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鏡の中の綺麗な羽

/鏡の中の綺麗な羽

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 下を見渡しても地上の見えない天空の彼方、虹の交錯する狭間に浮かぶ小さな島に、古びた洋風の家が一軒、壁に蔦を絡みつかせた厳かな佇まいを見せている。
 そんな館の奥の一室に、いかにも館の雰囲気に見合った年代物の、ゴシック風とでも言うのであろう雰囲気を醸し出す黒檀の机がひとつ。
 四隅を支えるのはしなやかな曲線を描く猫足。艶のある天板の下には銀の取っ手がついた大きな引き出しがひとつと、その右側に小さな引き出しが縦に3つ。そして天板の上には、ひと際豪華な装飾に縁取られた楕円が一枚、長軸を縦にして垂直に立てられていた。
 楕円の前に立ち、縁取りに囲まれた中に眼をやると、縁の装飾が脇に下がるほどに華やかな美の化身がそこにいた。
 華奢な両足の付け根から腹にかけてを、エメラルドのように光り輝く翠色の羽毛で包み。
 優雅に伸びる首筋から両翼、剣のように後方に携えられた尾羽までを、夜の闇色と格調高い銀色とが重なり合い。
 そして鋭く尖った嘴を勇壮に構える顔は、どんな薔薇でさえこれほどに鮮やかではないと確信できる官能的な深紅の肉腫に被われて、両の眼の上から長く伸びた鶏冠が弧を描いて肩に落ち、流麗極まるハートマークを形作っていた。
 私が足を動かせば、翠の羽毛が艶めかしく波打ち。
 翼を開けば、銀の翼が躍動的に広がり。
 首を傾ければ、深紅の鶏冠が炎のように揺らめく。
 そう、それは私自身。姿見に写し出された私の姿。
 神よ、私は美しい。この宇宙のいかなる者にも増して……。

 ○

 いつも通り、ゴシックなドレッサーの前で美しくも美しい我が身の美しさを心行くまで堪能して、私は部屋を後にする。
 この館、家具らしい物が置いてあるのはさっきまで私がいた部屋だけで、玄関へと続く隣の部屋には、私には読めない大きな本が立てかけてある小棚と、食用の木の実を保存してある宝箱ぐらい。ただ家具以外のインテリアとして、部屋中にずらりと各種様々なポケモンのぬいぐるみが置いてある。雑然と転がされているわけではなく、何やら意味を持った形に並べられているようで、

 ○○  ○ ○     ○○○  ○
 ○ ○ ○ ○ ○○○ ○   ○ ○
 ○○  ○ ○     ○○  ○
 ○ ○ ○ ○ ○○○ ○   ○ ○
 ○○   ○      ○    ○


 という具合に置かれているのだが、意味は私にはさっぱり分からない。
 トレーナーにこう置くようにと厳命されているので、躓いて動かさないように脇を通って玄関へ。
 マットを踏み越え、石段を下りて辺りを見渡す。
 と言ったところで、何も代わり映えがあるわけじゃない。畑の畝は最後の収穫を終えてもう何も植えていないし、玄関の隣にある棚も昔は隣近所からのお裾分けが置いてあったりもしたが、それもなくなって埃ひとつすらも乗っていない。
 そのまま裏手に回ると、雲から伸びた虹の橋が島にその端を架けている。
 今日も散歩を楽しむべく、私は翼を広げて羽ばたいた。

 ○

 数年前、まだ私が地味臭い灰色の小鳥だった頃。
 故郷の森で、同種同性のクズどもを叩きのめして勝ち取った縄張りで昼寝をしていた私は、いつの間にか地面を遙か離れた上空、見渡す限り開けた空を飛んでいた。
 なぜか雲に隠れて木の実が浮いていたので、好物のナナシやイアの実を選んで啄んで回っていると、雲に隠れていた浮き小島に、美味しそうな香りが中から漂う宝箱を発見。しかし近付こうとすると強靱な結界に阻まれてしまった。鋼のエネルギーを使っていたらしく、私の技ではまったく歯が立たなくて途方に暮れるしかなかった。
 そこに飛来したのは、茜色の翼を雄々しく広げたリザードン。呼び止めて助けを求めると、彼は周囲の炎エネルギーを巧みに掻き集め、灼熱の炎注を作り出して見事結界を焼き払ってくれた。宝箱に入っていた木の実の詰め合わせを、分け合って食べた時の味は忘れられない。彼が本当はリザードンではなく、チャオブーと言う豊かな体格をした豚のポケモンが変化した姿だと教えられた時の衝撃も忘れられそうにないが。
 ともあれ、見事な技の数々に惚れ込んだ私は、それがトレーナーに鍛えられた成果だと聞いて、彼に導かれるまま雲の果てに聳えていた大樹の下で、自分も彼のトレーナーの世話になると誓いを立てたのであった。そして――

