作者:DIRI
いつ頃だっただろうか。それはよく覚えていないけれど、僕はとても楽しかったって記憶がある。それがどこで、誰と、どんなことをしていたのか。それを全て思い出すことは出来ない。でも、それでも楽しくて、時間を忘れる程に楽しくて、彼女のことを忘れることは多分ないだろうなって思ってた。でもそれは無理だったんだ。時間って言うのは無情すぎて、記憶を恐ろしい速さで摩耗させていって。僕はいつの間にか、その事を忘れかけていた。でも僕がそれを覚えているかって彼女に聞かれたら、覚えてないって言うしかない。それくらいに僕の記憶はかすんでて、それを呼び起こそうとしても無駄なんだろうな。いつも意識せずにそれを考えてたのも事実なんだけど。だってさ、夢の中とかで、いつも彼女に会ってたもの。会ってたけど、その顔はすっかり忘れてて、誰なのかは全く分からない。ただ、その夢の中で遊んで……とても楽しくて。目が覚めた時の何だかやるせない感じがとっても嫌いで。その夢を見たいなと思ってても、どこか見たくないなって思ってた。素晴らしい思い出ほど大好きで、思い出だからこそ大嫌いで。だからこそ、僕はそれがこの世で一番、大好きだった。……いや、やっぱり好きなのは彼女かな。もう、会うことは多分ないんだけどさ……。
「兄貴~」
「んぅ?」
僕が目を覚ますと、ガーディの顔が目に入った。彼は僕の弟のロッソ。彼には“ロッソ・レヴァタイン・ローゼンバーグ”なんてたいそうな名前がある。かくいう僕も“カルマン・アーヴァイン・ローゼンバーグ”って名前なんだけど。
ロッソが僕を起こす時は何か僕が彼に言った時だ。何を言ったかな……。
「今日草原に遊びに連れてってくれるんだろ? 早くしてくれよ!」
「そうだったっけ……。あぁ……めんどうだなぁ」
最後の一言でロッソにボディプレスを喰らったけど、ガーディのボディプレスなんてウインディの僕にはほとんど効かないんだよ……。分かってくれるかな、確かにお腹に喰らったら息は詰るけどさ。
僕らは適当に木の実で食事を済ませて草原に向かって歩き出した。もしかしたら、草原なんて一匹で行って大丈夫なんじゃないのかとか思ってる人が居るかもしれないけど、それはとんでもなく危険なんだよね。この辺には人間が住み着いてる訳じゃないけど、僕らの毛皮なんかを狙って時々狩りに来るんだ。だから一匹だけで来たら間違いなく殺されて毛皮を剥がれちゃう。そんなの嫌でしょ? だから僕らは兄弟二匹連れで草原に遊びに来てる訳だけど。僕らが遊ぶには草原ぐらいじゃないと狭すぎるんだよね。なにせ僕はウインディ、まだ神速は覚えてないけど、一日で2000キロぐらい走れるから。
……ロッソ、はしゃいでるなぁ……。ハンターが来たら撃たれちゃうよ。あ、転けたし……。でも起きあがるの早いね。ホントはしゃぎすぎだよ?
「兄貴~! バトルしよ~!」
「えぇ~……めんどくさいよ~」
でも弟の言うことだもんね、断れないよ。僕に残されてる唯一の肉親だし。父さんはハンターに撃たれたし、母さんはそれで自殺したし、妹はトレーナーに捕まっちゃったし……。こう考えてみると母さんだけいなくなり方が勝手すぎるんじゃないかな……。
とか思ってる間にロッソがフレアドライブかましてきたよ。勘弁してくれないかな、タイプとレベルの差があるって言っても痛いもんは痛いんだし。まあ喰らってやろうとは思ってないけどね、社会の厳しさってのを教えてやってるんです。遺伝で僕らは色々覚えてるんで。高速移動でかわすことにします。……って懲りないなロッソ、またフレアドライブ? マンネリだよぉ~。めんどくさいし終わらせよっか……。僕もフレアドライブを使ってぶつかり合う僕とロッソ。でも体格差とかあるし、レベルも僕の方が高いし、無論吹っ飛ぶのはロッソだよね。言うまでもないと思うけど。逆に僕が吹っ飛ばされるとしたらロッソは既に風雲児だよね。強い雄程モテるしハンターぶっ飛ばそうとしてる人達多いし。ロッソ自身も人間嫌いだしね。父さん撃たれたから。それにしてもフレアドライブの反動痛いな……。
「大丈夫?」
「そんな訳あるかー!」
言うわりに元気だね……。でも元気なのは良いことだよ、活力ないと野生のポケモンってすぐ死ぬからね。弱肉強食だからね。ああ、そう言えばこの前縄張りに勝手に入って滅茶苦茶怒られたっけなぁ……。知らないよ、僕オニドリルに縄張りがあるなんて知らなかったし。鳥ポケモンなのにさぁ……。そう言えば最近肉食べてないなぁ……。その辺に兎でもいないかな……。
「兄貴~」
「うん? どうしたの?」
「あそこに森あるじゃん?」
森、あったね確かに。でもあの森の噂とか全然聞かないんだよね。みんな森があるのは知ってるのに。結構広いみたいだから移り住もうとする人多いと思うんだけどなぁ。て言うかあの森の名前も知らないぞ? なんて名前の森なんだろう? どんなポケモンが住んでるのかな?
「行ってみよ!」
「ん~」
「嫌なのかよ?」
「いや……行ったこと無い場所に行くのって緊張しない?」
「それがドキドキだろ~! それが良いんだろ~!」
元気すぎもここまで来るとうざったいよ……。
そんなこんなで森に来てますよ。薄暗くて怖いですね。僕オバケとか信じる派なんですよ。いや、オバケが怖い訳じゃないんだけどね。得体の知れないのはやっぱり不気味だと思うけども。オバケが怖いとか言ってる野生のポケモン見たこと無いからね。オバケに出くわしたらぶっ倒すってのが野生のみんなの考えだから。でももうちょっと血の気抑えようとは思わないのかな。オバケぶっ倒すってそもそもオバケに攻撃喰らわせられるのか? そこが疑問なんですけど。疑問であって興味であって、でもオバケに会いたくはないよね。何されるか分かったもんじゃないし。もしかしたら呪われたりとかして……。うぅ、怖い怖い……。やっぱりオバケ怖いのかなぁ……。それとも僕が意気地なしなの?
