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鏡の刀

/鏡の刀

書いてたやつGALD

この世界には術と呼ばれるものがある。化学、物理など理系的な原理や定理などの常識としてある。
地球が回るというのは当たり前で、普遍の心理は存在している。誰も地球の回転を止めることはできない。
術とはある程度科学者達を驚かせることができるほどのことができる。
「目覚めよ!」
炎を出したりとか、何もないところから水がでたりとかそういう保存の法則を乱すことができる。
それには神器が必要であり、まず神器がないと話にはならない。もちろん、そのまま持っているだけでは何も意味はなさい。
神器の中に刻まれた存在と想いを交わすことで、守護として具現化できたりその宿る力を振るうことができる。
具体的な能力は仁義に依存してくると同じように、規模や力の大きさも神器しだいである。
「覚醒!」
しかし、能力がいかにすごかろうと、マッチ程度の火力しか出せなくとも仁義が答えなければただのお飾りである。
どれだけ切れ味がいい刀であろうと、どれだけ名声のある剣であろうと振り回すことしかできなければ飾っておくほうがましである。
応えない神器など高価な武器、博物館が一番のお似合いである。商業目的としても扱われることもあるが、誰しにも使えるわけでもないから買っても意味がないことが多い。
そのため、神器の能力自体がはっきりしないまま商売に出されることもよくある話で、詐欺も多い。
「応えろ!」
そして先程から叫ぶこの青年はとある一本の刀に語りかけていた。なんとか鞘から刀を抜くことはできたものの、その程度なら何人か成し得たことはある。
刀を抜くということは、単に神器との顔わせぐらいなもので、抜けさえしないということは自己紹介すらする気がないということである。
神器自体が青年と顔を合わすことは否定はしていない。ただ、知り合いのままが続いているのである。
刀身は光を受けた鋼には似合わないような鮮やかな青色。深いものではなく淡く、鏡のように青年の顔を写した。
水面のように波で揺れるように、妙な波紋が写る青年の顔を歪ませている。
確かにその刀にはなにか特殊なものが存在していると、怪奇な等身が物語っている。
この奇妙な刀が進展してくれないのは、青年が次への段階の鍵を手にしていないからである。
何かしらのきっかけを見つけることができていないのである。
青年はこの刀を渡された時から色々と試してきてはいる。火で炙るのは流石に刀の形状が心配でやめたが、水につけてみたり磨いてみたり。
ほかには毎日挨拶したり、日光に当て続けてみたり逆さ向けにして吊るしてみたりもした。
それらの苦労が報われてか、数日前に鞘から刀が抜けた時の感動を忘れるわけにはいかなかった。
何ヶ月も色々と試行錯誤を繰り返してきた。無駄なことの繰り返しもあってなれていたので、馬鹿げたことをするのに離れていた。
話しかけるのなんて返事が返ってこなくても成り立つものだと、変な錯覚さえ覚えていた。
滑らかな刀身をなでてみると、やはり金属のせいか冷たい。柄や鞘に不思議なことは普通のもので、刀身の不気味さを見るまでは青年もただのレプリカの刀だと思っていた。
息をしていない死んだような冷たさを持った刀。金属の冷たさは持ってはいるが、温めても金属のように熱を持つことはなかった。
お湯につけてみたり、日光に当て続けてみたりしてみたが熱を持つことはなくずっと死んでいるみたいな不思議な刀である。
電子レンジには流石に入らなかったので試していないし、ガスコンロのほうは刀身が溶けそうだったのでやめたのはつい先日である。
不気味な刀身をもう一度撫でると、水に触れたかのようにそこから波紋を起こした。
青年はそこで今晩は思い切って初めてベットに連れ込むことにした。初めての寝る相手が刀だというのは複雑な心境であった。
流石に鞘から出したままだと危ないので、鞘にはおさめてあるが一人用のベットでなんとも虚しい限りである。
向かい合っているのが呼吸さえもしない、生物ですらないというもので流石に今回ばかりは虚しく感じた。
いつもなら何もをしても刀だから仕方がないとため息を吐き捨てるのだが、今回は向かい合っても返事がない上に顔色すら変わらない相手ときたものだから雰囲気を壊すにも程があった。
そっとなでると、ほんのりと冷たくやはり生きているものの体温ではなかった。何の反応もなく、大人しく鞘の中で黙っている。
わかってはいても、冷たいやつだと諦められずに青年も冷たく接してしまう。
こんな抱き寄せたらこちらまで冷え込んでしまいそうだと、青年はすこし距離を置いて意識を消した、まるで後一歩踏み込めない距離をおいて。
それからもう一度電源が入ると青年は見慣れない土地に立っていた。目を疑った理由は、知らない土地に立たされていたことよりもあまり綺麗な景色に驚かされた方である。
大きな湖の周りに木が並んでいるとシンプルなものであるが、中央の湖は透き通っていて頑張れば底が見えそうなぐらいに透き通っていた。
綺麗な水面を割るかのように、鏡に波紋を走らせるものが湖を駆けている。
