊せる部隊、噛み合わなければ原因を見直せるのが利点だ。
「やっぱりお前のやりやすいように呼べ。多分俺も忘れるが呼び続けていい」
 言いたい事が相手に早く渡り、変更にも簡単に対応できる。きびきびと口を動かす俺に対し、ミカは呆然として聞いていた。ここまで意見を変えたことも初めてで、彼も整理しているのだ。
 まだまだ言いたい事がある、けれど長話は好きじゃない。俺は話にピリオドを打つ為、息を少し吸い込んで言葉を頭から持ってくる。
「気にするな、お前はまだ若いんだ」
 言葉はここで切った。
 こんな羅列もしない数十秒の説教、全部聴いたミカはフッと口元が答えを表しだす。やがて小さく漏れた息は彼を笑いへと導く。必死に硬かった彼を解した俺が馬鹿だと認識されるくらい。
 彼の喜びに頬に火が灯される。くすぐったくカッコ悪い自分。やりきれない気持ちに俺は空を仰ぐ。
 白く霞んでいた空は立派な青を見せ、既に明朝から朝へと移されていた。今日一日が始めるのになんて恥ずかしい。ミカは俺の肩に手を置き二回、慰めに叩いた。
「隊長もまだ若いじゃないですか。学んでいる途中なんでしょ?」
 どっちかが上手に立つ俺たち、これが俺の望んだ最愛の部隊。互いが互いを信用における状況はどんな場面でも最高の結果が待ってくれている。
 そう、俺もまだ学習の途中だ。
「さあ、今日も仕事に行くぞ」
 今日も最高のスタートが俺たちを迎えてくれた。



 俺とミカが会ったのはバーでの事だ。一年前、誰も来ずに埃だらけのバーでお互いの共通点を述べ合っていた。
 労働者の俺は昔、戦争へ赴いていたこともある。戦場で見たものや感じた事を喋りつくし、全く関係ない俺たちは自然に惹かれあっていく。誰にも打ち明けられなかった感情を吐き出した俺たちに理想があった。
 簡単なことだが、それを伝えるに国まで向かわなければならない。
 そう考えると、俺の目的ってそんな遠くにあったのか……。いつも近くに存在していると認識していたが案外遠い。



 呆然としているうちに公園を抜け出すと、太陽が昇りきった空は仄かな暖かみを注いでいた。枯れ木が並んでいた公園と違い、抜け出した場所にあるのは家だ。
 特にこの国では珍しく家に使う材料は藁でなく、少なくとも茶褐色の煉瓦と木が合わさった建築が多い。それだけ文化の進行が早く、住民にまでお金が回っている証拠。しかしここの空気はあまり美味しくない。
 公園には休む木が多いといったが雑草は大地の栄養を吸収し、立派な緑色をしている。一見邪魔だと思える雑草は引っこ抜いてもしつこく生えてくる。粘り強い雑草は日光を浴びれば、光合成をし、俺たちが吐き出した息を再生していく。植物は聞こえないだけで呼吸もするし、生きている。
 生命の神秘に触れた俺たちは、次に文化へと踏み入った。
 地面は踏み心地が一定とならない石畳、先ほどまで意気揚々と吹いていた風も町に行き渡らなかった。だからか、少し体が熱を帯びてくる。
 一方、ミカは見慣れたであろう町並みを再び満喫していた。傍らの俺はまだ踏み心地が一歩ごとに異なる石畳に慣れなかった。
「初めてきたときから思うが、ここは慣れない……」
 変化に富んだ地面は実は味わったことがある。
 俺が生まれた国は休み無く雪が降り続け、いつも新雪が歩み踏み固めた道を覆っていく。新雪は柔らかく、風景も絶えず変化させているのだが、石畳は単純に固い。
 同じ感触に氷もあるが、あちらは足の裏をひんやりさせてくれるが、こっちは削り取られている感触がある。
 俺と同じ境遇のミカは感触など気にせず隣を我が者で歩いていた。
「隊長って色んな事に対して深く考えますね」
 そうだとも、と俺ははっきりと答えた。地面に対しても一種類ではない。返す言葉を自信以上に当然のような意味も含めた。
 歩く大地は決して土一つだと一括に言い切れない。例えばこの国は文化に余裕がある。他国ではこういった石畳は見られないばかりか、平地すら乏しい場所もある。
 こういった国へ向かった事もあり、俺の感受性を高める原因にもなった。何にせよ生きている限りは何かを受け取り続ける。勧められているだから、気付かないわけにはいかないのだ。例えそれが面倒なことでも、俺は思い続けている。
 しかしミカはそういった感受性に乏しいのか、首を傾げて俺の問いに謎を表す。同じ境遇に立っておきながら、ここまで違う。
「俺には分からないですよ、雪が何で綺麗なのかも。それに戦争で感じたことも全然違いますし」
 ミカは言葉を発した後、抜け殻のように空を見上げていた。その表情は遠くを見つめ、哀愁を漂わせてこちらまで悲しくなりそうだ。ミカの鞭の様にしなやかな腕の毛が、微妙に風で揺れる。
 息を吹きかけたような微風、それは本格的な寒さとある物を持ち運び始める。目前に見える青い空には不穏とは違い、楽しみを含む雲が確認できた。色合いは雨と同じように淀んだ色をしているのにこの時季の雲はある種、期待を抱ける。

 同時に締め付けられる胸に疼きを覚える。疼きの原因は昔起きた戦争でのことだ。
 戦争の終結は一年前でまだ記憶にも新しい。それまで誰も諦めなど無く、相手の殲滅だけを考えれば良かった筈が上層部の終戦宣言のせいで、判断が狂った。
 勝手な宣言に狂わされた俺たち。唯一の専売特許を取り上げられて、目の前の敵が負けているのに報告に喜び、撤退していく様。誰を信用すれば生き残れるか、けれど皆の士気は高まる一方。
 ああ、あの時の記憶だ。脳裏にこびり付いた戦争の走馬灯を振り切る。
 あんなもの、振り返るだけで吐気に近いものを思い出す。
 
「……どうしたんですか、隊長?」
 ミカの声が射抜くように耳に響く。また思い返していた、間隔で頭が痛くなる。当時の記憶が脳で繊細に映像化され、風景が見える筈の瞳はいつしか何も無い真っ白な雪原が映った。
 雪原からつんざく悲鳴と足元に少量の血が飛び散る。幻聴と幻覚、どちらも発動した俺は急いで目を瞑った。まただ、何故こうも苦しめられるんだ?
 再び開くと響き渡るような悲鳴も無く、風景は変わらず活気が溢れるものへ戻った。まだ消えそうの無い過去に、頭痛の間隔が狭まる。
「いや、何でもない。すまんな」
「隊長が否定から入るのは何かありますよね?」
 ミカに問い詰められると訴えかけていた頭痛がすっかり治り、すぐさま問いかけに首を横に振る。疑惑を抱くミカはそれ以上詰め寄ることも無かった。
 ミカにも自分の考えがある。それに俺の戦争体験なんてミカは耳にたこが出来るくらい聞き飽きている。ただ詳しくは言っていない。俺が苦しむ傍らでミカは屈託無く鼻歌を歌いながら道を歩んでいく。
 逆に俺の足取りは重々しく、首が上を向こうとしない。仕事に向かう気力すら削がれてしまった。だからと言ってこれ一つで休む理由にはならない。
 目的のために誠心誠意を込める、それが出来るまでは俺たちの思うことを成し遂げられることはない。俺は前を向いて無理にでも元気付けようと歩みを速めた。
 強制的な積極性にミカは俺のほうへ首を向けていた。不安そうな表情を露にし、隊長である俺を気遣おうとしているのだろう。しかしそれは杞憂で済ませたい。部下に掛ける心配は無くしたい。
 思い出したくもない記憶を噛み潰し、俺はミカにしたことも無いような笑みを見せる。
 俺の苦心を表した笑み、不安そうな表情からミカはため息を吐いた。
「隊長、バレバレですよ。今さっきから頭痛で苦しんでいることも」
 呆れた顔でミカは俺に告げる。俺は抵抗しようと焦燥を隠蔽する為に笑みを続けた。俺のごまかしにミカは鼻で笑い、体ごとこちらへ振り返る。
 ミカは呆れから慰めを込めた表情でこちらへ歩み寄り始めた。誤魔化しきれない状況、部下に窘められると俺は思い、一つの恐怖を抱く。部下を思ってやる立場の隊長がそんな弱音を持っていいのか。
 近寄ってくるミカに対して、身が何故か拒み、引こうとする。甘えるのが嫌だと、変質的なプライドが動く。
 拒絶する俺に臨むミカは俺の頭上に手を置く。体は冷たくなり防御姿勢として、体毛が凍り付こうとしていた。何を怖がる必要があるんだ、ただ理解されないだけで俺は何から逃げている?
「安心してください、隊長」
 ミカから発した言葉で俺は少し見上げた。あれほど焦りに駆られていた男が、どうして今はこんな達観した表情が出来るんだろうか。ミカの表情は安易な慰めでも、しんとした憤りでもない。
 ただ、一点に俺を見つめている。顔色一つ変えず、近くに感じられる瞳。
 俺の拒絶はミカを一目しただけで薄らいできた。普通なら手を差し伸べるはずだが、このミカに俺は安堵を確実に与えてくれる。頭から手を離し、再び前へと振り返った。
「……俺はあんたについて来た。だからあんたの失敗で命を落としても後悔しませんよ」
 ミカの呟きが耳に響く。
 俺の隣いる奴の言葉を信じなくてどうするんだ、とミカから視線をずらす。

 その時だろうか、静寂を崩すような音が遠くで耳に届く。
 俺はとっさに前を向き直して音の根源を探る。音は爆発にも似ているが、そういった黒煙すら見えない。するとミカは前に手を差し伸ばす。どうやら根源は北にあり、そこに主犯がいる。
 俺とミカは一度、面が合う。
「隊長、行きましょう!」
 ああ、と返して互いに頷きあった。急ぎ現場へ向かわなければならない。急な事件が入れば、現場に向かわなくてはならない。
 前を向き、先ほどの怯えを拭って俺は町を疾走し始める。

2.跳んで、落ちて、見つけて―― 


 事件の発生現場には多くのポケモンが野次馬として観覧しに来ている。それらは囲いを作り上げ、俺たちの進路を妨害しているが文句も言えない。
 元々、非合法で結成された部隊に野次馬を退去させる権利など持っていないからだ。警備隊ならば、現場を覆う包囲は一喝するだけで立ち退くのだが、俺たちの場合は違う。
 もう一つ、現場に着いたときに野次馬以外に気を付けなければならないのが、加護すべき存在である警備隊だ。
 いくら大貴族に賞賛されたとはいえ、警備隊には俺たちの情報は回らない。ただ、気になるのはいつも現場に着いても警備隊たちはおらず、事件を放置していることが多々あった。
 私情になるがここの空気は冬というのに暑い。それぞれのポケモンが重なり合い、放出されている体温と呼吸が囲いの中で閉鎖空間を作り出しているからだ。
 ざわつく現場、進行を邪魔するポケモンたちに阻まれ、俺たちは四苦八苦することになった。
「さて、ここが現場だが……」
 俺は打開不可であるこの状況に対して、どうしようもなく呟く。
 建物から確かに喧騒の火種である音が耳をつんざく。内側から壊れていく音に野次馬たちは恐怖で悲鳴が多数聞こえてきた。目立った外傷はなく、事件は建物の中で行われているため、侵入は困難を極めていた。
 事件現場の一線を潜らなければそういった目標を持ってしても俺たちも野次馬だ。情報を聞きつけ、目的を達したいがために訪れたただのモブだ。
 歯がゆい感情に苛立ち覚える俺だが、傍らに立つミカは野次馬の越えた先を目視していた。事件のときのミカは随分としんとしており、場の状況をいち早く察知しようと出来る範囲でかき集めていく。
 俺もそうしたいのは山々だが、俺は胴を見返して察する。
「……隊長、裏口のほうに一匹のポケモンと見えるんですけど」
 彼は背伸びをしながら、現場の状況を伝える。そこが見えない俺は建物付近の情報は入手できない。だから頼るべき情報は部下特製の情報一つだけだ。
「変ですね、野次馬たちに気づかれているはずなのに、誰も気づいちゃいない……」
「変だな、そこへ行くルートはあるか?」
 ミカは俺の要請に黙々と現場付近を見渡す。しかし妙な証言だ、ミカの言葉が頭から離れない。
 見られているのに、気づかれない。姿形があるからには存在は発せられる訳だ。それがないのは一体――
 あまり深く考えずに俺はミカのルート検索の結果を待つ。この間にも耳に騒音を挟んだポケモンが続々とこの場に集結している。内部ではまた騒音が排出されてくる訳だが、外には被害が及ばない。
 検索を終えたミカは、大きく息を吸い込んだ後に振り返った。
「裏口はそいつのお陰で開いてます。けれど、裏口までのルートには野次馬が大量にいます。どうします?」
 ミカに問いかけられるが、この答えは俺の中で一個しかない。目を一回瞑り、もう一度開く。変わりない閉鎖感とざわめきが敷き詰め、冷たい風もこの集いにはかき消されていた。
 だが、頭は平静で脳から流れ込んでくる視覚はいつもより多くの情報を必死に収集していた。
 ルート上を阻むポケモンの壁は並大抵の突破ではすぐに飲まれてしまう。つまり突破は事実上無理なわけだ。ならどうするばいいか、俺は目の前から視線を上に移動させた。
 騒ぎの中心である建物は大きく見上げてば、かなり高い。注目したいのはそこじゃなく、隣との間隔だ。隣にも建物が建てられており、そこは必然に路地裏となっている場所だ。

 俺は首を正面に戻して再度、情報提供したミカに裏口の位置を確認させる。ミカは俺の命令を拒否もせず、頷いて再び確認へと移った。これが彼の言う忠誠なんだろうか。一途な上に健気で積極的な彼だが、どこか侘しくて折れてしまいそうである。
「建物の間が路地裏になってますね。けどそんなこと聞いて何するんですか?」
 返答と疑問が聞こえた所で俺はミカの体へと視線を向けた。もともとコジョンドと言う種族上、飛ぶのは当然無理だが、脚力で跳ぶのは他と比がない。
 ミカも例外ではなく、筋力は計り知れないものだ。一か八かの賭け、ミカは俺の視線に首を傾げる。
「ミカ、あそこの裏口まで跳べるか?」
「と、跳ぶんですか!? 出来なくはないですが……」
 困惑はしているが否定はしていない模様。
 そうと決まれば、俺はミカに「良し」とだけ伝えて案を委ねた。練ってばかり私案を信用できる部下に渡す。そうする事で俺では見出せない考えが生み出されるし、違った結果も出てくる。
 少しの間、戸惑ったミカは仕方なさげに背中を丸めた。当然、俺はミカの背中へと乗った。
 冬の毛が体へと温もりをくれる。冷たい場所が好きなこともあるが、慕ってくれる奴の血が通う温かさは別だ。前足で肩を握り、後ろ足は腰を抱く。ミカはそれをしただけなのに顔は林檎のように火照り、何とも言えない表情をしていた。
 コジョンドと言う種族は俺の手に余る種族だ。戦えば俺なら一瞬で負ける。接近戦では派手な一撃も備え、華麗なフットワークすらも見せる。遠距離であろうと詰め寄せて来るのだから恐怖の対象ともなっているくらいだ。
 だからこそ、ミカの頬を染める表情は不思議にとれた。熱でもあるんだろうか。
「ミカ、無茶はするなよ。もしものことがあったら……」
 心配する俺に対して、ミカは俺のほうへ振り返り微笑んでいた。普段のミカからは思いつかない表情に少し怯む。
「隊長、今になって怖いって言うのは止めてくださいよ? 一応言っておきますけど、大丈夫ですからね」
「心配して損した。じゃあ、いつでも良いぞ」
 分かりました、いつも耳にしている声がここまで心に安寧をもたらすのは初めてだ。俺の信用が掛かったミカは跳ぶために右足を後ろに踏み込み、全体的な重心を下に追いやる。

