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雪の日記

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作者亀の万年堂

更新履歴
2009/09/12 投稿



『雪の日記』 

経過記録 09Jl01 




「こんにちは、初めまして」

「こんにちは。今日は貴方が話し相手になってくれるの?」

「はい」


 きっかりと正方形に組まれたタイルで覆われた白く広い部屋。外の曇りきった空の下とは違い、ここは別世界のように明るかった。じめじめとした湿気もなく、顔を覆わなければいけない程の風が吹いているわけでもない。それもそのはず。ここは人工の光によって照らされ、人工の風によって空気が綺麗になっており、部屋にいる者全てが不快に感じることがないようになっているのだから。

「貴方はどんな話を聞かせてくれるの?」

「そうですね。とある地方で有名な、世にも珍しいゼニガメの話はいかがですか?」

 そんな人工の部屋の中に、私と彼女はいた。私は床の上に直に座り、彼女は座った私の体よりも低い寝台に横たわっている。寝台は清潔な印象を与える白で統一されており、それ単体で見れば、それだけで絵になりそうなほど綺麗なものだった。しかし、その上には彼女が乗っている。白いとは到底言えない、暗い桃色をした毛並みを持ち、目には青い瞳をたゆたわせ、額には淀んだ真紅の宝玉を抱く、一匹のエーフィがそこにいた。

「ゼニ、ガメ・・・。ごめんなさい、ゼニガメって何?」

「・・・失礼しました。ゼニガメとはここ、ジョート地方からは少し離れたカントー地方にいる私達の仲間で、」

 彼女だけだったのなら、それは決しておかしくはない。むしろ彼女があってこそ絵になるというものだろう。だが、白く清潔な寝台の上にあるのは彼女だけではなかった。触れるもの全てを魅了せんばかりに滑らかで柔らかだった毛並みを持ち、汚されていいはずのなかった彼女の体には、生き物としては決して持ちえぬものが生えていた。足から、腰から、腹から、胸から、首から、そして・・・そして・・・。
 彼女はまるで糸につながれた人形のようだった。全身から透明な糸を伸ばし、寝台に横たわる彼女の姿は、言うなれば役目を終えて休んでいる人形も同然だった。

「みず、でっぽう?」

「ええ、口から水をはくのです。ゼニガメという私達の仲間は、こうして口をすぼめて、」

 人形には糸が必要だ。人形は自分では動けない。動きたいのなら、糸に繋がれて繰られなければならない。そうしなければいつまでたってもそのままだ。放っておかれればそのまま朽ち果ててしまう。
 そういう意味でも彼女は人形だった。彼女を寝台に繋ぎとめているそれは、私の体よりも遥かに大きな人工物から伸びている。それは彼女の体の至る所に繋がっている。そうすることによってその人工物は彼女の体の状態を診続け、何か異変があればすぐ対応できるようになっている。例えば彼女のお腹が空けば、腹に食べ物のような物が流し込まれる。彼女の体のどこかに悪いものが溜まれば、すぐにそこから人工物へと吸いだされる。排泄すらする必要が無い。全ては彼女を繋ぎとめている糸がしてくれる。そう、この部屋が、部屋にいる者全てが不快に感じることが無いように管理されているがごとく。

 それは仕方の無いことだった。何故なら彼女は自分では生きられないからだ。食べ物をとることもできない。水を飲むこともできない。排泄をすることもできない。彼女ができるのは、息をすることと喋ることだけだ。他にはもうなにもすることができない。もう二度と額の宝玉は輝かない。

「は、は、は、面白い」

「それは何よりです」

 だが、それがどうしたというのか。操り人形だろうと、なんだろうと、彼女は生きている。たとえそれが生かされているにすぎなかったとしても、彼女は生きて、こうして私と話をすることができている。私はそうできることに何も不満は無かった。添い遂げようと想い続けている彼女と一緒にいられるのなら、私はもうこうすることができる以上のことを何も望みはしない。

「あ・・・ねぇ、貴方の名前はなんていうの?」

「・・・私の名前は」

 表情が変わるはずの無い彼女の顔が綻んでいるように見える。私の名前を聞くことで。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返してきた、私の名前を聞くことで。

「私も貴女の名前を聞いてもいいですか?」

「私の、名前?」

「そう、貴女の名前です」

「私の・・・名前は・・・」


経過記録 09M27 


「どうしてだ!? どうしていないんだ!? 早く会わせろ! 私は約束を守ったんだぞ!」

「そ、それは・・・」

「何を言いよどんでいる? すぐに会わせてくれれば済む話だろう」

「いや・・・だから・・・それは・・・・・・」

「・・・・・・まさか、まさか・・・売ったのか? お前は、あいつを、売ったのか?」

「・・・」

「あの変態共に、お前は、あいつを売ったのか!? 答えろ!」

「し、しか、仕方がなかったんだ。そうするしかなかったんだ。すぐにでも金を出さないとって、うぐっ!?」

「ふざけるな! お前は私に何と約束をした? 言ってみろ!」

「ぐ・・・く、苦し、ぎゃあっ!」

「私は守ったんだぞ。お前が、お前が! 金に困っているから、このままだと私達は生きていけなくなるから、だから金が入用なんだと。それを誰よりも望まなかったのがあいつだったから! 私は、私は!」