「……誰も居ないな」
「そうだね」
「探検しよっ!」
待て待て待て、もうひとつオマケに待て。ロッソ、キミの思考回路どうなってんのか一回教えてくれ。そして教えてくれた上で僕の考えをちゃんと脳内に組み込んでくれ、そして理解してくれ。頼む、頼むから。
基本的に、人が居ない、イコール何かある。そう、何かあるんだってこの森。人っ子一人いないとか以前に誰かが足を踏み入れた形跡すらないだろ。やばい、これはやばいぞ。大体野生の勘とか言う奴ならキミの方が研ぎ澄まされてたはずだろ。何故僕のこの背筋に走る悪寒を感じ取ってくれないんだ。いい加減にしないと本気で恨むぞ。マイペースも大概にしろ。僕だっていつものほほんとまったりしてる訳じゃないんだよ、野生の勘ぐらい生きてますよ、だって僕もキミも野生じゃないか。僕の野生の勘が告げてんの。『この森なんかやばいです』って、『さっさと逃げよう』とも言ってるの。分かってくれるかな。逃げないとやばいってのは分かって貰えるかな。でもキミは自分の意見しか聞かないよね。わかってる、分かってるからこそこうやって脳内でぐちゃぐちゃくっちゃべってる訳ですよ。でもさ、ホントにいつかキミ後悔することになるよそれ。自分の意見だけで生きていけるならさっさと独り立ちしてくれよ。……ゴメン、悪かったね。それは僕的に無理だ。だって僕は一匹じゃ生きていけないもの。一匹は寂しくて死んじゃうと思うんだよね。孤独死ってあんまり聞かないけどさ、僕ならあり得るんじゃないかな。キミがそうやってマイペースで自分勝手な事言ってるの見るとすごい腹が立つけど、その腹が立つのもキミと居る楽しさって言うのかな。それであって、ホントに一匹にされるとホントに怖いの、寂しいの、嫌なの。そうですよ、僕は臆病者の意気地なしで弱虫毛虫です。だから一人にされるのはホントに嫌なの。だからこそ言おうと思ってるんだよね。「早くこの森から逃げよう」ってさ。でもそれは結局口には出ないんだよね。何でかって言われるとそれはもうあれですよ、意気地なしだからですよ。弟になんでこんな調子なのかって言われても僕の性分なんだから仕方ないじゃないですか? 僕元からこんなんだし。友達にもこんなんだし。そうだね、身内であっても他人であっても平等ですよ。平等にしか出来ないとも言えるんだけどね。だって怖いじゃないですか怒られたら。怒られて気分のいい人とかそうそういないよ? 僕は無論気分悪いよ怒られたら。でも誰かに八つ当たりとかしないもんね、愚痴もこぼしたりしないもんね。だって怖いんだもん。それでまた誰かから怒られたり愚痴がバレてまた何かされても嫌じゃない? 僕ってホント意気地なしだな。ええ、分かってますよ。でも分かってても変えられないんだ僕のこの性格。意気地なしは意気地なしのまま死ぬんですよきっと。でもそんなんじゃ彼女とかも一生出来ないだろうなぁ。彼女欲しいしなぁ……。僕だってもう18だもん。言っとくけどこれでももう成人してんだよ? 成人してるのに彼女いない歴生きた年月って悲しすぎるよね。そうですよ、僕は悲しい奴です。「ウインディなのに威厳ないよね」ってこの前友達のポチエナから言われましたよ。しかも雌だよ? 「顔は良いのにね」って言われはするけどさ、それって逆に顔以外はダメって事? みんな酷くないかな、僕の人格全否定? いや顔の件があるから全部が全部って訳じゃないだろうけどさ。僕だって一応みんなに優しく接してるし、困ってる人は助けるし、性格もそこそこ良いと思うんだけど? ……あれか、やっぱり臆病だからか。そんな一つの面だけ誇張してみなくても良いんじゃないかな。人には色んな面があるよ。人を見かけで判断するなとは言うけど僕の場合ルックス良いらしいから逆に臆病なこの中身にがっくり来ましたか? 良いじゃん、ギャップって事で良いじゃないか。あれだろ? ツンデレみたいなもんだよね? ツンデレでも顔が良くないとダメって人いるけど僕顔良いんでしょ? だったらなんで……
「兄貴……いつまでボケッとしてんの?」
「ぅえ?」
ああゴメンね、何か考えちゃうとつい別のことに考えが行っちゃうもんで……。そうだね、無限ループになるねこのままじゃ。とりあえず最初のことに頭を戻してと……。
「帰ろう?」
「えぇ~……」
ああ、無限ループは阻止したいけどしそうになるよこの調子じゃ……。結局僕が折れないといけないんじゃないのこの流れってさ?そしてまぁ、案の定ですよ。
「仕方ないなぁ……」
「よ~し!」
頼むから……走らないで……。僕色々と疲れた……。
「だ~れか~!」
いや誰かじゃないよ何してんのロッソ。誰も居ないんだってば。仮にいたとしても絶対ヤバい感じの人でしょそれ。こんな無人の森の中にポツンと居るだけで僕はもうなんか気持ち的にやばいのにさぁ……。
「……?」
あれ?今誰か……。
「? どしたの?」
「誰か居たような気がした」
「マジかよ! おーい! 誰か居る~?」
……返事返ってくる訳ないよね。返ってきてたら僕全速力で逃げるよ。そりゃもう脱兎の如きスピードで。あえて言えば脱兎より速く。兎なんかに負けないよ。
「……誰もいないじゃん」
「勘違いっぽいね」
「しっかりしろよ兄貴」
なんか……弟にここまで言われるとやるせないです……。でももう……慣れてるんだよね……。それはそれでやるせない……。そのやるせなさにも慣れたって言う……。これも無限ループだね。出来るだけ自重します。
「とにかくさぁ、なんか面白いもの見つけるまで帰らないから」
「ロッソ……逆に聞くけどさ、その面白いものってのが見つからなかったら一生家に帰らない気?」
「それはない! それはないけど夜になるまでは帰らない!」
クリアまでは眠らないんだね、わかります。うん、そうだね、自重するね。
「手分けして探そ」
「え? なにそれ? 僕に嫌がらせしたいの?」
「半分くらい」
待て待て待て、もうひとつオマケに……無限ループだね。
「それはない。それはないよロッソ、それはない」
「え~」
「僕は一匹ってのが何よりやだね。嫌の度合いで言えばとんでもなく嫌だ」
意味分かんないね、わかってるよそのくらい。分かってるからこそあえて言ってるんだよね。ロッソには伝わるから良いんです。
「仕方ないなぁ……」
「はい……」
弟に仕方ないとか言われる事ってそうそうないよね? みんなそうだよね? でも残念ながら僕には日常的なことであって、それが何だか悲しい。でも慣れました。ポジティブに生きていきます。
そんな感じで夕方です。ホントに誰もいやしなかったね。怖いよ、雀の鳴く声すらしないんだから。かといって不気味にフクロウが鳴いてる訳でもカラスがカーカー言ってる訳でもないからね。完全な無音だからね。森の外の音すらシャットダウンされてたね。怖いよね、僕じゃなくても怖いって思うよこれ。いや冗談じゃなくってさ……。恐ろしいこの森からはさっさと帰りたいんだけどね、ロッソがまだ夜じゃないとか抜かしてますよ。僕だって怒る時は怒るんだけどな。そう言えばロッソって怒った僕見たこと無いよね。ロッソの目が開いてない時ぐらいしか怒ったことないもんね。その時はまだ12でしたよ。まだ子供でした。生まれたばかりのロッソは可愛かったのになんでこんな風に小生意気に育っちゃったのかな。損する生き方しないで欲しいな。これでも僕はロッソの兄であり保護者だから。保護者だからこそなんて言うの? こう、バカにされてるというか? あれかな、反抗期かな? まだ早いんじゃない反抗期。ロッソ、僕の言うことをあんまりはねつけてたら後悔するよ。と言う訳で、今回はロッソに有無を言わせずに連れ帰ることにします。だって怖いし、絶対なんか出るし。危ない所にいる理由って何? 野生だったらかすり傷がそのまま化膿して身体に菌が回ってそのままあの世行きって事ざらじゃないんだからね。死にたくないでしょ? 死ぬ勇気とか無いよ僕。人生長いんだからもうちょっとエンジョイさせてよ。エンジョイって言ってもそりゃ結婚して子供作って幸せに死ぬって事ですけども。幸せに死なせて下さい。今は幸せじゃないのかとか聞かないでね、幸せだけどそうゆう幸せとはまた違う幸せであって、他人を家族にしてその家族と一緒に幸せを分かち合うって事の方が難しいし幸せも幸せらしいと思うんだよね。そっちの幸せを体感してみたいんだよ。わかってくれよロッソ。僕には僕の人生があるんだ~。
「と言う訳で有無を言わさずに帰る」
「どういう訳で!?」
当然の突っ込みだね。その辺はロッソが弟で良かったと思うね。それにしてもさっきから視線を感じるのは気のせいかな? 気のせいであって欲しいな、いや気のせいであって下さいお願いします。そんな感じで帰ります。いやもうダッシュでですよ。言っとくけどねぇ、ロッソのこと置いて来かけたからね。
夜ですね。
「夜だね」
「夜だよ。何分かりきったことを……」
「言わなきゃいけないかなと思って……」
ロッソなんか呆れてますね。蔑んだ目で見ないでくれるかな。僕泣いちゃうよ? 身内が泣いてるのってかなり居たたまれないの分かってるかな?
