ポケモン小説wiki
鋼の救助隊

/鋼の救助隊

注意! この物語では流血、暴力、死などを取り扱っております。


written by beita



 救助隊。それは困っているポケモン達を助けてあげる団体のことを指す。

「森でケガをしたので助けに来て欲しい」
「あの山を越えたいんだけど、手伝って欲しい」
「あれが欲しいんだけど、洞窟の中にあって取りに行くのが怖いから行ってきて欲しい」

 など、様々な要望に答えてあげている。
もちろん、相手の望み通りのことをしてあげられれば、救助隊はそれ相応の報酬を受け取る。
行ったことに見合った報酬を要求する者も居れば、大したこともせずに高い報酬を求めてくる奴もいる。
どんな難しいことでもやってくれる救助隊もいれば、簡単で安全な依頼しか受けない連中も居る。
報酬は現実の範囲内で、どれ程のことまでやってくれるのか。
それが、救助隊の格を表すと言っても過言ではないだろう。

 今からお送りするのは、そんな沢山居る救助隊の中の一つ。“スティール”の名を持つ優秀な救助隊のお話である。





「どうもありがとうございました。これはお礼の1000ポケです」
「いえ、とんでもないです。今後もしまた何かあれば、“スティール”をよろしくお願いします」
俺はそう言い依頼主から報酬を受け取ると、深く頭を下げ、その場を去ろうと歩き始めた。
数十歩程歩いた所で俺はふと目線を空へと向ける。
今日も相変わらずの晴天。雲はせいぜい空の一割を占めるぐらいだろうか。
青と白に加えもう一色。銀色が視界に混じる。
「ハド。お疲れ」
その銀色は空を舞うエアームドのロイだった。ロイは俺に気付くと一声発し、俺のすぐ目の前に着地した。
「まぁ、そこまで厄介なもんでも無かったさ。さて、じゃあお願いするよ」
俺はそう言うと、ロイの背中に跨る。
お願いするよ。とは基地まで飛んで帰ってくれ。ということだ。
ロイは俺がちゃんと背に乗ったことを確認すると、大きく翼を広げ、その場を飛び立つのであった。


 数分後、俺達は基地まで帰ってきた。
基地といっても、そこらへんの木や石を組んで作ったようなまさに子どもの『秘密基地』みたいなもんだ。
外見はそういってしまえば終いだが、内装はそれなりにしっかりしているつもりだ。
仮にも仕事の事務所的存在にあたる場所だからな。
鍵のついたロッカーや、依頼の資料等を保管しておく棚。後は俺の寝床。
必要最低限の物しか置いてないが、凄い狭い。俺達が二匹の救助隊じゃ無ければこんな基地、成立しなかっただろうな。

 そんな基地だが、別にこれが救助隊の全てを決める訳じゃない。
まぁ当然いい基地を持つ隊の方が優れた救助隊であるケースは少なくない。
だが、さっきみたいに普通に依頼は来るし、俺達もそこまで不自由していない。

 報酬でもらった金を保管しておくため、俺とロイは基地の中へと足を運んだ。
金庫に1000ポケをしまい、よく入れてせいぜい三匹が限界であろう空間に俺は腰を降ろす。

 こつこつ地道に頑張ってきたお陰か、俺達“スティール”はかなり周りから評判がいいらしい。
いい噂が広まれば、当然それだけ依頼も増える。
今では一日に複数の依頼をもらうことだってある。
そのせいで最近はかなり忙しいが、俺は楽しんでやっている。
さっきの依頼を終えた俺は数日振りに『依頼ゼロ』の状態になる。
「ロイ。ちょっと俺休むわ。誰か訪ねて来たらすぐ起こしてくれ」
この時間を無駄にしたくない、と俺は寝床に横になった。
「分かった。ゆっくり休んでて」
そう言い残し、ロイは基地から出ていった。

 さっきの依頼はほとんど俺一人で済ませてしまったから、ロイは随分退屈したんだろうと思う。
誰か訪ねてきたら呼んでくれと言ったのも、ロイは人見知りが激しく、依頼者が来てもロクに会話ができないからだ。
救助隊にとって致命的かもしれないが、代わりにあいつの戦闘能力と飛翔力は文句のつけようが無い程だ。
表立ったことは俺が、裏側ではロイが役割をこなしている、てところか。

 夜はちゃんと必ず寝るようにしているが、忙しいとやむを得ず睡眠時間が削られてしまう。
ここ数日多忙だった俺にひとときの休息が訪れる。
やっぱり疲れが溜まっていたのか睡魔は驚く程すぐにやってきた。
寝床に横になって数分、俺は深い眠りに落ちていった。



「ハド、起きて。依頼が来た!」
突然耳元に爆音が響く。
ロイが俺の耳元で叫んだのだが、これ程の至近距離では止めてくれよ……。

 依頼が来たら起こしてとは俺が言ったことだから、眠りが妨げられようとも仕方が無い。
体が寝床を望んでいたが、俺はサッと起き上がり、外へと足を運んだ。

 目の前にはロイともう一匹、大きなポケモンが居た。依頼者はリングマだ。
「失礼致しました。私が“スティール”のリーダーを努めさせています、ハドと申します。今日はどういった用件でいらしたのでしょうか?」
寝起きにも関わらず俺は眠そうな素振りを一切見せず、挨拶を行った。
「俺はワグマと申す者だ。最近、娘のヒメの様子がどうもおかしいんだ。無理なことをお願いするかもしれないが、その原因を突き止め、解決していただきたい」

