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贖罪の手記 2 偽悪者の苦悩

/贖罪の手記 2 偽悪者の苦悩

白金の翼龍 ?

 


夕日が沈んでから数時間、夕食を食べ終わって人々が団欒と過ごす時刻、彼らは月明かりを頼りに秋の色鮮やかな森の中をゆっくりと歩いていた。
先頭を歩くのは、大柄で柔らかい白色の毛と橙色の毛に包まれた隻眼の火炎の雄虎。ウインディのガルドーラ・ヴォルスト
その後ろを俯きながら歩く、白銀色に染まる美しい毛並みを持つ九尾の雌狐、これまた炎の使い手。キュウコンのノア・アンゼリカ
二人は昨夜の遅くに出会ったばかりであり、それでありながら既に主従関係である。
ただアンゼリカが不用心だったこともあるが、それ以前にこのガルドーラが凶悪な大量殺人鬼だったことが
最悪の状況を招いてしまったのだろう。


「アンゼリカ。ここらで、飯にしよう。」
森の大樹の下に荷物を置いて、それを枕にしてガルドーラが丸くなる。しかし、アンゼリカはガルドーラが恐くて大樹に近寄ることが出来ない。
ガルドーラの言葉に従うだけで
「……はい。」
と小さく返事をした。
しかし、ガルドーラは露骨に怒り口調でアンゼリカを脅す様に怒鳴った。
「飯だって言ってんだろ!? 今すぐ早くなんか捕って来い!!」
その言葉に怯えるようにアンゼリカは頷き、獲物を探しに出ようとする。
しかし、アンゼリカ一人じゃ……飯にありつけないだろう。ならば、
「あ、いや待て、俺も行くぞ。……お前みたいな美味そうな獲物を逃がすと困るんでな!!」
最後のは思ってもいないことだが、怯えさせるのには持って来いだと思ったから付け足した。
アンゼリカの赤い眼が此方を見る。この顔はきっと「出来れば一緒に居たくない」って思ってるはず。
「『出来れば一緒に居たくない』ってか?」
「わ、私、そ、そんなこと思ってません……ガルドーラさんの勘違いです。」
俺が脅すと慌てるように訂正する。更にそのセリフの上げ足を取って従わせる。
「誰が勝手に俺の名前を呼んで言いと?『御主人様』だろうが!!」
頭を軽く叩く、アンゼリカの髪のふわっとした柔らかい触感。
「はい、……ご、御主人様。」
悲しそうに下を向きながらアンゼリカの台詞は、とても良いものだった。何しろ純朴な雌狐は破壊力がありすぎる。
しかし、あまりにもアンゼリカに冷たくしたな。と思ったので
「まぁ、これから気を付ければ良い。」
とフォロー的な意味で優しく言ってあげた。だが、あまり意味が無かったのは言うまでもない。
言った後に、どうも、アンゼリカと居ると自分の調子が狂うな。と少しだけ感じた。気のせいだった。

 

まずは、狩りのイロハを先輩として優しくレクチャーしてやった。
「夜に獲物を狙う時は、目で見るんじゃない。耳で音を感知し、肌で獲物を感じるんだ。」
俺は目を瞑って感覚を研ぎ澄ます。半径3km以内の地上に小動物が居ればだいたいは感知出来る。
まずは御主人様としての威厳を見せないと……よし、居た。ここから凄く近い所に……猪かな?
「あの……ご、御主人様。私、もう捕まえたんですが。」
すぐ傍の草むらからジタバタと空中で足を仰ぐ、猪の姿が……。これは、アンゼリカの技、サイコキネシスだ。
少し唖然として、そのうち怒りがふつふつと湧いてきて、俺は悔しくてアンゼリカの方を見る。
「は、初めて、成功しました。御主人様の言う通りに耳で感知したら本当に取れました!!」
ところが、さっきまでの悲しそうな顔が嘘みたいに天使の様な喜んだ顔をするんだ。
「やったじゃないか!!これからは俺は楽できるな。また頼むぜ。」
あの可愛い笑顔で、怒りなんて何処かに飛んで行っちまったよ。
とりあえず、即興で近くの落ち葉を集めて焚き火を作った。
俺は、アンゼリカに良い姿を見せる為に、牙を器用に使ってその場で猪の皮を剥いで、肉を解体する。
そのあと、その肉をさらに裁いて、猪の皮で包み、しっかりと結んで皮を丸焼きにする。
すると、美味しそうな匂いを放つ、イノシシの蒸し焼きの完成である。
「すごい!! こんな簡単に料理って出来るんだ。」
「これに塩と胡椒があればもっと美味しいんだけどね。こう見えても俺って結構料理得意なんだぜ?」
「そうなんですか!? 私って狩りとか料理とかしたことないんですよ。」
「じゃあ、今度もっとレシピ教えてあげるね。……あ゛。」
気が付いたらいつの間にか二人仲良く喋っている、我ながら大失態だ。俺とこいつは主従関係なのだ、こんなに優しく話す相手じゃない。
それに気が付いたアンゼリカは、頭を下げて。
「す、すみません。御主人様。つい生意気な口を使ってしまいました。」
くそぉ、頭下げられると何か気分が悪いぞ。もっと俺は主らしくしなければ。
「ふん、お前といると気分が悪くなる。口を慎めッ!!」
ひぃ、と声を洩らすアンゼリカ。
何故だ?アンゼリカといるとペースが掻き乱される……俺とこいつじゃ合わないのか?ならば、捨てるか?
だが、アンゼリカが役に立つと言うことが判った今、捨てるには惜しい存在だ。
ならば、答えは出てる。これからも奴隷として色々と働いてもらう。

