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集団大根おろし事件

/集団大根おろし事件

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Writter:赤猫もよよ

※不適切な表現は一切ありません。



 目を覚ました時、そこは見知らぬ部屋だった。
 どうやら俺は気絶していたらしく、頭がズキズキと鈍く痛む。
「ここは……」
 周囲を見渡そうとして、俺は自分が椅子に縄で拘束されている事に気が付いた。両手は背に回され、手首と足首さえもぎっちりと縄で縛りつけられている。余程ぎっちりと縛られているらしく、身を捩っても緩みさえしない。
「クソ、解けねえ……!」
 誘拐、監禁。そのような言葉が脳裏に浮かぶ。
 ガブリアスという種族は得てして気性が荒く、例に漏れず俺もそうだった。
 目があった奴全員ブチのめす、みたいなノリのストリートファイトに明け暮れる日々を過ごしてきたのだから、そりゃまあ恨まれる筋などいくらでもある訳だ。
 山ほどある心当たりを引っ繰り返しても仕方がない。俺は少し冷静になるべく深呼吸をして、もつれまくってうじゃうじゃしている記憶の糸を解きほぐしていく。
「そうだ、俺は確か……」
 思い出す。確か俺は、友人のヒメグマに誘われて鍋パーティの御同伴に預かるところだったはずだ。
 向かう途中で電話が掛かってきて、曰く野菜を買い忘れたからついでに買ってきてくれとのことで、一緒に向かっていた友人のオーダイルと共にすぐ近くのスーパーマーケットへ向かった筈だ。
 そこで野菜を買って、それから……それから? 
 クソ。ダメだ、上手く思い出せない。
 ただ、オーダイルと一緒にいたことは覚えている。ということは、もしかしてオーダイルも捕まっているのか?
「おい、オーダイル! いるのか!?」
「……ん、んん……? あァ……なんだここ……?」
 俺が叫んで暫くすると、背中の方からオーダイルの呻き声が聴こえた。
 どうやら俺と一緒に誘拐されてきたらしく、声の聞こえ方から察するにお互い背中合わせにして拘束されているらしい。
 自分一人ではなかったという事実に安堵しつつも、しかし事態は急を要することに違いはない。どうにか力を合わせてこの場を切り抜けないと、最悪命すら取られかねない気がしてきた。
「オーダイル、どうやら俺達誘拐されちまったらしい」
「誘拐? マジで? あ、ほんとだ動けねえ、うわ~ドキドキしてきたぜ、ナニされんのかな、もしかしてエッチな事かな……!」
「暢気だなあお前……いや暢気っつーか……やっぱいいわ……」
 暢気というかなんというか。オーダイルの性癖の片鱗に触れてしまったのを理解しないように思考を遮断しつつ、俺は周囲を見渡した。部屋に明かりが無いため、ガラス窓から漏れる僅かな月明かりを頼りに探るしかない。
 とはいえ、拘束されて身体が動かせない以上限界はある。視界に捉えられるのは正面にある入り口扉とガラス窓ぐらいのもので、大して興味を引くようなものではない。窓もさして大きい訳ではなく、俺やオーダイルがぶち破って逃げるのは難しそうだった。
「オーダイル、そっちから何か見えるか?」
「ん? あァ、ちょい待ち。えーっと……あ、何か結構あるぞ」
「そうか……何がある?」
 俺は内心焦りながら、オーダイルに問う。
 テレビで見たことがある。監禁とか誘拐されたヤツはたいていの場合、恨みを抱いている犯人によって嬲られ弄ばれるのだと。
 俺たちが恨みを買って誘拐されてきたというのならば、きっとそこにあるのは拷問用とか痛めつける用の器具に違いない。そうに間違いない。
「えーっと……冷蔵庫に流し台に……調理台とだな……」
「…………冷蔵庫?」
 びっくりするほど予想外だった。
 もっとこう、おどろおどろしいものが飛び出してくる覚悟を決めていた。
