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運命の亀裂

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作者:DIRI

運命の亀裂 


 長い旅の中で、僕は色んな人に出会ってきた。みんな僕の身体を目当てだったけど……。それでも僕は旅を続けてきた。僕は進み続けた。そんな中で、僕は彼女に出会った。二番目に愛する人。二番目に大好きなアズサ。僕は彼女を連れて旅を続けていた。彼女との旅はすごく楽しくて、色んな事を忘れてしまいそうになるぐらい楽しくて。そんな彼女のお腹にはいつしか新しい命が宿ってた。正真正銘僕の子供。アズサはすごく嬉しそうだったけど、僕は正直ちょっと戸惑ってた。一番愛する、一番大好きなコウヤとは子供も何もで来ていないのに、二番目のアズサとの間に子供が出来ちゃって良いのかな? そんな風に思った。その時にも僕はまた襲われて。生き別れの妹から襲われて。僕らは人間に捕まってて……。今思えば、あの時最初にローザを殺しておけば良かったのかも、今となってはそれが一番……悔やまれた。

 「はぁ、はぁ……」
「アズサ! 乗って!!」

こんにちはとかいつもみたいに言ってる場合じゃないです。どうも、カルマン・アーヴァイン・ローゼンバーグです。僕達は今走ってます。理由? 聞かないで、察して。とか言っても無理なんでしょうね、一言で言いたいと思います。僕らの命の危機。三言でしたね、すいません。ハンターから追われてるんです。何でかって言うとまぁ……僕が殺っちゃったからでしょうね。仕方ないじゃん、誰しも堪忍袋の緒が切れちゃうことあるでしょ。それがキミ、人間は捕まって刑務所行きとかまだ猶予はあるのに僕はあっという間に害獣扱いで殺られる運命っすよ。どうなのこの差別? 区別だね、うん。ってかね、さすがにアズサにこれ以上無理させるのはいかんっすよ。だって身重ですもんね。あ、ちなみに時間軸のズレ具合で言うと僕がローザのトレーナーぶっ殺してから二週間ぐらいです。うわ~、情報伝わるの早いなぁ~、とか思ってる暇もありませんでした。さすがにこれ以上は逃げられない気がしてきます。僕もうダメかもしんない。とりあえず今アズサを背中に乗せて走ってるんだけどさ……後ろから来るのがヘルガーです。嘘だろステファニー。奴め、恐ろしくしぶとい。何度撒いても察知して追いついて来やがんの。勘弁してください。確かに僕も体力の限界とか言うのがありますが、そんなヤワじゃないっすから~。かれこれ奴から逃げ始めて二日目ですね。もちろん人間のハンターもいますよ? 銃持ってる子が。一番質悪いよ。リーチが長いのがホントにやだ。何度かかすったもんね、アズサは頭の毛を少し持って行かれました。若干形いびつ。あーあ、せっかく綺麗に整ってたのにさぁ……朝の楽しみの一つあぼーん。まぁ、彼女が居るだけで十分なんですけどね。……おっと。

「旦那様……崖……」
「まずいなぁ……」

しまった、崖に追い詰められた。……すぐあのヘルガーは来る、ハンターも。そうなれば、僕達はそこでてぃうんてぃうん。はい、ふざけてる場合じゃないですね。絶体絶命です。どうしましょう。ま、聞ける人なんていませんよね。仕方がないですね、っと。

「……大体3、40メートルかな?」
「……旦那様、まさか……」
「ゴメンね、それしか思い浮かばなくて!」

飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで、回りません。僕らは崖から飛び降りました。まぁ、僕らって言うか僕の独断だから僕と道連れになったアズサだね。滞空時間長ぇ~。

「旦那様ぁぁ~~!!」
「大丈夫だからお腹に力入れない!」

そう言えばアズサのお腹、少し目立つようになってきました。少し見れば妊娠中って分かるぐらいです。いや、ここまで来て流産とかされたら僕真面目に自殺しますよ。僕らはまだ結婚はしてませんが責任は取るつもりです。ま、ポケモンの結婚なんて証人が数名いればそれで終わりな訳ですけどね。証人が仮にいたとしても逃げるのに必死でそれどころじゃない。ってかアズサ僕がキレたあのあとよそよそしいのが一日だけって切り替え早いよね。普通引くよ? キレて人殺した奴いたら。あ、もうちょっとで地面だ。アズサに出来るだけ衝撃を伝えないようにするには……僕の四肢を犠牲にするしかないです。まあ、大丈夫ですけどね、憶測ですが。ほ~れ、着地~。

「ッ……っぁ……」
「旦那様、大丈夫か?」
「……うん、でも多分アドレナリン切れたら泣く」

肉球……多分これ死んだな。足がなんか歩くたび肉塊を踏んづけてるみたいな感触する……。チラッと手の平ってか前足の平見たら血だるまでした。本当にありがとうございます。アズサには知られないようにしないと、僕のことになると向きになっちゃうから……。でもまぁ、歩くたびになんかギシギシ言ってるの聞こえてると思うけどさ……。

 「……撒いたかな?」
「少し休もう、旦那様……」

僕は首を横に振って「まだ」って言っておきました。うは、僕かっけぇ。すいません、かっこつけです。まぁ冗談はさておき、逃げられる内に遠くに逃げとかないと後々苦労するのはこちらです。ハンターって言うのは獲物を狙ったらなかなかしぶといもので。第一向こうにはヘルガーって言う猟犬(Hound)がいますからね。猟犬程厄介なものはないと言うものです。一応僕も犬? 麒麟らしいんだけど……犬、だよね、ディテール。とにかく逃げないとあっという間に狩られるんだよね。モンハンしようぜってか、やかましいわ。

「神速を使えば……」
「ダメだよアズサ、そんな事したらキミに負担がかかっちゃう」

Gですね、ようするに。

「でも四の五の言ってる場合でもないだろ? 私は大丈夫だから一旦それで逃げよう」
「だからね……僕が心配してるのはアズサのことが四割、六割は子供の方だから。アズサが大丈夫でもお腹の中で何が起きてるかなんて分かんないでしょ? 気を付けなきゃさ、流産とか嫌だ。僕の子供でしょ? ちゃんと産んで欲しい」

本心ですけど何か問題でも? これ言ってるとアズサが赤くなってくからね、面白いってわけじゃないんだけど……。
 っと、その刹那なんか爆音。それから一秒経たない内に……。

「っぐぁぁぁっ!!」
「きゃっ!」

死ぬ。足撃たれた。崖の上からスナイパー、もといハンター。弾丸が後ろ右足貫通。やばい、くそ痛い。

「っく……ぁ……ぅくっ……」
「旦那様!」

やばいな、ヘルガーが来るに違いない。逆にヘルガー来なかったらどうなんだよ。ハンターってのは毛皮欲しさにあんまり射殺はしないんだよね、毛皮に余計な傷つけると値が落ちるから。やる奴はやるけど手堅く行くのは猟犬に仕留めてもらうか、捕縛の後急所をざくっとっていうのが定番かな。となると危険だ。

「アズサ……乗って……」
「でも……」
「早く!」

渋々って感じでアズサはまた僕の上に……ってかさっきは僕が撃たれて倒れたから落ちちゃったんだよね。さて、足の痛みが現実味無くなってきたよ、痛すぎて逆に。煩わしいことこの上ない。

「神速で逃げる……しっかり掴まってて……」
「え? でもその足じゃ……」
「キミは自分の心配だけしてて。お願いだから……」

僕はそう言うと神速を発動、全力でこの大地を駆けます。でもいつもよりスピードは出ない、やっぱり足が……撃たれた以外にも損傷があるからかな……。
 森にたどり着いた所ら辺で……僕に限界が来た……。血が足りないよ……。

「はぁ……はぁ……」

僕がうずくまったらアズサはすぐに僕の傷の様子を見に行き……ってそれだと肉球のこともばれちゃうよ。

「……飛び降りた時の傷もあるじゃないか……」

手遅れですね、本当にありがとうございます。

「ゴメン……心配掛けたくなくて……」
「あとで知った時の方が心配だって言うのが分からないか?」

分からない訳じゃないけど、なんか今度言訳考えとこうと思います。……それにしても……。

「血が抜けすぎて……寒い……」

炎タイプの人達は体温調節って言うのが結構気軽に出来るんですが……僕それがままならない状態。それで……そんなに血が抜けてるって事は、逃げてる途中も垂れ流してたって事なんですよね。つまり……ヘルガーさんがにおいをたどってくるのぐらい容易なわけで……。