 大概は〇〇だから××して欲しい、と原因が分かっている上でそれをどうにかさえすれば良いのだが、原因から探すとなると骨が折れそうなものだ。
忙しい時期にこう言われるとたまったもんじゃ無いが、幸いなのか丁度暇を持て余していた。
俺はやり甲斐がある、と解釈し、ワグマに答えを出した。
「もちろん引き受けましょう。それでは、今から娘さんに会わせていただいてもよろしいでしょうか?」
すっかり仕事モードに切り替わった俺にワグマは若干驚いたようだ。
「お前達はそんなに早く動いてくれるのか!?」
多分、ワグマは俺達が普段忙しいことを知っているのだろう。
まぁ、確かに一日二日待ってもらうことも少なくは無い。
「いえ、今は丁度依頼が無くて、退屈していたのですよ」
俺は正直に現状を告げた。
もともとすぐに来てもらえると思っていなかったワグマは急かす様子は全く見せない。
「そうか、まさかすぐに来てもらえるとは全く思っていなかった。せっかくの休日を邪魔してしまったみたいで申し訳ないな」

「いえ、お気を使って頂かなくて結構です。では、娘さんに会わせてもらってもよろしいでしょうか?」
「あぁ。では俺の後に続いて来てくれ」
ワグマが歩きだすと、俺とロイはその後ろに続いて歩きだした。

 俺は依頼のためにあっちこっち行ってるからこの辺りの地理には詳しいつもりだった。
俺達が今目の前にしているのは一軒の大きな屋敷。
石やらが綺麗に積まれていたり、鉄部品も多数使われている。
基地からはそう遠く無かったのだが、俺はこの建物の存在を全く知らなかった。
ワグマは鍵を取り出すと、門の錠を外した。
門を押すと、ぎぃ、と重たい音を鳴らしながらゆっくりと開いた。

 俺達三匹は玄関扉の前で足を止める。
「では、入ってくれ」
少し間を置いてワグマが言うと、玄関のノブを捻り入館を促す。
ワグマに言われるがままに、俺達は屋敷の中へと足を踏み込んだ。

 外装から予想は出来ていたものの、いざ、その広さを目の当たりにすると言葉を失った。
俺もロイもつい依頼のことを忘れてあちこち目が移ってしまう。
俺達にもこんな基地があったらいいのにな。

「……ハド殿、よいか?」
ふと気付けばワグマが困った様子を見せていた。
「あ、申し訳ありません」
しまった、と俺は我に帰る。
情けない話だが、庶民の俺達はこういう所に来てしまうと仕事中にも関わらず気が上ずってしまう。
一旦落ち着き、再びワグマに続いて歩く形になる。

「こちらが私の娘、ヒメの部屋だ」
そう言うなりワグマは部屋のドアを二三回軽くノックして開ける。
俺は無意識の内に集中を高めていた。
部屋はとても娘一匹では使い尽くせない程の広さで、マットにソファ、ベッドの様な物が一通り揃っている。
そのベッドの上に可愛らしくちょこんと座っているのはヒメグマ。彼女がワグマの娘なのだろう。
自室の扉が開けられたにも関わらず、ヒメは全く反応を示さない。
様子がおかしいと判断するには十分だろう。
「最近ずっとこの様子なんだ。何に対しても無反応、無関心なのだよ」
「ちなみに、かつてはどのような娘さんでした?」
「よく楽しそうに笑い、私ともよく話してくれてたんだがね」
そんな明るい子がこうなってしまうなんて……一体何が。
俺は疑問を突き止めるべく行動を起こした。
「少し娘さんと話をさせて頂いてよろしいでしょうか?」
「むしろお願いしたい。よろしく頼む」
ワグマはそう言うと、すっと部屋から出ていった。

 ……さて、どうしたものか。

「こんにちは。俺はハドって言うんだ。君は?」
一応挨拶はしてみるも、ヒメからは一切反応が無い。
俺は彼女と目を合わせて話そうとベッドの前でしゃがんだ。
ヒメは俺から目をそらそうとまではしなかったが、明らかに焦点が合って無い。
「何があったか知らないけどさ、本当の自分を押さえ込んでいたら人生もったいないぞ」
俺には他者の波動を感じ取る能力がある。
生きている限り体から波動は出る。
波動から体調や精神状態を知ることだってできる。
俺は普通に話しつつも、彼女の波動を探っていた。
「まぁ、心配しなくても数日後にはまたかつての様に笑って暮らせるさ」
俺はそう言いながら立ち上がる。
彼女の波動から大体の事情はつかめた。
俺は簡単に別れの挨拶をし、部屋を後にした。

 ヒメの部屋から出ると、ワグマに加えもう一匹、フーディンが立っていた。
俺の姿を見てワグマが話し掛けてくる。
「もう済んだのかね。早いな」
「はい。他者の気持ち、感情を読み取ることは私の得意分野ですので」
あえて俺はここで全てを語らなかった。

