writer is 双牙連刃
新年明けましておめでとうございます。ご無沙汰していたダメ作者にございます。
2017年一発目の投下と言う事で、陽月古本店の正月をお送りしたい所存です。短いお話ですが、お楽しみ頂けましたら幸いです……。
のんびりとした空気の中、テレビには正月特番が流れ、それを聞き流しながら元旦の時間は流れていく。去年と変わらない、多少退屈を感じる元旦……だった筈なんだがな、今年も。
『ねぇ陽平、せっかくのお正月なんだから何処かお出掛けしたいなぁ』
「出掛けると言っても、元旦だしなぁ? 何処か行くにしても買い物は無いし、まだ暗いんだよなぁ」
「なら初詣はどうだい? 新年の定番なのだろう?」
「残念ながら俺は生まれてこのかた初詣なるものに行った事が無い。ごちゃごちゃ混み合ってる中を分け入って行くなんて苦労、正月からしたく無い」
とまぁこんな風に、暇を持て余したポケモン共2匹が駄々を捏ね始めているのだ。まぁ、昨日からやれ店前に僅かながらめでたい飾りをしたり御節を作ったりで家に缶詰だったから、ぐずり出すのも仕方ないかもしれない。臍を曲げる前に、何か良い落とし所を見つけないとならんかな。
「なら、初日の出を見に行くはどうだ? まだ日は出てないし、可能だろ」
「日の出、日の出ねぇ……」
確かに現在時刻は朝四時、行こうと思えば行ける。ぶっちゃけ窓から見えるのでも十分だしな。
「分かったしゃあない、付き合ってやるか」
『わーい!』
「それなら用意だ用意! 日が出てしまっては意味が無いからな!」
「はいはい。やれやれ……」
これくらいで上機嫌になるなら安いもんかもな。それじゃあ用意して……と思ったら立ち上がったと同時にジャケットや靴下が次々に飛んできた。どれだけワクワクしとるんだ全く。
あっさり用意は終わって、スニーカーに足を通した。多少歩くだろうし、外の気温を考えてもサンダルでって言う選択肢は除外した。
しかし日の出なんて何処から見るもんなんだ? 高いところ……なんか良いとこあったかな?
「よっと。よし、行くか」
「うむ! ほら橙虎、置いていってしまうぞ?」
『あぁ、待ってよ〜』
橙虎が駆け寄ってきて、いつものように月夜は俺の首に腕を巻く。で、階段を降り……ようと思ったらそこに階段は無かった。無かったと言うか、そもそも雲の上に居た。いや、何故?
「うむ、ここまで上がってしまえば天候など関係無いな」
「いや待て待て待て、何故? 何故いきなり空中?」
『ふわわわ、と、飛んでるよぉ……』
「仕方なかろう? 下はあの通り曇り空だ、何処に行こうと日の出なんて見れそうに無いだろ」
だからってなんの一言も言わずにテレポートするな! なんて抗議したらテヘペロで誤魔化そうとしたから腕にしっぺしてやった。何処で覚えたそんな仕草。
「い、いだい……」
「ポケモンの技に比べたら十分の1の威力も無いだろうが」
『あははは……で、でも凄く高い所に居るのに、あんまり寒くないんだね』
「薄く念を纏わせてるかな、寒さの心配は無いよ。無ければ、幾ら橙虎でも凍えてしまうだろうしな」
「そんな高度にパッと連れて来たりするなよ……」
不満を漏らす俺の事は眼中に無いようで、パタパタと足を動かして空中散歩を楽しむ橙虎と、それを面白そうに月夜は眺めている。全く、気楽なもんだよ。
そこで暫し待機。空は薄っすらオレンジ色になってきたから、もう少ししたら太陽が顔を出すだろうな。
「……考えようによっては、これ以上無いってくらい贅沢な所で初日の出が見れるとも考えられるか」
「ふむ。贅沢、とは言えるか疑問は残るがね? 金銭なんて一円一枚たりとも掛かっていないし」
「が、本来こんな場所に来るにはヘリなり飛行機が必要になる。一般市民にはそんなのは無理だとすると、こうしてここに居るだけで破格だろうさ」
「あぁ、なるほど」
『あ、明るくなって来たよ! ほら!』
来たばっかりの時は控えめで大人しかった橙虎も、こうしてはしゃげるようになったと思うと引き取って良かったと思うよなぁ。いやぁ良かった良かった。
お、橙虎の言う通りそろそろ日が顔を出しそうだ。折角だし、スマホだが写真でも撮っておくかな。
「よっ、と」
「ん? どうしたんだい?」
「折角だし、写真でも撮ってやろうかなと思ってな」
『あ、じゃあ僕も撮って欲しい! 写真なんて僕撮ってもらった事無いんだもん』
「そうだったのか。よし、ならまず日の出だけ撮ったら、一枚撮るか」
そこの、自分も一枚撮って欲しいからかもじもじし始めたミュウツーもな。分かり易い奴め……。
なんて話してたら、ついに太陽が顔を出した。これはまた……絶景だな。っと、撮らないとすぐ終わっちゃうな。
『わぁぁぁ……!』
「はぁ……美しいな……」
「初日の出って言ったら特別なように感じるけど、ようは夜明けなんだよ……なっと」
「陽平、このタイミングでその物言いは、夢がなさ過ぎると思うぞ?」
「わ、悪かったよ……よし。ほれ橙虎、撮られたい格好になりな」
『あ、う、うん!』
この辺の感性の違いは、ポケモンだからとかじゃなく性別的な問題だろうか? いや、俺も綺麗だと思わなかった訳じゃないぞ!
