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誤調整

/誤調整

書いてしまった人GALD


罪なのか、それとも成功なのか、人工生命体が確かに存在していた。
人の形というものからは遠いには変わらないが、人形と片付けれるほどには難しいものである。
命令通りに動く駒ではなくて、自律的に動く意志を持った存在で。
形は人になくても、形だけの問題で、限りなく人に近い異形な人である。
異形とか化物だとか大層な言葉で、その存在を指したところで実際のところは横に座り込んでいる大型犬は噛み付きさえしてこない。
犬のように尻尾はふるし、走りはするが体調はかるく人並みを超えているから突然飛び出てきたりすれば命を覚悟するかもしれない。
しかし、この存在というものは人間と意思疎通が可能であり、簡単に言うなれば喋る。
それに、生み出したのが人間というのもあってそれなりことはインプットされているのだから、そう殺害などは発生しない。
あくまで中身は人であるということ、だからこそ信用ができないというのも確かであるが、一応は善人である。
そのはずであっても、今この瞬間に犬とこの人である俺の間にのっそりと割って座り込んでくるのは狐のような生き物である。
尻尾は通常の9倍はあるようにみえるが、どれもが絡み合うように動いていて追いかけていると見失ってしまいそうになる。
全体はベージュの毛並みで尻尾の先はオレンジに焦げている。犬の方は尻尾は一本だけでオレンジが基本色にはなっており黒い模様が入っているが、尻尾や頭のベージュと同じように見える。
さらに、前足や後ろ足からは炎が吹き出しているかのようにベージュのそれが伸びているが、狐の方よりもよっぽど現実的な生き物である。
狐の方は充血というよりも、地で染まったかのような目の色に対して、犬の方は普通の目の配色とそうかわりない。
「お前の妹さんはどうにかならないのか、ディア。」
このディアと呼ばれた犬こそ、今の世に広まった人口生命体の始まり、つまりは起源である。
感情の実現に一度は失敗したかのように見えた実験を見事に成功に繋ぎ合わせた、最初にして最後の俺という人間の成功。
ディアの方は相変わらず床に寝そべったままでいい加減な返事を返してくるだけで、やる気がない。
それも無理がない話で、妹ができてからというもの張り付かれて疲れきっているというのがいまのディアの状態だった。
「チェスタ、いい加減に離れたらどうだ?」
「いつ、お姉様に手を出されるかわかりませんからね、却下します。」
この善人にように、丁寧に断りながらも結局は言う事を聞かない狐がチェスタという妹分。
もちろん、人工的に生み出された彼女らにとって血縁関係というのは存在してない。
どこが姉妹なのかというとそれは段階である。ディアが一段階で、チェスタは二段階である。
ディアがそもそも生まれた時には感情という概念が薄くほぼないように思われていた。
つまり、そんな状態の存在を量産したとしてそれから感情を覚えるのにどれだけかかるか知れたものではない。
もちろん簡単に作れるわけではない彼女らのような存在に、教育の手間までかけていられないというのが経営側の意見であった。
そこで今度は感情を知ったディアのデータをベースに改良を加えたのが二段目である。
その二段目のプロトタイプ、つまりは二号機のような存在がこのチェスタである。
生まれた順番的には確かに妹で間違っていないのだが、この二世代目というのはある程度の記憶領域をプログラムできる。
昔の同僚とは言え、女性の理想図といったようなものまでは把握していないので、誰が作ったかは知らないがまた面倒なものを送りつけられたものである。
二世代が完成したから、プロトタイプが必要なくなったと遠まわしに言われた時もなかなかひどい話であったが、そこに大きな設計ミスまで乗ってくると頭が痛い。
今こそディアが付いているからいいものの、今この家に来るまではどうやって抑制したかさえ気になるほどべったりである。
今時血の繋がっている姉妹や兄弟といった関係が、ここまで縮まることが希であるからと言って夢を実現させすぎであった。
どこまで一緒なのかは知らないが、かなり個々の存在同士の境界線が薄く曖昧でひかれているため、一緒に寝ることは当たり前である。