さらさらした鮮やかな紫の髪の毛をなびかせている。さらに額には紫水晶のように大きなクリスタルを取り付けている。
尻尾と髪の毛を風になびかせたように、ふよふよと漂わせている。
尻尾を二本なびかせてはいるが、何故か正面に向かって伸びている。水色の肌に白色の斑点模様が洒落ている。瞳は赤色と幻想的な生き物である。
神器にふさわしい幻獣といったところである。青年はどうしようかと、湖という横に広がる壁に阻まれて眺めていた。
それを向こう側が感づいていたのか、水の上を跳ねながらこちらに接近してくる。軽やかにしっとりとした足取りで、優雅に水面を飛び跳ねた。
「あら、珍しいじゃない。というよりも初めてかしら?」
「えっ、あっ、はい、初めまして。」
「そういうのじゃなくて、人間さん?初めて見るのよねー。へぇー貴方がそう……悪くないじゃない。」
青年のほうは珍しいと思っていたが、それはお互い様のようで相手も珍しがっている。
大人のような鋭さを持った赤い眼光が、今では無邪気な紅の目にって見えていた。
物珍しいように見られると青年としてもやりにくいのだが、そこまで幻獣は察してはくれない。
「それで?ここに来たってことは、そういうことなの?」
質問の意味がよくわからなかった。そういうとか抽象的なことをは互が意思疎通を成し得ている時にしか通じない。
先に進めない気がして、適当に肯定して先の段階へ移るしかなかった。
「協力してもらえるのか?」
「それはもちろん。」
素直だった、子供のように声が高くないのに子供のような反応だった。似合わないといえば失礼かもしれないが、青年にはギャップが重い。
苦笑いというか、引きつった顔をどことなくしてしまっていた。
「どうやって呼び出せるんだ?」
青年は何も考えなかった。力が欲しいとか、そんな単純な目的があるわけでなければ何かしたいわけでもない。
守護の具現化の先に何かがあるわけでもないのに、ただ濁りのない水のように。
「ウェーラレア、私の名前よ。貴方は描くだけ、書くんじゃないわ。そ……じゃ……」
青年もなにか言おうとした、けれどそれは発せられなかった。さきほどまで目を開いて、はっきりととらえていた光景が霞んだ。
時間切れというやつなのか、夢というものは虚ろなのか感動の対面はここで終わりだった。
目覚めると刀を抱き寄せて寝ているだけだった。抱き枕にしては物騒なものに安心感を得てしまったものだと目をこすった。
わずかに冷気を放っているかのようにかすかに冷たく、早朝の風をかすかに感じているような気分だった。
冷たさで冴えてきた頭は過去にあること再生しだし、不意に刀を抜かせた。
波紋が広がる。何かが刀の表面に立っているかのように、波を立てる。漏れ出す冷気が顔を撫でる。
「描け、ウェーラレア。」
自然と無意識に口にした。刀が水を吹き出すかのように、水しぶきを吹き出した。刀身が水に溶け出して飛び散っていく。
空気中にある水滴が収束して形を創りだす頃には手には何も握っていなかった。
鉄が蒸発するなんてありえないことが当たり前になるのが神器なのである。
いつのまにか片手が拳に変わっていた。ベットの横に水面に立っていたあの姿が具現化している。
「ハロー。あぁ、そういえばお名前は?」
わっといずゆあーねーむなどとカタコトに話しかけてくる。鮮やかな赤を背景に自分の姿が反射する。
青年は名乗り忘れていた事を誤って名前を教えた。水円、そう青年は名乗った。
「お前はウェーラでいいか、長いし。」
「悪くないじゃない、まぁ貴方が私の持ち主だし。それに、私と一生を共にすると誓った相手だし。」
冷ややかな風が体を冷ましたのか、凍りつくような冷たさが硬直させた。
「だって昨晩抱いてくれたじゃない。」
下手に顔を赤くして左右に降って、恥ずかしいーとでも叫びたいのだろう。笑顔になっているのを見逃すわけにはいかない青年は体を越したままだった。
確かに抱き寄せてはねたが、そういうことに及んではもちろんいないしそもそも刀相手に何をしようというのか。
鞘にも確かに穴はあるが、収まるものは刀なわけで青年はそこまで異常な性癖を持ち合わせてはいない。
そもそも言い出せば、幻獣に手を出すほど持て余してなどはいなくて、むしろ刀に夢中でそういった感覚をどこかに忘れていた。
意味生物的には大きな部分をなくしてはいたが、余計なことを思い出させてくれたと青年は鞘に戻したくなってきたのだった。
「それで、いつお前はもどるんだ?」
「さぁ?忘れたかな?」
舌をぺろっと出して、笑ってみせた青い生物に拳を固めた。衝動というものに駆られてようやくベットから立ち上がった。
手のこの塊をぶつけたかったが、幻獣にこんな拳が通じるわけがないし無益な暴力は好きではなかった。
めんどくさくなって、先に進んでいった。廊下に出ると後ろから足音が連なってくる。鞘は持ってきていたが、刀のない違和感に青年は不気味さを覚えた。
物静かな廊下を通り越して先にある扉を開けると、それなりに広い部屋に机と椅子が並んでいた。
廊下とは床は違えど、綺麗に磨かれており手入れの行き届いた家であることを感じさせた。
幻獣は家というものを知りはしなかったが、足の滑り具合の良さが面白く床にわざとらしくこすらせて歩いていた。