 その筈なのに、実際に現れたのはただのキッチンルームだった。あまりの落差で脳がおっつかない。
「冷蔵庫。あ、食器洗浄機もある」
「お、おお……そうか……。洗われるのかな……俺たち……」
 よく分からなさのあまりよく分からない言葉が飛び出した瞬間、がちゃりと音を立てて扉が開いた。
 扉の音に緩んでいた意識が引き戻され、俺は身構える。
「誰だッ!」
「フフ……ようやく目を覚ましたようだな……」
 ぱちん、と音を立て照明のスイッチが入る。暗闇に慣れていた目に眩いまでの電気の光が降り注ぎ、思わず目をしかめた。
「フフフハハハハ! 初めましてだな諸君!」
 それっぽく高らかに笑いながら部屋に入ってきたのは、なんか百均とかで買った感じのチープなビビヨンマスクを身に着けたヒメグマだった。
 どう見ても知り合いだった。というか鍋パの主催者だった。
「先輩、何してんの……? 鍋パすんじゃねえの……?」
「え゛っ……あ、いや、違うぞ! 私はお前の知り合いではない! ぞ!」
 ヒメグマは一瞬で200匹のシンボラーに囲まれたような感じで急にあたふたしだした。
 眉間にテープで留めるタイプだったらしいビビヨンマスクが慌てた拍子にずれ落ち、ヒメグマのヒメられてないただのグマとしか言えない素顔がさらけ出される。
「あっ」
「ああ」
 どうすんだよこれ。えらいことになったぞ。
 こちらもどうしていいか分からないし、ヒメグマはこの世すべての恥を煮詰めたものを食い詰めたような顔をしていた。
 既に部屋の中は近年稀に見る地獄の様相が展開されていた。
 血が流れていないのにここまで残酷な光景が果たしてあるだろうか。いやない。
「……あの、もっかいやり直してもいい?」
「……いや、いいけど……」
 ヒメグマは頭を下げた。この状況でその提案できる度胸が凄い。俺は流されるまま頷いてしまった。
「ちゃんと驚いてね?」
「……質による、けど譲歩はする」
 加害者-被害者関係の筈なのにいつの間にか交渉が始まっていた。社会はこうして回っているらしい。
「いやほんと頼むよ。掴みは大事だからね」
「はいはい」
 ヒメグマは念押しをしながら出て行った。
 そう言われてもネタが割れている以上、既に茶番以上の質が生じることはないのだが、果たして彼女は理解しているのだろうか。
 それとももう止まれないとかいうやつなんだろうか。悲しさだけが前に進んでいく。
 なぜか目頭が熱くなってきた頃、もう一度ばたんと扉が開く。謎のビビヨンヒメグマのお出ましだった。
「フフフッハッハハハッ! 初めましてだな諸君! 私は謎のヒメグマ!」
「……あ、どうも」
「もうちょっと驚いて」
「ウ、ウワーッッッ!!!」
「ありがとうオーダイルくん、なんかごめんね」
「おう」
 オーダイルは驚いた。迫真の演技だったが、そのせいでむしろ逆にいたたまれない感じがすごかった。
 話が進まないので俺は続きを促す。
「で、お前なんなの。なんでこんな事したんだよ。鍋パすんだろ鍋パ」
「せっかくなんでもうちょっと付き合って。私の名は……そう、誰が呼んだか謎のミステリアス鍋奉行ッ!!」
「「謎のミステリアス鍋奉行」」
 オーダイルと俺はハモッた。既にトンチキが進んでいた空間に、よりトンチキ濃度の高い発言がぶち込まれる。
 その「頭痛が痛い」みたいになってる名前は一体誰が呼んだんだろうという疑問はあったが、これ以上藪蛇は御免だった。
「えっ……その、謎のミステリアス鍋奉行……さんは、一体俺たちを……えっと、どうするつもりで」
「さん付けしないで。なんかよりつらいから」
「おうすまん」
 誰も幸せにならない空間だった。それでも世界は進んでいくしかない。
 謎のヒメグマは俯き、不敵に笑った。もうやけくそだった。
「フフフ……よくぞ聞いてくれたなガブリアスくん! 今から君達には……こいつを味わってもらう!」
 謎のヒメグマは顔を上げ、目を見開いた。
 謎のヒメグマが勢いよく懐から取りだしたのは――大根だった。
 