しかし、ディア以外の存在とは逆にはっきりと引いてあるようで親のような俺にはあたりがひどい。
反抗期とはこのことなのだろうかと思わされるぐらいに、何かしてやってもろくに礼ひとつ返ってこない。
一日三食が出てくるのは当たり前、少しでも触ろうとすると殺気がその手を止める。
代わりにといえば踏み潰されそうであるが、ディアに手を伸ばそうとすると間に割って入ってくる。
この時が一番理不尽で、自分自ら壁になったのに触ったからどうのと、一時間ぐらい理不尽な怒りに襲われることは数度はあった。
それに悲しいことに慣れてしまったのか、今のように間に入ってきてもいいようにすぐに手が出ない。
ディアの方といえば、妹という存在を認識したことがなかったせいか最初は新鮮である程度の相手をしていた。
今となっては横目に流し見される程度で、露骨に関わりたくないというのを全面的にプッシュしているのにチェスタは構いもしない。
殴られても、構わなくそこに有り続けるサンドバックのようなタフな精神でべったりしている。
今も相手をする気がないディアの上にのしかかるように密着して、反応が来るのを期待している。
「なんとか言ってやれ、ディア。」
「暑いから離れなさい。」
「私はお姉様といるだけで問題ないですよ。」
病的といえばいいのか手遅れといえばいいのか、本当にプログラミングし直せと机が叩きたくもなる。
今すぐに体から炎を噴出させたいディアであったが、そんなことでは家が焼けるだけであり、何よりこのチェスタには炎は効かない。
正確に言うなら炎を一時的に体内に吸収しておくことができ、それをじぶんのものとして、爆発させることができるのである。
姉妹揃って炎に耐性のあるものとして生み出されたのが、ここに来て仇になるとは研究者として二世代はまもの何して欲しかった。
姉妹という単語が、二つの存在の類似を意味しているとは知っていたがここまで姉妹どうしで能力がに通ってくるとはと、ディアも頭を抱えた。
「それとも、お姉様は私のこと嫌いなんです?」
笑顔でのしかかる妹にはもちろん、嫌われているとは思っていないと丸分かりである。実の姉も別に嫌いというわけではない。
この笑顔に同情などはもちろんなくて、心から大切だと言える。賑やかで、すごく近くに感じれる存在、これが血のつながりなのかと姉は思っていた。
だからこそ、そこに付け込むような質問であったために、ディアはまともに返事を返さなかった。
そこで打開すべく、手を俺は叩いて二匹の注意を引いた。
「ほら、飯にするぞ。」
率先して立ち上がり、皿を出すことから始めていく。朝からまともに作ることなんて、やる気も出ない。
冷蔵庫から作り置きなど、適当に食べれそうなものを皿の上に並べていく簡単なものだった。
味気のない並べ作業の割には、空腹のためか随分食欲をかきたててくれる。
床に依然動くことなく張り付いているチェスタと、張り付けられているディアのもとに並べにく。
つんけんと刺さりに来るチェスタでも横目でしっかりと朝食は捉えている、野生の獣のような光で。
ディアもようやく助けが来たのに便乗して、チェスタの下から這い出てくる。
こういう時は素直に食い物に食いつくあたりは、まだ可愛げがあって嬉しそうな横顔はなかなか見れない分楽しみでもあった。
机に座って同じ朝食をとりながらも、遠目に他人の笑顔を見れるというのもまた食事の楽しみだと最近知ることができた。
飯を食う時だけは静かな辺りも、欲求に対しては素直だということである。もう少し素直になってくれれば、飼い犬に手を噛まれるなどということは減るのだろうというのが本音である。
この笑顔を疑うようなことはなかったし、嫌な言い方をすればそういう風には作られていないはずである。けれども、それは勝手な妄想なだけでもあった。
食事を終えるまでは良かったのだが、笑顔の裏に溜め込んでいたものがディアをかきたてた。とりあえず走り出した、そう俗に言う家出である。
家の中を足音を立ててはしるなんて馬鹿な真似はもちろんしてはいないが、うまく抜け出すとそこから目的もなく走り出した。
窮屈に感じていた家の外の空気が美味しく感じたというのは、開放感を味わえたのは抜け出したディアだけである。そう、俺という存在はまだ家の中で幽閉されたままである。
よりにもよって、今までめんどくさかったからといって全てを投げ出してどういうつもりなのだろうか。