「ま、待ってくれ。そ、そんふぐっ!?」

「・・・どこにやった?」

「し、知らない」

「言え。言わないと殺すぞ」

「そ、そ、そんなことできるわけ・・・っ!!! う、うああああっ!? 痛い痛い痛い!」

「次は二度と何も見れなくしてやる。それでも言わなかったら食えなくしてやる。早く答えろ。それとも狂って死ぬまで嬲られたいのか?」

「ほ、本当に知らないんだ! 金を受け取っただけで、それで・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか」

「くはっ。・・・ど、どうする気だ」

「決まってる。あいつを探す。それだけだ」

「そ、そんなことをしてどうなる? 見つかりっこない。それに、見つけたところで、ブラッキーが一匹で何をできるっていうんだ」

「黙れ」

「うわあっ!?」

「お前は、あいつがお前のことを何と言っていたか知っているか?」

「な、何を? あいつ? 何を言って」

「オレがどれだけお前のことを殺してやろうと思っていたか知っているか? 何度も何度もそうしようとしたぞ。だけどな、そんなオレのことをいつも止めたのはあいつだった。お前は知っているか? あいつが、あいつが何て言っていたかお前は知っているのか!?」

「し、知らない! そ、そ、そんなのは、お、お前らが勝手にしていただけじゃないか。こっちはそんなことを言われても・・・」

「・・・・・・」

「ひっ!?」

「なあ・・・お前は、本当にこんなどうしようもない生き物を愛していると言ったのか? ただ拾われたというだけでそう言えるというのか?」

「な、なんだ?」

「自分のためなら他者を平気で利用し、貶め、傷つけ、醜く生き続ける、蝕むだけの存在の人間を、お前は愛していると言えるのか? 教えてくれ。もう一度だけでいいから、私に・・・教えてくれ」

「あ、頭がおかしくなったのか? とにかく、今のうちに・・・」

「ふふふ・・・ふふ、ふはははははは! あはははははははははははは! 見ろ! お前の愛していた人間はお前と私を捨てたぞ。自分が生きるために、自分を守ってくれていたものを捨てたんだ。――愚かだろう。それが、どうなることかも、知らずにな」

「ひいいっ!? た、助けてくれ! 誰か! 誰か助けてくれええええ!」

「――待っていてくれ。必ず見つけるから。助けるから。オレが・・・いや、私が行くまで待っていてくれ。・・・すぐに、行くから」


経過記録 09Jl05 


 彼女との面会を終えた私は一人で外に出ていた。中とは違い、外はひどく暑い。気候的にそうなのはもちろんだが、それ以上に人工の風の代償によるものが大きい。中を涼しくすれば外が暑くなる。どこかを都合よく変えれば、当然その反動がどこかにでる。
 なら手を加えるべきじゃないのか? いや、それは違うんだろう。事実、中のあるべき姿を取り戻せば、彼女もあるべき姿になってしまう。それだけは嫌だった。あるべき姿を捻じ曲げ、その結果反動が、それこそ例え世界に及んでしまったとしても、私は彼女を戻したくは無い。今はただ、彼女といられることを望むだけだ。

「暑いな」

 ・・・思えば、あの日もひどく暑かった。あの日からどれだけの月日が経ったのかはわからないが、この暑さだけは変わることが無い。忘れることは無い。どれだけ血眼になっていても、暑さは確実に私を蝕み、遅れてはならぬ歩みを遅らせて来たのだから。

 いっそ、と思ってしまったこともあった。食べ物も水もとらず、ただひたすらに走り続け、白熱の元に倒れ付す。そんな日が何度も続いて、動けなくなる度に思った。
 
 このまま消えてしまおうか? 彼女はもう助からないのではないか? 見つけたところで、殺されるだけなのではないか? 楽になった方がいいのではないか?
 
 恥ずべき考えであるのは確かだ。しかし、体の限界からすれば、こういった考えが浮かぶのもまた確かだ。だが、そうなる度に私の頭の中に、私の目の中に、彼女の笑顔がよぎった。彼女の声が響いた。そして何よりも熱い、彼女の温もりが私を貫き、理屈では動きはしない体を突き動かした。
 
 前に進め。彼女を探せ。救え。取り戻せ。――そう、声がした。

 それは感動的な話とでも言うべきなのかもしれない。引き裂かれた恋人達の片割れが、自らの身を削りながら、一つになろうと必死に探し続ける。時には自らの仲間とも言うべき存在と戦い、時には自分達を引き裂いた張本人達を倒し、時には・・・。

「・・・本当に、アレは人間だったんだろうか」

 華奢な見た目とは裏腹に、ただならぬ雰囲気を纏った人間のことを私はふと思い出した。そう、見た目からすれば、子どもといってもいいはずなのに、あの人間の目にはまるで死地に赴く戦士の如き決意が秘められていた。ほんの一時ではあったものの、共に行動している中で見てみて、あの人間の行動には・・・躊躇いが全く無かった。互いの利益のために動く仲間だったとはいえ、もしも私が不利益な行動を冒せば、すぐにでも私のことを排除しようとしてきたに違いない。あの人間が私と同じことを重ねてきたのかどうかはわからないが、少なくとも、目的がかつての私と同じだったのは確かだ。

