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誘導雷

/誘導雷

大会は終了しました。このプラグインは外していただいて構いません。
ご参加ありがとうございました。




 ――とりあえず、アマルルガなんかの――現代においても観測でき、復元された個体としても存在する二種の姿が、大した差異の無い姿をしている辺り、復元制度の不完全性は、私のような一般トレーナーには分からないような些細なもので――それくらいには精度が高いと思っていいのだろう。アマルルガに関しては、実は逆説的で、ただ検体が存在するために特別高い精度を誇っている、というだけなのかもしれないけれど。
 とにかく、化石から古代のポケモンを復元する技術は、まだ完全な姿として復元するには至っていない、というのが通説である。たぶん。

 ……こういう時に、軽い気持ちで話を聞ける専門家が、知り合いに居ればいいんだけどなぁ。
 溜め息一つを吐きながら、かつてピクニックガール同士としてつるんでいた悪友を思い浮かべる。
 ちーちゃん、最近は遺跡マニアとして、遠方でちょっと有名になっていたりもするらしいけれど……化石ポケモンは専門外かなぁ……。――そもそも、連絡先も知らなくて、取り付けられる隙間さえないんだけど。
「なー、なー、何か目新しい情報ない?」
 スマホに向けて何気なく声を掛けても、何の返事も帰ってこない。道連れは誰もいない。
 みんなを診てもらっていて、今は私ひとり。――考えを形にするには丁度いいだろうか。

 窓の外は雷模様。時折、速足で駆けていく人の姿が見える。入ってくる人も少なくないし、他のトレーナー、ポケモンたちの姿も平時より多い。
 決して静かではないけれど、何の音もないよりは好ましい、かな。
 私は椅子に座り、電源を借りつつ、メモ帳アプリを開く。欠伸一つと共に目を瞑って、物思いに耽る。





「直撃雷」 [#2yXY2ue] 

 //タマゴ未発見、性別の概念もない。創作だと、嵐から生まれたとか、そういうのありがちだよね。

 流れから逸れ、吹き飛ばされる。
 ぼくは、
 手と共に翼を広げ、
 嘴を突き出し、風を裂きつつ、
 迫る地面を目で見て、
 目を、瞑る。

 大きな、大きな、音。
 まっすぐ落ちて、跳ね返る。身体が弾け、その多くが地表を伝って消えていく。
 蒸発して立ち上る湿気があって、匂いがある。焼け焦げている、木が。ぼくが落ちてきて、通り抜けた跡。
 両手で地面を押す。身体を上向け、空を見る。
 雲の流れ。引き延ばされ、吸い寄せられていく。ぼくの居た場所に、渦巻く風の柱に。

 立ち上がろうと思った。身体が弾け、地べたへと空虚に広がった。
 翼がある。嘴がある。目がある。ぼくがある。
 足は、ない。
 墜落して、形作る力の大部分を失っていた。もう、願った通りの部位は作られなかった。

 翼から力を抜くと、ぼくは、この身体は、腹這いに倒れ込む。
 嵐から完全に分離して、ぼくは、ぼくになっていた。
//思うんだよ、「パッチ」に下半身なんて最初から無かったんじゃないか、って。

サニーゴやドラメシヤなどに見る、幽体化を可能とする古代。 [#6OyvsbF] 

 //後付けの肉体が今一実体無さげっていうのも、ありがち。そうそう。



 嵐が、たくさんの身体を落としていた。地表にぶつかったそれらは弾け、断片がいくつも走り抜けていった。無機質なものだった。
 何かを願う暇もなく、そもそも自我も持たなかった仲間たちは、形ある身体を残していなかった。

 雷が落ち、地表を流れているだけ。それ以上の事実はない。
 何をするでもなく、ただ、それらの感覚をぼんやりと感じ取っていた。

 一つが、すぐそばの木に落ちた。強い流れが地表を走り、ぼくの身体を跳ね上げさせた。ひときわ強いその衝撃へと、視線をやった。
 光の弾けたそれと、視線が合った。そこに姿があった。
 黄色く、嘴と手があって、腕から翼が伸びる姿。足が無く、ただ倒れ込んでいる姿。ぼくと同じ姿。

「……だいじょうぶ?」
 声をかけた。――思わず、声が出た。
 だけど、返事は帰ってこない。聞こえなかっただろうか。そうかもしれない。吹き荒れる嵐の側にして、嵐から弾き飛ばされたぼくの声なんて、あまりにもちっぽけなものだから。
「……だい、じょう、ぶ?」
 どんな返事を期待して問うているのか、自分でも分からない。その姿は、ぼくをただ見つめたまま、微動だにしない。

 足があれば、陸上での活動もしやすくなる、とは思うのだけれど、その姿にはないし、ぼくにもない。
 嵐の一部としては、そんなもの要らなかったもんね。
 陸に生きる者たち、その多くは、起きて、足で立ち上がることができる。それができない者は、だいたい、他の誰かに取り込まれる。力を足し合わせて一つになることを望む。
 ぼくたちは、どうだろう。一緒に、一つになって、それで、活動していけそう?

