仲の良かったはずの人間とポケモンが戦を行ったことがある。
後に哀戦と呼ばれたその戦で何が起こったのか、千年経った今では分からない。
推測だが、哀戦で人間は大地に毒を撒いた。だからか今では作物がまともに育たないほど大地は痩せていた。
人類とポケモンは飢えた。
また、哀戦で人間は全てと言っても過言ではない莫大な量の知識と技術、機械を失った。
人間は欲を持ち未だに自分だけの利益を考える者と、いつか滅びて自然と調和するのを望む者とで分かれた。
欲を持つ者はたくさんの犠牲を生んだ。今更利益を得ても無駄だというのに。
愚かなる者達の衰退は、止まらない。
谷の狭間に時が停まったかのように静かな国があった。
無慈悲な世界に逆らう事なく人口僅か百人足らずのその国は、ポケモンと共に飢えていながら働き、暮らし、僅かな実りに感謝していた。
その国では滅びに瀕していても、人間達は甘んじてそれを受け入れた。
しかしその国のまだ幼い齢16の王子、ラーナはいつも思う。
共に信頼しあったウォーグルと共に自室にいるときも、時折
あの旅人の言葉と自分の他人とは違うある考えが浮かんでくる。
ラーナは思う。未次第に積もって行き、今では限界に近かった。
ラーナは思う。未だに欲を求めるような人間は滅んでも構わない。
だが、人間のせいで痩せて栄養の無い雑草しか生えなくなってしまった大地では、いずれポケモンも滅びる。
大地が痩せたのは人間のせいなのだ。ポケモンは被害者だ。
何十年ぶりにこの国へ訪れた旅人は言った。
大地の果てのサイハテに真実の種という物があると。
真実の種には哀戦以前の人類の英知が詰まっており、哀戦の真実を知り汚れた大地を元通りにも出来ると旅人は言った。
しかし、真実の種を使うには条件がある。
それは哀戦のような事が二度と起きないように、一番始めに真実の種に命令してポケモンか人類、どちらかを滅ぼさなければならない。
旅人の話は所詮はただの伝説だ。なんの信憑性もない。
しかしラーナは旅人の話を聞いて、滅びを待つよりも、罪のないポケモンだけでも救う方法を探してから死にたい。 旅に出て、ポケモンを救う方法を見つけたい。
救う方法が見つからずとも、まだ見ぬ大地に横たわり朽ち果てたい。
何もせずに滅びを待つより、そうする方が良いことだとラーナは考えた。
いまやラーナの心の中は掟で禁じられている旅をしたい。ポケモンを救いたいという思いで溢れ返っていた。
決心するのはそう難しくなかった。