煌々と焚き火の炎が燃える中、ぐぅ、と誰かの腹の音が鳴る。俺ではない。と言うことは……。
アンゼリカの頬が赤く染まる。もじもじと此方を見る。
「……お前の分は無しだ。」
アンゼリカの顔に驚愕と言う名の衝撃が走る。吹き出しをいれるなら「そんなぁ……。」と言う顔だ。
アンゼリカをからかうのは楽しい、普段は見れない色々な表情と言うのを見れるからだ。
って何を言ってるんだ俺は。
「でも、これはお前が獲った獲物だ。だから、少しだけ分けてやる。俺は食べ物に関しては平等じゃないと嫌なんでな。」
元々渡すつもりだったけど主人の威厳を保つ為に遠まわしに言っただけだ、とガルドーラの心の声。
「ありがとうございます。御主人様!!」
それを素直に喜ぶアンゼリカ。俺は気にせずアンゼリカよりちょっと少ない自分の分の肉を食べた。
いつか丸々に太ったアンゼリカの柔らかい肉を食べる為に今から多めに食わせないとな。
と言う酷い言い訳を考えて、太ったアンゼリカは嫌だな、と妄想して、その妄想に「何が嫌なんだよ。」と突っ込みを入れる。
「……?」
俺はアンゼリカの下半身を見る。いや、でも案外ぽっちゃりした体型も可愛いかもしれないな。
「……??」
顔を見る、アンゼリカはやや不審そうな顔でこちらを見ていた。いつの間にか頬が緩んでいた。
「いあや、違うんだ。その、お前を食べようって考えてただけで、別にぽっちゃりしたお前を妄想してた訳じゃないからな。」
「わ、私を、た、食べる!?」
俺を軽蔑した様な目でアンゼリカは数歩下がる。
「は?奴隷なんだ食べられても当然だろ?そんな美味そうな身体してるんだからさ。」
「あの、処女だけは奪わないでください。他の事ならなんでもしますから。」
空気が沈黙する、夜の音と焚き火の燃える音だけが響く。
「……処女なんだ。」
「性的な意味じゃないってことはわかりました。恥ずかしいけど、まだ処女なんですよね。」
笑って必死に誤魔化そうとする、死んだ空気は誤魔化すと悪化する。
「……。」「……。」
二人の沈黙度が更に増加し、より一層、雑音がよく聞こえる様になる。
木々の葉が擦り揺れる音、風が静かに吹く音、炎の燃え盛る音、何十匹かのポケモンが動き回る音。何か羽ばたく音。
「誰かがこっちを偵察してますね。」
「数はおよそ……14匹か。近いな」
ゆっくりと立ち上がり、火を消そうとするが
「もうこっちの場所は判明してるみたいだし、消さなくても良いか。」
「完全に囲まれてますね。私はどうすれば良いでしょうか?」
「数が多いから一人で逃げることは考えるな。俺の後ろに居てくれ、お前が戦って傷付いたら後々面倒だからな。」
さっと身構え、臨戦態勢に入る。アンゼリカは俺の後ろで辺りを見回している。
さて、何処から来る。 視界右の草が揺れる。そこか!!
しかし、一番最初の回避行動の前に後ろにいるアンゼリカが叫んだ。
「御主人様!!下から来ます!」
その必死な声と地面が盛り上がるのはほぼ同時だった。
 