『集団大根おろし事件』



「大根」
 大根。
 白く、太く、たくましい。冬の贈り物。この時期のは煮ると美味い。
 いや直前の寸劇からさしてバイオレンスなものが出てくるわけがないと何となく理解はしていた。
 でもなんで大根? どういう配役?
「クク……恐いか……! 今から何をされるか想像して震えているのだな……!」
「いや何されるか微塵も分かんねえから逆に怖ええんだよ! 何すんだよ大根で!」
 マジで何すんだよ大根で。味わってもらうって何だよ。喰わされるの? 生だと辛くない?
 ……いやいや誘拐という体だし殴るのか? 刺すのか? ……大根で? もっと適役があっただろ!?
「クッ……止めろ……そのギンギンの雪原で育ったぶっといお大根をオレにぶち込まないでくれ! エッチブックスみたいに! エッチブックスみたいにッ! ウォォッ!」
「えぇ……めちゃくちゃノリノリだなお前……」
 俺が思考を混沌のふわふわコットンに沈める傍ら、オーダイルは嫌に饒舌なリアクションで、しかもなんかちょっと悦に入っていた。
 聞こえる吐息がなんか荒くてすごい雑に怖い。
 やっぱコイツそういうのが好きなのだろうか。ていうか大根におをつけるな。全然やらしくないぞ。
 友人の意外な一面を見てしまったようで、なんだかとても心が辛い。そっか、そういうの好きなんだなお前……。
「えっと、あの……味わうってなんすか。それ鍋で使うやつなんだけど食っていいの?」
 俺がどうせろくなことにならないだろうな、みたいな表情をしながら問うと、ヒメグマは大根を天に掲げて振り回した。
「クク、そうではない……。今から私は――お前達の腹部で、この大根を擦り下ろすのだッ!」

