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被怪談

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被怪談


※この作品にはグロテスクな表現及びぼかした死亡表現が含まれます。


 満月が闇夜に浮かび、暗く無限の黒が広がる空間。
 手入れの行き届いた土の上を忍び足で歩く1体のミジュマル。
「なんでボクが1番なんだよ~」見るからにガクガク震えながら進む。
 辺りは所々小高く土が盛られ、そこに刺さった木で作られた十字架が点在する。墓場のようだ。
「…ひっ」わずかな物音にも敏感に驚く。


 その光景を見る、1体のポケモン。
「ケケッ、獲物はあいつか」ゲンガーである。
 額に汗を浮かべ、手を胸に当てている。
 どこか遠くから重苦しい音が聞こえてくるような感じが耳に響く。
「…ケケッ」
 ゲンガーは笑うと、浮遊した体を静かに進ませた…。


 光り輝く太陽。燦々と降り注ぐ日光は村を明るく照らし、夏の日差しとしてポケモン達を襲う。
 田んぼが点在し、青く生い茂る山々から、とてものどかな村だと分かる。
 いや、のどかな村「だった」。


「ねえ、また出たらしいよ」ヒノアラシがとても嫌そうな顔をして切り出した。
「出たって…連続殺害魔?」痩せたツタージャが聞き返す。
「またあの墓地だってさ。肝試しをしてたポケモンがやられたらしいよ」ヒノアラシが言う。
 2体は田舎の道をてくてくと歩いていた。テッカニンの鳴く声が耳にじんじん響く。
「母さんに聞いてもなにがあったか詳しく聞かせてくれなくて。『子供が聞くことじゃありません!』なんて言ってるんだ」ヒノアラシが困った顔をして言う。
「うわ、それは多分かなりグロテスクにやられたっぽいね。内臓とか出てたんじゃない?」ツタージャがさらりと言う。
「内臓…おえ」ヒノアラシが口を押さえる。「よくそんな言葉平気で出るね…」
「言葉だけだもん。想像しなきゃいいのさ」ツタージャが笑う。
「やっぱりゴーストポケモンだよねえ。あまり知らないけど、状況的にそうだろうし…。あの墓地にいっぱい住んでるから、1体くらい気が狂ったのがいてもおかしくないよね」ヒノアラシは物憂げに言う。
「そうだねえ。ゲンガー、ヨノワール、ジュペッタ、フワライド、シャンデラ、デスカーン…ぷぷっ」ツタージャは気違いなポケモンの様子を想像して思わず失笑する。
「とにかく、何とかして捕まってくれないかなあ。ポリスのウインディさんもルカリオさんも同じ目に遭ったし、村の外からカイリキーやローブシンでも村の予算で雇えばいいのに」と。ヒノアラシ。
「そりゃ多分ないさ。あの墓地で偶然休んでたと思われる三獣神のぐちょぐちょ死体があったなんて時もあったし。伝説がかなわないなら僕ら一般ポケも無理だと思うよ」と、ツタージャ。
「せめて誰か分かればなあ。あ、俺こっちだから。じゃ!」
「うん、じゃあね!」
 2体のポケモン達は別れを告げて分岐道を進んだ。
「……あれ?」ヒノアラシは歩きながら考え込む。「なんだろ、この違和感」



 ヒノアラシの住処は木で作った即席の住居スペースだった。地べたに置かれた椅子代わりの丸太とお慰み程度の葉っぱの屋根。ポケモンだから当然こうなる。
 その一角に居座るバクフーン。
「母さん、ただいま」ヒノアラシが挨拶した。
「あらおかえりバルノ。今日もサフィー君と話してたの?」バクフーンが聞いた。
「うん、今日もね」バルノいう名前らしいヒノアラシは少しそっけなく答えた。
 バルノは現在思春期まっただ中である。親が一番厚かましい時期だ。あまり話することもなく彼は自分のスペースへと移動する。
 彼は地べたに寝転がって頬杖をついた。さっきの違和感について考えを巡らせる。
「分かんないなあ。うーん…」
 バルノ・シンダクィルは何かにつけて考え込むタイプの少年だった。自分のことはもちろん、他人のことまでおせっかいにも顔を突っ込むのだ。だが彼の頭脳はいつもあと一息であった。考えたことの解答が出かけていても、それが出ないことが多いのだ。
 今回もまさにそのケースだった。何かがおかしい。あきらかにおかしいという事実は分かっているのに、どこがどうおかしいのかさっぱりなのだ。バルノは頭のがむしゃらに掻く。
「ええい!行動だ!」バルノは独り叫んで立ち上がった。「よし、サフィーとシュンメにも声をかけよう。特にシュンメはメインで必要かな」
 バルノは気合をいれ、住処の外に走り出した。


