ポケモン小説wiki
運命の呪縛

/運命の呪縛

作者:DIRI

運命の呪縛 


 僕は死んだ。僕は死んだんだ。当然だよね、首を掻き斬られちゃ……。痛かった。叫びたくなるぐらい痛かった。声なんて出やしなかったけど。寂しかった、ネビュラは僕を愛してくれてたのに。殺されてしまったんだ、僕は。現世にはアズサもいるのに……ネビュラだって好きになってたかも知れないのに……僕は首を掻き斬られてしまったんだ。噴き出した血は熱くても、僕の身体は冷たくて……。死ねばコウヤがいる。コウヤがいるけど、もう一度アズサに会って、きちんとお別れを言いたかった……。それが出来ない、未練が残る。幽霊になって彼女に伝えられればいいけど……それはきっと無理なんだと思う。現世と冥界、両方に未練があるんだから……。


 こんにちは、カルマン・アーヴァイン・ローゼンバーグです。いつ振り? 結構経ったような経ってないような。多分経ってないです。はい。僕死んだね。首切られたもんね、解雇的な意味でなく物理的な意味で。まーっかにながーれるー、ぼくのちーしーおー、まさにその通りですね、本当にありがとうございました。いやぁ、熱かった。血の吹き出てる場所が燃えてるように熱いと言うね、多分体温下がっていってたからだと思われますよ。こりゃ死んだなって思うぐらい体温が……。あぁ、未練たらたらです。タラタラしてんじゃねーよ。駄菓子です、すいません。アズサにもう一度会いたかったなぁ……。子供の顔も見たかったよ、僕の血を分けた子供の顔……。アズサはちゃんと産んでくれたよね? 僕の子供。ショックで流産とか……無いよね……? それだったら僕ホントに死んでも死にきれないよ。無いぜそれ。ホントに化けて出るよそれ。まぁ、その前にコウヤの所に行くことになるんでしょうね。コウヤ……会ってないけど、変わったかな……? 一応歳は取るみたいだからなぁ、でも変わったって言うよりは変わってないねって言う方が良いかな? って今更口説いてどうするんだ。向こうに行ったら僕は彼女の性玩具になると誓ったじゃないか。いや誓っちゃ無いけど多分なると思う。くそぅ、逝きたいけど逝きたくねぇぜぇ……。

 「……ぅ……」

目覚めたぞ! ……空元気虚しいよ……。とにかく目覚めたぜ僕。死んでも一応意識とかその他諸々あるらしいからなぁ、どんな感じなんだろ。気になる所ではあります。薄く目を開けて……ってかそれしか出来ない、身体動かないっす。ぼやける視界の先に見たものとは……続きはWabで……。すいません冗談です。ただの岩肌でした。月並みです。

「……ここ……あの世……?」

疑問形にもなりますよそりゃ、普通の岩肌見てるだけですからね。

「あの世なんてとんでもないですよ。目が覚めたんですね、よかった」

目で声のした方を向いてみますとロコンがいました。ちっちゃいんで、子供ですね。雌らしいです。結構可愛い子ですよ。念のため言っておきますが、僕にロリコンの気はありません。念のため。

「海岸に打ち上げられてて……死んでるかと思ったら生きてたから驚きましたよ」

ぶっちゃけ相づちも打てないよ。何か身体が動かない。身体が重い。

「体温が上がらなくて……どうしたのかって思ったら貧血気味みたいだし、色々大変でした」

何か一方的にしゃべってますけど、僕あんまり聞いてないよ。だって興味ない。いや、僕が生きてるって事自体なんか意味分かんなくてポワッとしてんだけどね……。

「はい、これ食べて下さい」

オレンの実をどっさり目の前に積まれましたが……食えるわけ無いだろバカじゃね? 目の前にいるウインディのざまを見ろ、呼吸すら必死なんだぞ。これでもの噛む力余ってたら何かしゃべってるよ。その巻き毛を逆向きに巻いてやろうか!

 「……あ、食べれないですか……」

対応が早いですね、それ以前に考えて行動してくれるとよかったんだけどね。点数で言えば六十点です。

「じゃ、嫌かも知れないですけどちょっと待って下さい……」

嫌って何? 注射? それは嫌だよ。でもそんなもの無いよね、ここ人工施設じゃないから。じゃあ何する気……え? 何でオレンの実囓ってんの? ……あ、ピラメキーノ。

「んっ……」

口移しですね、本当にありがとうございます。不肖このカルマン、変な属性がつく所でした。でもこの娘が淡々としてたお陰で助かった。恥ずかしがったりしないからね。もし赤面してたりしたら僕ぶっ飛んでたかも知れない。

「自分で食べれるようになるまでボクが食べさせてあげます。でも他にも患者さんいるんであなただけに時間割けないって事は覚えといて下さい」

ボクっ娘ですね、落ち着け僕。あの娘は及第点だ。いや、変な意味でなく。患者さんって事は……彼女は医者? 子供なのにすごいですね……。

 数日経ちました。その間僕は彼女に口移しで木の実を食べさせてもらいながら過ごしてました。彼女は人懐っこいので僕によく話しかけてくれて暇はしませんでしたね。彼女の名前は“シグマ”だそうです。そして、医者ではなく医者“見習い”だそうで、医者である母親の手伝いをして医術を学んでいるそうです。

「子供なのにすごいね……人間みたいに道具もないのに……」
「昔から薬草や木の実なんかを病気の人達にあげてるうちに、どの薬草がどの病気に効くのかとかそう言うのが分かるようになって、それで誰かを助けてあげられる。それがボクのやりたいことで目標なんです」
「……僕とは違うね……」
「カルマンさんに目標はないんですか?」
「……あるけど……言ったらキミ、ガッカリするだろうから……」

医者に「死ぬことが目標です」なんて言えないですよね。その後、シグマは首を傾げてましたが僕は色々と考えてました。なんで僕は死んでない? なんで僕は生きてるんだ? 首を斬られたはず、痛みも感じたし血が出てるのもちゃんと見た。どうして? 全く分かんない。考えれば考える程謎が深まります。

「……良い身体してますよね、カルマンさんって」
「ぅえ? ……何? もう異性に興味が?」
「いやいや、そう言う事じゃ……」

何か慌ててないですか? もしや危ないフラグ立った?

「結構寝たままで生活してるのに筋肉が衰えてないなって」
「一応これでも若いからね」
「そんなもんじゃないですよ?」

何か引っ掛かるな……。色々とね。

 更に数日。僕は全快じゃないけど、一応歩ける程度には回復しました。成り行きで、シグマと遊ぶこともあります。専ら隠れんぼ。においを覚えていれば、楽にシグマの場所わかるけれど、何回やっても何回やっても、シグマの場所わからーないよ、鬼になったらその時既に半泣き、ずるをして薄目開けても全然場所が分からない、降参するって嘘を吐いても見破られて茶意味がない! だから次は絶対勝つために、僕は足跡だけは絶対に間違えない……わからーないよ~……。そんな感じ。まぁ、体力を使わせちゃダメだからって事もあるらしく。でも図体デカい僕に隠れる場所なんてあるわけ無いじゃないか、その辺かんがえてくれよシグマ。やっぱりまだ子供ですね。

「最近……嫌な患者さんが増えてて困るんですよね……」
「どんな患者さん?」
「乱暴で、すぐに効果がないからとか、薬が嫌いな味だからとかで暴力を振るってくることもあるんです」
「そりゃ酷いね……」

そう言えばシグマは時々傷を負っている時があった。子供に対してまで容赦がないなんて事僕は許せないなと思った。でも僕チキンだからね……かっこいいことすら言えないです。……でも、お礼はしなくちゃね。次来たら僕が何とかしてみようと努力をしてみようと思ってみようと思う。わけわかんね。とにかく! 鶴の恩返しならぬ麒麟の恩返しだ! 待ってろ迷惑患者め……。

 また数日。来ました。迷惑患者来ました。上手いことに僕もほぼ全快という状態。よっしゃ、とっちめる。なんか急にいちゃもんつけ出しやがったよ連中。ありゃないだろ、シグマは無償でやってるって言うのに……。そう言えばシグマの母親は今まで見たこと無いな……。は、あとでいいや。今はシグマの方に集中……。今回は傷口に薬が染みたらしいです。塩でも塗ってあげましょうか。

「効果はあるんですよ、痛みは仕方ないんで我慢してもらわないと……」
「痛み我慢出来ないから来てんだろうが!! せめて鎮痛剤出せや!!」
「鎮痛剤の素材はこの時期無いんです……」
「ストックしとけ! だから頭の悪いガキは……」

お前の方が頭悪いって絶対。そんな顔したストライク。シグマ、燃やしてしまえよそんな奴。いや、僕がやりましょう……。

「あの~、ちょっと良いですかね?」
「ちょっ、カルマンさん……」
「何だ? こいつの親父か?」
「患者です」

案の定怒鳴られたけど無視。僕若干怒ってます。

「あのね、治してもらってる側なのになんでそんな言いぐさなのかな? キミはもっと常識ってものを学んだ方が良いよ、モラルとマナーとエチケット」
「うるせえ!」
「大概にしないと僕怒りますけど」

あぁ、奴のせいで会話が不毛地帯。シベリアへGO!

「ケンカ売ってやがんのか? 表出ろや!」
「うるっさい、怒鳴るな」

あ~、喧嘩かぁ……昔はよくロッソと喧嘩してたなぁ……。ま、いつも僕の勝ちでしたけどね。ロッソ弱かったし。出も今度の相手はストライク……あ、怪力准将に比べれば全然雑魚じゃん。気の持ちようだね。

「カルマンさん……無茶はしないで下さいね」
「そうだね、やりすぎないようにします」

そっか、シグマは僕の強さがどの位なのか知らないのか……。見せつけてあげましょうかね、僕の強さ。その辺のチンピラには絶対に負けない自信はありますよ。まぁ、その強さを発揮するタイミングがないんですけどね。でも今はそのタイミングが来たのでやってみたいと思います。覚悟。

 「死ね! 犬っころ!!」
麒麟です

ちょっと渋く言ってみた。気分は川島。鎌で斬りかかってきたんでバックステップ。空振りしたら体当たり。

「ぶぉほっ!!」

こいつクソ弱い。文のあとに草生やしたくなるぐらい弱いよ。綺麗に吹っ飛んでいきました。あーあ、そのまま飛んでいけばいいのに。でも弱い奴程よく吼えしつこいと……相場が決まってます。案の定スピード付けて戻ってくるんですね、怪我はどうした?

「手加減してやってたんだよぉ!!」

ここまでベターな敵さんいますか? いるんです、目の前に。今度は突いてこようとしている様子。ここは神速を使いましょう。

「喰らえクソ犬!!」

空振り~。神速で移動。

「! どこに……」
「振り向くとそこには……」
「な!?」
「あ、忘れてた麒麟です

ちょっと渋めに言ってみた。気分は以下略。背後に回り、振り向いた所をパンチ。まぁ、弱めにね。本気でやったら首もげるだろうし……。所詮虫だもの。もう懲りたかな?

 「お前……覚えとけ……」
「サーセン、僕興味ないこと覚えない主義なんで」
「ちょ、おま……」

あ、気が合うかも。ま、どうでも良いですけど。ストライクさん逃げていきました。来なきゃ良いけどなぁ。

「シグマ、多分もう来ないよ」
「あ、はい……」
「よかったね」

わしゃわしゃとシグマの頭を撫でてみる。嫌じゃ無いっぽいんでまぁいいや。でもシグマは顔をしかめてますね。何で?