 俺の波動を感じ取る能力は物心ついた時には既に備わっていた。
俺の昔住んでいた村の連中だったらほぼみんな知ってたかもしれない。
でも、その村は……もう無い。とある凶暴な連中によって滅ぼされてしまったんだ。
言葉にすることすら出来ないような惨劇。俺が生き延びたのももはや奇跡の域だろうな。

 俺は自分にこの能力があることをロイ以外には教えていない。
要するに、この世で俺とロイ以外は能力に関しては何も知らない。
だから俺はヒメの感情を読み取った手段については一切言わなかった。その方が色々と都合も良いしな。
……あと『原因が分かった』とは言っていない。

 だってそれは今から確かめるから。

 俺が話し終えると、今度はフーディンの方から話しかけてきた。
「初めまして。わたしはディーニと申します。ここでお嬢様のお世話をしております。ワグマ氏から話は聞きました。どうやらお嬢様を助けてくれるようですね」
「助けるとは大げさな……。あ、私は“スティール”という救助隊のリーダーを努めさせていただいています、ハドと申します」
救助活動を始めてからこの挨拶はもう何度目になるのだろうか。
俺はこの挨拶の僅かな間にもディーニの違和感に気付いた。
とりあえず、それは今は置いといて俺はするべきことをしようか。
「ワグマさん。少しよろしいでしょうか?」
俺はワグマを呼ぶと、ロイやディーニからには聞かれない程度に離れ、ひっそりとワグマに言う。
「今夜、彼女の部屋に一晩中居させてもらってもよろしいでしょうか? もちろん、ディーニさんや他の方には一切内緒で」
「それが解決に繋がるのなら反対する理由は無い」
「ありがとうございます」
そうと決まれば、夜までここにいる理由は無くなる。
一度基地へ帰ろうか。

 俺はもと居た場所まですたすたと歩き、言う。
「では、とりあえず今日はこの辺りで失礼致します」
「そうか、ではまた明日よろしく頼むよ」
ワグマがさっきの話が無かったかのような態度をとる。ディーニには悪いけど、あんまり俺の行動を知られる訳にはいかないから、内緒の方向で。


 依頼者達の屋敷を後にすると、俺はロイには頼らずそれぞれ自分の足で基地へと向かって歩きだす。
ロイに飛んでもらうにはむしろ気の毒なくらいの距離なんだし。
「ねぇ、ハド」
屋敷の中では終始無言だったロイが久しぶりに言葉を発する。
「どうした?」
「小さい声で何話してたの?」
ロイには内緒にする必要は無かったんだけどな。
とりあえず、ディーニには聞かれたくなかったからああやったんだ。
「あぁ。今夜もっかいあそこに行くんだ」
だからロイには簡単に打ち明けた。
「何のために?」
「ヒメに元気が無い原因を確かめるために。ロイは寝てていいぞ」
そんな会話をかわしていると、もう基地が見えてきた。





 日が落ちて夜にさしかかる頃、俺達は基地を後にした。
ロイに近くまで乗せてもらい、そこからは俺の単独行動だ。
行儀が悪いことこの上無いが、敷地内へは塀を越えて侵入させてもらった。
波動が感じ取れるということは生物がどこにいるかが分かるということでもある。
だから潜入任務もお得意なものだ。
近くに誰もいないことを確認しつつ、ヒメの部屋の窓際まで忍び寄っていく。

 部屋の外壁によりかかったその時。
俺は室内から二つの波動を感じ取った。
一つはもちろんヒメのものだろうが、もう一つは……ディーニに違いない。
何故いるんだ。
俺は思ったが、一先ず様子を伺うことにした。

 しばらく待ってみるものの、ディーニが部屋を出る気配は無い。
それどころか……。
俺は不吉な予感を察した。何故だかよく分からないが、恐らく正体不明の奴らに囲まれてる。微かにだが波動を感じるから間違い無いだろう。
不法侵入はやっぱり駄目だったか……?
一瞬思うものの、ワグマには話を通しているのだから恐らくそういう意味では無
いだろう。
理由は何にせよ、俺は確実に何かの標的にされている。

 マズいな。一度戻るか……。

俺は屋敷の敷地から再び塀を越えて出ようとする。
するとさっきまでは微かにしか感じなかった波動が確実なものへとなっていった。
一、二、三……八匹か。
俺は敵の数を数えながら塀から飛び降りる。
「ロイ。何かいるぞ」
俺は外で待機していたロイに呼びかけ、二匹で戦うことにした。
が、正直、俺は戦闘は苦手だ。
一対一なら相当な実力者じゃない限り負けない程度には腕はたつが、複数を相手になるともう全くダメだ。
ここはロイに頑張ってもらいたい。
敵らしき者達が暗闇の中でも目で存在が確認できる程にまで近づいてきた。
「ハド、何匹いるの?」
ロイは向かってくる連中に対してハドより一歩前に出て、尋ねる。
「8匹」
「じゃ、僕に任せて」