 「アズサ……」
「何?」

言わなきゃいけないんだろうなぁ……かっこつける訳じゃないんだけど。

「僕を置いて……逃げて……」
「な!? 何言って……旦那様!」
「僕はもう……多分ダメだ……」

アズサがこの世の終わりみたいな顔してる。僕もそんな気分だけどとりあえず笑顔繕っとく。じゃないと……雄としてダメ。

「僕がいたら……血のにおいでばれちゃうよ……」
「そんなのなんとか出来るよ! バカな事言わないで!」
「……アズサ、わかってるだろ? 僕バカなんだよ……」

いつも通り、僕に掴みかかってくるアズサ。そんな彼女は今まではずっと怖かった。でも今はそれ以上に……すごく、すごく愛おしい。だって彼女は目に涙を溜めてるから。

「バカなら私の言うこと聞けよ! 一緒に……逃げようよ……」
「……それはやっぱり無理だよ……」

彼女の目にたまってる涙がこんなに綺麗でなかったなら、僕はこれ以上何も言わなかったと思う。その涙が憎くって仕方ないから。

「……それじゃ、言い方を変えるね……。ハンターの目的は……僕だけだよ。キミはオマケ……。大本命を狩ったならオマケの一つや二つ簡単に諦めるに決まってる。だから僕を置いてキミは逃げる。僕は出来るだけ時間を稼ぐから……」
「逃げる時間なんて要らない! 旦那様とずっと一緒の時間を過ごしたいんだ!!」

もうダメかな、もう雨が降ってるのかな。空はこれでもかってぐらい晴れてるんだけど。雲があるのは目の中かな、土砂降りの雨降らしてるのかな……。アズサは止めどなく流れる涙を拭うこともしないでただ僕に抱きついていた。

「……嫌だよ……旦那様……」
「……僕も嫌だ……でも、仕方ないんだよ……」

辛い。抱きしめてあげられない。僕の手、前足は血まみれだから。彼女を抱きしめれば血が付いて、においが付いてしまう。そしたらヘルガーが嗅ぎつけるに決まってる。だから……だから……僕はアズサを抱きしめられない。

「……ゴメンね、アズサ……」
「謝らないで……お願い……」

僕は小さく頷いてからゆっくりと立ち上がる。全ての足に激痛。特に撃たれた右後ろ足は焼けるように……ってその表現が合ってるのかは分からないけど、そんな感じで、意識が遠のく程痛い。

「……さぁ、行って。お腹の子供は……頼んだよ。立派に育ててね……」
「……うん……」

泣いている彼女に、きっと最後になるだろうキスをする。深く、深く、全てを忘れる程深く……。そんな幻想を終え、僕は真剣な顔をした。

「……これ、僕のわがままで、雄としてのプライド……。だから、バカだって思ってくれて良い」
「……うん……」
「……愛してるよ……二番目に……」

アズサの唇にまたキスを。今度は少しだけ、僕らの愛情を確かめるだけのキス。僕は彼女の最愛の人、彼女は僕の最高の二番目……。僕が振り返って来た道を戻っていった時に、すすり泣く声と一緒に森の奥に消えていく足音を聞いた。


 「よう、獲物。死期を悟ったかぃ?」

僕が森の入り口当たりまで戻ってきたらヘルガーと出くわした。さすがにハンターはまだ追いついていないらしい。

「……僕が悟ったのは死期じゃなくて、自然の摂理の無情さって所?」
「何か知らんが色々あったっぽいな。だがまぁ、戻ってきたって事は腹くくってんだろぃ?」
「そうだね」
「……じゃぁ、狩られてくれぃ」

僕の背後に回り込むように飛び出したヘルガーに思いきり体当たりを喰らわせる。体格の差、それだけで破壊力は桁違いだ。僕みたいなデカいのがやると強いわけさ。まさかいきなり攻撃喰らうとか思ってなかったっぽくて軽く吹っ飛んでくヘルガー。そのまま飛んで行ってしまえ。しかしまあそんなことはあるはずもなく、即効で態勢を整え僕を押さえつけようと飛びかかってきます。対応しようとしたけど……傷だらけの身体の方が付いてこなくて……。

「ぐぁっ!」

一撃必殺、なんだろうね。足下が既におぼつかないから思いきり引き倒されて首に噛み付かれました。首に噛み付かれる。これは要するに完全敗北の証です。

「……他愛ないじゃねぇの? もうちょい暴れるかと思ったんだがねぇ?」

そんな事言いますか。僕怒るよ。

 「……キミって常識に囚われすぎだよ」
「あん?」

若干僕の声おかしいのは気にしない。首に噛み付かれてるんだから仕方ないでしょ。

「……キミは僕がこの状態になって……もうダメだって諦めるって思ってるんでしょ?」
「まさか策でもある訳じゃあるまい? 近くにキュウコンのにおいもしない」

……逃げてくれたって事だね。

「……キミの犯したミスは一つ」
「あ?」
「……死を恐れていない奴を死に際に追い詰めて勝ち誇ってることだ!!」

その言葉とほぼ同時に、幾つか音が同時に鳴った。それは、何かが振るわれる音と、何かが折れる音と、何かが吹き出す音。それは……僕がヘルガーの首にパンチを食らわせ、その瞬間にヘルガーの首が折れ、パンチの衝撃で僕の首が……噛み切られた、その音。

 「っく……ぁ……はぁ……」

以外と浅かったらしくて首は繋がってる。呼吸も出来る。でも元々減ってた血が更に脳に行かなくなって意識が朦朧とする……。

「……相棒……死んじまったのか……」

……ヘルガーは死んだらしい。僕より先に。

「……あんまり好きじゃなかったが……仇は取ってやる。お前の手柄を横取りするみたいだが……許してくれ」

そんな言葉のあと、目の前に何か黒い長いものが突き出された。……それがなんなのか分からない程まで死にかけでもない。だから……最期はかっこよく……。

「……ちくしょう……」

森には銃声が響き渡り、僕の意識は……途絶えた。



 「ぅ……」

ここ……どこだろ……? 天国? まあ一応僕人殺しなんで地獄ですかね。あるとしても。でも何となく天国も地獄もないんじゃないかなって……違う違う、今はそれじゃない。目を開けて立ち上がらなきゃ。まあ目を開けた所で視界がぼやけすぎでろくに前も見えませんけども。

「……起きましたね」

すぐ前から聞こえてきた声は、えーっと……シャワーズの声ですね。顔付きは整ってるけど雄みたいです。何だか知らないけど左側に眉毛みたいな模様がある……。

「……僕生きてる……?」
「ええ」

なんの突っ込みも無しで直で返してくれました。それはそれでリアクションも取れず困るんだけど。脳内では余裕のよっちゃん。古い? どうでも良いですね、すいません。とりあえず僕は生きてるみたいです。撃たれたんじゃないのかな……?

「……同情します、長い間眠っていたのでそのまま目を覚まさなければよかったのに」
「眠ってた?」

麻酔銃? いやそんなはず……だって僕足撃ち抜かれたんだし。てかなんか悪口?

「目を覚まさなければよかったって、え? 僕なんかした?」
「いえ、私の寝床を半分程その巨体で埋められてはいますがそんなこと気にはしていません。貴方は自分が生きているか最初に聞いてきましたが……生きていることも同情しますよ」

すいません、悪口にしか聞こえません。

 「同情って、なんで……」
「周りをご覧なさい」

そう言われて初めて周りを見た僕です。……一言で言いますと、あるぇー?

「檻……!?」

閉じこめられてますね。割とデカい檻に。明らかに人間が作ったものです、本当にありがとうございます。

「ここで……他の方がどんどん消えていく様を見ていくこと……。まさに生き地獄、下手をすればそれ以上です」
「他の方って、他にも何匹かいるの?」
「何匹所か……。百匹以上はいるでしょうね」

ぽかーん。

「そんなに……」
「みなさん頼れるものなんて無い。ですからお互いに励まし合うことでなんとか正常を保っています。それが結局自分を苦しめることになると分かっていても……」

何が何だかサッパリ分からない。だってなんだか、だってだってなんだもん。すいません。
 話の展開が急すぎるんだよね。だってズドーンのあと死んだなって自分でも思ってたのに目が覚めたら生きてるし檻の中いるし、おそらく同室住まいになってるシャワーズは良く分かんない事言ってるし……。僕情報処理能力低いからダメなんだよね、多分整理するのにあと一週間必要。

「今まで寝ていた貴方に言うのもどうかとは思いますが、今は休んでいた方が良いでしょう。混乱しているようだ」

ああはい、とりあえずこんがらがった頭をなんとか元に戻すわけですね。善処します。

「……ああ、百合(Lily)が来た……。彼女は無視しなさい。おそらく更に混乱する」

誰よ百合って。彼女? 逆に気になるんで振り向いてしまいました。……檻の外にグラエナがいました。彼女が百合?

