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隔離病棟の夏休み 五日目深夜 side ルキ

/隔離病棟の夏休み 五日目深夜 side ルキ

作者333氏


五日目深夜 闇



わたしは知っています。わたしに与えられた命は短いものだという事を。
わたしは、生まれた時からずっと病院の中にいます。
わたしの病気は人に移るので、病院から出ることはできません。それどころか、一つの部屋から、出ることができません。
わたしは、なぜ生きているのでしょう。その理由を考えても、分かりません。
わたしは、その理由をある本で読みました。
その本の中で、主人公の少年は言いました。
「僕達は 大人になって この世界に尽くすために 今を生きているんだよ」
そうです。わたしも、その通りだと思います。
でも、わたしはどうなのでしょう。
自分でも分かっています。わたしは、きっと大人になるまで生きられません。
もしも大人になっても、世界に尽くすことはできません。
では、わたしはなんのために生きているのでしょう。



…わたしの看護をしてくれる、アスという友達がいます。
アスはとても優しくて、いつでもわたしの事を思ってくれる友達です。
わたしは、アスが大好きです。
アスは、わたしが生きていることには意味がある、と言ってくれました。
わたしは、とても嬉しかった…
でも、やっぱり…
わたしには、わたしが生きている意味が分かりません。



わたしは知っています。わたしは近いうちに
死ぬという事を…
わたしは、また別のある本で、読みました。
死んだらその先、どうなるのかを…
いろいろな本で、それを読みました。
ある本では
死んだ者は蘇生し、新たな命となる
と書いてありました。
別な本には
死んだ者は皆、星になる
と書いてありました。



どれも、物語です。



全て、架空のものです。



では死んだらどうなるのでしょう。
わたしには分かりません。
ただ知っているのは
わたしにはその死が近づいているということです。



わたしはよく夢を見ます。
わたしは真っ暗なところを走っています。
それは生きているという事です。
先が見えないところを走っている。それが生きるということです。
後ろから、迫っています。
『死』が
わたしは、死に追われています。
そして、追いつかれようとしています。



わたしには分かっています。
だんだん、死がわたしに近づいているという事を…
わたしは感じています。



わたしの病気が、だんだん進んでいるということを…



わたしの腕が、少しずつ動かなくなっています。
わたしの足も、だんだん上手に歩けなくなってきています。
わたしの体は、だんだん弱ってきています。
一ヶ月前にできたことが、今、できません。
そしてこれからも…今できることが、できなくなっていくでしょう。



わたしは暗闇を走っている…
そして、後ろからは死が追ってきます。
どんなに走っても、だんだん死との距離が縮まっていきます。
少しずつ、追いつかれていきます。
走らなければなりません。
走らなければ、追いつかれてしまいます。



でも、なぜ走っているのでしょう。
何も無いところを走っているのに、走る意味はあるのでしょうか。
先に何も無いのに、走る意味はあるのでしょうか。
死に追いつかれるまでの間に、生きている意味があるとは思えません。



わたしは疲れて、走るのをやめたくなりました。
走っている意味なんて無い。
走ったところで、ただの一時しのぎとなるだけです。
わたしはとうとう、暗闇の中で立ち止まりました。
疲れて、しゃがみこみました。
後ろから死が迫っていることは分かっています。
でも、逃げる気もありません。
もう、追いつかれても構わない。なぜなら、走ろうと、止まろうと、いつかは追いつかれるから。ただ、死までの時間が短いかどうか、だけです。
でも、やっぱり怖い…
後ろを向いても、いつ追いついてくるか分かりません。
しかし、どうすることもできません。
どんなに走っても逃げ切ることはできません。
隠れる場所もありません。
ただ、追いつかれるだけです。
わたしは怯えながら、死が来るのを待ちます。
追いつかれるのを、待つだけです。



そんな風に言っているけど、
怖いです。
助けて欲しいです。
死にたくない。
生きていても意味は無いけれど、でも、ただ死を待つのも嫌…
わたしは一体どうすればいい?
どうすることも出来ない。
死ぬのを待つばかり…
わたしにある道は一つ…
「意味も無く生きて、死ぬのを待つ…」
それだけ…



わたしはしっています。もう、自分の死期が近いという事を…
でも、
逃げたい…
助けて欲しい…
誰か…
わたしを…………




「………うぅっ…」
わたしは、目が覚めた。
ここは病院の、わたしの部屋。



…また、夢を見た…
死が迫ってくる、怖い夢…
夢の中で、わたしはいつも、走ることをやめる。
なぜだろう…
それが、わたしの本音なのかな…もう諦めたい…。



…ううん…
そんな事は思っていない。
わたしは諦めようだなんて思っていない。
だって、わたしにはアスがいるから…。



だけど…なぜわたしはいつも立ち止まるの…
分からない…
自分の、本当の気持ちが分からない…。



今日、わたしは、走るのを止めたいことをアスにぶちまけた…。
するとアスは…わたしの存在は、自分が思っているよりも、大事だと告げた。
わたしはとても嬉しかった。そのとき、生きているということを初めて実感した。
だけど…やっぱり恐怖からは逃げられない。