「寝よっか」
「うい~っす」
どこの悪ガキですか? ……そうだね、僕の弟の悪ガキだね。うん、可愛いよ。身内だもの。
「ZZZzzzz……」
「…………」
いびきが静かな所はロッソって可愛いよね。何かこう……滅茶苦茶にしたくなるね。いや撫で回してだよ? 僕にそんな趣味無いからね? いたって健全な雄ですよ僕は。雌と寝たこと無いからね。食べちゃったこともないからね。もちろん食べられたことも。悲しい大人ですよ僕は。気にしないで下さい。ロッソがいるから夜中にこっそり抜け出してかな~り離れた所で溜まったものの処理しなきゃいけないんだよね。何てったってロッソはガーディだからね。におい嗅ぎつけられて茶化されるのだけは勘弁して欲しいからね。僕だって雄ですから仕方ないんだよ~。分かってくれるとは思えないんだよね。ロッソはまだ10歳だもの……。って言うかロッソがこんなに簡単に寝てくれることそうそう無いから処理は大体一ヶ月ぶりなんですけどね。溜めすぎですか? いいえ、良く耐えましたねと褒めて下さい。昼間に雌の友達のポチエナから「ウインディのくせに威厳ないよね」って言われたって言ったじゃないですか? それ一昨日なんだよね。その時襲いかけたからね。でも僕踏みとどまったよ。相手小さすぎるし。変な噂立てられるのやだし。「カルマンくんっていきなり雌を襲っちゃうような悪い雄だったんだってぇ~」とか雌に言いふらされた日には僕違う大陸に行きます。それよりあのポチエナ僕と同い年のくせしてなんでまだ進化してないんだよ。確かに僕は家にあった炎の石を触っちゃって11の時に進化しちゃいましたけども。でもまあ、彼女が進化してなくて良かったのかな? あの娘がグラエナだったら襲ってたかも……。ああ、なんか複雑だ……。彼女は彼氏居ないからフリーだったんだよなぁ……僕が仮に付き合ってくれって言ってたらOKしてくれたかなぁ……。多分それはないね、彼女は僕と性格正反対だもんね。幼馴染みだけどもはや遊ぶことすらないしね。それより彼女他の雄と何回か交尾したことあるらしいからね。主導権とられる雄ってのも何だか悲しいじゃないですか? だから僕はあんまり相手にされないんだと思うんだよね。「威厳ないよね」とも言われちゃうんですね。うん、悲しいですからさっさと忘れ去りに行きます。僕だって雄なんだよぉぉ~。
「じゃあ、ま、何かあったらにおいでも追いかけてよ」
寝てるロッソに言いました。聞こえてないこと祈ります。だって何かあっても僕が自分を慰めてる途中だったらロッソびっくりじゃないですか? いや僕の方がびっくりだと思うけどね。でもロッソに今まで僕のにおいを追いかけるって所まで頭働いてなくて良かったよ。後始末はしてるけどにおいは若干残ってるからね。なんのにおいかはわからなくても僕のにおいが濃い場所でそんなにおいしたら滅茶苦茶疑われるからね。「兄貴ここで何してたの?」とか言われたら誤魔化す前に口滑りそうだからね。じゃあとりあえず行ってきま~す。あ、見ないでね?
「……一応散歩って事なのかなぁ……」
散歩ではないね、処理が目的だからね。でも散歩って口実にしとくか。もしものために。まあもしもって事がないようにあの森に行ってるんだけどね。誰も居ないから都合良いでしょ?
「あぁ……夜の散歩……。ったく、一人じゃ楽しくないし、誰か誘おうかなぁ」
誘う人いないね。そうだね、青姦だね。基本的に野生でも巣って言うか家の中で行為はするもんね。さすがに法律みたいなものはないけどそんなもん見た人かなり不快だからね。「真っ昼間から何してんの!?」とかなるからね。野生だと昼夜問わないからね。正直ロッソの時の行為目撃してかなり引いたからね僕は。父さんと母さんがなんかやってたからね。かなりビビったよね。その時僕11だったからね。大体何やってたのかは想像つきましたよ。あの時声出さなくて良かったなぁ、バレてたらロッソ生まれてなかったと思うし。今更ながらグッジョブ、あの時の僕。とか思ってたらまた森に着いたね。夜だと逆に怖くないね。元から薄暗いからね。相変わらず無音なんだけどね。ああ、逆に夜だとテンション上がる……。眠いと性格変わるって言うか妙なテンションになるよね。正直眠くはないんだけどね。僕の場合夜になると狼になります。いや変な意味じゃなくて。
「……ん?」
なんかのにおいが漂ってきました。鼻をひくつかせて何のにおいか確かめてみようと思います。なんて言うか癖だね。ん~、甘い感じ? 甘いんだけど少しなんて言うか……ほわってした……。柔らかい感じの香りですね。うん、今の僕が分からないはずないね。
「雌のにおい……?」
逆にここでわからなかったら僕雄で生まれてきた意味ないね。僕今獣だからね。今じゃなくても姿はずっと獣なんですけど。獣で始まり獣で終わります。とにかくにおいの元探しましょうかね。昼間にここには誰も居なかった訳ですし、誰か居るなら是非ともお話ししたいじゃないですか? 昼間怖がってた僕が嘘みたいですね。でも嘘じゃないです。あれが素の僕です。今も素なんだけどね。とりあえずそんなことはいいからこのにおいの元サーチします。
「ZZZzzzz……」
いましたね。
「……可愛い……いや綺麗?」
そんな感じのキュウコンでした。スースー眠ってますよ。小さな寝息が可愛いです。でも顔はホントに綺麗ですね。正直どっちでも良いです。それにしても、うわぁ……今から口調崩すけど気にしないでね。超タイプなんだけど!? ちょっ、なにこれ!? 運命!? 運命の人ですかコラ!! 神様、お前良い奴だちきしょーっ!! ……うん、ゴメンね。なにせ目の前がバラ色になったからね。真っ暗だけどバラ色だからね。恋ですか。それとも恋ですか。いいえ欲です。強いて言うならば恋と欲です。
「不用心だなぁ……襲われちゃうよ……。僕も襲いたい気分なのに」
甘い香りに誘われて、僕はこのキュウコンのすぐそばまで来ています。においが濃くなったね。欲望が大きくなるね。でもさぁ、初対面で襲うのってよく無いじゃないですか? 僕まだ理性あるからね。でも襲いたいぃぃ~! ……自重することにします。
「んぅ~?」
「起きた……」
思わず顔を近づけましたよ僕。だって可愛いんだもん。分かってくれるよね? 寝ぼけた声の可愛いこと限り無しですよ。
「ふぁ~……」
大あくび。猫のようなあくびですね。いや狐なんですけどね。ああ、そそられる……。このキュウコンは僕に嫌がらせしてんのかな? ちくしょう、可愛い寝ぼけ面しやがってぇ~。知り合いだったら飛びかかってんのに。でも知り合いでもそんなこと出来るかどうか分かんないよね。僕は結局弱虫毛虫。まぁ~、なんだ、とりあえずこれから仲良くなるかもしれないじゃないですか? だから好印象与えておきましょうか。
「あの~……こんな所で寝てたら危ないよ?」
どこが危ないのか言って下さい。そうですね、誰も居ないですもんね。なんかないのかよ僕の言葉。一応いつもののほほんとした感じで言ってみたけどさ。周りに何もないのにそんな事言われても説得力皆無じゃないですか。むしろ居るのが僕だけだから危険要素僕しかないじゃないか。でももう引き返せませんよ。彼女もなんか呆けて僕のこと眺めて返事しないから僕がまたなんか言わなきゃいけないんでしょ。
「……あんた……いい顔立ちしてるんだから襲われちゃうよ?」