「よくないです。仕事が増えました」
「?」
「そろそろ気付きましょうよ……」

何がかな? ……あ、はいはい、そうですか……。指さされたんでその先を追ってみた所、肩がザックリ切れてました。どうやらいつの間にか鎌鼬でも使われた様子。気付いたら痛み出すという罠。痛ぇ。テライタス。血はあんまり出てないみたいだけど痛いもんは痛いですよ。

「無理はしないで下さいって言いましたよ?」
「いやぁ~、無理した気はないけどね。何かゴメンね」
「大の大人が子供にほいほい謝らないで下さい」

面倒見がよくないと医者ってやってけないのかな? 彼女すごく発言と行動が的確。僕困っちゃう、大人として。立場無いじゃない。あんまり大人みたいな事しないで欲しーなー。てへっ。

 それから三日程。傷まで治って完治しました。全快です。ヤホー。

「随分お世話になりました」
「良いんです、ボクも助けてもらいましたし、何より怪我や病気の人を治すのがボクの趣味でありやりたいことですから」
「じゃ、またいつか怪我でもした時はよらせてもらうよ」

「それ以前に怪我をしないようにして下さい」とお叱りを受けました。そうやって冷静に返すのやめようぜ、僕返答に困る。さて、それじゃお礼言ってから立ち去るとしましょう。生きてるんなら……アズサと再会したいし。時期的にもう出産も終わってて僕の子供もいるはず。よーし、バイタリティ湧いて来たぁ。

「それじゃ、ありがとね、シグマ」
「いえ。それじゃあお気を付けて」

いっきまーす! と、思いましたが入り口で誰かと遭遇。

「こいつだ! こいつが例の!」
麒麟です

ちょっと渋めに以下略。ストライクだ。ストライクとハッサムとカイロスとヘラクロスとスピアーだ。分かってるかい? 今秋だぜ? 虫取り大会は南半球でやれ。

「よっしゃ、表来いや。叩きのめしてやんよ」
「リンチですね、分かります」

なんなんだこれ。僕って不運ー。てへりんこ。
 シグマがまた心配そうにしてますが……忘れて無いかい? 僕炎タイプ。虫に負けたら恥ですよ?

「一気にボコボコにしてやれ!」

一気に来ました。遅いですよ。簡単に避けれる。

「強さーの限界を超えて、僕は来たんだよー。ナイフは着いてないけど、出来れば欲しいなー」
「歌うな!」

だって暇。

「あのねはーやくー、攻撃当てーてよー、どうしたの影分身ずっと、見つめーてるー」

攻撃に移りましょう。

「キミのこと!」

サビで潰すぜ。

「ボッコボッコにしーてあげるー、とどめはまだね、一瞬だから、ボッコボコにしーてあげるー、だから絶対、油断はしーないでねー……しーてあーげるからー……――」

あまりに弱いので、歌いながら全員に体当たりをかましていきます。虫が飛ぶよ、放物線を描きながら。若干悲鳴あげながら。群れないと何も出来ないのが虫クオリティ。まぁ、ハッサムはこっちも若干痛かったですよ。鋼ですから。でも以外とタフだなみんな。それとも加減しすぎてるかな? みんな起きあがって向かって来ちゃう。やりましょう、徹底的に。

 「ボッコボッコにしーてやんよー、最後までね頑張るから、ボッコボッコにしーてやんよー、だからもっと気を引き締めて、ボッコボッコにしーてあげるー、せーかい中の誰、だーれより、ボッコボッコにしーてあげるー、だからもっと、僕を楽しませてねー」

おーわりぃ! 叩きのめしておきました。これでもう立てないだろ。

「あのー、カルマンさん? 医者の前で怪我人出すってどういう了見ですか?」
「世の厳しさを教えてあげたんだ、これも立派な教育さ!」
「言い訳は良いんで、この人達運ぶの手伝って下さい。怪我させたのはあなたですし」

冷たいじゃないか、僕はキミのためも思ってやったんだよ? そいつ等治療してやる義理はないと思うなぁ……。

「ぅわっ!」
「動くなクソ犬!!」
麒麟です

ちょっと以下略。ストライクが……あ、シグマを人質に……。首に鎌当ててる、まぁ、便利な腕だ事。困ったなぁ、これじゃさすがに僕も動くわけには……。って、みんな復活ですか? ……あ、元気の欠片ですか、そんなもんどこで拾ったんですか。やべっ、ピーンチ。

「これでボコれる……今のうちにやっちまえ!!」

動けないからそりゃボコボコにだってされますよ。痛いの何のってキミ、すごい痛いよ。痛いの度合いで言えばマジ痛い。あぁ、シグマが何とか逃げ出してくれればなぁ……。

「イテッ!」

何したかは知らないけど上手い具合にシグマが脱出……。

「クソガキ!!」
「!」

……あのストライク……シグマ斬りやがったよ。傷は浅いみたいだけどさぁ、それはないんじゃないかなぁ、そりゃ無いよねぇ? ああはいそうですか、僕を怒らせたいと……。否。

 「あぁ、あぁ、そうか……。僕は理不尽なことが嫌いなんだ……だからね……僕は怒らない……」
「しゃべんじゃねえよ!」

ハッサムが何か挟もうとしてきたけど無駄。遅いし弱いしゴミが出しゃばるなって事……。お前等社会のゴミだよ。

「怒らないさ……“ブチギレるから”」

手頃なのはハッサムかな。さ、殺ってしまいましょうか。ゴミを掃除……。ハサミを銜えて……溶かしてやる。炎の牙でハサミを溶かして他の部分に溶接してやる。悲鳴がするけど知るかそんなこと。次は……ストライクから殺そうか。シグマに危害を加えた張本人だしねぇ……。とりあえず、四肢をもいでいきましょう。右足、左腕、右腕、左足……まぁ、最後は結局頭だよね。僕が首切られた時もこんな感じで血が出てたのかな? 噴水みたいだ。カイロスは角をへし折ってそれを腹に突き刺して、ヘラクロスは頭を食いちぎって、ハッサムは噛み砕いてグチャグチャに、スピアーは尻の針を引っこ抜いて内蔵を引きずり出しましょう……。断末魔はみんな面白かったよ、あぁ、また僕がこの世を綺麗にしましたよ……。あとは燃やして片付けよう。僕の最大火力の火炎放射、音を立てて燃えていく虫の死骸。ハッサムの外殻は溶けていく……。あっという間に残ったのは消し炭と一握りの鉄の塊。これが元は生き物だったなんて誰が思うかな? ま、生きてても仕方がない奴のなれの果て、こんなもんで良いんじゃない? シグマは大丈夫かな? 怪我してるはずだけど……。

「……あ……」

震えてる。シグマが震えてる……。何に? 僕にだよ。……あぁ、僕またやっちゃったんだ……。普通に考えたら誰かを殺すことなんて滅多にないことだから……。そうか、僕に怯えてるんだ……。そっか……僕は……殺人鬼なんだ……。

 「……あの、シグマ……」
「っ……」

……逃げようとしてる、でも力が入らないみたい……。僕は何もしないよ……そう伝えたいけど、僕も言葉が出せない……。

「し、シグマから離れろ!!」
「っ」

見知らぬヒノアラシが体当たりしてきました。多分シグマの友達だろうね。……ダメだ、僕がここにいちゃ……。僕がここにいちゃ、また僕が怒ったりするかも知れない……。ダメだ、僕は行かなきゃ……。

「……ゴメンね、シグマ……」

多分聞こえてないけど、小さくそう言ってから僕は……一気にその場からかけだした。二度と彼女と会うことはないだろうと思いながら。



 何日か経った。覚えてない。覚える気力無い。ただ走ってたって事しか覚えてない。どこにいるのかも分からない。どこにいたって良いけど。僕は結局殺人鬼、ポケモンを食物連鎖の関係無しで殺したし人間だって殺しました。こんなはずじゃなかった。こんなはずじゃ……。
 強くなるってこう言う事じゃないよね? 少なくとも僕はそう思う。誰かをねじ伏せたりとか、そう言うことが強いんじゃないはず。もっと別の所から来るのが強さ。きっとそうなんだ。でも僕……僕にはそんなの無い。力でねじ伏せることしか知らない。今までは「野生だから」とか「頭悪いから」とか、そんなわけ分かんない言い訳ばっかりしてたけど、いざ考えてみたら自分の弱さにがっかりする。それを感じたくないから、多分僕は走ってるんだと思う。トレーナーとすれ違うこともあった、町中を駆け抜けたこともあった、森の中を、海岸を、雪原を……。
 そうだ、弱いなら弱いまま死のう。そうすれば僕は誰かを殺すことなんて無い。強くなくたって良い、死ねば弱さをさらすことなんて無くなるんだから。痛いのは嫌だな、苦しいのは嫌だな……。そう考えて走り続けてる僕。走ってるから全身の筋肉が痛い。走ってるから何も口に入れてない。お腹がすいた……。でも、餓死なら辛いだけだよね。辛いことには慣れてるよ。辛くたって、その辛さが終われば幸せだよ。だって、終わった先にはコウヤがいる。もうしばらくかかるかもだけど、彼女の所に行けるんだ……。待ってて、コウヤ。僕死ぬから……。

 「止まれーぃ!!」

突然目の前に誰かが現れて怒鳴るって言うかなんて言うか。撥ねるわけにも行かないので急停止。肉球痛い。僕の前に現れたのはこの地方では見ないはずのムウマージ。仁王立ちって言って良いのかは不明だけどそんな感じで浮かんでる。

「ん~、キミ速すぎて捕まえるのに時間かかったなぁ~……。でも今は捕まえたから良いや、結果よければ全てよし、って言うよね?」
「あ~、はい」

僕を知ってる系ですか?

知ってますよ~(いえすあいのうん)。知ってたら悪いの?」
「突っ込み面倒なんでスルーの方向で」
「スルーが一番辛いんだからなっ!」

誰も漫才したいとは言ってませんよ。誰ですかキミは? それよりも心読んだのかキミは?

「私はハル、魔女ハルだよ。魔女だから心読めるのは当たり前~。キミの過去も分かります、現在も分かります、それに未来も分かります」
「魔女っすか、そうっすか……。えーと……」

空腹で頭働かない。でも良いや、死ぬ予定だし。

「キミに死なれると私が困るんだよね」
「え?」
「ゴメン、言い方悪かったね。別に困りはしないけどつまんなくなる」
「よく分かりませんが」

こう言ったら何か知らないけど叱られました。突っ込み入れる余地もないのでただ淡々と叱られ続ける僕、なにこれ? 腹の虫が鳴ってるんですけど、ハルだったっけ? 彼女は華麗にスルーを決め込みます。スルー検定二級。

 「とにかくだこのワン公! 面白くするためにはお前の存在が必要不可欠なんでぃべらんめい!」
「事情はサッパリ飲み込めませんが一言言います、“知るか”」
「うざっ、死ね! いやむしろ生きろ!」

過去も知ってるんですね、本当にありがとうございます。

「噛み砕いて言えばキミが死ぬまでが私にとっては楽しくて楽しくて仕方ない道程な訳。だ・か・ら、キミには死に向かって過激な道を歩んで欲しい。そうすれば私は満たされる……今度こそきっと……」
「繰り返します、“知るか”」

その笑顔が癪に障るんですが殴って良いですか? ……首折れるかな? いや、骨無いし大丈夫か?

