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親友・・・

/親友・・・

赤いツバメ ?の短編です。

人物紹介
フレア 主人公、ブースター♂
レイ  友達 デンリュウ♂
イアル ウインディ♂。人間だった
ジェイド フレアの飼い主。ポケモンだった時がある
ボーマンダ すごい。


かかっていた灰色の雲から、ついに雨粒が降りだした。
梅雨に入ってから一週間。毎日が愚図ついた天気だった。
今日の午前、目が覚めた時はすっきりと晴れていたのだが昼前から雨雲がかかってきたのだ。
この季節ばかりは好きになれないな、とブースターのフレアは「ほう」と溜め息をついた。
寒いのは平気だが雨に濡れるのはどうにも苦手だ。梅雨はなぜか気分が沈む・・・

遠くで雷が鳴った時、玄関のドアが開く音が聴こえた。
玄関へ走ると、ずぶぬれになったジェイドがいた。手には買ってきた食べ物の入った袋を提げている。
「フレア、ただいま」
僕は「お帰り」とのどを鳴らした。ジェイドの口調はとても柔らかく優しさにあふれている。ずぶるれのジェイドは溜め息をついてどっと玄関に座り込んだ。
気を利かせて僕は袋を口にくわえて冷蔵庫の前にそれを置いた。そして着替えを始めたジェイドの近くのソファに寝転がる。

ジェイドが皿に入れてくれたポケモンフードを食べ終わると何時もの通りに眠くなってきた。
二階のジェイドの部屋に入ってジェイドのベッドに潜り込んだ。
下の階からはジェイドが料理をしているらしく、ジュージューと音が聴こえる。
その音も次第に意識とともに消えて・・・・


目が覚めると夜になっていた。梅雨と思えない寒さが身を包んだ。
寝ぼけているのか景色が違って見える。寝心地も先ほどのベッドとはまるで違うものだ。
誰かが呼んでいるのか寝起きの頭がガンガンする。
「フレア、フレア!」
はっきりと声が聴こえた瞬間に僕は勢いよく跳ねあがった。
周りを見ると森の中にいた。寝ているところもベッドではなく森に無造作に生えた草の上だった。
フレアの名前を呼んでいたのはフレアの親友であるデンリュウの[レイ]だった。
「レイ・・・?ここ、どこ・・・?」
ここは全く見覚えがないく初めて見た場所だ。ひとまず家で寝ていたはずなのに何故こんなところにいるんだろう。
「フレア、実を言うと僕もここがどこだか分らないんだ。昼寝してて目が覚めたらここにいたんだ」
レイも状況がまだ飲み込めてないらしい。
その時、後ろから足音が聴こえた。
後ろにいたのは、野生のベロベルトだった。しかも大きさが普通のベロベルトの倍以上はある。こんな奴と戦おうものならあっという間に丸呑みにされてしまう。
とにかく戦う前に逃げるしかない。腰を抜かしたレイを起こして、とにかく思いっきりダッシュした。
後ろからはベロベルトの舌が僕達を餌にしようと追ってくる。
走り続けていると崖に開いた洞窟を見つけた。僕達はその中に逃げ込んだ。

洞窟の中で息をひそめていた結果、ベロベルトから何とか逃れたようだ。
寒さをしのごうとフレアたちは洞窟の奥へと進んでいった。すると気温が暖かくなっていき洞窟の中を見渡すと今さっきまで誰かがいたような感じだ。
その時、洞窟の入り口の方から足音が聴こえた。
「!誰だ!?」
さっと身構えると、ウインディが威風堂々と歩いていた。
ウインディが来るとは思わなかった。しかも戦えば絶対に勝てるはずがない。
これから八つ裂きにされて食われるのだろうか。
「そう身構えるな。俺はお前らの敵じゃない。お前らみたいな奴等がなんでこんな所にいるんだ?この森は危険だぞ」
「も、森!?森って『(こと)の葉森』のこと!?」
僕は驚きを隠せなかった。