「ふう・・・」

 暑さに耐えかね、私は誰もいるはずがなく、そして実際に誰もいない木の下で休むことにした。暑さが劇的に軽減されるわけではないが、直接的な日差しが避けられるだけでも大分違う。中に全ての気を回すあまり、歩く者のことを考えぬ火の道も、ここでは無力になる。

「躊躇い、か」

 あの不思議な人間のことを、私は躊躇うことがない者だと言った。だが、躊躇うかどうかということを考えれば、私もまたそうだった。
 私を捨てただけなら・・・まだいい。だが、彼女を捨てたことだけは私には許せなかった。私は彼女がいかにあのどうしようもない生き物のことを愛していたかを知っていた。見ていた。私に比べれば脆弱でしかないその力を、全てあの生き物に向けていたこともわかっていた。
 彼女はこうも言っていたものだ。「人間は確かにひどいことをたくさんしてきた。でも、あの人は私を助けてくれた。だったら私もあの人を助けたくなるのは何もおかしいことじゃないでしょう?」 と。

 口で言うほど簡単なことじゃない。彼女が何も知らぬ無垢な心の持ち主だったのなら、それはそう考えるのも無理からぬことだろう。だが、彼女とて私と一緒だ。その身をさんざんに辱められ、蝕まれ、削られてきた。心は引き裂かれ、一つの感情に支配されてもおかしくないほどのことを重ねてきた。どちらが上だとか薄いではない。それはもうあったことだ。
 にもかかわらず、彼女は彼女のままだった。苦しいだけでしかない思い出が想起されようとも、彼女のあの生き物に対する愛は変わることも、騙られることもなかった。そして、だからこそ、人間への憎しみに狂い果てていた私に、何度も、何度も・・・彼女は、何度も・・・・・・。

「・・・」

 今は生い茂っている葉から雫が落ちた。それは地面に吸い込まれ、儚く消えた。どこからなのかもわからない。どこへなのかもわからない。それはただ現れて、そして消えていった。
 
 私にはその意味がわからない。それがわかるのは彼女だけだ。彼女だけが私にその意味を教えてくれていた。だが、その彼女はもうそれを教えることができなくなっていた。

「少し、曇ってきたな」

 暑さを緩めていた影が、徐々に広がっていった。そして黒い私はその影に埋もれていった。
 
 なんてことは無い。最早私を見る者などいないのだから。私が見え難くなろうと、誰も何も想いはしないのだから。私が在るのは私の目的故にだ。

「感情はいらない。ただ勝つのには全てが不要。捨てられない者が勝てるはずが無い」

 私ではなく、あの人間の言葉だった。外見には似つかわしくなく、しかし雰囲気には合った言葉。私を納得させるには十分な力を込められるからには、きっとあの人間も闘ってきたんだろう。それこそ、およそ常人が計り知れぬ程の数の闘いを。

「私は勝ったのだろうか」

 どこにいったのかわからなくなった自分の影に、私はぽつりと問いかけた。返事など返って来る訳も無い。ただ返って来るのは、雲が蠢き、葉がざわめく音のみ。

「・・・」

 雲がその大きさと黒さを急激に増していっていた。先程まで輝いていたはずの日はすでに見えない。ここら一帯に雨が降るのは時間の問題だった。 


経過記録 09Jn08 


 私が彼女を見つけたのは、彼女が私の手の届く所から離れて大分時間が経った後だった。四方八方を休むことなく走り回り、手がかりを見つけては潰していき、ようやくにして彼女を見つけた。利用できるものは何でも利用した。可能な限り早く見つけられるように手を尽くした。しかし、

「・・・・・・」

 私を前にした彼女の目は虚ろだった。私を優しさで包むために必要な光を湛えてはいなかった。最早彼女は何を見ることもできなくなっていた。
 
 私の前にいる彼女の体は汚れていた。血と、排泄物と、形容しがたい匂いに彼女は包まれていた。日の光の中であってこそ輝くべき彼女の体は今、暗闇の中でしか見られないものになっていた。
 私の前にいる彼女は、彼女は・・・彼女は・・・。


「望みどおりに、全て」


 奇特にも私の旅に同行したリザードンが私にそう言い放った。彼の黒い体はこの暗闇の中で何よりも映えているように見えた。尾の炎がなければ、その血のような色をした目だけが爛々と輝き、見る者全てに恐怖を与えていたはずだが、しかし、――彼は美しかった。

「・・・」

 彼の爪からポタリ、ポタリ、と滴り落ちる血を聞いて、私は彼女が何よりも誰かを傷つけることを嫌がっていたのを思い出した。彼女は私と同じ世界に在りながら敵を憎もうとしなかった。いや、敵と思おうとすらしなかった。

「ここも終わりだな。クズ共も二度と戻ってきやしないだろう」

 そうだ。彼女をこんなにもした奴らなど生きている価値もない。どうしてこんなにも綺麗な彼女を汚せる? 傷つけられる? 本当にあいつらは生き物なのか? 感情をもった生き物なのか? この世界に在っていいものなのか?
 
 そんなはずがない。みんな消えればいい。死ねばいい。破壊してやりたい。殺したい。あいつらみんなみんなみんなみんなみんな! 
 
