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護ってtoNight

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護ってtoNight 


作:COM

 深い深い森の中、木々の合間をヤヤコマやポッポのような小鳥ポケモン達が囀り、風の吹き抜ける音に木々のさざめく音が乗ってやってくる。
 そんな山道をのっしのっしと闊歩する者が一人。
 全身白と黒のゴシック調の色で統一された体毛で覆われており、腕や足には灰色の飾り毛、頭髪は整ったモヒカンで赤い瞳と舌をぎらつかせ、にやけ面を浮かべている。
 一目見るだけでアウトローだと分かる出で立ちのそのポケモンはタチフサグマ。
 折角長閑な様子だった森の中の小鳥達の瞳にタチフサグマの姿が映ったからか、可愛らしい囀りはぴたりと止み、木々のさざめきだけとなってしまった。
 しかしそんな事など意に介さんとでも言うかのように、タチフサグマは森の深く深くへと進んでゆく。

「首を撥ねられたくなければそこで止まれ」

 タチフサグマの行く先の新緑と木陰でできた闇の中からぼぅと薄紫に輝く瞳のような妖光が現れ、そう警告してきた。

「随分なご挨拶だな? それが旅人に対する挨拶ってわけか?」

 殺意を十分に宿したその妖光に対して、タチフサグマは臆するどころか表情一つ変えず、皮肉混じりの言葉を返した。
 タチフサグマの出で立ち、立ち振る舞い、言動の何処を取っても只の旅人ではないことは明白。
 その上表情こそにやけ面のままだが、既にタチフサグマはブラブラと宙に揺らしていた腕を体の前で交差させ、タチフサグマ独特のファイティングポーズを取っている。
 互いに殺気を放ち、一触即発の雰囲気となる。
 後はどちらが仕掛けるかといったところだ。
 より一層強く吹き抜ける風が木々の音をより強くする。
 瞳のみに宿っていた妖光はその横に三日月を浮かべたかと思うと一瞬にして刃と化し、タチフサグマ目掛けて紫の鎌が襲いかかる。
 が、タチフサグマはその攻撃を避けるどころか交差させた腕をその鎌の位置に合わせて受け止めた。

「効きゃしねぇよ」

 腕の飾り毛からは軽く煙のようなものが立ち上っていたが、タチフサグマの言葉は強情などではなく一切効いていない事を示すかのように毛の一本すら斬られていない。

「牽制だからな。本命はこっちだ」

 目の前に浮かんでいた妖光はいつの間にか見当たらず、代わりにとでも言うようにタチフサグマの背後から声が聞こえた。
 先程紫の斬撃を作り上げた鎌そのものでタチフサグマを背後から斬りつけるが、それすらも読んでいたのか一瞬で身を転じ、同じように腕で受ける。
 鎌は交差させた腕の上で止まり、微塵も斬れる様子はない。

「何!?」
「甘いんだよ!!」

 妖光を浮かべていた主はその一太刀まで受け止められる事は予想外だったのか反応が一瞬遅れ、鎌を受け止めた腕を軽く振り上げる動作で体勢を崩した。
 そしてそこへ間髪入れずに交差させた腕により一層力を込め、全体重を乗せて無防備となった胴へ飛び込みクロスチョップをぶちかます。
 宙を軽く舞い、地面を二度転げたが、妖光の主はすぐさま体勢を整えて立ち上がるタチフサグマの姿を睨みつける。
 日の下に姿を現した妖光の主は黒い鎌と相反する白い体毛、そして真紅の瞳を持つポケモン、アブソルだ。
 その真紅の瞳は今もタチフサグマの眼を、腕をしっかりと捉えており、瞳に宿る闘志は微塵も揺らいでいない。
 とはいえ先程の一撃は想像以上に堪えているのか、既に肩で息をしている。
 それを見るやいなや、タチフサグマは交差させた腕を解き、深く落としていた腰も伸ばしてその腰へ腕を当てた。

「勝負あり。だな」
「舐めるな。これしきのダメージでオレが怯むとでも思っているのか?」

 先程までの殺気は何処へやら、タチフサグマは少々不満そうな表情を浮かべてそう口にしたが、アブソルの方はまだやる気だ。
 とはいえ例えそのまま戦い続けたとしてもタチフサグマの言った通り、勝負の結果は見えていた。

「正直ガッカリだぜ、ヤイバ。昔のお前はもっと遠い存在だったってのに……」
「な、何故オレの名前を知っているんだ?」

 ヤイバと呼ばれたアブソルは明らかに動揺していた。
 名前がバレているということは素性も割れている可能性の方が高い。
 という事は何故ヤイバがこのタチフサグマに事情を訊ねるまでもなく襲いかかってきたのかの理由も知られているということだ。
 ヤイバはこの先にある、力無いポケモン達の住む巣を守るための用心棒役を買って出ていた。
 他の土地では生存競争に溢れ、逃げ延びてきた者達が生きる小さな、そして最後の楽園。
 その中で逞しく育ったヤイバは、当然その集落で一番強い存在だ。
 もし負けてしまうような事があれば、誰もこの先に起こる惨劇を止めることはできない。
 そう考える頃にはヤイバの身体はもう動いていた。
 限界が近い身体を心が奮い立たせ、牙をタチフサグマに突き立てる。
 突然の攻撃にタチフサグマも動揺こそしたものの、その牙は何度も攻撃を受けてきた右腕が受け止めていた。

「あ痛だだだだだだ!? 待て待て! 俺だよ! シマだって!!」

 どうやら先程までの攻撃を防ぎ続けていた飾り毛とは違う場所に噛み付いていたらしく、初めてシマと名乗った表情を苦痛で歪めていた。
 が、それも長くは続かず、連続して訪れる驚愕の連続に、ヤイバは状況の整理が追いついていなかったようだが、彼の名を聞いて取り敢えずギリギリと音が鳴りそうな程に噛み締めていた顎の力を緩め、地面に四足全てを付けた。
 余りにも色々な情報が一度に投げ込まれたせいか、ヤイバの瞳は遠くギラティナの居るであろう虚空を眺めていたが、漸く我に返ると目の前で痛そうに右腕をさするシマの身体を足の先から頭の先まで舐めるように観察して叫んだ。

「シマぁ!? お、お前があの!?」
「そうだよ。全く……思いっきり牙を突き立てる前に人の話ぐらい聞けよ!」

 どうやら如何にもな風体だったシマはヤイバと旧知の仲だったらしく、ヤイバが想定していた最悪の事態だけは免れたようだ。
 しかし死力を尽くして噛み付いていたダメージは当然あり、相当深い傷になっているのか押さえている手から血が溢れている。
 久し振りの再会だがそんな感慨に浸る暇もなく、急いで彼等の故郷へと戻った。
 一層深くなる森の暗がりの中、ぽつんと出来た日溜まりの下には楽しそうに追いかけっこをする小さなポケモン達の姿がある。
 逆に言えばそれ以外、めぼしいものがない殺風景な場所だが、それでもヤイバとシマの二人にとってはとても大切で、とても想い入れの深い場所だ。

「アニキ! 蓬を持ってきてくれ!」

 駆け込むなりヤイバはそう言い放つ。
 すると只事ではないと悟ったのか、一人のコノハナがヤイバの声に気付いて振り返ったが、その先には見慣れぬ姿となったシマの姿。
 その上自らの血ではあるが全力で走ってきたせいでシマは勿論のこと、ヤイバにも血が付いてしまっており、二人共息を荒くしていたせいで表情が恐ろしいことになっている。
 いきなり現れたその姿だけを見れば思考が停止するだろう。
 当然平和だった集落は大混乱となり、アニキと呼ばれていたコノハナも逃げ惑う子供達を急いで逃がす方に尽力していた。



 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

「え"っ!? てことはマジでコイツがあのシマなのか!? 見違えたなぁ……」

 デンチュラの子を散らしたような騒ぎも漸く鎮まり、事情を説明しつつ右腕の手当てを済ませる頃にはシマの周りは人だかりが出来ていた。
 というのも、シマはこの集落を既に一〇年近くも前に飛び出して以来の里帰りだったため、誰もが覚えているシマの姿はジグザグマの頃だったからだ。
 小さく愛嬌のある姿とは打って変わり、今のシマはぱっと見ただけならなかなかの悪人面だ。
 背丈も頭一つ飛び抜けて大きくなっており、誰も彼の姿に気付けなかったのも納得ができる。

「やっぱりアニキも気付いてなかったか……。まあ、ヤイバが気が付かないぐらいだから誰も分からないよな」

 シマもコノハナの事をアニキと呼んだが、初めは皆兄貴分として慕っていたのが、そのまま名前になったためだ。
 既に背丈もシマの方が上回っているが、それでもアニキにとってのシマの記憶がジグザグまで止まっていたことと同様に、シマにとっても今でもアニキは兄貴のままだ。
 シマの来訪に隠れていた者達も恐る恐る顔を出し始め、少しずつ思い出話に花を咲かせるようになった。
 が、それと同時にシマはその場に訪れない顔ぶれにも気が付いていた。

