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送り狐の贈り物

/送り狐の贈り物

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あの日は、ちょうど数年前の今日くらいだったな。
あの日は大雨だったっけ。
僕が…チトセさんに出会ったのは。

「うぅ…よりによって傘を忘れた日に…」
僕は学校の帰り道を急いでいた。
新学期の始まったばかりの春先に、なんだか水を差すような大雨だった。
その日傘を持ってきていなかった僕は大慌てで森のそばの道を走っていたのだった。
その時、眩い閃光と共に轟音が響く。近くに雷が落ちたらしい。
「うわぁっ!?」
僕は思わず立ち止まり、目をつぶった。
少しして、僕がその目を開けたとき、そこには一匹のキュウコンが倒れていた。
「えっ…?」
その美しさに目を奪われた僕はキュウコンにおそるおそる近づいてみた。
どうやらちゃんと生きてはいるけど、すごく弱っている。今にも死んでしまいそうなくらいに。
「ど、どうしよう…」
僕はキュウコンをどこか濡れない場所に連れて行こうとしたが、キュウコンは予想以上に重くうまく動かすことができなかった。
どうしていいかわからずうろたえる僕にある一つのアイデアが浮かぶ。
「そうだ、モンスターボール…!」
僕は急いで自分のカバンを探ると、中から一つのモンスターボールを取り出した
「これなら…」
僕はモンスターボールをキュウコンに向かって投げる。
するとモンスターボールから赤い光が放たれ、キュウコンを包んでそのままボールの中に消えていった。
二、三度ボールが揺れ、カチッという軽快な音が鳴る。
「やった!」
弱っていたとはいえキュウコンがすんなりボールに収まってくれたことが嬉しかったが、そんな事を考える暇もなく僕はボールをカバンに入れて家路を急いだ。

幸か不幸か、僕が家に帰った時に両親は家にいなかった。
僕はたくさんのタオルを抱え、ドライヤーを持って自分の部屋に向かった。
部屋につくと、僕はベッドの上にタオルをしきつめその上にさっきゲットしたキュウコンを出す。
キュウコンは相変わらず弱ったままで、今にも死んでしまいそうだった。
僕はすぐにドライヤーをコンセントに繋いでキュウコンを乾かしていく。
頭のほうから順番に、タオルも併用して必死に乾かしていく。
頭を乾かし、体を乾かし、尻尾にはかなりてこずったけど先や中までしっかり乾かした。
その結果かキュウコンの息遣いはさっきまでよりも力強くなり、苦しそうな様子も和らいだように見えた。
「よかった…」
その様子を見た僕は一安心してキュウコンを撫でた。
すると、濡れていた時は気づかなかった炎タイプ特有の心地よいぬくもりが手のひらから伝わってきた。
「あっ…」
その時になってやっと僕は自分もびしょ濡れだった事に気がついた。同時に寒さも感じる。
「うぅっ…」
僕はさっき感じた暖かさをもっと感じようとキュウコンの体に抱きついた。
さっきと違ってぬくもりが全身に染み渡っていく。
同時に眠気も僕に染み渡っていく。
襲ってくる睡魔に身を任せ、僕は深い眠りへと落ちていった。