この青年の家はそれなりに資金というものがあった。そもそもこの刀は成人の祝いとして受け取った家宝というやつである。
今まで誰も使えなかったので、宝の持ち腐れとしていたのだがようやく主を見つけた。
机と椅子の質や大きさ数といった点がそれを語っているが、青年はこの生活が普通であるし、幻獣は初めて見るので双方凄みを感じなかった。
しかし、それを見た両親は驚きを隠せなかったようだ。何気なく挨拶した青年の後ろからのそのそと連なってくる生物が目にはまらないわけがない。
「あぁ、こいつは刀だよ。水流刀とか呼んでたけど名前は違うらしい。」
「初めまして、ウェーラレアと申します。水円さんとはその、昨晩共にしましてこれからもと誓をたて。」
「頼むから誤解を生むようなことはやめてくれ。」
ぱしんと冗談で軽く殴ろうとしたら、ウェーラの額の結晶板にあたり水円が逆に手を痛めた。
痛かったのはもちろん殴った側が痛いのに、ウェーラは痛いと代弁するかのように叫んだ。
そんなウェーラをみて母親は水円を叱るし、父親はそれよりも前の発言を引きずって後で話があるとだけいって朝食を続けた。
明らかに目覚めが悪いような顔色をした父親の顔をみて水円はただため息を一つ付いて切り替えてから、糸を少しづつ解かなければならない。
父親には余計な一線を踏み越えていないことを伝えためだけに、わざわざ部屋に招かれて数分話し込んだ。
部屋から脱出したら、いつの間にか母親とウェーラが溶け込んでいるのに水円はなんだか減らした問題ごとが増えた気がした。
母親にはいい奥さんじゃないと笑顔を向けられて、今度はウェーラを自分の部屋へ水円は引っ張り込んだ。
「お前は一体何がしたんだ?」
「それはもちろん親から公認してもらって次の段階に……」
入らなくていい!とどなって、手刀を振り上げたところで止まった。光を反射する額の紫をたてに、にっこりするウェーラはどこか可愛かった。
もちろん手を止めたのは笑顔に負けたのではなく、痛みを恐れただけである。
ウェーラのいうことは一方的なことであり、もちろん水円には思うことは特にない。
いくら壁を壊してもまた作られてはきりがないので、根源であるウェーラから叩くことにした。
ベットにとりあえず座って落ち着くことにした。ウェーラは向かい合うと自分もそうしていいと思ったのか、足を倒して体を床につけた。
大型犬といえば、それが一番しっくりくるのだがそれは何となく幻獣に対して失礼に思えた。体を斜めにして歪めながら楽にして、床にうずくまった。
ひらひらと漂っていた尻尾を浮かすことをやめて、髪の毛も爽やかに揺れてから地にたれた。
「で?お前は何がしたいんだ?」
「水円との将来を築こうとしているんですが?」
だめだこれはと手を額にあてた後に次の作戦を考えた。思った通りのことをストレートにしてくるせいで、逆に相手の裏を疑ってしまう。
ペースに持っていけない水円は手のひらを頭から離した。余計なリアクションは何も新しい答えは得られないことはわかっていた。
「どうしてお前は俺にこだわる?」
「それはもちろん抱いてもらったからってのもあるけど、貴方も困るでしょう?私がいないと。」
その時初めて水円はウェーラの不気味な笑顔を見た気がした。人にふりまくような笑顔ではなくて、突き刺すような冷たさがある。
心の中をあざ笑うかのような気持ちの悪い感触。覗いているのを楽しんでいる悪趣味な顔に水円は震えた、海水に使ったような冷たさに。
「そんなに意外?私は水、全てを写す。あなたの心ぐらい見えちゃうのよ。」
急に真面目になった顔でさらっと、涼しい顔で平然と言ってのけた。そんなまがい物の心理学のようなことも、術は可能にできるのである。
術の具現化であるウェーラは術そのものの存在であることに偽りなく、術のそのものを使えるといっても矛盾はない。
やめろと水円は耳を塞いで覗かれるのを避けるかのように否定した。
その防ごうとした心底まで覗き込んでくる。直接何かが来るわけでもないのに、触れられてるわけがないのに間接的に何かが手を伸ばしてくる。
弾こうとしてもする抜けるような手が、心臓を掴んでいるような不気味感覚から抜け出せない。
「いい加減にしろ!」
水円は大きく否定すると、冷たい感触と共に何かつながっていたものが切れた。
目を閉じながらも叫んでから、視界を整理した時にはウェーラはいなくなっていて鞘に刀が納まっていた。
ふらっとその場に座り込んでしまった。力が抜けて、なんとかやり過ごせた安心感に負けた。
水円はそれ以上言われたくなかった。嫌だって、そんな小学生みたいに吐き捨てたかった。
刀を抜くまで水円はそこまでいい扱いは受けていなかった。確かに表は普通に接してくれていたし、そんなにひどい両親というわけではない。
ただ聞いてしまったのである、出来損ないであると。父親は刀を授かってきているように、武術に長けた家系の人間で母親は学問に長けていた。
単純な掛け算をして出た答えを水円に親はぶつけた。しかし、水円という存在はその等式を満たすことができなかった。
剣道だって大してできなかったし、剣術も刀が怖くて父親の剣術を満足に扱えない。