「うん、だいじょうぶ」

 そう声を返してくれた、気がした。風を焼く大きな音が響いて、うまく聞き取れなかった。
 遠くに、一つの身体が落ちた。それは地面ぶつかって弾けたのだろう。力の波が、衝撃として地表を走り、ぼくたちへと届いた。
 ぼくの身体が跳ね上がった。だけど、視線の先に居るもうひとりは、そうはならなかった。

 その身体は、力の波に揺られ、弾け、光の粒となった。そのまま、ぼくへと流れ込んできた。

 何が、起こった?
 一瞬で身体が消えて、そして、ぼくの一部になった。
 ぼくは、両手で地面を押した。身体を起こし、立ち上がった。
 ――立ち上がれた。足があった。
 それは、揺らいでいて、薄ら透けている、小さな、嵐。
 嵐生まれの同族は、ぼくの願いに取り込まれていた。

 流れていく雲を、遠のいていく嵐を見つめ続けた。
 生まれ落ちた命は、どうするべきなのだろう。

 何かを取り込みたい。

 生き物として、そうあるべきだ、と、なんとなく思ったのか。
 あるいは、取り込んだ同士が願っているのか。

 立ち上がって、地面を蹴った。
 後ろへと引き延ばされる尾の感覚。
 身体は地面から僅かに浮いて、木々の隙間を滑り抜けていく。

//ガラルは、願いが力になる土地。古代からそうだったのかは知らないけれど、少なからず、昨日の今日にそうなった、というようなものではない。



 ――だけど、サニーゴの幽体化なんかは、巨大隕石と続くブラックナイト(大災害)の影響、というのが通説みたいだよね。
 そして、ブラックナイトの時代には、既に、歴史を刻む人間たちがいた。あの子たちの存在を語り継ぐ遺跡がないことを思うと、化石ポケモンたちの絶滅は、たぶん、もっと昔。ブラックナイト周りで大規模な幽体化が発生した結果、全身の肉体を存在させる必要のない環境が発生し、その下であの子たちが暮らしていた……というのは、理屈としては噛み合っていない。
 ――逆に、太古のガラルにおける幽体化だとかはより普遍的なものだったかもしれないし、ブラックナイトを経てその現象が収束していった、とか考えられなくもない。
 思い浮かべる世界が、仮定に仮定を積み重ねた都合のいいものでしかない、というのは自分でも分かっているのだけれど、だからといって想像を止む理由にもならない。私たちのような現代的な人間の目線からだと、あの子たちの半身もちゃんと存在したのだ……といった固定観念通りであることを願ってしまいがちだし――。

 不意に、ぱち、と弾けるような音があった。
「ん」
 痺れるような感覚が手の甲をすり抜け、握るスマホへと入り込んできた。私は画面に指したままの手を止め、声を向ける。
「あんたはもう終わり?」
 数瞬、感情を再翻訳するノイズが入る。直後に上がる機会音声は、私の問う言葉(終わり)を反復するわけでなければ、中身のない相槌というわけでもない。
「ばっちりロト」
 まぁ、いつものパターン。嘘は言ってないのだろう。基本的に戦闘しないから、診てもらう箇所もそんなにない……と、早々に抜け出してふらついてるやつ。待つのが退屈、とはしばしば聞くが、「執筆してるロ? 珍しいこともある(その都度、ちゃんと診てもらえ、と、)ものロト」
「うっせ、読むんじゃねえ」
「邪魔したロ。オイラはロトミとでも遊んでくるから、頑張るロトよー!」
 そう言うと、それはすぐにスマホから抜け出して浮かび上がる。眼前で忙しなく飛び回り、高い声を上げる。ほくそ笑んでいるかのよう。
「……悪いね」
 遊び相手が欲しかったのだろうけれど、逆に気を遣わせてしまったかな、と、やや申し訳なさを感じはする。
 ジグザグとした軌道を電気の尾で描きながら離れていく。私はその後ろ姿を見送りつつ、指で画面を二度弾く。下へとスクロールさせ、本文から離れた空白を映し、そこにメモを書き綴る。
 ――電気の中から生まれたかのような、幽体の姿って、そっか、こんな身近に居たもんなんだな。そりゃイメージしやすい訳だよなぁ。