僕が気がついた時、視界は黄金色に染まっていた。まるで王族が使うような最高級布団に身を包んでいるかのような心地よさと眠る前に味わったぬくもりが伝わってくる。
「んっ…」
僕が軽く身をよじると、いきなり視界が開ける。
そこから僕を覗いていたのはキュウコンの顔だった。
「目覚めたかや…?」
頭の中に直接聞こえてくるような声がする。
僕は眠い目を擦りながら起き上がった。
どうやら自分の部屋のベッドの上で、キュウコンの尻尾に包まれて眠っていたようだ。
「おはよう」
またさっきの声が聞こえる。
「おはよう…」
僕も挨拶を返す。
なにも変わった事の無い朝の挨拶、しかし頭が冴えてくるにしたがってある疑問が頭に浮かんだ。
今、僕に挨拶したのはいったい誰…?
「わっちじゃよ」
再び声がする。部屋を見回すがそこには僕とキュウコン以外いない。
つまり、答えは一つしかないのだが、理性がそれを受け入れる事を拒否する。
だって、ポケモンが喋るなんて聞いたことがない…。
「じゃろうな、わっちも聞いたことがない。」
「っ!?」
次に聞こえてきた声に僕は心底驚いた。
どう考えても僕の頭の中を見透かしたような内容だったからだ。
「あ、あの… もしかして、あなたが僕に…?」
僕は恐る恐るキュウコンに話しかけた
「左様、先ほどから主に話しかけておったのはわっちじゃよ。」
やっぱり僕に話しかけていたのはキュウコンだったようだ。
「じゃあ…僕を尻尾に入れてくれたのも?」
ついでに聞いてみる。
「うむ。わっちの横で行き倒れの濡れ鼠のようになっておったからの。風邪をひいてはいかんと思ったのじゃ。」
キュウコンは笑顔で答える。僕も思わず笑顔になる。
だが、僕はある事に気づいた。
「今何時…?」
壁にかかった時計に目をやる。針が指し示すのは九時五十分。
結局、僕はその日学校を休んでキュウコンと一緒に過ごすことにしたのだった。

「あなたは、いったい何者なんです…?」
思いがけずたっぷり時間のできた僕はキュウコンにいろいろ質問してみることにした。
「む、自己紹介がまだじゃったな。」
キュウコンはもぞもぞと居住まいを正す。
「わっちはチトセ、ご覧の通りキュウコンじゃ。」
キュウコンが自己紹介を始める。
「喋ることでわかっていると思うが…わっちはただのキュウコンではない。送り狐と呼ばれるキュウコンじゃ」
「送り狐?」
聞きなれない言葉だ。
「うむ。主よ、ホウオウは知っておるかや?」
ホウオウなら知っている。永遠の命を持つという伝説のポケモンだ。
「左様、ホウオウは永遠の命を持つポケモンじゃ。」
どうやらキュウコン…チトセさんには頭に思い浮かべるだけで通じるらしい。
「しかし、ホウオウもずっとそのままというわけではない。いずれその肉体に限界がくる。」
チトセさんが続ける。
「そこで、何百年…何千年に一度、その身を焼いて新たな体に生まれ変わる。その生まれ変わりから次の生まれ変わりまでを「見送る」使命を課されたキュウコン、それが送り狐じゃ。」
「つまり、チトセさんは…」
「うむ、わっちが今代の送り狐じゃ。」
どうやら、チトセさんはすごく特別で、すごい存在のようだ。
「送り狐はホウオウが生まれ変わった年に生まれたロコンから選ばれる。そしてホウオウが再び生まれ変わるまで生きつづける。」
それって、もしかしてすごく長生きってことじゃ…?
「そういうことじゃ。わっちももう生まれてから五百年と、六十年と、少しになる。」
五百六十年…僕には想像もつかない年月だ。
「言うなればホウオウに連れ添う身。じゃがホウオウに会うことは長く生きるともかなわぬ事のほうが多い。孤独なものじゃ…」
そう言った時、チトセさんの顔が少し曇った。
「チトセさん…?」
僕は少し心配になる。
「すまぬ、大丈夫じゃ。」
そう言ってチトセさんは僕の頭を前足で優しく撫でてくれた。
心地よいぬくもりが伝わる。
「誰かと眠ったのはいったい何年ぶりかのぅ…?」
チトセさんはそのまま僕を優しく抱きしめる。
チトセさんの毛の一本一本からぬくもりが伝わってくるようですごく気持ちいい。
「主には礼を言うぞ。わっちを救ってくれたばかりでなく、わっちに生き物のぬくもりを思い出させてくれた…」
僕はチトセさんのぬくもりに夢中になっていた。まるで母親のような暖かさに…。
「こうまでしてもらってわがままを言うようじゃが…」
チトセさんは僕を撫でながら言った。
「体はもう大丈夫じゃが、力がまだ戻っておらぬ。どうか、戻るまでここにおいてはくれぬかや?」
そのお願いを、僕は快く了承したのだった。