 
アンゼリカの言った通り、下から金槌頭の紺色の鮫が飛び出てくる。
だが、アンゼリカが指示してくれたから俺はギリギリ避けることが出来た。
俺には、穴を掘るなんて攻撃は読めなかったからな、アンゼリカが居なかったら危なかったであろう。
そして、避ければ攻撃に転じる、まずは、一匹目は終了だ。ガブリアスの脳天目掛けて炎の牙。急所の位置は把握している。
重い一撃を受け、ガブリアスは気を失いながら地に平伏した。その倒れた瞬間に、両サイドから二匹のヘルガーが飛び出してきた。
「死ねぇぇぇぇ!!!!」「祖国の敵ぃぃぃぃ!!!!」
二匹共、顔立ちは似ていて双子の様だった。飛び出しも、攻撃のタイミングも完璧だ。それを瞬時に判断し片方だけに集中する。
双子なら考えることは同じで、二匹とも俺に向かって突進してきた。俺はそれを極限まで近づいてくるのを見極め、高く飛び跳ねた。
突進した勢いのまま衝突……するはずが、しない。ガルドーラが見ていた左の方は下に頭を下げ、右の方は身体を逸らせていた。
そして、勢いを落とさずに一匹を踏み台にして高速で跳ねて、上空に滞空しているウインディに向かって口から灼熱の大火炎を放射する。
業火に包まれるガルドーラの姿を見てアンゼリカは驚愕の表情を作った。同時に「死なないで」と強く願っていた。
「見たか!!」「これが俺達双子の」「世界最強の」『コンビネーションよぉ!!!』
双子は勝利を確信していた。業火に巻かれたウインディの姿を見て勝ったつもりでいた。
ガルドーラを取り巻く業火が、火炎の中の影を中心に渦を巻きはじめる。火炎の煌めきが一段階、また一段階と上がっていく。
それに気付いた二匹は言葉を無くす。先ほどより、火炎は格段に増加し、周囲の温度は急激に上昇し始め、森が昼の様に明るくなる。
森の木々は燃え始め、更にウインディの火力が上昇し、渦の回転が速くなる。高速回転した空気は圧縮され、炎の密度が上がっていく。
「……貰い火。」灼熱の火炎を放ったヘルガーが呟く。
ウインディが炎技を食らわないと言うことをヘルガーは忘れていた。だが、それは自分たちも同じだ。
しかし、格が違った。ヘルガーが灼熱の炎だとすると、ウインディは太陽。
眩しい光を放ちながら、煌めくガルドーラと言う渦巻く太陽は双子のヘルガーに向かって、重力加速しながら突進した。
だが、太陽が高速で地面に墜落する寸前にガルドーラは太陽の中から神速で飛び出し、アンゼリカを一瞬で前足で掴んで
恐ろしい程の後足の脚力で安全距離まで空高く跳上がった。その一瞬の動作は一秒にも満たない。
一瞬、凄まじい炎が地面に衝突したと思ったら、凄まじい圧力に突然襲われ、ウインディに掴まれて空高く飛んでいた。
「大丈夫か?」
ガルドーラの身体はとても熱かった。でも、炎タイプだから多少は平気だった。
「は、はい。御主人様は?」
森の木々が殆ど炭になっていた。この様子だと、ヘルガーやガブリアスはもう生きてはいないだろう。
「大丈夫だ。それよりな厄介なのがさ。」
ガルドーラの後ろに黒い影が見えた。だがそれは、飛行タイプでは無いポケモンだった。
「この後ろのグラエナだよ。」
瞬間的に反転して、後ろの両脚でアイアンテールを白刃取りする。
「異端者よ、やっと見つけたぞ。元レイシュラン騎士団長【グラン・レッドローズ】隻眼の虎!!貴様の首を貰い受ける!!」
「名乗られたからには名乗る他あるまい。俺の名はガルドーラ・ヴォルスト。いずれは、神の右腕『百獣の王』となる獣だ!!」
グランと名乗った片耳の無いグラエナは、話しながらもまずガルドーラの脇腹に不意討ちを入れる。
脇腹は何処の部位よりも比較的軟らかい故、この爪の一撃で血飛沫があがるが問題はない。
多少の出血など動作でも無い、後ろ足で掴んでいた尻尾を離し一回転して、グランの首筋に蹴りを落とす。
グランはそれを見切り、身体を反転させ解放された尻尾で蹴りを受け流す。そして、今度は背中に不意打ちをかます。
ガルドーラとて二度も同じ攻撃を受ける事は無い。物理が駄目なら特殊でどうだ?
口から大きな火炎を吐く、見事、命中しグランは茂垣ながら地面に落ちていく。ガルドーラは勝利を確信した。
だが、ガルドーラの胸にいたアンゼリカだけはその瞬間を捉えていた。
ガルドーラが炎を吐く為に生じた隙、その0,1秒の世界をはっきりとその眼は捉えていた。だから、言葉に出来る。
「御主人様!!反転してください!!」
ガルドーラは反転する。だが、一瞬の隙は命取りである。その隙が無ければ気付けたはずだ、反転した瞬間、ガルドーラの右目目掛けて牙を剥く黒狼の姿。
ただ、この目の前のウインディを殺すことだけしか考えていない獣がそこに居た。
これは、交わせない。ガルドーラは右目を失う覚悟をする。そして、その奪われた次の動きを考える。
「死ねぇぇぇ!!!」
だが、グランはウインディの事しか頭に無かった故、ガルドーラの胸の位置にキュウコンがいるのが視えてなかった。
ガルドーラもまさかアンゼリカが動くとは想定の範囲外だったろう。
「そうはさせない!!」
アンゼリカは見ていた、ガルドーラが貰い火であることを、ならば、私がオーバーヒートをこの距離で使っても……。
「……OVER…HEAT!!!!!」
グランとアンゼリカの今の距離はゼロ距離だ。力を溜めたアンゼリカの身体は燃え上がる。
ガルドーラの胸の中で超高熱の炎エネルギーは一瞬で暴走し、先程のウインディのフレアドライブに匹敵する程の高熱高圧力の大爆発を引き起こす。
それは普通のオーバーヒートでは無かった。ガソリンに火を点けた騒ぎじゃなく、ニトログリセリンを発火させた様な爆発。
一瞬だった。それは、一瞬だった。ガルドーラの中の炎の力が一瞬だけ空になって、まるでアンゼリカに吸われた様な感覚。
実際、吸われていた。すぐにエネルギーは転換されガルドーラに戻ったが、完全に吸われていた。
グランは爆発の衝撃で、燃えながら地面に向かって吹っ飛んだ。逆にガルドーラとアンゼリカは衝撃でさらに高度を上げた。
直に直撃した、ガルドーラの腹からは血が滴り、アンゼリカの背中の体毛を赤く染める。
それでもガルドーラは、アンゼリカを離さなかった。それは、力の暴走で気を失ったアンゼリカを守る為。
腹がズキズキと痛む、腸が出ているか心配になったが、この出血量から見て大丈夫だろう。
それより、この高さから落ちて無事でいられるか?が一番重要視しなければならない問題だ。
ゆっくりと下降し始める。神速は自分の骨が折れないギリギリの高さ、今はそれを裕に30Mくらい上回っている。
「……これは死ねるな。」
更に、自分も多少負傷してるし、これ以上、力を使うと色々と不味い。落ちる速度が段々加速する。
「ん…くぅ、ご、主人様?」
一瞬だけ気絶していたアンゼリカが意識を取り戻す。だが、どうすれば……?アンゼリカ?そうか!!
頭を下に向けてガルドーラは地面に向かって火炎放射を放つ。
そうすれば、もしかしたら落下速度を弱める事が出来るかも知れない。
だが、地面が迫る。これは間に合わない。
「……。すまん、気を失ったら俺を頼む。」
「え?」
地面に落ちるその間際に身体を反転させて、アンゼリカを抱え込むように背中から硬い地面に強く落ちる。
――――ボギッ!!ガッ!!
骨の折れる鈍い音がした。
「ガハッ!!……。」
火炎放射で多少の速度は弱めたものの、流石に二匹分の重力は支えきれない。ガルドーラは背中と頭を強く打って気を失った。
 