言い訳を考えてる場合じゃないな。橙虎は無事写真に収め終わって、月夜にも行くよう促す。おぉ、喜んでる喜んでる。
「……オーケーだ」
「うむ! なら次は君だ。ほらほら」
「え、いや俺は別に」
「いいから、ほら」
なんか済し崩しに俺も撮られる羽目に。撮れるのか? とも思ったが、月夜は特に迷う事無く俺を撮影した。いつの間に操作覚えたんだか?
「よぉし、最後だ。ここまで来たら全員で写らないとな」
「おいおいまだ撮るのかよ?」
「いいじゃないか、減るもんじゃないし」
『皆で一緒、だね! でも、入り切れるかな?』
「詰めれば大丈夫だろ。ほら陽平も橙虎も、私も入るんだからもっとくっ付いてくれ」
「お、おぅ」
厳密に言えばスマホの空き容量は減ってるんだが……まぁいいか。
なるべく橙虎に身を寄せるようにすると、スマホを構える月夜からOKサインが出た。で、スマホを空中に固定して月夜もこっちに来た。三脚要らずだな……まぁ、空中な時点で三脚なんてあっても意味を成さないけど。
「そら、カメラをしっかり見るんだぞー!」
「分かってるって」
『うん!』
パシャっと音がして、撮影された事が知らされる。ってかなんで俺を挟む2匹とも。頭くっ付いてる、くっ付いてるって。
「よしよし。なかなか良く撮れてるんじゃないか」
「どれどれ……なんだ、他のは良いけど、最後の写真は殆ど俺達しか写ってないじゃないか」
『でもでも、僕これが一番良いなぁ!』
「だろう? こんな時でもないと、集合写真なんて撮らないだろ?」
「まぁ、な」
俺だけ、少々引き攣った笑顔なのが気になるけどな。けどまぁ……悪くないか。
よし、やる事も終わったし戻るか。って言った途端に家に戻ってる。便利だけど、心臓に悪いな、テレポート。
「うむ! 満足満足」
「そりゃ良かったよ……」
『楽しかったね! けど僕、ちょっとお腹空いちゃったな……』
「そうだな。お節摘みながら、餅でも食うか」
「雑煮だな。よし、作ろう」
正月のやる事なんてそれくらいだしな。サクッと作りますか。
雑煮の汁は俺が担当して、月夜には餅を焼いてきてもらう事にした。室内で七輪を使うのは流石に不味いし。
と言う訳で調理開始。橙虎には待ってる間に食べれるよう、皿にお節を分けたから大丈夫だろう。
しかし調理とは言ったが、実は出汁を作ったりとかは終わってるから、温めて具材を入れるだけなんだけどな。で、味を整えれば……うん、良いだろう。餅が入るから、味はちょっと濃いめだな。
あら、振り返ったら橙虎が居ない? と思ったら月夜と一緒に現れた。どうしたんだ?