だからそれだと危険要素が僕しか……。投げた槍と口から出た言葉は戻ってきませんけど。ああ、なんか落ち着きない人って絶対思われてるよ……。てかいちいち行動が可愛らしいんだよ。やめてくれるかな。僕が今日ここに来た目的自分の性欲の処理だからね? 自分で自分を慰めに来たのに目の前にこんなに良い雌いて挙動が可愛らしかったら何するか分かったもんじゃないだろ。
「ん~? 大丈夫よ~。ふぁ……」
あくびやめろぉぉ~! ああやばいぞ、今頭の中でなんか『ブチッ』って音した。なんか切れましたね。堪忍袋の緒が切れた訳ではないです。怒る要素ないからね。むしろ嬉しい限りだからね。だからその嬉しいのの近くにある袋の緒ですよ。そうですね、欲の緒です。で開口一番出てきたのが性欲ですからね。溜めてたからね、一ヶ月程。やばいですよ、もう僕の理性飛んでいったね。勘弁して下さい。なんか変なこと口走るなよ僕……。
「いや……大丈夫じゃないよ」
「ふぁ?」
「……僕が襲うから」
待て待て待てぇぇぇ!? 僕何してんだぁ!? そうですね、キュウコンを襲ってるんです。ってな感じで飛んでった理性です、こんばんは。今夜はカルマンくんの性欲という本能の様子を観察してみましょう。まず、飛びかかってますね。綺麗に押し倒しましたよキュウコンを。その時の「ひゃっ!?」っていうキュウコンの悲鳴がカルマンくんの興奮度合いを上げていますね。……なんか面倒です。理性は別ポジションでちゃんと働いてますから大丈夫ですよ。いちいち解説しません。何でかって? 僕だって羞恥心ってもんがあるのさ。これからやること解説するとか言ったら僕の口から言えないよ。だって恥ずかしいんだもん。
「悪いんだけどさぁ……僕彼女とか出来たことないし、すごい欲求不満なんだよね……」
そうですね、最初に性欲ってもんが出てきてから何年も経ってますもんね。それまで自慰だもんね。雌を相手にしたことなんて一度もないですよ。それよりも最後の自慰から一ヶ月経ってますもんね。てか恥ずかしげないな僕の本能……。
「だからさぁ……ヤらせてもらうよ……」
「ん……やぁん……」
両腕を押さえつけての胸攻めでございます。そうです、キュウコンの胸舐めてます。あ~、柔らかくて良いです。長い毛が舌にまとわりつくのがちょっと邪魔かも。早くも興奮して来ましたぁ。喘ぎ声って言うの? それもまた可愛くてね。
「初めてなんだよねぇ、こんな事するの。だから下手でも突っ込まないでよ? 特に無理矢理ヤってる訳だし?」
「ん……やぁぁ!」
そうですね、強姦です。強姦で青姦です。でも強姦でもしなきゃ相手見つからないじゃないですか。全部……世の中が悪いのさ……。ごめんなさい、全部僕のせいです。それはそうと、僕は今彼女の胸にある突起物吸ってますね。言わずとも分かるでしょ? え? 言えって? 恥ずかしいなぁ……。彼女の乳首です。ああ恥ずかしい……。
「チラッと本で見たことやってるだけなのにホントにそんないやらしい声出すんだ……」
そういう本が時々落ちてるんだよね……。人間にも変な趣味を持った人が居るようで。獣姦って奴? それが趣味の人いるみたい。その本の中ではブースターがブラッキーにヤられてたね。いや、ロッソもいたし、読んだ訳じゃなくてホントにチラッと見ただけなんだけどさ……。
「ぁ……だ、だって……ふにゃぁっ!」
何が「ふにゃぁっ!」だよ、興奮させてくれるじゃないですか。「ふにゃぁっ!」の元は僕が彼女の胸を揉んだからなんだけどね。わぁ~、雌の胸ってこんなに大きいんだぁ。柔らかいし癖になる感触ですね。って言うかさっきから頭の中で例の本のあるページが……。
「本と違うのは……僕が待てないって事かな……濡れてる?」
さすがに口じゃ言えないよ? そんな場所を僕は触ってました。そうですね、性器です。あれ、なんか矛盾? 言えてるよね。じゃあもうオープンに言っちゃいましょうか。なんかもう面倒です。
「ふぅっ……あっ……」
喘いでるねぇ……。うわぁ、すごい可愛いんだけど。って言うかね、彼女の秘所とでも言いましょうか? 彼女の秘所びっしょびしょなんですよね。うわ、触ったらにおいが……。ああ! 興奮する!!
「じゃ、僕もう待てないし、場所も場所だし、行動もやばいし、本番ね」
僕は僕の息子とでも言いましょうかぁ? モノで良いや。モノをこの綺麗なキュウコンの秘所にあてがおうとしてます。てかさ、場所も場所で行動もやばいってホントだよ? 昼間は誰も居なかったけどさ、ホントに誰も居ないかは分からないじゃないですか? 誰か居てさぁ、僕がこのキュウコンにこんな事してるの見られたらやばいじゃない? 僕の家遠いけど、悪事千里を走るんだよ? 一里が大体4キロだから僕が二日走らないと追いつかないんだよ? そんなことになったら……
「んっ……やぁ……」
ああうざったい!! 入れようとしてるのに身体捩らせるんじゃないよ全く!! 僕だって怒る時は怒る。それに今は欲望に任せて強姦中だよ? ……とことん欲望のまま突っ走って、彼女に恐怖でもなんでも与えて僕の欲望のはけ口にしてやる……。
「動くな……おとなしくしてないと 殺 す ぞ ?」
「ふぇっ……」
おとなしくなったね……。後は僕の欲望のまま、全て終わらせてやれば良いんだよ。ゴメンね、でも僕止まらないんだよ。正気に戻ったら全力で謝るから今はヤらせてもらうよ……。
そう言ったんだからね、もう止まる訳ないですよ。一気に入れさせてもらいました。ゴプッて音したね。どんだけ濡れてんだか……。
「やぁぁぁ!!」
あ、泣いてる……。え? ホントに泣いてるの? それとも快感のせいで涙が出てるの? どっち? まあ今はそんな事気にしてられないけどね。僕のモノを締め付けてくる快感を味わいながら腰を振ることにします。あぁ……気持ちいいなぁ……。雌の中ってこんな風になってたんだ……。自慰とは全然違う快感だよね。絶対こっちの方が良いです。……って言うかさ……なんか彼女……身体が冷たい気がするんだよね……。寒いのかなぁ? 僕はそんなこと無いんだけど。っていうか今は熱いくらいですよ。ああ、彼女の秘所を僕が腰を動かして突くたびにグチョグチョ卑猥な音が……。いつの間にか彼女も腰を振ってますね。ああ、これもしかしたら結果オーライ? ……だとしても僕は謝るけどね。
「あっあっ……イくっ……」
イくんですか、結構ですよ、イってください。僕でイってくれるなら何度でもイって下さいよホントに。強姦してる訳ですからね、そっちがその気になってくれたら途中から和姦ですから。いや和姦ではないな。なんにせよそっちがその気でイってくれるなら良い……。って、待って!? 締め付けが強くなった……。
「ば、バカッ……! そんなに締め付けたら……っ!」
僕も初めての快感に絶頂間際ですよ。勘弁して下さい、そんなに締め付けられるだなんて夢にも思ってない訳ですからね? あ、これはホントにまずいよ。出ちゃいますね。何がってそりゃ精液ですが。見ず知らずの人を妊娠させても事ですから何とかしなきゃね……。ああでも……中に出したいって言う欲望が……。
「っく……さすがに……中はまずい……っ。……ぅっ……」
理性頑張りましたよ~。僕は頑張ってモノを彼女の秘所から引き抜きました。でもギリギリだったなぁ、抜くと同時に射精しちゃったし……。彼女もイってたね。うわ~、森の中に卑猥なにおいが立ちこめてます……。にしても……疲れる……。思わず倒れ込んじゃったよ、彼女の上に。大丈夫かな、僕大体150キロ以上あるんだけど、キュウコンって大体20キロしかないからな……。言っとくけど僕太ってないからね。むしろガリガリだよ? 「よく死なないね」って例のポチエナの友達から言われたよ。今更ながらあの娘って口悪いな……。
