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誘掖

/誘掖

誘掖

作 ひぜん
絵 井物




名前を呼ばれボールが開かれれば、それはバトルの合図。
膝上ぐらいまで草が生い茂るフィールドに着地と決めると同時に片膝を着き、今まさに一戦を交えようと身構え、いつでも仕掛けられるよう主からの指示を待っている。

はずだった。

「「……?」」

この場にいる誰もが、俺の異変に気付くまでにそう時間はかからなかっただろう。
片膝を着いたまま立ち上がろうとせず、それどころか必死に何かを堪えるようにより低く身を屈めていれば、誰だっておかしいと思うはずだ。
既に相手の策略にはまってしまったのだろうか? 確かに、バトル中に使われる技には“交代時”に効果を発揮するようなトリッキーな技がいくつかある。
例えばねばねばネットという技なんかは、使った際にその場にいる相手に対しては何の効果も発揮しない。
入れ替わりにポケモンが出てきた際に、初めて相手を拘束、もしくは行動を制限させ動きを鈍らせるのだ。
他にも、どくびし、ステルスロックなど、同じようなタイミングで効果を発揮する技は意外と少なくない。
さて、いくつか技を挙げてはみたが、今俺が直面しているこの状況、原因はどれにも当てはまらない。
確かに、先発としてではなく交代という形で登場はした。だが、そこに蜘蛛の糸が仕掛けられているわけでもなければ、沼地のような足場の悪い条件でもない。
目前に広がっているのは、青々と茂る草のみ。
それに、仮にもこの状況が相手から仕向けられたものだとするならば、今対峙している相手トレーナーの顔に浮かんでいるのは、疑問符ではなく不敵な笑みかなにかであるはずだ。
では原因は何なのか。他に身体に負荷を与えるような可能性があるとすれば、毒などの状態異常が挙げられる。
しかし、それは答えに遠からずも近いとは言えない。身体の異常といえば異常なのだが、コンディションとしては絶好調な方なのだ。
そもそも、俺は自身の持つタイプに似つかわしくないしなやかな身体であるとはいえ、これでも鋼タイプの端くれ。よほど特殊な条件を満たさない限りは毒には掛かることもない。

「大丈夫かコゼット? 戦えるか?」

流石にこの状況を見過ごせないからか、主からも心配の声が掛かる。
決して戦えないわけではない。今こうして“隠している”間にも元凶が収まってくれたならば、すぐにでも本調子で動き回れるはずだ。
幸い、フィールドに広がる草原はある程度背丈があり、低い姿勢を維持していれば上手く誤魔化してくれそうだ。
相手と距離を取りながら戦っていれば転機も訪れるはず。
行ける、と伝える一声を吠え、主の方を見据える。
やや険しい表情をして悩んでいる様子ではあったが、覚悟が伝わったのか、ゆっくりと頷いて返してくれた。

「そのルカリオ、なんか調子悪そーだけど……、試合続行でいいのかしら? なら早速行かせてもらうわよ。ガーラ、ホネブーメラン!」

指示を受けると同時に、対峙するガラガラは右腕を大きく振りかぶってから、その代名詞でもある骨棍棒を投げ飛ばす。

「波動弾で迎え撃て!」

いきなり近距離戦に持ち込まれなかったことに安心しつつ、屈んだままの姿勢は変えずにすぐさま両手を構えて波動を練り込み、迫りくる棍棒を迎撃すべく解き放つ。

「甘い」
「っ……!!」

相手の剛腕から振り抜かれた渾身の一撃は想像以上に重く、波動弾がまるでゴムボールの如く簡単に弾き返される。
勢いこそ殺せたものの、このままでは直撃は(まぬが)れない。横方向に飛び込む様に回避し、すんでのところで(かわ)してみせる。
しかしまだ安心はできない。この技には帰りの一撃も含まれる事を俺は知っている。

「後ろからもう一撃来るぞ! ジャンプして躱してからもう一度波動弾! ブーメランに重ねろ!」

その指示の意図を俺はすぐに汲み取る。間違いなく、あのガラガラは戻ってきた棍棒をキャッチする。その瞬間を狙えという事だ。
棍棒こそが攻撃の主軸なのは明白。帰りのブーメランとともに迫る波動弾を見切るのは容易ではないはずだ。
仮に相手がブーメランを諦めて波動弾を躱されたとしても、その間相手は攻撃の手段を失う。そこへ透かさず次の一撃を入れればいい。
いずれにしても相手には隙が生まれる。そのチャンスを見す見す逃す手はない。
しかし、今の俺にはそれができない。具体的に言うならば、ジャンプをしたくない、この姿勢を崩したくないのだ。
すぐさま首を振ってできない事を主に伝える。

「なっ……! ならボーンラッシュで受け止めろ! その一撃をまともに受けるのは(まず)いぞ!」

今度は両手から波動を引き延ばすよう集中し、棒状の波動を形成。そうしている間にも再び迫りくる一撃にすぐさま構える。
しかし、咄嗟に作りだしたボーンラッシュでは作りが脆く、構えも甘かったためにその一撃を諸に受けてしまう。
その威力は凄まじく、身体を倒されるだけでは勢い止まらず、嗚咽を漏らしながら無様にも後ろに転がされる。

「そのまま剣の舞で受け止めて!」

息を整える間に戻っていく棍棒を、ガラガラは直接受け止めることはせず、あえて回転を加えたまま手の上で棍棒を躍らせている。
手から手へと受け渡し、宙に投げ、時には背面を通すように棍棒を遊ばせ戦いの舞を激しく踊ってみせる。
なるほど、技と技の組み合わせか……。単体では隙が大きく、相手からの攻撃を許してしまう剣の舞をホネブーメランと組み合わせることで、
攻撃をしながらも確実に舞い、能力の上昇を図っていく。敵ながら、やるじゃないか……。
しかし、感心している場合ではない。先程よりもよりアグレッシブになったガラガラをどうやって迎え撃つべきか。
素の状態でもこの威力。次に同じ技を受け止められる自信は正直、ない。
倒されても尚、片膝を着いて屈んだままの姿勢は崩せない。元凶をちらっと確認し、依然低い姿勢を解けないことに思わず溜息を漏らす。
くそっ。一体、どうすれば……。

「申し訳ない、このバトル……降参します」

その時だった。不意に後ろから聞こえてきた予想外の言葉に驚き、思わず振り返る。
諦めたように少し笑いながら、両手を肩の辺りにまで上げて降参を示す主に、思わず吠えかかってしまう。
――まだ戦える。
そう伝えようとしたのだが、穏やかな表情から一転、主は険しい表情に変わる。

「コゼット、このまま戦い続けるのは無理だ。頑なに動くことを拒否するほど体調が悪いなら、これ以上はバトルを続行できない。
 トレーナーとして、君にこれ以上の無理はさせられない」

違う、違うんだ。決して体調が悪いわけじゃないんだ……。
しかし、屈んだままの姿勢を崩せないのもまた事実だった。そう思うと、すごく惨めで、不甲斐ない気持ちで目頭が熱くなる。
ハイタッチをして勝利を喜ぶ相手を目の前に、俺は到底出し切ったとは言えない余力を、悔しさとともに何度も地面にぶつけるしかできなかった。
こいつさえ、こいつさえ顔を出さなければ……。






「まったく、私が繋いだ拳はあなたが地面を殴るために鍛えてあるわけじゃないんですよ?」
「ほんっとだらしねぇ奴だな。惨めな姿晒すくらいなら、俺様がエースの座についてやってもいいんだぜ?」

すっかり日も暮れ、昼の照りつける暑さから一転、夜の(とばり)が下り、大分過ごしやすい気温になった頃。
俺の周りには案の定、バトルでの“事件”を聞いて集まってきた仲間達からの心配の声……もとい、説教とクレームが飛び交い、非常に過ごしづらい空気に包まれていた。
実際、誰が見たってあのバトルの結果に納得できる者なんているわけがないだろうし、俺にはひたすら頭を下げて謝ることしかできなかった。

「しかし、一体全体どうしたというのですか?最近のあなたはらしくないですよ。覇気がないというか、何かに怯えているというか。
 バトルもたどたどしくて、とてもバトンを渡したいとは思えませんよ。それでもうちのエースですか?」
「ギンさんの(おっしゃ)る通りです……」

先程から、心配しているようで皮肉たっぷりに(なじ)ってくるこの方。赤と黒の模様に4つの拳が特徴的な種族のレディアン、ギンさんの言葉が
ボディブローのようにジワジワと効いてくる。拳の一つ一つはそれほど強くない代りに口の方が発達してしまったのか、
こういう時には本当に休む暇もなく攻め立ててくる。
ちなみに、拳だとかバトンだとか言っているのは、俺たち、パーティとしての戦略が関係してくる。
ギンさんは、戦うよりも場を作り上げる、補助的な仕事をこなすことに特化している。
例えばさっき言っていたバトンというのは、彼が先発に出てグロウパンチを使いながら能力上昇を図り、バトンタッチという技を使うことで
その能力上昇をそのまま交代先に引き継ぐことができるのだ。先程のバトルでも、俺が能力を引き継いだうえで登場した、というわけだ。
まぁ、その貴重な拳をぶつけた先が足元の土だけともなれば、仕事を遂行して託してくれた本人としては納得がいかないのも仕方ない。
俺よりも先輩であるし、言っていることも間違いではないので、どうしても頭が上がらない。

「レージもこんなひ弱な犬っころなんかエースにしないで、この俺様に任せてくれればいいんだよ!
 もうこいつは使いもんになんねぇ、俺様の時代到来ってわけだ!ハッハァ!!」

ちなみに、さっきからただただ五月蠅いこのグランブルも一応紹介しておこう。
早い話が、ただの前座だ。それだけだと可哀想だからもう一言付け加えておこう。馬鹿である。
反論したところで、ギンさんと合わさってめんどくささが増すだけだから一切無視でいい。

「あなたもいい加減、正面から突っ込むだけの脳筋スタイルを止めたらどうです?ホネブーメランに真正面から突っ込んで気絶する馬鹿がどこにいるんです?」
「あぁ?そのひ弱な拳でお前は何をしたって言うんだ?口数を増やす前にその貧弱パンチの回転数でもあげたらどうなんだ!?」
「そのひ弱な頭に私の戦闘スタイルを語られたくはありません」
「五月蠅ぇ俺にもバトンタッチしやがれ、話はそれからだ」
「い や で す」
「はいはい、ギンもグランツもそこまでそこまで。ちょっとコゼットに話があるから、喧嘩ならあっちでやってくださいね」

パン、パン、と良く知ったチャーレムが間に割って入るように手を叩き、睨み合うふたりを押しやる。
既に俺のことなんか見えてないふたりもあっさり退場してくれて、(ようや)く静かな時間が訪れる。

「ありがとう、助かったよベクター」
「いえいえ、彼らにいつまでも付きまとわれていては精神的にも休まらないでしょうからね」

そういうと、俺の座っている丸太に腰掛けて、適当な枝を拾い目の前の焚火をつつきだす。
彼も俺の仲間であり勿論一緒に旅をしているのだが、ポケモンとしてはちょっと立ち位置が違う。
どちらかと言うと、彼は戦闘ではなくトレーナーとしての役割を担っている。
トレーナーといっても、主のようなポケモントレーナーではない。言わばスポーツトレーナー的なものだ。
常日頃の体調管理などを見てくれて、バトルの後なんかには入念なマッサージなんかで体をほぐしてくれたり、俺たちには欠かせない存在だ。
恐らく、話と言うのも今日のバトルについての事だろう。

「で、どうだい。体調の方は?」
「うん、まぁ今は……大丈夫、かな。心配かけてごめん」
「それならいいんだ。いや、レイジさんが今、一生懸命君の不調の原因を突き止めようと必死に調べているからね。僕としても何とか協力したくて」

うん……、心配してくれるのはすごく嬉しいのだけれども、今回に限っては、心配されればされるほど反って辛いんだよな……。
勿論、自分の所為で仲間達皆に心配や迷惑を掛けているのは分かっている。分かっているさ。
皆からすれば原因が分からないから、なおさら混乱させているのもあるだろう。

「む、静かになっとったかや。わっちも混ざって良いかの?」
「やぁリベル。またいつもの森林浴かい?」
「ん、まぁそんなところかの。それに、あやつらがいたところに混ざっても話が(こじ)れて疲れるだけだからのう」