言の葉の森には肉食のポケモンが溢れるほどいる。さっきのベロベルトだって例外じゃない。
そんな場所にいたとなると、いつ肉片になっていたか分かったものじゃない。
「で、でもお前だって肉食ポケモンじゃないか」
隣にいたレイは脅えながら言った。
ウインディは燃え残った薪に自ら吐く炎で火をつけた。
レイはその炎に驚いたらしく「ビクッ」と震えた感じだった。
「お前じゃない。イアルって名前があるんだ。それにお前らはここらじゃ見ないポケモンだから何か事情があるんだろうと思ってな」
「そうだったんだ・・・ありがとう、イアル」
フレアはお礼を言った。レイもフレアと一緒に頭を下げた。
「とにかく、お前らはどうして森の中で寝てたんだ?自殺志願か?」
というと、洞窟の奥から木の実を取り出した。
「まぁ、腹が減ってんだろ。これ食えよ」
と差し出された時、僕のお腹から(ぐうぅぅ~)と大きな音が聴こえた。

「まぁ、お前らは昼寝してて目が覚めたら森にいた、と?」
イアルはナナの実を食べながら言った。
正直僕はナナの実は好きではないのだがせっかく出してもらってるものだから文句も言わずに食べた。
「ふまぁ、ほぅふぅほほあはあ」
口に中にきのみを押しこんだレイが言った。ほとんど何も聞こえなかったがおそらく「んまぁ、そういうことだから」と言いたいのだろう。
「一応言っておくが、ここは森の中で最も街から離れてる。帰るのは楽じゃない」
レイはお腹をさすっって言った。
「イアルってベジタリアン?」
「(・・・レ、レイ?何を言い出すのか・・・)」
しかしイアルはレイの事を完全に無視した。まあ当たり前だけど。
「とにかく、ここから街に行くとなると大分遠路になるぞ。どうするのだ?もう出発するか?」
さっきの事もあり、今思うとくたくたに疲れている。だからお言葉に甘えて休んでから行ったほうがいいだろう。
「今日は疲れたよ・・・明日にしよう」
言い終わった瞬間に足に力が入らなくなっていた。あれだけ走ったんだから当たり前だろう。
「布団はそこに適当に敷いてある。街に住んでいる奴にとっては寝心地が悪いかも知れんが我慢するように。それと起きたら食われてたと言うのも俺は知らん」
「(僕達を食べないだろうな・・・)」

布団とは言ったものの枯れ草を申し訳程度に敷いただけのものだったから寝心地ホント悪そう・・・。
レイはもう熟睡していた。緊張感がまるで感じられなく溜め息をついた。
洞窟の外からヘルガーの群れの鳴き声が聴こえた。本当に朝起きたら肉片になってそうだ。て言うか肉片になったら起きれないな・・・。
「フレア、明日は速くなる。早目に寝るんだ」
イアルが言った。今思ったけどイアルの口調はジェイドにそっくりなものだった。
ジェレイドは・・・今何をしているのかな・・・
それにしても何故イアルは僕たちに優しくしてくれるんだろう
・・・考えている内に、いつのまにか寝てしまった。

ザアァ・・・・という雨の音に叩き起こされて、やっぱり夢じゃないんだなと僕は現実を見た。
薪の火はもう消えている。フレアは薪に火をつけた。レイはまだ寝ているが、イアルは洞窟の中にいない。
洞窟の外へ行ってみると、イアルは木々を飛び移って木の実を採っていた。
「イアル、おはよう」
イアルは木から下りてフレアの前に来た。
「まだ陽が昇りきってないぞ。寝てなくて大丈夫なのか?」
確かに雨が降っているにしてもまだ薄暗い。でも眠くもないし、疲れもすっかりとれた。
「うん、大丈夫。レイはまだ寝てるけどね・・・」
イアルは採った木の実をどさっとおろした。
「僕も木の実採ってみていい?脚には自信があるんだ」
イアルは少し考えた。この森が危険だからなのだろう。
「まあいいだろう。そのかわり俺はこのきのみを奥に運ばないとだから、何かあっても助けられないぞ」
フレアは頷き体を低く構えた。そして一気に地面を蹴った。
やってみると思いのほか難しい。数分も持たないぐらい脚が疲れてきた・・・。

結果的には2分も持たなかった。そこに丁度イアルが戻ってきた。
「ほお?フレア、お前これ本当に初めてだったのか?」
フレアは「ゼイゼイ」と息を荒げて言った。
「ほ・・・ホントに・・・はじめて・・・だよ・・・」
その場に僕はコテッと倒れこむとイアルはフレアと木の実を担いだ。
「初めてでここまで出来たのはお前が初めてだ。野生並みかそれ以上の力を持ってるな」
「僕が初めてってことは・・・今までもここに来た人がいたの?」
イアルは切ない顔で言った。
「ああ・・・。まぁそいつは自分の意志で来てたからな、お前らとは違うんだ。俺の唯一の親友だった」
「その人は何て名前だったの?」
イアルはとても小さな声で言った。
「・・・ジェイドだ」