「あら、起きたのね色雄(いろおとこ)さん?」
「僕ですか、そうですか。えぇまぁはい」

美人ですね、とびっきりの。雄なら誰しも涎が出るんじゃないでしょうか。でも何だか見ただけですごく覇気があるというかなんというか……強そうって言ったらあれだけど。よく見ると体に何やらたくさん付けてます。ベルトとかベストとかあれとかこれとか……。気になるのが変な腕輪? 毛に合わせて黒いカラーリング、でも黒光りしてる。まあ彼女の毛も結構ツヤツヤしてて角度によっては光って見えるんだけどね。そんな彼女、もの凄く大人っぽい。

「寝顔も可愛かったけど……起きてるとかっこいいじゃない。あー、もったいない」
「何がですか?」

知らない人には基本的に敬語です。へりくだります。

「何って……リヴァル、言ってないの?」
「言わずともそのうちに分かることです……。起きて早々奈落へ突き落とすような真似はしたくありません」
「優しさなんだかエゴなんだか」

何かこう……ね? 自分だけ知らないことを話されるとモヤモヤするよね。でも内容的には決してよくない感じなのでそれはそれで怖いです。

「あなたが言いたくないなら私から言っておいてあげるわ。その方が彼も気が楽じゃない?」
「私に聞くのは言葉責めでもしたいのですか? 私は貴方のサディズムな面に付き合う程の余裕はありません」

Sなんですね、わかります。てか彼女はなんで檻の外にいるの?

「じゃ、他の連中の気が立ってうるさくなるのも嫌だし、こっちに来てくれる?」
「ああはい」

檻の端まで行って彼女のすぐ近くまで行きます。ここまで来ると彼女のにおいって言うのも普通に分かるぐらいなんですけど、そこまで本能を刺激する程でもない……。未熟なにおいと言いましょうか。見かけより若いみたいです彼女。

「単刀直入に言うわよ」
「はい」

楽しそうな……妖艶な笑みを浮かべて彼女は僕を見ます。見上げる感じなんだけどね、グラエナってウインディと比べるとかなりちっちゃいし。

「あなたは実験材料(モルモット)

ナ、ナンダッテー。

 「それって……え?」
「そのままの意味よ。あなたは人間の研究のためにその身体を差し出さなきゃいけないわけ」

頭吹っ飛びそうなんですが、どうすればいいでしょうか。

「でも……そんな……僕、だって……なんで……」
「運が悪かったって諦めなさい。そうじゃなきゃ頭おかしくなって死ぬわよ」

真面目に言ってるんだろうけど顔が楽しそうだから現実味全く湧かないんですけど。僕が実験材料? どうして僕が……。

「何の実験なの?」
「私に聞かないでくれる? 私は科学者じゃないもの。でも言えることならあるわ」
「?」
「リリー、それ以上は彼には酷……」

リヴァルとか呼ばれてたシャワーズが口を挟んできたけど、百合、リリーって言うらしい彼女は言葉を続けていきます。スルー検定3級。

「成功例はごくわずか。失敗すれば死ぬ。成功すれば……兵器になる」

あぼーん。

 「……兵器……」
「あなたの番はいつ来るかしらね? 本当ならあなたみたいな雄、助けたいんだけど助けると私が殺されちゃうし。それまではあなたの顔眺めて楽しんでるわ。起きてる間は緊張してどうにかなりそうって感じの顔見せてくれると良いんだけど」

僕は思わず両手で彼女を捕まえてました。檻越しだからこれからどうしようって事も出来ないんですが。

「なんでキミは……キミはどうなんだよ!? 材料じゃ……」
「良い? 私はあなたを捕まえた側。つまり支配者側にいる存在よ」
「不公平だそんなの……!」

リリーはやれやれとでも言いたげにため息を吐いてから僕の手を振り払おうとしました。でも、でもですね、僕も放す気になれないわけですよ。納得がいかない。全くもって。もはや怒りだこれは。

「僕をここから出せ! 僕には待ってる人が居るんだ!」
「でしょうね。放して貰える?」

不快そうな顔をして僕を睨んでくるリリー。でも僕も怒ってるのかなんなのかよく分かんない状態だから、放しはしません。

「放しなさい。この場で殺されたい?」
「やれるもんならやってみろ! 僕は死なんて恐れてない!」

リリーのため息、そしてその一瞬の後に目の前には黒いものが。拳銃ですね、本当にありがとうございます。リリーが拳銃を持って銃口を僕の額に向けてるわけです。僕本気で死ぬんじゃね?

「私は“マグナム・リリー”。これでも傭兵をやってる身よ。あなたみたいな雄なんて造作もなく殺せるわ」
「っ……」
「今回は許してあげる。でも次はないわよ」

少し驚いてる隙にリリーは僕の手から離れてどこかに行ってしまいました。……なんで僕はこんな目に……。
 少し後になってリヴァルが僕に話しかけてきました。正直僕はそれどころじゃないんですけどね。

「辛いでしょうが、ここに来てしまった以上、どうすることも出来ないのですよ。私はとうの昔に諦めました」
「諦めるなんて出来るもんか……」
「脱獄を考える方も多い。しかし、この檻を破ることすら出来やしない。この檻にはどんな怪力も熱も毒も効かない。それに仮に檻から逃げ出しても表には……彼女が居る」

リリーのことですね、分かります。

「彼女はここの科学者に飼われている身です。だから彼女は科学者の言うことを聞かなければならない。彼女の受けている命令は、『実験材料を一匹たりと減らすな』。つまり脱獄などしても彼女から取り押さえられ、自害すら出来ない。雪隠詰めですよ」

逃げ道がないわけですね。泣きそう。でも逆にこう……涙も出ない絶望と言いますか。

「私達には、ただいつ自分が実験の被験体になるのかを怯えながら待ち続けることしかできない」
「何でこんな事に……」
「励ましの言葉は私からは期待しないで下さい。自分の正常な意思を保つだけで私は手一杯なのです」

要するに、彼ももう精神的にやばいって事ですね。僕ももうショックで何が何だか……。呆然としてることしかできないんです。

「一応、自己紹介しておきましょう。私の名はリヴァル・エルメンスです」
「……僕はカルマン・アーヴァイン・ローゼンバーグ……」

名前を聞いてからは特に何も無し。彼も会釈してから檻の隅へ行って丸まってました。向かい側にもある檻を見てみてもみんなそんな感じ。出してくれって騒いでる人すらいません。みんな絶望してる。みんな望みなんて持ってない。ただひたすらに恐怖に耐えてる……。僕もああなるんだろうな。

 それから数日。食事の分にはリリーの他に人間の科学者っぽい人が持ってきてくれるので困りません。でも誰一人食欲の湧かない感じです。みんな餓死なんて死に方は嫌なのか無理矢理食べてる感じ。リヴァルもご多分にもれず。僕も数日の内に精神的に落ち込んできて食事が全く喉を通りません。でも無理矢理食べる。食べなきゃ早めに順番が回ってくるとリリーに聞いたので。体を満足に動かすことも出来ないこの狭い檻の中に一日中何をすることも出来ずただ嫌々食事をしては寝ての生活というのは頭がおかしくなる。気が狂いそう。この前は気が付いたら檻を作ってる鉄の棒に頭をガンガンぶつけてました。そこにいたるまでの経緯は記憶にない。ただただ無意識を行ったり来たりするような毎日でした。

「……アズサに会いたい……」

気が付けばこんな事を繰り返し呟いてる僕がいます。ただ彼女にもう一度だけで良いから会いたい、それだけ。僕の中には今それだけしかありませんでした。コウヤはいずれ会うことが出来ると思うけど、僕がここで死んだらアズサにはもう会えないかも知れない……いや、多分会えない。だからアズサに会いたくて会いたくて仕方ない。

「この檻の中で誰かを思い出すのはやめておきなさい……。余計辛くなりますよ」

リヴァルは多分親切で言ってるんだと思う。でももしかしたら僕のうわごとを聞きたくないって言うエゴなのかも。彼も基本的にはずっと押し黙っていて何かをしゃべることはない。しゃべったら多分止まらなくなる何かがあるんだろうなって思う。僕もそう言うのあるから。

