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陽と月の古本店特別編2 クリスマスコンツェルト

/陽と月の古本店特別編2 クリスマスコンツェルト

writer is 双牙連刃

何か季節イベントがあると筆を取りたくなる私です。沖宮古本店のクリスマス、お楽しみ頂けましたら幸いです……。



 町は煌びやかな装飾に包まれ、道行く人々はこの日を大いに祝い、カップルは手を繋ぎ、子供達は夜中にトナカイに乗って現れるとされる赤い服を来たナイスミドルに自分の夢と願いを祈る。……古びた古本店には似合わない煌びやかな季節、クリスマス。そう、独身でありこの店の店主になる程いい歳の俺には無縁の季節がやってきた。筈だったんだが……。

「ふんふんふんふんふん、ふふふんふんふんふんふーんっと」

 またジングルベルなんてベタな鼻歌を歌いながら、月夜は橙虎の首元にクリスマスリースをあしらった飾りを付けている。モミの木の本格クリスマスツリーが欲しいなんてトンデモ要望を却下する為の妥協点として買わされた物の一つである……。
 にしてもそんな飾りもそうだが、ポケモン用のサンタ衣装なんかが売り出されてるのを見つけた時には驚かされた。お陰でツリーを諦めさせる為の出費を増やされたんだから、なかなかに手痛い驚きだったよ。

「よし、これでいいだろう」
『あはは、こんな服とか首飾りなんて付けた事無いからちょっと変な感じだね』
「変ではないさ、似合っているよ。なぁ陽平?」
「あぁ、どうなるかと思ったけど、良いじゃないか」

 ウインディクリスマスエディション、ならぬサンタ帽を頭に乗せてサンタ服の上着を羽織った橙虎が完成した。うん、純粋な感想としてなかなか可愛い部類に入るんじゃないか?
 橙虎としても、俺達からの好評に喜んでるし、安くはなかったが悪くない買い物だったとしておこうか。
 
「うむうむ。それならば私も、と」

 今度は月夜がクリスマス装備に着替えていく。と言っても、こっちは橙虎と違いミュウツーだし、基本的に人用に作られているサンタ服上着は苦も無く袖を通され前のボタンが留められる。ほう、これはこれでまた似合うものだな。

「これでよし。おかしな所は無いだろうか?」
「上着着ただけでおかしな所があるかも何も無いとは思うが、良いんじゃないか」
「うむ! さてさて、私と橙虎の用意はこれでいいとして、そろそろ部屋の方も飾り付けるか。陽平、料理の方はどうだい?」
「あぁ、味付けが必要な物はもう浸けて用意してるし、焼けば終わりだ。後はデリバリー待ちくらいだな」

 ま、何の用意かと言うとだ、所謂クリスマスパーティと言う奴を開く事になってるんだ。俺達だけでじゃなくて、この店の常連を二人ほど招いてのな。
 人の頭数としては二人、だが料理は確実にそれ以上が満足出来るものを用意しなきゃならないから、朝からせっせと俺は台所で下拵えを進めていたんだよ。ポケモンも合わせたら、ちょっとやそっとの料理じゃあっという間に平らげられるだろうからな。
 それで、滅多に使わないデリバリーなんかまで使ったんだが、慣れてないと注文するのもややこしいもんだと思い知らされた。ピザ1枚頼むのにサイズや具材に生地の食感まで選べるとは……サービスが充実してるもんだなと感心したぞ。
 ともあれ、それも含めればまぁ恐らく大丈夫だろうと思う料理が揃うから、今は休憩中だ。今日は店の方も、開けてても客は来ないだろうから休みにしてる。毎年来るとしても、クリスマスを孤独……いや、孤高に過ごすと誓った戦士達が、束の間の同士との出会いを求めて来るだけだからな。間違ってもこの店にカップルや親子連れが来る事なんて無いし。