そんなことを今の時代は剣術では生きていけない等と、言い訳をして背を向けて向き合った先にある勉学もそれなりだった。
馬鹿に当てはまらなくても、賢いとも褒められることのない程度のもであった。
剣術ができなければ神器は扱えないと思われて父親は諦めていたし、水円自身も術の勉強は特に投げやりであった。
刀を鞘から抜き出しただけで、彼の未来は随分と変わった。表では差がないものの、父親は家の名を広めるまたとない機会だと喜んだ。
その話をさっきの説教ついでに聞かされて、いつの間にか自慢話にすり替わっていた。
母親はそういうことには興味がない人間ではあったが、勉強ができないなら世の中の廃品となると思い込んでいて笑顔は本物じゃなかった。
そんな母親でさえ真剣に笑顔を彼に向けてくれるようになり、水円は複雑な気分でありながらも今日真剣な笑顔を向けてもらえて嬉しかった。
今朝の笑顔はぎこちもなくて、正面から受け止めて気持ちのいいものだった。
全部ウェーラレアの力で曲げられてしまった現実であり、水円の個人の力ではなかった。
故に水円は絶望していた、ウェーラを否定してしまったことを。受け入れないということは、今ある変化を止めてしまうことに等しかった。
同時に納得もしていた、父親が期待するだけの刀であったということに。読心能力を使えるなんてスペックはまともじゃないことぐらい、わかっていた。
使いこなせれば術で競うことも簡単になるし、心理学なんて物を蹴りとばす勢い。
術を極めて闘技の励むことで生き残っていくこともできれば、読心でできることなんていくらでも見つけられる。
けれども、水円はそんな欲望にどこか染まりきれなかった。好奇心だけで抜いてしまったからこそ、大事に思えなかったのかもしれない。
容易に切り捨てることができたのかもしれない、そして今後もう一度引く抜くかも躊躇いがある。
固執できない固執させないような力の恐怖の欠片を確かに水円は握りしめていた。
腰につけている鞘を外してその場に置くこともできなかった。触れることさえもできていなかった。
強大な力を持てば人が変わるとはよく言うのもだが、これはそういうものの一種である気がして水円は恐怖を抱いた。
引きずりながらも登校した。刀を下げたまま、結局刀身を見せびらかすこともなく過ごしてしまった。
腰に手を与えれば確かに強大な力が存在しているのはわかる。だから、落ち着けなかった。
いつもよりもノートは雑にはなるし、武術はいつもに増して酷さを指摘される始末。
ろくに身につくこともなく、無駄に歩いて帰宅した一日であった。
帰って体調が悪いとだけいうと、親は過剰に心配してくれたが放ってもらえるようにたのんだ。
そして部屋にひとりで逃げ込んで、ようやく作り上げれた一人だけの空間に招きれた。
「はろー、それよりもこんばんはの方が正しい?お呼びとあらばいつでも来ますよ。」
白々しいというか、お気楽というかウェーラは笑顔で具現化した。
「お前は一体何がしたい?」
「だから、水円と仲を深めて将来の約束を……」
「真面目に答えろと言っているだ!」
「大真面目ですよ。それに覗いたら怒るじゃないですか?」
笑顔で細くなっていた目が、不気味に半開きになると背筋に寒気を覚える。
「どうせ今も見えてるんだろう。」
負け惜しみのように、水円は歯を食いしばった。
「そこまで悪趣味じゃありませんよ。私はいつだって水円のためにいますから。」
また笑顔を作り直すウェーラは白々しいとしか言えなかった。
「お前はそこまで俺を持ち上げるが、実際見てわかっただろ。俺はそこまでの人間じゃない。」
「それはわかってます。その上で私は水円を選んでるんですよ。」
皮肉ってみたものの、ウェーラは何食わぬ顔で答えてきたのだから読心能力が欲しくもなってくる。
「それそうと、水円。出しっぱなしで大丈夫なんです?朝もでしたけど、慣れないうちは具現化に体力を持っていかれますよ。」
今日はそれこそ誰かさんのせいでまともに授業を受けれていなかったものの、水円にもそれぐらいの知識は備わっている。
無償で神器から具現化できたり、神器から術を引き出したりはできるほど世の中はうまく作られていない。
物事には大抵対価が求められるように、いくら世の中でありえないことが起こるからといってどこまでも世界の理から外れているわけではない。
だから心配されているというふうには取れなくもなかったが、お生憎様疲れていない分そう取れなかった。
「お前に心配されることじゃない。」
「冷たいじゃないですか。」
憎たらしい笑顔だと睨み返した水円に、ウェーラは笑顔を保った。そういう態度が気に食わないというのにである。
「そういうところが信用を買わないことぐらい、わかるだろう。」
徹底的に水円は尖った。幼少のように単純な気に食わないそれだけを理由に。
その一面さえも、ウェーラには可愛いというふうに寛大にも受け止められてしまい、逆効果なのが水円にはわかりえない。
「大丈夫ですよ、言わなくても水円の心ぐらいわかってます……」
それは確かにわかるんだよなと今初めて、説明の手間が省けることに貢献した読心に感謝した。
