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超平凡でもない日常生活・その後

/超平凡でもない日常生活・その後

呂蒙




<注意>
 この作品には、途中でエグいことが書かれている部分があります。18歳未満でなくとも、人によっては気分を害されることが予想されますので、エグいシーンが苦手な方は、絶対にお読みにならないでください。万一注意を無視されて、気分が悪くなられましても、作者は責任を負いかねます。







 秋は晴れの日が多い。今日も雲一つない快晴である。街路樹の葉っぱも色づき始め、朝晩は多少冷え込むものの、過ごしやすい日々が続いている。
 屋敷には、障子を通して、やさしい秋の日差しが部屋の奥まで差し込み、暖かな空間を作り出している。
「ねぇ、うっちー。暇だよ~、遊んで」
 フーパはグローブのような手で、寝ている青年をゆすって起こす。青年は面倒くさそうな表情をして、起き上がる。「うっちー」とは今さっきまで寝ていた青年のことである。苗字が一条で、名前が内基(うちもと)そして、友達からは「うっちー」のあだ名で呼ばれている。その呼び方が、どうやらフーパにも移ったらしい。
 気持ちのいい昼下がりなので、昼寝をしていたい内基は、こんなことを言った。
「じゃあ『かちかち山』がどんなお話か言えたら、どこかへ連れていくよ」
 おバカ魔神でも、生活には困らないかもしれないが、外でおバカぶりを晒されると自分が恥ずかしいと思い、教養と呼べそうなことを暇を見つけては教えることにしているのである。「かちかち山」は、先日友人がきて、教えていたからである。内基としては、面倒を見る手伝いをしてくれる上に、知恵もつけてくれるし、退屈しのぎにもなる。さらに、大学の講義のノートを見せ合い、1、2回はサボっても大丈夫なようにできる利点があった。
「いいよー。えーっと、むかーし、昔、あるところにお爺さんとお婆さんがいました」
 ふむふむ、出だしは順調だ。ここで、悪役の狸が出てくる。が、ここで、フーパがとんでもないことを言いだした。
「……狸は、お婆さんをだまして、婆汁(ばばあじる)にしてしまいました」
「え!? 待て待て待て待て、ストップストップ」
 内基は驚いた。そして、眠気も飛んでしまった。そして、畳の上に、枕代わりにしていた座布団を置いて、その上に座った。
「あれ? 違うの?」
 フーパは不思議そうな顔をする。
「いや、合ってるけど……」
 内基は困った。なんという事だ。友人は「本当の話」の方を教えてしまったらしい。『かちかち山』の本当の話は、とても子供に読ませられるような内容ではないからだ。狸がお婆さんを騙して、縄を解いてもらい、隙を見て、杵でお婆さんを殴り殺し、スープにして、お爺さんに食べさせたなどという場面が実際に出てくるが、そんな話、小さな子供はおろか、10代の中高生にも読ませるべき内容でないことは明白である。だから、当然のことながら、子供向けのお話では、この部分は削除され、作り変えられているのである。
 内基は、内心、エラいことを教えてくれたなと思っていたが、この話がどうだったか、感想を聞いてみると「怖かった」という答えが返ってきた。確かに本当の話の方だから無理もない。もっとも、他の童話も残酷なシーンがあることも多い。内基が小学生の時『グリム童話』が本当は残酷なお話であることを知り、何故か興味を持ってしまったからだ。そして、なぜか小学校の図書室に本当の話の方の『グリム童話』の解説本が置いてあり、それが秋の人気図書になっていることがあった。そういうことがあったから、内基は友人を責めることができなかった。子供は、案外そういう話にも興味を持ってしまうということか。
 ちなみに、件の狸がどうなったかというと、この後、出てくる兎に大火傷を負わされ、火傷に唐辛子を塗られ、苦しめられてしまう。そして、騙されて泥の船にのせられて、船が溶けてしまい、兎に助けを求めるも、櫂でぶっ叩かれて、そのまま溺れてしまい、兎はお婆さんの敵を討つことができたのでした、という話になっている。
「でも、大丈夫!」
「へ?」
「うっちーがこんな目に遭っても、ぼくがちゃんと敵討ちはするから」
 その気持ちは嬉しいけれど、そうなる前に守ってほしいよな、内基はそんなことを思った。フーパには、あの不思議な2つの輪っかから、自分の思ったものを実際に取り出すことができるという能力がある。が、内基はこんなことも思うのだ。それだけではないような気がする。何かもっと凄い能力を隠している、そんな気がするのだ。確証があるわけではなく、ただ、なんとなく、そんな気がするだけなのだが、時々背筋が寒くなることがある。
 先日、どこで嗅ぎ付けたのか、ポケモンの研究者とやらが、屋敷にやってきた。白髪に白衣を羽織って「いかにも」といういでたちであった。内基は居留守を使ってやり過ごすことにした。が、そうはいかなかった。研究者の連れてきた鳥ポケモンに部屋を見られてしまい、居留守がばれてしまった。やむなく、応対に出て「これから出かける」といって、追い返したが、研究者はしつこかった。名刺には「大木戸」とあった。聞いたことのない苗字である。なんか、ゲームやアニメに出てくるような苗字だ。「木戸」なら知っているが、おそらく関係はないだろう。変わった苗字なので、偽名ではないように思えたが、知らない人に興味を持たれるのは、あまりいい気がしなかった。
