by アルテ
「…疲れたぁ……」
青い短毛が体が動くと共に柔らかく揺れた。
青く透き通る空は、そんな情けない言葉をかき消してしまう。風が心地好く隣をすり抜け、暖かい太陽を感じれるのは屋上の特徴の一つであるだろう。
「…どんだけ人がいんだよ……パン二つしか買えなかった……」
昼休みの購買は一種の戦場である。四時限目の終了と共に何百と生徒が集まり、食料を調達する。
しかし、皆が皆食料を調達出来る訳では無い。数には限りがあるものだから、これを逃すと昼食を取れないまま午後の授業を受けなくてはいけないのだ。
それを何とか避けたい生徒達の執念は、言葉では表せないほど凄まじいものである。
「ま、弁当さえ持ってくれば何の問題も無ぇけどな」
一人笑いながら何とか手に入れた餡パンをひとかじりし、フェンスに寄りかかる。
口の中に広がる餡パンの味を楽しみながら、ただ何気なく屋上の出入口へと視線を向けた。
と、何者かが階段を登って来る音に、その黒く縦長の耳がピクピクと反応していた。
「――見つけたぁぁっ!!」
勢いよく屋上の扉を開けて、その何かが登場する。
「ふふっ、君の行くところは大体把握しているのだよ~」
腕を組み、得意気に笑みを浮かべると紺とベージュの体毛を揺らしながら歩き出す。
ちょこちょことした歩き方はとても可愛いらしく、小柄な体付きからそれはマグマラシと判断出来た。時折、乱れた体毛を見付けてた綺麗に直す仕草を見ると雌、だということがうかがえた。
「……そうかいそうかい良かったね」
マグマラシの登場に棒読みで言葉を返しながら、再び餡パンにかじりつく。
そんな様子にムッとしたのか頬を膨らませて、マグマラシは地団駄気味に歩きながら近付いていった。
「何だよその態度はぁ!折角この僕が一緒にご飯を食べてあげようと思ったのにぃ!」
「いやっ…別に頼んで無いし……」
「むぅ…」
依然として頬を膨らませたままのマグマラシは持っていた袋を床に置いて、胸の角へと掴みかかった。
「これってさ…ついてても意味ないよねぇ……引っこ抜いて良い?」
満面の笑み。それと裏腹にもの凄い殺気を纏いながら胸の角を強く揺らしている。
――相変わらず怖ぇな。
段々と強く揺らしてくるため、少しずつ吐き気が生じてくる。さすがにこのまま放っておくわけにはいかないので、マグマラシを抱き上げて自分の膝に乗せる。
「ちょっ…な、何やってんのさ……降ろしてよぉ」
マグマラシはすぐに頬を紅潮させ、もじもじと落ち着きを無くし始める。
こんな様子がいつも可愛らしく、思わず抱きしめてしまう。と、恥ずかしさと緊張のあまりかマグマラシは体を硬直させてしまう。
ふわふわとした彼女の体毛は気持ちが良く、良い香りが漂う。
彼女の香りは、あの時の香りを鮮明に思い出させる。
「いいか?これは俺達、ルカリオの命とも言える部分なんだぞ?引っこ抜いたら死んじまうじゃん」
「ご、ごめん…レーゼル」
レーゼルと呼ばれたそのルカリオは、宜しい、と言わんばかりに頭を撫でると、恥ずかしさを隠すように両手で顔を隠し始めるマグマラシ。そんな様子に笑みを零しながら屋上からの風景を目に写す。
相変わらずここからの景色は絶景とも言える。風と共に運んでくる仄かな自然の香りは、前方に広がる「セラル山」からのものであろうか。
いつもと変わらぬ景色にレーゼルは胸を撫で下ろしながら餡パンをひとかじりする。
「あ、あのさぁ…そろそろ下ろしてよぉ…ご、誤解されちゃうじゃん」
頬に手を当ててそわそわと落ち着きなくキョロキョロするマグマラシ。
しかしレーゼルは逆に自分の方へと抱きよせ、頭へと頬ずりする。
「やだね。…あっ、そういえばさ、何か依頼来てないの?」
あっ、と言わんばかりにだらしなく口を開けるマグマラシは腕を組んでうんうんと何かを思い出すように唸り始める。
マグマラシが思い出している間は何もすることが無いので、とりあえず癒されたような表情を浮かべながら彼女の頭をゆっくりと撫で続ける。
途中です。
ルカリオの胸の角って…何なんですかね?((
何かあれば遠慮なくどぞ。