官能表現は入りませんが、戦闘や流血などの暴力表現が含まれます。
お気をつけてお読み下さい。
written by 多比ネ才氏
もうじき夜を迎える樹海。
風に揺らめく木の葉に炎を灯しながら、太陽はどんどんと沈んでいく頃合い。
「ちくしょう……ターゲットはどこだ!」
「わからん! 反応はすぐ前方からするのだが……」
「さっさと見つけて捕まえるのニャ!」
その鬱蒼とした木々の間を通り抜ける複数の影。一瞬見えたシルエットから察するに、ヘルガーとドンカラスとブニャットだろう。
三匹は、ひたすらに前を目指す。
――と
突然、ヘルガーとブニャットの影が大地に飲み込まれた。
「――な!? ヘルガー、ブニャット!?」
水面のような波紋を作りながら、二匹を飲み込んだ地面はぐにゃりと歪み。
……いや、地面だけではない。
「――――!」
樹も、石も、空気も。ドンカラスを包む周囲のもの全てが、歪んだ。
「な、何が起こっているんだ!!」
急な風景の変貌に、首領の名を冠する鳥がたじろぐ。
そのたじろぎが、命取りだった。
隙を見せたドンカラスに、音もなく飛びかかる新たな影。
それは真紅に煌めく爪を振りかぶり、名ばかりの首領の両翼を切り裂いた。
「がっ――!?」
気づいた時にはもう遅い。風を押す事の出来なくなった翼は、歪んだ景色の中に墜ちていく。
あわれな鴉が最後に見たのは、果ての見えない渓谷の岩肌。
そして、その断崖絶壁の上に立つ、幻影の姿だけだった。
「イル、追っ手は来そうか?」
「ううん。遠くに鳥ポケは見えるけど、森の中にも崖の上にも怪しいポケモンはいなさそうだよ」
確実に百mはあると思われる絶壁の中腹を、紅と灰色を纏うポケモンが進んでいた。
岩から岩へと飛び移り、時折崖にしがみついたりしながら移動するそのポケモンはゾロアーク。ノイスと言う名前のその幻影狐は、自慢の長髪を抑えながらしゃべっていた。
ボリューム感がたっぷりなその髪の中からは、ノイスにイルと呼ばれたポケモン――ゾロアが顔を出していて、しきりに辺りを見回している。
「……あの鳥さんたち、死んじゃったのかな」
「あの鳥って、ドンカラス達の事か? まあ、心配ないだろうな。少なくとも怪我はしてるだろうけど、そこまでヤワな奴らじゃないさ」
俺らを襲おうとしてきた奴らなんか気にしなくていい、とも言って、ノイスは一旦休めていた脚を再び動かす。
ノイス達が追われ始めてから既に一週間。二匹は今、寝床を探していた。
「こんだけデカい山なんだから、横穴ぐらいありそうなもんだけど……イル、どっかに見当たらないか?」
「俺だって探してはいるんだけどさぁ……どこにも入れそうな場所は……って、あ」
「お、見つけたか?」
「うん。ほら、あの、下の方。……周りが大分しっかりした足場になってるから、もしかしたら誰か住んでるかもしれないけど……」
「……行ってみるしかないな」
ノイスは浅くため息を吐くと、その横穴に向かう為に跳躍しようとした。が――
「!! "まもる"!」
「え? ぁ、わあっ!?」
何か嫌な気配を感じ咄嗟に発動させた"まもる"に、何かが衝突した。
ピキィインという鋭い音を発して、二匹を包む護壁が振動する。
(攻撃……追っ手か!?)
嫌な予想を胸に攻撃がきた上の方を見上げると、そこには。
「……ここから、立ち去れ」
黒い覆面を被っているような模様の、青い犬。
一匹のルカリオが、二匹を見下ろしていた。
「貴様のような人間の手によって堕とされたポケモンが、私を捕まえることが出来るとでも思っているのか?」
「は? あんた、一体何を言って……」
「もう一度だけ言う。ここから立ち去れ。さもなくば……」
当惑するノイスをよそに、ルカリオは腕を二匹に突き出した。その手のひらからは淡い光が漏れ、それが徐々に光球を形成する。
「おい! 俺らが何かしたって言うのかよ!?」
「問答無用――」
「お父さん。その人たち、悪者じゃないよ」
……更新した分が短いのは気にしたら負け。
話の続きは考えてあるんだけどなぁι
感想や誤脱字報告を頂けると嬉しいです。
最新の10件を表示しています。 コメントページを参照