「よし、それならば……飾り付けも一気にやってしまうか!」

 月夜がそう言って張り切り始めると、念力を発動したのか部屋の飾り付け用に買わされたオーナメントやモールが次々に部屋を彩っていく。折角のパーティだ、雰囲気作りはしておいて然りだろうとこれは俺も納得しての出費だな。
 しっかし強力なエスパータイプって言うのは便利なものだ。本来なら手間や人数が要るであろう部屋の飾り付けも、飾り自体がまるで意思を持って飾られていくように進んでいく。見る見る内に、我が古本店の住居スペースであるこの二階も、クリスマス仕様と相成った。月夜自身が楽しみにしているだけあって、なんでもサクサク進むのは楽だな。

『わぁぁ……!』
「うん、飾りがあるだけでなかなか様変わりするもんだな」
「うむ! これならば皆、雰囲気も楽しめるだろう」

 何より今楽しんでるのは月夜と橙虎だがな。橙虎なんか目を輝かせて喜んでる。月夜は飾り付けた当事者だからか、飾り付けじゃなく喜んでる橙虎に喜んでるみたいだな。
 っと、着信だ。ははっ、お仕事完了今から向かいますって、そんなに急がなくてもいいんだけどな。もう一件は……なるほど、あの人は少し遅れて来ると。けどポケモン達の方が楽しみにしてるらしく、必ず行くって連絡だった。開店したばかりだけど人気は出てきたらしいし、忙しくしてるみたいだな。

「ん? どうかしたのかい?」
「あぁ、二人から連絡だ。どっちも来るのは変わらないけど、一人は少し遅れて来るとさ」

 月夜もどっちが遅れて来るのかは察したのか、それは仕方ないなと納得した。ま、何時来ても良いように、そろそろ準備の仕上げに入るとするか。



「済まない、遅くなってしまった」
「いえいえ、ご多忙なようですし仕方ないと皆で言ってたところですよ」
「あぁ、杵柄で家電や機械類の修理店を始めてみたんだが、ここまで繁盛してしまうのは予想外だったよ」

 遅れていたバトウさん、もといアカギさんも合流して二階に上がる。この町で第2のスタートを切るのに成功して、最初に店で知り合った時や行き倒れてた時より表情は明るくなったようで何よりだよ。

「あ、アカギさん! いらっしゃいませ!」
「うむ、これで揃ったな」
『全く、馳走を前に待たされるとは思わなんだ。ほら、早くこっちへ来い。宴を始めるぞ』

 ……なんか増えてる。月夜からアカギさんが来たのを知らされて店の前に迎えに行く前には居なかった奴が一人、いや1匹増えてる。何故居るギラティナよ。
 事情を聞いたところ、俺達がクリスマスパーティを企画してるのを耳聡く鏡の向こうから聞いていたらしく、そんな宴をするならわしも混ぜろと鏡からニュルっと出てきたそうだ。いやまぁ酒盛りまでした仲だし、もう一人の来客である実里さんも知らないポケモンじゃないって事でそのまま居させる事にした。サイズも部屋に合わせた大きさにしてるみたいだしな。
 アカギさんも手持ちのポケモンを出すとかなり、というかギャラドスに至っては流石に室内サイズじゃないから窓の外から参加してもらう事になるが、手狭ながらなんとか全員が室内に収まった。窓は開いてるが、何やら月夜とギラティナが協力して家の周りを念なんかで包んでいるらしく、外気の冷たさは感じないし防音もしてくれてるそうだ。
 これで全ての準備は終了。後は始めるだけとなって、何故か俺が音頭取りをやらされる事になる。まぁ、そう堅い事は言わんでもいいだろう。