 ○

 閑話休題。現在の美しい私に話を戻す。
 虹の架け橋を渡り、雲を抜けるとそこはどこかの島で、雪の積もった針葉樹の奥に洞窟が口を開いていた。
 ひんやり穴と呼ばれる氷の洞窟。冷気は苦手な私だが、寒風に曝されるよりはよほどマシ。実際、同じく冷気を苦手とするディグダやフカマルなどとも以前は洞窟内でよく会ったものだ。
 そしてむしろ私にとっては、あの開けた空やよく行く公園などよりも、よっぽど大好きなコースなのだった。虹の行く先は渡る度に違っていて選べないので、大当たりである。
 足取りも軽く、洞窟の奥へ。入り口の辺りは茶色い岩壁が露出していたが、進むにつれて氷に被われた岩や氷柱が鍾乳石のように立ち並ぶ氷室となっていった。どこからともなく灯りが差し込んでいるので、艶やかなそれらに私の姿が写り込んで見える。
 私の姿が、写り込んで見えるのである。ちょっとしたミラーハウスだ。
 右を見ても左を見ても私だらけ。翠の腰が、深紅の仮面が、そこらじゅうで私を囲んでいる。立ち位置によっては合わせ鏡になっているところもあって、ずらりと並んだ私を普段見えない角度から眺め回せる。まさに天国の光景。
 この穴で、この辺のほかの場所でもだが、他のポケモンと会わなくなって久しい。お誂え向きだ。私を愛でていいのは私だけ。他者の賛美なんかいらない。薄汚い尻軽雌どもの穢れた視線にこの身が曝されるなど、考えただけでも虫唾が走る。この綺麗な羽は、全部私だけのものだ。
 ふと周囲に霞がかかり、さっと晴れたかと思えば、いつの間にか私は洞窟の中ではなく、島の中央に聳える大樹の麓にいた。初めてこの世界に訪れた時、チャオブーと――今や彼は精悍なエンブオーに進化しているが――ともに訪れたあの大樹だ。この島での散歩は、どの道から辿ることになっても最後にはここに行き着く。
 願えば望みを叶えてくれると言われるこの大樹。あの時願ったのはチャオブーのトレーナーの所へ行くことだった。今の私に、願いはただひとつ。
 どうか私の羽が、いつまでも美しいままでいられますように…………。

 ○

 眼を閉じて黙祷し、再び顔を上げると、そこはもう家の前。
 部屋に戻って、ゴシックなドレッサーの前で羽繕いしつつ休憩しようか、と玄関マットを踏み越えようとして、異変に気づいた。
 玄関マットに、真新しい足跡が刻まれている。
 もちろん私の物ではない。ウネウネと掴み所のない形状。
 他のポケモンなら気にすることもなかった。この辺の家は誰でも誰の家にでも出入り自由なのが通例で、特に害が発生することもない。
 だけどこの足跡はもしや……!? 期待に胸を躍らせて、マットを詳しく確かめる。この玄関マットには、上を通ったポケモンの種族と住所を表示する機能が備わっていた。例えマットに足を着けないポケモンでも、どこの誰が訪問してきたかしっかりと記録してくれる。科学の力ってすげー。
 果たして、望んだ通りの種族名が、そこには記されていた。
 扉を蹴り開け中の様子を探るも、誰もいる気配はない。行き違ったか。
 もう一度、マットの記録を読み直す。足跡の住所は、すぐ近くの島だった。今ならまだ、向こうが往復に使った虹が残っているはず。
 大急ぎで再び外へと飛び出し、上空へと羽ばたいて見渡す。見つけた! 隣の島との間にかかった細い虹の橋。全速力で空を駆け、虹に沿って彼方へと飛ぶ。飛ぶのは誰よりも得意だ。最近までトレーナーを遠くの町まで運ぶ役目も担っていた。あっという間に彼岸へと辿りつくと、そこに立っていたのは白い円柱の壁に赤く丸い屋根の、ちょっとタマゲタケを思わせるような小さな家。どうせ家から一歩も土を踏まずにきたからと、マットで足も拭かずに蹴り入った。
 外観よりも広く見える室内には、我が家同様にぬいぐるみが規則的に列を成していた。こちらは何か数字の形に並べられているようだったが。
「やぁ、いらっしゃい」
 呼びかけられた声に振り向くと、探し求めていたポケモンがそこにいた。
 薄紫色の不定形な姿をしたそいつは、小さくてつぶらな眼をにっこりとさせて一礼した。
「よくきたね、ケンホロウさ……」
「今すぐこの姿に変身してくれっ!!」
「……挨拶もなしに失礼だねキミ」
 たちまち気分を害した様子で、そのポケモン――メタモンは、肩らしい部位を竦めたように盛り上げる。
「勘弁してよ。いつも他の姿にコロコロ変わってばかりなんだから、ここでぐらいリラックスしてたいんだ」
「さようなら」
「とことん失礼だねぇっ!?」
 さっさと家に帰ろうとした私に、メタモンは呆れかえった声をぶつけてきた。どうしろと。
「何だ? 今度は挨拶はちゃんとしたぞ。私の姿を写してくれないメタモンに存在する価値は微塵もないが?」
「はぁ……礼儀に関してツッコむ気力も尽き果てたよ……」
 べったりと床に伸びるメタモン。実のところ、こっちも丸々期待していたわけじゃない。この世界でこいつの同種と会う度に変身をせがんでは断られてきたので、メタモンの事情は知ってはいたのだ。それでも、もしかしたら今回は変身してもらえるかも、という誘惑には抗えなかった。
「今度こそ、私の美しい姿を立体で愛でられると思ったのに」
「いったいボクに何をするつもりだったのさ!?」
 小さな眼を思いっきりジト眼にして睨みつけ、メタモンははぁ……と深い溜息を吐く。
「まったく……そんなに姿を写して欲しいのならさっさと目を覚ましなよ。向こうで会ったら変身してあげるから」
 その言葉に、今度は私からジト眼を返す。
「結局、それが目的で私の家に足跡をつけたんだろう?」
「察しがいいね。その通りだよ」
 あっさり認めて、メタモンは私の視線を真っ向から跳ね返した。
「ケンホロウさん。キミはいったい、いつまで夢を見ているつもりなんだい?」