「おーい、サフィー!」バルノはツタージャに声をかける。
 母親と話していたツタージャはバルノに気づいて走ってきた。
「なんだい?」
「サフィー、俺もうじっとしてらんない!墓地の事件調べようよ!」バルノはすごい剣幕でサフィーに迫る。
「うーん…」サフィーは考え込む。「ごめん、今日はちょっと都合が悪いかな。また次回誘ってよ」
「あ、そうなんだ。分かった。残念だけど、仕方ないよね」
「ごめんね」
「いや、いいんだ。じゃ!」
 バルノはユーターンすると、凄まじい速さで突っ走っていった。
「…本当に、ごめん」サフィーは申し訳なさそうに言った。


 次にバルノが行ったのは田舎の村の中でも草原になっている場所だった。
 爽やかな風が駆け抜ける草原を走る火の馬の親子が1組。
「おーい、シュンメ!」バルノは叫ぶ。
 火の馬が1体こちらに蹄を鳴らして走ってきた。ポニータである。
「あら、バルノじゃない。どうしたの?」シュンメというらしいポニータが聞く。
「村で起きてる墓地での殺害魔騒動知ってるでしょ?それを調べたいんだけど、シュンメがいると何かとやりやすいんだよ。協力頼めるかな?」バルノが頼み込む。
「ワタシが?別にいいけど…でも、何を調べるの?被告候補はゴーストポケモンでしょ?」シュンメは承諾してから聞いた。
「そうなんだけどね…。なんだか、しっくり来ないんだ。こう、違和感?なにかがおかしいんだけど…あれ?なにがおかしいんだろ…」バルノは頭を抱える。
「バルノはいつもそうね!ワタシもあなたが抱えてる違和感っていうのが気になるから協力するわ」シュンメは溜息を吐きながら言った。
「ありがとうな。早速聞き込みだ!」バルノは意気込む。
「それはいいけど、大人がワタシ達に情報なんかくれるかしら?」シュンメは首を傾げた。
「その難関をクリアするためにシュンメを誘ったのさ」バルノは得意げに言った。
「そのため?」シュンメの頭の中は疑問符で満杯のようだ。


 さらに所変わって村の一画。グライオンが住む一画に行ったバルノとシュンメ。
 このグライオンは前回のウインディやルカリオに引き続いてこの村に配属されたポリスである。のんきで頼りない感じだが、実力と頭脳はあるという噂である。
「シュンメ、確か催眠術を遺伝してたよね?それを使ってほしいんだ」と、バルノ。
「あ、なるほどね!分かったわ」シュンメは快諾して額に精神を集中させる。
 視線の先には暇を持て余しているグライオンがいた。事件の調査と聞き込みを終えてひと段落したらしい。
 シュンメは物陰からゆっくりと頭を出し、催眠術を放射する。
 ぼーっとしていたグライオンは目つきが虚ろになっていき、ふらふらし始めた。
 2体はここぞとばかりに飛び出し、グライオンの前に並ぶ。
「グライオンさん、殺害魔のことをお聞きしたいんですが!」バルノは叫んだ。
 グライオンはふらふらしながらもバルノの方を向き、虚ろな目つきで見つめる。
「殺害魔…ああ、はいはい」ぼーっとした口調でグライオンは応える。「なんでも聞きなさい」
「はいっ!」バルノはもともとの細目をさらに細めてにっこりとした。
 これほどにまで陰惨な事件である。大人に聞いても、バルノの母親のように相手にしてもらえないのが関の山だ。そこで、シュンメが覚えている催眠術で錯乱させることで聞き出すことにしたのである。
 以後は、バルノが問うてグライオンが答える質疑応答がなされた。
「殺害はいつも墓地で行われるんですか?」
「そうだな。いつも決まって墓地で発生するよ。老若雌雄問わずね」
「殺害状況はやっぱりグロテスクなんですか?」
「そうだ。かろうじて原型が分かるくらいだな。しかも墓地の中でも様々な場所で発生する。まるで食い散らかしたような感じだな」
「おえ。逃げた跡とか、抵抗した形跡とかはあるんですか?」
「皆無だな。失禁したような跡はあるが、全く抵抗の意思が見られない。恐らく黒い眼差しなどをかけられたんじゃないかと思っている」
「黒い眼差し…。だとすると、やっぱりゴーストポケモンでしょうか?あの墓地にはたくさんいますし」
「そうだろうと睨んでいるよ。墓地の土の荒れようから、大きいポケモンだと予想できる。カイリュークラスのね」
「どうもありがとうございます!あ、俺がこのことを聞いたことはご内密に」
「了解した」
 バルノはシュンメに向けて指を立ててみせた。2体は互いにうなずき、そこからさっさといなくなってしまった。