 …………。
 
「ヒメグマさん」
「なに」
「ごめんもっかい」
「今から私は――お前達の腹部で、この大根を擦り下ろすのだッ!」
「うん」俺は頭を抱えた。「ごめん何?」
 ヒメグマは大根を脇に抱え、手でろくろを回した。「いやだからね」
「君達の腹部で大根を擦り下ろして大根おろしを作ろうかなって」
 なるほど。
 なるほどではない。
「アッ聞けば聞くほど分かんねえなこれ。えっ、ちょっと待てよ…………落ち着いた。オーケー、動機は?」
「みぞれ鍋作りたいって話になったんだけど、よく考えたらウチにおろし金無かったんだよね。だから代用品として……」
「俺たちの腹部を?」
「そゆこと」
「サイコパスかよ」
 なにひとつそゆことではなかった。確かにオーダイルの鰐鱗やガブリアスの鮫肌はぎざぎざしている。
 だからと言って普通浮かぶかそんな発想。倫理回路に湯煎したシャブでも詰めてんのか?
「なんてこった……そのイヤらしくソソり立つ白大根をッ! オレの身体にこれでもかと擦りつけるなんて!! アアッ!!!」
 オーダイルは急に叫びだした。どうやらこの空間で正気を保っているのは俺だけらしい。あるいはその逆かもしれない。いっそ狂ってしまえば楽だったかもしれないが、悲しいかな窓にはなにも映っていない。
「おい闇のサイコパス鍋奉行。俺はやらないからオーダイルにやってあげてくれ。なんか希望してるっぽいし」
「いやね、目が粗いのと細かいのの2パターン楽しみたいなって総意がね」
「総意て」
 そう言えば大根おろしは目が細かいもので擦れば擦るほど辛味を増していくらしい。確かにオーダイルの鱗は目が粗く、俺の鮫肌は目が細かい。2パターン楽しむなら確かに二人用意するのは正しい。……いや前提からして正しくないけど。
「もしかしてもう他の連中来てるのか?」
「うん」
「誰も止めなかったのか?」
「一人渋ったけど、甲羅に大根刺してブリ大根! ってやるぞって脅したら大人しくなったよ」
「後で正気に戻ったらブリガロンに全力で謝っとけよお前」
 それは普通に酷過ぎるだろう。いや俺の置かれてる状況もめちゃくちゃ酷いけど。
「つーか食べ物を粗末にするのはどうかと思うぞ。あと俺たちのことも粗末にしないで」
「大丈夫ちゃんと食べるし。さっききみたちが気絶してる間にアルコール消毒しといたし」
「いつの間に……」
 前提からして一点も正しくないという一点のみを除いて、至極正しい行動だった。そうだな、食中毒とかあったら大変だもんな。
「それにほら、シャワー浴びて来たでしょ? お願いした通りに」
「浴びて来たけど……お願いって、あー」
 俺は思い出した。鍋パの催行日が決まって、当日の持ちより分担が決まった後、ヒメグマは俺にこっそり耳打ちをした。
 曰く、「内緒でイイコトするからちゃんと念入りにシャワー浴びてきてね!」とのことである。
 ……いやもう、こんなのどう考えてもアレじゃん。そういう感じのアレな展開じゃん。
 苦節二十年、いつだって寒冷前線のど真ん中であった俺にもついに春が来たと小躍りし、ウキウキしながら石鹸と洗皮用のシャンプーをいつもより良質なハチミツ入りのものに変えたのだ。
 だというのに。だというのに!
「…………えっイイコトってもしかしてこれか!?」
 ヒメグマは素早く頷いた。断頭台の刃が落ちるような速度だった。
「他に何があるの?」
 俺は首を撥ねられた。俺は死んだ。
「いや……いろいろあるし……。てか大根を下ろされるって可能性に辿り着く方がムリだろ!」
 俺は言い淀んで逆切れをした。心がちくちくしている。
「ガブリアスってなんていうか、可哀想な星の元に生まれてるよな」
「うるせーぞオーダイル! てめえは急に理性を取り戻すな!」
「ああちょっと暴れないでよ」
 的確に事実を述べられると却って腹立つものである。怒りのあまり縄を引き千切ろうと暴れる俺にヒメグマは静止を掛けるが、夢破れたピュア童貞の衝動はすべてを破壊しつくさないと止まらない。みんなほどほどに苦しめ。
「うーんプラン変更! みんな、手伝って!」
 もはや手が付けられないと悟ったのか、ヒメグマは部屋の外にいるなにがしかに呼びかけた。
 次の瞬間、他にも鍋パに呼ばれていた連中が麻雀牌を口に咥えながらぞろぞろと現れる。なんの遊びしてたの君ら。
「うわっ改めて見ると絵面ヤバくない? マジで縛られてんじゃん」
「あっ先輩……あの、ほんとすんません……」
「うーん、野郎が縛られててもなあ……いやこれはこれで……」