「あぁ、私に攻撃しても無駄だよ、結局幽霊だから死なないし。死なないってか最悪再起不能だし。まぁ再起不能になる気もないって言うか? ともかく私に攻撃は無意味。理解したかな(ゆーあんだーすたん)?」
「試しに一発……」
「人の話聞けー!」

ネコパンチならぬイヌパンチ、もとい麒麟パンチ。でも見事にすり抜けました、本当にありがとうございます。今度は火を吐いてみようかと思ったけど腹の虫が鳴って気力を削がれたのでやめとこう。

 「めんどいなキミって奴は。じゃあもう本題だけ伝えるから」
「そうしてくれるとこっちもありがたいです」

ハルはいっそうにこやかに笑ってからパチリと指を鳴らしました。指、あるんだね。ボーッとしてたらハルがなんか渡してきました。……ナイフ?

「いえーい、バトルディフェンスナイフ~。攻守共にそれ一本で出来るんですよ、お得ですね~」
「リアクション困りますが」
「それとこれ、タラリラッタラ~、投げナイフ~」

何故濁声(だみごえ)。そんなもんもらってどうしろと?

「これはね~、キミに渡すことによって私が期待した通りに進む確率がぐんぐん上がるんだよね」
「マリオネットですね、分かります」
(シース)とベルトを着けてあげよう」

あ、ここは手作業ですか。くすぐったいです。ってなんで僕は素直に着けられてるんだ、でも良いか。邪魔でもないし。

「投げナイフは無くならないので遠慮無く使って下さいまし」
「どういう仕組みですか」
「魔法です」

万能。

 「良い? キミはね、これから先、私の思う通りに行けばとっても、とってもエキサイティングな道を歩む。存分に抗って。そう、楽しくて楽しくて、笑いすぎて口が裂けてしまうまで……」
「怖いんですが」
「そ。まぁ~、とにかく頑張れ」

やりっ放しだねこの人。

「それじゃ、また会おうね。いつも見てるよ(Eye have you)!」

そう言うと、ハルは消えていきました。……何気にかっこいい。

「……さて、死にに行こうか……」

荷物は出来たけど死ぬことは変わりないです。さぁ、さっさと死にに行きましょう。今度はこっちに向かうかな……。てかナイフ全部真っ黒だな……。腕に投げナイフのシースを着けてるからなんか籠手(こて)っぽい。あとは、腰ら辺の脇ぐらいの両サイドに投げナイフ。バトルなんちゃらナイフは右肩に。……まぁ、何でかAOD付きっぱなしだったから扱うのには事欠かないけどさ、要らないし、ぶっちゃけ。移動しよう……。

 「!」

とっさに首を右に傾ける。ギィィーンって感じの音出しながらなんか頭をかすめた。その前に爆音がしたのも忘れちゃいけない、銃ですね。そしてそれを撃ったのは……あいつだ。忘れもしないあいつ。あの時は意識が朦朧としてたけど、雰囲気で分かる。あいつ、あいつだ。僕とアズサを引き離したあのハンターだ!

「くそっ! 奴め、殺処分になったはずじゃ……」

なるほど、横から僕を捕まえてた連中が麻酔を撃ち込んできたわけね。それで「危険なポケモンは殺処分しますのでこちらに引き取ります」とかどうとか言っちゃったわけですか。連中も死に絶えろ。ネビュラは良いけど。とにかく今は、あのハンターを叩き潰す

「今度は横取りなんかさせるか! 俺が仕留めてやる、相棒の仇だ、待ってろよ!」

根に持つね、僕も人のこと言えませんが。てか相棒のことあんま好きじゃなかったって言ってなかったかな? ま、そんなのどうだって良い、殺す。一気に突っ込んで終わらせてやる。

「っ!」

……あれ、なんかゆっくりじゃないかな? ハンターの動きがゆっくり過ぎる気が……。弾道が……読める……?

バァン!!

体を捻って回避、身体が軽い。今までの何倍も素早く動ける……。いや、素早さ自体はあんまり変わってない、ただ瞬発的な行動が速くなってる。……これなら撃たれない。殺せる。殺してしまえばまた自分の弱さってものをさらすことになるんだけど、そんなことどうでも良い。僕は今復讐に燃えてる。

 さて、消し炭は放置して移動しよう、空腹が身に染みる……。でも餓死なら誰にも迷惑かけないし、これが一番良い死に方かな……。

「いや、実にお見事でした」

出鼻くじかれっぱなしで嫌になるね、今度は何だよ……。エーフィ? どうしてまたこんな所にエーフィが……。ってか見事ってなんだよ、殺した辺りか?

「随分素早いですね、私も素早さには自身がありましたがとても追いつきそうにない」
「はぁ、そりゃどうも……」

……このエーフィガチで殺しの事言ってんの? 僕はそんなことしたあたりで自己嫌悪なんですが。まぁ、ある種スッキリもしましたがね、復讐は出来たし。さてさて、どう対処すれば?

「どうやら死にたいと思っているようですね。実にもったいない」
「読心術やめて貰えますか?」
「私もやりたくてやってる訳じゃないんですよ……勝手に思考が流れ込んでくるんです」

まぁ便利。やられる側としてはたまったもんじゃないですが。

 「そんなことよりも……あなたのその力……私達のために振るって頂けませんか?」
「え~……断ったらどうするんですか?」
「まぁ、下手したら邪魔なんで消えて貰いますが」

発言が恐ろしいね。でも見た感じ、僕と同い年ぐらい……? 性別がいまいちどっちだか分かんないなぁ、口調も見かけも声質もどっちとも取れるし……。

「私は雄ですよ」
「こう言う時便利ですね」
「私は不快ですが」
「すいません……」

睨まないで下さい。

「消えてもらうって……殺されるって事?」
「最悪そうなります」
「まぁ、別に良いけど……」

NOって言えないんです。イエスマンです。

「では、ちょっと力を試させてもらいます」

三匹のグラエナが飛び出してきた!

 「え? ちょっ、どういう事!?」
「そのままの意味です、力試し、彼等を倒して下さい」

そんな事言ったって、相手三匹ですよ? 倒せーないよー。と、ふざけてたらなんか一匹飛びかかってきたんで避けます。瞬発力が上がった僕にしてみれば余裕。って、ちょい待ちっ……。

「グラエナが水吐いたぁ!?」

何とかかわしたものの、あれ喰らうと結構やばそうだな……。弱点の技を喰らうと力が抜けて動けなくなるんです。それはまずい。しかも多分あれハイドロポンプ並みの威力。水吐いてきた奴から最初に倒そうとするんだけど他に引きが邪魔してくる。他二匹は水は吐かないけど爪が異常に長くてそれで斬りかかってきたり一撃が滅茶苦茶重かったりする。なんか攻撃喰らいこそしないけど防戦一方。エーフィの奴、あくびなんてしやがって……。って、やべっ、これ避けらんない……。爪の奴か、それなら急所に当たらないようにガード……。あ。

「そーだったー、こんなのがあった!」

腕でガード。まぁ、腕って言うよりナイフのシースでガード。硬いから腕は無傷。ここから僕の反撃開始。エーフィは「倒せ」って言った。倒してやるよ、二度と起き上がらなくなるように……。
 僕は腰のシースから投げナイフを何本か抜いてグラエナに投げつけた。爪の奴ね。急所に当たらなかったから倒れはしなかったけどダメージはあったらしい。仕留めようかな、あと二つ喰らえ!

「まず一匹目、ですね」

エーフィの一言が聞こえた。仲間だよね? 殺されたのにスルー? まぁいいけどね、他二匹も殺すし。急に襲ってきたそっちが悪いんです。他二匹は警戒してるだろうから、単純に攻撃しても無駄かな、じゃあ……。

「それっ!」

一撃が重い奴にナイフを投げる。避けられた先に火炎放射。火だるまになってる所を投げナイフで仕留める。簡単。三分クッキング。

「二匹目。次で仕舞いです」

言われなくとも分かります。残るは水吐く奴。こいつが厄介だな……火炎放射も消されるし……。

「それなら一気に行くしかないか……」

ナイフを投げつけながら一気に水吐いてくるグラエナに近寄る。案の定ナイフは避けられたし水が迫ってきました。ここで、飛びます飛びます。一気に跳躍してぐるりと空中回転、水吐いてる奴は対処し切れないっぽい。ここから奴の背後に回り……バトルナイフで刺す。終了。

 「お見事、実に素晴らしいお手並みです。無傷で済ます辺り実力者ですね」

小さく拍手しながらエーフィが近づいてきます。ふざけんな、キミも殺すぞ。

「“出来るものなら”、どうぞご自由に」
「すいません、調子乗りました」

アイアムチキン! さて、仲間を殺したのにお咎め無しなのはどういう事でしょう?

「ポーンの二、三匹、変わりませんよ。第一彼等は彼等以上の実力を持つ方を見つけるという手助けをしてくれました。彼等には感謝しています」
「死にましたけどね」
「ですね」

……えーと……。

「そうですね、では私達の本部へお連れします」
「え?」
「数秒お待ちを」

ホントにその数秒後、なんだか良く分かんない場所にいました。
 えっと、なんか暗くて、壁が金属とか人工的なもので出来てる……。素直に聞きましょうか。

「ここは……」
「ここは、私達の本部」

エーフィはどんどん進んでいきます。仕方ないので付いていくことに。しばらく歩いた先、そこに二十匹ぐらいの色んなポケモン達が居ました。レントラー、マニューラ、フローゼル、ペルシアン、サーナイトが三人、あとエトセトラ。

「ようこそ、我らが“殺し屋ギルド”、Ωへ」

集まってるポケモン達の真ん中にエーフィが立ち、握手を求めるように手を差し出してきました。とても優しい感じですが、この状況だと怖い限りです。

「私の名はリーブ。殺し屋兼傭兵部隊、CHESS(チェス)(KING)空魔王(くうまおう)

……なんでこうなってしまったんでしょう。教えて、神様ーっ。

 「キング、こいつホントに強いのか?」

ペルシアンが言います。うぅ、なんか視線が全部僕に向いてるからすごい居心地悪いんですが……。とかそんなことを思ってたらリーブが差し出してた手を引っ込めてペルシアンの方を向いてなんか言い出します。

「ええ、連れて行った歩兵(PAWN)達は為す術無く皆殺しです。それも無傷で、あなたよりも最初の戦績は良いですよ、ジャコブ?」
「たかだかポーンが三匹だ、普通の連中でも倒せる奴はいる。第一そいつの力はなんなんだ? お披露目させてもらいたい所だが」

ついてけません。力って言われても僕はウインディだから炎吐いたりぐらいしか……。

「私も披露させてもらってはいませんね。分かっていることは異常に素早いと言うことぐらいでしょうか」
「すいません、ハードルぐんぐんあげないでもらえますか」
「ハッ! 優男(ロメオ)だねぇ? お前、名前なんて言うんだよ?」
「信用しがたいんで黙秘権を行使したいと思いますがいかがなものでしょうか」

次の瞬間ジャコブだかなんだかって名前のペルシアンが飛びかかってきました。無論避けます。ってかお腹すいたなぁ~……。

「やるな。キング、こいつの実力試させてもらってもかまわねぇな?」
「ご自由に。掟は分かっていますね?」
「その言葉返すぜ、キング!」
「あの、僕差し置いてなんの話ですか……」

僕も当事者。
 四の五の言ってる間もなくジャコブはまた飛びかかってきました。正当防衛です、応戦しましょう。投げナイフは周りの人も危ないんでバトルナイフで。右肩にあるけど抜きやすい。斬りつけようとしたけど避けられた。

「甘いんだよ!」

まあキミもね。爪で切り裂こうとしたけど余裕の回避。これ勝負付くのかな? てか周りの人ほとんどが僕らの戦いをはやし立ててるんですが。やめて下さい。ん? 金属音……?