 緊張する心臓、もしかするとミカに伝わっているかもしれない。
 本当は怖い、未知の感覚を味わう瞬間。自然と呼吸は乱れ始めた。
 ミカは至って冷静で俺と違い、呼吸は整っており尾を引くような白い息が吐き出される。
 グッと、ミカの足が地面を更に強く踏み込んだ。その反動で俺もミカへ強くしがみ付く。

 この一瞬を終えたとき、ミカの合図無き号令で跳んだ。フワッとしたものではなく強力な風圧で押され、しっかりとしがみ付いているはずなのに飛ばされそうなくらいだ。
 今までいた地上が瞬間で離れて、俺たちは何の力も意味を成さない空中にいた。空にいるのは心地良くない。もっと柔らかそうな物に包まれると思いきや、叩きつけるような風が俺らを襲う。
 何の力も働かないと言ったが、地球に押し付ける自然な重力は絶えず俺たちを押さえつける。この中を自らの筋力で飛んでいける鳥ポケモンは相当な奴らだ。一生味わう事のない空へという陸上に住むポケモンの夢を俺は叶えた。
 ミカの跳躍はとても高い場所まで達したが、少なくとも二匹という状態にビルまでの距離は少し足りない。怖さが現実に反映された瞬間、ミカの舌打ちと同時にゆっくりと俺たちは落下の時を迎えた。
「どうすんだ、足りなかったぞ!」
「すみません、隊長! その代わり――」
 段々と地上が迫る中、ミカは手を真横に伸ばしてスカイダイビングを楽しむような格好となった。こんな状況で楽しむなんて死ぬつもりか、と前足で必死にミカの背中を叩く。いくら俺たちがポケモンであっても高いところから無防備に落ちれば死だってあり得る。
 俺は怖がりながらも下を見た。野次馬たちの視線は騒音ではなく、俺たちのスカイダイビングへと殆ど向けられていた。
 当たり前だ、こんな所で死のダイブを実現すら奴らがいれば、姿の見えない事件よりも上空で行われることに目を向けるに決まっているはずだ。俺がここまで焦って生へともがいているのに、ミカは諦めきったように腕を広げているだけだった。
「おい! こんな所で死ぬなんてごめんだぞ!」
「隊長、俺を踏み台に! 今なら裏口まで余裕で――」
 空気を押しのける轟音が耳へ流れ込む。空気は耳に入る野次馬らの声を簡単に消すほどだが、ミカの声は容易く聞き取れた。一番近くにいたからか、一回の失敗を忘れる形で急な案がすんなりと入った。
 ミカの狭い背中の上、こんな不安定を極めた場所で立つのは至難の技だ。俺は出来ないと首を横に振った。
 ミカはその返しに否定で返す。ミカは俺なら出来ると考えているはずだ。実際は視野に入る単純な情報から容易と取れる。ビルの壁までは足りないが、裏口で待つ小さなポケモンの元まではミカを踏み台にすれば届く距離だ。
 だが、本当にしても良いのか? 自らの命も危機に晒されている状況。普通なら助かっても何も思われない。俺は二匹だけだが、隊長で部下を思いやっている。だからと言って踏み台にする身体的な犠牲は嫌だ。
 躊躇う俺に、伸ばしていたミカの手が背中を掴む。
「いいから! 隊長、こんな所で死ぬなんて俺は御免ですから!」
「……分かった。行けばいいんだろ!」
 つまらない躊躇を俺は空中に捨て去り、捕まっていた前足をミカの肩に置く。ふわりとした心地など無く、細かいなど捨てて、俺は前足に力を込める。
 目標は裏口、わずかな安置で風が叩きつける状況で俺は後ろ足をミカの腰へ置く。準備など当に出来ているミカは無言で頷いた。
 俺も同じく頷く、信頼しあう相棒だからこそ――

 俺は跳んだ。
 何も考えず、無心かつ迷いすらも忘れて支えの無い空中に――
 正直泣き出したいくらいに怖いが、俺はそれを堪えて落下していく。
 下を見るとある程度の高さ基準は何だと疑問に思えてきた。大体俺が飛び降りたのは建物の三階当たり、上を見上げるとミカは自由が利かない空を泳ぎきり、建物の壁を掴んでいた。改めて、奴の身体能力は一体どうなっていると思う。
 亀裂が入り込む音が響くものの、ミカは近くの窓から侵入した。部下の成功を見守ると、俺も成功するのだろうと予想がいい方向へ振り切る。だが状況を見返すとそんな場合ではない。
 既に近づきつつある地面、近くには野次馬集団から隔たった空間が見当たる。今更、壁を掴むなど無理難題なのでしばらくの落下時間は何も考えられなかった。
「この後はどうしようか……」
 緊急事態であるのに言葉だけは冷静を放っていた。結果、場所を確認するため、俺はたどり着くべき場所を探す。目を見開いて思考を掴みたいが事情により、細めていた。殴りかかってくるために風が俺を邪魔を加えてくるため、どうにか思案できた応急策だ。それに目を細めていたほうが注目しやすいからだ。
 大まかな位置は固められた入り口から数メートル先、そこを過ぎないようにしようと俺は位置の調節を開始する。言わば風に流される砲弾のようで少しの誤差でも目的からはだいぶ遠のくからだ。
 空へ飛んだことは無いが、微調整の重要さは承知済みだ。
「なんかかなり大事になっているな……どうか、単純な事件で済んで欲しいところだ」
 俺たちと同じ身分である野次馬は消えたミカから興味を消し、今度は俺に向いていることが直感で分かった。こうしている内に俺は地面への着地が間近となっていく。そろそろだと緊張も高まり、いかにも事件へ挑んでいる実感が沸く。
 ようやく俺も地面に降り立つ。激しい音を伴ったが地面は頑丈であった。あんな無茶なダイビングで俺を支える足に激しい痛みを伴った。しかしそれ以上は無い。
 心臓の鼓動も俺に伝わっているし、動けないわけではなく、痛みが警鐘を訴えかけているだけだ。流石に痛覚の訴えは仕方ないが幸い、扉は近かった。叩きつけるような風は無くなり、俺を靡かせる微風が俺を横切る。
 路地裏は溜まりに溜まった野次馬にして見れば、興味の対象外となっていた。あんなダイビングの後の音だと死んでいると見なしていた。野次馬たちも路地裏には目を向けず、立て篭もったミカ達のほうへ注目を変えた。
 ところで路地裏とは汚いものだ、家具と家具の間と同じように狭まった空間には殆ど目を向けられない。ゴミが無くとも外と比べれば一目瞭然な世界だった。ほの暗いここは不可解な湿り気が肺を満たす。
 臭いも考える脳を防ぐような鼻を突く臭い。暗色で包まれた世界、一刻も早く抜けたく俺は扉の前まで足を引きずった。まだ歩くには足が許してくれなさそうだ。
 ようやく辿り着いた建物の裏口。ここでも俺を悩ませることが起きていた。数分前のミカが呟いたことがどうも理解してくれない。
 裏口には確か、小さなポケモンがいたはずだ。
 今ではないが、空中にいるときは必死で意識の対象外にあった。それかこの建物に逃げたか。
 ここの扉はいかにも頑丈に感じ取れる。硬く、そしてこんな寒々しい日でも空気すら通さず、入り口の番人として鉄の扉は存在していた。
 しかし実態は脆い。長年もたち続けていたのか、鉄自体が錆びており、赤褐色に変化した扉はいとも容易く、招かざる客である俺を入れてしまう。
 鍵自体掛かっておらず、容易に入り込めた場所。そこは理解すら出来ない場所だった。

3.屈することのない炎と薔薇 


 明かりも疎かで、高さは俺でも擦れ擦れな高さだが問題視すべきはそこではない。
 ここに広がる風景に俺は背筋が凍り、肌が震えを通して危険を訴えてくる。端や目立つ中央まで一面に放置されているのは、誰とは特定し難い骸骨があった。
 骨は対外が白いイメージが定番だが、骸骨は既に古ぼけているのか、少々黄ばんでおり汚さを更に全面的にしている。これが辺り一面に置かれているのだから謎の気味悪さがこの場に寄せ集められていた。
 気が気でない、大量の骸骨が就寝するこの場に一歩足を踏み入れると柔らかく、乾いた粉の感触が足に付着する。恐らくは砂ではなくここで眠っていた骸骨の末路だろう。勝手に俺は解釈する。
 ここはまだ入り口の前だが、全体的な建物の内部は把握できない。辺りを円形で覆うような壁が左右を見回す限りあるわけだが、壁も骸骨だけで形成されており気分を悪くさせた。
 胸焼けして溜飲がゆっくりと咽を張い登ってくるが、無理矢理にでも下げる。確かに見えるものは異常だが、それは表面上をただ単純に捉えただけの結果に過ぎない。
 しかし最悪な臭いだ、俺は急速に登ってくる得体の知れない物に歯止めを掛けた。酷い死臭であり、それが傍で囲いになっているのは耐え難い状況だ。恐らく臭いはその骨の壁からだろう。死から肉体の保持が出来ずに腐敗し、壁となり侵入者を撃退するために臭いを無差別に撒き散らしている。俺の考えではこうだ。
 この場にいたら後でスッキリしない。俺はすぐさま歩き始めた。
 それに子供の安全を優先して考えると、立ち止まるのは良い案ではない。子供の捜索も踏まえて俺は壁に沿って移動する。
 ふと入り口側の壁に振り向くと塗りたくったような赤が一面を覆い、この建物の悲惨さを痛感できる。俺はこの赤が壁を作っている死者の血に推測した。では何で壁に血を塗るような行為を死者はしたのか、俺には理解できなくて首を傾げた。
 もしかすると、自由の無いものの讃歌なのだろうか。俺はそこで憶測を止めて、首を横に振り拒否を示した。
 こんな加護された場所で名誉や声無き声を高らかに謳うのは臆病者の成すことだ。俺は血の壁から視線を逸らして再び、道なりを進む。子供がいなければ壁に興味を持てない。
 だが、こんな所ではむしろ対象外の興味が沸くのも事実だ。ここの骸だけで形成された壁は均衡なバランスがあるのか、耳へ削れ合う音が鳴っていた。
 ミシミシと、己の限界を伝える音とだろうか。関係の無い場所にまで注目は散開していく。
 こんな様子で見つかるのかと、静寂が支配する空間でため息をついた。
 吐いたため息でさえ反響し、耳に自分の声が入ってくる。果たしてこんな場所で野次馬たちが注目すべき部分はあるのだろうか、俺は微かに情報操作されたと疑いを持ち始めた時だ。
 奥でコソコソと動く影が薄暗い光の中で遊んでいた。光の中にいる影は、俺と同じ四本足で前足で地面を掘るような動作を繰り返している。場所が場所だけに影が一体何をやっているのか、把握しづらい。
 少し曲がった場所、俺からは影となる所でそいつはいるはずだ。慎重さを忘れず、俺は接触するためにゆっくりと近づく。別に取って食ってやろうとは思っていない。
 建物内部で起きている事件の有無、それが誠か虚偽かの真実が俺は知りたいだけだ。
 出来るだけ足音を殺し、呼吸も吸うときはゆっくりと、吐くときは音すら立てず、無音であることを意識する。急な声や音は逆に相手の警戒心を高める。得体の知れない奴は理解すらされない。
 ましてや一つ言えるのが、現在の俺がその状況だ。
 本当に思うが、俺たちはもっと派手さを持ったほうがいいのだろうか。部隊と名乗っているのだから、と一瞬頭に過ぎったが俺は首を横に振る。
 俺が叶えたい願いは、派手なことからは繋がらない。果たして本当だろうか、一匹の子供を見つけるのが平和へと繋がるだろうか。制御するべき立場をいない俺は疑問が益々膨れ上がった。
 俺の中で小さな葛藤が沸々と炙り出されていく。ミカがいないと本当に優柔不断でどうしようもなかった。
 薄暗い場所で俺は子供であろうと確信した影へと段々近づいている。頭で騒ぎ続ける迷いと戦いつつ、ようやく一人でここまでたどり着く。あとは怪しまれないように子供へ近づくだけだ。影の子供は床を掘ることを止めて、首を動かし始めていた。
 左右上下へと過度に首を振る。子供にしては慎重で用心深い奴だ。現在、俺やある筈である犯人から逃げなければならない状況。しかし子供にしては警戒力の高い奴だ。
 俺は子供に関心を感じたが、子供はハッと察知してその場から消える。もしやすると俺の存在にはとっくに気付かれていたに違いない。とりあえず曲がった場所まで走る。やはり当然のように子供はそこから姿を消していた。
 曲がった先も骸の囲いと血塗られた壁は続いたが、前方には建物の中央へ繋がるであろう穴があった。穴というよりも入り口で、囲いは妙にそこだけ埋められていない。
 子供は光へ入ったに違いない。左右を見渡したところで隠れられる場所は到底無かった。ならここの建物の中だが、俺は体の力を抜いてリラックスした。けれど十分に抜け切らず、深く息を吸い込み緊張をかき消す。手間の掛かるようなことをされたものだ。
「さっさと見つけて、事件の真相に近づきたいが……妙だな」
 俺は決して耳は良くないが何か聞こえてくる。明確な場所は分からなくとも、確かに壁から空気が流れる音と誰かの息遣いがこちらに入ってきた。俺は正体を知るため、光のほうへと足を進めていく。その道中でも壁から声が響く。
 息遣いのほうは吸って吐くタイミングが通常よりも速く、息遣いからして体を動かした後だろうか。この場合だと逃げ惑ったか追い回した方か、前者だと相当余裕が無く、後者だと悠々とした様子と俺は判断する。


 一方、空気の流れはおおかた作り上げている。まず無風の空間である館内で空気は流れない。だからどんなに自然に見せたところで内部では流れが作られているはずだ。
 勝手に推察はした所で俺はようやく光への入り口前へと辿り着く。そこからばれないように、顔を出して内部の様子を伺う。強烈な光が目を襲い、一時的に視界を眩まされる。眩んだ瞳には大事な要素が欠けていたがやがてそれも回復し、内部の様子がはっきりと移った。