 言い終えるなり、ロイはすごい速度で動きだす。
鋭い翼で一撃で。一匹ずつ確実に仕留めていく。
手伝いたいとは思うが、かえって邪魔にしかならないだろうな。
浅い思考を巡らせて間も無く、ロイが戦いを終える。
「ハド。終わったよ」
見れば分かる。
むしろ、あっけなく倒されてしまったこの謎の連中に同情しそうになる。
「ありがとう、ロイ。……だが、一体こいつらは?」
「さぁね」
スタスタと俺の近くまで歩きながらロイは素っ気なく応対する。
待ち伏せとなると誰かに俺達の行動がバレていることになる。
俺達の今夜の動きを知るものは一匹……。
ますますよく分からなくなってきそうだ。
まぁ、邪魔する奴がいようが、ヒメに笑顔を取り戻させてやるという俺達の任務は変わらない。

 もう一度、外からヒメの部屋の傍まで辿り着いた。
波動を探知してみると、今度は一つ。
それもヒメの波動に違いない。
さて、行くか……。
警戒を解くこと無く、俺は部屋の窓に手をかける。
やはりこういったお屋敷となったら窓一つから違うのだろう。
驚く程静かで軽やかに開いた。


 俺は室内に侵入した。当然ながら室内に明かりなど点いていない。
波動を辿らないとヒメがどこにいるか把握することすら困難だ。
俺は忍び足でゆっくりヒメに近寄っていく。

 そして、寝静まっているヒメの肩をポンと叩く。
ヒメはびっくりして目を覚まし、俺の方を見る。
この反応で俺はあることに気付いた。

 彼女の笑顔を奪った原因……思ったより近くにあるかもしれない。
「ごめんね、起こしてしまって」
起こしておいて無言とは訳が分からない。俺はヒメとの会話を試みる。
「色々質問させてもらっていいかな……? 答えられないものは答えてくれなくていいから」
ふと、初めてヒメと目が合った。暗いからそう見えただけかもしれないが。
もちろん、声にだして回答しなくてもらわなくても俺は察知できる。
が、あくまで相手の返答を促すべく、俺は質問を始める。
「君の名前は……ヒメ。でいいんだよね」
ヒメは数秒の間を置き、小さく頷いた。

 ……なるほど。

 その動作の間に微かに起きた波動の変化から俺は“Yes”以外のあらゆる情報を掴むことが出来た。
この要領で俺は暫く問答を繰り返した。



「ロイ。お待たせ」
屋敷を後にし、待機していたロイに声をかける。
「どうだった?」
「……それは帰ってから説明する。なるべく急いでここを離れよう」
背後を少し警戒しながら、俺はロイに飛んで帰るように言う。
俺達は瞬く間に夜の闇に消えていった。



 基地の中まで戻って来ると、俺は話を切り出した。
「やっぱり、あのディーニだな」
「やっぱりって言われても。僕さっぱりだよ」
結論から述べたが、ロイは全く理解していないようだ。まぁいつものことなんだが。
俺は不満そうな顔をするロイをなだめる様に説明を始めた。
「まぁ、今回も色んな情報を集めながら、みんなの波動を調べた。
すると、どうやら、ヒメはあのディーニに洗脳だか催眠術なんだかよく分からないが、脳を直接支配されていることが分かった。
その証拠に、ヒメの波動は何か別の物が混合していた。その別の物がディーニの波動にそっくりだった。
何が目的なのか分からないが、恐らくディーニが今回の黒幕なようだ」
「じゃあさ。ハドがヒメと話してた時、ヒメに返事させていたのは……」
「かなり確実にディーニと言える」
「マズくない?」
「マズく無くは無い。だが、俺が何も気付いていないフリをしてれば、相手も特に動きを見せないと思う。問題は……」
そう。勝手に有名になった俺自身が問題だ。
波動を感知できるという事実はロイしか知らないものの、世間一般には“頭の切れて行動力のある奴”として認識されているに違いない。
俺が何も気付いていないただのマヌケだなんて、ディーニは思っていないだろう。
「問題は何?」
途中で言葉を切ってしまった俺にロイが突っ込んでくる。
「あいつも俺が何も気付いていないと思っていないだろうな」
「なるほど、ハド賢いしね」

 ちなみに、ロイも決して馬鹿なんかじゃない。多分、世間的には標準的なところだろうか。
だから依頼についての相談も良く受けてもらっている。
では、今回もロイの意見をもらおうか。


 ヒメが笑顔を失くした原因は分かった。明日から何か行動を起こさないとな。
夜はまだまだ長い。俺とロイは明日の行動方針について話し合った。





 翌日。話し合った末、今日の計画はばっちり立てられた。
結局睡眠時間は二時間程度しかとれなかったが、俺は昼寝をしていたし、気にする程でも無いだろう。
俺達は朝食だけすまし、今日も屋敷に向かう。
準備運動にもなるだろうし、ロイに頼らずに自分の足で。
周囲の波動を探知しつつ、俺は屋敷の門の前まで辿り着く。
今、呼び鈴を鳴らせばワグマか誰かが門を開けてくれるのだろうが、その前に、ロイには少しここから離れてもらう。
「この近くには誰も居ないはずだから、作戦通り待機していてくれ」
「分かった」
ロイは門から遠ざかっていく。そして俺は呼び鈴を鳴らす。
数秒後、ワグマが慌てた様子で登場する。
「おぉ……。来てくれたか。……聞いてくれ」
「一体、どうしたんでしょうか?」
ワグマがやけに焦っている。何があったのだろうか? とにかくいい予感はしない。
「ヒメが……居ない」

 え?