「思いだしてない、ずっと頭の中にある」
「ならば意識して忘れなさい。と言っても、そんなこと出来るはず無いか……」

彼も誰かのことを思いだしてるから辛くて仕方ないんだ。多分、きっとそうだ。

 「……アズサって言うのは……僕の大切な人なんだ……」
「…………」

聞きたくないんだろうけど、リヴァルは僕の方を見た。多分僕と同じ気持ちだからだと思う。

「成り行きだけど結婚の約束までしてた……。だけど僕が人間を殺しちゃって、ハンターに追われて……こんなことに、離ればなれになっちゃった……」
「……神も残酷だ。殺人の贖罪にしては重すぎる……」

神様なんて僕は信じてないけど多分いるんだろうね。あの世があるわけだし。死ねよ神様。って神様は死ぬんですかね? 神話とかでは結構ぽこぽこ死ぬらしいですけど……。

「私にも大切な人が居ましたよ。恋人などではなく、兄弟ですがね」

僕が話したんだからリヴァルが僕に話すのもあり。

「……兄と、妹がいます。兄の方は大丈夫だと確信を持って言えますが、心配なのは妹の方です」
「?」
「サラは……妹はここの上にいる一匹のブースターにたぶらかされ、もはや誰のことも信じられなくなっています……」

対人嫌悪ですね、わかります。

「出来ることなら……奴の喉を食いちぎってやりたい……! ご主人を殺しただけでは収まらず、私達兄弟を実験材料として入手するためにどんなことでもやる……。連中は裁きを受けるべきだ……」

あ、てか「喉を食いちぎる」で思いだしたんだけど傷が一つもなくなってるんだよね。喉も足も肉球も。一応傷の跡はあるんだけど。
 その時、リリーがやってきました。

「リヴァル、あなたの番が来たわよ」

一瞬でリヴァルの顔がこわばる。冷静なんだけどやっぱり怖いものは怖いみたい。それでもリヴァルは潔く扉の方へ。リリーが鍵を開けてる間に僕に最後の言葉を……。

「カルマンさん、おそらくもう会うことはないでしょう。さようなら」

……泣いて良いですか? そんなに長い時間一緒にいたわけじゃないけど、やっぱり何か寂しいし悲しい……。リヴァルの足取りは重々しくて完全に絶望してるのが分かる。正直、見える範囲からでていくまで見てるのが辛かった。でも僕は扉が閉まる音がする時までずっとリヴァルの方を見ていた。何も出来ない僕からの手向けかも知れない。

 リヴァルはそれから戻ってくることはなかった。予想していたことなので大してどうとも思わない。僕の中でも完全にダメなものはダメなんだって言うのが割り切られてる。それからリリーが退屈しのぎに僕の所に来ては色々話してる。彼女は16歳だとか。僕は25です。若いのに雌らしさがすごいですね。それから、“マグナム・リリー”って言うのはあだ名らしくて、なんだか知らないけどマグナムの銃を使うから付いたあだ名でリリーは本名だって。ファミリーネームは教えてくれない。本当に好きな人にしか教えないことにしてるらしいです。僕は違うんですね、わかります。彼女はよく銃をお手玉みたいにヒョイヒョイ投げて遊んでるんですけど失敗して時々バーンって暴発させちゃうから怖いです。彼女が使ってるのはコルト シングル・アクション・アーミー ピースメーカー*1とか言う銃らしいです。それで、よく銃なんて持てるなと思って聞いてみたんですけど、持ってるんじゃなくてくっついてるみたいです。奇妙な腕輪がその役割をしてるとか。なんだっけ、AOD? みたいな名前です。それがあればナイフでもなんでも扱えるとか。人間の科学技術って……。それを悪い方向ばっかりに使うなよ。それと、もうひとつリリーが持ってるって言うか付けてる機械があるらしい。

「PCCDって言う機械よ」
「何それ?」
「簡単に言うと……」

そこまで言った次の瞬間、人間の声がした。

「ポケモンと人間が会話するための装置よ」
「ぅえ!?」

リリーが人間の言葉話してます。あー、遂に僕も限界か、ストレス溜まってるもんなー、幻聴が聞こえて来ちゃったよ、アッハッハッハッハ~。

「人間の技術もここまで来ると怖いだけよね」
「そうだね」

現実逃避してもなんにも変わりませんからね。リリーは人間の言葉をしゃべりました。変な装置を使ってだけど。でもマイクみたいなものも見あたらないし、その装置はどこなんだろうと思ってたらリリーがベルトに付いてる十円玉ぐらいのものを指さしました。……あれか! ちっちぇえ……。彼女と話してるとぶっ飛んだことばかりなので気が紛れて良いです。

 そんな感じで、一ヶ月ぐらい経ちました。

「カルマン、残念だけどあなたの番が来たわ」
「アハハ……ある意味、この時を待っていた! みたいな感じ」

神経すり減らす毎日よりさっさと終わらせて死んだりとかなんたりとかしたいもので。みんなその状態にはいたってないから怖がってるんだろうね。僕は死ぬのは特に怖くないし……。でも痛いのはやだなぁ……。

「あーあ、結局あなたに抱かれることもないままお別れな訳ね」
「僕の檻の中に入ってきてくれれば別に構わなかったんだけどね、ヤるのは慣れてますから……」
「あら残念」
「てかもうちょっと年相応の発言しようよ。僕はもう大人だからまだあれだけどさ、キミってまだ成人して無いじゃない。もっとおしとやかにさぁ……」

連れて行かれてる最中なのに何この会話。普通なら絶望で重々しい感じなんだろうけど結構和やかな感じで僕は実験室に連れて行かれました……。ああ、死んだな……。

 「さて、今回は改造手術に上の連中が立ち会うので到着まで待ってもらう」

結構広い所です。でもなんか……よく分かんない機械がゴチャゴチャしてて怖い限り。口かせと四肢を拘束されてるもんで身動きも取れないし……。それより一番気になるのは部屋の隅の方にある、水槽みたいな場所に入ってる白い狐みたいなの。目の周りに赤い模様、それと手足の先って言うか足首に妙に長い毛がある。何あれ?

「ただのロコンのなり損ないよ。でも一応、あれが今までで一番完成されてる実験体」

リリーが僕の視線の先を追って説明してくれました。ロコンのなり損ない? サイズはキュウコン並みですけど? でも尻尾は一本……。

「感情を抑制され、記憶を削除され、各運動神経の上昇、武器、兵器の扱いを完全に脳内にインプットされ、熱、毒、電気、圧力などあらゆる攻撃に対しての耐性を持っている究極の殺戮マシーン。別名、“絶対兵士”。開発コードは(ゼロ)

絶対兵士とはまた大層な名前ですね。僕もあんな感じになるの? いや、失敗したらそれ以前に人生オワタ。それにしても遅いなー、まだ始めないの? 緊張で吐きそうなんだけど。

「待たせたようだな」

あ、お上が来たっぽいっすね。遂におっ始まるのか僕の改造が!

 「……ん?」

お上ってば雌のブースターっすか。もう一匹雄のブースターもいるけど……。ブースターまみれ、プギャー。彼等もPCCDとやらを付けてるみたいで人間の言葉を話してます。

「どんな風に改造するのが良いと思う?」

雄のブースターが言います。所詮他人事だもんね。さっさと決めて、吐きそう。

「……良い体付きをしてる。長期間監禁されていたにもかかわらず。ここは長所を伸ばす方が良いだろう」

雌のブースター口調可愛くない……。てか体付き良いって僕暇だから色々やってましたからね。壁と押し合うとか、後ろ足だけで立ってみようと努力してみたりとか。

「マドゥニスで試作品だったものを改良したものがあるのですが、それを使いますか?」
「奴の能力はある意味おぞましい……。だが、筋力を生かした白兵戦においては重要な能力になるだろう。他には……」

なんか色々話し合ってます。何されるんだろ僕……。「筋力を」云々「平衡感覚を向上」どうこう。理解不能です。

「では始めましょう」
「グロいんじゃないだろうな? 俺はそんなの見たくないんだけど」
「ならば出て行け。兵士として情けない限りだ」

雄のブースターざまぁ。出てけ出てけ~。

 「……ふむ、しかし……」
「は?」
「見れば見る程良い雄だと思わないか」

また顔なんですね、本当にありがとうございます。

「我々は人間ですのでそんなことは……」
「……フフ、気が変わった。荒川!」
「え? はい」

荒川さんって言うのかこの無精髭のおっさん。白衣よれよれじゃん。

「こいつの改造は延期しよう。それと、こいつはしばらく私が面倒を見る。あとで私の部屋に連れてこい、良いな?」
「は、はぁ……わかりました」

多分ここの科学者の一番トップなんだろうね。名前を覚えられてるくらいだし。それにしてもなんでこんなだらしのないおっさんが偉いの? 人間って分かんないなぁ……。まぁ、僕は一応延命されたみたいです。雌のブースターが出ていったのを横目で確認。いるのは科学者連中とリリーだけ。

「フフフ、ご主人、実験は先延ばしみたいね」
「いやぁ、ネビュラ准将には敵わないな……。あの人何考えてるのかサッパリだよ、俺もいつ首取られるかなぁ、アハハハハ」

荒川さんリリーのご主人っすか。結構気さくな人っぽいのになんでこんな場所でこんな事やってんの?