その時、後ろから唸り声が聴こえた。振り向くと一頭のグラエナがこっちを睨んでいる。
「はぐれか。フレア、戦ってみろ」

グラエナはこちらを睨みつけ、耳をつんざく声で吠えた。
僕は怖れずに体勢を低くとった。次の瞬間に今僕は妙に思い切り地面を蹴り、宙から沢山の火の粉をまき散らした。
グラエナが叫んでいでいる隙に、地面に降り立ち口から灼熱の炎を繰り出した。
グラエナはその場に倒れた。
「ふう・・・あれ?終わった?」
僕は妙に落ち着いていた。本気で戦うのなんて初めてなのに、なんだか体が勝手に動く感じがした。・・・見ているイアルは驚きを隠しきれないようだ。
「お前、ほんとに戦うのはじめてなのか?動きが戦い慣れしてたぞ」
イアルの後ろの茂みからガサッと音がした。
「イアル、・・・後ろに誰かいる!」
飛びだしてきたのは、レイだった。
「ふあぁぁぁ~・・・おはよう・・・」
「「・・・・・・」」

レイはまだ寝ぼけているようだ。イアルはレイを背中に乗せた。
「・・・い、一旦戻ろう。ここは危険だ」

レイが二度寝したのをみて、フレアは言った。
「さっきの話の続きなんだけど、・・・えっと」
イアルはこちらの考えを読むように言った。
「ジェイドは人間だって言ってたな。俺が会った時はチコリータだったんだが」
「ジェイドは僕のパートナーっていうか、友達っていうか、家族・・・なんだ」

イアルは消えかけた薪に火をつけなおした。
「つまりあいつは人間に戻ったわけだな。あいつも、いつの間にかここにいたって言ってたし。そうか・・・唯一の親友が元に戻って良かった。」
イアルは溜め息をついた。とても悲しそうな顔だった。
「・・・ぼ、僕も、それにレイもイアルの親友だよ」
自然と言葉が出てきた。まだ親友じゃなかったとしても、これから親友になればいいんだ。
「・・・そうだな。ごめんな」
何だか謝られて気分がすっきりしなくなった。
僕は自分で取った木の実を一粒だけ食べた。こんな気分のときには木の実の味もすっきりしていなかった。
「そろそろ行くぞ。レイを起こせ」
僕はレイを起こそうとしたが、叩いても叫んでも起きない。キリがないので、尻尾の先に火をつけた。
「ゴメン」
最初に謝っておくのが礼儀かな・・・
「あっちぃ~~~~!!!!!!!!!!!!」
レイはあまりの熱さに目を覚ました。
「・・・こいつ、こうでもしないと起きないのか。言っちゃ悪いが外れてるな」
イアルは呆れ気味だ。

「・・・よし、行くぞ」
イアルは棒を使って簡単な地図をかいた。
「まずルートを決めよう。どこがいい?」
レイは聞き返した。
「どれが一番近いの?」
「一番近いのはこのルートだが、このルートは森の一番危険な所を通る」
確かにそのルートの所は森のような絵が描かれている。
「じゃあ、三択だ。遠回りで一番安全なのがいいか、距離も危険性もそこそこのルートがいいか、最短距離をぶった切るか」
レイは頭を抱えた。
「危ないのは嫌だけど、長い距離もなあ・・・」
僕としては最短距離がいいのだがレイは危険を免れたいということもある。
「決めた!最短距離を行こう!」
レイは大声で叫んだ。レイと考えが一致してほっとした。
「うん、最短距離に賛成!」
「よし、じゃあ次だ」
そう言うとイアルはレイの方を向いた。
「レイ、お前はどれぐらい戦える?フレアの力は大体わかったからな」
レイは少し考えて言った。
「フレアとお遊び程度で戦ってたら怒られたんだ。両方とも加減しろって。本気なんて出してないのに」
「・・・おまえ、フレアと同等ほどの力があるのか。そうは見えないな」
まあ、レイほど抜けてる奴なんていないから誰だって驚くだろう。けどそれは事実なのだ。
街を半壊させてしまったことすらあるほどだ。
「じゃあ大丈夫だな、出発しよう」