 数秒後、グライオンの悔恨の雄叫びが辺りに響きわたった。


「今日はありがとうシュンメ!おかげで確信できたよ!」バルノはシュンメに礼を言った。
「いいえ、どういたしまして。ワタシも楽しかったわ」シュンメも満更でもないように答える。
「よかったら、今夜一緒に墓地に行かないかい?」バルノは誘う。
「え、いいの?実はついて行きたかったの!雌はだめって言うかと思って黙ってたのよ」シュンメは嬉しそうに言った。
「そんな!むしろ歓迎するよ!」バルノはうなずく。「じゃあ今夜、親が寝た後に会おう!」
「ええ!楽しみだわ!」
 2体はその場は別れを告げ、夜の密会を約束してそれぞれの住処に帰って行った。
「…まただ」バルノは独りつぶやく。「何か、頭の中の知識が騒いでる。きっと違和感があるんだ」


 深夜。多めの雲が満月の姿をおぼろにする静かな夜。
「ごめんなさい!なかなかお母さんが寝なくて…。待ったでしょ?」
「いや、こっちもなかなか母さんが寝なくてさあ。思わず当て身しちゃったよ。」
 2体のポケモンは邂逅し、墓地へと歩を進める。
 


 ポケモンの墓地は簡易なものである。囲いなど無ければ墓石もない。遺体を土葬し、そこに木製の十字架を立てる。それの集合体を彼らは墓地と呼んでいるのだ。
 かくして2体は墓地に佇む。
 規則的に並んだ十字架は闇の彼方まで延々と続き、終わりなき空間を連想させる。月光は雲に半分隠れている。
「行くよ。もしかしたら、誰かがここに来てるかもしれない。今度はそのポケモンが犠牲になるよ」バルノは言う。
「そうね。もしかしたら、それってワタシ達だったりして」シュンメは何ということもなく言う。
「……まさかあ」バルノの体を汗が流れ落ちる。


 2体を今にも飲み込まんとばかり迫る闇。月はほぼ隠れ、夜目とシュンメの体の火が頼りだった。
 2体は普通の歩行速度で歩いていた。同じ光景ばかりで方向感覚が狂いそうな場所である。
「シュンメ、手分けしてゴーストポケモンのアジトを探そう。その方が要領がいいと思う」バルノが提案する。
「そうね。ワタシはいいけど、バルノ、明かりはどうするの?」シュンメは聞く。
「大丈夫さ。俺はこう見えて夜目が利くんだぜ?」バルノは言いながら微笑む。
「へぇ。わかったわ。見つかったらちゃんと知らせるのよ」シュンメは後押しした。
「オーケー。じゃ、後で。何かあったら逃げろよ」
「大丈夫よ。ワタシには催眠術があるわ」

 2体は互いに分かれて反対方向に行き始めた。
 バルノは闇の中を夜目を生かしてすたすた進む。目標はないが、進めば何かあると信じて。
 どこか遠くから重苦しい音が聞こえてくるような感じが耳に響く。緊張していることがバルノ自身にもわかる。
 バルノは歩みを止めた。辺りを見回し、顔を険しくする。
「誰かいるな?出てこい!」バルノは叫んだ。
 辺りの空気が急に変わった。静かなものから、突如ざわざわしたものに。やがてバルノの周りにゴーストポケモンが大量に出現する。
「!!」
 想像をはるかに超えた量だった。ギラティナ以外の全てのゴーストポケモンがいるかのような錯覚を覚えるくらい大量にいたのだ。
 まさしく四面楚歌といった状況だった。逃げ場はない。
「上等だ!」バルノは背中から火を噴きださせ、臨戦態勢に入った。