 マズいな……。これは予想だにしなかった。
ヒメが何かしら命の危機にさらされる。そのような場面はいくつも想像し、とるべき行動についても策を思案していたんだが。
動揺を必死で隠し、俺は言う。
「落ち着いて下さい。私にも状況がさっぱり掴めません」
「……とりあえず、中へ」
「そうさせてもらいます」
少なくとも精神が揺れているワグマから見れば俺は至って平常にみえただろう。
実際のところ、俺は依頼を上手くやれるか、心配になってきたぐらいなのだが。




 俺は応接間らしき部屋まで案内され、そこにあったソファに腰掛けた。
「その件についてはディーニの方から詳しく話してもらう」
不意にディーニが部屋の中に入ってくる。
テーブルを挟んで、俺の正面に座るとディーニは口を開く。
「おや、もう一匹の方は?」
「今日は来ていません」
まず最初にロイがいないことについて触れてくるが、簡単に返事を済ませておく。
ディーニは特にそこにつっかかることも無く、本題に移る。
「昨晩。私はヒメ譲様の部屋へ訪れました。その時は彼女は普通に読書をなさってました。
そして、私が用事をすませて部屋を後にしようとした時に、彼女の方から私に向かって言ってきたのです。
本に写っている絵を指し“ここ、行ってみたい”と」
そこまで話すと、ディーニは一冊の本を取り出す。

 俺はその本を知っていた。
まさに探検家のためにある本だ。寧ろ救助活動であちこち行く俺が知らないはずがない。
だから中身も大体分かる。あらゆる探検スポットの紹介だ。
綺麗な景色からスリル溢れるな冒険まで。探検家のレベルに合わせて様々な場所が紹介されている。
随分昔からあるのだろうか。その本はかなり汚れていた。
ディーニはヒメの言うページを探し出すと、俺に見せて言ってくる。
「ここです。ここからはそれ程遠くもありません。準備さえすれば決して行けない場所では無いのですが……」
指されたページは、その本ではかなり危険と紹介されている一つの火山だった。
「もしかしたら、そこへ彼女が一匹で?」
「いえ、一匹では流石にないでしょう。……実は今日、屋敷に勤めておられる方が一匹休みを取っておられるのです」

 第三者の登場か……。
これは想定内の範囲だったので、俺は特に動じることも無く話を続けてもらう。
「それでもヒメ譲様がお出かけするとなると心配で仕方が無いのです。場所も場所ですし、ヒメ譲様を捜してきて欲しいのです」

 なるほどな……。相手の目的が粗方掴めた気がする。
だが、これは一度引き受けた依頼。
救助隊としての意地もある。裏で何を考えていようとも、俺は託された任務をこなす。
「分かりました。では至急私が保護に向かいます」
言いながら俺は席を立つ。
「色々と面倒なことになってしまい、申し訳ない」
ワグマが頭を下げてくる。
まぁ、こういう面倒を解決するのが救助隊なんだし、特に気にならない。

 そして、俺は屋敷から出ていった。





 ハドが屋敷を後にして間も無く。
「作戦は……上手くいきましたねぇ」
「何のことだ」
ディーニの不気味な発言にワグマは怪訝そうな顔をする。
「一度あの救助隊に苦い経験を味わってもらおうと思いまして」
くす、と微かに笑いながらディーニは言う。
「言ってる意味が全く分からんな」
「つまり、彼らはこの依頼を“必ず失敗する”んですよ。残念ながら」
回りくどい言い方だが、ディーニの意図することは理解できた。
と同時に激しい怒りが湧き出てきた。
「貴様っ……正気か!? ヒメに手を出したのは……貴様だったのか!?」
「はい。ヒメ嬢のあの状態は私の力によって作り出されたものです。……今更気付いたってもう遅いですね」
「な……何だと」
ワグマが思わず全力で走りだす。もちろん玄関に向かって。
「おや、ワグマさん。私の作戦はまだ終わりではありませんよ……分かりますよね?」
ディーニはワグマの後に続いてゆっくり歩いて追う。
「私をも、排除するつもりか……」
ワグマは玄関扉前で立ち止まり振り向き、身構えながら話す。
「察しが良くて助かります。……では」
ディーニが怪しげに腕を動かす。
ワグマはその直後、弾ける様に扉を開け、外に出た。

ふふふッと気味の悪い笑い声を発しながらディーニが後を追う。




 俺はロイに合流し、今聞いたことを全て話した。

「ハドは来ないの?」
ヒメの救出を完全にロイに任せたことを不思議に思い問いかける。
「俺は……他にすることがある。こっちも相当大事だ」
「分かった。じゃ、行ってくるね」
一刻を争う事態でもあり、ロイはすぐに飛び立った。
「……さて、と」
ロイが飛び去っていくのを見送り、俺は屋敷に戻ろうと体の向きを反転させて走りだす。