 ○

 メタモンが語った言葉。
『さっさと眼を覚ましなよ』
『いつまで夢を見ているつもりなんだい?』
 これらは何の比喩でもない。私たちが今いるこの世界は、実際に夢の世界なのである。
 ムンナやムシャーナなどが頭上の穴から吹き出す〝夢の煙〟と呼ばれる物質には、他の生き物が見ている夢を映し出す効力がある。
 これに目を付けた人間の、ブリッコも痛々しい若作りオバサン博士が、収集した大量の〝夢の煙〟に、多くのポケモンたちが見ている夢をつなげて構築したのがこの世界、通称〝ポケモンドリームワールド〟だ。
 チャオブーと共に大樹〝夢の木〟の下で誓いを立てたあの日。
 気がつくと私は、元の縄張りで昼寝から目覚めていた。すべては夢の中の出来事だったのである。
 だけどまったくの幻だったなんて思えなくて、チャオブーに言われた通り、故郷の森の外れにある、螺旋にくねった木が一本そびえている広場の近くで待ってみた。
 しばらくしてあのチャオブーが、中々に男前な人間を連れて現れた。あの夢はただの夢ではなく、チャオブーの夢と私の夢とが〝夢の煙〟によってつながったものだったのだ。私の住んでいた森はイッシュ地方の中心地であるため、件の博士は螺旋の木をアンテナにし、各トレーナーが持つ〝Cギア〟なる機械を介した、〝ゲームシンク〟という機能で彼らの持ちポケの夢をつないでいた。アンテナの近くで眠っていた私も、その影響を受けたということらしい。
 こうして私は、男前のトレーナーが投げてよこした桜色のモンスターボールを新たな巣とし、彼の持ちポケとなったのだった。
 各地を旅し、たくさんバトルを重ねて、やがて私は進化した。
 眉に深紅の肉腫を飾り、首元に豊かな綿羽を蓄え、長く伸びた尾羽も凛々しい姿に。
 それは私を産んだ母と同じ姿。かつて雛鳥だった頃、母の美しさは私にとって憧れであり、羨望の余り喧嘩が絶えなかったものだ。ようやく憎き母に追いつけた。しかも敬愛するトレーナーによると、更に次の進化があるという。
 母を越えられる期待に鳩胸を膨らませ、たゆまぬ努力を積み重ねて、遂に私は最終進化へと至ったのだった。そして――