何所からともなく現れて俺の隣に腰を下ろすポケモンがもう一名。辺りが暗くなっても尚、存在感を放つ九つの尻尾と、
独特な言葉使いが特徴的なきつねポケモン。主の手持ちの中では最も古株のキュウコン、リベルだ。
キュウコンという種族は千年生きるとされるなんて話を聞いたことがあるが、事実、彼女は俺なんかよりもずっと長生きらしい。
時折、聞いたこともないような時代の話をしてくれたりもするが、それがまた歴史の勉強をしているようでとても面白い。
どのくらいの歳を重ねているかは流石に聞いたことがないが、かといって老いているというわけでもないらしい。
実際、焚火の灯りに照らされる毛づやを見れば、まだまだ若いと言われても納得だし、俺から見てもとても魅力的だと思う。

一旦話は逸れ、先程まで散策をしていたリベルの植物や木の実についての知識に花が咲く。
葉っぱの上に生る珍しい木の実を見つけたらしく、その実はとても小さいが甘く、春に咲かす花もまるで(いかだ)にちょこんと乗っているようで可愛らしいとかなんとか。
リベルは昔の話だけでなく、こういった木や植物についての知識も富んでいて、聞いていてとてもためになる。
やっぱり、先程退場された二名様……。いや、一名様と一匹には悪いが、この面子で話している時が一番楽しいし、心が落ち着く。
特に、こういう時に生き生きと話すリベルは、まるで世界をまだ知らぬ小さな仔に教えを説く母のようで、
感嘆の声を漏らす俺に嬉しそうにして見せる優しい笑顔に、安らぐと言うべきか、思わずときめいてしまうような感情さえ抱いてしまう。
先程の緊張感はどこへやら。揺らめく焚火を囲い、元凶のことなど忘れてしばしの間談笑していた。
和やかな雰囲気の中に身を置いていたならば、きっとアレも収まるかもしれない。

「でのう、昔は腹を下したときなんかは、その葉をオレンと合わせてすり潰して飲んで……。そういえばコゼット、おぬしも腹の調子が悪いんじゃったな?」
「えっ? あ、あぁ、まぁ悪いというか、……悪いかな。ははっ……」

そんなことを思っていた矢先。予想外の話の急転と再燃に、動揺を隠しきれない。
そういえば、なんてベクターにも再び心配の眼差しを向けられ、心安らぐひと時が一転、取調室の中にいるような緊張感に支配される。
……実際のところ、俺自身その原因はとっくに分かっているのだ。これさえ、これさえ収まってくれたなら……。
ちらり、と俺はお腹を押さえるようにして手と腿で上手く隠している股の部分を覗き見る。そして、未だに露わになっているそのピンク色に、深い溜息を漏らす。
そう、俺のここ最近の不調の原因というのは、これのせい。

――俺のモノが、勃ったまま収まらない。

そう。たったそれだけ。たったそれだけで、バトルを放棄し、仮病を使ってまで皆に迷惑を掛けている。
お腹が痛いわけではないし、ましてや体調など何処も悪くない。当然、ポケモンセンターで検診を受けたところで、何一つ異常は見当たらないわけだ。
詰まる所、これは体の問題というよりも心の問題なのだ。
そもそもこんなことになってしまったのは、大体ひと月ほど遡ることになる。
夕刻時に、ちょっと気分転換を図ろうと一人で河原を散歩していた時だった。
たまたま木の実を探しに来ていたという野生のチラーミィと意気投合し、旅の話題なんかで盛り上がっていた時だった。

「きゃあっ!?」

思わぬ悲鳴に、何事かと身構えたのだが、その目はなぜか俺に向けられている。
何が起こったのかいまいち状況を飲み込めずにいる俺に対し、彼女は口を押えたままちらり、と俺の股を見ては、罪人を見るような目でこちらを睨みつけてくる。
その意味がよく分からず、釣られるようにして下を向いてみると、そこにはひょっこりと股の間から顔を覗かせている、いつもとはちょっと違うピンク色の勃ったモノがあった。そして。

「あなたって、そういう目で私を見ていたのね。……もう近づかないで、変態」

チラーミィの言葉が俺に与えたダメージは計り知れなかった。
そもそも、初めてのその身体の変化が訪れるタイミングが最悪だったのだ。よりにもよって、初対面の、それも雌を目の前に勃ってしまったということが。
そのせいで、俺の中では勃起することは変態であると刷り込まれ、同時に汚らわしいことなのだと考えるようになった。
しかし、いくら汚いものだと思っていても、その日以来俺のモノは意思に反して度々顔を覗かせるようになる。
場所が場所だけに、そんな身体の変化を誰にも相談することができず、気が付けば状況や時間を選ばずに勃ってしまう程、自分でもコントロールが利かなくなっていた。
日に日に事態が大げさになっていき、今更誰にも聞けなくなってしまったというのもある。結果、今に至るわけだ。

「良ければ、私にもちょっと身体を調べさせてくれないかな? ひょっとすると、内蔵器官だけじゃなくて神経の問題かもしれないし、今一度調べてみたいかなって」

そんな言葉とともにベクターに肩に手を掛けられ、思わず毛を逆立ててしまう。
これまたタイミング悪く勃っている今、苦し紛れな言い訳とともに、どうにか断るしかない。今調べられたら、確実にバレてしまう。
百歩譲って、ベクターならまだ分かってくれるかもしれない。しかし、今この場には雌のリベルまでいる。
もし見られてしまったなら―― あの時のチラーミィの反応が頭を過ぎる。
そうなってしまったら最期、二度とこの旅を仲間たちと過ごすことはできないだろう。
三にんで他愛もない話に花を咲かせたり、主やギンさんとバトルの反省をしながら作戦を練ることもできない。グランツに弱みを握られ馬鹿にされるなんて言語道断だ。
しどろもどろに断ろうとする俺に懐疑的な目を向けられつつも、あくまで俺を尊重してそれ以上は踏み込んでは来ないベクターに表面上謝りつつ、どうにか話題が下火になるよう心の中で祈る。
しかし、その時の俺は気が付かなかった。ベクターに悟られないように必死になっている俺の横で、じっとある一点を見つめている彼女の視線に。

「こういうのは、長引く程後が怖い。気が向いたらと言わず、なるべく早く診せて欲しいかな」
「うん、本当にごめん。ああそうだ、ちょっと気分転換に散歩にでも行ってこようかな? うん。きっと体調も良くなるに違いないから、うん」
「なんじゃ、そういうことならわっちも着いて行っていいかや?」

え゛っ、なんて、あからさまに上ずった声を漏らしてしまい、慌てて取り繕うように咳払いで誤魔化し、空笑いしてみせる。
流石に無理があったか。ベクターの眉間に寄った(しわ)がさらに深くなり、首まで傾げられてしまう。
しかし、リベルは特に気にする様子でもなく、穏やかに笑って見せながら続ける。

「先程な、丁度よさそうな薬草を見つけたんじゃ。もしかしたら、今の悩めるおぬしには効果抜群かもしれぬぞ?」

こちらの返事など待たずに、既に腰を上げて彼女は着いていく気満々と言った様子。
ここで、やっぱり気が変わった、なんて彼女の好意を裏切ってでも逃げるべきだったのだろうか。しかし、これ以上の逃避は自殺行為であるとベクターの皺の深さが物語っている。
上手い言い逃れも思い浮かばず、渋々首を縦に振るしかなかった。
決まりじゃな、と言い先陣を切って夜の森の暗幕へと歩を進めていくリベルと、気持ちだけ距離を置いて俺は着いていくのだった。






鬱葱(うっそう)と生い茂った森の中、というよりは、青葉の天井から月が余裕を持って顔を覗かせられる程度には多少開けた森の中。
まるで、隙間から流れ落ちる月明かりによって拓かれたように踏み固められた獣道を進んで、どのくらいの時間が経過しただろうか。思っていたよりも目的の物は奥にあるらしい。
しかし、歩いている間に一切会話は交わされていない。正直言って、かなり気まずい。
相変わらず、俺は離されず近づき過ぎずの距離感を保ったままだったというのもあるのかもしれないが、かと言って変に振り向かれて勘ぐられるのも避けたい。
わざわざ墓穴を掘る必要もないだろう。それに、リベルからも別に何か話しかけてくるような様子はない。
リスクを負ってまで、無理にこの静寂を破ることもない。今はこの流れに身を任せて、その薬草とやらがあるところまで着いていけばいい。
どうせ、なんて言葉を使うのは、俺のためを思って動いてくれたリベルに物凄く失礼ではあるのだが、それでも俺のモノを治めるには程遠い、的外れな効能なのだろう。
もし、そんな願ったり叶ったりの薬草が都合よく在ったのならば、今すぐにでもこの汚らわしい愚息に塗りたくってやりたい。
それにしたって、いい加減にその愚息にも引っ込んで貰いたいところなのだが……。こうしている間にでも治まってくれたのならば、どんなに気が楽になることなのだろう。
しかし、バトルの時もそうだったのだが、ソレは断固として潜り込むことを拒否し、それどころか、リベルと二人きりになってからまるで誇示するかのように、より膨張したように感じる。
今だって、そいつは顔を覗かせようとムクリと反応しそうになるが、そのような真似は絶対にさせまいと息を止め衝動を押し殺そうと一人孤独に格闘する。
そんな俺を知ってか知らずか、依然リベルは振り返ることもなく、軽やかな足取りで前へ前へと進んでいくのだった。



「ふむ、大分奥まで来たかのう」

数十分は歩いたのではないかと思うほどの長い道のりを経て辿り着いた先で、足を止めたリベルによって漸く長い沈黙が解かれる。
数歩ばかり遅れて彼女のやや後ろに並んでみれば、そこにはぽっかりと空いた、洞窟とはまた違う小さな空間が広がっているようで。しかし、外界からの光はほぼ遮断され、中の様子をうかがい知ることはできない。
流石に月明かりだけでは見えづらいと、リベルはおもむろにいくつかの尾を持ち上げ、その先端に怪しげに揺らめく鬼火を灯して空間の中へと放つ。
すると、黒い(もや)が取り除かれ空間の中が明らかになる。照らされた中はまるで一つの箱庭のような別空間が映し出されており、その現実離れした美しさに思わず目を見開いてしまう。
円形状に広がるその空間の足元は緑で覆われた天然の絨毯と、水玉のように散りばめられた色とりどりの小さな花たちが。そして周りを囲む様に生える木々は、一度外側に向かい、再び頭上を目指しアーチを描くように伸びている。
ドーム状に形成された天井を追って顔を上げて見れば、そこには幾つもの木の実がまるで星のようにたわわに実っており、(さなが)ら天然のプラネタリウムのようだ。
天頂には、そこだけぽっかりと穴が開いており、そこからは銀箔の月明かりが滝のように流れ落ちる。
月光が注がれる先に目を向けてみれば、中央に陣取るゴローニャの背中を彷彿とさせるような球状の岩がずっしりと構えており、表面は(みどり)色の苔が、元のゴツゴツとしているであろう荒い岩肌をふんわりと優しく覆い隠す。
不意に、中央に向かって歩いて行くリベルに、つられるように着いていく。
遠目では気づかなかったが、その岩の上は、まるで誰かが磨いたのではないかと思うほど綺麗な擂鉢状(すりばちじょう)となっており、底の割れ目からはこんこんと水が湧き上がっていた。
波打つ水面には、もう一つの光り輝く球体が波紋に歪み映されており、それを確認しようと今一度見上げてみれば、先ほど見えた穴に蓋をするように満月が重なって見えた。

「我ながら、なかなかいい場所を見つけたと思わんかや? このような秘密の園は、そう滅多にお目に掛かれるものじゃありんせん」

その言葉に、俺は無言で頷くことしかできなかった。言葉にできない、とはまさにこういう時の事を言うのだろう。
ここで初めて、湧き出る水の音で思いだしたように俺の身体は喉の渇きを訴えていることに気が付いた。
流石に長時間歩いたせいもあってか、喉の奥がからからとスレて辛い。
それは隣のリベルも同じだったらしく、そっと岩の(さかずき)に顔を近づけ、水面に映える満月に口付けをかわした。

「ぷはぁ~っ、生き返るのう。コゼットも一口どうじゃ?」

断る理由もない。お言葉に甘え、無意識に手のひらを使って底に沈む月を掬おうとしたところで、我に返る。
今両手を解放したら、完全にノーガードになってしまうではないか。
一瞬だけ悩んだ末、現在の前方で組むようにして股間をさりげなく隠している両手はそのままに、お辞儀をするように顔を下ろして水を飲むことにした。