その日から、僕の日常は急に明るくなったような気がした。
今までは両親は共働きで、朝起きたら朝食だけが取り残されたテーブルが、家に帰ってきたら作り置きの夕食が待っているような毎日だった。
でも今は、朝起きたらチトセさんがおはようと言ってくれる。帰ってきたらチトセさんがおかえりと迎えてくれる。
本当に生き物のぬくもりを忘れていたのは僕だったのかもしれない。
…でも、楽しいときはそう長くは続かなかった。その日は唐突にやってきた。
「…主よ」
ちょうど僕が家に帰ってきてゆっくりしている時だった。
「わっちの力はもう十分に戻った。今まで世話をかけたのぅ。」
チトセさんはそう切り出した。
「えっ…?」
ゆっくりとくつろいでいた僕は不意を突かれて飛び起きる。
「わっちはもう、森に帰ろうと思う。」
チトセさんの言葉には強い力がこもっているように感じた。その力で僕は麻痺したように固まってしまう。
じっと見つめるしかできない僕をチトセさんはゆっくりと抱きしめる。
そのぬくもりはいつも通りで、柔らかな感触で、そしてすごくやさしくて…。
突然、涙が溢れ出してきた。何か言葉を言わなきゃいけないのに、喉が詰まる。わかっていたはずなのに、胸が詰まる。
「や…やだっ…」
嗚咽交じりに搾り出した声は、とても言葉になんかなっていなかったかもしれない。
それでも、チトセさんはさっきよりも強く抱きしめてくれた。
「…わっちも寂しい。主のぬくもりを離しとうない…」
チトセさんも、搾り出すように言葉を繋いでいく。
「しかし、わっちと主では住む世界が違う。本当なら出会うはずもない者同士なのじゃ。」
何か言わなきゃ、でも言葉は涙がせき止めてしまう。
「それでも、主と出会って、わっちは生き物のぬくもりを思い出せた。わっちには、過ぎた出会いじゃよ。」
まるで、自分自身に言い聞かせているようにチトセさんは言葉を繋いでいく。
「主には何度礼を言っても足りぬくらいじゃ。ありがとう…」
チトセさんの体が震える。何か大きなものを閉じ込めているように。
「やだ…やだよ…」
僕はチトセさんを強く抱きしめる。離してしまったら、もう取り返しがつかないような気がしたから。
「…わかった。主にこれを送ろう。」
そう言ってチトセさんは僕を離し、尻尾の中に手を入れる。僕は顔を上げる。
「ほれ、これじゃ。」
そう言ってチトセさんは僕に両手のひらに収まるくらいの玉を手渡した。
その色はチトセさんの毛の色そのままで、まるで生きているような不思議なぬくもりを持っていた。
「それは狐珠と言ってな…わっちのように長う生きたキュウコンが尾の中に持つ力の結晶のようなものじゃ。」
僕は狐珠の美しさに思わず引き込まれる。
「その珠を持っている者は、その珠の主のキュウコンといつでも心を通わせることができるのじゃ。」
僕ははっとなる。真っ直ぐにチトセさんを見つめる。
「わっちはその珠を通していつでも主を見守っておる。じゃから…そんなに悲しまんでくりゃれ。」
チトセさんは僕の頭を優しく撫でてくれた。
「もし、主が本当にわっちの助けが必要なときはその珠を持ってわっちを呼ぶがよい。いつ何時でもわっちが駆けつけるからの…」
チトセさんは僕の頭から手をどけた。そして窓を見つめる。
「では、さらばじゃ。どうか…達者でな。」
すると窓がひとりでに開き、強い風が吹き込んでくる。
思わず顔を伏せた僕が次に顔を上げたとき、もうそこにチトセさんの姿はなかった…。