「はぁ……はぁ……こんなに疲れるんだね……交尾って……」
何言ってんだよ僕。相手は強姦されて傷心だっての。
「……そうだね……」
そうだねじゃないよ!? 何このキュウコン!? 神経図太くないですか!? なんて事は言いませんよ。気を悪くしてないなら良いじゃないですか。僕の理性もしっかり働いてきたことですし、いつもの優しい僕に戻りますかね……。
「……あんた……いや、キミ、身体冷たいね……。どうしたの?」
「…………」
無言ですね、本当にありがとうございます。でもさ、僕ってこんな所だけやけに諦め悪いのよ。理由言ってくれるまで僕退かないからね。
「……僕が暖めてあげようか?」
こっぱずかしい一言です。顔から火がでるんじゃないの? いくら炎タイプだからって顔から火がでる人そうそういないからね。とか思ってたら彼女が……
「ぇ、ちょっ、まっ……」
「フフ……」
僕いつの間にか押し倒されてました。どんな力なんですか、教えて下さい。教えておじいさん。
「あなた……割と良いセンスしてるけど、目の前の快楽に集中しすぎね……。もうちょっと相手を見なきゃ」
妖艶な笑みという奴ですか、僕の理性カムバーック! とりあえずなんか言わなくちゃね。
「え、あ……。だ、だって、今のが初めてだったし……」
僕ダメオーラ全開ですね。
……あれ? なんかこれ……変な感じするんだけど……。なんだろこの感じ……。
「でも怪しいと思わなきゃ……。あたし、あんまり抵抗しなかったでしょ? 強姦されたら誰だって抵抗するよ? ……普通はね」
「た、確かに……そうだけど……」
彼女の顔が近づいてきました。触れそうですね、口とか鼻とかどこかが。
そんなことはどうでも良いんだよ。なんなんだよこの感じ? この不思議な感覚って一体何なの? 僕がこうやって彼女を見てる、ちょっと怖いって感じるんだけど、それよりも何よりも、僕がこんな風に誰かを見た事って今まで一度もなかった? ……あるよ。あったよね。一度だけ……。いや、何度もかな……。
「ま。あたしだから出来たことだけどね~」
「あっ、ちょっ!」
楽しそうに良いながら彼女は僕の耳を甘噛みしてきます。すごくくすぐったい。くすぐったいんだけど、微妙に気持ちいい……。
「悪い子には何するか知ってる?」
なんか……笑みが怖い……。でも……その笑みも何だか不思議な感じ……。不思議な感じがして、僕はなんだか理性どっか行っちゃった感じです。この笑顔も、この言葉も……不思議な感じ……。
「お仕置き……?」
「フフ、そうよ」
「って! 何する気だよ!?」
不気味な笑みって言いますか? そんな感じの笑みが僕の目の前にあるんだよね。元の顔が良いから、それがまた妖艶に見えて……。でも、それよりもやっぱり、不思議なんだよね。
「あなただけじゃ不公平じゃない?」
さすがにきょとんとするね。なんのことですか一体?
「あたしで遊んだ分……あたしにも楽しませて?」
そう言いながら、彼女僕の耳を舐めてきました。ペチャって音が聞こえてきてさ、すごい気持ち悪かった。でもなんかね……これも不思議で……。不思議すぎて何だか現実味がなくて……。でも、舐められてて、何かされるのは事実だからね。抵抗ぐらいしますよ。
「や、やだよ! そんな……謝るから許してよ……」
そんな言葉しか出ません。でもとっさにでたその言葉がまた……ね、わかるよね? そう、不思議なの。ボーッとするような感覚で……。
「じゃあ、遊んでくれたら許してあ・げ・る!」
舐めるのやめてくれました。でもこの言葉って……まさか……そんなはず……。僕は確かめないといけないんだよね。この不思議な感覚がなんなのか……。
「あ、遊ぶ……?」
「……あたしの……性玩具になって?」
不思議な感覚が消え失せた。どうしてなのかって聞かれても僕が聞きたいね。でもね、吹っ飛んだと同時に感じたことがある訳でして。そうですね、僕の唇です。僕の唇に……彼女の唇がくっついてる訳でありまして。
「んぅうっ!?」
そりゃ驚きますよ。いきなりの「性玩具になって」発言からいきなりのキスですもん。キスだよ? 接吻だよ接吻。口と口くっついたよ。とか思ってたら、くっつくだけじゃないっぽいです。
「んっ!? んぅっ!?」
驚きまくりですね僕。でも無理もないじゃないですか。口の中にいきなりすっと舌が入り込んできた訳ですから。すごく楽しそうな顔が目に映りますね。楽しそうなんだけど……すごい妖艶な……。
「んんっ……」
「ん……ぅ……」
ダメだ、完全に彼女のペースに持って行かれた。ずっと彼女のターンだ。僕ってばキスすらしたことなかったの。だからファーストキスがDの付くキスでした。深いキスだね、深いからこそ理性がなくなっちゃいそうなんだけど。否、なくなってますよ。彼女の舌に僕の舌が舐められるのがすごく快感で……。
「んっ……あはっ……」
「んぁ……」
ダメだ、ホントにダメだよ。だって僕から舌を絡めちゃってんだもん。それほど濃厚で良いじゃないですか? ダメだね、ここまで彼女のペースにさせられたらもう終わりだね。彼女は楽しそうにしてさぁ、僕の口の中を犯すのがそんなに楽しいですか? 楽しいんでしょうね、顔がSの人の顔に見えてきましたもん。いや本当にSの人に会ったことは多分ないですけどね。
「はぁ……」
口が離れちゃいました……。すごく……名残惜しいです。もっと舐めて欲しかったよ……。
「ん? まだして欲しい? ……だったらあたしを満足させてくれたらね……」
妖しい笑みで僕の首筋からすぅっとお腹にかけてなぞる彼女でした。
「ひぅっ!」
まあびっくりとかもありましたけど何よりくすぐったくてね。思わず声も出たし体もピクッと動いちゃいましたよ。なんか情けないですね……。いつものことなんですけどね……。
「ウフ、可愛い」
そんなこといいながら彼女……僕の股の方に手を伸ばしてきましたね、何考えてんのよキミ。綺麗な顔してさぁ。
「ぁっ、だ、ダメッ……」
声まともに出ませんでした。だってさぁ、舌がね、舌がとろけちゃってんの。思う通り動きませんでしたよ。それほど濃厚で熱いキスでしたからね。もっとやってドロドロにして欲しかったね。とは言ったものの、熱かったのは僕の体温が上がったせいであって彼女の舌はどこかやっぱり冷たいんだけどね。一応僕は股の方に近づいてきた手を掴んで止めましたよ。
「あん、そんな事しても無駄よ?」
その通りでしたね、尻尾が僕のモノにしっかりと絡みついてきましたからね。うん、これもまた気持ちいいんですよ。気持ちいいんだけど……気持ちいいって感じちゃダメだね、雄として。プライドってもんがあるのよ僕にだってさ。「さぁ……楽しませてもらうわよ」とか言ってますけども、僕に楽しむ気ないですから。僕はさっきあなたを犯したので十分楽しませて頂きましたから。だから帰してくれっていってもキミが楽しみたいから無駄なんだろうね……。でも、抵抗はするよ?
「やっ、やだぁ!」
だだをこねる子供ですか僕は……。でも暴れっぷりは……やっぱり子供みたいですよね、上に乗っかられてちゃ動くに動けないし。確かに彼女の方が僕より二回りぐらい小さくて体重にいたっては僕の何分の一ですか? みたいな人でも上に乗られてちゃね……。それでも暴れ続ける僕にはプライドってもんの戦いって奴を見受けられるんじゃないですか? あれ、彼女の顔が近づいてきましたね。キスしてくれるの?