「……やっぱり、随分と新顔が増えてるな。それに、知ってる顔も減ってる」

 嬉しそうに小さかった頃のシマの話をしていた最中、少しだけ寂しそうな表情を浮かべてシマはそう口にした。

「……仕方ないさ。ここはそういう集まりだ。でもまあ、ヤイバのおかげで今の所、まだまだこの場所自体は無くなってないよ」

 一瞬の沈黙の後、アニキはそう困ったように笑いながら答えた。
 彼等の中に強い者はいない。
 生まれつき身体が弱かったり、幼い内に親を失ったようなポケモン達が身を寄せ合って細々と、それでも幸せに生きている場所だ。
 皆の幸せを守るために一番強い者が楯となり、そして同時に生贄となってこの楽園を守り続けていた。
 とはいえ逃げ延びて得た集落であるため、土地の食料はとても豊富とは言えず、老いた者や生命力の尽きた者から順に、皆を守るために命を落とし、次の代が食っていけるようにするために土を肥やすような場所でもある。
 幼き日のヤイバとシマは丁度この集落へ来た時期が同じだったということもあり、まるで兄弟のように精一杯の愛情を込めて育ててもらえた。
 だがその親代わりだったパルスワンも亡くなり、独り立ちをせねばならなくなった時、二人はとある覚悟を胸に一騎打ちをした。

『勝った方が次の楯になる』

 それは悲しい覚悟だったはずだが、幼き日から悲しみに多く触れながら生きていたこともあってか、強くなるための鍛錬を欠かさなかった。
 一騎打ちの結果はヤイバの勝利。
 力も遠く及ばず、身体も小さかった当時のシマでは殆ど太刀打ちすらできなかった。
 その悔しさもあったのかもしれないが、シマはみすみす一緒に育ったヤイバが死ぬまでの仮初の平穏を享受するつもりも毛頭なかった。

「俺は強くなるために、この集落を出て旅をする。だからそれまではヤイバが護っててくれ。約束だからな!」
「ふざけるな! オレにすら勝てないお前が外の世界で生きていける訳無いだろ!」

 旅立とうとした日、二人は当然大喧嘩をした。
 死ににいくのと同義でしかない行為をみすみす見逃すわけもなく、今一度全力で叩き潰されたものの、夜の間にシマは抜け出したのだ。

『必ず強くなって帰ってくる』

 胸に覚悟と決意を秘め、シマは広い広い世界を旅し、何度も死線をくぐり抜けながら着実に強くなってゆき、そして今日という日にその約束を果たしに戻ってこれたのだ。
 それからの日々は文字通り死と隣り合わせの日々だった。
 生きるために逃げ回り、生きるために僅かな隙を見て盗み取る技術が増し、相手の実力や意識の向いている先が手に取るように分かるようになり、逃げ回ったおかげで持久力も上がった。
 戦いの中で応用するために敵の攻撃を躱し続け、疲れきった所に一撃を加えて狼狽している隙に必要な食料だけを奪って逃げてゆく。
 自分の弱さを知っていたからこそ、逃げるという行為を戦術にまで昇華させることができたシマは、次第に手に入る食料も増え、負けないために自らを鍛え上げる余力も生まれた。
 そうしていく内に遂に相手を負かす事ができるようになり、最初の進化の兆しが訪れた。
 マッスグマとなったことで速さに磨きがかかり、一撃離脱の戦法を得意とした彼はそれでも慢心することなく自らの技を研鑽してゆき、遂に自分よりも大きな相手にすら勝てるようになった。
 とはいえシマの生きる世界は護ってくれる者のいない弱肉強食の世界。
 何処まで強くなっても油断することができなかった。

『強さを求め続ければ際限がない』

 自分自身が強くなろうとすればその頂点は遥かに遠いが、自らの戦いはそういうものではない。
 そう悟ったシマはひたすらに逃げ回り、勝機を伺っていた戦いから決して退かぬ戦いをするための、守る戦いの地盤を作ることにした。
 その日からというもの、シマの生傷は絶えることがなかったが、決して退いてはならぬ理由がある事を常に頭の片隅に置き続けるようにした結果、自らの身体は守るのに適した屈強で頑丈なものに変わっていた。
 月下で自らの進化を祝いながらも、これまでは四足で走り回るのが当たり前だった体とは違う、完全二足歩行での戦い方や防ぎ方を覚え直し、そこから更に長い月日をかけて漸く今のような頑強さを得ることができたのだ。

「……ってことだ。これからは俺とヤイバの二人で見張りをするし、お前らの特訓にも付き合うぜ!」

 そう言ってビシッと親指を立てて宣言したシマだったが、反応は案外薄いものだった。
 てっきり皆、とても強くなって帰ってきたシマを歓迎し、感謝してくれるものだと考えていたがために、その反応には当の本人も肩透かしを喰らったようだ。

「……なんだよ! もっと喜べよ!」
「そりゃあ嬉しいさ。でも、折角強くなって、他の土地でも生きられるようになったんなら、そこで縄張りを作って生きるべきだ。ここには食料も少ない。もしも君が護ってくれて、誰も死なずに済んだとしても……結局は食料が足りずに弱い者から死んでいくだけさ。だから俺達のことは……」
「あのなぁ……アニキ。そんな根本的なことを俺が考えてないとでも思ってるのか?」

 複雑な表情を浮かべて話すアニキの言葉を遮り、シマはニッと広角を上げて答えた。
 だがその答えはその場ですぐには出さず、場所を移そうというシマの提案から集落の中心ではなく、少し離れた所にある小さなきのみの群生地へと移動した。
 群生地とは言ったものの、痩せた土地の森の中ではきのみが生える場所は早々無く、数本の木が周囲の鬱蒼とした木の間に弱々しく生えているだけだ。
 亡くなったポケモンの遺体も食料にすることも間々あったが、それよりも最後の生命線であるきのみが無くなる事を恐れ、ほとんどの遺体はこの辺りに埋葬されている。
 誰かの死が、誰かの生を繋いでいることを如実に表した場所でもあった。

「とりあえず先にこれを渡しておく」

 そう言ってシマは首元の長い毛を爪で軽く掻き、パラパラと何かを地面へと落としてゆく。
 幾つか落とした後、それを拾い上げてアニキに渡すと、それを見たアニキは驚いた表情を浮かべてシマの顔を見直した。

「こ……これ!」
「そう。きのみの種だ。きのみ自体じゃ嵩張るし、持てる数にも限界があるからな。荷物にならない種だけを集めて首の毛にくっつけて保存してたんだ」

 声にならないほどか細い声でアニキはありがとうと何度も言い、受け取った種を湿らせる雫が地面の色を変えるほどに流れ落ちていった。
 元々この集落へと戻ってくる事を前提で今の今まで旅をしていたこともあり、シマの計画は種だけに留まらなかった。
 近くの土地できのみを育てられるほど肥沃な土地をいくつか目星を付けており、これから数日間はそこの土をこの集落へと持ち帰る事を既に計画しており、その辺りを縄張りとしていたポケモンとも既に折り合いを付けていたため、後腐れもない。
 流石に現物ではないため、今すぐ食糧問題は解決することはないが、この先一〇年も経たない内にアニキも抱えていた不安は払拭されることだろう。
 そういった残りの仕事も終え、漸くシマも腰を落ち着けられるようになった頃、誰もがシマに何度もお礼を言いに来ていたが、その種がしっかりと育つかはまだ不透明であるため、安心するのは早いと皆に釘を刺して回っていた。

「英雄の凱旋だな。すっかりオレなんかよりも頼りになるようになった」
「皮肉のつもりか? 黙って出て行って悪かったって」

 シマが戻ってきてから一月ほど経った頃、既にシマが巣穴として使っていた場所は他のポケモンが使っていたため、見張りを行うためにもヤイバの巣に転がりこんでいた。
 集落の近くにある高い崖の横穴であるため、異変などを察知しやすいこの場所は見張りにはうってつけだ。

「本当だ! こっちの気も知らずに勝手に飛び出して、もう生きていないだろうと思ってたのにひょっこり帰ってきて……」

 遠く、欠けた月を眺めながらヤイバはそう語気を荒くしながら口にし、深く息を吐いた。

「あっという間にこの集落の抱えてた問題も解決してくれた。本心で思ってるよ。お前はこの集落の英雄だ」

 そう言いながらシマの方へ顔を向けるヤイバの表情はとても穏やかだった。
 ヤイバ自身、何時来るか分からない最後の時に怯えながら、それでも自分よりも強い相手と戦う時は生贄になる覚悟だったからこそ、その重責が肩から下りたような気がしていたのだろう。

「そう言うなよ。俺にとっての英雄は今もヤイバ……お前だ」

 穏やかな表情のヤイバに向けて、シマも同じように嬉しそうに微笑みかける。
 ヤイバからすればシマからそんなことを言われると予想していなかったのか、口を閉じ忘れるほど唖然とした表情を浮かべていた。

「い、いきなり何を言い出すんだ。オレはお前の実力も測りきれなかったし、お前が戻ってきた時の手合わせで……十分オレの方が弱い事が分かった。所詮オレは井の中のグレッグルだ」
「お前に打ちのめされたからこそ俺は安心して集落を任せられたし、強くならないといけないと覚悟できた。なんと言おうとお前のおかげだよ」

 困惑しながらヤイバは何とも言えない表情を浮かべて視線を逸らしたが、シマは変わらずヤイバに感謝を伝えた。
 結局その日はそれ以上の言葉は交わさず、ただ静かな夜を過ごした。



 翌日からはシマとヤイバの二人で見張りをしながら、同時に集落の皆に簡単に戦い方を指南しながら基礎的な体力を付けさせ、もしもの際に逃げ出せるように特訓をすることとなった。
 アニキや年長者にはきのみの育て方を全員の知識として共有するようにし、確実に毎年の実りを増やして行けるように戦闘以外の知識も増やしてゆく。
 あくまで生きて逃げることを最優先に教え、その中でもシマ達のように鍛えれば十分に戦えるであろうポケモンにはより厳しい戦闘訓練を行うようにした。
 きのみの方の育成も順調で、シマが見つけていた肥沃な土のお陰でその年の終わりには少しぐらいならば収穫量の増加も見込めそうだ。
 シマがこの集落に戻ってきて以来、鬱屈とした森と彼等の表情は同じようなものだったと誰もが語っていたが、次第に皆の顔に笑顔が灯るようになった。