 内部は外部より死臭が酷い。
 外面に囲いの役目を持っていた骸は勿論、山のように詰まれた亡骸がここの半分以上を占拠していた。ここは一体なんだ、体が蝕まれる空気に満ちた空間に対して謎が複雑化していく。
 光の要因はここの天井に開いた穴からだろう。天井に開いた穴から白い光と場を安らげる雪が内部へ入っていく。その下には恐らく侵入者が入った後であろう瓦礫があった。死者が積み上げられたここに落ちる雪は、朽ちた者達への鎮魂歌なのだろうか。ゆっくりと舞い、既に物と化したポケモンたちへの償い。俺を幻想へと誘いかける。
 だが、流れる空気が雪の存在自体を抹消していく。音を立てる空気が静穏を突き破り、現実へと戻す。
 その瞬間、内部にいるポケモンの唸り声と共に冷たい空気は、吹き飛ばして熱風が俺にまで渡る。囲いを成していた骸は熱風に振動しながらも崩れるまでは至らなかった。だが死体は別で、死体は腐り落ちた肉に触れて、炎を生み出す糧となってしまう。
 空気は絶えず動き回り、赤みを帯びては逆巻いて上で紅蓮の火柱としてそびえていた。火柱の要因は物と化していないポケモンの成したことだ。それが空気の流れを作っていたポケモンの正体だ。
 背中から炎を噴出し、四足で臨戦態勢にあるポケモン、バクフーンだがどこか既視感が蘇る。
 向き合う形で対面しているのは青い体毛を持ち、二足で地に立つルカリオだ。ルカリオは構える様子も無く、炎すら恐れずにバクフーンを直視していた。俺はルカリオ態度自体に驚いた。
 あんな炎が飛び交う中でルカリオは苦悶の表情を一つ見せずにいる。普通なら鋼が炎を嫌うはずだが、こいつは火の粉すらも恐れていない。だが、相当体力を消費したのか息が荒い。
 互いが見つめあう中で俺だけは炎に恐れを抱いて、入り口前の壁に身を隠す。二匹は距離をつめるようにして会話が始まった。
「もう降参して下さいよ……。あなたの為ですよ」
 バクフーンは透き通り響く声でルカリオに降伏を催促する。ルカリオは「断る」と簡単な返答をした後にバクフーンに手を向けた。
「だれが奴の掌中に落ちるか、奴のために意思を捨てるなど阿呆のすることだ!」
 凛々しいルカリオの叫び声、何やら降参と聞こえたが二匹は何を言い争っているんだ。自らで考えようともするが、俺の思考をバクフーンの呆れた吐息が中断させる。少ない情報は伸ばすよりも広げる、最優先はその場を理解すること。引き続き、この二匹の監視に集中する。
 バクフーンは首を横に振っていた。恐らく拒否的な意味合いよりもルカリオの言葉が解せないようなものだろう。バクフーンは言葉が通じないと思ったか、四足の指先に力が入ったのが伺える。
 同時に新鮮な空気を糧として、背中の火を更に激しくする。逆巻く火柱も同じく、勢いを増し空気を吸い込む音が唸るように激しくなる。熱気が漂い始める場内で俺は再び壁のほうに隠れた。
 それよりも問題はルカリオの方だ。
 奴は炎の熱気が一番食らう場所にいる。鋼を持つルカリオにとっては無謀極まりない所だ。火傷で済めば幸運だが……と安否を心配する俺だがここも相当危険と化していた。
 だが、このままで良い訳が無い。
 目前で火に囲まれるポケモンならば助けるのが、俺たちの役目である。固定概念だけで決められた志は必ずやり遂げる。火傷を恐れて進める場所があろうか、俺は壁から離れた。
 壁は腐った肉に反応し、囲いを成していた骸を例外なく赤く染める。死者は全て平等とあるが、炎には地位を読むだけの能力は無い。
 少しした後、内部で壁が砕かれる音が聞こえる。
「おいおい……もう始めてんのかよ!」
 俺は崩壊が始まりつつある内部へと逃げ出す形で入った。内部は見た目と合致し丈夫であった。勿論、建物事態は燃えることなく、死者が音を立てて手向けの炎に包まれている。
 入った直後にはあの二匹の姿は無かったが、奴らの位置は派手な音で感知できた。二匹は建物の上部で互いの意思を遂げる為に動いている。
 俺もどうにか救助に向かおうと辺りを見渡す。急ぎこの階から脱出する為に階段を探すと目立つ場所に古びた階段を見つける。だがこれは使用できない。
 年期かそれとも奴らの追いかけっこが要因か、階段の踊り場が崩れ去っていた。無理に渡ろうとしても崩れた踊り場の下には無数の破片が俺の鼓動を速めた。あんな破片に飛び込んでもしたら、命か最低でも同じ仕事に就けなくなる。
「階段は無理か、なら……」
 まだ案を探り出そうと俺は必死に辺りを警戒する。燃え盛る死体に砕けた壁――特に壁は認識によって二種類に分ける事ができる。一つは手入れの施されていない為に風化した壁、もう一つは押されたあとのように窪みが作られた壁。
 奴らが使ったとされるのは後者だろう。目の前で行われているであろう逃走劇に呆れて、息を吐き出す。軍にも数えるほどしかいなかった、壁を踏み台に使った移動方法ができる奴は。
 地上でルートを探っていた俺に成せる技じゃない。俺は壁を走れるほど軽やかさも筋力も無く、出来るのはここで奴らを目で追うことだけだ。奴らがどこに移動しているのか、俺は探るべく地上からまた見上げた。内部であろうに見上げるのは少し変な感じだ。
 すると上のほうから赤い爆発が見える。
 体が瞬間に強張るも俺には危害は被らない。爆発の後にルカリオがルート変更の為に手すりから落下する。追うためバクフーンは意思を持ったような炎で階層に穴を開けて降りる。
 一体どっちが正義で悪で降参と意思放棄に一致する奴らの共通点はどこか。追い詰めることが出来れば、苦労などしない。だが、俺にはそんな身体能力を持ち合わせていないし、合わせてどちらと対面してもまずは敵からだ。
 戦争で互いが得体の知れない物に見えているのと同じで、相手には俺がどう映るかは一目瞭然だった。
 せめて、俺より強く身体能力のある奴がいれば問題ないがそいつは一体何処にいる。現在、俺が出来るのは部下と言う救世主の登場を懇願するだけだった。
「あいつは確か上から入ったよな? 迷っているのか?」
 早く来て欲しい、そんな一心で俺は奴らの追いかけっこを再び見守る立場として固唾を飲むほか無かった。俺が届かない壁に沿って取り付けられた足場、多少瓦礫が目立ち、明るさも少し制限されていた。ルカリオは軽い身のこなしで、瓦礫を避けていく。バクフーンはその逆で腕を空に振りかざして炎を操りながら追いかけている。
 関係上、ルカリオのほうが一歩有利でバクフーンは態々、瓦礫を退かす作業でロスが生じていた。しかしバクフーンは炎のアドバンテージを利用できることから挽回できるほどのチャンスは持ち合わせている。
 奴らの速さでさえも俺以上で、とてもじゃないが敵わない。ましてや雪原に身を置いていた俺が炎を前にすること自体、無謀にも近い。上が必死に逃走と追撃を担っている、何も出来ない俺は表向きの静けさと共に待っているしかない。その中で裏はどうにもならない焦燥が口腔を乾かしつつある。
 未だに俺は行動に移せないもどかしさで熱帯となりつつある地上をうろうろとしていた。これらから来る苛々で俺は歯がゆくて、仕方なかった。目で引き続き、ルカリオを追うが先ほどまで残っていた優位性は既に迫られつつある。何故ルカリオは攻撃をしないのか?
 足止めくらいなら遠距離攻撃が有効打であるのに対して、それもせずただ逃げ惑っているだけ。それしか手を打て無かったルカリオはリーチの長い火に足を取られた。
 その時、体がとっさに反応を示すがどうにもならない。届かない位置で、まさに予想通りの展開が起きたことに俺は舌打ちをする。
 足を取られて、躓いたルカリオの背後には炎を携えるバクフーンが呼吸を荒くしていた。ここからでも呼吸は反響し、バクフーンは口から白い息を漏らす。ゆっくりとバクフーンは四足歩行で足を痛めたルカリオに近づく。
「ここまで逃げ切った貴方は凄いですよ、貴族がここまで逃げ通せるなんて……」
 貴族? バクフーンの言葉は俺の耳にしっかりと聞き取った。体を起こし、逃げることも無くルカリオはバクフーンの顔を睨み付けるだけだった。こんなときに奴はどこを迷っているんだ。
 緊張が緩和されない空間で唯一つ、降り立つ雪はお淑やかであり続けている。雪は風に流されることも無く、ふわりふわりと舞っていた。
 こんなときになって思い出すのが、跳んだときの感触だ。
「お前の頭では貴族はただ振舞うだけと思っているのか? 違うな、こんな状況でも私を見捨てない者もいる」
 ルカリオの負け惜しみに似た声が聞こえた。貴族だからか、どこか図々しいがそんな一面よりもこの絶望でも燃え尽きない情熱を言葉から感じる。逆に優勢に立つバクフーンは鼻であしらうように笑った。
「……少なくとも見栄を張り続けているのが貴族だと私は思ってますよ」
 バクフーンの言葉には少しの合間が作られていた。相当追い詰めたバクフーンには余裕の感情が表に現れている。そんな呆然とした間隔にますます脳内に置かれたイメージと合致し始めた。
 もし、俺がイメージ通りなら呼び止めれば動きを止めるはずだが、そういう奴に限って意思を優先したがる。現にバクフーンは既に望みが待つルカリオへと近づいていた。

 炎を段々と強めて、ルカリオに恐怖を煽るつもりだろう。しかし肝心のルカリオは畏怖すらもなく、覚悟を決めた凛々しい顔で炎を見つめている。追われるものと追うもの、二匹の互いに別々の覚悟があふれ出ていた。
 降伏のために力を振るうバクフーン、またそれを頑なに拒否するルカリオの互いの意思。助けなければならない状況に俺の足は止まった。

 ――いや、聞こえたと言って良いだろう。焔が空気を轟々と吸い込む音と違い、空気を裂く音が――



 音の主は軽やかに宙を舞い、派手ながら無音でルカリオの前に着地した。そこで俺もやっと一息つける。あと、一つの問題も解決の方向へ示し始める。
 後ろに動けないルカリオを庇うように、そいつはバクフーンに向かって腰を深く落として攻撃の態勢へ構えていた。あの型、俺の脳内ではああいう構えを持つのは一匹しかいない。
「やっぱり迷ってたんじゃないか? ミカ!」
 軽やかに降り立ったミカを呼びかける俺、当然この声は後の二匹にも聞こえている。俺の叫び声にバクフーンは炎の威力を弱め、呼吸し続けていた炎はやがて背中へ収納し、俺のほうへと振り向く。ルカリオもこちらへ振り向く限り、俺の存在は確かに知れ渡る。
 声一つで場の空気は崩壊し、新たな注目へ入れ替えられた。二匹の違える意思の闘争は消え去り、争っていた二匹は俺を凝視している。何者か特定できていない俺も奴らを見返す。だが、首を傾げるなどの行動は無く、バクフーンの方は俺を確認した後から困惑気味であった。
 しばらく雪が降り注ぐ沈黙が流れた後に最初に開口したのは構えを解いたミカだ。ミカは俺とバクフーンを見返し、その関係性でも探っていた。
「その様子、知ってるのか?」
 ミカの問いにバクフーンは頷く。
 バクフーンの問いだけに足らず、ミカは俺へと視点を変える。バクフーンの答えと同じく俺も頷いた。
 俺も確かに知っているが、名前が思い出せない。頭に残っていないのも不思議ではない、俺はミカと会った以前の記憶は薄れ始めていたからだ。薄れていても戦争というこれでもかと言うくらいの悲惨な出来事は脳に張り付いて取れない。
 そこから辿ると名前は無くとも戦争時代に確か、後方支援で会った覚えがある。
「……バランシュさん」
 バクフーンは俺へ近づこうとするが、それをまだ認めようとしないミカは再び構える。
「やめろ、ミカ」
 あいつの悪い癖だ、俺を溺愛するあまり周りを見渡せていない。過分すぎる敬愛は己の身を滅ぼす、下手な信仰心と同じだが、こいつがいなければ後方支援と出会うことも無かった。
 渋々、ミカは構えを解いて舌打ち一つしてそっぽを向く。傍らでバクフーンは悲しげな表情で届かなかった位置から降りると俺の元へと駆け寄った。焦げた臭いと神経をくすぐる甘美な匂いは俺の嗅覚を刺激する。
 戦友との再会に俺は思わず、口元が緩む。俺が笑ったことに気づくと曇っていた表情に光を当てるようにパッとほほ笑む。ここまで感情を提供してくれるのに、名前が思い出せないのが惜しい。
「おかえりなさい、バランシュさん」
 声は透き通っており、あの追いつめていた唸り声とは裏腹で心臓が跳ね上がるように鼓動した。こんな状況で俺は目を合わせづらく、視線を逸らす。
 だが、バクフーンは俺の顔を両手で持ち、顔をより一層に近づける。重圧から解かれたように表情は恍惚を帯び、息遣いが何故か俺の色欲をなでてきた。
 何をされるのか、こんな時に限って思考出来ない。必死に考えようとするもバクフーンは段々と俺に近寄り、辺りの風景が見えずらくなってきた。死体が燃え盛る中、俺にもそろそろ限界が見えてきた瞬間だろう。その時だ。