歩きはじめてから三十分もすると、森の奥に来たらしく周りは薄暗くなっていた。
「ねえ、フレア」
レイが小さな声で言った。
「よく考えたら、この森にウインディなんていないはずなんだよ」
確かに、こんな森にウインディがいるはずはない。
「ねえイアル。イアルっていつからこの森にいるの?」
イアルに聞いてみた。
「・・・分からない」
「え、なんで?」
イアルは立ち止まり、フレアの方を向いて言った。
「俺は人間だったんだ」
「え・・・」
フレアの後ろでレイが叫んだ。
「二人とも、ヤミカラスの群れだ!伏せろ!」

ヤミカラスの群れは空から編隊を組んで攻撃を仕掛けてきた。
レイは木々の隙間から雨雲に向かって一気に放電した。
雨雲から稲妻が走り、すさまじい音とともに森の木々に落ちた。
ヤミカラスの群れは雷に打たれ次々と力尽き落ちていった。
「雲まで届く放電なんて初めて見た・・・」
イアルは驚いている。こんなもの初めて見たら誰だって驚く。しかもそれをやっているのがこのレイだから更に驚きだ。
「ここで言っておこう。このルートにはボーマンダが出るが、お前らなら大丈夫だろう」
フレアとレイは数秒硬直した。
「ぼ・・・ボ・・・墓・・・ボーマンダぁ~~~~~~!!!?」
レイは死んだ魚のような眼になったまま動かなくなった。
「別に大丈夫だろう、お前ら案外強いんだから」
「僕はいいんだけど、レイがね・・・。正直言うと僕も怖いし」
レイの空きっぱなしの口からは今にも魂が脱け出ていそうだ。

「それで、話が変わるけど・・・イアルって人間だったの?」
「ああ・・・。だが人間の時の記憶はほとんどないんだ」
イアルが嘘を言っているようには見えない。
「ねえ・・・絶対とは言い切れないけど、イアルがウインディになったのと僕らがここにいるの、あと、ジェイドの事って関係してるんじゃないかな」
「その確率は高いと思う。だから俺も街に行こうと思ってるんだ」
なるほど・・・。

ある程度歩くと、今度は川が流れていた。
「この川も危険だな。飛び越えるしかないか」
しかしとても危険には見えない。
「なんで危険なの?毒が溶けてるとか?」
「そんなもんじゃない。この川はキバニアの巣と言っていいほどキバニアが大量にいる。水に入った瞬間骨まで食われるぞ」
だが、キバニアの姿は全く見えない。水中に動く影はひとつもない。深く潜って息を潜めているようだ。
「おそらく大分高く跳ばないと引きずり込まれるな。レイ、もう大丈夫か?」
まだレイは少し「ぼー」っとしている。
「たぶんおーけ~~」
そう言うとレイは尻尾から川に向かって放電した。まだ呆けていてたいした威力ではない。
「気絶ぐらいしただろう。レイを背中に乗せろ」
イアルに言われたとおりレイを背中に乗せたら、イアルは一気に川を跳び越えた。
「フレア、早く跳ぶんだ。キバニアが気絶から覚めると危険だ。それと川に入るとキバニアの気絶も覚めるから注意するんだ」
フレアは少し後ろに下がり、助走をつけて一気に跳んだ。
しかし、あと少しという所で後ろ脚と尻尾が水に着いてしまった。
「まずい!フレア、早く出ろ!」
イアルは大声で叫んだ。しかし僕が走り出そうとした瞬間に川から大量のキバニアがフレアに覆いかぶさった。
「うわああああぁぁぁぁ!」
僕の叫び声とともに、川の水が赤く染まっていった。
「レイ!手伝え!」
イアルはキバニアの群れに紅炎の火炎放射を浴びせた。
レイはフ僕をキバニアの中から引きずり出した。僕は血で真っ赤に染まり、えぐれそうになった所もある。
「フレア!大丈夫?」
「これが大丈夫に見えるか!薬草を採ってこい!」
イアルは必死だった。
しかしフレアは、妙に落ち着いていた。
「僕は大丈夫だよ。ここら辺で一旦休もう」