「ありがとうな。シマ。お前が戻ってきてから、皆少しだけでも明日は誰が死ぬのか……なんて事を考えなくて済むようになった」
「そいつはよかったよ。死ぬ気で強くなってきた甲斐があったってもんだ」

 アニキはシマに何度目かも分からない感謝を伝えると、シマも少々照れくさそうにはしていたが、鼻を指で擦りながら笑顔で答えた。

「そういや、旅立つのは何時頃だ? それまでには俺も十分に戦えるようにしておくよ」

 そして続けてアニキはいずれ来るであろう日を想定し、シマに続けてそう質問したが、対するシマはきょとんとした表情を浮かべる。

「え、いや。もう旅立つ予定はないぞ? あるにしても、何十年か後に皆が長旅に耐えられるだけの体力が付いたら、近場にあるいい感じの土地に移動する時かなぁ……」

 当然のようにシマは遠くの方を見つめるように目を細め、にかりと歯を見せて笑ってみせた。
 シマが戻ってきてからというもの、この集落では夢のような出来事が立て続けに起こっていたせいもあり、アニキは嬉しそうに微笑みながら軽く涙を腕で拭っていた。
 だがそれと同時に、申し訳ないという思いも強かったのは事実。
 本来のシマならば、既に広い世界の中で自由に生きていくこともできただろう。
 そんなシマの自由を、この集落が足枷のように縛り付けている気がして、不甲斐なかった。

「……心配する必要も無くなったら、また旅に出てもいいんだぞ? 外で素敵な出会いだってあっただろう?」
「出会いはあったな。良い奴にも悪い奴にもごまんとあった。それでも俺にとっての故郷はここしかないんだ。……それとも居ちゃ駄目か?」

 縛り付けたくないというアニキの思いを、シマは優しく否定する。
 だからこそ力強く、シマの問いに対して首を横に振った。
 その後はいつもと変わらない、他愛のない会話と基礎体力を付けるための特訓をし、きのみを幾つか持って見張りを行っているヤイバの元へと戻った。
 日はもうすぐ山の向こうへと沈もうとする、昼と夜との境、シマの足音に気付き、視線を向けた先には色とりどりのきのみを持って笑顔を見せるシマノ姿があり、同じようにヤイバも微笑み返す。
 もう集落の方も夜に備えて食事を済ませて眠るだけとなっていたため、緩やかに紺に染まってゆく空を眺めながら二人で食事を摂ることにした。

「本当に何から何まで……不甲斐ないばかりだ」

 きのみを二つほど齧ったあと、ヤイバは呟くようにそう言葉を零した。
 それを聞いてシマは小さなきのみを一つ口に放り込み、口の中を空にしてからヤイバの方へ顔を向けた。

「まーだ言ってんのか? 確かに俺の方が強くなったさ。でもな、その間お前はずっと皆を護りながら、こんな食料の乏しい所でずっと気を張り続けてたんだ。お前の方が強いよ」

 シマがそう言うとヤイバは首を横に振った。

「違う。お前の考え方が変わらないようにしたのは……オレのせいなのかと思うとな」

 ヤイバの返答はシマが予想していたものとは全然異なる内容だった。
 まるでシマが自らの意思で決めたことを自分のせいでそう刷り込まれたような言われ方をしたこともあり、シマの表情にはその真意を理解できないというような難色を示す表情と、そして自分の想いを否定されたような怒りの混じったものとなる。
 別にシマにはヤイバや他の集落の皆を置いて行きたくないという自分なりの想いがあったからこそ、必ず皆を護れるだけの強さを手に入れてから帰ってくるという覚悟の元で出た武者修行の旅だった。
 そこに他人の意思は介在していない、とシマ自身もはっきりと自覚していたからこそ、その物言いには納得ができなかったのだ。

「随分な物言いだな? 確かに昔からどっちが皆を護れるかって競い合ってたことはあったが、別にお前にそうなれと強要された覚えはないぜ?」
「ああ、悪い。そう言う意味じゃない。オレがもっと強ければ、そのままお前は……外の世界で生きていってもいいと思えたんじゃないか、と考えるとな……。外の世界で十分に生きていけるようになったお前ならもっと色んな選択肢もあったはずだと……オレが勝手に想像しているだけさ」

 シマが少々機嫌を悪くしたことが分かる声色で苦言を呈すと、ヤイバもそれを感じ取ったのかすぐさま自らの言葉を訂正し、謝罪した。
 その言葉を聞くとシマの下がっていた口角はまた緩やかに上がった。

「ホントに勝手な妄想だな。お前だけに全部の責任を押し付けて、自分だけ自由に生きる? お前があの時もっと圧倒的な強さだったら? 例えそうだったとしても、俺は絶対にそんな考えを抱くことはない。一人でできる事なんてちっぽけで、絶対に限界が来る。だからあの時も言っただろ? 帰ってくるまでヤイバが護っててくれ……って」

 シマはそう言って憎まれ口を叩きながら自分の真意を伝え、しっかりとヤイバの目を見て今も昔も自分の決意は変わっていないことを話した。
 それを見て漸くヤイバもシマに自分の想いを押し付けていただけであり、シマが望んでここにいるのだと理解してくれた。

「それにな、もうあの時から薄々感じてたんだ。"どっちが"じゃなくて、"どっちも"楯にならなくちゃ、この集落はいつまで経っても変われないってな」

 シマは先程までの力強い言葉とは違い、呟くようにそう口にした。
 旅立った最初の理由は本人が口にした通りだったかもしれないが、既に一〇年前の時点でシマは、ただ死にゆく時を先延ばしにするような集落の現状を感じ取っていた。
 誰もが現状が良くなるなどと微塵も感じていない。
 故郷を追い出され、一族から見放された者達が辿り付いた場所だからこそ、先の事を考える余裕が無くなっていたのだろう。
 そういう意味で言うならば、シマは元々その集落では異端だったのかもしれない。
 だからこそこの現状を変えたい、と本人もまだ自覚していなかったもう一つの目標を胸に旅立ち、多くの世界を見てきたことで異端なのは自分ではなく、終の楽園となっていた自らの集落なのだと理解することができた。

「いいのか?」

 シマがそう自分のこれまでの経験をもう一度反芻し、自分のしたいことを噛み締めていた時、ヤイバが不意にそう問いかけてきた。

「いいのか……って何がだよ? まさか変えるべきじゃないなんていうのか?」
「言わないよ。でもな、変えるってのは大変だ。お前が十余年の月日をかけて今に至れたように、今度はずっとこの代わり映えのない景色と一緒に……今度は何十年だかを過ごさなきゃならない。それにお前が耐えられるのかが気になっただけだ」

 ヤイバの問いの意味が分からず聞きなおすと、シマの事を案じてヤイバはまた勝手に老婆心を掛けている事を打ち明けたが、当然変わりようもない。

「一緒に変えようぜ? これまでずっと一緒だったんだ。これからも俺と一緒に変えてくれるよな? そうすりゃ何にも退屈なこともないし辛いこともない」
「そ、それって……」

 いつの間にか沈みきっていた夜闇の中、月明かりが歯を見せて笑いながらそうヤイバに語るシマの瞳に、ヤイバの瞳は釘付けになっていた。
 ヤイバの背に回されるシマの腕ががっしりと前足の付け根を掴む。

「そう! 最高の相棒ってやつさ! 俺達ならきっと皆をもっと笑顔にできるって!」
「……は?」

 そう言って登る満月をビシッと指差し、嬉しそうに語るシマだったが、一方のヤイバはどう見ても唖然とした表情を浮かべている。

「なんだよ! 俺と最強のタッグだぜ? 不服か?」
「……期待したオレが馬鹿だった。寝る。後はお前が見張ってろ馬鹿」

 ヤイバの表情を見てシマは何故ヤイバが見るからに不機嫌になったのかが理解できず、頭の上に幾つも疑問符を浮かべていたが、それを訊ね返す前に不貞腐れるようにヤイバはシマの腕を払い除け、横穴の奥にある寝藁に身体を預けた。

「お、おい! なんでだよ! 俺なんかしたか?」

 何度もシマはそう問い掛けるが、ヤイバは相当癪に触ったのか微動だにしない。
 その後もシマは納得がいかなかったのか、何度もヤイバに理由を訊ね、返事がない度に理由を考えて数分ほど思考を先程までの会話や戻ってきてからの日々に焦点を合わせて答え探しをするが、理由など見つかるはずもない。

「なあって! 機嫌直せよ!」
「五月蝿い!! 見張りが何時までも余計な事を考えて時間を無駄にするな!!」

 無反応なヤイバに三桁ほど声を掛け続けた結果、横穴も相まって周囲に響き渡る程の怒号が一度帰ってきた。
 そこまで怒るヤイバを見るのはシマが集落から出ると言い出した日ぐらいだったため、あまりの気迫に少々シマは萎縮してしまう。

「一応ちゃんと警戒はしてるよ! ただ、なんでそんなに怒ってんのか分からねぇから……。俺がなんかやらかしたか?」

 苛立ち過ぎてもはや殺気を放っているヤイバをそのまま放置できるほどシマも肝は座っていないため、怒らせてしまった理由をきちんと謝ろうとそう聞き直した。
 ヤイバは釣り上がりきった瞳を一度閉じ、長い深呼吸を一度してからシマの目にしっかりと視線を合わせる。

「シマ。お前にとってのオレってなんだ?」
「へ?」

 ヤイバの口から飛び出したのはシマの問いに対する答えではなく、全く別の質問だった。

「そ、そりゃあ……同じ時期にこの集落に来て、同じ親代わりに育ててもらって一緒に育ってきた……家族、みたいなもんだよ。あの時からヤイバの方が大きかったから俺は勝手に兄貴だと思ってたぜ」