 上から順にエンニュート、ブリガロン、ゴーリキーである。ガブリアスの俺が言えた義理ではないが面子の濃度やたら濃くないか。
 しかもこの縦幅と顔面と出で立ちの濃い面子の中で一番気が狂ってるのが可憐なヒメグマであるという事実。怖い。
「みんな、プラン変更よ! プランB、集団大根おろし事件で行くわ!」
「集団大根おろし事件」
 今日はパワーワード警報でも出てんのかな。なんとなく想像はつくがつきたくない語句だった。
「あの、ヒメグマさん」ブリガロンは手を挙げた。
「なにかしらブリガロンくん」
「いや、ヒメグマさんがやるにはいいと思うんですけど……いいんすか、自分はまあギリギリとして、ゴーリキーくんとかエンニュートさんが縛られてる二人に大根を突き立てて擦るって行為、多分絵面が『マジ』な奴になると思うんですけど」
 よし、いいぞブリガロン。狂った現実をどうにか打破してくれ。
「構わないわ、先輩が許します」
「あっわかりました」
 ブリガロンは引き下がった。見た目にそぐわず圧にめちゃくちゃ弱い男だった。
「いやもうちょっと食らいつけよブリガロン! ダメだろ明らかに! そういう方向性のヤツになるじゃん!」
「す、すんません……」
「オレは大歓迎だぞ! 集団に囲まれてなす術もなく……アァ……!」
「オーダイルは黙っててくれ! その顔止めろ!」
 オーダイルはもう既にそういう方向性のヤツになりつつあった。というかこれが本性だろう。
 ……生きて帰れたら友人関係を再考慮しようかな。
「私とブリガロンくんがガブリアスを、エンニュートちゃんとゴーリキーくんがオーダイルくんを大根下ろす感じで行きましょう」
「へんな動詞を作るんじゃねえ」
 暴れる俺と縮こまるブリガロンと荒ぶるオーダイルを尻目に、ヒメグマは淡々と一人に一つずつハーフカットの大根を手渡していった。合わせれば結構な量があるが、マジでやる気なのか。……マジで?
「く、クソ……どうなっても知らねえからな……」
 迫り来る大量のハーフカットの大根を目にし、もはや抵抗は無意味であることを悟る。俺は目一杯上体を逸らし、ぶっとくそそり立つ真っ白な太い根っこを受け入れる姿勢を取った。なんなんだこれ。
「いくわよガブリアスくん。私がお手本をするから、ブリガロンくんは見ててね」
「クソ……好きにしやがれ……!」
 冷蔵庫でギンギンに冷やされていたヒメグマの大根がそっと俺の胸部に触れ、そのまま擦りつけられる。かしゅっ、かしゅっ、と規則正しい細やかな音を立て、ふんだんに水分を含んでいた大根の先端が少しずつ白くてどろっとした液体状に変化していく。
「ん、ふ、くうっ……」
 大根は思ったより冷たく、何とも言えない触感を持って敏感な胸部を這い回る。
 今まで味わったことのない感覚に、思わず口端から呻きのようなものが漏れ出してしまう。
「どう、気持ちいい……?」
「く、クソ……屈しねえぞ……俺は……!」
 歯を食い縛り、俺は皮膚をうぞうぞと舐って回る大根の感触に耐える。
 次第に吐息が荒くなっていくのが分かる。ぎしぎしと身体を揺するが、縄は頑なにほどけようとしてくれない。
「ふふ、もうこんなにいーっぱい出来ちゃった」
 どろどろの白濁が俺の胸のあたりにこびりついていた。
 ヒメグマは蠱惑的な指先の仕草で少量の白濁を掬い取ると、そのまま口の中へと運んでいく。
 ちゅる、と指先を舐り、ヒメグマは満足げな様子だった。
「ふふ、美味しいわ。いくらでも食べられちゃうかも」
「クッ……止めろ……!」
 みんなの取り分が減るだろうが……!
 睨めつける事での無言の訴えも虚しく、ヒメグマは不敵な笑みを見せている。
 俺はさながら蜘蛛糸に絡められた蝶のようだった。このままこの小悪魔に搾り取られてしまうのだろうか……!
「はい交代。次ブリガロンくんね」
「え、あ、はい」
 搾り取られなかった。ブリガロンは明らかに嫌だなあという顔をしていた。まあそうだよな。
「じゃ、じゃあ……いきます……」
 ブリガロンの手は震えていた。恐らくこれが初めての経験なのだろう。瞳は僅かな動揺に揺れ、心臓は高鳴っているようだった。
 手の都合上片手で大根を持つのは難しいようで、ブリガロンは両手で巨大根を支えた。
「あの、ごめんなさい……先輩……」
「いいんだ……お前は、悪くねえ……」
 今にも泣きだしてしまいそうなブリガロンを支えるべく、俺は無理に微笑みを作った。目の前にそそり立つのはヒメグマのより大きいブリガロンの大根。あんなものを突きたてられてしまえば、俺の身体にはさぞかし大量の白濁がぶちまけられることになるだろう。 怖い。途方もなく。