うつむいて、どこか声のトーンも落ちて言っていることからようやく理解したかのように額の水晶が鈍く光る。
感謝とは何だかと言わんばかりに、ウェーラは読み取ってなどはいなく盛大に誤解していた。
「そんなにつんけんしなくても、私が大好きなことぐらいは!」
急に元気を取り戻したかのように明るい笑顔を浮上させる。水面下に沈んでいた物をまた沈めるかのように、今度は水晶に当てないように殴った。
殴られてそのまま床を直視するウェーラはどこかわざと狙っていたかのように殴られた気がして、水円は結局嫌になって刀に戻した。
戻したいと思えば簡単に戻せるようで、そういう意味では手間がかからないのだが刀自体と波長が合わない水円では力のちの時もものに出来ていない。
自分を否定して生きていく、新しい力ある自分を描きながらも受け入れられない現実に直面していた。
そうやって数日、刀を抜くこともなくグダついていた。受け入れられないけれども、手放したくない力の塊を腰に下げて。
週末の休日にまで持ち越してしまった水円は、そろそろ言い訳も辛くなり選択を決断しなければならなかった。
抜いた刀はいつものように、波紋を立てながら水円自身の顔を写し出していた。そうまでして自分と戦わたいのかと、睨むと案の定睨み返してきた。
迷いが確かに存在していた。水円は何かを決めたいのか、やけくそなのか父親に真剣での戦いを挑むことが休日の幕開けだった。
久々に稽古が欲しいといえば父親はいつもになく、やる気で応じてくれたのだが条件としてウェーラレアを使うことを出した。
竹刀や木刀などでは話ならないと、試し切りをしたことがなくても剣術に長けた父親はわかっていた。
道場で刀を抜いて対峙していた。本当に自分に力があるならきっと何かできる、そんな妄想を抱いていた。
父親の刀も確かに日光を反射していて、金属光沢というものをはっきりともっていた。
そうほう両手で刀を握りて、先を天井に向けて構え合っていた。つばをのみこで、喉を動かしたのに遅れて踏み込んだのは水円だった。
相手の体にたしいて垂直に、素直に振り下ろした。単調な分、攻撃としては速度はかなりあったが刀を斜めに反らして父親の方は刀をぶつけた。
がきんと、金属同士の衝突が音を立ててもウェーラレアに流れる波は乱れることはない。そのまま振り切ろうとするにも、したから持ち上げえてくる力を消しきれない。
一件成り立っている力らの衝突のバランスを崩したのは水円の方だった。徐々に刀が押し始めると刀がストンと落ち切った、斜めに。
しかしそれは、父親の構えていた刀の刃をなぞる様にしてまるで滑るかのように流されたのである。
斜めというよりほぼ横倒しの状態で受け止めていた刀を僅かに立てていき、ぎりぎりの角度まで刀を上げていき最後に体を少しそらしてから刀を立てることで父親は難なくかわしてみせた。
力を込めていた水円はそのままウェーラレアを振り切るしか選択肢がなく、何もない空気をひと振りして終わった。
急いで刀を構え直そうとするが、それよりも先に父親からの一撃を凌ぐために床と刀を水平にして頭の上から振り下ろされるのを受け止める。
完全に頭の上を取られているために、受け流そうにも無傷では済まない窮地に水円は立たされていた。
刀の柄を両手で握っているだけでは持ちこたえられず、片手を刀身の方を支えて押し返そうとする。
ここで、水円は自分の中に不安を見つけた。自分の攻撃が返されてからここまでに追い込まれるのに、次の手が自分にあるのかと。
下手に動けば今は打開できても何度もうまくいく保証がない。勝てるのかという、疑問が差し込んでいる。
抜くだけではこの刀は飾りでしかないのか、何かあるなら答えてみろよと刀に八つ当たりする。
(そんなに私が必要ならちゃんと言ってくれればいくらでも。)
どこからもなく、聞き覚えのある声が聞こえてきたかと思えばウェーラレアに間違いはない。
(私を信じてくれるなら、見えますよ。相手の考えることぐらい安く。)
どうなっているのか、今更この手の怪奇現象に近しいことに突っ込むことは野暮である。父親は何も異変を感じていないかのように真剣にこちらの次の手を待っている。
水円はやはり頼るしかないと、目の前の勝利に手を伸ばすように自分の握るウェーラレアの存在だけに集中する。
見えてくる聞こえてくる、何かを掴んだ水円は刀に力を入れて一気に押し返した。
姿勢を起こすとそのまま切られることを恐ることもなく踏み込んだ。斬撃が見えることはなくても、どうとでもなる。
今ははっきりと見えているのである、相手の思考回路が。剣筋などはわからなくても、動ける。
相手が一度下がるというのは見えているから、頭を少し突き出して腰を低くして懐に潜り込もうとする。
横から刀で切り裂こうとすると、ガードされると思うと案の定父親は刀を合わせてきた。
相手の思考が読めても、技術が追いつけてないために限度はある。それに今のような瞬間的な反応はそれなりに時間に余裕を持って読めないために、こちらも反応が求められる。
腕前が水円の方が劣っているために、ある程度の後出しジャンケンができるにしても肝心なところは腕前である。