「お前には鉛玉をプレゼントだ!」

銃ですね、分かります。しかも連射してきた。周りの迷惑も考えましょうね。どうやらここのみんなはAODやらそう言うのを標準装備らしい。

「っと!」

彼の動きも読める。弾道が読める。彼の筋肉がどう動こうとしてるのかが予測出来る。いつの間にこんな力が? さっきリーブとかが言ってたのってこう言うこと? 鉛玉が幾つも飛んできてるんだけど、弾道が読めるから当たらない。瞬発力が上がってるから当たる前にかわせる。今思うと、なんだか今僕の動きって踊ってるみたいだ。慣性を付けて回転したり、宙返りしてみたり、慣性に任せて回りながらしゃがんでみたり……。すごいスリリング。あいつも銃撃ってるし、こっちも投げナイフ使って良いよね? バク転して弾をかわしながら両腕の投げナイフを引き抜きジャコブに投げつける。投げナイフはくるくる回りながらジャコブに迫り……頭に突き刺さった。

 「ふぅ……」

また殺しちゃった……。でも正当防衛ですよね? てかこれからどうしよ、さすがに何人も仲間殺しちゃったら僕怒られるんじゃ……。

「まだ、ですよ」
「え?」

リーブが何か言ったので。

「言うじゃないですか、“猫は九回生き返る”、って」
「……え? まさかそんな……」

あり得ちゃうんです。ジャコブは立ち上がって頭に突き刺さってるナイフ引き抜きました。生きてますね、時として現実は小説よりも奇なり。

「やりやがったな……良いだろう、俺の本気、見せてやるよ」
「それよりも大丈夫ですか」
「戦う気あんのか!」

ぶっちゃけ無いです。
 なんか怒らせちゃったらしいので、彼が本気で来るそうです。なんか雰囲気変わった?

「俺はジャコブ。CHESSの城塞(ROOK)猫牙城(びょうがじょう)

牙が伸びました。そして目に見えて筋肉がふくれあがりました。キモいことこの上なし。何? 変身? 怪人も一回やられてから巨大化するもんね。そう言うことですか?

「死ねぇ!」
「嫌です」

飛び越えようとしましたが……ネコパンチが来ました。重いの何のって……吹っ飛んで結構遠くの方にあったはずの壁に叩き付けられました。今のは痛かった……痛かったぞぉぉ~!!

「終わりだ!」
「っ!」

追い打ちですね、分かります。壁に挟まれてダメージ倍増。吐血っ! やばいな、骨が何本か逝った……。

 「ヘッ、出しゃばるからだ。このくらいで勘弁しといてやるよ」

……痛い……。

「こいつ大したことねぇぞ、不意打ちで一回殺られちまったがな」

……渇く……。

「キングの目はガラス玉だったみてぇだな? ハッハッハ!」

……あぁ、素直になれば良いんだ……。

「残念ですね、私も鈍りましたか……」

……全てを任せるよ、この怒りに、欲望に……!

 「ウゥゥゥゥ……」

この辺りにいた全員が僕の方を向く。僕はうなっていた。理性とか、そう言うものの全く感じられない獣のように。体中の痛みが消える。アドレナリンかな。立ち上がって、僕はジャコブを見た。沸々と湧く感情は怒り。それ以外の何ものでもなかった。頭の中にあるものはただ一言の言葉。殺してやる

「まだやる気かよ? 俺は死んでも生き返るんだぜ? 諦めな……」

ジャコブの表情が一瞬で凍り付く。理由はしばらく分からなかった。数秒後にその理由に気が付いた。燃えている。僕の身体が燃えている。いいや、炎を纏っているって言った方が正しい。その炎は熱くはなかった。冷たい。冷たいだけでもない。黒い。黒く冷たい炎が僕の全身を覆っていた。でもどうでもよかった。僕はジャコブを殺せればいい。さあ、殺しを始めよう。
 ジャコブは意を決したように僕に飛びかかってきた。また殴りつける気だ。そんな攻撃、もう喰らうわけがない。サイドステップでかわし、ジャコブの横腹に蹴りを加える。一瞬のうめき声と共にジャコブは吹っ飛んでいった。だけどすぐに戻ってきて反撃してくる。攻撃は当たらない。でもこっちの攻撃も意味がない。ジャコブに致命傷を与えても死なないから。彼は復活する。

「ぐぉあぁぁっ!!」

投げナイフがジャコブの尻尾を切断した。怯んだ隙に殴りつけて首をへし折る。それでも彼はまた復活した。……尻尾はない。尻尾がないと言うことは、くっついたりも新しく生えたりもしないと言うこと。それならば……。僕はバトルナイフでジャコブの首を掻き斬ろうとした。ジャコブもこっちの意図に気付いたらしく、それをかわして以降はあまり近寄ってこない。腹立たしい。彼を殺さなければこの怒りは収まらない。……体を覆ってる黒い炎の火力が増した。僕の怒りに反応するみたいに。よく見ると、僕のナイフにも着火している。どうなるかは知らないけど、火の点いた投げナイフをジャコブに向かって投げつけた。かわされた。ナイフは地面に突き刺さる。その瞬間、ジャコブは止まった。

「か、身体が……!?」

……影縫い、と言う技がある。相手の足下を地面に固定させて移動を制限させる。それらしかった。ただし、僕の場合は本当に彼の“影”を地面に“縫いつけて”いた。炎を纏った投げナイフがジャコブの影を地面に張り付けてるみたいだ。彼は動けない。抜け出せるにしろ時間はかかるみたいだ。今が、チャンスだね。

「くっ……来るんじゃねぇ!!」

そう言われて止まる奴なんていない。ゆっくりと僕はジャコブのそばに行き、バトルナイフを引き抜いた。彼の顔が恐怖に染まる。その顔が面白くて仕方がない。僕は痛いのが嫌いだ。僕を痛めつけた彼に、相応の仕返しをしないといけない。そう思った僕は、彼の身体を隅々まで撫で斬りにした。斬りつけるたびにジャコブは悲鳴を上げて身体から血を吹き出す。彼にもっと恐怖を与えるために、僕はナイフに付いた血をこれ見よがしに舐めてみる。化け物でも見るみたいにそれを見ながらジャコブは逃げだそうと藻掻く。無駄だよ。もう終わりにしよう。僕はジャコブの頭に手を添えた。

「よく聞いて……僕の名は、カルマン・アーヴァイン・ローゼンバーグ。その名前を呪って死ぬんだね……」

そう囁いてから、僕は彼の首を刈り取った。血が噴水みたいに噴き出して僕の身体にかかる。でもその時の僕はそんなことどうでもよくて、怒りを果たせた恍惚感に酔っていた。

「首がなけりゃ……悪魔だって生き返れないよね……?」

そう言って、僕は転がっているジャコブの頭を踏み潰した。

 「……すごい事しますね、あなた」

リーブが近づいてきた。彼が歩いてくる道にある血とかゴミとかはなんでかは知らないけど彼に道を作るように動く。僕は怒りを果たせたので大分スッキリしてた。だから特に彼に何をするわけでもない。心配なのは怒られるんじゃないかって事です。リーブがしげしげとジャコブの死体を眺めてから僕の方を見て言う。

「彼を倒せたなら実力は間違いないです。あなたにルークの称号と、“黒炎壁(こくえんへき)”の名を授けましょう」
「え?」

なんか話が進んでる気が……。ん? サーナイトの一人が近づいてきました。リーブから怒られない代わりにこの人が怒るの? 嫌ぁぁあぁぁぁ。

「……私はララ。CHESSの騎士(KNIGHT)残鬼麗(ざんきれい)。よろしくお願いします」

……無表情で怖い。って、エスパーだから読まれてるかも、くわばらくわばら……。てか誰一人怒ろうとしないのね。

「怒るだなんて、どうしてそんなことを? 私達の世界は“弱肉強食”であり“適者生存”。弱い者は死ぬ、それだけの世界だよ」

もう一匹サーナイトが来ました。さっきのララって人は女性みたいですがこの人は男性らしいです。

「名乗り遅れたな。私はシャドーマ。CHESSのナイト、流迅騎(りゅうじんき)。もう一人いるサーナイトは私の愚弟……」
「ミラージュ。CHESSの司祭(BISHOP)流影士(りゅうえいし)。よろしくな~」

……以外とみんな軽いんですね。

 「いや~、見てて僕もスッキリしたよ。ジャコブっていけ好かない奴でさ~。ルークのくせに立場もわきまえないで誰でも彼でもずけずけと……。ボスが知ったら消し炭だったろうけどさ、あいつ上手いことやるから……」
「ボス? キングじゃなくて?」
「キングはCHESSのトップってだけ。キングの数倍強いのがΩのボス。僕は会ったこと無いけど、コードネームはこのギルドと同じ“Ω”って言うんだ」

ミラージュはフレンドリーです。……ってかもう、限界。倒れます。

「うわっと……どうした?」
「……空腹で死ねる……」

そう言うと、僕はミラージュから担ぎ上げられてどっかに連れて行かれました。サーナイトがね、念力使わずに僕を担ぎ上げて、平然と歩き回ってるんだよ? 僕の体重は約150キロ。サーナイトは平均48.4キロ。約三倍。慎重も僕が軽く40センチは超えてるのに楽々と……。どうなってんの? 念力使ってるわけでもなさそうだし……。あ、意識が朦朧と……。



 目が覚めたらミラージュが肉球つついてました。楽しそうだね……。まあそれは置いといて。すぐ近くから食べ物のにおいがしました。空腹な僕は飛び起きてにおいの元を探ります。

「……なんだよ?」

見覚えのあるマニューラが。最初に集まってた時にいた人ですか。彼が……肉を……ステーキを持ってます……。垂涎。

「……いるか?」
「わん!」
「犬になった!?」

ミラージュの突っ込み、なかなかの切れ味。その後彼からステーキをもらって食べました。こんなに美味いとは思わなかったね、久しぶりの食事。

「カルマン、尻尾が痛いよ……」
「サーセン」

ミラージュに尻尾がバシバシ当たってたらしく……。まあ彼は許してくれましたが。
 僕が今いるここは食事をする所だそうです。ポケモンしかいないのに人工的なものばっかり。

「そりゃな、人間の化学力ってのは便利だし否定はしないけどな、それを悪い方向に使う奴がいるから質が悪いんだよ」

そう言うのはステーキを恵んでくれたマニューラ、名前はターニャだそうで。彼もCHESSの一員で、僕と同じルークとか言う位にいるそうです。二つ名は“氷猫爪(ひょうびょうそう)”だとか。かっこいいね。プギャー。

「お前も弄くられた口だろ? 人間様ってのはお高くとまるからいけないぜ。こっちにもこっちなりの文化があるってのに」
「弄くられたって……僕は別に何も……」
「改造無しであんな炎出せるの?」

ミラージュの突っ込みで考えることになりました。えっと、改造って言うのは僕が捕まってた時になんか色々聞いたな……。ポケモンを兵器に改造して戦争の道具として売るとか、その実験台として改造をしまくるとかなんとかかんとか……。でも僕そんなことされてないよね、ネビュラが助けてくれ……

「あ」
「?」
「僕注射された。なんか知んないけど」

ミラージュとターニャは顔を合わせてから僕に一言。

「おめでとう、こっち側へようこそ」
「はい?」

 疑問に思ってなんのことか聞くと……。

「お前が打たれたのは多分“ナノマシン”だな。それであんなよく分からん力が使えるんだ」
「ナノマシンってなんすか?」
「ナノってのは大きさの単位ね。1センチの十億分の一。まあ実際にその大きさかは分かんないけど、そのくらいの大きさの機械だよ」
「人間パないっすね」
「すね」

ミラージュノリ良くて好き。更に聞いてみる。

「ナノマシンって特別なもの?」
「いや、ここにいるみんなは大体入ってるよ。中には手術で改造施された奴もいるけど……」
「ってかみんな改造されてるんですね」
「ああ。ミラージュは筋肉の限界を超えて異常に筋力が強く改造してある。それで俺は素早さの異常強化だ」

だからさっき僕を担いでたんですね。てか素早さって大事だけどそこだけ特化して意味あるのかな?