 思わず何故と口にしそうになったが、まだ目が怒っているため下手に刺激せず、シマはヤイバの問いに答える。
 シマの答えを聞くと、どういうわけだか今度はヤイバが目を丸くしていた。
 先程までの怒りの表情は何処へやら、余程シマの返答が驚きだったのか、また唖然としている。
 かと思えば、今度は急に肩を震わせて笑い始めた。

「なるほどね……。通りでなんかオレの考えてる距離感とお前の距離感が違うわけだ」
「い、いや、一人で納得されても……。なんで怒ってたんだよ」

 あまりにも急激なヤイバの心境の変化に寧ろシマの方がついていけず、頭の上に浮かぶ疑問符の数が倍ほどに増えていた。
 ひとしきり笑ったあと、ヤイバは漸くシマの問いに答えた。

「ごめんごめん。一人で勘違いしてたからだよ。理不尽に怒って悪かった。でもな、その前にシマ。お前一つ滅茶苦茶大きな勘違いしてるぜ?」
「え? なんだよ?」
「オレさ。雌だぜ?」

 暫くの間、シマはヤイバが零した言葉の意味が全く理解できなかった。
 無表情で遠い世界に意識を飛ばしていたシマの表情はさながら宇宙ヌマクローといったところだったが、なんとか意識だけはウルトラスペースからシマの体へと帰還した。

「雌」
「そう。雌」

 言葉を覚えたての原始人のようにただ一言だけシマは発したが、意識は戻っても理解は全く追いついていない。

「ほら。まんこ見るか?」
「それだけはなんとなく嫌だ!」

 畳み掛けるようにヤイバは自らが雌であることの証拠を意地悪な笑顔を浮かべながらころんと体勢を仰向けに変えて見せつけようとしたが、シマの中の自己防衛が働いたのか、咄嗟に腕で顔を覆った。
 それもそうだろう。
 幼い間一緒に育ち、仲のいい兄弟同然だと思っていた相手の性別が急に変わると色々とこれまでの記憶や感情の整理が追いつかなくなる。
 この一〇年、シマが集落を飛び出さずに一緒に育っていたのならいつか気付いたかもしれないが、よりにもよって身体が大きく成長する前に飛び出してつい最近戻ってきたシマにとっては、懐かしい思い出も兄弟の記憶のままで止まっている。
 だが現実は変わらない。
 思い込んでいたとしても事実は変わらないわけで、ヤイバはどう足掻いても雌のままだ。

「というか雌なら雌でまんことか口にするな!」
「あ? 恥じらいとかそんなもんゴクリンに食わせとけ。というか分かってるだろ? 命張ってたんだ。雄も雌も関係無い。……というかお前がいなくなったあの日、オレの初恋の相手が死んだと思い込んでたあの日から雌は捨ててたよ」

 今更ながら、シマがヤイバの清楚さの欠片もない発言に対して少々顔を赤らめながら指摘したが、ヤイバの方はただでさえ情報が大洪水を起こしているシマに更に追加で情報を送り込む。
 兄弟のように慕っていた相手が実は雌だった上に、しかもさらりと初恋だったと明かされ、シマの思考はまたしても停止寸前だった。

「……マジ?」
「マジだよ。あの時はさ、最初は護ってやらなくちゃとか思ってたのに、いっつもオレに張り合ってくれる唯一の雄でさ……。嬉しかったんだ。でもまだお互いチビだったから打ち明けなかったのに……まさかお前はオレのことを異性として見てなかったとはねぇ……」

 恐る恐る腕を下ろしてゆくシマの眼前には特におかしな光景は広がっておらず、少しだけ気まずそうにしながらも頬を少し染めたヤイバの顔を見て、何とも言えない複雑な感情に襲われていた。
 シマにとってのヤイバは種族は違えど大切な兄弟であり、共に強くなってきた大切な家族であり、いつか越えたい憧れだった。

「まさか……。いやさ、お前から確かに雌っぽい匂いはしてたんだ。たださ? もう一〇年も経ったんだ。お前に番がいても何ら不思議じゃなかったからなんとも思ってなかったんだけど……。多分そういうことだよな?」
「そうだよ! ……ったく。死んだと思ってた初恋の相手が生きててさ、しかも見違える程逞しくなっててさ、その日の内にオレの寝床に来たいなんて言うから期待してたのに……。そもそも異性として見られてないんならそりゃあ襲うはずもないよな」

 当然ながら、シマもヤイバから雌特有の雄を誘うような匂いがしていたことには気が付いていた。
 だがまさか同性だと思い込んでいる相手から漂ってきているとは夢にも思わず、恐らく番のものだろうと思い込んでいたわけだが、その匂いが出ていた理由は他ならぬシマの存在だったわけだ。
 ヤイバとしてはこれ以上ない想い人。
 シマが生きていたどころか雄として理想的な逞しさになっているともなれば、捨て去っていたはずの雌の本能が呼び覚まされるのは必然とも言える。
 そんなこんなでシマもどれほど理性が目の前にいるのは家族同然のヤイバであると訴えかけても、本能がそれは雌であると教えてくる。
 家族であり相棒、しかし自分に好意を向けている雌。
 相反する感情が混ざり合ってシマの顔は、混乱したメタモンのように訳の分からない表情になっていた。

「もうオレの想いは言わなくても伝わっただろ? さっきだってさ、てっきりそのままキスでもしてくれるのかと思って内心心臓が跳ねてたんだ。そしたらアレだ。肩透かしもいい所だからムカついたんだよ」
「い、いやでも、ヤイバは俺の兄弟で? ずっと家族みたいな存在だと思ってきてたわけでさ? その……急に、そんなこと言われてもというかですね?」

 そう言いながらシマの傍へと寄ってくるヤイバはとても魅力的な雌の匂いを放っており、ただ意識しただけでシマの目にはヤイバの僅かに紅潮させた黒い肌があまりにも艶やかに写っていた。
 月光に照らし出される白銀のヤイバの毛はとても美しく、雌としての魅力を包み隠さず発揮するようになったヤイバの顔は慕っていた強く優しい昔の記憶のままの表情も残しながら、猛烈に自らを求める雌の妖艶さも覗かせている。
 答え倦ねている内にヤイバはシマの正面から身体を登るように、湿り気を多分に含ませた吐息がシマの顔に掛かるほどヤイバは顔を近付け、今にもシマの唇を奪おうとしている。
 記憶と目の前の現実が混ざり合って混沌を生み出し、もうどうすることが正解なのかが分からなくなってしまっていた。

「そんな堅物じゃ外の世界で雌なんて知らずに帰ってきたんだろ? だったら潔くオレの初めてを貰ってくれよ……」
「あ……悪い。実は、結構経験が……」

 あと数センチで唇が触れ合うという所でヤイバが小悪魔のような表情で言った言葉のお陰で、残念ながらシマが冷静さを少しだけ取り戻した。
 ヤイバとしてはあまり嬉しくない情報だが、シマは既に外の世界での武者修行中で、シマを受け入れてくれた集落で幾人かと肉体関係を持った経験がある。
 当然この集落へと戻ってくる事が大前提だったシマは基本的に断っていたが、それでも子供だけでも欲しいとせがまれた分には答えていたため、達者とまではいかないが十分に慣れているのだ。
 なら何故これほどまでにこの状況で狼狽しているのかというと、当然目の前にいるのが家族同然と慕っていた者だからだ。
 そこらの女性とヤイバという幼馴染では状況が全く違う。
 というより、まさかヤイバとこのような関係性になるとは夢にも思っていなかったわけで、だからこそ番はいつか腰を落ち着けられる状況になったら探す、位の気概でいた。

「あー。まあ別にそれはいいか。オレの初めては貰ってくれるよな? それも断られた流石にオレでも泣くぞ?」

 あまりにもどちらにも転ぼうとしないシマを見て、ヤイバは羞恥と絶望が入り混じり、本当に今にも泣きそうな表情を浮かべていた。
 恐らく今になって込み上げてきた羞恥心と、自分が勇気を振り絞って行った告白が玉砕に終わろうとしている雰囲気を感じ取って色々と湧き上がっていたのだろう。

「……正直複雑だよ。ヤイバとはこれから先も、兄弟とか相棒とか……そんな感じでずっと仲良くしていくんだと思ってたから、急にずっと好きだったって言われて……ずっと想ってくれてた事自体は凄く嬉しいけど……やっぱり、その……番とかになるビジョンってのが想像できねぇんだ」
「でも一瞬でもオレと番になってる状況を想像してみようとしてくれたってことだよな? お前もオレの事、好きなんだよな?」
「好きは好きでもそういう好きじゃないつもりだったんだって! ちょっとだけ整理する時間をくれよ!」
「無茶言うなよ! これで断られたら明日からもずっとお前とこの巣穴で何もせずに見張りだけ!? オレこれから先どんな顔して生きていきゃいいんだよ!!」

 シマも感情の整理でいっぱいいっぱいになっているが、同じく自分の十年来の恋心を勇気を振り絞ってぶつけたヤイバの方も玉砕しそうでいっぱいいっぱいになっている。
 シマとしても向けられる好意そのものは確かに嬉しいが、気持ちを整理する時間が欲しいのがシマの心情。
 対してヤイバも勢いに任せてこんなおよそ自分がするとは思わなかった大胆な行動に出ていたため、このまま勢いで乗り切れなければ間違いなく玉砕すると思い込んでいた。
 心は互いに惹かれあっていたため、一度冷静になれば何の問題もなかったのだろう。
 だが、勢いでそんな雰囲気へと持ち込んでいたため互いに冷静になることなど不可能だった。