 
燃え盛る火の海の中に、二つの影があった。
一つは、地に足を付けて歩く大きな尻尾がある獣の影。もう一つは、ふわりと宙を浮く黒い影。
グランが引き連れていた軍隊は、森が火の海と化す前に森を抜けだし、炎タイプのポケモンだけがそこに残ってグランを捜索した。

森を一望できる小高い崖の上から一部始終を捕らえていた二匹のポケモンがいた。 
「今、狙えば?」
「……。」
「ねぇリリア?聞いてる?」
「……。」
「僕は今が一番良いと思うんだけどなぁ。」
「嫌。」
「なんで?」
「森が泣いている。」
「……要するに、リリアは身体が焦げ臭くなるから行きたくないんでしょ?」
「いいえ。トーシャ違うわ。」
「じゃあ、何?」
「……この二匹の戦いが思った以上に面白いからよ。」
「じゃあ依頼はどうするの?」
「あんな小さい国王からの依頼なら蹴っても大丈夫よ。」
「おいおい、で、戦局を眺めてどうするのさ?」
「あのキュウコン。」
「はいぃ?」
「とても美しいですね。」
「……。」
「嫉妬ですか?」
「……。」
「おいで、トーシャ。今日はいつもより長めに抱いてあげるから。」
「……うん。」


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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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