「忍には素早さは大事だ」
「忍者なんですか」
「古い風習で無理矢理な……。修行が嫌で逃げ出したら捕まってこれだ。世も末だよ全く……」

忍者とかかっこいい。抜け忍。

「まあともかくね、このギルドのみんなは何かしら人間に良くないと思ってるものがあるんだ。だから、このギルドの最終的な目的は“人間を絶滅させる”こと」
「無理でしょ」
「でもロマンはある」
「なるほど」

理解しました。
 それから追加で食べ物を持ってきてもらってからそれをかき込んで、ミラージュに連れられて色んな所を回ってみました。居住区、兵器庫、トレーニングルーム、医務室、墓地……。これ建物の中だよね? 途中でミラージュはすれ違ったララの方に注意が逸れてどっか行っちゃいました。おいおい、僕を一人にしないでくれ。この歳で迷子とか恥ずかしいよ。僕今27歳だよ? 動くに動けないよ……。

「邪魔よ、退きなさい」
「あ、すいません……」

彼女は……最初の時に見たレントラーですね。高圧的。でもすごく綺麗な人です。絶世の美女。コウヤもすごく綺麗だったけど、客観的に見れば彼女に負けてしまいます。でもコウヤの方が好み。

「あら、誰かと思えば色男(ロメオ)、カルマンだったかしら? ウフフ……」
「は、はい……」
「フフッ、歳は幾つ? 25くらいかしら?」
「27歳です……」

何この人、絡みが……てか絡みの距離が近いよ……。あの、もう僕後ろに壁があって下がれないんで近寄らないで……。まあ案の定スルーですが。当然だよね、言ってないもの。

「私より年上なのね、意外。ウフ……」

この人なんでずっと笑ってんの? 怖いです。妖艶なんですけどそれより前に怖いですよ。頭二つ分ぐらい僕が大きいんだけど気圧されっぱなし。うぅ……近い……怖いよぉぉ~。

「怖がってる? フフフッ」
「ぶっちゃけると……」

ぶっちゃけたら殺されそうな気もしたけどあえて言ってみる。これが僕クオリティ。

 「んぅっ!?」

二秒ぐらい経ってから彼女が行動してきました。まさかのキス。しかも抵抗する暇も与えずにディープキスに入り僕を押し倒すという……。ああ、彼女も筋力強化されてるんだな……。だって半分ぐらい投げられた感じだったし。それでその彼女のキスが卓越してるんです。キスだけで理性飛ばされそうになった。濃厚すぎて記憶がないです。で、次の瞬間金属が鳴る音がしました。シュィィーンって感じの音。彼女の舌の動きが止まって口を離させられた。あぁ、僕なんでこんな息荒げてんだろ……。それで、彼女が向いた方を見ると……ララが刀持ってめっちゃこっち睨んでました。ミラージュはなんかきょどってます。

「エマ……ここは“廊下”です。場所を考えなさい」
「ウフフ、言うじゃない残鬼麗。“廊下”じゃなきゃ良いの? あなたもシャドーマと“部屋”で何してるのかしらねぇ……クククッ……」
「……少なくとも、私は誰の邪魔にもなっていないつもりです」
「私だってそうよ、“誰の邪魔にもなってないわ”。ウフフフ……」

女の争いは太古の昔から恐ろしいものだと言われています。ちょっとこじれる点が違うけどこんな感じで彼女たちは怖いです。と、言うよりも……。争うならエマだったか、エマは僕の上から退いて下さい。

 「ここで血を見たいですか?」
「血なんか見せないわ、一瞬で蒸発させてあげるから。ウフフフフ……」
「あの~……とりあえず落ち着いて下さあべべべべべ……」

急に電気流されたらこうもなりますよ。

「真面目ねぇ、残鬼麗。ウフフ……立場もわきまえずに出しゃばって……」
「立場を利用して蛮行を働くのもどうかと思いますが?」
「言うわね。“戦争”でもする?」
貴方(あなた)が宣戦布告をするならば、私はそれに応じますが」

エマがビリビリ電気を放ってます。それを否応なしに喰らうのが僕です、本当にありがとうございます。退こうよ、エマ。キミは電気タイプか知らないけど僕は炎タイプで痛いんです。毛がもわってなってるんです。あ~、ホントにエマもララも殺気立ってる……。勘弁して下さい、丸く収めようよ……。ここで空気を読まず発言するのが僕クオリティだよね。安価も出したい気分です。スレタイは“【仁義なき】僕の上で戦争が勃発しそうなんだが【戦い】”でどう? でも現実(リアル)なのでとりあえず……。

「深呼吸でもして落ち着いて、二人とも……」
「黙りなさい」
「すいません……」

人生オワタ。
 電力がガンガン上がっていきます。しびれびれ。あちこち筋肉が痙攣するんですがどうしたらいいでしょうか。>>20よろしく。ってリアルでしたね。エマもそうだけどララもララでなんで刀持ってんのかな? 斬る気ですか? やめて欲しいなぁ、血の海はもう見たくないよ……。止めよう、なんとしてでも。戦意を喪失させるのが手っ取り早いんだけど……。どうしよ? えっと~……あ、これなら……。

「っ!?」

エマにキス。だって、ララはエマが宣戦布告したら“戦争”おっ始めるって言ってたんだから、エマの戦意を喪失させれば結果的に“戦争”は起きないって事だよね。うは、僕天才。でもララが汚物でも見るような目で僕を見てます。そりゃ無いでしょ、僕は穏便に済ませたいだけなのにさぁ。とか思ってると全身に激しい痛み。エマが電力アップしました、てへっ。鍛えてなかったら意識吹っ飛ぶぐらいの電気が全身を駆けめぐってますよ。それでもさらに電力あげるのがエマクオリティ。死ぬよこれ。でも、あえてキスはやめないのが僕クオリティ。全身痙攣してんだけどね。あ、ダメポ。意識が飛んでった。



 目が覚めたらミラージュが肉球つついてました。楽しそうだね……。てか飽きないのかな? ララもいました。相変わらず無表情だけど目がさっきの目です。僕だって僕なりに頑張ったんだよ、なんでそんな蔑んだ目で見られなきゃいけないんだ。

「あ、起きた?」
「起き◎%☆△$×……」
「無理しない方が良いよ、クイーンに殺されかけたんだから」

痺れが抜け切れません。なんとか首を傾げてなんのことか聞きます。クイーンの事ね。

「さっきのレントラーだよ。名前はエマ。CHESSの女王(QUEEN)狂笑妃(きょうしょうひ)。狂ったみたいに笑ってただろ? 彼女は雄なら誰にだって手を出すんだ。僕は体型が違うから大丈夫だったけど、ここにいる獣型の人全員がクイーンと関係を持ってるよ」

手広いね。でも規模が分かんないから僕と比べてどの程度なのかも分かんないです。さて、痺れも抜けてきたんで……。

「エマはどこに行ったの?」
「部屋に戻ったんじゃない? ああ、それとクイーンを名前で呼んじゃダメだよ。なんでかは知らないけど名前で呼ばれるのを嫌ってるから……」
「ララは名前で呼んでたよね?」

ララを見たら相変わらずでした。不憫な僕。

「それはララが……」
「嫌いだからです」

なんてこったい。

 「彼女の過去に何があったかなんて私にとってはどうでも良いこと。ただ手当たり次第に男性に言い寄る事が許せないだけです」
「なんで?」
「不純です」

真面目だね。僕が今までどんな人生だったか言ったら僕のことも嫌いになるんでしょうね。

「ご心配なさらずとも、既に私は貴方が嫌いです」
「な、なんだってー」
「あらら……」

敵が出来てしまいました僕。どうすれば良いんだー。聞いても神は答えてくれない、だって神なんていないもの。だって僕は無神論者。

「とにかく」
「っ!」

ララが僕の首に刀を突き付けました。 殺 さ れ る 。

「もうエマに関わらないように。でなければ貴方を殺します」
「同じ空間にいるんだから最低限のコミュニケーションは発生すると思うんですぐぉえっ!」

ブロー決められました。サーナイトとは思えない重い一撃。てか理不尽じゃね?

良いですね?
「合点承知の助……あだっ!」

刀の峰で殴られました。さすがにここはふざける時じゃなかったか……。まぁいいや、ララは刀を鞘に収めてくれたし。どっか行っちゃいました。ミラージュ置いて。さて……。

「死ぬかと思った」
「真面目に殺されなくて良かったね」

笑顔で言う所じゃないですよ?
 そう言えば、ミラージュは何かララのことを気にかけているようなのでその事について聞いてみることにした。

「え? 別に僕とララは友達だけど……」
「でもなんか……」
「いやさ、多分未来の姉貴だから」

疑問符が湧きます。えっとー……。

「兄貴のシャドーマとララはこれな訳」

小指と親指をくっつけるミラージュ。恋人ですね、分かります。聞く所、人前じゃ惚気ないけど部屋では結構あれだそうで。噂では既成事実があるとかないとか。

「良いよなー、彼女いる兄貴って」
「ミラージュにはいないの?」
「いない。全く女にゃ縁がないよ。そう言うカルマンは?」

おっと、自ら地雷踏むとは思わなかった……。

「……いるよ。結婚まで約束してた人」
「……そっか。ゴメン」
「いいよ、知らなかったんだから。……あーあ、早く死にたい……」

多分意味は分からなかったんだろうけどミラージュは笑ってました。苦笑です。困った感じで笑ってました。そういや死にたかったんだよな、僕って……。

 それからしばらく経って……僕は初陣に赴くことになりました。手柄立てろよってみんながはやし立てるんですが……僕は誰も殺す気無いですよ? 今までのは正当防衛。何日かの間に銃のこととか色々教わりましたが……ここでも言われました「銃は持つな」。ナイフで十分ですよ。ひ、ひがみじゃないんだからねっ!