 だが、耐えるしかない。耐えるしか……ない!
「いきます……!」
 ブリガロンは俺の腹に力強く大根を突きたて、上下にゆっくりとしごいていく。
 その仕草に慣れていないのだろう、動きにはぎこちなさが見て取れる。しかしその大柄な体のパワーはヒメグマとは比にならないものであり、俺は粗削りな擦り方にヒメグマの物とは違う感触を見出していた。
「ぐ、うう……」
「す、すいません……痛いですか……?」
「いや、大丈夫だ……。だが、もっと、丁寧に……頼む」
 粗削りながらも、大根は明らかに速い速度で削れていく。俺は一瞬で削れていく大根に妙な快感を感じていた。
 大根のどろりとした白濁は俺の身体にこんもりと盛られていた。ヒメグマは容器を持ってくると、せっせとそれをかき集めていく。
「ふふ、ブリガロンくんも大分巧みになってきたわね」
 横から割り込んできたヒメグマがブリガロンの大根にぱくりと食いついた。
「あっ……ヒメグマさん、そんな、だめです……っ!」
「ふふ、ブリガロンくんのも美味しいわ」
 ブリガロンはまだ自分も食べてないのに先に食べるのはダメです、と言いたい顔をしていた。
 ヒメグマはブリガロンが作った大根おろしが美味しい、という事を言った。
「はあ……はあ……ッ。まだ終わらないのか……」
 俺は永遠に続くぶっとい大根の責め苦に少しずつ消耗してきていた。
 身体の普段触られない部分をこれでもかと舐り回されるのは非常に苦しいことであり、呻くのも仕方のない事だ。
「すいません、先輩……。オレ、まだまだ……」
「……そうか」
 しかしブリガロンの体力はまだまだ有り余っている。身体の内から発揮される欲求を持て余しているようだった。
 先端にどろどろとした白濁をつけた大根は、まだまだ雄々しくそそり立っているようだった。俺は苦笑いをする。
 間髪入れず、ブリガロンは俺への責め苦を再開した。
 俺は消耗しながらも、歯を食い縛ってブリガロンの大根に耐える。
 ヒメグマはその様子を見ながらせっせと白濁液を容器に集めていた。
 ブリガロンの大根をしごくテクニックは少しずつ巧みになってきていて、俺の身体からはどろりとした白い液体状の大根おろしが溢れるようになっていた。
 ヒメグマは溢れんばかりの大根おろしの量に、憔悴しながらキッチンと俺を往復している。慌ててキッチンに走ろうとした時、近くの床に置いてあった蜜壺――野菜のついでに買ってきてと俺が頼まれたもの――を引っ掛けて倒してしまった。
「先輩、これが……オレの精一杯です……!」
「く、うおおおっ! 来い、ブリガロン!」
 二人とも絶頂だった。ブリガロンはラストスパートを掛け、ハイになった俺は歯を食い縛りながら大根のしごきに耐える。
 倒れた俺の蜜壺が口を開け、そこからどろりとだらしなく蜜を溢れさせた。ヒメグマは夢中で溢れた蜜壺の蜜を掬い上げていた。
「せ、先輩……! もう、限界です……!」
 ブリガロンの持つ大根はギリギリまで小さくなっていた。これ以上は擦れないという意味だった。
「ああ、俺も……溢れそうだ……!」
 俺の胸に溜まっている大根おろしももう溢れる寸前、という意味だった。
「これで……おわりです……!」
「うおおおおおっ!」
 最後の一片を擦り終えた。
 俺の胸から白く濁ってどろどろとした冷たい雫がぼたりと零れ落ちた。大根おろしだった。
「はあ……はあ……。終わったな……」
「はい……!」
 俺たちは謎の疲労感に包まれていた。昂ぶる胸のまま荒く息を吐く。
 お互いに顔を見合わせて、赤面した。なぜだか、なにかしらを出しきった時のようなスッキリした感じがあったからだ。
「オーッホッホッホ! これでも喰らいなさいこの下郎! それ、それそれそれっ!」
「ウアァ……ああ、もっと、もっと擦ってくれえ……! オレに大根をぶちまけてくれえ!」
 背後から何かヤバい声がしたのでブリガロンに縄をほどいて貰って振り向く。
 そう言えば途中から完全に存在を失念していたが、俺たちの他にもオーダイルたちがいたんだった。
「アーッハッハッハ!」
「ウォォォォッ!」
 ゴーリキーが暴れるオーダイルを力づくで抑え込み、謎のスイッチが入ったっぽいエンニュートが大根でオーダイルをびしびしと叩きのめしていた。
 オーダイルは案の定悦に入っていて、なんというか、もう、違うニュアンスの遊びだった。
 
