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血の雨が止む時

/血の雨が止む時

注意! この物語には過剰流血表現、残酷な描写が含まれます。


written by beita

 ここはダイラン島というそれなりに大きな島で、国の一つとして活動するには不自由の無い程だ。
この島には主に四つの勢力に分かれており、最近は争いが絶えない。
島の北部を拠点とするナップと呼ばれる一つの勢力もその中の一つだった。
北部のその面積の大半が山岳地帯だ。その山頂付近には高い高い木。それは軽く100mは超える程の高さだ。
誰が名付けたかは知らないがこの大木はプラントと呼ばれているらしい。
プラントに比べると遥かに小さく、一般と比べると大きい街がプラントを囲むように栄えていた。
ここがナップの本拠地であった。
もともとこの地に住み、山を降りたことの無い者には分からないが、一番下から上ってくることは容易では無かった。
翼を持つ者でさえ、この地まで飛ぶことはかなりの労働になる。
そのため、外部から攻めてくる者は少なく、同時にこちらから攻めることも少なかった。
時々にこの地に侵入し、発見されるものも居たが、迷わず殺してきた。



 侵入者を殺すと言うことは当然ながら、それらを殺す者が存在する。
彼の名はフィート。橙色の体に長い首、大きな二枚の翼に先端に火を灯した尾。まさに飛龍のごとき容姿、リザードンである。
彼は今、ナップ最大の目印、プラントで、まさに処刑を行おうとしていた。
プラントから伸びた枝。これを支えにブランコの様に処刑にされるポケモンを吊す。
今回処されるのは雌のミミロップだ。ナップにこっそり侵入しようとしていたが、直前にて発見、捕縛された。



 そして今に至る。
天まで届くような高い木の下から数えて七分目辺りで両手を蔓で縛られた状態で吊られている。
下を見たらそれだけで絶命しそうな高さ。何でも見渡せるが何も見てられない。
敵の本拠地に忍び込むだけあって根性が据わっているのか、ミミロップはそれには全く動じない。
フィートは自前の翼でプラントの処刑場の高さまで辿り着き、翼の休憩がてら枝に止まった。
当然プラントの枝も大きく太く、フィート一匹が荷重に加わったところで軋む音一つならない。
「声も出ねぇ程怖ぇか」
フィートはミミロップに話し掛ける。
と言うか一方的に話を続ける。
「怖かろうが何だろうが、俺の質問には答えてもらうからな」
フィートはそう言うと枝から飛び、ミミロップの目の前まで来た。翼をひらひらとさせて位置を保っている。
「返答次第では今すぐ死ぬことは無い、拒めば……」
そこまで言うと、恐ろしい笑みを浮かべ、相手の様子を伺っている。
「フン。どうせ殺すんでしょ。ならあたしはアンタに何も言うことは無いわ」
フィートからわざと視線を背け、乱雑に言葉を吐きだした。

……その直後。

 ミミロップは頬に激痛を覚える。
何をされたかは彼女の目で一応確認出来た。
フィートは鋭い爪が備わった手で彼女の頬を渾身の力で裂いたのだ。
痛みに顔を歪めるミミロップを目前に、フィートはまた一方的に言葉を発する。
「さっきの続きだ。拒んだら…………俺の餌になってもらう」
流石に、微かではあるが、ミミロップは動揺を見せ始めた。
「そんな……脅し……」
痛みと恐怖からか、やはり言葉に最初の勢いが無くなっている。それでも彼女の意地なのか、ミミロップはフィートを睨み付け抵抗の意を示している。
「オマエ、何処の団体だ?」
フィートが冷たく言い放つ。
四つの勢力。一つはナップだから残り三つのどれかだろう。
ミミロップの口元がかすかに震える。
当然ながら発言を躊躇っているのだろう。
「早く言え」
ぐずぐずしているミミロップを見兼ねてフィートが催促する。ミミロップはついに閉ざされていた自らの口を開いた。
何かを言ったハズなのだが、風も強く、フィートもゆったりではあるがはばたいているので羽音は鳴っていた。
それらに阻まれたせいか、ミミロップの言葉を聞き取るコトは出来なかった。
「んあぁ? 聞こえねぇなぁ」
そう言い、怒りをあらわにすると、再び爪でミミロップの体を裂こうとする。が、実際に行動には至らず、脅し程度になった。
その脅しも、ミミロップを喋らせるには十分だった。
「……言えるハズないでしょ」
今度ははっきり聞き取れた。さっきと同じコトを言っていたかは分からないが。
この発言を機にフィートは本格的に殺意を剥き出して接近する。
……そして、宣言通り。





 ミミロップは全身から絞り尽くす様に悲鳴をあげた。
フィートはミミロップの足首に噛み付いていた。
噛み付くでは表現が優しすぎる。噛み千切ろうとする、が適切だろう。
一瞬だったか永遠だったか、時間は経ち、足は完全に体とは別の個体となっていた。
フィートはそれをミミロップに見せ付けるようにクチャクチャと噛んでいた。
ミミロップは脚の痛みでそれどこでは無かったが、フィートの行動で精神にそれなりの打撃を負った。
双方の断裂面から止まること無く滴り続けるミミロップの血液。
こうなってしまった今、もはやミミロップの生存は難しいだろう。
足を大体食い付くし、残った骨を投げ捨てて、フィートは追撃を仕掛けた。
「段々脚無くなっていくから」
それでもミミロップは決して口を割ろうとはしなかった。フィートはミミロップに噛み付くと、今度は食い千切ろうとはせず、ひたすら脚の肉だけを貪っていった。
死ぬほどの痛み、死ぬほどの恐怖、死ぬほどの出血でミミロップはもはや正常で居られなくなった。
残った力で精一杯暴れ始めた。
当然、フィートにとってこのコトは何の問題も無かった。フィートは小さく嘆息すると、ミミロップの両腕を束縛している二本の蔓を爪で切った。
二本の蔓は同時にミミロップの命綱でもあった。
彼女は体を支える物を失い、落下し始める。
フィートは加速しきる前にミミロップを口で受けとめた。
食い付いた場所はミミロップの腹部だが、今にも身が千切れそうなくらい強く噛み付いている。そこに両手の力も加え引き裂く様にフィートは噛み切った。
本体は爪が刺さる程強く握り、地面目がけて投げ捨てた。
「ぁ……が、ハァ……」
もはや意識も朦朧としているであろう、ミミロップは声にならない声をあげてダランと残った四肢を投げ出したまま落下していった。