「首を取られるなんて……特に目だったこともして無いじゃない?」
「これからやるのさ。先延ばしなんて、俺にはちょっと気が長すぎる」

不穏な雰囲気。

「ちょっと、まさかご主人!?」
「大丈夫だって、ばれないよ。……ここにいる誰かが情報を漏らさない限りね。でも、漏らすとしたらリリー、お前だけだ。女って言うのは結局人間もポケモンもおしゃべりで口が軽いって言うのは……まあ、PCCDの開発後にわかったし、みんなも俺と同じ意見だ。先延ばしにするのはお菓子を前に『待て』を食らうのに似てる。待てないよ」

え、ちょっ、まっ……何事? って荒川さん? 何持ってきてんのそれ? ……注射器? 何打つ気ですか? ちょいちょいちょい、一旦落ち着こうぜ荒川さん、荒川さん? 荒川さぁぁぁん!!

「それ!」

それ! じゃねぇぇぇ!! って首に刺すの!? イダダダダダダ!! 針太いってば! 拘束されてるから抵抗も出来ません。それでもってこの注射が滅茶苦茶痛いの。死ぬ。いや、撃たれた時に比べればマシだけどそれでもかなり……。っおふ!? なんかよく分かんない物質流し込まれてる……。吐きそう……。

「よし。しばらくすれば機能するはずだ。さっき話し合ってたあれも誰かインプットした?」
「しときました~」
「オッケ~、あとはいつか実戦投入すれば効果が分かるぞ~!」

「……あの~、止血とかは?」

僕にはPCCDは付いてませんので……。無視ですね、本当にありがとうございます。


 「あそこの部屋。あそこにさっきのブースター、ネビュラ准将がいるから」

リリーに案内されてついて行ってます。一応PCCDを僕にもくれたんで抵抗しないって言っておいたから自分で来てます。割と広い建物が幾つか連なってる場所みたいです。武器庫を越えた先にありました。

「粗相の無いように。准将ったらイーブイの時にリングマを素手で叩きのめしたらしいから」
「気に障ったらフルボッコですね、わかります」
「そうなるわね。ああ、多分ギルバート少尉、ネビュラ准将の弟がいると思うけど彼はあんまり気にしないこと。目を付けられたら事よ。准将の弟って言うのを利用して気にくわない奴はすぐに殴るような奴だから」
「覚えとく。ありがとうリリー」

「良いのよ」って言ってリリーは戻っていきました。あの檻の監視にだろうね。さて、腹くくっていこうか。地獄への扉、オープン!

「よく来たな。待っていたぞ」
「ああはい来ました」

なんか豪勢じゃないかなこの部屋……。外は簡素でシンプルなのにこの部屋だけやたら……なんて言うの? ケバい? そんな部屋です。そこには二匹のブースター。

「……姉さん、確かにイケメンだっていうのは認めるよ? でもこいつ……なんか……」
「なんか、何だ?」
「……分かんないんだけど何かこう……あれだって」
「分からないなら口に出すな。それに、お前は兄弟以前に私の部下だ。命令する、部屋から出て行け。私が良いと言うまではこの部屋に出入りすることを禁止する」

ギルバート少尉ざまぁ。出てけ出てけ~。

 「さて……これで私とお前の二人きりの空間になったわけだ」
「アハハ……そうですね……」

“二人きり”って言葉が僕程嫌いな人はいないんじゃないかな……。流れ的にあれだろ? そうなんだろ?

「まず私の名を教えておこう。私はネビュラ。ネビュラ・マーチ准将だ」
「名前は他の人から聞きました」

なぜ露骨に不快そうな顔をするんですか。

「……えっと、僕はカルマン・アーヴァイン・ローゼンバーグです」
「カルマンと呼ばせてもらおう」

この人アズサより高圧的でやだ~。てか今更ながら、この人は人間よりも上の階級にいるんだよね。僕を捕まえてる組織はある意味ポケモンも人間も平等? まあ実験のためにモルモットにされる側としては勘弁して欲しいんだけどね。さてさて、これからの流れはおそらくあれなんでしょうね。

「ここにお前を呼んだのは他でもない」
「僕目当てですね、分かります」

ぽかんとするな。

「……うむ、分かっているなら話は早いぞ」
「アハハ、前にも言われたなぁそのセリフ……」

アズサになんですけどね。アズサは今頃どうしてるんだろう……。

「フフフ……事前に人払いをしておいてよかった。存分に楽しませてもらうぞ」
「はいそうですか」

正直もうどうにでもなってください。

 「えっと……事前確認させてもらって良いですか?」
「さっさとしろ」

一応ね……。やっとかないと僕が落ち着かないんですよ。

「まず、僕があれやこれでキミが……」
「馴れ馴れしい」
「はいすいません」

なんでだよ!!

「えっと、准将が満足いかなかったとしても文句言わないで下さい」
「うむ、承知した」

まだあります。と言うよりこっちが本題。

「それと、行為によって生じたことについては僕は一切責任を負いません。怪我したり、妊娠したり、最悪腹上死したりしても責任取りません」
「しかたあるまい」

最後に一つ。

「僕は行為は構わないけど、心から准将を愛することなんて出来ないってのを分かって貰えるかな」
「……ああ、覚えておく」

これ大事。要するに僕は強姦されるわけです。だからね。てかこれほどレイプされる人いないんじゃないかな……。逆レイパー。

「さあ、早速私を抱いて貰うぞ」
「了解しました……」

どうせSなんでしょ、僕に言い寄ってくる雌はほとんどSなんです。アズサぐらいかな、Mっ気があったのは……。
 一応人工施設なのでベッドがあります。そこでヤるそうですが、汚れるんじゃないかな?

「いつものことだ」
「いつも誰かとヤってるんですね、分かります」
「ギルバート少尉はただ激しいだけで全く楽しくないがな」

弟とヤってるんですね、近親相姦。

「大抵の雄はそう言うと引くんだがな」
「いや~、僕も妹から強姦されたんで。アハハ~」

そういや、ローザを殺しとけば証拠も残らなかったのかな~。僕はいつも甘いんだよね。詰めが甘い。唇が甘いのはアズサ。

「うむ……色々経験したようだな」
「言い寄ってくる雌が多くて嫌なんですよね~。身体目当てで。正直勘弁して欲しいであべしっ!」

殴られました。

「すいませんごふっすいませんげはっすいませんぅげっすいませんへぼぉっすいませんぐぇっすいませんぐぼふっすいませんぐぉぅっすいませんへばぁっ……」
「身体目当てで言い寄って悪かったなぁ? 私は雌だが欲求というものが溜まるんだ、貴様も一人前の雄だろう? ならそう言うこと分かるんじゃないのか? ん?」

一言一言の間にブロー叩き込んでくるのやめて下さい。さすがイーブイの時に素手でリングマを叩きのめしたとか言われてる人ですね。一撃が重いし強力。僕このままだと内蔵にダメージ行って死ぬ。大体二、三分ブローを食らい続けてました。

「あの……どっかで吐いてきて良いですか……」
「それは許さん」

イジメの域ですね、もはや。

 「明日はスケジュールが詰っているんだ。早くしろ」
「はい……」

窓の外見てないからわかんなかったけど今は夜なんですね……。ああそうか、この人偉いんだよね、時間がないわけだ。さて、そうなると迷惑もかけられないしヤるしかないか……。

「所でこのベッドは大丈夫なの?」
「カビゴンが乗っても潰れやしない」

なら安心。僕も100キロ単位だからね……。

「それじゃ……一応聞くけどS? M?」
「言わずとも分かるだろう?」
「はい身に染みてます」

どう考えてもSですね。

「しかしまぁ、誰かを責めたりという経験はない。お前が率先してやってくれ」
「了解……」

と言うことなので、ヤります。
 まずは前戯と言うことで、キスから始めましょうか。一般的に。そう言えばブースターは僕の半分ぐらいしかないんですよね、大きさが。まぁ、マグマラシとヤったこともあるから一応出来るんですけど……正直少し痛いんですよね。まぁ、そんな心配今更しても遅いんですけど……。僕なんか小さい人ばっかり相手にしてる気が……ってまあ、ウインディがそもそもデカいからなんですけどね。ん~、ネビュラ准将さんはキスが卑猥って言うか妖艶って言うか……。舌を絡め合うだけじゃなくて口の中を舐め回してくる……。すごいくすぐったい。仕返ししてみようと思いますがいかがでしょうか?