「なあ……オレじゃダメか?」

 月光で光り輝く潤んだ瞳でヤイバはシマを見つめる。
 今までシマが知っていたヤイバはいつも強く優しく、兄として頼れる存在だった。
 だからこそ今ヤイバに上目遣いで迫るヤイバの姿はとても情動的で、ほんの一瞬だけヤイバという存在を雌だと認識することができた。

「ダメ、じゃないが……。俺はヤイバとは普通の家族だと思ってたんだって」
「なんだよ……。別に俺とヤったって家族には変わりないだろ?」
「言葉! あと距離感が違う!」
「うるせぇ! もう体だって反応してるんだから家族にしてくださりやがれ!!」
「一旦落ち着けって言ってんだろ!!」

 勢いのまま迫ってくるヤイバをシマは無理矢理剥がそうとしていたが、それよりも先に少しだけ陰部から顔を出していた雄の象徴をヤイバは前足で器用に掴み、阻止するよりも先に舌を這わせてきた。
 ヤイバの舌とシマの男根が触れ合った瞬間、電流が駆け抜けたように全身の毛が逆立ち、えも言われぬ快感が全身を駆け抜けた。
 シマの口から出たのは駄目だという言葉ではなく、押し殺した声と湿った吐息だった。
 同時に駆け抜けるのは恐ろしい程の背徳感。
 否応なしに目の前にいるのは自らを求める雌なのだと本能が理性をねじ伏せ、ヤイバから更に強く漂ってくる脳髄を蕩けさせるような雌の匂いが憧れだったヤイバを我が物にしたかのような征服感が満たされ、余計に男根に血を滾らせる。
 先端で触れ合っていた舌先は、男根が滾り力を増してゆく度にその全体を味わうように絡みつき、シマの思考を奪い取ってゆく。
 否、快感そのものよりも、理性の部分が幼馴染だった存在とこのような事態に陥っていることを重く捉えてしまい、尚更その背徳感が興奮をより大きいものにしてしまっていた。
 あっという間にシマの男根は本来もつ最大限の滾りを見せ、それに舌を這わせていたヤイバは先端を口の中へと含んでゆく。
 フェラチオなど過去にも経験があったシマだが、このフェラチオは過去のそれよりも随分と拙いものだ。
 口に入りきらないが故に牙や吐息が男根に当たり、絶妙に限界を超えさせないような抵抗を与えてくる。
 しかしそれを差し引いても、憧れだったヤイバがシマの男根を前にして妖艶さを惜しみなく出し、頬を紅潮させながら美味しそうにしゃぶりつく様子は悔しいがこれ以上ない程に興奮した。
 先走りが先端から溢れる度にヤイバの舌が巡回して舐め取り、自らの唾液と混ぜ合わせてシマの男根全体へと馴染ませるように左へ右へと忙しなく動き回る。
 結局シマはただの一言も発することができずに下腹部へ力を込め、己の欲望を全てヤイバの口内へと解き放った。
 はち切れんばかりの男根はどくんどくんと大きく脈打ちながら、これまでに味わったことのない達成感に満ちた快楽を全身に流し込んでくる。
 するとどうだろう。
 口を離すと思っていたヤイバはあろう事か喉を大きく鳴らし、口先をシマの男根を乳房のようにぴったりと沿わせて吐き出される白濁を全て吸い上げてゆく。
 それでも溢れ出るシマの欲望の液を、ただの一滴も逃すまいと舌がこそぎ取るように這い回り、全てヤイバの喉奥へと飲み込まれてゆく。
 長旅で暫く欲を発散していなかったとはいえ、一生分の精を放ち続けたのではないかという程の大噴火を、ヤイバは脈動が弱まるまで稚児のように必死に飲み干していった。

「ぷはぁっ……! すっごい量だ。息が続かなくなるところだったよ」

 最後の最後、唾液と混ざり合った透明な液を水飴でも舐めとるかのように舐め上げながら口を離し、口の端から流れ出る半透明になった液体を拭いながらそう言うヤイバのその表情はあまりにもシマの劣情を駆り立てた。
 口から溢れ、拭い取ったものさえも舐め取り、本当にその全てを口の中へと収めてゆく姿にシマの男根は力を失うどころか痛みを伴うほどに力を取り戻し、粘り気を含んだ透明な液を更に流してゆく。
 ずっとシマの心の中で最後の水門を支えていた罪悪感はそれを上回る愛おしいという情動が容易に砕き、漸く目の前にいるのはこの世の誰よりも敬愛し、そして親愛を持つ異性なのだと認識できた。

「また垂れてきてる。勿体無い」

 そう言ってヤイバは息を整えるとすぐにシマの股座に聳え立つ男根に顔を近付けたが、シマは今度こそそれを遮った。

「ヤイバ……本当に俺でいいんだな?」

 順序が随分とおかしくなってしまった感じがしなくもないが、シマは至って真剣な眼差しでヤイバを見つめ、そう訊ねた。

「聞くまでもない。それよりもシマこそ本当にいいのか? オレだって今、一時の感情に任せてお前とこうしてるが、この先も何十年って同じ景色しか見れなくなる。それで構わないのか?」

 それが真剣なシマの言葉だと分かったからこそ、ヤイバも同じように真剣な表情で唯一の気掛かりを確認した。
 もしもこのままなし崩し的にシマがヤイバの番となってくれれば、全てヤイバの思惑通りだ。
 だが、ヤイバもシマを心の底から愛しているからこそ、自分が縛り付ける鎖にはなりたくなかった。
 シマのその真剣な眼差しのお陰で、奇しくも冷静さを取り戻した二人は今一度、お互いの本心を確かめ合う。

「構わないさ。……まあ、まさかこんなことになるとは思ってもみなかったけど、それでもお前とこの先も見ていく景色なら……それ以上の景色はないよ」
「ほんとにさ、暫く見ない内に逞しくなったな……。何処までオレ好みの雄になるんだ」

 そう言って二人はそっと抱き合った。
 互いに左頬を擦り合わせ、お互いの想いに嘘偽りがないことを確かめ合うように、お互いの恋心を分かち合う。

「なあ、そのまんまシマのソレ、オレの中に挿入(いれ)てくれ」
「別にそれはいいけど……、挿入(はい)るのか?」

 お互いにいい雰囲気になったところだが、やることはやっている最中であるため、ヤイバの下腹の前にはそそり立ったままのシマの男根がいたため、ソレを前足の指で指して自らの女陰に挿入してもらうように促した。
 だが確かにシマが心配した通り、ヤイバとシマの体格はかなりの差がある。
 今ヤイバの腹部に当たっている状況だけで見ても、胴の三分の一程はそれが深々と刺さり込むこととなる。

「やわな鍛え方はしてないから気にすんな」
「いや、そういう問題じゃないんだって」

 内臓の大きさなど鍛えようもないものだが、ヤイバは大丈夫の一点張りで言葉を変える気配がない。
 以前にも似たような経験のあるシマとしては、それで無理矢理行為を行おうとして下手に怪我をさせないかが心配で仕方が無かった。
 ヤイバの口振りから処女であることは分かっているため、尚更シマとしては行為そのものがトラウマになる危険性や、内蔵を傷付ける心配があったため、今も早く欲しいと言わんばかりに愛液で潤滑性が増していた陰唇を擦りつけている事が不安で仕方が無かった。

「……分かった分かった。念の為に慣らすから尻をこっちに向けてくれ」

 そう言ってシマは身体を地に預け、自分の体の上にヤイバに乗ってもらい、眼前にヤイバの尻を向けさせた。
 今の今まで意識してそこを見たことがなかったからこそ、ヤイバの陰唇は柔らかな果実のように膨らみ、雄を受け入れる準備が出来ている事にもその時に初めて気付いたほどだったが、今となってはその事実も嬉しい。
 既に愛液が逆三角に膨らんだ陰唇の尖った部分から僅かに滴り落ち、雄を魅了する匂いを放っていた。
 その魅惑の果汁を舐めとるように、シマは自らの長い舌を宛てがい、舌で少し膨らんだ膣肉を押し拡げるように舐め上げる。
 えも言われぬ快感だったか、ヤイバの尻尾がピンと立ち、尻から頭へ向けて全身の毛が逆だってゆく。
 もう一度シマの男根を舐めてやろうと企んでいたヤイバの思考は快楽で一瞬にして吹き飛び、身動きがとれなくなる。
 それを二度、三度と繰り返される内にあまりのもその快感が自らの想像を超えていたこともあり、身体がふわりと宙に浮いているような訳の分からない感覚に襲われ、自然と腰がシマの顔の前から離れていっていた。
 そのことはシマも気付いていたため、逃げられないように後ろ足を掴み、グイと身体を顔の前に引き寄せ直す。
 鼻息が触れるだけで全身を愛撫されたような刺激が駆け抜け、ヤイバの思考は白く靄がかかるが、シマも止める気配はない。
 ヤイバはガクガクと足を震わせ、感じたことのない快感に恐怖を覚えて逃げようと足を動かすが、その足はしっかりとシマが掴んでいるため逃げ出す事もできない。
 シマの舌が這う事にヤイバの艶やかな果実からは果汁が溢れ出し、次にそのジュースをジュルジュルと音を立てて吸い上げ、暖かな果肉の中へと舌を滑り込ませてゆく。
 その瞬間ヤイバは声にならない悲鳴を上げそうになったが、ギリギリの所で声を飲み込む。
 体の内側に自分以外の何かが這い回るような感覚。
 独特なその感覚そのものはあまり心地の良いものではないが、そのギャラドスのようにのたうち回る舌がシマの物だと思うと、心地の良い箇所に触れた瞬間に起こる快感の刺激が数倍にも感じられた。
 一瞬だけヤイバにチクリとした痛みの感覚が走り、同様にシマには鉄の味を伝えるが、既に何度も視界がチカチカと瞬くような感覚を味わっているヤイバには今更些細な痛みだった。
 シマの長い舌は容易にヤイバの最奥の大切な部屋の入口にまで到達し、その周囲をなぞる様に舐め回す。
 今までリズミカルに来ていた刺激がこのタイミングで断続的なものになり、遂に耐え切れなくなったヤイバは大きく全身を震わせながらシマの口の中へと大量の愛液を放出した。
 ヤイバの白黒していた視界は遂に色を失い、堪えていた声は逆に声にならない悲鳴を出しながら、シマの体の上に痙攣したまま倒れこみ、涎や涙に塗れた顔でただ必死に呼吸することしかできなくなっていた。
 全身を脱力させ、ヤイバがシマに身体を預けたのを確認すると、ヤイバの中で暴れまわっていた舌は漸く引き抜かれた。