「何かあったか?」
「いや、炭に火を点けるのを橙虎に手伝ってもらったんだ。その方が俄然早いし」
「あぁ、なるほど」
『僕が手伝える事ならなんでもやるから、何時でも言ってね』
今なんでもって言ったか? なんて言うネタが頭を通って走り抜けていったが、まぁ無視しよう。この分だと餅もそう掛からずに焼けそうだし、汁が煮詰まらない程度に温めながら待つとするか。
それから10分くらいで餅は焼き上がったらしい。流石炭火焼き、良い色に焼き上がったもんだ。
「こんなもので大丈夫かな?」
「上等上等。軽く煮てから出すから、月夜もゆっくりしてろよ」
「了解だよ」
『お餅かぁ、聞いた事はあるけど食べた事は無いんだよね』
なら喉に詰まらせないように少しずつ食べるんだぞって念を押しておいた。詰まらせたら、最悪そのまま窒息なんて事もあるからな。
よし、あまり餅が溶けても違う物になるし、程良い所でお椀に移した。なかなか美味そうじゃないか。
「よし、出来たぞ」
『わーい!』
「ほら橙虎、さっき陽平が言ってた事には気を付けるんだよ?」
『うん。でも良い香り……頂きます』
ははっ、気に入って頂けたようで何よりだな。じゃ、俺達も食べるとするか。
我ながら良い味付けだ。塩辛過ぎず薄過ぎず、餅にも合ってるな。
『の、のぅいうー』
「だ、大丈夫か橙虎?」
『ん! だ、大丈夫大丈夫。予想より伸びて手古摺っただけ』
「むぅ、食べ易いように汁に入れる前に切っておけば良かったか」
「だな。橙虎が箸使えないのをもうちょい考慮しとくんだった」
『二人ともそんなに心配しなくて大丈夫だったら。ほ、ほら二人のも冷めちゃう前に食べてよ』
心配したら逆に橙虎に気を使わせる事になったか。いかんいかん、折角食事を楽しんでるのに水を差すのは悪いな。
……ん、ん? しまった、気を取られて少し一口が大きかった。ちょっ、餅が喉の途中で止まった。や、ヤバイ。
「ん、ぐ!?」
「ん? どうした陽平?」
「ぐ、ぐ!」
『ま、まさか、喉に詰まっちゃった!?』
橙虎正解! って指差してる場合じゃない。不味い、全然通っていかない。
「ちょっ、どうする!? 水!? 水か!?」
無理無理入らん入らん! って呑気に手を振ってる場合じゃない。不味い不味い、本格的に息が出来ん!
『どうしようどうしよう!? えっと、詰まってるお餅を取らないと!』
「餅を……そうか! 陽平、口を開けろ!」
く、苦し……口開けろって!? も、もう形振り構ってる場合じゃない、月夜に賭けるぞ!
えっ……月夜の口と俺の口が触れ、た? 更に月夜の手が俺の胸辺りに当てがわれる。な、何を……?
少しして、胸に閊えた物が口の方へずるっと動き始めた。うわ、なんか気持ち悪い感触。
そのままずるりと喉を抜けたそれは、俺の口から月夜の口へと移っていった……た、助かっ、た?
「ん、く……」
「ぷはっ! はあっ、はぁ……し、死ぬかと思った……」
『陽平! 大丈夫!?』
「な、なんとかな」
「はぁっ……あ、焦った……もう! 忠告をした君自身が詰まらせてどうするんだ全く!」
「面目無い……って! お前もなんでいきなり俺の唇奪ってんだ!」
「し、仕方ないだろ! 念で引っ張り出すにしても、餅を正確に動かさないと君の体内を傷付ける可能性があったんだから! 口から意識を送り込んでしっかり餅までの経路を確認するにはあれが一番早かったんだ!」
あー、口を直接繋ぐ事によって、俺の口を自分の体の延長みたいにする為にああいう事をしたらしい。えらい早口で捲し立てられたから、掻い摘んでの話になるけど。
言った側から月夜は赤くなって黙り込んだ。で、多分俺の顔も赤くなってるんだと思う。顔熱いし。
『あー……二人とも、大丈夫?』
「う、うん」
「あ、あぁ」
くそ、こんなので鼓動が早くなるとは……言わばあれは人工呼吸みたいなもんだろ。恥ずかしがる事なんて……いや人工呼吸でも恥ずかしいものは恥ずかしいな。いや、なんとか切り替えて行こう、うん。
「まぁ、えと、その……助かった」
「うんと、あの……助けられて、良かった」
『……とりあえず二人とも、お水飲んだら?」
うんって同時に言って、コップの水を喉の奥に通した。……月夜の唇、結構柔らかかったな……。
はっ! お、俺は何を考えてるんだ! 落ち着け落ち着け……ふぅぅ。
『えっと、明けまして、おめでとう?』
「いや橙虎、なぜそこで?」
『なんとなく言うべきかなと思って。明けましてって言うか……開けまして?』
何が開いたんだよ! これ、今年大丈夫なのか、俺? 俺って言うかなんと言うか、俺の中の何かよ。
後書き!
はい、拙い作品でしたが如何でしたでしょうか?
どさくさキスみたいのはいずれこの一人と一匹にはやらせようとは思って、思い切って月夜に頑張ってもらいました! 陽平の理性がグラッグラしておりますw
特別編とはしましたが、この話の出来事は今後にも影響していきます。
新年を迎えました陽月古本店、ゆっくりとした進行にはなりますが、これからもお付き合い頂けましたら幸いにございます……では、次回作まで、ご機嫌よう!
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