「エラがみ」 

//パッチラゴンなんかは草食性だった、というのが通説だし、基本はそれに倣うものかな?
//一方のウオノラゴンなんかが獲物を追ってた、肉食だった説が強いように。

 森――だったらしい、ぼくが落ちた場所。そこ、森から離れ、木々のない場所に出る。
 空は、雲の流れもすっかりなくなり、遠く彼方まで青々としている。嵐はすっかりぼくを置いていってしまった。

 下に視線を降ろすと、草が生えていて、生き物がいくらか見える。草原が広がっている。それが見える丘の上に、ぼくは居る。少し先には水の流れが、川があって、更にその先は森が続いている。

 取り込めるのは、どれだろう。
 生き物は、同族でなくとも取り込めるのだろうか。きっと、取り込める。
 捕まえて食べる――そんな弱肉強食のやりとりが、同じことにあたる、のかな。
 ぼくは地面を蹴って、飛び上がる。足を尾に変え、宙を滑り、風を焼きながら草原へと落ちる。生き物たちが動かないまま。

 一瞬、大きな衝撃が身体に響いた。痛くはなかった。
 ぼくは草の上に一度跳ね、うつ伏せに倒れ込む。生き物たちが、ぼくから離れるように走っていくのが見て取れる。
 ぼくから、逃げている? 取り込まれたくないから? よくないことなのだろうか。

 追おうとは思わなかった。
 ただ身体を起こして下を見る。ぼくが落ち、倒れた場所は、焦げていて、白く煙が上がっている。
 生き物はきっと取り込める――それは、大きな姿でなくともいい。
 頭を下げ、焦げた草へと頬を添えると、それは光と弾けて、ぼくに入り込んでくる。
 心地よく、充足感に満ちていた。

 ――気配があった。ほんの少ししてから。
 張り裂けるような、衝撃に近い空気の流れができていた。ぼくから逃げていた生き物たち、その一部が、ぼくのほうへと走り、戻って来ていた。
 空には雲一つないのに、嵐の中のような。
 その生き物たちの更に後ろには、一つ、大きな姿があって、生き物を追いかけていた。
 大きな頭と、長い首と、上部な足を持つ姿。手のようなものは見られなくて、尾らしきものも見られない姿。どことなく、顔と胴体が繋がっていないかのように感じる姿。
 そんな追跡者が、生き物のひとりに追いついた。

 狂乱の渦の中だった。

 地面を蹴り、宙を滑ってその場から離れた。どこでもいい、逃げた。逃げていた。急いで。
 何も追ってはこない。空気の流れ以外。張り付いて離れないかのように、それだけが、ずっと追いかけてきていた。
 周囲に響く騒がしさが、ひたすら遠くに離れるべきだ、と、そう教えてくれるかのようだった。

 ――直前に見た光景は、何だったのか?

 赤い液体と共に、追いかけられていた生き物の、その身体が、弾けた。
 首から上が横へと放り出され、丸い頭が横へと飛んだ。蔓のように細い身体の破片が、尾として、その後に続いた。何本も。
 頭と胴体が分離させられたその生き物は、横倒しになった。その胴体へと、追跡者が口を添えた。その身体を、力づくで断片に変え、取り込んでいた。

 口から相手を取り込んでいく行為は、弱肉強食のやりとり。
 そういったものは、もっと、もっと、静かなものだと思っていた。
 嵐の中での記憶は、間近で見るそれとは大きく違っていた。



こういう世界でなら、他にも、超常的な身を持つ姿は居るだろう。 

//「あなたを支えます」って、そんな感じに至る、とかさ。

 どこまで、逃げていただろう。下に地面がなくなって、身体を止めた。

 海。海辺。
 波が揺れて、風を作る場所。熱気の中でたくさんの嵐が生まれて、滅ぶ場所。
 これ以上こっちへ逃げるのは、難しいかもしれない。でも、逃げなければならない、と、急いて。
 ――だけど、狂乱の渦はもうない。張り付いていたそれはすっかり身体から剥ぎ落されていた。
 ぼくは、尾を引き戻し、足と化して、地面に降り立った。