「ぐっ……」
ワグマとディーニが戦うものの、一方的にワグマがやられている。
体の至る所から真っ赤な血を流していた。
「流石といったところでしょうか。なかなかの戦闘能力をお持ちで。もっとも、私の前ではその程度の力など皆無に等しいのですが」
体に傷一つ負っていないディーニは巨大なスプーンを念力で振り回しながら言う。
「ち……貴様がこれ程とはな」
半ば諦めているワグマが歯を噛み締める。
「いたぶる趣味はございませんので、おとなしくすれば比較的楽に死ねますよ」
その一言が逆にワグマの闘争心を奮わせてしまった。
吠えるような、よく分からない声を発し、ワグマはディーニに立ち向かっていく。
「やれやれ……男なるもの潔さが大事ですよ」
小さく嘆息をつき、ディーニはスプーンを大きく振りかぶる。
と、その時。



「やっばりそういうことか」
俺はディーニの横から気の塊、波動弾を飛ばした。
放たれた波動弾はスプーンにぶつかり、消えて無くなってしまう。
だが、どうやら攻撃を中断させるには十分だったようだ。
迎え撃つ武器を無力化されたディーニは止むを得ず攻め立てるワグマから距離を置く。
「おや、ハドではありませんか。……ヒメ嬢の命は諦めたのですか?」
今更かしこまる必要も無いかな。と、俺は堂々と答える。
「何も救助隊は俺だけじゃない。あっちはロイが何とかしてくれる」
とかいう俺は果たして大丈夫なのか。
戦闘はそれ程得意じゃないんだが、ディーニとの戦いは避けられそうもない。
「そうですか……。申し訳ございませんが、あなたにも消えていただきます」
ディーニにはそう言うと、標的を俺に変えてくる。
あぁ……強そうだな、こいつ。
俺も全力で立ち向かうべく、集中力を高めた。




 数分後、恐るべき速度で空を切り裂くロイはヒメが向かったと思われる火山までたどり着いた。
近づくだけで焼け付くような熱気に襲われる。
熱さには弱いロイだったが今は弱音を吐いている場合ではない。
目を開けることすら辛い状況の中、ロイはなるべく熱気の浅い上空からヒメを探す。
が、湯気のようなものもたちこめて捜索は思うようにいかない。
いつまでもぐずぐすはしてられない。我慢するしか無いか、と覚悟を決めるとどんどん下降していく。
距離に反比例して熱さは増していく。熱さに強い奴って理解不能だね。とか思いながら必死に堪える。
心の中で愚痴をこぼしながらも、目だけはしっかり働いており、しばらくの探索の末、火口付近にヒメの姿を確認できた。
ハドはロイにこの件を頼む際、こう言われていた。
「どうやらヒメはディーニに操作されてる可能性が強い。彼女の行動は予測不可能だ。だから予測するな」
なるほど、とロイは思う。
もしかしたらいきなりマグマ煮えたぎる火口に飛び込んでいくかもしれないし、何もせず帰路につくかもしれない。
ないしはもっと他の何か……。
予測するなと言われるとかえって色々考えてしまう。ま、とりあえず保護かな。
とロイが更に下降を始めたその時。


 予想してたことが起こった。
起こって欲しくは無かったけど。


 ヒメが平然とした表情で火口へ一歩、また一歩と踏み出し、ついには転落した。
ロイは目が飛び出るぐらい目を見開いて驚き、下降速度を速めた。
もう熱さなんか気にしてられない。
ロイは全速力で火口の内部へと飛び込んでいった。




「ぐあぁっ!」
俺の体が派手に地面を転がっていく。
視界の端っこでワグマが心配そうに見ている。
俺がそこまで強くないとしてもこいつは強過ぎる。
正直、ロイでもどうだろうかと思う程だ。
思惑どおりに展開を運べたと、ディーニは非常に楽しそうだ。
「おやおや、威勢の割に弱いですねぇ」
悔しいが、こいつの実力は本物だ
……が。引き受けた依頼は必ずやり遂げないとな。
重くなってきた体を無理矢理に起こして、俺はなおも立ち向かう。
虚勢と共に全力で走ってディーニに接近していく。
攻撃の射程範囲内に入ると同時にディーニがスプーンで殴りかかってくる。
何度も見せられた攻撃。流石の俺もいい加減どうにでも対処できる。
体と接触する寸前。間一髪俺の波動弾がスプーンとぶつかり合う。
全身全霊をこめた俺の一発はスプーンを激しく弾き、ディーニの念力をも遮って飛ばされていく。
「何!?」
ディーニは驚いた様子を見せるも、俺はすでに攻撃態勢。
この機会を逃してたまるものか……!
俺は自分の骨が折れてしまっても可笑しくない位、拳を握り締めディーニに殴りかかった。

 ……が、その時。

 最初、俺は訳が分からなかった。ディーニがあの状態から反撃してくるはずもないのだから。
まさかと思いつつももう一つの可能性を考えてみる。
……信じられないことにそれが真実だった。
隙を見せたディーニを殴りかかろうとした俺を横から激しく突き飛ばしたのは……

 ワグマだった。

 無防備だったわき腹に猛烈な一撃をお見舞いされ、俺はその場で悶える。
「ふん、まんまと騙されおったな。愚かなハドよ」
痛みを堪え、俺はワグマの言葉に耳を傾ける。
「あまりにも可哀想なお前に全てを教えてやろう。ディーニ、よいな?」
「……まぁ、構わないでしょう」
「最初に。まぁ分かってる思うが、今回の一件は全て仕組まれていたのだ。残念ながらお前がこの任務を成功させることは最初から不可能だったのだ。ヒメを操作し、ディーニを黒幕と思わせることも、俺とディーニの一見本気の喧嘩も、全て我々が作ったシナリオだ。まさかここまで思い通りにことを運べるとは正直驚いた」
「私もワグマ氏の演技の上手さには驚いたものです。……どうです、ハド。あなたの能力をもってしてもこれには気付けなかったでしょう?」