「いててて、シミル!」
レイが採ってきた薬草をイアルが傷口にあてがってくれた。
「しみるのは仕方ないだろう。痛いってことは生きてるってことだ」
レイは枯れ草を拾って簡単な布団を作った。
「ほら、ここに寝て」
ごろんと寝転がると、傷口がチクチクする。
「結構血が流れたな。においを嗅ぎつけられなきゃいいんだが」
確かに周りは血のにおいが充満している。肉食のポケモンがにおいを嗅ぎつけてやってくるかもしれない。
「俺は食えるものがないか探してくる。フレアはちょっと寝てた方がいいな」
背中の傷に草が当たって何だか変な感じがしていたが、いつの間にか眠っていた僕だった。


目が覚めると雲も晴れて、陽も高く昇っていた。
「よいしょ、と」
起き上がるともう痛みは消えていた。傷口も大体血が固まって良くなった。
「お、もう起きれるのか。ほら、木の実がいろいろ実ってたんだ。セカイイチまであったぞ」
二人が木の実を食べている所に寄って、大好きなモモンのみを手に取った。
傷の回復滋養があるオボンのみも貰って食べた。
「結構傷の治りが早いな。お前ら野生向きだぞ」
「 ら って何!? ら って!」
レイがイアルに反抗した。別に「ら」でいい気もする。
「そして、ほら、あっちに見える絶壁。あの上にボーマンダが住んでるって話だ」
その絶壁はとてつもない高さだ。
「あんなの登ってたら逆に時間がかかるよ。回って行こうよ」
「ところがどっこい、ボーマンダに認められれば背中に乗せてもらえる。そうすれば早いだろう」
イアルはあっさりと言ったが、この傷は大きい。認めてもらうなんて難しいんじゃないかとも思う。
「フレア、もう行けるか?大丈夫そうなら食ったら出発するぞ」
手に持ったモモンのみを一口で食べた。
「もう大丈夫だよ、食べ終わったら行こう」
そして、その後に三人でセカイイチの取り合いになったのは黙っておこう。(あ、言っちゃったね)

近くまで来るとその高さは、ただでさえ大きかった想像の倍以上に見える。ここを登る・・・考えるだけでも疲れる。
「よし、二人とも落ちるなよ」
そう言うとイアルはひょいひょいと登っていった。
僕もイアルを追って登っていったが途中で疲れて置いていかれてしまった。
登っても登っても頂上に着かず、いい加減うんざりしてきた。ただ、あと少しで頂上なのは目に見えて分かる。

やっとの思いで頂上に着いた。そこにはボーマンダが堂々と立っていた。
少しびくついて落ちそうになったが、落ちないよう足を踏ん張った。
「ふーん?お前がフレアってのか」
ボーマンダは結構気さくに話しかけてきた。
「確かもう少ししたらレイってのが来るんだったな。二人でやらせようと思うんだけどどう思う?イアル」
イアルはボーマンダの後ろで危険がないように避けているようにみえる。
「ええ、それで宜しいと思います」
あのイアルが敬語を使っているから、すごい相手なんだろうかと思ってしまう。
「フレア、身構える必要はないぞ。レイが来るのを待て」
ボーマンダに言われるまで自分でも身構えていることを知らなかった。
その時レイが登ってきた。
「うわ!ボーマンダ!」
レイも落ちそうになった。
「お前がレイか。よし、二人でかかってこい」
「・・・・・ん?」
ボーマンダがあまりに軽く言ったから、戦闘が始まっている事に気が付かなかった。
一気に爪で攻撃してきた。かろうじて避けられたが、また直ぐ次の攻撃が来る。なかなか攻撃のチャンスがない。
その時、ボーマンダをレイの電撃がとらえた。
「そうだそうだ!二人で戦ってる事の大切さを忘れるな」
戦っている相手にアドバイスを受けている・・・なんだか変な感じだ。
ボーマンダは次にレイの方に高温の息吹で攻撃した。レイも電撃で応戦している。
僕は後ろから高熱の火炎を繰り出して更に追撃をして・・・て、あれ?
「!よし!二人とも合格!」
ボーマンダは大きな声で言った。
「へ?もう?」
二人が意味が全く分からないのをよそに、ボーマンダは笑いだした。
「だから合格だ!おめでとう」
ボーマンダの後ろからイアルが歩いてきた。
「お前らの実力を計ったんだ。こんなに早く合格なんて凄いことだぞ」
僕はイアルに聞いた。
「でも、結構苦戦してたじゃん。なんで合格なの?」
ボーマンダは笑いながら近づいてきて言った。
「お前らは二人で戦うことの大切さを忘れていない。だから合格!」
ようやく状況が読めた気がして改めて周りを見た。すごい高さで、森の向こう側にある街までしっかりと見える。
レイはボーマンダに尋ねた。
「ボーマンダはここで何してるの?」
質問はボーマンダではなくイアルが答えた。
「ボーマンダはここで『森の試練』を受けるやつを待ってるんだ。まあお前らが試練を受ける為だけにここに来たわけは無いんだがな」
そう言うとイアルは街の方をじっと見た。
僕はもうすぐ街に帰れるんだと思うと何だか嬉しいのだけども気分がもやもやしている。その気持ちが何なのかは僕自身も分からなかった。
ボーマンダは僕に尋ねてきた。
「フレア、お前イアルが街に行って大丈夫なのか心配してんだろ」
ボーマンダの言う通りなのかもしれないが、何か違うような気もした。
「・・・わかんない。そうかもしれないけど、よくわかんないんだ」
「こら。敬語を使え」
イアルに叱られた。
そこにボーマンダがイアルに堅苦しそうに言った。
「別いいよ。お前だって俺とは何の従順関係もないわけだから喋り方なんて何でもいいさ」