「くっ……ふふっ……。何も、飲み方までわっちの真似をせんでもよいのじゃぞ? 頭の固いやつじゃな」

やはりその飲み方には違和感があるらしく、呆れた様に笑われてしまう。仕方がないと自分に言い聞かせつつも、やはり恥ずかしい。

「それはまあさておき。なかなかに長い距離を歩かせてしまったが、腹には響かんかったかや?」

ここで久方ぶりに本来の目的を思い出す。それでもある程度予想はしていたため、今度はあからさまに動揺するようなことはない。
大丈夫、とだけ返すと、いよいよ本題を切り出される。

「いやな、一緒にここに来たのは他でもない、おぬしについて気になることがあったからじゃ。わっちとて、今の状況を黙って見過ごすことはできんでな」

とりあえずそこに腰掛けてくりゃれ、と言われ、丁度よさそうな丸肌の岩の上にそっと腰掛ける。
その岩も例外なく苔に覆われており、触れた部分からは苔のしっとりとした感触が伝わってくる。
そういえば、確か着いてくるときに、実際には案内されてきたのだが、その口実にあげられた薬草とやらはどうなったんだろうか。少々、思っていたことと話が違う。
考えを巡らせている間にも、リベルも続くように隣にお座りの姿勢を取って落ち着く。いつもよりも近くに、お互い触れ合う程の至近距離。
片腕に触れるサラサラの毛並の感触と、(ほの)かに香る彼女の匂いに反応し、手の中でソレが一瞬だけ暴れるのが分かった。
何やら只ならぬ予感に、一抹の不安を覚える。最悪なことに、不安はいよいよ現実のものとなってしまう。

「単刀直入に言おう。具合が悪いというのは、本当に、その抑えているように見える腹の方なのかや?」

突然の核心を突いた鋭い一言に、俺の背筋は一瞬にして絶対零度が走ったように凍りつく。
まさか。そんな。何でよりによってリベルが。

「かと言って、誰かに構ってもらいたいがためにそのような演技をしているわけじゃあるまい?
 おぬしが、そんな気弱で愚かな行為を働くとも思えぬ」

リベルが振りかざした推理の刃は、俺が必死で塗り固めた嘘の皮を着実に剥いで行く。
その一刀一刀があまりにも的確で、それでいて広範囲を一気に削いでいくため、新しい嘘で補填(ほてん)する暇も与えられない。
剥がされた嘘の中にはプライドも張り巡らされており、刃が通る度に断ち切られ、そのショックで視界は歪み、思考は滞る。
ああ、ダ、ダメだ……。お願いだリベル、もう止めてくれ。それ以上は、それ以上は本当に。

「おかしいと思わぬか? 体力としては十分に回復しておる状態で、それなのにコンディションとしては常に下を向いておる。それもここのところずっとじゃ。
 かと思えば、センターでの健康チェックには何の問題もないと出ておる。ベクター直々のチェックですらもじゃ。健康中の健康、それも折り紙つきじゃ」

血の気は引き、冷や汗が流れ、身体は小刻みに震える。バトルで経験するような武者震いとは全然違う、これは戦慄と言うべきか。
崖際の攻防、いや、既に崖の先端に立たされているような、まさに崖っぷちの状況に焦りなど隠せるはずもない。
それでも何とか落ち着かせようと、身体は多量の酸素を求めて口を開くが、上手く取り込むことができず息はますます荒くなるばかり。
隣に座るリベルから伝わる温もりは、反って身体を震わせ骨の髄まで凍えさせているのではないかと錯覚させる。
そして、その刃はついに最後の薄皮を捉え――

「おぬしが隠しておるのは、その抑えている腹、と言うよりも……、添えられている股座(またぐら)のことではないかや?」
「っ……!!」


嗚呼。


俺は今、どんな顔色をしているのだろう。深い傷を負い被覆を失ったプライドはショートし、火花が散るほど真っ赤になっているのだろうか。
いや、蒼色の肌からさらに血の気が引いて、房も棘も残るところなく真っ青になっているのだろうか。
頭に直接撞木(しゅもく)を打ち付けられた様に意識は震え、あれほど荒かった呼吸は静かに、
命間もない終り察した者のように浅く、小さく。

「その様子じゃと……。図星、と言ったところかや?」

そうだ。そうだよ。俺は、どうせ俺なんか。
バトル中にも関わらず興奮しモノを勃たせているような変態で。
四六時中ソレを曝け出しているような露出魔で。
おまけに皆に嘘をつき続けてきた愚か者で。

「む……。ど、どうしたんじゃコゼット……? おぬし……まさか、泣いておるのか?」

ついに堪えていた涙腺も決壊し、ボロボロと頬を伝い流れ落ちる。
自暴自棄になり、混乱は自傷を招き、自らの存在を悪と決めつけ袋叩きにした正義の心はその悪を討とうと自分自身を叩き続ける。
もう、俺の中には何も残っちゃいない。

「落ち着け? 落ち着け? な、なにもおぬしを愚弄しているわけじゃないんじゃ!? まずはゆっくり深呼吸するのじゃ」

背中にふわりとした物が幾つか触れ、俺の頼りない背中を優しく擦ってくれている。
心配そうに覗きこむ顔が、声が、その意味がよく理解できない。
何で、無様な俺を彼女は(さげす)まないんだ。
もうとっくに分かっているはずだ。俺が隠していた物も、嘘も。今まさに顔を出していることだって。なのに。

「大丈夫……、大丈夫じゃ。わっちゃあおぬしを嫌いになったりはせん。どこにも行ったりはせんから、な?」

淀んだ視界からでも分かる。彼女の目は、あの時のチラーミィが向けたようなそれではないことを。
蔑んだり、小馬鹿にすることもせず、まるで本当の母のように寄り添ってくれる。
頬を伝う冷たい川跡を、リベルは忠実(まめ)やかに舐めとってくれた。
嘘と言う余計な皮を剥がされた俺の心に伝わってきたのは、皮を剥いだ刃の冷たさではなく、彼女の、本当の優しさと暖かさだった。
初めて、直に伝わり感じた彼女の心に、俺はついに最後まで隠そうとモノを覆っていた手をそこから退けた。
久々に隠す以外の理由で動かされたその手で、リベルが舐め取ってくれた方とは逆から溢れる塩っぱい雫を拭う。
もう彼女の目にも留まっているはずだ。こんな時だというのに、元凶はまるで楽しむ様に、(ある)いは、爆発する感情に呼応するように、何度も大きく反応して見せる。
それでも、彼女は(いと)わしい表情など一切見せない。その事実に、初めて俺は頑なに閉ざそうとしていた心を開くことができた気がして。
朦朧とする意識でふら付く頭を抱え、今まで抱えてきた不安や恐怖を全て吐きだすが如く、声を上げて泣いた。
その間も、リベルは離れずに、子供のように泣きじゃくる俺をあやす様に静かに背中を擦り続けてくれていた。







「コゼットや。要は、おぬしは健康的すぎるのじゃ。ただ、何をそんなに恐れておったのかや?」

流石にただ事じゃないと思ったのだろう。
溢れ出る感情も大分治まり、嗚咽も落ち着いてきたところでそう切り出される。
ついに俺は、初めての身体の変化が訪れた日の事を。それは汚らわしいものだと思っていたことを。
皆に嫌われたくなくて、馬鹿にされたくなくて、ずっと一人で我慢してきたことを。全ての真情を吐露した。
「そうじゃったのか……。わっちゃぁてっきり、本当に具合が悪いのではないかと心配しておったんじゃぞ? まったく、驚かせおって」

余計に事実を拗らせてしまった反省も含め、謝罪の言葉とともに深く頭を下げる。
でも、彼女は別に怒っているわけではないようで。むしろ、やっと原因が分かってほっとしたような、安堵の笑みを浮かべているようだった。 
 
「なに、年頃というやつじゃ。何も特別、異常なことじゃありんせん。おぬし、いや、性別に限らず、誰しもが通る道。わっちだってそうじゃった。
 しかし、なんじゃいそのチラーミィも。その程度で蔑むだなんて、器の小さい奴じゃ。
 逆に、雄をその気にさせた事を逆手にとって仕掛けてくるぐらいの度胸を見せるべき、そうと思わんかや?」

流石にその問いには答えかね、代わりに頭を掻く事しかできない。

「まぁ、タイミングが悪かったというべきか、おぬしが変に難く考えすぎとるだけじゃ。誰も馬鹿になんかせん。
 あぁ、グランツだけは別じゃったか。あやつはこう、すぐ調子に乗るからの。しゃべらんかったのは正解じゃと思うぞ」

何だか、俺が思っていたよりも深刻なことではなかった事に、拍子抜けしてしまったというか。無駄に構えすぎていたらしい。
こういうことだったならば、初めからリベルに相談しておけばよかったとすら思う。
いや、あの時は知らず知らずのうちに勃っていただけで、流石にいきなり自分の陰部を異性に見せつけられるほど俺も図太くはないのだが。
でも、どこかで開き直る勇気があったのならば、こんな大事になんかせずに済んだのだろうか。

「ううむ、それにしても……、随分立派なモノを持っておるではないか。思っていたよりも雄々しい……」

不意に関心するような言葉を投げかけられ、ハッと思いだしたようにモノを再び覆い隠す。
いくら見られてしまっているとはいえ、流石に雌を前にしていつまでも晒し続ける程変態ではないし、それくらいの羞恥心はまだ残っている。
避けられるのも辛いが、かといってそんなに興味深そうに見つめられても……。
褒められているのかもしれないが、その言葉を素直に受け取って喜べる気はしない。

「ところでコゼットよ。そんなに日々に支障が出る程思い悩むのに、自分で発散しようとは思わんかったのかや?」

発散、か。正直原因がよく分からないから、どうやってこの衝動を抑えればいいかも分からなかった。
ストレスに対してみたいに、全力で身体を動かせば発散できるわけでもなかったし、その手段を俺は知らない。

「おぬし、まさか……自慰をしたことがないのか?」

聞いたこともない単語に、俺の頭の中では年老いた雄しか思い浮かばない。
分かりやすいほどに疑問符を頭上に浮かべ首を傾げると、リベルは驚いたように目を見開く。

「いや、確かにそういう事が出来るタイミングが少ない環境とは言えど、まさかその知識もないとは……」

途端に、何だか憐れむような、とても難しい表情のまま俯いた。何か不味いことを言っただろうか……?
じい、という単語の意味が分からなければ、なぜそのような顔をされるのかも分からない。
少しの間だけ訪れた気まずい空気を、すぐ横で沸き続ける水の音が綺麗に洗い流してくれたのは幸いだった。
そして、ふとリベルは何かを思い立ったように顔を上げ、至って真面目な表情でこちらに向き直る。そして。

「本来ならな、自慰を行うことで、自らの欲求を発散するのじゃ。今おぬしが悩んでおる衝動や、日常のストレスなんかも、その行為で発散できんこともない。
 まず、自慰というものはおぬしが先ほどまで思っておった、汚らわしい行為などではないということを心に刻んで欲しい」

無言で頷いた俺を見て、リベルは一度咳込んでみせてから、一度深呼吸をし、少し顔を赤らめた様子で覚悟を決めた様に切り出す。

「追いつめてしまった詫び、というわけじゃないが……。自慰を教えてやらんでも……、
 いや、もしおぬしが良いと言うのであれば、その、な……。
 わっちが、直におぬしを……慰めてやってもよいぞ?」

恐らく、今の俺を介抱してくれる。俺はそういう意味で受け取ったのだが。
言葉の一つ一つに隠された意味がまるで理解できず、それでいて彼女の今まで見せたことがないような艶やかな表情が俺を更に困惑させる。
慰めるとはなんだ? 先ほどまで俺はまさにその施しを受けていた気がするのだが、それとはまた違うことなのだろうか。
相変わらず今一つな反応しか見せない俺に、リベルもすぐに察したようで、くふっと諦めた様に苦笑いする。

「そういう意味じゃありんせん」

そういうと、徐に顔を近づけ、まじまじと顔を覗きこんでくる。彼女の息遣いが聞こえる程、今にも鼻と鼻とがぶつかりそうな距離に心が揺れ、思わずたじろいでしまう。
ふわりとした彼女の甘い香りに、思わず手で覆っていたモノが反応するのを感じ自然と覆い隠す手に力が入る。
注意が下に向いた次の瞬間だった。俺の口は、彼女の柔らかな感触でそっと塞がれていた。

何が起こったのか理解するのには、かなりの時間を要した。
それが、“キス”と言われる行為であることぐらいは、流石に俺も知っていた。
知っていたからこそ、どうしてリベルが俺なんかにその味を贈ってくれたのか、まったく理解できない。
頭の中が(ふけ)り、口を開けたままぽかんとしている俺を余所に、彼女は名残惜しそうに口を離す。
そして彼女の視線は、一度は解けた股を護る者へと向けられる。
一瞬の出来事に力が抜けきった甘いガードを、鼻先でいとも容易く退けてみせ、そして――

リベルが、自らの舌を使って、俺のモノを舐め上げた――!?