 許せない。何をしたって許せるはずがない。あんな奴ら、人間など、この世から消えてしまえばいい。なのに、

「ふ・・・。う・・・あ・・・うー」

 だらしなく開いた口から止まることなく彼女の証が零れている。ひゅー、ひゅーと音が聞こえる。僅かに体が動いているのが見える。

「どうにか生きているようだな」

 彼女は生きていた。生きてしまっていた。どれだけの苦痛を受けてきたのかなど想像するに堪えないが、彼女は確かに生きていた。
 しかし、その目は私を見ることはなかった。その手は私に触れるべく動くことはなかった。その額の宝玉は私の存在を感じ取ることはなかった。

「出るぞ」

 汚物の塊とも言うべきモノになってしまった彼女のことを、彼は躊躇うことなくそっと持ち上げた。その存在の名前すらわからない糸が彼女と床とを繋ぎとめようとしたが、彼はそれを無視した。そしてそのまま私達は暗く長い、荒廃しきった廊下を通り抜けて外に出た。

「このまま放っておけば死ぬ。人間に見せるのが一番だが」

 星も月も雲に隠れ、中とあまり変わらない夜の下で私はそれを拒絶した。彼女を人間に診せるなど考えられなかった。彼女を破壊し、陵辱し、嬲り、汚した人間の手に彼女を委ねるなどありえない。どうしたらそんなことができる? 人間など滅んでしまえばいい。

「なら、戻るしかない。お前が在った場所に」

 それでも構わなかった。私がそこに戻るということは即ち、彼女が最も望まなかった私に戻るということ。だが、彼女が助かることに一体何が代えられるというのか。彼女の存在以上に大事なものなどこの世にはない。

「乗れ。送ってやる」

 迷わず答えた私の前で、私よりも遥かに大きい漆黒の翼が低くなった。
 
 私は乗る前に彼女を見た。彼女は血に染まった黒い手の中でぐったりとして、変わらぬ音を喉から発し、口を開き、目を濁らせていた。

「・・・」

 私からは何も零れはしなかった。何も出はしなかった。何も発せられはしなかった。私の体は彼女を助けるということに向けられ、意思もなく彼の背中に飛び乗った。彼も余計なことは何も言わずに翼をはためかせ、地面を蹴り、大木を飛び越えて夜空に舞い上がった。
 
 明かりのない空は寒かった。黒い背中にしがみつきながら感じる風は強かった。その激しさのあまり、私は顔を伏せずにはいられなかった。目の前にある黒の先には彼女がいるはずだったが、今の私の目には彼女が見えなかった。今の私には彼女を感じることができなかった。


経過記録 09Jn20 


 彼女が「病棟」に運ばれた後、黒いリザードンは私の元から去ることになった。私といたことで、目的のモノの手がかりを掴めたらしい。それがハッキリとした瞬間、彼の表情が歓喜に震えていたのをよく覚えている。
 彼がいなければ、私一人では彼女をここまで連れてくることはできなかっただろう。来るまでに彼女が絶えてしまったに違いない。――が、私は彼に礼を言うことができずにいた。彼が求めるモノを知って顔を歪ませたのと同じく、私の顔もまた歪んでいたからだ。求めていたはずのモノが求めていなかったモノに変わることによって。

「まあいいさ」

 何度も共に死地を乗り越えてきたとは思えないほどあっさりとした別れの言葉だった。彼は私と彼女を運んできた時と同じく、漆黒の翼をはためかせて雲間の果てへと消えていった。それは二度とは会わないことを暗示するかのような疾さだった。


「・・・」


 私の前に彼女はいた。私が最も憎む者達に仇なす者達の集まりが管理する、「病棟」という名の建物の一室に、彼女は横たわっていた。
 
 彼女は繋がれていた。それは彼女の意思に関係なく、死にかけていた肉体を私の目の前に留まらせてくれていた。それがほんの僅かでも外されることがあれば、彼女はたちまちに息をするのを止めてしまう。私の目が、手が、声が二度と届かない場所へと彼女が逝ってしまう。
 しかし、それでも私は納得がいかなかった。何故なら彼女が助かるには結局人間の力が必要だったからだ。彼女を繋ぎとめるもの全てに人間が関わっていた。私が殺したくて止まない醜い生き物の力が必要だった。
 
 彼女は人間によって壊された。それを人間の力によってなどというのはおかしいではないか。どうしてそうまでして彼女は人間に汚されなければならない? 私が最も嫌う人間によって彼女が助からなければならない?
 
 結果、私は私の判断を下せることがなかった。私は私を管理していた者達によって眠らされ、その間に彼女は死の淵から帰還させられていた。そして私が目覚めた時、すでに彼女は人間の傀儡となってしまっていた。

「ん・・・」

 寝返りをうつことすらできなくなった彼女が軽く呻いた。治るのではなく維持されているにすぎない体、しかし、それは私で彼女を満たすには十分すぎる条件だった。彼女はもう二度と動くことはできないが、私を見ることはできる。私と話すことができる。そして、体を重ねることはできないが・・・

「・・・・・・?」

 彼女の目が私をとらえた。その、晴れ渡った青空のような目の色は一瞬で私の胸を高鳴らせた。延々と捜し求めていた者が、今、ようやく目の前に在る。すぐにでも飛びつきたかったが、そんなことをすれば彼女は壊れきってしまう。私は精一杯の我慢をして、かろうじて彼女の顔のすぐ傍へと擦り寄ることができた。――が、