 集団の中から1体のヨノワールが進み出てきた。年老いた感じだ。
「お前が相手か!?」バルノは火を強め、自身最強の技を…

「待ってください」ヨノワールが丁寧に言った。

「へ?」バルノは拍子抜けして火が勢いをなくす。

「この墓地で起きている連続殺害のことについてならば、わたくし達は関与しておりません」ヨノワールは言った。
「なんだって!?」バルノは仰天した。「じゃあ、一体誰が!?」
「わたくし達は驚かせはしますが、決して殺害などいたしません。それどころか、わたくし達もその殺害魔の被害に遭っているのです」ヨノワールはしゅんとして言う。
「そんな…でも、黒い眼差しが使われているって…」バルノは言葉に詰まる。
「はい。確かに黒い眼差しが使われております。しかし、決してわたくし達ではないのです。昨日も1体、肝試しに来たミジュマルを驚かそうとしていた初心者のゲンガーが殺害魔に会いました。幸運にも死にはしませんでしたが、寝込んでしまい、気が狂ったようにうわ言を並べるのです」ヨノワールは説明する
「うわ言?」
「はい。『ダイジャだ、ダイジャだ』と」
「大蛇?でも、この辺りにアーボックやハブネークは住んでないよ。2つも3つも山を越えたところだよ」
「当然ハブネークやアーボックではありません。彼らがいた時に残す独特な香りがありませんでしたから。」
「じゃあ、一体殺害魔って…」バルノは考え込む。
「わたくし達の仲間も、もう何体も犠牲になりました。わたくし達ではもう手に負えません。このことを調査しているのであれば、どうか解明してください」ヨノワールは懇願した。
「分かったよ。俺も疑ってゴメン」バルノは謝る。
「いえいえ。黒い眼差しが使われた殺害が、墓地で行われたのです。疑って当然ですよ」ヨノワールは気にしていないように返す。
「ありがとう。絶対解明するよ」バルノは約束した。


 静かな夜に一閃の不協和音が響く。
 高いソプラノの音と、それに覆いかぶさるような分厚い音。
 飛沫が弾け、恐怖の音は突然途切れる。

「!?」バルノは音のした方向を向いた。「シュンメ?」
「お連れがいらっしゃるのですか?大変です!もしや襲われたのかもしれません!」ヨノワールは慌てて言った。
「なんだって!?」
 バルノはニトロチャージを発動し、周囲のゴーストポケモンを突き飛ばして突っ走っていった。
 墓地に走る炎の線。直観を頼りに、バルノは音の…否、悲鳴が聞こえた方向へと向かう。
 月は、見え隠れする。



「シュンメ!!」バルノは叫びながら走る。
 障害物は全て回避してひたすら走る。
 ふと、見慣れた障害物が目に入った。
「!!」バルノは急速に速度を落とす。
 葉っぱのような尻尾と、自分とよく似た顔の形。細い後姿。
「サフィー…?」バルノは問いかける。
「!!」
 心底驚いたような表情をしてサフィーが振り返った。
「本当に調べていたのかい?」サフィーが目を見開いて聞く。「ここは危険だ。早く逃げて」
「そういうお前も…」バルノはいいかけて、固まった。

 サフィーの後ろに散らばっている“モノ”。
 何かはよく分からない。が、独特の異臭がバルノの鼻をついた。
 飛び散った液体。散乱した肉塊。
 その中に、わずかに確認できるのが、蹄。

「早く逃げるんだ。じゃないと、僕でも君を逃がしてあげるのは難しいよ」サフィーは焦っているようだった。
 バルノは一歩も動かずに固まっていた。今まで聞いたことが、フラッシュバックする。








「お前、全部知ってたんだな」バルノは呟いた。









「今はそんなこと言ってる場合じゃない。君が危険なんだ」サフィーは静かだか強い語気で言った。
「……もう、遅いだろ」バルノは言う。
 バルノは動けなかった。手足が硬直しているのだ。胸がどよめき、どこか遠くから重苦しい音が聞こえてくるような感じが耳に響く。


 




 どこか遠くから重苦しい音が聞こえてくるような感じが耳に響く。

 

 