「派手に逝ったな。気持ちよかったか?」

 シマの問い掛けに対してヤイバは言葉を発することができなくなっていたのか、息を荒げたまま小さく頷いて答えた。
 それを聞いてシマは少しだけ嬉しそうに微笑むと、眼前のヤイバの尻を何度か優しく撫でてヤイバの息が整うのを待った。

「じゃ、本番と行くか」
「だ、大丈夫なのか? オレ、今のでも正直死んじまうんじゃないかって怖かったんだけど……」
「悪かった悪かった。大丈夫だ、変に力だけ入れずにリラックスしといてくれ」

 涙目で軽く身体を震わせながらそう訴えかけるヤイバの姿は可愛らしい雌そのものだった。
 優しく頭を撫でてやり、リラックスするように促すとスッと身体を起こして自分の足元に視線を落とす。

「なんかオレが子供扱いされてるみたいでムカつくから、オレからやらせろ」

 そう言って腰を少し上げ、そそり立つシマの男根に自らの陰唇の位置を合わせる。

「だ、大丈夫か? 別に構わないが怪我するなよ?」

 何とかして優位を取りたいと思っているヤイバの身体をシマは心配したが、ヤイバもそこは重々承知のつもりらしく、しっかりと頷いて答えてから自分の下半身に意識を集中させる。
 股下から自らの性器とシマの性器がぴったりと合うように狙いを定め、ゆっくりと腰を落としてゆく。
 お互いの液が混ざり合い、ぬるりとした感触と快感を与える。
 ぬちゅりとヤイバの膣口をシマの男根の先端が押し拡げる音が聞こえ、押し殺した嬌声と湿った吐息が二人分聞こえた。
 ぬるぬると快感が伝わり、少しずつヤイバの呼吸が荒くなってゆくのを感じ取り、そっとシマはヤイバの腰に手を添える。
 もしもヤイバの腰が抜けてしまったとしてもすぐに支えられるようにするためだ。
 そうして呼吸を整えながら腰を落としてゆき、遂にヤイバの膣内へシマの雄々しい男根が全て収まった。

「本当に全部挿入(はい)るのか……」
「だから言ったろ? 大丈夫だって」

 驚きを隠せないシマに対し、ヤイバはそう誇らしげに言い放った。

「いや……どう見ても大丈夫じゃないだろ……」

 ヤイバの言葉は確かに誇らしげだったが、その表情はどう見ても大丈夫ではない。
 僅かに感じていた快感は何処へやら、初めて受け入れるには少々大きすぎるシマの立派なモノを意地で全て受け入れたが為に痛みが一斉に襲いかかっていた。
 どう見ても快楽を感じていないのが分かる深い息遣いと鬼気迫る表情。
 ヤイバは必死に口角を上げているがどう見ても目が泣いており、相当堪えているのがよく分かる。
 自分の中に何かがある感覚にも慣れず、ギリギリと熱した楔を打ち込まれているかのように痛みと熱を伝えながら拡がっているようにすら感じる。

「全く……我慢したってお前が辛いだけだろ。暫くそのままゆっくり慣らしていこう」

 必死に耐えているのは既にシマから見ても分かりきっていたため、腰に当てていた手でヤイバの上半身を軽く持ち上げ、しっかりと抱きしめた。
 そのままあやすように頭を撫でてやると、やはり無理をしていたのが我慢できなくなったのか、声も出さずにボロボロと涙を流してシマの上で呼吸を整えていた。
 無理に奥まで挿入しているため引き抜く訳に行かず、ヤイバが慣れるまでの間、シマは外の様子を警戒しつつ待つこと数十分、漸くヤイバが自ら身体を起こした。

「悪い。今度こそ大丈夫だ」
「無理してもいい事なんてなかっただろ?」
「……なかった」

 シマの問い掛けに対して、流石に素直になったヤイバはこくりと頷いて答える。

「動かすぞ?」
「普通逆じゃないか? まあいいか。無理だけはするなよ?」

 ヤイバの最終確認にシマは少々呆れながらそう答え、そっとヤイバの尻に手を沿わせる。
 少しだけ膣内が締まり、沿わされた手からも快感を得ているのがよく分かる。
 全く動かされていないはずなのに、ヤイバにはそのシマの男根が血を巡らせるための動きすら感じ取れ、その熱があまりにも熱く感じられる。
 ヤイバは何度か深呼吸をしたあと上半身をシマの胸に預ける。
 前足で支えていた分が無くなり、奥の奥、子宮の辺りにまでシマの男根が存在しているのがよく伝わってくる。
 それにヤイバは自分の膣内を擦りつけるように前後に動かし、膣内は十分なほどシマを受け入れる準備が出来ているのだと主張するようにぐちゅりと小さな水泡の弾ける音が聞こえた。
 先程までと違い、伝わるのは熱と痺れのような感覚。
 痺れのような感覚も痛みとは違う、まるで擽られるような感触。
 ぐりぐりと押し付けるように、内側を蠕動のようにくねらせるとその感覚が膨らみ、思わず熱を持った吐息と共に声として溢れ出る。
 それに呼応するようにシマからも熱い吐息が零れ、ヤイバの耳の下で鼓動が高鳴るのを感じた。
 後ろ足に力を加えて少し身体を持ち上げ、今度は横の動きも加える。
 また違う箇所から熱のように快楽が広がり、少しずつヤイバの心音も高めてゆく。
 少し慣れた所で上半身を起こし、今度は押し付けるようにして二人の繋がっている箇所からも少し強めの刺激をもらう。
 それを暫く続けてから今度はシマの男根を引き抜き、半分ほど外に出た所で円を描くように動かし、また一気に奥まで押し込む。
 随分とその快感にも慣れたのか、ヤイバは快感を楽しむようにぐちゅりぐちゅりと淫靡な音を立て、何度も体勢を変えながら行為を楽しんでいた。
 顔を預けるシマの胸から高鳴る鼓動がいつの間にか自らの鼓動と同じ速さになっているように感じ、この逢瀬を楽しんでくれているのだと確信でき、ヤイバ自身が心の底から充実感に満たされていた。

「ヤイバ……その……悪いけど、やっぱり俺が動いていいか?」
「だから、もう大丈夫だって!」

 シマの問い掛けに対して、ヤイバは余りにもシマが心配性過ぎると感じたのか強めに言い返したが、それを見てシマは少々申し訳なさそうな表情をする。

「いや、そうじゃなくて……。様子を見る限りもう本当に無理してなさそうだし、俺から動かしても大丈夫そうだったから。それに……もう一回出してることもあってな? ちょっと刺激が足りないんだよ。頑張ってくれてるのは分かるけど……やるからには最後までやるんだろ? 多分このままじゃ永遠に最後までいかなさそうだから……」

 ヤイバとしてはかなり楽しむ余裕も出てきて、この調子ならば数分としない内に果てさせる自信があったため、かなりショックだったのか、シマの身体の上にペタリと倒れ込んだ。

「落ち込むなって! 気持ちよかったのは気持ちよかったよ。それに、俺も……ここまで充実感があったのは初めてだ」

 落ち込んでいる様子のヤイバを見てシマはすかさずそう言いながら頭を優しく撫でてやってフォローを入れたが、不服そうなのには変わりなかった。
 そのままシマはヤイバの体を両腕で優しく包み込むように支え、上体を起こしてヤイバと繋がったまま向かい合って座った。

「大丈夫。一緒に気持ちよくなろうぜ?」
「……なんか悔しいな」

 まだ少しだけ不安そうな表情を浮かべていたヤイバにシマはそう語りかけ、優しく頭を撫でているとヤイバは不意にそう口にした。

「いやまあ、俺の方が身体がデカいし、経験もあるんだ。仕方ないって」

 初めての事で色々と問題が起こったため、ヤイバはそのことを申し訳ないと感じているのだろうと思ってシマはそうフォローしたが、ヤイバは首を横に振った。

「身体もだけどさ、シマはオレなんかよりもずっと大きくなって帰ってきた。いや、思えばあの時からそうだったんだ。オレがお前よりも強くなって、俺が一番強いって自分のことだけ考えてた時から、お前は皆を護る為には一人でも強い奴が多くなくちゃいけないって考えてて、今だって俺は自分の恋を成就させるために必死になってたのに、お前はオレの事を気遣ってくれてる。端っからさ、器が違ったんだな……って」

 そう言って苦笑いを浮かべてみせる。
 その言葉は恐らく、今までのヤイバでは絶対に口にしなかった言葉だっただろう。
 誰よりも強くあり続けなければならなかった。
 その重責はシマにも痛いほど分かるからこそ、シマも同じように首を横に振った。