少しだけ紅潮した顔で視線だけで見上げながら、いきり立つ肉の棒を根本の方から丁寧に上へとなぞりあげていく。
間違いなく、彼女は自らの意思で、俺の愚息に舌を這わせ、下から上へと(ねぶ)ってみせた。
たった一回なぞられただけなのに、全身の力が溶かされ抜けていくような初めての快楽と、
到底口に含めるとは思えないところを舐められた衝撃に俺は瞬く間にパニックに陥る。
混乱状態の中で理性はけたたましい警告音をたて、俺は理性の非常ベルを止めようと慌ててリベルを引き離そうとする。

「うぐっ……!! な、何するんじゃ……」

焦りのあまり、闇雲に振り回した手で彼女をもろに()ってしまった。
意図的ではないとはいえ、手に残る強打の感触に、自責の念を感じずにはいられない。やってしまった――のだが。
同時に、痛そうに片目を瞑り涙目でこちらを見つめる彼女に、不覚にも抑えかけていた興奮が燻ぶってしまう。
一言に、可愛い。

「ご、ごめん……大丈夫?」
「むぅ……、流石に今のは痛かったぞ……。いや、身持ちが堅いおぬしのことを考えんかったわっちに非があるが……。すまぬ」

打ったのは俺の方だというのに、逆に謝られてしまう。いや、理由が理由ではあるものの、これは俺の不注意が悪いのであって、反省すべきは俺の方だ。
それよりも、今し方してみせた彼女の行為。俺にはそちらの方が理解できず、聞かずにはいられなかった。

「ど、どうして突然キスなんか……」
「気分を高めようと思うてな? つまるところ、自慰じゃとか、慰めるというのは、おぬしのモノを刺激してやることで
 性的な欲求を直接発散するということじゃ。気持ち的にも(たかぶ)っておれば尚良いんじゃ」
「いや、でも……こんなところを触るなんて、()してや口でなんて」
「言ったじゃろ? 汚いものなんかじゃないと。
 生憎、わっちゃぁおぬしのような器用な手を持っておらんでな。これが最善なんじゃ。それに、口でされた方が気持ち良いと言うぞ?」

そういう問題なのだろうか……。言っていることは間違っていないのかもしれないが、どうも最後の一言が俺を素直にさせてくれない。

「しかし、どうするかや? おぬしが嫌だと言うのであれば、わっちも無理にとは言わん。
 じゃが、このまま放置しとっても、おぬしの怒張はいつまでも解けぬぞ。
 勿論、今ここでおぬし自身で済ませるというのであればそれでもよいし、必要とあらばわっちもこの場を一度離れよう」

その提案に、正直俺はかなり迷っていた。
自慰の意味、やり方はとりあえずは分かった。要は、この治まりのつかないモノを(しご)くなりして刺激を与えればいい。そうすれば治まるのだろう。
それならば自分でだってできそうだし、むしろそのようなことは本来、他に頼まず自分で済ませるべきなのかもしれない。
でも、あの時に感じた柔らかい感触、一瞬だけれども走った快感、その先に待っているのであろう甘美な世界を、俺の中の本能は確かに求めていた。
それは決して、自分一人ではもたらすことのできない体験であることも分かっていた。
しかし、そんなに簡単にリベルの提案に乗っていいのだろうか。
こんな簡単に頼めるものだというのなら、あの時のチラーミィに向けられた目は一体なんだったというのだろうか。
トラウマとも言えようチラーミィから向けられた目と今の状況に矛盾が生じ、どうしてもあの時の恐怖が先行する。

「そもそも……、わっちじゃぁダメじゃろうか……?」

不意に聞こえた、どこか弱弱しい言葉に思わず目を丸くし、彼女を見つめる。
俯き気味に、これまた見たことないような彼女の寂しそうな表情に、咄嗟に首を横に振ってから、直後に素っ頓狂な声を漏らしてしまう。
しまった……。これでは、彼女の誘いにのってしまったのも同然ではないか。
しかし、「本当かや?」なんて嬉しそうに言われてしまうと、今更覆すのも躊躇われる。
顔が更に火照るのを感じながらも、俯いて逃避する以外にどうしろと言うのだろう。
ダメなわけがないじゃないか。むしろ、リベルにそんな誘いを受けながら断ってしまう方が罪深いくらいだ。
そうじゃない、リベルが良いかどうかじゃなくて、俺がいいかどうかの問題なんだ。
旅の仲間を、いつも一緒に他愛のない話で笑いあえる彼女を。壊してしまわないか、今までの関係を崩してしまわないか。
それが、ただ怖かった。

俺の心の中の葛藤を見透かしたように、リベルは屈託のない笑顔で言う。

「恥ずかしいなんて考えはいらぬ。それに、おぬしが頼ってくれるというのならば、わっちゃぁむしろ嬉しいくらいじゃ。
 その気ならば、心置きなく身を任せてくりゃれ」

気心が知れた仲でなければ、或いはリベルが魅力的な雌でなければ、いや、そもそもそのどちらも満たしてなかったならば、こんな選択は絶対しなかったに違いない。
後戻りはできない選択を取ろうとしている。でも、このタイミングを失ったら、もう二度と訪れることはないだろう未知の世界への誘惑。
引きずり込まれ、それまでの関係が破綻するかもしれないという恐怖は、彼女がゆっくりと、寄り添うように消し去ってくれた。
ならば、取るべき選択肢は――
だからこそ、ついに俺は、首を縦に振ってしまった。

「ふふ、折角の機会なんじゃ。そんなに固くならずに、力を抜いて楽にしておれ」
「う、うん……」

おどおどとした俺の返事を皮切りに、リベルは再び俺のモノに顔を近づけ、品定めをするように眺める。

「くふ。今度は打つでないぞ? もし、我慢できなくなったならば……遠慮なく中に出してくりゃれ?」

世界が揺れる程、俺の心臓は高鳴っている。今度こそ、俺が見守る目の前で、リベルは直接俺のモノを慰めようとしている。
俺の股の間に顔は(うず)まり、頬を赤らめながら上目遣いでこちらを見ているという夢のような光景に、
まだ抜けきらない背徳感を覚えつつも興奮は最高潮に達し、これからを目前にして既に意識を失いそうだった。そして、間もなく訪れるであろうその快感を静かに待つ。
暫しの沈黙の後、彼女はおもむろに舌を出し、再び俺の愚息にそっと舌を這わせる。
唾液をたっぷり絡め、先程と同じように、まずは丁寧に裏筋をなぞる様に、チュプリと根元から先端へと舐っていく。
たった一回だけの往路の動きで、俺の身体には一度中断させてしまった快感が瞬く間に駆け巡り、青の被毛が溜まらず逆立ってしまう。
初めての快感に悶える俺の様子に彼女は嬉しそうに笑うと、もう一度舌を這わせては先っぽまで舐め上げてという動作を繰り返していく。
攻める角度を変えながら、右側を、左側をと何度も、執拗に攻め立て、
かと思えば、今度は舌先を使ってモノの先端をチロチロと舐めて見せたりと、色々な動きを混ぜて様々な刺激を与えてくる。
リベルに手懐けられすっかりご機嫌となった愚息は、丁重な施しに酔いしれ、喜ぶように何度も反り返る。
俺自身、次から次へと這い上がってくる心地よさに、息も絶え絶えに天を仰ぐことしかできない。
これが、慰めて貰うという気持ちよさなのか。刺激が、景色が、罪悪感に混じる、優越感とも加虐心とも違うような胸の高鳴りが、すべてが癖になりそうだ。

「ふふっ、可愛い顔をしおって」

そんな様子に気を良くしたのか、今度は彼女の唾液でぬらぬらとするモノを両前肢で挟む様にし、ふわりと咥え込み口内に深く沈めていく。
夜気に包まれる世界から一転、彼女の温かな舌に包まれ、その生温かさで腰からとろけ出るように力が抜けていく。
今まで行き場なく塞ぎ込まれていた俺自身が、リベルの口の中でよしよしと優しく包み込まれあやされる。
初めてという羞恥心で凝り固まっていた肉塊が、昂る情熱で温められながら丁寧に舐めほぐされていく。
だらしなく開いているのは上の口も下も……。その時、ふと俺自身が何かを吐出しようとするような、込み上げてくる衝動を訴えていることに気が付く。
そこから吐出するものと言えば経験上一つしかなく、快感に()がりながらも、これ以上は止めさせるべきだとほぼ全壊に近い理性が必死に叫ぶ。

「リベ……ル……! はぁっ……これ以上は……あっ」

呂律が回らない中必死に訴えようとしたのだが、リベルはモノをしっとりと包み込んだまま上目遣いで見つめるだけ。
暫くして、先ほど彼女に言われたある言葉が脳裏を過ぎる。

――『遠慮なく中に出してくりゃれ?』

「!! そ、そういうこと……ふぁっ!?」

漸く思いだした様子の俺を確認し、まるで「そういう事じゃ」と言わんばかりに目を細め、再びモノへと刺激を始める。
クチュッ、チュプッなんて淫らな音を立てながら、比較的ゆっくりと、慣らす様に滑らせていく。
さっきまでの部分的に触れていただけの温かさが、今度はモノ全体に纏わりつくようになったことで、走り抜ける快感は先ほどまでとは比にならない。

「んっ……むぅ……」

ちゅぷちゅぷとわざとらしく響かせる淫らな水音に、時折漏れてくる彼女のくぐもった声が重なり反響し、脳内に染みわたる。
次第にその上下する動きはエスカレートし、ジュップジュップと音を激しく変えていきながら加速していく。
ゆっさゆっさと忙しなく動かしながらも、時折こちらの反応を窺い楽しむ余裕もあるようで。
対称的に、今にも漏らしてしまいそうな恐怖と戦いながら、腰から砕け堕ちないようにと快感に喘ぎながらも必死に踏ん張る俺には、到底そんな余裕は感じられなかっただろう。
そこに吸い上げるような力も加わり、ついに俺は限界を迎える。

「やっあぁっ……! で……っ! 出る……!」

放尿感とも違う、初めて襲い来る衝動に身体が仰け反りそうになり、丸石に座っているだけで背中に支えの無い俺は、何とか倒れまいと無意識にリベルの首に両腕を回し、力なく抱え込む。
それを合図と言わんばかりに、そのまま彼女は一気に吸い上げるようスパートをかける。
次の瞬間には、電撃が走り抜けたような感覚とともに、俺は初めての射精を迎えていた。

「んっ……んく……」

精通を全て口で受け止め、尚治まることを知らない欲望を、リベルは悦に浸った表情でコクコクと飲みこんでいく。
今俺がまさに放っているものを飲んでいるという事実に衝撃を受けながらも、
まるで乳を吸う赤子のように一生懸命に俺のモノにしゃぶり付き続ける姿があまりにも淫乱で。
それに、予想に反して口の中に出すという行為が、舌から伝わる感触もそうなのだが、これがまた精神的にもかなり心地よいのだ。
いっそ、喜んでくれるのならばと開き直った俺は、栓を閉めないどころか、もっと飲めと言わんばかりに躊躇わずに彼女の中に流し込んでやる。
(ようや)く治まりがついた頃に、彼女は満足そうに俺のモノから口を離してくれた。
その際に、見せつけるように口を開いて舌を出す。すると、舌には白濁とした液が絡まれており、やがて重力に従いトロッと流れ、滴り落ちていった。
それが先程彼女の口内に放った液体なのだという事は自ずと分かった。
今までそこから出ていたものとは違うその白濁液に、息を荒げボーっと(とろ)けるような目で見入ってしまう。