詰めの一手をこうしてまた一手と誤りながらも、父親の方に攻撃の姿勢を取らせないようにはしたものの体力的な差で水円は結局負けた。
悔しさ半分嬉しさ半分といったところであったが、その二つを足してもまだ半分といったところで座り込んでいた。
全体の半分ウェーラに対する考えである。あれだけ突き放したのに、どうして力をかそうと思うのか水円はわからなかった。
こんな都合のいい展開を当たり前のように、思えば自分もウェーラの教えてくれることを信じていたが、答えてくれたものである。
確かに自分はこの力に手を染めて、この刃で戦ったという事実は変えられないもので少し手は震えた。
必死に戦っているときは気にしなかったものの、改て力の大きさを痛感した。はっきりと、相手の意思が見えていた。
今になれば随分と汚い手であり、同時に気持ちの悪いものであった。相手の中を覗いているはあまりいいものではない気がした。
父親には強くなったと言われて悪い気分はしなかった。自信を持って首を縦に振れる、嬉しかったと。
悪い気分はしなくなかったし、剣術で父親が嘘をつかないことぐらいは水円は知っていた。
どれだけ嘘で甘やかそうと、剣術に関してだけは父親は一切手を抜かなくて嘘は使わなかった。
そこまでな水円は褒められた記憶がなかった。それなりの人生の長さをもった水円にとっては初体験だった。
自分だけの力では無理だってからこそ、この戦績を分かち合いたかったから向かい合うことにした。
「これは嬉しい限りですね。水円からよんでもらえるなんて。」
「勘違いするな、俺だって恩ぐらい感じる。礼だよ、ありがとうな。」
「そんな、もったいないことを……」
ウェーラは心の中を覗けているはずなのにどうしてかリアクションが伴っていない。
「お前なら、感謝にビビることないだろ。見えてるんだしな。」
笑顔を満面に作っていたウェーラは、そこの水円の言葉を受けて何かが崩れたかのように辛気臭くなった。
「水円に言われてから覗くのやめたんですよ。それで分かったんですよ、とても不安でした。」
自分を笑うかのように、悲しそうに笑って鈍く目を開いた。
「いつも相手のことがわかる、だから気にしたことありませんでした。」
馬鹿だろと笑いたいのに、水円は何故にかそれができなかった。
「不安でした、誰が何を考えているのかわからなくて。もともと私は自分のことが分かってもらえるとか、どうも思っているかとか当たり前にしれてました。」
まぁ、わかるだろうと水円は否定はしなかった。
「だからですよ、刀から出てこなかったんですよ。周りの気持ちが見えたから。邪なものが多くて、都合が良すぎるんですよ私は。」
自分を笑うかのようにしてウェーラは水のように弾けると、空中をきらめかせた後に鞘に刀が戻った。
それからというもの、どこかで刀を抜くことをためらった。恐怖ではなくて心配で言葉が見つけられなくて。
鞘に手を当てれば能力自体は引き出せたものの、それ以上のことは引き出せなかった。
力だけを引き出す刀はまるで死んだかのように冷たさを持っていた。
抜こうとしてもいつもより重く感じる刀がそうはさせずに、またぶら下げるだけの日々に戻った。
父親の剣術の稽古の時ぐらいには、流石に抜いて戦いはしたが能力を出すだけの淋しい武器でしかなかった。
命令のままに動くだけの武器、定義としては濁っていないのに満足に振るえない使いにくさが抜けない。
だから今もこうして、剣同士がぶつかり合うと衝撃で手から放り出された。
父親には勝てずに刀を手放して床に倒れ込んだ。拾い上げても無言な刀を鞘に戻した。
チャキっと金属に収まる音だけをたてる、それ以外の音は何も与えてくれることはなく。
欠かさずに磨いても刀が光るだけで、ありがとうの礼もなくいつものように波紋を立てるだけである。
風呂に連れ込んでみても、熱を持つこともなくいつものように冷ややかな表情をしたままだった。
ついにはまた振り返りたくない過去の一ページとしてベットに連れ込むのが最後の手段だった。
この前は特にひっかかるようなことはなかったのに、中身を知ってしまったせいかベットで横になれていない。
相手は今はなんでもない無機物なのだから、抱き枕のように認識すれば問題はない。
そんな躊躇いに、背を向けるかのように布団に潜り込んで無理矢理に目を閉じた。
次に目を開いた時には身に覚えがない光景ではあったが、新鮮な風景に懐かしさを覚えなくはない。
現代社会では珍しい茂る緑に囲まれて、空は晴れ渡るそこでは空気の味が違った。
綺麗な空には雲がなければ、青い空を遮る生物はどこにもない。風もなく静かに森は静止している。
静寂な森も空もただ中央にある湖を黙って見つめているかのようであった。
主役の湖は随分と濁っていて、底がどこまで続いているのか皆目見当がつかない。
湖が泥水のように濁っていることは特段珍しいことでもないのに、疑問が抜けない。
パズルのピースがすり替わってしまったのに、はまってしまっているような。
その泥水の水たまりの上に波紋を起こす存在、この世界の中心にたっていた。
無言でただ、唯一動いている存在なのに死んでいるかのように冷たく水面に浮いている。
表情は暗くて、泥水のように濁りきっていて暗く沈んでいるウェーラの姿を、久しく目でとらえた。