「行くぞ、黒炎壁」
「サー、ター……じゃない、氷猫爪」

二つ名で会話しろとのことだったので。ちなみに、僕はルークなのでキングやクイーンの前にいて突破してきた連中をぶっ殺すのが仕事だそうで。ちなみに、CHESSは殺し屋集団なのにほとんど傭兵としてやって行ってるそうで、今もどっかの戦争のまっただ中です。銃声と爆音が辺りに満ちてる。シェルショック(トラウマ)になりそう……。おっと、何人か突破してきた……。

「忍法・魔氷粒塵虚盧(まひょうりゅうじんころう)!」

忍法ですって、プギャー。ターニャはなんか手で印を結んでます。そしたら抜けてきた敵兵さん達が瞬く間に氷の粒に包まれて……。

「滅却」

ターニャが拳を握るとグシャ!! って感じで氷が潰れて血の雨が降りました。…… 僕 い ら な く ね ?

「おっと、炎兵が来たぞ、黒炎壁、頼む」

炎兵というのは、まあ簡単に言えば炎タイプのポケモンの兵士のことで……。ターニャの技は氷タイプなので効果が薄いらしく。ちなみに裏の世界じゃAODは普通に出回ってるけど普通の世の中じゃAODはまだ見ないので、彼等は普通に技で攻めてくるか人型の奴なら銃も使ってくるんですが……。今回の敵はブーバーと言うことで、アサルトライフルですね、本当にありがとうございます。
 彼等が連射してきましたが……筋肉の動きというのは正直なもので、僕にどこにどう撃つのかって言うのを教えてくれるんです。避けて避けて……まるでバレエ。くるくると回りながら投げナイフをスローイング。黒い炎は出し方がまだいまいち分かんないので普通に投げる。腹に刺さったけど……防弾チョッキでした、あれはナイフとかも通さないので……。仕留めるには時間がかかるかな……。

「フフフ……退きなさい、黒炎壁」

エマが僕を押しのけて出てきました。ダメでしょ出てきちゃ。僕はあなたを守るために前にいたんですが? 突っ込もうと思ったけどララから言われたことを思いだしたので突っ込みを飲み込みました。

「心配すんな黒炎壁。クイーンもキングもぶっちゃけて言えば守りなんて必要ない。特にクイーンはな」
「どうして?」
「クイーンには……究極の盾がある」

ターニャのその言葉の直後にブーバーさんがエマに向かって銃を乱射。死ぬよ? 危ない……と思ってたんですけど……。

「ククククハハハハハハハ……!!」
「弾が……」

エマに当たる前に逸れてます。弾道も一応読めるんですが、エマに届く寸前までは真っ直ぐ飛んで、エマのあと20センチぐらい前に来たらぐいんと軌道が逸れて当たらない。何発連射してもそう、全部逸れる。

「これが私の“電磁結界”……全てのものは電磁結界の中に入ることすら出来ないのよ。さぁ……笑いなさい……笑え!! アッハハハハハハ!!」

ブーバーは銃が効かないので炎を吐く。でもそれも逸れる。あ、貰い火。一歩ずつゆっくりとエマがブーバーに近寄る。何故か硬直するブーバー……。そして次の瞬間。

「消えなさい、クズ」

ブーバーは消えました。なんて言うのか、もの凄い量の電撃を喰らって消し飛んでました。あれの弱いバージョン喰らってたと思うと怖いねー。それでもってエマはそのまま敵の本陣にダッシュ、気が付いたら一時間でCHESSの付いた国の勝利になってました。てかこれエマ一匹だけで事足りるくないですか?

 「いえいえ、これからです」
「え?」

リーブはニコニコ笑ってから……きびすを返して味方してた国の方を見る。

「私達のことは、“誰も知らないし知っていてはいけない”」

そうリーブが言った瞬間、味方“だった”軍が消えた。元から何もなかったみたいに消えた。

「……あと十年……」

なんかリーブが呟いた。質問タイムに入ります。

「今のなんですか?」
「私の力、ですよ。私は遠いシンオウの神の力を与えられた。空間の神パルキアの力……。私はそれで彼等のいる空間を“消した”。それだけです」
「消えた空間とかその空間にいた人は?」
「消えた空間は他の空間が補います。パルキアの気が向けば新しい空間が作られますが。消えた空間にいた者達は文字通り消えます。残るのは記憶だけ」

この人は怒らせないようにしようと思いました。あれっ? 作文?

「てか、誰も知らなかったら仕事来ないんじゃ?」
「仕事が来ている事実があります。人間共は鼻が利く、利用出来るものは全て利用しようとする……。そう言う人間共を消すのが私の使命、いいえ、私の存在している理由です。軍隊が消えて無くなるなら人間は力を完全に失うことになる。元から力を持たない人間共の儚い力の元を消し去ることが出来たなら、残りの人間共を殺すのなど容易い」
「マジで人間に戦争しかけるつもりですか」
「“無論”。私は人間が憎い。憎くて憎くてたまらない。妻を殺し、我が子達から引き離され、いいように弄んだあげく私を兵器として改造した人間が。人間など生きている価値はない。奴らは私達を見下し嘲笑している。生かしておく理由など無い。世界を滅ぼす巨悪が我々の前に立ち上がっても私は人間を殺す。誰一人生かしておくわけにはいかない。誰一人として

この人滅茶苦茶人間嫌いなんだな……。僕も嫌いだけどこの人は僕の数倍以上だ。

 確かに僕らポケモンを見下してる人間は数知れない。現に改造された僕達はそう言う人間から利用された存在の一つって事なんだけど……。中にはポケモンと仲の良い人間もいた。僕が初めて手にかけた人間だって、ローザのことは好きだったみたいだし、僕を最後に怒らせる時までは僕のこともそれなりに普通に接してくれていた。でもそれは上辺だけだったのかな? リーブの話を聞いてるとそう思う。みんな人間達は僕達を見下して嘲笑ってるのか、それともそれは一部の人間だけなのか……。そんなこと考えてたら結局頭が痛いだけで答えは見つからないです。仕事が終わって帰ってから、何人かに人間のことをどう思ってるか聞いたんだけど、みんな「人間に復讐したい」とか「人間に一泡吹かせる」とか良い印象を抱いてる人なんて誰一人いない。みんな改造されたことはもちろん、捕まった時にされた仕打ちに恨みがあるらしい。家族を殺されたって言うのが一番多かった。ミラージュはシャドーマと一緒に捕まって、それを守ろうとした両親はその場で撃ち殺されたって。ララは抵抗する暇もなくて母親と一緒に捕まって父親は殺され、妹はなんとか逃がしたけどそれ以来会ってないらしい。他の人達も似た感じ。みんな家族や親しい人達を殺されてる。……僕って幸せな方なのかな? みんなに比べれば僕は身内も殺されてないし、アズサも逃げ延びることが出来てるはず。僕は僕だけ捕まってる。……違うよね、そう言う事じゃなくて、哀しみは比べるものじゃないですよね。でも、僕も捕まえられた時に限らず、人間に親しい人を殺された。父さんも、間接的に母さんも人間に殺された。そして何より……コウヤも。コウヤはハンターに殺された。父さんもハンターに殺された。ああそうか……人間って結局、自分たちのことしか興味ないんだな……。

 「どうしたのカルマン? ボーッとして」
「いや、なんでもないよ。あ、チェック」
「ちょっ……」

ミラージュとチェスしてました。僕の部屋でね。何故か強い僕。それともミラージュが弱いの? その後五手でチェックメイトで僕の勝ち。

「うぅ~、犬に負けるなんて冗談じゃないよ……」
「麒麟だよ麒麟」
「犬でしょ」
「麒麟」
「犬」
「麒麟」
「飽きないのかお前達は……」

シャドーマが突っ込みを。これは珍しい。ここに来てから半月ぐらい経つけどシャドーマが誰かに突っ込み入れるのは初めて見た。それで、シャドーマがいるって事はララもいるんですよね。

「あの……出会い頭にそんなに睨まれても困るんですが……」
「睨んでなんていませんよ。ただ目を少し細めているだけです」
「それが睨んでるんじゃ……はいすいません調子に乗りましたごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

僕の弱腰を見てシャドーマが引いてますね。むしろドン引きですね。だってララが睨むの。ララがいぢめるぅぅ~……。ってミラージュ笑うなよ!

 「まぁ……ララがお前を嫌いなのは知っていたが……」
「周知の事実なんですね、分かります。でも僕ポジティブに生きていこうと思います」
「エマと何もないでしょうね?」
「スルーは痛いです。何もないですよ、僕に約束破るだけの度胸があるように見えますか、見えませんね、そうですね」

ララが僕の隣に座ってきました。どさくさに紛れてつねるのやめて下さい。

「カルマン、貴方はエマのことをどう思いますか?」
「正直に言った方が良いんですか、それともあなたに都合良いように行った方が良いですか。イダダダダダダ!」

正直に、GO!

「まぁ、綺麗な人だなとは思うけど、ぶっちゃけ好みじゃないです……」
「どうして?」
「怖い。それに僕には好きな人いるから裏切れないし」
「……好きな人……ですか」

つねるのやめたね。

 「……二匹いるんだけどね、好きな人」
「え?」

ここで言っとけばララは僕のこと目の敵にしなくなると思うので。ミラージュも初耳のはず。

「一番好きな人はもう死んじゃった。僕が10歳の頃にハンターに撃たれて。二番目に好きな人は生きてるはず。僕が改造される直前に別れたから。その二番目に好きな人のお腹の中にはね、僕の子供がいたんだけど……今どうしてるのかすごく心配。多分もう産まれてると思うんだけどな~。正直な所さ、僕人間に復讐とか、それよりもね、その人とか、子供がどうしてるのかって事の方が興味あるんだよね。もう一度会いたい。ぶっちゃけそれしか頭にないのかも」

みんな黙ってます。

「だからさ、正直もう誰かを好きになっちゃいけないと思うんだよね。僕はその人と一緒に過ごしたいなって思う。だからエマのこととか恋愛対象にもなんにも見れないよ。今までずっと『顔が良いから』とか言って言い寄られて、成り行きでヤっちゃうって事はすごい良くあったことだけど、結局は成り行き。僕は好きな二匹のことしか考えてない。だからエマに言い寄られて成り行きでって事はもしかしたらあるかもだけど、僕はエマのことを何とも思ってないし。……それでもララが気にくわないなら僕を殺してくれて良いよ。だって僕が一番好きな人は冥界にいる」
「……死ぬのが怖くないんですか?」
「殺し屋やってる人みんなに言いたいよそれは。でもね、“僕は死を恐れない。死は僕にとっての運命だ”」

久しぶりに言ったね、この言葉。そう、僕は死ぬことを怖がっちゃいない。死ねばコウヤに会える。それだけのことだもの。そのあと無言でララは立ち去った。今までずっと無表情だったのに、彼女の顔が悲しげだったのが一瞬見えた。僕は思ってたことを言っただけ、それだけだから特に気には留めないけど。そのあとすぐに、シャドーマがミラージュを連れて僕の部屋から出て行った。残ったのは僕一匹。なんだかすごく疲れた。今日はもう寝ようかな……。