「ヤイバだって十分強いさ。俺の憧れだって感じ取ってたはずだ。だからこそ強くあってくれてたし、今でも強がってくれてるんだって分かる。ヤイバは誰よりも優しかったんだよ。だから俺もその想いに応えたいだけだ」

 シマがそう口にした後は、それ以上の会話はもうなかった。
 言葉にすることすら野暮だと分かるほど、二人の心は通じ合っていた。
 少しだけ見つめ合った後、どちらから求めるわけでもなく、自然と二人は唇を重ね合わせていた。
 舌と舌が触れ合い、ヤイバの舌がシマの舌の上を滑って口の中へと侵入する。
 と、それを押し返すような勢いでヤイバの口の横からシマの舌が滑り込んできた。
 手でも結ぶように絡み合い、唾液を交換したのも束の間。
 長い舌があっという間にヤイバの口内をくまなく舐め回す。
 それは流石に予想外だったと言わんばかりにヤイバは抵抗しようとしたが、シマの分厚く触手のようによく動く舌の前では何の抵抗も許されない。
 舌全体を絡め取ったかと思うと歯の一本一本、頬の内側、喉に到達してしまいそうなほどグイグイと舌で縦横無尽に犯し尽くし、ヤイバの口全体を覆うように首を斜めにして大きな顎を開いて包み込む。
 脳髄にまで響くような唾液を混ぜ合わせる音に連動し、ヤイバの膣が繋がっているシマの男根を軽く締め付ける。
 あまりに刺激的過ぎるシマの舌に恐れをなし、ヤイバは身体を退けようとしたが、その身体を支えているのは同じく太く強靭なシマの腕。
 成す術無く上から下まで蹂躙され尽くし、ただ響く水音に気をやってしまいそうになりながら、ただ息を荒くして耐えるしかなかった。
 暫くしてから漸くヤイバの口の中を蹂躙していた舌がズルリと音を立てて抜けてくれると、ヤイバはただただ恍惚とした表情を浮かべて息を荒げるばかりだった。

「舌はめちゃくちゃ長くなったからな。ヤバかっただろ?」

 得意げにそう言って笑うシマは初めて意地の悪い表情を浮かべていた。
 タチフサグマになって身体が大きくなり、四足歩行が通常だった頃から二足歩行が通常となったことで色々と大きな変化があったが、何よりも大きな変化が舌の長さだとシマは考えていた。
 ただ長いだけでは宝の持ち腐れと思っていたこともあり、クラボの実の茎を舌で結べるように練習したりして、未来の番に使う武器にしようとしていたため、ヤイバのぐったりとした様子を見て満足したようだ。
 ディープすぎるキスの甲斐もあって、ヤイバの顔はあらゆる場所から生成された液が混ざり合ってドロドロになっており、恍惚とした表情のまま肩を揺らして大きく息をしていた。
 激しすぎる口淫と呼吸の振動で、無理に挿入したシマの男根とヤイバの膣内も十分に愛液が満たされ、互いの熱が伝わり合うほどには充血したことをシマはちらと確認し、二人の距離を少しだけ伸ばす。

「もう大丈夫そうだな。このまま動かすぞ?」
「チクショウ……完全にお前のペースなのが納得いかないけど……。いいよ。オレもお前と一緒になりたい」

 伸ばしていた腕をまた引き寄せ、首元を絡め合わせる。
 お互いの熱い体温が体毛と肌を越えて伝わり、相手の心音が聞こえる。
 口ではヤイバも強がっていたが、抱きしめた辺りから身体が僅かに震えている事をシマは感じ取っていた。
 だからこそゆっくりと、しかし力強く腕をヤイバの背中と腰に回し、そっと頭を撫でる。
 そして僅かに身体を揺らした。
 ヤイバの身体がピクリと跳ね、シマの耳元で押し殺した嬌声が聞こえた。
 細心の注意を払いながら、ヤイバがした時と同じようにシマは自らの男根でヤイバの中をかき混ぜるように動かす。
 僅かな動きしかしていなかったが、互いの腰が擦れ合う度にぐちゅりと音が鳴る。
 その度に少しだけヤイバは下半身を硬直させながら甘い吐息を漏らす。
 かき混ぜるような動きに加え、シマは自らの腰を軽く持ち上げて縦の動きを加えた。

「あっ……っん!」

 初めてヤイバは声を押し殺すことができなかった。
 絞り出すような艶のある声。
 それに合わせるようにして収縮するヤイバの膣内。
 もう完全に痛みは無くなったのだと確信し、シマはゆっくりと腰に当てていた手を尻の辺りまで伸ばし、持ち上げるようにしてヤイバの中に入ったままだった自らの男根を少しだけ引き出した。
 愛液と先走りが混じり、粘りを増した液が水泡の弾ける音を立てながら糸を伸ばす。
 熱い膣内から外気に触れた箇所だけがやたらと冷たく感じる中、僅かに空いた空間を一気に埋めなおすように腰を下ろす。
 電撃のような快感が擦れ合う箇所から生まれ、二人の体内を駆け巡る。
 それで苦しんでいる様子が見て取れなかったため、シマは本格的に腰を動かし始めた。
 もう一度持ち上げ、今度は下ろした腰と自らの腰を打ち付けて湿った毛と毛が触れ合い、二人の耳にも届くほどの水音を掻き鳴らす。
 そして腰を打ち付けた勢いでヤイバの身体を宙に押し戻し、リズミカルに体を揺する。
 ぐちゅ、ぐちゅ、と卑猥な音が響いたが、それもすぐにヤイバの嬌声で掻き消えた。
 シマから強制的に与えられる快楽は、自分で動かしていた時のそれとは比にはならなかった。
 一突き毎に息が止まるほどの快感が押し寄せ、引き抜かれる度に視界が明滅する。

「ま、待って! まっ……て!!」

 腰の動きがリズムに乗り、揺れる幅も大きくなった時に声を振り絞って懇願するようにヤイバはそう口にした。
 今まではシマから必ず返答があり、その動きを止めていてくれたが、今回は止める気配がない。
 そこでヤイバは腰が浮いた時に二人の腰の間に自らの後ろ足を滑り込ませ、それ以上揺すられないように止める。

「どうしたんだ?」
「ど、どうしたもこうも……! 待てって言っただろ!」

 少しだけ息の上がったシマが頬を紅潮させ、肩で息をするヤイバに聞くと、ヤイバは少しだけ語気を強くして言葉を返した。
 というのも、押し寄せる快楽が一突き毎に倍々に増えてゆき、見えているはずの視界が遂に白黒としだしたことで恐怖を覚えたのだ。
 今日という日まで女を捨てていたヤイバは、当然自慰もしてこなかった。
 だからこそ快楽というものの経験や知識が非常に薄い。
 絶頂を迎える感覚を知らなかったからこそ、自らの身体が痺れに支配され、視界すらも判断できなくなるようなその状況そのものが恐ろしくて仕方が無かった。

「待たない」

 そうとだけシマは答えるとそのまま強引にヤイバの身体を寄せようとした。

「な、なんで!?」

 しかしヤイバの足で阻まれている分、深くは挿入されず、ヤイバがすぐにその理由を問いただした。

「今のヤイバ。今までのこと全部上書きされるぐらいには可愛かった」

 恐らく、ヤイバは今までで一番心臓が跳ねただろう。
 思わず言葉を失い、目を大きく開いてただシマの顔を見つめていた。
 その顔は真剣そのもの。
 本気でシマはヤイバのことを『可愛い』と感じたのだ。
 まさか言葉だけで鼓動が早まり、自らの膣に快感をもたらすとは思っていなかったらしく、一瞬の間呼吸をすることすら忘れていた。
 シマはその隙を見逃さず、片方の足を支えていた手でどかし、深く挿入した。
 押し寄せる快感でヤイバは我を取り戻し、もう一度足を挟み込む。

「ま、待てって!」
「このまんまじゃ夜が明けるぞ? それに……俺としてももっとヤイバの可愛い姿を見たい」

 そう言われる度に心の蔵と繋がっている場所が熱くなり、体温を高めていくのがよく分かる。
 また動かそうとしたため、ヤイバは今度は宙に預けていた前足をシマの胸に押し当て、無理矢理距離を離した。

「ほ、本当に待ってくれ! このままじゃ……死ぬような気がして」
「大丈夫。死なない」

 シマがヤイバのことを一人の雌としてではなく、ヤイバという誰よりも大切な雌として認識したからこそ、シマは決してヤイバの静止に聞く耳を持たなかった。
 もう大丈夫だと分かったからこそ、雄としての本能が大切な雌を善がらせたかったのだ。
 すぐにヤイバの身体を引き寄せようとしたが、身の危険を感じたからこそヤイバも必死になってその動きに抵抗した。

「ああもう! 面倒だ! あっち向け」
「んっ……! な、何を……!」

 必死の抵抗を続けたためか、シマは一度引き寄せるのを止めてヤイバにそう言った後、繋がったままそこを軸にするようにぐるりと身体を半回転させられた。
 擦れ合うことで快感がまた押し寄せたが、問題はそこではない。
 シマに背中を預けるような形で抱き込まれたため、先程のように突っ張って抵抗することができない。

「ま、待ってくれ! 角が危ない……!?」
「こうすりゃ大丈夫だろ? ヤイバみたいなポケモンはさ、本当は立ったままするからこっちの方が正常位に近いんだ」

 抗う間も無く、しっかりと抱き寄せられたヤイバの背中から、叩きつけるようなシマの心臓の動きが伝わる。
 角が刺さると危ない、とヤイバが動かなかった内にシマはヤイバの左からスッと首を絡め、何かを言おうとしたヤイバの口内へ自らの口を重ね、今一度舌を絡め合わせた。
 互いの呼吸を交換するように舌を絡め合わせ、ヤイバの腰を支えていた腕が柔らかなヤイバの腹を撫でる。
 ゾワゾワと快感が広がり、そのまま少しずつ腕が下へと降りてゆき、二人が繋がっている場所の上を軽くさすった。