誰かが受け止めなければならないということを計算できないぐらいには一杯であったということは認めてやってもいいとして、先のことを考えて欲しいものである。
いわゆる丸なげというものは負担が重すぎるということは学習させなければならないようである。
この不機嫌ヅラとあとどれだけ睨み合えばいいのだろうか。視線すら数秒しか合わせていないのに,交差することは何度もある。気にはされているといっても、チェストにとっては虫みたいなのが俺である。
ハエが飛んでいるような感覚であしらわれている感じがするのは悲しい。報われていない虚しさがチェストの視線によって差し込まれてるような、露骨に出てきているのは刺さるものである。
どこいったんだろうなとか、当たり障りのないようで食いつきそうな話題をぶさげても、釣り人の顔が気に食わないのか浮きが沈む感触はない。
それどころか話しかけていくと、ついに釣り堀を沈めに体当たりを仕掛けてくるようになった。
「五月蝿いんですけど、話かないで欲しいんですけど。」
「そうは言っても、一応同じ家にいるわけだしな?」
「あなたなんかと仲良くなってどうなるんですか?」
会話を繋ぐことは成功したが代償は必要だった。地雷原に切り込んでしまうとは、本当に扱いにくい相手であった。
「家族なんだし、仲良くするものじゃないのか?」
「そんなものはお姉様だけで十分ですよ!」
何を基準に奮起しているのがわからないのだが、それなりにも人生を生きてきたせいか若者の発想に遅れているのかもしれない。
さっきまでは目線さえも合わせなかったチェスタがついには目をひらして赤い瞳がはっきりとこちらを見ている。その紅のレンズに反射する自分の姿はどこか焼かれているような不気味な光景だった。
変に刺激すると未来の自分もそうなるのかもしれない、そんなマイナス思考が変な緊張感を生じさせた。
「俺の何が気に食わないんだ。」
「そんなもの、全部に決まってるじゃないですか!」
叫びながらついに倒していた体を起こしてきつく目を尖らせた。人間が自然界では生きていけないというのを本能的に、チェスタの視線が分からせてくる。
理由もよくわからない上に理不尽な八つ当たりを受けている気がしてならない、と口にする前にしまっておいた。相手は口から言葉以外にも炎が飛び出す事実が、邪魔をする。
深呼吸して休む暇もなくチェストの口からは、言葉が吐き出されて絶えずに耳を揺らす。
「私はお姉様だけさえいれば満足なんですよ、それ以上求めるつもりなんてないんですよ。」
単純に考えたら依存症に頭を抱えたくなるのかもしれないが、この試作型は大まかに思考がプログラムされて備わっている。詰まるところ、インプットした人間がいかに問題になろうとも、された側が悪いということはない。
それが彼女にとっての当たり前、そう認識することでしか話を進めることができないのだ。
こんな性格に設定した本人はどういう欲望をぶつけてこうなったのかは知らないが、そのぶつけたエネルギーが物の見事に反射してきている。
「あなただって同じじゃないですか!それで満足していればいいのに。」
何かもってる怒りを、やり場がわからないから探して見つけた先が俺であるかのように、投げ捨てた。何を強くその視線で打ち抜くのかはわからない。
ただ、それとなく自分でもはっきりと理解していないような曖昧な強さが刺してくる。あの目が、あの形のレンズが焼き付けてくる。
確かな眼光がこちらの顔を照らしており、眩しくもないのに逃れたくて視線をそらした。情けない反応にチェスタは歯ぎしりを立てた。
「ほら、そうやってまた逃げるんでしょう?だから貴方なんて!」
威圧されて言葉が出なかったのは本当に情けないとしか言えなかった。あの睨んでくる赤い瞳が毎日訴えていることなんで気にもしなかった。
何とか抑圧していたものがチェスタの中で破裂して、行き場のない怒りを少しでも減らそうと尻尾を振っている。
衝動で駆け出してしまったことにも焦りもなく、怒りだけをあらわにした目は憤怒だけが色を染める、さみしさを絡めた色彩で。
「貴方も私もお姉様だけで十分だったのに、どうして……どうしてこうなるんですか!」
自分をどこかで誤魔化しきりたい一心で、チェスタは叫んだ。誤魔化そうとするのが余計に、本心を際立たせるとは知らずに夢中に。