「(そう来る?)」
僕の正直に思ったことだった。


「うわ!落ちる落ちる!」
ボーマンダが宙返りすると、思わずレイは叫んだ。
僕とレイはボーマンダの背中に乗り、街へ向かっている。
イアルがすごいスピードで走っているのが遥か下に見えた。
「イアル凄いね。ボーマンダのスピードについてきてるよ」
ボーマンダは油断すると吹き飛ばされそうなスピードで飛んでいる。さっきレイが落ちかけたりもした。
「ねえフレア。今思ったんだけど、イアルはなんでジェイドが森に来た時、街に戻らなかったのかな」
・・・言われてみるとそうだ。イアルが街に戻るチャンスはあったのに、何故森にいるんだろう。

街の近くで地上に降りた。イアルは全く息が切れていない。
「じゃあ俺は戻るぞ。こんなところにいて人間に見つかったらまずいんでな」
そう言うとボーマンダは森へと帰っていった。
「ボーマンダ、ありがとう!」
フレアはボーマンダに届くように大きな声で叫んだ。
ボーマンダは飛びながら尻尾で”バイバイ”の仕草をした。プッ・・・おっと何でもないない。


イアルは街の方を見つめている。
フレアはイアルに聞いてみた。
「ねえ、イアル。なんでジェイドが森に来た時に街に戻らなかったの?」
イアルは街の方を見たまま答えた。
「あの時俺にはボーマンダとジェイドしか俺が人間だった事を知ってる奴はいなかった、しかもその時ジェイドはポケモンだったんだ。街に行ったら殺されちまう」
そしてイアルはこっちを向いた。
「今はジェイドと、お前たちがいるからな。お前らは親友だから」
何だか照れくさくなって僕は下を向いた。
「うん。僕らは親友なんだ。イアル、ありがとう」
さっきからのもやもやした気持ちも一気に吹き飛んだ気がした。
そして三人は街へと歩いていった。

街は静かだった。ジェイドの・・・いや、ジェイドと僕の家までは街の入り口から結構近い。これならだれにも見られることなく家に戻れそうだ。
家の前に立って喉を鳴らすと、ジェイドが戸を開けた。
「・・・フレア!フレアじゃないか!どこ行ってたんだ!」
僕はジェイドの肩に上がった。
そして、ジェイドとイアルの目が合った。レイも後ろからまじまじとジェイドを見つめている。
「イ・・・アル?」
「そうだよ。あのウィンディはイアル・・・」
「皆、とにかく入って。見られたらまずい」


部屋の中はエアコンで温かく、冷えた体に熱がしみ込んだ。
ジェイドが出してくれたホットミルクをレイと一緒に飲んでいた時、ジェイドが言った。
「俺がポケモンだった時、分かった事があるんだ」
ジェイドはイアルの方をじっと見ている。
「人間に戻るためには、自分の大切な人やポケモンに自分の事を気付いてもらうことなのかも・・・」
イアルの身体から、淡い光が出た。

「イアル」

ジェイドがイアルの名を呼んだ。

・・・それだけで僕も何故か幸せになった気がした。



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Last-modified: 2010-01-06 (水) 00:00:00
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