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エントリー作品一覧
水面の底へと意識を向けて、細やかな揺れを感じ取る。
泡らに鼓動を吹き込みながら、魚群を認めて鰭を上ぐ。
めぐりてーうみよははなるもとへ、すべてはーひとーつーーーー、、。
廻りて海よ、母なる元へ。全ては一つ。
うぶごえーあげよかなたのさきで、それまでーきみーはーーーーーーー
産声上げよ、彼方の先で。それまで、きみは――
水球宿りて宙へと浮かび、轟く声にて張り詰める。
個の群れもろとも欠片と弾け、浮かべた泡らへ入り込む。
っとけてまざりてわれとなれー、まもののーこえといかしましょ。
――溶けて混ざりて我となれ。魔物の声と活かしましょう。
っともにあるのはわずかなあいだ、
共にあるのは僅かな間――
泡の一つを傍まで寄せて、鎖した破片を握り絞む。
美味たる骨身は震えるばかり、
しぜんのめぐみぞひとしずく。
――自然の恵みぞ一滴。
詠唱:二滴による大嵐
夕の日煌めく大空に、一つの気配が現れる。この場に出るには強すぎる、似つかわしくない気の標。
何もないこんな海原に、どうして来ようと思うのか。喜ばしいのは違いなし。もてなす準備をしなくては。
水面に泡らを漂わせ、空気を吸い込み顔上げる。声高く空に轟かせ、泡達の中に宿らせる。
瞼を落として思い馳す。波間に消ゆるは一滴。感傷に浸る余地もなし。生への望みを唱えよう。
いーとーおーしきものたちよー、そのこころーなにおーもーうー。
愛おしき者達よ、その心、何思う。
ひーとーつーでもききましょおー、たしかなのぞみがあるならばー。
一つでも聞きましょう、確かな望みがあるならば。
かーなーたーよりのぼるひをー、っともにみあげてすごしましょー。
彼方より昇る日を、共に見上げて過ごしましょう。
わーれののぞみはただひとつ、、、くちをひらいて、さあおいで、、。
我の望みはただ一つ。口を開いて、さあおいで。
かなわぬならばーわかれましょっそのすがたーうたかたにーきゆる、、。
敵わぬならば別れましょう。その姿、泡沫に消ゆる。
せきれきにみつるうきのよよっあーあーーーーーーーーーーーー、、。
淅瀝に満つる浮きの世よ。嗚呼。
わーれぞあわれなひとしずくあらしさまたげしものよさあいずこー。
我ぞ哀れな一滴、嵐妨げし者よさあ何処。
おぼるるーこえはくもをかみもくずまといてだいちへしずみゆく。
溺るる声は雲を噛み、藻屑纏いて大地へ沈みゆく。
みなもにのこるはただひとりそれはふれえぬまもののいきうつしー。
水面に残るはただ独り、それは触れ得ぬ魔物の生き写し。
いざなわれしものかんげいしよう、っそなたきれいなひとしずく。
誘われし者、歓迎しよう、其方、綺麗な一滴。
瞼を開いて上を見る。一つの姿がそこにある。言葉なく浮かぶその気は正に、私へ向かうて至るもの。
耳から翼、でこに角。細く、長く、肢節なし。球の結晶持ち合わせ、細やかな鱗靡かせる。
触れようものなら泡と化す――そのような竜が目をくれる。意欲に溢れた視線を一つ、私へ確かに向けている。
震える波から身を跳ねて、一つの泡へと乗り上げる。視線を返して合意する。望みの形は同じもの。
球の結晶輝きて、赤空に雲よ集まらん――大仰となりて風を呼ぶ。其方の力は斯くあるか。
泡を散らせば渦を成す。水面が裂かれて宙を舞う。私を捕らえる致し方。彼我を目とする大嵐。
逃げ去るつもりは欠片もあらず、覚悟に満たりて身を跳ねる。鱗に惹かれる泡へと乗って、綺麗な姿へ身を晒す。
其方の隣に相応しく。此方の隣に相応しく。匹敵するかは露知らず、ただ私は嵐を唄うのみ。
でーーあうーはーさーだーめー、みーーらいーはーしーらーずっりゅうよーーーーーーーっわれぞそなたにみとめらるるか、じんじょうに。
出会うは定め、未来は知らず。竜よ、我ぞ其方に認めらるるか、尋常に。
はーーかなーきーいーのーちー、かーーなわーぬーもーのーよっいまをーーーーーーーのぞんでたしなみあらしとす、、、おしみなく、、。
儚き命、叶わぬものよ。今を望んで嗜み嵐とす、惜しみなく。