「ま、まぁ予期せぬ珍客も居るが……こうしてこの店の縁で知り合った面々が揃う事が出来ましたし、今日は楽しみましょう。乾杯!」

 皆の乾杯! の一言で賑やかなパーティは始まった。用意された料理には次々と手が伸び、それが困難なポケモンには手分けして取り分けてそれぞれが舌鼓を打ち始める。うん、俺の手製の唐揚げなんかも好評なようで一安心だ。
 唐揚げを1つ口に放り込み、アカギさんチョイスのワインと共に喉に通す。うん、美味い。ワインなんて普段は飲まないが、なかなか悪くない。

「あ、このワイン美味しい!」
「そうかい? お気に召して頂けたのなら何よりだよ」
「ふむふむ、これがワインか。ビールや発泡酒とはまた違うが、これはこれでいいな」
「美味いからって飲み過ぎるなよ? しっかりアルコールは入ってるんだからな」
『何を言う陽平よ。酒宴で酒を飲まんなぞ損以外の何者でも無し、大いに飲め飲め!』

 飲んだくれかこの神。この前の酒盛りの時もそうだったが、ギラティナは俺と同レベル並に酔わないらしいし、度が過ぎない程度にして頂けると有り難いんだがな。
 まぁ、今日くらいは酔い潰れても目を瞑ってやるかと心の中で思いつつ、また食事を楽しむのに戻ろう。各々楽しんでるのにあまり水を差してやるのも空気読まずになる事だし。
 それからしばらく、飲み食い歓談は続いた。んだが、何やら異変が起こっているのに気付いた。いや、気付いたというか気付かされた。唐突な橙虎からのスキンシップによってな。

『よ〜へ〜! にへへへ〜』
「ん? 橙虎どうし……とぅお?!」
『ん〜、大好き〜♪』

 いきなりのしっとのしかかられて、前脚で挟まれたかと思ったら頬擦りをされてる。お、重っ! いや押し倒されてないって事は加減はされてるらしい。だが急に一体どうしたんだ?

『うぉぉぉー! 実里、何があっても俺が守ってやるからなー!』
「うわぁ!? ら、ライどうしたの!?」
『アカギさまぁ〜、撫でてくださぁーい』
「な、こ、これは?」
『お前達!? 一体どうしたんだ、というかアカギ様が困惑しているから離れろ!』

 雷星もアカギさんのポケモン達も様子がおかしい。ん? 橙虎から感じるこの香りは……アルコール? いやまさか。月夜とギラティナ、後飲んだ事のあるアカギさんのマニューラ以外のポケモンにはソフトドリンク以外は飲ませてなかった筈。なんだが、確実にアルコール臭がする。まさか……飲んだのか?
 不意に窓の先に居るギャラドスと目が合った。良かった、どうやらギャラドスは様子が変わってないようだ。が、何やら俺に視線で何かを訴えてる。ギャラドスのジト目の先に目をやると、露骨に視線を逸らした飲んだくれポケモン2匹が居た。こいつ等、ひょっとして……。

「お前等、何故俺から視線を逸らす?」
「い、いやーその……」
『し、知らんし? 私はこの状況とは関係無いし?』

 ギルティ、犯人はこいつ等か。
 手近にあったフォークを二つ握り、動けないので目に力を込めて自白を促す。

「吐け。でなければこのフォークがお前達の脳天をぶち抜く……」
「怖っ!? い、いや待て陽平! 私は無実だ! 悪いのはギラティナで!」
『んなっ!? 待て待て、最初に少しくらいと言ってウインディや他のポケモンに酒を振る舞ったのはお主だろう!』
「私は少量ならと飲ませただけだ! それを良い飲みっぷりだと調子に乗って次から次に飲ませたのはそっちで!」
『お主だって途中からこんな楽しい席ならいいだろうと言って勧めていたではないか!』

 よし、言質は取れた。こいつ等2匹が他のポケモンを焚き付け飲ませ、酒を飲み慣れていないポケモン達が悪酔いをした、と。筋書きはどうやらそうみたいだな。告発してくれたギャラドスには後で鳥の半身揚げを提供してやろう。
 どっちが悪いと言い争う2匹の阿呆を黙らせる為に、手近にあった串カツ二本を掴み奴等の口に放り込んでやった。結論、両者成敗対象だ。