 ○

「分かってると思うけど、この世界はもうすぐ終わるんだよ」
 メタモンが重々しく告げた現実が、私の回想を断ち切った。
「参加者が増え続けて、夢の煙は供給不足状態が続いてた。博士の研究も一定以上の成果を上げたし、そろそろドリームワールドを閉じて次の研究に移る予定だ。ほとんどのポケモンはとっくに家を引き払ってる。なのにこの世界に未練を持つキミみたいなポケモンたちが、トレーナーからの起床命令を拒否してまで居座っているわけだ」
 糾弾の声に耐えられず、私は視線を逃がした。メタモンは続ける。
「トレーナーさんたちも博士も、みんな困ってたよ。ゲームシンクにキミたちの脳波をつないだままドリームワールドを閉じたりしたら、どんな悪影響が起こるか分からないって。いずれは眠気覚ましや目覚ましビンタで強制的に起きてもらうけど、トレーナーさんたちとしてはできればキミらの意志を尊重して、説得の上で自発的に起きて欲しいってね」
「それで、貴方(メタモン)が私の家に足跡を残せば、私は自分からのこのこやってくると?」
「うん。キミのトレーナーであるオニロさんのアイデアだよ。それをうちのソーニョさんが受けて、ボクがここに派遣されたってわけ。実際狙い通りだったでしょ」
 あぁ、釣られたとも。さすがは私のオニロさん、見事な作戦だ。
「そういうことなら仕方ない」
「分かってくれたんだね、よかった」
「今すぐ私の姿に変身してくれ」
「ちょっ!? ……まぁいいか。変身したら満足して起きてくれるって言うんなら」
「一緒にこの世界が滅びるまで愛し合おう」
「嫌だよ!? 何ボクまで心中に巻き込もうとしてるのっ!?」
 やれやれ、聞き分けのないメタモンだ。
「そんなに私の姿で運命を共にするのが嫌なら、一匹だけで勝手に目覚めればいいだろう」
「待ってよ、まるでボクの方が駄々をこねてるみたいな流れになってるんだけど?」
「騒がれようがカゴの実を食わされようが起きるものか。私は一羽、最後の最期までこの世界で私を愛し続ける。それで散るのなら本望だ!」
「だーかーらぁっ! ナルシズムに浸るのは勝手だけど、どうしてこのドリームワールドでそれをすることに拘ってるのさ!? 現実世界で好きなだけ自分に萌えればいいだけでしょ?」
「……無理だ」
 それができたら苦労はない。
 不可能だからこそ、私はこの世界に入り浸るしかなかったのだ。
「何でさ!?」
「貴方には分からない……いや、貴方ならば分かってくれるのかな。姿を変えられる貴方なら」
 今ひと時、私は私に向き合うことにする。
 私の、見たくもない姿の方に。
「ねぇメタモンさん、貴方は自分が変わる姿の中に、特別好きな姿ってあるかい? その不定形な姿がそうなら、きっと貴方は幸せなんだろうな……」
「ケンホロウさん?」
「現……いや、向こうの世界での私は、ね」
 起きた先の世界を〝現実〟と呼ぶことさえ、私には堪えがたかった。

「醜いんだよ。この美しい姿とは似ても似つかない。私の綺麗な羽は、この夢の世界にしか存在しないんだ」

 最終進化に到達したあの日、私を襲ったのは底知れない絶望だった。
 進化につれて美しくなるものとばかり思っていたのに、私の理想とは懸け離れたみずぼらしい姿に進化してしまったのだ。
「ケンホロウに進化した姿を初めて鏡で確かめた次の瞬間、私は鏡を蹴り割ったよ。目に入る限りの鏡という鏡を片っ端から叩き壊して、姿を写しそうなピカピカしたものも全部傷だらけにしてやった。それぐらい、見るに堪えなかったんだ」
「そりゃ気の毒に。オニロさんがだよ?」
「仲間に入ったばかりのドーミラーも危うく粉砕しかけた。よく見たら私の姿を写してなかったから思い留まったけど」
「鏡面が退化してて命拾いしたねその仔……」
「そうして身も心もズタボロに傷ついた私を、優しいオニロさんは再びドリームワールドに送ってくれたんだ」
「周りをズタボロにしたから寝かしつけられたんでしょ。オニロさんの優しさはキミをクビにしなかったことだよ」
「失意の中飛んだひんやり穴で、私は氷の中にとてつもなく美しい存在を見つけた。何度も何度も確かめて、それが氷に写し出された自分の姿だと理解した時の感動と言ったら……とても言葉にできるものじゃない。それ以来、ドリームワールド通いはいつも私の仕事にさせてもらってきたんだ」
「はぁなるほど。キミの姿が変わったのは、ムシャーナのちょっとした悪戯だろうね。他にもいくつか、現実と違う姿で夢を見ていた例はあったらしいよ」
 それは知らなかった。きっとそのひとつひとつに様々な悲喜交々があったのだろう。向こうでの悩みをこちらで解決できた私は、つくづく幸福だった。
「なのにドリームワールドが終わってしまうなんて……この姿を失うぐらいなら、この世界と一緒に消滅した方がマシと言うものだ!!」
 醜い姿に進化して神を呪った私は、今の姿を鏡に写す度に叫んだものだ。
 どうだ、神よ。私は美しいだろう、と。
 その不遜への罰として、私はこの羽を失ってしまうのだろうか……!?
 私の訴えを聞いたメタモンは、思案げに眼を伏せた後、おもむろに口を開く。
「事情は分かった。要するに、現実でもキミが綺麗な羽を持てるなら、問題なく目覚めてくれるんだよね?」
「そんな手段があるのか!? あるのなら願ってもないが」
「少なくともさ、伝説の鏡じゃないんだから、鏡なんて割っててもダメだよ」
「何だ? その伝説って」
「あれ、知らない? 人間のお姫様が邪神の呪いでヨーテリーに姿を変えられたんだけど、魔法の鏡にそのヨーテリーを写したら、お姫様の姿が写ってたんだって。で、それを割ったら人間に戻れたって言う」*1
「そうだったのかっ!? つまり私は、醜い姿を写した鏡を割ってしまったから、向こうではあんな姿で定着してしまったんだな!?」
「ストップ。伝説は現実じゃないんだから、もっと現実的に考えろって話で」
「こうしちゃいられない! ありがとう、早速うちのドレッサーにこの姿を写して、愛を込めて叩き割ってみるよ!!」
「だから違うでしょ!? 大体、向こうの世界でその姿を写し出す鏡を割らなきゃいけないんだから、夢の中で割ったって意味ないよ!?」
「ではどうしろって言うんだっ!?」
 湧きかけた期待を覆され、苛立ち紛れに風切り羽を床に叩きつける。
「まず落ち着いてよ。キミのその姿を現実にする方法は、間違いなく現実的に存在するから」
「ほ、本当か……!?」
 詰め寄った私の前で、メタモンの顔が薄紫の体表を縦に動いた。
「キミのその羽や肉腫はね、まったくの無から出てきたものじゃない。表にならなかっただけで、キミの身体の中に元々秘められていた可能性だ」
「では、何かをすれば、現実でもこの羽色に変えられるってことか!?」
「ううん、残念だけどそれは無理。既に違う色になってしまったキミは、どうしたってその姿にはなれないよ」
「そんな……っ!?」
「早まらないで。キミをその姿にはできなくても、違う形でその姿を外に出すことはできるんだ」
 メタモンの小さな瞳が、怪しく光った。