うぅ…
頭が痛い…吐き気がする…手が震える…
…わたしは目を開いた。
目の前に、アスがいた。
アスはわたしの目の前で、わたしのベッドに寄りかかって眠っていた。
…わたしは、アスの寝顔を見ている…。
なんか、アスの寝顔を見ていると落ち着く…。
なんか、『母性本能をくすぐられる』ってこういう事を言うのかな。ついつい見入ってしまう。




一時間くらい…長い間アスの寝顔を見ていたら、アスがびくんとして、目を開けた。起きちゃったみたい。
アスはわたしが、アスの寝顔を見ていることに気づいた。
「………! ルキ、起きてたの?」
わたしはちょっとびっくりしたけど、気持ちを落ち着かせた。
「うん…あんまり眠れなくって…」
自分でも、自分の声が弱弱しいと思っている。なんだかお腹に力が入らない。
「…ルキ、具合悪いの?」
アスは、わたしを心配してくれた。嬉しい…
わたしは、頭が痛くて、気持ち悪くて、アスに包み隠さず自分の状態を伝えた。
「…うん。あんまり、よくない…。鎮痛剤のおかげで、ちょっとは良くなったけど…」
「そう…」
アスはどうすればいいか分からなくて困っている。
わたし自身も、どうすれば苦痛が和らぐか分からない。
薬の副作用はどうにもならない。
でも、苦しいのはそれだけじゃない。心が落ち着かない。怖くて、不安で…
アスが言った。
「ルキ、何か僕にできることない? ほしい物とか…何かしてほしいとか…できることなら、僕、何でもやるよ。」
…わたしの中には、一つの欲があった。わたしは、その欲を満たしたかった。
『アスともっともっと近づきたい』
『アスと、誰よりも近い存在になりたい』
わたしは、どうしても、もっともっとアスに近づきたかった。
わたしの一生は短い。そのうちに、せめて一つのお願いくらいは…アスに甘えたって…
「何でも?」
「うん。」
アスはぽかんとした表情。だけどわたしは恥ずかしくて、何がしたいか、自分の口ではっきりいう事ができなかった。
「ルキ、何か、ある? 僕にできること…」
「…………………」
思い切って口に出せない。
「?」
アスが困っている。
「…………………」
でもいえない…
「遠慮しないでいいよ。」
「…………………。」
わたしは勇気を振り絞って、それを口に出した。
「? え、何?」
聞き取れなかったみたい。もうすこし大きい声で…
「…………ぃ……。」
やっぱり聞こえないみたい。
「? な、何恥ずかしがってるの? 僕に頼みづらいこと? なら、看護婦さん呼んで来る?」
ダメ…看護婦さんじゃないの…アス、あなたじゃなきゃダメ……
わたしは首を振った。
「? …じゃぁ…何?」
「……。」
わたしはアスに手招きした。
「?」
アスが近づいてくれた。わたしは、声を振り絞った。
「……添い寝してほしい……」




「―――――――!!!!」
アスは目を丸くした。
わたしは急に冷めた。冷静に考えてみると、なんてバカな頼みをしてしまったんだろう…と思う。
「添い寝!!?」
「…あ、い、いや、やっぱりいい!!」
わたしはむちゃくちゃになってアスに言った。
「ご、ごめん、変な事頼んじゃって…そ、そうだよね、添い寝なんて頼まないよね普通…あはは…どうかしてるのかな、わたし…ご、ごめんね、いいの。ちょっと寝ぼけてるみたい。や、やっぱりもう眠るね。」
わたしは恥ずかしくて、アスに背を向けた。
「ル、ルキ…」
「い、いいの。気にしないで。」
わたしは布団を頭から被った。
恥ずかしくてたまらない。もう、消えちゃいたい気分…
それと同時に、なんだかとっても悲しい気持ちになった。
わたしの願い事は我侭だった。やっぱり…わたしはわがままなんていえる身分じゃないんだ。いつもアスに迷惑かけて…そんなことお願いするなんてないよね…。
「……………ルキ、ねぇ…」
アスの呼びかけを無視して眠っているふりをした。
「………………。」
「………ルキ…僕、どんなお願い事でも、真面目に答えるつもりだよ。」
えっ…
「………………。」
わたしは布団から顔を出した。アスはちょっと顔を赤くして、でも真面目に言った。
「いいよ。添い寝しても。」




わたしが黙ってスペースを空けると、アスはわたしのベッドに入った。
アスは顔を赤くして、恥ずかしそうに仰向けに眠っている。
「…アス、こっちむいて。」
わたしは思い切って、アスに言った。もっとアスに近づきたかったから…
アスはわたしのほうを向いた。アスと向かい合う。
アスのことをこんな近くから見るのは初めてだった。
同じ布団でアスと一緒に眠る。なんだか不思議な気分。
わたしがアスをじっと見つめて、アスがわたしを見つめている…。