 口が塞がった。
 何が起きたか、分からない俺は逃れようとしたが口の中に生温かいものが侵入してくる。噛もうにも口腔を溶かしそうなくらいに熱い。
 目前にいたはずのバクフーンが見えない。声を出そうにも、口内で暴れる何かが歯に触れ、更に舐め取られる背筋が凍りそうな感覚が襲う。
「ん、むふぅ……」
 バクフーンもまともに呼吸が整っていなかったが、それよりも口にまた新しいものが入り込んでくる。浸入してくる液体は甘ったるくて、苦味にも似た酸味を舌が感知した。
 だがこの液体、熱くて俺の喉を通すどころか吐きたくなるくらいだ。やっとバクフーンは満足したのか、俺から少しずつ離れていく。口に入り込んでいた何かが、抜けていくと同時に俺は咳き込み口に入っていた液体を吐き出す。粘土が高く口から糸を引いていた。
 頭が今までに感じたこと無いくらいに眩む。眩みは一瞬で開放された時、バクフーンはまるで美味しい物でも食べたような表情でまだ俺を見ていた。俺は一体何をされた?
「良かった、またバランシュさんに出会えて……」
 この様子に何をされていたか知っているはずのミカは何故か唖然としている。横で座り込むルカリオは目を逸らしていた。何故だ、一体皆俺が何をされたのか、理解しているのだろうか。
 それよりもこのバクフーンの名前をまだ聞いていない。謎めいた照れを抱いていたバクフーンに近寄ろうとした。
「隊長! そいつは危険だ!」
 ミカが放った静止の声が俺の行動自体を止めた。ミカは俺の元に来ると前に立ち、バクフーンを睨む。バクフーンはどう映ったのか、首を傾げて少なくとも状況を理解できていなかった。
「隊長に何しやがる!」
 そんなに駄目なことをしていたらしい。ミカがここまで怒るのにも訳があるのだが、最も実行したバクフーンは恍けていた。
「何って、それは愛するバランシュさんに『キス』をしただけですけど?」
 バクフーンの言葉に俺は一瞬、思考回路が停止する。キスとは勿論、愛する者や慕う者にする証明の行動だが勉学程度に知ったくらいだ。それを実行されたということは――
 顔に火照りを覚える、視界に入るミカやバクフーン、ありとあらゆる風景がぼやけて歪む。キスなんてされたことは勿論、実行したことすらない。
 視界不良であったが、何故かクリーム色の毛をした腹部を捉えてしまう。毛並みすら見えない、この状況どうすりゃいいんだ。物騒な風景に映る祝福な一時、だがその風景を俺は知ることは無い。
 するとメンタルを大いに崩した俺をミカが勘付いた。
「隊長、大丈夫ですか?」
「いや、どうもならない。視界がぼやけて何も見えない」
 キスをされたのだ、精神が戸惑ってもおかしくは無い。俺の問いかけにミカは俺の顔を持ち、息を吸い込む音が聞えた。そこから「すみません」と一言、溜め込んだ空気と同時に顔を平手打ちで叩かれる。
 ミカの強烈なビンタは視界を黒に染め上げた。歪んだ風景も消え、死体を燃やす音も俺の聴覚から逃げていく。頬に激しい痛みが襲うと俺は勢いで少し飛ぶ、立ち上がろうにも激痛が邪魔をする。
 意識を失いかけていた俺はミカの謝罪の言葉が薄く耳に入ってきた。聞き流してそのまま寝てやろうとも思うが、ミカの謝り方はどうも優しさと言うよりお節介にも近い。
 閉じた瞼を意識が開かせていく。視界は先ほどよりも良好で痛みが思考回路を動かす動力となり、再び黒い視界は鮮やかさを取り戻す。しかし、キスしたバクフーンが映ると俺の背筋は震えていた。
「バランシュさん、大丈夫ですか?」
 当のバクフーンはキスをしたこと自体におっとりとし、俺を直視していた。後方支援のときはここまで怖くなかったのに、本性は自らを変える。バクフーンは俺に一体何を求めているか、俺には分からない。
 あのようなキスした後に俺の口内を潤す唾液を舐り、表情を恍惚とさせていたのか。考えれば理解を深められるが、俺はそこに踏みとどまった。とりあえず簡単に理解を深める為にも自己紹介をしてもらいたい。それよりも前にミカはバクフーンに近づいて再び構えていた。今度は止めはしない、まだ高鳴る心臓を抑えることが出来ないのと畏怖がまだどこかに残っている。
「てめえ、名は何だ?」
 ミカは名も知らぬバクフーンに勝手にされていることを怒っているのか。
 一方、バクフーンは自分に非はないと見ており、平然とした顔でミカを見つめていた。ミカの手は抑えることに精一杯で小刻みに震えている。
 ミカの様子を諭すようにバクフーンは胸に手を置いて、ミカへと近づく。まるで現実を知らない行動に力強いミカの構えが徐々に弱まる。
「ナガマサです。これくらい良いですか?」
「ナガマサ? と言う事は男か?」
 しかしナガマサと名乗ったバクフーンは首を横に振った。そこで俺の心拍数は上がり、思い出したくも無い困惑を思い出す。
 逆に男なら拒絶したくなるが女となると俺も意識が過敏になる。所謂『初めて」と言われる物が部下であったバクフーンに盗まれた。初めてのキスの味は送り込まれた形だ。
 甘く、肉感のあるナガマサのキス……想像しただけで顔は紅潮し、視界が狭まる感覚を覚える。ただの部下であった者のスキンシップと捉えようにもキスという行為が俺の脳を揺らがせた。
 その後に続くのが女という事実だ。キスした時点で疑惑は決まるものだと考えていたがそれは違っていた。
 まともに顔を見れない俺にナガマサが接近してくる。
 ミカもこの事実に戸惑いを持っており、構えが完全に解かれていた。まあ、女で後方とは言え、戦場を見てきた仲だ。
 ただ今回は一線を越えている。ナガマサのキスが俺に対する何なのか、興味はようやくそこに向き、俺はナガマサを意識してしまう。ナガマサ自体はどう思っているか不明だが、近寄りつつナガマサの表情は微笑んでいた。
「ナガマサ……」
 俺の呟きが白い息となって消える。
 ハラリと雪舞う崩壊した建物、視野は狭まリつつある中。

「おい! 私を放って何をしている?」

 凛々しい声が建物に響く。急に視界が広まり、全員が声の場所へ振り向いた。
 そこにいたのは焦げた片足を浮かせて一本足で地面に立つルカリオが腕を組み、眉間にしわを寄せていた。先ほどナガマサの攻撃を避けていたルカリオで不服そうな表情でこちらを見つめている。
 最初に気が付いたのはミカだったが驚いて、声すら出ない状況だった。確かに最初に作り出された絶望で勇気を持った発言をして、危機に立たされても肝の据わった発言をしているくらいだ。
 だが、そのときミカはいなかった。ではミカは何でルカリオに驚いているんだ? ルカリオの方はミカの驚きに「ほう」と一つ呟き、ようやく口元を歪ませた。
「そこのコジョンドは私に気付いているみたいだな」
 ミカは頷けず、ましてや喋ろうにも口から声が出ていない。特に驚く理由が思い浮かばない俺にはこのルカリオは肝の据わった奴としか見れていない。
 だが、バクフーンがそれだけで追うというのはおかしい。現にバクフーンは追っていた時以来の怒りは無く、黙ってルカリオを直視していた。この状況で気付いていないのは俺だけだ、そもそも勇気があるルカリオだけでは無い事は確かだが、それ以上の情報が俺には無かった。
 ミカから視線をずらし、その凛々しさゆえに例えるなら薔薇のように赤い瞳がこちらに向く。誰だか分からないルカリオに見つめられる感覚はどこか新鮮で何の緊張感も圧迫しなかった。
 ルカリオは口を小さく開いて、驚きを晒す。相手方には俺がどう映り込んでいるのか、ルカリオの瞳に吸い込まれるように見つめ返す。俺にとっては瞳の色や行動を直視した故に根性もあり、とても肝が据わったという表の面。得体の知れない自信や異常さが詰まった狂った裏面が窺える。
 長く、といっても時間に直せば数秒。ルカリオも気付かない訳が無く、フッと鼻で笑った。
「お前は疑う癖があるのか? それとも私に何か用でもあるのか?」
「用ならある。俺はお前が知りたい」
 俺の言葉にミカが勢い良く俺に近寄った。ミカから出ないような慌てよう、このルカリオがミカにはどう識別されている。ミカの行動に何故かルカリオが「良いぞ」と言葉でミカを退避させた。ミカは言葉通り下がる。
「お初に掛かるな、私の名前はチェルシー。アルカディー国の大貴族……だ」
 その言葉の後に俺は手紙を思い出す。確かに手紙の差し出し主にチェルシーと書かれていたが、まさかこんな所で出会えようとは思っても見なかった。けれども特に驚くことも無かった、あのキスの後で慣れた緊張は貴族の登場だけでは盛り上がりに欠けていた。
 しかし、大貴族の前で礼儀をなくして良い訳ではない。
「申し遅れました。俺はバランシュだ、こちらは相棒のミカだ」
 俺は一礼し、自己紹介をすると片足で立つ大貴族は顎に手を置く。そういえば俺たちはこの大貴族様に呼ばれるから王宮に向かおうとしていたんだ。
 ミカは驚愕のまま俺に助けを求めるように近づく。ミカはこの国で傭兵として働いていた身だが、急に畏まっていた。
「俺たちを呼んだって、何でなんでしょうね?」
 小声で分からないことを疑問が耳打ちされる。当然俺はミカの答えに「さあ」ときっぱり答える。護衛と言ってもバランスも崩さず、片足で立つ女がわざわざ呼ぶわけでもない。それに今日はパーティとチェルシー自身が手紙に書いたのに肝心の大貴族のチェルシーはこんな死者が山積みな建物の中でナガマサと追いかけっこな訳だ。
 だが、もっと危ういのは結果のほうだ。ナガマサの火がいまや俺たちにピンチを与えている。
 炎は死者を燃やして、天まで悠々と昇る煙を焚いていた。今の状況でも俺たちが野次馬を掻き分けて入ったが、いずれ裏口の存在に気づくのも時間の問題となる。
 その上、穴が開いた建物から煙が見えれば、事が大きくなりすぎる。
「おい、大貴族。いずれこの場所もばれるぞ?」
「チェルシーと呼べ、私にはれっきとした名前がある。後、心配するな」
 少し前の俺と同じことを言ったチェルシーは、次に心配するなと言い返す。この壊れかけた場所で隠れ場所も無い、出口であった裏口も今や火の手が阻んでいた。
 不安が俺を駆る中、チェルシーはミカを手招きした。
 少し躊躇うかのようにミカが近づくと、チェルシーはミカの懐に手を突っ込む。不意に手を突っ込まれたミカは当然、拒否反応を起こして跳んで退いた。
 チェルシーの手には一通の封筒が握られている。
 確かあれは朝方、ミカが持っていた封筒だが、チェルシーはそれを躊躇いも無く、破り捨てると中から手紙を取り出す。手紙を開き、それを地面に置く。
 チェルシーがしたいことは一体、するといきなり懐に手を入れられたミカがチェルシーに近寄ろうとすると、地面が呼応するように動き出す。揺れる地面の中、まともに歩けない状態、なのに片足で容易く、チェルシーが俺の元へと訪れる。
 手にミカが音読した手紙があった。手紙には流れるように書かれた文字と背景に円状の紋章が象られている。恐らくここの仕掛けと連動してあるが、驚くのはこの建物にここまでの仕掛けが施されていたことだ。
「だから心配するなといったんだ」
 ゆっくりと沈み行く地面。段々と地表から潜り、層が見え始める。一方、長らく黙り込んでいたナガマサはこの一連の出来事に感心の声を漏らしていた。追う側から見てみれば逃げる手段の一つ知ったのだが、なんとも複雑な気分だ。
 そのチェルシーは浸るナガマサを横目で見て、鼻であしらうようにして笑った。
「こんな事までは伝えられていない。だろ?」
 片足で余裕そうな表情で微笑んでいるチェルシーは「そろそろだ」と楽しげに一言呟くと、層が視界から消える。肌に感じていた乾燥して冷たかった空気は急に湿り、程よい暖かみが体に戻ってくる。光と冷たさを与えてくれた天井は既に閉じられていた。
 それは光の遮断、俺は辺りを見渡すが、明かりの問題はすぐに解けた。
 まさしく俺たちが目前にしているのは権力と金の匂いがする場所、アンダーグラウンドだ。
 ナガマサは圧倒されて、声も出せずにアンダーグラウンドの辺りを見渡していた。無数の燭台が地下を絶えず照らしている、空気を温める要因とも火はなっていた。
「ここは貴族たちが作った抜け穴だ。しかし……」
 チェルシーは再び横目でナガマサを窺う。もとはナガマサはチェルシーを追っていた身だ。この上とないチャンス、チェルシーはそこを煽る。
「奴に伝えなくても良いのか?」
 ナガマサが手に入れた情報はかなり大きいものだ。何せ抜け道があるなら軍を目立たせずに動かせる。そんなチャンスにナガマサは首を横に振り、俺の元へ近づく。
「バランシュさんがいてくれる。それだけで私は安心ですよ」
 ふと背の高いナガマサの顔を見上げた。
 ナガマサの表情にはあの追っていたときの恐怖染みたものはなく、今は確実な安堵が彼女に微笑を与えている。彼女は一体、この一年間で何を強制されていたんだろうか。もしかすると俺たちのように戦争があったという事実から逃れたかったか、それとも……。
 考えることに一点していると、とうとうアンダーグラウンドへと運ぶ地面は着地する音が鳴る。地面を擦り、枠へと戻っていくと地面は効力が抜けた。
 パーティに行くだけというのになんと言う労力の掛かった移動方法だ。だが、まっすぐミカと歩いているよりも興奮が冷めぬことは確かではある。岩で覆われ、作られた洞窟はとても神秘的であった。
 薄暗い暗色に、音が反響する世界。実際、今さっきの地面が着地する音でさえもまだ遠くから響いているようであった。
 全員がこの地面に降り立つことを確認したチェルシーは先頭になる。絶えずにこだまする空間に俺はまだ興味を持っていたが、チェルシーの咳払いが興味を削ぐ。
「ここは貴族用の抜け穴だ。勿論、全貴族に繋がっているが普通には使えない」
 チェルシーは一枚の手紙を取り出して説明をした。なら、何でもっとこういうのを早くに使おうとしなかったんだ。少々疑問を抱いたがそれを流して、進むチェルシーの方に歩いていく。

 ん、疑問? そういや、何かを俺は忘れている。あの時、衝撃的な一面に驚いていたがあそこでもう一つの目的を手放したりしなかっただろうか。立ち止まり、降りてきた地面をふいに見上げる。
 ふと頭の中に風景が巡る。
 物となり、壁や床と成り果てた死体達、天井が壊れて、新鮮な空気が入り込んだあの空間。その前は閉所で壁で中すら見えなかった廊下のような場所……。そう、そこだ。
 そこに確か、小さなポケモンが一匹いた覚えがする。姿かたちは分からないが、確かにいた。しかしあのポケモンはどこに逃げたのだろうか。廊下辺りから姿が消え、以来見てすらいない。
 建物は死体に引火した炎が徐々に勢いを増していたところだが、あんな小さなポケモンがあそこで生き残る術はあるのか。
「どうした? 早く来ないと置いてゆくぞ?」
 チェルシーの言葉に我に返り、俺はミカ達が待つ集団のもとへと走り寄る。

4.誰の為の隊長か? 


 少し歩いたが太陽の見えない場所では時間の感覚があまりにも狂う。
 時というものは太陽や月を見て、その傾き具合で理解するものとされている。だからそれらが見えない場所は一体、時間がどうなっているかを知る術がない。
 一体、どこまで歩いたのだろう。よく考えると町外れの王宮までは町を直進すれば良いだけだ。だが、妙なことにチェルシーは真っ直ぐ行こうせずに、曲がったりと迷っているような歩き方である。
 それを疑問に思っているのは俺だけなのか、ミカやナガマサは口出し一つせず、チェルシーでさえも無言で洞窟を歩いているだけだった。
 沈黙の中に遠くで水滴が落下する音、それだけがこのほの暗い洞窟を埋める全てだ。俺一匹が、辺りをくまなく見ている。
 岩肌は全て同じではなく全てが違い、中には連想できそうな形もある。開拓こそされていたが、歩き心地は普通の土で街中よりも足への負担が少ない。内部は湿っていたが、導くような薄い火が暖かさを演出してくれた。
 というよりもここまで感受しなければ、我慢できないような世界だった。騒がしかった地上が恋しい、閑寂な地下で俺は切なくなる。
 何も流れてこない世界、耳に残る他に行き道がある奴らの声、見渡す限りの皆等しい風景。
 思い出されるのは敗戦した国だ。
 雪国・ネージュ、俺が所属し、目的のために戦った場所だ。しかし最後は遠目からであったが殺風景が広がっていた。かつて栄えた町も恐らく瓦礫と化し、今では廃墟と戦争を耐え忍んだポケモンが住むだけの国になっていた。
 俺の中では酒を飲んでも一年経っても忘れることが出来ない。当時の俺はそれを必死に忘れようとしていたがやがて無駄と気づき、今に至るわけだ。
 だが、あの時。もっと結末が変わっていたらあんなことにはならなかったかもしれない。……思い出すのはやめよう。
 俺はそっと記憶から遮断し、今を見る。
 フワッと白かった景色から戻ってくるとミカが後ろへ振り向いて立ちすくんでいた。きっとまた心配しているに違いない。ミカの後ろには同じように止まるナガマサとチェルシーもいた。
「隊長、何やってんですか? まさか怖いとかじゃないですよね?」
「怖いわけないだろ、俺は大人だぞ」
 本当は怖い、今でこそミカがいるから奴らとも出会えたが、ミカがいなかったら俺は何も出来なかった。けれども怯えてはならない。
 俺は力む足をどうにかして軽やかに進める。何を怖がる必要があるんだ、ミカもいれば、ナガマサだっている。俺の支えてくれる奴らは目の前で待っている。
 チェルシーは俺の様子を見て、クスッと口に手を当てて笑みを浮かべている。奴の正体は貴族であり、最も理解できない。
「兵役をこなした男がへばっている場合か」
 二匹が励ます中、チェルシーだけは俺に一喝する。チェルシーはすぐさま振り返り、先へ進む。
 チェルシーの歩きには焦りが伝わってくる。時間やそれ以上に追い詰められ、切羽詰っているように見える。あの後ろ姿からチェルシーの現在を読めたが口には出せない。
 奴も触れて欲しくない場所があるはずだ。探られて痛い部分、そこに触れるのは誰であっても不快だ。
「おい、貴族さんよ。何急いでいるんだ?」
「ミカ……!」
 かなりの好都合でミカの信仰心が動かされた。チェルシーはミカの言葉で振り向いたが、口は閉じていた。冷静なチェルシーに対しミカは憤りを持ち、俺の制止を逆に止めた。
 同じ兵士であったミカだが、ここまで貴族に怒っているのだけは理解出来ない。ミカは無言で見つめるチェルシーの元へと近寄った。ミカが怒っているときは何を仕出かすか分からない、実際は制止を呼びかけたが今回ばかりは止め切れなかった。
「国の平和……」
 チェルシーの言葉でミカの足が止まった。チェルシーは軽く息を吸い込み、ミカを見つめ始める。
「あと、私の権力のためだ」
 ミカの静かな怒りは爆発し、最初に鼻で嘲笑った。チェルシーが言うことは確かに利己主義的な発言、だがあの力強い瞳は何だろう。
 悲しげな表情であるのに瞳の奥は諦めの暗色は見当たらず、輝きを増している。
「所詮は権力かよ、俺たちはそんなんじゃないんだよ!」
 ミカの声が狭い洞窟に響き、耳を震わせた。チェルシーは臆することなく、感情をなくしたように無言と共に表情すら変えない。
 ミカの叫び声に火が揺らめき、遠くから木霊が聞えてくる。チェルシーは一つ呆れるようなため息を吐いては足をミカのほうへ進めた。
 地面を踏み締める音、普段は聞えない鼓動と呼吸が無音の世界に表情を与える。緊張と真実が混ざり合うこの場所、既にミカとの距離は触れ合いそうなくらいに近かった。
 威勢を放っていたミカは足を退くが、チェルシーがそれを許さぬとミカの腕を握る。戸惑うミカにチェルシーは言った。