「これが、おぬしの子種じゃよ。これを雌に注ぐことで、新しい命が宿るんじゃ。どうじゃ、汚いものなんかじゃなかろう?」

なるほど……、とどこか納得すると同時に、彼女の赤らんだ顔に少しだけかかった白のコントラストが何だかとても艶めかしくて、再び胸が高鳴るのを感じる。
気が付けば、先ほど達したばかりで折角収縮しかけていたモノはあっという間に硬さを取り戻していた。

「くふふ……。相当溜まっておったんじゃな。すごい量じゃったというのにもう硬さを取り戻しておる。
 これだけ溜まっておったんじゃ、そりゃあ気もおかしくなるわい。どうじゃ、気持ちよかったじゃろう?」

元気を取り戻したそれを鼻先でツンと突かれる。身も蓋もないストレートな質問に、恥ずかしさのあまり思わず目を背けてしまう。
無言の抵抗は肯定を意味しており、それが分かってなのか彼女は満更でもない様子だった。

「しかし、折角慰めても、この様子じゃと焼石に水じゃな……。むしろ、収まりがつかなくなってしまったかや?」
「か、勘弁してよ……」

そうだ、あまりの快感に忘れかけていたけれど、この膨張が収まらなければそもそもが解決しないんだ。茶化すのも大概にしてほしい。

「くふ……。このまま、おぬしが満足するまでまた慰めてやってもよいが、折角こんなに元気なんじゃ。
 どうせなら、もう一つ先のことを覚えてみんかや?」

しかし、彼女はそんな俺の心配をよそに、少し悪戯っぽい笑みを浮かべてそんなことを聞いてくる。
この状況でその言い方、恐らく先程の行為の類なのだろう。なんだかいいように遊ばれているだけの気もしてきた……。
でも、どうしたものだろう。リベルと共にするこの時間が、行為が。正直なところ、とても心地よい。

「もし、筆おろしの相手がわっちでよければ……、じゃが」
「ふで……おろし?」

付け加えられた聞きなれない単語に、思わず聞き返す。どうも、俺はこういう方面の知識には乏しいらしい。
相変わらず無知でいまひとつな俺の反応に、彼女は期待外れとも予想通りとも言えない様子で、暫く渋い表情のまま沈黙する。そして。

「ううむ……。早い話が『交尾』のことじゃよ。初めて(つが)う相手がわっちなんかでも良いかと聞いておるんじゃ。
 まったく、直接言わせるでない……。おぬしは本当に初心(うぶ)な雄じゃな」
「っ……!」

ちょっと待ってほしい。今何と言った? 確かにリベルは『交尾』という単語を口にした。
ボロボロの天井のように穴だらけな俺の性知識でも、流石にその単語だけは知っている。むしろ、それは大黒柱と言っても過言じゃない。
それはつまり、先程彼女が言っていた言葉も借りると、仔作りということだよな?
つまるところ、それは(つがい)になるということで、子供がいて家族になるということで、えっとえっと……?

「心配するでない。確かにおぬしより長く生きている分老いて見えるかもしれぬが、わっちらの種族にとってはまだまだ若い方じゃと自負しておる。
 夜伽(よとぎ)でもおぬしを魅了できる自信はあるぞ?」

俺の心配とは斜め上の回答を頂くが、そうじゃないんだ。リベルが内面的にも外見的にも魅力的な雌であることは常々思っていることだし、
別に年老いているとかそんなことは微塵も思ってないしむしろ喜んで、ってそうじゃなくて……。
もう、どこから(ほど)いていけばいいのか分からないや……。
何度目になるか分からないそんな俺の様子を、可愛い奴め、なんて茶化される。かと思えば、今度はリベルがごろんと横になって見せる。

「まぁ、おぬしの事じゃろうから、もし事に及ぶにしても心の準備が必要じゃろ? それはわっちも同じことじゃ。
 事に及ばずとも、お互いを知るくらいなら問題なかろう?」
 
四肢を折りたたみ腰をくねらせ、まるで服従するようなあられもない姿。
そして捩れるお腹の柔らかそうな質感と僅かな窪みを作る臍部(さいぶ)が、俺の性欲をくすぐり本能に直接語りかけるよう、その先へと(いざな)おうとする。
艶やかで見る物全てを魅了するであろうその腰つきに、思わず生唾を飲みこんでしまう。

「ほれほれ、そんなところで見下ろしているだけでは満たされなかろう? こんな機会、見す見す逃す雄はおらんぞ?」

中々動こうとしない俺の右手に、横たわる尻尾のうちの一本を伸ばし、優しく手引きしてくれる。
傍らまで導かれ、半ば崩れるようにして両膝を着く。そのまま、引かれるままに手がリベルのお腹に触れてしまう。
これは不可抗力なんだ、なんて言い訳を自分に言い聞かせつつも、しっかりと彼女の肌触りを感じて取る。
触れてしまったリベルのお腹はとても暖かく、さらさらとした上品な毛並みが俺の汗ばんだ手に吸い付く。
好奇心の赴くままに少し押してみれば、柔らかなお腹の感触に包まれ、そのままふわふわとした毛並みに手が沈み込んでいく。
それだけで心が研ぎ澄まされるような、興奮させてくれるような妙なざわつきを覚える。
それに、何だろう。先ほどから感じてはいたのだが、リベルから物凄くいい匂いがしてくるのだ。
何とかの花のいい匂いだとか、どこどこのシャンプーの香りだとかそういう言い表しではできないようなこの匂い。
落ち着いていられない、踊りたくなるほどの形容しがたい衝動に駆られる匂いは何なんだろう。
とにかく、触覚から、嗅覚からと徐々にリベルという存在が俺の中に浸透していき、昂っていくのが分かる。
もっとリベルに触れてみたい……。手を動かそうとして、ハッと我に返る。好き勝手にリベルの体を(もてあそ)んで気を悪くさせてないだろうか。
今更な疑問を浮かべ、恐る恐るリベルに目をやる。しかし、リベルの表情は想像していたものとは真逆のもので、なんとも楽しそうな笑みを浮かべている。
そのまま目と目が合うと、クスリと笑い目を細める。まるで「お好きにどうぞ」とでも言っているようで。それならば。
無言の承諾を得て、改めてリベルのお腹に手を当て、今度は毛並みに沿うようにそっと撫でてみる。
指と指の間を流れていく被毛がとても気持ちいい。毛をなぞるように、お腹の柔らかさを楽しむように力を変えながら、何度も撫でてみる。
その内に、撫でるだけでは飽き足らず、お腹を揉んでみたり、臍部をなぞってみたり……。まるでおもちゃで遊ぶ子供の様に夢中になっていた。

「ふふ……なんだかこそばゆいのう……。そんなに慎重にならんでもよいのじゃぞ?」
「う、うん……」

俺としては、こうやって普段触ることもできない雌の身体をじっくり眺め、撫でているだけでも十分興奮させてくれるのだが。
でも、これで満足できるかと言われると嘘になる。俺の中で(うごめ)く欲望は、触る程度では物足りないと訴え、身体が疼いて仕方がない。
しかしながら、まだ微かに残る理性か羞恥心かがリミッターとなって思い切った行動に抑制を掛けてしまっている。
本当は、顔を埋めてみたり、口にはあまりできないような、恥ずかしくて言えないようなこともしてみたい……。
もう一歩を踏み込むことができない。そんな俺の様子にリベルは痺れを切らしたのか、でも、優しい笑みのまま語りかけてくる。

「おぬしがしたいままにすればよい。今更恥ずかしがることなぞ何もないぞ? むしろ、わっちの体で興奮してくれるというのは、雌としても喜ばしいことじゃ。
 なに、舐ったりしてくれても構わん。好きに(たわぶ)ってくりゃれ?」

したいままに、好きに。
その言葉のせいかおかげか、頑なに理性を保とうとしていた俺のリミッターはあっけなく抜け落ちてしまった。

もう躊躇うことなど何一つない。ゆっくりと顔をリベルの胸元まで近づけていき、まずはそのふうわりとしている豊満な飾り毛に顔を埋める。
心をふやかしていくような甘い香りが、鼻腔を抜け全身にゾクゾクと広がっていく。体が、熱い。
もっとリベルを感じたい。だらしなく開いたままの口から、今度は舌越しにその質感を(たの)しんでみる。
ペロリ、首筋を一舐めしてみると、不意に息遣いの聞こえる方向から甘い声が漏れたのが分かった。
上目越しに見てみれば、声の主は目を細め悦に入っているご様子。もっとその声を聞いてみたい。聞かせて欲しい。
一舐め、もう一舐めと舌を這わせてみれば、それに呼応するように甘美な声が惜しみなく漏れ出てくる。
俺の行動は徐々にエスカレートしていき、今度は首筋をなぞる様にツーっと舌を這わせていく。
ゆっくりと、下から上へ、金色の被毛を掻き分けるようなぞりあげていく。彼女の息遣いが間近で聞こえ、熱い吐息が耳に当たるのを感じる。
与える刺激が強くなるにつれ、リベルは声を漏らすだけでは抑えきれないのか、悶えるように身体を(よじ)らせる。
そんな彼女が、何だかとても愛おしい。俺の胸部の棘が当たらない様にそっと抱き寄せ、お互いの身体をより密着させる。
首筋から頬へと幾度となく舐め上げながら、同時に片手を彼女の腰へと宛がい、まるでシルクのような毛並越しに、程よい肉付を楽しむ様にくびれを(いや)らしくなぞっていく。
そのたびに彼女は腰を淫らに捩らせては、時折「んっ」とくぐもった声を漏らし、その甘い嬌声が興奮の糧となり俺を焚きつける。

「んん……、随分、情熱的な毛づくろいじゃ……」

感嘆の声を口にし、リベルは愛撫に応えるように天を仰ぐ。
何だろう、先程奉仕をしてくれていたリベルの気持ちが分かった気がする。
されている時は勿論、気持ちいいのだが、自分の与える刺激で相手が感じてくれるのも、同じくらいに気持ちいいのだ。
舐めたり、厭らしくなぞる手の動きの一つ一つに反応してくれる姿は、間違いなく俺の意のままに。
快感を与える感動を覚えながら、リベルの反応を求めようと絶えず愛撫を続けていく。
ふと、互いに目と目が合い、一瞬トリックルームに支配されたような間が生まれる。
片や毛繕いに夢中になりすぎて、片や快感に悶えすぎて、互いに多量の酸素を求めようと肩で息をしながら見つめあう。
鼻と鼻とがぶつかるのではないかと思うほどの至近距離、しばらくは荒い息の音だけが響いていたが、やがて開かれたままの口と口とが、さらなる酸素を求め合うように触れ合う。
先程は不意打ちで受け止めただけの淡い感触。でも今度は違う。互いに感じながら、その存在を確かめるように、甘い接吻を存分に味わう。
ぷはっ、と、一度呼吸を整えようと口を離し、しかしまだまだ足りないと再び口を重ねあう。
もっと、もっと。
不意になぞられた舌が、より深くを探ろうとリベルの口内へと侵入していく。立ち込める吐息は、溶かされるのではないかと思う程に熱い。
それを待ち受けていたと言わんばかりに絡めとられ、俺の舌はものの見事に篭絡(ろうらく)される。
時には逃げようと、時には逆に捕まえようと、ちゅぷちゅぷと淫らな水音を響かせながら何度も絡ませじゃれ合う。
やがて酸素も底を突き、底の見えない深海から漸く顔を上げる。接吻が確かなものであったことを示すように、互いの口の間には星の軌跡が流れており、時折月の雫が一滴、また一滴と流れ落ちていった。

「はあっ……、はぁっ……」
「はっ……はふぅ……。ふふ、おぬしのバトルは熱く(たぎ)るものがあるが……、それはバトルだけではないみたいじゃな」
「それは……お褒めの言葉、と受け取っていいのかな?」
「くふふ……。しかし、随分と気持ちに余裕が出てきたようじゃないか。ならば、このまま最後まで行けそうじゃな?」

そういうと同時に、何やら俺の下半身にもぞもぞと(まと)わりつくものを感じる。
そこに目をやれば、リベルに覆いかぶさり上から伸びるピンク色の氷柱(つらら)を、リベルの尾が二本、挟み込むようにして擦っている。
その肉柱(つらら)は、先までの行為のせいでか融雪でぬらぬらと濡れており、先端からは透明の雪解け水が滴り落ちていく。
追うようにして着水地点の付近を見やれば、そこには何やら一際湿ってる滝壺があるのが分かった。
確かめようと、リベルの股座(またぐら)が見えるように態勢を静かに下の方へとずらしていく。