 日差しが綺麗な中、気配が一つ。

「おや、きみは?」
 聞こえる声は、海のほうからだった。
 波間に浮かぶ、小さな、小さな島のようなもの。そこから、薄く透けているものが伸びていく。首、頭。それは白い空気を纏っていて、風伝いにぼくの頬を掠めていく。冷たく、涼しい。
「……なに?」
 生き物。たぶん、生き物。落ち着いていて、静かで、そんな生き物。
 一瞬だけ、身構えた。何もなかった。

「初めまして、かな。私、シロタエ」
「しろたえ?」

 島のようなものは、胴体。そして、首から上の身体が、ない。薄らと見える輪郭は、まるでぼくの足のように、揺らいでいる。その首から、顔まで。

「きみ、まだ生まれて間もないのかな?」
「えっと、えーっと、ぼく? たぶん、そう」
「あー、そっかそっか……」

 その顔が揺らぐ。姿が波間を縫ってこちらへと近づいてくる。
 何の騒がしさもなくて、ただ、静か。
 ぼくのすぐ前まで来て、その透かされた顔を添えてくる。
 ぼうっと、冷たい空気が波打つのを肌で感じて、不思議と、身体が震えた。身体が弾けそうな、そんな感覚があった。

「……怖い、とか、そういう概念、まだ分かんないかな」

 ――そう言って、その、しろたえ、が、身体を引く。ぼくから離れる。
 震える身体が、急に落ち着いて、代わりに、物足りなさを感じ始める。

「ね、きみ、お腹は空いてない? 保存してる木の実とか、ちょっとあるんだけど」
「おなか?」
「……そこから?」

 しろたえ、の言うことは、所々、理解できないところがある。
 だけれど。
 嵐の中にいた時のような、妙な感覚があった。

//「チルドン」が深海生まれだったなら、目はそこまで重要じゃないよね?

未来の半身は、きっと魅力的な存在なのだ。 

//運命とか、そういう概念が古代に適応できるかは知らないけども。

 ――出会ってから、どのくらい経っただろうか。海辺は、ぼくの帰る場所になっていた。

「シロタエー! これー!!」
「おかえり、はいはい」

 教わることは多かった。食事から余剰な力の放出まで。身体はまるで違っても、助けられる面は多かった。同じような特徴を抱えていたのだ。
 それだけではなく、実は、シロタエにとってもぼくに助けられる面は多くあったらしい。シロタエは陸では殆ど活動できず、そのため、陸の『食べ物』を得るのは中々難しかったのだとか。初めて出会った時に木の実を貰ったけれど、それも凍らせて大事に保存していたものだった、と後から聞いたし。

 世界は嵐ばっかりでなくて、もっと日当たりがよく、穏やかで、綺麗。
 だけど、それはつまり、嵐だとかから力を授かる機会は、そんなにない、ということ。
 切り離されたぼくたちは、生きたいと願うために、他の生き物から力を取り込む必要があって、その方法として、一つに絞らず様々な方法で得られるように順応した、のだ。
 食べる、というのもその一つ。

 そんな教えの中で思うのだけれど、
 ぼくは、たぶん、シロタエを、食べたいのだ。
 正確に食べたい訳ではないのだけれど、つまり、きっと、取り込んで、取り込まれたい、のだ。


走り回った雷が落ち着く、そういうところ。 

//合体に伴う意思の消滅の危惧、恐怖。結局のところ、化石ポケモンたちは、ひとりなのか、ふたりなのか。

 そういうことを認識しだせば、すぐ、だった。

「――ね、シロタエ」
 雲が点在する夜空の下で、小さく、言葉を向ける。
「何かな?」
 その胴体から透明な首が伸びて、冷気を零す。月明かりを帯びて、淡く、煌めいている。
 言い出すのは、躊躇われた。
 返事がどうあれ、今の関係が消えてなくなる話だ、と、なんとなく、そう思っていた。

「うまくやっていけるか、とかじゃないんだけど、えっと、単純に……」
「……『ひとつになりたい』」

 言いきれずにいたところを、シロタエが、継いでくれた。――もっと遠回しに伝えようと思っていた、そんなことを、あまりにも直接的に。

「うん、そう。なりたい」

 それはつまり、シロタエも、同じことを、思って、いる。
 シロタエは、ぼくに足りないものを持っている。――最初は分からなかったけれど、ぼくも、シロタエに足りないものを持っている。

