過去。それは時に圧倒的な自信となり、時に自らを縛る縄となる。
そのなかでも罪という過去は最も強い縄となるだろう。
誰かが手をさしのべてくれたら。
免罪符をうってくれたら。
どんなに楽だろう。
過去は決して許してくれない…。
「私はあなたのことが好き。」
そう言って彼女は太陽のように微笑んだ。
……、幸せだった。
何もかもが上手くいって。
愛する者と一緒にいられて。
それがいとも簡単に崩れ去るなんて思ってもみなかった。
「夢か……。」
正確には夢ではなく、追憶だ。
あと何回こんな朝を迎えなければならないのだろう…。
口に出せない気持ちは汗となって頬を流れる。
「兄さん。起きた?」
弟のブラッキーが話しかけてきた。
俺の種族はブラッキーで弟もブラッキーだ。
だが、弟は俺と違って色違いという特徴を持っている。
体にある金色の輪は水色の輪に変わり、目も淡い橙色に変わっている。
「今、起きるよ。」
「そう言えばさ、昨日、エーフィの女の子がこの村に住むことになったんだって。」
「何だって!?」
……、別に邪な意味で驚いたわけではない。
でも、弟の言ったことが本当だとしたら、それは………。
「あのぉ、すいません。」
と、寝床の入り口をノックする音とともにおそらく雌だとおもわれる声が会話を遮る。
「はい、何でしょう?」
弟が外へ出た。
「兄さーん。エーフィが挨拶だってー。」
マジかよ……。
……、まぁいいか。挨拶したらそれ以上会わなきゃいいことだ。
それにしてもわざわざ挨拶しに来るなんて律儀な娘だ。
そんなことを考えながら寝床の出入口に行った。
「はじめまして。昨日、この村に来たエーフィです。
今後ともよろしくお願いします。」
出入口に行くと、そこには綺麗な毛並みで宝石のような澄んだ瞳をこちらにむけるエーフィがいた。
「……、はじめまして。俺はブラッキー。そこのブラッキーの兄だ。
これからよろしく。」
「はい。では、私はこれで。」
そう言うと、エーフィはこちらに背を向け、行ってしまった。
「ねえ、兄さん。」
「何だ?」
「あのエーフィ、可愛かったね。」
「馬鹿野郎。」
「そんなこと言いながら実は兄さんも惚れてるんじゃないの?」
「黙れ。例え、そうだとしても俺が手を出すことは断じてない!」
この言葉に偽りはない。
「はいはい。木の実取りに行こうよ。」
「ああ。」
そして弟と、近くの山に木の実を取りに行った。
「兄さん!この実ってまさか!」
「驚いたな。多分、その実はレンブの実だ。」
こんな珍しい木の実が手に入るなんて、今日はラッキーだな。
その後、木の実取りを終え、俺達は帰路についた。
すると、前方にエーフィとリーフィアが見えた。
おそらく、木の実取りを教えているんだろう。
「ブラッキー。おっはよう。」
「おはよう、リーフィア。」
「聞いてくださいよ。なんと、あのレンブの実を拾っちゃったんですよ!」
「えっ、それ本当!?」
「それはすごいですね。」
……、もう此処にいる理由も無いし、帰るなら2匹が話に食いついてる今のうちか。
「ちょっと、あんた何帰ってるのよ!」
はい、華麗にスルー。
「グゲバッ!?」
次の瞬間、リーフブレードが俺の背中をぶち抜いた。
「痛ってぇな。」
「あんた。折角、エーフィがいるのに帰るとはいい度胸ね。
甘いわ、あほんだら!」
あのー、リーフィアさん?
なんか口調が途中からバグってますよ?
「わかったよ。此処にいればいいんだろ。」
「それでよろしい。」
そんなこんなでリーフィア達と雑談したり、自己紹介したりと楽しい時間を過ごしていたが、問題が発生した。
本当に不味い。
弟が朝言った通りに俺は本気でエーフィに惚れちまったらしい。
過去の十字架よりも恋心のほうが勝っているなんて、俺はどれだけ罪深いやつなんだ。
「じゃあ、あたし達は帰るね。」
「さようなら。ほら、兄さんも。」
「……、さよなら。」
日も大分傾いた頃、ようやく寝床についた俺達はレンブの実を食べながら、今日のことを話していた。
「兄さん、エーフィと付き合っちゃえば?」
「冗談はやめろ。」
「まだ、あの事思い出してるの?
そうだとしたら兄さんは間違ってるよ。
いつまで被害者ぶってるつもり?
いい加減自分のポケ生*1生きなよ。」
「……、お前に何が分かる?