「どこ?」

 彼女が最初に発してくれた言葉は私の名前ではなかった。それには、――恐らく彼女の目にも映るほどに落胆したが、私は彼女の質問に答えることにした。
 
 ここは私がかつて居た場所にある「病棟」と呼ばれる建物の中であること。ここならば絶対に安全であること。私が彼女を捜し求めている間に出会った黒いリザードンによって、私達はここに飛んでやってきたこと。彼女はとても大きな怪我をして、それで今は動けないようになっていること。
 
 順序も内容も滅茶苦茶だったが、とにかく私は彼女に説明した。私が勢いよく喋るあまり、彼女はわけがわからないかのように黙っていたが、それでも私は止まらずに喋り続けた。今まで喋れなかった分、私の声を聞かせたくてしょうがなかった。しかし、それも彼女の一言によって止められることになった。

「リザー、ドン?」

 紛れもない疑問系。それは誰がどう聞いても、それがなんなのかわからないがために発せられる言葉だった。
 彼女のその言葉に思わず私は止まってしまったが、別におかしくはない。否応がなく覚えさせられた私とは違い、彼女にはまだまだ知らないことが数多くある。私達の仲間と一口に言ってもその種類は膨大だ。彼女がリザードンという名の私達の仲間を知らなくても、何ら問題は

「・・・誰?」

 どうやら考えている暇はなかった。止まっている暇もなかった。私は彼女に急かされるようにしてリザードンのことを説明した。その外見、できることを大雑把に言った後、私が出会った黒いリザードンである彼について話した。彼女が笑えるかもしれないと思い、血眼の旅の中に僅かにあった、――それが在った時には私は笑えなかったが、本来なら面白いであろうことも話した。残念なことに、彼女は笑ってくれなかったが、それでも私はさっきと同じように話し続けた。

 しかし、

「違う」

 ・・・何が?

「そうじゃ、ない」

 ・・・・・・何が?

「貴方」

 何故名前で呼んでくれない?

「貴方は」

 やめてくれ

「誰?」

 私は私の中で全てが砕け散る音を聞いた。目の前の彼女が冗談を言えるわけでもなく、言えたところでその目の色が偽り無いものだったことがさらに追い討ちをかけた。

「どう、したの?」

 彼女の無垢極まりない目と声とによって、私は叫びながら部屋中を転げまわりたくなった。目という目から流れるものを流しつくしたくなった。全てを終わらせたくなった。しかし、そんなことがどうしてできるのか? 私の目の前に彼女は確かにいて・・・

 いや、そうだ。彼女はきっと錯乱しているだけだ。あまりにもひどいことをされ続け、そして今ようやく目覚めて、目覚めたばかりだから、彼女はまだ戻っていないに違いない。私が私を注ぎ続ければ、彼女はまた戻るに違いない。私のことを好きだと言ってくれるに違いない。
 だとするならこんな所で終わってしまうわけにはいかない。ようやく見つけたんだ。絶対に諦めないと決めたのだから。添い遂げようと約束したのだから。

「それが、名前?」

 私は彼女に自分の名前を告げた。そして自分がブラッキーという種族であることも伝えた。私と彼女とがいかにして出会い、どのような関係をもったかも伝えた。彼女と過ごした時間が膨大だっただけに、全てを伝えるには時間がかかりすぎたが、それでも私は彼女に伝え続けた。

「・・・」

 時間がなくなってしまった。彼女はまだ目覚めたばかりだ。私とずっと話しているわけにはいかない。私よりもずっと眠ることが必要だ。そして私もまた休まなければいけなかった。あまりにも無理をし続けたせいで、体のあちこちにガタがきているらしい。適切な治療を受ければ治るらしく、私は彼女と居続けるためにもそれを受けることを承諾していた。
 私が部屋から出ようとする時、彼女は私を見てはいたが何も喋ろうとはしなかった。せめて一度でもいいから名前を呼んで欲しかったが、私は彼女とはまた会えるのだからと思い、彼女の体が何よりも大事だと納得し、部屋を後にした。
 
 いくら錯乱しているとはいえ、私のことを思い出せずにいたのを見たのは堪えた。しかし、今日はとにかく話した。話し続ければ絶対に思い出してくれる。明日はどんな話にしようか。それだけを私は冷たい床を踏みしめながら考えていた。


経過記録 09Jn23 


 私の傷は私が思っていたよりも深かったらしく、治療は大変に長引いた。私は眠らされていたがためにそれを感じることは無かったが、再び彼女と会うことで取り返しようも無い程の時間が経過していたのを知った。

「初めまして」

 一抹の期待どころではなかったのかもしれない。仮に僅かしかそれが無かったとすれば、彼女の第一声を聞いて、こうまで視界が霞むことは無かったはずだ。時間は経過していたが、ひょっとしたら私の名前を呼んでくれるのではないかと、そう期待していたのかもしれない。

「今日は貴方が話してくれるの?」

 今日、は。貴方、が。

 私は全てを知っている。彼女に会いに来るのは私しかいない。彼女が会えるのは私しかいない。しかし、彼女にとっては全てが新しい。何よりも深かった私すらも、今や「はず」でしかない。

「そっか。楽しみ」

 彼女に話すよりも前に、私の中で私と彼女との記憶が暴風雨のように荒れ狂った。それは過ごした年月に対してはあまりにも短い往来。そして今は語り部を一人しか持たない騙られない話。
 延々と紡がれるはずだった話は最早永遠となった。時間に縛られた彼女の前で、それは終わることが無くなった。
 彼女との永遠を望んだ私にとって、それは幸福と言えるのだろうか? お互いの身が朽ち果てるまでの、――ここに居さえすれば、私が果たすべき役目を果たし続けられれば、ずっとずっと続けられる話は、私にとっての喜びと言えるのだろうか? 私が望んだのはこういうことだったのだろうか?