 長い巨体を這わせ、着実に迫ってくる音。小石が摩擦し、砂が音を立てる。

 バルノの背中に刺さる、重い気配。雲は消え去り、月が露わになる。

 巨大な影が鎌首をもたげ、高々とそびえ立っていた。

「サフィー、お前はできるのか?」バルノは唐突に聞いた。
「僕はできないよ。覚えていたのがおじいちゃんだったから」サフィーが答える。


 バルノの中で騒いでいた、1つの知識。
 背後のプレッシャーに耐えながら、バルノは言った。



「ツタージャ系統は黒い眼差しを遺伝するんだったな」


 ジャローダが、バルノの背後にいた。
 何かを咀嚼しているような音を立てながら、じりじりと迫ってくる。
 影が伸び、襲撃の体勢に入った。バルノは静かに目をつぶる。

 砂が擦れ、弾ける音がしたとき、同時に小さな砂の音も聞こえた。

 空中から落ちてきたジャローダの体重に押しつぶされ、バルノは失神した。


 ムックルの鳴き声が耳に入ってくる。バルノは目を覚ました。
「気が付いたかい?」サフィーが目の前にいた。
 そこはバルノの住処だった。太陽の位置からするに昼間らしい。
「サフィー…?」バルノは小さな声で言う。
「蛇睨みで母さんの動きを止めて君を運んだんだ。ゴーストポケモン達が総出で母さんを止めてた」サフィーは説明した。「今は家で休んでるよ。じきにグライオンさんとかがお母さんのところに行くと思う。でも、お母さんは強いんだ。きっととても苦戦すると思う」
 バルノは立ち上がって溜息を吐いた。「なんで母親を止めなかったんだよ」
「ぼくに止める権利はないんだ。知らなかったとはいえ、僕も小さい頃ポケモンを口にしたことがある。とてもおいしかったことを覚えているよ」サフィーは言った。「今までの主食が土みたいな味に感じるくらいね。もちろん、今は止めているよ。どうも依存性が高いみたいなんだ。続けていると、それしか食べられなくなる。だから母さんは襲ってたんだ」
 バルノは仕方ないように頭を掻いた。「もうそれは治すしかないな。仕方ないよ」
 バルノは空を見た。太陽は傾き、昼間も後半に移ろうとしている。バルノは欠伸をした。
「そういや、気絶はしたけど寝てなかったな。俺ちょっと寝るよ。サフィーは好きにしてていいから」
 バルノは言うと、サフィーに背を向け、再び地に体をつけて眠り始めた。



 残ったのは、サフィーだけ。



「………」
 
 体が熱を持っていた。
 背中に担いだ時からずっと。
 
 確かに受け継がれた遺伝子。
 
 血が騒ぎ、肉が躍る。
 頭に蠢き、喚く煩悩、
 依存は既にデオキシリボ核酸に本能として刻まれ、
 目前にそれを発散する対象が横たわる。


「…!!」バルノは異様なプレッシャーを感じ、目を開けた。



 地面に移る、見覚えのある大きな鎌首。
 体に感じる、黒い眼差しとは違う硬直感。


「バルノ、ごめん。僕、もうダメみたいだ」太みの増したサフィーの声がした。

END


 
あとがき
 初めまして、この大会に参加することでデビューとさせていただきました新参者です。
 そうですね、名は「カナヘビ」とさせて頂きます。
 今回、短編小説大会が開催されるということで参加させていただきました。
 結果、3位タイとなり、自分でもとても驚いています。
 この小説について
 本来のコンセプトは「ゴーストポケモンが怪談に遭う」といったものでした。
 それがだんだん変わっていき、結果このような内容となりました。
 怪談は出るポケモンの相場が決まっているので、それを逆手に取らせていただきました。
 ただ、怪談というより推理ものっぽいかな?なんて思ったりもしました。
 冒頭(叙述トリック)や怪談という固定観念(赤ニシン)、そしてシュンメの技(”遺伝”という暗黙の手がかりの提示)など、ちょっと怖い話とはかけ離れてるなあ…なんて思いました。
 投票してくださった方、ありがとうございます。
 ちなみにこれからもこんな「奇抜な」ものを書いていきます。度が過ぎるかもしれませんが、お付き合いよろしくお願いします。
 批判などがあればどうぞ

お名前:
  • >>ツタージャさん
    怖かったですか、そういう言葉をもらえて、怪談を書いた身としても嬉しいです。
    コメントありがとうございます!
    ――カナヘビ 2012-01-10 (火) 23:26:52
  • とても怖かったです。特に最後は恐怖を感じました。
    ――ツタージャ ? 2012-01-09 (月) 20:30:28

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Last-modified: 2012-07-25 (水) 00:00:00
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