確かに俺がやっていることは自己満足なのかもしれない。
だが、今の俺ができる最大限の償いはこうすることだけなんだ…。」
「…、わかった。そこまで言うんだったらもう何も言わない。
でも、もし、気が変わったらいつでも言ってよ?」
「ああ。」
俺達の会話は悲しく夜の森に響いた。
「兄さん、早く起きて!」
「何だよ。朝っぱらから…。」
「大変だよ!悪と雷と炎の種族が反乱を起こしたって!」
「何!?でも、何で俺たちは呼ばれなかったんだ!?」
「呼びに来たサンダースは悪の波動でボコボコにしといたよ。」
なかなかやるな、弟。
流石は俺の弟だ。
「すぐにエーフィ達を助けに行こう。
今ごろ、超と水と草、氷、それにノーマルの種族が襲われているかもしれないからな。」
「うん。」
そう言った後のことじゃ。
我は、弟者と共に迅速にエーフィのもとへ向かっとった。
前方に我と同じ種族のブラッキーが仲間を見るような目でこちらを見とる。
…、無論、仲間ではない。寧ろ敵だ。
隙ありありの状態でこちらに近づいてくる敵のブラッキー。
「切り捨て御免!!!」
居合い切りが敵のブラッキーに当たる。
相手がブラッキーでも、不意打ちだったことも助けて、一撃で勝負が決まる。
実は切り捨て御免が言いたかったが為に口調を変えていたのは秘密。
「兄さん、いつの時代だよ。」
弟から要らんつっこみが出たが華麗にスルー。
「…、スルーかよ。まあ、いいや。
あっ!兄さん。居たよ!2匹とも。」
本当だ。だけど、戦闘中みたい。
相手はブースター×2にサンダース×2、ブラッキーか。
流石にあの2匹で闘うのはヘビーだな。
加勢しますか!
「エーフィ、リーフィア、無事か!?」
「無事じゃないから闘ってんでしょ!
あんたらもとっとと加勢しなさい!」
「「了解。」」
「俺はブースターの相手をする。
お前はサンダースの相手をしてくれ。
リーフィアとエーフィはブラッキーな。」
俺が指示をだすと皆、それぞれの相手と対峙した。
さぁてやりますか!
「お前ら、裏切る気か?」
「そうですけど、何か?」
「チッ、折角の上玉が。」
下心満載!あいつらぶっ飛ばす。
「「行くぞ!」」
おぉー。2匹揃って来たねー。
まずはお手並み拝見といきますか。
片方のブースターが噴煙の体制に入ると、もう片方が炎の牙で突っ込んで来る。
これからはブースターAとブースターBという風に呼びます。御了承下さい。
俺はそれを避けるとブースターBの噴煙を守るで耐え、バックステップで距離をとった。
するとブースターBがスモッグを口から出し、視界をなくす。
その後、姿は見えないが、近づいてきたA、Bどちらかのブースターに俺は不意打ちを食らわせた。…つもりだった。
だが、それは身代わりで隙を狙ったブースターAかBの炎の牙を諸に受けてしまった。
スモッグがようやく晴れたかと思ったら、ブースターAの噴煙が俺を襲った。
余談だが、スモッグの中で炎の牙を俺に使ったのはブースターBだということが分かった。
そして噛みつかれて動けない俺に噴煙の炎が当たった。
俺に噛みついてるブースターBの特性『もらい火』で炎の牙はどんどん火力を増していき、意識が遠のきそうだつた。
だが、何とか堪え、居合い切りをブースターBの腹に打ち、離れ、秘密兵器の毒々玉を使う。
どす黒い色をしたその玉は触れただけで猛毒に侵されてしまうと言われる。
だが、ブラッキーの特性は『シンクロ』な為、相手も猛毒に侵される。
かなり危険を伴う方法だが、毒々を放つより命中率が高いのは確かだ。
「ぐっ…。」
「「き、貴様、まさか!…。」」
俺は動けないブースター達に最大パワーでギガインパクトをした。
よし!終わりっと。
あいつらも終わったみたいだな。
じゃあ、合流しよう。
あれ?体が動かない。
やっべ…、もう無理かも。
あっ、倒れちまった。
マジでもう無理かも………。
ふぅ…、なんとか敵は倒せた。
まぁ、ほとんどリーフィアさんのおかげだけど。
「あ、エーフィにリーフィアさんも勝ったんですね。
早く兄さんの所に行きましょう。」
弟さんも勝ったんだ。
2対1なのによく勝てたな。流石雄。
「何してんだ?早く行くよ。」
ボーッとしてたらリーフィアさんに怒られちゃった。
私も早く行かなきゃ。
「兄さん!しっかりして!」
次に私達が見たのは衝撃的な光景だった。
ブラッキーさんと相手の2匹は相打ちだったらしく、3匹がそこに倒れていた。
幸いにも、ブラッキーさんは気を失っているだけで死んではいなかった。
でも、危険な状態には変わりが無いので、すぐにブラッキーさんの寝床に行って寝かせてあげるべきだ。
「ったく、あの馬鹿!心配させやがって。」
リーフィアさんが悪態をつく。
「兄さんはいつも無茶しますからね。」
弟さんは心配と呆れが混ざった表情をしている。
「あの、無茶って何ですか?」
「あの馬鹿は毒々玉を使いやがったんだよ。」
毒々玉。聞いたことがある。
触れた者を猛毒に侵すという呪いの玉。
恐らく、シンクロの効果を利用したんだろう。
そんなことを考えてる内に着いた。
「あたし達はしばらく此処に居るよ。
外に出るのは危険だろうからな。」
確かに外に出ればまたさっきのような敵に出会うかもしれない。
となれば、此処に居るのが一番無難だ。
「分かりました。
リーフィアさん達の寝る場所は準備しておきます。」
「ブラッキー、エーフィが可愛いからって襲うなよ。」
「へっ?お、襲いませんよ!
な、なな、何を言ってるんですか!」
慌てて弟さんが言う。あの反応、可愛い。
でも、私って可愛いのかな?