「あは、あは。すごい」

 思考とは裏腹に私の口は勝手に動いた。それこそ彼女を繋ぎとめる人工物の如く、自動的に動き続けた。そうすることによって私は私に刻み込まれた時を流し、彼女は新たな時としてその器に時を湛えていった。汚され、削られ、穴の開いた、機能を果たすべくも無い透明な器に私は注ぎ続けていた。
 希望は喪えない。今だって続ければと思っている。事実、私達は何度も奇跡を起こしてきた。私と彼女が出会ったことからして奇跡だ。どう考えようとも接点の無いはずの者同士が出会い、そして想い合う。これが奇跡と呼ばずして何と言えるのか?
 そうだ。それに比べて今はどうだ? 私は注ぎ続きさえすればいい。己の身の限界を越えた訓練を受けるわけでもない。無茶しかしない脆弱な者を「気づかせず」に守るわけでもない。ただ最愛の者との時間を共有し、話し続ければいい。刻まれた思い出を再び刻めばいい。零れてしまうのなら掬って戻せばいい。何よりも私は彼女の目の前にいることができる。他の何に代えても望もうとしていることを得ている。それで諦められるはずが無い。

「そうなんだ。それで?」

 喋った。ひたすらに喋り続けた。彼女の状態が安定したと事前に聞いていた、自分の体はほぼ完治した、そんなのは関係なかった。来た時は明るかった外が暗くなっても、部屋は明るいままだった。私の口が渇くことはなかった。何もかもを考えずに私は動いていた。
 彼女は笑えなかった。しかし笑ってくれていた。私達の話で。私達の思い出で。その全てに彼女は反応してくれた。
 目の前にいるのは彼女だ。私が愛している、この世の何よりも愛しい者だ。全てを敵に回しても守りたい者だ。私の全てだ。私の夜を照らしてくれる太陽だ。

「ほんとう? そんな、すごいこと、したんだ」

 なのに、なのに、なのになのになのになのになのになのになのになのになのに

 どうして私は、私は、

「そんな、すごい仲間がいるんだ」

 私は、私と彼女として、話していない?

「会って、みたいな」

 目の前にいるのに。それはもう事実なのに。どうして私は私として私を話さない? どうして私は彼女を彼女として話さない? 話の二人は私達だと彼女に告げない? 私は一体何を話している? 私は誰と誰の話をしているんだ?

「ふ、ふ、ふ]

 その笑いを向けているのは、それは誰に向けている? 彼女は誰に笑いかけている? 彼女の目の前にいるのは私だ。彼女の何もかもを私は受け止められるはずだ。なのに彼女は、彼女が誰に向いているのかがわからない。目も手も・・・口さえも届く距離なのに、私には彼女が見えていないのか。

「ねぇ」

 気がつくまでも無く夜は暗さを増していた。どれだけ全てを管理されていても、時間には限界があった。今日が終わるまで後僅かだった。

「貴方の、名前は?」

 私は答えた。私の名前を。何十回も、何百回も、何千回も、何万回も彼女に呼ばれてきた名前を答えた。彼女が好きだと言ってくれていた名前を答えた。

「私はね・・・えっと」

 私が答えた。彼女の名前を。何十回も、何百回も、何千回も、何万回も彼女として呼び続けていく名前を答えた。私が好きだと言い続けていく名前を答えた。

「・・・また、来てくれる?」

 私は頷いた。答えた。また来ると約束した。

「退屈じゃ、ない?」

 そんなことは在り得ない。そう返した。何故なら、私は、

「私も・・・好きだよ」 

 私はその言葉を最後に耳にして、彼女の前から去った。彼女の部屋は異常なまでに広い病棟の中でも奥の方にあり、外に出るまではそれなりの時間がかかった。白く黒い廊下では誰ともすれ違うことは無かった。

 私は外に出た。空には丸い月が浮かんでいた。雲は無かった。星がよく見えた。風が僅かに流れていて、私の耳から尾を撫で続けていた。優しく、静かに。

 私は日中は火と化す道を歩き、「病棟」から少し離れた所にある木の傍までやってきた。木の下は日中は暑さを和らげ、夜中は影を一層増してくれる。黒い私の体は誰からも見えなくなった。

 
 明日も彼女の所へ行こう。明日も彼女に話し続けよう。騙り続けよう。「初めまして」「貴方の名前は?」「私の名前は」。繰り返そう。信じて彼女と続けていこう。そうして彼女に、毎晩夜になったら言ってもらおう。そして私も言おう。