「ほら……この辺りまで俺のがヤイバの中に挿入(はい)ってるんだぜ?」
「あっ……! ん……! や、止めろ! 恥ずかしい……」

 絡めていた舌を離してそう言いながらシマが軽くヤイバの腹を押すと、シマの男根が膣壁へと押し付けられ、外側から見ても僅かに膨らんでいるのが分かる。
 ヤイバの行為の全てが全身を伝わって快感を伝え、得体の知れない恐怖に少しだけ瞳を潤ませながらヤイバは口にした。

「分かってる。怖いのだって恥ずかしいのだって全部分かってる。でもそれも含めて俺はヤイバの事を愛したい。今だけでいい。俺に全部委ねてくれ」

 ヤイバの頬を伝う涙をシマの長い舌が舐め取る。
 叩きつけるような心音も、シマのその言葉も全てヤイバに伝わっていた。
 シマも本当はとても緊張しているのだと。
 だからこそヤイバは三度深呼吸をし、身体の力を抜いた。
 シマがヤイバと首から頬までを擦り合わせた後、もう一度ゆっくりと腰を動かし始めた。

「あっ……んっ……!」

 これまでのヤイバからは想像もできないほど、可憐な雌の熱を帯びた嬌声が聞こえる。
 それに呼応するようにシマの吐く息は激しく、声が漏れるほどだった。
 ぐちゅぐちゅと更に水音を大きくしながら、より早くヤイバの身体を跳ね上げる。

「可愛いよ……ヤイバ。愛してる」

 耳元へ囁かれるシマの愛の告白。
 その言葉すらヤイバの全身を撫でる快楽へと変換される。
 そうする内に遂にヤイバが身体をガクガクと震えさせ、絶頂を迎えた。
 プシャッ! と音を立てて愛液が勢いよく噴き出し、悲鳴のような嬌声を上げた。
 だが終わらない。
 ヤイバの耳元で甘い言葉を囁きながらもしっかりとヤイバの身体を羽交い締めにし、ズンズンと突き上げる。
 明滅したままの視界、今自分がどんな状況なのかも分からぬまま、ヤイバは押し寄せる快楽の津波にただただ身を任せるしかなかった。
 身体を震わせたままのヤイバを引き込むように抱きしめ、どんどんストロークの速度を上げてゆく。
 そうする内にシマも呼吸を荒げながら、声も殺さず必死に腰をヤイバへ打ちつけ続けた。

「ヤイ……バ! 出すぞ! 中に……!」

 確認の取りようもない状況のヤイバにシマはそう伝えたが、今更断るはずもない。
 そのまま何度かぐちゅっ! ぐちゅっ! と音を立て、ヤイバの身体を絡め取るように抱き寄せ、一番深くまで自らの男根をシマの膣内の最奥へ押し込む。
 ビュクン! と一つ大きくヤイバの腹が跳ね、ドクドクと脈動に合わせてヤイバの中へと精液が送り込まれてゆく。
 足りない酸素を全身に巡らせるために荒い呼吸音だけが二人分響き、密着した二人にはそれ以上にお互いの心音が響いていた。
 弱まっていく脈動に合わせるように、腕に込められていた力が抜けてゆき、そのまま倒れこむように横になる。

「気持ち……良かったか……?」

 途切れ途切れの言葉が荒い呼吸に合わせてヤイバへと投げかけられる。
 暫くの間返事はなかったが、首を横に振って答えた。

「無理……しないって言ったくせに……。本当に……死ぬかと思った」

 背中のシマに向けて、ヤイバはそう言い放った。
 だが既に勢いを失った脈動を少しでも感じ取ろうと、下半身へと意識を集中する程度には、嬉しかったようだ。
 その後間も無くブビュッという音と共にずっと繋がっていたシマとヤイバの性器が離れ、黒いヤイバの陰唇を毛と同じ白に染めながら地面へと滴り落ちていた。
 暫くもしない内にヤイバは体力を使い果たしたのか、そのまま静かに寝息を立て始め、シマはその様子を見てそっと頭を撫で、今一度外へと意識を向けた。
 熱い一夜はあっという間に静けさを取り戻し、月光と風のさざめきだけが、その夜の平和を告げていた。



 日も高く昇り、鳥ポケモン達が元気に活動を始めた頃、ヤイバは目を覚ました。
 これほどの倦怠感と下半身の鈍い痛みに苛まれたのは生まれて初めてだったが、目を覚まして真っ先に視界にシマの背中が写り、今までで一番心穏やかな目覚めを迎えたのもまた初めての事だっただろう。

「お、目が覚めたか。寝藁も大分痛んでるだろ? 取り替えるついでに昨晩の汚れも拭き取るから先に行っててくれ」

 背後でヤイバが動いた気配を感じ、シマは振り返ってそう言った。
 確かにヤイバは眠りに就いた時、ただ横穴の入口付近の床で疲れに身体を任せていたが、目を覚ました時には寝藁の上に移動していた。
 眠った後にシマがヤイバの事を寝床まで運んでくれていたのだろう。
 あの後もきちんと見張りを続けていたはずのシマの方が見る限りだと余裕があり、しっかりと眠っていたはずのヤイバは立つと後ろ足から腰回り全体が鈍い痛みを覚えていた。
 ヤイバとしては悔しいが、体力も夜の生活も精神的な面も、全てにおいてシマの方が上なのだと理解し、特に言葉を返すようなこともせずに素直に頷いて答えた。
 昨日の自分の余裕の無さがまるで嘘だったかのようにシマの想いが感じ取れた。
 心地よい木々のさざめきの中を通って傍の川に行き、沐浴をする。
 暫くもしない内にシマも現れて二人で少しだけ昔を思い出しながら身を清めると、すぐに集落の中心へと向かった。

「えー……っと。突然のことかもしれないが、俺、ヤイバと番になることを決めた。特に何かが変わるってわけじゃないが、一応報告しておく」
「なーんだ。やっとか。とっくの昔にそうなってるもんだと思ってた」

 突然の事となり、シマとしては他の皆に混乱を与えるかと思って少し言葉に詰まっていたが、アニキを含め誰もが当然のような反応を見せ、寧ろ今までそうなっていなかった事の方に驚いていたようだ。
 シマとしてはそもそもヤイバが雌だったこと自体驚きだったわけだが、共に暮らしていた集落の皆にはヤイバの性別のことは周知の事実だった。
 それにヤイバがシマに気があるのはシマが戻ってきた日からずっと気付いていたため、そっとしていたということらしい。

「で、でもオレも今までずっと見張り役をやってたんだ。そんな奴が色恋で浮き足立ってたってのに……なんでそんなに嬉しそうなんだ?」

 ヤイバとしては自らのこれまでの立場もあり、負い目を感じていたのか、思っていたことをそのまま口にするとアニキは少しだけ微笑み、首を横に振った。

「確かにヤイバはこの集落で一番強かった。お前がもし色恋に浮かれて敵に気付けず、皆を護れなかったら他の誰にも止められないだろうな」
「なら……!」
「でもそれ以前にヤイバだって一人のポケモンだ。幸せになっちゃいけないなんて誰が決めた?」

 アニキの言葉を聞き、ヤイバはただただ言葉を失った。
 周りの皆の顔を見てもそこには微塵の怒りも感じられず、皆お似合いの番の誕生を嬉しそうに見守っている。
 幸薄い集落だったからこそ、誰かの幸せを応援したかったのは皆の心にあった。
 思わずヤイバはシマの方を見たが、そこにも驚いた表情はなく、寧ろそこにいる皆と同じ表情を皆に送っている。
 そこで漸くヤイバは気付いたのだろう。
 流れ落ちる熱が、戦えぬ皆の代わりに戦い、楯となっていたヤイバが力で皆を護っていた時、皆はヤイバの心を護っていてくれたのだと。
 溢れ出る涙を拭い、シマに優しく抱き抱えられながら二人は心に誓った。
 言葉を交わすまでもない、二人だからこそずっと夢見てきた光景を。

『これからも皆で一緒に、幸せに暮らそう』

 静かにシマとヤイバは唇を交わし、割れんばかりの祝福を受けた。
 これからも続くであろう幸せの日々を、心穏やかに。
 祝った。


あとがき 

 どうもCOMさんです。
 今回は『そういえば最近、嫁を地産地消して全然推してないなぁ』と思い立って書いた作品なので、時期も相まって付けてたのは仮面ではなくフェイスガードでした。
 悪タイプっていいよね、可愛いよね。アブソル可愛いよね。が伝わったのか準優勝させていただいたので嬉しい限りです。
 アブソルを愛でろ。
 言うことはそれぐらいなので以下は大会中に頂いたコメ返しで。

>おもしろかったです

 ありがとうございます!

>ぶっきらぼうながら、初心な二人のやり取りがグッときました

 厳しい環境で生きているからこそぶっきらぼうでも、愛情は育んでほしいですので!
 純愛はいいぞ!

>再会した幼なじみが異性だと気づいてのドギマギが尊い。オレっ娘ヤイバさん可愛いです。

 オレっ娘はいいぞ。
 こういうシチュ、なんだかんだ好きだけど書いていなかったのでいい機会だと書きました。

>素敵なお話でした

 ありがとうございます!

ではまた別の作品で。
COMに戻る。


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Last-modified: 2021-01-18 (月) 01:02:56
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