「具体的に言おう。タマゴに受け継がせればいい」

 …………!?
「キミの血を受け継いだ息子が生まれたら、その仔を鍛えて進化させれば、きっと今のキミによく似た綺麗な羽と肉腫を持つケンホロウになるはずだよ。キミが割るべきなのは鏡じゃない。タマゴの殻なんだ」
 さっきの伝説の鏡云々は、この台詞につなげるつもりだったようだ。どこで話が逸れたんだか。
「どうなんだい? 親として、綺麗な羽を持つ息子を作るのではダメなのかい?」
 問われた私は、自らの紅い鶏冠を、翠の腰羽を見渡す。
 この色彩を、息子に継がせる。
 その為に、現実の姿で――
「……無理だ」
 そこまで考えて、やはり私は首を横に振った。
「どうして……?」
「違う! ダメじゃない。嫌なんかじゃないんだ……だけど無理なんだ、できっこないんだよそれは!!」
 結局、現実の私に希望なんてなかった。希望なんて、持てるわけがない。
「だって、タマゴを作る為にはつがいを作らなきゃいけないんだぞ!? あんな醜い私なんて、誰も好きになってくれるワケがない! タマゴを求めたって、フられて惨めな想いをするだけに決まってるじゃないか……っ!!」
 打ちひしがれる私に、メタモンは優しく和らげた声で話しかける。
「あのね、それだったらいい方法が……」
 ふと口を閉じ、考え込むような仕草の後、メタモンは口調を引き締めた。
「ううん、それじゃダメだよね。キミが自分を嫌われてるなんて思ってることが、一番の問題なんだ」
 ビシッと伸びたメタモンの身体が、指を差すように私に突きつけられる。
「謙譲だったら美徳だけれど、キミのは違うよね。他の奴がキミをどう思うかを、キミ一羽の価値観で勝手に決めつけてるだけでしょ」
「私の価値観って、だって、これは私の姿の問題で……!?」
「キミが自分の姿をどう思うか、ならキミの問題だけど、他の奴がどう思ってるのかはそいつの問題だよ。それをキミが判断しちゃうのは、謙譲とは正反対の傲慢ってものさ」
「……っ」
 思いも寄らぬ厳しい糾弾が私をたじろがせた。メタモンはさらに続ける。
「実際、容姿について悪口を言われたりは?」
「あ、それはよくブサイクって。母や野生時代の喧嘩相手からだけど」
「マメパトの頃の話でしょ!? 今話してるのケンホロウの羽色についてだよ関係ないよね!? 」
「オニロさんや親友のエンブオーとかは、綺麗になったって言ってくれてるけど、どう考えてもお世辞だし」
「そこは信じてあげようよ!? どっちみちつがいの相手とは関係ないし!? キミの容姿が異性の気を惹けるかって話をしてたんだよ!? 元々その為の羽色でしょう!?」
 ツッコみ疲れたらしく、メタモンはぐったりと床に体を伸ばして、眼だけをこちらに向けた。
「言われてないんだね?」
「…………うん」
 進化して以来、向こうの世界での仲間以外のポケモンとの関わりは避けてきた。嘲笑われるのが怖かったから。
「どうやら、タマゴの殻より前に、キミは自分を閉じ込めている壁を割らなきゃいけないようだね。まずはありのままの自分を好きになることから始めてみてよ」
「勝手なことを……っ!」
 やはりメタモンに、私の気持ちなんて分かるわけがない。
 いつでも他の姿に変われる、メタモンになんか。
「そうだね。ボクの言っているのは、キミ自身の気持ちを無視した無責任な提案だ。だけどこのままじゃ、キミのその姿は夢のままで終わっちゃうんだよ。せっかく綺麗な羽なのに、勿体ないじゃないか。それはキミも思っていることでしょう?」
 嘴を噛み締めて、頷くしかなかった。私だって好きこのんで死にたいなどとは思ってないし、本当に叶うならこの羽を現実に持ち帰りたいのだ。
「ドリームワールドは終わっちゃうけど、人間たちはもう次の通信世界を構築してる。この部屋に並べられたぬいぐるみが作っている数字は、次の通信世界で使う連絡番号(フレンドコード)なんだ。キミの家のは、連絡番号が記されている他の場所を示していたっけね。BV(バトルビデオ)FC(フレンドコード)って」
 うちでは私の為にゴシックなドレッサーを置いていてくれたから、ぬいぐるみで連絡番号を全部書くスペースが足りなかったのだろう。オニロさんの心遣いが心に沁みる。彼のもとにだって、帰りたくないわけじゃない。
「連絡番号を交わしたトレーナーのポケモン同士なら、遠く離れた場所にいても通信世界でいつでも会えるようになるらしい。うちのソーニョさんは、もうオニロさんとの登録を済ませてあるよ。自分を好きになって、それでもやっぱり恋がうまく行かなかったら、その時はボクに文句を言いにおいで。愚痴にぐらい付き合ってあげるからさ」
 曖昧に頷いたのを肯定と受け取ったのだろう。安堵の吐息を漏らしてメタモンは身を起こした。
「くれぐれも言うけど、ボクに会いに来るなら自分のことは好きになっておいてよ? うっかりボクが現実のキミの姿に変身しちゃっても平気なように、ね。それじゃ、頑張ってね」
 ゆらり、とメタモンの姿が揺らぎ、その場から消え失せた。眼を覚まして、向こうの世界へと帰ったのだろう。
 代わりにグッタリと力なく腰を床に落として、私はしばらくメタモンの言い残した言葉を考え続けた。