 結局、内基は根負けしてしまい、研究者が初めてやってきた4日後に、家に上げて話だけは聞くことにしたが、フーパと対面させることはしなかった。それに、やはり腑に落ちないのが、何故、家が割れたのか、だった。話をはぐらかしたり、聞き流したりで、適当に応対していたが、それだけは気になった。すると、研究者はこんなことを言った。
「いや、なに。チャンピオンのポケモンを撃退した変わったポケモンがいたと聞いて、興味を持ってね」
 それを聞いて、はっと思った。実は、研究者が初めて来るさらに数日前のことである。その日は土曜日であった。両親は不在で、歳の離れた兄は、既に自立してしまっていて、この家にはいない。内基が午前中の大学の講義を終えて、家に帰ってきて、部屋でゆっくりしていると、庭に何かがいるのに気がついた。それは、犬でもなければ、狸でもないし、カラスでもなかった。
(あ、あれって……)
 野生……のはずがなかった。あんなのが野生でいたら騒ぎになってしまう。声が出なかったというより、出せなかった。大声を出したら、何をされるか、分かったものではない。家ごと炭にされてしまうかもしれない。
(リザード、ン?)
「うっちー、あれ、知り合い?」
「あんな、おっかない知り合いなんかいないよ」
 実物は見たことなかったが、写真で見たことがあった。部屋からその様子を覗いていたフーパが撃退したが、その時に使ったのが、あの2つの輪っかだった。
「雷撃、おーでましー」
(うわ、出た、あの呪文)
「それ、もう一回!」
(あれ、呪文がないぞ?)
 立て続けに、2発の雷撃を喰らわせる。閃光が屋敷の庭を包み、轟音が響く。最後に輪っかを直接投げつけて、打撃攻撃を加えて、撃退した。幸い、相手は逃げていった。その時は良かった良かったで済んだのだが、今思うと、あれは、目の前にいる爺の差し金だったのではないかと思えるのだ。余程訓練されたポケモンでなければ、立て続けに2発も雷撃を喰らった時点で、その場から逃走できるような体力は残されていないはずだ。そもそも、雷の直撃にも耐えられる実力を持っているのに、あっさり先制攻撃が決まるのも、妙と言えば妙だった。だが、相手が、輪っかを使った不思議な力を見極めるための受け役であり、その任務に耐えられるようなポケモンだとすれば、全て説明がつく。それでも、最初にどこで嗅ぎ付けられたのかは分からなかったが、内基は自分の仮説が正しいような気がしてならなかった。
 次第にあの時のことが鮮明に蘇ってくる。最後に輪っかを投げつけたとき、輪っかは目標に当たり、その場に落ちたり、戻る途中で落ちたりすることなく、綺麗な軌道を描いて、フーパの手元に戻ってきた。ただ単に投げて命中させたのではなく、あの輪っかを操っていたようにも思えた。
 自然と表情が険しくなる内基。何とか研究者を帰らせることには成功したが、冷静になればなるほど気が重くなっていった。変な人に惚れ込まれてしまったものだ。恐らくポケモンの研究者ということであれば、研究者同士のつながりや、かなりの実力を持ったトレーナーとも繋がりがあるに違いない。その方面では有名なのかもしれないが、内基にとってみれば、全然知らない人である。
 翌日、内基は大学の構内をぶらついていると、張り紙を見つけた。内容を見ると、授業料はタダで半年、もしくは1年間留学させてくれるうえに、その学校で撮った単位も認定してくれるらしい。幸い、大学の成績は悪くないし、内基は、良いかもしれないな、と思った。少し辛抱すれば、件の爺の好奇の目から逃れられるうえに、異国でのびのびと勉学に打ち込める。生活費は負担しなくてはならないが、親に頼めば何とかなるだろう。
 その日の夜、両親にそのことと、妙な研究者のことを話すと、父親は研究者の件は咎めずに、留学は、どこへ行きたいのかと聞いてきた。
「S国だけど……」
 特に理由はなかったが、どこかで聞いた気がするのだ。それは知識として、その国のことを知っているというだけではなく、もっと身近なところに理由があるような気がしたのである。
「そこなら、知人がいるから、話をしておこう。きっと力になってくれるだろう。……実際に、この家に、何度か来られて、内基も何回か会ったことがあるしな」
「え? そうだったかな? 会った気がしなくもないけれど」
「高校生のときと、大学に入ってからだな」
「んーっと、何となくは覚えているけど、どんな人だったかな」
「白髪交じりで、口髭を生やし、もふもふっとしたのを連れていた方だ。財閥の会長を務めておられる」
 父親は、その時にもらった名刺を見せてくれた。
「あ! もしや、あの時のブースター」
 可愛い上に、礼儀正しく、きちんと挨拶をしてくれた。こんなポケモンと一緒にいることができて、羨ましいなと思ったものだ。
 内基はフーパにそのことを話すと、しばらくしたら、外国で暮らせるというので、喜んでいた。S国は、ポケモントレーナーにとっては誠にやさしくない環境であるということは聞いていた。ただ、ポケモンの福祉に関してはしっかりしているそうなので心配はいらないだろう。むしろ、訳の分からんトレーナーや研究者がいない分、フーパにとってもいいかもしれない。
(学問の秋、か……)
 内基は、湯船に張ったお湯で体を温めながら、これからのことを考えていた。


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Last-modified: 2015-11-06 (金) 00:24:45
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