相手が避けていると勝手に思い込んで、実際のところで避けて逃げ出していたのはチェスタではなかったという気持ちから、腕が前に進んでいった。
少しでも引こうと、伸ばしたつもりの手は軽く九分の一のしっぽに叩き落とされて、床に落ちて固まった。無言でこちらの顔だけを見て、ただ払いのけられてしまった。
ディアと変わりなくけで覆われた体の一部は特にしっぽということもあって、硬い感触はほとんどないのに手が腫れるような痛みが走った。
力をなくしたかのように伸ばしたては床の上で死んでいた。起き上がろうともせず、下に戻ろうともせずに、ただその場で静止した。動きが止まったことを目指すると、チェスタも抱えたまま家から逃げ出した。
歩き出した背中に声をかけて呼び止めることはできた、もう一度手を伸ばして尻尾なりを掴むことはできる速度だった。
戦意が完全に抜けきった死体の事故現場を、入れ違いで帰ってきたディアに発見するまで物の見事に現場を維持していた。
ディアとの入れ違いというのもあって、完全に行き先のつかめないような状況に陥って数日が過ぎた。心配だとかそういうのはあっても、探しようがないことには動けない。
車や電車など、長距離移動の手段がないもので考えても、人間の何倍もの速度で走り回る魔物であり、並外れた体力を持ち合わせたマシーンなのである。俺がこれぐらいにまで逃げれるだとか、あいつならあそこまで走れるだとか、そういう定規は意味をなさない。
それ故に、打つ手がなく数日が過ぎてしまったわけであるが、逆に数日で行き先から連絡が入るという手間が省けるというか、拍子抜けのような結果が帰ってきた。
ぶら下げられた餌に群がる魚のように、言われたところにひょいひょい赴くことになる。久しい風景に思い出を掘り起こすことになる。
チェスタが遠出したところで、山の中にいるような野生まがいに生きるか、生きのこれる行き先などここしかないのだと、建物を見て灯台下暗しを感じる。
こんなに長いあいだいた場所が、思いつかないのは離れて数年経ってしまったということを記憶が語っている。建物は白色で、古いなどということはなくむしろ現代的である。
窓もそれなりについてはいるが、見えるのは廊下ばかりで建物の形も特殊的ではないために目的がはっきりとしない。他の建物と違うところといえば白衣の人間が多いところである。
出入りをしている人間から廊下の窓の向こう側にまで、いる人間はほとんど揃って白衣をきて資料を片手に持ったり、忙しく歩いている。
白衣を着ていないものなど例外という感じで、その例外もそれなりの数が歩いてはいるが、形が様々でこれもまた困ったものである。
離職してからも、研究は進んでいるようで様々な型番が生み出されて言っているようで、溢れ返っているようである。研究人に並んで立っているものから、ディアのように歩行する個体まで歩き方だけでも進化の分岐が見て取れる。
チェスタは実家に逃げ帰ったかのように、チューニング親のもとに駆け込んでいたらしい。
思い出のある場所でもあって、迷うこともなく入口をくぐってからも角を曲がって進んでいく。すれ違っていく相手は、人間なら頭を下げたり挨拶をしてくれるが、そうでない者たちは不思議と首をかしげた。
親とは言え間接的であるために、こういう接し方になるのが仕方ないとは言え複雑な気分はある。もちろんのこと、これ以上家に住む輩が増えてもらっても困るというはあるので、これで何ら問題はない。
久々に合わせる顔同士で挨拶をしていると知らない間に、目的の部屋にまでたどり着く。扉など、問答無用でそこに扉がなかったかのように払い除けて中に入る。
中には何食わぬ顔で、気にしてませんよと言ってくるチェスタ。もう片方はチェスタの設計親であろうか、あまり良く知らない顔だった。女性だということはわかるが、それだけである。
「お久しぶりです。」
「案外元気なようだな。」
お陰さまでと返事は返すものの、視線を返そうとはしない。横で見ている第三者はあははと苦笑いだけで手を振っている。
要は問題はないからさっさと出て行けということなのであろう。めんどくさいとはっきり言わないだけ良心的なのだろう。
何を言っても反感を買うだけなので、女性の方だけに会釈をしてから無言で部屋を出て行くと、不規則に動く尻尾を後ろに連れてチェスタも続いた。