巻きあがる泡に唄声宿し、飛竜の姿へ差し向ける。その身の捩れを見届く刹那、泡らが破れて露と化す。
眼前に浮かぶ空気が焼けて、雷が泳ぎ通り抜く。嵐の端から端へと抜けて、轟き声にて宙を裂く。
見上げた先には瞳が二つ、変わらず私を見捉える。煌めきの内は静かに淀み、溢れんばかりに水面振る。
瞬き一つの小康が過ぎ、その身が反って空昇る。旋風を集めてその身に纏い、直ぐ様私へ向き直る。
いきたるあかしをつむぎましょ、、、うたいましょ、、、おどりましょ、、、たのしきこどう。
生きたる証を紡ぎましょう、唄いましょう、踊りましょう。楽しき鼓動。
くるいてーねむれわれらがひとつ、りゅうよーそなたよやすらかに。
狂いて眠れ、我らが一つ、竜よ、其方よ、安らかに。
――触れ得ぬ魔物と言わしむならば、その前に我がぶつかろう。涙の滴る御顔に当たり、滴を拭って進ぜよう――。
うーつーくーしきそなたへとー、このこえをーとどけーよーおー。
美しき其方へと、この声を届けよう。
そーのーかーらをつらぬいてっいざとなりへとーかないーまーしょー。
その殻を貫いて、いざ隣へと。敵いましょう。
嵐の端から水柱を寄せ、頭上に集めて球と成す。いつにも増したる気概と共に、唄声宿して張り詰める。
かーなーたーよりのぼるひをー、っともにみあげてすごしましょー。
彼方より昇る日を、共に見上げて過ごしましょう。
まもののしーまうときはいま、、、
魔物の終う時は今――
確たる結果は見えずとも、一つか二つの魔は消ゆる。望むは泡と化すことならず、永久にて傍へと仕う夢。
さーーーあーーーーーーーーー。
さあ。
轟き声にて球壊す。炸裂の波を彼へ向ける。数多を沈めたそれより強い、私の初成る魔の死力。
そのような波を避けもせず、飛竜は真っ直ぐ降り来る。皆まで弾いて我を抜ける。
胸元貫き身を撥ねる――。
飛竜の姿が寄り添いて、勢無き私を身で捕らう。か細い喉を取り巻きて、口らを重ねて目を瞑る。
嵐の散りゆく水面の上で、帰結を待ちわぶその前に。敵わぬ事実を嘆かず隠し、惜しみの無き目でしめやかに。
その身が私を払うと直ぐに、夕焼けの空が見て取れる。波間に覆われ色味を絶って、暗く、黒く、世を染める。
魔物もこの世の一欠片向かうはあの世と相成らず、泡沫と成りて居留まり、揺られる母にて糧となる。
良き廻りを、竜よ。敵うものが現れんことを。
良き廻りを、我よ。魚群に紛れて身をやつす――、
海面に浮かんでいた長い被毛が、その身に引っ張られるように沈んでいく。見えなくなる。後に残るのは、赤い滲みのみで、それさえも、波の動きに合わせて解され、消えていく。
期待、していた。野生の輪廻から外れた、同士である、と。――同士ではあったのかもしれない。けれど、私には敵わなかった。
綺麗な生き物だった。姿も、声も。
力量差以外で均衡を保つことはできたはずだった。妥協してもよかった。――妥協するどころか、尊重できたはずだった。
似たような孤独を抱いていた様子で、だからこそ、私が何一つ言わずとも、果たし合いを成せた。
――だからこそ、彼も妥協は許さなかっただろう。
全力でぶつかり合って、その上での均衡を望んでいた。お互いに。――その望みは、叶わなかった。
〝敵わぬならば別れましょう。その姿、泡沫に消ゆる。〟
――彼は、私と同じように動いていた。――そして、いずれ私は、彼と同じように沈みゆく。
――私の望みは何のためにあるのだろう。
意識を頭上へと向け、空高く、雲を寄せ集める。夕日が、遠く海の先へと落ちていくのを見捉えつつ、晴れ渡ったばかりの空を、覆って、再び曇らせる。
雨に打たれたい気分だった。できる限り大粒の、私に触れ得る者達を。
――嗚呼。
――おぼるるこえはーくもをかみもくずまといてだいちへしずみゆくー。
溺るる声は雲を噛み、藻屑纏いて大地へ沈みゆく。
まみれたちしおーきえさるさきに、そのものかんげいされうるかー。
塗れた血潮、消え去る先に、その者歓迎されうるか。
みなもにのこるはただひとりそれはふれえぬまもののいきうつしー。
水面に残るはただ独り、それは触れ得ぬ魔物の生き写し。
あらしさまたげしもーのーよいずこっわれぞあわれなひとし、ず、く――。
嵐妨げし者よ何処、我ぞ哀れな一滴。