 ○

 自宅へと戻り、ゴシックなドレッサーの前で羽を休める。
 鏡に写った私。深紅の肉腫と翠の腰羽も鮮やかな、この世の誰よりも愛しい私。
 起きたらもう、私の姿として愛でることはできなくなる。メタモンのいうとおりにタマゴに受け継がせるとしても、息子が生まれるとも限らなければ美貌がそのままに受け継がれるとも限らず、首尾よく運んだとしてもその姿に会えるのは息子をケンホロウまで育てた後。それまでずっともう、この姿と会えることはないのだと思うと鳩胸が切ない。ドリームワールドじゃない普通の夢の中でも、この姿になれるだろうか。それすら叶わないなら、やはりいっそこのまま……

『頑張ってね』

 メタモンが最後に残した言葉が、ふと鏡の中の自分から囁かれたような気がした。
 いつかこの姿に育てられるよう、未来の息子が励ましにきてくれたのだと思えた。
 そんな綺麗な顔にうながされたら、立ち上がるしかないじゃないか。
 たとえどんな厳しい道でも、この美貌を現実にするためなら。
 鏡に向かい、私は脚を振り上げる。
 一緒に上がった向こうの脚と、握り締めた想いを、願いを、鏡越しにぶつけ合った。
「待ってるぞ。きっと私のところに、産まれてこい!!」
 夢の鏡は割れなかったが、私の中で伝説の鏡とやらが砕け散る音が、確かに聞こえた。

 ○


 大好きなナナシの実をひと粒掴んで、虹の架け橋を渡る。
 雲の果てに現れた夢島の道は、綺麗に整備された公園、夢パーク。
 入り口に掲げられた色とりどりの風船や、道の脇の生け垣や花壇を飾る花々の間を飛んでいると、まるで去り行く私をこの世界が笑顔で見送ってくれているかに思えた。
 さようなら、ポケモンドリームワールド。
 私をオニロさんと出会わせてくれてありがとう。
 こんな素敵な姿でいさせてくれてありがとう。
 本当に、本当に楽しかった……!!
 やがて辿り着いた夢の木の麓。太い根の狭間にポッカリと口を開く樹洞の中に、運んできたナナシを置いた。
 これが正式な夢の木へのお参り。これまでは捧げ物のない略式だった。正式のお参りをしてしまうと、一度眼を覚ましてからまた眠ってくるまで夢島に渡れなくなってしまうから。
 もう叶わない願いの代わりに、新しくできた願いを祈る。
 この綺麗な羽が、息子に受け継がれますように……。
 瞳を閉じて、深く念じた、それが私がこの世界で見た、夢の最後の記憶になった。