「むぐっ!?」
『もがぁっ!?』
「とりあえずお前等は反省をしろ。そして喜べ、このパーティが終わったら俺が直々に監視してる中で全ての後片付けをさせてやる。無論念力なんかの能力無しでな」

 2匹揃ってショックを受けているようだ。実際は能力的に敵わない俺からの咎めでショックを受ける辺り、どうやらこいつ等も割とアルコールの魔力にやられてるみたいだな。ま、反省するなら懲罰はこの程度でいいだろう。

『もぉ〜、もっと僕の事見てよぉよ〜へ〜』
「わ、分かった分かった。分かったからちょっと落ち着こうな橙虎」

 これは、実里さんもアカギさんもしばらくは悪酔いしたパートナー達の相手が忙しそうだな。まぁ、酔ってこうなってるなら時期に眠るだろうし、それまでは付き合うしかないか。



 ポケモン達も寝静まり、時刻は夜10時を回った。この調子じゃ、今日は全員泊まっていく事になりそうだ。ま、実里さんもアカギさんもそのつもりだったのか、明日はどっちも休みを取ってるらしいから心配無いそうだよ。

「でも驚いちゃいましたよ。ライがあんなに私の事心配してくれてたとは思わなかったです」
「私もだ。甘えたい、と言うのだろうか? ヘルガーやドンカラス達が私にああいった要望を抱いているとは思っていなかった」
『申し訳ありません、後で皆にはきつく言って……』
「いや、その必要は無い。私も反省すべきだからな」

 実里さんもアカギさんも、それぞれに今まで見られなかったポケモン達の一面に触れられて満更でもないようだ。俺も、橙虎がもっと甘えたがってるって分かったし、ある意味怪我の功名かもだ。

「あ、あのー、それじゃあ私達も無罪になったり……」
「それは無い。後片付けの罰はしっかり執行するからな」
『か、神をこき使っちゃいけないんだぞー!』
「神だと名乗るならば、節度は守って頂きたいものだな」
「飲酒の強要は強要罪、更に酔い潰してしまった場合は過失傷害罪に該当します。人だったら普通に逮捕案件ですよ」

 人3人からの咎めに小さくなっていく、恐らく最強クラスのポケモン2匹。やらかしてしまった以上、強くは出られないのを理解はしてるみたいだな。
 なんにせよ、まぁ楽しめたな。こうして一騒ぎあった後に落ち着いて飲むのも悪くない。
 不意に、半身揚げを嬉々として食べていたギャラドスに呼ばれた。何かと思って窓際に行ってみると、空から白い綿雪が降り始めていた。そう言えば天気予報で降るかもしれない、みたいな事を言ってたっけな。

「ほぉ……」
「わぁ! ホワイトクリスマスですね!」
「それには少し降りが弱い気もしますけど、良いですね」
『これは……屋根上で二次会、雪見酒だな』
『まだ飲む気なのか? まぁ、アカギ様や皆で行くなら、私も付き合いますが』
「折角の集まりなんだし、どうする陽平?」

 皆の顔を見ると、どうやら乗り気らしい。なら、答えは一つだな。

「羽目を外し過ぎない程度に、楽しむとしますか」

 眠ってるポケモン達には悪いが、俺達の聖夜の飲み会はまだまだ続きそうだ。けど、どうせ一年に一度しかないクリスマスだ。盛大に、楽しむとするか。



後書き〜

陽月古本店、クリスマスショートストーリーは如何でしたでしょうか。正月の特別編を書いた時からクリスマスにもと計画してはいたのですが、なかなかリアル生活がががが……。
と、とにかく、これからも陽月メンバーのストーリーにお付き合い頂ければ何よりです。ここまでお読み下さり、ありがとうございます!

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Last-modified: 2017-12-25 (月) 08:42:56
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