 すらりとディーニが告げるが、今の言葉に俺は更に動揺を見せてしまう。
理由は二つ。何故俺がこいつらの演技を見抜けなかったかということと、もう一つは、何故俺の能力が知られていたのかってことだ。
芝居に気付けなかったことよりも能力を知られていることの方が衝撃が大きい。
バカな。この世の中に俺とロイ以外でこの能力を知っている奴は居ないはずなんだが。
ロイは俺以外とは話さない奴だから、口外してしまうことはありえない。
俺は必死に記憶を思い返し、他に可能性のある奴は居なかったか捜す。
「おや? 何故私があなたの能力を知っているか、そして何故その力を持ってしても私達の演技に気付けなかったか不思議に思っているようですね。
 ……いいでしょう、お話しますよ」

 ワグマが動けなくなった俺の腕を固めてくる。どうせ暴れるつもりは無いのだが……今のところは。
「私もかつて、あなたと同じ村に在住してました。何年前でしょうか……村が襲われたのは。かなりの惨劇でした。恐らくあなたはあなたを除いて村人は全滅したと思っていたでしょう? 村の中ではあなたの噂は広まってましたから。もし生き残りが居れば当然、あなたの能力を知っている者が居るはずですよね」
俺は寒気がした。……一瞬まさかとは思ったが。目の前のこいつ、もしかして……。
「あの頃は私はまだケーシィでした。名前もディーニなどとは名乗っておりません。あなたが気付けなかったのも仕方ありませんね。私はあなたの脳にちょっと細工を施しましたから。けれどもその細工はもう解きました。今なら思い出せますよね? 私のことを」

 俺は自分自身の異常に今更ながら気付いた。今はハッキリと思い出せる。
あの頃はケットと呼ばれていたはずだ。何をしても鈍くさく、周りから疎外される傾向にあった様な奴だ。……それが今のこいつだと?
「私は奇跡的に生還したあの日から、他の村の生き残りを見返してやろうと誓いました。いや、見返すでは言葉が生易しい。私が誓ったのは“復讐”ですね。とはいえ、私自身、生き延びることで必死だったあの時。他に誰が生き残っているかなど知る由も無かった。私の復讐は標的が見つからないまま終わるのかと思った頃です。救助隊の名をあげていくことであなたは私に存在を知らせてしまった。あなたの噂を聞いた瞬間、私の復讐計画は本格化した。
 あなたは昔から何においても周りより秀でた存在だった。そんなあなたに復讐するのは容易では無かった。そこで、ワグマ氏と出会った。私の復讐を達成するには心強い仲間が欲しかったのです。しばらくワグマ氏の屋敷で働かせてもらい、ワグマ氏の信頼と協力を得ることに成功しました。それからが長い道のりです。あなたを貶める作戦などすぐには思い浮かびませんでした。
 失敗は許されません。手間と時間はいくら費やしても構わない、とにかく確実に成功させる術を求めて試行錯誤の日々でした。……まぁ、結果こうして大成功を収めましたが。どうです? 納得いきましたか」
なるほど。まさか生き残りが居たってか。……参った、完敗だ。
「あぁ、それともう一つ。あなたの能力で何故私達の演技に気付けなかったのか、ですね。……それは簡単なことです。私の超能力で波動を作るだけでよいのです。波動の性質については調べ尽くしましたから。恐らく全く見分けがつかなかったでしょう」

 もう諦めてるってのに駄目押しかよ。こいつ、ここまでやるか……。
「あなたは間も無く死ぬことになってしまいますが、暴れたり、言葉を遺したりはよろしいですか?」
選択肢に暴れたりをわざわざ入れてくれる辺り、暴れても絶対無駄だろう。
言葉は……遺させてもらおうか……。
ロイは上手くいったのだろうか。せめてロイが帰ってくるまでは生かして欲しかったな。
あいつの居ないところで俺だけ死ぬのは……嫌だな。
気付けば俺はロイのことばかり思い出していることに気付く。同時に涙が溢れてくる。
「あいつと居ると、楽しかったなぁ……」
掠れた声で呟く。聞き取れてはいないだろうがディーニは俺の口が動いたことに反応したのだろう。
「何か言い残して置きたいことがありそうですね」
俺の言いたいことが文章としてまとまった。
「二つあるがいいか? 一つは……俺の懐に、ある薬が入っている。ディーニ、お前が飲んだ方がいい。それを毒とかなんだとか疑うのは勝手だが、お前が病気を患っている事実は変わらない。早くしないと手遅れになるかもしれない。……俺の能力で“病気を見つけてやった”んだ。頼まれたこと以外でも、解決すべきことは解決する。それが俺のポリシーだ」
俺の言葉に今度はディーニが大きく反応を示す。俺の言動が信じられないのだろうか?
微妙に険しい表情が和らいだ気がしたが、ディーニは口を開く。
「もう一つは……何でしょうか?」
「あぁ、俺の相棒、ロイにだ」
さっき止まった涙がまた流れてきそうだ。俺は必死に堪えながら、人生最後の発言に臨む。
「一緒に救助隊やれてよかった。が、どうやら俺はお前より先に逝っちまうみたいだ。今後お前がどうするかは知らないが、とにかく元気に過ごしてくれ。……今までありがとう」