曇って泥水の覗き込んでもそこには何も投写できないということがわかっていないかのように、淡い期待を抱いているようだ。
まるでその瞳には何もうつされていないかのように、無駄な努力を惜しんでいないようだ。
馬鹿だと笑うわけにはもちろんいかない程度はわかっていても、どういう言葉を選択すればいいのか水円には暗闇を手探りするようなことだった。
気がついているような様子がないので、水円は切り込み方を考えたのだが上段から斬りかかるなど戦う時は楽でもこちらはそうとはいかない。
それでも下がれないからと、水円は結局声を張り上げてみてから恥ずかしさをようやく感じた。
「あらら、こんなところにまで……」
寂しげな瞳はいつものように充血もしていないのに赤く、時間の経ってしまった血液のように活気なく。
そんな視線を手繰り寄せていくかのように、湖に足をつけるとウェーラに怒鳴られてその場で脚を止めた。
「来ないでくださいよ……ちゃんと力は貸してるじゃないですか。」
不満はないでしょうと拗ねた子供のように睨みを聞かせて威嚇してくる。
なんだか、そういう言い訳じみたことを並べるだけのウェーラの子供らしさはいつものとは違う子供らしさで水円は事を納めたくなかった。
「嫌いなんでしょう?それならこれでいいじゃないですか!」
何で今度は突き放すのか意味がわからないと、水円は勢い余って突き返してしまいそうになる。
そこでいやいやと振りかざして急いで刀をしまいこんで、もう一呼吸を整理した。
自分の出すカード、出せるカードを見直しながら選ぶ必要がある。
限り有る中から答えを導き出さなければと切り出すカードを手に取る。
「お前は好きじゃなかったのか。」
「私は逃げていたんですよ。他人の心を覗いてそれで怯えて出てこなかっただけ、出てくるべきじゃなかったんですよ。」
「でも具現化したじゃないか。」
「それは結局、水円に甘えたかっただけなのかもしれません。都合のいいように周りから選んだだけなんですよ、所詮は。」
水円は突然に怒りを覚えて、水の中に足を突っ込んだ。足元が見えない泥水の中に確かに足をつけて立った。
底が見えなくて徐々に飲み込まれていくのを構わない様子で湖をかき分けて進んでいく。
右手固めた拳のやり場は多分そこしかないんだろうと、体は進んでいくことしかできなかった。
腰ぐらいまで沈んだぐらいでようやくウェーラが間合いに入ったので、驚いた顔に構わずにいつものように額を殴った。
「ふざけるなよ!」
叫んでからそれよりも大きな声で痛いと腕が悲鳴を上げた甲斐もあって、ウェーラも一歩後退する。
指がどうにかなってしまったかのような痛感を、手で握り締めた。
もちろんそんなことをすれば痛みが増して、すぐにグーがパーに負けてしまうわけである。
「何するんですか!痛いじゃないですか!」
「お前こそ好き勝手いってんじゃねぇ!」
そんな言葉に発火させられたのか、痛みで閉じていた目を開いて突進した。
いくらでもやりようはあったのは確かなのに、ただ腹が立ってぶつかった。
もちろん、水円よりもひとまわりもなんまわりも大きい巨大犬にタックルをかまされると受けきれるわけがない。
ずぶ濡れになったことは音が明らかに語っていた。水円は水の中に背中から突っ込んだ。
派手な音が響いたのは水の中ではよく聞こえなかったが、ウェーラには届いていた。
心配なんて雑念はウェーラにとっての邪魔者に過ぎなかった。だから、そのまま溺れていればいいと思って水泡を睨んでいた。
もう一度大きな音を立てると水円は水しぶきを上げて水中から姿勢を立て直した。
やりやがったなと、異性だとかそんなことを気にしないで全力で水円は飛びかかった。
もちろん、水の中というのもあって飛び上がったりはもちろんできないが拳を固めて殴ることはできる。
動きにくい上に、更に水を吸い込んで重さが増した服がのしかかってくる。
痛めた右手が使えない分左手でフックでウェーラの右前脚に噛み付いた。
今まで額の硬い水晶しか殴っていなかったせいで、ウェーラは硬いものという偏見があったが確かな肉質を覚えた。
食い込んだ右足が傾いて、ウェーラはバランスを崩して右側から泥水の中に沈んだ。
やってやったとガッツポーズをとることはなく、またそんな暇もなくウェーラはそこに足をつけながら立ち上がった。
沈んでは起き上がるその単純な動作を交互に何度やりあったのだろうか。
無駄だと互いに分からずに、体力がなくなるまでループから抜け出すことはなかった。
傍から見れば無駄な労力と時間の浪費のなかで確かに何かを掴んだかのように、睨まずに空を眺めていた。
背中はぬてれいるために、一層ベッタリと体が地面に吸い付いてしまう。力を使い果たして、起き上がる気力の欠片もない。
「わかったか、この馬鹿が。」
「どうして、そんなに必死になるんですか?」
今更水円も、ウェーラと同じように初めて認めてもらえてからなどと恥ずかしい理由を言う気にはなれなかった。
この後、時々あの時はウェーラは心を覗いていたんじゃないかと悩まされることになるとは考えてはいなかった。
「お前は俺を選んだんだろう。それじゃ、俺の言うことを聞いてもらわないと困るからな……」