 夢世界に残っていた他のポケモンたちも、それぞれに説得されて全員無事に覚醒し、ポケモンドリームワールドは円満な終焉を迎えた。
 ここで結ばれたたくさんの絆は、次の時代へと受け継がれていく――……。

 ○

「おはよう、フィシア。いい夢は見れたかい?」
 我が儘でゲームシンクに何日も居座って、散々迷惑と心配をかけたであろう私に、しかしオニロさんは怒ることなく優しい言葉で迎えてくれた。
「うん、とても楽しい夢だったよ……ありがとう」
 だから私も、謝るよりお礼で返す。本当に私は、幸せ者なのだから。
「お腹空いてないか? ポケモンフード持ってこようか?」
「いや、向こうで木の実をたくさん食べてきたから……それより、さ」
 軽く身体を揺すり、付着していた埃を振り落としてから、私は言った。
「羽繕い、したいんだ。手伝ってよ」
 一瞬目を丸くしたオニロさんの顔が、厳しくしかめられて、
「鏡、壊すなよ」
 すぐに苦笑へと塗り替えながらも、しっかりと念を押したのだった。

 ○

 風呂場の椅子に腰掛けたオニロさんの前に座り、彼に身を預ける。
「今度行く地方では、ポケモンの手入れが発展しているって聞くからね。今の内にしっかり練習して、恥ずかしくないようにしないと」
 柔らかなブラシが、私の首を撫で下ろす。この心地良さが更に磨かれるかと思うと、実に楽しみではある。
「やっぱり大分寝癖がついちゃってるな……すぐに元の綺麗な羽に直してやるからな」
 またそうやってお世辞を言う。ブラッシングの腕は信頼してるけど、どんなに丁寧に梳いたって、私の羽が綺麗になんてなるはずないのに。
 石鹸置き用の台に立てかけられた、大きな鏡を見る。元々風呂場の壁にかかっていた鏡は私が粉砕したから、後付けで置いてあるものだ。
 あぁ、やはり醜い。どうしようもなく醜い。
 ハトーボー時代でさえ深紅の肉腫が眉を彩っていたというのに、それすらない銀灰色だけののっぺりした顔。
 飾り気のない貧相な首回りの羽。
 足の付け根から腹を覆う羽毛に至っては、枯れ葉か朽ち木を思わせるような暗い茶褐色。
 夢の中でこの身を飾っていた華やかさなど欠片もない、ムカつくほどの地味臭さ。鏡を蹴り破りたい衝動を抑えるだけで精一杯だ。いったいどうしてこんな、ハトーボーにすら劣るみずぼらしい姿に進化してしまったのだろう。
 こんな醜い私が、本当につがいを得られるのか?
 それは私が判断することじゃないってメタモンは言ってたけど、では見る側の――雄鳥たちの感覚なら、こんな姿にでも魅力を感じてくれるものなのだろうか? 雌である私にはまるで理解できない。
 だけど この身体にもあの綺麗な羽が眠っているのなら。
「羽繕いし終わったら、どこかに遊びに行く?」
「あぁ。それじゃライモンシティまで飛んでくれるか。南にある商店街を見て回りたい。美容室とかもあるから、フィシアをもっと綺麗にしてもらえるかもな」
「そう……だね。うん、行こう」
 鳩胸を張って、街を進もう。
 きっとできる。これまで鏡に映った醜い私に向けていた闘争心を、そんな私を嫌いな私へと向け直せば。
 夢を現実にするその日まで、私なんかに、私は負けない。