「楽しそうだな……」
「ですね」
「俺たちもあんなふうだったのかな」
「……ですね」
 たぶん、今日の事は忘れるべきだろう。なにもかも、なにもかも――







「さて、紆余曲折ありましたが無事鍋も完成! というわけで、乾杯ー!」
「……かんぱーい」
 ぐつぐつと唸るみぞれ鍋を中心に、闇のサイコパス鍋奉行が乾杯の音頭を取る。
 しかし明るいのはヒメグマだけだった。みんな己の行ってしまった所業の業の深さを目の当たりにし、物凄く落ち込んでいた。
 冷静に考えれば、鮫肌や鰐鱗で擦った大根おろしが美味しい訳がない。
 いや味以前に色々な面で問題があるのだが、誰も最早言及する者はいない。なぜなら、余罪追及は自分の首を絞めるだけだったからだ。己の罪と向き合うのは、かくも恐ろしいことだった。
「あれ、誰も取らないの? しょうがないなあ、私が鍋奉行やったげる。ほれガブリアスくん、取り皿とって」
 俺が控えめに差し出した取り皿をひったくると、水面にこんもりと盛られた大根おろしを並々盛り付ける。目の細かさからいって、恐らくは俺の身体で擦られたものだろう。
「ほら、食べなって」
「……いただきます」
 震える手で匙を掴む。
 ほんの少量掬い取り、口に運ぶ。
 ……。
 
「……う、美味い」
 適度に辛味が利いて、それはそれはもう絶品だった。
 とても美味しい筈なのに、俺は不思議と涙が止まらなかった。


優勝しちゃったよ。もよよです。
なんかこうめちゃくちゃズルいな……みたいな感じが(自作品なのに)未だ抜けなくてこの作品に関しては反応がとっても怖いです。純粋に楽しんでほしいです。はい。

以下コメント返信です


・良い意味でひどい (2018/11/26(月) 12:08)
いやもう仰る通りだと思います。ほんと……ひどいですよね……。

・声出して笑いました (2018/11/30(金) 07:14)
ありがとうございます! 笑って頂けたならなによりです!

・今大会の中で一番ぶっ飛んでて面白いと思いました。そういうことをしていないのに、そういうことをまるでしているかのような妙なイヤラシさ…そういった背徳感のあるウブなドキドキを思い出すといいますか。とにもかくにもイタズラ心に富んだ面白い作品でした (2018/12/01(土) 11:58)
新ジャンル:健全官能小説、みたいな。ぶっ飛ぶならとことんぶっ飛んでやろうと覚悟を決めてぶっ飛んだら大気圏を越えてしまいました。

声を上げて笑いましたwww各ポケモンの魅力をこうも笑いに落としていくとはwww (2018/12/02(日) 11:52)
ありがとうございます! お察しの通り蜜壺の下りがやりたいってだけでヒメグマを選びました!

 みぞれ鍋も美味しいですが、とろろ汁も美味しいですよ。次はぜひ長芋でお願いします! (2018/12/02(日) 20:19)
次回作は集団長芋下ろし事件ですね!(3019年執筆予定) しかし痒み責め……なるほど……面白そうですね……!

正直、最初読んでて、まあ十中八九これに投票することはないなって思ってたんですけど。はちゃめちゃにふざけてるこの作品に貴重な投票券を使ってもいいのかと思うんですけど。悪魔が囁くんですよ。「文句なしに一番おもろいのはこれやろ?」悔しい…でも…投票しちゃう…!(ビクンビクン (2018/12/02(日) 23:34)
雄々しくそそり立つ巨大根を読者様の心にぶち込み、貴重な投票券を絶頂のままにへんなとこへ投げ入れられたようでなによりです。悔しかろ悔しかろ。

イイコトを期待して、裏切られたガブリアスに同情した。 (2018/12/02(日) 23:51)
ドンマイピュア童貞って感じですねほんと。でもサイコパスヒメグマ先輩に惚れる方もどうかと思うぞガブリアスくん。


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Last-modified: 2018-12-03 (月) 20:06:43
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