 一仕事終えたフィートは自分の部屋へ帰ろうとする。
ナップの隊員の詰所らしき建物、プラントが無ければ恐らくこれがナップの目印になっていただろう大きさ。
プラントの一部を利用したのだろうが、プラント自体にその跡は見当たらない。
「よぉ。お疲れ」
向かって近づいてくるポケモンが、声をかけてくる。
全身に黄と黒の体毛。まさに虎の様だ。その姿で二足歩行を難なくこなしている。そう、エレブーだ。声の調子から雄だと断定できそうだ。
「ゴルガーか。何の様だ?」
フィートはそのエレブーをゴルガーと呼んだ。それが彼の名前なのだろう。
フィートとゴルガーはナップに入隊する前から友同士であり、入隊も同期で、付き合いはお互い、他の誰よりも長い。まさに親友の様な存在である。
「いや、今日はもう仕事が終わったからさ。なんとなく喋りに来た訳」
ゴルガーの仕事は主に新入隊員の教育だ。彼の機動力を買われて、まれに周辺の警備にあたるコトもある。
フィートは特に立ち止まりもせず、会話を続ける。
「そうか。俺は構わんが……俺の部屋まで来てくれねぇか?」
「あぁ。いいよ。……どうした、フィート? 何か悩み事かい」
フィートの態度に疑問を覚えたゴルガーは気になってそれを尋ねる。
他の者なら分からない微妙な変化も、ゴルガーは見抜いたのだ。
「なに、それもすぐに話す」
特に隠す様子も無く、フィートは応えた。フィートもゴルガーに隠し事は無駄だというコトを自覚している。





 フィートの部屋に着き、二匹はその場に腰をおろす。
「それにしても今日もまた爽快にやっちまったよな」
ゴルガーは先程の処刑の話題を振り、会話を切り出した。
プラントの処刑場にはカメラが設置されており、別の離れた場所から処刑を見物するコトが可能だ。
「……あぁ。俺が話したいのはその件だ」
いつもなら“お前もやりゃいいのに。あ! お前は飛べねぇか”と、それらしく乗って来るのだが、明らかに態度が違う。
ゴルガーもちょっと真剣になって話を促した。
「まぁ、一言で済ますなら、今日で処刑師を辞めようと思う」
まさかの告白にゴルガーは全身の毛が逆立つほど驚いた。
「なっ! 何言ってんだよ」
「不思議なもんだよな。最初は楽しんでやってたのに、最近は何故だか仕事が辛いんだ。最初の俺が異常だったのか、今の俺が異常なのかは分からねぇ、だが、俺自身変わっちまったのは紛れも無ぇ真実だ。最近は処刑で食う肉も上手くねぇ、悶え苦しむ姿を見てると同情すらしそうになる。……そろそろ限界だ。俺はこのまま仕事を続けられる自信は無ぇ」
ここまで思い詰めていたとは……、何でもっと早く気付いてやれなかったんだ、と、話を聞きながらゴルガーは思った。
「……で、どうするつもりなんだ?」
「言った通りだ。処刑師は辞める。……その後のコトか?」
「おぅ、俺はそれを止める気はないさ。要はそれからだ」
「さぁなぁ……。今までずっとナップ領地内に居たからな。とりあえず、何処か攻め込んでやろうか。あ、ゴルガーよ、言っとくが、俺はナップを脱隊する気は全く無ぇぜ?」
グラッ、とゴルガーが体勢を崩す。
安心したようなため息をつき、表情を和らげた。
「あー、良かった。俺は何よりそれが気掛かりでさ」
「とりあえず、明日には出発しようと思う。……いつ帰ってくるかは分からねぇが。ま、内部で俺の噂が上がったら適当に言っといてくれよ」
「当然だろ! ……でもよ、絶対帰ってこいよ」
フィートはそいつはどうだかな、と意地悪な返答をしたが、ゴルガーに本心は伝わっているだろう。
それから、他愛も無い世間話を日が暮れるまで続けていた。





 翌朝、一匹のポケモンがナップから飛びたった。
一匹のポケモンがそれを見送っていた。
ナップのプラント周辺のみで観測される血の雨はついに止み、再び降り注ぐコトは無かった。



血の雨が止む時 完



・フィート(リザードン)について

 名前は「熱(heat)」から来ています。LG時代でこの名前で育てていましたので、そこから採用させていただきました。リザードンに殺意を向けられたら本当に怖いと思います。処刑中はただ怖く、ひたすら恐ろしく描いたつもりです。



・ゴルガー(エレブー)について
 名前は特に由来などはありません。フィート同様にLG時代に大事に育ててましたので、フィートの親友として登場させていただきました。フィートとは逆に朗らかなキャラを描いたつもりです。


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Last-modified: 2013-11-03 (日) 00:32:00
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