 目が覚めた。ここはどこ。僕の部屋じゃないね、僕の部屋はあんまり僕好みに改装してなくて最低限の家具しかないけどここにはなんか色々あるし何より香水臭い。

「あら、起きたみたいね。ウフフ……」
「ぅわっ! クイーン何してんすか!?」

なんか僕縛られてました。エマからね。ここはエマの部屋ですか……。

「あの~……何をする気でしょうか……」
「多分あなたの想像の通りのこと。ウフフ」

マジすか。

「抵抗して逃れるって事は可能でしょうか」
「無理よ」
「でしょうね。助けてぇぇ~」

なんだよ~、ララ達にあんな事言っといて結局僕こうなっちゃうんですか、そうですか。

 「怖がらなくても良いわ。私の相手をした雄はみんな満足してここから出て行くもの」
「いえそう言うことではなく……」

ララから殺されるぅぅ~。

「まぁ、あなたの事情なんて知った事じゃないけど。ウフフ、私は楽しめればそれで良い」
「嫌ぁぁ~」
「……ふざけてる?」
「六割方」

だって強姦されるのは慣れてるしね。てか拘束プレイも経験済みですが。

「御託は良いわ、さっさと始めましょう。ウフフ……」

S全開なこの人。怖いよぉぉ~。痛くしないでぇぇ~。

 「良い体付きしてるわよね」
「そうですか……まあありがとうございます……」

身体撫で回してきます。うぅ、くすぐったい……。と、そこで彼女は僕のモノに触れると……。やめて下さい、びっくりする。

「わっ……」
「撫で回されただけで大きくするなんて随分淫乱ね」

それはキミの手の動きが卑猥だからだと思われ。

「私の身体がお望みかしら?」

いえ特にそう言うことはないです。

「……あなたなんだかやりづらいわ」
「そうですか」
「それでも、私なりに楽しませてもらうけど」
「そうですか……」

あれ、そう言えばCHESSでは僕が最年長らしいんですが一番弱腰ってどういう事ですか。でも仕方ないよね、それが僕。

 「どうして欲しい?」
「どうにでもして下さい……」

ぶっちゃけ面倒なんです。

「意志のない雄ねぇ、ちゃんと自分の意見が言えるようになるまであなたはそのままよ。フフッ」

縛られたままだときついね。さっさと終わらせてさっさと寝たいです。どうしたらさっさと終わるかな? 何言えば彼女は満足してくれるでしょうか……。適当で良いや、僕もう羞恥心は結構前に捨てたし。

「イかせて貰えればそれで満足かなと」
「高望みするわねあなた」

何この人……。ムカつく……。

「イきたいなら自分でイけば? ウフフ……」
「自慰する程たまってないんで良いです」
「……なんなのよあなたは……」

こっちのセリフですよ?

 「はぁ……仕方ないわね。これであなたも“ヤる”気になるかしら?」
「ぅえ?」

……あ、これはまずい。“メロメロ”だ。これやられたら僕もうどうしようもないです。今までやられてなかったけどここで使われるなんてびっくりだぁ。うぅ……目の前がピンク色……。エマしか視界に入りませんチキショー。……なんてこった、“誘惑”を並行して使用してくるなんて……。僕もう困っちゃーうーのー。てへっ。

「どう?」
「目がハートです。ワクテカが止まらない」
「なんだか知らないけど効いたみたいね。もう一度聞くわ、どうして欲しい? フフッ……」
「クイーンにイかせてもらいたいです」

これが悲しいの、メロメロとかされちゃうと。自分でこう言う事言っちゃうので。でも み な ぎ っ て き た 。

「私にイかされたいの? フフフッ、よく言えました……」
「ぁうっ!」

エマがモノを掴んで扱き始めました。これはキタコレ。彼女はやはり卓越していると言いますか……すごく……気持ちいいです……。僕も経験豊富なんであれですが、彼女はそれの上を行くというか……。そんな感じなんで結構やばい。なんてこったい。

 「ぅあっ!」
「っ……」

耐えきれずに射精してしまいました。彼女もぶっかけられるとは思っていなかったらしく。まー、結構ご無沙汰だったから結構出ましたが……。

「……誰が私の許可無しに出して良いって言ったのかしら?」
「耐えきれなくて……」
「言い訳は良い」
「ぁぐぅっ!」

電撃飛んできました。痛い。これは今まで会ったことのない真正のSだぞ。僕も多少Mだからあれだが本物のSに耐えきれるかどうか……。彼女は僕を縛ってたのをほどいていきます。どうやら僕が逃げ出さないようにやっていただけの様子。

「あなたが出したものの処理は“あなたが”やりなさい」
「え?」
「わかるでしょう? “舐め取る”のよ」

つまり……ぶっかけてる精液僕に舐め取れと……。変態垂涎ものですね。僕はその類ではないですが、命令なのでやるしかないです。
 主に顔から胸にかけてかかってるので、手始めに顔から。掃除の時は上から下にって言うし。

「んっ……」

体が大きい僕は一舐めで彼女の顔を一回舐められるぐらいなんですが、念のために何度か舐めることにします。そして次は胸に……。彼女は結構巨乳ですね。舐めるだけで柔らかさが伝わってきます。

「ぐぁぅっ!」
「もう取れてるでしょ、調子に乗るんじゃないわよ」

予告も無しに電撃飛ばされるから舌噛みそうになったじゃないですか……。

「うぅ……」
「まだ足りないのかしら? まったく“欲しがり”ね。ウフフ……」

キミが誘惑するからですよ? あー、今度は何やらされるんだろ。

「足りないなら自分でやりなさい。私は見るだけだから」

これは先程僕が拒否した奴をやれと言うパターンですか。なるほど、拒否出来ない今程悲しい事ってあるんでしょうか。やるしかない! そんな状況。
 仕方ないので、自分でモノを扱くことに……。そういや自慰とか僕が二十歳になる前以来やってなかったなぁ。それ以降は本番ばかりだったので。久しぶりだからどうとか言うことはないんですけどね。はいはい。まぁ、自分でやるより誰かにやってもらう方が良いわけでありまして……こんなもんホントに慰めにしかなんないですよ。まぁそれでも出しちゃうんですけどね。今度はエマが自分にかからないようにとしたもんですから自分にかけるという何とも表現しがたい状態に。強いて言うならば、めっちゃ屈辱的です。Sはこれを楽しむんですね、分かります。まあこれをどうしようと言うこともなくエマは放置するわけですけども。渇いたらガビガビになるな~。

「随分可笑しな表情ね」
「Mっ気無かったら泣いてます」
「泣けばよかったのに……」

ボソッとドS発言しないで下さい。

「身体が火照ってきた? もう本番に行きたいんじゃない?」
「ですね。抱かせて下さいお願いしまぁだっ!」
「私はまだいい。だからまだよ」

僕遂に罪悪感で死ねる発言をしてしまいました。それにしても窘める時に電気飛ばしてくるとあちこち痙攣してその後の行動に支障を来すんですが……。でも嫌じゃない不思議。メロメロの力は恐ろしい。

 「さて、次はどう虐めてあげようかしら? 鞭? また縛る? それとも玩具(バイブ)でも使おうかしら? ウフフフフ……」
「…………」

さて、メロメロに加えて誘惑を決められている僕は欲望を抑えきれないわけですが……。ここは一気に主導権を握ってしまおうという作戦。一気に行けば大丈夫じゃね? と、言うことで……。今エマがこっちを覗き込んでいる状況な訳ですが、一気に押し倒せばいけると踏んでいます。タイミングだね、あとは。……めんどい、行っちゃえ。

「はっ!」
「っ!」

これは成功したね。今押し倒して腕を押さえつけてる状態。これはもうヤりたい放題。うは、ワクワクテカテカ。

「……退きなさい、カルマン」
「いえもう退けないと言うか」
「そう。私はね、“私の思う通りにならないことはあってはならないと思ってるの”。だからね、死ね。ククククククッ」

次の瞬間ドカーンって感じで全身に電気が。これは死ねる。グッドラック、僕の意識。



 目が覚めーたー、星のなーかー。キラッ。特に意味はない。目が覚めました。依然エマの部屋にいる様子。……あれ、一分ぐらいしか経ってない? 気絶したにしては早起きだね、僕。エマは……ん? 化粧直してる? すっぴんでも綺麗ですけどね、彼女は。とにかく、全く警戒してない。……反撃のチャンスキタコレ。今度は有無をいわせないように……と考えて、後ろからいってスリーパーホールド! と言う結論に。何でですかね。でもやる、それが僕クオリティ。

「ばぁ」
「きゃっ!!」

雌っぽい声もちゃんと出せるんですね、今まで近寄りがたい感じでしたが。今ベッドの脇で彼女を羽交い締めにしてます。さすがに反撃出来ないでしょ。

「どうして!? どうして生きてるのよ!?」
「生きてるから生きてるんです。異論は認めない」
「黙れ! あの時もさっきも“確実に殺せる量の電気”を流したのにどうしてあなたは生きてるのよ!?」

あー、これもナノマシンパワーなんですかね。聞く所によると、改造で電気なんかが効かなくなるようになってる人もいるとか。僕もそれですかね。

「とにかく、電気は無駄です。仮に流したとしても気絶する前に首締めてそっちを落とす気でいます」
「くそっ!」

まー、収まりが聞かないだけなんで一回ヤったらもう別にどうしようって訳でもないんですけどね。それでも彼女のせいです。
 抵抗されないように、その状況をキープしながら彼女を愛撫するとなると……あ、そう言えばいつかエネコロロを相手にした時になんか教えてもらったな……。えっと、どこをだっけ……。え~……あ、首だ。首を噛めば猫系統の人は抵抗出来なくなるって聞いたな。レントラーも虎だかライオンだか知らないけど猫だし、やってみようそうしよう。景気よくガブッと……ってそれは死ぬね。やりすぎないように加減しながら……噛みっ。

「ぁうんっ……」

成功しました。噛んだ瞬間急にくたっとしました。これはずっと僕のターン。胸をもみもみですね、わかります。

「あっ……ゃんっ……」

いつもあんな大人の女性って感じの人がこんな声出してると思うと興奮が収まりませんね。この人も淫乱なんです、僕は違うけど。でも淫乱な人は性欲が有り余っているということですからちょっと弄っただけでもう準備万端ですね。さってっとぉ、終わらせて寝よう。眠い。

 「あぁんっ!!」

はい、入れました。別にどうとかいう感情もないもので、と言うより今眠くて。てか……すごいな彼女、今までにない感じ……。締め付けが強い訳でもないですが、すごく良いです。なんだろなー。

「くっ……」
「ぁんっ、あぁっ!」

ベッドの上でやればよかったな~。これは掃除が大変そう。愛液が彼女の足を伝い床に流れていってます。まあ僕が腰を動かすたびにポタポタしたたってもいますが……。とにかく、腰を動かしていれば終わります。寝たいんです。まあ今は性欲。

「あぁぁっ! カルマン……っ」

もうすぐイきそうだね、彼女。何となく相手を先にイかせたいなと思うのが僕です、はい。でも僕も結構限界近いしな……。まあいいや、スピードアップ。

「やぁぁぁっ!!」

あれ、結構あっけないですね? 仕方ないので僕はもうしばらく動かして僕も満足しましょうかと。

「うっ……」
「ぁう……」

中出ししたけど気にしない。これはもはや強姦だもの。コウヤを強姦した時はあれだったけど、相手がエマだしこっちも痛い目みたしでおあいこです。
 さて、もう部屋に帰って寝ようかな……と思ってエマから離れたら、エマから押し倒されました。

「はぁ……はぁ……やるわね……。でも、ヤられっぱなしは嫌。主導権を渡したままなのもね……。ウフフフ……」
「え? 冗談ですよね?」
「大丈夫よ……あなたのこと気に入ったから……」