「んぅっ!?」

何を驚いていらっしゃいますか、ただ胸触っただけでしょ。彼女はまぁ、普通のサイズと言いますか、可もなく不可もなく……。まあ万人受け? そのくらいの大きさの胸でした。僕は揉みます。揉みしだきます。なんつって。そこまでしませんよ、手の大きさとかありますし……。それでも揉むことは揉むんですけどね。

「んっ、んぁっ!」

ん? この人胸がツボ? ……ピキーン。

 「ふぁぁっ! か、カルマン!?」

僕の持てるテクニックの全てをかけて胸を責めます。もっと、たーかめて果てなくさーいこーう、ランクまで、あーなーたーだけが使えるテクニックで、胸を責めるよ。嬌声、渦巻く最中におーちてーく、ウインディ、今宵だけの夢、踊るわ激しく。替え歌のセンスゼロですね。てかここしか知らないし。まあ胸がツボっぽいので胸を責めてみました。まあ、少し激しく揉んだだけなんですけど。そしたら思わず口を離してしまう程に彼女は感じてます。バロス。続けてみましょう。

「ぁっ、や、やめっ……はぅっ……ダメだ、やめろ……っ」

ツンデレみたいでウケる。テラワロス。揉むたびにピクピクしてるのが面白い。ここまで胸で感じてた人今までいませんでしたよ。……ニヤッ。

「あぅんっ! ちょっ、何をっ……ひゃぅっ!」

何をって胸舐めてるんですが。ギルバート少尉はそこまで知識があった風じゃないな、まあ、彼も若そうだったし仕方ないのかも。でもこっちでは玄人の僕を舐めるな。あんまり嬉しい事じゃないんだけども。さて、もっと行きましょうか。ガンガン行こうぜ。ってな訳で、吸ってみます。

「あぁぅっ!!」

あれ? ……イっちゃったっぽいっすね。弱っ……。

「はぁ……はぁ……ギルバートも激しいが……お前程じゃないな……」
「激しくやったつもりはないんだけど……」

げんなりした顔するな。僕だって好きでヤってる訳じゃないんだぞ。

 「早く終わらせよう、身が持たない気がしてきた」
「いやそうは言われても……」

僕の方の準備が……。

「仕方のない奴だ……」

そう言って彼女は僕のモノを扱き始めました。……ぶっちゃけ、下手です。適当感が否めない。でもまぁ、触られてることで起つことは起つんですが……。

「……入るのか、これ?」
「マグマラシには入ったし大丈夫かと」

なんか変な会話だ……。って、何してんの?

「何してんのそれ?」
「……さすがに私が妊娠するのはまずい。役職的にな。だからコンドームを付けているだけだ」

俗に言う、“ゴム”ですね、わかります。

「よく僕に合うのがあったね……」
「フフン、私を舐めてもらっては困る」

うぜぇ。

 「さぁ、始めよう」
「あの、騎乗位じゃないと多分無理かと……」

いや、多分後背位でも出来ますけど僕が体勢的にきついんで。そこの部分察して下さい。

「仕方ないな……いつもはバックからなんだが……」

なんなんだこの人は一体さぁ、いちいちイラッとするんですが。まあそんなことはともかく、騎乗位は雌の方から入れてくれないといけないんですよ。……不安そうな顔してます。まあ、これがアズサとかコウヤだったら僕も何か言いますけど結局僕の身体目当てのその辺の雌ですから。僕がなんでいちいち声をかけないといけないんですか。言っとくけど今強姦されてんですよ。色々言ってやりたい。

「んっ……」

意を決して、彼女は腰を落として僕のモノを入れていきます。少し痛そう? でもキニシナーイ。結局は赤の他人。……一応全部入ったかな?

「……正直、私には大きすぎる……」
「でしょうね」

ワロスワロス。

「私が動かなければいけないんだろう?」
「別に僕が動いても良いけどそれに耐えられますかって言う……」
「私が動こう」

即答ですね、本当にありがとうございます。ってまぁ、あんなに弱いのに僕が動いたら洒落にならないよね。ガチで腹上死とかなるかも。

「っぅ……あっ……」

ちょっと動くだけでそれですか。こりゃ先が思いやられるな……。
 数分後、彼女は果てました。びっくりする程派手に。ベッドが汚れるわけだよ全く……。僕までびしょびしょじゃないですか。

「はぁ……はぁ……」
「……えっと……大丈夫ですか?」

これは一応聞きます。

「ああ……満足した……抜いてくれ……」
「え、でも……」

僕がイってないんですが。きついからそれなりに良かったんだけどなぁ……。時間が短いんだよ。

「早く抜け、あばらをへし折るぞ」

物騒な事言うなよ。仕方ないなぁ……。

「よし、あとはシャワーを浴びて……私を抱いて眠ってくれ」
「添い寝ですね、分かります。ってかなんでそこまで……」
「お前は生かされている身と忘れるな」

そうでしたね、僕ってばお馬鹿さん。てへっ。僕は結局実験材料でしかないわけですよね。それが彼女がちょっと僕を気に入ったからこうやって彼女を抱いただけであって、僕は彼女がその気になればいつでも殺せるわけで……。人生オワタ。

「……明日もまたヤってもらうぞ」

ナ、ナンダッテー。

 それから大体一週間ぐらい経って、僕とネビュラ准将は何度もヤってます。でも彼女が早いから僕がイくことが出来ません。久しぶりに自慰でもしようかと思うぐらいです。僕と准将さんとの関係って言うのは薄々みんな気が付いてるみたいで、僕はある意味居心地が悪い。そんな風だから僕が建物の中を普通に出歩いててもみんな気にしない。リリーもよく僕の所に来て暇を持て余してます。「准将がいたんじゃ抱いて貰えない」とかぼやいてましたが、やめてください。リリーはリリーで同僚のイーブイと仲が良い様子。でも曲芸師じゃないんだからお互いに銃を投げてジャグリングし合うのはやめて下さい。危険なんで。それと、ネビュラ准将も暇な時間があるのか僕を戦闘訓練場に連れて行って僕を鍛えてくれます。くれますって言うか僕は嫌々なんだけど……。僕は銃を「使う才能はないから触れるな」と罵声を浴びせられました。仕方ないじゃないか、初めて触ったんだし。でも白兵戦は強いと褒められました。褒められるのはやっぱり気分は良いですよね。で、僕も他のみんなと同じAODをもらいました。なかなか簡単に扱えるし使い勝手も良いです。でも武器として登録されてないものは使えないそうです。なんてこった。僕にはナイフが合ってるそうです。……ナイフってあんた、僕には爪も牙もあるんですけど……。まぁ、徒手格闘は相手が武器を持ってる場合不利になるからって事らしいです。かといってナイフもどうなんだろう。ネビュラ准将にナイフを扱うにはどうするのかとか言うのを色々教えてもらってます。准将って、結構位高いんだから僕なんかと一緒にこんな事してて良いのかな? とにかく、僕はナイフの使い方を色々教えてもらって、割とぐったりしながら夜の営みへ……。こんな毎日です。正直、楽しいわけでもないし暇なわけでもないし……いわゆる平凡な? 平凡ではないんだけどね、実際。そんな感じの日々です。そう言えばギルバート少尉がね、僕を目の敵にしてるの。何でかって? リリーに聞いた所、シスコンだそうです。シスターコンプレックス。シスコン少尉が姉といかがわしい噂立ててる実験材料見たらそりゃ嫌でしょうね。でも手は出されたこと無いですよ。やっぱり准将が怖いのか。僕としてもあんまり関わりたくない人なんで結構なんですけどね。所で、リリーのご主人の荒川さんが僕に打ったあの注射って一体何なんだろ? 僕の身体にこれといった変化はないし……鍛えたから無駄にがっちりしてきたのはあるけど。気になるんだよね。リリーに聞いてもあんまり教えてはくれませんでした。詳しく知らないそうです。でも科学者が僕の横を通り過ぎる時なんだか不穏な空気が漂うんですよね。ほくそ笑んでるようにも見えるし……。なんにしろあんまり知りたくない、怖いです。
 今日はネビュラ准将は忙しいらしく、僕を扱いてくれませんでした。いや性的な意味じゃなくて。だから僕は一匹で投げナイフの練習をしてました。ダガータイプの投げナイフが得意です。ってか今更ながらこれって兵器化して行ってるんじゃ? なんてこった。とにかく、暗くなってきたんで僕の寝床にもなってるネビュラ准将の部屋に戻りました。

「貴様どこへ行っていたぁぁぁ!!」
「ぅごへっ!?」

部屋のドア開けるなりネビュラ准将がショルダータックルをかましてきました。顔面直撃です、本当にありがとうございます。

「泣いて良いですか」
「やかましい! どこへ行っていたか聞いているのがわからんのか!!」
「戦闘訓練場でナイフ投げてました……」
「バカが! そんなことをしている暇があったら私を抱け!!」
「大声で何言ってんですかへばぁっ!」

延髄蹴り食らいました。僕鍛えられてなかったら完全に落ちてたな。

「さっさとベッドにいけモルモットが!!」
「ぅおぉっ!?」

ブースターだよね彼女? ウインディの僕を背負い投げしたよ? あ、視界の端にリリーが……って目を押さえながら手を振るなぁぁ~!! 僕は死なないから!!