「私は女だ」

 ミカが止まった。チェルシーの赤い瞳を見つめながら、時間のない空間で二匹は行動は完全に止まった。
 知る術の無かった俺も驚きを隠せなかった。胸を張ってナガマサの撤退を拒否し、ある程度の跳躍を見せ付けて逃げて屈することの無かった彼女。
 男でも褒め称えるべき精神だが、女となると俺の見方は正反対だ。女なのに大貴族であり、この国の舵取りを担う。それは確かに凄いが、どこか狂っているようにも見えた。退くべき時に退けない、意固地を張り続けるのだろうか。
 一方、そのナガマサはやっぱりとホッと胸を撫で下ろしていた。
 だが、俺を含めた殆どの奴はチェルシーの発言に固まったままだ。
「やられたならやり返す。それが女貴族のマナーだ」
 ミカの腕を放し、チェルシーは進路のほうへと振り返った。投げ出される形で尻餅をつくミカ、納得は行かず、取られた手を引き、顔には未だに納得の行かない憤りを表している。
 どうにもならないミカは歯をむき出しにし、冷淡なチェルシーに一言叫ぶ。
「お前は何から逃げている!?」
 謎がそこにあるならミカは求めるほかない。それを行動にし、叫ぶ声は洞窟へと感情ごと反響する。ミカの言葉に耳をピクリと動かし、チェルシーは一息ついた。
 これが平凡に物を見れない者の態度。肝が据わっており、逃げることなく立ち止まっている。チェルシーは首だけ向けて、ミカを直視しなおす。事実を知り合った二匹は互いが反発しあっている。
 ミカだけで精一杯と言うのに、扱いが分からないチェルシーがいるとするとお手上げだ。黙っていろ、ということなのかチェルシーは俺のほうに赤い瞳を光らせる。
「ミカとやらの答えを言っておこう」
 チェルシーは首を戻して、火が導く場所へと腕を伸ばす。曲がりくねった道のり、先に待ち受けている場所とは一体どこだろうか。チェルシーは一幕置き、もう一度首をこちらに向けた。
「ガンドラの居城……」
 名前を聞いた途端、俺の心臓は跳ね上がり、脈打つ速度が高まっていく。あまりの速さに胸焼けに似た痛みを生じる、この一瞬で異常が起きるくらい聞きたくない名前。
 ガンドラ……、記憶がこの名を忘れる事は無い。そいつは味方の仇でもあり、何よりも兵役時代の隊長である。ナガマサもその名前に安堵から緊張を取り戻してしまった。
 だが不思議にも俺が苦しむ傍らで、ミカのほうには焦りが見えた。ミカはネージュ時代には敵兵としていた筈だ。ガンドラの名を聞いて焦るほどでもないのにどうしてだ?
「私の権利を脅かし、政治を蔑ろにしようとする所謂国崩しの一種。そんな奴の統治で救われる世界など無いのだ!」
 体を振り向かせて、手を伸ばす。ガンドラを反対する気持ちは一緒だ、奴には国を崩壊させた奴だ。だが、その狂った思考には俺は頷けない。
 最も俺よりも強く反発するのは何故かミカのほうだ。ミカは立ち上がり、「ちょっと待て」から言葉を始めた。同じくミカの怒る理由も分からず、俺は自分の苦しみに精一杯だった。
「何を言い出すかと思えば……。隊長、俺はもうこんな奴には構ってられません」
 チェルシーからしてみればミカの撤退など痛くも痒くもない誤算。むしろ分かりきったようにチェルシーは無言で立っていた。しかし俺にとって見れば、相棒の離脱は痛い誤算だ。
 だからどうやってでもミカは止めなければならない。去ろうとするミカ、その前に震える足を引きずって俺はミカの前へ立つ。
「隊長だってもう駄目じゃないですか、立っているだけで精一杯なんでしょ?」
 流石、一年は俺を見続けた男だ。俺の無理の一つや二つは見切ってくる。ガンドラって名前を聞いただけで怖いわけじゃない。
 私怨が今かと内側で盛っており、逆にどうしたらいいか分からない。今まで私情を入れて戦ったことなど無かったというのに奴に対する執着心が俺に火をつけてしまう。
「どうしてもと言うなら『アンタ』の戦う理由が聞きたい」
 ミカの口から隊長が消えた。その代わり、『アンタ』と言う俺自身の答えをミカは求める。俺自身には一体何がある。限りある過去から俺は戦争時の記憶を辿った。

 初めて戦争に立ち、活躍を見せていた俺、しかし立場上、ガンドラに隊長を奪われ、お陰で味方は壊滅して俺たちは散り散りとなった。あれはガンドラの采配ミスであり、そのせいで結果国が滅んだ。
 そんな戦争での大罪があるのに奴は殺されず、漂々とこの国で権力を掴んでいた。これほど恨みたい奴はいない、故郷も、けれども俺自身の答えは――

 あれ? 俺自身の答えって、まさかとは思うが……。
 案外答えが早く思いつく。俺の気持ちは簡単であり、故に理由としては絶対に欠けていた。だが、これが答えだ。
 ようやく震えは止まり、体内に冷気が満ちる。心に溢れていた私怨はまだ重かったが、ミカを説得させるための言葉も出来上がっていた。ミカの瞳は信念を帯びた強い紫で俺を見つめている。
 これは彼自身も本気だということだが、俺はそこを崩すだけの答えを持っている。
「俺がここまでしてガンドラと戦いたいのは――」

「自分の恨みだ」

 俺の答えにミカは驚きを隠せない。だが俺は気に掛けることも無く、言い進める。
「考えてみた、俺が戦う理由。ガンドラに生きる道を汚され、のうのうと生きている事態、それが許せない」
 ナガマサの嘆く声も聞えたが、俺には関係ない。ここ数年間溜め続けた自分自身、他の奴の為には自分を捨てなければならなくて向き合えなかった自分。

 だが、俺には焦る様子は無くて、むしろ頭はいたって冷静だ。
 俺の理由にチェルシーのあの信念強い瞳が頭に映し出される。所詮俺はチェルシーとは同等にも立てない『まともな奴』だと言う事が分かった。そんな答えにミカも同じく嘆いている。
 当然、今まで慕ってきた隊長がここまで私怨に飲まれるような男だったことは失望ものだ。
「今までの中で一番最低な隊長だ。俺たちが組んだ理由も忘れた最悪な答え、これじゃガンドラと何一つ変わらない……」
 だが、とミカはまだ言葉は続く。
「『アンタ』自身の答えとしては最高だ」
 ホッとため息をつきたくなるが気を引き締める。ミカは再び、表情を柔らかくしチェルシーの元へと振り返った。
 俺たちのいざこざを肩越しに見つめていたのか、終わった直後に先ほどと同じように鼻であしらう。貴族故に足を引っ張る奴は嫌いなのだろう、実際俺は皆の足を引っ張ってばかりだ。
 だが、それもここで終わりだ。
 チェルシーの目的のためにガンドラを倒す。誰に頼まれたわけではない、自分で奴を――。
「ほら、行くぞ。居城まではもう少しだ!」
 呆然としている自分にチェルシーがそんな状況を破る。
 燭台が示す方向に腕を差し伸べて、俺たちは再び歩みを進めようとしたときだ。洞窟上部で大きな音が響く、音に伴い地下は激しく揺れる。立っていられないほどの揺れ、原因は地表からだが音は段々と近づいてきていた。
 丁度、自分の上部に音が接近していたが、動こうにも激しい揺れがまともに歩くことさえも許してくれない。硬い地面を掘る金属音に似た不快な音が動きに更なる規制を足す。
 ミカはどうしようもならない俺に飛びかかる。まるで背中に乗って跳んだときのようで関与できない力、だが視点は前よりも良好で音源である上部にまでも見えた。すぐさま別の場所へと移される俺はいた場所を見上げた。

 それにしてもどうしてここが分かったんだ?
 俺のいた場所の上部から鋭い紺碧の瞳がこちらを睨む。耳が良いのか、俺のいた場所よりも逃げた場所を見つめている。地面に降り立つと見た目通りの地響きが起き、洞窟全体を揺るがす。
 身を覆うほどの鋼の鎧で顔を含めた体を包み、巨大な爪を擁するポケモン、ボスゴドラはこの地面に降り立った喜びか、唸り声を上げた。
 巨体から放たれる咆哮は再び洞窟を振るわせる。近くで聞いている俺たちは全員耳を防がなければ鼓膜が潰れそうなほど大きい。咆哮を終えるとボスゴドラは口元を歪ませて、俺のほうへ夜空のように暗い紺碧の瞳で睨む。
 ようやく出会えた敵に俺もボスゴドラの瞳を対抗するように見つめ返した。
「……ようやく出会えたな、ガンドラッ!」
 私怨が一気に高まり、怒りに点火される。怒りに溢れる俺に対して、ガンドラは口を開けて視線をずらして笑い始める。ガンドラにとって映る俺の姿は恐らく弱者だろう。
 だが、溜まりに溜まっていた恨み辛みで俺の頭は満ちている。そのせいか、ガンドラの威圧に飲まれることなく、震えすら現れず、俺はその場にいれる。
「貴様か、臆病者」
 唸るような低い声が俺に降りかかる。もう怯える事はないと分かっていても低い声にはいつも身が引けた。
 ガンドラは俺から興味無さげに目を逸らすと、俺の傍にいたミカに視線を向けた。隣にいるミカは立ち止まり、ガンドラを見上げていた。この二匹の関係は一体なんなんだ。
 戦時であったのだろうか、それにしてもミカの眼は険しかった。眼光を鋭くさせて恨むように、対して巨体を持ち見下すガンドラ。
 最初に火蓋を切るようにして口を開いたのはガンドラのほうだ。

「ほう、いつかの傭兵はこんな臆病者に張り付いていたとはな」

 傭兵? 違う。
 ガンドラの言葉はとても衝撃的な言葉だった。まるで雷にでも打たれた様な衝撃を抱いた俺はミカへと振り向いた。既に諦めたような表情で俺のほうに視線を向けていた。
 ミカが傭兵な訳がない。だって一年前に彼は俺に敵方の兵士って言っていた筈だ。だからこそ、同情出来たんだ。
 ミカは先ほどの諦めから反抗的な態度で開き直る。
「それがどうした、ガンドラさんよ? 俺には今があるんだよ」
 これでミカが傭兵である事は確かとなった。今まで俺たちの間にあった悩みやミカに関する味方が一瞬で変わってしまう。この国での傭兵は兵士にとって悪者という存在だ。
 兵士が兵役と言うものがあるが、傭兵にはそんなものは存在しない。法の壁は彼らをせき止めることはなく、戦争の道具として扱われ、思うがままに動く。金のためなら仲間すら殺す悪徳に生きるポケモン達。
 しかし、こんな事実の前でもミカを疑いはしない。
 ミカの紫の瞳は強く光り輝いていた。ガンドラに反論を述べた時の表情もいつもと同じで信念を持ち、真っ直ぐ生きているミカそのものであった。ガンドラはミカの開き直りを馬鹿らしく嘲笑う。
「貴様はそこの臆病者の部下共を殺したことを忘れたわけではないな!」
 ミカの表情は戸惑うことも無く、雄雄しかった。つまりのところは肯定している、否定する様子も無く、ミカは態度で表していた。
 地面に立っている感覚を忘れ、岩肌の壁との距離も遠くなりつつある。そこまで衝撃の強い事実に俺の私怨は宙に浮く。一体誰を攻めたら良いのか、ガンドラかそれともミカか。どちらかの言っていることが嘘だという確率もあるが、考えようとすると頭は静かな痛みを覚えた。
 いや、考えること自体が間違っているのか。眩む俺は今まで見たこと無いようなミカを見ていた。白い体毛とは裏腹に内面の黒さをさらけ出した沈黙するミカ、先ほどまで見ていたミカとは違う。
「隊長、いや……バランシュさん」
 今までの意気盛んな声ではなく、変わり果てた低く深刻さを増す声。俺の耳にそれははっきりと聞えて、今までどおり返事をした。
 同じ筈の行動、待っていたのは険しい顔で深刻さを物語るミカだった。そんな表情を見たくなかった、何もかもがガンドラなのか、事実であっても信じたくない。
 ガンドラの向こう側にいるチェルシーも難しそうな表情をしており、近くにいるナガマサはガンドラに恐れている。だが隣にいるミカは、二匹とは違っていた。
「ガンドラの言う通りだ。俺は確かにアンタの部下を殺した。隠していた理由なんて都合が悪いから――」
「やめろっ!」
 もう聞きたくない、ミカの言う現実に恐怖を抱く俺はミカの話を折った。
 俺の叫び声にガンドラの笑う声が聞える。全てが思い通りに進められている。逃げたい気持ちが私怨をかき消していく。燃えたぎっていた私怨は消火されて消極的なものが込み上げてくる。
 敵わない、戦った所でそれは同じかもしれない。
 しかし現実から逃げつつあった俺の体に暖かな感触が伝わる。元々体温が低く、熱いと感じる俺であったがこれは温かかった。感触が伝わる場所には白い手が置かれている。
 手首にヒラヒラとした毛を付けて、俺とは違い現実と向き合うミカだ。
 語った時とは違い、今までと同じ覚悟に満ちてはっきりとしていた。体に手を置いて、ミカは図体のでかい目標であるガンドラを見つめていた。ガンドラは俺たちを卑下とし、見下している。消極的な俺はミカの温かさに顔を上げる。
「これがアンタと最後の仕事にさせてくれ。最高で、明日の俺に言い聞かせられるようなくらいの覚醒できるくらいの仕事で……!」
 『最後』、この言葉で頭にあの頃のミカを取り戻す。一途で仕事を熱心に請け負っていたころのミカ。それが彼の策略でも、確かに存在していた。だからこそ返事も決まっていた。ミカと仕事をする際は日常からの逸脱だ。
「分かった、じゃあ行くぞ、ミカ!」
 このとき何故か耳にノイズが混じった。最後だからか、逃げたい気持ちを抑えて戦いに挑む。