「だけど、さ、シロタエ、ねぇ」
 ただ、心配なことは、ある。あるのだ。
 取り込んだ相手の意思を、明確に感じたことはあっただろうか。
 今まで。
 そう、今まで、雷生まれの同族から、たくさんの植物に、生き物も、少し、取り込んできた。
 初めて取り込んだ時の物足りなさは、同族の、あの、相手の意思だったのだろうか。
 取り込まれた相手の意思とは、ぼくに影響せず消えているのではないだろうか。
「……ひとつになった後のぼくとシロタエって、依然として、ぼくとシロタエなのかな?」

 ――ぼくが取り込まれるとき、ぼくの意思は消えるのだろうか。ぼくの考えることは、全て、なくなるのだろうか。
 だのに、これから行うことは何か? 互いが互いを取り込み合うことだ。
 それが終わった後、身体は確かに生きているだろう。しっかりと肉付いた頭と尾を持つ、完全な姿になるだろう。
 ただ、その姿に、ぼくやシロタエの意思は、残るのだろうか?

「どうなんだろうね?」

 こわい、とか、そういうのが、ぼくは分かっていない、という話を、シロタエがしていた、気がする。
 空気の流れに巻き込まれ、急くようなことはあっても、理解して動いているわけではない、とか。
 もしかして、これが、そういう、こわい、ということ、なのだろうか。

「私は……きっとシロタエでない何かになると思ってる。もしかしたら、きみも、きみでない何かになるかも、って」
 シロタエの顔が揺らぐ。顔、らしきものが消えて、そこにはただ冷気の塊があるだけになる。
「でも、それでいいんじゃないかな、って。きみも思うよね?」
 何の抵抗もない。ぼくは、もう、受け入れている。

「うん、だから――」
 ――数瞬の〝こわい〟なんて、期待に比べれば些細なものだった。

「よろしくね」

「こちらこそ」

 ぼくは、その〝顔〟に顔を寄せ、目を瞑る。頬を添え、そのまま冷気の中へと入り込んでいく。
 涼しい夜に、シロタエのそれは寒さすら覚える――はずだった。そんなものは何もなく、安心感だけがあった。
 身体が弾ける。嵐から飛ばされた瞬間のように、ただ願うだけの塊になる。
 今なら、望む通りの身体が得られる。そんな気がする。取り込むことも、取り込まれることも。

 決まっている。シロタエ、ぼくは、







 画面に割り込んできた通知に、指が止まった。「終わりました」という趣旨のもの。
 もうそんなに経ったのか、と一つ息を吐く。
 窓の外は相変わらず雷模様。風雨も吹き始めているようで、流されるように転がっていくキャンプ用のおもちゃが見て取れる。
 私は通知を消し、アプリを保存だけして閉じると、そのまま電源から離れ、席を立つ。
 受付のほうからは既に私を見捉えられていて――なぜかその隣にはあいつが浮かんでいる。なんでだよ。

「お預かりしたパッチルドンたちはみんな元気になりましたよ!」
「ありがとうございます」
 受付にて、差し出されたボール六つ――預けていた皆を片手で一つずつ受け取りつつ、その横に浮かぶ姿へと、もう片方の手でスマホをかざす。ぱち、と、姿が飛び込んでくるのを確認してから、視線を前へと戻す。
「またのご利用をお待ちしてます!」
 お辞儀に対して軽く会釈を返しつつ、私は身を翻した。



「で、なんであそこに居たの」
「預けられたからに決まってるロ」
「ま、探す手間が省けて助かったけども」
 スマホと他愛無い話を交わしつつ、ロビー端の開けた場所まで歩いてくる。返してもらったボールから一つを取り、軽く放り投げる。
 宙で光子が弾け、一つの形に収束する。現れたのは――冷気を纏う、大きな水色の身体と、それと比べて非常にほっそりとしていつつ、静電気を纏う黄色い身体。水竜のような下半身に鳥のような上半身を持った姿。現代に生きる私たち人類の感性では、ちぐはぐにつなぎ合わせられた、だとか、そういった風に評されることの多い姿。嘴の先、鼻からは粘液を垂らしていて、まるで風邪を引いているかのような姿。
 ――この粘液って、あんまり綺麗に拭うのもダメなんだっけか。クマシュンなんかのそれとはまた性質が違うらしいけれど。
 私は、高い位置にあるその顔を見上げ、一歩、歩み寄る。