良い方にですか? でなきゃ嫌だぁぁ~。と、ふざけるのはこのくらいにして……。騎乗位でヤる気ですね。マジですか、マジですね。

「んっ……」
「ぅあっ……」

基本的に、騎乗位は僕が突く時動き方が面倒なんでやりたくないんですが……彼女の場合は自分から動かしてくれるので随分と楽。これは良い。色んな意味で。

「あぁ……カルマン……あなたのって大きくてステキ……」
「よく言われてました……」
「すごく良いわ……ぁっ……」

彼女はイってしまったらしく僕の上に倒れてきました。胸が当たります。ドキがムネムネ。いつのネタなんですかね。まあそれ以前に鼓動は速くなってますが。

 「あぁ……カルマン……。良いわ……出して……たくさん……」
「動いて良いんなら?」
「ええ、むしろ“命令”……。動いて、カルマン」

一応それなら主導権はそっちですね。動くことにしましょう、この状態で逃げ出そうなんて考え出てきませんし。少し動かしてたらエマがキスをしてきました。あぁ、なんだろ、このキスはメロメロか誘惑の効果でもあるのかな? もの凄くキスだけで気持ちいい……。無論下の方も良いですよ、これは上も下も大満足ですね、分かります。

「んんっ……カル……マン……っ!」
「ぅんっ……エマ……ぁ……。んっ!」
「あぁぁん!!」

また射精しました。今思えば、溜めてるから持続するものの、普通ならこんな長時間のプレイは出来ませんよね……。
 終わったらしばらくお互いぐったりしてました。いやー、久しぶりに疲れた、これならぐっすり眠れそうだ……。あ、そうだ、最近親しくなった人にはどうしてΩにいるのか聞くことにしてたんだ。エマにはララがあんな物騒な脅し文句言うから聞けないでいましたが、もうこの際聞いてしまいましょう。

「ねぇ、エマ」
「何?」
「聞かれたくないことだろうけど……どうしてここにいるの?」

エマがしばらくこっちを見てからそっぽを向いた。まあ今まで答えてくれない人とかも大勢いましたよ。それはそれで良いんですけどね。

「殺されたのよ、みんな」
「え? あぁ……」

答えるんかい。

「……あ、私のことはエマって呼ばないで貰える?」
「ごめんなさい……。えっと、でも、どうして名前で呼ばれるのが嫌なの?」

睨まれました。

「……私のことを名前で呼んで良いのは……エドワードだけよ……」
「エドワード?」
「……私の夫。もう死んだけど」

夫が殺されたって訳ですね……。

 「……私の愛したエドワード、最初は政略結婚だった。それでも彼は私を愛し、私も彼を愛してた……」
「なんか深い話そうですね。聞かせてもらって良い?」
「……そうね、聞かせなきゃ帰らないって顔してることだし」

そんな顔してたの? 意識はしてなかったけど……。とにかく話を聞こう。

「私の生まれはシンオウの小さな林の中。その近くには大きな群れを率いる一族がいた。そんなことは私が16になるまで知らなかったけど、彼等は食料の現象を理由に群れに加わらない少数の者達を排除すると決め、攻撃してくる間近だった。でも、私の両親はそれを恐れ、私だけでもなんとか生かそうと私をその群れに人質に出した。そうすれば身分はともかく生きていることは出来る……。フフッ、私の美しさはその頃から定評があってね……群れを率いる一族の長のお眼鏡にもかなった。頭も悪い訳じゃなかったし、それなりに腕も立った私は一族の長の息子……ライボルトのエドワードと婚約することを条件に私と両親は安全に取りはからうと決め、私はそれに応じた。彼等はその約束をしっかりと守ってくれたわ。両親は“私が捕まるまで”健在だった。エドワードと結婚してからはもう何が何だかわからなかった。決まり事だのなんだの多くて。でも、それでも優しく私に接してくれたの、エドワードは……。最初は好きでもなんでもなかった。でも、私は彼を愛していた。本当にいつの間にかね……。私はその頃から女王(クイーン)。彼も私を愛してくれた。彼との間に子供も設けた。幸せだった……。でも、幸せなんてものはすぐに壊れてしまうのよね……。そう、人間に壊された……。人間共は“私達の一族”を襲い、一匹、また一匹と殺していった。仲のよかった友人も、世話になった恩人も、見境無く、次々と……。そして人間共は……私達の方へやってきた。私は怖くて震えていた。娘だけは腕に抱いて守ろうとしていた……。エドワードは私達を守ろうとしてくれたわ。でも結局……腹を撃たれて虫の息だった所を、間髪入れずに脳天にもう一発……。エドワードは死んだ。絶望したわ。愛した人が目の前でただの“もの”になってるんだから。……そうやって呆けていたのがいけなかったのかしら。いつの間にか腕から離れていた娘は、人間に捕まりなぶり殺しにされた。……もう、絶望を通り越して笑えたわ。ここまで酷い悲劇ってあるのかしら? 私は悲劇のヒロインになるつもりなんて微塵もなかった、なりたくなかった。……でも、現実はそれよ。私は捕まり、改造された。“泣くことの出来ない”私はもう……“笑うしかない”……。分かる? 私の気持ち……」

僕は最後の問いかけに、精一杯考えた一言で答えた。

「分かりたくないよ」

その返事に彼女は小さく頷いた。肯定してくれたんだと思う。僕にはそう取れた。
 彼女は悲しかったんだろう。彼女だけじゃない、みんな悲しかったんだ。それが歪んで、殺しになってしまったんだ。殺すことでしか、戦うことでしか自分の哀しみを表現出来ない。みんな多分そうなんだ。みんなみんなみんな、人間に恨みを持っている。でもそれは都合の良い口実であって、哀しみを発散するという秘めたる理由を持って人間を殺すことが出来る。本来なら許される事じゃないのは分かってる。でも、人間は理由も無しに僕達ポケモンを殺している。理由を考えてみれば、僕らが害獣だから、生態系がおかしくなったから、他にも色々考えられるけど、どうしても出てきてしまうのが、競技狩猟(スポーツハンティング)って言う理由。彼等は僕らを本当にどうとも思っていないのかな? 僕みたいなのがいくら考えても結局答えはでないんだろうけど……。それでも、みんなのために、彼女の……エマのために、少し考えてみたくなった。



 僕はまた仕事をしていた。今回は奮戦地でいい加減に補給が面倒になった第三国からどっちか潰して早く収めてくれということらしい。でも今はもうそろそろ終わりそうな状態。エマが先陣切って行っちゃったから。

女王近衛騎士(クイーンズガード)の身にもなって欲しいですね」
「良いじゃん、クイーン死なないし」
「ですよね」

ララとミラージュと僕の会話。シャドーマはリーブのそばにいます。

「そろそろ帰ろ? 終わるって、あと五分ぐらいで」
「そうですね……。カルマンさん、私達の殿(しんがり)は任せますよ」
「ラジャー」

逆らえないんです。ララ達が帰っていったのを見て、周囲に敵がいないか確認して、いたら排除、いなけりゃ帰ると……。いないね、帰ろう。隠れられるような所もないし、さっさと……

バァン!! バシャッ!!

……あれ……?

バンバン!! ダダダダダダダダ!!

僕……撃たれてる……?

「こいつだけでも良い! (かたき)を取れ!!」

……目の前が真っ赤だ……。

「もう負け戦だ! 全部こいつに使っちまえ!!」

僕……死ぬ……?

「ヘヘッ……一匹だけでも……殺せりゃ手柄だ……」

……あぁ……コウヤに会えるんだ……。

「……もう、撤退しよう。上手くいけば生き延びれる……」

……目を閉じたら……会えるよね……。

「南に行こう、川沿いなら隠れる場所も多い」

……止まらない……。

「西は? あっちはすぐに国境がある」

……鼓動が……止まらない……。

「……うわっ!! 生きてるぞ!!」

……どうして……。

「撃て! 撃てぇ!!」

……どうして……。

「“どうして僕は死んでないんだ!!!”」


 血溜まりの中に僕は立っていた。傷はない。かすり傷一つ無い。でも体中僕の血で汚れている。周りにいる兵士の骸は“確実に”僕を撃った。額も撃たれた。心臓も撃たれた。体中を蜂の巣にされたはずだった。

「……っ!!」

自らの腕にナイフと突き立てる。深く、深く、身をえぐり出そうとする。しかしそれは無意味だった。何度刺そうが、どこを刺そうが、首を斬ろうが目をえぐろうが舌を切り落とそうが何をしても……“全て治癒してしまう”。

「……黒炎壁、いえ、カルマン。あなたに新しい名前を授けましょう」

いつの間にか現れたリーブが独り言のように呟いた。

「あなたは不死黒焔(ふしこっか)。“死ぬことを知らぬ黒き焔”」

僕は笑った。笑いながら吼えた。“それしかできなかった”。


運命の呪縛に遮られ、僕は道を見失った……。


あとがき

こんばんは、DIRIです
途中からインフルエンザにかかった状態で書いてました。死ねます
今回からなんかすごいことになりましたね。すごいですね、ほんと←
ああ、エマとかなんとか色々出てきましたが、えむないんの人とは別人です。むしろどっちかといえばこっちの方が私の考えてるエマに近いといいますか(笑
最近は官能表現よりもストーリーの方に行ってしまう傾向があるのですが、仕方ないです、こんなんに初期からする予定だったので。すいません
ちなみに、運命シリーズはあと二つで完結する予定です。では、残り少ないですが期待せずにお待ち下さい


最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • ロコン系に恵まれてる……おい、かわ(ry
    このシリーズ好きです
    い~な~カルマン……
    ―― 2009-10-21 (水) 02:14:19
  • ここでまさかのハル登場www
    ――雪崩 ? 2009-11-01 (日) 23:25:51
  • 雪崩さん
    コメントありがとうございます。最初のコメントに返信してなくてすいません
    シグマの母親はアズサではないです、アズサの子供は時期的には目も空いてないと思われます
    カルマンが生きてたのはやはりそれですね、荒川さんの注射です(笑
    ハルは本当に“どこにでも”出てきますからね(爆

    名無しさん
    コメントありがとうございます、遅くなってしまい申し訳ありません
    なんて言うか、私もロコンが好きで(爆
    実はこのシリーズ自体サイドストーリーみたいなものなんで別のプロットが存在してるんです。それに上手い具合にかませようと←
    カルマンは気が気じゃないですがね(笑
    ――DIRI 2009-11-02 (月) 17:44:04
  • これは予想外の展開...
    これからのカルマン...全く想像がつきません。
    ――無影 ? 2009-11-05 (木) 22:45:46
  • 神の兵器「ナノマシン」
    どんな致命傷も一瞬で完治してしまう。
    ―― 2009-11-11 (水) 01:20:55
  • ここでやなやつ、誤字チェッカー!
    発見した誤字
    エマの発言「~彼等は食料の現象を理由に~」
    減少ですよー、おっとエマを名前で呼んでいいの
    はエドワードだけ・・あぺぺぺぺぺ(電撃直撃!
    ――チャボ 2009-11-19 (木) 18:44:44
  • ロコン=ロリコン=変態=エロ
    ―― 2009-12-06 (日) 02:09:36
  • MGS2やん!
    ―― ? 2010-06-26 (土) 00:27:44
  • ナノマシンってあれか
    仮面ラ・ダーか
    ――THE.NEXT ? 2010-07-28 (水) 18:40:46
  • クイーン様~私をいじめて下さ~い
    ―― 2013-08-25 (日) 05:47:39
お名前:

トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.