 数は優勢だが、相手は強固な鋼の鎧を擁したガンドラだ。また鉄壁に相応しい防御だけでなく、爪や体を駆使した攻撃も強力なもの。焦りから醒めた目が壁となるガンドラを見つめる。
 こんな奴が俺の前にいた。俺はガンドラの後ろでただ部下を諭していただけで、こいつのような実績は殆ど無い。体の底から無限に上がってくる恐怖、屈しないように俺は足に力が入った。
 俺を含めた四匹それぞれが臨界体制に入る中、ガンドラはまだ不気味に笑みを浮かべていた。
 奴の余裕もここまでだろうが、俺たちには奴に勝てるということではない。動き方によっては失うものが多くなる。うかつに動くのは止したほうがいい。
「ふん、貴様ら如きが……圧倒的な力も無い貴様らが私に対抗できるほどの力を……」
 ガンドラは低い声で、あらぬ方向に呟く。ガンドラの落ちた場所には雪と光が舞い降りていた。白く激しい光に真っ白な柔らかな光に包まれる雪。ガンドラは手を肩の位置まで移動させた。
「馬鹿馬鹿しい!」
 肩の位置まで持っていた手を勢いよく振り下ろす。見事に空を裂いてガンドラの手は地面へと叩きつけられた。ようやく戦闘の開始といったところ。
 周囲に響く地響きに足を取られて俺やナガマサは動けなかったが、ミカだけは跳んでいた。ミカの跳躍は洞窟の中では制限されるものの縛られることは無かった。ミカはそのままガンドラの振り下ろされた腕に飛び乗る。
 ここで隙を作るガンドラでもなく、すぐさままだ動かしてさえいなかった片手でミカを掴もうと振るう。しかしそれは途方も無く間違っている。
 元々、小回りの利くミカはガンドラの片手の行動を読みきったように跳び上がっていた。瞬間的な脚力を持つミカをそもそも拘束しようというのが間違い。ミカはすぐにガンドラの顔までたどり着くがガンドラもこの程度なら許容範囲でもある。
 体全体が武器であるガンドラは勿論、頭でさえも武器だ。空中という立場上、力が関与しない世界でミカは格好の的であった。
 ガンドラの行動は予想通りで頭を少し引く。頑丈な兜から放たれる頭突きは強力に違いない。ガンドラの行動を邪魔する者は無いと思われたが、突如矢のように空を走る青い光が見える。
 青い光が命中するとガンドラは体ごと後ろによろけた。攻撃した者の正体は勿論、片足で立つチェルシーだ。
 彼女の手には激しい青の光が包んでいる。小回りの効く格闘タイプの二匹は先ほどの地響きにも崩れていない。
 ミカはチェルシーの助けで地面へと降り立つ。ガンドラは後頭部を攻撃されたことにより怯んでいる。これはチャンスとばかりにナガマサが続く。
 ナガマサは背中から火を噴出し、やがて体へ馴染ませるように纏う。ナガマサは自らに纏った火と共にガンドラに突撃する。四速歩行で走り、ガンドラの懐である腹部へと飛び込む。バクフーンと言うのは自らの炎を爆発させ、攻撃させることが得意な種族だ。
 ナガマサはガンドラの懐で背中の炎を爆発させた。見事にガンドラの巨体を揺るがし、爆心地から吹き出る黒い煙に拒絶し始める。いくら岩の部分があっても相手を覆っているのは鋼の鎧だ。
「ミカさん!」
 黒い煙からバクフーンの声が聞える。地面に降り立ったミカを呼ぶ声だが、ミカは鬱陶しそうに「ああ!」と返事をした。ミカは腰を低く落とし、跳躍のときの構えを用意し始めた。
 ミカが持つ力に溢れる脚は跳ぶ事も可能だが、それ以上に力が発揮されるのは彼の必殺技にある。足元をふらつかせるガンドラ、そこで集中力を高めて狙いを定めているミカ。
 目前には鎧に熱を贈り続けるナガマサの姿が黒煙で覆っている。もしそれが駄目だったとしてもチェルシーの波導も後方で待っている状況だ。全てにおいて用意された状況、そこに俺が省けていたがそれも良いだろう。

 これで決着が着く。どこか心寂しいものだが、覚悟しなければならない。

 ガンドラのふらつきが治りつつある時、ミカがその場から発つ。ナガマサは炎の供給を中断させてガンドラから離れる。ガンドラの足元がまともになりつつある中。高速でガンドラの腹にミカが飛び込んでいた。
 炎でこじ開けられた鎧の中にミカの蹴りが入る。高速での突撃ゆえに鎧が砕ける音が洞窟に鳴り響いた。すぐさまガンドラは状態を戻そうとしたが勢いが強すぎるのか、動かそうとする手が止まった。抉りこむような蹴り、溶かされた鎧を砕き、ガンドラの露出した腹部に入り込む。避けられなかった直撃にガンドラはなす術も無い。
 ガンドラは叫ぶ事なく、ミカの脚により既に立つ力を奪われていた。ミカの蹴りはガンドラを貫くまでには至らないが、既にガンドラの苦しげな表情から痛みがどれほどのものか痛感できる。あれがミカの実力、まだ隠し持っていた実力に俺は圧巻としていた。
 腹部からミカが飛び出し、痛みから解放されてガンドラは腹部に赤い穴を開けている。最早ガンドラは既に立っているだけで精一杯だろう。既に腕から力が抜け、短い間隔の呼吸を繰り返すだけの小物へと落ちていたのだ。 
 こんなに一瞬に物事が片付くのには余りの呆気なさを感じた。しかしミカの表情には最後と言う事もあり表情が輝かしい。同じくナガマサは背中の火を収めて、自分の立場を抜け出せたことによる安堵が訪れていた。
 チェルシーは朦朧としているガンドラを見上げている。俺も同じく威厳を無くしたガンドラを見上げた。
 巨大な壁にひびが入ったようなものだ。あれだけ強固なガンドラがここまで弱くなるほどだ。俺たちは強くなっていたのだろうか。
 ようやく一年前の戦争から終止符を打たれるこの時、俺の耳に再びノイズが入り込む。戦闘前は雑音しか聞えなかったはずなのに今度は言葉が聞えてきた。

 はっきり聞えない声であり、正直なんなのか全く理解できない。心当たりの無いノイズはすぐに消えたが、正直不気味でならない。すぐさま俺は現実へと戻る。終わった戦いに息を吐いた。外の空気がこの洞窟までに及び、息を白く見せる。
 あの一撃を放ったミカは激しく息を吐いている。吸おうにも嗚咽が漏れてうまく呼吸できないさまは相当な力を使ったことが分かった。それだけで俺の顔は和らぐ。チェルシーは青い光を消すと立ち尽くすだけのガンドラへと近づく。
「これが、貴様が低く見ていた奴らの実力だ」
 ガンドラは答えもしない。ミカの蹴りをまともに受け、倒れてもおかしくない状況に立って堪えているのか。たとえ戦う力が残っていてももう遅い。絶望的な状況でガンドラはゆっくりと口を動かす。
「俺を……倒すほどの、力だ?」
 かすれた声でガンドラが呟くと同時に、ガンドラの腕がピクリと動く。当然と口を塞ぎたくなる、倒れるまで油断するからだ。
 ガンドラの腕に力が巡り、過信していたチェルシーはすぐさま構えたがもう遅かった。構えた頃にはガンドラは朦朧とした状況から一変し、後ろのチェルシーに腕を振るう。見事にチェルシーの胴体へ直撃すると近くの壁に叩きつけられた。このことから全員の意識は再び戦いへと引きずり込まれる。
 ガンドラの行動は単調であるが不意を突かれた俺たちにとっては読めない難物へと変化していた。ナガマサには時間があったが、それよりもガンドラが速い。ナガマサに硬質な尾が襲う。慌てたナガマサはなす術も無く、尾に叩き付けれる。
 目の前で二匹が倒され、ガンドラは体を向けてこちらを睨む。残るは俺とミカだけだ。
 負けるという焦燥感から俺は何も出来ない。肝心なときに何も出来ずに、戦えてすらいない俺の傍らでミカは腰を低く落としていた。再びあの構えであったが今回は息が上がって、体力自体が万全でない。
 ガンドラの紺碧の瞳には鈍い光が宿っている。近づきつつあるガンドラにミカは先ほどと同じように発った。一度目とほぼ同速であり、ガンドラも防御の姿勢は見せない。既に腹部を覆う鎧も無く、俺は一発目と同じ結果が出ると信じていた。
 ミカの蹴りが届こうとしたとき、ガンドラの周りに淡い色の霧みたいな気体が漂う。霧はガンドラの咆哮と同時に俺たちに向かって飛んでくる。霧は冷たかったが俺に大したことは無かったが、届く直前であったミカは霧ごと流されてこちらに押し戻されてきた。
 押し戻されたミカは所々焼けたような怪我がいくつか見当たる。何故ガンドラがあんな技を使える? ミカはまだ倒れずにいたが先ほどの攻撃が祟ったのか、既に体力を消耗しすぎていた。ミカの激しい呼吸と同調し、ガンドラは近づいてくる。
「貴様らはまだ分からんのか? この戦争で一番力を持っていた男を」
 ガンドラは歩み寄りながら腕を大きく振り上げた。間違いなく止めに差し掛かっている。肝心なとき、この戦いの原動力となる私怨は今になっても怯えこんだままだ。自分の恐怖に怒りを覚えたが、それではガンドラを倒すことすら出来ない。

 誰も抵抗できない状況、チェルシーもナガマサもミカも――
 大逆転からの大転落に俺の目は妙に冴えていた。これで終わると考えた瞬間、繊細さに溢れ、時間はどうしようもなく遅くなった。
 ガンドラの鋼の手が命を下すために振り下ろされる。感覚はゆっくりと、実際には速く――


 ……肉が千切られる音が耳に印象に残った。
 この世で最も惨い音は耳を塞ぐ前に聞こえる。顔に飛び散る鮮血と、視界を覆う黒い血。一体どこが裂かれたと言う。腕か、足か、それとも顔か?
 体に戻らない正常、未だに体が浮いているような感覚がする。地面に爪が食い込む音が響く。
 そうか、今誰かと戦っていた。誰と戦っていたのか、考えるうちにもう一つ、生々しい音が聞こえる。重く、そしてどこか軽い音。音のありかを確認したい。
 体に正常が舞い戻り、俺は前足を動かす。あれ? 
 俺の体は至って正常じゃないか。後ろ足も前足もそれに尻尾も――俺はすぐさま顔に張り付く血を前足でふき取った。




 ガンドラの爪は振り下ろされ、地面に刺さっていた。ここまでは予想の範囲内だ。しかし、ここからがぜんぜん異なる。
 刹那に目を疑った。おかしいじゃないか。動けなかったはずのミカが目前で立ち尽くしていた。表情は見えなかったが、そこから感じる違和感が俺に嘔吐やマイナスが誘う。それらを飲み込んでもこの状況はどうにも変わらない。
 なぜなら、ミカの片腕が無かったから。
 片腕があった場所からは血が噴出し、ミカ自身を赤く染め上げている。ありえない状況に声すら出ない。ミカの短く繋ぎ止めようとする呼吸が無音の空間で響き渡った。ミカは体を震わせながら、後方にいる俺へと振り返る。表情は笑っていたが痛みに耐える苦悶もそこにはあった。顔に血を浴びながら、ミカは口を小さく動かす。
「バラン、隊長……大丈夫ですか?」
 何が隊長だ、今はそんなことをしている場合じゃない。何で片腕が無いんだ、俺はミカへと急いで近寄る。
「おいミカ、しっかりしろ! まだ死ぬんじゃない」
「隊、長っ……。アンタが無事ならそれでいいか……」
 どうしようもない状況にミカの言葉が巡る。
 ――俺はあんたについて来た。だからあんたの失敗で命を落としても後悔しませんよ。
 そして今に見えるのがこのミカの姿だ。右腕を無くし、胸から大腿部まで裂かれた状況で呼吸を続かせて、しかも鼓動すら続いていた。俺ならもう死んだほうがマシな状態だ。
 痛みに涙すら流さないのは戦ってきた証拠か、ミカは薄く目を見開いて、しゃがれた声で俺を隊長と呼ぶ。そんな状況では呼びにくいはずなのに、命令違反だろう。寒々しい空気と天井から降り注ぐ雪と光。暖かくなく冷たさで覆われる世界となる。
「俺は――どうしようも無く、駄目な奴だった。決して国のために戦う兵士じゃない。俺は自分のために戦う傭兵だった……」
 声に反応して血は漏れ出す。喋れば喋るほど千切られた部分、裂かれた部分から血が溢れていた。もう喋らないでくれ、ミカに残った左手へ俺の前足を重ねる。しかし思いは通じることなどなく、ミカは一つの終わりへとひた走っていた。
「けど、あんたに出会ったことは……俺のためじゃなかった。隊長のためだっ!」
 ミカの傷は内部まで至っているのか、口から血の塊を吐き出す。寒さのために生え変わった白い毛をいとも簡単に染めていく。
 そんなとき、ガンドラが地面から爪を抜く鋭い音が耳に入った。振り返ると爪にはミカに凝縮されていた液体で濡れていた。
 全てガンドラの仕業、脳内で駆け巡る神経が恐れを隠し始めた。代わりに冷めた頭を埋め尽くすのは隠しきれないほどの怒りだ。勝手な解釈が俺の恨みを強くしていく。何も出来ないはずなのに。ガンドラは俺の視線をただ笑う。
「全ては貴様が悪いのだろう? 所詮は戦えぬ者なのだ。貴様の怒りは自分が思い通りに行かなかっただけの自惚れだろ!」