「ふふ。そんなにまじまじと見るでない」

恥ずかしそうにそんなことを言っているけれど、その言葉とは裏腹に脚を広げ、迎え入れるように惜しみなく(くさむら)を広げて見せるその姿は正直、ずるい。
首筋の流れるような被毛と違い、どちらかというとふわふわとした産毛のように柔らかいその部分、じっとりと濡れそぼつ春草をそっとかき分けてみる。
すると、黄蘗色(きはだいろ)の草原に、そこだけ花開くようにほんのりピンク色に染まる雌の割れ目が、控えめに花ひらく。

「すごい……」

花弁を指で丁寧に押し広げてみると、(なか)は更に綺麗なピンク色に包まれており、入口からはもぎ立てのモモンの実を思わせる程の果汁が染み出てくる。
今まで見たこともないような園を初めて目にし、感嘆の言葉しか出てこない。
出てこない言葉の代わりに、口より先に手が出る形で、徐に花弁の淵をなぞってみる。

「あっ……ん……」

ほんの少し指先で撫でただけなのに、心なしか先ほどの愛撫よりもリベルの反応が良かったのは気のせいではなさそうだ。
ここが、リベルの敏感な場所なのか……。指先を濡らす蜜と交互に目を向けながら、果肉の感触の余韻に浸る。
もし、もっと奥を刺激したらどうなるのだろう……。子供心にも似た、好奇心に近い悪戯心を覚え、今度は割れ目の中に指を一本、差し込んでみる。

「ひゃっ……コゼッ……あぁっ」

入れた瞬間だった。途端に、リベルから今まで聞いたこともないような甲高い嬌声が上がり、初めての反応に驚きビクリと全身の毛が逆立つ。

「だ、大丈夫?」
「う、うむ……。その、コゼットや……。もっと……そうしてくれぬか……?」

止められるかと思いければ。まさかのおねだりに、もうブレーキはかけることができそうになかった。

「ひゃぅっ……! あっ、あんっ……」

膣で指を(たわ)らせる度に、リベルは歓喜とも悲鳴とも似つかない嬌声を上げ続ける。
もし、今ここでリベルに止められたとしても、それは火に油を注ぐだけだっただろう。そのままリベルが抵抗できなくなるまで続けることになったかもしれない。
それこそ、リベルに引かれるくらいに。
そうでなくても、あとで今の自分を思い返したら、どれほど後悔することになるのだろう。
乱れるリベルの下半身を無言で攻め続ける自分の姿なんて、想像するのも怖い。
でも、それがどうしたと言うのだ。今はもう、止められなくなった本能のままにリベルを求め続けるだけ。欲するものを前にしてお預けを食らう事の方がよっぽど後悔に繋がるだろう。
後悔することを先に悔いても仕方がない。
くちゅくちゅと弄れば弄るほど、リベルも絶えず喘ぎ乱れ狂う。乱れすぎて、リベル自身もぐちゃぐちゃになってしまうのではないかと思う程に。
出し入れを繰り返す指には、まるで意思を持ったかのように膣口がキュゥキュゥと吸い付き締め付けてくる。
乳飲み子のように一生懸命に吸い付くその口に、俺は只管(ひたすら)ピストン運動を続ける。
激しさを増すその動きに、やがて下の口からは甘ったるい液が指に多量に(まと)わりつく。治まることを知らない噴出は、やがてぬちゅぬちゅという水音とともに恥丘の周りへ飛び散る。
そうしているうちに、今リベルの中に触れている部分とはまた違う部分から、治まりきらない熱と膨張を感じ、その辛さにリベルの中で戯んでいた指の動きを止めてしまう。

漸く持続的に与えられる刺激から解放され、今の隙にと言わんばかりに、リベルは首を()け反らせながら大きく呼吸を繰り返す。
快感に浸る彼女をよそに、俺は激しい熱を訴えるその部分、俺自身を凝視(ぎょうし)する。
最初に搾り取ってもらい、それからはずっと触れてすらいなかったというのに、奉仕されていたときかそれ以上にパンパンに張り詰めている。
少し視線をずらしてみれば、そこには激しい刺激の余韻でヒクヒクしながら愛液を滲ませているリベルの割れ目。
リベルの敏感であろう部分と、俺の敏感な部分。お互いに快感を覚えられるところ同士で求め合ったら、もっと気持ちいいことが待っているのでは……。

誰かに教わったわけではない。でも、体は自然とリベルに覆いかぶさる様に、互いの敏感なそれとそれが合わせられる形に体勢を変えていた。
これが、ホンノウと言うやつなのだろうか。
まだ知らぬ世界に思いを馳せる中、大分落ち着きを取り戻したリベルも先程とは違う状況に気づき、やがて俺が何をしようとしているのか察したらしい。
しかし、嫌がったり怖がったりするような、拒絶するような反応は一切見せない。
目と目が、秘部と陰部とが向かい合い、どちらもお互いを受け入れられると確認し合図を送る。
一度息を深く吸い込み、やがて大きく吐き出してから浮かせていた腰を徐々に下ろしていく。
割れ目に先端が触れ、いざ挿れようとした手前で、既に収まりがつかなくなったモノがビン、と跳ねてしまい、入口から逸れてしまう。
折角いい流れだったというのに、これでは台無しだ。始めからこけてしまったことに慌て、もう一度腰を浮かせて狙いを定めようとする。
しかし、意に反してモノは手前で落ち着こうとしてくれない。

「大丈夫、慌てるでない」

言う事を聞かないじゃじゃ馬を、リベルは尾を使ってそっと挟み込み、なだめてくれる。

「こうやって支えてやっての、ここから下ろしてやって……。そう、そのまま挿れていくんじゃ。……ゆっくり、の」

リベルに支えてもらいながらモノを割れ目に宛がい、ついにその桃色の園の中へと侵入する。
腰を下ろしていくと、モノは飲み込まれていくように、ゆっくりと膣へ沈み込んでいく。

「ん、んん……」
「うあ……、あ……」

快感と感嘆の声が同時に漏れ、下からも沈み込んでいく水音が響く。
締め付ける肉壁は、指ですらキツキツと包み締め付けてきたというのに、その倍近くはあるであろうモノの侵入を拒むことなく、しっぽりと包み込んでくれる。
先程まで膣で戯んだことであふれ出てくる蜜も手伝い、リベルの膣にしっかりと自身の大きさを刻み込みながら奥へ奥へと進ませていく。
やがて、俺のモノはしっかりとリベルのナカへと収まった。

「ふ……ぅ。リベル……」

挿れるだけの往路の動きで、肉棒にはリベルの膣がしっかりとフィットし、情熱的な温もりとともに、まんべんなく快感を与えてくれる。
さらなる刺激を求め、体は次へと動きだそうとする。リベルも、潤む深紅の瞳に蒼の影を映しながら、その先を促す。
しかし、俺にはその前に、一つだけ聞いておきたい、聞かなければならないことがあった。

「ねぇ、一つだけ……。もし、このまま中に出しちゃったら……その……」

最初にリベルに教えてもらった、リベルの口から厭らしく滴り落ちる白濁液。雌に注ぐことで仔を宿す。確かに、リベルはそう言った。
その注ぐ場所というのが、今俺が挿入しているこの部分なのだろう。
先程は、快楽に溺れるままにぶちまけてしまった白濁。もう一度快楽の海に漕ぎ出せば、間違いなく……。
全てを口にすることはできなかった。それでも、リベルには俺が何を躊躇っていたのか分かったようで。
少しだけ困った表情を浮かべ、しばしの沈黙が訪れるが、やがてその重い口を開いた。

「わっちゃぁ、仔を宿すことはできんじゃろうし……反って好都合じゃろ」
「!? それってどういう……」

思わぬ答えに、咄嗟に追い打ちの言葉をかけてしまいそうになる。しかし、未遂の過ちはリベルの手、いや、口によって、寸でのところでそっと塞がれた。

「こういう時、口は無粋な事を聞くために使うものじゃありんせん」

静かに口を離すと、リベルはそのまま前肢を俺の脇に伸ばしそっと引き寄せてくる。

「それに、今じゃから言うがの……。わっちは、誰にでもこうやって股を開くような雌じゃありんせん。
 他の誰でもない、おぬしじゃからこそ、こうやって身を預けられるのじゃ。
 いつだってわっちの他愛のない話に耳を傾けて目を輝かせてくれる。そしてわっちを気遣ってくれるその優しい心、勇敢なおぬしの後ろ姿がな。
 ……わっちゃぁ、大好きなんじゃ」

言い終わり、もう一度、ゆっくりと深い口付けを交わす。
リベルからの告白が、甘い口付けが。白濁を注いだ先の事を心配していた頭の中は、ついに思考が弾け飛び真っ白にさせられた。

「リベル……! リベル……っ!」

答えというにはほど遠いかもしれない、それでも、リベルが囁いてくれたその言葉は、足踏みする俺を動かすには十分すぎた。
口を離し、抱き寄せる相手の名を何度も確認するように呼びながら腰を動かし始める。

「んっ……一夜限りで、よいっ……。おぬしの欲望のためだけだったとしても……んあっ! それでも今夜は、……たっぷり愛してくりゃれ」

一夜限りだなんて。俺はもっとリベルを愛したいし、リベルに愛されたい。それに、今のリベルを前にして抑えきれない想いがある。
素適、綺麗、可憐、艶やか、好色、淫乱……どれも当てはまるようで、合致しない。
沸いてくるこの気持ちは、ただの肉(よく)なのか……。いや、そんな汚らわしいものではない。今まで気づかないふりをしていただけの、心の奥に眠っていた感情が目を覚ます。
この気持ち、今この姿だけを見てこみあげてきたものではない。もっと前から彼女に抱いていた憧れと尊敬の念、先ほども見せてくれた親身な姿、包み込んでくれるような温かさが……。
全てをひっくるめて、愛おしいというか。
でも、それを伝えるにも俺は大事な告白を忘れている気がする。
気がするのだが、今はそれを考える余裕なんて、微塵も残っていなかった。
ゆっくりと、すべて抜けきらないところまでモノを引き抜き、そしてまた奥まで沈めていく。
引くたびに、挿れるたびに、ゾクゾクと込み上げてくる快感は、今までの比ではない。
そして、断片的な刺激では物足りない。自ら快楽に溺れようと、ゆさゆさと何度も腰を上下に振り続ける。

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「ああ……、気持ちいい……!」
「んあっ……! ふ、あっ……あんっ!」

腰の動きに合わせて、リベルの喘ぎ声が鬼火に照らされる静かな空間に響き渡る。
ぬぷぬぷと抜き差しを繰り返す動きは、滑りの良さもあり徐々に速度を上げていく。
上げれば上げていくほど、快感が体中をビリビリと駆け抜けていく。電流のように駆け抜ける刺激が電源となり、更に腰を振るスピードは増していく。
リズムよく漏れる喘ぎ声も、やがてその速度についていけず断続的なものに変わっていく。

「あぁ、あっんあっ! コゼッ……、待ぁ、ああっ!」

リベルは今にも泣きそうな高い声をひたすら上げ、跳ねようとする身体を必死に抑えようと悶え続ける。
身体と身体の擦れ合う音が忙しない。モノを何度も抜き差しする割れ目からは、大量の蜜がジュポジュポという音とともに飛び散り続ける。
奥へと突き続けるモノを逃がすまいと吸い付く肉壁が、まんべんなく扱き快感を与え続けてくれる。
それに、これだけ激しく動かしているのだ。記憶に新しい、射精の煮えたぎる様に熱い衝動を再び感じるまではそう時間がかからなかった。

「ふっ、ふっ……、リベル……っ! そ、そろそろ! 出……そう……っ!」
「ふあっああっ、い! ナカにっ! ナカに、出してほしいんじゃ……っ! おぬしの! 子種をぉっ!」
「う、ぐ……! でっ、るぅ……!」

パンッパンッと一気にスパートをかけ、グッと腰を前に突き出し最奥へとモノを捻じ込み、今度は躊躇うことなくそのまま中へと注ぎ込んでいく。

「あっ、はぁっ……。すごく……温かい……」

多量の子種を受け入れようと、ドクドクと流し込んでいく肉棒をリベルの膣はキュウっと締め付けてくる。
その抱擁が、ますます子種の注入に拍車をかけていた。
ついに限界を迎えた膣からは、まだ締め付けられたままのモノが栓をしているのにも関わらず、トロトロと溢れ出てくる。