「おとなしくしてないと……殺すよ?」
……びっくりですよね。僕の言った言葉そっくりそのまま返されましたね。でもね、力とかその他等々負ける気がしない訳ですよ。多分この状態でも頑張れば一瞬でひっくり返せるんじゃないかなと……。うん、ごめんなさい、それは無理です。こうやって上をとられてる時点で負け決定の上に多分実力でも僕負けそう。僕が弱い訳じゃないんだよね。彼女の雰囲気で分かるんだけど相当強い訳です。なんだかなぁ……。無論暴れ続けはするよ。最後のプライドですからね。
「嫌だ!」
「あらら? あなたの真似をしたけどダメだったみたいね……。でもおとなしくしてもらわないと……」
念力ですよ。勘弁して下さい。ホントにずっと彼女のターンですか。頼むから「ずっとあたしのターン!」って叫んでくれないかな。ゴメン、見たいだけです。動けませんねぇ……。どうすんの? どうしようもないけどね。僕はもう性玩具です。
「さぁ……たっぷり堪能しようかなぁ~」
意地悪そうな笑い方ですね。何となくそそられます。でも今そそられちゃったらやばいですけどね。とか言ってるうちに……
「ひぎぅっ!?」
彼女が僕のモノにしゃぶりついて来ました。そりゃこんな声も出るさ。秘所の中とも尻尾とも違うぬるっとしてるんだけど全部じゃなくてその舐められてる所にだけ妙に……あれだね、気持ちいいんだけど気持ち悪いね。あわわ……先端舐めてきた……。そこって……感じる……。
「ぁうっ! や、やめろぉ!」
空元気です、本当にありがとうございます。念力で押さえつけられてる中頑張って藻掻いてる僕。藻掻くんだけど、すごく恍惚な表情した彼女が「い・や」って楽しそうに言うもんだから僕もう抵抗って事すら出来ませんね。ああ、気持ちいいんだよね……。ホントにこの状態だけは勘弁して欲しいんだけど……。
「謝るから……やめて……」
こんな言葉ばっかりですよ僕。なんて言っても弱虫毛虫の意気地なしですから。ああ、気持ちよすぎでもうやばいですね。身体が痙攣するぅぅ~……。足突っ張ってもう筋肉疲労で痛いですよ。
「悪い子には……お仕置きって……さっき言ったでしょ?」
舐める合間に言う彼女です。そのペチャって音の中に聞こえる声がその……可愛いって言うかね……。僕なんなんだろ……。てか速くなったぁぁ~! 舐めるの速い、速いよ! ぼ、僕そんなにされたら本気でまずいってば!
「ゃあっ! ぅあぁっ!!」
残ってるのプライドだけだからね。必死だよプライドで。
「あぁ……可愛い……」
また……不思議な……でも頭の中でそれを考えてられないんだよ……。僕は快感のせいと悔しさで出てきた涙で潤ってる目で彼女を見つめることしかできない訳です。楽しそうな顔してるね……。
「さて……そろそろ……」
「ぅあぅっ!!」
吸ってきましたか……。無理、ですね。でもね、耐えねばならぬ時がある。だから耐えます。
「ッくぅ……」
頑張って耐えますよ僕。耐えねばならん……耐えるのだ! だってプライドがあるんだもの!
「しぶといねぇ……。我慢は体に毒だよ……?」
毒の根本作り出してるキミが言うと全く説得力ないって分かってますか? そんなピチャピチャ音立てながら吸わなくても良いじゃんか……。やめてよホント……限界なんだから……。
「……っぅう……」
あ、やばいな、ちょっと出ちゃったって……。このままだと大変危険……。
「ああ……もっと……あたしの中で出して……」
先舐めてきたね。先がさぁ、一番敏感なの分かってますか? そんなことされたらぼくもう耐え切れませんよ。さようなら僕のプライド……。
「ッ……! うっ、あぁぁぁっ!!」
はい、出ましたね大量に。勘弁して下さい。てか飲んでるよ彼女! 僕の……精液飲んじゃってます……。絶対まずいよね? なんで飲むの? 絶対汚いってそれ。でももうさ……僕体力的に無理……。普通にどんだけはしゃいでるよりもこっちの方が体力使う……。
「ウフフ……」
キス、してくれましたね。でもね、欲を言う訳ではありませんが、口の端に僕の精液が付いたままキスするのやめて欲しかったです。でも嫌がって顔をしかめても楽しそうにしてるだけじゃないですか。僕としてももう動く気力すらないんで今はキスを楽しむしかありませんね。キスは良いよ。ほどよい快感で。まあ僕に舌を動かす力すら残ってないのがちょっとな……。残念としか言いようがないよね。
「ん……はぁ……」
あれ、やめちゃうんだ……。確かに僕が疲れて舌を動かすのやめたけどさ……。そっちがもうちょっと頑張ってくれれば……って僕もいつの間にか欲に飲まれてるね。
「どうしたの? もう終わり?」
妖艶に笑う彼女。何だかもう……疲れました。
「あたしはまだ満足してないよ?」
体力あるね。
「許してよぉ……」
本音です。もうさすがにこれ以上されると……
「ん~……じゃあ許してあげるね、これが終わったら……」
とか言いながら僕のモノを掴んで自分の秘所の位置を確かめてますね。ああ……ヤる気ですか……。もうなんか……諦めの境地ですね……。
「んっ……」
「ひぎぅっ……」
何とか……悲鳴っぽいのを出すの堪えました。さすがにね……意地だね、ここまでくると。意地以外に残ってるものと言えば……。溜まりに溜まってる性欲ですかね。まだまだ溢れてくるんですよね、欲が。だから僕は彼女にこうやって性玩具として遊ばれてるのかもしれないんだけども。
「あんっ……はんっ……」
「っ、っ~……!」
これは堪えるのに必死ですからね。もうとことん意地を貫いてやりますよ。プライドの欠片ってもんを使いますからね。プライドなら粉々になってその辺に散らばってるから使いたい放題だからね。声出すのを堪えるのくらい……出来るよね……?
「あっ……はぁっ……あんっ!」
……彼女の喘ぎ声がね、すっごく脳の中に響いてくるんですよ。勘弁して下さい、もう壊れてんだから……。
「っぅ……ぁぅっ……」
ほらごらん、僕の意地はもう壊れたよ。彼女の喘ぎ声のせいですかと聞かれたらそれは違いますって言うしかないね。理由としては僕のモノが彼女の秘所の中にあって彼女が腰振ってるからだよね。
「あうっ……もっとぉ……」
僕自身は動いてないからなんか道具を使った自慰とあんまり変わんないのかな……。そうだね、もうやるしかないね。体力もちょっとは回復したさ、ピリオドの向こうまで行っておこうか。彼女もそれが望みなんだよね? そうじゃなかったとしてもさ……また僕の性欲がね、言うこと聞かないんです。
「ぅうっ、はぁ……」
腰動かしてますよ、ちょっとだけ。だって疲れるんだもん。下から突き上げるのって体勢的にもきついんだから……。
「あうぅ……はぁ……良いよぉぉぉ……!」
あ、彼女壊れかけですね。声がなんて言うのか虚ろ気味。それだけ僕で感じてくれてますか。嬉しいですね。なんかね、彼女とは肌が合う感じです。今更ながら。
「んぁっ、はぁ、はぁ……」
ああ……なんて言うのか……僕はもう、性欲だけで動いてます。原動力は彼女の身体です。身体求めて動いてますよ。後は……そうだね、子孫を増やすって言う本能ですね。結局性欲だね。ありがとうございます。
「あぁぁん……!! イく……イっちゃうよぉぉぉ!!」
イって下さい。そろそろ僕の身体が持ちませんよホントに。正直ね、突き上げる時に身体支えてる足がめっちゃくちゃに痛いんですよ。筋肉疲労って奴ですね。走る時より凄い疲労なんだね。一日走ったらやっとこうなるのにせいぜい30分か40分でこうも痛くなられるとこれ以上やられたらって心配にもなるよね。あ、てかもう僕が限界です。
「っぅくっ……ぅあっ!!」
あれ~? 今日何回目の射精? ……覚えてないですね、そんなに多くないんだろうけど記憶が濃厚すぎて思い出せません。てか思いっきり彼女の中に出してるんだけど……。最初強姦した時は外に出したよね?