 ぐすっ……。俺は思わず鼻をすすってしまう。涙もダムの決壊の様に流れ出てくる。
「……もう、よろしいですね」
ディーニが至近距離まで近付いてくると、手を俺の顔の前に突き出す。
ディーニの目元に微かに光る雫が見えた。……気のせいだろうか。
「では、これでお別れです」







 ヒメを背中に乗せ、僕は屋敷へ帰っていく。
遠くからハドの姿を確認できたけど……もはや信じたくない姿だ。
その周りにワグマとかディーニはいないみたい。
僕は何とも言いがたい気持ち悪い感覚に襲われたけど、何か奇跡を信じて、僕は急降下しハドの隣に降り立った。
そこで僕は改めて絶望した。思わず翼で肩をゆすってみたりもしたけど、応答無し。
「ハド!?」

 僕は暫くの間立ち尽くしていた。
無意識の内に僕の頭の中にはハドとの救助活動の日々が思い返される。
初めてハドに会った時。全然話せない僕にも関わらず、優しく接してくれた。
初めて救助活動を行った時。ハドも初めてで緊張したみたいだけど、上手くいって凄い嬉しかった。
初めてハドを背中に乗せて飛んだ時。ハドが僕の乗り心地を絶賛してくれた。
ハドと居ると何でも楽しくて。ハドと居るとどんな困難も越えられそうな気がした。

 でも、……ハドは……もう。

 硬さに自信のあった僕の涙腺もこの時だけは涙を流さずには居られなかった。
「どうしたのー?」
ふと背中から声が聞こえる。そっか。ヒメのことすっかり忘れてた。
どういう訳かヒメは元気になってる。多分これが本来のヒメかな。
帰り際、色々話しかけられて戸惑ったよ。僕、話すの苦手なのに。 
「ヒメ。これからどうする?」
「あたしはー、ロイ君と一緒にいたいー。ロイ君と空飛んだら、すっごい気持ちいいんだー」
ここまで積極的にこられても僕は正直困るんだけど……。
そもそも心境的に今凄い辛いんだよね。

 とりあえず、ヒメをここの連中に返す必要はないよね。
仕返しも兼ねて、ここは娘をさらっちゃおうかな。この言い方は悪い表現だけど。

 それに……彼女、僕と居たいみたいだし。

 ハドをどこかに運んであげたいけど、二匹一緒には乗れないよ。
ごめん、ハド。ちょっと乱暴かもしれないけれど、足で掴んでもいいかな。
絶対傷なんてつけないから。
すっと二、三歩踏み出し、ハドを掴もうとすると。
「あ、その人も運ぶのー? じゃあ、背中はその人に譲らないとねー。あたしはロイ君の脚にしがみついてていいー?」
「……え、と。うん。じゃあ、ハドを背中に乗せるの手伝ってくれないかなぁ」
今の僕はなんだか不思議だ。自然と呼ぶには程遠いけど、彼女と話せてる。
「うん!」
ぐったりして動かないハドを背中に乗せると、僕は軽く羽ばたき、地面から両足を離す。
「じゃあ、足に掴まって」
ロイを背中に、ヒメを足に。僕はスティールの基地まで飛んでいった。







「彼の言っていたことは本当でした。私の中で病気がここまで進んでいるとは。……もう少しで手遅れでしたよ」
「お前、ホントに殺してしまって良かったのか?」
「どうでしょうか。……とりあえず彼らが有名になった理由は分かった気がしましたね」
「あぁ、正直彼らは素晴らしい救助隊だと思う。今回依頼をしてみて改めて分かったが、失うのは勿体無かったのでは」
「分かってます。……では、私はこれで失礼します」



 この事件から暫くの年月が経ち、FLBと呼ばれる救助隊が名をあげていったそうな。


鋼の救助隊 完


・あとがき

 はい。この文章の作者はbeitaでしたー。だからどうしたって感じでしょうか……。
仮面だし文の書き方をちょっと変えてみようと思い、一人称を導入……すら出来ていませんでした。
一人称って難しいですね。いや、もっと基本にもどりましょう。文章を書くって難しいですね。
あ、誤字脱字だけはかなり注意を配ったハズなんですが、どうでしたかね。

 では、内容について。題の通り、ベースは赤青救助隊です。ルカリオの存在について色々作中でほのめかされてましたので、今回、実際に救助隊として動いてもらいました。
作中では書かれてませんが、ハドはルカリオです。……念のため。
書き終えてから気付きましたが、ストーリーの運びがちょっと空の探検隊の「あんこくのみらいで」(←ネタバレの恐れアリ)に似てたかなぁとか思ったりします。まぁ、何とも思わない人がほとんどでしょうか。

 大会では残念な結果でしたが、これからも頑張っていきたいと思います。では、最後になりましたが、これからもbeitaをよろしくおねがいします。


トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2010-04-05 (月) 00:00:00
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.