「あの……このままだとベッドに行く前に死ぬ……ぐぇっ……」
「ぐだぐだ言うな!!」

その怪力で僕を絞め落とす気だろ。絶対そうだ。
 どうやら彼女は仕事の最中嫌なことがあってかなり不機嫌らしいです。

「私のオフィスに蛇だぞ!? それも茶色い……落ち葉色の蛇だ! 気色悪いったら無い!」
「蛇ぐらい良いじゃないですか……」
「良くない!! 私は蛇が嫌いなんだ! 第一なんで建物の奥にある私のオフィスに蛇が出る!!」
「隙間あったら入り込んでくるんじゃ……」

そんなとりとめのない会話でした。

「とにかく! 一刻も早く嫌なことは忘れたい、だから早く私を抱け!!」
「ああはい分かりましたよ……」

わがまま女王みたいな所が彼女にはあります。別に僕がどうって思うわけじゃないけどさ……。迷惑も考えようぜ。
 あまりに機嫌が悪いので、前戯もほどほどに本番に入ります。そして彼女があまりにうるさいので仕方なく後背位です。体型に合ってるのかなぁ、やっぱりすんなりと入るんですが……。あぁ、体勢がきついよ……。足がプルプルする……。って、今回はゴム未使用ですか? 「いちいち面倒なことをしてれられるか」じゃなくて……。下手したら妊娠で色々やばいんじゃなかったんっすか? 僕には関係ないけどね。いや、僕の子供を孕まれたらそれはそれであれだなとは思いますけどもね。

「今夜は私が気を失うまでやってもらうぞ……」
「最悪腹上死ですが?」
「黙れ!」
「すいません……」

何この扱い。良かろう、気絶するまでやってやろうじゃないか。今まで僕が全く手を出してないのを覚えているかなキミは? 地雷踏んだことに気が付かないとは恐ろしい子! 一気に腰動かしたらどうなるかな? 若干の興味本位。

「うあぁぁっ!! ちょっ……激しすぎ……」
「え? 聞っこえない~」

はいはい、僕が全く本領を発揮してないのに何度もイってるような人ですからね、僕が本気出したらすぐ気絶するでしょ。あ~、でもこれ終わったあとどうなるのか激しく不安だ~。でもね……ムシャクシャしてヤった、反省はしていない。でも後悔はしている。

 「あぁぁぁっ!! や、やめてくれ……っ! 壊れるっ……」
「さっさと壊れて下さい」

涙目だよ彼女。ウケる。今まで存分に殴ってくれましたね。これが僕なりの復讐。ってかこんな所でしか仕返し出来ないんです。相変わらず情けないですね僕って。でも今回は相手が悪いよ、だって怪力准将だもん。

「あうぅっ!!」

イきましたね。まず一回目。気絶するまでに何回イくのかな~?

 とまぁ、しばらく続けてました。既に彼女の目は虚ろ、口から涎垂らして喘ぐだけ。足はガクガクしてるし愛液でベッドはぐっしょぐしょです。現在彼女がイった回数は8回。ここまで来るとよく生きてるなと思う。まぁ、偉い人だしね。准将だもん。でもまあ、あれです。結構長いことヤってるんで僕にも限界が近いという感じです。だってさ、小さい分締め付けてくるあれがね……。ゴム付けてないから抜かなきゃやばいんじゃないかな……。

「准将さん……僕もイきそうなんだよね……」
「ぅはぁっ……」

あ、聞いてないなこれは。ダメだもう、ぶっ飛んじまってるぜ。っと、また彼女イったよ。もう僕やばいなぁ……抜かないと。

「んっ……」
「はぁ……貴様……何をして……」

聞き取るのが難しいぐらい呼吸が荒い。死ぬぞホントに……。

「だから……出そうなんだよ、だから抜かなきゃ……」
「良い……中に出せ……」

はい?

「良いんだ……お前なら……」

……死亡フラグ。

「そんな……僕には……」
「命令だ……」

逆らったら脳天ズドンなんですね、分かります。勘弁して下さい。別に殺されても構わないんだけどさ……ダメだ、性欲が理性を押さえつけてる……。今までイく一歩手前でずっとお預け食らってたから……。あばばばばば。

 「っく……ぅっ……」
「はぅぅっ……」

僕は彼女の中に精液を吐きだした。その瞬間に、彼女が崩れ落ちる。

「はぁ……はぁ……大丈夫……?」

返事をしない彼女。動きもしない。……まさか。

「ちょっ……」

急いで呼吸と鼓動を確認。……両方ある。取り越し苦労か……。まあ、腹上死されてたとしたら困るんだけどね。

「ぅ……」
「あ、起きた?」

ちょっとしてから彼女は復活しました。一応彼女の体も洗ってあります。ベッドのシーツも取り替えてあります。なんか僕器用になったなぁ……。

「……どうなったんだ……?」
「アハハ、気絶してたんだよ」
「本当に気絶するまでヤるとは……」

キミが言ったんじゃないですか。

 「カルマン、こっちに来い」
「あ、はい」

殴る気だな? でも良いです、僕Mだから! 痛いのは嫌だけどな!!

「……腹の中が熱い」
「えっと……中出ししました……」
「……そうか」

いきなり飛びかかって抱きついてきました。ブレイク! ブレェェェイク!! 離れろ! 何する気だ!

「ちゃんと出してくれたんだな。ありがとう」
「え? あ、はい」

嘘だろー!? なんでお礼?

「私は……どうやら初めて恋という奴をしてしまったらしい」
「……そうですか」

あれ、これはまたなんかそう言う感じの奴ですか。

「カルマン。大体意図は掴めているだろう?」
「はい? なんのこと?」
「……鈍い奴め」

はい、今心にヒビが入りました。僕はグラスハート。

「私と結婚して欲しい」
「ぅえっ!?」

はい、ビックリドッキリメカボット。今まで実験材料だったのにいつの間にか准将に気にいられて逆玉の輿に乗れる状態ですか、そうですか。いきなりのプロポーズですよ、びっくりですわ。僕が返すべき答え? そんなの分かりきってるでしょ。

 「准将」
「ん?」
「僕が始めに言ったこと覚えてる?」
「…………」

黙ったね。覚えてるんだよ。僕としてもこれ言うの気が重いんだけど。だって僕のこと好きだって言ってくれてるのに……。

「僕は准将を心から愛することは出来ない」
「……フンッ……分かってて聞いたんだがな……。私も所詮雌だったと言うことか」

ならそんな重々しく言わないで下さい。罪悪感感じるから。

「僕にはね、好きな雌が二匹いる」
「?」

彼女に話したら少しは彼女も気が紛れるかな? ……それとももっと落ち込む?

「一匹は……一番大好きな雌。いずれ僕はその雌に会いに行く。もう一匹は二番目に大好きな雌。……僕はその雌と結婚する約束までしてた」
「!」
「でも、僕はここに連れてこられて、彼女とは離ればなれ。まだ子供の顔も見てないのに。……准将はここでは上層部の人なんでしょ? 僕はそんな人を本気で愛することなんて出来ないんだよ。わがままかも知れないけどさ」
「……いや、当然だ。私もどうかしていたんだろうな……」

普通に彼女と出会ってたならもしかしたら……三番目の人になれたかも知れない。

 「……いいさ、その二匹を追えばいい」
「え?」
「明日、お前を解放する」
「でも……」
「私が全て話を付ける。ここでは私がトップだ、問題ない」

トップだったんだ……。

「ただし!」
「?」
「……私のことは……絶対に忘れるな。私のことは名前で呼べ」

……忘れられないと思う。絶望の淵から助けてくれたわけだし。

「……了解、ネビュラ」
「……最後の夜も……私を抱いて寝てくれ……」
「うん」

彼女の声は震えてて、やっぱり少し辛いんだろうなって言うのが分かった。僕のことを本気で愛してくれてる人なんだ。でもやっぱり……僕には彼女を愛することは出来ない。先入観とか、そう言うのが邪魔をしてる。本能が彼女を避けてる。……でも、それでもやっぱり、今まであった人の中では絶対に彼女は三番目の人なんだろうなって思う。僕が勝手に思ってるだけなのかも知れないけど。……彼女が眠るまで、僕は優しく彼女を抱きしめてあげた。少し震えるその背中をそっと撫でてあげた。……やっぱりどことなく愛おしいと感じてるんだな。彼女の寝顔にそっとキスをしてから僕も眠りについた。

 翌朝、僕が目を覚ました瞬間本能があることを察した。殺気だ!