ここまで来るときはそれなりに反応があった周囲も、帰りは雰囲気を察して道を開けてくれるだけなので随分と楽にラボを後にした。
廊下を歩いている途中に交わした言葉はゼロ、どんな顔をしていたかすら知らないがあれだけの本数のある尻尾をブンブン振り回していれば周囲も道を開けてくれるものである。
「お前、また変な迷惑かけたりしてないだろうな。」
「私のこと、心配してくれるんですね……。」
すかさずに振り返るとそこには間違えなくチェスタが後ろを歩いていた。偽物でも量産型の別物でもなく、本物であることには間違えはない。
新しくプログラミングでもされて内部構造が随分と変わってしまった可能性は、ここにきて濃厚になってきた。研究所に荒れ狂った生物が入り込んでこれば、最も楽にかつ確実に解決できるのは中身を変えることである。
頭でも打ったのかと心配してみても、外傷が見当たらないどころか逆に目線を合わせだしてくる。
「お前、頭いじったりしたのか?」
「私はそんなことしませんよ。されてませんし、記憶も全部あります。」
記憶自体を改竄されている可能性も疑いたくなるが、法的にもちろん禁止されている上に、睨み返されるとどうも言葉が詰まる。
前までの変わらない突き刺す視線が、不安を突き刺している。安心できない視線に、不安が取り除かれたようなそうでないような中途半端さに拳を固めた。
戻れない選択肢を選んで進んでいかなければならない緊張感を握りながら、その場に立ち直して咳払い。
「お前、ちょっと変わったな。」
「そんなことはないですよ?」
目だけじゃなくて頬まで少し赤くして視線から逃げ始める。エラーコードでも弾き出しているかのような異常である。
追いかけると交点ができないように赤い目が泳いでいく。耳はピンとしているのに、瞼は半分ぐらい立てれているという差。顔にもこれだけ矛盾があるとひっかかる。
空は赤色でなければ緑色でもなく、昼間の青色に違いない。空を背景に動いているのは雲ぐらいで、目に付くものはない。
そらした顔はもごもごと口が動いて、いこうことがあるのに切り込めないでもたついているのは見ればわかるほどにあからさま。
「お前、絶対に変だよな?」
「それは、その……色々とはっきりしたので。」
「言いたいことがあるなら、構わないから。」
「色々考えたんです、それでも好きなんだって。」
勿体ぶってくれるだけのことは言ってくれたようで、横目の先でしかとらえてくれていない。
男子でもないのに、数日合わないだけでこうも刮目しないとならないとは思ってもみなかった。この手の出来事は経験があるせいで、焦る素振りを見るタイミングを見失った。
「言ってしまえば案外楽なものなんですね。」
横目で見ていた視線がまるっきりこちらに合わないのに、何を基準に楽になったのかよくわからない。
「正直、悩んでいたんですよ。その、私雄ですから……」
秒を数える前にはえ?の一言が出てしまった。叫び声ほど大きくはなかったものの、目の前にいる相手ぐらいには伝わるぐらいの音波には違いなかった。
けれども、夢中なチェスタの耳は飾りと変わりなくてろくに機能しておらず、地面を見つめて思いつめている。
「でも、教えてもらったんです。こういうのは気持ちの問題なんだと!」
「関係あるから一旦落ち着こうな?」
「最初は見た目で間違って、雌っぽく設定されたときは困ってましたけど……」
前言撤回の申し出をしたところ、言葉を挟み込む隙間さえ見つからない。いつもは気迫に押されているだけなのに、今回はむしろ食いつき続けている。
地面から顔を上げてくれないチェスタを、どれだけ頑張って釣り上げようとしたところでも耳が飾りでは言葉では無理がある。
風に揺られて耳が動く程度で、物音を感知してくれている様子は丸っきりなくて、恋愛に夢中な乙女そのものである。
一度も性別を聞いたことはなかったのは事実だが、見た目から判断して錯覚していた。
調整ミスも大概にして欲しいものである。


やってみたかっただけなんです。


何かありましたら

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Last-modified: 2014-09-04 (木) 01:28:17
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