「ぁぁあ!! すごいよぉぉ!! たくさん……たくさん精液が中にぃぃ!!」
彼女もイったみたいだね。でもね、性欲だけで動いてた僕がまだ止まんないんだよね……。って言うか射精が止まんないんだよね……。
「ぅくっ! んっ! あぁっ!!」
腰ももう限界ですよ。でも突くんですよね。だって気持ちいいんだもん。今現在も射精続いてる……。ホント溜めすぎたね。これからはちょくちょく処理します……。
「あぁっ……すごいよぉ……あたしの子宮が……お腹が熱いよぉ……」
ありゃりゃ、子宮まで入っちゃいましたか。そりゃ入るよね、滅茶苦茶出してるし、突きながら出したしね。あ~、今更ながら僕の身体やばいじゃん。彼女の愛液? それでもグチャグチャだし、一番僕をグチャグチャにしてんの自分の精液だからね。彼女の中に入り切れてないからね。半分くらい自分のお腹の上にこぼれてるからね。むしろ僕の下の地面白い水たまりだから。……これ川にでも行かなきゃ普通に落ちないって……。まあそんなこと射精を終えてぐったりしてる僕にもモノを抜いて僕の上でぐったりしてる彼女にも出来ないだろうけどね。多分一眠りして明日から行動じゃないんですか? そのくらいぐったりだからね。若い頃に「この大陸横断してやる!」とか粋がって二日ぐらい徹夜して走り詰めだった時ぐらいぐったりだからね。……分かんないかなこの例え……。
「ああ……すごかったわあなた……」
恍惚な表情してるね。可愛いです。でもちょっと休んだらプライド再構築だからね。理性もちゃんと住み慣れた僕の脳みそに収まってくれたからね。
「……嬉しくないよ……」
不思議な感じ再来! でもね……疲れてるんだよね……。
「ん? もっと遊んで欲しいって?」
意地悪な笑み。これもホントに不思議な感じ。てか回復早いね……。僕まだぐったりだよ? そう言う訳で、僕は今彼女にまた襲われても何も出来ないから……。
「もう好きにして……」
こう言うしかないね。声が泣きそうだったの気にしないで、僕強姦したら強姦し返されるとか思ってなかったからショックなの。わかる?
それでね、今の受け答え……絶対にね、いつかやったことある訳。いつなのか……全く覚えてないんだよ。それでもね、それでも、覚えてなくても覚えてるの。わかる? この感じ。
「ウフフ……あたしはもう疲れたからいいわ」
……!
「所であなた……名前は?」
……これ……これって……。
「……カルマン……。カルマン・アーヴァイン・ローゼンバーグ……」
……まさかね……そんなはず……。
「カルマン……ね」
……この顔……この時の顔……。
「あたしはコウヤよ」
…………。
「コウヤ……」
「ええ、そうよ」
……嘘じゃないよね……。ホント……だよね……。
「……嫌いだ……」
そう呟くしか僕には出来ないんだよ……。だって、だって……いつも……いつも、同じシナリオじゃないけど……見てたんだから……。
「?」
「なんでもないよ……」
黙り込む彼女……これも……見てきた……。今まで……何度も何度も……。
「……そういえば、カルマン……」
……違うシナリオだ……。でも彼女は……あの時会った……あの時のロコンなんだ……。
「どうしてこんな寂しい所に来たの?」
僕はガーディで……偶然見かけた彼女に、初対面のくせして飛びかかったんだよ……。
「……散歩……静かな所が好きだから……」
ホントの理由は言えないよね。……あの時もそうだったよ……。あの時……僕は彼女に……コウヤに一目惚れしたんだ……。それがあの時の僕は信じられなくって、どこか悔しくって……。だから彼女に飛びかかって……もみくちゃにした後……いじめられてたんだよね……。その後……一緒に遊んだのが楽しくってさ……。楽しくって……楽しかったからこそ……彼女のことが大好きで……もうあえないから……大嫌いだったんだ……。夢に見る程彼女が大好きで……大嫌いだったからこそ顔を忘れて……好きだったから何度も夢の中で彼女と遊んで……嫌いだったから、何をしてたのか……忘れてたんだ……。
彼女は……コウヤは、僕のことを覚えてくれてるのかな? 忘れてるのかな……? 知りたいけど、怖くて、僕はそんなこと聞けやしない。聞けやしないけど……知りたくて、知りたくて仕方ないんだ。僕のことを考えてくれた時はあったの? 僕のことをどの位覚えてたの? 僕の顔は覚えてた? 僕の名前は覚えてたかな? 聞きたい、聞きたいけど、僕にそんなこと聞く資格ないんだよね。彼女のこと……大好きで……大嫌いだから……。
「ここはね……魂が彷徨う森よ。知らなかった?」
突然の言葉に僕はきょとんとせざるを得なかった。だって、だって大好きな、大嫌いな彼女がいきなり意味分かんないこと言い出すんだもん。
「魂が彷徨う森……?」
オウム返しで彼女の言った言葉を繰り返す僕。ちょっと高飛車な視線を浴びながら、僕は彼女の言葉を待った。
「そうよ……。冥界と地上との接点が近い場所……ここはそのうちの一つなの」
……どうして彼女がそんなことを知ってるの? どうして彼女は……一瞬だけ……悲しそうな顔をしたの? ……全てを誤魔化すために、僕はこの場の空気に合わない言葉を吐き出した。
「そんな場所で僕達何してるの……」
「性行為だね」
僕の気持ちを知ってか知らずか……いや、多分知らないだろうね。彼女はさも可笑しそうにケラケラと笑っていた。笑っているから……何だかさっきの悲しそうな顔が……頭に浮かぶ。
「あ、ちなみにあたしはここの番人。冥界から来た使者って所ね」
僕はなんて言って良いのかわからずに……
「なんか色々と突っ込みたいけど、もうめんどくさい……」
……そんな言葉を呟いた。彼女が番人? 冥界から来た使者? 冥界って……。
「あら、でもラッキーじゃない? こんな可愛いキュウコンと性行為出来るなんてさ」
そんな軽口を叩く彼女がすごく愛おしくて……すごく、憎い。
「っ!? ……カルマン……?」
僕はコウヤを抱きしめていた。抱きしめるしか……行動が思いつかなくて……。それ以外……溢れる思い出を暴走させなくする方法が思いつかなくて……。
「……そんな事言うぐらいなら……もうちょっと性格良くして……」
彼女をぎゅっと抱きしめて、僕は彼女に呟いた。普通に言う事なんて出来やしないよね。だって彼女のことが好きだから。嫌いだから。
「あたしが淫乱って事? フフ……だってあなた……すっごく可愛いんだもん」
そう言って抱きしめ返してくる彼女。あの時もそうだったよね……。僕のこと可愛いって言って、抱きしめてくれたよね……。僕は気恥ずかしくて、コウヤを突き飛ばしちゃったけどさ……。ホントは嬉しくて、嬉しくて泣きそうだったんだ。あの時だけの、コウヤとの思い出……。さんざん僕は妖しい光なんかで弄ばれて、最後は泣きながら許してって謝ってたね。
「強姦した僕にこんな事言えないけどさ……他人弄ぶのやめようよ……」
一瞬はっとした彼女は罪悪感でも感じたのかな? 僕のこと、かなり弄んでたよね。あの時は隠れながら石を投げてきたりして、今回は、僕の一番敏感な所を舐めたり、吸ったりさ……。
「……ウフフ……そうだね……。欲求不満ってのもあるけど、……やっぱり、ちょっと寂しいからかもね……」
……寂しいの? コウヤ。寂しいの? ……僕は……。
「じゃあさ……」
僕は……僕はね……今なら……本当のことが言える気がする……。
「ずっと一緒にいるって言ったら、迷惑?」
……言えた。……ずっと、ずっと言えなかったこと……。言いたくて言いたくて、言いたくてたまらなかった……。キミはずっと夢の中で……、いつも笑うだけだった……。
「……え……?」
聞き取れなかったの? ……何度だって……もう何度だって言ってあげられるよ……。
「何度も言わせないでよ、恥ずかしいんだから……」
……これ、本音だけどね。でも、そんなの関係無しにキミが好きだから……。
「ずっと一緒にいていい? コウヤ……」
……でもね……予感がするの。僕達……僕達、何か……違うんだよね……。
「……それは……ちょっと無理よ……」
……分かってた……分かってたよ……。
「……うん……何となく……分かってたよ……」
キミをどんなに抱きしめてあげても、キミをどんなに愛でてあげても……。キミはどうしても……冷たい身体をしてたよね……。
「住んでる所……違うんでしょ……」
認めたくない……。認めたく、なかった……。
「まぁ……ね……」
僕の望みは……望みは儚く砕け散る……。そんなものだからこそ……僕は彼女が大嫌いだ……。
「あたしは冥界の者、あなたは現世の者……。住む場所の違う者同士が一緒に住む……。これは許されないことだから……」
冥界と現世……。ここではそこが交わるんだよね……。だからこそ、魂が彷徨うって言われてるんだ……。彷徨う魂は……彼女が冥界に連れて行くんだよね……。
「コウヤ……」
またきつくコウヤを抱きしめた。抱きしめるしか……僕の気持ちが伝わらない気がしたんだ……。でも……それだけじゃ……ダメ、なんだ……。
「フフ……カルマン……。あなたはもっと良い雌を捜せるわ……。あたしなんかより……もっと良い雌を……」
……違う……違うよコウヤ……。僕は……僕は……。
「……でも……大好きだって……言っとくね……」
そう……僕はキミのことが……キミのことが大好きで……。キミのこと……大嫌い……。
「フフ……あたしも、結構あなたのことが好きよ?」
……嘘ばっかり……。コウヤの声、震えてるじゃんか……。僕の頭撫でてもね……僕の目にたまった涙は消えないんだよ? 僕の気持ち……変えられないんだよ……?