 静寂にガンドラの声が響く。固まりつつある考えを荒らされたようなものだ、もう纏まりがつかない。だからこそ、俺はここで何かを捨てたかった。
 弱きはいらず、情けは無駄、動けなくては捨てられる、ましてや自惚れさえも駄目。もうこんなものに縛られている立場なんてこちらから御免だ。正論を述べるガンドラの言葉に吹っ切れる。
「ああ、そうさ。俺が全て悪いさ。勝手に軍を抜け出し、敵と組んで仇の相手すら忘れて! もう苦しむだけのこんな立場……」
 言葉の終わりに息を吸い込む。肺を満たす空気を冷やしていき、頭の先から尻尾の先までしんと冷やす。
 そこから体中に周りの空気を漂わせて、冷気へと変えていく。それらを固体化させて無数の氷の刃を作り上げる。前足で地面を叩くと氷の刃は空気を切り裂きながらガンドラの元へ向かう。氷の刃はガンドラの鎧へ当たるが、砕け散っていく。それでも痛みは通った。
 俺は流れていく氷の刃に従い、ガンドラの元へたどり着くと空気を使い、歪で大きな氷を作った。歪な氷を怯むガンドラの懐へと撃ち込む。最も痛む場所へ刺さったがガンドラには何とも無かった。
 ここからだ、俺は前足を振る。氷の刃は懐に刺さる歪な氷へと集中する。何が始まるか、次に俺は振るった前足で地面を踏む。
 すると、ガンドラに集中する氷は解けることなく、一斉に音を鳴らして砕ける。
 ガンドラの懐から破片が内部へ入り込み、皮膚を裂いていく。ガンドラの体から見せることの無い赤が飛び散った。ガンドラは倒れずに先ほどと同じように立ち尽くすだけだったが確実にあの蹴りよりはダメージが通っている。
「こっちから御免だ!」
 一年前の夢が完全に潰えた瞬間だった。俺にもう後ろを振り返る時間と資格は無い。
 最後にガンドラの止めを誘うとするが、ガンドラは倒れこむように地面へ掌から崩れた。最後の抵抗も空しいだけのガンドラ。一方俺は止めを刺すことに拘りを抱く。ここで一思いに殺せば、明日の俺はきっと虚無だけだ。
 相棒もいない、暴れるだけ暴れた俺に待つのは終わりの日常。
 隊長という枷も無くなり、ただ呼吸をするだけの生き物へとなるだけの簡単な変化だ。再び氷の刃を作り上げてガンドラへと近寄る。全段至近距離から撃ったならば、いくら鉄壁を誇るガンドラでさえ、砕けるに違いない。
 終焉が近づきつつある中で、ガンドラは息を切らして内側から襲う痛みから逃れようとした。相手にとっては絶体絶命だが俺にとっては好機であり、後は合図を送ればいい。一思いに、奴を貫く心地のよい音が聞こえる。
 足を上げて、土を踏もうと足を上げた直後、ガンドラの切れた息からまともに発しない笑いが聞こえた。どんなに笑おうが状況に変更はないが引き伸ばしくらいなら許そうと俺は躊躇う。
「……お前は分かってないようだな、俺は貴族だ。そこで倒れているルカリオのガキと同じようにな!」
 ガンドラが指差す壁には油断から倒されたチェルシーがいる。あんな一撃では死ぬことはない、ガンドラのしようとしていることは何だ? もう情状酌量の余地はない、言い分すら聞き飽きた。
 殺戮を惰性が俺に訴えかける。だが、ガンドラは恐怖なのか、笑いの収集が付かなくなっていた。壊れたのか、俺は足を地に触れようとしたとき――


 再び地面が揺れる。
 俺はバランスを崩し、足を地に触れたは良いものの氷の刃はあらぬ方に飛び、砕け散る。掌を付くガンドラの足元から円形の紋章が展開された。記憶に違いなければ、見覚えがある。
 確か、ここに来る際にチェルシーが手紙を地面にかざして道を開いていた。だが、今回はそれとは違っていた。
 展開される紋章に反応して、ガンドラの立つ後方で地面が盛り上がり始める。この隆起はそれぞれ規則性を持ち、地面は単体で細長い柱のように盛り上がり始めたのだ。用意されていたような反応にガンドラは勝ちを誇り始めた。
 揺れ動く地面、激しい音を伴って動き続ける中、ガンドラは立ち上がり後ろへと下がった。
「これが俺の切り札である地中に埋もれる城! 名を棺城だ!」
 叫び声で俺はガンドラを追わんとしたが、壁のほうから「待て」と耳が微かに感知する。その声に反応し、立ち止まったがガンドラは既に棺城と名乗る城へと入っていた。
 壁のほうには倒れていたはずのチェルシーが起きている。チェルシーも相当なダメージを負っているだろうが、俺は立ち止まれない。
「行くのか?」
 ああ、と単調な返事を返すと、チェルシーは鼻で笑い、病み上がりなのに余裕を見せ付けていた。貴族は全員意地っ張りで絶対に諦めがこないのか。
「私も行きたいところだが、行ったところでお前の足を引っ張るだろうな。まあ、私はあの二匹の世話でも見ている」
 後ろを振り返ろうとしたがそれはできない。もう俺にそんな時間と資格がなかったからだ。あるのは目前で大口を開けた出入り口に侵入して、仇を倒すだけ。頷くことも出来ず、返す言葉も思いつかぬまま俺は進もうとした。
 最後にチェルシーの声も聞かぬまま俺は棺城へと入った。

5.白銀は悲しみを生み出す。 



 城内は地下と違い、外見が単調であった。黒くて暗い閉塞感あふれる場所、これを城と呼ぶには少し違和感を覚える。しかしあんな紋章一つにこんな自然が関与するとなると相当な規模で仕掛けられているのだろう。地面も土ではなく綺麗に切られたような石が均等に並べられている。
 後もう一つ、耳に響く雑音が酷い。
 耳鳴りかと思えば、砂嵐だったりとこちらは形すら掴めない。何故、俺にこんな現象が起きる? 
 俺がこの雑音に苛立ちから来る舌打ち一つすると、砂嵐も耳鳴りも畏れるように止まった。意外と呆気ないと戻ろうとした瞬間だ。
「ようやく繋がったかな? 聞こえてます?」
 場に似合わぬ暢気な声が頭へと響かせる。俺は少し戸惑い、辺りを見渡すが暗闇ばかりで目が追いつかない。形無き者の声に俺は驚いたが声は監視しているように「ここにはいないよ」と告げる。
 じゃあ、誰なんだ。俺の中に入り込んだように訴える奴は。歩む足を止めて、頭から聞こえてくる声に意識を集中させた。耳を傾けるのもおかしな出来事だ。
「誰だって? 私はオペレータですよ。あなたを別世界から見守る者です。この次元で出会えないのも当然でして、直接的な助けも出来ないというわけでして」
 いちいち頭に響く声を持っているこのオペレーターに俺は関与した覚えは無い。それにこいつの言葉では次元が何やらと述べていたが、果たして真相がいまいち掴み辛い。別世界や次元やらと超越した言葉が耳で語られると真相かどうか、疑心が揺らぐ。
「まあ、信用なんていらないですけどね。一つ言っておくと別世界というのは『誰か』に変えられた世界です。それだけです」
 まだ信用に欠ける。静寂と廃墟の空気が身を包む中、俺は必死にオペレーターとか言う不気味な者に諭されている。頭で考えていることでさえも読み、手助けしようと言うのだ。信用しなくても良いとと言われても無理な話だ。しかし、誰かに変えられた世界とはどういうことなのだろうか。
「それに関してはあなたの目で見てください。ただ、私の目的は貴方にその変わった世界を戻すチャンスを与えようというだけです」
 世界を変える? こんな私怨にまみれた奴に可能なら子供だって出来るだろう。話自体信じられないものだ、オペレーターの頭は狂っているなんて言葉じゃ括れない。恐らく自分の中で世界を作る相当な阿呆だろうか。そもそも何故俺なんだ。
「貴方は一年前の戦争で味方をガンドラのせいだと言い、責任から逃げ、酒に溺れていましたね。そしてこの一年間、ミカという男に騙され続けて。今は逃げた分の責任が貴方に圧し掛かっている状況です。私自体はそういう苦労している貴方を見ると興味が湧きましてね。それはそれは個人的なオペレーターです」
 助けてくれるって大体何をするんだ。オペレーターの息を吸う音さえも頭に響く。
「ようはガンドラを殺したいわけですよね。隠したって無駄ですよ」
 誰もいない城内で頷く。もし監視しているならこれも見えている訳だ。
「なら貴方を今から『コーション・ブレイクスルー』へリンクします。ちなみに今の返答から変更は出来ませんよ」
 思考が範囲を超えてとまった。理解できない技術を提示されて大丈夫なのか、俺は心配になったが止める気は無い。
「分からないなら単刀直入に教えます。私が完了したという言葉が出れば、いつも通り技を出してください。それだけです」
 意味すら分からないが、話は引き抜く音と共に消えた。ようは今からどうなるんだ、俺は再び歩き出そうとした。それにしても貴族は一匹にこんな城を与えられるのか、膨大な空間であったが同じく寂しさも流れている。
 ここの城には何も置かれていない。立派な机や有名な絵画すらも貴族の好物である金の彩りはどこにも無かった。それに建物内というの寒さがいっそう増している。いくら氷が寒さに丈夫と言えどもこの状況が続くのは好みではない。出来るだけ体を動かさないと俺らでも凍死する可能性もある。
 暗闇を闇雲に歩いても見えるのは同じような風景。ガンドラがここに逃げ込んだが、果たして何処にいるのか。俺は変化も無い場所を辺りくまなく探す。

 そろそろ変化が欲しい、と願っていた直後。遥か後方から足音が地面を揺るがす音を鳴らす。ハッと後ろへ振り返るとそこには腹部から壊され、鋼を血で塗らしたガンドラが唸っていた。
 本当にお前も懲りない奴だ。とうとう奴の正論を押し切る時間が訪れた。
「貴様っ……! ここで終わらせてやる。この棺の城が貴様の墓場であり、終着点だ!」
 ガンドラの攻撃は単純だ。腕を振り上げて、こちらへと走ってくるだけの何の工夫も無い技だ。これなら先ほどと同様に倒せる。俺は再び周りに空気を宿そうと瞳を閉じる。
 今回の空気は不味かったが絶好の温度だ。どんどんと氷が作られるような感覚に俺は勝ちを抱く。まだ心に残る慢心はあったにせよ、ここで勝負が決まるならそれに越したことは無い。品の無い足音が近づいたときに氷を放てばいい。過信が俺から緊張した精神を食らっていく。
 そう、出来ればの話ならいいんだ。
 俺が目を開けるとガンドラの腕が迫っていた。俺の周りにはいつも通り氷の刃が出揃い、一撃を決める準備がなされていた。ようやく終わる……。

 しかし、足を上げた瞬間。氷の刃は支えきれなくなり、周りで砕けていく。この場に似合わぬ鮮やかな音で何故かどんどんと割れていった。これを好機と見たガンドラは口元を歪ませて、振り上げていた腕を下ろした。
 攻撃の出来ない俺は避けることしか逃れる道は無い。腕は幸い、速度的にも避けることが出来たが、どうもおかしい。何故、技が発動できないんだ? 疑問に再び接続される音が頭に聞こえる。
「ああ、言い忘れてましたけど、コーション・ブレイクスルーは切り札ゆえに他の技は出せませんよ。では、死なないように逃げてくださいね」
 状況は一気に絶望へと早変わりしたが、幸いにもガンドラにはオペレーターの言葉は響いていない。ガンドラに読まれていないだけマシだが、今の状況を見られたのならば話は別だ。
 技を出そうにも出せない俺は逃げるほか無い。ガンドラから一歩一歩引いていく、逃げなければ奴の言う『コーション・ブレイクスルー』とやらは発動できない。一方ガンドラは俺の技が出ないことに関して、口元を歪ませて答えていた。
 ガンドラはもう片方の腕で俺を追撃しようと横から振る。単純な攻撃ゆえに避けやすく、距離をとるように後ろに下がれば攻撃は容易く避けることが出来た。頭のほうではオペレーターの冷静な口調が飛ぶ。
「まもなく50%です」
 残り半分、ゆとりができた俺だが流石にガンドラも腕を振り回すだけでは終わらない。ガンドラは大きく空振った腕での攻撃から尾を回す。尾の範囲は腕よりも遥かに広く、距離を取るには難しかった。故に上に跳ぼうが、下に伏せようが範囲からは少し逃れるには無理がある。
 しかし、捨て身と言って当たりに行くのは更に御免だ。傷は無いにしても俺が耐え切れるかどうか分からない攻撃。牽制しようにも技も無いため、策が全て封じられた。
 こんな所で終わりか、ゆっくりと迫る尾に考えすらまとまる気がしなかった。だからか、退いていたはずの足は望んでいたのか、一歩前へと進む。
 進んだ先はガンドラの攻撃範囲どころか、尾の一番太い部分だ。
「今、80%を切りました」
 オペレーターの声が頭に響いた。多分、俺は試したいんだろう。感性だけで俺はガンドラへと走り出す。ガンドラが振り回した尾の範囲から抜け出し、一気にガンドラの背中へとたどり着く。これで後は完了まで待てば終了だ。
 そこでガンドラも気づいたのか、俺のほうへと振り向く。途端に眼光からの威圧感が俺を襲ったが無意味に近かった。ガンドラは最後と思われるけたたましい咆哮を上げる。
 すると、淡い霧がガンドラの周りを覆う。この城に漂うありとあらゆる冷気が味方となり、純白に近い霧がガンドラの周りに漂う。あれは氷タイプが誇る技『吹雪』であるが、ガンドラが何故使えるのかまでは分からない。
「お前ごと飲み込んで、この城の糧としてやろう!」
 叫び声と共に多大なる冷気を纏う吹雪がこちらに向かってくる。あえてこの技を選んだのは奴は死にたいのか、いやこの状況からだと俺かな。余裕すら湧いていた、死ぬことは無いが終わりではあるのかもしれない。この復讐は……
「『コーション・ブレイクスルー』準備完了です」

 その言葉と同時に念じた。
 奴の冷気ごと凍らせ、辺りを永久凍土にしてやろうと。そこには暖かさすらない、冷たく、心身を壊す氷と雪が飾る世界にする。
 今ならそれが可能だと思えた。
 しかし、それをした瞬間だろうか、何かが音を立てて崩れ去り、組みあがる音が響く。

 すると、俺の周りから白い雪が地を音を立てて走った。暗い地面を一瞬で何事も無かったかのように雪が喰らっていく。壁や天井すらも埋めない場所は無いくらいに辺りを白一色で覆った。
 混じりけの無い白景色にガンドラが放った冷気は消え去った。ガンドラ自身も戸惑いを覚えていたが、それすらもう遅かった。
「なっ……。これは!?」
 ガンドラの声はそこで止まり、急に咳き込む。氷タイプでないガンドラにはこの世界は毒で、口から多大な血を吐き出していた。だがそれだけではない、この世界は死ぬまで堪能して欲しい。
 俺を見つめるガンドラの体にある症状が始まる。血が固まり、裂かれた内側が凍り始めたのだろう。体を構築する組織は全て氷の前では対抗すら出来ず、固まっていく。悶えように体が自由すら利かない。声をすら上げる余裕は無く、ガンドラは瞬間にして城と同調していった。最後まで彼も絶やすことなかった紺碧の瞳は今も俺を憎むかのようにして睨んでいた。
 静寂が再び包む世界。オペレーターの声が再び耳を打つ。
「どうです? これが『コーション・ブレイクスルー』でございます。満足していただけましたか?」
 満足、この凍土とオブジェと化したガンドラを見て、俺は息を一つ吸いこんで答えを出した。
「悲しいな……」
 返答も無く、オペレーターとの通信は切れる。戦いは終わったのだろうか? 答えはただ分からなかった。求めようとすれば、それは逃げていくようだった。




 棺城とは一体何のために建てられたのだろうか、そこから出た俺にとって映っていたのは虚無だけで作られた城だった。俺はこの手でガンドラを倒し、そうして今この場へと戻って来た。しかし、そこには肝心の奴がいなかった。
 その地点を血で汚して、彼の姿は見えない。白くて笑顔が絶えなかった奴、片腕を無くしたアイツの姿だ。俺は辺りに首を回してもその特徴的な姿は見当たらなかった。
「おい、こっちだ!」
 無造作に空けられた穴からチェルシーとナガマサの二匹が見つめていた。チェルシーに関しては妙に口角を上げていた。しかし、そこにもアイツの姿は無い。名前も思い出せないただ一匹の相棒、いや相棒であったのかも分からないままである。
 とにかく白くて、熱情していた一匹の天才が思い出せない。すると、俺の記憶を後押すようにどこかから声が響く。
「もう、後ろだけは見ないで下さいね? 隊長――」
 若々しい声が聞こえるとようやく心に安定を取り戻し、俺は瞼が重くなった。ようやくあの閉塞感から抜け出せた気がしたのだ。誰にも命令することの無い――