「や、初めて診てもらったのはどうだった?」
 果たして私の言葉は通じているのだろうか。小刻みに上半身を震わせ、鼻水のような粘液を揺らす様子は、頷いているように見えなくもないけれど――そういう訳ではないだろうな。
 視線を降ろし、突き出ている手を視認する。私の肩と殆ど変わらない高さ。上半身と同じ黄色い手が、下半身の水色の胴体から突き出ているとあって、埋もれて凍り付いているように見えなくもない。
 片手に拳を作り、その手の平に軽く添えると、その姿は、軽く握り返してくれる。その中で拳を解き、その手に指を絡ませる。向かい合って手を繋ぐ。冷気を纏っている一方で、ぱちり、と局所的に電気の流れを感じる、変わった感覚だった。

「あんたの名前、どうしよっか、ね」

 ――滅びゆくキャラクターの名前をそのまま付けるのは、どうなんだろうな。
 まだ書いてないし、書くかも分からないけれど。不謹慎とかそういうのではなくて。
 世界観はさておき、〝シロタエ〟は、立ち位置としては、古代にて絶滅した普通のパッチルドンのひとり――あるいはふたり、である。破滅的な状況に追い込まれ死亡することで、私の想像する絶滅理由を示しつつ、定められた悲劇で物語を終える、そんな役割を担うキャラクターである。
 だから、役割が違う。
 あんたは、この現代において、私に可愛がられるのだ。
 共に生きて、戦って、まぁ、苦しむ日もあるだろうけれど、あんたの物語は、少なからず、「作中で使われてるこの名前は、(絶滅という悲劇で終わるものでは)違うロ?」
「あ、や、それは……こいつのために考えてた名前には違いないんだけれど、しっくりこなくて」

 ま、焦らなくてもいい、かな。

 スマホが浮かび上がり、後ろへと下がった。私と新たな道連れを、その全身を捉えるように構えていた。
 かしゃり、かしゃり、と、何度か音を流してくれた。無駄に気を利かせてくれるもんだ。

「――よろしくね」
 こちらこそ――と、そういった意味合いで返事をしてくれたのかは分からない。
 ただ、その姿は、私を見降ろしつつ、明確に視線を合わせてくれた。その上で、ぴい、と声を上げてくれた。






















//太古のガラルで暮らしていた様子、私は結局、現代的な身近な姿からしか想像できないけれど、皆はどんなものを思い浮かべているんだろうね。
//公開しないから関係ないか。





・後書きのようなもの……「直撃雷」から始まり「大絶滅の日」で終わる予定を立てられていた未完の作中作への言及……ではなく、"誘導雷"の。

 カセキメラさんがたはみんな大好きです。ひとりでカップリングを体現しているかのような姿で最強ではありませんか。いやそれはさておき。
 古代での姿がどうあったものか、というのが化石組の中でも最も議論になって、これといって確定できるようなものも実際ないですよね、って。私はそういうところも大好きです。

「いや、古代、太古のガラルとはこうあるべきだ」とか「カセキメラさんがたの生態はこんなのでなく、ああに決まっている」とか、そういったことを感じたかた、いらっしゃれば幸いです。あるいは何も思っていなかったところにアンチテーゼ的に違う形の世界が頭の中に降りてきたかたがいらっしゃれば、それも素敵なことです。そういった、世界や価値観などが降りて来たかたはぜひ教えてください!!!っていうか作品として公開して!!!くれ!!!たのむ!!!!!私は供給に飢えている!!!!!!!!のです。

 っていうか性別不明で雷と氷っていうかなり相反するタイプを持ってるパッチルドンさん、最高にエレメンタリーでハイファンタジーですよねって、超かっこいいですよね、やっぱり。嵐と嵐の子供に決まってるじゃないですかこんなの、最強ですよ、でしょう??????
 はい。



以下1件のコメント返しです。

すきです (2020/02/29(土) 23:12)


ありがとうございまああああああす!!!!わあああああああい!!!!!!すきです!!!!わたしも!!!!!!
構造上、読者様がたの頭の中に太古ガラルという世界を作らせたいお話だったので、この作品自体はそんなに評されないだろう、とは覚悟してたのですけれど、いや、いえ、ほんともう好いて下さりありがとうございますわあああああああああああ!!!!!



なんかまだ語らなきゃいけないことない? わかんない。まぁ、まぁ、何かあれば追記するってことで。
ここまでお読みくださりありがとうございました!!!!


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Last-modified: 2020-03-01 (日) 05:31:22
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