「ふ……ぅ……」

最初の射精にも負けないほどの量を出し、なおまだ尿道に残る分を絞り出すように少しだけ腰を動かし、ピュっと絞り出す。
勢いがなくなったのを感じ、射精の余韻に浸りながらぬるりとモノを抜き出してみれば、はち切れんばかりに注がれた白濁液が行き場を求め、割れ目からドロリと流れだしてきた。

「……たくさん、出ちゃった……」

最初こそ、大部分をリベルが飲んでくれたのでわからなかったのだが、地面に滲みていく白濁の量には我ながら驚きを隠せない。
これ程の量を出せるなんて、俺は実は水タイプか何かだったのかもしれない、なんて。
しかし、二回目の吐出にして、漸く悩みの種であった愚息から勢いが失われてきたように感じる。
正直なところ、何だかまだ微妙に勢いを感じるというか、今のリベルを前にしているといつまでも興奮が冷めやらない気がしてならないが。
そんなことを言っていてはキリがない。これくらいであればそのうち時間が治めてくれるくれるだろう。
本当に、リベルには感謝してもしきれない。ただ、このことに関しての感謝の気持ちを伝えるにしても、言葉にするのはどうも綺麗じゃないというか、恥ずかしいというか。
……それで思い出したけれど、先程からリベルに抱いている、なんだか中途半端になってしまったこの感情。
さっきは無我夢中で言葉の一つ一つを鮮明に思い出せないのだが、リベルからは言われた気がするような、この胸が熱くなる感情は一体……。

「の、のう……。コゼットや……」

快感の余韻に浸る中、俺の名を呼ぶ声の主を見下ろす。ぼーっとしたまま何も言えず仕舞いでは後味が悪いし、何よりも彼女に申し訳ない。
それに、伝えたいこともある。ただ、どういう言葉にすればいいか上手くまとまらない。なんと切り出せばいいのだろうか。

「その、もう少しだけ……頑張ってもらってもよいかの……」、
「頑……う、うん……?」

リベルの言葉の意味を上手く汲み取ることができない。思わぬ問いに、慌ててその意味を探ろうと思考を巡らせようとする。
しかし、その考えは俺の身体ごと綺麗に反転し見事なまでに転覆してしまう。

「えっと……、リベル……?」

先程の問いに対する返事に、肯定を意味するイントネーションをつけてはいないのだが。
視界が逆転し、仰向けに倒される俺に馬乗りになるリベルの顔は赤らんで、潤んだ目を細め待ちきれないと言った様子で。

「すまぬ……どうも、焚きつけられた衝動が抑えられなくてな……我慢できそうにない」

まるで肉を食らう獣のように俺に覆いかぶさり、俺の胸部や首筋にねっとりと舌を這わせる。

「ちょ、うあ……っ!」

萎え始めていたモノに秘部を密着させ、割れ目に沿うように扱かれると、あっという間に勢いを取り戻してしまう。
まだ注がれて間もない下の口からは白く濁る蜜がだらしなく滴り落ちているというのに、貪欲にも再びしっぽりと咥えこんで見せる。

「もし……今度出したくなっても、少しの間だけ……我慢してくりゃれ?」

そういうと、陸に打ち上げられたヨワシのようにただ横たわる俺の上で、リベルが淫らに踊り始める。
天高く(そび)える肉柱(やりのはしら)を我が物にせんとばかりに中に沈めこみ、ヌラヌラと磨き上げていく。

「んっああっ、はひっ……! すごひ……っ!」

ぬぷぬぷと柱目がけて、リベルは必死に腰を上下させる。その表情には、先ほどまでの余裕はどこにも見当たらない。
まるで何かに取りつかれたかのように、力を求めるがごとくその肉柱を求め続ける。
それにしても、すごい、そう思うのは俺も例外ではない。
なにぶん、ただ横になっているだけで全く動く必要のない俺は、必要以上に聞こえてくる胸を打ち付ける鼓動の中、気持ち悪いほど冷静に目の前で乱れるリベルの行為を眺めることができるのだ。
腰が深くまで沈み込んだ状態から浮上させる際、中の淡いピンク色をしたひだひだが俺のモノにしっとりと吸い付き、咥えこんでいたものを露出させていく。
そして再びぱちゅんと深く飲み込んでいく。その動きを何度も、何度も目の前で繰り返す。
絶景。まさにその一言に尽きる。
結合部の電波塔からは気持ちいいという信号が常に全身に送り届けられており、背中から地面に抜けていくような気持ちよさでそのまま土へと還ってしまうのではないかと思えてしまう。
なんだかんだで、まだ俺も余力は残っているらしい。このまま身を任せていれば、もう一回ぐらい、リベルに注ぐことができそうだ。
上で忙しなく動き続ける彼女を余所に、静かに、それでいて大きく一呼吸置く。ゾクゾクと込み上げてくる射精感を感じながら、迫りくるその瞬間を待つ。

「ひっぁ、あぁっ、あ……!! う……あぅ……」

もうそろそろで迎えられそう。そんな時だった。
一心不乱に腰を振り続けていたリベルが突如、一際大きな嬌声をあげる。かと思えば、これまた大きく身体を反らし、ビクビクと痙攣したかのように震えるのだ。
下半身には、先程の行為よりも多いのではないかと思うほどの愛液が飛び散り、べっちょりと辺り全体を濡らしている。
大丈夫だろうか。硬直したままの彼女を心配していると、力が抜けてしまったのか、そのまま崩れ落ちてきた。
危ない。そのまま崩れては、俺の胸部の棘で彼女を傷つけてしまう。全身を支配している快感を何とか振り払い、咄嗟に崩れ落ちてきた彼女を両手で支え、上手く棘からずらして抱き寄せる。
ふにゃり、と俺の上に覆いかぶさったリベルは、快感の余韻からくるのか、まだ小さく震えていた。
そんな彼女を落ち着かせるように首から背中にかけてそっと撫でてあげれば、段々と息も落ち着いてくる。一応、大丈夫そうだ。
……しかし、参った。折角収まりかけていたモノは、あっという間にその立派な硬さを取り戻している。
それに、その硬さを保ったまま、今納まっているのはまさにリベルの膣ときた。
あとちょっと、もうちょっとで、イけそうなんだ。このまま終わりでは、収まりがつきそうにない。
追い打ちをかけるように、痙攣にシンクロするように肉壁が強くしめつけてくれるのだ。それだけでもとても気持ちいいのだが。
何とか、少しだけでも腰を振らせてもらえないものか……。
彼女の背筋を撫でながら、俺は虎視眈々と再開のタイミングを伺う。
しかし、俺の思いとは裏腹に彼女は細かく呼吸を繰り返すだけ。それどころか、姿勢を変えたいのかもぞもぞと身体をくねらせ動かし、俺のモノに微弱な刺激を与えてくれる。
お預けを食らったまま、それでいて挑発するように締め付ける動き。いっそ、このまま無理やり動かしてしまいたい。
今度は、俺の方が限界だった。

「リベル……もう、そろそろ……」
「お、おぉ……すまなかった……、もう、よいが……少しだけ、待、あっ!?」

ひゃんっ、と弱く響く声を無視して、重なる身体が落ちないよう抱き寄せそのまま腰を上に突き上げ始める。

「我慢できそうになくて……。ごめん、あともう一回だけ、やらせて……」
「ひっ……! あはっ……!」

リベルの方は既に力を使い果たしてしまったのか、喘ぐ声すらも弱弱しい。
……どうしようもないんだ。できるだけ、早く済ませるから。
腰を使い、地面の上で尻を弾ませるようにタン、タンとリズムよくリベルを突き上げ続ければ、リベルの腰も弾むように振られる。
力なく振られる姿はまるで、毛束が俺の上で舞い踊っているよう。抜けないよう、落ちないよう最低限抑えているだけなので、その分伝わってくる刺激も荒々しい。
反ってそれが大きな快感となり、一気にスパートをかけさせてくれる。

「あっは……っ! コ、ゼッ……ト……!」
「ん……くぅ……」

すぐそこまで込み上げていたこともあり、三度目を迎えるのは直ぐであった。
ぎゅっとリベルを抱きしめて、焼けるような射精感と中に注ぐ気持ちよさをじっくりと味わう。
管に留まる分を一滴たりとも残らないようにとすべて注ぎ終え、今度こそ肉柱はその持て余すすべての力を出し切ったようだった。






行為を終えてから、しばらくはお互いの息遣いと湧き水の音だけが響いていた。
その間、特に何か考えていたわけでもない。泣いたせいもあるのだろう、いろいろな疲れが溜まりに溜まって、ただただ、ボーっと実のなる天井を眺めていた。
あまり言葉も交わされないままだと不安になりそうなものだが、先程からずっと抱いているリベルの温かい感触が、自然と消し去ってくれる。
リベルの方も、先程とは違い大分息も整ったようで、今はスゥスゥと静かな鼻息が聞こえるだけ。時折大きく深呼吸しているのを感じられるあたり、眠っているわけではないと思う。

「……コゼット?」

先に沈黙を破ったのはリベルの方だった。もぞもぞと身体を動かし、下はまだ繋がったまま上体だけを起こす。力なく添えられていた俺の両腕は、静かに地面へと不時着した。

「ちょっぴり、頑張りすぎちゃったの」

その言葉に、思わず微笑してしまう。釣られるようにして、リベルも顔を(ほころ)ばせた。

「最後、ごめんね……大丈夫だった?」
「くふっ。心配しておるのか? わっちゃぁ大丈夫じゃよ。むしろ、良かったくらいじゃ。それに、先に羽目を外してしまったのはわっちの方じゃったからの。
 おぬしの方こそ、随分と溜まっておったようじゃが、もう大丈夫なのかや?」

そう言いながら、俺のお腹に前肢を添えた状態でまだ繋がったままの腰をくねらせ回して見せる。
どこまでも、油断ならない相手のようだ。ただ、流石にもう、十分に搾り取られてしまった。

「もう出せそうにないよ」

俺の答えに満足そうに目を細めると、ゆっくりと腰を上げてモノを解放してくれる。
三回目と言えど、そこそこの量は出ていたらしく、やはり収まりきらなかった分はトロっと割れ目から流れ落ちてきた。
今更、下半身の惨状を気にすることもない。ただ、俺達には戻らなければならない場所がある。このまま帰るわけにはいかない。
幸いにも、小さいながらこの空間内には湧き水からできる水の流れが通っている。時間はかかりそうだけど、ここで洗っていくのが最善だろう。

小川に両手を沈め、そのまま水中で皿の形を作り(すく)掬い上げては、ベトベトとした感触が残る所へとかけ洗い流していく。
当然ながら、洗いたい場所は股座に集中しているためそこを中心に洗っているのだが、一応リベルには背を向けて隠すようにして洗っている。
羞恥心、というよりは、そういうことはもう終わったのだという、俺の中の一つの区切り、スイッチというべきか。
少ない水域でも効率よく洗える身体を持っているので、俺の方はすぐに終えることができた。
ただ、リベルはそうもいかないらしい。ざっくりと腹部を小川につけることができても、洗い流すには少々足りない様で。

「洗ってあげようか?」

反射的にそう言ってしまった後に、とんでもない地雷発言をしてしまったことに気が付くのにそう時間はかからなかった。
でも、リベルにとっては渡りに船といったようで、嬉しそうに「お願いしよう」とそのまま後ろ脚を投げ出す格好で伏せてしまった。

俺がそうしたように、リベルに対しても掬った水をかけていく。
ただ、少し違うのは、俺自身を洗う時よりもかなり慎重に、細心の注意を払いながら洗っているということ。
大事なところが汚れているのは俺だけではないわけで。そこに目が行くのは必然的であり、不可抗力である。
すでにそういう雰囲気ではなくなったといえ、いや、だからこそ視線を送り続けるのにはどうしても抵抗感があるが。
半ば開き直り、ちゃぷちゃぷと水を掬っては、あまり刺激にならないようにそっと被毛を洗っていく。
……こうして見ていると、なんだかとても神秘的なもののように映ってしまう。
いつの間にか、もう元気もないとはいえ、俺のモノが先っちょだけ顔を覗かせていた。