アスの顔を眺めると、優しい瞳はやっぱり素敵。ちょっと恥ずかしがって赤くなってるのにもドキドキする。
「ねぇ、アス…」
わたしは言った。
「ねぇ、もっと寄ってよ。」
「えっ……」
アスがためらっている。
わたしはアスの腕をつかんで引っ張り寄せようとした。でもわたしの腕ではアスを引っ張ることしかできない。
それでも、わたしはアスの腕を必死に引っ張った。アスは、わたしに近寄ってくれた。もっとアスとの距離が縮まる。
「アス…」
「ん?」
「……なんでもない。」
わたしはなんにも言わずに、アスとじっと見つめ合っていた。



「アス…」
「…何?」
わたしは、さっきから言いたかったことをアスに告げようと思った。
「アス…ごめんね…」
「何が?」
「…さっき…あんな事言って…」
「?」
「…『死んだほうがまし』なんて言って…」
「あ…」
「ごめんね…わたし…苦しくて…逃げたくなるの……ごめんね、わたし…弱虫なのかな…」
走るのを止めたくなるわたし…本当に、弱虫。わたしは本当に自分が嫌になる。
アスが、わたしの肩をやさしくつかんだ。
「ルキ…いいんだよ。逃げたくなったら逃げてもいいんだよ…僕…少しでも…ルキを守ってあげるから…。でもね…どんなに逃げたくなっても……もしも先に道がなくても……死んだほうがましなんてことはないよ…。そこからだけは…逃げちゃダメだよ…。ルキ、約束して。辛くなったら僕に言って。僕にやつあたりしてもいいから。でも、『死んだほうがまし』なんて、もう絶対に言わないで。」
わたしは、その言葉が嬉しくて、涙が出た。
「……………………うん。」
わたしはもう一度、言った。
「…………………うん、もう、そんな事言わない…だって…わたし…」
「ん?」
「…………わたし、いま幸せだから………。」
わたしは今、本当に…幸せ。
わたしは嬉しくて、アスに擦り寄った。アスの体に抱きつく。
「―――――――――!!!!」
アスがびっくりしている。
わたしとアスと、体がぴったりくっついている。
アスのコウラは硬かったけど、なんだか、とっても温かくて、その中に包まれているととっても安心した。
わたしは嬉しくて、やっと安心できるところに来れたようで、胸の鼓動が止まらなかった。
嬉しい。もっと、アスの近くにいたい。安心する場所を求めたい。
アスが、わたしの背中に手を回した。わたしもそれに返そうとするけど、わたしの手は自由に動かず、アスにしがみつくことしかできない。
わたしは、もっとアスの近くにいたかった。何の邪魔もない場所で…
わたしは布団を引っ張り上げて、アスと一緒に布団に潜った。
なんだか興奮する…アスを初めて♂として、見たような気がする。…というより、わたしの♀の本能が目覚めた…というか…
興奮が抑えられない。胸の鼓動がどんどん激しくなって、息が荒くなってくる。ふとんの中も、どんどん暑くなっていく。
二人っきりの布団の中。
………………はぁ……………はぁ………………
わたしの息が荒くなっている。アスの息も。心拍数がどんどん上がっている。興奮が抑えきれない。
わたしはだんだん、理性を失い始めていた。
アスが愛しい。アスに守ってもらえると、何よりも安心する。アスと一緒にいたい…。
暑い…こんなに暑いのは初めて…わたしと密着するアスの体も熱い…息が苦しい…これ以上…布団に潜っていられない…



「ぷはぁっ!」
我慢できなくなって二人で布団をはいだ。
外気が冷たく感じる。そんなに中は暑かったんだ。
アスの顔を見ると、アスは暑さのあまり顔を真っ赤にしていた。そういうわたしも、暑くて顔が真っ赤。
「はぁ…はぁ…」
「ふぅ……」
空気が新鮮に感じる。布団の中で、二人で酸欠になりかけていたみたい。
「…アス、苦しかったね…」
「うん…」
アスも、息苦しかったみたいだ。
「でもね、」
「?」
「わたし、とっても幸せだった。アスと一緒にいられて……ねぇ、アス、一晩中…一緒にいてくれる?」
「う、うん…。」
わたしは、一晩中でもアスと一緒にいたかった。



わたしは夢を見た。
なんだかとってもあたたかいものに包まれて、わたしは安らかに眠っている。
もう追ってくる死を恐れる必要は無い。逃げる必要も無い。ただ、母親のお腹の中の胎児のように、守られて、眠っていればいい。
それが、わたしの生きる意味…わたしにできることだから。

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代理更新しました。 -- 火炎狐@学校行く前に神速更新、ついでに1はいたd(ry (2007-11-28 08:14:50)


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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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