「分かりました、そうですよね。水円なんですよね、それが。」
何かに納得したかのように満足気目を閉じたウェーラの顔にどこか安心を覚えた水円も目を閉じた。
それからもう一度目が覚めるまでは夢の中であることがすっかりと抜け落ちていた。
服も濡れていなければ綺麗な自然に溢れた光景もどこにもなくて、布団の中である。
暖かい布団の中でぐっすりと寝ていたようで、汗すらもかいている気配すらない。
起き上がると、布団がめくれて中から変なうめき声があげた覚えもないのに聞こえてくる。
布団の中には大きな巨体が一匹潜んでいるのである。額の水晶が暗がりから出て、朝日を反射する。
「おはようございます、水円。」
「おはようございますじゃないだろう、何をしているんだ。」
鋭い視線を下ろすと、何かにようやく気がついた様のウェーラも焦って朝日を恐れずに一気に開眼した。
「そうですよ!寝ちゃったじゃないですか!夜しようとしてたのに!」
「わかった、もういいから戻れ。」
この前よりは弱いと言い切れるものだが、拒絶という念は揺るがない。
鞘をぶら下げて、朝飯にでもたどり着こうと思考回路が段々と日常に切り替わっていく。
「おい、どうして戻らない。」
「それはもちろん戻る気がないからですけど?それに、今からしないといけないじゃないですか。」
体を半分起こしたままの水円に、餌でも見つけた犬のように食いついたウェーラに水円は叩きつけられる。
「何がしたい?」
「わからないんですか?夜這いですよ、夜這い!」
喜ぶどころか、顔を歪ませてめんどくさそうなことを顔ではっきりと語ってくる水円。
予想以上に嫌悪感をプッシュした表情にいろいろとブチ切れて、色々と境界線をまたいだ。
人よりも突き出た口元は異性だからなのか、それとも神器だからなのか、獣臭いというよりも甘い。
不意をつかれた上に、予想外の感想を持ってしまったのだから水円はリアクションというものが選択できない。
「水円に私みたいに他人の心が見えないのは分かってますよ。だからこうするしか……」
「落ち着け、早まるんじゃない。」
まるでナイフを突きつけられているかのような、焦り方で水円は脱出を試みる。
「大丈夫ですよ、私はちゃんと水円だって決めてますから。水円が受け入れてくれるなら、お慈悲を。」
なんだか流れを作っておいて、これがずるいんじゃないかと抗議するには遅い。
どうせ引き返したいのなら、もっと早くにベットのからおろしておけばよかったのだと後悔した水円。
イエス以外の行動が今更としか言えない選択肢しか存在しない現実を悔やんだ。
それに嫌な気がしなくはなかったということもまた事実として存在していた。
どこか自分と一緒で他人を遠ざけるような所が、どこか自分と重なって置き去りにできない。
それは同情などという安物で語るには惜しいものだというものは、確証がなくてもわかっていた。
だからなのかもしれず、拒むことをやめてしまったのは。大きな仇になろうとなど、勢いつきすぎて忘れいた。
大事なことが頭から抜けているのだから、もちろん時間の感覚などもかるく放棄していた。
「だるい……」
「水円は朝から激しいですね。」
一人がげんなりした表情で動きたくないと言わんばかりであるのに、一匹は恍惚とした顔で思い返していた。
持て余していなかったといえば水円は嘘をついたことになるが、ないものまで持って行かれた感じがある。
一日分の力の配分を明らかに朝っぱらから誤ってしまったせいか、今日一日は何もしたくないというのが本心である。
体を前倒しにして、腕をぶらさげているだけの姿勢でゾンビのように階段を降った。
好き勝手言っている馬鹿を殴る気力がなければ、聞き取る能力さえも疑わしいぐらいに低下していた。
吠えているような冗談をいっているだけのようなぼーっとそんな感じだけを受け取っていた。
足音がついてきていることに疑いがないような感じで、朝飯のあるリビングにたどり着く。
食物だけを腹に収めて今日は昼間ぐらいまで睡眠をベットの上で食い散らかしていたかった。
「今日は水円元気ないのね?」
「母上殿、昨晩いえ今朝水円は張り切りすぎまして……」
「水円、あとでちょっと来なさい。」
弱り目に容赦なく絶対零度を当ててくるのである。


なにかありましたら

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  • 時代背景や世界観、社会情勢などがいまいち分かりにくく、とっつきにくさばかりがまとわりついていた作品でした。ポケモンらしいポケモンも、スイクンらしきポケモンしか出てきませんし、しかもその能力も特に活用されることもなかったために、ポケモン小説を求めてきた人には残念な印象でした。
    ――リング 2014-05-11 (日) 21:22:54
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Last-modified: 2014-04-20 (日) 23:58:18
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