私は、君のことが


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
 
 辺りには誰も居なかった。誰にも見られるはずなどなかった。

 私はようやく完治した頭を木に何度も何度も何度も何度も打ちつけながら叫び続けた。すでに枯れきった喉を振るわせ続けた。額から血の雫が零れ落ち、赤い目を一層赤く染め上げても、私は叫ぶのを止めなかった。泣くのを止めなかった。


 彼女はもう壊れてしまった。そんなのはもうわかっていた。
 彼女はもうその日の記憶を全て留めておけなくなった。私がどれだけ注いでも次の日には忘れてしまう。
 彼女はもう私に抱かれることはなくなった。私を抱きしめてくれることもなくなった。二股の尾を私の尾に絡めてくれることがなくなった。
 彼女はもう笑えなくなった。軽快で透き通った声を上げることがなくなった。
 彼女はもう 彼女はもう 彼女はもう

 私が望んでいた彼女ではなくなってしまった。

「いやだいやだいやだいやだ! どうしてなんだ!? どうして彼女は私の名前を留めていてくれないんだ!? どうして私の名前を呼んでくれない! 私は彼女とずっと一緒にいたのに! 彼女と永遠に添い遂げると約束したのに! どうして彼女はもう私を見てくれない!? どうしてどうしてどうしてどうして! どうして彼女は溶けていってしまうんだ!」

 私が彼女とその日を過ごしきっても。そうして積み重ねても、次の日にはそれは全てなくなってしまう。それこそまるで雪のように溶けていってしまう。私はこれからも雪を積み重ねていくのか? 溶けてしまうとわかりきっている雪を彼女の前にくみ上げていくのか? 書いては消えていく雪の日記をこの手に持ち続けるのか?

「もう一度だけでいい。もう一度だけでいいんだ。お願いだ。もしもこの世でたった一つ、たった一つだけでも願いがかなうのなら。お願いだから、どうか私を、どうか・・・私を・・・」


経過記録 09Jl07 


 暑いはずなのに涼しい日だった。彼女の元へと向かう私を、「病棟」の入り口の前にいる、赤茶色の毛を纏い、黒目を持つ小さな生き物が呼び止めた。それは見た目からすれば無邪気な可愛さを持ち、およそ全ての者に対して無害としか思えない雰囲気を漂わせる、か弱そうな生き物だった。

「仕事です」

 しかしそれとは裏腹に、小さな口から発せられた言葉はひどく淡々としていた。甘くも無ければ熱くも無い。ただ必要最低限のことを最小限の労力で伝える。そんな口調だった。

「消してください」

 いつのまにか私の足元に、絵が描かれた一枚の紙切れがあった。私は決して気を抜いていたわけじゃない。が、それは私が気づけないほどの早業だった。どうやら、というよりも、やはりこいつは只者じゃないらしい。

「そうですね」

 私は写真に目を通しながら報酬を聞いた。仕事には当然報酬がつき物だ。私がそれを役目として果たすことで、彼女を繋ぎとめることが約束されるのはもちろんだが、私が聞いているのはそれ以外の部分だ。仕事の内容を知らない者からすれば、それはあまりにも勝手と言えるかもしれないが、これにはそれだけの危険がある。ましてや、今の私にとってはこの上も無い危険だ。仕事を引き受けるということは彼女から離れなければいけないことを意味するのだから。

「叶えましょう。貴方の望みを」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・私は思わず耳を疑った。今、こいつはなんと言った?

「彼女を戻してさしあげましょう」

 どうやって? 私は何も考えずにそう聞いていた。そうできるのならどうして今までそうしなかった? ”お前達”は私達をもてあそんでいたのか? 付随するはずの疑問が口から出ることは無く、ただそれだけを聞いていた。

「全ては果たされてから」

 それはこの仕事に限らず全てに共通することだった。報酬に前払いなどない。完了されて初めてそれは自分の手の中に納まる。これまでも、そしてこれからも続いていくルールだ。

「では」

 そう言って伝言者としての役割を持った生き物は去っていった。私の元には一枚の絵、――たった一つの手がかりが残された。それは私が消すべき対象であり、全ての希望でもあった。

 私は手がかりを目に焼きつけ、「病棟」を後にした。一目でもいいからという気持ちがないわけじゃない。しかし、彼女と会えば、きっと揺らいでしまうだろう。解け続ける雪の日記に手を伸ばしてしまうだろう。だから私は背を向けた。迷わずに、延々と続いていく火の道に足を踏み出した。必ず戻ると、心の中で誓って。


おしまい



あとがき

こんにちは、こんばんは、はじめまして、おはようございます。亀の万年堂でございます。
wikiに来て間もない頃を彷彿とさせる間隔での投稿になりました『雪の日記』ですが、内容に入る前に少し・・・。


支配欲  7%
享楽欲  49%
テクニック  61%
ヘタレ度  100%
あなたの受け攻めタイプは【マグロ受け系】です。

エッチに関して、まだまだ未熟なあなた。
エッチそのものが好きではなく、あまり興味を持てないのかも知れません。
しかしエッチライフがバラ色に染まると、人生が一粒で二度おいしくなるもの。
すばらしきパートナーと出逢って、開眼することをぜひオススメします。
友達のエロ談義に耳を傾けましょう。