「それがナガマサ氏から鑑定の結果か?」
 瞼が重い。まだ開かないほうがいいのか、けれども眩くて暖かな光が俺の目に開けとばかりに照らす。どこかで耳に入ってくる懐かしい言葉、結果だとか言っているが果たしてなんだろうか。
「はい、彼女の言うことだから当たっているでしょう」
「……残念だな、しかし新しい時代に進むにはそのような者に振り返っている時間は無い」
 一体、誰の話をしているんだ。俺の意識が開くと同時に瞼がゆっくりと開く。うっすらと見える日が当たる石造りの壁、その横にはチェルシーの姿が見えた。知っている奴を一目見た瞬間、体が反応するがそれを止めるように激痛が動きを止めた。
 ひどい疲れで立つことすら出来ない。更に激しい頭痛が頭を叩き、考えることすら封じてくる。あれから俺は一体何をやっていたんだ。まともな記憶が無い。
 巡ろうにも激しいだるさもある。すると、チェルシーは後ろへ振り向く。覚醒した俺に気づき、一言声を掛けてくるが返す言葉が出ない。チェルシーは片足に無造作に包帯が巻かれていた。火傷を負っていた足に荒治療でも行われていれば、ここは少なくとも洞窟やそういった場所でないことが分かる。
「おい、ここは……?」
「私の城だ。そして変わろうとする世界の中でもある」
 聞こえた言葉に俺は首を傾げる。変わった世界、いつかに誰かが話していたことだが、今は思い出すことすらままならなかった。耳に聞こえてくるざわめき、これが変わろうとする世界なのか。
「ここからは王もいない、国民たちが国に関与する世界を作り出す。だからバランシュ、私を手伝ってくれないか?」
 俺は言葉を理解することなく頷いた。新しい時代に進む、とにかくしんどい俺にはその言葉の意味すら捉えがたい。
 もう一度、俺は眠るために瞳を閉じようとした瞬間、どこからか、一枚の紙が舞い降りてくる。濃い文字に書かれていることはとても理解しがたいものだった。

『危険を越えた者たちによる最悪で悲惨な世界の始まりに異常が這う。常識が外された世界。雪崩こそが正常』

 雪崩やなんだか分からないが、とてつもない嫌な予感が背中を擦り俺は眠りについた。


後書き 



書き始めはギャンブル物を書こうとしていたんですよね。そこそこ優れたバランシュ君がミカと共に事件を駆ける…シリアスなんて無かったのに、どうしてこうなったんだろうか。
どうも、チャットで会ったことある人はようやく、初めての方は初めまして、マシロと申します。
「何だろう、これ?」と言った感覚もありそうですが、長い読み物を読んで頂きありがとうございます。一ヶ月前から最初の案から一転して、書き始めてようやくこの舞台に立つことが出来ました。とても描写が不安定だったり、言葉遣いが変だったりと述べるべき点ありますけどね。後、緊張感だったり、恐怖心だったりにも悩まされてきましたけれど、どうにか押し切ることが出来ました。
この作品の考察でも書きたい衝動はあるんですけど、私から言えることは二つ。
まずは『安全装置』です。機械だけでなく、生き物や社会にさえ、これは物事の始まりから知らぬ間に起動しています。この物語自体に広がる安全装置は果たしてどうなったのか?
もう一つはタイトルにもなっている『コーション・ブレイクスルー』ですね。これはバランシュが最後、ガンドラを凍り付けにした技ですね。
どちらにも言えるのは表向きだけの意見だけではないことです。
私から言えるこの物語に関しては取り合えずこれだけです。
一応、この雪崩に関しては続編を練っています、今回、回収仕切れなかった伏線を明かしていくのですが、次回は長編へ挑戦してみようと思います。今作から少しどころか大きく方向性を変えた作品を作ってみようと思う所存ですね。
それでは、また次回作にて出会いましょう。あと、誤字脱字がありましたらお気軽にどうぞ。

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  • チャットで話していた直すべき点を纏めてみました。
    全体的には、一話で完結する短編としては酷く設定が投げっぱなしなため、細かい表現云々よりもまず設定資料やあらすじを見ないことには纏め方のアドバイスの仕様もないというのが現状です。
    そのため、私が疑問に思った事を徒然に書いていくだけになってしまい、直すべき点といえるのかどうかは不明ですが……この疑問について、きちんと答えることが出来れば見られる作品になるといことだと思っていただければ……


    ・序盤

    まず、序盤でバランシュが「俺達の信条がついに認められたか」と言っておりますが、その『信条』が最後までわかりませんでした。事件が起きたら介入する自警団のような組織なのかもしれませんが、その具体的な活動内容もわからずじまいです。
    さらには、貴族のチェルシーの耳に入るほど有名な団体なのに、野次馬は誰もその存在を知らないようなそぶりなのも訳がわかりません。

    あと、バランシュが隊長なんて呼ばれている割には二人しかいないのも……どういう団体なんだと思います。戦争で一緒の部隊だった名残だとか言うのならわかるのですが、そうでもないようですし。

    加えて言うと、手紙で呼びつけてミカ曰く『今日の夕暮れ時からですね。場所は町外れの王宮らしいですよ』とか、ありえません。相手だって都合が悪い時だってあるでしょうし、普通チェルシーも一週間後とか一ヵ月後にするとおもいます。


    ・建物に突入後

    チェルシーとナガマサが戦っていた理由がわからない。
    ガンドラを倒すためには万全の状態で挑むべきだと思いますが、結局チェルシーは片足怪我していますし、戦う前にそんなことするとか馬鹿じゃないかと。結局、戦っていた理由もガンドラ相手に共闘した理由もまったくわからず……意味がわかりません。


    また、チェルシー達がいた建物が死体だらけになっていた理由がまったくわかりません。どうしてそんなところに集合していたのかもわかりませんし、そんな建物を集合場所にしていた理由がわかりません。

    また、チェルシーがバランシュたちを自分のパーティーに呼んでおいて、死体だらけの建物で油を売っていた理由がわかりません。パーティーに呼んで、そこでガンドラを殺害する計画を話すべきでは?
    そして、そもそもどうしてバランシュとミカがガンドラを恨んでいるのか、殺したいのかを知ることが出来たのかも不明ですし、それが彼らの活動と何の関係が有るのかも不明なのですけれどね。

    そして、ついでに言うならナガマサとバランシュの関係や、ナガマサとチェルシーの関係、小さなポケモンの正体は結局わからずじまい。これは次回作の伏線とか余韻を残すとかではなく、投げっぱなしの設定と言う感じがします。


    ・貴族の抜け穴に入ってから

    あんな死体だらけの場所にそんなものを隠しておくとかどういうことだというツッコミがまず。また、手紙を破ることでエレベーターのようなものが動き出す設定のようですが……そもそも、この建物にバランシュとミカが来ない可能性もあったわけで……そしたらお前ら待ちほうけてたんじゃないのかと。


    あと、ガンドラの居城を目指すと言う重要な目的を聞かされる前にノコノコとついていくバランシュとミカは馬鹿じゃないかと。戦場で人を疑う事を学んでいないのかお前らは

    『 初めて戦争に立ち、活躍を見せていた俺、しかし立場上、ガンドラに隊長を奪われ、お陰で味方は壊滅して俺たちは散り散りとなった。あれはガンドラの采配ミスであり、そのせいで結果国が滅んだ。』とのことですが……
    そりゃ、アレだけ弱ければ(ガンドラが強すぎるだけかもしれないが)隊長の座を奪われて当然だと思います。戦いに強いだけじゃ指揮官としてはダメかもしれませんが……采配ミスと言うのも、具体例がないのでバランシュの逆恨みのようにしか聞こえません。



    ・ガンドラ出現

    まず、どうしてガンドラはこっちの動きを感知できたのか? チェルシーやナガマサがあの建物で遊んでいたからばれたんじゃないですかね?

    また、ガンドラは最低の男みたいに語られていますが、主人公の動きを感知していたわりには罠を仕掛けることもなく非常に正々堂々としています。私としては尊敬したくなるほどの武人なのですが、やっぱりバランシュはただの逆恨みなのでは?


    ガンドラの強さは圧倒的……ですが、主人公達の戦い方もお粗末過ぎます。
    ボスゴドラなんて足が遅い上に格闘が4倍弱点なので、凍える風でさらに鈍らせて遠くから波導弾で攻め立てればどうにでもなるはず。種族値が云々とまでは言いませんが、どちらにせよ特防も弱いですし、ルカリオとコジョンドがいてどうしてそうしないのか(ついでにバクフーンも気合い玉を使えます)理解に苦しみます。ミカルゲが相手とかならまだ納得もいくのですがね……
    やっぱり、バランシュは作戦もまともに立てられないから隊長をはずされたようにしか思えません。あと、地ならし(地震?)を洞窟で使うのはどうかと思います……洞窟が崩落したらどうするのか。
    要するに、ボスゴドラを敵にしたことそのものが失敗である気がします。


    ・オペレーター出現から

    えーと、まったく意味がわからないと言うか、唐突過ぎて何か別のお話をコピペでもしてしまったのかと思いました。
    今までまったく匂わせてもいなかった存在が唐突に出てくるあたり設定の出しかたが下手なような……。




    総評
    長編の一話としてこのオペレーターとやらが出てくるのであればともかくとして……続編を構想しているにしても、この一話だけできちんと物語を完結させる努力を放棄していると思います。
    続編は見なくとも、これだけ読めば納得できるような状態にするべきかと思いました。
    ――リング 2012-12-05 (水) 22:40:03
  • リングさん、どうもこの酷を極めた作品と私に指摘をどうもありがとうございます。
    特に私から言い返す部分もありません。少しどころか全く勉強も出来ていないことが痛感できました。
    色々と放棄している部分や読者を置き去りにした点もこの場で謝罪したいと思います。
    次回作は何時になるか分かりませんが、まずはポケモンについて勉強し、多くの小説を読んで小説が何たるかを理解してから次回作へと移りたいと思います。
    本当に自分でも痛々しく、これはとても小説と思えたものではありません。まずはあなたの言葉を全て理解するまでは作品を書くのも止めます。

    本当に酷い作品ですが、あまりない時間のないリング様の手を煩わせて申し訳ございませんでした。
    ――マシロ ? 2012-12-06 (木) 13:23:28
  • 作品、読ませていただきました。個人的に感じたところを少しだけあげておきますね。

    2節でバランシュとミカが野次馬を飛びこえていますが、その大道芸の描写はスピード感があり、場景もはっきりとしていてスリルがありました。読んでいてドキドキさせられました。
    全体を通しても地形などの描写が丁寧にかかれていて、動き自体は鮮明に想像することができたので話の中にとけ込みやすく、表情などが分かりやすかったと思います。

    少々残念だったのは、それほどの描写力がありながら動きの構成があともう一歩だったのではないかということでした。
    具体的にあげると、戦争一力を持っていたとされているのに、ガンドラの戦闘スタイルがあまりにも単調だったり、主人公であるバランシュがちょっとカッコ悪すぎるのではないか、などです。

    10や20ならともかく、万や億単位の兵士と戦う(殺しあう)戦争で、あんな単調な戦い方で最強といわれてもちょっと実感がわきづらかったかなと…。
    地形を利用したり、そのポケモンからは想像もつかないような動きをしたり…。そんな、物事の多くを味方につけられたりずば抜けた才能を持っていたりするような、他とは違う「分かりやすい強さ」を持っていると強敵感が出る…かも?

    アドバイスになるかわかりませんが、リングさんがいう「ボスゴドラを敵にしたことそのものが失敗」という意見について個人的に考えたのですが、例とすれば「ブーバーン」などだったらもう少し戦いの幅も広がったのではないかなと。

    ・炎タイプ→二体(氷、鋼)に有利
    ・特性(ほのおのからだ)→格闘の近距離攻撃を減らせる
    ・攻撃→電気、地面、格闘、エスパーなどの強力な技を豊富に覚えられる他、あやしいひかりで混乱も狙える。また、はらだいこ(タマゴ技)で暴れれば更に強烈(おいつめられたときの切り札にも…)
    ・防御→力で相殺、バリアー(タマゴ技)

    その他四倍弱点がない上タイプ一致で弱点をつかれることもないなどの利点がありますね。私は実戦経験があまりないのですが、検索サイトなどで調べるだけでも大分勉強になりますよ。

    バランシュの方は、覚悟をを決めて戦いに挑んだというのに序盤ほとんど攻撃をしかけていないのが残念でした。これでは「戦えてすらいない」というか、戦う気がないように見えてしまいます。
    たとえ敵わないと分かっていたとしても、戦うと決めたなら攻撃はするものだと思いますし、それが殺したいほど憎い相手ならばなおさら力が入るものでしょう。ガンドラと対面した時の様子を見るかぎり、バランシュは冷静でいられる状態じゃなかったようですし。


    トドメの一撃もイレギュラーな力によるものであって彼自身の力によるものではないということが、余計にカッコ悪い主人公にしてしまっている気がしました。
    自分の力で倒せばいいというわけではないですが、その前まで動きがあまりなかったせいで、自分にない力に頼りきっているように見えてしまうのです。

    グレイシアの特攻は全ポケモンの中でも高いほうですし、こうかはいまひとつでも攻撃のしかたに工夫すればダメージの大きさも変わってくるものではないかと思います。(眼や口内など)


    全体的に場面場面の再現はすごいと感じられるものだったのですが、その内の動きの部分にもう一工夫ほしかった、というのが率直な感想です。
    ただ、全体を通して少々かたくるしいような、難しい言葉で書かれていましたが、文法的に違和感を感じるところがいくつかあったので、無理に難しい言葉遣いにはしない方がいいかもしれません。


    マシロさんには文章力はかなりあると感じましたので、細かいところに色をくわえるだけでもっともっとよくなると思いました。

    また新しく作品を投稿されるのを楽しみにさせてもらいます。色々書いてしまい、荷を重くしてしまったかもしれませんが…参考程度になればいいなと思っているのであまり深く考えず、ゆっくり筆記していってください。
    応援しています!長文失礼しました。
    ――ふにみし ? 2012-12-08 (土) 22:33:06
  • ご指摘ありがとうございます。あと、返信が遅れて申し訳ございません。
    かなり乱れた駄文をお読み頂いた上に指摘を頂けるだけでも私には嬉しいことでございます。
    今回の私の汚点は、小説そのものを放棄したこと、説明すらなかったこと、矛盾点を放置していたこと、急な展開だらけで緩急をつけなかったこと、その前にポケモンをあまり知らなかったことが問題であり、自分でもかなり反省しています。
    堅苦しい文章についても、自分でも読み返してみると自惚れていると自覚できるようなものが多かったのでその辺も考慮に入れております。
    それらの反省点や指摘された点を含めて今は小説を書くことよりもポケモンを一から勉強しなおしたりしていますので次回作はかなり遠くなります。

    あと、応援ありがとうございます。
    今度は汚点を直し、少なくとも読めるような作品を目的に執筆していきたいと思います。
    ――マシロ ? 2012-12-10 (月) 09:04:45
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Last-modified: 2012-12-05 (水) 00:00:00
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