「僕がいつか死んだら……一緒に……なれる……?」
死んでからでも良い……。死んでからでも良いから……。
「さぁ……それはどうかな?」
……大嫌い、だけど……大好き……。そんなキミだから……。
「でも……いつか……会えるかも……ね……」
彼女の姿が……ぼやけて見える……。コウヤの姿が……虚ろいでいく……。それは……言わなくても分かると思うけど……彼女と僕の……思い出の残り時間……。
「一緒になれなくても良いから! 絶対! 絶対に!」
精一杯……キミに……僕の思いを伝えるから……。
「……また……会おうね……」
……僕のこと……キミのことが大好きで……大嫌いだった雄のこと……忘れないで……。
「……ええ……また……必ず……。必ず……会いましょう……ね……」
僕の頬に落ちてきたそれって……コウヤの涙なの……? どうして泣いてるの? 泣くのは……僕だけで良いじゃないか……。その涙が……僕は大嫌い……。そのきらめく雫が……僕は……大好き……。
「その時はまた……僕で……遊んでくれて……良いから……さ……」
僕の気持ち……まだまだ全部じゃないけど……。伝えたからね……。
「ええ……また、相手してもらうわよ……。可愛いガーディさん……」
……僕のこと……覚えてたんだ……。覚えて……くれてたんだ……。姿の消えた彼女は……いつまでも僕の目の中に残像を残してて……。いつまでも……僕の耳に甘い囁きを残してて……。いつまでも……いつまでも僕を泣かせていた……。
彼女は……あの日突然、僕の前から駆けだしたと思ったら……それから僕の所に戻ってくることはなかった……。あの時……あの草原で鳴り響いたのは一発の銃声……。ハンターがいる。そう思って……僕は彼女を捜したけど……。コウヤの姿は……どこにもなくて……。彼女の無事を祈ってたけど……頭の中では分かってて……。それが悔しくて……悲しくて……僕は泣いた。泣いたけど……すぐに忘れてしまった。だって……もう会う事なんてないって思ってたから……。だから……だから僕は……夢の中で彼女と遊んで……彼女と笑い会って……彼女に思いをはせた……。楽しい思い出だからこそ……付きまとうのは哀しみで……。哀しみがあるからこそ……それはとても良い思い出……。今宵の出来事は……僕の夢なの? 僕の……僕の妄想なの? ……違うよね……。出来ないことが出来たんだ……。彼女に想いを伝えることが……。想いを伝えても……一緒には……なれなかったんだけどさ……。だから……僕は一晩中……吼えるように泣いたんだ……。
「兄貴~!」
ロッソの声が聞こえる……。僕の弟の声が聞こえる……。
「あ! 兄貴ここにいたのか!」
昨晩彼女が消えた時、僕の吐きだした欲望は影も形も残ってなかった。だからロッソににおいを勘ぐられることもなかった。
「……なんか……涙のにおいがするんだけど」
……これは仕方ないよね。でも、僕はロッソがくる一時間くらい前には泣きやんでたよ。僕には……僕にはある決心が付いたんだ。
「兄貴、泣いてたのか?」
「……うん」
「オバケでもでた?」
茶化すロッソは僕の様子を気づかってるんだね。分かるよ、そのくらい。彼は……そう言う所に気が利くからね。
「うん……」
「え? オバケでたの?」
「うん……」
驚くロッソだけど、すぐに冗談かって思ったらしくてクスクス笑ってる。……冗談なんかじゃないんだけどね。多分、言っても信じてくれないでしょ? だから……僕は決心したんだ。
「ロッソ」
「ん?」
「僕は……旅に出るよ」
「え?」って、そりゃ驚くよね。臆病で意気地なしの弱虫毛虫のこの僕が、旅に出るなんて言いだしたら。
「それも冗談?」
僕は首をゆっくり横に振った。ロッソもさすがに仰天してた。
「旅って、どこにだよ!?」
「…………」
僕はゆっくりと立ち上がり、ロッソの瞳を見つめた。ロッソはすぐに目をそらしてしまうけど。僕はずっと彼の瞳を覗いていた。
「……もっと、もっと危険な所だよ」
「危険な所……?」
僕はゆっくりと頷いた。
「僕はね……もっと危険な……死と隣り合わせに生きていける場所に旅に出る」
「な!? 兄貴何言ってんだよ!? 兄貴がそんな所だなんて全然似合ってない!」
僕を見るロッソの瞳はとても怖がっていた。僕が怖いんじゃなくて、一匹になるのが怖いんだ。
「そ、そんなとこに兄貴一匹でいかせられるかよ! 俺も……」
「ロッソはついて来ちゃいけない」
僕は静かにそう告げた。
「ロッソ……僕はキミに無駄死にして欲しくない。キミは生きて……生きて運命を探すんだ」
「意味わかんねぇよ兄貴!! 冗談言うなよ!! 俺だって兄貴に死んで欲しくないんだよ!!」
その言葉にはちょっとびっくりしたかな。でも、嬉しかったよ。
「死ぬのが怖くないのかよ兄貴!!」
その一言を聞いた後、僕は少しロッソに微笑みかけて、きびすを返し、こう言った。
「僕はもう、死ぬのなんて怖くない。死は……僕にとっての運命だ」
その場を後にする僕の背中に、ロッソが叫んでいる。止まってくれ、俺を一匹にしないでくれ。そんな言葉に、僕は耳を貸さなかった。僕は……僕は行くんだ……。危険な場所に……。
運命は死してなお、僕を導いてくれるはずだから……。
あとがき
こんにちは、これを書いてる時は午前四時でそろそろ四時半になろうかという所です。二十六時間テレビも見らずに私はこれ書いてます。
今回はね…、短編で続き物を書いてみようかと思ってます。一発目からこれだと後が厳しいなとか思いつつ(苦笑
この話…、書いてる途中に不覚にも自分で泣きました。涙もろいんでしょうか……。
カルマンは別の小説に登場させる予定で、色々キャラ設定を考えてたんですけど、今回はその練り上げたキャラ設定を一旦無に帰しての逆境スタートでした。いやはや死にかけた…(汗
炎タイプのポケモンが好きで、そうなるとどうもブースターが出てくるんですがブースターじゃなんかな…、と思って頭の中で良いのないか探したらウインディ出てきたんで相手側のキュウコンとも相性良いって事でくっつけました。
誰か…、この小説で泣いてくれるかな?ちょっとそれが心配なDIRIです。
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