あなたにぴったりのタイプ:ヘタレ攻め系

某所にあるMS診断というのをやってみたのですが、爆笑して死ぬかと思いました。私達って相性よかったんですねー。へぇー。
回数こそべらぼーですが、基本任せっぱなしな私は確かに未熟でしょう。あんなグチャグチャドロドロズルズルベチャヌチャの行為が好きになれるはずもありません。だからそれがバラ色に染まるなら人生が変わるのは明らか。開眼できると信じて選んだのですからそうでなければ困ります。エロ談義というかまともな人と話したいところです。こんなだから官能描写がいまひとつなままなのでしょうか。つまりはそういうことを話せる人と付き合えば、もしくは教えてもらえれば向上できるのかもしれません。長編・短編と共に今後は官能描写が必要不可欠になってきますし、ここは一つ真剣に考えてみた方がいいんでしょうか・・・。



・・・・・・お話の内容に入りますが、このお話は見てお分かりいただけるようにブラッキーの視点で進んでおります。多くは語っておらず、ブラッキーである彼とエーフィである彼女がどのような関係で、どのようなことを共にしてきたのかは、彼の口から語られていることからしかわかりません。それはもしかしたら彼が想っているだけで、彼女は全く彼のことを想っていないかもしれないということです。彼としてしか進んでいない以上、彼女が全く喋っていない以上、彼が狂っていないとは決して言えないのです。
しかし、それにしたって私はブラッキーのことがやるせなくて仕方ありません。例えば、もし貴方に何に代えても守りたいモノがあったとして、それが喪われてしまった時、貴方はそれを受け止めることができるでしょうか。彼のように憎しみに逃げることなく、その苦しすぎる悲しみを受け止められるでしょうか。
お話の中で彼は後悔の念を見せてはいません。が、それはつまり彼がまだ終わっていないことを表しています。どれだけ過酷なモノを背負わせるのかといわれようと、私は彼らを諦めるつもりはありません。彼が諦めていないのにそうすることができるわけもないです。

『雪の日記』の意味は彼が語ってくれています。が、それはあくまで彼の視点での話です。自分ではどうしたって見えようがないのです。何故なら彼はまだ、

それにしても、次に控えるNo.6と比べて、随分とギャップのある話になってしまいました。それだけに多くの人に響けば幸いです、が、いつものそれと異なり、今回のお話はそれが難しいかもしれません。内容と比較して足りていないものが数多くありますからね。いくら後に繋げるためとはいっても難しいものです。でも、彼と彼女が再び出会えたら、その時はきっと活きてくれるはずです。

なにやら暗くなってしまいました。いつもは明るいのに困ってしまいますね。次回こそはNo.6になると思いますので、またにぎやかな場所で会うことにしましょう。それでは、本日は『雪の日記』を読んでいただき、誠にありがとうございました。


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感想等ございましたら、よろしくお願いします。

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 貴方が申していた通りなんともコメントしがたい話でした。どのようにしてリザードンと出会ったのか、また彼の目的はなんなのか。ブラッキーが頼まれた依頼の内容とはまたなぜブラッキーがゼニガメの話しをしたのか、考えれば考えるほど謎がでてきますね。今回の話もキャラの心情がよく書かれていて読みやすくまた想像しやすかったです。ブラッキーのエーフィに対する純粋な愛と記憶を失ったことを知った時の心情の表現がとくによく書けていたと思います。この物語はまさに題名にぴったりの名前だと思いました。毎日あっているのに次の日になれば忘れられてしまう……こんなに悲しく儚いことはないですね。どうやったらエーフィを元に戻せるのかも凄く気になりますね。それにこれを読んでいるとどこかの誰かのことが思いうかんでしまいました。次の作品にも期待してます。執筆お疲れさまでした。これからも頑張ってください!
    ―― ? 2009-09-12 (土) 02:40:19
  • >蒼様
    前回に引き続きコメントの方ありがとうございます。
    謎の多くは、というよりも張られたものはここでは明らかにはなりません。がこのお話もまたレポート本編に大きく関わってきますから、レポートが進むにつれて出てきたものの多くは明らかになっていきます。
    心情の評価の方ありがとうございます。今回は私のほうであまり修正せずに、ブラッキー君にひたすら喋り続けてもらった結果、このようになりました。故に読む側からしたらわかりにくいのではないかと思ったのですが、そのように言っていただけてよかったです。
    そうですね。忘れられることの辛さは当事者、つまりここで言うのならばブラッキー君にしかわかりません。しかし、彼の言葉を聞くに当たってその辛さは幾許かはおわかりいただけたかと思います。
    エーフィが戻るのかどうかはまた遠い別のお話で明らかになります。長い道のりになりますが、それまでもそれからもお付き合いしていただければと思います。
    応援のお言葉と併せて、コメントしにくい中、たくさんのお言葉をどうもありがとうございました。これからも頑張らせていただきます。
    ――亀の万年堂 2009-09-13 (日) 22:09:49
  • 色違いリザードン(笑)
    ヤフーで画像見たが可愛すg(ry
    私の好きなポケモンしかいない(すげぇ)

    最後の赤茶色の毛をもつ生き物がなにかわからか(殴
    ブースターしか浮かばな …げふっ(蹴
    ――生き物 ? 2011-04-12 (火) 05:29:23
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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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