チトセさんがいなくなってしばらくは辛い日々が続いた。
朝起きても帰ってきても家はからっぽのままになってしまった。
僕は寂しさを抑えきれなくなり何度も泣いた。だれもいない、からっぽの家で。
でも、そのたびに狐珠を握り締めるとなんだかチトセさんがそこにいるようで、少しは寂しさが和らいだ。
いつしか時間は過ぎ去って、僕はすっかり大きくなった。
あの時は両手で持っていた狐珠もいまでは片手で簡単に持てるようになった。
そして、あの日を迎えた。
あの日は、夏休みに入ってすぐの暑い日だった。
両親はその日偶然二人とも休みで、家族で海へと出かけたのだった。
家族三人が揃うのなんていつ以来だっただろうか。僕も両親も笑顔が絶えなかった。
海で泳いで、ちょっとしたバーベキューをして、スイカを割って…。
本当に楽しかった。夢でも見ているようだった。
そして…覚めないでほしかった。

「さっきまで晴れてたのにな…」
ハンドルを握るお父さんがぼやく。
海で遊んだ帰り道、僕らを乗せた車が峠にさしかかった時に雨が降り出したのだ。
「山の天気は変わりやすいっていうからねぇ…」
助手席のお母さんも心配そうにつぶやく。
僕は遊び疲れて半ば夢見心地でフロントガラスに叩きつける雨を必死にぬぐうワイパーを眺めていた。
その時、車が揺れる。まるで地震のように。
「な、なんだ!?」
お父さんが驚いた声を上げる。直後、車が跳ねた。
突然世界がさかさまになる。ものすごい轟音と共に黒に染まる。
「きゃぁぁぁぁ!」
耳をつんざくようなお母さんの悲鳴と、轟音が頭に焼きつくとほぼ同時に、僕は唐突に意識を手放した…。

どれくらいの時間がたっただろうか。
僕は目を覚ました。
真っ暗でほとんど何も見えない。そして世界はさかさまのままだ。
僕はとにかく動こうとした。だが体が動かない。そして全身に激痛が走る。
「っ…!?」
僕は体から体温が一気に奪われていくのを感じた。車の中のはずなのになぜか体がびしょ濡れだ。
声もうまく出せない。頭が混乱していく。
「っ…!」
必死に助けを呼ぼうとする。でもやっぱり声が出ない。
何かにのしかかられているように体が押さえつけられている。動けない。何もできない。
(あ…)
意識が暗転していく。何かを求めるように指が動く。
その指が何かに触れる。僕にはすぐにそれが狐珠だとわかった。
直後、チトセさんの言葉がフラッシュバックする。
「もし、主が本当にわっちの助けが必要なときはその珠を持ってわっちを呼ぶがよい。いつ何時でもわっちが駆けつけるからの…」
僕は必死に狐珠をつかんだ。もうほとんど指も動かない。
(助けて…チトセさ…)
僕はそのまま意識を手放した…。