「くふ。また我慢できなくなったときは、わっちを頼ってくれてもよいのじゃぞ?」

冗談なのか本気なのか分からない言葉に、俺は苦笑いしか返すことができなかった。



「ところでコゼットや。おぬしは、……子供についてどう思う?」

お互いに身体を洗い終え、鬼火の熱を使って体を乾かし終えたころ。徐にリベルはそんなことを聞いてきた。
唐突な質問に、意図をよく理解できずにぽかんとリベルの顔を見つめてしまう。

「いや、すまぬ。そんなに深く考えんでもいいんじゃ。ただ、可愛いなとか、元気じゃとか……いろいろ、な? ……」

なんだかいつもと違い落ち着きのない様子に違和感を覚えつつも、口からは自然とこんな言葉が漏れていた。

「うーん……そうだなぁ。可愛いだろうし、いたらすごい楽しくなるというか、そういう仲間が欲しいかなって」

いつもグランツに絡まれたりギンさんに説教されたりとうんざりすることも多いし、そういう仲間がいたら楽しくなるのかな。そんな単純な気持ちで答えたのだが。
その時の俺は、ちょっと前に拾っていた重要なキーワードを完全に失念していた。
俺の答えを聞いた途端、リベルはあからさまに表情を曇らせていた。
なんだかとてもがっかりしているというか、残念がっているというか。
ただ、どうしてそんな表情をするのか、俺にはよくわからなかった。

「リベル……?」
「いや、なんでもない。そうじゃろな、いたら楽しくなるじゃろうな。わっちも、そう思いんす」

何かをかき消すように首を横に振るその顔には、どことなく悲しそうだった。
そういえば。リベルは子供ができない身体だと言っていたが……。

「今のは無しじゃ、聞かなかったことにしておくれ。……まぁ、なんというかあれじゃ。
 また何か困ったことが合ったら、そのときは仲間として頼ってくれて良いぞ。一人で悩み続けても辛いじゃろうしな」

無理やり話を逸らせようとしているけれど、最後の言葉には説得力がない気がする。
なにより、引っかかる単語がある。「仲間として」……か。
別に突き放されたわけでもないのに、そのワードに妙に寂しさを覚えてしまうのはなんでだろう。

「さ、戻ろうか? あまり別行動を取りすぎていても迷惑をかけてしまいんす」

逃げるように、リベルは先にこの空間を後にする。
何だか、問い詰めるのも気が引ける。しかし、リベルに俺の想いを伝えるタイミングを完全に見失ってしまった。
心にすごいモヤモヤを抱えたまま、リベルに置いて行かれないようにと急いで着いていく。
……焦らなくても、いいのかな。
あのとき、リベルは俺に好きだと言ってくれた。少なからず、避けられるようなことはないと思う。
身体を重ねた後で想いを告げるのは卑怯な気もするけれど……。それでも、この気持ちに嘘はつけない。
色々リベルについて心配なこともあるけれど、それは告白したあとで、しっかり寄り添って聞いてあげたい。
その上で、すべて受け入れてあげたい。例えリベルにどんな過去があったとしても、どんなことを言われたとしても。
リベルがそうしてくれたように、今度は、俺が彼女を助けてあげたい。

「そういえば、おぬしの今回の件。多分、ベクターだけは気づいておったかもしれんぞ」
「え……? ええ!?」

先に心配すべきことがあったらしい。それは、……どうすればいいんだ。






「よぉうしっ、ようやっと一体!」
「コゼット!!」

ゴツゴツとした硬く冷たい岩肌が露出する荒れた大地の上。今日のバトルフィールドは随分と体に優しくないの。
一つ受け身を間違えれば、大ダメージは免れない……。
それでも、目と目が合えばポケモントレーナーたるもの、バトルせずにはいられない。と言ったところかや。ふふ、いつ聞いても不思議なものじゃ。
ただ、戦う場所ぐらい、少しはわっちらのことを考慮して欲しいものじゃが……。まぁ、それでもおぬしには関係なさそうじゃな。
でも、昨日の今日で張り切りすぎじゃて。どれ、少し、労ってあげようかの。

「無茶しすぎだって……。うおっ」

驚かせてしまったかの。呼ばれてもいないのにボールから出てしまったからな。すまぬすまぬ。でも、ちょっとだけ時間をくりゃれ?
一応マスターの方は、目で訴えかければ自ずと汲み取ってくれる。言葉が通じなくても察してくれる、ありがたいことじゃ。
さて、肝心の方は……完全にのびておるのう……。

「久々に本調子でバトルできるからって、飛ばしすぎじゃよ、コゼット」

目を回し、口を半開きにして仰向けで倒れるなんて、らしくない。

「……でも、開幕早々二枚抜きは流石というべきか。かっこよかったぞ」
「リ……ベ……」

鼻頭で少しコゼットの頬を撫でてやれば、律儀に返してくれようとする。ふふ、本当に……愛おしいやつじゃ。

「次の相手は貴方か……? お年を召されているようだが……ここは勝負の場、老媼(ろうおう)と言えど容赦は致しませぬぞ」

コゼットを想っているところ、水を差すようにして言葉を挟められる。言葉の主は、コゼットを倒した相手方の三番手。
背中を護るようにしてびっしりと生える茶色い棘が特徴の……。種族をサンドパンと言ったかの。
確かに、ここは勝負の場。想う相手を倒されたからと言って、逆恨みするのはお門違い。勿論、そんなことで不機嫌になるようなわっちじゃありんせん。
が、それよりも……どうも引っかかりを覚えることがある。

「おや、わっちのことを心配してくれるのか? 随分とまぁ紳士的な雄じゃのう」
「私とて、一方的に(なぶ)るような真似を楽しむ趣味はありませんので」
「くははっ。そうか、そうか。結構なことじゃ。……じゃがな」

積み重ねられる無礼を数えるように、ゆったりと広げた尾の先々に鬼火を灯していく。
一度目を閉じ、深く呼吸を吸い込んだ後……この世の果てまで追いつめ呪い殺すがごとく、怨念の意を込めた鋭い睨みを利かせてやる。
瞬く間に、相手の顔から先程まで感じられた余裕が消えていった。その目にはいくつもの鬼火が映され、焦りの表情は隠せていない。
そうじゃろうなぁ。おぬしはこんなにも、わっちを本気にさせてしまったのじゃから。

「……思う以上に、言葉は慎重に選んだ方が良いぞ?」
「おいおい、ちょっと待ってくれよ! お前のキュウコン、勝手に出てきて既にやる気満々だけどよ、まだ勝負は中断したままだぜ!?」
「あ、ああすまない! リベル、これシングルバトルだけど大丈夫か?」

すかさず止めに入ったマスターをしっかり見据え、こくりと頷き答える。
なに、普段ダブルバトルしかやらないからと言って、戦えないわけじゃありんせん。三対三のバトルなんじゃろ? あやつだけならばどうにでもなる。

「……分かった。待たせて申し訳ない! こちら、二番手は……キュウコンのリベルだ!」

マスターにも覚悟が伝わり、コゼットはボールに戻っていく。お疲れ様じゃ、コゼット。あとはわっちに任せてくれればよい。
マスターの一声でハッと我に返ったように、相対するサンドパンは慌てて戦闘の構えを取る。
さて、晴れて戦闘再開じゃ。

「ところで、わっちの歳を気にしておるようじゃが……。安心せい」

開口一番に、灯し続ける鬼火をフィールド一帯に散らばせ、全体に張り巡らせる。

「影分身!」

マスターの指示とともに出す影分身までがわっちのルーティーン。そして。

「「「おぬしらより、ほんの二百年ばかし長く生きておるだけじゃ、愚か者が」」」

影分身で囲い、その分身も使って大量の鬼火を撒き散らしてやる。これだけ密度が高ければ、大火傷は免れられぬじゃろう。
(もと)より無事で済ませる気などさらさらない。たっぷり可愛がってやろう。
真っ向から受ける気でいたんじゃろうが、残念じゃったなぁ。生憎、わっちのバトルスタイルは嫌らしいことに定評があってのう。
おぬしのような輩を過去に幾度となく相手にしてきたが、どれもすぐに態度を豹変させおった。
今回のサンドパンも例外なく。先までの舐め腐った態度はもうどこにも見られんしな。


まったく、わっちを言葉態度や歳だけで決めつけおって。……皆してそうじゃ。誰もわっちのことは、表面でしか測ってくれないんだ。
たまに受け入れてくれる雄がいたと思えば、ただの身体目当て。まだ青かった野生の頃は、そういう雄を多く受け入れてしまったが……。
でも、どうせ身体で満足しても、その雄達はすぐにまた違う雌に乗り換えていきおった。わっちと向かい合ってくれる雄なぞ、過去どんなに遡っても誰もおらんかった。
……コゼット、おぬしを除いてな。
おぬしだけじゃ、バトルの度にわっちを気遣ってくれて、素直に向き合ってくれるのは。
いつからだったじゃろうか。目を輝かせてわっちの他愛のない話に耳を傾けてくれるおぬしを好くようになってしまったのは。
おぬしがもし、わっちの想いを受け入れてくれるのであれば。もし、パートナーとして認めてもらえたならば……。

昨夜の事。もう、こんなチャンスはないと、捨て身で仕掛けてしまったが。
本当はなコゼット。わっちは、おぬしに振り向いてほしかったんじゃ。
一夜限りでなんて言っておきながら、なんとも都合がいい話じゃろうが……。嫌だと言っておきながら、結局、わっち自身が身体を言い訳に利用してしまった。
そもそも、仔を残せぬ雌など見向きもされない。当の昔、野生を生きていた頃に分からされたことじゃないか。
コゼットもいずれ種を残せる相手を見つけ番となることじゃろう。そう考えてしまうと、やはり自分本位にコゼットと身体を重ねてしまったのは、よくなかった。
もし、その時が来たならば、出来る限り昨日の事を水に流せるよう努めつつ、祝福しよう。そして、きっぱり諦めよう。
諦め……られるのじゃろうか、わっちゃぁ。
……考えるのは止めじゃ。想うのは、目前の相手を分からせてからにしよう。


賢くも岩雪崩でフィールド上の障害を一層してきたところを金縛り、再度多数の鬼火を繰り出し完全に動きを封じてやる。
コゼットから貰っていたダメージもあるのじゃろう。ここまでくるのにそう時間はかからなかったか。
どうやら、今回のバトルでもコゼットに助けられているようじゃ。

「……わっちが仔を宿せない身体でなければ。やっぱり、おぬしと寄り添っていきたかったんじゃがの」

コゼットへの想いをかき消すように、最後に大きく息を吸い込み渾身の火炎放射を放つ。
ただ、燃え広がる炎は皮肉にも、焦がれる自身そのものであった。






変態選手権に投稿させていただいた作品になります。
自分の書くものの稚拙さに嫌気がさして、また、全編を書ききれなかったこともあって一度削除しておりました。
上げ直すなら、最低でも全てを書き終えてからと思ったのですが
いろいろあって再び投稿させていただきます。早く後編(となってしまった書きかけ)を作りたいところ。
消してしまったので残っておりませんが、大会で頂いたたくさんの感想、今でも励みになりとても感謝しております。
ところでキュウコン好きですか?私は大好きですはーとまーくかけるじっこくらい

追記
私が大好きな、推している絵師の一人「井物」さんというお方にお願いして挿絵を描いていただきました!
リベルさんの母性的な表情と夢中なコゼット君をそのままに描写していただき、本当に夢のようです。
感謝の意を込めるとともに、リンクの方も張らせていただきます。
この方が描かれている絵がどれも素敵なので、是非皆さんも見てみてください。

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • ...なんか人生が変わりそうなほどの小説だった。
    作者様。 あなたはすごい。 -- ピカチュー ?
  • 私なんかにはもったいないお言葉です…
    読んでいただきありがとうございます。 -- ひぜん
  • 素晴らしい文章を読ませて頂きました
    純真無垢で初々しいルカリオの反応も去ることながら、妖艶でいて一途で切ない、可憐なキュウコンの心象描写がとてもいとおしく、胸が空く様な思いで読み進めておりました
    ありがとうございます
    P.S.私もキュウコン大好きです -- 名無しの権兵衛 ?
  • 返信が遅くなりました、読んでいただきありがとうございます。
    私自身、初心なルカリオとそんな彼を誘う艶やかなキュウコンの営みを書いててとても楽しかったので、読み手の方にも共有していただけたと思うととても嬉しく思います。
    キュウコンいいですよね。好きすぎてほんとうにキュウコンって感じです。言っている私もよくわかりません。 -- ひぜん
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Last-modified: 2018-03-21 (水) 23:30:13
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