「っと!」

身を翻してその場から離れる。その瞬間に空を斬る刃の音がした。何事だろうと目をこらすとそこにはギルバート少尉がナイフを手に立っていた。

「なんなんだよ朝っぱらから!」
「お前、姉さんに何をした!!」

シスコン少尉め、もはやヤンデレか。

「何もしてないよ、第一キミこの部屋には出入り禁止でしょ!」
「うるさい! 姉さんの一大事にただまごまごと外で待っていろって言うのか!? そんなのごめんだ!」

少尉があんまり大声で怒鳴るもんだからネビュラが起きそうになる。この状態を説明するのにはどうしたらいいかなと一瞬考えが別の場所に行った瞬間、少尉が僕を押し倒して首にナイフを押しつけてきた。……万事休す。

「噂が立ってるぞ……お前、モルモットのくせして姉さんを抱いたのか!?」
「だ、だってネビュラはそれが目的で僕をこの部屋に呼び寄せたわけだし……」
「姉さんを呼び捨てにするな!!」

肩口をナイフで斬りつけられる。避けることなんて無論出来ないし、肩から血が吹き出た。

「ぐっ……」
「抱いたんだな? 俺の姉さんを抱いたんだな?」
「キミの? ネビュラはものじゃないよ……」
「口を開くなモルモット!!」

また斬られた……ダメだ、手が動かない……。これじゃ反撃が出来ないよ……。

 「姉さんが愛してるのは俺だけだ……俺だけを姉さんは愛してる、俺だけを!」
「っく……昨日の夜……キミのお姉さんのネビュラから僕はプロポーズされたよ……」
「っ!!」

息を呑むギルバート。嘲笑うように続ける。

「ネビュラは僕を本気で愛してくれた。振られるとわかってても僕に『結婚してくれ』って言ってくれた」
「うるさい黙れ!!」
「ギルバート少尉、キミも大人でしょ? それならネビュラばっかりにこだわるのはやめなよ。近親相姦もやめた方が良い」
「黙れと言ってるだろ!!」

ナイフの刃が更に僕の喉に迫る。その時、ネビュラが完全に目を覚ました。

「! ギルバート!! 貴様何を……」
「姉さん……見てて、今俺達の愛の障害になるこのモルモットの首掻き斬るから……」
「なっ!? やめろ!!」

ネビュラの声が聞こえた瞬間、僕の視界は真っ赤に染まった。首から激しい痛みを感じる。

「カルマァァァン!!」

呼吸が……出来ない……。

「ギルバート!! なんて事……なんて事を……!!」

視界が……ぐらつく……。

「何を怒ってるんだよ姉さん?」

……寒い……。

「そこを退けギルバート!! カルマン!! カルマン死ぬな!!」

……寒いよ……。

「血が止まらない……ダメだ……」

目の前にあるのは……血まみれのネビュラの顔。どうして血まみれなの? ……僕の血……?

「泣くなよ姉さん……たかがモルモットの一匹が死んだだけだろ? それも、僕の大切な姉さんに種を付けようとするような害獣だ」

……暗くなっていく……。

「ギルバート……!! 貴様は……貴様はもはや私の弟などではない!! お前はモルモットだ!!」

……遠くなっていく……。

「姉さん……!? そんな……」

消える……。

「カルマン……あんな邪悪な弟を持ってしまった私を許してくれ……。すまない……」

無くなる……。

「うっ……すまない……」

……僕の意識は潰えた。身体がどんどん冷たくなっていく。……アズサ、それにネビュラ、ゴメンね。僕もう……死んだみたいだよ……。今回ばかりは……希望もないよね……。



 運命の亀裂に飲み込まれ、僕は果てしなく堕ちていった……。


あとがき

DIRIです。こんばんは。
長いこと待たせてしまってすいませんでした。まぁ、結局こんなんなっちゃいましたが(汗
カルマンってば結局イケメンでモテちゃうんですよね。彼の長所です。本人的には短所ですが(笑
これ実は色々と布石しいてます。カルマンは色々と不幸ですからね。書いてる本人としては面白い限りですが当事者にもし回ってしまったとしたら泣くと思いますよ。悲劇の主人公って程でもないんですけど(爆
これからがカルマンの本題ですよ。
では、次もあるので期待せずに待っていて下さい。


最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • カルマン!!
    死ぬなよ!絶対死ぬな!お前にはアズサがいるんだ
    ネビュラだってお前を愛してくれてるんだ!
    ここで死ぬことは俺が許さん!生きろカルマン・アーヴァイン・ローゼンバーグ!!
    長文失礼しました
    ―― 2009-09-28 (月) 02:05:59
  • おおお!?カルマン生きてた!けどまた死にそうだ・・・・・・orz
    ――雪崩 ? 2009-09-28 (月) 09:28:52
  • やっぱりカルマンの顔は○○○○なんですねw
    カルマンが生きていた!でも今度は…
    またまた期待しています!
    ――F ? 2009-09-28 (月) 16:29:13
  • 連続ですいません。ただこれが言いたくて…
    絶対兵士ってMG○のあれですね、わかりますw
    執筆頑張って下さい。
    ――F ? 2009-09-29 (火) 20:33:19
  • 名無しさん
    コメントありがとうございます
    カルマンは…、まぁ、あれですから、色々とやってくれる人ですから←
    気長にお待ち下さい…

    雪崩さん
    コメントありがとうございます
    実は色々と裏があって生きてるんですよ、ハンターの件は
    まぁ、いつか書こうと思いますのでそれも待っていて頂けたらなと思います

    Fさん
    二度のコメントありがとうございます
    イケメンなんですね、イケてるメンズです
    首掻き斬られたら普通死にますよねー(爆
    絶対兵士のことはですね、そうですね、MPOの奴ですね。ドイツ語で0って調べてみて下さい、ヌルって出ると思います(笑
    MGSが好きだったのでついやってしまいました。でも後悔はしていません。反省もあんまr(ry
    続きを気長に待っていて下さい
    ――DIRI 2009-09-29 (火) 20:50:05
  • うはっwwwww
    リリーとゼロを発見と思ったらカルマァァァン!!!?wwwwww
    続編が非常に気になる所www
    ――アンジー ? 2009-09-29 (火) 22:19:43
  • 荒川さんがカルマンにした注射が気になるな・・・・・まさかそれのおかげで首を切られても死なない・・・とかwww
    ―― 2009-09-30 (水) 10:55:23
  • エェェエエエ!カルマン再び死亡……チ-ン……
    い、いや縁起でもないことを言うな!
    カルマンは何度でも蘇るのだよ。
    そう。きっと荒川さんの薬は、筋肉強化剤で大丈夫だった……だったらいいなー

    DIRIさん執筆頑張ってください!
    応援しています。
    ――ホワシル ? 2009-10-02 (金) 01:28:04
  • アンジーさん
    コメントありがとうございます。
    ちょ、ダメですってば(爆
    期待しておいて下さい(笑

    名無しさん
    コメントありがとうございます
    さてさて? どうなんでしょうかね?(不穏
    荒川さん悪者なんですよ、一応。ろくな事しないと思います(爆

    ホワシルさん
    コメントありがとうございます。
    再びって、最初は死んでませんよ(汗
    そうですね、カルマンは滅びん、何度だって蘇るさ!←ム○カ風に
    まぁ、死んでもカルマンは構わないんですけどね。もともとコウヤに会いたいがために旅に出たわけですから…。
    応援して下さってありがとうございます。頑張りますよ!
    ――DIRI 2009-10-03 (土) 12:41:22
  • 今更ながら、シングル・アクション・アーミーってマグナムだっけ?
    ―― 2010-11-25 (木) 06:11:26
お名前:

*1 西部劇などでよく見られるリボルバー拳銃

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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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