 ○

「おはよう、エスペリオ。最後のゲームシンクご苦労さま」
 寝床の上で薄紫の身体を柔軟に伸び上がらせたメタモンに、私は労いの声をかけた。
「おはようございます、ソーニョさん。ただいま戻りました。それで、オニロさんの方は?」
「さっき連絡があったわ。彼のケンホロウちゃん、起きる準備に入ったって」
「それはよかった。言うだけのことは言ったけど、起きるって確約もなしで置いてきちゃったから、気が変わってやっぱりシステムダウンまで居座るとか言い出してたらどうしようかと思ってたよ」
「ねぇ、一部始終Cギアで見てたけどさ、」
「あんまりポケモンのプライバシーを覗かないでよ。恥ずかしいなぁ」
「どうして、ケンホロウちゃんに教えてあげなかったの?」
「何を?」
「もう、とぼけちゃって。エスペリオなら簡単に、彼女の夢の姿を現実に持ち出せたってことを、よ」
 返答は、悪戯っけを含んだ微笑み。
 次の瞬間、薄紫の姿が大きく膨れ上がり、違う形を成していく。
 すらりと長い首、ピンと後方に伸びる黒地に銀縞の尾羽。
 そして翠玉の煌めきを持つ腰羽と、燃えるような深紅の肉腫を持つ鳥ポケモン。
 Cギアの画面で見た、オニロさんのケンホロウとまったく同じ、華やかに美しい雄の姿だった。
「記憶からの変身だから、細部までは再現しきれてないかもだけど」
「でも、現実の彼女を前にすれば、完全にその姿を再現できるわよね? 当たり前よね。それができなきゃ、メタモンが他のポケモンとタマゴを作れるわけがないもの」
 肉腫の下に苦笑を浮かべ、翼の付け根を竦ませるエスペリオ。否定しないということが、答えのすべてだった。
「それができるって教えてあげさえすれば、ケンホロウちゃんはふたつ返事で跳ね起きたでしょうに。後は育て屋に行って、雄の仔を産ませてあげたらあなたもお役御免。万事解決だったでしょ」
 恐らく、一度『いい方法がある』と言おうとしていたのはまさしくこの手だったはず。だけどエスペリオは、その解決案を自ら却下した。
「起きる気にさせるだけならそれで良かったんだけどね。本当に彼女の悩みを解決するなら、彼女自身の容姿に対するコンプレックスを治さなきゃいけなかったんだ。あんなの、ただの勘違いなんだから」
「勘違い?」
「うん。人間の感性では、分からないかもしれないけどさ」
 言っている間に、腰羽の翠が色褪せて枯れ果てる。
 肉腫もすっと消えて、銀灰色のハート型に縁取られた顔が露わになった。
「夢の姿から逆算して、現実の彼女を再現してみた。どう思う、これ?」
「どう、って……そんな真似ができることからしても、彼女の前で雄の姿になることなんてあなたにとってはお茶の子さいさいだったってよく解ったけど」
「いや、そこじゃなくて」
「冗談よ。綺麗かってことでしょう? そうね。雄のような華やかさは確かにないけれど、顔のハート模様は可愛いし、嘴も鋭くて格好いいし、腰の羽色が主張していない分、胸から上のボディラインがくっきり映えてて……これはこれで綺麗なケンホロウだと思うけど?」
「人間としちゃそんなところだろうね。でもね、どんなポケモンの性的基準にも合わせられるメタモンとして言わせてもらうけど、一般的な雄の鳥ポケモンの感性からすればさ……」
 脚を軽く交差し、銀灰色の翼を優雅に広げて、エスペリオは言った。

「絶世の美姫なんだよ、彼女」

「ぜっ……!? そ、そこまでなの!?」
 さすがに絶句した私の前で、銀のハートが縦に揺れる。
「うん。飛んでて彼女の姿を見かけたら墜落の危険があるレベル。生涯を言い交わした奥さんがいる奴なら、別れを真剣に考えるだろうね。もちろん、ボクの再現が正しければだけど」
「そうなんだ……だったらそれを教えてあげたら良かったんじゃ?」
「ダメダメ。オニロさんたちが綺麗だって言ってもお世辞と思い込んじゃってるんだもん。ボクが何を言っても彼女自身の、雌としての感性で否定されるだけだよ」
「そうね……ケンホロウちゃん自身が雌として綺麗だったからこそ、彼女は鏡に写した自分に、雌として闘争心を燃やすあまり醜いと思い込んじゃったわけね。そして夢の中では、その美貌を下地にした雄の姿になったから、それを鏡で見てメロメロになっちゃったんだ」
「まったく、ムシャーナも罪な悪戯をしたもんだよ。まぁ、タマゴから産まれるだろう雄の羽色を餌にして自分に自身を持つよう言い含めたから、彼女もこれからは周りの視線から逃げずに向かい合えるでしょ。散々ちやほやされて、自分がどれだけ雌として魅力的だか思い知ればいいさ。その事実をどう思うかは彼女次第だけど」
「実際、彼女次第の問題なのよね、この先も。だってそんな綺麗な雄の姿に抱いた恋を諦めての恋ポケ探しだもの、雄の容姿への要求、天井知らずで高くなるわよ? まして息子の容姿を求めてるんだから妥協なんてできないし、簡単にいい相手が見つかるとは思えないけど」
「その場合どうすればいいかは、彼女に言ってあるよ。『恋がうまく行かなかったら』ってね」
 再び、エスペリオは腰に翠をまとい、顔に深紅の花を咲かせた。
「あ、そっか。そこであなたの出番なわけね」
「そういうこと。言った分の責任は取らないといけないもの。そのときは育て屋の手配お願いね」
「任せて。なるほど、だからケンホロウちゃんに、自分が綺麗だってことに気づかせなきゃいけなかったのね」
「うん…………」
 口ごもるようにして遠くを見つめたエスペリオの、雄のケンホロウの姿をした背を、そっと優しく撫でて私は言った。
「でないと、その顔を〝伝説の鏡〟として割られちゃうもんね」
「…………うん」

 ○完○


*1 ドラゴンクエスト2より、ラーの鏡。

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Last-modified: 2018-09-28 (金) 07:42:19
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