…僕は死んだのだろうか。
だが、死んだにしては体が重い。そして温かい。
黄色に染まった視界は僕になにも教えてくれない。
虚ろな意識の中、僕は少しずつ感覚を取り戻していく。
頭が冴えてくる。周りの温かさが、感触が、視界の黄色が結びついて記憶の引き出しを開く。
この感覚を、僕は知っている。
その感覚の正体を掴むため、僕は手を伸ばした。
だが、実際に手は動かずかわりに激痛が帰ってくる。
「っ!!」
体が震え、顔をしかめる。
その時、視界が急に明るくなる。
思わず閉じたまぶたを開いた時、そこにあった姿は、ずっと待ち望んだ姿で、恋焦がれた姿で…。
「チトセ…さん…」
涙を溢れさせながら漏れ出した声は、とっても弱弱しくてとても聞き取れるようなものじゃなかったかもしれない。
でも、チトセさんは僕をやさしく撫でてくれた。待ち焦がれたぬくもりがそこにあった。
「よかった…生きていてくれた…」
チトセさんは僕が痛くないように優しく尻尾に包んでくれていた。
僕と同じようにチトセさんも泣いていた。
しばらくそのまま時間が過ぎた。
気がつくと周囲は暗くなっていた。
「チトセさん…ありがとう…」
ようやくちゃんと出せるようになった声でお礼
を言う。
「よいよい…生きていてくれただけで十分じゃ…」
チトセさんは愛おしそうに言う。
「…僕、どうなったの?」
僕は気になったことを聞いてみる。
「主は…山崩れに巻き込まれたようじゃ。びしょ濡れでひどい怪我じゃったが、無事で本当に何よりじゃ…。」
チトセさんはやさしい声で答えてくれる。
「お父さんと…お母さんは…?」
二人のことがすごく心配だ。
「主の両親は…。」
急にチトセさんの声が暗くなる。顔も曇る。
「僕の両親は…?」
まさか、最悪の事が頭をよぎる。
「主の両親は…わっちが駆けつけたときにはもう…。」
お父さんとお母さんが…死んだ…?
頭が真っ白になる。何も考えられなくなる。
思い出が頭を駆け抜けていく。つい数時間前まで見せていた笑顔が浮かんでくる。
そして、焼きついた悲鳴と轟音が響き渡る。
「大丈夫かや?しっかりするのじゃ!」
チトセさんの声で我に帰る。だが状況は何も変わらない。
「うぅっ…」
涙が再び溢れ出す。今度は悲しい涙が。
「うわぁぁぁ…!」
涙が止まらない。何も考えられない。
チトセさんは僕を抱きしめてくれる。僕もなんとかチトセさんに抱きつく。
そのまま、僕は泣き続けた。ずっとずっと、泣き続けた…。

気がつくと朝になっていた。
どうやら泣きつかれて眠ってしまったようだ。
「…起きたかや?」
チトセさんが声をかけてくる。いつかの朝のように。
「…おはよう。」
僕は挨拶する
「おはよう。」
チトセさんも挨拶を返してくれる。
「何か食べるかや?」
チトセさんはやさしくしてくれる。
お腹は空いていたけど、何かを食べる気にはなれなかった。
「…ねぇ、チトセさん。」
かわりに言葉を返す。
「僕、ひとりぼっちになっちゃったんだね…」
ぽつりと呟くように言った。すると、チトセさんの動きが止まる。
「…主よ。」
突然僕は抱きしめられる。柔らかな感触に包まれる。
「わっちは一度、主を傷つけ、突き放した。」
さっきの僕と同じようにぽつりぽつりと呟くように話し出す。
「主の下から離れ、自ら一人になった。」
まるで懺悔をしているように。
「…しかし、わっちは主を忘れられなんだ。主が老いていくのを見るくらいならと思ったが、やはり一度思い出したぬくもりを忘れるのは、とても寂しい…。」
チトセさんの声がだんだん泣きそうになっていく。
「こんな折に、こんなことを言うのは間違いじゃとはわかっておる。主に嫌われるかもしれぬとは覚悟しておる。じゃが、もう我慢ができぬ…」
声が震えだす。体もわずかに震えている。
「わっちは本来、ホウオウに連れ添う身…じゃが今だけは、しばしの間だけは、主に連れ添う身でいさせてくりゃれ…」
チトセさんの体が震えだす。雫が僕の頬に当たる。
僕は、静かにチトセさんを抱きしめ返した。上手く返事はできないけど、この気持ちがチトセさんに伝わればいいと思う。
僕たちは、そのまま静かに抱き合った…。

こうして、僕はチトセさんの子供のようになった。
あの後、傷が癒えてから僕はまたチトセさんをゲットし一緒に家に帰った。
あの日、チトセさんに出会った日から数年。時々両親の事を思い出して悲しくなるけど、チトセさんがいてくれるから寂しくはない。
お金は、実は両親の貯蓄がたっぷりあったからしばらくは安心して暮らせそうだ。
何の不自由もない、楽しい暮らしだ。
ただ、一つ贅沢を言うとするなら…。
「ねぇチトセさん、今日の晩御飯は?」
「今日の晩御飯は…肉じゃがじゃ。」
たまには洋食が食べたいってことかな?

おしまい


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Last-modified: 2015-02-01 (日) 23:12:58
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